2015年07月29日

モバP「時そば」

P「ええ、この度は足をお運びいただき、ありがとうございます。」



P「噺のほうはまぁ、お馴染みのお話でございます。ご容赦くださいませ」



P「どんな仕事においても、まぁ、易しい商売なんてぇものは、ええ、ありませんね。」





P「みなさんよく、バイトを始めようと思えば、まずコンビニを思い浮かべると思いますが、なかなかこれも難しいものなんでございます」



P「タバコの銘柄は覚えなきゃいけないし、迷惑な客もいるもんで……なかなか苦労の多い仕事なんでございます。えぇ」



P「自分も普段は、人の仕事をとってくるのが仕事だったり、人を立てるのが仕事のようなものなんでございますが、易しいと感じたことは一度だってありませんよ?」



P「それでもまぁ、仕事に楽しさを見つけられれば易しいとは感じなくとも、つらく感じることは、まずありませんね」



P「これは、今も昔も変わらんものなんでございます。」



P「そして今も昔も、まぁケチな人間というものはいるもんでございますね。」



P「落語では黄金餅というお噺がございます。これは簡単に説明すれば、まぁあるところに貧乏人がいまして、死ぬ間際にかくしておいた金を餅に包んで飲み込むという、まぁ本当の『金の亡者』というべき人がおりまして、その隣に住んでいたのがまた輪をかけての貧乏人でして、どうにかして腹から金を取り出そうと考えて、火葬場で焼いて金をとりだすという、まぁ下手に語れば、ただの陰惨な落語でございますね。ケチを通り越して卑しい人間が、今も昔もいるもんでございます」



P「さっきの噺ほどでもありませんが、こうしたケチな人間は皆様のすぐ傍にいらっしゃると思いますよ?私を思い浮かべた方はまぁ間違ってはいないので否定はしませんけれども」



P「私の師匠にちひろ師匠というお方がおります。その方もまぁ金の亡者という奴でございますね……これあとで怒られますね」



P「ま、今回の噺もケチな人間が出てくるわけでございます。」



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P「昔は夜鷹蕎麦なんてものがございました。昔夜鷹と申しまして怪しげな女が小脇にむしろを抱えて脇道にてよく殿方にモーションなど仕掛けて。それが出るような時間帯に通るから夜鷹蕎麦。また女達が食べて夜鷹蕎麦。夜暗くなると行灯をひっさげて『そーばやぁぁ〜…』なんてぇ申しまして……」





レナ「おーい、蕎麦屋さーん。なにが出来るの?花巻にひっぽこ?ひっぽこ熱くして頼むわ。いやー…最近冷えるわね」



真奈美「まぁ、今日は寒いわね」



レナ「もう私なんかすっかり鼻風邪引いちゃったわ」



真奈美「具合が悪いのかい?」



レナ「いやいや、あったかいものでも食べればすぐ抜けるわ。だからまぁ、熱くしてね」



真奈美「あいわかった」





レナ「どう?景気のほうは」



真奈美「最近不景気でてんでダメね。」



レナ「まぁ最近不景気でも、あっちの商売がダメだからこっちの商売だなんて商売変えするのが一番良くないことよ?ずっとやってればいつか芽の吹くときがやってくるんだからね。商いっていうぐらいだから飽きないでやってないと」



真奈美「お、上手いことを言うな。飽きないで商いとは」



レナ「いや、私はそう思うのよ」



レナ「あれ?あなたのところの行灯は珍しいわね。的に矢が当たってるわ」



真奈美「『当たり矢』っていうのよ」



レナ「当たり矢!縁起がいいわね。大当たりなんてことを言うからね。私あなたのところの行灯見たら絶対一つは食べていくわ。覚えておいて」



真奈美「それはありがとう。今後ともよろしくお願いする」



レナ「よろしくってほどのものでもないわ」



真奈美「はいお待ち遠様」



レナ「あれ?もう出来たの?これはいいわねちょっと世間話してる間にお待ち遠様ときたわ。こっちは江戸っ子なのよ気が短いの。なかなか出来ないで催促してやっと持ってくるなんて美味しいものもまずくなっちゃうわ。」

レナ「あれ、あなたのとこ割り箸使ってるの?綺麗でいいわね。この界隈よく夜鷹蕎麦が出るけど、割り箸を使ってるっていうのは綺麗でいいわ。」



レナ「うーん、いい丼ね。ものは器で食わせるっていうのぱよく言ったものよ。中身が少々まずくても器がいいと美味しく食べられるわ」



レナ「……」コクリ



レナ「はぁ……いいつゆ加減ね。ダシが効いてる。鰹節惜しまなかったのね。」



レナ「そうそう。蕎麦っていうのはこう細くなくっちゃいけないわ。最近の蕎麦っていうのは太くてうどんじゃないかと思うほどよ。あんなもの江戸っ子の食べるもんじゃないわ」



レナ「うーん……コシが効いてて美味しい蕎麦。蕎麦っていうのはコシが効いてないとね。あら、ちくわこんなに厚く切っていいの?大概紙みたいに薄く切ってるわよ?痛々しいわあんなもの。」

レナ「本物ね、これ。最近ではお麩で出来たちくわぶなんてものがあるけど、あんなの病人が食べるものよ。驚いたわね」



レナ「………」ス゛ルッス゛ルルルルルル



レナ「………」モク゛モク゛



レナ「………」コ゛クコ゛ク



レナ「はぁ……お蕎麦屋さんもう一杯と言いたいところだけど、そこでさっきまずい蕎麦食べちゃってね。一杯で勘弁してもらえないかしら」



真奈美「はいはい、ありがとう」



レナ「おいくら?」



真奈美「250円になるよ」



レナ「小銭細かいけどいいかしら?」



真奈美「うん、いいわよ」



レナ「はいちょっと待ってね一緒に数えてくれる?」

レナ「いちにぃさんしぃごぉろく……じゅうごじゅうろく、あれ?今何時?」



真奈美「17時ね」



レナ「じゅうはちじゅうく……はい!どうぞ」



真奈美「はい、ありがとう。またよろしく頼むわね」



レナ「はーい。ありがとう蕎麦屋さん」





P「……これを傍で見ていたのが、まぁ毎度お馴染み我々と同様とは言いたいがどうにも様が変わって、噺家から釣りでもとろうというような安直者ですな」

千枝「よく喋っていやにお蕎麦屋さんを持ち上げて、食い逃げか何かかと思って待ってたのに普通にお金払って帰っちゃいました。いろんなこと言ってましたね」



千枝「的に矢が当たって当たり矢で縁起がいいとか、割り箸が綺麗でものは器で食わせるとか、蕎麦が細くて江戸っ子で、ちくわが厚くていいとか。何を言ってるのか…それでいて謝って一杯で勘弁だとか…お客さんなんですから一杯食べようと半分食べようといいと思うのに……」



千枝「小銭が細かいって丁寧に勘定してお蕎麦屋さんも一緒になって数えてて、いちにぃさんしぃ……あんなところで今何時?って聞いて、蕎麦屋さん今何時?17時よって言ってじゅうはちじゅうく……あれ?」



千枝「じゅうごじゅうろく、今何時?17時でじゅうはちじゅうく……あ!あの人十円イカサマした!」



千枝「へぇぇ……面白い!悪い子になるために、ちょっとだけやってみよう。後で返しに行かないと」

P「こうして決心した少女は今日はもう遅いから明日にしようってことで、また次の朝暗い頃からお蕎麦屋さんはいないかお蕎麦屋さんはいないかと探して飛び出していったわけでございます」



千枝「待って待ってくださーい!お蕎麦屋さーん!待ってくださーい!」



千枝「もう……ちょっと待ってくださいよぉ。何が出来るんですか?花巻にひっぽこ?ひっぽこ熱くしてお願いします!いやー、どうも冷えますね!」



ありす「…はい。昨晩よりかはあったかいようですけど」



千枝「……そ、そうなんですか?いやぁ、私なんかすっかり鼻風邪引いちゃいましたよ。だからあの、ひっぽこ熱くしてお願いしますね」



ありす「はい、わかりました」



千枝「どうなんですか?景気のほうは!」



ありす「世間では不景気だと言ってますけど、私はお得意様がいるのでなんとかやっているような状態ですね」



千枝「あ、そ、そうなんですか。まぁ、あの、良いことですよね。良いことの後には必ず悪いことがあるって……あれ」



千枝(……変なこと言っちゃったな。謝ったほうがいいのかな……)

千枝「え、えっと……あなたの行灯は的に矢が当たってないですね。丸の中に屋って書いてあります」



ありす「はい。丸屋っていいます」



千枝「へー。丸屋……あ!いいですね丸屋!丸くまとまる丸く納まるなんて言いますから!うん!いいですよ丸屋!あなたの行灯見たら必ず食べていきますんで、よろしくお願いしますね」



ありす「はい。ありがとうございます。今後ともごひいきに」



千枝「いえいえ!ごひいきになんてほどのものじゃないですよ!」

千枝「うん…丸屋……丸屋…」



千枝「……まだ出来ないですか?」



ありす「あ、今お湯が冷めてたんであっため直してるとこですよ」



千枝「なーにこっちは江戸っ子なんですよ。催促されてやっと持ってくるなんて美味しいものもまずくなってあの……」



千枝「……まぁ、いいですよね。江戸っ子にも色々ありますしね。気が短いのもいれば長いのも……いますからね。はい。私は気が長いほうなんで……」



千枝「……まだ出来ないですか?」



ありす「はい、お待たせしました」



千枝「おお、きましたきました。いやー、最近のかいわい?では随分夜鷹蕎麦が出ますけど、あなたのとこだけですよ。割り箸を使ってるのは。綺麗で……」



千枝「……あ、これ割れてた」

千枝「……まぁこれもこれでいいですよね!こう、割ったときに、変な風にならなくていいですよね。前もって割ってあるっていうのは。」



千枝「……これ先濡れてますよね。誰か食べたんじゃないですか?え?そうじゃない?……まぁいいか」



千枝「で、でもアレですよね!中身が少々まずくても器が綺麗だとなんでも美味しく食べられるって言いますけどまぁあなたのところの器は……」



千枝「……まぁちょっと欠けてますけど……淵とか……これ危なくないですか?」



千枝「大丈夫ですよ。これ結局食べるんだから器とかなんでもいいですよね!」



千枝「これ、いいダシが出てますね!鰹節の……」



ありす「それ使ってるのは昆布ダシです」



千枝「……まぁそれは、まぁそうですよね。さっきあの、鰹節の匂い嗅いだんでその、まぁそういうことにしてください」

千枝「あ、あとアレですよね!蕎麦っていうのは細くなくちゃダメですよね!最近はうどんじゃないかと思うほど太いのがありますけど、あんなのは江戸っ子の食べるもんじゃ……」



千枝「……あの……うどんじゃないですか?これ……お蕎麦ですか。まぁこっちのほうが歯ごたえがありますしね」



千枝「それとえっと、コシ!蕎麦はコシが効いてないとダメですよね!それに比べたらあなたのところは大したものです!いただきまーす」



千枝「………」モク゛モク゛



千枝「………」



千枝「べとべとですねこれ」

千枝「まぁ、あの、こっちのほうが噛むのが少なくていいですよね!」



千枝「いやぁそれにしても最近はちくわが薄くて……これちくわ入ってます?入ってる?……あ、ここに貼り付いてた」



千枝「えっと……すごいですよね。こんなに薄く切るなんて。だけどこれ本物ですよ。大概のちくわぶはまがいもので、」ハ゜クッ



千枝「……うん……あの……麩ですね。これ。」



千枝「い、いやでもいいんですよ!丁度今お麩食べたかったんですよ!病人だから!」



千枝「いや、ほんとに美味しくて……」ス゛ルルルルルッ



千枝「あの……うん……」



千枝「…………」



千枝「あ!す、すいません、もう一杯と言いたいところなんですけど、傍でまずいの食べちゃって、口直しですよ。」



ありす「はい。ありがとうございます」



千枝「いくらですか?」



ありす「はい。250円です。」



千枝(よーし)



千枝「小銭細かいんですけど、いいですか数えてもらって」



ありす「いいですよ」



千枝「じゃあちょっと待っててくださいね!」



千枝「いちにぃさんしぃ…はち、きゅう、あれ、今何時ですか?」



ありす「6時です。」



千枝「なな、はち、きゅう……」



千枝(イカサマなんて、もうやめよう……)



P「余計払っちまったようで、ケチというのは良くないものであったというお馴染みの一席でした。お後がよろしいようで……」



おわり





22:30│モバマス 
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