2015年09月07日

モバP「犬」ちひろ「犬」

・地の文あり



・Pが二人出てきます



・ゆっくり進行していきます





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モバP「おはようございます。」



いつものように出社する。



ちひろ「おはようございます。」





いつもの見慣れた蛍光グリーンの事務服を着た女性が返してくれる。



この人は千川ちひろさん。この事務所の事務員でいつも俺らを笑顔で出迎えてくれる。



しかしな、いつ見てもこのセンスはいいとは思えない。ちひろさんのセンスなのだろうか?それとも事務所のセンスなのだろうか?





モバP「その服センスないよなぁ。」



ちひろ「はい?!」





しまった。口に出てしまった。



気がついたら言葉が漏れているのが俺の悪い癖だ。これのおかげでスカウトが成功したこともあるけど基本的には害しかない。



口にしてしまったものは仕方ない。思い切って長年の疑問をぶつけて見る。





モバP「その服って会社から支給されているものなんですか?」



ちひろ「この服ですか?えっと、はい。そうですよ。あれ?でもセンスないですか?」アタフタ





やばい。失言だったみたいだ。この事務服は事務所からの支給品だが本人はセンスがいいと思ってきていたみたいだ。



ここはフォロー入れといたほうがいいだろう。





モバP「いや、いいと思いますよ。目に優しくて。」



ちひろ「それフォローになってないですよ!」



失敗した。あわてて話を変える。





モバP「そういえば犬っているじゃないですか。犬って今までは白黒の視界だって言われてたけど最近の研究で緑と青も見えるってわかったみたいですよ。ちひろさん犬に見分けてもらえますね。」



ちひろ「話を逸らそうたって無駄ですよ。」ギロリ





やばい。絶体絶命だ。さらに話を転がしていく。





モバP「ちひろさんって犬っぽいですよね?」



ちひろ「私を会社の犬って言いたいんですか?仕方ないじゃないですか。エナドリスタドリにもノルマがあるんですもん。」



モバP「ノルマがあったのか…。というか、そうじゃないですよ。小さくてかわいらしいところとか犬みたいじゃないですか。」



ちひろ「誤魔化されませんよ。それにPさんの方が犬っぽいですよね。」





失礼な。たしかに忠義を尽くして24時間労働もしばしばあるがそれは会社のためではない。





モバP「俺だって会社の犬じゃないですよ。俺は事務所のためじゃなくてアイドルのために働いてますから。」



ちひろ「それもそうですけど、そのことじゃないですよ。」



モバP「じゃあなんですか?」



ちひろ「そろそろ来るんじゃないですか?」





ガチャリ



ちひろさんが言うと同時ぐらいにドアが開く。なんともタイミングのいいことだ。





「おはようございます…。」





小さくともよく響く声。





モバP「おはようございます。美優さん。」



ちひろ「おはようございます。」





この人は三船美優。俺の想い人だ。



美優さんは俺がこの事務所に勤めて初めてスカウトしたアイドル。プロデュースしたアイドル。



最初は人付き合いは苦手だと公言していた美優さんも、最近は大分明るくなった。



今は俺のプロデュースではなく俺の後輩Pがプロデュースしている。







美優「後輩Pさんはいらっしゃいますか…?」



モバP「あいつなら今は会議室で他のアイドルと番組の打ち合わせしていると思います。」



美優「そうですか…。お二人ともお茶はいりますか?」





美優さんはやさしいな。気遣いが出来る女。まさに大和撫子。





ちひろ「あ、お茶ですか?私が入れます。」



美優「いえいえ。ちょっと早くに事務所にきてしまい、暇をもてあましてますから…。」



ちひろ「すみません。ありがとうごいざます。」



モバP「ありがとうございます。」



美優「ふふっ…、ちょっと待っててください。お仕事頑張ってくださいね。」







モバP「美優さんはやさしいな。」



ちひと「また漏れてますよ。」





おっと。またやってしまった。しかし癖はなかなか直らない。





ちひろ「美優さんが来てからずっと尻尾が振れてますよ。なんというか犬というより駄犬?」



モバP「ひどくないですか?!それにちひろさんも後輩Pがいるときは尻尾ふりふりしてるじゃないですか。」





ちひろさんは後輩Pのことが好きだ。ちなみにちひろさんは俺が美優さんが好きなことは知っている。バレバレらしい。





ちひろ「私はあそこまでひどくないですよ。」



モバP「いや、絶対ちひろさんのほうがひどいですって。」





ちひろさんと俺で互いにサポートしあっているのでことことは他の人にはばれていない。



まあ、俺とちひろさんは事務所などで一緒にいる時間が長いことも関係しているのだろう。



俺も営業をしたりはするが割合的には俺のほうが後輩Pより事務所にいる。





ちひろ「まあPさんに何を言っても犬に論語ですね。」



美優「なにやら喧嘩している気配がしたので来てみたら…。犬の話ですか?二人とも仲良くしなきゃダメですよ…。犬も朋輩鷹も朋輩です…。」



モバP「あ、お茶ありがとうございます。しかし難しい言葉知ってますね。」



ちひろ「次は借りてきた猫のようにおとなしくなった。」





ちひろさんめ、俺が美優さんの前だから好き勝手いってくる。今度覚えてろよ。





後輩P「美優さんいますか?そろそろ仕事です。」



美優「はい。それじゃいってきます。」



ちひろ「いってらっしゃい。」



モバP「いってらっしゃい。頑張ってきてくださいね。」



後輩P「いってきます。」





嗚呼、いってしまった。





ちひろ「何この世の終わりみたいな顔してるんですか。」



モバP「ちひろさんだって名残惜しそうな顔していますよ。」



ちひろ「そんなこと…。ありません。」





美優さんがいってしまったのは確かに悲しいが、しかしちひろさんと二人きり。



軽口を言い合える時間が嫌いではない。



まあ本人に言ったら馬鹿にされるから絶対に言わないが。





ちひろ「次はなににやけてるんですか気持ち悪い。」



モバP「気持ち悪いって。俺そんなに顔に出やすいですか?」



ちひろ「顔に出やすいってもんじゃないですよ。本音はポロポロ漏れるし顔に色々書いてあるしよく他の人に美優さんが好きなことばれませんね。」



モバP「それは…。ちひろさんのおかげです。ありがとうございます。」



ちひろ「もっと感謝してドリンク買ってください。」



モバP「それは嫌です。」





実際ちひろさんの言うとおりだ。俺は態度に出やすいのに美優さんが好きなことはちひろさん以外にはばれていない。



そのことが不思議で仕方がない。





モバP「でもそれをいうならちひろさんも後輩Pが好きだってばれてませんよね。」



ちひろ「それは…。私は上手いですから。」



モバP「ちひろさんも俺並に態度に出ますよね。」





それも不思議で仕方がない。後輩Pも一向に気がつかない。





モバP「もう思い切って告白してみたらどうですか?」



ちひろ「なんですかその男子高校生みたいな発想。」



モバP「もうじれったいから当たって砕けろ的な思考で。」



ちひろ「さらに砕けること前提ですか。じゃあPさんが告白すればいいじゃないですか。」



モバP「なんですかその男子高校生みたいな思考。」



ちひろ「あなたが言ったんじゃないですか。」





ちひろさんをからかうのは楽しい。



だからついついいじめすぎてしまう。これについては反省しなければ。



モバP「とにかく。告白はしませんよ。美優さんはアイドルですし今が大事な時期です。自分からは告白できません。」



ちひろ「そのくらいの分別はあるのですか。」



モバP「当たり前です。美優さんがトップアイドルになったら告白します。」



ちひろ「アイドルを好きになったのに?」



モバP「好きになるのはしょうがないことです。だってあの美優さんですよ。男だったらみんな恋しますって。」



ちひろ「そもそもなんで美優さんを好きになったのですか?」



モバP「うわ。次は女子高校生っぽくなった。」



ちひろ「女の子はみんな恋バナが好きです。」



モバP「女の子?」



ちひろ「なんか文句でも?」



モバP「なんでもございせん。えっと美優さんに恋した理由ですか。それは俺が美優さんをスカウトしたときまで遡ります。」





美優さんをスカウトしたのは街中。正直一目ぼれだった。



この人ならトップアイドルになれる。俺は一瞬見てそう確信した。





モバP「すみません。アイドルに興味はございませんか?」





言われた方は怪訝そうな顔をしている。



慌てて俺は名刺を渡す。少しでも怪しくないことを証明するためだ。





モバP「あなたならトップアイドルになれます。アイドルになってみませんか?」





少し時間をもらい二人で近くの喫茶店に入る。



そこからはひたすら俺が語るだけだった。



そうしたらさっきとは違う意味で納得のいってない顔をしていた。

美優「どうして私がトップアイドルになれると思ったのですか…?」



モバP「こればかりは直感で説明できないのですが、われわれの業界でよく言うティンと来たってやつです。」





次は冷ややかな目。違う意味で表情豊かだな。



押し問答が続きお互いに少し疲れてきたころ。



美優さんはお花を摘みに席をたった。



美優さんがいなくなったからか、それとも疲れていたからなのか。自分の悪い癖が出てきた。



要するに本音がポロポロ漏れていた。周りから見たら気持ち悪いやつだっただろう。





モバP「三船さんは綺麗な人だ。絶対にトップアイドルになれる。あの人をアイドルにするのが俺の使命だ。」





独り言を言っていたところに美優さんが帰ってきた。



この日一番のドン引きしている目。これは堪える。



それから美優さんは何かを諦めたような目をしていた。悟っている顔だった。





美優「Pさんの熱で……凍っていた心が溶かされたみたいな…なんて、言い過ぎたかしら…。でも、それが本心ですもの…。私…アイドルやります…。」



モバP「本当ですか!ありがとうございます。」





今まで独り言を言ってたやつが次は急に大きな声を出した。いよいよ周りの目を厳しくなってきた。



もうこの店にはこれないな。そんなことも気にならないくらい嬉しかった。





モバP「ありがとうございます。」



美優「あの…恥ずかしいのですが…。」



モバP「あっ…すみません。」





こうして俺はスカウトに成功した。アイドルの三船美優がここで誕生した。



モバP「とまあ、ぶっちゃけ一目惚れです。」



ちひろ「あんだけ長々と語っておいて結局一目惚れかよ。」





ちひろさんの厳しい突込みが入る。





モバP「いや、スカウトした日のことを思い出していたら懐かしくなりまして。ついつい誰かに話したくなって。」



ちひろ「まあ言いだしっぺは私ですから強く言えませんけど。」



モバP「それにしても暇ですね。」



ちひろ「仕事してください。」



モバP「仕事はしていますよ。ただ俺のメインは高校生組なんでどうしても日中は事務所にいることが多くなりますからね。」



ちひろ「私と二人っきりなのが嫌なんですか?」



モバP「そんなことはないですけど。」



ちひろ「にしてもPさん書類多いですよね。」



モバP「後輩Pが日中外に出てることが多いですからね。まだ新人だし肩代わりしてるんですよ。」



ちひろ「Pさんは後輩Pさんのことを可愛がってますよね。」



モバP「いや、今までこの職場男俺一人だったじゃないですか。だから嬉しいんですよあいつが入ってきてくれて。それにあいついいやつですし。」





ちひろ「とらないでくださいね。」



モバP「とりませんよ。俺には美優さんがいますし。」



ちひろ「うわー。」



モバP「なんですかその目は。美優さんならいいですけどちひろさんはやめてください。」



ちひろ「しかもドMかよ。救いようがねえな。」





そんな話をしているといつまでたっても書類が終わらないので二人とも少し無言になる。



しかしやっぱり無言の空間は辛いのでまた雑談が開始される。





モバP「次はちひろさんが恋バナしてくださいよ。」



ちひろ「なんですか女子高生ですか。」



モバP「いや、自分だけ聞かれるのもあれなんで。」



ちひろ「ただの雑談ってことですか。まあいいでしょう。」





ちひろさんが話し始める。





ちひろ「結局はさっきPさんが言ってたことと同じなんですよね。私たち凄く忙しいじゃないですか。私は事務員なので一日中事務所にいますし。」



モバP「まあ事務所に行けばいつもちひろさんがいますよね。」



ちひろ「そんな環境下なので親しくなれる異性が二人しかいないんですよね。片方は違う人にお熱ですし。」





ん?なんか引っかかるな。その言い方だと…。



自惚れているだけかもしれないが聞いてみるか。





モバP「その言い方だと俺が美優さんに恋していなければ俺もありみたいな言い方じゃないですか。」



ちひろ「ご想像にお任せします。」





これは脈ありなのか?いや俺には美優さんがいるんだ。



美優さんかわいい。美優さんが一番。美優さんは大和撫子。





ちひろ「なに美優さん美優さん呟いてるんですか。怖いですよ。」





しまった。また出ていた。しかし意識してみるとちひろさんが急に可愛く見え出した。



いやちひろさんは元から可愛かったよな。いつも笑顔で迎えてくれるし。美優さんがいなかったら惚れてたな。





ちひろ「な、何言ってるんですか。」



モバP「漏れてました?」



ちひろ「ばりばり。」



モバP「こ、この話はやめましょう。」



ちひろ「そ、そうですね。」





気まずい沈黙が二人の間に訪れる。



自分が言った言葉だがあれはないな。ただの軽い男だ。



ちょっと思わせぶりな言葉で惚れかかるとかそれこそ男子高校生じゃないか。



高校のころの失敗を思い出せ。女はそんなに簡単じゃないぞ。



ふう、気分は落ち込んだが冷静さは取り戻せた。



しかし冷静に考えてみるとちひろさんとは長いこと二人でいる。



息はあってると思う。よく喧嘩もするがじゃれあいの範囲だろう。



仕事上だがパートナーとしては申し分ないな。まあ本人には好きな人がいるのだが。



もし俺が美優さんを好きじゃなかったらどうなっていたのだろうか。



いや、やめよう。これ以上考えるのは美優さんにもちひろさんにも失礼だ。



まずはこの沈黙をどうにかしなければ。





モバP「ま、まあさっきも言いましたけど後輩Pっていいやつですよね。気配りも出来るし、仕事も出来る。ちひろさんが惚れるのもわかります。」



ちひろ「で、ですよね。アイドルたちにも慕われてますし。」



モバP「中には後輩Pに恋してるのではないかっていうアイドルまでいますよね。」



ちひろ「その点Pさんは安心ですよね?」



モバP「は?」



ちひろ「アイドルに慕われてはいますけど恋されてるって感じじゃないですからね。」







うん。いつもの雑談に戻ってきた。



しかしそうなのだ。別にアイドルにもてたいわけではないが後輩Pはアイドルに人気がある。



俺は親戚のおじさん。よくて仲のいいお兄さんみたいな扱いなのだ。



歳はあんまり変わらないはずなのにこの違いはなんなんだ。





ちひろ「さて、そろそろアイドルも来ますし頑張りますか。」



モバP「そうですね。ずっと話してたら給料泥棒扱いされますしね。」



ちひろ「減給されたらたまりませんしね。」



モバP「お金大好きですもんね。」



ちひろ「は?」



モバP「あ?」



未央「おっはよ〜!あ、また喧嘩してるよ。」



凛「未央、もうこんにちはじゃないの?あの二人も飽きないね。」



未央「ちっちっち。業界人はいつでもおはようなのだ。」



卯月「二人とも仲がいいですね。」



モバP「みんな仲良く来たか。」



彼女たちはニュージェネレーション。俺の担当するアイドルだ。



みんな来たし二人だけの時間は終わりだ。



一気に事務所の中が明るくなる。





モバP「ちひろさん、これが本当の女子高生ですよ。」



ちひろ「何が言いたいんですか?」



モバP「いや、若いなって。」



ちひろ「私は若くないといいたいんですか?」



モバP「いえいえ。十分若いですよ。」



ちひろ「本当ですか?制服とかまだ着れますかね。」



モバP「うわキツ…」



ちひろ「キツ、何ですか?」



モバP「キツツキ…。」





凛「そろそろレッスンの時間かな?」



モバP「もうそんな時間か。送ってくぞ。」



凛「ちひろさんと遊んでるから時間がたつのが早いんじゃない?」



モバP「遊んでるんじゃないぞ。遊ばれているんだ。」



ちひろ「なんですか?」



モバP「いえ、なんでもありません。」



凛「また遊んでる…。」





凛も目線が冷たいな。俺はドMじゃないから喜ばないぞ。





未央「さぁ、レッスンいこっ!」





未央にも催促されたし。行くか。





卯月「ありがとうございます!」





送ってくことに関してお礼を言ってくれる。卯月はいい子だな。





モバP「じゃあいってきます。」



ちひろ「いってらっしゃい。」



これが俺の日常だった。正直に言うと今のままの関係で満足していた。



しかし変わらないものはないもので、それは俺が珍しく早く帰れた日だった。



ちひろさんと後輩Pはまだ残って仕事をしていた。



ちひろさんと後輩Pを二人きりにさせてやろうと思って俺は先に帰った。



決して早く帰れて浮かれてたとかそういうことではない。二人を尻目に変えるのは心苦しかったよ?



俺はちひろさんに頑張れとアイコンタクトをした。ちひろさんは小さく頷いた。



ここらへんはツーカーの仲である。





モバP「それじゃ、お先失礼します。お疲れ様でした。」



ちひろ「お疲れ様でした。」



後輩P「お疲れ様でした。」





帰り道をいい気分で歩く。多分俺はいいことをしただろう。



事務所から自分の家までは近い。徒歩で通える距離だ。



明日進展をちひろさんに聞かなきゃな。



なんだかんだで人の恋路には興味があるものだ。

モバP「おはようございます。」





相変わらずちひろさんの出社ははやい。



しかしいつもと違う点が一つあった。





ちひろ「おはようございます…。」





ちひろさんにいつもの元気がない、笑顔がない。



それどころか目元が少し赤い。泣いてたのだろうか。





モバP「どうしたんですか?なにかあったんですか?」



ちひろ「えっと、ふられちゃいました。」





笑顔。しかし痛々しい笑顔。





ちひろ「昨日仕事が終わって帰り際にあなたのことが好きなんですって軽く言ったら、すみません。俺には好きな人がいますって言われちゃいました。」



モバP「ずいぶんムードがないところでの告白ですね。」



ちひろ「仕方ないじゃないですか。二人きりの空間で少し舞い上がってたんですから。」





軽口を言い合っているものも元気がない。



俺のせいかもしれない。そう思った。



俺が二人きりにさせなかったらこんなことは起こらなかったのかもしれない。





ちひろ「違いますよ。Pさんのせいじゃないですよ。」



モバP「あれ?また漏れていました?」



ちひろ「いえ、顔にしっかり書いてありました。」





まいったな。これからますます俺の本心がばれていくな。



もうちひろさんに隠し事は無理かもしれない。





ちひろ「ありがとうございます。Pさんが来てくれて少し落ち着きました。」



モバP「俺は何にも出来てませんよ。」



ちひろ「いえ、辛いときにそばにいてくれるだけで嬉しいです。」



モバP「そうですか。それは光栄です。」



なんだろう。弱っているからかちひろさんが凄く可愛く見える。



いや、今こんなことを考えるのは失礼だな。それにしても、





モバP「ちひろさんってチワワみたいですね。」



ちひろ「なんですか?暗に負け犬って言いたいんですか?」



モバP「違いますよ。落ち込んでいるからか小動物的な可愛さがあるって言うか。守ってあげたくなるというか。」



ちひろ「なんだかPさんに言われても嬉しくないですね。どうせなら後輩Pさんに言われたかったです。」



モバP「ははは…。」



ちひろ「ふふふ…。」





お互いに笑い合う。ちひろさんにいつもの調子が戻ってきた。



よかったよかった。



しかし後輩Pのいう好きな人って誰のことだろう。



それはすぐに明らかになった。





後輩P「先輩、少し時間よろしいですか?」



モバP「おう、どうした?」





ある日、後輩Pが俺に話しかけてきた。



嬉しそうな顔しているし問題ではなさそうだな。





モバP「会議室でいいか?」



後輩P「あ、はい。ありがとうございます。」





会議室に移動する。話ってなんだろうか、ちひろさんとの件か?



しかし、なんか嫌な予感がする。



俺のこの予感はよく当たるからな。





モバP「それでなんだ。」



後輩P「社長にも許可をもらいまして。先輩にも報告します。」





そんなにいいことなのか?顔がにやけてるぞ。















後輩P「このたび私は三船美優さんと付き合うことになりました。」















モバP「は?」





やばい。脳が追いつかない。





モバP「おう、おめでとう…。」



後輩P「ありがとうございます。」





搾り出すように言葉を出す。



付き合うのか?こいつが?美優さんと?



どうしてこいつなんだ?社長は許可出したのか。



色々な考えが頭を巡る。思考を停止したらそのまま動かなくなる気がして。





モバP「きっかけとかはあったのか?」



後輩P「ちょうどこの前自分の気持ちを確かめる機会がありまして。」





ちひろさんが告白したときか。好きな人って美優さんのことだったのか。



多分ちひろさんに告白されて自分の気持ちを確認したのだろう。



あのときから俺の行動は裏目に出ていたのか。





そこから俺は何度か祝福の言葉を言って帰路に着いた。



家が近くて本当に助かった。こんな状態で電車になんて乗れたもんじゃない。



眩暈がする。吐き気がする。頭の中がぐちゃぐちゃだ。



確かに後輩Pはいいやつだ。いいやつだから恨めない。



あいつが嫌なやつだったらどれだけよかったか。素直に嫌えたらどれだけよかったか。



俺は美優さんを見つけてスカウトした。それで特別なつもりになっていた。



美優さんの隣にずっといたのは俺じゃない。後輩Pだった。



少し考えればわかることだったかもしれない。恋は盲目。まさにその通りだ。



世界から色が失われていく感覚がした。見えるものがすべて白黒になっていく。





モバP「これじゃ犬の視界じゃないか。いやそれ以下か。」





自嘲気味に呟く。早く寝てしまいたい。



しかしその日は一睡も出来なかった。



美優さんと後輩Pが付き合ったことによる心理的ショックと一睡も出来なかった肉体的な疲労で朝なのに俺はぼろぼろだった。



しかし事務所にはいかなければならない。仕事はしなければならない。



そういえばちひろさんもふられたあとなのに事務所にきてたよな。



俺らは似たもの同士なのかもしれないな。俺ら2人は会社の犬だな。



白黒の視界の中事務所のドアを開ける。





ちひろ「おはようございます。」





あ、見える。いや、わかる。



確かに俺は犬だな。緑色がわかるのだから。



そこにはいつもと同じ緑の事務服を着ていつもと同じ笑顔で俺を迎えてくれるちひろさんがいた。





モバP「おはよう…ございます…。」





絞り出した声。





ちひろ「どうしたんですか?今にも死にそうですよ?なにがあったんですか?」



モバP「えっと、ふられてはいないけど、恋破れちゃいました。」



これは言っていいことなのかと一瞬考える。



まあ遅かれ早かれそのうち知るだろう。



報告を兼ねてちひろさんに吐き出す。





モバP「美優さんと後輩Pが付き合うことになりました。」



ちひろ「えっ…。」





ちひろさんも言葉を失う。そうだよな、ちひろさんも後輩Pのことが好きだったんだよな。いやまだ好きかもしれない。



しかし、ちひろさんの反応は違った。





ちひろ「もしかして…。Pさんが傷ついているのは私のせいですか?私が告白したからですか?」





この人は優しいな。俺の心配をしてくれる。





モバP「ちがいますよ。どっちみち後輩Pと美優さんが付き合うことはあっても俺と美優さんが付き合うことはありえませんでした。」





この前ちひろさんが俺がそばにいてくれて嬉しいと言ってくれた。今ならその気持ちがわかる。



ちひろさんがそばにいてくれて本当によかった。安心する。





モバP「ちひろさんがそばにいてくれて本当によかった。安心する。」





本音が漏れる。いや本音を口に出した。ちひろさんに隠し事は出来ないからな。



ちひろさんは少し大きく目を開ける。そして笑顔で返してくれる。





ちひろ「そうですか。それは光栄です。」





ちひろ「しかし、これで二人仲良く負け犬ですね。」



モバP「ちょっと待ってください。俺は直接ふられたわけじゃないです。負け犬はちひろさんだけです。」



ちひろ「は?何言ってるんですか?付き合えないなら結果は同じじゃないですか。:



モバP「同じじゃないです。俺のほうがダメージが少ないです。」



ちひろ「むしろ私は気持ちを伝えました。Pさんは出来てません。Pさんはヘタレですね。」



モバP「勝算のない賭けにはのらないだけです。」



ちひろ「そうでしたね。Pさんは負け犬じゃないですね。二人が付き合うためのかませ犬でしたね。」



モバP「は?負け犬の遠吠えですか?」



ちひろ「かませ犬の遠吠えじゃないですか?」



モバP「負け犬。」



ちひろ「かませ犬。」



モバP「負け犬。」



ちひろ「かませ犬。」



モバP「はは…。」



ちひろ「ふふ…。」





軽口を言い合う。これで元通り。



ちひろさんがいてくれて本当によかった。この人がいなければ俺は立ち直れなかっただろう。



かませ犬と負け犬の傷の舐めあいはとても心地よかった。





後日、この日も俺は事務所に行く。





モバP「おはようございます。」



ちひろ「おはようございます。」



モバP「相変わらず目に優しい色をしていますね。」



ちひろ「は?」





いつもの緑、いつもの笑顔、いつものちひろさんが俺を迎えてくれる。





モバP「しかし思ったんですよ。俺が美優さんが好きなことをばれなかったのはよくよく考えたらちひろさんの前意外じゃあんまり本音が漏れてないんですよね。」



ちひろ「なんでですか?」



モバP「ちひろさんの前だと安心できるのかと。」



ちひろ「あら、今日はやけに素直じゃないですか。」



モバP「ちひろさんには母性が感じられます。」



ちひろ「母性ですか?」



モバP「ママー。」



ちひろ「きもいです。」



モバP「ひどいです。しかし俺の母親ってことは御年の方が…。」



ちひろ「なんですか?私のことをババアって言いたいんですか?」



モバP「そんな、みなまで言ってないじゃないですか。」



ちひろ「それは言ってると同じってことですよね?」

未央「またあの二人喧嘩してるよ。」



卯月「まあまあ、喧嘩するほど仲がいいっていうじゃないですか。」



凛「なんていうか、あの二人だけの空間が出来ているよね。取り入ることの出来ないような。」



卯月「羨ましいんですか?」



凛「べ、別にそんなことはないよ。ただ相性ぴったりの二人だなって。」



卯月「そうですよね。お互いに認め合ってるパートナーって感じですよね。」



未央「ああ、ああ。ごちそうさまでしたって感じだよね。全く夫婦喧嘩は犬も食わないよ。」



おわり



21:30│千川ちひろ 
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