2014年03月04日

渋谷凛『不思議なお店?』 第4話 枯れる

渋谷凛『不思議なお店?』 第1話 何でも入る箱

渋谷凛『不思議なお店?』 第2話 だまし絵

渋谷凛『不思議なお店?』 第3話 夢喰い

第4話 枯れる

加蓮「今はいいけど、年を取ったらアイドルってどうなるのかな?」

まゆ「みーんないつか枯れちゃいますよ。お花といっしょです」



まゆ「でも、まゆが枯れる時はモバPさんと一緒だから全然大丈夫ですよぉ」

加蓮「うーん、私はまだ年を取るってあんまり実感ないんだよね」

まゆ「……嫌ですか?」

加蓮「まあ、嬉しくはないかな?」

まゆ「加蓮ちゃん。『死蠟』って知ってますか?」

加蓮「シロウ?ちょっと、分からないかな?」

まゆ「そうですか、でも、どうしても年を取るのが怖くなったら言ってくださいね」

加蓮「うん、ありがとう」

まゆ「……うふふ」



『アナタ ハ カレル ノガ コワイ デスカ?』





加蓮「大人になるってなんだろうね」カキカキ

まゆ「どうしたんですかぁ?」チクチク

加蓮「さっきさ、礼子さんがなんか様子が変だったから聞いてみたんだけど」

まゆ「ああ、さっき応接室に雪美ちゃんといましたね」チクチク

加蓮「小学生組にお酒臭いって言われちゃったんだって」カキカキ

まゆ「あまり気にする方ではないと思いますけど?」チクチク

加蓮「こずえちゃんが物凄く嫌そうな表情で顔背けてた」

まゆ「…うわぁ」

まゆ「まゆも将来お酒は飲むかもしれませんけど、さすがにあの量は…」チクチク

加蓮「だよねぇ」カキカキ

まゆ「ところで、早苗さんが部屋の隅で俯いているのはなんなんですかねぇ?」

加蓮「ああ、さっき川島さんに巻き込まれたらしいよ」

まゆ「何かありましたっけ?」

加蓮「モバPさんって不思議な道具結構持ってるでしょ?」

まゆ「ええ、まゆも偶に借りてますけど?」チクチク

加蓮「魔法少女に変身できるステッキって知ってる?」カキカキ

まゆ「プリティーコステッキでしたっけ?確か千佳ちゃんが貰っていたはず」

加蓮「使ったんだってさ、川島さん」

まゆ「……」

加蓮「隣にいた早苗さんも巻き込まれたんだって」

まゆ「……ご愁傷様です」チクチク

加蓮「二人揃ってキャピピーン♪マジカルゥ♪って言った瞬間に…」

加蓮「モバPさんと社長と私がドア開けた」

まゆ「…」

まゆ「…川島さんはどうしたんですか?」チクチク

加蓮「その恰好のまま、外に飛び出して行ったから、モバPさんが追いかけてる」

まゆ「羨ましいはずなのに、全然羨ましくないのはなんででしょうねぇ」

加蓮「それが普通だよ」

まゆ「そうですねぇ」

加蓮「あのさ、さっきから気になってたんだけど」

まゆ「はい?」

加蓮「何してるの?」

まゆ「マフラーと手袋を編んでますけど?」

加蓮「うん、それはいいんだ。見れば分かるから」

まゆ「加蓮ちゃんは年賀状の準備ですか?」

加蓮「そっ、今年はお世話になった人が多いから早めにと思って」

まゆ「まゆもそろそろ始めないと」

加蓮「話戻すけど、編み物は分かるんだけど、その人形は?」

まゆ「小梅ちゃんに譲ってもらいました。お気に入りなんですよぉ♡」

加蓮「その人形の髪の毛伸びてない?結構なスピードで」

まゆ「ええ、移植した髪が伸びるお人形ですから」

加蓮「……呪いの人形?」

まゆ「そのレプリカって小梅ちゃんは言ってましたけど」

加蓮「まあ、いいや。で、なんでその人形の髪を毛糸と一緒に編んでるの?」

まゆ「まゆの愛情をたーぷり注入してるからですよぉ♪」

加蓮「やっぱり、まゆの髪の毛なんだソレ」

まゆ「うふふ、モバPさんのクリスマスプレゼントです♡」

加蓮「だよね、うん。確認する必要なかったね」

まゆ「小梅ちゃんって本当にいい子、早くお姉ちゃんになりたいですねぇ」

加蓮(確かに小梅ちゃん落とせばモバPさんは落とせそう)

まゆ「うふふ、でもぉ、最近、小梅ちゃんにお姉ちゃんって呼ばれてる人がいるんですよねぇ。なーんで、ですかねぇ?」

加蓮(周子かな?)

まゆ「狐っぽいですし、剥いじゃいましょうか?」

加蓮「…やらないでしょ?口にするだけで」

まゆ「もちろん♪小梅ちゃんが泣いちゃいますから」

加蓮「意外と幽霊の周子の方が好きかもね」

まゆ「うふふ」

加蓮「まあ、モバPさんが受け取ってくれるならいいんじゃない?そのマフラーと手袋」

まゆ「大丈夫ですよぉ、ちゃーんと想いは伝わりますから」

加蓮「…まあ、いいのかな?」

まゆ「それで大人になることでしたっけ?」

加蓮「そう、大人ってなんだろうね?」

加蓮「成長しているみたいで、してない気がするよ」

まゆ「例えば?」

加蓮「この前、『透明人間事件』ってあったの覚えてる?」

まゆ「ええ、愛海ちゃんが透明人間になった時の」

加蓮「アレって、結構危なかったよね?」

加蓮「同性じゃなかったら警察沙汰だよ、あの子の性癖」

まゆ「同性でも十分問題ですけどね」

まゆ「まさか、透明人間になってまで胸を触りたいなんて」

加蓮「あのまま放置したらどうなったんだろうね?」

まゆ「あまり考えたくないですねぇ」

加蓮「それで、あの時の対処方法」

まゆ「……」

加蓮「覚えてる?」

まゆ「…ええ」

加蓮「まず、姫川さん」

まゆ「バット持ち出してましたね」

加蓮「気持ちは分からなくはないけどさ、下手したら大怪我じゃすまないよね」

まゆ「アイドルがバットを振り回すのもどうかと」

加蓮「次、楓さん」

まゆ「何もしてませんでしたけど?」

加蓮「うん、普通に一升瓶抱えてたね。そのまま好き放題されてた」

まゆ「相手が愛海ちゃんとはいえ、少し無防備過ぎですねぇ」

加蓮「最終的には木場さんに取り押さえられていたけど」

まゆ「一部の大人の対応が少し稚拙だった?」

加蓮「うん、そんな感じかな」

加蓮「子供頃ってさ、大人のイメージってお父さんとお母さんが大半なんだけどさ」

加蓮「この事務所に入って、アイドルになって、芸能界に入って」

加蓮「いろんな人を見て、何が正しいのか、大人って何か分からなくなってきてさ」

まゆ「良くも悪くも」

加蓮・まゆ「「自分の欲望に忠実なヒトが多い」」

加蓮「やっぱり、まゆもそう思う?」

まゆ「この事務所は大丈夫ですけど、噂とか嫌らしい視線とか、いっぱいありますから」

加蓮「だよね、別に今にそれ程不満があるわけじゃないよ」

加蓮「でも、想像していた通りではなかった」

まゆ「汚い部分もたくさんありますね」

加蓮「今年1年を振り返って思ったんだ、大人ってなんだろうって」

まゆ「……加蓮ちゃんは大人になりたくないんですか?」

加蓮「どうなんだろう?ちょっと、違和感があるのかな?」

まゆ「うふふ、なら、大人にならなければいいんですよぉ♡」

加蓮「私別に菜々さんみたいになるつもりはないよ」

まゆ「そうじゃないですよぉ」

まゆ「加蓮ちゃん。『死蠟』って知ってますか?」

加蓮「シロウ?ちょっと、分からないかな?」

まゆ「みーんないつか枯れちゃいますよ。お花といっしょです」

まゆ「でも、まゆが枯れる時はモバPさんと一緒だから全然大丈夫なんですけど」

まゆ「もしも、万が一、まゆが事故とか、病気で死んじゃったら」

まゆ「魂は小梅ちゃんに頼んでモバPさんの守護霊にしてもらいます」

まゆ「体は死蝋にして、モバPさんのお部屋に置いてもらいます」

まゆ「なーんて、まゆは思ってます」

加蓮「…どういうこと?」

まゆ「小梅ちゃんに世界の不思議な現象が描いてある本を貰っちゃいました」

まゆ「その中の世界で一番綺麗なミイラの写真」

まゆ「ロザリア・ロンバルドさんって言う名前の女の子」

まゆ「まるで寝てるみたいに、静かに、起きそうで起きない」

まゆ「生きてるみたいなミイラさん」

まゆ「その原因が『死蝋』、まゆに詳しいことは分かりませんけど」

まゆ「体はずーっと、そのまま、魂はモバPさんの元に」

まゆ「凄くゾクゾクします♡」

まゆ「大人になるってこと」

まゆ「まゆは社会に適合して自分の欲望を叶えるために、自立することだと思います」

まゆ「家族を養いたい人は、家族のために社会で働き」

まゆ「自分のために働く人は自分のために」

まゆ「まゆはぁ、モバPさんとずっと一緒に居たくて、想いつづけたいからぁ」

まゆ「アイドルとしてファンに『愛』を売ってるんですよぉ」

まゆ「そのままの加蓮ちゃんでいたいなら、まゆが綺麗なまま保ってあげますよ」

まゆ「小梅ちゃんがいるからアフターケアもばっちりです」

加蓮「…それはさすがに遠慮しとくよ」

まゆ「うふふ、駄目ですか?」

加蓮「別に死にたいわけじゃないしね」


まゆ「本当に?」

加蓮「もう、脅かさないでよ」

まゆ「うふふふ、ごめんなさぁい」

加蓮「本当に怖かったんだから」

まゆ「冗談ですよぉ」

加蓮「だよねー」








加蓮「だって、オニンギョウになるのは、『北条加蓮』じゃなくて『佐久間まゆ』だもん」スッ

まゆ「…え?」




まゆ(まゆはどうしていたんでしたっけ?)

まゆ(なんか、フワフワしてます)

まゆ(小梅ちゃんですかねぇ?でも、こんな悪戯する子じゃないですし)

まゆ(なーんで、まゆは浮いてるんですかぁ?)

まゆ(モバPさん?小梅ちゃん?誰かいませんか?)

まゆ(いないみたいですねぇ)

まゆ(まゆの視点はここにあります)

まゆ(でも、まゆの体はあっちにあります)

まゆ(幽体離脱?夢?なんでアレがまゆの体だってはっきり分かるんでしょうか?)

まゆ(加蓮ちゃんと話していたような気がするんですけど?)

まゆ(なんでまゆの体は『箱詰め』にされているんですかぁ?)


まゆ(なーんで、手と足が無いんですかぁ?)


まゆ(まるでだるまさんみたいに、箱にはいってるんですかぁ?)


まゆ(服はちゃんと着てるみたいですけど)


まゆ(箱入り娘になっちゃいました。物理的に)


まゆ(でも、痛みとかはないですし、意識も割とはっきりしてます)

まゆ(そもそも、どこなんですかここ?)

まゆ(電車の中?寝台特急?)ガタンゴトン

まゆ(あ、モバPさん!)

まゆ(モバPさん!あなたのまゆはここですよぉ)

モバP「…まゆ。夜景が綺麗だけど、見えるかな?」

まゆ(ちゃーんと見えてますよぉ)

モバP「すまない。まゆ、本当にすまない」

まゆ(モバPさん。そっちはまゆの体だけ、まゆのココロはこっちですよぉ)

モバP「……まゆ」

まゆ(モバPさんがまゆのことを想ってくれるのは、凄く嬉しいんですけど)

まゆ(ちゃんと目を見てお話しできないのは寂しいですね)

モバP「小梅が元に戻る方法を探していくれているからな」

まゆ(別に一緒にいられるならこのままでも大丈夫ですよぉ)

まゆ(あ、意外と動けますね)

まゆ(モバPさんの肩にまゆの頭が乗ってますよ)

まゆ(でも、手が無いと抱きしめてあげられません)

モバP「何年かかるか分からないけど、きっと元に戻るから」

まゆ(いくらでも待ちますよ)

まゆ(あら、モバPさんの左手の薬指に指輪が)

まゆ(……ファッションですかぁ?)

まゆ(ファッションですよねぇ)

まゆ(なーんで、SHUKOって彫ってあるんですかぁ?)

まゆ(うふ、だーめですよぉー)

まゆ(冗談でもそんなことしちゃぁ)

まゆ(だーめなんですよぉ)

まゆ(………)カプリ

まゆ(………………なんで、モバPさんが倒れているんですか?)

まゆ(なんでまゆの体が、口がモバPさんの首に噛みついているんですか)

まゆ(モバPさんの白い綺麗な肌から、黒い血がドローって)

まゆ(まゆのお口にモバPさんの皮膚がクチャって)

まゆ(なんで?)

まゆ(なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?ナンデ?ナンデ?ナンデ?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?な んで?なんで?なんで?なんで?なーんで、まゆはこんなにカナシイの?)

まゆ(違う!まゆはモバPさんを傷つけることなんて)

まゆ(小梅ちゃんだって大好きだし、同じ事務所の子に警告することはあるけど)

まゆ(本当にこんなことできるわけないっ!!)

まゆ(ただ、まゆをちゃんと見て欲しいだけなのに)

まゆ(すっと、居て欲しいだけなのに)

まゆ(寂しい)クスン

まゆ(悲しい)グスッ

まゆ(まゆは、このまま、達磨さんで)

加蓮「あー、うん、ごめん、ちょっとやり過ぎた」

加蓮「そろそろ起きようか」

加蓮(さすがにやり過ぎたかな。後で良い夢見せてあげないと)

加蓮(モバPさんと新婚って夢でいいや)

加蓮(最後の最後にまゆの体まで醜いおばあちゃんになっちゃう夢にするつもりだったけど)

加蓮(うーん、これは本当に失敗だね)

加蓮(私が物事を一番現実的に見ていて、信頼できるから道具の管理は任せるってモバPさんに言われたけど)

加蓮(少し感情的になってた。管理人失格だね)

加蓮(信頼を裏切るみたいなことはしたくないしね)

加蓮(モバPさんの予想通り、まゆは極端な寂しがり)

加蓮(昔、何があったか知らないけど、捨てられることを恐れている)

加蓮(構ってほしいのかな?)

加蓮(気持ちは分からなくもないか)

加蓮(大人になるってなんだろう?恋愛ってなんだろう?)

加蓮(私にはまだよく分からない)

加蓮(まゆのような独占欲でも、居場所が欲しいってわけでもない)

加蓮(奈緒みたいな純粋な憧れと恩義でもない)

加蓮(凛みたいな親愛と信頼でもない)

加蓮(大人組みたいな結婚欲?はまだ理解できない)

加蓮(私は、たまたまモバPさんに声を掛けてもらっただけ)

加蓮(病院のあの白い屋上で)

加蓮(アイドルやりませんかって)

加蓮(あの不思議な空気を纏って)

加蓮(作品名『純情な夢』)

加蓮(私にずっと持っていてほしいって)

加蓮(アイドルになって、2年。夢を見せる存在になって2年)

加蓮(私はまた一つ歳を重ねた)

加蓮(ねえ、モバPさん。私はまだ純情でいられているかな?)

加蓮(それとももう、何もない白いキャンバスしか無いかな)

加蓮(大人になるのが、最近少し怖いよ)

モバP「大丈夫。まだそんなに変わってないよ」

加蓮「いつからそこにいたの?」

モバP「さあ?」

加蓮「そっか」

加蓮「ねえ、モバPさん?大人になって何かな?」

モバP「ただ歳を取るだけ。どうなるかは本人次第」

モバP「全然変わらない人もいる」

加蓮「…そうかもね」

モバP「加蓮は優しいから、必要以上に抱え込んでしまう気がする」ナデナデ

加蓮「あはっ、まゆに結構酷いことしたのに?」

モバP「後でフォローしておくよ」ナデナデ

加蓮「モバPさん。我儘言っていい?」

モバP「どうぞ」

加蓮「抱きしめて、少しだけ泣くなから」

モバP「ん」ギュッ

加蓮「アリガト」

モバP(この子は冷たく振る舞うこともあるけど、根は誰よりも真面目な努力家)

モバP(故に傷つき易い。ガラス細工のような純情な少女)

モバP(どうかこの子がこの社会の醜さに押し潰されませんように)

モバP(偶に話を聞くことしかできないけど)

モバP(周りを支えに、長く咲き誇って欲しい)

モバP(枯れない花はないけど、長生きさせることはできるから)

モバP(君を枯れさせることはしないから)

モバP(贅沢で、難しい願いなのだけれど)

モバP(この冷たすぎる社会で、どうか汚れずに生きて欲しい)

第4話 枯れる 〜終〜


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