2013年12月24日
高橋礼子「絶対女王政」
モバマスのお姉さん達のシリーズです。久しぶりの投下ですので、前回の
ストーリーを忘れた方達は
ストーリーを忘れた方達は
柊志乃「ホーリークーデター」
を、その前のストーリーも忘れた人は
篠原礼「大人のおつきあい」
をお読みください。初見の方も読んで頂けると嬉しいです。
それではどうぞ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380979269
―MBプロ事務所―
礼子「おはよう」ガチャ
清良「おはようございます」ニコニコ
美優「おはようございます」ペコリ
留美「おはよう礼子さん。今日は早いのね」カタカタ…
礼子「……何やってるのあんた達。黄緑色のブレザーなんて着て、ちひろの真似?」キョトン
清良「ちひろさんはLIVEバトルが終わるまでしばらくお休みですから。その間代わりの
事務員さんを雇うのも中途半端ですし、社長とプロデューサーさんに私達で事務を
やりますって申し出たんです」
美優「前の会社で事務をしてましたから、ある程度なら私も出来ます。分からないことが
あればちひろさんに電話で尋ねれば済みますし……」
留美「私は事務じゃなくて秘書だったけどね。LIVEまで1週間切ってるし、それくらい
なら私達だけで何とかなるわ。社長とP君もサポートしてくれるしね」カタカタ…
礼子「そういえばそんな話もあったわね。まさか本当にやるとは思わなかったけど。Pも
アイドルに事務仕事なんてさせるんじゃないわよ」フン
清良「これでも病院の受付にいた事があるんですよ私。事務は得意です♪」ニコニコ
美優「わ、私もこういう仕事は嫌いじゃないので……」
礼子「そういう問題じゃないの。アイドルはステージで歌って踊ってなんぼの職業よ。
若い子達ならともかく、あんた達は時間を無駄にしている余裕はないでしょう。
もっと自分を大事にしなさい」ギロ
美優「は、はい!」ビクッ
留美(礼子さんが言うと重みがあるわね……)
礼子「ちひろも一週間も仕事サボってるんじゃないわよ。ちょっと電話するわ」ピポパ
留美「いいの?よく知らないけど今ウチの事務所、運営委員会に目を付けられているん
でしょう?だから念のためにちひろさんを外したって聞いたけど」
礼子「関係ないわよ。委員会の連中がガタガタ言ってきたら私が相手になってやるわ。
さ、あんた達も事務員ごっこはおしまいよ。さっさと着替えなさい」パンパン
―――
ちひろ「私はしばらくお休みをいただいたはずだったんですけど……」ムッスー
礼子「甘ったれるんじゃないわよ。あんたがいないと事務の仕事が溜まる一方じゃない。
事務所がピンチだっていうのに、のんびりバカンスなんていいご身分ね」ギロ
ちひろ「バカンスなんてしてませんよ!久しぶりに『自分の会社』で仕事をしてたんです!
そもそも私はMBプロの人間じゃないですし事務員でもありません!」グワッ
美優「えっ!? そうだったんですか!? 」ギョッ
留美「あら、知らなかったの?ちひろさんはエナドリを販売してる『エナジー製薬』の
営業さんよ。なぜかウチで事務仕事をしてるけど」
清良「私も最近知りました。ウチのアイドルのほとんどが、ちひろさんを事務員さんだと
思っているでしょうね」
ちひろ「もうかれこれ10年近くここで事務をしていますからね。逆にエナジー製薬に顔を
出しても『どちら様ですか?』って受付に聞かれる始末ですし……」シクシク
礼子「嫌なら明日からもう来なくていいわよ。あんたの会社のエナドリって、不味いのに
高いのよね。ウチの事務所と契約したいって会社は他にもあるし、事務員も新しい
人を雇えばいいだけの話だし」フン
ちひろ「今更そんなひどい事を言わないで下さいよ。私もこの事務所でずっと働いてきて
愛着がありますし、アイドルの子達だって可愛いんですから。それに私を事務員
としてMBプロに縛り付けたのは礼子さんじゃないですか……」ジト
〜回想・MBプロ設立直後〜
P(22歳)「それじゃ社長と挨拶周りしてくるから、留守番頼んだぞ!」バタバタ
礼子(22歳)「朝から大声出さないでよ…… 二日酔いでキツいんだから……」グッタリ
P「またパーティーか。しかしお前が二日酔いなんて珍しいな。それなのにまだボトルを
抱えているし。今日はもう飲むんじゃないぞ」ヒョイ
礼子「ちょっと張り切りすぎたわ…… ああ、それからそのボトルすっごく高いから扱いに
気をつけてね。社会人1年目のあんたの年収くらい軽く超えるわよ……」ズキズキ
P「そんなもん事務所に持ち込むなよ!? 危うく心臓止まるかと思ったわ!! 」ギョッ!!
礼子「だから大声出さないでって言ってるでしょ…… いいからさっさと行きなさいよ。
社長が外で待ってるわよ……」ウ〜ン…
P「棚に置いとくからな!それから一応二日酔いの薬を置いておくぞ。今日のレッスンは
キャンセルしたから、もし体調が悪かったら早退するなり病院に行くなりしろよ。
俺はお前のプロデューサーだから本当は付き添ってやりたいけど、今日はどうしても
外せない所だからすまないが自分で何とかしてくれ。早退する時は電話かメールを
入れるように。事務所でゴロゴロしてるだけなら、荷物を片づけてくれると助かる。
それから新しい社長のイスを注文したから今日あたり届くかも……」クドクド
礼子「いいからさっさと行きなさいって言ってるでしょうが!! 男のくせに小さい事ばかり
いちいちうるさいのよあんたは!! 」ブンッ! ブンッ!
P「うおっ!? 物を投げるな物を!それじゃいってきま〜す!」ピューッ!
礼子「ふ〜っ…… ふ〜っ…… これでぐっすり眠れるわ。あいたたた……」ゴロン
―――
チッ… チッ… チッ…
礼子「……のど渇いたわ。何か飲み物ないかしら」ムクリ
礼子「冷蔵庫は…… 空っぽじゃない。来客があったらどうするのよ」ガチャ
礼子「湯呑みも段ボールに詰めたままって…… 引っ越してきたばかりなのは分かるけど、
事務所立ち上げるなら最低限荷物を出してからにしなさいよね」ガサゴソ
礼子「水でいいか。ゴクゴクゴク…… ぷは、生き返った」コトン
礼子「しっかしどこも散らかってるわね。大体アイドル事務所なのに、社長とPと私しか
いないっておかしいでしょう。デスクもぐちゃぐちゃじゃない……」ゴチャ…
礼子「ああ、そういえばウチに来る予定だった事務員を他の事務所に盗られたんだっけ。
確か元アイドルのオトナシ…何だっけ?もしウチに来ていたら、日高舞の悪口で
一緒に盛り上がったかしら……」ブツブツ
礼子「……1人だと退屈ね。帰ろうかしら」ゴロゴロ
(P「俺はお前のプロデューサーだから本当は付き添ってやりたいけど―――――」)
礼子「……せめてデスクくらい片づけてあげようかしら。ああもう、めんどくさいわね。
プロデューサーならアイドルにこんな仕事やらせるんじゃないわよ」ガサガサ
ピンポーン
礼子「あら、お客さん?誰かしら……」スタスタ
礼子「はい?」ガチャ
ちひろ(?歳)「こんにちわ!あなたの健康ばっちりサポート!エナジー製薬です!」ニコニコ
礼子「丁度良かったわ。ちょっとこっちに来て手伝ってくれない?」ニヤリ
ちひろ「えっ?」キョトン
***
ちひろ「―――――で、気が付けばあれよあれよとそのままMBプロで事務をする羽目に
なりまして。表向きはエナジー製薬の契約販売員という形になっていますけど、
実際はMBプロの事務(無給)がメインでエナドリも碌に売れず、仕事内容も
仕事量もすっかり逆転していて丸一日事務(無給)をする事も……」メソメソ
美優「歩合制だったんですね。それであんなに一所懸命……」ホロリ
留美「ツッコむ所はそこじゃないわよ美優。そういうわけでちひろさんはグレーゾーンで
勤務してるから、労基や委員会に攻撃されたら色々とマズいのよ。どうして今まで
問題にならなかったのか不思議だわ」
礼子「エナジー製薬の社長には話を通しているから問題ないわよ。それにちひろの営業
成績は関東でもトップクラスよ。ウチは所属アイドルが多いし、マストレ達にも
協力させて捌いているからね。後Pは三食エナドリの時もあるし」フンッ
清良「MBプロはちひろさんの独占状態ですものね。だったら別にいいじゃないですか」
ちひろ「確かにMBプロさんは大口の顧客ですし、同僚に羨ましがられる事もあります。
ですけれど…… そうなんですけれど……」ギリギリ
〜アイドル達とちひろの日常〜
薫『ちひろさーん!エナドリちょーだい!』キラキラ
千佳『チカにもちょーだい!ラブリーパワーほじゅう☆ 』ピカピカ
ありす『あんな小さい子達から搾取するなんて、あなたには人の心がないんですか?」ジト
桃華『卑しい犬。たとえ貧しくなろうとも貴女の様にはなりたくありませんわ」シラー
加蓮『プロデューサーかわいそう。昔のアタシより薬漬けにされてる……』ポロポロ
奈緒『エナドリだけじゃ体を壊しちまうぞ。今度弁当作ってきてやろうか?か、勘違い
すんなよ!あたしは別に(以下ツンデレ)』ウガー!
凛『鬼…… 悪魔…… ちひろ……』ゴゴゴゴゴ…
亜子『さすがちひろさん!血も涙もあらへん!アタシにはそこまでマネ出来んわ!』ナハハ♪
【事務所アンケート】Q.千川ちひろといえば? A.鬼・悪魔・守銭奴・敵・犬等
ちひろ「にゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜っ!! 」ゴロゴロゴロゴロ
美優「ど、どうしたんですかちひろさん!? どこか具合でも……」オロオロ
礼子「そんな所で転がってる暇があるならさっさと仕事しなさい。それにそろそろレナと
礼が日本に帰って来るはずだけど、まだあの二人から連絡は来ないの?」イライラ
留美「事務所の権利書が手元にないのは不安ね。レナさんならうまくやってくれていると
思うけど。礼さんと志乃さんも大丈夫かしら」フウ
清良「まあまあ皆さん、ここで心配しても仕方がありません。私達はレナさん達を信じて
待ちましょう。お茶でも淹れてきますね♪」パタパタ
ピンポーン
清良「あら?お客さんでしょうか。は〜いただいま」スタスタ
清良「どちら様ですか?」ガチャ
愛結奈「アイドル事務所のMBプロはここかしら?意外と小さい事務所なのね」ニコッ
ちひろ「アイドル志望の方ですか?せっかく来ていただいた所申し訳ございませんが、
只今採用担当の社長とPが不在でございまして。一度アポを取って戴いて、
後日また日を改めて来て頂けないでしょうか」パタパタ
愛結奈「ああ、違うの。そうじゃないわ。それに悪いけど私、今日中にアメリカに戻ら
ないけないのよ。さもないとレナに怒られちゃうわ」
礼子「レナですって?あんた一体何者?」ピクッ
愛結奈「『兵藤レナに頼まれた』って言えば分かるかしら?とにかく中に入れてくれない?
ここじゃ話せない大事な話があるから―――――」ニヤリ
***
清良「どうぞ。緑茶ですからお口に合うか分かりませんけど……」コトン
愛結奈「あら、ワタシ大阪生まれの大阪育ちよ?18の時まで普通に日本で暮らしてたわ。
ん〜、この香りなつかしいわね〜♪」ズズズ…
美優(確かに顔つきは日本人みたいですけど……)ジー
留美(見た目とか体つきは色々アメリカンね。レナさんや礼子さんもだけど、何食べたら
あんなに大きくなるのかしら……)ジー
礼子「のんびりお茶してないでいい加減に用件を言いなさいよ。私達も得体のしれない
あんたの相手をしてるほど暇じゃないんだけど」ギロ
愛結奈「もう、そんなに急かさないでよ。こっちは長旅で疲れてるんだから。とりあえず
コレ先に渡しとくわね。レナも心配してるだろうって言ってたから」バサ
ちひろ「こ、これはウチの事務所の権利書!? どうしてあなたが……!? 」ギョッ
愛結奈「ん〜、ちょっとレナは事情があって日本に戻って来られなくなっちゃってさ。
レナの友達のベテとあいって人達も、今ウチのカンパニーで匿ってるわ」
礼子「匿ってる?あの子ベガスで何かヘマでもしたの?」ピクッ
愛結奈「そうじゃないけどちょっと怖いオジサンを怒らせちゃって、それでウチに逃げ
込んできたのよ。あ、MBプロは無事よ。レナがしっかり守っていたし、売り
とばされたりしてないから安心して☆ 」アハハ
留美「穏やかじゃないわね。レナさん達が今いるあなたのカンパニーってどこなの?」ジロ
愛結奈「ええと、ちょっと待ってね。確か名刺がこのあたりに…… お、あったあった。
はいどうぞ♪」サッ
ちひろ・留美「「『CGカンパニー!? 』」」ギョッ!!
美優「アメリカの会社ですか……?」オソルオソル
留美「あんたも業界の人間なら名前くらいは知っておきなさいよ。全米でも5本の指に
入る超大型のエンターテイメントビッグカンパニーよ……」ゴクリ
美優「ええっ!? そんなにすごい会社なんですか!? 」ギョッ!!
ちひろ「確かハリウッドが拠点で、役者さんの育成や映画撮影がメインの会社でしたね。
他にも舞台業や歌手のステージも手掛けていると聞いてますが……」タラリ
清良「じゃあ愛結奈さんはハリウッド女優さんなんですか?」
愛結奈「ピンポ〜ン☆ ワタシもCGカンパニーの女優よ♪ まだ駆け出しだからチョイ役
くらいしかもらえないけど。レナとは向こうで知り合って、たまに一緒に飲んで
いたわ。ディーラー辞めてアイドルになってたなんて知らなかったけど」
礼子「それであんたはレナに頼まれて、わざわざハリウッドから日本まで運び屋をやりに
来たのかしら?ご苦労な事ね」
愛結奈「それもあるけどボスに命令されたのよ。今日はレナのおつかいで来ただけだけど、
近いうちにCGカンパニーからMBプロに正式にビジネスの話が行くと思うわ。
ワタシ達がレナを匿っているのもそれが理由だしね」ニヤリ
ちひろ「ビジネス?それってもしかして……」ピクッ
愛結奈「アナタ達も大体察しがついてるんじゃないの?今、日本のアイドル業界は外資が
大量に入ってるし、ワタシ達も同じよ。CGカンパニーはね―――――」
―――――MBプロを買収する予定よ。
***
美優「ば、買収……!? 」
留美「MBプロとCGカンパニーの資本の差は歴然。ウチが傘下に入る形になるわね」
愛結奈「確かに傘下に入ってもらう形になるけど、MBプロに介入するつもりはないわ。
MBプロって名前は変わっちゃうかもしれないけど、CGカンパニーは基本的に
アナタ達にノータッチよ。ワタシ達がバックにつく形になるかしら」アハハ
ちひろ「妙な話ですね。CGカンパニーくらいの大企業ならウチを支配下に置く事も可能
なのに、買収どころかまるで友好的な業務提携のような……」
愛結奈「レナが頑張ったからね。あの人はウチを利用して『MBプロが買収された』って
見せかけるのが目的だったみたいだから。でもよくわからないけどウチのボスも
あっさりレナの話に乗ってさ。むしろレナの方が拍子抜けしてたわ」
留美「何か裏がありそうで怖いわね。ウチが話を受けた瞬間、手のひら返してアイドルを
全米中に売りとばしたりしないでしょうね?」ジロ
美優「う、売りとばすって……」ビクッ
清良「私はピッツバーグに行きたいですね♪ 先進医療都市ですし」ワクワク
愛結奈「そのつもりだったら、最初からわざわざこうして権利書を持ってこないわよ。
これはボスが誠意を見せたととらえて欲しいわね。トラストミーよ♪」ウィンク☆
留美(どう思う、ちひろさん……)ヒソヒソ
ちひろ(確かに愛結奈さんの言う通り、最初から敵対的買収をするつもりなら権利書を
返すのはおかしいですね。でも話がうますぎます……)ヒソヒソ
愛結奈「それにレナの作戦で他の事務所やスポンサーが買収を持ちかけられているのに、
MBプロだけ無傷だと逆に怪しまれるんじゃない?日本のアイドル業界を全部
敵に回すくらいなら、ウチに買収された方がいいと思うけど」ギラリ
ちひろ「た、確かにそれは……」ギクッ
愛結奈「ワタシも詳しく聞いたわけじゃないけど、アナタ達はウザったい連中を業界から
排除するために、外資を大量にぶち込んで一掃しようとしてるんでしょ?外資が
入れば業界の力関係はガラっと変わるし、チェックも厳しくなるから悪い事も
出来なくなるし。レナもよくやるわよ」アハハ
礼子「今の業界に溜まった膿を取り除くにはそれくらいしないといけないのよ。委員会の
連中は長く居過ぎて馴れ合いすぎて、自浄作用を失ってるわ。まぁでもあいつらは
結構しぶといから、ただやられっぱなしにはならないでしょうけどね」フンッ
愛結奈「カジノで作戦を実行するのがレナらしいわね。ベガスに来てた金持ちやセレブに
片っ端から勝負を持ちかけて次々負かして、アイドル関係のスポンサーに敵対的
買収を仕掛けさせたり、寄付の形でLIVEバトルに投資させたりしてたわよ。今
日本のアイドル業界は大混乱してるんじゃないの?」クスクス
ちひろ「エナジー製薬と柊ワイナリーもバタバタしてますよ。私も呼び出されましたし、
酔っぱらってない志乃さんなんて久しぶりに見ました。LIVEバトルも一応開催
されるそうですけど、外国の人達がかなり口を出してるみたいですから例年とは
違ってあちらさん好みのゴージャス仕様になりそうですね……」
留美「それはそれで出場するアイドル達は楽しそうね。瞳子が少し羨ましいわ」
愛結奈「別に今ここで買収を受け入れろとは言わないわ。それはワタシとアナタ達じゃ
なくて、ウチのボスとMBプロの社長さんのハナシだし。でもレナが気にして
いたから、アナタ達がどう思ってるのか聞いておこうと思ってね」
清良「レナさんが、ですか?」キョトン
愛結奈「特に高橋礼子と木場真奈美って人がどう思うのか知りたがってたけど。アナタが
高橋礼子よね?木場真奈美はいないの?」キョロキョロ
ちひろ(礼子さんは分かりますけど、どうして真奈美さんが……?)ピクッ
礼子「真奈美は仕事中よ。レナと一緒にあんたの会社にいるベテの代わりにトレーナーの
仕事をしているわ。ふぅん、でも私と真奈美にね…… 何となくだけどレナの考えが
読めてきたわ……」フムフム
留美「どういう事?私にはさっぱり分からないけど……」
礼子「真奈美の意見を聞くまでもないわ。あの子も私と同じ意見に違いないから」サラリ
愛結奈「まあそうよね、アナタ達に選択の余地はないわよね。じゃあ聞かせてくれる
かしら?ワタシもレナを安心させてあげたいしね♪ 」フフン
礼子「返事はNOよ。ウチを買収しようなんて身の程を弁えなさい」ピシャリ
愛結奈「うんうんそうよね。もちろん断って……って、えええぇぇぇっっっ!? 」ギョッ!!
ちひろ・美優・留美「「「えええええぇぇぇぇぇっっっっっ!!!??? 」」」ギョッ!!
清良「さすが礼子さん。頼りになりますね♪」ニコ
礼子「当然よ。レナにも甘く見られたものね。MBプロを売りとばそうとするなんて良い
度胸してるじゃない。ここは『私の事務所』よ。たとえ社長が賛成しても業界全部
敵に回しても、誰の好きにもさせないわ―――――」ギラリ
***
愛結奈「ちょ、ちょっと待って…… ワタシの話ちゃんと聞いてた?こう言っちゃ悪いけど、
ウチみたいなアメリカのビッグカンパニーが、MBプロぐらいの日本の中規模の
アイドル事務所にここまで譲歩するなんてありえないわよ……?」ピクピク
礼子「アメリカの会社で大きければ偉いってものじゃないでしょ?まずその上から目線が
気に入らないわね。これ見よがしに名刺なんて見せびらかして、あんた一体何様の
つもりなの?この私もずいぶん下に見られたものね」ビリビリ
美優「ああ、名刺が……」オロオロ
ちひろ(礼子さんこそ超上から目線ですけど……)
愛結奈「た、確かにワタシは下っ端だけど、今はCGカンパニーの代表として来てるのよ!
ワタシに対する発言は全てCGカンパニーへの発言としてとらえるわよ!? 」ガタッ
礼子「構わないわよ。あんたの会社のボスが来ても私は今と全く同じ対応をするから。
メリケン風情が調子に乗るんじゃないわよ。顔を洗って出直して来なさい」プイ
留美(これが『キング』……)ゾク
愛結奈「〜〜〜っ!! アナタの噂は聞いてるわよ!日本じゃキングなんて呼ばれて、傲慢で
好き勝手振舞っている事もね!でも所詮は日本だけの話でしょ?外の世界なんて
ゼンゼン知らないくせに、アナタこそ身の程を知りなさいよっ!! 」グワッ!!
礼子「あんたこそアメリカで仕事をしてるだけで世界が見えた気になってるんじゃない?
ウチの自称世界レベルと変わらないわね。あんたみたいな小娘の相手をするのは
馬鹿馬鹿しいけど、でもMBプロが格下に見られるのは耐えられないから、特別に
レクチャーしてあげるわ。感謝しなさい」フンッ
愛結奈「レクチャー? 一体何をよ……?」ギリギリ
礼子「MBプロはね、『女の子は誰でもシンデレラ』っていう青臭い理想の下で設立された
事務所なの。その理想を実現する為には、内気で引っ込み思案の普通の女の子でも
ドアを叩けるくらい親しみやすくて優しい雰囲気の事務所じゃないといけないの。
だからあえて中規模で運営しているのよ」
美優(そ、そうだったんですか……?)ヒソヒソ
留美(知らなかったわ……)ヒソヒソ
ちひろ(私もてっきり社長がケチだとばかり……)ヒソヒソ
礼子「あんた達は良い歳した大人なんだから自己責任よ。私は今、小さい子達の話をして
いるの。あんた達にまでわざわざ説明する必要ないでしょ」ギロッ
美優・留美・ちひろ「「「はい……」」」シューン
礼子「大体あんた、ウチの事務所をちょっとでも調べたの?所属アイドルは大規模レベル
なのに事務所の規模は中規模で、スタッフは小規模レベルよ。公式のスポンサーも
ローカルなワインセラー1社だけだし、どう考えても異常でしょう」
愛結奈「そ、それは確かに……」
礼子「本当は所属アイドルに合わせてスタッフももっと増やして、事務所ももっと大きな
所に引っ越ししたいんだけどね。でも中規模の事務所に見せかけるために、あえて
そうしていないの。大きく出来ない理由は他にもあるんだけど、MBプロが本気を
出せばあんたの会社に負けないくらいのビッグカンパニーになるわよ?」ニヤリ
ちひろ(せめて事務員はもう一人くらい増やしてくださいよ!)ヒソヒソ
留美(大きな事務所になれば、私ももっとオーディションが受かるかしら)ヒソヒソ
美優(今週はお仕事が入ってませんでしたけど、もし事務所が大きかったら……)ヒソヒソ
礼子「何度も言わせないで。私は今、小さい子達の話をしているの。あんた達は良い歳
した大人なんだから、現状に不満があるなら自力で解決しなさい」ギロッ
美優・留美・ちひろ「「「はい……」」」ショボーン
清良「今の状態でも私は満足しています。プロデューサーさんとはあまり会えませんけど
しっかりアイドルとしてプロデュースして頂いてますし、現場のスタッフさんにも
良くしてもらってますので安心してお仕事が出来ます。でもやはり1人で担当する
のは辛そうなので、私もスタッフさんを増やされた方がいいと思いますけど」
礼子「私と社長も何度も言ってるけど、あいつが嫌がるのよ。自分がスカウトした以上は
自分が責任を持ってプロデュースするって意地になっちゃって。いつ寝てるのって
思うくらい延々と仕事してるし、あのままじゃ長生き出来ないわね」フウ
清良「そうですね。私も元医療従事者として見過ごす事は出来ません。これ以上無理を
されると心配で心配で……」ホロリ
礼子「まぁ、いざとなったら私が首に鎖をつないで手足を縛って檻に入れて文明が発達
していない未開の地に飛ばしてでも休ませるけどね。あいつ電気が通っていれば
世界中どこでも仕事が出来るし。あ、でもこの前765プロのアイドルに動物達と
会話する方法を教わっていたわね。今度は伝書鳩でも使うつもりかしら」
愛結奈「どんなセガールよ一体…… で、でもいくらMBプロにポテンシャルがあっても
ワタシ達が参入した事で、これからアナタ達だって思うようにいかなくなるわ!
それにレナがベガスに来たのだって今回相当ヤバかったって事でしょっ!? 」
礼子「ええそうね。気付くのがもう少し遅かったら、ウチの事務所は空中分解してたかも
しれないわ。事務所は鉄壁でもアイドルは普通の女の子だから、ベテが裏切ったと
思い込ませて瞳子をLIVEバトルで惨敗させれば、そのままスタッフとアイドル、
アイドル同士の間に不信感が生まれてバラバラになっていたかもね」
愛結奈「ほ、ほらそうじゃない!だったら……」 礼子「でもね……」
礼子「それは私が気付いていなくて、かつ『アイドルとして』ここに存在する場合の話よ。
私が気付いて『キングとして』存在するなら事情は変わるわ……」ニヤリ
愛結奈「そ、そんなのただの強がりよ!ハッタリだわ!」アセアセ
礼子「ふぅ、あんたも分からず屋ね。どうやらこれ以上はレクチャーしても無駄みたいね。
面倒だから切り札を出しましょうか。『これ』を使うとPが怒るんだけど……」サッ
愛結奈「な、何よこの名刺。真っ黒だし『R』だけしか書かれてないじゃない……」オズオズ
ちひろ(あ、あの名刺は!? それをホイホイ出しちゃダメですよ礼子さん!! )ビクッ!!
礼子「それをアメリカに持って帰ってあんたのボスに見せなさい。もしCGカンパニーが
あんたの言う通り本当にビッグカンパニーなら、その名刺が何なのか分かるから。
分からなかったらその程度の会社って事よ」フンッ
愛結奈「バ、バカにしないでよ!後で吠え面かかせてやるから覚悟しなさいよ!」ガタッ!
礼子「ついでにレナに遊んでないでさっさとベテを連れて帰って来なさいって言っといて。
ベガスで何をやらかしたのか知らないけど、あんた達くらいウチでも守れるから。
王様の命令は絶対だから、下々は黙って従いなさいってね」ニヤリ
ズカズカズカ……バタンッ!!
礼子「ちゃんと聞こえたかしら。まあ一応名刺は渡したからどうでもいいけど」フウ
留美「あの名刺は何だったの?MBプロのものじゃないみたいだったけど……」
礼子「大したものじゃないわよ。社交界の酒好きクラブの会員証みたいなものね。人気の
あるクラブで紹介がないと入れないから、CGカンパニーのボスも興味あるんじゃ
ないかと思ってね。あの子は名刺で自分をアピールしてきたからお返しよ」クス
ちひろ(紹介制のクラブですか…… 確かに間違ってませんけど……)
清良「もう、礼子さんもあまり飲みすぎたらダメですよ?私はウワバミ四天王を解散して
欲しいくらいなんですからね」プンプン
美優「で、でもあんな事を言って大丈夫なんですか……?私は愛結奈さんが言った通り、
CGカンパニーさんは悪い会社じゃないと思いますけど……」
礼子「ええ、私もそう思うわ。今まで危ない橋を渡って来たレナがベテともう1人の子を
連れて逃げ込んだ所だし、あの子の言った通り良い会社でしょうね」サラリ
美優「じゃ、じゃあどうしてあんな事を言って断ったんですか?」
礼子「よく思い出しなさい美優。愛結奈はレナがこの買収話について、私と誰の意見を
聞きたいって言ってたか覚えてる?」ジロリ
美優「確か礼子さんと……真奈美さん?」
留美「そういえばそうだったわね。礼子さんは分かるけどどうして真奈美なのかしらって
私も不思議に思ったわ。同じ強制送還組だから?」
礼子「いえ、おそらく違うわ。前に礼も言ってたけど、レナと真奈美には何かあるわよ。
レナは買収にかこつけてごまかしたつもりかもしれないけど、きっと今回の話には
それが深く関係しているわ。その件をハッキリとさせない事には、どんなに条件が
良くてもこの話には乗れないわね」フンッ
清良「レナさんと真奈美さんですか。私にはとても仲が良さそうに見えますけど……」
礼子「分からないわよ。レナは元ディーラーだし、ポーカーフェイスが得意だからね。
あら、礼からメールが来たわ…… どうやら今空港に着いたみたいだから、迎え
ついでに聞いてみましょうか。あの子は多分はぐらかすと思うけど」スクッ
スタスタスタ……バタン
美優「MBプロはどうなるのでしょうか……」オズオズ
留美「正直何とも言えないわね。CGカンパニーの買収を断った事で窮地に立たされたのは
間違いないけど、でも礼子さんのあの余裕も虚勢じゃなさそうだし。カギを握って
いるのは真奈美かしら?」ウーン
清良「大丈夫ですよ。礼子さんは王様ですから、下々の私達は礼子さんを信じましょう!
でも私、あの名刺どこかで見た気がしますけど。確か食あたりで緊急搬送されて
きたイタリアのマフィアさんが……」
ちひろ「(マ、マズい!)さ、さあ皆さん!それじゃそろそろ通常業務に戻りましょうか!
礼さんも久しぶりに戻って来られますし、温かく迎えてあげましょう!」アセアセ
清良「それもそうですね。では私は礼さんにケーキでも買ってきます♪」コロリ
留美「まぁ、ここで考えていても私達が出来る事はなさそうね。一応愛結奈が来た事は
真奈美に連絡しておくわね。あの子レナさんの事を気にしてたし」ピポパ
美優「私もレッスンルームに行ってマスさんに伝えてきます。トレさんとルキさん達も
ベテさんの事を心配していましたから」ペコリ
ちひろ(ふぅ、危なかった。気を付けて下さいよ礼子さん!とりあえず礼子さんがキング
として動いたからにはもう大丈夫ですね。でも礼子さんの言う通り、本当にレナ
さんは私達に何か隠しているんでしょうか。真奈美さんとの間に何があるのか
知りませんけど、穏やかに解決すればいいのですが―――――)
折り返し。少し休憩します。再開は0:00から。
***
―そしてLIVEバトル当日。関係者席にて―
ワイワイ ワーワー!! キャー!! ガヤガヤ ザワザワ 〜♪♪ オサナイデクダサーイ!! ガチャガチャ バタバタ
ドヨドヨ オナラビクダサ-イ フレーッフレーッ キャイキャイ ウオーッ!! ♪〜♪ ミミミン ガチャガチャ
礼子「本番直前に会場の変更なんてよく出来たわね。いつもの野外ステージじゃなくて
まさかドームでやるとは思わなかったわ」フウ
ちひろ「いつもの場所じゃS席の数が足りないってセレブの方から苦情が出たそうですよ。
沢山投資したんだからもっと良い場所で見せろって言われたら仕方ないですね」
礼子「日本は外圧に弱いわよね。委員会も良い気味だわ。外国のセレブ共はあれこれ
口煩いから、さぞや苦労しているでしょうね」ニヤニヤ
ちひろ(礼子さんは本当に委員会がお嫌いなんですね……)
礼子「でも会場も豪華になったし、ファンも喜んでるからこれで良かったんじゃない?
見てよあのステージのバック。いつもは只の壁なのにお城なんて立てちゃって、
まるでファンタジーの世界ね」フフッ
ちひろ「シンデレラ城のつもりでしょうか。どうやってドームに入れたんでしょうね。
向こうの人の考える事はよく分かりません」クスクス
礼子「こんな面白そうなLIVEバトルを見ているだけなんてつまらないわね。今からでも
飛び入りで参加出来るかしら。ちひろ、ちょっと委員会に頼んで来てよ」
ちひろ「無茶言わないで下さいよ…… て、あれ?電話?……プロデューサーさんから?
すみません礼子さん、ちょっと失礼しますね」スクッ
<ハイ、センカワデス. ドウシマシタカ…
礼子「さて、と。そろそろかしらね……」スクッ
ちひろ「礼子さん、会場の第三控室でプロデューサーさんとレナさんがお待ちです……」
礼子「わかってるわ。もう、そんな顔しないの。今日はお祭りなんだからあんたも辛気
臭い顔しないでしっかり楽しみなさいよ―――――」ポンポン
***
礼子「入るわよ」ガチャ
レナ「あ、礼子さん久しぶり!元気にしてた?」ハ~イ♪
礼子「見ての通りよ。そういうあんたはなんて格好してるのよ。バニーガール?」
レナ「CGカンパニーのボスに頼まれちゃってさ。私が連れて来た海外セレブの客達が
オープニングセレモニーを見たいって言うからそれをやるの。向こうでしっかり
練習してきたから、礼子さんも楽しみにしていてね♪」ウィンク☆
礼子「それでこっちに帰って来なかったのね。あんたは最初からそのつもりで、ベテと
もう1人の子を連れてCGカンパニーに逃げ込んだのかしら?」ジロリ
レナ「カジノで勝ちすぎて怖いオジサンを怒らせたのは本当だけどね。CGカンパニーは
MBプロと雰囲気が何となく似てるから、買収してもらうには丁度いいかな〜って
思ったんだけど、余計なお世話だったみたいね。只者じゃないとは思ってたけど、
礼子さんがあんな切り札を持ってるなんて思わなかったわ」アハハ
礼子「私も伊達にキングって呼ばれてないわよ。あんたの友達に名刺を渡した2日後に、
CGカンパニーのボスが大慌てでセスナ飛ばしてウチに土下座しに来たわ。社長と
Pが顔を上げてくれって何回言っても上げないし、大変だったんだからね」フン
レナ「そりゃそうよ。愛結奈もガタガタ震えてたわよ。あの子も礼子さんが『あの組織』
のメンバーだなんて思ってなかったでしょうし……」
P「レナさん、その話はあまりここでは……」ストップ
レナ「ああ、ごめんなさい。誰かに聞かれていたらマズいわね」テヘ☆
礼子「別にいいわよ、私もなりたくてなったわけじゃないし。昔たまたま行ったセレブの
パーティーでひょんな事から勧誘されて、酔ってたから深く考えずにそのままOK
したら入っちゃっただけよ。『貴女の美貌と振る舞いこそ世界の王に相応しい』とか
言われたけど、何かの冗談だと思ってたしね」フン
P「頼むからもう少し考えて行動してくれ。よりにもよってそんなとんでもない組織に目を
付けられるなんて、お前の傍若無人ぶりは相当だったみたいだな。普通そんな経緯で
しかも日本のアイドルが入るのはありえないらしいのに悪運が強いというか……」ハア
礼子「別に入ったからって何かしてるわけじゃないし、世間では世界を操る最高権力機関
とか言われて怖がられているけど私に言わせればただの金持ちの酒好きクラブよ。
最近はいい加減に結婚しろって煩いし、親が増えたみたいで鬱陶しいわ」ムスッ
レナ「あはは!それはご愁傷様。私も昔カジノでメンバーのお爺さんを相手にした事が
あったけど、意外と普通の人だったからびっくりしたわ。中には凄いお金持ちや
怖いオーラを持った人もいるみたいだけどね」
P「これが礼子がキング扱いされているカラクリですよ。それ以外にもこいつの振る舞いが
周りにそう呼ばせてるんですけどね。今は幸いにも世間に隠し通せてますけど、バレ
たら色々と厄介なのでくれぐれも他言無用でお願いしますね!」グワッ
レナ「そんな怖い顔で言われなくてもわかってるわよ。私もまだ死にたくないしね♪
MBプロを助けるためにベガスに行ったのに、逆に余計な問題を増やしちゃって
悪かったわね。礼子さんにも迷惑かけちゃったわ」ペコリ
礼子「そんな事はどうでもいいわ。あんたがウチの事を思ってやってくれたのは分かって
いるから。それに礼の方もうまくいったみたいだし、志乃の話だとLIVEバトルが
終わった後から本格的に潰し屋と雇い主のあぶり出しが始まるみたいよ。もう既に
包囲網が出来つつあるみたいだし、あいつらに逃げ場はないわ」ニヤリ
P「外国の人達は容赦がないですからね。これだけ大事になると委員会も動かざるをえなく
なりますし、彼らが業界から追放・排除されるのは時間の問題です。MBプロも外資を
引き込んで混乱を引き起こした事について委員会からお叱りを受けると思いますが、
業界の浄化に貢献したという事でプラスマイナスゼロでしょうか」ポリポリ
レナ「これをきっかけに、日本のアイドルがもっと世界に進出しやすくなるといいけど。
ベガスは世界中からセレブが集まる場所だから、色んな国から連れて来たわよ。
アメリカはもちろんイギリスやフランスとか、アラブやブラジルもいたわね」クスクス
礼子「今の業界の閉鎖的な部分には私もウンザリしていたから、よくやってくれたわよ。
MBプロももっと積極的に海外展開してもいいと思うけどね。今はグローバル化が
主流だし、これからはもっとそうなるだろうし……」チラ
P「俺と社長が倒れなかったらな…… この前の海外ツアーだけでも結構ギリギリだった
のに、これ以上増やすと体ひとつじゃ足りねえよ……」タラリ
レナ「いざとなったら礼子さんに頼ればいいじゃない。礼子さんが一言いえば、大抵は
どうにかなるでしょう?それにCGカンパニーも協力してくれるわよ。あそこは
もう礼子さんの支配下みたいなものだしね♪」ニヤリ
礼子「いらないわよあんな会社。どうしてもMBプロの傘下に置いて下さいって言うなら
考えてあげてもいいけどね。あんた達を匿ってくれた恩もあるし」サラリ
レナ「さすが礼子さん、やっさしー♪ それじゃ私はセレモニーの準備があるからそろそろ
行くわね。ハリウッド流のド派手なパフォーマンスを見せてあげるから、期待して
待っててね〜☆ 」スタスタ
礼子「待ちなさい。まだ話は終わってないわよ」ギラリ
レナ「話?まだ気になる事でもあった?」キョトン
礼子「レナ、あんた真奈美の事で私達に隠している事があるんじゃない?CGカンパニーの
ボスから聞いたわよ。CGカンパニーが本当に欲しかったのは、MBプロじゃなくて
真奈美だったみたいね。しかもトレーナーをやっていた頃の。どうしてもあの子が
欲しかったから、あんたの無茶な要求も受け入れたって言ってたわよ」
P「……」
礼子「真奈美が昔どんなトレーナーだったかCGのボスから聞いて、あんたはひどく動揺
したみたいね。それでもMBプロを助ける事を優先して、あんたは話を進めた。
でも陰でかなり苦しそうに悩んでいたみたいね」
レナ「……」
礼子「愛結奈が買収話を持って来た時、あんた真奈美の意見も聞きたがっていたわよね?
後で真奈美が直接CGカンパニーに連絡を入れたそうだけど、あの子は逆に『レナ
がどう思っているのか知りたい』って聞き返したんだって?買収話は結局消滅した
けど、あんたはどう答えるつもりだったの?」ギロリ
P「礼子、もういい。これ以上はやめろ」
礼子「よくないわよ。それにあんたも気になってるでしょ?これは私の直感だけど、この
件は無視できるほど軽くないわよ。その証拠に真奈美は、LIVEバトルの会場に来て
いないみたいだしね」サラリ
レナ「…………そっかあ。来てくれなかったのねあの子」ポツリ
P「レナさん?」
レナ「別に大した事じゃないわよ。ちょっとあの子に昔の嫌な事を思い出させちゃった
かもね。後でゴメンねって謝っとくわ」ポリポリ
礼子「ええ、そうしなさい。これはあんた達2人の問題だから、あんた達だけでしっかり
解決しなさいよ。私達や事務所を巻き込まないで頂戴」フンッ
レナ「は!了解しましたキング様!まぁ悪いのは私だし、しっかりケジメをつけとくわ。
それじゃ今度こそ本当に行くわね。ベテとあいちゃんも待ってるだろうし」ガチャ
バタン タッタッタッタッタッ……
P「……何もこんな所で聞く事はないだろ。はぐらかされるのは分かっていたし」ジロ
礼子「どうかしらね。今聞いておかないと二度と聞けなかったかもしれないわよ」フンッ
P「……?どういう事だ?」キョトン
礼子「鈍いわね。あんただけで十分なのに、レナがどうして忙しいのにわざわざ私まで
ここに呼んだと思っているのよ?後でいくらでも会えるのに今呼び出すなんて、
あれはあの子なりの別れの挨拶のつもりだったんじゃないの?」サラリ
P「な……!? 別れの挨拶って事はもしかして……」ギョッ
礼子「あんたも忙しいと思うけど、レナから目を離しちゃダメよ。私も一応注意はしとく
けど、あの子多分MBプロを辞めて姿を消すつもりだと思うから」ジロ
P(礼子の言った通り、オープニングセレモニー終了後にレナさんは会場から姿を消した。
そして後日、事務所に彼女の辞表が送られてきた―――――)
END
―おまけ・オープニングセレモニー―
―観客席―
早苗「あれ?こんなのスケジュールにあったっけ?」ガサガサ
早苗「今日急に入ったらしいですよ。今年のLIVEバトルは海外からのお客さんが多い
みたいですから、その人達に向けたサービスらしいです」
麻理菜「ふ〜ん、主催者側も太っ腹なのね。バックのお城のセットでも使って、芝居でも
やるつもりかしら。ちょっと楽しみだわ」
―ステージ上―
あい『……』スタスタスタ…
あい『……』ペコリ
あい『……』サッ…コトン←ガラスの靴
あい『……』スチャッ!←サックス
―観客席―
ザワザワ… ダレアノヒト? カッコイイ… オウジサマカシラ…? アレッテサックス…? ドヨドヨ…
トレーナー「あれ?もしかしてあの王子様って……あい!? 」ギョッ!
ルキトレ「間違いないよトレ姉さん!あいさんだよあの人!」
マストレ「どうしてあいつがあんな所にいるんだ……?王子様の恰好をして、ステージに
置いたのは……靴か?」
トレーナー「あ、サックス構えた。今から演奏するのかな……?」
―ステージ上―
あい(まさかこんな大舞台で演奏する事になるとは…… 世の中どこにチャンスがあるか
分からないものだな)ス…
あい(しかし海外の人達から見ても、私は男役が合ってると思われたのか。覚悟はして
いたが、こうして突きつけられると心にくるものがあるな……)ズーン
あい(いや、深く考えるのはやめよう。今は手に入れたチャンスを確実に掴むためにも
セレモニーに集中しなくては!ベテさんとレナさんも待っているからな!)スゥゥ…
―観客席―
〜♪ 〜♪
礼「あら、なかなか可愛いコじゃない。タイプだわ♪」ウフフ
楓「王子様がソックス履いてサックス吹く…… いまいち……」ウーン
瑞樹「あれってソックスなのかしら?タイツじゃないの?わからないわ」ムムム
留美「曲を聴きなさいよあなた達…… 悲しい雰囲気の曲ね。ガラスの靴をステージ上に
置いて、持ち主のシンデレラを想っているのかしら?」
ブォンブォンブォン…… ドドドドド……
美優「あら?なんでしょうかこの音…… エンジンの様な……」キョロキョロ
のあ「……フェラーリ・612スカリエッティ」ボソッ
ザワッ!? ワァァァァァァッ……!!
拓海「お、おい!何か外車が入って来たぞ外車が!あれフェラーリじゃねえのか!? 」
友紀「あはは!何あの色!カボチャみた〜い!」ゲラゲラ
頼子「パンプキンカラーのフェラーリ…… もしかして……!? 」ハッ
ブロロロロロロン…… キキッ……
拓海「おい、ステージの前で停まったぞ!外車が停まったぞ!」バンバン!
友紀「うるさいなあ拓海ちゃんは。そんなの見りゃわかるって!」イタタ…
頼子(間違いない……あれはあの時レナさんが言ってた……!)
ザワザワザワ…… ヒソヒソ…… シーン……
ベテトレ『……』ガチャ…バタンッ
ルキトレ・トレーナー「「ベテ姉さん!? 」」ギョッ!!
マストレ(ベテ……)
―ステージ上―
あい(待ってたよベテさん)ヒソヒソ
ベテトレ(これは想像以上に恥ずかしいな…… どうしてお前はそんなに着飾っているのに、
私はジャージ姿でステージに上がらなければいけないんだ……)カアア
あい(くっくっくっ、いいじゃないか。いつものベテさんらしくて私は好きだぞ。それに
ベテさんもすぐ私のように変身出来るさ)ニヤニヤ
ベテトレ(いいからさっさと靴を履かせてくれ…… このままだと私の心がもたない……)
あい(了解した。じゃあ足を上げてくれ)スッ…
―観客席―
早苗「あれベテちゃんよね?レナちゃんと一緒にラスベガスに行ったって聞いてたけど。
あの子がここにいるって事は、レナちゃんも帰って来てるのかしら?」
夏美「途中から全然連絡取れなくなっちゃいましたよねレナさん。今日もLIVEバトルに
誘おうと思ったのに。真奈美も来ないしどうしたのかな……」キョロキョロ
麻理菜「もしかしたらステージ上に登場するかもよ?あ、見て!王子様がベテさんに靴を
履かせたわ。これでベテさんはシンデレラになったって事かしら?」ワクワク
シュウウウ… モクモクモク…
早苗「あ、ステージが煙に覆われて二人が見えなくなって…… って!? ええっ!? 」ギョッ!!
夏美「ウソ!? いつの間に着替えたのベテさん!? さっきまでジャージだったのにドレスに
なってるじゃない!! 」ギョッ!!
麻理菜「凄いイリュージョンね。一瞬すぎて全然分からなかったわ……」アゼン
ワアアアアアアアアアアアアッッッ!! ビューティホ―――――ッ!! アンビリーバボ―――――ッ!!
―ステージ上―
ベテトレ(まさか裏方の私が、こんな格好をしてステージに立つとはな……)ファサ…
あい(綺麗だよベテさん。まるで本物のシンデレラみたいだ)ニヤニヤ
ベテトレ(お世辞は聞き飽きたよ。向こうでも散々ジャパニーズビューティーだの何だの
言われて口説かれて、レナさんに嫉妬される始末だし……)ブツブツ
あい(私もベテさんも日本人らしい女だから、向こうの人達には新鮮に見えたのだろう。
どうだい?ベテさんも私と一緒にCGカンパニーで頑張らないかい?)
ベテトレ(遠慮させてもらおう。自分が着飾ってこうやってステージに立ってハッキリした。
やはり私はトレーナーがいい。自分が育てたアイドルが、こうしてステージに
立つのを見るのが私の喜びだ。それに帰る場所もあるしな……)チラッ
あい(そう言うと思ったよ。それでこそ私が尊敬するベテさんだ。トレ達も待ってるし、
では行こうかシンデレラ。お手を拝借)スッ…
ベテトレ(すっかり王子様になりきっているなお前。帰りの運転は任せたぞ王子)ギュッ
ガチャ… バタン ブロロロロロロロロロン……
―観客席―
ワアアアアアアアアッッッ!! ヒューヒューッ!! ブラボ―――――ッ!! ビューティホ―――――ッ!! パチパチパチ…
トレーナー「ベテ姉さん楽しそうだったね。あいにはお礼言わなくちゃ……」ホロリ
ルキトレ「うん、レナさんにもね。元気そうで良かったよ……」ポロポロ
マストレ「おい、いつまで泣いてるんだお前達。控室へ行くぞ」スクッ
トレーナー「え!? でもマス姉さん、私達は観客なのに……」グスッ
マストレ「関係あるか。身内が会いに行って何の問題がある。それに放っておくと、あいつは
あのままカボチャ色の車に乗ってあいとまた駆け落ちしてしまうぞ」ニヤリ
ルキトレ「そうだよね!ベテ姉さんがいなくなったせいで真奈美さんにも迷惑かけちゃったし、
今度はしっかりつかまえなくちゃ!」スクッ
マストレ「その通りだ。それにヤツがいなくなったせいで、我が家の家計管理に余分な時間を
取られた。さっさと連れ戻して今までの倍以上働かせてやる―――――」
***
レナ『こうしてサックスが趣味のイケメン王子と、トレーニングと財テクの両方を器用に
こなすシンデレラはカボチャ色のフェラーリに乗って新婚旅行に出かけましたとさ。
めでたしめでたし♪』スタスタ
レナ『レディ―――――ッス!! アーンッド、ジェントルメ―――――ッン!! ようこそ
LIVEバトルへ!どうだったかしら私達のシンデレラは?ええ、わかってるわ。
もちろん最高だったわよね―――――っ!? 』ウィンク☆
ワアアアアアアアアア……!! ピューピューッ!! ブラボーッ!! レナサーンッ!! レーナッ! レーナッ!
夏美「ちょっ!? あれレナさんですよ!! あんなカッコで何やってんですかあの人!? 」ギョッ!!
早苗「そりゃバニーガールでしょ。結構キワドイ衣装ね。私でもイケるかしら?」ペタペタ
麻理菜「期待を裏切らないわねあの人は。本当に私達を楽しませてくれるわ」フフッ
レナ『こら!名前で呼ぶな!今の私はただのセクシーなウサギちゃんよ♪ 今日は世界を
夢見て頑張るみんなに素敵なプレゼントを持って来たの♪ でもそのプレゼントを
手に入れられるかどうかはあなた達次第だけどね♪」
レナ『え?さっきのフェラーリが欲しいって?別にあげてもいいけど外車は色々大変よ?
王子とシンデレラも慣れるまで時間かかってたし…… って、そんな楽屋トークは
いいでしょ別に!私が持って来たのは『世界』そのものよ!』
ウオオオオオオオオッ!! ザワザワザワ……?
礼「世界?……ああ、なるほどね。あの子らしいわ」ニヤリ
楓「お前に世界の半分をくれてやろう……」グフフ…
瑞樹「懐かしいわねそのセリフ。一体どういうことかしら?ヘレンなら分かるかも」
レナ『このステージはゴールじゃなくて、世界に羽ばたく為のスタートなの。世界なんて
すぐそこよ。勇気を出して一歩を踏み出せば誰だってシンデレラになれるわ』
レナ『ついでにベガスから王子様も沢山連れて来たわ。爺さんばかりなのは我慢してね。
なかなかお金持ちで地位も名誉もある若い男がいなくてさ。でもとっても紳士的で
優しいから、きっとみんなの夢を応援してくれるわ。だから頑張ってね♪』
ワハハハハハ…… イイゾ―――――ッ!! アリガトレナサ―――――ン!!
留美「世界を持って来たなんてあの人らしいわね。でもとてもわかりやすいわ」フフッ
美優「実際に持って来てくれたのはレナさんですけどね。凄いですねあの人は……」クスクス
のあ「私は世界より夜空が欲しいわ…… 満点の星に彩られた夜空が…… でもあの人なら
それすら叶えてしまいそうね……」フッ…
レナ『さあアイドルのみんな!舞台は整えたわよ!後は最高のパフォーマンスでステージ
を熱く沸かせて頂戴!客席のあんた達も『俺が世界に連れて行ってやる!』ぐらい
の気合で応援しなさい!ショボい応援でテンション下げるんじゃないわよ!』
レナ『それではここに第○○回、アイドルLIVEバトルの開催を宣言します!ステージの
アイドルも客席のみんなも最後まで盛り上がっていくわよ―――――っ!! 』
ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!! ブラボ――――ッ!! ヒューヒューッ!! キャ―――――!! パチパチパチパチ…
ヘレン「これよ!これこそが世界レベルだわ!離して菜々!ステージがこの世界レベルの
私を呼んでるわ!私がいないとステージが始まらないわ!」ガタタッ!!
菜々「お、落ち着いて下さいヘレンちゃん!無理ですって!今から飛び入り参加なんて
出来ませんから大人しく座って応援していてくださ〜〜〜〜い!」グイグイ
雪美「ヘレン……楽しそう……」ジー
菜々「雪美ちゃんももっと盛り上がってもいいんですよ!? ていうか何なんですかこの
テンション格差!? どうしてあなた達が一緒にいるのかナナ分かりません!! 」
音葉「ふふ…楽しい音色…少し騒々しいけど、こういうのも悪くないわね……」クスクス
千秋「いや、笑ってないで助けてあげましょうよ。あのままだと菜々さんLIVEが始まる
前に倒れてしまうわよ?」ヤレヤレ
***
―ステージ裏―
レナ「ふう、疲れた。さてと、それじゃ帰ろうかな」スタスタ
瞳子「お疲れ様レナさん。素敵なオープニングセレモニーをありがとう」ヒョコ
志乃「うふふ、お疲れ様……」フラ…
レナ「あれ?志乃さん顔色悪いわよ?大丈夫?」キョトン
志乃「うふふ…… レナちゃんがお仕事いっぱいくれたおかげよ……」ウフフフフフ…
レナ「?よくわからないけど無理しないでね。瞳子は調子どうなの?」
瞳子「いつでもいけるわよ。でもあんなステージを見せられたら少し自信を無くして
しまうわ。あなたは本当にああいう場所がよく似合うわね……」フフッ
レナ「あの程度簡単に超えてくれないとグランプリになれないわよ。あんたはウチの
エースなんだから、最高のステージを期待してるわ」ニヤリ
瞳子「ええもちろん。相手が誰でも私はもう二度と負けるつもりはないわ。今日の為に
頑張ってくれたみんなに受けた恩は、ステージの上で返すから!」ニコッ
レナ「うん、良い笑顔!それじゃ頑張ってね」スタスタ
志乃「あら?レナちゃんの出番はもうないの?」
レナ「ええ、私はオープニングだけよ。後は客席でゆっくりさせてもらうわ」ガチャ
―――――バタン……
つづく
チェック終了。ここまでです。大変お待たせして申し訳ございませんでした。
今回は礼子さんですね。礼子さんのイメージはタイトル通りです。でもそれだと
『キング』じゃなくて『クィーン』になるか。こまけえ事はry
後、礼子さんは意外と古風な考えの人で尽くす人だと思います。陰で夫を
支える妻の様な。別に三十路だからとかそういう意味ではry
さて、後はエピローグを1本書いてこのシリーズを終える予定でしたが、お姉さんを
全員登場させろという要望にお応えして番外編を2本書くつもりです。年内には全部
終わるといいなあ(白目)。それではまた次回。
本編の最後はあのお姉さんに〆てもらいましょうか。
を、その前のストーリーも忘れた人は
篠原礼「大人のおつきあい」
をお読みください。初見の方も読んで頂けると嬉しいです。
それではどうぞ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380979269
―MBプロ事務所―
礼子「おはよう」ガチャ
清良「おはようございます」ニコニコ
美優「おはようございます」ペコリ
留美「おはよう礼子さん。今日は早いのね」カタカタ…
礼子「……何やってるのあんた達。黄緑色のブレザーなんて着て、ちひろの真似?」キョトン
清良「ちひろさんはLIVEバトルが終わるまでしばらくお休みですから。その間代わりの
事務員さんを雇うのも中途半端ですし、社長とプロデューサーさんに私達で事務を
やりますって申し出たんです」
美優「前の会社で事務をしてましたから、ある程度なら私も出来ます。分からないことが
あればちひろさんに電話で尋ねれば済みますし……」
留美「私は事務じゃなくて秘書だったけどね。LIVEまで1週間切ってるし、それくらい
なら私達だけで何とかなるわ。社長とP君もサポートしてくれるしね」カタカタ…
礼子「そういえばそんな話もあったわね。まさか本当にやるとは思わなかったけど。Pも
アイドルに事務仕事なんてさせるんじゃないわよ」フン
清良「これでも病院の受付にいた事があるんですよ私。事務は得意です♪」ニコニコ
美優「わ、私もこういう仕事は嫌いじゃないので……」
礼子「そういう問題じゃないの。アイドルはステージで歌って踊ってなんぼの職業よ。
若い子達ならともかく、あんた達は時間を無駄にしている余裕はないでしょう。
もっと自分を大事にしなさい」ギロ
美優「は、はい!」ビクッ
留美(礼子さんが言うと重みがあるわね……)
礼子「ちひろも一週間も仕事サボってるんじゃないわよ。ちょっと電話するわ」ピポパ
留美「いいの?よく知らないけど今ウチの事務所、運営委員会に目を付けられているん
でしょう?だから念のためにちひろさんを外したって聞いたけど」
礼子「関係ないわよ。委員会の連中がガタガタ言ってきたら私が相手になってやるわ。
さ、あんた達も事務員ごっこはおしまいよ。さっさと着替えなさい」パンパン
―――
ちひろ「私はしばらくお休みをいただいたはずだったんですけど……」ムッスー
礼子「甘ったれるんじゃないわよ。あんたがいないと事務の仕事が溜まる一方じゃない。
事務所がピンチだっていうのに、のんびりバカンスなんていいご身分ね」ギロ
ちひろ「バカンスなんてしてませんよ!久しぶりに『自分の会社』で仕事をしてたんです!
そもそも私はMBプロの人間じゃないですし事務員でもありません!」グワッ
美優「えっ!? そうだったんですか!? 」ギョッ
留美「あら、知らなかったの?ちひろさんはエナドリを販売してる『エナジー製薬』の
営業さんよ。なぜかウチで事務仕事をしてるけど」
清良「私も最近知りました。ウチのアイドルのほとんどが、ちひろさんを事務員さんだと
思っているでしょうね」
ちひろ「もうかれこれ10年近くここで事務をしていますからね。逆にエナジー製薬に顔を
出しても『どちら様ですか?』って受付に聞かれる始末ですし……」シクシク
礼子「嫌なら明日からもう来なくていいわよ。あんたの会社のエナドリって、不味いのに
高いのよね。ウチの事務所と契約したいって会社は他にもあるし、事務員も新しい
人を雇えばいいだけの話だし」フン
ちひろ「今更そんなひどい事を言わないで下さいよ。私もこの事務所でずっと働いてきて
愛着がありますし、アイドルの子達だって可愛いんですから。それに私を事務員
としてMBプロに縛り付けたのは礼子さんじゃないですか……」ジト
〜回想・MBプロ設立直後〜
P(22歳)「それじゃ社長と挨拶周りしてくるから、留守番頼んだぞ!」バタバタ
礼子(22歳)「朝から大声出さないでよ…… 二日酔いでキツいんだから……」グッタリ
P「またパーティーか。しかしお前が二日酔いなんて珍しいな。それなのにまだボトルを
抱えているし。今日はもう飲むんじゃないぞ」ヒョイ
礼子「ちょっと張り切りすぎたわ…… ああ、それからそのボトルすっごく高いから扱いに
気をつけてね。社会人1年目のあんたの年収くらい軽く超えるわよ……」ズキズキ
P「そんなもん事務所に持ち込むなよ!? 危うく心臓止まるかと思ったわ!! 」ギョッ!!
礼子「だから大声出さないでって言ってるでしょ…… いいからさっさと行きなさいよ。
社長が外で待ってるわよ……」ウ〜ン…
P「棚に置いとくからな!それから一応二日酔いの薬を置いておくぞ。今日のレッスンは
キャンセルしたから、もし体調が悪かったら早退するなり病院に行くなりしろよ。
俺はお前のプロデューサーだから本当は付き添ってやりたいけど、今日はどうしても
外せない所だからすまないが自分で何とかしてくれ。早退する時は電話かメールを
入れるように。事務所でゴロゴロしてるだけなら、荷物を片づけてくれると助かる。
それから新しい社長のイスを注文したから今日あたり届くかも……」クドクド
礼子「いいからさっさと行きなさいって言ってるでしょうが!! 男のくせに小さい事ばかり
いちいちうるさいのよあんたは!! 」ブンッ! ブンッ!
P「うおっ!? 物を投げるな物を!それじゃいってきま〜す!」ピューッ!
礼子「ふ〜っ…… ふ〜っ…… これでぐっすり眠れるわ。あいたたた……」ゴロン
―――
チッ… チッ… チッ…
礼子「……のど渇いたわ。何か飲み物ないかしら」ムクリ
礼子「冷蔵庫は…… 空っぽじゃない。来客があったらどうするのよ」ガチャ
礼子「湯呑みも段ボールに詰めたままって…… 引っ越してきたばかりなのは分かるけど、
事務所立ち上げるなら最低限荷物を出してからにしなさいよね」ガサゴソ
礼子「水でいいか。ゴクゴクゴク…… ぷは、生き返った」コトン
礼子「しっかしどこも散らかってるわね。大体アイドル事務所なのに、社長とPと私しか
いないっておかしいでしょう。デスクもぐちゃぐちゃじゃない……」ゴチャ…
礼子「ああ、そういえばウチに来る予定だった事務員を他の事務所に盗られたんだっけ。
確か元アイドルのオトナシ…何だっけ?もしウチに来ていたら、日高舞の悪口で
一緒に盛り上がったかしら……」ブツブツ
礼子「……1人だと退屈ね。帰ろうかしら」ゴロゴロ
(P「俺はお前のプロデューサーだから本当は付き添ってやりたいけど―――――」)
礼子「……せめてデスクくらい片づけてあげようかしら。ああもう、めんどくさいわね。
プロデューサーならアイドルにこんな仕事やらせるんじゃないわよ」ガサガサ
ピンポーン
礼子「あら、お客さん?誰かしら……」スタスタ
礼子「はい?」ガチャ
ちひろ(?歳)「こんにちわ!あなたの健康ばっちりサポート!エナジー製薬です!」ニコニコ
礼子「丁度良かったわ。ちょっとこっちに来て手伝ってくれない?」ニヤリ
ちひろ「えっ?」キョトン
***
ちひろ「―――――で、気が付けばあれよあれよとそのままMBプロで事務をする羽目に
なりまして。表向きはエナジー製薬の契約販売員という形になっていますけど、
実際はMBプロの事務(無給)がメインでエナドリも碌に売れず、仕事内容も
仕事量もすっかり逆転していて丸一日事務(無給)をする事も……」メソメソ
美優「歩合制だったんですね。それであんなに一所懸命……」ホロリ
留美「ツッコむ所はそこじゃないわよ美優。そういうわけでちひろさんはグレーゾーンで
勤務してるから、労基や委員会に攻撃されたら色々とマズいのよ。どうして今まで
問題にならなかったのか不思議だわ」
礼子「エナジー製薬の社長には話を通しているから問題ないわよ。それにちひろの営業
成績は関東でもトップクラスよ。ウチは所属アイドルが多いし、マストレ達にも
協力させて捌いているからね。後Pは三食エナドリの時もあるし」フンッ
清良「MBプロはちひろさんの独占状態ですものね。だったら別にいいじゃないですか」
ちひろ「確かにMBプロさんは大口の顧客ですし、同僚に羨ましがられる事もあります。
ですけれど…… そうなんですけれど……」ギリギリ
〜アイドル達とちひろの日常〜
薫『ちひろさーん!エナドリちょーだい!』キラキラ
千佳『チカにもちょーだい!ラブリーパワーほじゅう☆ 』ピカピカ
ありす『あんな小さい子達から搾取するなんて、あなたには人の心がないんですか?」ジト
桃華『卑しい犬。たとえ貧しくなろうとも貴女の様にはなりたくありませんわ」シラー
加蓮『プロデューサーかわいそう。昔のアタシより薬漬けにされてる……』ポロポロ
奈緒『エナドリだけじゃ体を壊しちまうぞ。今度弁当作ってきてやろうか?か、勘違い
すんなよ!あたしは別に(以下ツンデレ)』ウガー!
凛『鬼…… 悪魔…… ちひろ……』ゴゴゴゴゴ…
亜子『さすがちひろさん!血も涙もあらへん!アタシにはそこまでマネ出来んわ!』ナハハ♪
【事務所アンケート】Q.千川ちひろといえば? A.鬼・悪魔・守銭奴・敵・犬等
ちひろ「にゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜っ!! 」ゴロゴロゴロゴロ
美優「ど、どうしたんですかちひろさん!? どこか具合でも……」オロオロ
礼子「そんな所で転がってる暇があるならさっさと仕事しなさい。それにそろそろレナと
礼が日本に帰って来るはずだけど、まだあの二人から連絡は来ないの?」イライラ
留美「事務所の権利書が手元にないのは不安ね。レナさんならうまくやってくれていると
思うけど。礼さんと志乃さんも大丈夫かしら」フウ
清良「まあまあ皆さん、ここで心配しても仕方がありません。私達はレナさん達を信じて
待ちましょう。お茶でも淹れてきますね♪」パタパタ
ピンポーン
清良「あら?お客さんでしょうか。は〜いただいま」スタスタ
清良「どちら様ですか?」ガチャ
愛結奈「アイドル事務所のMBプロはここかしら?意外と小さい事務所なのね」ニコッ
ちひろ「アイドル志望の方ですか?せっかく来ていただいた所申し訳ございませんが、
只今採用担当の社長とPが不在でございまして。一度アポを取って戴いて、
後日また日を改めて来て頂けないでしょうか」パタパタ
愛結奈「ああ、違うの。そうじゃないわ。それに悪いけど私、今日中にアメリカに戻ら
ないけないのよ。さもないとレナに怒られちゃうわ」
礼子「レナですって?あんた一体何者?」ピクッ
愛結奈「『兵藤レナに頼まれた』って言えば分かるかしら?とにかく中に入れてくれない?
ここじゃ話せない大事な話があるから―――――」ニヤリ
***
清良「どうぞ。緑茶ですからお口に合うか分かりませんけど……」コトン
愛結奈「あら、ワタシ大阪生まれの大阪育ちよ?18の時まで普通に日本で暮らしてたわ。
ん〜、この香りなつかしいわね〜♪」ズズズ…
美優(確かに顔つきは日本人みたいですけど……)ジー
留美(見た目とか体つきは色々アメリカンね。レナさんや礼子さんもだけど、何食べたら
あんなに大きくなるのかしら……)ジー
礼子「のんびりお茶してないでいい加減に用件を言いなさいよ。私達も得体のしれない
あんたの相手をしてるほど暇じゃないんだけど」ギロ
愛結奈「もう、そんなに急かさないでよ。こっちは長旅で疲れてるんだから。とりあえず
コレ先に渡しとくわね。レナも心配してるだろうって言ってたから」バサ
ちひろ「こ、これはウチの事務所の権利書!? どうしてあなたが……!? 」ギョッ
愛結奈「ん〜、ちょっとレナは事情があって日本に戻って来られなくなっちゃってさ。
レナの友達のベテとあいって人達も、今ウチのカンパニーで匿ってるわ」
礼子「匿ってる?あの子ベガスで何かヘマでもしたの?」ピクッ
愛結奈「そうじゃないけどちょっと怖いオジサンを怒らせちゃって、それでウチに逃げ
込んできたのよ。あ、MBプロは無事よ。レナがしっかり守っていたし、売り
とばされたりしてないから安心して☆ 」アハハ
留美「穏やかじゃないわね。レナさん達が今いるあなたのカンパニーってどこなの?」ジロ
愛結奈「ええと、ちょっと待ってね。確か名刺がこのあたりに…… お、あったあった。
はいどうぞ♪」サッ
ちひろ・留美「「『CGカンパニー!? 』」」ギョッ!!
美優「アメリカの会社ですか……?」オソルオソル
留美「あんたも業界の人間なら名前くらいは知っておきなさいよ。全米でも5本の指に
入る超大型のエンターテイメントビッグカンパニーよ……」ゴクリ
美優「ええっ!? そんなにすごい会社なんですか!? 」ギョッ!!
ちひろ「確かハリウッドが拠点で、役者さんの育成や映画撮影がメインの会社でしたね。
他にも舞台業や歌手のステージも手掛けていると聞いてますが……」タラリ
清良「じゃあ愛結奈さんはハリウッド女優さんなんですか?」
愛結奈「ピンポ〜ン☆ ワタシもCGカンパニーの女優よ♪ まだ駆け出しだからチョイ役
くらいしかもらえないけど。レナとは向こうで知り合って、たまに一緒に飲んで
いたわ。ディーラー辞めてアイドルになってたなんて知らなかったけど」
礼子「それであんたはレナに頼まれて、わざわざハリウッドから日本まで運び屋をやりに
来たのかしら?ご苦労な事ね」
愛結奈「それもあるけどボスに命令されたのよ。今日はレナのおつかいで来ただけだけど、
近いうちにCGカンパニーからMBプロに正式にビジネスの話が行くと思うわ。
ワタシ達がレナを匿っているのもそれが理由だしね」ニヤリ
ちひろ「ビジネス?それってもしかして……」ピクッ
愛結奈「アナタ達も大体察しがついてるんじゃないの?今、日本のアイドル業界は外資が
大量に入ってるし、ワタシ達も同じよ。CGカンパニーはね―――――」
―――――MBプロを買収する予定よ。
***
美優「ば、買収……!? 」
留美「MBプロとCGカンパニーの資本の差は歴然。ウチが傘下に入る形になるわね」
愛結奈「確かに傘下に入ってもらう形になるけど、MBプロに介入するつもりはないわ。
MBプロって名前は変わっちゃうかもしれないけど、CGカンパニーは基本的に
アナタ達にノータッチよ。ワタシ達がバックにつく形になるかしら」アハハ
ちひろ「妙な話ですね。CGカンパニーくらいの大企業ならウチを支配下に置く事も可能
なのに、買収どころかまるで友好的な業務提携のような……」
愛結奈「レナが頑張ったからね。あの人はウチを利用して『MBプロが買収された』って
見せかけるのが目的だったみたいだから。でもよくわからないけどウチのボスも
あっさりレナの話に乗ってさ。むしろレナの方が拍子抜けしてたわ」
留美「何か裏がありそうで怖いわね。ウチが話を受けた瞬間、手のひら返してアイドルを
全米中に売りとばしたりしないでしょうね?」ジロ
美優「う、売りとばすって……」ビクッ
清良「私はピッツバーグに行きたいですね♪ 先進医療都市ですし」ワクワク
愛結奈「そのつもりだったら、最初からわざわざこうして権利書を持ってこないわよ。
これはボスが誠意を見せたととらえて欲しいわね。トラストミーよ♪」ウィンク☆
留美(どう思う、ちひろさん……)ヒソヒソ
ちひろ(確かに愛結奈さんの言う通り、最初から敵対的買収をするつもりなら権利書を
返すのはおかしいですね。でも話がうますぎます……)ヒソヒソ
愛結奈「それにレナの作戦で他の事務所やスポンサーが買収を持ちかけられているのに、
MBプロだけ無傷だと逆に怪しまれるんじゃない?日本のアイドル業界を全部
敵に回すくらいなら、ウチに買収された方がいいと思うけど」ギラリ
ちひろ「た、確かにそれは……」ギクッ
愛結奈「ワタシも詳しく聞いたわけじゃないけど、アナタ達はウザったい連中を業界から
排除するために、外資を大量にぶち込んで一掃しようとしてるんでしょ?外資が
入れば業界の力関係はガラっと変わるし、チェックも厳しくなるから悪い事も
出来なくなるし。レナもよくやるわよ」アハハ
礼子「今の業界に溜まった膿を取り除くにはそれくらいしないといけないのよ。委員会の
連中は長く居過ぎて馴れ合いすぎて、自浄作用を失ってるわ。まぁでもあいつらは
結構しぶといから、ただやられっぱなしにはならないでしょうけどね」フンッ
愛結奈「カジノで作戦を実行するのがレナらしいわね。ベガスに来てた金持ちやセレブに
片っ端から勝負を持ちかけて次々負かして、アイドル関係のスポンサーに敵対的
買収を仕掛けさせたり、寄付の形でLIVEバトルに投資させたりしてたわよ。今
日本のアイドル業界は大混乱してるんじゃないの?」クスクス
ちひろ「エナジー製薬と柊ワイナリーもバタバタしてますよ。私も呼び出されましたし、
酔っぱらってない志乃さんなんて久しぶりに見ました。LIVEバトルも一応開催
されるそうですけど、外国の人達がかなり口を出してるみたいですから例年とは
違ってあちらさん好みのゴージャス仕様になりそうですね……」
留美「それはそれで出場するアイドル達は楽しそうね。瞳子が少し羨ましいわ」
愛結奈「別に今ここで買収を受け入れろとは言わないわ。それはワタシとアナタ達じゃ
なくて、ウチのボスとMBプロの社長さんのハナシだし。でもレナが気にして
いたから、アナタ達がどう思ってるのか聞いておこうと思ってね」
清良「レナさんが、ですか?」キョトン
愛結奈「特に高橋礼子と木場真奈美って人がどう思うのか知りたがってたけど。アナタが
高橋礼子よね?木場真奈美はいないの?」キョロキョロ
ちひろ(礼子さんは分かりますけど、どうして真奈美さんが……?)ピクッ
礼子「真奈美は仕事中よ。レナと一緒にあんたの会社にいるベテの代わりにトレーナーの
仕事をしているわ。ふぅん、でも私と真奈美にね…… 何となくだけどレナの考えが
読めてきたわ……」フムフム
留美「どういう事?私にはさっぱり分からないけど……」
礼子「真奈美の意見を聞くまでもないわ。あの子も私と同じ意見に違いないから」サラリ
愛結奈「まあそうよね、アナタ達に選択の余地はないわよね。じゃあ聞かせてくれる
かしら?ワタシもレナを安心させてあげたいしね♪ 」フフン
礼子「返事はNOよ。ウチを買収しようなんて身の程を弁えなさい」ピシャリ
愛結奈「うんうんそうよね。もちろん断って……って、えええぇぇぇっっっ!? 」ギョッ!!
ちひろ・美優・留美「「「えええええぇぇぇぇぇっっっっっ!!!??? 」」」ギョッ!!
清良「さすが礼子さん。頼りになりますね♪」ニコ
礼子「当然よ。レナにも甘く見られたものね。MBプロを売りとばそうとするなんて良い
度胸してるじゃない。ここは『私の事務所』よ。たとえ社長が賛成しても業界全部
敵に回しても、誰の好きにもさせないわ―――――」ギラリ
***
愛結奈「ちょ、ちょっと待って…… ワタシの話ちゃんと聞いてた?こう言っちゃ悪いけど、
ウチみたいなアメリカのビッグカンパニーが、MBプロぐらいの日本の中規模の
アイドル事務所にここまで譲歩するなんてありえないわよ……?」ピクピク
礼子「アメリカの会社で大きければ偉いってものじゃないでしょ?まずその上から目線が
気に入らないわね。これ見よがしに名刺なんて見せびらかして、あんた一体何様の
つもりなの?この私もずいぶん下に見られたものね」ビリビリ
美優「ああ、名刺が……」オロオロ
ちひろ(礼子さんこそ超上から目線ですけど……)
愛結奈「た、確かにワタシは下っ端だけど、今はCGカンパニーの代表として来てるのよ!
ワタシに対する発言は全てCGカンパニーへの発言としてとらえるわよ!? 」ガタッ
礼子「構わないわよ。あんたの会社のボスが来ても私は今と全く同じ対応をするから。
メリケン風情が調子に乗るんじゃないわよ。顔を洗って出直して来なさい」プイ
留美(これが『キング』……)ゾク
愛結奈「〜〜〜っ!! アナタの噂は聞いてるわよ!日本じゃキングなんて呼ばれて、傲慢で
好き勝手振舞っている事もね!でも所詮は日本だけの話でしょ?外の世界なんて
ゼンゼン知らないくせに、アナタこそ身の程を知りなさいよっ!! 」グワッ!!
礼子「あんたこそアメリカで仕事をしてるだけで世界が見えた気になってるんじゃない?
ウチの自称世界レベルと変わらないわね。あんたみたいな小娘の相手をするのは
馬鹿馬鹿しいけど、でもMBプロが格下に見られるのは耐えられないから、特別に
レクチャーしてあげるわ。感謝しなさい」フンッ
愛結奈「レクチャー? 一体何をよ……?」ギリギリ
礼子「MBプロはね、『女の子は誰でもシンデレラ』っていう青臭い理想の下で設立された
事務所なの。その理想を実現する為には、内気で引っ込み思案の普通の女の子でも
ドアを叩けるくらい親しみやすくて優しい雰囲気の事務所じゃないといけないの。
だからあえて中規模で運営しているのよ」
美優(そ、そうだったんですか……?)ヒソヒソ
留美(知らなかったわ……)ヒソヒソ
ちひろ(私もてっきり社長がケチだとばかり……)ヒソヒソ
礼子「あんた達は良い歳した大人なんだから自己責任よ。私は今、小さい子達の話をして
いるの。あんた達にまでわざわざ説明する必要ないでしょ」ギロッ
美優・留美・ちひろ「「「はい……」」」シューン
礼子「大体あんた、ウチの事務所をちょっとでも調べたの?所属アイドルは大規模レベル
なのに事務所の規模は中規模で、スタッフは小規模レベルよ。公式のスポンサーも
ローカルなワインセラー1社だけだし、どう考えても異常でしょう」
愛結奈「そ、それは確かに……」
礼子「本当は所属アイドルに合わせてスタッフももっと増やして、事務所ももっと大きな
所に引っ越ししたいんだけどね。でも中規模の事務所に見せかけるために、あえて
そうしていないの。大きく出来ない理由は他にもあるんだけど、MBプロが本気を
出せばあんたの会社に負けないくらいのビッグカンパニーになるわよ?」ニヤリ
ちひろ(せめて事務員はもう一人くらい増やしてくださいよ!)ヒソヒソ
留美(大きな事務所になれば、私ももっとオーディションが受かるかしら)ヒソヒソ
美優(今週はお仕事が入ってませんでしたけど、もし事務所が大きかったら……)ヒソヒソ
礼子「何度も言わせないで。私は今、小さい子達の話をしているの。あんた達は良い歳
した大人なんだから、現状に不満があるなら自力で解決しなさい」ギロッ
美優・留美・ちひろ「「「はい……」」」ショボーン
清良「今の状態でも私は満足しています。プロデューサーさんとはあまり会えませんけど
しっかりアイドルとしてプロデュースして頂いてますし、現場のスタッフさんにも
良くしてもらってますので安心してお仕事が出来ます。でもやはり1人で担当する
のは辛そうなので、私もスタッフさんを増やされた方がいいと思いますけど」
礼子「私と社長も何度も言ってるけど、あいつが嫌がるのよ。自分がスカウトした以上は
自分が責任を持ってプロデュースするって意地になっちゃって。いつ寝てるのって
思うくらい延々と仕事してるし、あのままじゃ長生き出来ないわね」フウ
清良「そうですね。私も元医療従事者として見過ごす事は出来ません。これ以上無理を
されると心配で心配で……」ホロリ
礼子「まぁ、いざとなったら私が首に鎖をつないで手足を縛って檻に入れて文明が発達
していない未開の地に飛ばしてでも休ませるけどね。あいつ電気が通っていれば
世界中どこでも仕事が出来るし。あ、でもこの前765プロのアイドルに動物達と
会話する方法を教わっていたわね。今度は伝書鳩でも使うつもりかしら」
愛結奈「どんなセガールよ一体…… で、でもいくらMBプロにポテンシャルがあっても
ワタシ達が参入した事で、これからアナタ達だって思うようにいかなくなるわ!
それにレナがベガスに来たのだって今回相当ヤバかったって事でしょっ!? 」
礼子「ええそうね。気付くのがもう少し遅かったら、ウチの事務所は空中分解してたかも
しれないわ。事務所は鉄壁でもアイドルは普通の女の子だから、ベテが裏切ったと
思い込ませて瞳子をLIVEバトルで惨敗させれば、そのままスタッフとアイドル、
アイドル同士の間に不信感が生まれてバラバラになっていたかもね」
愛結奈「ほ、ほらそうじゃない!だったら……」 礼子「でもね……」
礼子「それは私が気付いていなくて、かつ『アイドルとして』ここに存在する場合の話よ。
私が気付いて『キングとして』存在するなら事情は変わるわ……」ニヤリ
愛結奈「そ、そんなのただの強がりよ!ハッタリだわ!」アセアセ
礼子「ふぅ、あんたも分からず屋ね。どうやらこれ以上はレクチャーしても無駄みたいね。
面倒だから切り札を出しましょうか。『これ』を使うとPが怒るんだけど……」サッ
愛結奈「な、何よこの名刺。真っ黒だし『R』だけしか書かれてないじゃない……」オズオズ
ちひろ(あ、あの名刺は!? それをホイホイ出しちゃダメですよ礼子さん!! )ビクッ!!
礼子「それをアメリカに持って帰ってあんたのボスに見せなさい。もしCGカンパニーが
あんたの言う通り本当にビッグカンパニーなら、その名刺が何なのか分かるから。
分からなかったらその程度の会社って事よ」フンッ
愛結奈「バ、バカにしないでよ!後で吠え面かかせてやるから覚悟しなさいよ!」ガタッ!
礼子「ついでにレナに遊んでないでさっさとベテを連れて帰って来なさいって言っといて。
ベガスで何をやらかしたのか知らないけど、あんた達くらいウチでも守れるから。
王様の命令は絶対だから、下々は黙って従いなさいってね」ニヤリ
ズカズカズカ……バタンッ!!
礼子「ちゃんと聞こえたかしら。まあ一応名刺は渡したからどうでもいいけど」フウ
留美「あの名刺は何だったの?MBプロのものじゃないみたいだったけど……」
礼子「大したものじゃないわよ。社交界の酒好きクラブの会員証みたいなものね。人気の
あるクラブで紹介がないと入れないから、CGカンパニーのボスも興味あるんじゃ
ないかと思ってね。あの子は名刺で自分をアピールしてきたからお返しよ」クス
ちひろ(紹介制のクラブですか…… 確かに間違ってませんけど……)
清良「もう、礼子さんもあまり飲みすぎたらダメですよ?私はウワバミ四天王を解散して
欲しいくらいなんですからね」プンプン
美優「で、でもあんな事を言って大丈夫なんですか……?私は愛結奈さんが言った通り、
CGカンパニーさんは悪い会社じゃないと思いますけど……」
礼子「ええ、私もそう思うわ。今まで危ない橋を渡って来たレナがベテともう1人の子を
連れて逃げ込んだ所だし、あの子の言った通り良い会社でしょうね」サラリ
美優「じゃ、じゃあどうしてあんな事を言って断ったんですか?」
礼子「よく思い出しなさい美優。愛結奈はレナがこの買収話について、私と誰の意見を
聞きたいって言ってたか覚えてる?」ジロリ
美優「確か礼子さんと……真奈美さん?」
留美「そういえばそうだったわね。礼子さんは分かるけどどうして真奈美なのかしらって
私も不思議に思ったわ。同じ強制送還組だから?」
礼子「いえ、おそらく違うわ。前に礼も言ってたけど、レナと真奈美には何かあるわよ。
レナは買収にかこつけてごまかしたつもりかもしれないけど、きっと今回の話には
それが深く関係しているわ。その件をハッキリとさせない事には、どんなに条件が
良くてもこの話には乗れないわね」フンッ
清良「レナさんと真奈美さんですか。私にはとても仲が良さそうに見えますけど……」
礼子「分からないわよ。レナは元ディーラーだし、ポーカーフェイスが得意だからね。
あら、礼からメールが来たわ…… どうやら今空港に着いたみたいだから、迎え
ついでに聞いてみましょうか。あの子は多分はぐらかすと思うけど」スクッ
スタスタスタ……バタン
美優「MBプロはどうなるのでしょうか……」オズオズ
留美「正直何とも言えないわね。CGカンパニーの買収を断った事で窮地に立たされたのは
間違いないけど、でも礼子さんのあの余裕も虚勢じゃなさそうだし。カギを握って
いるのは真奈美かしら?」ウーン
清良「大丈夫ですよ。礼子さんは王様ですから、下々の私達は礼子さんを信じましょう!
でも私、あの名刺どこかで見た気がしますけど。確か食あたりで緊急搬送されて
きたイタリアのマフィアさんが……」
ちひろ「(マ、マズい!)さ、さあ皆さん!それじゃそろそろ通常業務に戻りましょうか!
礼さんも久しぶりに戻って来られますし、温かく迎えてあげましょう!」アセアセ
清良「それもそうですね。では私は礼さんにケーキでも買ってきます♪」コロリ
留美「まぁ、ここで考えていても私達が出来る事はなさそうね。一応愛結奈が来た事は
真奈美に連絡しておくわね。あの子レナさんの事を気にしてたし」ピポパ
美優「私もレッスンルームに行ってマスさんに伝えてきます。トレさんとルキさん達も
ベテさんの事を心配していましたから」ペコリ
ちひろ(ふぅ、危なかった。気を付けて下さいよ礼子さん!とりあえず礼子さんがキング
として動いたからにはもう大丈夫ですね。でも礼子さんの言う通り、本当にレナ
さんは私達に何か隠しているんでしょうか。真奈美さんとの間に何があるのか
知りませんけど、穏やかに解決すればいいのですが―――――)
折り返し。少し休憩します。再開は0:00から。
***
―そしてLIVEバトル当日。関係者席にて―
ワイワイ ワーワー!! キャー!! ガヤガヤ ザワザワ 〜♪♪ オサナイデクダサーイ!! ガチャガチャ バタバタ
ドヨドヨ オナラビクダサ-イ フレーッフレーッ キャイキャイ ウオーッ!! ♪〜♪ ミミミン ガチャガチャ
礼子「本番直前に会場の変更なんてよく出来たわね。いつもの野外ステージじゃなくて
まさかドームでやるとは思わなかったわ」フウ
ちひろ「いつもの場所じゃS席の数が足りないってセレブの方から苦情が出たそうですよ。
沢山投資したんだからもっと良い場所で見せろって言われたら仕方ないですね」
礼子「日本は外圧に弱いわよね。委員会も良い気味だわ。外国のセレブ共はあれこれ
口煩いから、さぞや苦労しているでしょうね」ニヤニヤ
ちひろ(礼子さんは本当に委員会がお嫌いなんですね……)
礼子「でも会場も豪華になったし、ファンも喜んでるからこれで良かったんじゃない?
見てよあのステージのバック。いつもは只の壁なのにお城なんて立てちゃって、
まるでファンタジーの世界ね」フフッ
ちひろ「シンデレラ城のつもりでしょうか。どうやってドームに入れたんでしょうね。
向こうの人の考える事はよく分かりません」クスクス
礼子「こんな面白そうなLIVEバトルを見ているだけなんてつまらないわね。今からでも
飛び入りで参加出来るかしら。ちひろ、ちょっと委員会に頼んで来てよ」
ちひろ「無茶言わないで下さいよ…… て、あれ?電話?……プロデューサーさんから?
すみません礼子さん、ちょっと失礼しますね」スクッ
<ハイ、センカワデス. ドウシマシタカ…
礼子「さて、と。そろそろかしらね……」スクッ
ちひろ「礼子さん、会場の第三控室でプロデューサーさんとレナさんがお待ちです……」
礼子「わかってるわ。もう、そんな顔しないの。今日はお祭りなんだからあんたも辛気
臭い顔しないでしっかり楽しみなさいよ―――――」ポンポン
***
礼子「入るわよ」ガチャ
レナ「あ、礼子さん久しぶり!元気にしてた?」ハ~イ♪
礼子「見ての通りよ。そういうあんたはなんて格好してるのよ。バニーガール?」
レナ「CGカンパニーのボスに頼まれちゃってさ。私が連れて来た海外セレブの客達が
オープニングセレモニーを見たいって言うからそれをやるの。向こうでしっかり
練習してきたから、礼子さんも楽しみにしていてね♪」ウィンク☆
礼子「それでこっちに帰って来なかったのね。あんたは最初からそのつもりで、ベテと
もう1人の子を連れてCGカンパニーに逃げ込んだのかしら?」ジロリ
レナ「カジノで勝ちすぎて怖いオジサンを怒らせたのは本当だけどね。CGカンパニーは
MBプロと雰囲気が何となく似てるから、買収してもらうには丁度いいかな〜って
思ったんだけど、余計なお世話だったみたいね。只者じゃないとは思ってたけど、
礼子さんがあんな切り札を持ってるなんて思わなかったわ」アハハ
礼子「私も伊達にキングって呼ばれてないわよ。あんたの友達に名刺を渡した2日後に、
CGカンパニーのボスが大慌てでセスナ飛ばしてウチに土下座しに来たわ。社長と
Pが顔を上げてくれって何回言っても上げないし、大変だったんだからね」フン
レナ「そりゃそうよ。愛結奈もガタガタ震えてたわよ。あの子も礼子さんが『あの組織』
のメンバーだなんて思ってなかったでしょうし……」
P「レナさん、その話はあまりここでは……」ストップ
レナ「ああ、ごめんなさい。誰かに聞かれていたらマズいわね」テヘ☆
礼子「別にいいわよ、私もなりたくてなったわけじゃないし。昔たまたま行ったセレブの
パーティーでひょんな事から勧誘されて、酔ってたから深く考えずにそのままOK
したら入っちゃっただけよ。『貴女の美貌と振る舞いこそ世界の王に相応しい』とか
言われたけど、何かの冗談だと思ってたしね」フン
P「頼むからもう少し考えて行動してくれ。よりにもよってそんなとんでもない組織に目を
付けられるなんて、お前の傍若無人ぶりは相当だったみたいだな。普通そんな経緯で
しかも日本のアイドルが入るのはありえないらしいのに悪運が強いというか……」ハア
礼子「別に入ったからって何かしてるわけじゃないし、世間では世界を操る最高権力機関
とか言われて怖がられているけど私に言わせればただの金持ちの酒好きクラブよ。
最近はいい加減に結婚しろって煩いし、親が増えたみたいで鬱陶しいわ」ムスッ
レナ「あはは!それはご愁傷様。私も昔カジノでメンバーのお爺さんを相手にした事が
あったけど、意外と普通の人だったからびっくりしたわ。中には凄いお金持ちや
怖いオーラを持った人もいるみたいだけどね」
P「これが礼子がキング扱いされているカラクリですよ。それ以外にもこいつの振る舞いが
周りにそう呼ばせてるんですけどね。今は幸いにも世間に隠し通せてますけど、バレ
たら色々と厄介なのでくれぐれも他言無用でお願いしますね!」グワッ
レナ「そんな怖い顔で言われなくてもわかってるわよ。私もまだ死にたくないしね♪
MBプロを助けるためにベガスに行ったのに、逆に余計な問題を増やしちゃって
悪かったわね。礼子さんにも迷惑かけちゃったわ」ペコリ
礼子「そんな事はどうでもいいわ。あんたがウチの事を思ってやってくれたのは分かって
いるから。それに礼の方もうまくいったみたいだし、志乃の話だとLIVEバトルが
終わった後から本格的に潰し屋と雇い主のあぶり出しが始まるみたいよ。もう既に
包囲網が出来つつあるみたいだし、あいつらに逃げ場はないわ」ニヤリ
P「外国の人達は容赦がないですからね。これだけ大事になると委員会も動かざるをえなく
なりますし、彼らが業界から追放・排除されるのは時間の問題です。MBプロも外資を
引き込んで混乱を引き起こした事について委員会からお叱りを受けると思いますが、
業界の浄化に貢献したという事でプラスマイナスゼロでしょうか」ポリポリ
レナ「これをきっかけに、日本のアイドルがもっと世界に進出しやすくなるといいけど。
ベガスは世界中からセレブが集まる場所だから、色んな国から連れて来たわよ。
アメリカはもちろんイギリスやフランスとか、アラブやブラジルもいたわね」クスクス
礼子「今の業界の閉鎖的な部分には私もウンザリしていたから、よくやってくれたわよ。
MBプロももっと積極的に海外展開してもいいと思うけどね。今はグローバル化が
主流だし、これからはもっとそうなるだろうし……」チラ
P「俺と社長が倒れなかったらな…… この前の海外ツアーだけでも結構ギリギリだった
のに、これ以上増やすと体ひとつじゃ足りねえよ……」タラリ
レナ「いざとなったら礼子さんに頼ればいいじゃない。礼子さんが一言いえば、大抵は
どうにかなるでしょう?それにCGカンパニーも協力してくれるわよ。あそこは
もう礼子さんの支配下みたいなものだしね♪」ニヤリ
礼子「いらないわよあんな会社。どうしてもMBプロの傘下に置いて下さいって言うなら
考えてあげてもいいけどね。あんた達を匿ってくれた恩もあるし」サラリ
レナ「さすが礼子さん、やっさしー♪ それじゃ私はセレモニーの準備があるからそろそろ
行くわね。ハリウッド流のド派手なパフォーマンスを見せてあげるから、期待して
待っててね〜☆ 」スタスタ
礼子「待ちなさい。まだ話は終わってないわよ」ギラリ
レナ「話?まだ気になる事でもあった?」キョトン
礼子「レナ、あんた真奈美の事で私達に隠している事があるんじゃない?CGカンパニーの
ボスから聞いたわよ。CGカンパニーが本当に欲しかったのは、MBプロじゃなくて
真奈美だったみたいね。しかもトレーナーをやっていた頃の。どうしてもあの子が
欲しかったから、あんたの無茶な要求も受け入れたって言ってたわよ」
P「……」
礼子「真奈美が昔どんなトレーナーだったかCGのボスから聞いて、あんたはひどく動揺
したみたいね。それでもMBプロを助ける事を優先して、あんたは話を進めた。
でも陰でかなり苦しそうに悩んでいたみたいね」
レナ「……」
礼子「愛結奈が買収話を持って来た時、あんた真奈美の意見も聞きたがっていたわよね?
後で真奈美が直接CGカンパニーに連絡を入れたそうだけど、あの子は逆に『レナ
がどう思っているのか知りたい』って聞き返したんだって?買収話は結局消滅した
けど、あんたはどう答えるつもりだったの?」ギロリ
P「礼子、もういい。これ以上はやめろ」
礼子「よくないわよ。それにあんたも気になってるでしょ?これは私の直感だけど、この
件は無視できるほど軽くないわよ。その証拠に真奈美は、LIVEバトルの会場に来て
いないみたいだしね」サラリ
レナ「…………そっかあ。来てくれなかったのねあの子」ポツリ
P「レナさん?」
レナ「別に大した事じゃないわよ。ちょっとあの子に昔の嫌な事を思い出させちゃった
かもね。後でゴメンねって謝っとくわ」ポリポリ
礼子「ええ、そうしなさい。これはあんた達2人の問題だから、あんた達だけでしっかり
解決しなさいよ。私達や事務所を巻き込まないで頂戴」フンッ
レナ「は!了解しましたキング様!まぁ悪いのは私だし、しっかりケジメをつけとくわ。
それじゃ今度こそ本当に行くわね。ベテとあいちゃんも待ってるだろうし」ガチャ
バタン タッタッタッタッタッ……
P「……何もこんな所で聞く事はないだろ。はぐらかされるのは分かっていたし」ジロ
礼子「どうかしらね。今聞いておかないと二度と聞けなかったかもしれないわよ」フンッ
P「……?どういう事だ?」キョトン
礼子「鈍いわね。あんただけで十分なのに、レナがどうして忙しいのにわざわざ私まで
ここに呼んだと思っているのよ?後でいくらでも会えるのに今呼び出すなんて、
あれはあの子なりの別れの挨拶のつもりだったんじゃないの?」サラリ
P「な……!? 別れの挨拶って事はもしかして……」ギョッ
礼子「あんたも忙しいと思うけど、レナから目を離しちゃダメよ。私も一応注意はしとく
けど、あの子多分MBプロを辞めて姿を消すつもりだと思うから」ジロ
P(礼子の言った通り、オープニングセレモニー終了後にレナさんは会場から姿を消した。
そして後日、事務所に彼女の辞表が送られてきた―――――)
END
―おまけ・オープニングセレモニー―
―観客席―
早苗「あれ?こんなのスケジュールにあったっけ?」ガサガサ
早苗「今日急に入ったらしいですよ。今年のLIVEバトルは海外からのお客さんが多い
みたいですから、その人達に向けたサービスらしいです」
麻理菜「ふ〜ん、主催者側も太っ腹なのね。バックのお城のセットでも使って、芝居でも
やるつもりかしら。ちょっと楽しみだわ」
―ステージ上―
あい『……』スタスタスタ…
あい『……』ペコリ
あい『……』サッ…コトン←ガラスの靴
あい『……』スチャッ!←サックス
―観客席―
ザワザワ… ダレアノヒト? カッコイイ… オウジサマカシラ…? アレッテサックス…? ドヨドヨ…
トレーナー「あれ?もしかしてあの王子様って……あい!? 」ギョッ!
ルキトレ「間違いないよトレ姉さん!あいさんだよあの人!」
マストレ「どうしてあいつがあんな所にいるんだ……?王子様の恰好をして、ステージに
置いたのは……靴か?」
トレーナー「あ、サックス構えた。今から演奏するのかな……?」
―ステージ上―
あい(まさかこんな大舞台で演奏する事になるとは…… 世の中どこにチャンスがあるか
分からないものだな)ス…
あい(しかし海外の人達から見ても、私は男役が合ってると思われたのか。覚悟はして
いたが、こうして突きつけられると心にくるものがあるな……)ズーン
あい(いや、深く考えるのはやめよう。今は手に入れたチャンスを確実に掴むためにも
セレモニーに集中しなくては!ベテさんとレナさんも待っているからな!)スゥゥ…
―観客席―
〜♪ 〜♪
礼「あら、なかなか可愛いコじゃない。タイプだわ♪」ウフフ
楓「王子様がソックス履いてサックス吹く…… いまいち……」ウーン
瑞樹「あれってソックスなのかしら?タイツじゃないの?わからないわ」ムムム
留美「曲を聴きなさいよあなた達…… 悲しい雰囲気の曲ね。ガラスの靴をステージ上に
置いて、持ち主のシンデレラを想っているのかしら?」
ブォンブォンブォン…… ドドドドド……
美優「あら?なんでしょうかこの音…… エンジンの様な……」キョロキョロ
のあ「……フェラーリ・612スカリエッティ」ボソッ
ザワッ!? ワァァァァァァッ……!!
拓海「お、おい!何か外車が入って来たぞ外車が!あれフェラーリじゃねえのか!? 」
友紀「あはは!何あの色!カボチャみた〜い!」ゲラゲラ
頼子「パンプキンカラーのフェラーリ…… もしかして……!? 」ハッ
ブロロロロロロン…… キキッ……
拓海「おい、ステージの前で停まったぞ!外車が停まったぞ!」バンバン!
友紀「うるさいなあ拓海ちゃんは。そんなの見りゃわかるって!」イタタ…
頼子(間違いない……あれはあの時レナさんが言ってた……!)
ザワザワザワ…… ヒソヒソ…… シーン……
ベテトレ『……』ガチャ…バタンッ
ルキトレ・トレーナー「「ベテ姉さん!? 」」ギョッ!!
マストレ(ベテ……)
―ステージ上―
あい(待ってたよベテさん)ヒソヒソ
ベテトレ(これは想像以上に恥ずかしいな…… どうしてお前はそんなに着飾っているのに、
私はジャージ姿でステージに上がらなければいけないんだ……)カアア
あい(くっくっくっ、いいじゃないか。いつものベテさんらしくて私は好きだぞ。それに
ベテさんもすぐ私のように変身出来るさ)ニヤニヤ
ベテトレ(いいからさっさと靴を履かせてくれ…… このままだと私の心がもたない……)
あい(了解した。じゃあ足を上げてくれ)スッ…
―観客席―
早苗「あれベテちゃんよね?レナちゃんと一緒にラスベガスに行ったって聞いてたけど。
あの子がここにいるって事は、レナちゃんも帰って来てるのかしら?」
夏美「途中から全然連絡取れなくなっちゃいましたよねレナさん。今日もLIVEバトルに
誘おうと思ったのに。真奈美も来ないしどうしたのかな……」キョロキョロ
麻理菜「もしかしたらステージ上に登場するかもよ?あ、見て!王子様がベテさんに靴を
履かせたわ。これでベテさんはシンデレラになったって事かしら?」ワクワク
シュウウウ… モクモクモク…
早苗「あ、ステージが煙に覆われて二人が見えなくなって…… って!? ええっ!? 」ギョッ!!
夏美「ウソ!? いつの間に着替えたのベテさん!? さっきまでジャージだったのにドレスに
なってるじゃない!! 」ギョッ!!
麻理菜「凄いイリュージョンね。一瞬すぎて全然分からなかったわ……」アゼン
ワアアアアアアアアアアアアッッッ!! ビューティホ―――――ッ!! アンビリーバボ―――――ッ!!
―ステージ上―
ベテトレ(まさか裏方の私が、こんな格好をしてステージに立つとはな……)ファサ…
あい(綺麗だよベテさん。まるで本物のシンデレラみたいだ)ニヤニヤ
ベテトレ(お世辞は聞き飽きたよ。向こうでも散々ジャパニーズビューティーだの何だの
言われて口説かれて、レナさんに嫉妬される始末だし……)ブツブツ
あい(私もベテさんも日本人らしい女だから、向こうの人達には新鮮に見えたのだろう。
どうだい?ベテさんも私と一緒にCGカンパニーで頑張らないかい?)
ベテトレ(遠慮させてもらおう。自分が着飾ってこうやってステージに立ってハッキリした。
やはり私はトレーナーがいい。自分が育てたアイドルが、こうしてステージに
立つのを見るのが私の喜びだ。それに帰る場所もあるしな……)チラッ
あい(そう言うと思ったよ。それでこそ私が尊敬するベテさんだ。トレ達も待ってるし、
では行こうかシンデレラ。お手を拝借)スッ…
ベテトレ(すっかり王子様になりきっているなお前。帰りの運転は任せたぞ王子)ギュッ
ガチャ… バタン ブロロロロロロロロロン……
―観客席―
ワアアアアアアアアッッッ!! ヒューヒューッ!! ブラボ―――――ッ!! ビューティホ―――――ッ!! パチパチパチ…
トレーナー「ベテ姉さん楽しそうだったね。あいにはお礼言わなくちゃ……」ホロリ
ルキトレ「うん、レナさんにもね。元気そうで良かったよ……」ポロポロ
マストレ「おい、いつまで泣いてるんだお前達。控室へ行くぞ」スクッ
トレーナー「え!? でもマス姉さん、私達は観客なのに……」グスッ
マストレ「関係あるか。身内が会いに行って何の問題がある。それに放っておくと、あいつは
あのままカボチャ色の車に乗ってあいとまた駆け落ちしてしまうぞ」ニヤリ
ルキトレ「そうだよね!ベテ姉さんがいなくなったせいで真奈美さんにも迷惑かけちゃったし、
今度はしっかりつかまえなくちゃ!」スクッ
マストレ「その通りだ。それにヤツがいなくなったせいで、我が家の家計管理に余分な時間を
取られた。さっさと連れ戻して今までの倍以上働かせてやる―――――」
***
レナ『こうしてサックスが趣味のイケメン王子と、トレーニングと財テクの両方を器用に
こなすシンデレラはカボチャ色のフェラーリに乗って新婚旅行に出かけましたとさ。
めでたしめでたし♪』スタスタ
レナ『レディ―――――ッス!! アーンッド、ジェントルメ―――――ッン!! ようこそ
LIVEバトルへ!どうだったかしら私達のシンデレラは?ええ、わかってるわ。
もちろん最高だったわよね―――――っ!? 』ウィンク☆
ワアアアアアアアアア……!! ピューピューッ!! ブラボーッ!! レナサーンッ!! レーナッ! レーナッ!
夏美「ちょっ!? あれレナさんですよ!! あんなカッコで何やってんですかあの人!? 」ギョッ!!
早苗「そりゃバニーガールでしょ。結構キワドイ衣装ね。私でもイケるかしら?」ペタペタ
麻理菜「期待を裏切らないわねあの人は。本当に私達を楽しませてくれるわ」フフッ
レナ『こら!名前で呼ぶな!今の私はただのセクシーなウサギちゃんよ♪ 今日は世界を
夢見て頑張るみんなに素敵なプレゼントを持って来たの♪ でもそのプレゼントを
手に入れられるかどうかはあなた達次第だけどね♪」
レナ『え?さっきのフェラーリが欲しいって?別にあげてもいいけど外車は色々大変よ?
王子とシンデレラも慣れるまで時間かかってたし…… って、そんな楽屋トークは
いいでしょ別に!私が持って来たのは『世界』そのものよ!』
ウオオオオオオオオッ!! ザワザワザワ……?
礼「世界?……ああ、なるほどね。あの子らしいわ」ニヤリ
楓「お前に世界の半分をくれてやろう……」グフフ…
瑞樹「懐かしいわねそのセリフ。一体どういうことかしら?ヘレンなら分かるかも」
レナ『このステージはゴールじゃなくて、世界に羽ばたく為のスタートなの。世界なんて
すぐそこよ。勇気を出して一歩を踏み出せば誰だってシンデレラになれるわ』
レナ『ついでにベガスから王子様も沢山連れて来たわ。爺さんばかりなのは我慢してね。
なかなかお金持ちで地位も名誉もある若い男がいなくてさ。でもとっても紳士的で
優しいから、きっとみんなの夢を応援してくれるわ。だから頑張ってね♪』
ワハハハハハ…… イイゾ―――――ッ!! アリガトレナサ―――――ン!!
留美「世界を持って来たなんてあの人らしいわね。でもとてもわかりやすいわ」フフッ
美優「実際に持って来てくれたのはレナさんですけどね。凄いですねあの人は……」クスクス
のあ「私は世界より夜空が欲しいわ…… 満点の星に彩られた夜空が…… でもあの人なら
それすら叶えてしまいそうね……」フッ…
レナ『さあアイドルのみんな!舞台は整えたわよ!後は最高のパフォーマンスでステージ
を熱く沸かせて頂戴!客席のあんた達も『俺が世界に連れて行ってやる!』ぐらい
の気合で応援しなさい!ショボい応援でテンション下げるんじゃないわよ!』
レナ『それではここに第○○回、アイドルLIVEバトルの開催を宣言します!ステージの
アイドルも客席のみんなも最後まで盛り上がっていくわよ―――――っ!! 』
ウオオオオオオオオオオオオオオッッッ!! ブラボ――――ッ!! ヒューヒューッ!! キャ―――――!! パチパチパチパチ…
ヘレン「これよ!これこそが世界レベルだわ!離して菜々!ステージがこの世界レベルの
私を呼んでるわ!私がいないとステージが始まらないわ!」ガタタッ!!
菜々「お、落ち着いて下さいヘレンちゃん!無理ですって!今から飛び入り参加なんて
出来ませんから大人しく座って応援していてくださ〜〜〜〜い!」グイグイ
雪美「ヘレン……楽しそう……」ジー
菜々「雪美ちゃんももっと盛り上がってもいいんですよ!? ていうか何なんですかこの
テンション格差!? どうしてあなた達が一緒にいるのかナナ分かりません!! 」
音葉「ふふ…楽しい音色…少し騒々しいけど、こういうのも悪くないわね……」クスクス
千秋「いや、笑ってないで助けてあげましょうよ。あのままだと菜々さんLIVEが始まる
前に倒れてしまうわよ?」ヤレヤレ
***
―ステージ裏―
レナ「ふう、疲れた。さてと、それじゃ帰ろうかな」スタスタ
瞳子「お疲れ様レナさん。素敵なオープニングセレモニーをありがとう」ヒョコ
志乃「うふふ、お疲れ様……」フラ…
レナ「あれ?志乃さん顔色悪いわよ?大丈夫?」キョトン
志乃「うふふ…… レナちゃんがお仕事いっぱいくれたおかげよ……」ウフフフフフ…
レナ「?よくわからないけど無理しないでね。瞳子は調子どうなの?」
瞳子「いつでもいけるわよ。でもあんなステージを見せられたら少し自信を無くして
しまうわ。あなたは本当にああいう場所がよく似合うわね……」フフッ
レナ「あの程度簡単に超えてくれないとグランプリになれないわよ。あんたはウチの
エースなんだから、最高のステージを期待してるわ」ニヤリ
瞳子「ええもちろん。相手が誰でも私はもう二度と負けるつもりはないわ。今日の為に
頑張ってくれたみんなに受けた恩は、ステージの上で返すから!」ニコッ
レナ「うん、良い笑顔!それじゃ頑張ってね」スタスタ
志乃「あら?レナちゃんの出番はもうないの?」
レナ「ええ、私はオープニングだけよ。後は客席でゆっくりさせてもらうわ」ガチャ
―――――バタン……
つづく
チェック終了。ここまでです。大変お待たせして申し訳ございませんでした。
今回は礼子さんですね。礼子さんのイメージはタイトル通りです。でもそれだと
『キング』じゃなくて『クィーン』になるか。こまけえ事はry
後、礼子さんは意外と古風な考えの人で尽くす人だと思います。陰で夫を
支える妻の様な。別に三十路だからとかそういう意味ではry
さて、後はエピローグを1本書いてこのシリーズを終える予定でしたが、お姉さんを
全員登場させろという要望にお応えして番外編を2本書くつもりです。年内には全部
終わるといいなあ(白目)。それではまた次回。
本編の最後はあのお姉さんに〆てもらいましょうか。
06:30│高橋礼子