2015年02月10日

美希「蹲る」

「大好きはーにぃ〜♪」



今日ね、ミキ、オフだからなんとなくふらふらーってしてたんだけど、とってもラッキーってカンジ!



空は晴れててキレイだし。



ミキが通ろうとすると、信号は青になるし。

いちいち男の人に声掛けられることもないし。

欲しいなーって思ったものがセール中だったりするし。



「いつもこんな感じだといいのに」



そう呟きながら、角を曲がろうとした時のことなの。



「痛っ」



何かを、蹴っちゃった。



でもそれは、よく見ると、人の頭だったの。





女の人が、うずくまってた。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423381434



「あ……えっと、ごめんなさいなの」



女の人は、返事もしないでうずくまったまま。



「……だ、大丈夫なの?」



返事はない。



「……あの、大丈夫だったら、もうミキ行くね?」



……やっぱり、返事はない。



なんなのなの。



「…………」



ミキ、ちょっとだけイヤな気分になったから、その人の横を通って、そのまま振り返らないで帰ったの。



……ヘンなヒトだったのかな?



「いってきまーす」



次の日、いつもみたいに事務所に行こうとして、家を出た時。



「いたっ……って、え?」



また、うずくまってる女の人を蹴っちゃったの。



家の前のブロック塀に、ぴったり体をくっつけた、昨日と同じ服の髪の長い女の人。



「…………」



なんなの? もしかして、昨日、あの後ついて来てたの?



……このヒト、なんかヤ。



ミキは、そのまま走って逃げたの。



角を曲がる時、ちらっと見た女の人は、いつの間にか頭をミキの方に向けてた。



「おはよーなのー」



「あら、おはよう美希ちゃん」



「あ、小鳥、おはよーなの。……小鳥だけ?」



「ええそうよ。他のみんなは仕事だったりオフだったり。プロデューサーさんは、今は他の子の付き添いね」



「ふーん」



事務所についたし、もう安心かな。



さっそくソファーでひと眠りするの。



「あら、寝ちゃうの?」



「うん……時間になったらおこしてほしいの……」



「分かったわ。それじゃ、おやすみなさい」



「おやすみなさいなの〜……zzZ」





「……あふぅ……って、あれ?」



目が覚めると、窓からは夕日がさしてた。



事務所には、誰もいないみたい。



「……起こしてって言ったのに。小鳥のばか」



今日のお仕事は、確かお昼からだったの。



今からじゃ間に合わないよね。



……帰ろう。



そう思って事務所のドアを開けると、すぐ目の前に、うずくまってたの。







春香が。

「えっ……? 春香……だよね? ど、どうしたの?」



返事はない。



「っ……なんなの!」



春香の肩を掴んで、床から引き剥がそうとする。



でも、できない。春香は、すごい力で床に引っ付いていた。



「春香! ふざけるのはやめて!」



春香は、相変わらず返事もしないでうずくまってる。



「っ……! もういいの!」



そう言って、ミキは春香を飛び越えて行って、階段を駆け降りた。



「え……?」



事務所のビルを出ると、まず、その静かさに驚いたの。



事務所前のこの通りは、普段は夜でも車が走ってるのに、今は一台も走ってない。



そして、通行人が一人もいない。



人はいる、でも、通行人はいない。



だって……だって、みんな、うずくまってるもん……。



スーツを着た男の人も、学生服の男の子も、主婦みたいな女の人も、赤ちゃんも、お婆ちゃんも、みんなみんなみんな、うずくまってる。



でも、頭だけは、こっちに向いてる。



「なんなの……なんなのなの!!」



ミキはその光景を見て走り出す。



こんなの、耐えられない。



道路の上にうずくまってる人達を避けながら、走る。



どこまで行っても、みんなうずくまってる。



でも、いつ見ても頭は全部こっちに向いてる。



どうして……?





「……あっ!」



そうやって走りながら角を曲がると、うずくまってる人達の中、一人だけ立っている人を見つけたの。



「ちょ、ちょっと! そこの人!」



ミキは、思わず近寄って、肩に手を置いた。



でも、すぐに後悔した。



だって、その人の服、見覚えがあったんだもん。



「あ……ああ……」



ゆっくりと振り向く女の人。



ミキは、少しずつ見えてくるその顔から、目が離せない。



「はぁーっ……はぁーっ……」



心臓がバクバクいってる。



身体が震える、汗が頬を伝う。



逃げたいのに、逃げられない。身体が言うことを聞かない。





そして、女の人の顔が──



「ただいま戻りましたー」



「あ、お帰りなさいプロデューサーさん。美希ちゃんが待ってますよ」



「どこですか?」



「あっちのソファーで寝てます。今起こしてきますね」



「お願いします」



「いえいえ♪ 美希ちゃーん、プロデューサーさんが来たわよー……ほら美希ちゃん、起きてー……美希ちゃーん?」



「…………」



「……あの、プロデューサーさん……」



「どうかしたんですか?」



「美希ちゃん、なかなか起きてくれなくて……」



「そうですか、じゃあ俺が起こしますよ。音無さんは仕事に戻ってください」



「はい、そうします」



「おーい、美希──」







「ふぅ……珍しいわね、あの美希ちゃんが、プロデューサーさんが来ても起きないなんて……」





「でも、なんで美希ちゃん、うずくまって寝てたのかしら……?」







おわり



21:30│星井美希 
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