2015年07月01日
桃華「風評被害ですわ!」楓「そうでしょうか?」茄子「♪」
●01
――櫻井の娘は、殿方をスポイルする愛し方はしませんの!
●02
桃華(ん……事務所に、少し早く来過ぎてしまいましたわ)
桃華(あら? あの二人は……)
??「私、絶対そうだと思うんですよね」
??「あー、私も楓さん同感です♪」
桃華(楓さんと、茄子さんですか。珍しい組み合わせ……何を話してるんですの?)
楓「アレの素質は、桃華ちゃんがこの事務所で一番でしょうねぇ」
茄子「ええ。将来がとっても楽しみです♪」
桃華(え、“アレ”とは……?)
●03
桃華(え、えーい、桃華っ! 人の話を盗み聞きなんて、はしたない真似……やめるんですの!)
楓「へぇ。茄子さんもアレについてはかなりのものだと……それでも、桃華ちゃんが?」
茄子「楓さんこそ。桃華ちゃんは、私たちよりもっと自然にやってくれます。そこが違いますよ」
桃華(で……ですが、わたくしの話題となると気になってしまいますわ……)
楓「12歳にしてあの気配り、包容力。もっとも大事な要素は文句なしです」
茄子「桃華ちゃん一人居れば、年少組は安心して見ていられますものね」
楓「目線から人の内心を見抜く観察力。包容力とあいまって、すべてを打ち明けて委ねたくなります」
茄子「初対面でPさんの素質と目的を言い当てるとは、ただのお嬢様には真似できないことです」
桃華(よく分かりませんが……面映ゆくて、くすぐったいですわ)
楓「容姿と立ち居振る舞いから溢れ出る、モチベーターとしての才能」
茄子「にじみ出る気品が、指図を嫌味に感じさせませんよね」
楓「時折ほの見える独占欲、可愛らしいですよね」
茄子「桃華ちゃんからそばに居て欲しいと言われて、抗える人がどれだけいるでしょうか?」
桃華(今まで人から褒められることは、ありましたけれども……)
楓「プロデューサーを出会ってすぐにおうちへ招待する積極性」
茄子「主導権を握るのも重要です。おうちといえば、もちろん櫻井家のコネクションも軽視できませんよ」
楓「アイドル活動からほの見えてくる、健全な向上心」
茄子「ええ……アレには、自分への厳しさも必要となりますしね」
桃華(こうやって、わたくしの居ない場で話しているのを聞くというのは……)
桃華(それにしても、“アレ”とは何のことでしょう。
話を聞く限り、とても素晴らしいことのようのようですが……)
楓「茄子さんと話してて、私、確信が深まりました」
茄子「ええ、楓さん。桃華ちゃんは、間違いなくこのプロダクショントップの――」
楓・茄子「――ダメP製造機、ですね」
桃華「ちょっと待ちなさい――異議あり! ですわっ!」
●04
桃華「わっ、わたくしがPちゃま――あっ、ぷ、プロデューサーをダメにする女だなんて……」
桃華「だ、断じて認めませんわっ! お二方は、何ゆえにそのようなことを……!」
楓「……『ダメPへの道は、善意が敷き詰められている』って格言がありますよ」
桃華「人を地獄の使者みたいに言わないでくださるっ!?」
茄子「えー、桃華ちゃんって、実はこんな感じだったりしませんか?」
●05
――
――――
――――――
……Pちゃま、Pちゃま。起きてくださいまし。
お顔を洗いに行ってくださいな。それが済む頃合いに、朝餉ができあがりますから……。
昨晩も遅かったようですね。ただでさえ疲れているところに、強いお酒など召して……。
本当なら、わたくしも起きて帰りを待っていたかったのですが。
きっと酔いが回っていると思いましたので、
夜食にしじみの味噌汁を用意しておいたのですが、召し上がってくださいました?
……顔色が少しだけ良くなっていますね。味わっていただけたようで幸いですわ。
酔っているときは、軽いものでも何か胃に入れるだけで、具合がよくなりますから。
パンが焼けましたわ。席にお座りになって……今、紅茶を入れて差し上げますから。
今朝はアッサムのセカンドフラッシュですの。
香りも味も濃厚ですから、ミルクと合わせていただきましょうね。
いかがかしら……夜食が和風だったので、朝食は洋風に致しましたの。
今、パンを――ああ、ジャムはそちらですわ。バターはこちらで……
そうですわ、たっぷり塗って味わってくださる? Pちゃま好みの味になっているはずですわ。
ほら、お野菜もしっかり召し上がって……
昼も夜もお付き合いが多くて、不規則で偏った食事になりがちなのですから。
でも、わたくしが用意する朝だけは別ですのよ。すべてPちゃまのためのものですの。
あら、Pちゃま。わたくしが腕によりをかけた食卓を前にしている割には、
少し気分が沈んでいるようですね……今日、何かございますの?
よろしければ、話していってくださいな。貴方の悩みはわたくしに分けてくださいまし。
……なるほど、伸び悩んでいる候補生を、どう支えてあげたら……ですか。
貴方、おうちにいる時から、お仕事のことを考えていらして……。
ふふ、わたくしをプロデュースしてくださっている時も、そのぐらい考えてくださっているかしら?
わたくしは、その方をよく存じません……
少なくとも、Pちゃまのほうがよくご存知でしょう。
わたくしに申し上げられることは、ただPちゃまが明るく楽しくお仕事へ向かってくだされば、
……そう、今わたくしに向けているような表情を、その方にも見せて差し上げれば、
きっとその方も、それまでより前向きになってくださるかと。
わたくしは、そう信じておりますの。
逆に、悩ましいことがあっても、その方――いえ、わたくし以外の方には、
おくびにも出してはいけません。Pちゃまのそういうところは、わたくしが受け止めますから……。
それでこそ、皆を導くプロデューサーとして、よきお仕事ができるというものです。
●06
あらためて考えますと、プロデューサーというのも厳しいお仕事ですわ。
そうですわ……今日、Pちゃまが帰ってきたときのために、何かご褒美を用意しておきます。
ご褒美が何かは、お仕事が終わって、帰ってきてからのお楽しみですわ。
楽しみにしていてくださいな。ただし、ご褒美に気を取られて、お仕事を疎かにしてはいけませんの。
ご褒美は、頑張った人のためのものですから……。
……ふふ、プロデューサーはたいへんなお仕事、と言ったばかりですが、
もしアイドルの皆がPちゃまと同じぐらい素直なら、プロデューサーは楽な仕事かも知れませんね♪
さて、朝餉が終わりまして身支度ですか。
ちゃんと整っていらっしゃるかしら……桃華に拝見させてくださいまし。
ほら、屈んでくださる? ネクタイを選んで差し上げますわ。
何ですの、ネクタイぐらい自分で……ですって。
Pちゃま、貴方は私が下ろしておいたスーツをお召しになるのでしょう。
そのスーツなら、こちらのネクタイを合わせてくださいまし。
ほら、こちらがいいですわ。
素敵になりましたよ。二日酔いとは思えないほどですわ!
お車の時間ですか。では、気をつけて……いってきますの、キス?
仕方ありませんね……また、屈んでくださる? さっきより少しで構いませんから……
いってらっしゃいませ。
遅くなる時は、連絡を忘れずに入れてくださいまし。
もし急用がございましたら、家の者を向かわせますので。
あと、できれば……今日は、朝だけではなく夜にも貴方のお顔が見たいですわ。
わたくしのために、早く帰ってきてくださいまし。では――
――――――
――――
――
●07
桃華「…………」
楓「桃華ちゃん。今、まんざらでもないと思ってました?」
桃華「なっ! そんなことは……心外ですわ! こんな、こんな……っ」
茄子「ほほう……『将来の心配はしなくてもいいですわ。わたくしがいますからね!』ってそういう……」
桃華ちゃん分かってますねー♪ 私が居ないとダメな人、って響きがたまりません」
桃華「勝手な想像をしないでくださいな! これは風評被害ですわっ!
櫻井の娘は、殿方をスポイルする愛し方はしませんの!」
楓「そうですよ茄子さん、これはいささか甘やかしの度が過ぎています」
桃華「楓さん、分かってくださいましたの……?」
楓「桃華ちゃんのタイプは確かに正統派ダメP製造機ですが、
世の中なにも王道ばかりじゃないと思います」
桃華「全然分かってくださってませんのっ!?」
茄子「ほう……では、楓さんは……?」
楓「そうですね……例えば……」
●08
――
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――――――
うー、うふふ、あはは……あー、おかえりなさいプロデューサー♪
こんな夜遅くまでお仕事、お疲れ様ですー♪
え……? まだそんなに呑んではいませんよぉ。
ほら……私にしては大したことない、でしょう?
貴方が居てくれないと、よく眠れないんですけど、
貴方が早く寝ろって言うから……寝酒で無理に寝ようとしたんですが……ほら。
察してください……ひとり酒なんてやったものだから、寂しさが倍増してしまって。
この私が、一合も飲まぬうちにこの有様ですよ。
だから、ほらほら、待ってたんです……付き合ってくださーい。
ほらほら、アイドルのお酌で、命の水ですよー。ささ、まずはこれから……。
おつまみは……ああ、炙った乾き物が冷めてしまってますねぇ。
お野菜は、まぁいいでしょう。あ、おみやげですか! 嬉しいですねーもーホントに。
では、プロデューサーさんの無事のご帰宅を祝して、かんぱーい。
ほら、かんぱーい、ですよっ。
もう少しお酒を控えてって、ですって……?
別にー、あなたが言うならしょうがありませんけどー。
我慢して欲しいっていうなら、私、見返りが欲しいですねぇ。
そうだ……ほら、今度、二人で温泉行きましょう!
私の地元、紀州は白浜とか、いい湯がいっぱいありますが、ちょっと遠いですか……
東京の近くだと……箱根! 箱根いいじゃないですか。
電車でも行けますからアルコールも飲めますし、今ぜったい空いてますよー。
え? 宿がちゃんとやってるのか? だいじょーぶですよ、たぶん、ほら。
あ、もう打ち止めですか。そうですよねー。
こんな夜遅くまで、お付き合いがあって、そのお帰りですもんねー。
……怒ってませんよ? 私、怒ってませんもん。
高垣楓、これでも世間では大人の女性で通ってますから。
貴方が打ち止めなら、私もやめておきますか。
ザルの目が詰まってしまったようです。
ただ、もっと眠くなるまで、少しお話してもいいですか……?
●09
あ、この間の総選挙関係のお仕事の資料ですね、見せてくださーい。
ふふふっ、このユニット、まーた私が最年長ですかぁ?
年下相手ばかりなのは、別によろしいんですけど……第2回でもそうでしたし。
ただですね、これ、みんな18とか19とか、お店に連れていけない子たちじゃないですかー。
どうにかしてくださいプロデューサー。
責任とって、この子たちがいない私の寂しさを埋めてくださいね?
それにしても……3位、ですかぁ。
さすが、プロデューサーさんですねぇ。
モデルやめてアイドルになったときは、
こんなにたくさんお仕事がもらえるとは、正直思ってませんでしたよ。
プロデューサーさん、CDもいい曲いっぱいとってきてくれて、
おかげでライブでもセンターで歌わせてくれて。
10歳若かったらともかく、私がアイドルなんて、今更、できるのかな、って思ってたのに……。
本当、プロデューサーさんは魔法使いですねー。ふふふっ。
でも……3位、ですかぁ。
また、ガラスの靴には届きませんでした。
プロデューサーさん、こんなに頑張ってくださってるのに、何ででしょうかね。
私、やっぱりここまでが限界なんですかね……?
●10
だって、外では……プロデューサーさんは、勿論、スタッフの皆さんに支えてもらって、
なんとか、ファンの方々とか、いろんな人の前に出られて、
ホントに辛うじて、キレイだったり、カッコいいフリをしていられますけど……
お家に帰ったら、この有様ですよ、私なんて。
25だか26だかイイ年こいた女が、貴方がいないと、
眠れないどころか、自棄酒すらロクに飲めないんですもの。
……ダメなヒトなんです、ホントは、私って。
私が、あの子たちの年頃だった時は、まだ学生でした。
親元を離れて一人暮らしってだけで、それはもう、たいへんだと思ってました。
なのに、みんな……アイドルのお仕事まで、あんなに頑張ってて。
眩しいんです。
ステージのセンターで浴びるスポットよりも、ずっと。
……ごめんなさい。
アイドルが、こんな辛気臭いことを言ってたら、いけませんね。
でも、あなたには……あなただけには、私のこんなところを、分かって欲しい。
ワガママだったり、年甲斐がなかったり、ほかにもいろいろ……うふふ、何故でしょう。
恥ずかしいところを晒してしまってるのに、とっても安心できる……。
ねぇ、プロデューサーさん。
ちょっと、背中貸していただけません……?
私、こんな有様ですけど、それでも、ヒトには見せたくない顔があります……。
でも、あなたと離れるのも寂しいから……もう少しでいいです、お願いします……。
――――――
――――
――
●11
桃華「……これって」
茄子「なるほど。プロデューサーさんをダメ男に誘導するため、
敢えて自分もダメ女になる共依存型とは! 目からウロコが落ちました♪」
楓「ふふ……この女性(ひと)は俺がいないとダメ……って思わせたら、勝ちです」
桃華「いったい何の勝負ですの……得意顔したって誤魔化されませんわ」
茄子「割れ鍋に綴じ蓋ということですね♪」
桃華「ことわざの意味を履き違えないでくださる!?」
茄子「そうだ♪ 楓さんと桃華ちゃん、一緒に暮らしたらどうでしょう。きっと上手くいきますよ♪」
楓「桃華ちゃん、私に毎朝味噌汁を作ってください」
桃華「神妙な面持ちでも、言ってる台詞は情けないままですわ……」
桃華「確かに楓さんは、そういうお姿が似合わないこともないと思いますが」
楓「やった、あの桃華ちゃんにお墨付きをもらいました!」
桃華「そこはわたくしの台詞に憤慨しなきゃいけないところですのよっ!?」
茄子「まぁまぁ、落ち着いてください桃華ちゃん」
桃華「それにしても、茄子さんのような女性が、殿方を駄目にするなど……
わたくしにはピンと来ませんわ。むしろ上手く操縦していきそうなイメージがあります」
茄子「……ダメなほうに操縦していくの、楽しいと思いませんか?」
桃華「何ゆえそんな酔狂を……」
茄子「私は、桃華ちゃんや楓さんと違って、
まともなやり口は使えませんが、例えば――」
●12
――
――――
――――――
ああ、プロデューサーさんですか。お疲れ様です。
そろそろいい時間ですけれど、ご帰宅されないんですか?
……まぁ、ここならわざわざ家に帰らなくても、全て揃っていますけどね。
摩天楼の最上階、高級家具を整然と並べた部屋。
水族館と同じくらい大きなガラスの向こうからは、東京の夜景が一番上から見られる……。
最初にプロデューサーさんとこの部屋へ入った時は、
ハリウッド映画か何かかと思いましたが、案外すぐ慣れてしまうものなんですね。
私とあなたで作らせた、そのオートクチュールも、最初はあなたの方が着られてましたのに。
よく馴染んだもので……お似合いですよ。
本当に、あなたはあっという間にここまで上り詰めました。
私と出会った頃のあなたは、プロデューサーなのに、
ここから遥か下のアスファルトを這いつくばって、汗だくでスカウトに走り回っていて。
隔世の感がありますね。
本当に、あなたは変わった。変わってしまった。
そんな煙たそうな顔をしないでください……別に、思い当たらないのであれば構いません。
私も、今更説教をしに来たのはございませんから。
あなたも、もう聞き飽きてますでしょう? 私もなんですよ。
今のあなたは、もうたくさんかな……と思ってます。
ただ、今夜だけは……私があなたに送る、最後かもしれない言葉なので、
どうか心の片隅にでも置いてくだされば、と思います。
それが叶うなら、今までの私の言葉は、全て忘れても構いませんから。
あなたは目覚ましい勢いでこの世界を駆け上がりました。
一度、二度、三度ぐらいなら、ただのまぐれと片付けられる大成功も、
ここまでくれば誰もが見上げる実績です。
ただ、世の中には、何をやっても上手くいく時期と、
何をやっても上手くいかない時期があります。
それが糾(あざな)える縄ぐらい平等に訪れるかは、私も知りませんが……
何をやっても上手くいく時期、というものは、いつか終わります。
あなたはまだ若い……その『いつか』は、きっと死より先にやって来ます。
その時までに、あなたに『思い出して』いただければなぁ、と思います。
ふふ、もうよろしいのですか、私のお話。
そうですね。幸運の女神だなんて呼ばれたこともある私が、
不吉なカッサンドラーの真似事なんて似合いませんよね。
では、私はお暇いたしますプロデューサー。
私がこの摩天楼の敷居をまたぐことは、もうないでしょう。
願わくば、あなたもご壮健で……
●13
……ああ、お久しぶりですね、プロデューサーさん。
随分とご無沙汰でしたが……何年ぶりでしょうか?
『お元気でしたか』――なんて白々しい洒落は言いませんよ。
あれから、あなたは財産、名誉、地位、人脈、信用、健康……色々なものを失ったようですね。
なのに、そのオートクチュールは手放さないんですか。
え、ぜんぜん似合ってませんよ。
だって、あの上り調子だった頃の恰幅に合わせてオーダーメイドしたのに、
今の痩せてしまった有様では……見られたものではありません。
……そんなものを着ておらずとも、あなたのことは覚えてますよ。
それより、私のところに来るのが、思ったより遅かったですね。
どんなことを言われるか、不安でしたか。
それとも、『思い出す』のに時間がかかったのかしら。
プロデューサーさん、ほかに顔を合わせる人はいないのですか。
アスファルトから見上げる摩天楼の頂点に未練はありませんか。
それらが残っているなら、ここは、あなたのいるべき場所ではありません。
あなたを狂わせるほどの幸運は、何かの間違いだったんです。
それが分からないうちは、私、あなたのことなんて知りません。
あなたがまだ自分を信じられるなら、ほかに頼れる人がいるなら、
私がいなくたって、あなたはどこかでどうにかやっていける筈です。
まぁ、そのオートクチュールに見合った地位に返り咲けるかどうかは、私の知らぬことですが。
え? ムリ、ですか。随分と弱気になったものですね。
何があなたとそうさせたのですか。
……『もう茄子以外信じられない』ですか。
ふふっ、うふふっ。いえ、馬鹿にするつもりは毛頭ありません。むしろ……
プロデューサーさん、この私の手が、見えますか?
もし、あなたが……望むなら、この手にあなたの手を伸ばしてください。
ただしこの手をとったら、あなたの希望も、絶望も、
栄枯盛衰も喜怒哀楽も、すべて私のものにしちゃいます。
ふふっ、うふふっ。
そうですか。それがあなたの答え……
プロデューサーさんの笑顔を見るのは、本当に久しぶりですね。
――――――
――――
――
●14
楓「身の丈以上の幸運を分け与えて、ハシゴを掛けて、おだてて、登らせて、
その絶頂でハシゴを外して、あとは落ちるところまで落ちてくるのを待つ……」
楓「なるほど、ファム・ファタール型のダメP製造機ですか。これは邪道です」
茄子「わぁ、にべもありませんね♪」
桃華「こんなのってありませんの! プロデューサーの人生をオモチャにしないでくださいな!」
茄子「まぁ、ダメPさんにプロデューサー辞めさせたら、本当におしまいですものね」
楓「そう、やり口が悪辣だから……確かに邪道は邪道です。けれど……」
桃華「……『けれど……』?」
楓「この『もう茄子以外信じられない』って響き、とってもグッと来ますね!」
茄子「そこさえご理解いただければ十分です♪」
桃華「そこは、一番通じちゃいけないところでしょう!?」
茄子「あのヒトはダメなヤツだって、みんなにそう言われて、それで……
世界で私だけがあの人を好きなんです。とてもステキではありませんか?」
楓「まぁ、私たち以外にも、この事務所は強者揃いですけどね。
体臭で何もかもお見通しなのをいいことに、一挙手一投足を支配してくる子とか」
茄子「『私の味がしないと物足りなく感じる、そんな舌にしてあげます』なんて料理を食べさせる子とか、
廃人と書いて『ダメ』と読ませるところに追い込む某アシスタントさんとか……」
楓「ですが私たちは所詮……そうなると知っててそうする『悪意』を含んだやり方。
そこを勘案すると、やはり『善意』の桃華ちゃんには叶いません」
茄子「だから、一番のダメP製造機は桃華ちゃん、という結論に至りました♪」
楓「おめでとうございます桃華ちゃん。
ということで、ダメな私に毎朝味噌汁を――」
桃華「もうダメなのは、このプロダクションの方ですわ……
わたくしがしっかりしないと、プロデューサーがダメにされてしまいますの……」
楓「――あ、誰かの携帯が鳴ってますね」
桃華「これは、わたくしですわ……失礼致します――もしもし、Pちゃまですね?
今……? わたくしは事務所におりますが」
●15
桃華「――はい……はい、分かりましたわ。今、向かわせますの。
すぐには無理ですが、わたくしも参りますから……何、水臭いことを言わないでくださいな。
Pちゃまは、わたくしの……い、いえ、何でもありませんわ。それでは切りますよ――」
茄子「……桃華ちゃん、慌ただしいですね。何かあったんですか?」
桃華「ええ、少しだけ……それよりも!」
桃華「わたくしは失礼させていただきますけれど、お二方にこれだけ言わせていただきますの。
プロデューサーの人生をオモチャにしないでくださいな! では、ごきげんよう」
茄子「桃華ちゃん……行ってしまいましたね」
楓「……ホントに風評被害なんでしょうかねぇ」
茄子「さぁ、どうでしょう♪」
(おしまい)
読んでくれてどうも
風評被害ごめんなさい
23:30│モバマス