2014年03月07日
P「目指せ!」 涼「トップアイドル!」
レッスンスタジオ//
〜〜♪ 〜〜〜〜♪
〜〜♪ 〜〜〜〜♪
P 「そこ! サビ前の動作流さない!」
涼 「はい! ……もっと! たーかめて果てなく こころーの、おーくまーで」
P 「腹から声出す!」
涼 「っ、とかしつくして!」
P 「そう!」
涼 「うーずまくさなかに おちてぇーく とぉーきめぇきー……」
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注意。女性キャラは全く出てこない。
ジュピターの性格はやや漫画寄り。多分300レスちょい位の長さにはなると思う。
ではよろしくお願いしまーす。
〜〜♪ 〜〜〜♪
涼 「燃や、すわ! はげ、しく!」ビシッ
P 「……」
涼 「ハァ、ハァ、……ど、どうですか? プロデューサー?」
P 「うん、……よかったぞ!」
涼 「本当ですか!」パァ
P 「本当だとも! まさかこの短期間でここまで成長するなんて思ってもみなかった。
こんだけ歌って踊れたら、新人アイドルとしては破格だよ」
涼 「よかったぁ。僕、最近家でも練習してましたからね!」
P 「そうなのか。うーん、やる気もあって、言うことなしだな。涼は偉いな」
涼 「いえ! それもこれもプロデューサーが僕を拾ってくれたおかげですから。
なによりもまず、プロデューサーのおかげです!」
P 「いやぁ、当然のことをしたまでだったんだが」
P 「(そう、あれはちょうど二週間ほど前の事……)」
回想〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
765プロ事務所//
二週間前、、、
P 「新しいアイドル、ですか?」
社長「うむ。今度ウチに所属してくれる予定なんだが、そのプロデュースを君に頼もうと思ってね」
P 「俺ですか」
社長「君の受け持ったアイドルたちは既にトップアイドルとしての地位を確立している。
もう君が一から十まで手をかける必要もないだろう?」
P 「まぁあいつらも理解してくれていると思います。プロ意識もしっかり身についてますし」
社長「とはいえ彼女たちのフォローも勿論やってくれたまえよ? ただ、重点を置く対象を
新たに作ってほしい、と、そういっているんだ」
P 「分かりました。……で、その新しいアイドルの子、というのは?」
社長「今、律子君と一緒にこっちへ向かっているそうだ。
実はね、そのアイドルというのは彼女のいとこなんだよ。名前は秋月涼くんだ」
P 「律子のいとこ? へぇ。じゃあ律子に任せればいいのでは?」
社長「それがねぇ、一つだけ大きな問題があるんだよ」
P 「問題?」
社長「うむ、実は律子君は彼を女性としてプロデュースしようとしているんだ」
P 「…………ん?」
P 「んん!?」
社長「どうしたんだね?」
P 「え? ん? あのー、アイドルの子の名前は……」
社長「秋月涼くん。律子君のいとこだ」
P 「その『くん』っていうのは、え? 春香たちで言う『天海くん』『如月くん』とかではなく?」
社長「……あぁ! そういえば伝え忘れていたかね? 秋月くんは男、従弟なんだよ」
P 「お、男ぉ!?」
社長「お、びっくりしたかね?」
P 「そりゃそうですよ! 完全に女の子のアイドルの話かと……」
社長「いやぁすまないすまない」
P 「んー、にしても男のアイドルですかー」
社長「数々のトップアイドルを育てたウチのエースとしては、どう思う?」
P 「よしてくださいよ。……でも、うーん、そうですね。
差しあたっての懸念材料は3つ、くらい」
社長「ふむ。聞かせてくれるかね?」
P 「一つは既存のアイドルとの問題です。ウチは女性アイドルばかりですから、
その中に男一人新たに加わるとなると、例えばオールスターでやるステージでの兼ね合いが難しくなりますね」
社長「2つ目は?」
P 「販路の問題、です。男性アイドルを売り込むコネが0に等しい」
社長「なるほどねぇ。最後は?」
P 「当然ですけど。俺、男のアイドルをプロデュースするのは初めてで……」
社長「問題がてんこもりだねぇ」
P 「とはいえ、だからこそ、という部分もありますけどね」
社長「そうそう。君にとってもプラスになると思うよ?」
P 「後、男性アイドルも抱えることで事務所の底力もあがりますから。良いことも多いでしょうね」
社長「うん、流石は敏腕プロデューサー君だ」
P 「だからやめてくださいよ。それに結局どれも明確な解決策を出せていないんですから」
社長「何、どれもやってみなくちゃわからないものだ。当然だとも」
P 「頑張ってみます。……ところで話は戻るんですが、……律子の奴、女装させようとしてるんですか? 男に?」
社長「……うむ」
P 「……いくつの男の子なんです?」
社長「15だ」
P 「……15の男に女装させて衆人環視の中に立たせるって、律子は何を考えてるんですか!
トラウマになるなんてもんじゃないですよ!」
社長「いやねぇ、私も電話では渋ったんだが……、律子君なりに彼に才能を見つけたようで」
P 「でも、女装、ですよね」
社長「ここでもう一度聞くとしよう。彼のプロデュースは誰に任せるべきだと思う?」
P 「あー……」
社長「男同士、ってこともあるし、何かと都合がいいと思うよ?」
P 「……わかりました。俺がやります」
社長「まぁ、いいステップになるさ」
P 「そうだといいですが」
社長「秋月君をプロデュースすることで、女性ファン層獲得の勉強にもなるだろう。
市場を広く知るのは大切なことだ」
P 「なるほど」
社長「では、やってくれるね?」
P 「わかりました。俺が責任もって涼君を育て上げます」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
P 「と、いう感じのやりとりが……」
涼 「え? なんですか?」
P 「え? あ、いやなんでもない」
涼 「?」
P 「いやしかし、土台がゼロの状態で、しかもたった2週間でここまで成長するとはな。
律子が食いついたのも分かる気がするよ」
涼 「そのおかげで律子姉ちゃんに女装デビューさせられそうになりましたけどね……」
P 「いや、女装でいきなりステージに立たされてやりきった涼が悪い!
そんなのスカウトするしかないじゃないかっ!」
涼 「えぇ!? そんな!!」
P 「ははは、冗談だよ」
涼 「もう。僕は男らしくなるって決めたんです! 女装してデビューするくらいなら辞めた方がマシです!」
P 「まぁそうだろう。でも律子の事もあまり責めないでやってくれよ? 俺だって素人が
なんの練習もなくいきなりステージをやりきったら囲い込みたいとおもうからな」
涼 「あ、あの時は、その、見よう見まねで……」
P 「それが凄いんだよ。そういや涼って、ダンス以外の運動神経はどうなんだ?」
涼 「運動神経ですか? うーん、どうでしょう。……体力と、筋力はないですね」
P 「だろうな」
涼 「とほほ」
P 「ただ、ダンスが上手いってことはバランス感覚とかがいいってことだ。逆立ちとかできるか?」
涼 「逆立ちかぁ……、よ、っと!」ピシッ
P 「おー、すごいすごい」
涼 「た、ただ、ち、長時間はむり、ですけど!」プルプル
P 「もういいもういい。……とりあえず体力と筋力は課題だな。他は及第点だろう」
涼 「『コマンダー』に出てるシュラちゃんみたいな肉体になりたいです!」
P 「だったらなればいいだろ! ってな」
涼 「とはいえさすがにあそこまでいけるとは思ってないですけどね……」
P 「まぁあれだけ筋肉モリモリマッチョマンの肉体になれれば、涼の言う男らしさも夢じゃないな。
夢じゃないっていうか、もう男の中の男になれるな」
涼 「ちなみにプロデューサーからみて、今の僕の男らしさはどんな感じですか!?」
P 「え?」
涼 「これでも最近はかかさず筋トレしてるんですよ! ホラ! 上腕二頭筋も! ホラ!」
P 「え? ちからこぶ出てるか? それ」
涼 「ふぬぬぬ……!」プルプル
P 「……まぁ、まだまだ男らしさは遠いよ」
涼 「そ、そんなぁ」
P 「全ては一朝一夕にしてならず! まだまだこれからってことだ。それにダンスだって褒めはしたがな、
そりゃこの時期では凄いってだけで、まだまだトップには程遠いんだからな!」
涼 「はい! よーし、ダンスもう一本行きましょう!」
P 「面白い奴だな、気に入った。よし! ビシバシいくぞ!」
765プロ事務所//
夜、、、
涼 「お疲れ様でしたー」
P 「おー。風呂でしっかり足揉んどけよー」
涼 「はいプロデューサー。明日もよろしくお願いしますね!」ガチャ
P 「おう」
涼 「では、お先に失礼します」
バタン
社長「うーむ、中々うまくいってるようじゃないか」
P 「性格もいいですし才能も申し分ありません。手を焼く方が難しいくらいいい子ですよ、彼は」
社長「やはり君に預けて正解だったねぇ」
P 「ただ、そのおかげで飲みに行くたびに律子に『私が育ててみたかった』って愚痴を吐かれるんですよ?
後『ていっ!』ってされますし、勘弁してほしいですよ」
社長「まぁねぇ。当然だろうね。君もプロデューサー職についていれば、気持ちは分かるだろう?」
P 「まぁ、はい」
社長「なら諦めたまえ。今度、彼女に奢ってあげなさい」
P 「そうします」
社長「で、だ。彼の今後の予定はどうなっている?」
P 「少し予定は早まりますが、再来週にはオーディションに出ようと思っています。よろしいですか?」
社長「心配はしていないよ。君が大丈夫だと思ったのなら、大丈夫なのだろう」
P 「現段階でD、上手くいけばCランクに食いこめるくらいの実力があると思っています。
ただ女性アイドルたちとの比較なので、一概に正しい判断だとは言い切れませんが」
社長「とはいえ他の新人よりかは上ということかね」
P 「恐らく」
社長「まぁ私が見たところでも、同じような感想だ。
きっと彼なら初オーディションは容易く勝てるだろう、ただ……」
P 「? 何か?」
社長「うむ。実は、黒井の方で新しいアイドルグループを作っているという話があってね」
P 「961プロの黒井社長が? ……まさかと思いますが、ウチの子たちからまた――」
社長「ないない。それはないよ。今となっては君の元から離れたくない子たちばかりなんだから」
P 「よかった……。で、961プロの新しいアイドルグループですか。一体どんな?」
社長「それがねぇ、なんと奇しくも、男性アイドルグループらしいんだ」
P 「なんですって!?」
社長「どうやら今週中にはデビューするらしい。秋月君とほぼ同時期のデビューといっていいだろう」
P 「なるほど……」
社長「どう思う?」
P 「まさかぶつけてきたわけではないでしょうけど……。ただ、黒井社長の指揮したフェアリーには、
勿論バックグラウンドの差があったとはいえ、勝率ではほとんど負けていましたからね。
悔しいですが、今回のグループも、随分と苦戦するかもしれません」
社長「だが、君は最終的に勝ちきった。今回も期待してるよ」
P 「当然、勝つつもりです」
社長「頼もしいねぇ」
P 「俺も961プロの動きに注視してみます。……そういえば社長」
社長「なんだね?」
P 「そのグループの名前とかって、お判りになってるんですか?」
社長「名前? あぁ、聞いたよ。確か――」
社長「ジュピター、だったかな?」
TVスタジオ//
ジャジャーン♪
「サンキュー!」
パチパチパチ
MC「はい、というわけで路上・嵐の皆さんでした。アーティストの高橋ショージさん、いかがでしたか?」
「んー、衣装はキマってるけどね、やる気が足りないよやる気が!」
MC「残念ながら辛口評価でした。彼らにはより一層頑張っていただきたいですね。
それではお次に参りましょう。ミュージックカモン!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
MC「先週初登場してから一気に注目株となったこのグループ。
本日ゲストに揃った作曲家やアーティスト、音楽業界に関わる重鎮たちの眼鏡にはかなうのか?」
MC「それでは歌っていただきましょう。ジュピターで『Alice or Guilty』、Listen?」
< きゃああああああああああああああ!!
『嘘の 言葉が あふれ』
『嘘の 時を きざむ!』
舞台そで・上手//
<キャアアアアアア
P 「反応凄いな……」
涼 「ですね……。デビュー間もないのに凄い人気みたいですよ」
P 「まぁ、あの961プロだし、マーケティングとかその辺はケタ違いだからなぁ。
スタートダッシュで後れを取るような真似はしないとは思ったが、これは、アイドル自身の実力も本物だ」
涼 「うわっ! バク宙した!」
P 「ひぇぇ、どんな強心臓だよ」
涼 「うぅ……、僕、あの人たちの次なのかぁ……」
P 「緊張してる?」
涼 「当然ですよ。カメラの前では初ステージですから」
P 「こないだのオーディションの時の実力をだせれば問題ない。力抜いてな」
涼 「が、頑張ります」
<キャアアアアアアアア!
P 「終わったぞ。さ、行ってこい」
涼 「は、はい!」
TVスタジオ//
MC「いやぁ、とても素晴らしいパフォーマンスでした。音楽プロデューサーの寺田♂さんはどう見ますか?」
「僕は凄いエエと思いますよ。彼らは今後来るんとちゃいますかね。僕も一押しです」
MC「一押し発言、いただきました。ジュピターの皆さんの今後に注目です」
-----------------
舞台そで//
冬馬「よっしゃ! 好感触!」
北斗「それにしても翔太。バク宙はまだ練習段階だっただろう?」
翔太「いや、TVの前だし、あそこで行かないでどうするのさ!」
北斗「よくやるよ」
冬馬「いや、気合が入ってていいじゃねえか!」
??「全く、冬馬の言う通りだ」
北斗「社長!」
黒井「この程度の番組で120%の実力を出し切れないようではトップは程遠い、そうだろう?」
冬馬「全くだぜ!」
黒井「それに翔太とて自信もなくやったわけではあるまい?」
翔太「勿論だよ。僕が失敗するわけないじゃん」
黒井「そういうわけだ。お前たちもできると思ったら自己判断で好きにしろ。
但し失敗することは何があっても許さん。いいな?」
北斗「当然、心得ていますよ」
黒井「ククク、ならいい」
冬馬「よし、次ももっと頑張らねえとな!」
北斗「『アフタヌーン娘。』の生みの親、寺田♂さんに注目されたんだ。今後も頑張らないとね」
黒井「馬鹿いえ、あの程度のリップサービスに浮かれるな。私から見ればまだまだだ」
翔太「あ、次の人始まるみたい」
TVスタジオ//
涼 「ふぅ……、よし」
P 「(涼の奴、いい緊張具合だな)」
MC「それではお次は新人枠。先週開催のオーディションを勝ち抜いたニューフェイス。
新たなトップアイドルの誕生となるか?」
〜〜♪ 〜〜〜♪
MC「秋月涼で、『エージェント夜を往く』、Listen?」
涼 「――」スゥ
『眠れない夜 こーの身を苛む煩悩!』
??「! ……ほう」
舞台そで//
翔太「黒ちゃん、あれって言ってた765プロの新アイドルだよね?」
黒井「そうだ。765プロは我々に対抗するために、急遽男のアイドルを立てたらしい」
冬馬「ったく、卑劣な野郎どもだぜ」グヌヌ
北斗「…………」
黒井「どうした、北斗」
北斗「確か黒井社長の話だと、彼ってまだこの業界入って1か月ってとこですよね?」
黒井「そうだが?」
翔太「あ、そういやそうだね。……へぇ、じゃあ割と頑張ってるほうじゃん?」
冬馬「……確かに」
黒井「フン、愚か者どもめ。頑張ってるほう、といってもどうせ『新人にしては』という枠内でだ。
我々の敵ではないし、愚物で弱小の765プロでは育ちきれまい」
冬馬「おう、俺たちジュピターが最強だしな! な!」
北斗「わかってるよ」
翔太「全くもう、暑苦しいなぁ」
冬馬「なんだとー!?」
黒井「まぁあの程度の実力では意に介す必要もないだろう。注意するに値しない。
貴様ら、今車を用意させている。私は番組の人間と話があるから、先に戻っていろ」スタスタ
北斗「はい」
冬馬「おう」
翔太「はーい」
冬馬「……」チラッ
『もっと! たーかめて果てなく こーころーの、おくまで!』
冬馬「…………」
北斗「あれ? 冬馬、気になってる?」
冬馬「いや、まぁオッサンはああ言ってたがよ、あいつ、中々見どころあるな」
翔太「! めっずらしー……」
TVスタジオ//
『燃や、すわ! はげ、しく!』
涼 「っ!」ピシッ
パチパチパチパチパチ! ヒュー! ヒューー!
涼・P「「(よっし!)」」グッ!
MC「秋月涼、ガッツポーズです。これは手ごたえがあった証拠でしょうか?」
涼 「え!? あ、えっと」
MC「いえ、初登場にして素晴らしいステージを見せてくれました。ありがとうございます」
MC「それではゲストの方に感想をお聞きしましょう。オールドホイッスルでお馴染みの――」
武田「そう、僕だ」
MC「そう、武田プロデューサーです!」
P 「(! ま、マジか!? 超大物きた!)」
涼 「(オールドホイッスルって、あの!?)」
武田「……」
涼 「よ、よろしくおねがいします!」
MC「では、武田さん、感想をお願いします」
武田「あぁ、そうだね」
武田「まだまだ粗は目立ったけど、」
武田「……いいパフォーマンスだった、掛け値なしに」
P 「(おぉ!!)」
MC「おおっと、武田プロデューサー、べた褒めですね」
武田「彼は良い原石だ。育て方次第でいくらでもキラキラと輝くだろう」
<オォー
涼 「ありがとうございます!」
MC「好評価に客席からも驚きの声が上がっております。先週のジュピターに続き、
今週もまた、トップアイドルの芽が生まれました。それでは、秋月涼くんに拍手!」
パチパチパチパチパチパチ!
MC「では次のアイドルは――」
舞台そで・下手//
涼 「(やった! やった!)」ウキウキ
冬馬「おい」
涼 「(大成功だった! やった!)」ウッキウキ
北斗「あれ? 聞こえてない?」
冬馬「おぉい!」
涼 「え? あ、ジュピターの人!」
冬馬「俺、話しかけてたんだけど?」
涼 「あ、僕!?」
冬馬「お前しかいねえだろ!」
涼 「ご、ごめんなさい。ちょっとテンションあがっちゃってて……」
北斗「いいと思うけど、周りには気を付けた方がいいよ」
涼 「はい。ごめんなさい……」
冬馬「ったく」
涼 「で、何か用かな?」
翔太「ふん、あれで勝ったと思うなよ雑魚が!」ドーン!
涼 「えぇ!?」
北斗「こら、翔太! 開口一番なんだそれは」
翔太「え? 宣戦布告するんじゃないの?」
北斗「似てるけど違うって」
翔太「ふーん、なーんだ。じゃあ今の取り消しね? OK?」
涼 「う、うん。OK……」
翔太「あ、でも観客の盛り上がりとか見るに勝ったのは僕たちだからね?」
北斗「翔太」
翔太「ホントのことじゃん」
涼 「それは僕も身に感じてわかってます。僕はまだ勝てたとは思ってません」
北斗「まだ、か」
涼 「えっと、……やっぱり、いずれは、追いつきたいじゃないですか」
冬馬「へぇ」
涼 「いずれはジュピターの皆さん以上のパフォーマンスをしてみたいですから!」
翔太「……お兄さんさ」
涼 「なに?」
翔太「中々それ本人の前で言えないよ。度胸座ってるよね」
涼 「?」
北斗「冬馬この子、天然だよ」
冬馬「いいじゃねえか。中々度胸もあるみたいだし、気に入ったぜ!
あんた、名前なんだったっけ?」
涼 「秋月涼だよ」
冬馬「秋月涼、か。俺は天ヶ瀬冬馬だ。
涼、765プロでどこまでやれるか知らねえが、まぁ期待してるぜ」
涼 「うん。冬馬君、こっちこそよろしく」
prrrrrrrrr
北斗「はい、北斗です。……わかりました。冬馬、車来たってさ」
冬馬「そうか。じゃあな涼」タッタッタ
北斗「翔太も行くぞ。あ、俺の名前は伊集院北斗だ、よろしくね、チャオ☆」タッタッタ
翔太「僕は翔太ね。後、僕に勝とうなんて百万光年早いから」タッタッタ
< それ距離でしょ
< 距離? 何が?
< だから――
涼 「いっちゃった」
涼 「…………」
涼 「……頑張らなくっちゃ!」
それから数か月
TV局・楽屋//
P 「はい……はい、わかりました! ではお願いします! はい! 失礼し致します……」ピッ
ガチャ
涼 「疲れたー……」
P 「おお、涼! お疲れさん。よかったぞー、これからバラエティの仕事も大丈夫そうだな」
涼 「765プロに居たら自然と身に着いた感じがしますよ」
P 「まぁウチの事務所は日常がすでにバラエティ番組みたいなもんだから。
いい先輩に囲まれてるな」
涼 「男の僕も仲良くさせてもらってますし、ありがたいです」
P 「あ、そうだそうだ。さっき仕事の電話がってな、ステージの前座なんだが……」
涼 「前座ですか?」
P 「うん、Cランクになったんだから断ろうと思ったんだが、一応意見だけ聞いとこうと思ってな」
涼 「えー? 断るんですか? 良いじゃないですか前座! 出ましょうよ!」
P 「お、やる気だな」
涼 「へへへ、最近ステージに上がるのが楽しくて」
P 「うん、もう立派なアイドルだな」
涼 「いや! でも目的は男らしくなるためですからね! まだまだ目的は達せてません!
男らしく男らしく!」
P 「……、そうか――」
??「失礼」コンコン
P 「ん? はい、どなたですか?」ガチャ
武田「やぁ、僕だ」
P 「た、武田プロデューサー!?」
武田「大声を出してどうしたんだい? 何か不味かったかな?」
P 「へへぇ! とんでもねぇ! ありがてぇことでごぜえますだ!」ペコペコ
涼 「(卑屈っ!)」
武田「よしてくれ、君はもっとどっしりと構えているべき人間だろう?」
P 「お、俺、いや、私がですか!? そんなそんな……!」
武田「謙遜しなくていい。765プロのプロデューサーと言えばこの業界では有名だ。
あの小さな事務所から、所属アイドルたちを皆一流に育て上げた。
君ほどの人間を一流と言わずしてなんという」
P 「褒めすぎですよ!」
武田「たとえそうだとしても、そういう目で見られているのだから、もっと
自信にをもってほしいものだね」
P 「……ありがとうございます」
武田「それでいい」
P 「それで、本日のご用向きは?」
武田「あぁ、デビュー時に目をかけたアイドルがどうなってるかを見たくなってね。
仕事のついでに寄らせてもらったよ」
涼 「僕がですか!?」
P 「目をかけて……! やったな涼!」
涼 「い、いえ! 僕なんてそんな!」
武田「……765プロはどうにも謙遜が過ぎる人が多いようだ」
涼・P「「すみません」」
武田「まぁいい。今日はそんなことを言いに来たんじゃないんだ。
……こうやって話をするのは初めてだったね。秋月涼くん。はじめまして僕が武田蒼一だ」
涼 「改めまして、765プロの秋月涼です」
武田「君とは一度話がしたかったんだ。君には特別なものを感じていてね」
涼 「えぇ!?」
P 「涼にですか?」
武田「む? 君は違ったのかい?」
P 「いえ、そういうわけでは。ただ、武田プロデューサーがアイドルソングにそこまで
興味を示されるとは、その……」
武田「意外、かい?」
P 「……えぇ」
武田「別に意外なことではないよ。僕の好きなジャンルはポップスだからね。
それに、愛される音楽というものにジャンルはないと思っている。
例えそれがアニメソングや、アイドルソングであってもだ」
P 「なるほど」
P 「(前に千早への作曲依頼をして通らなかったのは、アイドルソングだったからじゃなかったのか)」
P 「(ポップスなら通ったかもしれないなぁ……。千早には悪いことをした)」
武田「そしてもし彼が成長し、上り詰めてくれれば、いずれオールドホイッスルへの招待も考えているよ」
P 「ほ、本当ですか!?」
涼 「ぼ、僕があの伝説的音楽番組に……!」
P 「アイドルがオールドホイッスルに……、これは歴史的快挙だ……」アワワ
武田「だからアイドルかどうかは関係ないんだよ」
P 「すみません。ですが、やはり、驚きますよ」
武田「そうかな? アイドルと歌手の違いなんてそうないよ。
君の所の如月くんはアイドルだが、歌手顔負けの実力を持っているじゃないか」
P 「! 千早、喜びますよ」
武田「秋月くんだってそうだ。センスもそうだが、彼の技術はとてもよく磨かれている」
P 「おぉ! よかったな涼!」
涼 「はいっ!」
武田「だが、まだ、それでは足りない。届かない」
涼 「はい、僕も自覚しています。まだまだ実力が足りません」
涼 「(あと男らしさ!)」
武田「それもそうだが、もっと必要なのは『心』だ」
涼 「心……」
武田「歌うことを楽しむ心。歌を聴く人を楽しませたいという心……」
武田「いつだって一流と二流の差は想いの強さだ。覚えておくといい」
涼 「はい! 肝に銘じます」
武田「そうか。君には期待しているよ」
P 「…………」フム
P 「(これは。……いけるか? いや、行こう。成功すればとんでもないプラスだ)」
武田「では急に来てすまなかったね。失礼するよ」
P 「あぁー! 武田プロデューサー! 少し! 少しだけ待ってください!」
涼 「?」
武田「どうしたんだい?」
P 「あのー、もしよろしければ、涼に、……曲を作ってやってくれませんか?」
武田「曲か……」
P 「はい! どうか涼のトップアイドルになる手助けをしてやってはくれませんでしょうか!?」
武田「そうだな……」
P 「……」
武田「…………」
P 「…………」
P 「(マズったか!?)」
武田「……」フム
武田「……。いや、そうだな。考えておこう」
P 「っ! 本当ですか!?」
涼 「やった!」
武田「ただ期限は決めないでほしい。僕はインスピレーションが湧かないと作れないタイプなんだ」
P 「えぇ! 勿論! いつまでもお待ちしております!」
武田「そうか、できるかぎり頑張ってみるよ。……それじゃあ今度こそ失礼するよ」ガチャ
P 「はい! ありがとうございました!」
バタン
P 「……やったな涼! これは凄いことだぞ! あの武田プロデューサーに曲を作って貰えるんだ!
これはアイドル活動をやっていく上で大きなアドバンテージになるぞー!!」
涼 「トップアイドルに近づきましたね!」
P 「近づいた近づいた!」
涼 「男らしさも増えますかね!」
P 「増える増える!」
涼 「やったー!」
P 「やったーやったー!」
涼 「男性アイドルとして有名になれれば、誰しも僕の事を男だと思ってくれるようになるはず!」
涼 「やっと僕……」
涼 「男らしくなれる!」
765プロ事務所//
涼 「と、思っていたけど」
涼 「…………」カチカチ
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【765プロ公式掲示板】/コメント一覧
・・・・・・・・・・・・・
[涼くんカワイイ!]
[涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね!]←
[涼くんはみごとに草食系男子だね!]
[ちょーかわいいよー^^]
[男のアイドル好きじゃないけど、涼君ならイケる]
[一生応援してます!]
[弟に欲しい]
[一生懸命かっこよくしてるのがまた萌えますなー]
[涼くんは女装とかしたら似合いそう]
[↑なにそれ禿る]
(2/144)
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涼 「むむむ」
[涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね!]
涼 「……っ」
涼 「たはは。うぅ、結構、ストレートに言うよなぁ」
涼 「…………、女の子みたい、か」
涼 「うぅ……」
P 「どうした涼?」
涼 「……、いや、事務所の掲示板見てたんですよ。僕へのコメントを」
P 「あぁー、あれな。ま、気を落とすな」
涼 「酷いですよ皆! 僕の事かわいいかわいいって!」
P 「贅沢言うな! その一言をもらうのに真がどれだけ苦労したと思ってんだ!」
涼 「それとこれとは話が別です!」
P 「まぁでもコメントしてくれるだけファンがついてくれているってのはいいことじゃないか」
涼 「そうですよね……、一生応援してます、ってコメントもありますし」
P 「そうそう。嬉しいことだよ、うん」コソコソ
涼 「……プロデューサー、なにコソコソしてるんですか?」
P 「いや、なんでも」ササッ
涼 「今、あからさまに何か隠しましたね!? 見せてください!」
P 「いや、隠して、あぁっ!」バサァ
涼 「ん? 紙? ……資料ですか?」
P 「あぁー、……この間とった写真集のレビューとかだよ」
涼 「あーこの間の! 結構カッコ良い系の路線で撮った奴ですよね!
えっとなになに、……『背伸びしてる感じがかわいい』、ぎゃおおおおん!!?」バサッ
P 「投げるな投げるな」
涼 「うぅ……。酷い。あんなに頑張ったのに、まだカワイイだなんて……!」
P 「まぁ、ねぇ」
涼 「プロデューサー! 僕ってそんなに男らしさがないですか!?」
P 「あぁ」
涼 「即答ぉー!」
P 「もう隠し立てしたってしかたないもん。涼は『かわいい男の子』的な認知のされ方してるよ」
涼 「そんな……!」
P 「写真集といい、けっこうカッコいい系路線のイメージ戦略も図ってるのになぁ。難しいもんだよ」
涼 「なんで僕そんなに男らしさがないんですかね」
P 「んー……、なんだろうなぁ、ほらあれだ、草食系なんだよ涼は」
涼 「草食系……、あ! そういえば掲示板にもありました『みごとに草食系』だって」
P 「だろー?」
涼 「じゃあ肉食系にならないとだ。……でも肉食系ってどんなのですかね?」
P 「そりゃおまえ、ガツガツしてるんじゃない?」
涼 「アバウト!」
P 「いやさ、俺もよく美希に、ゴホン、『ハニーってば草食系なの(裏声)』って言われるからな」
涼 「どうでもいいですけどそれ美希さんの物まねですか?」
P 「うん」
涼 「でもどっちかというとミキじゃなくてミッキ-
P 「おおっと、そこまでだ!」
P 「まぁつまりだ、俺もよくわからん」
涼 「うぅ……。僕は男らしくなれないのかなぁ……」
P 「いやいや人生泣くばかりじゃないぞ。そんな涼に朗報だ。実はこんな仕事のオファーがあった」ペラッ
涼 「ええと、……『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』?
あー、なんか聞いたことあります」
P 「男は普通見ないだろうな。今を時めく男性アイドルオールスターズで行われる大運動会だ!
かなりの高視聴率の有名番組でな、ここで活躍すれば知名度大幅アップだ!」
涼 「おお!」
P 「出場メンバーも凄いぞー。京都男子流、雪野守、あとジュピター、その他にも最近大流行のアイドルばかり!
涼がこの中に選ばれたってことは、世間が秋月涼を凄い男性アイドルだって認知してるってことだよ」
涼 「僕が、凄い男性アイドルとして」ゴクリ
P 「そう! つまり男のアイドルとして認められてるってこと! つまり男らしいって言われてるのと同じ!」
涼 「……ちょっと強引じゃないですかね?」
P 「ばれたか」
涼 「プロデューサー……」ジトッ
P 「まぁ、うん。真も最初はそんなだったけどさ、今ではカワイイ路線でも売れてるし、いずれ何とかなるさ」
涼 「なりますかね?」
P 「なるさ! だからいずれ男としての涼を売り出していくためにもだな、これから頑張っていかないとな」
涼 「……えぇ、そうですね。男らしさのために!」
P 「おう!」
涼 「頑張りましょう!」
P 「(こんな風にして、着実に男としての涼を売り出せていた。あの日が来るまでは――)」
P 「(そう、この頃に、なんとしてでも、誰が見てもなにをしても男に見えるように、
男らしさを磨き上げなければならなかったんだ)」
大きなスタジアム//
涼 「…………っ!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!
司会「さぁ! 『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』、
第7種目めの『玉入れ』が白熱状態だぁーーーーーっ!!!」
冬馬「こういうのはまとめて投げるが勝ちだぜ!!」ポイポイ
翔太「冬馬君てばホント脳筋だなぁ。作戦あるって言ってるんだから流せばいいのに」ポ-イ
北斗「いやいやエンジェルちゃんたちは俺たちの頑張る姿を望んでるんだから、手を抜いちゃいけないね」ヒョイヒョイ
翔太「えー? だって届かないもーん」ポイッ
冬馬「お前ら遊んでないで集中しろ!!」ポイポイポーイ
司会「紅組、ジュピター・天ケ瀬冬馬、大活躍! 白組との差がどんどんあいていくーー!!」
「やべぇ、天ヶ瀬すげぇ」
「俺らも頑張らねーと、おらっ」ポーイ
「カメラー! 俺らもうつせーー!!!」
涼 「ハァ、ハァ……っ」
司会「きたきたー! 残り30秒ぉーー! 各チーム、ラストスパート頑張ってねー!」
涼 「はぁ……っ、つ!」
司会「各チーム疲れが目立ってきているようです! 白組の、あれは、秋月涼くんですね!
だいぶ参ってるみたいです、が! 最後まで頑張ってね!」
涼 「!?」
「おい、秋月、しっかりしろよ」ポイ!
「負けたら罰ゲームなんだから、よっ! あ゛ぁ、くそ! 入らねえ!」ポイ
涼 「ご、ごめん」ゼェ
涼 「(頑張らないと、頑張らなきゃ、男らしく……、男らしく)」
司会「ラスト10秒ぉーーーーーー!!!!」
冬馬「おっしゃああ!! 最後に決めるぞ! 北斗! 翔太!」
北斗「OK、散らばった玉はこれで全部だよ。はい翔太」
翔太「よいしょ、っと。あれ、思ったより少ないなぁ」
冬馬「俺がいれたからな」
翔太「ま、持つ量が減って楽だしいいか」
司会「ラスト5秒っ!」
北斗「よし、行け翔太」
翔太「二人ともしっかり立っててよ!」ダッ
冬馬「こいやぁあああああ!!!」
司会「おぉっと!! 紅組、翔太君! 大量の玉を抱えて……、な、なんと!
二人を足蹴にして飛んだぁーーーーーーーーーー!!!!」
翔太「ほいっ、ダンクシュートぉ!」ボスッ!
ピピーーーー!
司会「決まったー!! そしてここでタイムアップーー!!!」
キャーーーーー!! カッコイイーーーー!!!
冬馬「っしゃあああぁっ!! よくやったぜ翔太!!」
翔太「あたりまえじゃん。誰に向かっていってんのさ!」
北斗「見事なブザービートだったよ、翔太」
司会「紅組、なんと最後の最後で全ての玉を入れ切り、完全勝ぉーー利っ!!
ジュピターの三人が! 圧倒的チーム力を見せ付けたぁーっ!!」
「なんだあれ……」
「敵ながらすげえな」
涼 「(や、やっと終わった……)」ヘタッ
司会「さぁさぁさぁ!! 10分のセッティングの後、前半の山場!
全員参加での『紅白リレー』が待っております! お楽しみに!」
「しゃあ! 次こそは負けねーぞ!」
「おう! 天ヶ瀬より目立ってやるぜ!」
涼 「(なんで……)」ハァハァ
冬馬「リレーか、ぶっちぎってやるぜ!」
翔太「点差開いてるし、ちょっとは流した方がいいんじゃない?」
北斗「TV的にはな」
冬馬「なーにいってんだ、勝ってこそ王者、勝ってこそジュピターだろ!?」
北斗「はいはい」
翔太「頑張ればいいんでしょーだ」
涼 「(なんで……、皆そんなに、体力あるの……?)」ハァ、ハァ
司会「では、しばらくおまちくださーい」
「おう、秋月。前半最後、がんばろーぜ!」
「男らしいトコみせてやろうな!」
「全くだ! ジュピターだけに良いカッコさせるかってんだ! 頑張ろうぜ!」
涼 「……う、うん!」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
涼 「…………」ヨタヨタ
P 「涼、大丈夫か!?」
涼 「プ、プロデューサーさん……。はい、だいじょう――っ」グラッ
P 「ちょ、……っ! ふらついてるじゃないか! これ、ほら、水」
涼 「ありがとうございます……」ゴクゴク
P 「……」
涼 「……ふぅ」
P 「……楽になったか?」
涼 「……。……はい」
P 「……、これは、軽い熱中症だな」
涼 「僕、だいじょうぶですから」
P 「わけあるか。まだ軽いから無茶してられるけど、重くなったら救急車ものだぞ」
涼 「…………」
P 「……無理もない。そもそも真夏の炎天下で運動会なんて企画からどうかしてるんだよ。
汗をかいてスポーツするイケメンを撮りたいのは分かるけど、いくらなんでもアイドル側の負担が大きすぎる」
涼 「でも、他のアイドルたちは、誰一人倒れたりしてなくて……、むしろ皆凄い元気でしたよ?」
P 「それは……」
涼 「そもそもプロデューサーさんだって、僕にもできると思ったから、仕事を受けたんじゃないんですか!?」
P 「……そうだな。だけど、実際にやってみて、そのプロデューサーがダメだと判断したんだ。従ってくれ」
涼 「……いやです」
P 「涼」
涼 「分かりますよ、誰もこの炎天下で倒れない理由。日々、蒸し暑いスタジオでレッスンをずっとしてきてるから
体力も耐性も人並み以上にあるんだと思います。……でも! 僕だってそんな特訓に耐えてきたんだ!」
P 「……気持ちは分かる。だが、涼。ここで無理をしても逆効果だ」
涼 「でも! ここで引いちゃったら……」
P 「次の種目だけでいい。ここが終われば、昼休憩をはさむ。そのあいだに回復すれば、午後の競技でも活躍できる。
だから次のリレーだけ棄権しよう? な?」
涼 「…………」
P 「涼?」
涼 「ぼくは……」
[ 涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね! ]
涼 「……っ」
P 「?」
< ピンポンパンポーン
司会「それではぁー、紅白リレーを開始しまーす! アイドルの皆、集合ーーっ!!」
涼 「」ダッ
P 「!? 涼! 待て!!」
司会「おやおやー? ちょっとちょっとー! そこの……マネージャーさん? かな?
とにかくあなたアイドルじゃないでしょー? 呼んでないよー? 集合するのはアイドルだ・け!」
あ は は は は は は !
P 「う……!」
涼 「…………」
「秋月は13番目だってさ」
「アンカー近いし、頑張ってくれよ?」
涼 「……勿論っ」
司会「さて! 出そろいました! 準備はいいかなぁ? 第一走者ー! レディー……」
涼 「……」
P 「涼……」
司会「 G O っ ! ! !」
ワー! ワー!
ガンバレー!
涼 「(改めて、周りがアイドルだらけなのを自覚する……)」
涼 「(身体が大きくて、筋肉もあって、運動もできて、ナヨナヨしてない)」
涼 「(皆すごい男らしい……)」
涼 「(……でも、僕も今は、そんな人たちと同じ場所に居るんだ)」
涼 「(だから、こんなところで棄権なんてしたら、とってもみじめだ……。より男らしくなくなっちゃう……)」
涼 「(……そうだ、今の僕は、アイドルなんだ)」
涼 「(昔の僕とは違うんだ)」
涼 「(負けたくない!)」
涼 「(だから、棄権なんてしちゃいけないんだ)」
涼 「(棄権なんて――)」
「秋月ーーっ! ガンバレー!!」
涼 「!」ハッ
司会「さぁ、そろそろアンカーも近づいてまいりました。現在、白組が大きくリード!!
第10走者の『まも様』こと雪野守くんが稼いだリードを維持しつづけています白組!!
しかし次の紅組の走者はジュピターの翔太君! さて、秋月涼くんは逃げ切れるでしょうか!?」
翔太「みんなー! 僕、負けたくないよぉー!! だからいっぱい応援してねーー!!」
<キャーーー!! 応援するーーーー!!!
翔太「へっへーん!」
涼 「…………」
司会「第12走者も白組リードのままです! さぁ、13走者に上手くバトンを渡せるかーー!?」
翔太「…………」
涼 「…………」
翔太「……あのさー」
涼 「……何?」
翔太「僕さー、最初は流すつもりでいたんだけどね? でもこんなカンジじゃん?
で、僕って負けるの大っ嫌いだからさ。マジで行くから、そっちも全力で頑張って、僕を映えさせてね」
涼 「……わかってる」
翔太「ふーん」
涼 「…………」
翔太「ん? ていうか、なんか顔色悪く――」
司会「さぁ、白組13走者の秋月君にバトンがまわったーー!!!」
涼 「っ!」ダッ
翔太「――って、行っちゃった。……ま、いっか」
司会「今、翔太君にもバトンがわたったーー! 翔太君、速い速い!」
司会「さぁ、先行する秋月君に追いつけるか……っと、あれ? 秋月君、遅い!」
司会「なにやらヨタヨタ走っています! あ、あー……、これはアレですね! 空腹、空腹ですね!」
司会「お腹が減って力が出ない秋月君! その秋月君を、今! 紅組の翔太君が追い抜いたーっ!」
司会「さぁ、更に、その差はどんどん開いていくーーっ!」
司会「そして、紅組、早くも次走者にバトンターーッチ!!」
司会「そしてそして! かなり遅れて白組の秋月涼くんがなんとかバトンタッチ!」
司会「こーれーは! 白組、痛恨の痛手だーーー!!!!」
スタジアム内部・控え室//
P 「本当に、もうしわけありません!」
司会「申し訳ありませんじゃないっての! あんたねぇ、マネージャさん。もしも、も・し・も!
倒れたらどーやって責任取るつもりだったのさ! 生放送だよ? 大人気番組だよ?
スポンサーもいっぱいついてんの!! 放送事故なんてあっちゃいけないんだよっ!!」バン!
P 「私が秋月の体調に気をつえなかったのが原因です。本当に、言葉もありません。申し訳ありませんでした!」
司会「ホント、俺の司会技術のおかげでなんとか誤魔化せたけどさ。……で? 熱中症? どーなの?」
P 「はい! 救急車を呼ぶような事態には、決して!」
司会「んなことは分かってんだよ! ていうかそんな真似死んでもさせないからな? 歩いて病院行けよ!
そーじゃなくて、この後の撮影に差し支えないか、って聞いてんの!」
P 「……申し訳ありません。出来れば、出来れば、どうか、午後の競技、せめて最初の種目だけは
欠場と言うわけにはいかないでしょうか……?」
司会「はぁっ!?」
P 「どうか、お願いします!」
司会「あのねぇ……! ……、いや、もういいよ。どーせ十把一絡げの有象無象、モブアイドルだしね。
一人抜けたって、誰も悲しみやしないか。いいよ、もう。好きに休んじゃって」
P 「……、ありがとうございます」
司会「ただし! それ以降の競技には絶対参加させろよ!? 特に最後の罰ゲーム。あれ。わかってるよね?」
P 「負けたチームの、罰ゲームのことですよね? 確か、全員でダンスですよね」
司会「そ。でもそんなことじゃなくてさ、あっち。負けたチームで一番足引っ張った奴を『逆MVP』にする、って奴」
P 「……はい」
司会「あれ、もう多分お宅のヤツで確定だから。ていうかもう俺が決めたから。ぜってー欠席させんなよ?」
P 「勿論です」
司会「はぁ……」
P 「本当に申し訳ありませんでした!」
司会「ったく、えー、765プロさんだっけ? 覚えとくよ、全く……。もう二度と俺の仕事が来ると思うなよ!?」ガチャ
バタン!
P 「…………」
涼 「…………」
P 「涼」
涼 「ごめん、なさい……」
P 「過ぎたことだよ。体調は大丈夫なのか?」
涼 「はい……。なんとか……」
P 「まぁ、しばらく休め。水分もとってな。後、これ。ほら冷えピタ」
涼 「ありがとうございます」
P 「…………」
涼 「…………」
P 「落ち込むなよ、……って、言っても無理か」
涼 「……」
P 「涼、聞いてくれ。今回の事、俺自身、見誤った部分はあったんだ」
P 「言い訳がましいけど、今までプロデュースしてきたのが全員、女の子のアイドルだったからな。
あいつらに比べれば、身体の割に、声量もあるし、スタミナもあったから、過信しすぎたのかもしれない……」
P 「結果として、涼に負担をかけることになってしまった」
P 「これ以上言い訳はしない。俺のせいだ……。だから気に病む必要なんてない」
P 「すまなかった……」
涼 「そんな、……僕だって、」
P 「いや、俺の責任だ。俺の責任にさせてくれ。責任くらい、俺にも分けてほしい」
涼 「……でも!」
P 「涼は気にせず、ひたすら頑張ってくれればいい。後のことは俺が何とかするから、な?」
涼 「……、はい」
P 「……。これまでが上手くいきすぎだったんだよ! たまにはこんなミスあるさ! フツ−だよフツー!
そうだ! 春香なんてな、昔、何十万する機材に突っ込んだことがあってなぁ、あの時は青ざめたよー。
それに比べりゃましだって! ははははは!」
涼 「…………」
P 「ははは、…………」
P 「(その後、予定通り午後の競技を一種目棄権した。なんとか涼は回復できたみたいだ)」
P 「(だが、やはり気にせず、というのは無理だったのか、精彩を欠き、見せ場という見せ場は作ることができなかった)」
P 「(そして――)」
大きなスタジアム//
司会「さぁさぁー! すべての競技が終わり、集計結果が発表されまーす!」
司会「ドキドキするだろー? 白組vs紅組、『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』、
今年の結果はぁーーーっ!?」
ダラララララララララララララララ、 ……ジャン!
司会「325対675で、紅組、圧倒的勝利ぃーーー!!!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
司会「次いで、MVPは! 熱血の名にふさわしい大活躍を見せてくれました、
ジュピターの天ヶ瀬冬馬くんーーー!!!」
冬馬「よっしゃあぁーーー!!!」グッ
冬馬くーーん!! かっこいーー!!! おめでとーーー!!!
冬馬「皆! 応援してくれてありがとな!」
キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!
司会「いやぁ、さすが冬馬君! 物凄い歓声ですね! しかし、今大会では、その他のアイドルたちも
よーく頑張ってくれました。白組は残念ながら負けてしまいましたが、雪野守くんも実に活躍していましたね!」
< まも様ーーー!!
司会「でーすが、一方で、今回活躍できなかったアイドルもいました。そんな逆MVP選手を紹介しましょー!
栄えある逆MVPに輝いたのは……、秋月涼くーーん!!」
あぁー……
涼くんドンマイー!
お疲れ様ー!
涼 「あ、ありがとうございましたー!」
司会「まぁ、両MVPとも納得の人選だったと思います。……では! お楽しみの罰ゲームの時間です!
とりあえず、秋月君には、この罰ゲームボックスからくじを引いてもらい、それを実行してもらいます。
では、どうぞ! ……ほら、引いて」
涼 「あ、は、はい! ……こ、これで!」
司会「はーい、では開けてくださーい」
涼 「……」ゴソゴソ、ヒョイ
涼「――え!? こ、これはっ」
司会「おっとっと! ストップストップ! 喋っちゃダーメよ。今から準備してもらいますんで。涼くん退場ー!」
涼 「で、でも!」
司会「オイ、いいからさっさとしろよ。なんの罰ゲームかしらねーけど大したもんじゃないだろが」ボソボソ
涼 「いや、これだけは……!」
司会「チッ、……おやおやー? 罰ゲームに困惑してるようですねー! しかし! くじは絶対!
それでは執行役のスタッフさーん! 強制連行お願いしまーす!」
涼 「え!? あ、ちょ、ちょっと! 待ってください! こ、困ります! うわぁ!」ズルズル
P 「涼!」
司会「こらそこぉ! 侵入2度目だよマネージャーさん! イエローカード累積2枚! サッカーなら退場だよ?」
P 「す、すみません!」
司会「全く、困ったものですねー。……えー、では、残りの白組の方々にも、罰ゲームを受けてもらいまーす!
ちなみに秋月君には、この罰ゲームの途中で再登場して一緒に踊ってもらいますよー。お楽しみにー!」
「罰ゲームかぁ」
「ダンスだっけか?」
司会「はいその通り! 皆さんには曲に合わせて、即興で踊ってもらいます」
冬馬「なんだ、罰ゲームっつっても大したことねーな」
翔太「ま、仮にもアイドルに酷いことはさせないでしょ」
北斗「でも確かに、罰ゲームとしては弱いかな?」
司会「えーちなみに、曲は、『青江二奈』で『伊勢佐木町ブルース』でーっす!」
「え? なにそれ?」
「しらねー」
北斗「二人ともしってる?」
翔太「さぁ?」
冬馬「アイドルの曲……、ってわけじゃねぇよな」
司会「タイトルは知らなくても曲は聞いたことがあるでしょう! M@Sプロアンテナ〜……は、古いか。
あ! ほら、大人気ドラマの『シンクロボーイズ』でも流れていた有名な曲ですよ! あのエロい曲!」
「あ」
「俺、わかったかも」
「え、何々?」
司会「それでは、白組アイドル諸君! 汗で濡らし、十分に火照ったその体で、官能的、色気たっぷりに!
踊っていただきましょーーー!!! では、ミュージックスタート!!」
<♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
冬馬「あぁ……」
北斗「これか……」
翔太「負けなくてよかった……」
司会「はい、ほら、諸君! 踊った踊った!!」
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
「お、踊るしかねーよな」
「こ、こうか……?」ビシッ
司会「そこ! 違う違う! もっとくねらせて! もっと、すぇくすぃーに!」
「グッ……」クネッ
「こ、これ……、」フニャ
「結構、恥ずかしい……!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
雪野「……」クネクネ
司会「はいはーい! 雪野くんー、もっと大きく体を使って〜!」
雪野「ぐぅ……!」クネンクネン
<まも様〜〜! かわいい〜〜!!
雪野「(あぁ……、イメージが……)」
冬馬「あの司会者、えげつないな」
北斗「雪野守はけっこうイケメン路線だったからな。イメージに傷がつくな」
翔太「面白そーだから、僕もツイッターであげちゃおうかなー」
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら あなた知って〜る
「ちくしょーー! おどってやるよーーー!」
「あぁ……、社長に叱られる……」
「恥ずかしい……!」
「紅組めぇ! 覚えてろよ!」
「うぅ……」
キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!
こ〜いとなさ〜けの〜 じゅるびじゅびーるびじゅびるばー ひがぁとも〜る〜〜
アァン…… アァン……
司会「はっはっは、盛り上がってますねぇ! ではそろそろ秋月君、登場してくださーい!! スタッフー!!」
<お願いします、やめて! ……って、うわぁ!!
司会「はい! 秋月君は一体どんな罰ゲ……――!?」
涼 「あ……、あぁ……!」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
P 「なっ……!?」
北斗「なぁ、あれ」
翔太「うわぁ……」
冬馬「あれって……」
司会「じ……、」
司会「 女 装 だ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ っ !!」
涼 「あぁ……っ」ペタン
司会「なんとクジの中身は『セーラー服で女装』だったようです! いや、しかし、罰ゲームというか……、
いやはや! これ以上ないくらいに似合っているぞ秋月涼ぉーー!!!!」
<キャーーー!! 涼君かわいいいいいい!!!
<超似合ってるううううううう!!!
司会「いやぁ! これはもう女の子といっても分からないくらいですよ! いや! びっくりだ!
では、ほら、君も踊って踊って!!」
涼 「うぅ……」
司会「放送事故になっちゃうよ?」ボソ
涼 「! は……、はい……」スクッ
司会「さぁみんなでおどろんぱ! カメラさん! 秋月君もっと写しちゃってよ! こーれーはーここにきて
とんでもない逸材が生まれちゃったよぉーー!!? お茶の間の皆さんも注目ー! 視聴率アップに貢献してね!」
P 「涼……!」
司会「女装で! エッロティックに! 扇情的に! 踊れ踊れーー!! はっはっはっはっはー!」
冬馬「…………」
いったん休止〜。飯&風呂。
多分この調子なら今日中には最後まで投下できそうだわ。
あ、何かありましたらどうぞ。恐らく9時過ぎかちょうどには再開するはず。よろしく〜。
よ〜し、やや遅刻気味だけど再開!
こっから一気に終わらせたいね。では続きをば。
765プロ事務所//
『女装にて人気急上昇!? 人気番組の罰ゲーム!』
『秋月涼(765プロ)、女装がかわいいと話題に!!』
『今週の検索ワードランキング1位、「秋月涼 女装」』
バサッ
社長「どこもかしこも、もっと他に記事にすることはないんだろうかね?」
P 「……俺が、なんとしてでも止めていれば」
社長「いいや、罰ゲームはランダムだったのだろう? 事故にあったと思うしかないよ。
問題は、これからどうしていくか、だね」
P 「はい……」
社長「君の方で、なにか反応はあったかね?」
P 「一応、この件を境にCMからバラエティから、たくさんのオファーが入りました。……ですが」
社長「どれも、衣装は女装限定、かね?」
P 「はい」
社長「だろうね。ちなみに私に直接彼の出演を要請してきた人間もいたよ。勿論、全部女装限定だったが」
P 「やはり……」
社長「うーん、本来事務所としては嬉しい悲鳴なのだが」
P 「765プロ社長としては、受けた方がよい、と?」
社長「まさか。経営者としてならば、勿論受けるべきだというが、765プロ社長としてはNOだよ。
金儲けしたくない、とは言わないが、その為にアイドルの思いを踏みにじるのは決してあってはならない」
P 「安心しました」
社長「そうそう。なので君も、会社のことは考えず、彼の事だけを考えてくれたまえ」
P 「ありがとうございます!」
社長「ただ、当面はオファーを断るとして、問題は次だ。ここで一度断ると、次、出演さえさせてもらえなくなる
可能性がある。出来たとしても、条件が厳しくなる、とかねぇ。そこはどう考えている?」
P 「はい、今後は出来る限りは番組出演を控えようと思います。一方で、そういったバラエティ要素のない、
純粋な歌番組への出演と、その為のレッスンに時間を割こうかと予定しています」
社長「まぁ、それが模範解答だろうね。幸い彼には非凡な才能がある」
P 「本当は早いうちにこうした印象を払拭したいんですが、あまり短絡的に行っては逆効果になると思いまして。
ゆっくりと、実力派としての涼をみせていきたいと考えています」
社長「ふーむ……」
P 「……どうしましたか?」
社長「……。いや、そのセンで行こう。彼の事、よろしく頼んだよ、プロデューサー君」
P 「はい!」
社長「うむ。こちらからもできる限りのことはしておくよ。では、行ってくれたまえ」
P 「ありがとうございます。失礼します!」
ギィ、バタン
社長「…………」
社長「……ふむ」
涼の自室//
涼 「……」ポチポチ
-----------------------------------------
[今後もぜひ女装での出演お願いしますっ!]
[あーあ、涼ちゃんてば完全に女の子だわ]←
[カワイイしエロエロだしで、ムラムラでした]
[女装とか、私狙い撃ちぢゃん!]
[キタキタキタキタキターーーー! 公式が最大手!]
書き込み数 321/720
--------------------------------------------
涼 「うぅ……、やっぱりキツいなぁ」
涼 「でも、これが世間の声、なんだよね」
------------------------------------------
[涼ちゃんの出演楽しみにしてます!]←
[一目でファンになりました! 応援してます!]
[おう、女装デビューあくしろよ]
[これはもう女の子デビューってことですよね! ね!]
[一生応援してます! がんばってください!!]
書き込み数 324/731
------------------------------------------
涼 「皆、女の子としての僕を望んでるんだなぁ……」
涼 「……やっぱり、僕は」
涼 「って、なしなし! 僕はそんなのしないよ、うん。何考えてんだ!」
涼 「その為に明日のオーディションでも頑張るんだしね!」
涼 「負けるもんか! 僕は男らしくなるって決めたんだから!」
涼 「そう! 男らしくなるためのアイドルなんだから……」
涼 「そうだよ、そう、」
涼 「男、らしく……」
涼 「…………」
楽屋//
翌日、、、
P 「……涼?」
涼 「っ、は、はい!?」
P 「どうした? 上の空だったけど……」
涼 「いえ! なんでもないです、大丈夫です」
P 「そ、そうか……」
涼 「はい! もう、頑張っちゃいますよ! あはは!」
P 「(明らかにテンションがおかしいな。空回ってる時の春香だよこれじゃあ)」
P 「まぁ、やる気があるぶんにはいいが、もう少し落ち着け」
涼 「す、すみません……。なんか、こうでもしてないと落ち着かなくて……。
だって今日の相手ってジュピターの冬馬くんですよね?」
P 「あぁ。だけど番組出演権は上位2位までに与えられるんだから、いつもの涼だったら大丈夫だ」
涼 「そうですか。そうですよね……うん」
P 「天ヶ瀬冬馬が一強。次点で涼。後は負けるはずもない下位ランクのアイドルたちだ。
慢心するのはよくないが、あんまりプレッシャーに感じる必要はないんだぞ?」
涼 「はい……」
P 「じゃあ出番も近いし、そろそろ準備してくれるか? 必ず勝とうな!」
オーディション会場//
〜〜♪ 〜〜〜♪
『バン! バン! ビッグバン! こーころはビッグバン!』
涼 「やっぱり冬馬くん、ソロでも凄いなぁ……。それに、カッコいい曲だけじゃなくて
こういう爽やかな曲も歌えるんだ」
『さあ叶えてみようぜ ローケットダッシュ!』
審査員「天ヶ瀬君、いいねぇ。こりゃ一位は決まりかなー」
涼 「審査員の人も完全にとりこにしてる……」
『ファイアーーーー! Go ビッグ! バン!』
<パチパチパチパチパチ
涼 「……。羨ましいなぁ……。僕も、あんな風になりたい……」
涼 「ん? あんな風ってなんだ?」
審査員「では3番の方、どうぞ」
涼 「あ、はい! ……どうも! 秋月涼です! よろしくお願いします!」
審査員「はいはいよろしくねー」
審査員「って、そうだ、君どっかで見たことあると思ったら、こないだ女装で出てた子だ」
涼 「っ」
審査員「で、今日はどっち? 男で? 女で?」
涼 「男です!」
審査員「そ。まぁそりゃそうだろうね。……たださぁ、長年審査員やってる僕の口から言わせてもらうとね、
君、女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも」
涼 「――ぇ?」
審査員「まぁ君も女装して有名になるくらいだったらそのままの方がいいよねぇ? 分かってるよ。
じゃ、初めて頂戴」
涼 「…………」
審査員「ん? 大丈夫?」
涼 「え? あ、大丈夫です! 頑張ります! 音楽お願いします!」
〜♪ 〜〜♪
『夢と 夢が 恋に 落ちる ヒミツの さ〜んごしょう〜』
涼 「(よし、良い滑り出し! 反応もよさそう)」
涼 「(このままいけば多分2位で抜けられる)」
『き〜みとさ、 みーてみたーいのさー』
涼 「(2位で……)」
「女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも」
涼 「(…………)」
涼 「(ちょっと、女の子らしさを入れてみようかな?)」
『ボクがみつけたんだ 誰も――』
涼 「っ」
審査員「ん?」
『……らないトコ ごはん食べ終えたら』
涼 「(何考えてんだ僕は! 男らしくするって決めたじゃないか!)」
涼 「(そうだよ! そんなんじゃ意味がないよ! プロデューサーも『いつもの僕』なら
大丈夫だって言ってたじゃないか。そう、僕らしくすれば……)」
涼 「(僕らしく……。僕らしく?)」
涼 「(――あれ?)」
審査員「んー?」
涼 「(……落ち着け、落ち着け。落ち着いて。……あぁもう!)」
『夜と 朝が キスを 交わす 琥珀の 地平線〜』
涼 「(こんなんじゃ……!)」
審査員「うーん……」
冬馬「……、チッ」
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――
――
審査員「えー、それじゃあ発表しますね? 番組出場権を獲得した上位2名は……」
審査員「ぶっちぎりで1位の天ヶ瀬冬馬君。と、2位のPUT-TUNの皆さんです」
「マジか!?」
「俺たちの時代が来た!」
「よっしゃあああ!!!」
冬馬「…………」
審査員「はいはい、そこの。はしゃぐな。えー、出場権を獲得した方々にはウチのディレクターから
直々にお話があるので、しばらくお待ちください。あ、落ちた方はごくろうさんでした。
……以上! 僕はディレクター呼んでくるんで、じゃ、お疲れー」ガチャ
バタン
よっしゃーーー!!
PUT-TUNの時代だぜ!
あー、勝てるかもっておもったのに……
くっそー!
ちくしょう……
涼 「……」トボトボ
冬馬「おい。秋月」
涼 「!? え、僕? 何?」
冬馬「何、じゃねえよ。なんなんだよあの歌は」
涼 「……関係ないでしょ」
冬馬「っ!」
グイッ
涼 「うっ!」
冬馬「ふざけんな! お前はそんなもんじゃなかっただろうが!
なのになんだあれは! 腑抜けてんじゃねえよ!」
涼 「……っ」
冬馬「実力が云々じゃねえ! 単純に気持ちが全くこもってなかった!
そんなだからあんな100円ショップで10円で売ってるような衣装着てる奴らに負けるんだよ!」
「100円ショップって……」
「え、えーっと、俺らの事?」
「え? え? 酷くね?」
冬馬「ちったあお前の事期待してたのに。……そんな中途半端な奴だとは思わなかった。がっかりしたぜ。
初めて会った時の方がまだマシだった」
涼 「……、僕だって――」
冬馬「あ?」
涼 「僕だってな! 好きでこんなになってるわけじゃないんだ!」グッ
冬馬「っ」
涼 「やりたいこととかやれることが、全部バラバラで! やりたいこともわけわかんなくなってきたし!
ごちゃごちゃで! 意味わかんなくて! もう! ……もう、……ちくしょう」
冬馬「……」
ど た ど た
P 「ちょ、涼! 大丈夫か!?」
審査員「おいおいちょっと! 何の騒ぎ!?」
涼 「プロデューサー……」
冬馬「……ふん」
P 「君、離してくれ」
冬馬「……わかってるよ」パッ
涼 「ぅ」
審査員「ちょ……、あんまりエキサイティングなことされると困るんだけど」
冬馬「すいませんでした」
審査員「えー、冬馬君、一応事情だけ聞かせてもらえる? 765さんもできれば残って」
P 「俺がいれば大丈夫でしょうか?」
審査員「うーん、ま、いいよ」
P 「じゃあ、涼。先に楽屋へ戻ってゆっくりしててくれ」
涼 「……、はい」
会場・廊下//
涼 「…………」トボトボ
??「やぁ、災難だったね」
涼 「!? 武田さん。どうしてここに」
武田「近くに寄ったんだ。後、君とジュピターくんたちが気になって」
涼 「…………」
武田「見ていたよ」
涼 「……ごめんなさい」
武田「……。謝るということは、自分でも何が悪いか分かっている、ということだね?」
涼 「……はい」
武田「そうか。なら僕からは言うことはない」
涼 「…………はい」
武田「それでは。……そうだ、言い忘れていた。頼まれていた君への曲、できたよ」
涼 「え? あ、ありがとうございます!」
武田「だけど、今は渡さない方がいいかもしれないな」
涼 「あ……」
武田「君自身、結論がでたら、取りに来るといい」ガチャ
バタン
涼 「…………」
涼の自室//
ガチャ
涼 「……はぁ」ボスン
涼 「……」
涼 「……最悪だ」
涼 「僕、なんで、アイドルやってるんだろう……」
涼 「こんな思いまでして……」
涼 「……」
涼 「辞めよっかな」ボソ
涼 「……」
涼 「――って」
涼 「(何度も何度も考えたのに)」
涼 「どうしてか、辞めたくないんだよなぁ……」
涼 「わけわかんないや」
涼 「どうして、なんだろう」
涼 「(何故だろう。元々、男らしくなるために始めたアイドルなのに……)」
涼 「(女装して有名になるくらいなら、辞めた方がましだって思ってるのに)」
涼 「(なんで、なんで……、)」
女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも
涼 「あの言葉に一瞬揺らいじゃったんだろう……」
涼 「トップアイドルも夢じゃない、か」
涼 「夢……」
涼 「男らしくなること、男だって認められること?」
涼 「そうだよ、そう」
765プロ事務所//
翌日、、、
涼 「うぅ……」
涼 「(結局、一睡も出来なかった……!)」
涼 「マズいなぁ、今日は善澤さんにインタビューしてもらう日なのに」
涼 「(でもまぁ、目が覚めてたって、はっきりと取材に答えられるとは思えないしなぁ)」
涼 「もう、なるようになれだ」
ガチャ
社長「おや、秋月君、早いねぇ」
涼 「社長! おはようございます。……ちょっと、眠れなくて」
社長「ははは、まぁ徹夜は若さの証だ。だが無理はしちゃいけないよ?」
涼 「ははは、ごめんなさい……」
社長「ところで、それは悩み事があるからかな?」
涼 「あー……、まぁ、そうです。はい」
社長「昨日の今日だからねぇ。プロデューサーくんからあらましは聞いたよ」
涼 「すみませんでした、その……」
社長「オーディションに負けたことかい?」
涼 「……はい」
社長「っ、ははははは」
涼 「ど、どうしたんですか?」
社長「いやいや、凄いことを言うなとおもってね。キミィ、まさかオーディションに負けたくらいで
ウチの事務所がどうこうなると思ったのかね?」
涼 「そうじゃなくて、そのみっともない所を」
社長「その言葉、やよい君に聞かせたら落ち込むよ」
涼 「やよいさんにですか?」
社長「彼女は最初、かなり負け越していたからねぇ。同時期にライバルとなった我那覇くんに、
よくオーディションで負かされていたよ」
涼 「そう、だったんですか」
社長「彼女もよく落ち込んでいた。しかし持ち前の明るさで、いつもすぐに気持ちを切り替えて
いつもハイテンションで次に進んでいたよ。そして、今となってな日本でその名を知らない者は
いないくらいのトップアイドルだ」
涼 「やよいさんはやっぱりすごいですね」
社長「そうとも。転んでもケロッと起き上がる、そんな強さが彼女にはあった。そして成功した。
君も一つの負けで落ち込んでいてどうする?」
涼 「それは、わかります。……でも、僕は……」
社長「……、ふむ」
涼 「…………」
社長「君は何がしたい?」
涼 「? ……かっこよく、男らしくなりたいです」
社長「ふむ、そうか」
涼 「はい」
社長「それで?」
涼 「え……?」
社長「…………」
涼 「それで……って?」
社長「……今でもやはり、夢は『男らしくなりたい』かね?」
涼 「それは勿論そうです!」
社長「フフフ、君は真面目だねぇ。律子君とよく似てるよ。私なんて到底無理だ。
ティンときたらあちらやこちら、なんでも目移りしてしまう」
涼 「はぁ」
社長「そうだな。……一つだけ、話をしよう。ウチの、女の子のアイドルたちなんだがね?
彼女たちの志望動機も色々あるんだよ。例えば、歌を歌いたいから、家族の為にお金を稼ぎたいから、
はたまた、君と似たように、自分の性格を直したいから、という子もいる」
社長「だけど、それは彼女たちの一歩目の動機だ。今もそれだけで全て支えられているわけじゃない。
だからこそ今の彼女たちには、一流のアイドルにふさわしい、何事にも屈しない想いの強さがある」
涼 「……そういえば、武田プロデューサーにも言われました。
一流と二流の差を分けるのは想いの強さだ、って」
社長「なるほど、さすがに良いことを言う。ならば悩んでいる君に私も一つだけ、助言をしよう」
社長「『2』という答えはね、1×2でもできるが、1+1でもできるんだよ」
涼 「え? それはどういう……」
社長「さぁねぇ」
善澤「お前はいつもはぐらかすな」
涼 「善澤さん!? おはようございます」
社長「なんだね、来ていたのか」
善澤「君が呼んだんだろうに」
社長「そうだったね」
善澤「それより、けむに巻かずに、教えてあげればいいじゃないか。
結構悩んでいるように見えるよ、彼」
社長「いやいや、彼の担当はプロデューサー君だ。出来るだけ、彼と解決していってくれたまえ。
彼もきっと君を正解へと導いてくれることだろう」
涼 「プロデューサーがですか?」
善澤「なんだ、意外かい?」
涼 「いえ! そういう意味でなく! プロデューサーは凄い人だと思います!」
善澤「まぁ、この喰えない男が惚れ込んだプロデューサーだ。悪いようにはならないさ。
彼は中々人をよくみている。きっと上手くしてくれるさ」
社長「おいおい、あまり言い過ぎないでくれよ?」
善澤「わかったよ。まぁこいつの言ったことをまとめるとだ、
難しく考えないで、君の思う通りに行動するのが正解ってことだよ」
涼 「ざ、ざっくりですね」
善澤「彼は君の行きたい方向へ進む手助けをしてくれるはずさ。後は、君次第だ」
涼 「…………」
社長「そういうわけだ。期待しているよ、秋月君。
さぁ、じゃあ取材を始めてもらおうか。音無君、すまないがお茶を頼むよ」
善澤「ありがとう。じゃあ、さっそくだけど始めさせてもらおうかな」
涼 「(僕の思う通り、か)」
涼 「(僕って何がしたかったんだろう……)」
今でもやはり、夢は『男らしくなりたい』かね?
涼 「(そうだよね。男らしく……)」
1+1でもできるんだよ
涼 「(でも今は、……それだけじゃない、な)」
羨ましいなぁ
僕も、あんな風になりたい
涼 「……、そっか」
涼 「僕は、――」
765プロ事務所//
夕方、、、
P 「はい、……いえ、そういった条件では、はい、……申し訳ありませんでした」ガチャ
P 「うーん」
涼 「また女装で出演オファーですか?」
P 「いやまぁ、気にするな」
涼 「…………」
P 「さて。……そうだ、涼、コーヒー飲むか?」
涼 「おねがいします……」
P 「そっか、ちょっと待っててくれ」
カチャカチャ コポポポポ
涼 「……」
涼 「あの、プロデューサー」
P 「んー?」テクテク
涼 「……やっぱり、女装の方がいいんですかね?」
P 「……、涼自身、色々考えたんだろう」
涼 「……」コクン
P 「聞かせてくれるか?」
コト
涼 「正直、僕も、まだよくわかんないんです」
P 「そうか」
涼 「でも、一つだけ、なんだかわかったことがある気がします」
P 「なんだ?」
涼 「僕は、」
涼 「僕は、アイドルをやっていたい」
P 「……男らしさは、どうしたんだ?」
涼 「勿論今でも、そうなりたいですし、僕の目的です。……けど、実際それが難しくなったし、
こうなったら最悪、女装でもいいかなとも思えてきちゃって」
P 「……男らしさは諦めるってことでいいんだな?」
涼 「それなんです!」
P 「?」
涼 「……それも、できたらその、諦めたくない」
P 「んん?」
涼 「いや、その、難しいことだって言うのも知ってます。……でも、」
涼 「でも、僕は、やっぱり、男のままでいたい」
涼 「僕は、昔から弱い子で、女の子みたいだって言われ続けて、誰からも男扱いされてこなかったけど、
もしアイドルになれば、こんな僕でも変われるって、そう思って」
P 「…………」
涼 「だから、アイドルになって、こんな僕にも応援してくれる人がいて、カッコよくなれて……、
うん、……楽しかったんです」
P 「……、つまり、こんな状況でもまだ、今までどおり男の格好で、
しかもそれでいてアイドルとして成功したいってことか?」
涼 「はい」
P 「わかってると思うが、茨の道になるぞ。ニーズっていう一番逆らっちゃいけない魔物の相手をすることになる。
TV局だって敵に回すかもしれない。だが、女装してTVに出れば一躍スターになれるぞ? いいのか」
涼 「はい!」
P 「……」
涼 「例え女装の方が需要があるのかも知れなくても、そっちの方が成功するのかもしれなくても!」
涼 「それでもやっぱり! 男らしくなりたいし! トップアイドルにもなりたい!」
涼 「わがままかもしれないけれど!」
涼 「――僕は、なりたい自分になりたい!」
涼 「だからプロデューサー、身勝手なお願いですけど、」
P 「…………」
涼 「そんなわがままを、手伝ってくれませんか?」
P 「…………」
涼 「…………」
P 「……一つだけ、プロデューサーとして、言わせてくれるか?」
涼 「……、はい」
P 「涼ってそんな大声出せたんだな」
涼 「はい?」
P 「いやびっくりしたよー! 正直涼ってあんまり熱血なイメージなかったからさ!
なんだよー、こんな感じの引き出しがあるんだったらプロデューサーの俺に言ってくれよなー」
涼 「ちょ、えぇ!? 今そんな感じの雰囲気じゃなかったですよね!?」
P 「いやいや、今の演説で終始、声の大きさにばっかり気を取られてたよ」
涼 「そんな! だって今さっき魔物がどうとか凄いシリアスなこと言ってたじゃないですか!」
P 「ちょっとカッコつけすぎたかな?」
涼 「台無しだー!」
P 「しかし、なんだ。なりたい自分になりたい、か」
涼 「……はい、それが今の僕の気持ちです」
P 「うーむ」
涼 「やっぱり難しい、ですか?」
P 「え? なんで?」
涼 「なんで、って」
P 「大体さー、涼。なりたい自分になるー、なんて想い、アイドル養成所に通ってる新人だって
持ってる基礎中の基礎だぞ? 何を今さら」ハン
涼 「酷くないですか!? 僕、この答えに至るまでにすんごい考え続けたのに」
P 「んー、今まで結構褒め続けたけど、涼も意外と抜けてるよな」
涼 「なんなんですかもう!」
P 「あのなぁ――」
P 「なりたい自分になる、ってのはアイドルの基本! そして……」
P 「なりたい自分にならせてやるのが、俺たちプロデューサーの仕事だ!」
涼 「あ……」
P 「だから涼が『男らしく、かつ、トップアイドルになりたい』っていうんなら、
そういう道を用意してやるまでだ。それが俺の仕事だ! 薄給激務のな!」
涼 「薄給激務なんですね……」
P 「だって皆ワガママばっかり言うんだもん。調整するこっちの身にもなれってんだ!
だけども給料変わんないしよぉ。……あ、これオフレコな」
涼 「色々抱えてるんだ」
P 「社会人ってそんなもんさ。でもまぁ、やりがいはあるよ。
この仕事の楽しさに気づいたからなぁ。薄給激務でも、俺は一生この仕事をしていたい」
涼 「僕も、最近やりがいを感じてきましたよ」
P 「よかったな。男のアイドルは割と寿命長いし……、下手したらお爺ちゃんアイドルも夢じゃないぞ」
涼 「じゃあプロデューサー。僕の夢、手伝ってくれますか?」
P 「当たり前だ。大体、俺は律子に女装デビューさせられそうだったの止めるために
涼のプロデュースを始めたんだぞ? ここで女装アイドルにしたら、今までなんだったんだ、って話だよ」
涼 「あはは、そうでしたね!」
P 「だがここからが正念場だぞ。それはわかってるな?」
涼 「はいっ! 精一杯頑張ります!」
TV局・VIPルーム//
翌日、、、
コンコン
武田「入ってくれ」
ガチャ
P・涼 「「失礼します」」
武田「よく来てくれた。かけてくれ」
涼 「…………」
P 「武田プロデューサー。この度は、ウチの秋月に楽曲を作って下さり、本当にありがとうございます」
武田「構わないよ。僕自身望んでやったことだ」
P 「ありがとうございます」
涼 「あの、僕――」
武田「いや」
武田「もはや言葉を聞く必要はない」
P 「わかりますか?」
武田「自分で言うのもなんだけど、これでも業界トップクラスのプロデューサーでね」
P 「存じています」
武田「そんな僕から見て――」チラッ
涼 「?」
武田「……フッ」
武田「……良い目だ。掛け値なしに」
スッ
涼 「こ、これ! CD!」
武田「『Dazzling World』。君のために作った曲だ。細かい直しは今後していくつもりだが、
まぁ、かなりの自信作だよ」
涼 「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
P 「俺からも、本当にありがとうございます!」
武田「礼はいい。君の歌声にインスピレーションが湧いただけだ。
……それより、いま君を取り巻く環境は順風とは言えないが、大丈夫なのか?」
P 「必ず、十全の環境に、逆風を順風にしてみせます」
武田「ほう。期待しているよ」
P 「任せてください!」
武田「本当に、頼んだよ。彼には僕の夢もかかっているんだ」
涼 「え!? ぼ、僕にですか!?」
武田「あぁ、君の方向性を位置づけたくないから、詳しく語ることはないが、
……ただ、君は僕の夢をかけるに値する人間だとおもっている。勿論まだまだ原石だが」
P 「ですが、すぐに輝かせて見せますよ」
武田「本当に頼もしい限りだよ、君は。秋月君、君にも当然夢があるだろう。
だけど、君自身を夢としている人間もいることを、忘れないでくれ」
涼 「僕が、……僕自身が、夢?」
武田「そうだ。……さぁ、長くなってしまったね。悪いがそろそろ次の仕事があるんだ」
P 「はい、本日はありがとうございました! 涼、行こうか」
涼 「え、はい。あ、あの! ありがとうございました!」
武田「あぁ、がんばってくれ」
ガチャ、 バタン
武田「……ふぅ」
武田「(なぜだろうな。彼ならば、全ての国民に口ずさんでもらえる歌を、
僕の夢を、完成させてくれる気がする……)」
武田「(余計な期待をかけるつもりはなかったんだが、つい、言ってしまった)」
武田「(以前の僕なら、ここまで期待をすることもなかったのだが――)」
武田「僕もまた、彼に引っ張られたということか」フフッ
765プロ事務所//
P 「さぁ! じゃあ作戦会議と行きますか!」
涼 「おねがいします」
P 「とはいえ、涼、武田プロデューサーの前ではああいったが、正直今の俺たちに取れる戦略は少ない」
涼 「どこにいっても、女装を求められるから、ですか?」
P 「そうだ。実は先日な、純粋な歌番組のオーディションですら要請があったよ」
涼 「えぇ〜……」
P 「ただその中で、こんなオファーがあった」ペラッ
涼 「何々、『白熱! 男だらけのアイドル水泳大会inサマー!』?
え? これ完全にあの司会者の番組ですよね」
P 「あぁ」
涼 「あれ? こないだもう仕事は回さない、みたいなこといってませんでしたっけ?」
P 「たしかにな。でも涼の話題が盛り上がるや否や、すぐさまオファーしてきたよ」
涼 「なんか、納得いかない……」ムスッ
P 「まぁしたたかなんだろう。あの司会も、番組制作者も。だけど呼んでくれたことに、今は感謝しよう。
この番組は、一番条件がいいんだ」
涼 「条件?」
P 「高視聴率。加えて、この番組だけが唯一、男性アイドルとして出演できる」
涼 「へぇ、意外」
P 「ただし、罰ゲームは女装一択になっている」
涼 「あぁ、完全に僕を狙い撃ちにしてきている、と」
P 「ちなみに競技はプールへの『飛び込み』だけだそうだ。タイムを競うらしい」
涼 「あれ? これだけですか?」
P 「前回のは特大のスペシャル番組だったからな。今回のは生放送の2時間枠に収めるために
競技は一つしかない。つまり早く飛び込みさえすれば、それで終わり、ってわけだ」
涼 「なるほど。てことはすぐに飛び込めば罰ゲーム回避ってことですね」
P 「番組的には涼が最下位になることを望んでるのかもしれないけど、知ったことか。
こっちにだって事情があるんだ。それに社長も好きにやっていいっていってたし、大丈夫」
涼 「じゃあそこで勝つ、というわけですね!」
P 「ハイリスクは承知だが、無茶は無茶で押し通すしかない。それに今の俺たちには
注目度抜群の最終兵器がある」
涼 「『Dazzling World』……」
P 「あぁ。あの番組は逆MVPに罰ゲームをかしているが、
MVPにはあの大観衆の中で自分の歌を歌える特典がある」
涼 「なるほど、その為の新曲だったんですね」
P 「その通り。前回はジュピターが持って行ったが、今回はそれを俺たちが貰う!
そこで新曲を披露し、かっこいい涼を全国放映するんだ!」
涼 「はい! 必ず、なりたい自分でTVに映って見せます!」
そして、撮影当日
大きなプール会場//
司会「『白熱! 男だらけのアイドル水泳大会inサマー!』、本日は生放送2時間スペシャルでお送りしておりまーす!」
司会「司会はいつもの私でお送りしております! それでは尺も短いので、さっそくまいりましょう!」
司会「トーップバッターはぁ、このアイドルっ!!」
冬馬「よろしくなっ!」
司会「圧倒的人気のジュピターの、天ヶ瀬冬馬くんだーーー!!!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
「うわぁ、さっすがすげえ人気だな」
「ウワサじゃ、そろそろBランク行くらしいぜ」
「マジかよ、早すぎ……」
司会「はい底の、じゃなかったそこのアイドルたち! くっちゃべってないで応援応援!
多分君たちが思ってるよりこの飛び込み台からの景色は高くて怖いよぉ?」
冬馬「へっ、怖いだって?」
司会「さぁ! 好タイムで飛べるのか! レディー……」
冬馬「問題ねーぜ!」グッ
司会「ゴ――」
冬馬「 ど り ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! ! 」ダッ!
司会「んなっ!?」
ザッパーン!
司会「タ、タイムは! なななななーんと! 3 秒 だーーー!!!」
お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お !!!!!
冬馬「っしゃああああ!!!」ザパァ
「やっぱ天ヶ瀬半端ねぇ」
「凄ぇな。流石違うなぁ。な、秋月?」
涼 「ん? 僕? そうだね。……でも、負けるつもりはないから」
「「…………」」
涼 「? どうしたの?」
「なんか、秋月変わったな」
「おぉ、なんかな」
涼 「そう?」
司会「さぁさぁトップバッターの天ヶ瀬冬馬! なんと一切の躊躇なし!
記録は驚異の3秒! 果たしてこの記録を塗り替える猛者は現れるのかー!?」
そして番組終盤、、、
『――、以上の番号のアイドルの方は待機所に集まってください』
涼 「僕か」
「お、秋月も頑張ってこいよ!」
涼 「うん、頑張ってくるね!」
「おう!」
涼 「…………」テッテッテ
P 「出番だな、涼!」
涼 「…………」
P 「緊張してるな」
涼 「会場では上手く振舞えたつもりだったんですけど、やっぱり緊張しますね」タハハ
P 「いやいや、上出来だよ」
涼 「あー、やっぱりすぐには変わらないものだなぁ」
P 「男らしく、か?」
涼 「はい……」
P 「そうだな、俺としては、今日は涼らしく……っていいたいんだけど、それじゃダメか?」
涼 「できれば、いつもよりかっこよくいきたいですね」
P 「そっか。……うーん、じゃあ、アイドルらしく、っていうのはどうだ?」
涼 「アイドルらしくですか? どういう……」
P 「ごめん、俺も上手く言えないんだけど……、こう、ステージに立つ人間らしくというか、
ファンを楽しませる人間らしくというか……。うん」
涼 「それっていつもと変わらないような」
P 「あー、なんていうか上手く伝えられない……。……そうだ! まとめて言うとだな、
あれだ、ステージに立った時の気持ちを、もっと感じて、大切にしてみろ、……かなぁ?
涼はステージに上がった時ってどんな気持ちだ?」
涼 「ステージですか? ……それは、こう、高揚する、みたいな」
P 「そうそう! その気持ちをさ、大切に感じれば、自ずとカッコよくなれるよ! ……多分」
涼 「多分……」
P 「ごめんな涼……。うまく言えなくて……。でもきっと間違いじゃないとは思うんだ。
春香たちが、こう、舞台でキラキラ輝いてるときは、いつもそういう気持ちなんだって思うから」
涼 「そういうと、凄い説得力ありますね」
P 「そうか?」
涼 「はい、だって、プロデューサーはよく人を見ている人だって、善澤記者もいってましたから」
P 「えぇ、なんだよ、照れるなぁ」
涼 「ねぇ、プロデューサー」
P 「何だ?」
涼 「プロデューサーからみて、今の僕は、どうですか?」
P 「…………、そうだな」
涼 「…………」
P 「……実はな、俺自身、涼は最初、他の女の子のアイドルたちと同じ感覚で接することができたんだよ。
かわいい路線だったし、こう、男男してなかったから」
涼 「とほほ」
P 「でも、なんだろうな、今の涼は、完璧に男性アイドル、って感じがしたよ」
涼 「そうですかね」
P 「勿論だ! 俺の目は確かだぞ、って、善澤さんも言ってたんだろ?」
涼 「あはは、確かに!」
P 「おう! 俺から見て今日の涼のコンディションはバッチリだ! 絶対成功するよ!」
涼 「そうですか、じゃあ、……ちょっと、頑張ってきます!」
P 「大丈夫だ。涼なら」
涼 「お墨付き、ありがとうございますね!」
「765プロの秋月涼さーん、出番ですのでこちらへー」
P 「よし! 行ってこい、涼!」
涼 「っ! はいっ! 行ってきます!!」
司会「さてさて、ここまでを振り返りましょう」
司会「まずトップバッターがジュピターの天ヶ瀬冬馬くん。ノータイムでの飛び込みで3秒をマーク!
現在堂々1位につけています」
司会「その後、先頭の冬馬くんに続けとばかりに、出来るだけノンストップで飛びこもうとする人が
たくさんいましたが、やはり高さに一瞬戸惑ったのか、大体10秒台、最速でも7秒となっておりました」
司会「そしてぇーー! そんな流れを変えたのがこの人! 同じくジュピターの伊集院北斗くぅん!」
司会「64秒とタイムは遅いものの、空中でトリプルアクセル!
無駄に洗練された芸術的ジャンプを披露! そしてその時のコメントが……」
北斗『やっぱり、アイドルなら、かっこよく飛ばないとね☆』チャオ☆
司会「この一言が他のアイドルたちに火を点け、カッコ良いジャンプに重点が置かれるように!
後続のアイドルたちはタイムそっちのけで華麗なジャンプをするようになりました!」
司会「そして現在のワーストタイムは112秒!」
司会「残すはあと2人! 果たして優勝は! そして罰ゲームを受ける逆MVPは誰なのかぁー!!?」
司会「一旦CMヨロシクゥ!」
プールサイド//
涼 「よぉし! 頑張るぞ!」
翔太「なに、超張り切ってるじゃん」
涼 「あ、翔太君」
翔太「僕が大トリだからさ、まぁ目立たない程度に頼むよ」
涼 「……いや、今日は僕本気だから!」
翔太「んー?」
涼 「? どうしたの?」
翔太「いやさ、冬馬くんが『あいつはもうダメだー』とか『漢気が足りてねー』とか
色々言ってたけど、なーんか前見た時から別に悪くなってる気がしないっていうか」
涼 「色々あったんだよ」
翔太「ふーん……。色々、か」
司会「お二人さんお二人さん! あとは君たち二人だけだよ! 期待してるから、頑張ってね!」
翔太「はーい! よろしくお願いしまーす!」
司会「うんうんー! いい返事ー! さすが大トリをつとめるだけあるよー!
秋月くんもさ、よろしくお願いね?」
涼 「はい! 勿論! 1位狙います!」
司会「はっはっは! 面白いこと言うねー! じゃなくてさ、可愛らしく最下位狙ってちょうだいよ?」
涼 「はい、頑張ります!」
司会「……ん? わかってる?」
涼 「頑張ります!」
司会「…………」
涼 「頑張って見せます!」ニコニコ
司会「……。あそー、頼んだよ?」
涼 「はい!」
司会「じゃ、飛び込み台に上がってくれる? CM明けちゃうから!」
涼 「はい! 頑張ってきますのでー!」タッタッタ
司会「はいはーい! 精々がんばってー! ……翔太君も、頑張ってねー!」スタスタ
翔太「……、勿論だよ!」
司会「……チッ、分かってんだろなぁあいつ」
司会「まぁいいや。おいお前、スタッフ用のレシーバーよこせ」
司会「あ、あー。飛び込み台のスタッフ? 聞こえてる? あ、聞こえてる、あっそ」
司会「ちょっとさー、めんどくさいことが起きるかもしれないんだよねー。
そーそー、次の。うん、秋月涼」
司会「だからさ、」
司会「そっちで上手くしといてよ。……ん、はいはいよろしくー」
翔太「(……ホント、色々あるみたいだねー)」
翔太「チッ、……あ゛ー、嫌なもの見ちゃったなぁー」
飛び込み台//
ヒョオオオ
涼 「うひゃあ、結構高いなぁ……」
「秋月さん、大丈夫ですか?」
涼 「スタッフさん! はい大丈夫です! 今日は張り切ってますから!」
「そ、そうですか……」
涼 「?」
司会「はいはーい、ではCM明けーっ! 番組も大詰めーっ! お次に飛んでもらうのはーー、
最後から2番目! 前回逆MVPを獲得した秋月涼くんだああぁーーー!!!」
< きゃーーー!! 涼くーーん! がんばってーーー!!
司会「えぇそれでは! 是非とも"頑張って"貰いましょう! レディーーー、ゴーーー!!」
涼 「(ノンストップで!)」ダッ
ガシッ!
涼 「――っ!?」
「…………」
涼 「な、離し――!」
司会「さてまずここで天ヶ瀬冬馬くんの3秒を超えたー! これで1位はなくなりましたー!!」
涼 「あ、あぁーー!!」
「…………」
涼 「な、……なんてこと! なにを!」
「…………」
司会「さぁさぁドンドン時間が経っていくー!
10・11・12、毎秒ごとにどんどん順位を落としていくぞーーー!!」
涼 「くっ、いいから! 話して、くださいよっ!」ググ
「だ、ダメです! 上から言われてるんですよ!」
涼 「え?」
「あなたを失格にさせるようにと! だから離せません」ギリリ
涼 「そ、そんな……!」
大きなプール会場//
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
司会「おやぁ、どうしたことでしょう? 秋月くん、一向に飛び込んでこない。
というか飛び込み台に出て来さえしないまま、ずいぶん経ってしまいましたねぇー」
<涼くーん!
司会「ほらほらー! 客席からも応援の声ですよー! 秋月くん、飛び込んじゃってくださいよー!」
司会「でないと罰ゲームの女装が待ってますよー!! あ、でも似合うからいっか!!」
あ は は は は は は !
司会「ありゃ、そうこうしているうちにワーストタイムを超えてしまったーーーー!!!」
P 「(……涼、どうしたんだ?)」
司会「ここでもう一度ルールをおさらいします! この競技はもっともタイムが遅かったアイドルが負け!」
司会「そして、300秒、即ち5分経てば、『棄権扱い』となり問答無用で失格! 最下位となります!」
司会「そしてそして、そうなれば! 罰ゲームの『女装deダンス』が待っておりまーす!」
司会「あの大運動会以後、TVで女装姿を見せてこなかった涼君ですが、
この番組で初披露となるのかーー!! お茶の間の皆さん! チャンネルはそのままでぇ!!」
司会「いんやー! これ視聴率上がっちゃうなーーー! ってね! うっはっはっはっは!」
P 「……まさか、……何かされたんじゃ!?」
P 「くっ!」ダッ
司会「はっはっはー! ……ん? っと、皆様、それではしばらく応援してあげてください!」
司会「……おい、お前。あのマネージャーとめてこい」
車の中//
黒井「ウィ、ではその様に頼むぞ」ピッ
社員「もしかして、決まりましたか?」
黒井「なんだ貴様聞いていたのか。運転に集中しろ」
社員「すみません。しかしジュピターがアリーナライブですかー、流石黒井社長ですね!」
黒井「フン、アリーナ如きで浮かれていてどうする。あんな小さな箱でのライブなんぞで」
社員「そうですか? わたしからすれば凄いことだと思いますが……」
黒井「黙って運転しろ」
社員「す、すみません!」
黒井「(しかし日程は僅か、か。練度は問題ないとして、目玉をどうするか……)」
黒井「むっ」
社員「どうされました?」
黒井「そういえば、今日この近くでジュピターの撮影があったな」
社員「あ、はい。このプール施設ですね」
黒井「……、寄れ」
社員「え?」
黒井「そこに寄れと言っている」
765プロ事務所//
[TV]<マダ トビマセン! アキヅキクン!
社長「ふーむ……」
善澤「彼はどうしたんだろうねぇ?」
社長「ちょうどカメラの位置からは何も見えないが、これは何かあったとみるべきか」
善澤「黒井か?」
社長「さぁな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
善澤「わからないと言え」
社長「まぁ、いずれにせよ、秋月くんなら乗り越えてくれるだろうさ」
善澤「信頼が厚いことだ」
社長「当然だとも。逆境こそ、成長の必要素なのだからね」
プールサイド//
P 「くっそ! お前ら離せ!」グイグイ
「こ、困ります! これ以上先は関係者以外立ち入り禁止です!」ガッチリ
P 「俺は秋月涼のプロデューサーだ! 関係者だっつの!」グググ
「それでもです! 困るんですよ!」グイイ
P 「ぬおおおおお!!!」グググググ
「おい! 誰か手伝ってくれ!」グッ
「お、おう!」ガシ
P 「涼ぉおおおお!!!」グググググ
翔太「うっさいなぁ。何してんの?」
「あ、いえ! 問題はありません、問題は!」
「御手洗くんは、待機しておいてくださいね!」
翔太「ふーん。あ、アンタ765プロの」
P 「そういう君はジュピターの御手洗翔太!」
翔太「え? 呼び捨て? ……まぁいいや。765プロのお下劣悪辣プロデューサーだもんね」
P 「な、なにぃ!?」
翔太「で? 何しに来たの? 僕への妨害? 悪いけどそんな手は――」
P 「 違 う っ ! 」
翔太「っ、なんだよ! 急に大きな声だすなよ!」
P 「涼が、うちの秋月涼が、上で何かあったみたいなんだ!」
翔太「あー……」
P 「何か知ってるのか!?」
翔太「……まぁね」
P 「そうか……」
ダダッ!
「あ!」
「こいつ!」ガシィ!
P 「てめぇらやっぱり何かあったんじゃねえか!!」グググググ
「いや! なんにもないですよ! ホントホント!」
「えぇ! なにもなにも!」
P 「嘘つけゴラァ!!」グイー
翔太「……、あのさぁ、はしゃいでるとこ悪いけど、もう彼、最下位確定だよ?
てか女装した方が美味しいんじゃん? なんでそんな頑張ってんの? 意味わかんないんだけど」
P 「涼が言ったからだよ、嫌だって! だったらさせちゃだめだろ!?
それに今日は大事な時なんだ! 今日飛ばなきゃ、一生あいつがなりたい自分になれなくなるかもしれないんだ!」グヌヌヌヌ!
翔太「……」
翔太「……やっぱ意味わかんないわ。アンタ」
P 「うっせ! って、うおおぉ!?」グラッ
「よし! 抑え込んだぞ!」
「もう一人呼んで来い! のしかかれ!」
P 「うおおお!!! 涼ぅうぅううう!!」ジタバタ
翔太「っ、ぷ、あはははは! ジタバタしてる! 虫みたい! おもしろー!」
P 「笑い事じゃないんだけど!?」
翔太「あー面白かった。ごちそうさまでした」
P 「見世物でもないんだけど!?」
翔太「お兄さんって黒ちゃんが言うほど悪い人じゃなさそーだね」
P 「あん?」
翔太「じゃ、僕は次の飛び込み待機しとくんで。
……あ、スタッフさん? そう、あれ。あれが不審者。抑え込んじゃってよ」
P 「うおおーーー!! テメーー! 御手洗ぃいい!!!」ジタバタジタバタ!
翔太「あはははは! 呼び捨てた罰だよ! がーんばってねー!」テクテク
飛び込み台//
司会「さてさて! 秋月涼くんが怖気づいてからかれこれ4分! 後1分で失格! 女装だー!」
「すみません! すみません!」ググッ
涼 「話して……っ! お願いします! どうしても飛ばなきゃいけないんです!」グイ
「すみません! すみません!」
涼 「うぅ……っ!」
涼 「(こんなとこで……)」
涼 「……、いや」ガシッ
「!?」
涼 「僕は、なりたい自分になるんだ!」
涼 「(逃げられないなら、こっちから倒してやるまでだ!)」グッ
「なっ!?」ヨロ
涼 「ええぃ!!」グィッ!
「っと、危ね」タタッ
涼 「…………」
涼 「(た、倒せなかった。ていうか全然効かなかった……!)」
涼 「僕ってやつぁ……、そんなに筋肉ないんだなぁ……、うぅ」
司会「さぁ時間が迫るー!」
涼 「! ど、どうしよう……!」
「本当にすみません!」
涼 「くぅ……」
??「ねぇ」
涼 「!? あ、君……」
翔太「あのさ、スタッフさん。僕、喉乾いたいたんだけど」
涼 「!?」
「え? あ、あの、この状況でですね……」
翔太「はい? いや、喉乾いたって言ってるじゃん」
「えーっと……」
翔太「早くしてよー。紅茶が飲みたいんだよー」
「こ、紅茶!? ……あ、紅茶なら下のスタッフ用の冷蔵庫に午前ティーが」
翔太「は? お前マジで言ってんの?」
「!?」
涼 「え、えぇー……」
翔太「まさか僕にスタッフ用の飲めって? しかも取りに行けって? そしてあまつさえ午前ティー?
え? あ、馬鹿にしてるの?」
「い! いえ! 滅相もございません!」
翔太「それに僕が飲みたいのはロイヤルミルクティーなんだよね。安物じゃない奴」
「えぇ、そんな! そんなものおいてないですよ」
翔太「買いに行けばいいじゃん。てか、行けよほら、ほーら」
「いや、それは、その」
翔太「問題だよっ♪ 961プロの僕と番組司会者、どっちが偉いでしょーか☆」
「よ、喜んでぇぇえええええ!!!」ヒィイイ!
ダッダッダッダッダ!
翔太「……最初から行けっての、バーカ」
涼 「……」ポカーン
翔太「ねぇ、さっさと行かないとタイムアップしちゃうよ?」
涼 「え? あ! そうだった!」
翔太「ったく」
涼 「あの! ありがとう!」
翔太「はいはい」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! !
司会「!?」
涼 「ふぅー」
司会「っ、あれ? お、おーっと! 秋月涼くん、ここにきて飛び込み台に立ったー!」
司会「(スタッフの馬鹿、何やってんだ!)」
涼 「――」スッ
プールサイド//
P 「り、涼!」
「あ、あれ、いいのか?」
「ど、どうしようか……」
P 「おい、離せ! ……涼ーーー!!! 頑張れえええええええええ!!!」
大きなプール会場//
北斗「あ、彼出てきたみたいだよ?」
冬馬「はぁ!? 何今さらになって!」
北斗「もしかしたら何かあったのかもね」
冬馬「そうかぁ? 漢気が足りねーだけだろ!」
北斗「どうだろう。ホラ、モニターに写ってる彼、見てみなよ」
冬馬「……!」
北斗「俺はエンジェルちゃんたちばかりに目が行くタチだけど……」
北斗「マジになった男の顔くらいは、まだ忘れてないよ?」
冬馬「……キザったらし」
北斗「そういうキャラなんだ☆」
飛び込み台//
涼 「…………」
「がんばってー!」
「涼くーーん!」
「涼くんファイトー!」
「応援してるよー!」 「ガンバレー!」
「涼ーーー!!! 頑張れえええええええええ!!!」
「かっこいいよーー!!」
「ファイトー!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! !
涼 「……ははっ」
涼 「(なんだろう)」
涼 「(なんだろう……。『かっこよくなりたい』って言う動機は、運動会の時と変わらないのに……)」
涼 「なんだか前とは違う心境だ……」
< ガンバレー!
涼 「あはは!」
涼 「(こんな時間ギリギリなのになぁ……。すっごい、声援が気持ちいい!)」
涼 「……そっか、これがアイドルらしさなのかもなぁ」
涼 「(今の僕がしたいこと。……男らしくなりたい。トップアイドルになりたい――)」
涼 「(かっこよくなりたい。歌いたい。踊りたい。認められたい。歓声を受けたい)」
涼 「誰よりも、誰よりも、一番――!」スッ
765プロ事務所//
[TV]<キャアアアアアア!
善澤「おぉ?」
社長「ふむ……。秋月君、いい面構えになったね」
善澤「これは、何か吹っ切れたかな?」
社長「いやぁ、私は、逆じゃないかと思うがね」
善澤「逆?」
社長「むしろ色々な欲望が、彼の心中を渦巻いている頃さ。
彼は今になって初めて、アイドルとして、男として大切なものを手に入れたんだと思うよ」
善澤「そのこころは?」
社長「エゴだよ。貪欲さ。……自信や積極性といってもいい。舞台の真ん中に立とうとする闘争心。
オスとしての本能、みたいなね。ほらよく言う、ガツガツとした肉食系男子ってやつだよ。
幸か不幸か、彼には才能があったから、今まではそれがなくても立ってこれたが――」
善澤「現状、それが遠ざかってしまった。だからこそ、自覚できた、と?」
社長「飢えた時に初めて食べ物のありがたみに気づくのと一緒だよ。
歓声や目立つことの快感は麻薬みたいなものだからねぇ」
善澤「しかしまぁ、欲望が少年を男に変えるのか。なんだかなぁ」
社長「欲望は生命力だよ。そしてトップアイドルに不可欠なものだ」
善澤「……いつもいつも、もう少し言葉にしてやればいいのに」
社長「君も言っていただろう? 私はそれほど、期待しているんだよ。
紆余曲折あっても、最後はビシーッと決めて、アイドルを導いてくれる
優秀なプロデューサー君にね」
善澤「そうかい」
社長「おっと、秋月君が行くみたいだぞ」
善澤「お!」
社長「……やるねぇ!」
大きなプール会場//
ざ わ ざ わ
ど よ ど よ
涼 「……」ピシッ
司会「な!?」
涼 「……」クルッ
ドッポーン!
司会「な、」
司会「ななななな、なんと!」
司会「逆立ちからの飛び込みぃぃぃいいいいい!!!!!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !
涼 「……」ハァ、ハァ
涼 「スゥ――」
涼 「どうだぁーーー!!!」グッ
「きゃーーーーー!!!
「涼くん半端ない!」
「マジかっこいいーーー!!!!」
「涼くんすごーーい!!!」
P 「あ、あいつ、無茶しやがってー……!」
北斗「うわわ、よくやるよ。あの高さで逆立ちなんて一歩間違えれば大けがなのに」
冬馬「……へっ」
北斗「?」
冬馬「やるじゃねーか! それでこそ男だぜーー!!!」
北斗「あぁー、熱血冬馬くん入っちゃったか……」
冬馬「チクッショー! 俺もカッコよく飛び込むべきだったぜ!」
ザパア
涼 「ハァハァ、……あ、プロデューサー」
P 「あ、プロデューサー、じゃない! お前ぇ、怪我したらどうするつもりだ」
涼 「いやぁ、なんかすっごい気分が高揚しちゃって」テヘ
P 「あのなぁ」
涼 「それにプロデューサーが絶対成功するってお墨付きをくれたんですよー?
だから僕はそれを信じてやっただけです!」
P 「ぐぬぬ」
涼 「で、どうでした? 僕は男らしかったですか?」
P 「そりゃ、お前」
< 涼くん男らしいーーー!!!
P 「……だってさ」
涼 「やったー!」
司会「え、……えぇっと」
司会「はいはい! 素晴らしい飛び込みでした、しかし! この勝負!
かっこよさもアピールの一つとして大事でしょうが、争点は『スピード』です!
最高のパフォーマンスを決めた涼くんでしたが、ここに来てワーストタイムを大幅更新!
ダントツのビリです! 残念ですねー、女装罰ゲームは濃厚でしょうなぁー」
<涼くんかっこいいいいいい!!!!
<すてきーーー!!!
司会「聞いちゃいねえよ。無茶すればカッコいいって風潮は嫌いだな、俺は!
――って、マジで聞いてねな。……はいはーい! ファンの皆様! ご静粛に!」
司会「こっからが注目するところだよー!!」
司会「大トリを飾ってくれるのはこの人! ジュピターの、御手洗翔太くん〜〜!!」
<翔太くぅ〜〜〜ん! がんばれ〜〜〜!!!
翔太「……」
司会「アクロバットなダンスを得意とする国民的弟アイドル! さぁさぁ! 一体、どんな飛び込みを見せてくれるのか〜〜!!」
司会「翔太君が4分50秒以内に飛び込めば、秋月涼くんの最下位が決定します!」
司会「それではぁ! スタートぉっ!!」
翔太「さて……」
翔太「…………」
翔太「……ふぅー」
翔太「…………、よし!」
翔太「――」バッ!
司会「おおっと! 開始わずか32秒! 翔太君が大きく手を挙げた〜〜!」
翔太「棄権しまーす」
司会「棄権だー! ……って、棄権!?」
翔太「だってー、僕ってば、女装に合うと思うんだよねー。だから棄権でいいよ」
司会「い、いやー、ですがね?」
北斗「すみません。聞き入れてやってください」
司会「ほ、北斗君まで! いやしかしねぇ?」
北斗「あいつ、カナヅチなんです」ボソ
司会「え゛、ホントに?」
北斗「かっこ悪いから、っていって公表はしてませんけどね。事務所の人間以外知りません」
冬馬「だけどこの大舞台ならあいつも飛べると思ったんだがなー。全く! 漢気が足んねえぞコラー!」
翔太「冬馬君みたいに脳みそ筋肉じゃないんだよー! ねぇーみんなー?」
< 翔 太 君 か わ い い い い い い !!
翔太「へへへーん」ドヤァ
冬馬「チッ」
北斗「と、いうわけですので」
司会「あ、あぁ、そうか。じゃあ……、えー。最下位は、棄権したジュピターの翔太君にけってえええい!!」
キャーーーーーーーーーーー!!
翔太「どーもどーも!」
司会「というわけで! 罰ゲームとし、翔太君には女装をしてガチで歌ってもらいます!」
司会「なお、曲は今月の女性アイドルオリコン1位、そのまんまTOMATOでお馴染み!
『きゅんっ!ヴァンパイアガール』を歌っていただきまーす!」
冬馬「げっ、あのイロモノの曲じゃねーか」
北斗「注目してるくせに」
冬馬「あん!? してねーし!!」
北斗「はいはい」
翔太「僕の女装、楽しみにしててねー!」
冬馬「お前はちっとは反省しろ!」
司会「えー、それでは。翔太君が着替えている間に、トップをとったジュピターに、新曲を披露してもらいましょう!」
冬馬「え?」
北斗「そういえば、そういう話だったね。女装の罰ゲームにばかり注目されてたけど……」
司会「残念ながら翔太君はビリでしたので、翔太君抜きになりますが、トップの冬馬君と、
同じグループの北斗君には頑張っていただきましょう! それではこちらへどうぞ!!」
冬馬「…………」
北斗「どうする? 冬馬?」
冬馬「……。やめだ、辞退する」
司会「な! ちょ、ちょっと!!」
北斗「冬馬がやめるんだったら、俺も歌わないでおこうかな」
司会「いや! あのね、っておい。ちょっとマイクの音声切れ。……あのね、それじゃあ困るんだよ。
もともとこの番組はこういうルールだったし、ファンの皆も納得しないよ?
それに私だってね、黒井社長に頼まれてるんだから!」
北斗「とはいえ、俺たちも社長に権限もらってますんで」
司会「そうはいってもねぇ、私も権限があるんだよ!?
これでも人気番組の人気司会者だ! ちょっと売れたからって一介の若手アイドル如きが――」
??「ほほう、どこのだれが一介のアイドル如きだと?」
司会「!? ……く、くくく、黒井社長!?」
冬馬「オッサン!?」
北斗「黒井社長!?」
黒井「黙って聞いていれば、一介のMC如きがぁ。ウチのアイドルに向かって、何様のつもりだ? ん?」
冬馬「俺、普段からオッサンに結構ボロカスに言われてる気がするんだけど」
北斗「よく『駒』とか言われてるしね」
黒井「黙れ。勘違いするな。私が私の所有物について何を言おうと当然のことだ。
だが凡人どもが王者の所有物にについて文句をつけるのは許されない。そうだろう?」
冬馬「ひでぇ」
黒井「ノン。酷くない。世の中には『不敬罪』という罪もある。王者なれば名も惜しめ。
……というわけだ。三流番組のMC君。これにて去らせてもらおう」
北斗「新曲の発表はいいんですか?」
黒井「当然だ。敗北した舞台で新曲の披露などしてたまるか。王者には王者らしい、ふさわしい舞台がある。
都合がよかったよ。来月にアリーナライブをねじ込んでおいた。そこで新曲を目玉として発表すればいい。
……では、北斗、冬馬、行くぞ」
司会「そ、そんな! じゃあこの後、どうすればいいんですか!? ファンの方々もどう納得させれば……!」
黒井「そんなものは貴様がどうにかしろ」
司会「無理ですよ!」
冬馬「黒井のオッサン。言い出しっぺの俺が言うのもなんだけど、流石に今回の非は俺たちにあるからさ。
後始末くらいはつけさせてくれないか?」
黒井「……。フン、いいだろう。さっさと終えて戻ってこい。後、あの負け犬の回収も忘れるなよ」
北斗「わかりました。行ってきます」
黒井「では自称人気司会者くん。アディオス」
司会「は、はいぃ……」
P 「ん? ジュピターは一体どうしたんだ?」
涼 「さぁ……?」
北斗「ちょっと失礼」
涼 「あ、北斗さん」
P 「なぁ、何かあったのか?」
北斗「まぁ少しね。ところで、彼を少しお借りしたいんですけど」
涼 「ぼ、僕!?」
P 「何をする気だ?」
北斗「悪いようにはしませんよ。ほら、来て」グイッ
涼 「えぇっ! ちょ、ちょっと!」ヨタタ
「なかなか始まらないねー?」
「どうしたんだろーねー?」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
冬馬「っし、マイク音量お願いします!」
ピピー、ガー
< あ! 冬馬くーーーん!!
冬馬「おう! 皆待たせてごめんな! 大事な話があるんだ!」
北斗「エンジェルちゃんたち、チャオ☆」
< チャオーーー☆!!
北斗「ふふふ、ありがとう! 実はね、今回のMVPとして冬馬が歌う予定だった
ジュピターの新曲なんだけど、ワケあって今回歌えなくなったんだ、本当にごめんね」
ええええーーーーーーーーーー!!!
冬馬「マジで悪いと思ってる! ごめんな! でもさ、ジュピターは3人そろってジュピターだからな。
せっかくの新曲、翔太を欠いてやるのはもったいねえ!」
北斗「そこで、代わりといってはなんだけど、来月、急遽、ジュピターのアリーナライブが決定したよ。
そこで新曲を歌うから、エンジェルちゃんたち? 絶対来てね?」
っ き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
「絶対に行くー!」
「北斗様ー!」
「冬馬くーん!」
「予定開けなくちゃ!」
「チ、チケットの発売はいつ!?」
「楽しみだよー!」
わ い わ い
が や が や
涼 「……??」
冬馬「つーわけで、ホラ」
涼 「え?」
北斗「俺たち今から女装してこないといけないからさ」
冬馬「俺たちは3人そろってジュピター。カナヅチだってわかって送り出した俺も悪かったしな。
罰ゲーム、一緒に受けてくるんだよ。それに……」
翔太「今日一番かっこよかったヒーローは誰かって、皆わかってるしね」
冬馬「翔太! 何時の間に、って……ブフッ!」
翔太「あ、ヒドーい。笑うことないのに!」
北斗「いや、まぁ、似合ってるな。うん」
冬馬「似合ってるけどよ、くく、俺らからしたら翔太の女装にしか見えねえから、くくく」
翔太「ふん、自分たちだって着替えたらこうなるよ。っていうか僕よりひどくなるよ。ほらこれ! 着て!」バサッ
北斗「ああ。すぐに袖で着替えてくる。ちょっと待ってろよ」
冬馬「じゃ、秋月。後は頼んだぞ」
涼 「……。いいの、かな?」
翔太「なにが?」
涼 「歌うの僕で」
翔太「はぁ? 嫌味?」
涼 「えぇ!?」
翔太「あのね、前にもいわなかったっけ? 僕って負けるの嫌いなんだよね。なのにそんな僕が
MVPの座譲ってるんだよ? なに? 喜んで泣くとこでしょ? フツー」
涼 「……そっか」
翔太「そーそー」
涼 「ありがとう」
翔太「ん」
涼 「じゃあ、行ってくるよ」
翔太「ま、せーぜー、頑張ってね」
プールサイド//
いそいそ
いそいそ
黒井「…………」
黒井「女装趣味があったのか、貴様ら」
冬馬「ちげえよ! そういう罰ゲームなんだよ!」
北斗「ここまでわがままを聞いてもらったお詫びみたいなものです」
黒井「全く、このような番組に気など使いおって……。貴様らまだ王者としての自覚がたりんな」
黒井「しかも何をどう間違ったら765プロの虫けらに1位を譲る羽目になるのだ、んー?」
冬馬「いや! 765プロは確かに汚いことする事務所だけど、あいつは割と男見せてるってつーか」
黒井「あーん? 何を言っているのだ。たしかあいつは女装で騒がれていたイロモノだろうが。
高木の奴め、あんなハエで私のジュピターに対抗しようとは片腹痛いわ」
北斗「まぁ、この後歌うみたいなんで、見てください」
黒井「当然だ。高木の飼っているドブネズミの、その矮小な実力があれからどうなったか、
みせてもらおうではないか、はーっはっはっは!」
北斗「…………」
プール・特設ステージ//
涼 「プロデューサー! 僕――」
P 「話は聞いたよ。曲もセットしてもらってる」
涼 「……ありがとうございます。色々、全部」
P 「いや、俺はなにもしてないよ。涼が頑張った結果だ」
涼 「それでもです。本当に、ありがとうございます!」
P 「そういうのは終わってからにしてくれ。まだ、こっからが頑張りどころなんだからな」
涼 「……はい!」
P 「よし! ……音楽お願いします!」
<はい音響さんお願いしまーす
〜〜♪ 〜〜〜♪
P 「涼!」
涼 「はい!」
P 「なりたい自分に、なってこい!」
涼 「はいっ!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
涼 「よしっ!」
『 So I love you, my darling. And stay forever 』
『 It's dazziling like a star, I'm falling for you 』
〜〜♪
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !
P 「(天才、武田蒼一作曲の『Dazzling World』)」
P 「(意味するところは、『輝いている世界』、ってとこか……)」
『前に 進めない これ以上 そんなときにーはー』
P 「ハハ、歌の通りだ、涼が、涼の周りの世界が、歌で輝いて見える」
P 「(あぁ、やっぱり武田プロデューサーの曲は、凄い……。
同じプロデューサー業の人間からみても、群を抜いてる……)」
『抱いた 憧れ 今も変わらないーわー』
P 「あぁ、ちくしょー……」
P 「(やっぱ嫉妬してしまうなぁ)」
P 「ほぼ付き合いのない立場で、ここまで涼を輝かせるなんて」
『あなたがいるそれだけでー 鮮やかにほら輝くー』
P 「……いや、だけど、俺も負けられない」
P 「そうだ、今の涼だって、まだ輝いているだけなんだ」
P 「俺は、更に、その先へとプロデュースしてやる!」
P 「涼を、輝きの向こう側へとつれていってやるんだ」
プールサイド//
『キラキラ光る この気持ちー』
黒井「…………」
北斗「どうです?」
黒井「フン、まだまだ。我々の足元にも及ばんよ」
冬馬「そうか? あいつ、なかなかやるぜ?」
黒井「ほう、では――」
黒井「貴様らは、奴に負けるのか?」
北斗・冬馬「「!」」
黒井「どうなんだ? お前たちジュピターは、あれに敗北を喫するというのか?」
北斗「……冗談でしょう? 負けるはずがありませんよ」
冬馬「そうだ。最強は、俺たちジュピターの3人だ」
黒井「くくく、その目だ。それでこそ私が育て上げたジュピターというものだ。……ただ」
北斗「ただ?」
黒井「女装してそのような目をしていても滑稽でしかないな」
北斗「あらら」
冬馬「くっ、反論できねぇ!」
黒井「だからよしておけばよかったものを。私の意向に逆らった罰だ」
冬馬「ぐぐぐ……!」
黒井「しかし! だからといって負けることなど許さんぞ? 王者はどのような装いでも王者だ。
女装だったからなどという糞のような言い訳はさせん。その姿で、奴以上に会場を沸かせて来い!」
冬馬「! ……もちろん!」
北斗「では、そろそろ行ってきます」
黒井「ウィ、貴様らの格の違いを見せてやれ」
冬馬・北斗「「はい!」」タッタッタ
黒井「…………」ジッ
『現在 過去 未来 すべてのー あなたを愛し、続けるわー!』
黒井「高木の事務所の、……秋月涼、か」
黒井「フン!」
黒井「目障りなアイドルが、また一匹増えたようだな」
プール・特設ステージ//
『二人が逢えた 人生もー』
『一度きりだと 知ってるわー』
『手と手つないで 歩き出すー』
『あなたと生きる、素晴らしい、世界♪』
涼 「」ピシッ
P 「(よし! 決まった!)」
パチパチパチパチパチ!
わあああああああああああああああああああああああああ!!!
涼 「……んー、! そうだ」
涼 「ん、チュッ!」
「!?」
「涼君が曲の終わりに投げキッスした!?」
「私の! 私のよ!」
涼 「へへへ」
P 「相変わらず妙なトコで肝座ってんな、お前」
涼 「やりすぎました?」
P 「ん、まぁファンのみんな盛り上がってるしいいだろ」
涼 「大盛り上がりですね! プロデューサーのおかげです!」
P 「あ? 何言ってんだ、お前の頑張りだろ?」
涼 「プロデューサーがなりたい僕にならせてくれたおかげですよ」
P 「んー、じゃあその感謝、謹んでお受けしようかな」
涼 「えへへ」
翔太「いちゃついてるとこ悪いんだけどさー、どいてくんない?」
P 「おわ!」
涼 「ご、ごめん!」
P・涼「「ていうかイチャついてない!」」
翔太「あそー、どうでもいいからどいて?」
涼 「あ、はい」
タッタッタ
北斗「おーい翔太、待ったか!」
翔太「待ちくたびれた――ぷっはっはっはっは!! やっぱ似合わないでやんのー!!!」
冬馬「うっせ! うっせ! 似合ってたまるか!」
北斗「じゃあ、観客席を俺たちが大盛り上がりさせるか」
P 「おいおい、現状で既に大盛り上がりだぞ?」
北斗「ははは、何言ってるんです?」
翔太「僕たちはこんなもんじゃないから」
P 「ははっ、こやつめ、ぬかしおる」
〜〜♪ 〜〜〜♪
冬馬「っしゃあ! 行くぞ!」
北斗・翔太「「おう!」」
冬馬「……秋月!」
涼 「?」
冬馬「次のオーディションは楽しみにしてるからな!」
涼 「! 勿論だよ!」
冬馬「へっ!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
翔太『どこかへおでかけ おじょうさま〜〜ん♪』
冬馬・北斗『フッ、ワァ〜♪』
P 「(ノリノリだ……)」
涼 「プロデューサー」
P 「なんだ?」
涼 「僕、やっと、ジュピターに敵として認めてもらえた気がします」
P 「そうか、……なら、頑張らないとな」
涼 「はい! あの相手はジュピターですから!」
P 「おう! あのジュピターだもんな!」
涼 「えぇ、あのジュピター……」
〜〜♪
北斗『パッと舞ってぇ』
冬馬『ガッとやって!』
翔太『チュッと吸ってっ』
北斗・冬馬・翔太『『『はぁぁああぁぁぁあああぁぁああぁぁん!!!!』』』
涼 「あのジュピターですね」
P 「台無しだよ!」
オーディション会場//
半年後、、、
「あー、緊張してきたー」
涼 「そう? 落ち着いて行こうよ」
「なんかさー、秋月やっぱ変わったよなぁー」
「わかる。凄ぇ何ていうか頼りがい? できたよな」
涼 「ふふん、男らしくなったかな?」
「それはどうだろう」
涼 「ぎゃおおおん!」
「ははは、冗談だよ。じゃ、今日のオーディションはライバル同士だけど、よろしくな!」
「ジュピターもお前らも抑えて、俺が勝ってやるぜ!」
涼 「僕は負けないよ。絶対にね!」
「ちくしょー秋月の癖に!」
「じゃあな! 俺の本気見せてやるよ!」
涼 「うん! 頑張ろうね!」
P 「お、知り合いのアイドル?」
涼 「プロデューサー! えぇ、あの運動会とか飛び込み大会で一緒に居たアイドルの人たちです」
P 「あー、あの番組かぁ。早いもんだなぁ、もうあれから半年か。全然変わんねえよな、皆」
涼 「でも半年で随分業界の風景も変わりましたよねー。男性アイドルがすっごい増えました」
P 「315プロだよ315プロ。あそこのおかげで男性アイドル人口が一気に増えたからなぁ。
涼は勿論、春香たちの方にも影響が出てる。CGプロといい、商売敵が増えやがる……!」
涼 「でもそんな中でも、やっぱりジュピターは未だに別格ですよね」
P 「あぁ、今や若手男性アイドルグループのトップだからなぁ。皆撃ち落とそうと必死だ」
涼 「ま、僕らもですけどね」
P 「勿論だ。なんたって対ジュピター大本命の対抗馬だからな」
涼 「うぅ、ライバル扱いされるのは嬉しいですけど、勝率では大幅に負け越してるんですよねぇ……」
P 「すまんなぁ……。で、でも! 重要なトコで勝ってる! それが大事!」
涼 「……そうですね! 前向きに!」
P 「あぁ! トップアイドルになろうぜ、涼!」
ガチャ
<!? おい、あれ、ジュピターじゃ……。
<来たか、ジュピター……!
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
P 「おいでなすったか」
涼 「おはよう。皆」
冬馬「おう、涼か」
北斗「チャオ☆」
翔太「…………」ムスッ
涼 「翔太くん?」
北斗「ほっといてやってくれ。こないだ負けて悔しがってんだよ」
翔太「がるるるる!!」シャー!
涼 「うわぁ!」
冬馬「まぁ、今日は負けねえからな!」
涼 「僕だって! 勝率勝ち越してやるからね!」
北斗「ははは! 俺たちだってそうはさせないけどね☆」
翔太「チョーシのってっとシメるかんね!」
冬馬「じゃあな、楽しみにしてるぜ」スタスタ
おい、さっきジュピターと仲よさげに喋ってたのって>
あぁ、あいつが秋月涼だ>
涼 「え? 僕?」
P 「まぁお前も追われる立場だってことだな」
涼 「たはは、気は抜けないですね」
P 「当然だな。俺たちが目指すのは、……トップアイドルなんだから」
涼 「……そうですね! かっこよくて男らしい、世界一のトップアイドルに!」
ガチャ
「秋月涼さーん。出番の準備お願いしまーす!」
P 「よし出番か」
涼 「必ず1位になってきますよ!」
P 「おっし、その意気だ! じゃあ気合入れていくぞぉー!」
涼 「はいっ!」
P 「目指せ!」
涼 「トップアイドル!」
END
涼 「はい! ……もっと! たーかめて果てなく こころーの、おーくまーで」
P 「腹から声出す!」
涼 「っ、とかしつくして!」
P 「そう!」
涼 「うーずまくさなかに おちてぇーく とぉーきめぇきー……」
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注意。女性キャラは全く出てこない。
ジュピターの性格はやや漫画寄り。多分300レスちょい位の長さにはなると思う。
ではよろしくお願いしまーす。
〜〜♪ 〜〜〜♪
涼 「燃や、すわ! はげ、しく!」ビシッ
P 「……」
涼 「ハァ、ハァ、……ど、どうですか? プロデューサー?」
P 「うん、……よかったぞ!」
涼 「本当ですか!」パァ
P 「本当だとも! まさかこの短期間でここまで成長するなんて思ってもみなかった。
こんだけ歌って踊れたら、新人アイドルとしては破格だよ」
涼 「よかったぁ。僕、最近家でも練習してましたからね!」
P 「そうなのか。うーん、やる気もあって、言うことなしだな。涼は偉いな」
涼 「いえ! それもこれもプロデューサーが僕を拾ってくれたおかげですから。
なによりもまず、プロデューサーのおかげです!」
P 「いやぁ、当然のことをしたまでだったんだが」
P 「(そう、あれはちょうど二週間ほど前の事……)」
回想〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
765プロ事務所//
二週間前、、、
P 「新しいアイドル、ですか?」
社長「うむ。今度ウチに所属してくれる予定なんだが、そのプロデュースを君に頼もうと思ってね」
P 「俺ですか」
社長「君の受け持ったアイドルたちは既にトップアイドルとしての地位を確立している。
もう君が一から十まで手をかける必要もないだろう?」
P 「まぁあいつらも理解してくれていると思います。プロ意識もしっかり身についてますし」
社長「とはいえ彼女たちのフォローも勿論やってくれたまえよ? ただ、重点を置く対象を
新たに作ってほしい、と、そういっているんだ」
P 「分かりました。……で、その新しいアイドルの子、というのは?」
社長「今、律子君と一緒にこっちへ向かっているそうだ。
実はね、そのアイドルというのは彼女のいとこなんだよ。名前は秋月涼くんだ」
P 「律子のいとこ? へぇ。じゃあ律子に任せればいいのでは?」
社長「それがねぇ、一つだけ大きな問題があるんだよ」
P 「問題?」
社長「うむ、実は律子君は彼を女性としてプロデュースしようとしているんだ」
P 「…………ん?」
P 「んん!?」
社長「どうしたんだね?」
P 「え? ん? あのー、アイドルの子の名前は……」
社長「秋月涼くん。律子君のいとこだ」
P 「その『くん』っていうのは、え? 春香たちで言う『天海くん』『如月くん』とかではなく?」
社長「……あぁ! そういえば伝え忘れていたかね? 秋月くんは男、従弟なんだよ」
P 「お、男ぉ!?」
社長「お、びっくりしたかね?」
P 「そりゃそうですよ! 完全に女の子のアイドルの話かと……」
社長「いやぁすまないすまない」
P 「んー、にしても男のアイドルですかー」
社長「数々のトップアイドルを育てたウチのエースとしては、どう思う?」
P 「よしてくださいよ。……でも、うーん、そうですね。
差しあたっての懸念材料は3つ、くらい」
社長「ふむ。聞かせてくれるかね?」
P 「一つは既存のアイドルとの問題です。ウチは女性アイドルばかりですから、
その中に男一人新たに加わるとなると、例えばオールスターでやるステージでの兼ね合いが難しくなりますね」
社長「2つ目は?」
P 「販路の問題、です。男性アイドルを売り込むコネが0に等しい」
社長「なるほどねぇ。最後は?」
P 「当然ですけど。俺、男のアイドルをプロデュースするのは初めてで……」
社長「問題がてんこもりだねぇ」
P 「とはいえ、だからこそ、という部分もありますけどね」
社長「そうそう。君にとってもプラスになると思うよ?」
P 「後、男性アイドルも抱えることで事務所の底力もあがりますから。良いことも多いでしょうね」
社長「うん、流石は敏腕プロデューサー君だ」
P 「だからやめてくださいよ。それに結局どれも明確な解決策を出せていないんですから」
社長「何、どれもやってみなくちゃわからないものだ。当然だとも」
P 「頑張ってみます。……ところで話は戻るんですが、……律子の奴、女装させようとしてるんですか? 男に?」
社長「……うむ」
P 「……いくつの男の子なんです?」
社長「15だ」
P 「……15の男に女装させて衆人環視の中に立たせるって、律子は何を考えてるんですか!
トラウマになるなんてもんじゃないですよ!」
社長「いやねぇ、私も電話では渋ったんだが……、律子君なりに彼に才能を見つけたようで」
P 「でも、女装、ですよね」
社長「ここでもう一度聞くとしよう。彼のプロデュースは誰に任せるべきだと思う?」
P 「あー……」
社長「男同士、ってこともあるし、何かと都合がいいと思うよ?」
P 「……わかりました。俺がやります」
社長「まぁ、いいステップになるさ」
P 「そうだといいですが」
社長「秋月君をプロデュースすることで、女性ファン層獲得の勉強にもなるだろう。
市場を広く知るのは大切なことだ」
P 「なるほど」
社長「では、やってくれるね?」
P 「わかりました。俺が責任もって涼君を育て上げます」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
P 「と、いう感じのやりとりが……」
涼 「え? なんですか?」
P 「え? あ、いやなんでもない」
涼 「?」
P 「いやしかし、土台がゼロの状態で、しかもたった2週間でここまで成長するとはな。
律子が食いついたのも分かる気がするよ」
涼 「そのおかげで律子姉ちゃんに女装デビューさせられそうになりましたけどね……」
P 「いや、女装でいきなりステージに立たされてやりきった涼が悪い!
そんなのスカウトするしかないじゃないかっ!」
涼 「えぇ!? そんな!!」
P 「ははは、冗談だよ」
涼 「もう。僕は男らしくなるって決めたんです! 女装してデビューするくらいなら辞めた方がマシです!」
P 「まぁそうだろう。でも律子の事もあまり責めないでやってくれよ? 俺だって素人が
なんの練習もなくいきなりステージをやりきったら囲い込みたいとおもうからな」
涼 「あ、あの時は、その、見よう見まねで……」
P 「それが凄いんだよ。そういや涼って、ダンス以外の運動神経はどうなんだ?」
涼 「運動神経ですか? うーん、どうでしょう。……体力と、筋力はないですね」
P 「だろうな」
涼 「とほほ」
P 「ただ、ダンスが上手いってことはバランス感覚とかがいいってことだ。逆立ちとかできるか?」
涼 「逆立ちかぁ……、よ、っと!」ピシッ
P 「おー、すごいすごい」
涼 「た、ただ、ち、長時間はむり、ですけど!」プルプル
P 「もういいもういい。……とりあえず体力と筋力は課題だな。他は及第点だろう」
涼 「『コマンダー』に出てるシュラちゃんみたいな肉体になりたいです!」
P 「だったらなればいいだろ! ってな」
涼 「とはいえさすがにあそこまでいけるとは思ってないですけどね……」
P 「まぁあれだけ筋肉モリモリマッチョマンの肉体になれれば、涼の言う男らしさも夢じゃないな。
夢じゃないっていうか、もう男の中の男になれるな」
涼 「ちなみにプロデューサーからみて、今の僕の男らしさはどんな感じですか!?」
P 「え?」
涼 「これでも最近はかかさず筋トレしてるんですよ! ホラ! 上腕二頭筋も! ホラ!」
P 「え? ちからこぶ出てるか? それ」
涼 「ふぬぬぬ……!」プルプル
P 「……まぁ、まだまだ男らしさは遠いよ」
涼 「そ、そんなぁ」
P 「全ては一朝一夕にしてならず! まだまだこれからってことだ。それにダンスだって褒めはしたがな、
そりゃこの時期では凄いってだけで、まだまだトップには程遠いんだからな!」
涼 「はい! よーし、ダンスもう一本行きましょう!」
P 「面白い奴だな、気に入った。よし! ビシバシいくぞ!」
765プロ事務所//
夜、、、
涼 「お疲れ様でしたー」
P 「おー。風呂でしっかり足揉んどけよー」
涼 「はいプロデューサー。明日もよろしくお願いしますね!」ガチャ
P 「おう」
涼 「では、お先に失礼します」
バタン
社長「うーむ、中々うまくいってるようじゃないか」
P 「性格もいいですし才能も申し分ありません。手を焼く方が難しいくらいいい子ですよ、彼は」
社長「やはり君に預けて正解だったねぇ」
P 「ただ、そのおかげで飲みに行くたびに律子に『私が育ててみたかった』って愚痴を吐かれるんですよ?
後『ていっ!』ってされますし、勘弁してほしいですよ」
社長「まぁねぇ。当然だろうね。君もプロデューサー職についていれば、気持ちは分かるだろう?」
P 「まぁ、はい」
社長「なら諦めたまえ。今度、彼女に奢ってあげなさい」
P 「そうします」
社長「で、だ。彼の今後の予定はどうなっている?」
P 「少し予定は早まりますが、再来週にはオーディションに出ようと思っています。よろしいですか?」
社長「心配はしていないよ。君が大丈夫だと思ったのなら、大丈夫なのだろう」
P 「現段階でD、上手くいけばCランクに食いこめるくらいの実力があると思っています。
ただ女性アイドルたちとの比較なので、一概に正しい判断だとは言い切れませんが」
社長「とはいえ他の新人よりかは上ということかね」
P 「恐らく」
社長「まぁ私が見たところでも、同じような感想だ。
きっと彼なら初オーディションは容易く勝てるだろう、ただ……」
P 「? 何か?」
社長「うむ。実は、黒井の方で新しいアイドルグループを作っているという話があってね」
P 「961プロの黒井社長が? ……まさかと思いますが、ウチの子たちからまた――」
社長「ないない。それはないよ。今となっては君の元から離れたくない子たちばかりなんだから」
P 「よかった……。で、961プロの新しいアイドルグループですか。一体どんな?」
社長「それがねぇ、なんと奇しくも、男性アイドルグループらしいんだ」
P 「なんですって!?」
社長「どうやら今週中にはデビューするらしい。秋月君とほぼ同時期のデビューといっていいだろう」
P 「なるほど……」
社長「どう思う?」
P 「まさかぶつけてきたわけではないでしょうけど……。ただ、黒井社長の指揮したフェアリーには、
勿論バックグラウンドの差があったとはいえ、勝率ではほとんど負けていましたからね。
悔しいですが、今回のグループも、随分と苦戦するかもしれません」
社長「だが、君は最終的に勝ちきった。今回も期待してるよ」
P 「当然、勝つつもりです」
社長「頼もしいねぇ」
P 「俺も961プロの動きに注視してみます。……そういえば社長」
社長「なんだね?」
P 「そのグループの名前とかって、お判りになってるんですか?」
社長「名前? あぁ、聞いたよ。確か――」
社長「ジュピター、だったかな?」
TVスタジオ//
ジャジャーン♪
「サンキュー!」
パチパチパチ
MC「はい、というわけで路上・嵐の皆さんでした。アーティストの高橋ショージさん、いかがでしたか?」
「んー、衣装はキマってるけどね、やる気が足りないよやる気が!」
MC「残念ながら辛口評価でした。彼らにはより一層頑張っていただきたいですね。
それではお次に参りましょう。ミュージックカモン!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
MC「先週初登場してから一気に注目株となったこのグループ。
本日ゲストに揃った作曲家やアーティスト、音楽業界に関わる重鎮たちの眼鏡にはかなうのか?」
MC「それでは歌っていただきましょう。ジュピターで『Alice or Guilty』、Listen?」
< きゃああああああああああああああ!!
『嘘の 言葉が あふれ』
『嘘の 時を きざむ!』
舞台そで・上手//
<キャアアアアアア
P 「反応凄いな……」
涼 「ですね……。デビュー間もないのに凄い人気みたいですよ」
P 「まぁ、あの961プロだし、マーケティングとかその辺はケタ違いだからなぁ。
スタートダッシュで後れを取るような真似はしないとは思ったが、これは、アイドル自身の実力も本物だ」
涼 「うわっ! バク宙した!」
P 「ひぇぇ、どんな強心臓だよ」
涼 「うぅ……、僕、あの人たちの次なのかぁ……」
P 「緊張してる?」
涼 「当然ですよ。カメラの前では初ステージですから」
P 「こないだのオーディションの時の実力をだせれば問題ない。力抜いてな」
涼 「が、頑張ります」
<キャアアアアアアアア!
P 「終わったぞ。さ、行ってこい」
涼 「は、はい!」
TVスタジオ//
MC「いやぁ、とても素晴らしいパフォーマンスでした。音楽プロデューサーの寺田♂さんはどう見ますか?」
「僕は凄いエエと思いますよ。彼らは今後来るんとちゃいますかね。僕も一押しです」
MC「一押し発言、いただきました。ジュピターの皆さんの今後に注目です」
-----------------
舞台そで//
冬馬「よっしゃ! 好感触!」
北斗「それにしても翔太。バク宙はまだ練習段階だっただろう?」
翔太「いや、TVの前だし、あそこで行かないでどうするのさ!」
北斗「よくやるよ」
冬馬「いや、気合が入ってていいじゃねえか!」
??「全く、冬馬の言う通りだ」
北斗「社長!」
黒井「この程度の番組で120%の実力を出し切れないようではトップは程遠い、そうだろう?」
冬馬「全くだぜ!」
黒井「それに翔太とて自信もなくやったわけではあるまい?」
翔太「勿論だよ。僕が失敗するわけないじゃん」
黒井「そういうわけだ。お前たちもできると思ったら自己判断で好きにしろ。
但し失敗することは何があっても許さん。いいな?」
北斗「当然、心得ていますよ」
黒井「ククク、ならいい」
冬馬「よし、次ももっと頑張らねえとな!」
北斗「『アフタヌーン娘。』の生みの親、寺田♂さんに注目されたんだ。今後も頑張らないとね」
黒井「馬鹿いえ、あの程度のリップサービスに浮かれるな。私から見ればまだまだだ」
翔太「あ、次の人始まるみたい」
TVスタジオ//
涼 「ふぅ……、よし」
P 「(涼の奴、いい緊張具合だな)」
MC「それではお次は新人枠。先週開催のオーディションを勝ち抜いたニューフェイス。
新たなトップアイドルの誕生となるか?」
〜〜♪ 〜〜〜♪
MC「秋月涼で、『エージェント夜を往く』、Listen?」
涼 「――」スゥ
『眠れない夜 こーの身を苛む煩悩!』
??「! ……ほう」
舞台そで//
翔太「黒ちゃん、あれって言ってた765プロの新アイドルだよね?」
黒井「そうだ。765プロは我々に対抗するために、急遽男のアイドルを立てたらしい」
冬馬「ったく、卑劣な野郎どもだぜ」グヌヌ
北斗「…………」
黒井「どうした、北斗」
北斗「確か黒井社長の話だと、彼ってまだこの業界入って1か月ってとこですよね?」
黒井「そうだが?」
翔太「あ、そういやそうだね。……へぇ、じゃあ割と頑張ってるほうじゃん?」
冬馬「……確かに」
黒井「フン、愚か者どもめ。頑張ってるほう、といってもどうせ『新人にしては』という枠内でだ。
我々の敵ではないし、愚物で弱小の765プロでは育ちきれまい」
冬馬「おう、俺たちジュピターが最強だしな! な!」
北斗「わかってるよ」
翔太「全くもう、暑苦しいなぁ」
冬馬「なんだとー!?」
黒井「まぁあの程度の実力では意に介す必要もないだろう。注意するに値しない。
貴様ら、今車を用意させている。私は番組の人間と話があるから、先に戻っていろ」スタスタ
北斗「はい」
冬馬「おう」
翔太「はーい」
冬馬「……」チラッ
『もっと! たーかめて果てなく こーころーの、おくまで!』
冬馬「…………」
北斗「あれ? 冬馬、気になってる?」
冬馬「いや、まぁオッサンはああ言ってたがよ、あいつ、中々見どころあるな」
翔太「! めっずらしー……」
TVスタジオ//
『燃や、すわ! はげ、しく!』
涼 「っ!」ピシッ
パチパチパチパチパチ! ヒュー! ヒューー!
涼・P「「(よっし!)」」グッ!
MC「秋月涼、ガッツポーズです。これは手ごたえがあった証拠でしょうか?」
涼 「え!? あ、えっと」
MC「いえ、初登場にして素晴らしいステージを見せてくれました。ありがとうございます」
MC「それではゲストの方に感想をお聞きしましょう。オールドホイッスルでお馴染みの――」
武田「そう、僕だ」
MC「そう、武田プロデューサーです!」
P 「(! ま、マジか!? 超大物きた!)」
涼 「(オールドホイッスルって、あの!?)」
武田「……」
涼 「よ、よろしくおねがいします!」
MC「では、武田さん、感想をお願いします」
武田「あぁ、そうだね」
武田「まだまだ粗は目立ったけど、」
武田「……いいパフォーマンスだった、掛け値なしに」
P 「(おぉ!!)」
MC「おおっと、武田プロデューサー、べた褒めですね」
武田「彼は良い原石だ。育て方次第でいくらでもキラキラと輝くだろう」
<オォー
涼 「ありがとうございます!」
MC「好評価に客席からも驚きの声が上がっております。先週のジュピターに続き、
今週もまた、トップアイドルの芽が生まれました。それでは、秋月涼くんに拍手!」
パチパチパチパチパチパチ!
MC「では次のアイドルは――」
舞台そで・下手//
涼 「(やった! やった!)」ウキウキ
冬馬「おい」
涼 「(大成功だった! やった!)」ウッキウキ
北斗「あれ? 聞こえてない?」
冬馬「おぉい!」
涼 「え? あ、ジュピターの人!」
冬馬「俺、話しかけてたんだけど?」
涼 「あ、僕!?」
冬馬「お前しかいねえだろ!」
涼 「ご、ごめんなさい。ちょっとテンションあがっちゃってて……」
北斗「いいと思うけど、周りには気を付けた方がいいよ」
涼 「はい。ごめんなさい……」
冬馬「ったく」
涼 「で、何か用かな?」
翔太「ふん、あれで勝ったと思うなよ雑魚が!」ドーン!
涼 「えぇ!?」
北斗「こら、翔太! 開口一番なんだそれは」
翔太「え? 宣戦布告するんじゃないの?」
北斗「似てるけど違うって」
翔太「ふーん、なーんだ。じゃあ今の取り消しね? OK?」
涼 「う、うん。OK……」
翔太「あ、でも観客の盛り上がりとか見るに勝ったのは僕たちだからね?」
北斗「翔太」
翔太「ホントのことじゃん」
涼 「それは僕も身に感じてわかってます。僕はまだ勝てたとは思ってません」
北斗「まだ、か」
涼 「えっと、……やっぱり、いずれは、追いつきたいじゃないですか」
冬馬「へぇ」
涼 「いずれはジュピターの皆さん以上のパフォーマンスをしてみたいですから!」
翔太「……お兄さんさ」
涼 「なに?」
翔太「中々それ本人の前で言えないよ。度胸座ってるよね」
涼 「?」
北斗「冬馬この子、天然だよ」
冬馬「いいじゃねえか。中々度胸もあるみたいだし、気に入ったぜ!
あんた、名前なんだったっけ?」
涼 「秋月涼だよ」
冬馬「秋月涼、か。俺は天ヶ瀬冬馬だ。
涼、765プロでどこまでやれるか知らねえが、まぁ期待してるぜ」
涼 「うん。冬馬君、こっちこそよろしく」
prrrrrrrrr
北斗「はい、北斗です。……わかりました。冬馬、車来たってさ」
冬馬「そうか。じゃあな涼」タッタッタ
北斗「翔太も行くぞ。あ、俺の名前は伊集院北斗だ、よろしくね、チャオ☆」タッタッタ
翔太「僕は翔太ね。後、僕に勝とうなんて百万光年早いから」タッタッタ
< それ距離でしょ
< 距離? 何が?
< だから――
涼 「いっちゃった」
涼 「…………」
涼 「……頑張らなくっちゃ!」
それから数か月
TV局・楽屋//
P 「はい……はい、わかりました! ではお願いします! はい! 失礼し致します……」ピッ
ガチャ
涼 「疲れたー……」
P 「おお、涼! お疲れさん。よかったぞー、これからバラエティの仕事も大丈夫そうだな」
涼 「765プロに居たら自然と身に着いた感じがしますよ」
P 「まぁウチの事務所は日常がすでにバラエティ番組みたいなもんだから。
いい先輩に囲まれてるな」
涼 「男の僕も仲良くさせてもらってますし、ありがたいです」
P 「あ、そうだそうだ。さっき仕事の電話がってな、ステージの前座なんだが……」
涼 「前座ですか?」
P 「うん、Cランクになったんだから断ろうと思ったんだが、一応意見だけ聞いとこうと思ってな」
涼 「えー? 断るんですか? 良いじゃないですか前座! 出ましょうよ!」
P 「お、やる気だな」
涼 「へへへ、最近ステージに上がるのが楽しくて」
P 「うん、もう立派なアイドルだな」
涼 「いや! でも目的は男らしくなるためですからね! まだまだ目的は達せてません!
男らしく男らしく!」
P 「……、そうか――」
??「失礼」コンコン
P 「ん? はい、どなたですか?」ガチャ
武田「やぁ、僕だ」
P 「た、武田プロデューサー!?」
武田「大声を出してどうしたんだい? 何か不味かったかな?」
P 「へへぇ! とんでもねぇ! ありがてぇことでごぜえますだ!」ペコペコ
涼 「(卑屈っ!)」
武田「よしてくれ、君はもっとどっしりと構えているべき人間だろう?」
P 「お、俺、いや、私がですか!? そんなそんな……!」
武田「謙遜しなくていい。765プロのプロデューサーと言えばこの業界では有名だ。
あの小さな事務所から、所属アイドルたちを皆一流に育て上げた。
君ほどの人間を一流と言わずしてなんという」
P 「褒めすぎですよ!」
武田「たとえそうだとしても、そういう目で見られているのだから、もっと
自信にをもってほしいものだね」
P 「……ありがとうございます」
武田「それでいい」
P 「それで、本日のご用向きは?」
武田「あぁ、デビュー時に目をかけたアイドルがどうなってるかを見たくなってね。
仕事のついでに寄らせてもらったよ」
涼 「僕がですか!?」
P 「目をかけて……! やったな涼!」
涼 「い、いえ! 僕なんてそんな!」
武田「……765プロはどうにも謙遜が過ぎる人が多いようだ」
涼・P「「すみません」」
武田「まぁいい。今日はそんなことを言いに来たんじゃないんだ。
……こうやって話をするのは初めてだったね。秋月涼くん。はじめまして僕が武田蒼一だ」
涼 「改めまして、765プロの秋月涼です」
武田「君とは一度話がしたかったんだ。君には特別なものを感じていてね」
涼 「えぇ!?」
P 「涼にですか?」
武田「む? 君は違ったのかい?」
P 「いえ、そういうわけでは。ただ、武田プロデューサーがアイドルソングにそこまで
興味を示されるとは、その……」
武田「意外、かい?」
P 「……えぇ」
武田「別に意外なことではないよ。僕の好きなジャンルはポップスだからね。
それに、愛される音楽というものにジャンルはないと思っている。
例えそれがアニメソングや、アイドルソングであってもだ」
P 「なるほど」
P 「(前に千早への作曲依頼をして通らなかったのは、アイドルソングだったからじゃなかったのか)」
P 「(ポップスなら通ったかもしれないなぁ……。千早には悪いことをした)」
武田「そしてもし彼が成長し、上り詰めてくれれば、いずれオールドホイッスルへの招待も考えているよ」
P 「ほ、本当ですか!?」
涼 「ぼ、僕があの伝説的音楽番組に……!」
P 「アイドルがオールドホイッスルに……、これは歴史的快挙だ……」アワワ
武田「だからアイドルかどうかは関係ないんだよ」
P 「すみません。ですが、やはり、驚きますよ」
武田「そうかな? アイドルと歌手の違いなんてそうないよ。
君の所の如月くんはアイドルだが、歌手顔負けの実力を持っているじゃないか」
P 「! 千早、喜びますよ」
武田「秋月くんだってそうだ。センスもそうだが、彼の技術はとてもよく磨かれている」
P 「おぉ! よかったな涼!」
涼 「はいっ!」
武田「だが、まだ、それでは足りない。届かない」
涼 「はい、僕も自覚しています。まだまだ実力が足りません」
涼 「(あと男らしさ!)」
武田「それもそうだが、もっと必要なのは『心』だ」
涼 「心……」
武田「歌うことを楽しむ心。歌を聴く人を楽しませたいという心……」
武田「いつだって一流と二流の差は想いの強さだ。覚えておくといい」
涼 「はい! 肝に銘じます」
武田「そうか。君には期待しているよ」
P 「…………」フム
P 「(これは。……いけるか? いや、行こう。成功すればとんでもないプラスだ)」
武田「では急に来てすまなかったね。失礼するよ」
P 「あぁー! 武田プロデューサー! 少し! 少しだけ待ってください!」
涼 「?」
武田「どうしたんだい?」
P 「あのー、もしよろしければ、涼に、……曲を作ってやってくれませんか?」
武田「曲か……」
P 「はい! どうか涼のトップアイドルになる手助けをしてやってはくれませんでしょうか!?」
武田「そうだな……」
P 「……」
武田「…………」
P 「…………」
P 「(マズったか!?)」
武田「……」フム
武田「……。いや、そうだな。考えておこう」
P 「っ! 本当ですか!?」
涼 「やった!」
武田「ただ期限は決めないでほしい。僕はインスピレーションが湧かないと作れないタイプなんだ」
P 「えぇ! 勿論! いつまでもお待ちしております!」
武田「そうか、できるかぎり頑張ってみるよ。……それじゃあ今度こそ失礼するよ」ガチャ
P 「はい! ありがとうございました!」
バタン
P 「……やったな涼! これは凄いことだぞ! あの武田プロデューサーに曲を作って貰えるんだ!
これはアイドル活動をやっていく上で大きなアドバンテージになるぞー!!」
涼 「トップアイドルに近づきましたね!」
P 「近づいた近づいた!」
涼 「男らしさも増えますかね!」
P 「増える増える!」
涼 「やったー!」
P 「やったーやったー!」
涼 「男性アイドルとして有名になれれば、誰しも僕の事を男だと思ってくれるようになるはず!」
涼 「やっと僕……」
涼 「男らしくなれる!」
765プロ事務所//
涼 「と、思っていたけど」
涼 「…………」カチカチ
------------------------------------------------
【765プロ公式掲示板】/コメント一覧
・・・・・・・・・・・・・
[涼くんカワイイ!]
[涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね!]←
[涼くんはみごとに草食系男子だね!]
[ちょーかわいいよー^^]
[男のアイドル好きじゃないけど、涼君ならイケる]
[一生応援してます!]
[弟に欲しい]
[一生懸命かっこよくしてるのがまた萌えますなー]
[涼くんは女装とかしたら似合いそう]
[↑なにそれ禿る]
(2/144)
-----------------------------------------------
涼 「むむむ」
[涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね!]
涼 「……っ」
涼 「たはは。うぅ、結構、ストレートに言うよなぁ」
涼 「…………、女の子みたい、か」
涼 「うぅ……」
P 「どうした涼?」
涼 「……、いや、事務所の掲示板見てたんですよ。僕へのコメントを」
P 「あぁー、あれな。ま、気を落とすな」
涼 「酷いですよ皆! 僕の事かわいいかわいいって!」
P 「贅沢言うな! その一言をもらうのに真がどれだけ苦労したと思ってんだ!」
涼 「それとこれとは話が別です!」
P 「まぁでもコメントしてくれるだけファンがついてくれているってのはいいことじゃないか」
涼 「そうですよね……、一生応援してます、ってコメントもありますし」
P 「そうそう。嬉しいことだよ、うん」コソコソ
涼 「……プロデューサー、なにコソコソしてるんですか?」
P 「いや、なんでも」ササッ
涼 「今、あからさまに何か隠しましたね!? 見せてください!」
P 「いや、隠して、あぁっ!」バサァ
涼 「ん? 紙? ……資料ですか?」
P 「あぁー、……この間とった写真集のレビューとかだよ」
涼 「あーこの間の! 結構カッコ良い系の路線で撮った奴ですよね!
えっとなになに、……『背伸びしてる感じがかわいい』、ぎゃおおおおん!!?」バサッ
P 「投げるな投げるな」
涼 「うぅ……。酷い。あんなに頑張ったのに、まだカワイイだなんて……!」
P 「まぁ、ねぇ」
涼 「プロデューサー! 僕ってそんなに男らしさがないですか!?」
P 「あぁ」
涼 「即答ぉー!」
P 「もう隠し立てしたってしかたないもん。涼は『かわいい男の子』的な認知のされ方してるよ」
涼 「そんな……!」
P 「写真集といい、けっこうカッコいい系路線のイメージ戦略も図ってるのになぁ。難しいもんだよ」
涼 「なんで僕そんなに男らしさがないんですかね」
P 「んー……、なんだろうなぁ、ほらあれだ、草食系なんだよ涼は」
涼 「草食系……、あ! そういえば掲示板にもありました『みごとに草食系』だって」
P 「だろー?」
涼 「じゃあ肉食系にならないとだ。……でも肉食系ってどんなのですかね?」
P 「そりゃおまえ、ガツガツしてるんじゃない?」
涼 「アバウト!」
P 「いやさ、俺もよく美希に、ゴホン、『ハニーってば草食系なの(裏声)』って言われるからな」
涼 「どうでもいいですけどそれ美希さんの物まねですか?」
P 「うん」
涼 「でもどっちかというとミキじゃなくてミッキ-
P 「おおっと、そこまでだ!」
P 「まぁつまりだ、俺もよくわからん」
涼 「うぅ……。僕は男らしくなれないのかなぁ……」
P 「いやいや人生泣くばかりじゃないぞ。そんな涼に朗報だ。実はこんな仕事のオファーがあった」ペラッ
涼 「ええと、……『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』?
あー、なんか聞いたことあります」
P 「男は普通見ないだろうな。今を時めく男性アイドルオールスターズで行われる大運動会だ!
かなりの高視聴率の有名番組でな、ここで活躍すれば知名度大幅アップだ!」
涼 「おお!」
P 「出場メンバーも凄いぞー。京都男子流、雪野守、あとジュピター、その他にも最近大流行のアイドルばかり!
涼がこの中に選ばれたってことは、世間が秋月涼を凄い男性アイドルだって認知してるってことだよ」
涼 「僕が、凄い男性アイドルとして」ゴクリ
P 「そう! つまり男のアイドルとして認められてるってこと! つまり男らしいって言われてるのと同じ!」
涼 「……ちょっと強引じゃないですかね?」
P 「ばれたか」
涼 「プロデューサー……」ジトッ
P 「まぁ、うん。真も最初はそんなだったけどさ、今ではカワイイ路線でも売れてるし、いずれ何とかなるさ」
涼 「なりますかね?」
P 「なるさ! だからいずれ男としての涼を売り出していくためにもだな、これから頑張っていかないとな」
涼 「……えぇ、そうですね。男らしさのために!」
P 「おう!」
涼 「頑張りましょう!」
P 「(こんな風にして、着実に男としての涼を売り出せていた。あの日が来るまでは――)」
P 「(そう、この頃に、なんとしてでも、誰が見てもなにをしても男に見えるように、
男らしさを磨き上げなければならなかったんだ)」
大きなスタジアム//
涼 「…………っ!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!
司会「さぁ! 『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』、
第7種目めの『玉入れ』が白熱状態だぁーーーーーっ!!!」
冬馬「こういうのはまとめて投げるが勝ちだぜ!!」ポイポイ
翔太「冬馬君てばホント脳筋だなぁ。作戦あるって言ってるんだから流せばいいのに」ポ-イ
北斗「いやいやエンジェルちゃんたちは俺たちの頑張る姿を望んでるんだから、手を抜いちゃいけないね」ヒョイヒョイ
翔太「えー? だって届かないもーん」ポイッ
冬馬「お前ら遊んでないで集中しろ!!」ポイポイポーイ
司会「紅組、ジュピター・天ケ瀬冬馬、大活躍! 白組との差がどんどんあいていくーー!!」
「やべぇ、天ヶ瀬すげぇ」
「俺らも頑張らねーと、おらっ」ポーイ
「カメラー! 俺らもうつせーー!!!」
涼 「ハァ、ハァ……っ」
司会「きたきたー! 残り30秒ぉーー! 各チーム、ラストスパート頑張ってねー!」
涼 「はぁ……っ、つ!」
司会「各チーム疲れが目立ってきているようです! 白組の、あれは、秋月涼くんですね!
だいぶ参ってるみたいです、が! 最後まで頑張ってね!」
涼 「!?」
「おい、秋月、しっかりしろよ」ポイ!
「負けたら罰ゲームなんだから、よっ! あ゛ぁ、くそ! 入らねえ!」ポイ
涼 「ご、ごめん」ゼェ
涼 「(頑張らないと、頑張らなきゃ、男らしく……、男らしく)」
司会「ラスト10秒ぉーーーーーー!!!!」
冬馬「おっしゃああ!! 最後に決めるぞ! 北斗! 翔太!」
北斗「OK、散らばった玉はこれで全部だよ。はい翔太」
翔太「よいしょ、っと。あれ、思ったより少ないなぁ」
冬馬「俺がいれたからな」
翔太「ま、持つ量が減って楽だしいいか」
司会「ラスト5秒っ!」
北斗「よし、行け翔太」
翔太「二人ともしっかり立っててよ!」ダッ
冬馬「こいやぁあああああ!!!」
司会「おぉっと!! 紅組、翔太君! 大量の玉を抱えて……、な、なんと!
二人を足蹴にして飛んだぁーーーーーーーーーー!!!!」
翔太「ほいっ、ダンクシュートぉ!」ボスッ!
ピピーーーー!
司会「決まったー!! そしてここでタイムアップーー!!!」
キャーーーーー!! カッコイイーーーー!!!
冬馬「っしゃあああぁっ!! よくやったぜ翔太!!」
翔太「あたりまえじゃん。誰に向かっていってんのさ!」
北斗「見事なブザービートだったよ、翔太」
司会「紅組、なんと最後の最後で全ての玉を入れ切り、完全勝ぉーー利っ!!
ジュピターの三人が! 圧倒的チーム力を見せ付けたぁーっ!!」
「なんだあれ……」
「敵ながらすげえな」
涼 「(や、やっと終わった……)」ヘタッ
司会「さぁさぁさぁ!! 10分のセッティングの後、前半の山場!
全員参加での『紅白リレー』が待っております! お楽しみに!」
「しゃあ! 次こそは負けねーぞ!」
「おう! 天ヶ瀬より目立ってやるぜ!」
涼 「(なんで……)」ハァハァ
冬馬「リレーか、ぶっちぎってやるぜ!」
翔太「点差開いてるし、ちょっとは流した方がいいんじゃない?」
北斗「TV的にはな」
冬馬「なーにいってんだ、勝ってこそ王者、勝ってこそジュピターだろ!?」
北斗「はいはい」
翔太「頑張ればいいんでしょーだ」
涼 「(なんで……、皆そんなに、体力あるの……?)」ハァ、ハァ
司会「では、しばらくおまちくださーい」
「おう、秋月。前半最後、がんばろーぜ!」
「男らしいトコみせてやろうな!」
「全くだ! ジュピターだけに良いカッコさせるかってんだ! 頑張ろうぜ!」
涼 「……う、うん!」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
涼 「…………」ヨタヨタ
P 「涼、大丈夫か!?」
涼 「プ、プロデューサーさん……。はい、だいじょう――っ」グラッ
P 「ちょ、……っ! ふらついてるじゃないか! これ、ほら、水」
涼 「ありがとうございます……」ゴクゴク
P 「……」
涼 「……ふぅ」
P 「……楽になったか?」
涼 「……。……はい」
P 「……、これは、軽い熱中症だな」
涼 「僕、だいじょうぶですから」
P 「わけあるか。まだ軽いから無茶してられるけど、重くなったら救急車ものだぞ」
涼 「…………」
P 「……無理もない。そもそも真夏の炎天下で運動会なんて企画からどうかしてるんだよ。
汗をかいてスポーツするイケメンを撮りたいのは分かるけど、いくらなんでもアイドル側の負担が大きすぎる」
涼 「でも、他のアイドルたちは、誰一人倒れたりしてなくて……、むしろ皆凄い元気でしたよ?」
P 「それは……」
涼 「そもそもプロデューサーさんだって、僕にもできると思ったから、仕事を受けたんじゃないんですか!?」
P 「……そうだな。だけど、実際にやってみて、そのプロデューサーがダメだと判断したんだ。従ってくれ」
涼 「……いやです」
P 「涼」
涼 「分かりますよ、誰もこの炎天下で倒れない理由。日々、蒸し暑いスタジオでレッスンをずっとしてきてるから
体力も耐性も人並み以上にあるんだと思います。……でも! 僕だってそんな特訓に耐えてきたんだ!」
P 「……気持ちは分かる。だが、涼。ここで無理をしても逆効果だ」
涼 「でも! ここで引いちゃったら……」
P 「次の種目だけでいい。ここが終われば、昼休憩をはさむ。そのあいだに回復すれば、午後の競技でも活躍できる。
だから次のリレーだけ棄権しよう? な?」
涼 「…………」
P 「涼?」
涼 「ぼくは……」
[ 涼きゅんてばマジカワイイ! まるで女の子みたいだね! ]
涼 「……っ」
P 「?」
< ピンポンパンポーン
司会「それではぁー、紅白リレーを開始しまーす! アイドルの皆、集合ーーっ!!」
涼 「」ダッ
P 「!? 涼! 待て!!」
司会「おやおやー? ちょっとちょっとー! そこの……マネージャーさん? かな?
とにかくあなたアイドルじゃないでしょー? 呼んでないよー? 集合するのはアイドルだ・け!」
あ は は は は は は !
P 「う……!」
涼 「…………」
「秋月は13番目だってさ」
「アンカー近いし、頑張ってくれよ?」
涼 「……勿論っ」
司会「さて! 出そろいました! 準備はいいかなぁ? 第一走者ー! レディー……」
涼 「……」
P 「涼……」
司会「 G O っ ! ! !」
ワー! ワー!
ガンバレー!
涼 「(改めて、周りがアイドルだらけなのを自覚する……)」
涼 「(身体が大きくて、筋肉もあって、運動もできて、ナヨナヨしてない)」
涼 「(皆すごい男らしい……)」
涼 「(……でも、僕も今は、そんな人たちと同じ場所に居るんだ)」
涼 「(だから、こんなところで棄権なんてしたら、とってもみじめだ……。より男らしくなくなっちゃう……)」
涼 「(……そうだ、今の僕は、アイドルなんだ)」
涼 「(昔の僕とは違うんだ)」
涼 「(負けたくない!)」
涼 「(だから、棄権なんてしちゃいけないんだ)」
涼 「(棄権なんて――)」
「秋月ーーっ! ガンバレー!!」
涼 「!」ハッ
司会「さぁ、そろそろアンカーも近づいてまいりました。現在、白組が大きくリード!!
第10走者の『まも様』こと雪野守くんが稼いだリードを維持しつづけています白組!!
しかし次の紅組の走者はジュピターの翔太君! さて、秋月涼くんは逃げ切れるでしょうか!?」
翔太「みんなー! 僕、負けたくないよぉー!! だからいっぱい応援してねーー!!」
<キャーーー!! 応援するーーーー!!!
翔太「へっへーん!」
涼 「…………」
司会「第12走者も白組リードのままです! さぁ、13走者に上手くバトンを渡せるかーー!?」
翔太「…………」
涼 「…………」
翔太「……あのさー」
涼 「……何?」
翔太「僕さー、最初は流すつもりでいたんだけどね? でもこんなカンジじゃん?
で、僕って負けるの大っ嫌いだからさ。マジで行くから、そっちも全力で頑張って、僕を映えさせてね」
涼 「……わかってる」
翔太「ふーん」
涼 「…………」
翔太「ん? ていうか、なんか顔色悪く――」
司会「さぁ、白組13走者の秋月君にバトンがまわったーー!!!」
涼 「っ!」ダッ
翔太「――って、行っちゃった。……ま、いっか」
司会「今、翔太君にもバトンがわたったーー! 翔太君、速い速い!」
司会「さぁ、先行する秋月君に追いつけるか……っと、あれ? 秋月君、遅い!」
司会「なにやらヨタヨタ走っています! あ、あー……、これはアレですね! 空腹、空腹ですね!」
司会「お腹が減って力が出ない秋月君! その秋月君を、今! 紅組の翔太君が追い抜いたーっ!」
司会「さぁ、更に、その差はどんどん開いていくーーっ!」
司会「そして、紅組、早くも次走者にバトンターーッチ!!」
司会「そしてそして! かなり遅れて白組の秋月涼くんがなんとかバトンタッチ!」
司会「こーれーは! 白組、痛恨の痛手だーーー!!!!」
スタジアム内部・控え室//
P 「本当に、もうしわけありません!」
司会「申し訳ありませんじゃないっての! あんたねぇ、マネージャさん。もしも、も・し・も!
倒れたらどーやって責任取るつもりだったのさ! 生放送だよ? 大人気番組だよ?
スポンサーもいっぱいついてんの!! 放送事故なんてあっちゃいけないんだよっ!!」バン!
P 「私が秋月の体調に気をつえなかったのが原因です。本当に、言葉もありません。申し訳ありませんでした!」
司会「ホント、俺の司会技術のおかげでなんとか誤魔化せたけどさ。……で? 熱中症? どーなの?」
P 「はい! 救急車を呼ぶような事態には、決して!」
司会「んなことは分かってんだよ! ていうかそんな真似死んでもさせないからな? 歩いて病院行けよ!
そーじゃなくて、この後の撮影に差し支えないか、って聞いてんの!」
P 「……申し訳ありません。出来れば、出来れば、どうか、午後の競技、せめて最初の種目だけは
欠場と言うわけにはいかないでしょうか……?」
司会「はぁっ!?」
P 「どうか、お願いします!」
司会「あのねぇ……! ……、いや、もういいよ。どーせ十把一絡げの有象無象、モブアイドルだしね。
一人抜けたって、誰も悲しみやしないか。いいよ、もう。好きに休んじゃって」
P 「……、ありがとうございます」
司会「ただし! それ以降の競技には絶対参加させろよ!? 特に最後の罰ゲーム。あれ。わかってるよね?」
P 「負けたチームの、罰ゲームのことですよね? 確か、全員でダンスですよね」
司会「そ。でもそんなことじゃなくてさ、あっち。負けたチームで一番足引っ張った奴を『逆MVP』にする、って奴」
P 「……はい」
司会「あれ、もう多分お宅のヤツで確定だから。ていうかもう俺が決めたから。ぜってー欠席させんなよ?」
P 「勿論です」
司会「はぁ……」
P 「本当に申し訳ありませんでした!」
司会「ったく、えー、765プロさんだっけ? 覚えとくよ、全く……。もう二度と俺の仕事が来ると思うなよ!?」ガチャ
バタン!
P 「…………」
涼 「…………」
P 「涼」
涼 「ごめん、なさい……」
P 「過ぎたことだよ。体調は大丈夫なのか?」
涼 「はい……。なんとか……」
P 「まぁ、しばらく休め。水分もとってな。後、これ。ほら冷えピタ」
涼 「ありがとうございます」
P 「…………」
涼 「…………」
P 「落ち込むなよ、……って、言っても無理か」
涼 「……」
P 「涼、聞いてくれ。今回の事、俺自身、見誤った部分はあったんだ」
P 「言い訳がましいけど、今までプロデュースしてきたのが全員、女の子のアイドルだったからな。
あいつらに比べれば、身体の割に、声量もあるし、スタミナもあったから、過信しすぎたのかもしれない……」
P 「結果として、涼に負担をかけることになってしまった」
P 「これ以上言い訳はしない。俺のせいだ……。だから気に病む必要なんてない」
P 「すまなかった……」
涼 「そんな、……僕だって、」
P 「いや、俺の責任だ。俺の責任にさせてくれ。責任くらい、俺にも分けてほしい」
涼 「……でも!」
P 「涼は気にせず、ひたすら頑張ってくれればいい。後のことは俺が何とかするから、な?」
涼 「……、はい」
P 「……。これまでが上手くいきすぎだったんだよ! たまにはこんなミスあるさ! フツ−だよフツー!
そうだ! 春香なんてな、昔、何十万する機材に突っ込んだことがあってなぁ、あの時は青ざめたよー。
それに比べりゃましだって! ははははは!」
涼 「…………」
P 「ははは、…………」
P 「(その後、予定通り午後の競技を一種目棄権した。なんとか涼は回復できたみたいだ)」
P 「(だが、やはり気にせず、というのは無理だったのか、精彩を欠き、見せ場という見せ場は作ることができなかった)」
P 「(そして――)」
大きなスタジアム//
司会「さぁさぁー! すべての競技が終わり、集計結果が発表されまーす!」
司会「ドキドキするだろー? 白組vs紅組、『熱血! 男だらけのアイドル運動会inサマー!』、
今年の結果はぁーーーっ!?」
ダラララララララララララララララ、 ……ジャン!
司会「325対675で、紅組、圧倒的勝利ぃーーー!!!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
司会「次いで、MVPは! 熱血の名にふさわしい大活躍を見せてくれました、
ジュピターの天ヶ瀬冬馬くんーーー!!!」
冬馬「よっしゃあぁーーー!!!」グッ
冬馬くーーん!! かっこいーー!!! おめでとーーー!!!
冬馬「皆! 応援してくれてありがとな!」
キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!
司会「いやぁ、さすが冬馬君! 物凄い歓声ですね! しかし、今大会では、その他のアイドルたちも
よーく頑張ってくれました。白組は残念ながら負けてしまいましたが、雪野守くんも実に活躍していましたね!」
< まも様ーーー!!
司会「でーすが、一方で、今回活躍できなかったアイドルもいました。そんな逆MVP選手を紹介しましょー!
栄えある逆MVPに輝いたのは……、秋月涼くーーん!!」
あぁー……
涼くんドンマイー!
お疲れ様ー!
涼 「あ、ありがとうございましたー!」
司会「まぁ、両MVPとも納得の人選だったと思います。……では! お楽しみの罰ゲームの時間です!
とりあえず、秋月君には、この罰ゲームボックスからくじを引いてもらい、それを実行してもらいます。
では、どうぞ! ……ほら、引いて」
涼 「あ、は、はい! ……こ、これで!」
司会「はーい、では開けてくださーい」
涼 「……」ゴソゴソ、ヒョイ
涼「――え!? こ、これはっ」
司会「おっとっと! ストップストップ! 喋っちゃダーメよ。今から準備してもらいますんで。涼くん退場ー!」
涼 「で、でも!」
司会「オイ、いいからさっさとしろよ。なんの罰ゲームかしらねーけど大したもんじゃないだろが」ボソボソ
涼 「いや、これだけは……!」
司会「チッ、……おやおやー? 罰ゲームに困惑してるようですねー! しかし! くじは絶対!
それでは執行役のスタッフさーん! 強制連行お願いしまーす!」
涼 「え!? あ、ちょ、ちょっと! 待ってください! こ、困ります! うわぁ!」ズルズル
P 「涼!」
司会「こらそこぉ! 侵入2度目だよマネージャーさん! イエローカード累積2枚! サッカーなら退場だよ?」
P 「す、すみません!」
司会「全く、困ったものですねー。……えー、では、残りの白組の方々にも、罰ゲームを受けてもらいまーす!
ちなみに秋月君には、この罰ゲームの途中で再登場して一緒に踊ってもらいますよー。お楽しみにー!」
「罰ゲームかぁ」
「ダンスだっけか?」
司会「はいその通り! 皆さんには曲に合わせて、即興で踊ってもらいます」
冬馬「なんだ、罰ゲームっつっても大したことねーな」
翔太「ま、仮にもアイドルに酷いことはさせないでしょ」
北斗「でも確かに、罰ゲームとしては弱いかな?」
司会「えーちなみに、曲は、『青江二奈』で『伊勢佐木町ブルース』でーっす!」
「え? なにそれ?」
「しらねー」
北斗「二人ともしってる?」
翔太「さぁ?」
冬馬「アイドルの曲……、ってわけじゃねぇよな」
司会「タイトルは知らなくても曲は聞いたことがあるでしょう! M@Sプロアンテナ〜……は、古いか。
あ! ほら、大人気ドラマの『シンクロボーイズ』でも流れていた有名な曲ですよ! あのエロい曲!」
「あ」
「俺、わかったかも」
「え、何々?」
司会「それでは、白組アイドル諸君! 汗で濡らし、十分に火照ったその体で、官能的、色気たっぷりに!
踊っていただきましょーーー!!! では、ミュージックスタート!!」
<♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
冬馬「あぁ……」
北斗「これか……」
翔太「負けなくてよかった……」
司会「はい、ほら、諸君! 踊った踊った!!」
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
「お、踊るしかねーよな」
「こ、こうか……?」ビシッ
司会「そこ! 違う違う! もっとくねらせて! もっと、すぇくすぃーに!」
「グッ……」クネッ
「こ、これ……、」フニャ
「結構、恥ずかしい……!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら アァン…… アァン……
雪野「……」クネクネ
司会「はいはーい! 雪野くんー、もっと大きく体を使って〜!」
雪野「ぐぅ……!」クネンクネン
<まも様〜〜! かわいい〜〜!!
雪野「(あぁ……、イメージが……)」
冬馬「あの司会者、えげつないな」
北斗「雪野守はけっこうイケメン路線だったからな。イメージに傷がつくな」
翔太「面白そーだから、僕もツイッターであげちゃおうかなー」
♪ちゃらっちゃ ちゃらららっちゃら あなた知って〜る
「ちくしょーー! おどってやるよーーー!」
「あぁ……、社長に叱られる……」
「恥ずかしい……!」
「紅組めぇ! 覚えてろよ!」
「うぅ……」
キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!
こ〜いとなさ〜けの〜 じゅるびじゅびーるびじゅびるばー ひがぁとも〜る〜〜
アァン…… アァン……
司会「はっはっは、盛り上がってますねぇ! ではそろそろ秋月君、登場してくださーい!! スタッフー!!」
<お願いします、やめて! ……って、うわぁ!!
司会「はい! 秋月君は一体どんな罰ゲ……――!?」
涼 「あ……、あぁ……!」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
P 「なっ……!?」
北斗「なぁ、あれ」
翔太「うわぁ……」
冬馬「あれって……」
司会「じ……、」
司会「 女 装 だ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ っ !!」
涼 「あぁ……っ」ペタン
司会「なんとクジの中身は『セーラー服で女装』だったようです! いや、しかし、罰ゲームというか……、
いやはや! これ以上ないくらいに似合っているぞ秋月涼ぉーー!!!!」
<キャーーー!! 涼君かわいいいいいい!!!
<超似合ってるううううううう!!!
司会「いやぁ! これはもう女の子といっても分からないくらいですよ! いや! びっくりだ!
では、ほら、君も踊って踊って!!」
涼 「うぅ……」
司会「放送事故になっちゃうよ?」ボソ
涼 「! は……、はい……」スクッ
司会「さぁみんなでおどろんぱ! カメラさん! 秋月君もっと写しちゃってよ! こーれーはーここにきて
とんでもない逸材が生まれちゃったよぉーー!!? お茶の間の皆さんも注目ー! 視聴率アップに貢献してね!」
P 「涼……!」
司会「女装で! エッロティックに! 扇情的に! 踊れ踊れーー!! はっはっはっはっはー!」
冬馬「…………」
いったん休止〜。飯&風呂。
多分この調子なら今日中には最後まで投下できそうだわ。
あ、何かありましたらどうぞ。恐らく9時過ぎかちょうどには再開するはず。よろしく〜。
よ〜し、やや遅刻気味だけど再開!
こっから一気に終わらせたいね。では続きをば。
765プロ事務所//
『女装にて人気急上昇!? 人気番組の罰ゲーム!』
『秋月涼(765プロ)、女装がかわいいと話題に!!』
『今週の検索ワードランキング1位、「秋月涼 女装」』
バサッ
社長「どこもかしこも、もっと他に記事にすることはないんだろうかね?」
P 「……俺が、なんとしてでも止めていれば」
社長「いいや、罰ゲームはランダムだったのだろう? 事故にあったと思うしかないよ。
問題は、これからどうしていくか、だね」
P 「はい……」
社長「君の方で、なにか反応はあったかね?」
P 「一応、この件を境にCMからバラエティから、たくさんのオファーが入りました。……ですが」
社長「どれも、衣装は女装限定、かね?」
P 「はい」
社長「だろうね。ちなみに私に直接彼の出演を要請してきた人間もいたよ。勿論、全部女装限定だったが」
P 「やはり……」
社長「うーん、本来事務所としては嬉しい悲鳴なのだが」
P 「765プロ社長としては、受けた方がよい、と?」
社長「まさか。経営者としてならば、勿論受けるべきだというが、765プロ社長としてはNOだよ。
金儲けしたくない、とは言わないが、その為にアイドルの思いを踏みにじるのは決してあってはならない」
P 「安心しました」
社長「そうそう。なので君も、会社のことは考えず、彼の事だけを考えてくれたまえ」
P 「ありがとうございます!」
社長「ただ、当面はオファーを断るとして、問題は次だ。ここで一度断ると、次、出演さえさせてもらえなくなる
可能性がある。出来たとしても、条件が厳しくなる、とかねぇ。そこはどう考えている?」
P 「はい、今後は出来る限りは番組出演を控えようと思います。一方で、そういったバラエティ要素のない、
純粋な歌番組への出演と、その為のレッスンに時間を割こうかと予定しています」
社長「まぁ、それが模範解答だろうね。幸い彼には非凡な才能がある」
P 「本当は早いうちにこうした印象を払拭したいんですが、あまり短絡的に行っては逆効果になると思いまして。
ゆっくりと、実力派としての涼をみせていきたいと考えています」
社長「ふーむ……」
P 「……どうしましたか?」
社長「……。いや、そのセンで行こう。彼の事、よろしく頼んだよ、プロデューサー君」
P 「はい!」
社長「うむ。こちらからもできる限りのことはしておくよ。では、行ってくれたまえ」
P 「ありがとうございます。失礼します!」
ギィ、バタン
社長「…………」
社長「……ふむ」
涼の自室//
涼 「……」ポチポチ
-----------------------------------------
[今後もぜひ女装での出演お願いしますっ!]
[あーあ、涼ちゃんてば完全に女の子だわ]←
[カワイイしエロエロだしで、ムラムラでした]
[女装とか、私狙い撃ちぢゃん!]
[キタキタキタキタキターーーー! 公式が最大手!]
書き込み数 321/720
--------------------------------------------
涼 「うぅ……、やっぱりキツいなぁ」
涼 「でも、これが世間の声、なんだよね」
------------------------------------------
[涼ちゃんの出演楽しみにしてます!]←
[一目でファンになりました! 応援してます!]
[おう、女装デビューあくしろよ]
[これはもう女の子デビューってことですよね! ね!]
[一生応援してます! がんばってください!!]
書き込み数 324/731
------------------------------------------
涼 「皆、女の子としての僕を望んでるんだなぁ……」
涼 「……やっぱり、僕は」
涼 「って、なしなし! 僕はそんなのしないよ、うん。何考えてんだ!」
涼 「その為に明日のオーディションでも頑張るんだしね!」
涼 「負けるもんか! 僕は男らしくなるって決めたんだから!」
涼 「そう! 男らしくなるためのアイドルなんだから……」
涼 「そうだよ、そう、」
涼 「男、らしく……」
涼 「…………」
楽屋//
翌日、、、
P 「……涼?」
涼 「っ、は、はい!?」
P 「どうした? 上の空だったけど……」
涼 「いえ! なんでもないです、大丈夫です」
P 「そ、そうか……」
涼 「はい! もう、頑張っちゃいますよ! あはは!」
P 「(明らかにテンションがおかしいな。空回ってる時の春香だよこれじゃあ)」
P 「まぁ、やる気があるぶんにはいいが、もう少し落ち着け」
涼 「す、すみません……。なんか、こうでもしてないと落ち着かなくて……。
だって今日の相手ってジュピターの冬馬くんですよね?」
P 「あぁ。だけど番組出演権は上位2位までに与えられるんだから、いつもの涼だったら大丈夫だ」
涼 「そうですか。そうですよね……うん」
P 「天ヶ瀬冬馬が一強。次点で涼。後は負けるはずもない下位ランクのアイドルたちだ。
慢心するのはよくないが、あんまりプレッシャーに感じる必要はないんだぞ?」
涼 「はい……」
P 「じゃあ出番も近いし、そろそろ準備してくれるか? 必ず勝とうな!」
オーディション会場//
〜〜♪ 〜〜〜♪
『バン! バン! ビッグバン! こーころはビッグバン!』
涼 「やっぱり冬馬くん、ソロでも凄いなぁ……。それに、カッコいい曲だけじゃなくて
こういう爽やかな曲も歌えるんだ」
『さあ叶えてみようぜ ローケットダッシュ!』
審査員「天ヶ瀬君、いいねぇ。こりゃ一位は決まりかなー」
涼 「審査員の人も完全にとりこにしてる……」
『ファイアーーーー! Go ビッグ! バン!』
<パチパチパチパチパチ
涼 「……。羨ましいなぁ……。僕も、あんな風になりたい……」
涼 「ん? あんな風ってなんだ?」
審査員「では3番の方、どうぞ」
涼 「あ、はい! ……どうも! 秋月涼です! よろしくお願いします!」
審査員「はいはいよろしくねー」
審査員「って、そうだ、君どっかで見たことあると思ったら、こないだ女装で出てた子だ」
涼 「っ」
審査員「で、今日はどっち? 男で? 女で?」
涼 「男です!」
審査員「そ。まぁそりゃそうだろうね。……たださぁ、長年審査員やってる僕の口から言わせてもらうとね、
君、女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも」
涼 「――ぇ?」
審査員「まぁ君も女装して有名になるくらいだったらそのままの方がいいよねぇ? 分かってるよ。
じゃ、初めて頂戴」
涼 「…………」
審査員「ん? 大丈夫?」
涼 「え? あ、大丈夫です! 頑張ります! 音楽お願いします!」
〜♪ 〜〜♪
『夢と 夢が 恋に 落ちる ヒミツの さ〜んごしょう〜』
涼 「(よし、良い滑り出し! 反応もよさそう)」
涼 「(このままいけば多分2位で抜けられる)」
『き〜みとさ、 みーてみたーいのさー』
涼 「(2位で……)」
「女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも」
涼 「(…………)」
涼 「(ちょっと、女の子らしさを入れてみようかな?)」
『ボクがみつけたんだ 誰も――』
涼 「っ」
審査員「ん?」
『……らないトコ ごはん食べ終えたら』
涼 「(何考えてんだ僕は! 男らしくするって決めたじゃないか!)」
涼 「(そうだよ! そんなんじゃ意味がないよ! プロデューサーも『いつもの僕』なら
大丈夫だって言ってたじゃないか。そう、僕らしくすれば……)」
涼 「(僕らしく……。僕らしく?)」
涼 「(――あれ?)」
審査員「んー?」
涼 「(……落ち着け、落ち着け。落ち着いて。……あぁもう!)」
『夜と 朝が キスを 交わす 琥珀の 地平線〜』
涼 「(こんなんじゃ……!)」
審査員「うーん……」
冬馬「……、チッ」
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――
――
審査員「えー、それじゃあ発表しますね? 番組出場権を獲得した上位2名は……」
審査員「ぶっちぎりで1位の天ヶ瀬冬馬君。と、2位のPUT-TUNの皆さんです」
「マジか!?」
「俺たちの時代が来た!」
「よっしゃあああ!!!」
冬馬「…………」
審査員「はいはい、そこの。はしゃぐな。えー、出場権を獲得した方々にはウチのディレクターから
直々にお話があるので、しばらくお待ちください。あ、落ちた方はごくろうさんでした。
……以上! 僕はディレクター呼んでくるんで、じゃ、お疲れー」ガチャ
バタン
よっしゃーーー!!
PUT-TUNの時代だぜ!
あー、勝てるかもっておもったのに……
くっそー!
ちくしょう……
涼 「……」トボトボ
冬馬「おい。秋月」
涼 「!? え、僕? 何?」
冬馬「何、じゃねえよ。なんなんだよあの歌は」
涼 「……関係ないでしょ」
冬馬「っ!」
グイッ
涼 「うっ!」
冬馬「ふざけんな! お前はそんなもんじゃなかっただろうが!
なのになんだあれは! 腑抜けてんじゃねえよ!」
涼 「……っ」
冬馬「実力が云々じゃねえ! 単純に気持ちが全くこもってなかった!
そんなだからあんな100円ショップで10円で売ってるような衣装着てる奴らに負けるんだよ!」
「100円ショップって……」
「え、えーっと、俺らの事?」
「え? え? 酷くね?」
冬馬「ちったあお前の事期待してたのに。……そんな中途半端な奴だとは思わなかった。がっかりしたぜ。
初めて会った時の方がまだマシだった」
涼 「……、僕だって――」
冬馬「あ?」
涼 「僕だってな! 好きでこんなになってるわけじゃないんだ!」グッ
冬馬「っ」
涼 「やりたいこととかやれることが、全部バラバラで! やりたいこともわけわかんなくなってきたし!
ごちゃごちゃで! 意味わかんなくて! もう! ……もう、……ちくしょう」
冬馬「……」
ど た ど た
P 「ちょ、涼! 大丈夫か!?」
審査員「おいおいちょっと! 何の騒ぎ!?」
涼 「プロデューサー……」
冬馬「……ふん」
P 「君、離してくれ」
冬馬「……わかってるよ」パッ
涼 「ぅ」
審査員「ちょ……、あんまりエキサイティングなことされると困るんだけど」
冬馬「すいませんでした」
審査員「えー、冬馬君、一応事情だけ聞かせてもらえる? 765さんもできれば残って」
P 「俺がいれば大丈夫でしょうか?」
審査員「うーん、ま、いいよ」
P 「じゃあ、涼。先に楽屋へ戻ってゆっくりしててくれ」
涼 「……、はい」
会場・廊下//
涼 「…………」トボトボ
??「やぁ、災難だったね」
涼 「!? 武田さん。どうしてここに」
武田「近くに寄ったんだ。後、君とジュピターくんたちが気になって」
涼 「…………」
武田「見ていたよ」
涼 「……ごめんなさい」
武田「……。謝るということは、自分でも何が悪いか分かっている、ということだね?」
涼 「……はい」
武田「そうか。なら僕からは言うことはない」
涼 「…………はい」
武田「それでは。……そうだ、言い忘れていた。頼まれていた君への曲、できたよ」
涼 「え? あ、ありがとうございます!」
武田「だけど、今は渡さない方がいいかもしれないな」
涼 「あ……」
武田「君自身、結論がでたら、取りに来るといい」ガチャ
バタン
涼 「…………」
涼の自室//
ガチャ
涼 「……はぁ」ボスン
涼 「……」
涼 「……最悪だ」
涼 「僕、なんで、アイドルやってるんだろう……」
涼 「こんな思いまでして……」
涼 「……」
涼 「辞めよっかな」ボソ
涼 「……」
涼 「――って」
涼 「(何度も何度も考えたのに)」
涼 「どうしてか、辞めたくないんだよなぁ……」
涼 「わけわかんないや」
涼 「どうして、なんだろう」
涼 「(何故だろう。元々、男らしくなるために始めたアイドルなのに……)」
涼 「(女装して有名になるくらいなら、辞めた方がましだって思ってるのに)」
涼 「(なんで、なんで……、)」
女装でアイドルやったら結構いいセン行くよ? トップアイドルも夢じゃないかも
涼 「あの言葉に一瞬揺らいじゃったんだろう……」
涼 「トップアイドルも夢じゃない、か」
涼 「夢……」
涼 「男らしくなること、男だって認められること?」
涼 「そうだよ、そう」
765プロ事務所//
翌日、、、
涼 「うぅ……」
涼 「(結局、一睡も出来なかった……!)」
涼 「マズいなぁ、今日は善澤さんにインタビューしてもらう日なのに」
涼 「(でもまぁ、目が覚めてたって、はっきりと取材に答えられるとは思えないしなぁ)」
涼 「もう、なるようになれだ」
ガチャ
社長「おや、秋月君、早いねぇ」
涼 「社長! おはようございます。……ちょっと、眠れなくて」
社長「ははは、まぁ徹夜は若さの証だ。だが無理はしちゃいけないよ?」
涼 「ははは、ごめんなさい……」
社長「ところで、それは悩み事があるからかな?」
涼 「あー……、まぁ、そうです。はい」
社長「昨日の今日だからねぇ。プロデューサーくんからあらましは聞いたよ」
涼 「すみませんでした、その……」
社長「オーディションに負けたことかい?」
涼 「……はい」
社長「っ、ははははは」
涼 「ど、どうしたんですか?」
社長「いやいや、凄いことを言うなとおもってね。キミィ、まさかオーディションに負けたくらいで
ウチの事務所がどうこうなると思ったのかね?」
涼 「そうじゃなくて、そのみっともない所を」
社長「その言葉、やよい君に聞かせたら落ち込むよ」
涼 「やよいさんにですか?」
社長「彼女は最初、かなり負け越していたからねぇ。同時期にライバルとなった我那覇くんに、
よくオーディションで負かされていたよ」
涼 「そう、だったんですか」
社長「彼女もよく落ち込んでいた。しかし持ち前の明るさで、いつもすぐに気持ちを切り替えて
いつもハイテンションで次に進んでいたよ。そして、今となってな日本でその名を知らない者は
いないくらいのトップアイドルだ」
涼 「やよいさんはやっぱりすごいですね」
社長「そうとも。転んでもケロッと起き上がる、そんな強さが彼女にはあった。そして成功した。
君も一つの負けで落ち込んでいてどうする?」
涼 「それは、わかります。……でも、僕は……」
社長「……、ふむ」
涼 「…………」
社長「君は何がしたい?」
涼 「? ……かっこよく、男らしくなりたいです」
社長「ふむ、そうか」
涼 「はい」
社長「それで?」
涼 「え……?」
社長「…………」
涼 「それで……って?」
社長「……今でもやはり、夢は『男らしくなりたい』かね?」
涼 「それは勿論そうです!」
社長「フフフ、君は真面目だねぇ。律子君とよく似てるよ。私なんて到底無理だ。
ティンときたらあちらやこちら、なんでも目移りしてしまう」
涼 「はぁ」
社長「そうだな。……一つだけ、話をしよう。ウチの、女の子のアイドルたちなんだがね?
彼女たちの志望動機も色々あるんだよ。例えば、歌を歌いたいから、家族の為にお金を稼ぎたいから、
はたまた、君と似たように、自分の性格を直したいから、という子もいる」
社長「だけど、それは彼女たちの一歩目の動機だ。今もそれだけで全て支えられているわけじゃない。
だからこそ今の彼女たちには、一流のアイドルにふさわしい、何事にも屈しない想いの強さがある」
涼 「……そういえば、武田プロデューサーにも言われました。
一流と二流の差を分けるのは想いの強さだ、って」
社長「なるほど、さすがに良いことを言う。ならば悩んでいる君に私も一つだけ、助言をしよう」
社長「『2』という答えはね、1×2でもできるが、1+1でもできるんだよ」
涼 「え? それはどういう……」
社長「さぁねぇ」
善澤「お前はいつもはぐらかすな」
涼 「善澤さん!? おはようございます」
社長「なんだね、来ていたのか」
善澤「君が呼んだんだろうに」
社長「そうだったね」
善澤「それより、けむに巻かずに、教えてあげればいいじゃないか。
結構悩んでいるように見えるよ、彼」
社長「いやいや、彼の担当はプロデューサー君だ。出来るだけ、彼と解決していってくれたまえ。
彼もきっと君を正解へと導いてくれることだろう」
涼 「プロデューサーがですか?」
善澤「なんだ、意外かい?」
涼 「いえ! そういう意味でなく! プロデューサーは凄い人だと思います!」
善澤「まぁ、この喰えない男が惚れ込んだプロデューサーだ。悪いようにはならないさ。
彼は中々人をよくみている。きっと上手くしてくれるさ」
社長「おいおい、あまり言い過ぎないでくれよ?」
善澤「わかったよ。まぁこいつの言ったことをまとめるとだ、
難しく考えないで、君の思う通りに行動するのが正解ってことだよ」
涼 「ざ、ざっくりですね」
善澤「彼は君の行きたい方向へ進む手助けをしてくれるはずさ。後は、君次第だ」
涼 「…………」
社長「そういうわけだ。期待しているよ、秋月君。
さぁ、じゃあ取材を始めてもらおうか。音無君、すまないがお茶を頼むよ」
善澤「ありがとう。じゃあ、さっそくだけど始めさせてもらおうかな」
涼 「(僕の思う通り、か)」
涼 「(僕って何がしたかったんだろう……)」
今でもやはり、夢は『男らしくなりたい』かね?
涼 「(そうだよね。男らしく……)」
1+1でもできるんだよ
涼 「(でも今は、……それだけじゃない、な)」
羨ましいなぁ
僕も、あんな風になりたい
涼 「……、そっか」
涼 「僕は、――」
765プロ事務所//
夕方、、、
P 「はい、……いえ、そういった条件では、はい、……申し訳ありませんでした」ガチャ
P 「うーん」
涼 「また女装で出演オファーですか?」
P 「いやまぁ、気にするな」
涼 「…………」
P 「さて。……そうだ、涼、コーヒー飲むか?」
涼 「おねがいします……」
P 「そっか、ちょっと待っててくれ」
カチャカチャ コポポポポ
涼 「……」
涼 「あの、プロデューサー」
P 「んー?」テクテク
涼 「……やっぱり、女装の方がいいんですかね?」
P 「……、涼自身、色々考えたんだろう」
涼 「……」コクン
P 「聞かせてくれるか?」
コト
涼 「正直、僕も、まだよくわかんないんです」
P 「そうか」
涼 「でも、一つだけ、なんだかわかったことがある気がします」
P 「なんだ?」
涼 「僕は、」
涼 「僕は、アイドルをやっていたい」
P 「……男らしさは、どうしたんだ?」
涼 「勿論今でも、そうなりたいですし、僕の目的です。……けど、実際それが難しくなったし、
こうなったら最悪、女装でもいいかなとも思えてきちゃって」
P 「……男らしさは諦めるってことでいいんだな?」
涼 「それなんです!」
P 「?」
涼 「……それも、できたらその、諦めたくない」
P 「んん?」
涼 「いや、その、難しいことだって言うのも知ってます。……でも、」
涼 「でも、僕は、やっぱり、男のままでいたい」
涼 「僕は、昔から弱い子で、女の子みたいだって言われ続けて、誰からも男扱いされてこなかったけど、
もしアイドルになれば、こんな僕でも変われるって、そう思って」
P 「…………」
涼 「だから、アイドルになって、こんな僕にも応援してくれる人がいて、カッコよくなれて……、
うん、……楽しかったんです」
P 「……、つまり、こんな状況でもまだ、今までどおり男の格好で、
しかもそれでいてアイドルとして成功したいってことか?」
涼 「はい」
P 「わかってると思うが、茨の道になるぞ。ニーズっていう一番逆らっちゃいけない魔物の相手をすることになる。
TV局だって敵に回すかもしれない。だが、女装してTVに出れば一躍スターになれるぞ? いいのか」
涼 「はい!」
P 「……」
涼 「例え女装の方が需要があるのかも知れなくても、そっちの方が成功するのかもしれなくても!」
涼 「それでもやっぱり! 男らしくなりたいし! トップアイドルにもなりたい!」
涼 「わがままかもしれないけれど!」
涼 「――僕は、なりたい自分になりたい!」
涼 「だからプロデューサー、身勝手なお願いですけど、」
P 「…………」
涼 「そんなわがままを、手伝ってくれませんか?」
P 「…………」
涼 「…………」
P 「……一つだけ、プロデューサーとして、言わせてくれるか?」
涼 「……、はい」
P 「涼ってそんな大声出せたんだな」
涼 「はい?」
P 「いやびっくりしたよー! 正直涼ってあんまり熱血なイメージなかったからさ!
なんだよー、こんな感じの引き出しがあるんだったらプロデューサーの俺に言ってくれよなー」
涼 「ちょ、えぇ!? 今そんな感じの雰囲気じゃなかったですよね!?」
P 「いやいや、今の演説で終始、声の大きさにばっかり気を取られてたよ」
涼 「そんな! だって今さっき魔物がどうとか凄いシリアスなこと言ってたじゃないですか!」
P 「ちょっとカッコつけすぎたかな?」
涼 「台無しだー!」
P 「しかし、なんだ。なりたい自分になりたい、か」
涼 「……はい、それが今の僕の気持ちです」
P 「うーむ」
涼 「やっぱり難しい、ですか?」
P 「え? なんで?」
涼 「なんで、って」
P 「大体さー、涼。なりたい自分になるー、なんて想い、アイドル養成所に通ってる新人だって
持ってる基礎中の基礎だぞ? 何を今さら」ハン
涼 「酷くないですか!? 僕、この答えに至るまでにすんごい考え続けたのに」
P 「んー、今まで結構褒め続けたけど、涼も意外と抜けてるよな」
涼 「なんなんですかもう!」
P 「あのなぁ――」
P 「なりたい自分になる、ってのはアイドルの基本! そして……」
P 「なりたい自分にならせてやるのが、俺たちプロデューサーの仕事だ!」
涼 「あ……」
P 「だから涼が『男らしく、かつ、トップアイドルになりたい』っていうんなら、
そういう道を用意してやるまでだ。それが俺の仕事だ! 薄給激務のな!」
涼 「薄給激務なんですね……」
P 「だって皆ワガママばっかり言うんだもん。調整するこっちの身にもなれってんだ!
だけども給料変わんないしよぉ。……あ、これオフレコな」
涼 「色々抱えてるんだ」
P 「社会人ってそんなもんさ。でもまぁ、やりがいはあるよ。
この仕事の楽しさに気づいたからなぁ。薄給激務でも、俺は一生この仕事をしていたい」
涼 「僕も、最近やりがいを感じてきましたよ」
P 「よかったな。男のアイドルは割と寿命長いし……、下手したらお爺ちゃんアイドルも夢じゃないぞ」
涼 「じゃあプロデューサー。僕の夢、手伝ってくれますか?」
P 「当たり前だ。大体、俺は律子に女装デビューさせられそうだったの止めるために
涼のプロデュースを始めたんだぞ? ここで女装アイドルにしたら、今までなんだったんだ、って話だよ」
涼 「あはは、そうでしたね!」
P 「だがここからが正念場だぞ。それはわかってるな?」
涼 「はいっ! 精一杯頑張ります!」
TV局・VIPルーム//
翌日、、、
コンコン
武田「入ってくれ」
ガチャ
P・涼 「「失礼します」」
武田「よく来てくれた。かけてくれ」
涼 「…………」
P 「武田プロデューサー。この度は、ウチの秋月に楽曲を作って下さり、本当にありがとうございます」
武田「構わないよ。僕自身望んでやったことだ」
P 「ありがとうございます」
涼 「あの、僕――」
武田「いや」
武田「もはや言葉を聞く必要はない」
P 「わかりますか?」
武田「自分で言うのもなんだけど、これでも業界トップクラスのプロデューサーでね」
P 「存じています」
武田「そんな僕から見て――」チラッ
涼 「?」
武田「……フッ」
武田「……良い目だ。掛け値なしに」
スッ
涼 「こ、これ! CD!」
武田「『Dazzling World』。君のために作った曲だ。細かい直しは今後していくつもりだが、
まぁ、かなりの自信作だよ」
涼 「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
P 「俺からも、本当にありがとうございます!」
武田「礼はいい。君の歌声にインスピレーションが湧いただけだ。
……それより、いま君を取り巻く環境は順風とは言えないが、大丈夫なのか?」
P 「必ず、十全の環境に、逆風を順風にしてみせます」
武田「ほう。期待しているよ」
P 「任せてください!」
武田「本当に、頼んだよ。彼には僕の夢もかかっているんだ」
涼 「え!? ぼ、僕にですか!?」
武田「あぁ、君の方向性を位置づけたくないから、詳しく語ることはないが、
……ただ、君は僕の夢をかけるに値する人間だとおもっている。勿論まだまだ原石だが」
P 「ですが、すぐに輝かせて見せますよ」
武田「本当に頼もしい限りだよ、君は。秋月君、君にも当然夢があるだろう。
だけど、君自身を夢としている人間もいることを、忘れないでくれ」
涼 「僕が、……僕自身が、夢?」
武田「そうだ。……さぁ、長くなってしまったね。悪いがそろそろ次の仕事があるんだ」
P 「はい、本日はありがとうございました! 涼、行こうか」
涼 「え、はい。あ、あの! ありがとうございました!」
武田「あぁ、がんばってくれ」
ガチャ、 バタン
武田「……ふぅ」
武田「(なぜだろうな。彼ならば、全ての国民に口ずさんでもらえる歌を、
僕の夢を、完成させてくれる気がする……)」
武田「(余計な期待をかけるつもりはなかったんだが、つい、言ってしまった)」
武田「(以前の僕なら、ここまで期待をすることもなかったのだが――)」
武田「僕もまた、彼に引っ張られたということか」フフッ
765プロ事務所//
P 「さぁ! じゃあ作戦会議と行きますか!」
涼 「おねがいします」
P 「とはいえ、涼、武田プロデューサーの前ではああいったが、正直今の俺たちに取れる戦略は少ない」
涼 「どこにいっても、女装を求められるから、ですか?」
P 「そうだ。実は先日な、純粋な歌番組のオーディションですら要請があったよ」
涼 「えぇ〜……」
P 「ただその中で、こんなオファーがあった」ペラッ
涼 「何々、『白熱! 男だらけのアイドル水泳大会inサマー!』?
え? これ完全にあの司会者の番組ですよね」
P 「あぁ」
涼 「あれ? こないだもう仕事は回さない、みたいなこといってませんでしたっけ?」
P 「たしかにな。でも涼の話題が盛り上がるや否や、すぐさまオファーしてきたよ」
涼 「なんか、納得いかない……」ムスッ
P 「まぁしたたかなんだろう。あの司会も、番組制作者も。だけど呼んでくれたことに、今は感謝しよう。
この番組は、一番条件がいいんだ」
涼 「条件?」
P 「高視聴率。加えて、この番組だけが唯一、男性アイドルとして出演できる」
涼 「へぇ、意外」
P 「ただし、罰ゲームは女装一択になっている」
涼 「あぁ、完全に僕を狙い撃ちにしてきている、と」
P 「ちなみに競技はプールへの『飛び込み』だけだそうだ。タイムを競うらしい」
涼 「あれ? これだけですか?」
P 「前回のは特大のスペシャル番組だったからな。今回のは生放送の2時間枠に収めるために
競技は一つしかない。つまり早く飛び込みさえすれば、それで終わり、ってわけだ」
涼 「なるほど。てことはすぐに飛び込めば罰ゲーム回避ってことですね」
P 「番組的には涼が最下位になることを望んでるのかもしれないけど、知ったことか。
こっちにだって事情があるんだ。それに社長も好きにやっていいっていってたし、大丈夫」
涼 「じゃあそこで勝つ、というわけですね!」
P 「ハイリスクは承知だが、無茶は無茶で押し通すしかない。それに今の俺たちには
注目度抜群の最終兵器がある」
涼 「『Dazzling World』……」
P 「あぁ。あの番組は逆MVPに罰ゲームをかしているが、
MVPにはあの大観衆の中で自分の歌を歌える特典がある」
涼 「なるほど、その為の新曲だったんですね」
P 「その通り。前回はジュピターが持って行ったが、今回はそれを俺たちが貰う!
そこで新曲を披露し、かっこいい涼を全国放映するんだ!」
涼 「はい! 必ず、なりたい自分でTVに映って見せます!」
そして、撮影当日
大きなプール会場//
司会「『白熱! 男だらけのアイドル水泳大会inサマー!』、本日は生放送2時間スペシャルでお送りしておりまーす!」
司会「司会はいつもの私でお送りしております! それでは尺も短いので、さっそくまいりましょう!」
司会「トーップバッターはぁ、このアイドルっ!!」
冬馬「よろしくなっ!」
司会「圧倒的人気のジュピターの、天ヶ瀬冬馬くんだーーー!!!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
「うわぁ、さっすがすげえ人気だな」
「ウワサじゃ、そろそろBランク行くらしいぜ」
「マジかよ、早すぎ……」
司会「はい底の、じゃなかったそこのアイドルたち! くっちゃべってないで応援応援!
多分君たちが思ってるよりこの飛び込み台からの景色は高くて怖いよぉ?」
冬馬「へっ、怖いだって?」
司会「さぁ! 好タイムで飛べるのか! レディー……」
冬馬「問題ねーぜ!」グッ
司会「ゴ――」
冬馬「 ど り ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! ! 」ダッ!
司会「んなっ!?」
ザッパーン!
司会「タ、タイムは! なななななーんと! 3 秒 だーーー!!!」
お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お !!!!!
冬馬「っしゃああああ!!!」ザパァ
「やっぱ天ヶ瀬半端ねぇ」
「凄ぇな。流石違うなぁ。な、秋月?」
涼 「ん? 僕? そうだね。……でも、負けるつもりはないから」
「「…………」」
涼 「? どうしたの?」
「なんか、秋月変わったな」
「おぉ、なんかな」
涼 「そう?」
司会「さぁさぁトップバッターの天ヶ瀬冬馬! なんと一切の躊躇なし!
記録は驚異の3秒! 果たしてこの記録を塗り替える猛者は現れるのかー!?」
そして番組終盤、、、
『――、以上の番号のアイドルの方は待機所に集まってください』
涼 「僕か」
「お、秋月も頑張ってこいよ!」
涼 「うん、頑張ってくるね!」
「おう!」
涼 「…………」テッテッテ
P 「出番だな、涼!」
涼 「…………」
P 「緊張してるな」
涼 「会場では上手く振舞えたつもりだったんですけど、やっぱり緊張しますね」タハハ
P 「いやいや、上出来だよ」
涼 「あー、やっぱりすぐには変わらないものだなぁ」
P 「男らしく、か?」
涼 「はい……」
P 「そうだな、俺としては、今日は涼らしく……っていいたいんだけど、それじゃダメか?」
涼 「できれば、いつもよりかっこよくいきたいですね」
P 「そっか。……うーん、じゃあ、アイドルらしく、っていうのはどうだ?」
涼 「アイドルらしくですか? どういう……」
P 「ごめん、俺も上手く言えないんだけど……、こう、ステージに立つ人間らしくというか、
ファンを楽しませる人間らしくというか……。うん」
涼 「それっていつもと変わらないような」
P 「あー、なんていうか上手く伝えられない……。……そうだ! まとめて言うとだな、
あれだ、ステージに立った時の気持ちを、もっと感じて、大切にしてみろ、……かなぁ?
涼はステージに上がった時ってどんな気持ちだ?」
涼 「ステージですか? ……それは、こう、高揚する、みたいな」
P 「そうそう! その気持ちをさ、大切に感じれば、自ずとカッコよくなれるよ! ……多分」
涼 「多分……」
P 「ごめんな涼……。うまく言えなくて……。でもきっと間違いじゃないとは思うんだ。
春香たちが、こう、舞台でキラキラ輝いてるときは、いつもそういう気持ちなんだって思うから」
涼 「そういうと、凄い説得力ありますね」
P 「そうか?」
涼 「はい、だって、プロデューサーはよく人を見ている人だって、善澤記者もいってましたから」
P 「えぇ、なんだよ、照れるなぁ」
涼 「ねぇ、プロデューサー」
P 「何だ?」
涼 「プロデューサーからみて、今の僕は、どうですか?」
P 「…………、そうだな」
涼 「…………」
P 「……実はな、俺自身、涼は最初、他の女の子のアイドルたちと同じ感覚で接することができたんだよ。
かわいい路線だったし、こう、男男してなかったから」
涼 「とほほ」
P 「でも、なんだろうな、今の涼は、完璧に男性アイドル、って感じがしたよ」
涼 「そうですかね」
P 「勿論だ! 俺の目は確かだぞ、って、善澤さんも言ってたんだろ?」
涼 「あはは、確かに!」
P 「おう! 俺から見て今日の涼のコンディションはバッチリだ! 絶対成功するよ!」
涼 「そうですか、じゃあ、……ちょっと、頑張ってきます!」
P 「大丈夫だ。涼なら」
涼 「お墨付き、ありがとうございますね!」
「765プロの秋月涼さーん、出番ですのでこちらへー」
P 「よし! 行ってこい、涼!」
涼 「っ! はいっ! 行ってきます!!」
司会「さてさて、ここまでを振り返りましょう」
司会「まずトップバッターがジュピターの天ヶ瀬冬馬くん。ノータイムでの飛び込みで3秒をマーク!
現在堂々1位につけています」
司会「その後、先頭の冬馬くんに続けとばかりに、出来るだけノンストップで飛びこもうとする人が
たくさんいましたが、やはり高さに一瞬戸惑ったのか、大体10秒台、最速でも7秒となっておりました」
司会「そしてぇーー! そんな流れを変えたのがこの人! 同じくジュピターの伊集院北斗くぅん!」
司会「64秒とタイムは遅いものの、空中でトリプルアクセル!
無駄に洗練された芸術的ジャンプを披露! そしてその時のコメントが……」
北斗『やっぱり、アイドルなら、かっこよく飛ばないとね☆』チャオ☆
司会「この一言が他のアイドルたちに火を点け、カッコ良いジャンプに重点が置かれるように!
後続のアイドルたちはタイムそっちのけで華麗なジャンプをするようになりました!」
司会「そして現在のワーストタイムは112秒!」
司会「残すはあと2人! 果たして優勝は! そして罰ゲームを受ける逆MVPは誰なのかぁー!!?」
司会「一旦CMヨロシクゥ!」
プールサイド//
涼 「よぉし! 頑張るぞ!」
翔太「なに、超張り切ってるじゃん」
涼 「あ、翔太君」
翔太「僕が大トリだからさ、まぁ目立たない程度に頼むよ」
涼 「……いや、今日は僕本気だから!」
翔太「んー?」
涼 「? どうしたの?」
翔太「いやさ、冬馬くんが『あいつはもうダメだー』とか『漢気が足りてねー』とか
色々言ってたけど、なーんか前見た時から別に悪くなってる気がしないっていうか」
涼 「色々あったんだよ」
翔太「ふーん……。色々、か」
司会「お二人さんお二人さん! あとは君たち二人だけだよ! 期待してるから、頑張ってね!」
翔太「はーい! よろしくお願いしまーす!」
司会「うんうんー! いい返事ー! さすが大トリをつとめるだけあるよー!
秋月くんもさ、よろしくお願いね?」
涼 「はい! 勿論! 1位狙います!」
司会「はっはっは! 面白いこと言うねー! じゃなくてさ、可愛らしく最下位狙ってちょうだいよ?」
涼 「はい、頑張ります!」
司会「……ん? わかってる?」
涼 「頑張ります!」
司会「…………」
涼 「頑張って見せます!」ニコニコ
司会「……。あそー、頼んだよ?」
涼 「はい!」
司会「じゃ、飛び込み台に上がってくれる? CM明けちゃうから!」
涼 「はい! 頑張ってきますのでー!」タッタッタ
司会「はいはーい! 精々がんばってー! ……翔太君も、頑張ってねー!」スタスタ
翔太「……、勿論だよ!」
司会「……チッ、分かってんだろなぁあいつ」
司会「まぁいいや。おいお前、スタッフ用のレシーバーよこせ」
司会「あ、あー。飛び込み台のスタッフ? 聞こえてる? あ、聞こえてる、あっそ」
司会「ちょっとさー、めんどくさいことが起きるかもしれないんだよねー。
そーそー、次の。うん、秋月涼」
司会「だからさ、」
司会「そっちで上手くしといてよ。……ん、はいはいよろしくー」
翔太「(……ホント、色々あるみたいだねー)」
翔太「チッ、……あ゛ー、嫌なもの見ちゃったなぁー」
飛び込み台//
ヒョオオオ
涼 「うひゃあ、結構高いなぁ……」
「秋月さん、大丈夫ですか?」
涼 「スタッフさん! はい大丈夫です! 今日は張り切ってますから!」
「そ、そうですか……」
涼 「?」
司会「はいはーい、ではCM明けーっ! 番組も大詰めーっ! お次に飛んでもらうのはーー、
最後から2番目! 前回逆MVPを獲得した秋月涼くんだああぁーーー!!!」
< きゃーーー!! 涼くーーん! がんばってーーー!!
司会「えぇそれでは! 是非とも"頑張って"貰いましょう! レディーーー、ゴーーー!!」
涼 「(ノンストップで!)」ダッ
ガシッ!
涼 「――っ!?」
「…………」
涼 「な、離し――!」
司会「さてまずここで天ヶ瀬冬馬くんの3秒を超えたー! これで1位はなくなりましたー!!」
涼 「あ、あぁーー!!」
「…………」
涼 「な、……なんてこと! なにを!」
「…………」
司会「さぁさぁドンドン時間が経っていくー!
10・11・12、毎秒ごとにどんどん順位を落としていくぞーーー!!」
涼 「くっ、いいから! 話して、くださいよっ!」ググ
「だ、ダメです! 上から言われてるんですよ!」
涼 「え?」
「あなたを失格にさせるようにと! だから離せません」ギリリ
涼 「そ、そんな……!」
大きなプール会場//
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
司会「おやぁ、どうしたことでしょう? 秋月くん、一向に飛び込んでこない。
というか飛び込み台に出て来さえしないまま、ずいぶん経ってしまいましたねぇー」
<涼くーん!
司会「ほらほらー! 客席からも応援の声ですよー! 秋月くん、飛び込んじゃってくださいよー!」
司会「でないと罰ゲームの女装が待ってますよー!! あ、でも似合うからいっか!!」
あ は は は は は は !
司会「ありゃ、そうこうしているうちにワーストタイムを超えてしまったーーーー!!!」
P 「(……涼、どうしたんだ?)」
司会「ここでもう一度ルールをおさらいします! この競技はもっともタイムが遅かったアイドルが負け!」
司会「そして、300秒、即ち5分経てば、『棄権扱い』となり問答無用で失格! 最下位となります!」
司会「そしてそして、そうなれば! 罰ゲームの『女装deダンス』が待っておりまーす!」
司会「あの大運動会以後、TVで女装姿を見せてこなかった涼君ですが、
この番組で初披露となるのかーー!! お茶の間の皆さん! チャンネルはそのままでぇ!!」
司会「いんやー! これ視聴率上がっちゃうなーーー! ってね! うっはっはっはっは!」
P 「……まさか、……何かされたんじゃ!?」
P 「くっ!」ダッ
司会「はっはっはー! ……ん? っと、皆様、それではしばらく応援してあげてください!」
司会「……おい、お前。あのマネージャーとめてこい」
車の中//
黒井「ウィ、ではその様に頼むぞ」ピッ
社員「もしかして、決まりましたか?」
黒井「なんだ貴様聞いていたのか。運転に集中しろ」
社員「すみません。しかしジュピターがアリーナライブですかー、流石黒井社長ですね!」
黒井「フン、アリーナ如きで浮かれていてどうする。あんな小さな箱でのライブなんぞで」
社員「そうですか? わたしからすれば凄いことだと思いますが……」
黒井「黙って運転しろ」
社員「す、すみません!」
黒井「(しかし日程は僅か、か。練度は問題ないとして、目玉をどうするか……)」
黒井「むっ」
社員「どうされました?」
黒井「そういえば、今日この近くでジュピターの撮影があったな」
社員「あ、はい。このプール施設ですね」
黒井「……、寄れ」
社員「え?」
黒井「そこに寄れと言っている」
765プロ事務所//
[TV]<マダ トビマセン! アキヅキクン!
社長「ふーむ……」
善澤「彼はどうしたんだろうねぇ?」
社長「ちょうどカメラの位置からは何も見えないが、これは何かあったとみるべきか」
善澤「黒井か?」
社長「さぁな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
善澤「わからないと言え」
社長「まぁ、いずれにせよ、秋月くんなら乗り越えてくれるだろうさ」
善澤「信頼が厚いことだ」
社長「当然だとも。逆境こそ、成長の必要素なのだからね」
プールサイド//
P 「くっそ! お前ら離せ!」グイグイ
「こ、困ります! これ以上先は関係者以外立ち入り禁止です!」ガッチリ
P 「俺は秋月涼のプロデューサーだ! 関係者だっつの!」グググ
「それでもです! 困るんですよ!」グイイ
P 「ぬおおおおお!!!」グググググ
「おい! 誰か手伝ってくれ!」グッ
「お、おう!」ガシ
P 「涼ぉおおおお!!!」グググググ
翔太「うっさいなぁ。何してんの?」
「あ、いえ! 問題はありません、問題は!」
「御手洗くんは、待機しておいてくださいね!」
翔太「ふーん。あ、アンタ765プロの」
P 「そういう君はジュピターの御手洗翔太!」
翔太「え? 呼び捨て? ……まぁいいや。765プロのお下劣悪辣プロデューサーだもんね」
P 「な、なにぃ!?」
翔太「で? 何しに来たの? 僕への妨害? 悪いけどそんな手は――」
P 「 違 う っ ! 」
翔太「っ、なんだよ! 急に大きな声だすなよ!」
P 「涼が、うちの秋月涼が、上で何かあったみたいなんだ!」
翔太「あー……」
P 「何か知ってるのか!?」
翔太「……まぁね」
P 「そうか……」
ダダッ!
「あ!」
「こいつ!」ガシィ!
P 「てめぇらやっぱり何かあったんじゃねえか!!」グググググ
「いや! なんにもないですよ! ホントホント!」
「えぇ! なにもなにも!」
P 「嘘つけゴラァ!!」グイー
翔太「……、あのさぁ、はしゃいでるとこ悪いけど、もう彼、最下位確定だよ?
てか女装した方が美味しいんじゃん? なんでそんな頑張ってんの? 意味わかんないんだけど」
P 「涼が言ったからだよ、嫌だって! だったらさせちゃだめだろ!?
それに今日は大事な時なんだ! 今日飛ばなきゃ、一生あいつがなりたい自分になれなくなるかもしれないんだ!」グヌヌヌヌ!
翔太「……」
翔太「……やっぱ意味わかんないわ。アンタ」
P 「うっせ! って、うおおぉ!?」グラッ
「よし! 抑え込んだぞ!」
「もう一人呼んで来い! のしかかれ!」
P 「うおおお!!! 涼ぅうぅううう!!」ジタバタ
翔太「っ、ぷ、あはははは! ジタバタしてる! 虫みたい! おもしろー!」
P 「笑い事じゃないんだけど!?」
翔太「あー面白かった。ごちそうさまでした」
P 「見世物でもないんだけど!?」
翔太「お兄さんって黒ちゃんが言うほど悪い人じゃなさそーだね」
P 「あん?」
翔太「じゃ、僕は次の飛び込み待機しとくんで。
……あ、スタッフさん? そう、あれ。あれが不審者。抑え込んじゃってよ」
P 「うおおーーー!! テメーー! 御手洗ぃいい!!!」ジタバタジタバタ!
翔太「あはははは! 呼び捨てた罰だよ! がーんばってねー!」テクテク
飛び込み台//
司会「さてさて! 秋月涼くんが怖気づいてからかれこれ4分! 後1分で失格! 女装だー!」
「すみません! すみません!」ググッ
涼 「話して……っ! お願いします! どうしても飛ばなきゃいけないんです!」グイ
「すみません! すみません!」
涼 「うぅ……っ!」
涼 「(こんなとこで……)」
涼 「……、いや」ガシッ
「!?」
涼 「僕は、なりたい自分になるんだ!」
涼 「(逃げられないなら、こっちから倒してやるまでだ!)」グッ
「なっ!?」ヨロ
涼 「ええぃ!!」グィッ!
「っと、危ね」タタッ
涼 「…………」
涼 「(た、倒せなかった。ていうか全然効かなかった……!)」
涼 「僕ってやつぁ……、そんなに筋肉ないんだなぁ……、うぅ」
司会「さぁ時間が迫るー!」
涼 「! ど、どうしよう……!」
「本当にすみません!」
涼 「くぅ……」
??「ねぇ」
涼 「!? あ、君……」
翔太「あのさ、スタッフさん。僕、喉乾いたいたんだけど」
涼 「!?」
「え? あ、あの、この状況でですね……」
翔太「はい? いや、喉乾いたって言ってるじゃん」
「えーっと……」
翔太「早くしてよー。紅茶が飲みたいんだよー」
「こ、紅茶!? ……あ、紅茶なら下のスタッフ用の冷蔵庫に午前ティーが」
翔太「は? お前マジで言ってんの?」
「!?」
涼 「え、えぇー……」
翔太「まさか僕にスタッフ用の飲めって? しかも取りに行けって? そしてあまつさえ午前ティー?
え? あ、馬鹿にしてるの?」
「い! いえ! 滅相もございません!」
翔太「それに僕が飲みたいのはロイヤルミルクティーなんだよね。安物じゃない奴」
「えぇ、そんな! そんなものおいてないですよ」
翔太「買いに行けばいいじゃん。てか、行けよほら、ほーら」
「いや、それは、その」
翔太「問題だよっ♪ 961プロの僕と番組司会者、どっちが偉いでしょーか☆」
「よ、喜んでぇぇえええええ!!!」ヒィイイ!
ダッダッダッダッダ!
翔太「……最初から行けっての、バーカ」
涼 「……」ポカーン
翔太「ねぇ、さっさと行かないとタイムアップしちゃうよ?」
涼 「え? あ! そうだった!」
翔太「ったく」
涼 「あの! ありがとう!」
翔太「はいはい」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! !
司会「!?」
涼 「ふぅー」
司会「っ、あれ? お、おーっと! 秋月涼くん、ここにきて飛び込み台に立ったー!」
司会「(スタッフの馬鹿、何やってんだ!)」
涼 「――」スッ
プールサイド//
P 「り、涼!」
「あ、あれ、いいのか?」
「ど、どうしようか……」
P 「おい、離せ! ……涼ーーー!!! 頑張れえええええええええ!!!」
大きなプール会場//
北斗「あ、彼出てきたみたいだよ?」
冬馬「はぁ!? 何今さらになって!」
北斗「もしかしたら何かあったのかもね」
冬馬「そうかぁ? 漢気が足りねーだけだろ!」
北斗「どうだろう。ホラ、モニターに写ってる彼、見てみなよ」
冬馬「……!」
北斗「俺はエンジェルちゃんたちばかりに目が行くタチだけど……」
北斗「マジになった男の顔くらいは、まだ忘れてないよ?」
冬馬「……キザったらし」
北斗「そういうキャラなんだ☆」
飛び込み台//
涼 「…………」
「がんばってー!」
「涼くーーん!」
「涼くんファイトー!」
「応援してるよー!」 「ガンバレー!」
「涼ーーー!!! 頑張れえええええええええ!!!」
「かっこいいよーー!!」
「ファイトー!」
き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! !
涼 「……ははっ」
涼 「(なんだろう)」
涼 「(なんだろう……。『かっこよくなりたい』って言う動機は、運動会の時と変わらないのに……)」
涼 「なんだか前とは違う心境だ……」
< ガンバレー!
涼 「あはは!」
涼 「(こんな時間ギリギリなのになぁ……。すっごい、声援が気持ちいい!)」
涼 「……そっか、これがアイドルらしさなのかもなぁ」
涼 「(今の僕がしたいこと。……男らしくなりたい。トップアイドルになりたい――)」
涼 「(かっこよくなりたい。歌いたい。踊りたい。認められたい。歓声を受けたい)」
涼 「誰よりも、誰よりも、一番――!」スッ
765プロ事務所//
[TV]<キャアアアアアア!
善澤「おぉ?」
社長「ふむ……。秋月君、いい面構えになったね」
善澤「これは、何か吹っ切れたかな?」
社長「いやぁ、私は、逆じゃないかと思うがね」
善澤「逆?」
社長「むしろ色々な欲望が、彼の心中を渦巻いている頃さ。
彼は今になって初めて、アイドルとして、男として大切なものを手に入れたんだと思うよ」
善澤「そのこころは?」
社長「エゴだよ。貪欲さ。……自信や積極性といってもいい。舞台の真ん中に立とうとする闘争心。
オスとしての本能、みたいなね。ほらよく言う、ガツガツとした肉食系男子ってやつだよ。
幸か不幸か、彼には才能があったから、今まではそれがなくても立ってこれたが――」
善澤「現状、それが遠ざかってしまった。だからこそ、自覚できた、と?」
社長「飢えた時に初めて食べ物のありがたみに気づくのと一緒だよ。
歓声や目立つことの快感は麻薬みたいなものだからねぇ」
善澤「しかしまぁ、欲望が少年を男に変えるのか。なんだかなぁ」
社長「欲望は生命力だよ。そしてトップアイドルに不可欠なものだ」
善澤「……いつもいつも、もう少し言葉にしてやればいいのに」
社長「君も言っていただろう? 私はそれほど、期待しているんだよ。
紆余曲折あっても、最後はビシーッと決めて、アイドルを導いてくれる
優秀なプロデューサー君にね」
善澤「そうかい」
社長「おっと、秋月君が行くみたいだぞ」
善澤「お!」
社長「……やるねぇ!」
大きなプール会場//
ざ わ ざ わ
ど よ ど よ
涼 「……」ピシッ
司会「な!?」
涼 「……」クルッ
ドッポーン!
司会「な、」
司会「ななななな、なんと!」
司会「逆立ちからの飛び込みぃぃぃいいいいい!!!!!」
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !
涼 「……」ハァ、ハァ
涼 「スゥ――」
涼 「どうだぁーーー!!!」グッ
「きゃーーーーー!!!
「涼くん半端ない!」
「マジかっこいいーーー!!!!」
「涼くんすごーーい!!!」
P 「あ、あいつ、無茶しやがってー……!」
北斗「うわわ、よくやるよ。あの高さで逆立ちなんて一歩間違えれば大けがなのに」
冬馬「……へっ」
北斗「?」
冬馬「やるじゃねーか! それでこそ男だぜーー!!!」
北斗「あぁー、熱血冬馬くん入っちゃったか……」
冬馬「チクッショー! 俺もカッコよく飛び込むべきだったぜ!」
ザパア
涼 「ハァハァ、……あ、プロデューサー」
P 「あ、プロデューサー、じゃない! お前ぇ、怪我したらどうするつもりだ」
涼 「いやぁ、なんかすっごい気分が高揚しちゃって」テヘ
P 「あのなぁ」
涼 「それにプロデューサーが絶対成功するってお墨付きをくれたんですよー?
だから僕はそれを信じてやっただけです!」
P 「ぐぬぬ」
涼 「で、どうでした? 僕は男らしかったですか?」
P 「そりゃ、お前」
< 涼くん男らしいーーー!!!
P 「……だってさ」
涼 「やったー!」
司会「え、……えぇっと」
司会「はいはい! 素晴らしい飛び込みでした、しかし! この勝負!
かっこよさもアピールの一つとして大事でしょうが、争点は『スピード』です!
最高のパフォーマンスを決めた涼くんでしたが、ここに来てワーストタイムを大幅更新!
ダントツのビリです! 残念ですねー、女装罰ゲームは濃厚でしょうなぁー」
<涼くんかっこいいいいいい!!!!
<すてきーーー!!!
司会「聞いちゃいねえよ。無茶すればカッコいいって風潮は嫌いだな、俺は!
――って、マジで聞いてねな。……はいはーい! ファンの皆様! ご静粛に!」
司会「こっからが注目するところだよー!!」
司会「大トリを飾ってくれるのはこの人! ジュピターの、御手洗翔太くん〜〜!!」
<翔太くぅ〜〜〜ん! がんばれ〜〜〜!!!
翔太「……」
司会「アクロバットなダンスを得意とする国民的弟アイドル! さぁさぁ! 一体、どんな飛び込みを見せてくれるのか〜〜!!」
司会「翔太君が4分50秒以内に飛び込めば、秋月涼くんの最下位が決定します!」
司会「それではぁ! スタートぉっ!!」
翔太「さて……」
翔太「…………」
翔太「……ふぅー」
翔太「…………、よし!」
翔太「――」バッ!
司会「おおっと! 開始わずか32秒! 翔太君が大きく手を挙げた〜〜!」
翔太「棄権しまーす」
司会「棄権だー! ……って、棄権!?」
翔太「だってー、僕ってば、女装に合うと思うんだよねー。だから棄権でいいよ」
司会「い、いやー、ですがね?」
北斗「すみません。聞き入れてやってください」
司会「ほ、北斗君まで! いやしかしねぇ?」
北斗「あいつ、カナヅチなんです」ボソ
司会「え゛、ホントに?」
北斗「かっこ悪いから、っていって公表はしてませんけどね。事務所の人間以外知りません」
冬馬「だけどこの大舞台ならあいつも飛べると思ったんだがなー。全く! 漢気が足んねえぞコラー!」
翔太「冬馬君みたいに脳みそ筋肉じゃないんだよー! ねぇーみんなー?」
< 翔 太 君 か わ い い い い い い !!
翔太「へへへーん」ドヤァ
冬馬「チッ」
北斗「と、いうわけですので」
司会「あ、あぁ、そうか。じゃあ……、えー。最下位は、棄権したジュピターの翔太君にけってえええい!!」
キャーーーーーーーーーーー!!
翔太「どーもどーも!」
司会「というわけで! 罰ゲームとし、翔太君には女装をしてガチで歌ってもらいます!」
司会「なお、曲は今月の女性アイドルオリコン1位、そのまんまTOMATOでお馴染み!
『きゅんっ!ヴァンパイアガール』を歌っていただきまーす!」
冬馬「げっ、あのイロモノの曲じゃねーか」
北斗「注目してるくせに」
冬馬「あん!? してねーし!!」
北斗「はいはい」
翔太「僕の女装、楽しみにしててねー!」
冬馬「お前はちっとは反省しろ!」
司会「えー、それでは。翔太君が着替えている間に、トップをとったジュピターに、新曲を披露してもらいましょう!」
冬馬「え?」
北斗「そういえば、そういう話だったね。女装の罰ゲームにばかり注目されてたけど……」
司会「残念ながら翔太君はビリでしたので、翔太君抜きになりますが、トップの冬馬君と、
同じグループの北斗君には頑張っていただきましょう! それではこちらへどうぞ!!」
冬馬「…………」
北斗「どうする? 冬馬?」
冬馬「……。やめだ、辞退する」
司会「な! ちょ、ちょっと!!」
北斗「冬馬がやめるんだったら、俺も歌わないでおこうかな」
司会「いや! あのね、っておい。ちょっとマイクの音声切れ。……あのね、それじゃあ困るんだよ。
もともとこの番組はこういうルールだったし、ファンの皆も納得しないよ?
それに私だってね、黒井社長に頼まれてるんだから!」
北斗「とはいえ、俺たちも社長に権限もらってますんで」
司会「そうはいってもねぇ、私も権限があるんだよ!?
これでも人気番組の人気司会者だ! ちょっと売れたからって一介の若手アイドル如きが――」
??「ほほう、どこのだれが一介のアイドル如きだと?」
司会「!? ……く、くくく、黒井社長!?」
冬馬「オッサン!?」
北斗「黒井社長!?」
黒井「黙って聞いていれば、一介のMC如きがぁ。ウチのアイドルに向かって、何様のつもりだ? ん?」
冬馬「俺、普段からオッサンに結構ボロカスに言われてる気がするんだけど」
北斗「よく『駒』とか言われてるしね」
黒井「黙れ。勘違いするな。私が私の所有物について何を言おうと当然のことだ。
だが凡人どもが王者の所有物にについて文句をつけるのは許されない。そうだろう?」
冬馬「ひでぇ」
黒井「ノン。酷くない。世の中には『不敬罪』という罪もある。王者なれば名も惜しめ。
……というわけだ。三流番組のMC君。これにて去らせてもらおう」
北斗「新曲の発表はいいんですか?」
黒井「当然だ。敗北した舞台で新曲の披露などしてたまるか。王者には王者らしい、ふさわしい舞台がある。
都合がよかったよ。来月にアリーナライブをねじ込んでおいた。そこで新曲を目玉として発表すればいい。
……では、北斗、冬馬、行くぞ」
司会「そ、そんな! じゃあこの後、どうすればいいんですか!? ファンの方々もどう納得させれば……!」
黒井「そんなものは貴様がどうにかしろ」
司会「無理ですよ!」
冬馬「黒井のオッサン。言い出しっぺの俺が言うのもなんだけど、流石に今回の非は俺たちにあるからさ。
後始末くらいはつけさせてくれないか?」
黒井「……。フン、いいだろう。さっさと終えて戻ってこい。後、あの負け犬の回収も忘れるなよ」
北斗「わかりました。行ってきます」
黒井「では自称人気司会者くん。アディオス」
司会「は、はいぃ……」
P 「ん? ジュピターは一体どうしたんだ?」
涼 「さぁ……?」
北斗「ちょっと失礼」
涼 「あ、北斗さん」
P 「なぁ、何かあったのか?」
北斗「まぁ少しね。ところで、彼を少しお借りしたいんですけど」
涼 「ぼ、僕!?」
P 「何をする気だ?」
北斗「悪いようにはしませんよ。ほら、来て」グイッ
涼 「えぇっ! ちょ、ちょっと!」ヨタタ
「なかなか始まらないねー?」
「どうしたんだろーねー?」
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
冬馬「っし、マイク音量お願いします!」
ピピー、ガー
< あ! 冬馬くーーーん!!
冬馬「おう! 皆待たせてごめんな! 大事な話があるんだ!」
北斗「エンジェルちゃんたち、チャオ☆」
< チャオーーー☆!!
北斗「ふふふ、ありがとう! 実はね、今回のMVPとして冬馬が歌う予定だった
ジュピターの新曲なんだけど、ワケあって今回歌えなくなったんだ、本当にごめんね」
ええええーーーーーーーーーー!!!
冬馬「マジで悪いと思ってる! ごめんな! でもさ、ジュピターは3人そろってジュピターだからな。
せっかくの新曲、翔太を欠いてやるのはもったいねえ!」
北斗「そこで、代わりといってはなんだけど、来月、急遽、ジュピターのアリーナライブが決定したよ。
そこで新曲を歌うから、エンジェルちゃんたち? 絶対来てね?」
っ き ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! !
「絶対に行くー!」
「北斗様ー!」
「冬馬くーん!」
「予定開けなくちゃ!」
「チ、チケットの発売はいつ!?」
「楽しみだよー!」
わ い わ い
が や が や
涼 「……??」
冬馬「つーわけで、ホラ」
涼 「え?」
北斗「俺たち今から女装してこないといけないからさ」
冬馬「俺たちは3人そろってジュピター。カナヅチだってわかって送り出した俺も悪かったしな。
罰ゲーム、一緒に受けてくるんだよ。それに……」
翔太「今日一番かっこよかったヒーローは誰かって、皆わかってるしね」
冬馬「翔太! 何時の間に、って……ブフッ!」
翔太「あ、ヒドーい。笑うことないのに!」
北斗「いや、まぁ、似合ってるな。うん」
冬馬「似合ってるけどよ、くく、俺らからしたら翔太の女装にしか見えねえから、くくく」
翔太「ふん、自分たちだって着替えたらこうなるよ。っていうか僕よりひどくなるよ。ほらこれ! 着て!」バサッ
北斗「ああ。すぐに袖で着替えてくる。ちょっと待ってろよ」
冬馬「じゃ、秋月。後は頼んだぞ」
涼 「……。いいの、かな?」
翔太「なにが?」
涼 「歌うの僕で」
翔太「はぁ? 嫌味?」
涼 「えぇ!?」
翔太「あのね、前にもいわなかったっけ? 僕って負けるの嫌いなんだよね。なのにそんな僕が
MVPの座譲ってるんだよ? なに? 喜んで泣くとこでしょ? フツー」
涼 「……そっか」
翔太「そーそー」
涼 「ありがとう」
翔太「ん」
涼 「じゃあ、行ってくるよ」
翔太「ま、せーぜー、頑張ってね」
プールサイド//
いそいそ
いそいそ
黒井「…………」
黒井「女装趣味があったのか、貴様ら」
冬馬「ちげえよ! そういう罰ゲームなんだよ!」
北斗「ここまでわがままを聞いてもらったお詫びみたいなものです」
黒井「全く、このような番組に気など使いおって……。貴様らまだ王者としての自覚がたりんな」
黒井「しかも何をどう間違ったら765プロの虫けらに1位を譲る羽目になるのだ、んー?」
冬馬「いや! 765プロは確かに汚いことする事務所だけど、あいつは割と男見せてるってつーか」
黒井「あーん? 何を言っているのだ。たしかあいつは女装で騒がれていたイロモノだろうが。
高木の奴め、あんなハエで私のジュピターに対抗しようとは片腹痛いわ」
北斗「まぁ、この後歌うみたいなんで、見てください」
黒井「当然だ。高木の飼っているドブネズミの、その矮小な実力があれからどうなったか、
みせてもらおうではないか、はーっはっはっは!」
北斗「…………」
プール・特設ステージ//
涼 「プロデューサー! 僕――」
P 「話は聞いたよ。曲もセットしてもらってる」
涼 「……ありがとうございます。色々、全部」
P 「いや、俺はなにもしてないよ。涼が頑張った結果だ」
涼 「それでもです。本当に、ありがとうございます!」
P 「そういうのは終わってからにしてくれ。まだ、こっからが頑張りどころなんだからな」
涼 「……はい!」
P 「よし! ……音楽お願いします!」
<はい音響さんお願いしまーす
〜〜♪ 〜〜〜♪
P 「涼!」
涼 「はい!」
P 「なりたい自分に、なってこい!」
涼 「はいっ!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
涼 「よしっ!」
『 So I love you, my darling. And stay forever 』
『 It's dazziling like a star, I'm falling for you 』
〜〜♪
わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !
P 「(天才、武田蒼一作曲の『Dazzling World』)」
P 「(意味するところは、『輝いている世界』、ってとこか……)」
『前に 進めない これ以上 そんなときにーはー』
P 「ハハ、歌の通りだ、涼が、涼の周りの世界が、歌で輝いて見える」
P 「(あぁ、やっぱり武田プロデューサーの曲は、凄い……。
同じプロデューサー業の人間からみても、群を抜いてる……)」
『抱いた 憧れ 今も変わらないーわー』
P 「あぁ、ちくしょー……」
P 「(やっぱ嫉妬してしまうなぁ)」
P 「ほぼ付き合いのない立場で、ここまで涼を輝かせるなんて」
『あなたがいるそれだけでー 鮮やかにほら輝くー』
P 「……いや、だけど、俺も負けられない」
P 「そうだ、今の涼だって、まだ輝いているだけなんだ」
P 「俺は、更に、その先へとプロデュースしてやる!」
P 「涼を、輝きの向こう側へとつれていってやるんだ」
プールサイド//
『キラキラ光る この気持ちー』
黒井「…………」
北斗「どうです?」
黒井「フン、まだまだ。我々の足元にも及ばんよ」
冬馬「そうか? あいつ、なかなかやるぜ?」
黒井「ほう、では――」
黒井「貴様らは、奴に負けるのか?」
北斗・冬馬「「!」」
黒井「どうなんだ? お前たちジュピターは、あれに敗北を喫するというのか?」
北斗「……冗談でしょう? 負けるはずがありませんよ」
冬馬「そうだ。最強は、俺たちジュピターの3人だ」
黒井「くくく、その目だ。それでこそ私が育て上げたジュピターというものだ。……ただ」
北斗「ただ?」
黒井「女装してそのような目をしていても滑稽でしかないな」
北斗「あらら」
冬馬「くっ、反論できねぇ!」
黒井「だからよしておけばよかったものを。私の意向に逆らった罰だ」
冬馬「ぐぐぐ……!」
黒井「しかし! だからといって負けることなど許さんぞ? 王者はどのような装いでも王者だ。
女装だったからなどという糞のような言い訳はさせん。その姿で、奴以上に会場を沸かせて来い!」
冬馬「! ……もちろん!」
北斗「では、そろそろ行ってきます」
黒井「ウィ、貴様らの格の違いを見せてやれ」
冬馬・北斗「「はい!」」タッタッタ
黒井「…………」ジッ
『現在 過去 未来 すべてのー あなたを愛し、続けるわー!』
黒井「高木の事務所の、……秋月涼、か」
黒井「フン!」
黒井「目障りなアイドルが、また一匹増えたようだな」
プール・特設ステージ//
『二人が逢えた 人生もー』
『一度きりだと 知ってるわー』
『手と手つないで 歩き出すー』
『あなたと生きる、素晴らしい、世界♪』
涼 「」ピシッ
P 「(よし! 決まった!)」
パチパチパチパチパチ!
わあああああああああああああああああああああああああ!!!
涼 「……んー、! そうだ」
涼 「ん、チュッ!」
「!?」
「涼君が曲の終わりに投げキッスした!?」
「私の! 私のよ!」
涼 「へへへ」
P 「相変わらず妙なトコで肝座ってんな、お前」
涼 「やりすぎました?」
P 「ん、まぁファンのみんな盛り上がってるしいいだろ」
涼 「大盛り上がりですね! プロデューサーのおかげです!」
P 「あ? 何言ってんだ、お前の頑張りだろ?」
涼 「プロデューサーがなりたい僕にならせてくれたおかげですよ」
P 「んー、じゃあその感謝、謹んでお受けしようかな」
涼 「えへへ」
翔太「いちゃついてるとこ悪いんだけどさー、どいてくんない?」
P 「おわ!」
涼 「ご、ごめん!」
P・涼「「ていうかイチャついてない!」」
翔太「あそー、どうでもいいからどいて?」
涼 「あ、はい」
タッタッタ
北斗「おーい翔太、待ったか!」
翔太「待ちくたびれた――ぷっはっはっはっは!! やっぱ似合わないでやんのー!!!」
冬馬「うっせ! うっせ! 似合ってたまるか!」
北斗「じゃあ、観客席を俺たちが大盛り上がりさせるか」
P 「おいおい、現状で既に大盛り上がりだぞ?」
北斗「ははは、何言ってるんです?」
翔太「僕たちはこんなもんじゃないから」
P 「ははっ、こやつめ、ぬかしおる」
〜〜♪ 〜〜〜♪
冬馬「っしゃあ! 行くぞ!」
北斗・翔太「「おう!」」
冬馬「……秋月!」
涼 「?」
冬馬「次のオーディションは楽しみにしてるからな!」
涼 「! 勿論だよ!」
冬馬「へっ!」
〜〜♪ 〜〜〜♪
翔太『どこかへおでかけ おじょうさま〜〜ん♪』
冬馬・北斗『フッ、ワァ〜♪』
P 「(ノリノリだ……)」
涼 「プロデューサー」
P 「なんだ?」
涼 「僕、やっと、ジュピターに敵として認めてもらえた気がします」
P 「そうか、……なら、頑張らないとな」
涼 「はい! あの相手はジュピターですから!」
P 「おう! あのジュピターだもんな!」
涼 「えぇ、あのジュピター……」
〜〜♪
北斗『パッと舞ってぇ』
冬馬『ガッとやって!』
翔太『チュッと吸ってっ』
北斗・冬馬・翔太『『『はぁぁああぁぁぁあああぁぁああぁぁん!!!!』』』
涼 「あのジュピターですね」
P 「台無しだよ!」
オーディション会場//
半年後、、、
「あー、緊張してきたー」
涼 「そう? 落ち着いて行こうよ」
「なんかさー、秋月やっぱ変わったよなぁー」
「わかる。凄ぇ何ていうか頼りがい? できたよな」
涼 「ふふん、男らしくなったかな?」
「それはどうだろう」
涼 「ぎゃおおおん!」
「ははは、冗談だよ。じゃ、今日のオーディションはライバル同士だけど、よろしくな!」
「ジュピターもお前らも抑えて、俺が勝ってやるぜ!」
涼 「僕は負けないよ。絶対にね!」
「ちくしょー秋月の癖に!」
「じゃあな! 俺の本気見せてやるよ!」
涼 「うん! 頑張ろうね!」
P 「お、知り合いのアイドル?」
涼 「プロデューサー! えぇ、あの運動会とか飛び込み大会で一緒に居たアイドルの人たちです」
P 「あー、あの番組かぁ。早いもんだなぁ、もうあれから半年か。全然変わんねえよな、皆」
涼 「でも半年で随分業界の風景も変わりましたよねー。男性アイドルがすっごい増えました」
P 「315プロだよ315プロ。あそこのおかげで男性アイドル人口が一気に増えたからなぁ。
涼は勿論、春香たちの方にも影響が出てる。CGプロといい、商売敵が増えやがる……!」
涼 「でもそんな中でも、やっぱりジュピターは未だに別格ですよね」
P 「あぁ、今や若手男性アイドルグループのトップだからなぁ。皆撃ち落とそうと必死だ」
涼 「ま、僕らもですけどね」
P 「勿論だ。なんたって対ジュピター大本命の対抗馬だからな」
涼 「うぅ、ライバル扱いされるのは嬉しいですけど、勝率では大幅に負け越してるんですよねぇ……」
P 「すまんなぁ……。で、でも! 重要なトコで勝ってる! それが大事!」
涼 「……そうですね! 前向きに!」
P 「あぁ! トップアイドルになろうぜ、涼!」
ガチャ
<!? おい、あれ、ジュピターじゃ……。
<来たか、ジュピター……!
ざ わ ざ わ
ざ わ ざ わ
P 「おいでなすったか」
涼 「おはよう。皆」
冬馬「おう、涼か」
北斗「チャオ☆」
翔太「…………」ムスッ
涼 「翔太くん?」
北斗「ほっといてやってくれ。こないだ負けて悔しがってんだよ」
翔太「がるるるる!!」シャー!
涼 「うわぁ!」
冬馬「まぁ、今日は負けねえからな!」
涼 「僕だって! 勝率勝ち越してやるからね!」
北斗「ははは! 俺たちだってそうはさせないけどね☆」
翔太「チョーシのってっとシメるかんね!」
冬馬「じゃあな、楽しみにしてるぜ」スタスタ
おい、さっきジュピターと仲よさげに喋ってたのって>
あぁ、あいつが秋月涼だ>
涼 「え? 僕?」
P 「まぁお前も追われる立場だってことだな」
涼 「たはは、気は抜けないですね」
P 「当然だな。俺たちが目指すのは、……トップアイドルなんだから」
涼 「……そうですね! かっこよくて男らしい、世界一のトップアイドルに!」
ガチャ
「秋月涼さーん。出番の準備お願いしまーす!」
P 「よし出番か」
涼 「必ず1位になってきますよ!」
P 「おっし、その意気だ! じゃあ気合入れていくぞぉー!」
涼 「はいっ!」
P 「目指せ!」
涼 「トップアイドル!」
END
22:30│松永涼