2015年08月05日

モバP「頭をなでるなだって?」


ありす「はい。前々から思っていたんですが、いい加減止めてもらえませんか」



モバP「いきなりそんなことを言い出して、どうしたんだありす」ナデナデ





ありす「言ったそばから…子供扱いをされてもうれしくないし、こういったことは対等に見られていないようで嫌なんです」



モバP「子供扱いか……いや、俺は大人でも頭くらい撫でるぞ」ナデナデ



ありす「うそです。大人のアイドルにこんな風に接しているところなんて見たことありません」



モバP「バレたか。まぁさすがに大人の女性の頭を気軽には撫でられないしなぁ」ナデナデ



ありす「それです。大人の方々にはきちんと遠慮しているのに、私達には特に了承も得ずそうやってなで回すのはおかしいです!」



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モバP「いや、でもジュニア組はみんな喜んでくれてるし…こうやって抗議されたのはありすが初めてだぞ」ナデナデ



ありす「他の方がどう思うかは自由です。でも私に対しての行動は今後改めてください」



モバP「うーん…」ナデナデ





モバP「……そうだな。今まですまなかった」スッ



ありす「あ……」



モバP「特にありすを子供扱いしていた自覚はなかったんだが……思えば、頭を撫でる人と撫でない人がいるってのはおかしなもんだよな。同じアイドルであることに何ら変わりはないんだから、接し方だって平等にしなきゃいけないのかもしれない」

モバP「良い機会だ。ありすだけじゃなくて、今後はもうちょっとアイドル達への距離感について考えてみるよ」



ありす「……はい。いい心がけだと思います」





ありす「(いざ、撫でられなくなると、なんだか……)」













ありす「(それ以降、プロデューサーさんは私の頭を撫でることはなくなりました)」



ありす「(子供扱いされずに敬意を払ってくれているのだと思えば嬉しいですが、普段通り嬉しそうに頭を撫でられて嬉しそうな同年代の人たちを見ると、少し思うところもあります)」





ありす「(けれど今さら行った言葉を撤回するのは……いいえ、これも大人としての自立の第一歩ですから、必要な過程のはずです)」



ありす「(現に、プロデューサーさんが撫でるのは未成年の人たちばかりですし……)」チラッ





モバP「ん? どうした、ありす?」



ありす「いえ。遅くなってきたので、今日はそろそろ失礼しようと思います」





モバP「あぁ、そうか……送ってやりたいけど俺はまだ仕事が残ってるからなぁ……」



ありす「大丈夫です、お仕事の邪魔がしたいわけではないので。それにまだ夕方ですから一人でも平気ですよ」



モバP「そうか?うーん、じゃあ寄り道しないで気を付けて帰るんだぞ?」



ありす「分かってます。それではお疲れさまでした」ペコッ





ありす「…………」スタスタ









ありす「…………」ピタッ







モバP「……うーん」



モバP「(なんかありすがよそよそしくなったような気がする)」



モバP「(やっぱりあれ以降だよなぁ。時期的にも頭なでるなって注意されてからだし)」





モバP「そんなに嫌がられてたなんて思いもしなかったな……」



モバP「(娘を可愛がるような気持ちでついつい無意識に撫でてたが、気を付けないと)」







???「」ガチャッ



モバP「っ!」ピクッ





モバP「あ、ありす?どうした、何か忘れ物でもーーって、礼さん?」





礼「あら。そんなに意外そうな顔をされてもお姉さん困っちゃうわ……プロデューサーくん、誰だと思ったの?」



モバP「いや、今さっきありすが出ていったばかりなので、てっきり忘れ物でも取りに来たのかと……」



礼「ありすちゃん? ……特にすれ違わなかったけど、タイミングが悪かったのかしら」





礼「まぁ、いいわ。とにかくお疲れ様、プロデューサーくん」



モバP「はい、お疲れさまです。礼さんは……確か今日は○○テレビでのトーク番組の収録でしたよね。どうでしたか?」



礼「上々よ。今回の番組は出演者が多いから、与えられる尺も短いし…その中でちゃんと目立てるか不安だったけど、なかなかの出来だったと思うわ」





礼「こうやって結果を聞くだけじゃなくてお姉さんのこと、その場でちゃんと見ていて欲しかったって思うくらいには、ね」





モバP「すみません、少し前までありすのPRイベントの仕事に同行していて……礼さんが活躍するところ、俺も見たかったな。……あ、何か困ったこととかはありませんでした?」



礼「そうねぇ……隣にいたグラビアアイドルより男性の視線を集めちゃったのは、困ったことになるのかしら?」クスッ



モバP「それは……さすがですね。まぁ、礼さんくらいスタイル良くて色気があったら当然か。その子も相手が悪かったな……」



礼「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」





礼「でも、肝心の一番見てほしい人が側にいないんじゃあ……ね」



モバP「え? 礼さん?」





礼「ーープロデューサーくん。私ががんばるのは、あなたのためなんだから」



礼「……だからあまりお姉さんのこと、ほっといたらダメよ……?」



モバP「れ、礼さん……」







『うそです。大人のアイドルにこんな風に接しているところなんて、見たことありません』

『バレたか。まぁさすがに大人組の頭を気軽には撫でられないしなぁ』ナデナデ

『それです。大人の方々にはきちんと遠慮しているのに、私達には特に了承も得ずそうやってなで回すのはおかしいです!』







モバP「(……遠慮、かぁ)」



モバP「………」スッ



モバP「……えぇ。次のお仕事は必ず付いていきますから。今日は本当に、お疲れさまでした。一人でよく頑張りましたね」ナデナデ





礼「っ!?」ピクッ







礼「あ……あらあら、プロデューサーくんったら…女の髪をそんな気軽に触るなんて、いけない人」



モバP「すみませんつい……どうしても撫でたくなってしまって。嫌なら、言ってくださいね。すぐ離れますから」ナデナデ



礼「バカね、嫌なわけないじゃない。どういう風の吹き回しか気になるところだけど…まぁ良いわ。うふふ」





礼「私のことを放っておくつれないプロデューサーくんが回答に困りそうな、なぞなぞをだそうと思ってたけど……嬉しいことしてくれたから、そっちはまた今度ね。……今は、こうやって何気ない時間をプロデューサーくんと楽しみたいの」



モバP「礼さんのなぞなぞはドキドキしちゃうからなぁ……お手柔らかにお願いしますね」ナデナデ









ありす「」



ありす「プロデューサーさん!」



モバP「あぁ、おはようありす。何かあったのか?」



モバP「(また何か怒らせるようなことでもしちまったかな?)」





ありす「何かあったじゃありません。プロデューサーさん、なんなんですか、昨日の篠原さんとのやり取りは!」



モバP「え?あ、昨日の、見てたのか……というかありす、お前とっくに帰ってたんじゃ」



ありす「そんなことはどうでもいいんです!」



モバP「お、おぅ」



モバP「(あれ、どうでもいい……か?)」





ありす「ご自分で言いましたよね?アイドル達への距離感について考えてみるって。舌の根も乾かないうちから何してるんですか!」



モバP「(難しい言葉知ってるなぁ、ありす)」



モバP「いや、実際考えてみたんだよ」



モバP「大人のアイドル達とジュニアアイドル達とで俺の接し方が違うのは確かにありすの言う通り、よくないことだった」







モバP「だからな、これからは大人のアイドルに対しても頭を撫でたり、そういったスキンシップを試みてみようと思うんだ!」





ありす「……はい?」



モバP「あ、もちろんありすみたいに嫌がる子には無理強いしないように気を付けるから、安心してくれ!」



ありす「 」





モバP「よくよく考えれば、大人だからってことで相手に対して遠慮しちゃってる部分が確かにあったんだよな」



モバP「一歩踏み出して接してみたけど、礼さんも思いの外喜んでくれてたみたいだし、良かったよ。この調子で他のアイドル達ともコミュニケーションをとっていきたいな」



モバP「ーーこれもありすが自分の意見をきちんと伝えてくれたおかげだ、ありがとうな」ニコッ





ありす「…………………いえ。どういたしまして」





ありす「(どうしてこうなった)」







ハイ、カットォ!

オツカレサマデース!



奏「はーい、お疲れさまでした」





coP「お疲れ様、奏」



奏「あ、プロデューサーさん。お疲れさま」



奏「どうだった? 今日の私。自分では、けっこう良い線いってると思うんだけど」



モバP「そうだな、やっぱりこういう幻想的な雰囲気が奏にはよく似合うなぁ」



奏「そうね……普段のお仕事できる衣装なんかも大人っぽいものが多いし、最初はてっきりプロデューサーさんの好みなんだと思ってたけど。……ちゃんと私に似合うもの、選んでくれてたのよね」



モバP「当たり前だろ、大事なアイドルなんだから、真剣にプロデュース方針だって考えるさ」



モバP「それにしても……高校生のうちから化粧品のCM撮影なんて、そうそうあることじゃないけど……うん、大人っぽさと少女らしいあどけなさが入り交じってすごく魅力的だったぞ」



奏「……そう? あんまりストレートに誉められると……ちょっと照れちゃうけど」



奏「でも、うん………プロデューサーさんがそこまで言ってくれるなら、やった甲斐があったかな」



モバP「ん? ははっ、珍しいな、奏が照れるなんて。いつもなら俺の方がからかわれて困ったことになるのに」





奏「……もう」ハァ



奏「ーー良いわ。プロデューサーがそういう人だっていうのは、とっくに分かってたことだしね」スッ



モバP「奏……?ちょ、近っ」



奏「近くていいの。……それで? プロデューサーさん」







奏「お互いの吐息が、感じられて。唇が……重なりそうなほど近くにいる、頑張ったあなたのアイドルに……プロデューサーさんはどんなごほうびをくれるのかな、ってね。ちょっとは期待して、良いのかな」



モバP「か、なで……」



奏「ふふ、狼狽えてる。……私は、いつでもOKだよ?」





奏「ほら……甘くて切ないごほうび、ちょうだい?…………ふふっ。なーんて、」





モバP「……」ガシッ



奏「え、肩……プ、プロデューサー?」





モバP「……そうだな。ちゃんとごほうび、あげないとな」ズイッ



奏「え、っと。ち、近い、よ?これじゃ、本当にっ……」



モバP「近くていいんだよ。お前もさっき言ってただろ……?」



奏「そ、そうだけどっ。確かに私、ちょっと煽っちゃった、けど」



モバP「……奏」



奏「あっ……」ゾクッ





奏「……っ」ギュッ









モバP「……よくできました」ナデナデ



奏「…………ふぇ?」











奏「…………つまり、私の方がからかわれちゃってたって訳ね」ムスッ



モバP「というか、俺としてはもう少し危機感を持って欲しいというかだな。そういう思わせ振りな小悪魔然としたところも奏の魅力のひとつではあるんだが……お前は女の子なんだから。相手が本気になったら、さっきみたいに怖くてろくに抵抗出来なくなるんだから、もっと気を付けないと」ナデナデ





奏「それは、少しは反省するけど……別に怖くて抵抗できなかったわけじゃ」



モバP「何言ってるんだ、目なんてギュッって瞑って震えてただろう」ナデナデ



奏「……それはもういいから」フイッ





奏「ーーでも、そうね。あんまりあなたの前で背伸びするのは、控えた方が良いのかも。……今は、こうやってなでなでされるだけで満足してあげる」





奏「でも、いつかは……ね」ボソッ







ありす「」









ありす「何なんですか?本当に何なんですか?」



モバP「いやいや、ありすこそどうしたんだ開口一番」



ありす「奏さんのことです!」



モバP「え、奏? 奏がどうしたっていうんだよ」



ありす「撫でたでしょう!色々なフェイント付きで!」



モバP「え、ああ、撫でたけど……なぁありす、そういう情報ってどうやって仕入れてくるの?あのとき楽屋には他に誰もいなかったはずなんだが」



ありす「そんなことはどうでもいいんです!」



モバP「あれー、どうでもいいかなぁ?いややっぱりよくないと思うなぁ、俺」





ありす「……そんなことより問題なのはプロデューサーさんのスキンシップです!」



モバP「(あれ、強引に話逸らされた……?)」





モバP「いや、うん。今回はちょっと脅すような真似しちゃったから、奏には怖い思いさせちゃった自覚はあるんだけど……」



ありす「(怖い思い? 羨ましいんですけど? )」





モバP「奏は元々大人っぽいけど……それとは別に、本来の自分より一層背伸びしちゃうところがあるからさ。そのくせあんまり異性に免疫ないし……そんな状態で男をからかう危険性ってのを分かって欲しかったんだよ」



モバP「でも、それで信頼関係が崩れたら元も子もないからな。ちょっと軽率だったよ。幸い、奏は特に気にしてないみたいだし、頭撫でられても平気そうだったけど」



ありす「(当たり前でしょう。奏さんすごく嬉しそうでしたよ)」



モバP「まぁ、今後背伸びは控えるって言ってくれたし、プロデューサーの俺としては結果オーライかな」



ありす「(プロデューサーさんの前でだけ、ですけどね)」







ありす「はぁ……」









ありす「(それ以降もプロデューサーさんのスキンシップはとどまるところを知らず)」



ありす「(表だって目立つ行動を取っているわけではないようですが、少しずつ着実にアイドルの皆さんの頭をなで回っているみたいです)」





ありす「(……まぁ、もっとも)」







凛「プロデューサー、最近皆の頭を撫で回ってるって聞いたんだけど」



モバP「え? あぁ、撫で回ってるってほどじゃないが……まぁ間違ってはないかな」



凛「ふーん。……でもそういうの、控えた方がいいんじゃない? こどもならまだしも、女の人にそうやって気軽に触るのって良くないと思うけど」



モバP「ああ、それに関しては大丈夫だ。ちゃんと嫌がる人にはしないようにしてるから」





凛「そうなんだ。……ねぇ、今まで撫でるのって、子供のアイドルだけだったよね? 今は私たち高校生とかも撫でたりしてるとか?」



モバP「ん?別にそういった区切りはしてないな。俺が無意識に撫でたりするか、撫でてほしいって言われたときに撫でるかくらいのもんだし」



凛「へぇ……。 ーーねぇ、プロデューサー」





凛「……別に、私だって撫でられるの、嫌じゃないけど」



モバP「……」





モバP「分かってるよ、凛」



凛「プロデューサー……」







モバP「嫌じゃなくたって、特別撫でられたいとかいうわけでもないんだろ? ありすにもこっぴどく注意されたし、俺も無理強いしたいわけじゃない。 だから、して欲しくもないのに俺に気を使ってそんなこと言わなくてもいいんだ」



凛「…………はっ?」



モバP「最近はセクハラとかパワハラとか厳しいからなぁ。 俺もそういったことには一層気を付けないと!だから安心してくれ、凛!」



凛「…………えっ」







ありす「(……一部、私のように空回りしているアイドルもいるようですが)」





ありす「(そう、空回り。意地を張って気づかないふりをしてきましたが、自分でも今の現状はおかしいくらい滑稽に思えます)」





ありす「(そもそも、私が頭をなでないで欲しいと言ったのは……子供扱いされないように、プロデューサーさんに少しでも大人びて見えるように、態度からでも認識を改めてもらいたかったからで)」



ありす「(その目的を考慮した上で……今現在、年齢に関係なく無差別にアイドルの頭をなで回し回っているプロデューサーさんの行動を考えれば、私のやったことは……)」







ありす「(ーーものすごく無意味なのでは?)」



ありす「(いえ、無意味どころか一人負けに近しいのではないでしょうか……?)」







ありす「(やはりこの前の発言は速やかに撤回すべきです……!……ですが、いったいどんな風に言えば良いのか)」



ありす「(オーソドックスに、『この前言ったことは無かったことにしてください』? いえ、鈍感なプロデューサーさんのことですからこんな抽象的な物言いでは、何のことだととぼけられてしまう可能性がありますね)」



ありす「(ではやはり、ストレートに『頭をなでてください』とお願いした方が……? でもこれだと……どういう心境の変化なんだと問い詰められて、プロデューサーさんに言わなくて良いことまでしゃべってしまいそうです……)」





ありす「どうしよう……プロデューサーさん……」ショボーン







晴「…………」









晴「なぁ、プロデューサー」



モバP「ん? どうした、晴? 今日の衣装の変更は受け付けないぞ」



晴「マジかよ……いや、そうじゃなくてさ。いや、それも俺にとっては大事なことだけど」



モバP「良いじゃないか。なんかこう、ドレスのおかげで大人っぽい感じでさ。フレッシュはるちんならぬセクシーはるちんだな!」



晴「それが問題なんだろーが! 最近はカッコいい衣装の仕事ばっかりだったから油断してたけど……大体なんで俺が765プロのアイドルの衣装なんて着なきゃなんねーんだよ!」



モバP「そういう趣旨の番組だからなぁ。 出演者のステージ衣装を互いにチェンジし合って新しい魅力を発掘するって、けっこう人気コーナーなんだぞ?」



晴「だからって何で俺が……」



モバP「我慢しろ。向こうだってお前の衣装を着るんだぞ?」





晴「別にオレの衣装は普通だろ? まぁかわいいとか、そういう感じじゃないけどさ。どっちかっていうとカッコいい感じだし」



モバP「甘いな。 いいか晴。お前の服だぞ? ピッチピチな小学生、フレッシュはるちんのだぞ?」



晴「うっとうしいな……だからなんなんだよ」







モバP「つまり……向こうもある意味ピッチピチになるってことだ」



晴「……うわぁ。 オレの服伸びるんじゃねぇの?」





モバP「心配するな。あくまで晴と比べたら身長が高いだけでスタイルは細いし、公式プロフィールも晴とほとんど一緒なんだぞ? 丈が足りないくらいであとは普通に着こなしてくれるさ。……逆にお前の方が勝ってる所があるくらいだしな」ボソッ



晴「ん? 何か言ったか?」



モバP「いや、何も言ってない。 俺は何も言ってないぞ」





モバP「それに、もしそうなっても俺が全力で専門の方に修復を頼むし、これからもっと頑張って、晴にもっと色々な新しい衣装を用意できるようにするだけのことだ」ナデナデ



晴「……ったく、調子良いこと言いやがって。今度はカッコいい衣装持ってこいよな! 絶対だぞ!」



モバP「分かった分かった」ナデナデ



晴「もういいから、その手止めろっ、て…………そうだ。 すっかり忘れてた……なぁプロデューサー」



モバP「ん? どうした?」ナデナデ



晴「それ。 ありすにだけやらなくなったよな。 前はオレたちみたいなの全員にうざいくらいやってたのに」



モバP「え? あ、あぁ……これか。 少し前にありすにこっぴどく叱られてな、いい加減撫でるのを止めてくれって」ナデナデ



晴「ふーん?……ありすが、ねぇ……そのわりには」



モバP「晴?」ナデナデ



晴「あー……」





晴「なんていうか、あのさ。 こういうの、オレから言うのもなんだけど」





晴「プロデューサーは、ときどきオレでもドン引きするくらい鈍かったりするけどさ」



晴「 それでもあいつが……ありすが素直じゃないことくらい、ちゃんと分かってるだろ。最初の頃なんてみんなにありすって呼ぶなとか、橘って呼べとか言ってたし、態度もどっかよそよそしかったりさ。最近はそういうの、無くなってきたけど」



モバP「あぁ、最初の頃はそうだったなぁ……でも晴の言うとおり、今はありすも自分の気持ちをわりと素直に表現できてると思うぞ?」ナデナデ



晴「わりと、だろ。 事情とか、オレにはさっぱりわかんねーけどさ。とにかく一回あいつのこと、ちゃんと見てやれよ。そしたらいくら鈍いプロデューサーでも分かるだろ。あいつ今すげーおかしいし」





晴「ーーそれに、プロデューサーに頭撫でられて嬉しくないわけないもんな。ありすだってそう思ってるに決まってるだろ」





モバP「晴……!」ナデナデナデナデナデナテ



晴「っ!? うわっ、調子乗んなよな!あくまでありすは!の話だからな!」ジタバタ





モバP「それにしても晴があんな風に思ってくれていたとは……嬉しい驚きだったな。うん、胸がほっこりした」



モバP「ありすのこともずいぶん気にかけていたみたいだし、なんだかんだ優しい子だなぁ、晴は」







モバP「( ありすか……確かに最近不機嫌というか、なにかと突っかかってくるようになったし……もしかしたらあの行動も何かのサインだったのかもしれない)」



モバP「(……プロデューサーなのに、そんなことにも気付いてやれなかったなんて……)」





モバP「ありすは今日ボーカルレッスンだったはず……スケジュール的にはとっくに終わってるけど、まだ事務所にいないかな……」ガチャッ





??「ーーあら、プロデューサー君?」







モバP「あ……川島さん。お疲れさまです」



瑞樹「えぇ、お疲れさまー。あ、プロデューサー君、今帰りかしら?」



モバP「そうですね、今日の業務は終わったのであとは帰り支度するだけですけど……その前にちょっと、済ませておきたいことがあって」



瑞樹「そう……良いタイミングだったから、せっかくだし食事にでも誘おうかなって思ったんだけど」



モバP「すみません。 川島さんはこの時間だと……ダンスレッスンが終わったとこですよね。ちょうど良かった、ありすのこと見かけませんでしたか?」



瑞樹「ありすちゃん? ありすちゃんなら、レッスンが終わったころに見かけたわ。 わりと早い内に帰ったみたいだけど……もしかして用事って、ありすちゃんに?」



モバP「はい……ちょっと気になることがあって。 できれば早い内に直接会って話し合っておきたかったんですけど……まいったな」



瑞樹「なるほどねー……言われてみれば確かに今日のありすちゃん、ちょっといつもより元気無かったかしら。 ……プロデューサー君、なにか心当たりでもあるの?」



モバP「えぇ、まぁ。ありすの元気がないって……川島さんもそう思いますか?」



瑞樹「そうね、今日見た印象ではそう感じたわ」



モバP「そうですか……」





モバP「(機微に聡い川島さんがそういうなら、やっぱり晴の言う通り……)」





瑞樹「といっても……最近は他のアイドルの子達と接する機会もなかなか取れないから、自信はないんだけどね。このごろはお仕事も直接現場に向かうことの方が多いし、事務所に寄る頻度も少し減ってきたもの」



モバP「まぁ、それは……川島さんももう、立派なうちの人気アイドルですからね。最近はソロでの仕事が増えてきて、ユニットでの活動もままならなくなってきてますし」



瑞樹「そうなのよねー……アイドルとしてお仕事がたくさんあるのは嬉しいんだけれど、ちょっと寂しいかしら。 ……この間のブルーナポレオンでのグラビア撮影も、なぜだか私だけ別件でお仕事が入って出来なかったしねー……」





瑞樹「……プロデューサー君、あれに他意はないのよね?」



モバP「へっ?」





瑞樹「若い子達にだけグラビアをやらせて、同時期に私へ秘湯ロケのお仕事を持ってきたのは別に故意ではないのよね?」ズイッ



モバP「も、もちろんです。 ほら、前に広告撮影で浴衣を着たことがあったでしょう?」アセアセ



瑞樹「あぁ……あったわねー、そんなお仕事も」



モバP「あれを見た番組のプロデューサーから、ぜひにと川島さんを指名で出演のオファーを頂いたんですよ。 川島さんは和装すると、しっとりとした大人の女性らしい色気が増してとても魅力的ですから」





瑞樹「そ、そう? そうかしら? プロデューサーくんも、本当にそう思う?」



モバP「ええ。 ライブやMCでよく見せるはじけた面とのギャップがたまらないっていうか……そういった対比が、より川島さんのアイドルとしての魅力を引き立てていると思いますよ」



瑞樹「た、たまらないの? う……うん、そうね。 それなら、しかたないわね。 ……ふふっ♪」









瑞樹「あ、でも……あのロケ、本当に大変だったんだからね? あやうく遭難しかけたんだから。今だから笑い話にできるけれど……けっこう、心細かったのよ?……もう。 プロデューサーくんも付いてきてくれたら良かったのに」



モバP「すみません。 日をまたぐ長期のロケとなると、どうしても俺のスケジュール的に厳しくて」



瑞樹「まぁ、そうよねー……一人であんなに大勢のアイドルを見てるんだもの。 大変なのは、わかるわ。 一人一人に割ける時間が少ないのもね」



モバP「そうですね……物理的にも、どうしても全員に付きっきりってわけにはいかなくて……」



瑞樹「それは仕方ないわ。 それに……確かに他の子と比べたら私は年長者で、前職の経験もあってこの業界に場馴れしてる部分もあるから……それを見越して、プロデューサーくんが私を信頼して、任せてくれてるんだって……頭ではちゃんと理解してるつもりよ」







瑞樹「でも……でもね?」









瑞樹「それでも……人としては大人でも、私はアイドルとしてはまだまだ子供で……他の子達と何ら変わりない、君のアイドルなんだから」





瑞樹「だから……時々は、私のことも……ちゃんと見ててくれないと、ダメなんだからね?」



モバP「……川島さん」





瑞樹「……なーんて、ね。 ちょっと、柄にもないこと言っちゃったかしら」



モバP「…………」







モバP「ーー川島さん。……川島さんには他のアイドル達に比べて、負担をかけてしまってますよね」



瑞樹「え……?」





モバP「ーー本当に、すみません。知らず知らずの内に、ないがしろにしてしまって」ナデナデ



瑞樹「……え、えっ? ど、どうしちゃったの? 急に……」アワアワ



瑞樹「ちょっと、プロデューサー君っ……あんまり大人をからかうのは」



モバP「俺は真剣ですよ、からかってなんかいません。 もちろん、嫌ならすぐに離れますから……だから、もしそうなら言ってください」ナデナデ



瑞樹「えぇっ……?あ、その……嫌では、ないけれど。 ただ、ものすごく照れるというか……」





瑞樹「……でも、もうちょっとだけ……こうしていて、くれるかしら」



モバP「えぇ、好きなだけ撫でられててください。 本当に……すみませんでした。 俺がいなくても問題ない、って……無意識に、そう思い込んでたのかもしれません。……でも、違うんですよね」ナデナデ



モバP「何でもそつなくこなしてしまうように見えて、その実力に裏打ちされた確かな努力があるんだって、分かってるつもりだったのに」



モバP「…… 思えば今だって、こんな時間にまだ事務所にいるのは……レッスン後に自主練習してたから、でしょう?」ナデナデ



瑞樹「あ……ダンスは体力面もそうだけど……他と比べると特に不得手だから、どうしても……ね」



モバP「一応、レッスンはアイドル達への負担や疲労も考えて組まれてるんですから……あんまり無理しないでくださいよ」ナデナデ



モバP「……でも、そういう自分に足りないものや必要なものを身に付けるために、常日頃から努力を惜しまず、無理してしまう……そんな川島さんだからこそ、ちゃんと見ててあげないといけなかったのに……人のこと、注意なんて出来ないですね。すみません」ナデナデ





瑞樹「……ううん、良いのよ。 だってプロデューサー君は……こうして本当に必要なときに、側に寄り添ってくれるもの」クスッ



モバP「本当にそうなら、いいんですけど」ナデナデ







モバP「ーーと、もうこんな時間か……さ、そろそろ行きましょうか」ナデナデ



瑞樹「え? 行くって、どこへ」



モバP「どこって……やだなぁ、さっき食事に誘ってくれたじゃないですか」ナデナデ



瑞樹「えっ? あ……」





瑞樹「……もう、プロデューサー君? 一度は断ったんだから、そういうのは……改めて男から誘い直すものなんじゃないかしら?」



モバP「そうですね。 じゃあ、改めて」ナデナデ







モバP「川島さん。俺と一緒に、食事にでも行きませんか? 俺の気づかないうちに寂しい思いをさせてしまった分、もっともっと、あなたとたくさん話して、向き合って……少しでも同じ時間を一緒に過ごさせてください」ナデナデ



瑞樹「…………なんか、その言い方だとまるで告白みたいね」



モバP「え? ……あ、いや、すみませんっ、そんなつもりじゃ」アセアセ





瑞樹「ハァ……わかってるわ。鈍感なプロデューサー君だものね。 ーーほら、行きましょう? 前からね、行ってみたいお店があったの」



モバP「はい、どこへでもお付き合いしますよ」ナデナデ



瑞樹「ふふっ、よろしい。 でも良いの? あんまり優しくしすぎると私、もっと調子乗っちゃうわよ?」



モバP「良いんです。 だって俺は……いつも、川島さんに助けられてますから。 だから川島さんが少し調子に乗ったくらいじゃ、恩返しにもなりませんよ」ナデナデ





瑞樹「うーん……。 こうして素直に撫でられときながら、こんなこと言うのもなんだけれど……みんなのまとめ役も、フォローも……私が好きでやってることなんだから。 だからプロデューサー君が気にすることないのよ?」





モバP「……違いますよ。 もちろんそれもあるけど……そうじゃなくて。 あー……その」ナデナデ



瑞樹「なぁにー? 急に言い淀んじゃって」



モバP「だって……川島さんは、いつだってアイドルの仕事、すごく楽しんでやってくれるでしょう?」ナデナデ



瑞樹「え? 当然じゃない。 だって、本当に楽しいもの!」





モバP「……だからですよ」





モバP「今でこそ、アイドル部門も盛り上がってるけど……新設された当初は仕事も少なくて、比較的小さなお仕事しか回ってこなかったり……アイドルも、わりと強引にスカウトしたりしてたせいで、始めの頃は仕事に消極的な子が多かったでしょう?」



瑞樹「あぁ……そうねー。 最初はそんな感じだったのよね、懐かしいわ」



モバP「俺も不馴れなことばかりで、営業も今ほど上手くこなせなかったから、持ってくる仕事も当たり外れが多かったりして。……あのころ、ちょっと内心へこんでたんです」





モバP「でもそんな中で……仕事に関して、文句やため息の一つくらい言われたって仕方ないのに、川島さんは何にでも積極的に挑戦してくれて…なにより、本当に楽しそうにアイドルやってることがすごく伝わってくるから……」





モバP「ーー俺は、そんな川島瑞樹に本当に救われてたんですよ」ナデナデ





モバP「だから、もっとわがまま言ってください。 ちょっとやそっとのことじゃ俺の恩、返しきれないですから」ナデナデ



瑞樹「プロデューサー君って、本当に……いいわ。 もう、本当に遠慮しないんだからね?」







瑞樹「それにしても……これで本人無自覚なんだものねー……なんだかちょっと、ずるいわ」ポツリ









ありす「(ーーここ最近、プロデューサーさんとまったく顔を合わせていません)」



ありす「(……もちろん、多少なりとも会おうと思えばいくらでも会う時間は作れました。 ……けれど、プロデューサーさんの近くにいると……)」





ありす「(嫌でも他の方がプロデューサーさんと仲良くしている光景を、高確率で目にするはめになってしまって……)」





ありす「(それを目にしながら、今の自分の置かれた状況を再確認するのは……)」







ありす「(……本当に、辛い)」





ありす「(そのせいもあって、仕事やレッスンが終わるとすぐに事務所を出るようになったから……ここ1週間は顔を見てもいないですね)」



ありす「といっても、さすがに避けてばかりはいられないですし……はぁ……」ガチャッ







小梅「プロデューサー、さん……もっと……ね?」





ありす「……!」コソッ





モバP「おぅ! 小梅は本当にいい子だなー」ナデナデ



モバP「ドラマの撮影も順調だし……この間監督にあったときもべた褒めされたよ。 スタッフの間でも評判良いみたいだし、 みんなに可愛がられてるなぁ、小梅」ナデナデ



小梅「うん……みんな、よくしてくれるよ……。 でも……プロデューサーさん、にも……いっぱいほめて……欲しいな」



モバP「ほめるほめる、いくらでもほめるぞー」ナデナデ



モバP「撮影が終わる頃に予定されてる体育祭へのオファーもすんなり決まったし……これからもっと忙しくなっていくだろうけど、一緒に頑張ろうな」ナデナデ





小梅「運動のお仕事……そういうのは……あんまり……得意じゃないけど……」



小梅「プロデューサーさんが…………一緒に……頑張ってくれるなら…………頑張る、ね。 えへへ」





ありす「」







あい「ーーおやおや、少し見ないうちに……まったく君は隅におけないな、プロデューサー君」クスッ



モバP「あ、あいさん」



あい「ほら、飲むといい。砂糖は入れないで、ミルクだけで良かったんだったかな」スッ



モバP「あ、わざわざありがとうございます。……うん、おいしい」



あい「気が付かなくてすまなかったね。良かったら、小梅君にもコーヒーをいれようか」



小梅「ううん……いいの。 もう、行かないと遅れちゃうって……あの子も……言ってるから……」フルフル





モバP「お、そうだな。 もうそんな時間か……ビジュアルレッスン頑張ってな、小梅」ナデナデ



小梅「う、うん……いってきます」タタッ ガチャッ









あい「ーーいつも見ていて思うよ。 私もそう負けてはいないつもりだが、君は子供達から抜群の信頼性を得ている、とね.」



モバP「いや、そんなことは……まぁ、みんなが俺を慕ってなついてくれるのは、嬉しいですけどね」





あい「……実に君らしい回答だ。 謙虚なのか、鈍感なのか……だが、そういう君だからこそ、惹かれる者も多いんだろう」



モバP「ははっ、そんな大袈裟な」



あい「大袈裟なものか。 そもそも君に人望の類いが無ければ、時折突拍子もない衣装を着せようとする時点で何人かの子は君を見限ったに違いない」





モバP「あ、あはは……そうならずに済んで、何よりです……。 でも、俺はアイドルのみんなが着る衣装にはちゃんとこだわって目を通してますから。 ちゃんと、絶対に似合うって確信があるんですよ」



あい「……まったく、人たらしな君らしいよ」フッ









あい「ーーそんなプロデューサー君に、一言言わせてもらおうか。 先ほどの小梅君への態度を見ていて思ったんだが……いい機会だ。 君には、ぜひ覚えていて欲しい」



モバP「え? 覚えておくって、何を……」



あい「なに、単純なことだよ」







あい「ーー君に誉められて嬉しいのは何も子供達だけじゃない、というだけのことさ」



モバP「えっ……?」





あい「そしてもちろん……その中に私がいることも、ね」



モバP「……あいさん」





モバP「そうですね……。 もちろんあいさんの頑張りも、ちゃんと分かってますよ。 この間の舞台のお仕事も……お嬢様役が決まって、自分とはかけ離れてるって普段の自分とのイメージの違いに葛藤していたこと、知っていました。 それでずいぶん悩ませてしまいましたね」





モバP「でも。そんな葛藤を自分の中で昇華させて、立派に役をこなしていたあいさんは、本当に綺麗で……麗しかったです」



あい「……そうだね。 慣れないことをして、大分苦労はしたが……今振り返ってみれば、あれも良い経験だった」





あい「それに……そういった葛藤に悩まされるのは今更というか。 そもそも君が私に奇抜な衣装を持ってくるのは、今に始まったことではないからね」



あい「しかも用意された衣装全てが概ね好評を得てしまうのだから、文句も出ない。……本当に、困ったものだ」フッ……









あい「ーーそれにしても……催促した手前、こんなことを言うのもなんだが……そこまで褒めそやしてくれるとは思っても見なかったよ」



モバP「何言ってるんですか。 俺はいつだってそう思ってますよ。……ただ、まぁ……俺も、最近思うところがあって……」





モバP「そういう気持ち、子供達以外には今まであまり表に出してこなかったなって、自覚したんです」ハァ



あい「なるほど? どういう心境の変化か気になるところではあるが、普段から鈍感な君にしては察しがいいな」





モバP「ええ。 だから……」スッ



あい「ふむ。 だから……?」







モバP「今日に限らず、これからはもう少し態度で示そうかなぁ、と」ナデナデ



あい「ほう、それは良いこころがけ……だ、な… …?……っ!?」





あい「…………ふ、ふふっ。 なるほど、そうきたか」



モバP「えぇ、とりあえずはこんな感じで示していこうと思うんですけど、どうでしょう? 気に入らなかったらまた、別の方法で……」スッ



あい「……」ガシッ



モバP「え? あいさん?  あの、なぜに手首を」





あい「何も早々に止めることはないだろう……。 その、多少気恥ずかしいが、これは…………悪くない」



モバP「あぁ、良かった。 嬉しいことに、先ほどあいさん本人からも褒められたい宣言をもらったことですし……これからもこの調子で接していきますね」ナデナデ



あい「そ……そんなあからさまな宣言は、していないが……まぁ、良いだろう」







あい「プロデューサーくん。 有言したからには……きちんと実行してもらうよ。だから ……覚悟するように。 いいね」





ありす「」







ありす「まさか……まさか、あのあいさんまでもが」





ありす「(い、いつのまに皆さんをここまで手なずけて……)」フラッ





ガタッ!



ありす「(っ、しまっ……!)」



モバP「……ん?」





モバP「 あれ、ありすじゃないか。 何してるんだ? ドアの入り口で。 早くこっちに来ればいいのに。ほら、おいで」ナデナデ



あいさん「……プロデューサー君。人前で、これはさすがに……」





ありす「…………」





ありす「〜〜〜っ!」ダッ



モバP「えっ、ちょっ、ありす!? 何で逃げ……!?」





あい「おや……?……これは」





ありす「……ハァッ、ハァッ……!」ゼェゼェ





ありす「(思わず逃げ出してしまいました、けど)」ゼェゼェ





ありす「……なにも、あんな」ポツリ





ありす「(あんな風に見せつけなくたって良いじゃないですか……!)」







モバP「ーーありすっ!!」」



ありす「っ!?」ダッ





モバP「ちょっ、また……もう、逃げるなって! 待てありす!」



ありす「こ、来ないでください!」



モバP「いやそういうわけには……!」





ありす「(くっ、このままじゃすぐ追い付かれ……!)」ズルッ





ありす「っ、しまっ……!」



ありす「(カーペットに足をとられて……!)」バターン!





モバP「ありす!! 大丈夫か!?」バタバタ





ありす「…………」



ありす「……………………」ムクッ





モバP「ありす、怪我は!? どっか痛いところはないか?」



ありす「……………………だ」





モバP「えっ? 今なんて、」









ありす「ーーもう、やだぁ……」ジワァッ



モバP「!?」







モバP「えっ、えっ!? ありす、やっぱりどこか痛いのか!? い、医務室……いや、救急車を……!」



ありす「ち……ちがっ……い、ます」グスッ





ありす「……ヒック、グスッ……」ポロポロ





モバP「ありす……?じゃあ一体………… 俺、気付かないうちにまたありすに何か嫌な思いさせちゃったのか……?」



ありす「〜〜!」フルフル



モバP「じゃあ、何か悲しいことでもあったのか? 話してくれよ、ありす……」



ありす「…………」ゴシゴシ





ありす「……わたし、だけ」ポツリ







ありす「……私だけなでないとか、なんなんですかもう……っ!  」グスッ





モバP「…………へっ?」キョトン









モバP「(ーーうん。 あいさんに強く薦められ、俺自身ものすごく気になることもあって急いでありすを追いかけたわけだが)」







モバP「あー……落ち着いたか? ありす」



ありす「……スンッ……はい」



モバP「そっか。 えーっと、つまり……ここ最近様子がおかしかったのは、これが原因だったってことで良いんだな?」ナデナデ



ありす「…………言いたく、ないです」





モバP「いや、こんなガチ泣きしといて何を今さら」ナデナデ



ありす「……っ」ジワァ



モバP「あーごめん! 本当にごめん!別にありすを責めてる訳じゃなくてだな!?」ナデナデナデナデナデナデ





モバP「(ぶっちゃけ悩みごとがこれ自体だったとは思いもしなかった)」ナデナデ





モバP「(けど、ここまで思いつめてたなんて……本当に、悪いことしたなぁ)」





モバP「えーっと、その……ちょっと聞いて欲しいんだけどな、ありす」ナデナデ



ありす「…………」





モバP「 常日頃からけっこう周りにもよく言われるんだけど……どうも俺は、すごい鈍感みたいでな」ポンポン ナデナデ





ありす「……知ってます。 そんなの、とっくに」



モバP「そっか。 うん、だから……ありすのして欲しいこととか、汲み取って欲しい気持ちとか……」ナデナデ





モバP「そういったものを、今後も俺はうまいこと分かってあげられないかもしれない」ナデナデ



ありす「……はい」シュン







モバP「ーーでも、それでもな?」ナデナデ





モバP「お前が悩んだり困ったりしたときに、その気持ちを少しでも……俺に隠さないで、見せてくれたら」



モバP「そしたら……そしたら俺はきっと、どんなに時間がかかっても、ありすの悩みに気づいて見せるから」





モバP「だから……俺に背を向けないでくれ。 ありすが悩んでるなら一緒に悩んでやりたいし、困ってるならいくらでも手を貸したい。 だからその役目を、俺から奪わないで。 ありす一人で抱え込んだりしないでくれ……頼むよ」ナデナデ





ありす「グスッ……そんな、プライベートな問題に関わろうとするのもプロデューサーのお仕事なんですか」





ありす「(あぁ……駄目です、何でこんなにひねくれたことを言ってしまうんでしょう……)」



ありす「(プロデューサーさんの言葉、すごく嬉しいのに……素直になろうって決めた矢先に、どうしてこんな……)」





モバP「違うよありす。 仕事なんか関係ないさ。 俺がありすのことを、大事で大事で仕方がないってだけのことだよ」ナデナデ



ありす「プロデューサーさん……」







モバP「いやー、それにしても……ははっ」クスッ



ありす「な、……なにがおかしいんですか」



モバP「いや……俺もちょっとは鈍感の汚名を返上できたかなー?と思ってさ」ナデナデ





モバP「ーーうん。 少しだけど、なんとなくわかってきた 」ナデナデ





モバP「そっか……ありすの言葉を額面通りに受け取っちゃ、駄目だったんだな」ナデナデ



ありす「…………」フイッ







ありす「(なんでしょう、この理解されて嬉しい以上のむずがゆさは……。 )」





モバP「……俺さ。 この調子で、今まで以上にもっとありすのこと、知ってくよ。 でもやっぱり、俺が気が利かないのはすぐには治らないから……」ナデナデ





モバP「だからたまにはこうやって、素直なありすを見せて欲しいな」ナデナデ



ありす「か……考えて、おきます」







ありす「でも、その……これからはもう少し……自分にも、プロデューサーさんにも……素直になれるよう、努力します」





ありす「……だから、」







ありす「私がまた、こうやって欲しいってお願い、したら……聞いてくれますか。 プロデューサー」







モバP「あぁ、もちろん。 他の子供達と比べて、普段めったにわがまま言わないでいつもお仕事頑張ってくれる……そんなありすのお願いなら、いくらでも聞いてやりたいしな」ナデナデ





ありす「はい……その、ありがとうございます。……えへ、えへへ」ニコニコ





モバP「(かわいい)」ナデナデ







ありす「(ーー取り乱したときはろくに把握できてませんでしたが…………)」



ありす「(プロデューサーさんの膝の上に乗って、背中を持たれかけながら……お腹に手を添えられて、頭をなでられているこの状況……)」







ありす「(…………うれしいけど、ものすごく気恥ずかしい)」





??「……」ジー



ありす「(っ!)」ゾクッ



ありす「(……? )」キョロキョロ





ありす「(……? 気のせい、かな……?)」





モバP「ん? どうかしたか、ありす?」ナデナデ



ありす「あ、いえ、なんでもありません。 ……あの、プロデューサーさん」





ありす「 次のお仕事まで、まだ余裕がありますから、その……もう少しこのままで、いいですか。 あの、だめなら」





モバP「……いいよ。 思う存分、いっぱい甘えてくれ 」ナデナデ



ありす「……はいっ」パァァ









「…………」ジー









凛「……ふぅん」





凛「なるほど……あれくらい素直に気持ちをぶつけないと、プロデューサーは分かってくれないんだね」





凛「ちょっと勇気いるけど……まぁ、あれくらいは、私だって……」





凛「……よしっ。 今度こそ……待っててね、プロデューサー」









続かない。



23:30│橘ありす 
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