2014年12月15日

小梅「カラスが鳴いた」

小梅ネタ





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ガァー ガァー



朝日と共に彼らは活動を始める。

甲高い鳴き声が睡眠を邪魔する。

眠りが眠気と変わり、意識が半覚醒し、カーテンの隙間から侵入する光に脳が反応してしまう。



小梅「(...まだ......眠いのに)」



しかし、意識すればするほど目とは覚めるもの。

デジタル時計は、5:00を表示していた。

寝不足で働かない頭と気怠い体をお越し、居間へと向かう。



母親はまだ寝ているようだ。

食パンの包みを抱え、意味はないけれど、家屋に侵入した殺人鬼のように音を潜めて部屋に戻る。

小梅「(やっぱり、ヘルレイザーは名作...)」

DVDを鑑賞しながらのちょっと早めの朝食。

ふと、視線を感じ窓に目をやると、カーテンの隙間から黒いモノが見えた。

カーテンを開けると、ベランダの柵にカラスが一羽止まっていた。

朝の光に縁どられたどこまでの飲み込まれそう黒。



古来より魔女の使い魔であるといわれているカラスを目にし、口元が緩む。

窓を開け、カラスに向け食パンの欠片を投げる。

カラスはカァ!と鳴き、パンのかけらを咥えると飛んで行ってしまった。



小梅「(残念...もっと見ていたかったのに...)」



小梅「(早起きも、たまには良いかも...)」



しばらくすると居間から母親の生活音と胃袋を刺激する匂いが漂ってきた。

それからというもの、そのカラスは朝晩を問わずベランダに現れるようになった。



小梅「お、おはよう。今日も元気だ...ね」

そう挨拶をして、パンの欠片を投げる。

最近カラスは飛び去らずベランダで食事をすることが多くなった。



無言の一時。

1人と1羽の静かな時間。

普段は嫌いな太陽光も、この時間だけは不思議と心地よく感じられた。

食事が終わると、カラスはカァ!と鳴き飛び去っていく。

そんなある日。私は街を歩いていたらアイドルにスカウトされた。

なぜ自分がという疑問符が脳を駆け巡る。

だが、嫌な気分ではなかった。



小梅「ね、ねぇ。私アイ、アイドルに、スカウト、された」



小梅「こ、こんな私が、アイドル、おかしいよね」



なぜか、カラスに相談していた。

カラスは、いつも通りカァ!と鳴くはずだった。



カラス「ダーイスキ!」



小梅「え...か、カラスが、しゃべった...」

以前より、他のカラスとはどこか違うと感じていたが、本当に魔女の使い魔だったのだろうか。



小梅「ね、ねぇ。もう、いっかい、き、聞かせて」

しかし、カラスはそれ以上喋らず。カァ!と鳴いて飛び去った。



聞き間違いだろうか。

しかし、その聞き間違いは、私に勇気を与えてくれた気がした。

私は、その日の夕方にプロデューサーさんに連絡をとった。

アイドルになってからも、カラスとの交流は続いていた。

傍から見ればただの餌付けなのだが、私にとっては大事な時間へと変わっていた。



小梅「き、今日はレッスンが、上手く、いかなかった...」

良くないことも。



小梅「き、昨日は、初めての、ライブだったの...お客さん、喜んでくれてた...」

良いことも。



小梅「ぷ、プロデューサーさん、優しい人。一緒に、心霊スポット、行ったんだ」

ちょっと恥ずかしいことも。



そんな話をしたときの限って、カラスは喋った。

たった一言だけ。

でも、私の背中を押してくれたすごい一言。



カラス「ダーイスキ!」



今日も、ベランダからはカラスの声がする。

私の一番最初のファン。

ある日の夕方。

カラスは2羽に増えていた。

まるで、私に紹介するように2羽は現れた。



小梅「そ、その子、あなたのお嫁さん...?」

カラスは肯定するようにカァ!と鳴いた。



小梅「そ、そっか。良かったね。」

親友に恋人ができると疎外感を感じると、クラスの誰かが言っていたのを思い出し、

胸がチクリと痛んだ。



面通しが終わると、2羽はバタバタと飛んで行ってしまった。

寄り添うように、飛ぶ姿は夕焼けに照らされ、とても美しかった。

それから、カラスはベランダに現れなくなった。

おそらく子育てで忙しいのだろうか。

子供が出来たら、パンの欠片では足りないのだろう。

そう。思い込むことにした。

しかし、沈む気持ちに嘘はつけない。

事務所での待機時間、プロデューサーさんに指摘されてしまった。



P「なぁ。小梅。最近、元気ないみたいだけどどうしたんだ?」



小梅「そ、そんな風に、見える...?」



P「俺はお前のプロデューサーだよ。担当アイドルの変化くらい分かるさ」

自信満々に言われてしまった。

特に隠すことでもない。

話す分には良いだろう。



小梅「と、友達に、大切なひとができて、遊べなくなっただけ...」



P「ほう。めでたい話だな。やっぱり小梅くらいの年齢だとそうなんだなぁ。青春だね青春!」



小梅「う、うん。うれしいけど、やっぱり、ちょっとさびしい...かな?」



P「こればっかりは仕方ないからなぁ。小梅にはそういう大切な人っていたりするのか?」

小梅「え?」

会話の流れとしてはおかしくない問いかけ。

そして、担当アイドルの交友関係を確認する素晴らしい質問だ。



小梅「(大切なひと。お父さん?お母さん?...多分、そういう質問じゃない...あ、いた)」

白い頬が赤らむのが分かる。

心臓がドキドキする。



小梅「い、いるよ...」



P「な...そうか。そういう年齢だから仕方ないか。で、どんな奴なんだ?」



小梅「ぷ、プロデューサーさん...です」



小梅「そ、そういう意味、じゃない。私を変えて、くれた。ア、ア、アイドルにしてくれた。た、大切な人」

雑踏の中で、私を見つけ、アイドルとして育ててくれた。

こういうのも、『大切』にはいるよね?



だから、教えてもらった言葉を伝えよう。



小梅「ぷ、プロデューサーさん...ダ、ダイスキ...い、いつもありがとう...?」





-了-





21:30│白坂小梅 
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