2015年07月29日

貴音「銀河鉄道」

「ふぅ…。」



荷物を網棚の上に置き、息を吐きます。



これから、生まれ育った土地から、たった独りで東京へと向かうのです。





慣れない電車に四苦八苦し、ようやくじいやの教え通りに席に着く事が出来ました。



まもなく、電車は走り出します。時刻は早朝、乗客もまばら。



がたん、ごとん。ゆっくり走り出した電車は次第に速度を上げ、窓が振動で軋み始めます。



外を見ると、私の知っている景色が見え、そして知らない景色へと移り変わります。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396857705



「真…この電車というのは面妖な物ですね…。」



私はただ座っているだけなのに、外の景色は目まぐるしく流れて消えていく。



それが無性に可笑しく、私は隣の座席に顔を向けます。



しかし、いつもなら側にいたじいやは居らず、私は独りで向かっている、と言う事実を改めて突きつけられます。

私は、四条家の長女として生を受けました。両親は跡取り娘がようやく産まれた、とそれは大喜びだったそうです。



しかしまもなく、生えてきた髪を見て…跡を継がせる事は出来ない、と悟った、そうです。



その数年後、妹が産まれました。妹は大層綺麗な黒髪でした。



私は、この髪の色の所為で、親戚中から疎まれ、蔑まれ、そして差別を受けてきました。



お前は四条の名に相応しくない、あの子は母親が不倫をして産まれた子だ、等。



その度に私は悔しい思いをして参りました。何時かは見返したい、と何度も何度も思いました。

…天井を見上げながら今までを振り返っていましたが、ふ、と気配を感じ、足下を見ると、



熊のぬいぐるみが転がっていました。誰かが落としたのでしょう。



一瞬だけ、見なかった事に、と言う考えが過ぎりましたが、情けは人の為ならず。立ち上がり、拾う事にしました。



すると、小さな女の子が駆け寄ってきたのが見え、落とし主だろうと顔を向けると、彼女はあからさまに怯えた表情をしていました。



…恐らく、この銀髪でしょう。やはり、拾わなければ良かったのでしょうか。



熊のぬいぐるみを差し出すと、女の子はひったくるように受け取り、そのまま席に戻っていきました。

ため息を吐き、いっその事東京に着くまで寝てしまおう、と席を倒すと、後ろの席から舌打ちが聞こえます。



何も聞こえなかった事にして、目を瞑りますが、先ほどの舌打ちが気になり、眠る事が出来ません。



………眠れない時は、考え事をしてしまいます。

私が育ち、義務教育を受け始めた頃も、やはりこの髪の色が原因で、周囲から虐められていました。



嗜んでいた柔術で対処をし始めると、次第に周りから相手をされなくなり、進級する毎に同じ事を繰り返し、



気が付けば孤立をしていたのです。それでも、私が挫けなかったのは、偏に、じいや…祖父の存在が大きかったのです。



じいやは、常に私を見守り、両親に代わり私を厳しく、時に優しく育ててくださいました。



そのお陰で、私は孤立していても、挫けず今日まで生きてこられました。

やはり眠れず、目を開けて外を見ると、既に明るく日が差していました。



電車は駅に着き、客を乗せ、そして下ろしているようです。この車両にも、何人かが席を探しにやってきたようです。



その中で、綺麗な長い髪をした女性が目に付き、私は無意識の内に彼女を目で追っていました。



彼女は、私と同じ側の席に座ったようです。席に隠れ見えなくなった後でも、暫く彼女の長く美しい髪を思い返していました。

ぼんやりと思い返していると、電車が走り出します。



また外を見ていると、線路沿いの下り坂を、自転車が併走していきます。



どこかで窓が開く音がし、それから、自転車の女性の声が聞こえてきました。



「あずさーっ!!!アイドルになっても、忘れないでねーーーっっ!!!」



あの様に見送られては、あずさ、と言う方は恥ずかしいのではないでしょうか。



自転車は、やがて電車に引き離されていき、見えなくなりました。

…しかし、あの様に見送られるのは、とても羨ましいものです。



私には、見送って下さる人も居ませんでした。私には、あの様に言って下さる人も居ませんでした。



前の席から、啜り泣く声が聞こえます。恐らく、先ほどのあずさ、と言う方が泣いているのでしょう。



あの様に想って頂けるのは、幸せなのでしょうね。私は、そっと目を閉じます。



私は……私は……、これまで誰の役にも立てず仕舞いで、居るだけで邪魔者扱いされ……、



これ以上はいけませんね。じいやが側にいないだけで、このように弱くなってしまうのでしょうか。

目を瞑っていると、辛くなってしまいます。仕方なく、目を開けると、視界の隅に、先ほどの熊の持ち主が入りました。



顔を向けると、彼女は赤い包み紙の飴玉を差し出してきました。



「これは…?」



「おねえさん、くまちゃんひろってくれて、ありがとう!これ、おれいにって、おかあさんが!」



「なんと…、頂いても宜しいのでしょうか?」



「うん!おねえさんにあげる!」



「では、有り難く。」



「えへへ、ありがとう、おねえさん!それと、さっきはごめんなさい。」

彼女は、笑いながら席へと戻っていきました。……私も、少しは役に立てたという事でしょうか。



その事実に気が付くと、涙が止めどなく溢れてきました。



顔を伏せ、誰にも見られないように一人静かに涙を流します。



やがて、涙が止まり、顔を上げると、どうやら東京が近づいているようです。



恐らく、私を出迎えて下さる人は居ないでしょう。



しかし、この赤い包み紙の飴玉が一人でも、きっと大丈夫と勇気づけてくれます。

私は常に役に立たず、邪魔になるだけだと思っていました。しかし、それは間違いだったのです。



私も常に変わっているのです。少しだけ、夢に向かっていく事への自信が持てました。



一人、決意を持った私を、電車は目的地へと運んでいきます。



じいや、私は、あの日憧れたあいどるになり、そしてじいやにも見えるよう、頂点に立ってみせます。



それまで、どうか見守っていてください。大好きなじいや。



おわり



17:30│四条貴音 
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