2015年07月31日

藍子「茜色に染まる帰り道」


 まだ空が青い時間に、寄り道をしようと思った。





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 中間テストの最終日。残った教科を午前中に終え、お仕事があるのも明日から。

 今日は午後から暇になった。

 ここ最近は受験勉強にテスト勉強が重なって、そこに減らしてもらっているとはいえお仕事もあったから、とても忙しかった。

 今日くらい、ゆっくり羽を伸ばしたいところなんだけれど。



「なにをしよう……」



 こうして自由な時間ができても、特にやりたいこととなるとすぐには思いつかない。

 お散歩は気分転換によくしているし、どこかに行くとしても一人だと少し寂しい。

 大学受験が二ヶ月先に迫り、クラスで遊ぶこともほとんどなくなってしまった。



「ずっとこうしてても仕方ないんだけど」



 荷物を整理する手を止め、誰もいない教室で自分の席に突っ伏して呟く。

 一人だけ後回しになっていた進路の面談を受けていたら、教室には誰もいなくなっていた。

 思っていたよりも長くはかからなかったけど、お昼ご飯には遅い時間になっている。



「どこに行こうかなぁ」



 今からご飯を食べつつ時間を潰せる場所となると……あそこ、かな。





……………………



…………



……





 やってきたのは事務所。

 途中でお昼ご飯を買って、私たちの使っているフロアで食べている。

 ここのパンは昼過ぎには売り切れることもあるけれど、今日は好きなものが少し残っていて、買ってからここに来るまで早く食べてしまいたくてしかたなかった。

 事務所は平日の昼間となると人がほとんど居ない。

 アイドルの大半が学生だから、この時間は学校かお仕事に行っている。



「藍子、今日も来てたのか?」



「あっ、プロデューサーさん」



 ソファーの置いてあるスペースの衝立の横にプロデューサーさんが立っていた。



「さっきまで居ませんでしたよね?」



「総務の方に行ってたんだよ、ほらこれ」



 そう言って手に持った書類を見せてくる。





「で、今日は休みのはずだけど。どうかしたのか?」



「特に意味はないんですけど……強いて言えばやることが思いつかなかったので」



「若いうちからそれでどうするんだ」



「たまにはこういう日もあるんですっ。それを言うなら、プロデューサーさんだってまだ若いじゃないですか」



「人間って高校過ぎたら老いてくだけだ。若いっていいよな」



「それをもうすぐ卒業する私に言いますか?」



「あー、藍子は大丈夫じゃないか?」



「なんだか適当ですよ……?」



 いつも通りのやり取りに自然と笑みがこぼれた。





「ところで、それひとつくれたりは?」



「しません。楽しみにしてたんですから」



「はいはい、食いすぎるなよ。今日はこの後どうする?」



「先のお仕事の見ておきます。最近試験ばっかりでしたから」



「じゃあそれ食べ終わるまでに準備しておくよ。俺はこのフロアにいるし、ゆっくりしていってくれ」



「よろしくお願いします」



 お話が終わると、食事を再開した。

 色気より食い気とか聞こえたけど、もう言うだけ無駄だから反応はしない。

 ……今日は選べなかったから五つ買ってきただけだから。





……………………



…………



……





 時間が過ぎて、もうすぐ夕方に差しかかる頃。

 あれからほとんど人が来ることもなく、たまにお互いにお茶を淹れたりお菓子を出したりしているうちに随分時間が経った。

 私のいるところは仕切られているし背を向けているから見えないけれど、キーボードを叩く音が聞こえるからまだ仕事が残っているんだろう。



「あら? プロデューサーさん?」



「ちひろさん、どうかしたんですか?」



 部屋にちひろさんが入ってきた。



「今はお一人ですか?」



「あー、いえ、あとは……」



「私もいますよ」



 衝立から顔だけ出してちひろさんに答える。

 珍しくちひろさんは手ぶらだった。





「藍子ちゃんもでしたか。それなら話が早いですね」



「どうかしましたか? なにか用事でも?」



「ええ、ありますよ。担当アイドルがお休みだからって働いてばかりいる人を叩き出すお仕事が」



なんとなく、わかってしまった。



「いや、今回は無茶してませんから。そんなに先のことまでやってないじゃないですか」



「たしかに確定であろう案件しか回ってきませんけどね、それでも多いんですよ。私が帰りたいのでさっさと出てってください」



「いろいろと酷くないですか!?」



 どうやらいつも通りプロデューサーさんがやりすぎたようだ。

 こういうときは、たいてい私の出番だ。

 読んでいた資料を閉じて、鞄にしまう。



「藍子ちゃん」



「はい」



「この人のことお願いします」



「任されましたっ」



 これもいつものことだから慣れたものだ。

 アイドルがプロデューサーさんのお世話をしてるのは置いておくとして。





「わかりましたよ。じゃあキリがいいところまでやったら帰りますから」



「そうですね……CGプロダクションの募集要項に勤務時間各自の裁量制ってあるの知ってますか?」



「そんなのありましたね。ええと……」



「ある程度の結果さえ出してくれればうちは勤務時間に煩くはないんですよ。というわけで、強制シャットダウン」



 ちひろさんが手元の端末でパソコンの電源を切ってしまった。



「あ"っ! ちょ、まだ途中でしたって」



「はいはい、バックアップはこっちで取ってありますから。帰った帰った」



 ちひろさんがひらひらと手を振りながら笑顔で返す。

 プロデューサーさんも諦めたようで、荷物を纏め始めた。

 私も鞄を持ってこようかな。





「それじゃあ藍子ちゃんのこと、しっかり送ってあげてくださいね」



「と言われても、俺は今日歩きなんですけど?」



「まさか女の子をひとりで帰すつもりですか? どうせ三駅違いなんですからいいじゃないですか」



「……わかりました。あまり人に見られるようなことはするものじゃないんですけど」



「それならもう各種記事で哀れな苦労人のお兄さんポジションになってますから、誰に見られても問題ないですよ」



「はぁ……まったく……」



「諦めて早くしてくださいね」



 またちひろさんに負けてる。

 たぶんこの先も勝てないんじゃないかなぁ。

 記事のことは、まぁ……他のみんなも色々と言っていたから私だけのせいじゃないってことで。



「お待たせしましたっ」



 一応、帰る準備をするときに帽子を被って眼鏡かけている。

 服は制服のままだけれど、これでけっこう誤魔化せる。



「藍子ちゃんも来ましたし、それではお疲れ様でした♪」



「「お疲れ様でした」」



 手を振るちひろさんに見送られて事務所を出る。

 ドアが閉まる瞬間まで、ちひろさんはとても清々しい表情をしていた。





……………………



…………



……





 あれから電車に乗って私の降りる駅まで来た。

 ここまでは夕方ということもあって、満員ではないけれど座席に座ることはできなかった。



「プロデューサーさんもここで降りるんですか?」



 別れの挨拶をした後。

 電車を降りて後ろの気配に振り返ると、プロデューサーさんも電車を降りていた。



「ここまで来たら最後まで送ってくに決まってるだろ」



「そこまで気を使ってもらわなくてもよかったんですけど……プロデューサーさんはお家に帰ってゆっくりしてください」



「いや、これもいい息抜きになるから大丈夫。藍子は気にするな」



「それなら、いいんですけど」



 本当に気にしていないみたい。

 最近は事務所以外でこうして過ごすこともなかったから、少し懐かしい。





 改札を抜けると、人波にさらわれてはぐれてしまった。

 少し距離を離されて、小走りで追いつく。

 プロデューサーさんは私が居ないことに気づいたようで、駅の外で待っていてくれた。



「最近は藍子とゆっくり過ごすこともなかったよな。なんか久しぶりな感じがする」



「やっぱりですか? 私もさっきそう思ってました」



「散歩するのはけっこう楽しいよ。最近全然機会もなかったし」



 お仕事を減らして志望校も確実なところにしてもやることは多い。

 事務所ではいつも一緒だけど、プライベートではもう四ヶ月はこんな時間が取れていない。



「……それじゃあ、少し私に付き合ってくれますか?」



「ん? ああ、いいぞ」



 私のわがままになってしまうけど。

 どうせなら、今日は付き合ってもらおう。

 久しぶりにちょっとしたご褒美があってもいい……はず。



「それで、どこに行くんだ?」



「それは……」



 行き先は決めてないけど。

 今日の気分は最初から自由気ままに。



「ちょっと、寄り道してみようかなって」





 ひとまず、駅前の大きな通りに沿って歩く。

 私の家はこの通りの先の方だから、方向は間違ってないんだけど。



「ええと、どこに行きましょう……?」



「なんとなくそんな気はしてたけど。やっぱりなんにも考えてなかったな」



「なんにも考えてないは言い過ぎですっ。今のはそうでしたけど」



「昼に事務所来たときから無計画だったんじゃないのか?」



「……いいじゃないですか、もう」



 こういうときだけ無駄に察しがいい。



「別に全然考えてないわけじゃないですよ?」



「いや、適当に歩くのでもいいんだが……」



「……あっ、ほら、あそこの公園に寄っていきましょうよ」



「その間が気になるけど。とりあえず向かうか?」



「そこは着いてからのお楽しみです! ……本当ですよ?」



「わかったわかった。じゃあまったり歩こうか」



 なんとなく信じてくれてないような。

 今日は確かに行き当たりばったりだったから仕方ないんだけど……





……………………



…………



……





 公園に着いて、中に入る。

 まだ下校の時間には少し早く、人通りは疎らだった。



「ほら、あれですよ。ここに来た理由」



 公園の中央にはクレープの移動販売車があった。

 ここの辺りは住宅街で学校も多いから定期的に来ている。



「なるほど……寒くないか?」



「大丈夫ですよ?」



「ああ、そう……ところで、パン何個食べた?」



「……そ、そのための散歩なんじゃないかなぁって」



 運動で消費してるから普通の女子高生よりはいろいろと食べてもいいはず。

 むしろ食べないとお腹が空いて大変だ。



「いいじゃないですか。行きますよ?」



 背中を押して入り口から動かす。

 さて、なにを食べようかな?





 ちょうどお客さんは誰もいなくて、すぐに注文することができた。



「もう決まりましたか?」



「俺は決めたけど。藍子は?」



「私も決めましたよ」



「了解。すみません、抹茶ひとつお願いします」



「私はチョコで」



 何度も来ていると、新作でもない限りは頼むものがだいたい決まってしまう。

 今日は特に新しいものはなかったから、いつも頼むチョコか抹茶の中から。



「九六○円になります」



「千円で」



 少しメニューを眺めている間に、プロデューサーさんが支払いをしてしまっていた。



「あっ、私の分は出しますよ」



「気にすんな。たまにいいだろ?」



「はい。ありがとうございます」



 確かに奢ってもらうのもそうそうないけれど。



「ここのは食べたことなかったな」



「来てるときに公園に寄りませんでしたからね。おいしいですよ?」



「それは楽しみだ」



 ……プロデューサーさんの注文した方が来るの先かな?





 それほど待つこともなく私の分も受け取って、すぐ近くのベンチに座った。

 鞄を脇に置いて、スプーンでアイスを少し掬う。



「お、これ美味いな。そっちは……言うまでもないか」



 プロデューサーさんの口にも合ったみたい。

 おいしいのはわかるんだけど……



「そんなに一口で食べたらすぐになくなりますよ?」



 一口でクレープを包む紙からはみ出したところを半分食べていた。



「ちまちま食べるものでもないだろ、クレープって。早くしないと溶けるし」



「それはそうですけど……」



 上の方を小さくかじる。

 うん、いろんな種類のチョコが使われていて、甘くておいしい。



「藍子だっていつも一気に食べるだろ?大差ないと思うけど」



「私は一応味わってから食べてます!……わかりましたよ、もう」



 次は包装からクレープを押し出して、大きくかじる。

 確かにおしとやかに少しずつ食べようとしてもだいたい失敗するけど、たまにはうまくいくことだってあるんだから。



「……早く食べないと溶けちゃいますからねっ」



 笑いを噛み殺しているプロデューサーさんを横目で睨んで、また一口。





「それもそうだ。俺の方はもう半分もないか……」



「プロデューサーさんが早いだけです」



 私はまだ四分の三は残ってるから、きっとそうに違いない。



「うまいからしょうがない。半分から先ってアイスがつまってるし、紙から出さないといけないし、食いにくいよな」



「それは確かに……ってこういうときこそスプーンを使えばいいんじゃ……」



「このたっぷりのアイスと生地を一緒に食べるのがいいんじゃないか」



 そうこうしているうちに、プロデューサーさんの方はもう二口くらいしか残っていない。

 もう私も一気に食べてしまおうかな。



「食べにくさよりおいしさと面倒ってことが先に来るんですよね、プロデューサーさんは」



「ん、その通り。ここのはまた食べに来たいな」



「気に入りましたか? 冬の間は来ませんから、また来年の春に、ですね」



「半年は先か……まあそのくらいの方が楽しみも増えるよな」



 受験が終わったら今よりは時間ができるはず。

 そのときはまた私から誘ってみようかな。



「さてと。ゴミを捨ててくるからそれ渡して。もう少しここにいるつもりだろ? 藍子は座って待ってな」



「あ、はい。ありがとうございます」





 プロデューサーさんが戻ってくるまで、公園を眺めて過ごす。

 少し前から吹き始めた風が枝を揺らしている。

 空は遠くの方がオレンジに染まっていた。

 秋は夕暮れから冷え込むのが早い。

 アイスを食べたこともあって少し寒い。



「ほら、それ着とけ。寒くなってきただろ?」



 後ろからコートがかけられた。

 プロデューサーさんがいつも使っている、カーキ色の。



「プロデューサーさんは大丈夫ですか?」



「まだ秋だからこのくらいは。冬になったらさすがに貸さないぞ」



「ふふっ、ありがとうございます。家に着くまで借りますね」



 袖に腕を通して、前のボタンを留める。

 袖も丈もずいぶん余って、私にはぶかぶかだ。



「これを着たのは初めてですけど、こんなに大きかったんですね」



 立ち上がって、ベンチの前でくるくる回ってみる。

 手は完全に袖に隠れてしまうし、裾は脛の辺りにある。





「一応大切に使えよ?」



「わかってます。ずいぶん古そうですけど、すっごく思い出がある品なんですか?」



 布はまだまだしっかりしてるけど、色は薄くなっている。



「それ、元は軍用の防寒装備なんだよ。プロデューサーになるって決まった日にミリタリーショップに寄ったらそこのオヤジに安くしてもらってな」



「なるほど、それでずっと使ってたんですね」



「まあこれはプロデューサーをやってる間は着続けようと思ってるよ。シャツを買うくらいの値段でくれたから頭が上がらないし」



「そこって、今でもよく行くんですか?」



「そこそこだな。行くたびに新しい服押し付けられそうになったり店内に増えていくアイドルグッズに苦笑いしたりしてるけど」



 プロデューサーさんの方もいろいろなお店を知っている。

 中には案内してもらったところもあるんだけど、私が興味を持っていなかったこともあってミリタリーショップには行ったことがなかった。

 たぶん所狭しとグッズが置いてあるんだろうな……って、



「そんなところにアイドルグッズって、もしかしてプロデューサーさんが……?」



「いや、あの人は元からアイドルのファンだよ。最初のときも天海春香みたいなアイドルをプロデュースしろ、でなければ割引分も後で払えって言いながらそれを渡してきたくらいだし」



「……そうだったんですか」



「あんなのでもうちのお得意様だ。お前達のファンでもあるんだからな?」



「本当ですかっ? ってことは、割引分は……」



「当然そのまま頂いたとも。なんならまた今度行ってみるか?」



「落ち着いたらお願いします」



「喜ぶだろうなあ。もしかしたら藍子もなにか押し付けられるかもしれないな」



 なんだか大変なところみたい……

 そのときはプロデューサーさんがなんとかしてくださいね?





 ふと空を見ると、ずいぶん日が落ちていた。

 太陽がずいぶんオレンジに染まっていた。

 ポケットからカメラを取り出して、一枚だけ空を写真に撮る。



「プロデューサーさん、そろそろ行きましょうか」



 まだ日没には時間があるけど、私の家に着く頃には真っ暗になっているはずだ。

 もうそろそろ公園を出ないと遅くなってしまう。



「そうだな、そろそろ行くか」



 プロデューサーさんもベンチから立ち上がった。



「あっ、その前に……」



「ん? どうかしたのか?」



 プロデューサーさんの腕を取って、そのまま反対側を向く。



「はい、撮りますよっ?」



 ギリギリまで背伸びをして、夕日を背に一枚写真を撮った。



「おいおい、無理してまで撮らなくてもよかったのに」



「こうでもしないといつも逃げるじゃないですか。久々のお出かけの記念ですから、諦めてください」



 そのせいでプロデューサーさんの写真はあまり多くない。

 いつも気づいたら逃げ出しているから、たまにはサービスしてもらおう。



「今度こそ、行きましょうか」



「了解。遅くなる前に寄り道しないで帰るぞ」



 ……今日はもうしませんっ。





……………………



…………



……





 公園を出て、近くの川の堤防の上をプロデューサーさんから少し遅れて歩く。

 もう辺りは一面夕焼けで染まっていた。

 夕暮れは物悲しいけれど、そこも含めてこの景色を眺めながら歩くのが好きだ。



「今日はやけに行き当たりばったりだったな?」



「たまにはそんな気分の日もあるんです。疲れましたか?」



「馬鹿言えまだ二十前半だ。そこまで衰えてないわ」



 私からしたら歳上だけど、まだまだ若いんだったね。



「はい、まだギリギリ前半ですね……でも、私もそこまで若くはないですし……」



 なんとなく、夕日を見ながら呟くようになった。



「おいおい、現役JKがなにを言ってるんだ。菜々さんに殺されても……ってわけでもないみたいだな」



 歩く速度は変わらないまま、プロデューサーさんが隣に並ぶ。



「それで?どうした?」



 ただ一言訊いた後は、黙って足を進める。



「…………今は充実してますし、大学も行きたいところに行けます。でも……将来はどうなんだろうなって。高校の三年間アイドルをやって、また大学の四年間猶予がありますけど……いつまでも続けられるってものでもありませんから。どこかで別のお仕事をしなきゃいけないときは必ず来ますし、卒業するときに就職するのかな、とか──」



「要するに、先が不安になったと」



 プロデューサーさんの言葉に頷く。

 もうそろそろ、どこかで考えておかなければならないことだと思う。





「なるほどね……とりあえず、そうやっていろいろ考えるのはすごくいいことだ。その上で、あんまり考えすぎるな」



「そう言われても……少しそっちの方に考えが行ってしまうってだけで……」



「気持ちはわかるけど。大学出てプロデューサーなんかやってる先輩から言わせてもらうと、意外となんとかなる。一年くれれば引退にも支障はないし、どうしたいかは四年が始まるまでに決めればいい」



「……そんなに適当でいいんですか?」



「いいんだよ。それに、最悪うちで働けばいいし」



 難しく考えすぎってことかな。

 先のことはわからないから……わかる頃に悩めばいい、みたい。



「うちでって、事務所の方ですか?それとも……実家?」



「それこそそのとき決めろ。もういいか?」



「はい。お騒がせしました」



 そろそろ黄昏時。

 もうすぐここも真っ暗になる。



「その心配もまずは大学に合格しないと始まらないだろ。しっかり勉強しろ、受験生」



「はーい」



 私のお家まではまだもう少し。

 こうして歩くのも、これはこれで楽しい。





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