2015年09月21日
風花「雨の帳」
Pと風花さんがイチャイチャするだけのSSです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432173022
「走れ風花!」
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「走れ風花!」
「ま、待ってくださいよ〜!」
こんばんわ、豊川風花です
今日はプロデューサーさんに連れられて劇場から少し遠くの現場でのお仕事でした
お仕事が少し長引いてしまい、せっかくだからと車を止めて近くの繁華街でお店を探してご飯を食べることになりぶらぶらと歩いていたら
とってもおいしい中華料理屋さんを見つけて、たくさん食べてしまいそろそろ帰ろうかとお店を出たところで突然の雨に降られてしまいました・・・
結果、現在絶賛プロデューサーさんが車を止めた駐車場に向かって全力疾走中です
「クソッ!今日こんな時間に雨が降るなんて聞いてないぞ!」
今日は夕方までは天気予報通りお空も晴れていて一日いいお天気だったんですけど、何の因果か暗くなってから雨雲が集まってきたみたいです
そういえば、今朝劇場で美也ちゃんがカエルを見ながら
「おー今日は夜中に雨が降るんですね〜、う〜んでもこんなにいいお天気なのに不思議ですね〜?」
なんてことを言ってました
うう・・・美也ちゃんのお天気予報を信じればよかった・・・なんて、いまさら言っても仕方ないですよね・・・
バケツをひっくり返したような雨の中後悔だけが募ります
「よし着いた!風花早く中に入れ!」
無我夢中で走っていたらどうやら駐車場に着いたようです、駐車場と言ってもコインパーキングなので屋外です
急いで助手席に乗り込みます、もう体中びしょびしょです・・・
・・・・・・
・・・
突然の雨に降られた俺たちは何とか車までたどり着いた、全く散々な目にあった
「うう・・・びしょびしょで座ると余計に気持ち悪い・・・」
スーツの俺でもひどい濡れ方をしたんだ、薄着の風花は余計に服が体に引っ付いていて相当気持ち悪いだろう
しかし走ったせいか上気した顔に張り付く髪といい、太ももに張り付いたスカートいい、これは・・・
「・・・?どうかしましたかプロデューサーさん?」
じっと見ていたら不思議そうな顔で風花がそう聞いてきた、無言でダッシュボードからタオルを取り出して投げつける
「わっ!な、何なんですかもう・・・」
「それ一つしかないから早く頭拭け、風邪引くぞ」
そう言い捨ててエンジンをかけ車を発進させる、風花はおとなしく顔と頭を拭いているようだ
焼け石に水かも知れないがないよりはましだろう
しかしこんな時に我ながら何考えてんだ・・・
その後頭を拭き終わった風花からタオルを受け取り俺も頭を拭く
しばらく車を走らせて服はある程度乾いてきたがそれでも依然体は濡れたままだ
しかもここから劇場まではまだ距離があり、風花の家に直接送るにしてもさらに時間がかかる
あまり気は進まないが仕方ないか
「風花、このまま俺の部屋に向かうぞ」
「えっ?・・・あっ、確かにここからだとプロデューサーさんの部屋が一番近そうですね」
手持無沙汰にぽけーっとしていた風花は俺の言葉でハッとしたあとカーナビの地図を見てそういった
「とりあえず身体を乾かさなきゃ風邪を引くからな、お前に風邪を引かれたら困る」
現役アイドルが夜中に男の部屋に上がり込むなんて週刊誌にでも取り上げられたら大問題だが今回は不可抗力だ、見逃してもらおう
そうと決めたら車を自宅に向かって走らせる
「そういえばプロデューサーさんの部屋に行くのも久しぶりな気がしますね・・・くしゅん!」
能天気にも風花がそんなことを言いながら、くしゃみをした
・・・急ぐか
・・・・・・
・・・
「先にシャワーを浴びてこい」
プロデューサーさんの部屋に着くなりお風呂場に連れていかれてそういわれました
「ぷぷぷぷ、プロデューサーさん!?い、いきなりなにを言ってるんですか!?そんな・・・いきなり・・・こ、心の準備もありますし・・・その・・・」
「一体なにを勘違いしてるんだ・・・?風邪ひきてぇのかお前は!バスタオルはここに置いとくからさっさとシャワー浴びろ!」
・・・あ、それはそうですよね、私ったらなんて勘違いを・・・
だんだん顔が熱くなっていきます・・・
うう・・・見るまでもなく自分の顔が真っ赤になっているのがわかります・・・
「濡れた服はまとめて籠に入れとけ」
「は、はい・・・」
そう言い残してプロデューサーさんはリビングのほうに向かっていきました、私はおとなしく言われた通りに脱いだ服を洗濯籠に入れお風呂場に行きます
うう・・・恥ずかしい・・・
・・・・・・
・・・
風花を風呂場に押し込んだ後、リビングに向かう
さて、1つ問題がある、風花がシャワーから出た後に着るものがない
俺の部屋に風花の着替えがあるわけがないので劇場の誰かに着替えを届けてもらう事になる
雨が降っていることを考えると車を使える人間に頼むことになるだろう
となると律子、麗花、このみの三人に絞られるが・・・このみはそもそも風花に合うサイズの服を持ってないだろう
律子も免許を持っているとはいえまだ未成年だ、流石にこの時間に呼び出すわけにはいかない
・・・・・・・・・・・・仕方ない、麗花に頼むか
プルルル・・・プルルル・・・ピッ
『はい、もしもし北上麗花です!』
「麗花か、少し頼みたいことがあるんだが・・・」
『すいません、今ちょっと電話には出られないので御用のある時はピーっていう発信音の後にメッセージをどうぞ!』
留守電に繋がっていたようだ、ちらりと時計を見る、現在22時15分ごろ
まさかとは思うがもう寝てるんじゃなかろうか、あいつはほんとに二十歳か?
しかも紛らわしい留守番メッセージしやがって・・・
『では、ピー!』
「口で言うのかよ!」
留守電を残しても仕方ないので勢いのまま電話を切る
相変わらず自由な女だ、この身体を襲う脱力感は雨に濡れたせいだけじゃないな
しかし麗花がダメとなると劇場の誰かに着替えを持ってきてもらう作戦はもう使えないだろう、どうしたもんか・・・
「ん?」
その時机の上に置いてある一枚のチラシを見つけた
つい先日近所にできた無人コインランドリーのチラシだ
「そうか、これを使えばいいか」
と同時にもう一つのアイデアが思い浮かんだ、そっちも試してみるか洗濯してる間の暇つぶしになるだろう
これからやることに対する風花の反応を想像して思わず口角が上がる
クローゼットから一着の服を取り出しチラシを丸めてゴミ箱に捨てた後風花の居る風呂場に向かった
・・・・・・
・・・
「ふぅ・・・」
雨に濡れて熱を奪われていた体に熱いシャワーが沁みます
できればこのままお湯に浸かってゆっくりしたいところですが、プロデューサーさんもシャワーを浴びたいはずなので我慢です
髪を洗うためにシャンプーに手を伸ばします、自分で使っているものとは違い安価なのが取り柄のよくあるシャンプーです
他の洗面用具もすべて最低限使えればいいといった感じの質素なものばかりです、なんだかこういうのを見ると男の人って感じがします
「風花、聞こえるか!」
その時洗面所の方からプロデューサーさんの声が聞こえてきました
「ふぇっ!?ぷ、プロデューサーさん!?」
「お前の着替えがなくてな、今からさっき来てた服をコインランドリーで洗濯しするから少しの間出かけてくる」
「は、はい」
「あと着替え代わりはここに置いておくからな、くくくっ・・・じゃあな」
そう言ってプロデューサーさんは去っていきました、最後のセリフは何かしらの含みを感じます
若干嫌な予感がします、それを置いとくとしても急に声をかけられてビックリしました・・・心臓が止まるかと・・・
それにしてもプロデューサーさんも雨に濡れたのに体を温めないで大丈夫なんでしょうか・・・少し心配
・・・・・・
・・・
使ったタオルと風花の服が入った洗濯籠と傘を持ち部屋を出て鍵を閉める
流石に男が女ものの服や下着だけを持ってコインランドリーを利用しているところを誰かに見られたらと考えたらぞっとしないので風花の服はタオルで隠すように積んでいる
幸いにもマンションから徒歩で3分ほどのところにあるコインランドリーには誰も居なかった、これなら誰かに見られることもないだろう
洗濯物を最新型の乾燥機付き洗濯機につっこみ料金を入れ設定を行う、あとは待つだけだ
少し疲れたので一服着こうと思い、外に出る
風花には『身体にも悪いし劇場には小さな子も居るんですからやめてください』と言われて煙草を止められてる、だからできればあいつの居る前では吸いたくない
それでもどうしても吸いたくなるときはあるので止めるに止められない
背広のポケットから煙草とライターを取り出し火をつけようとする
・・・湿気っている
そこでようやく自分が雨に濡れたスーツのまま着替えていないことを思い出した
風花の着替えの事ばかり考えて自分の事を忘れるとはな、俺はバカか
駄目になった煙草をゴミ箱に捨てて中に戻る
洗濯機は依然ぐるぐる回っていた、乾燥時間を40分に設定したのでまだまだ時間はかかりそうだ
一度部屋に戻るか、こんな時間だ、下着泥棒も出ないだろう
「・・・へっくし!」
・・・・・・
・・・
「こ、これは・・・」
お風呂から上がり体を拭いた後プロデューサーさんが『着替え代わり』といっておいていった男物の大き目なワイシャツを着ます
私にはかなり大きく袖もそうとう余ってしまいます、ただ代わりに裾も長いので合羽のようにすっぽりと体を覆ってくれます
替えがないので当然下着はつけてません、とても恥ずかしいです・・・
・・・なぜプロデューサーさんがこの服を選んだのか、今までのプロデューサーさんの仕打ちを思い出すと私がこれを着てどんな反応するかを楽しむために置いていったような気がします、意地悪です・・・!
プロデューサーさんの思い通りの反応を返すのも少し癪なので、どうせなら堂々としてやります
プロデューサーさんが帰ってきたらむしろ見せつけてやるつもりの気概です
それでもこの格好で歩きまわる度胸はないのでおとなしくリビングでテレビでも見ながら待機することにしました
ソファに座っりモコンを手に取ったその時、玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえました、プロデューサーさんが帰ってきたみたいです
「おかえりなさい、早かったですね」
「時間がかかるからシャワーを浴びに戻ってきただけだ、しかし・・・それを着たか」
話題を振ってきました!ここで余裕を見せて思惑を外させてやります!
「こういうのは初めてですけど、意外と開放感があっていいですね」
余裕があるように見せるためにできるだけゆっくり優しく少し上目使いにそういうと、プロデューサーさんは少し顔を赤くして目をそらしました
どうやら作戦成功みたいです!
「まあ、風花が気に入っているならいいか、俺はてっきりYシャツの下に丸めておいておいたジャージの方を着ると思ったんだがな」
えっ・・・?いまなんて言いました・・・?
「しかし風花がそっちを着たかったのなら仕方ない!俺がジャージの方を着よう」
「え、あ、ちょ、ちょっと」
「じゃあ、俺も風呂に入ってくるからな!ゆっくりしててくれよ!」
プロデューサーさんは早口でそう言い残すと最後にニヤッと笑ってお風呂場に行ってしまいました
確かにYシャツを取り出したときに一緒にくしゃくしゃに丸められた何かが落ちてきましたけど・・・
でもあれが着替えだとは思わないでしょう普通・・・
・・・はっ!?もしかして私嵌められたのでは!?
うう・・・せっかく恥ずかしさを我慢して一矢報いたつもりだったのに・・・
・・・・・・
・・・
風呂に入るなり冷ためのシャワーで頭を冷やす、まだ少し頬が熱い
自分で用意しておいてこれほど動揺するとは・・・
「・・・けど上目づかいは卑怯だろ」
思わずそうつぶやく、なぜか喉に妙な違和感がある
「気のせいか・・・?」
「ゲホッ・・・」
・・・・・・
・・・
プロデューサーさんがお風呂から上がった後、しばらく二人でテレビを見ながら時間を潰していると
「そろそろ取りに行ってくる」
とジャージに着替えたプロデューサーさんが言い、再び部屋を出ていきました
時計を見ると23時を少し過ぎています、そろそろ帰らないと終電がなくなっちゃいます
「プロデューサーさん、早く帰ってこないかな」
・・・・・・
・・・
コインランドリーに服を取りに戻った俺は信じられないものを見た
「これ全部濡れたままじゃないか・・・!」
俺が洗濯物を入れた洗濯乾燥機にはすでに乾いた洗濯物があるはずだったのだが
目の前にあるのは明らかにこれから乾かしますよと言った体の変な風にねじれた洗濯ものだった
まさか何か操作を間違えたのか・・・!?
いや、今はそんなことが問題なんじゃない、携帯を取り出し時間を確認する
「23時、20分・・・」
今から洗濯物を乾かしても最低30分はかかる、風花の家はここからそこそこ遠くにあり明らかに終電には間に合わない
仕方がない、風花に謝って少し待ってもらい俺が車で送ろう
万が一乾燥機が壊れていた時のために洗濯物を別の乾燥機に入れしっかりと操作を行い時間を30分後に設定したのを確認する
「やれやれだな・・・」
色々とドタバタした疲れからかかなり体がだるい、風花を送ったら今日は早めに眠ろう
・・・・・・
・・・
「すまん風花!」
戻ってきたプロデューサーさんは開口一番そういいました、何かのミスで洗濯物が乾燥していなかったようです
「わ、私は大丈夫ですから謝らないでください」
「本当に悪かった、乾燥が終わり次第車で送っていくよ」
「いいえ、もう遅いですしプロデューサーさんも疲れてるでしょう?私はいいですよ」
それにさっきから気になってることもあります
「しかし・・・」
「プロデューサーさん、自分では気づいてないかもしれないですけど、すごく顔色が悪いですよ?」
その言葉を聞いたプロデューサーさんは一度何かを言おうとした後諦めたように目を伏せ口を閉じました
・・・・・・わかった、今日は泊まっていけ」
「はい、お世話になります」
「ただし、ベットはお前が使えよ?」
「え・・・?でもプロデューサーさん具合が悪そうですし・・・」
「どこの世界にアイドルにソファで寝させて自分はベットで寝るプロデューサーが居るんだよ!」
「ひぇぇ!!す、すいません!」
その後プロデューサーさんは再び洗濯物を取りに行きました
一度私が行きますと言おうとしたのですが今の自分の格好を考えたら流石に言えませんでした・・・
・・・・・・
・・・
「おまえ、その恰好で寝るのか・・・?」
「え、ダメですかね?」
今度は無事に乾燥した洗濯物を持って帰り、風花に渡して着替えさせたはずが洗面所から出てきた風花は変わらずYシャツ姿だった
「ちゃんと下着は着てますし、通気性も高いから寝やすいかなー・・・なんて」
もしかしてこいつ気に入ったのか・・・?
「・・・まあ、何でもいいか」
寝るためにリクライニング式のソファの背を倒しベットに変形させ来客用の掛布団を取り出す
既にベットの上に移動した風花が物珍しそうにこちらを見ているが無視を決め込む
下手に話しかけたら
『やっぱりそっちで寝ちゃだめですか?』
なんて言ってきそうだしな
「電気消すぞ」
「は〜い」
ソファと布団の簡易ベットが完成した後電気を消して横になる
依然として体は重い、もしかしたら風邪を引いたかもしれない
明日の仕事は確か桃子とロコの付き添いだったか・・・
目を閉じ明日のスケジュールを思い出しているとベットの方からもう寝息が聞こえてきた
よく食べよく眠ると大きくなると誰かが言っていたが、今になっても胸が成長しているらしい風花を見ていると真理だなと思える
くだらない事を考えているとだんだん意識が遠くなっていき、ストンと眠りに落ちた
・・・・・・
・・・
「ふぁぁぁ・・・」
1つ大きくあくびをした後、伸びをしながらの起床です
窓から差し込む光で起きるのなんて久しぶりです、そういえば私の家のベットは夕方にならないと日が差さないんでした
つまり1人暮らしを始める前ぶりになります
時計を見ると7時30分です、いつもより遅い起床です、でも今日はお仕事はお休みなので大丈夫
お仕事と言えばプロデューサーさんはまだ起きてきません、いつも私より早く事務所に居るから早起きだと思っていたんですけど・・・
ベットを降り、プロデューサーさんが寝ているソファに向かいます
プロデューサーさんは小さな寝息を立ててぐっすり寝ています
顔に髪がかかっていたのでどけてあげます
「ふふっ・・・寝顔はかわいいんですけどね・・・」
しかし、いつもに比べて妙に顔が赤いような気がします
何かがおかしいと思い観察していると不意にプロデューサーさんの目が薄く開きこちらを見ました
「あ、起きましたね」
「風花か、何してんだお前」
「プロデューサーさんがなかなか起きないので起こしてあげようかと」
「余計なことを・・・ってあれ?」
「プロデューサーさん!?」
プロデューサーさんは手をつき起き上がろうとするも倒れ込んでしまいました
「何だこりゃ・・・力が入らんぞ・・・」
目を覚ましたプロデューサーさんは明らかに普段より顔が赤く呼吸も荒いです
「プロデューサーさん、失礼します」
もしやと思い額に手を当てます
「すごい熱・・・」
「・・・昨日あれだけ散々お前に風邪引くぞって言ってた俺自身が風邪を引くとはな」
「とりあえずベットに移動しましょう、お薬はありますか?」
「常備薬が台所にあるはずだ・・・」
「わかりました、取ってきます!」
・・・・・・
・・・
風花に手伝ってもらいベットに移動した俺は水と薬を飲んで再び横になった
「38度7分・・・今日はお仕事は無理そうですね」
「まいったな、今日はお子様方の送り迎えがあるんだがな・・・」
「小鳥さんには私が電話で伝えておきますから、お仕事の事は気にせずゆっくり休んでください」
「ああ、頼む」
「食欲はありますか?」
「割と」
「なら良かった、大きな病気じゃなさそうですね、冷蔵庫に何もなかったので食材と飲み物を何か買ってきます」
そう言って風花はYシャツから着替え部屋から出て行った
こういう時、元医療関係者は頼りになる
・・・・・・
・・・
近くのスーパーでスポーツ飲料と卵とその他の食材を買いマンションに戻る帰り道
途中で見つけたコインランドリーに工具を持った修理工らしき人を含めた何人かの人が集まっているのが見えました
あれが昨日プロデューサーさんが言っていたコインランドリーでしょうか?
そんなことを考えながらプロデューサーさんの部屋に戻ります
とりあえず昨日の残り物らしき白ごはんと卵でおかゆを作ることにします
おかゆを作っているとどこかで電話の着信音が聞こえました
火を止めて音の出所を探すとプロデューサーさんが寝ていたソファの方です
電話の着信を見ると小鳥さんからのようです、プロデューサーさんは寝ているようなので代わりに出ます
『あ、やっと出た、プロデューサーさん来るのが遅いので電話させてもらいました、どうかなされたんですか?』
「もしもし、小鳥さんですか?私です、風花です」
『風花ちゃん!?なんで風花ちゃんがプロデューサーさんの電話に!?』
「実はプロデューサーさん、どうやらひどい熱を出してしまったみたいで・・・今日のお仕事は行けなさそうです」
『そ、そうだったの、それはゆっくり休んで治してもらわないと・・・お大事にってプロデューサーさんに伝えておいてくれる?』
「はい、わかりました」
『それじゃあ、お大事に・・・って!よく考えたらなんで風花ちゃんが朝からプロデューサーさんの看病を!?どうやって風邪を引いたって知って・・・!?』ピッ
電話を切り机の上に置きます
「今の電話、誰からだった・・・?」
台所に戻ろうとするとプロデューサーさんにそう声をかけられました
「小鳥さんです、プロデューサーさんが来ないのを心配して電話をかけてきてくれたみたいですよ」
「そうか・・・今度お礼言っとかないとな・・・」
「起きられそうですか?」
「なんとか」
「もう少しでおかゆができるのでそれを食べてくださいね」
「ああ、ありがとう」
なんだか素直すぎてプロデューサーさんじゃないみたいです
こういうプロデューサーさんもたまには悪くないかも
「なに笑ってんだ・・・」
何かしらの雰囲気を察したのか睨まれました
「ふふっ、何でもありません♪」
・・・・・・
・・・
「熱いですから気を付けてくださいね、ほら、ふーふー」
「やめろ、子供じゃないんだから自分で食べられる」
「す、すいませんつい昔の癖で・・・」
「お前看護師時代患者にそんなことしてたのか・・・?」
「子供やお年寄りの患者さんを看ることが多かったので、つい」
二度寝をしたからか最初に起きた時より幾分か体調はマシになっていた、風花の作った粥もするすると喉を通る
「38度ですか、かなり下がったけど今日はもう一日おとなしくしててくださいね?」
食べながら計っていた体温計を見ながら安心したように風花はそう言った
「わかってるよ・・・」
その後、食事が終わったので風花が買ってきたペットボトルのスポーツ飲料を一口飲み再びベットに横になる
それにしても流石は元看護士だけあって面倒見がいい、こういうのも職業病というのだろうか
「それにしてもこうしていると昔を思い出しますね〜」
台所に食べ終えた食器を持って行った風花は皿を洗いながらそう言った
「看護師時代の事か?」
「そうです、あっ、そういえば昔と言えば昔から気になっててプロデューサーさんに聞きたかったことがあるんです!」
昔から俺に聞きたかったこと?
「なんだ?」
「社長から聞きました、ナースだった私をアイドルにスカウトしたのは社長の判断ではなくプロデューサーさんが社長に直談判してスカウトしたって」
・・・ああ、その話か
「それでずっと気になってたんです、プロデューサーさんとはスカウトされたときにはじめて顔を合わせたはずなのになんで看護師の私だったんだろうって」
「そんなに知りたいか?」
そういうと風花は洗い終わった皿を乾燥機に入れパタパタとこちらにやってきた
「ぜひ!」
正座までしやがって、どれだけ気になってたんだ
「大した理由じゃないぞ?」
「それでもいいです!」
「ほんとに聞きたいか?」
「え、ええ!」
「ほんとのほんとに?」
「そ、そこまで念を押されるとちょっと・・・もう!いいから教えてください!」
相変わらずからかってて面白い奴だ
「じゃあ、教えるが、さっきお前は俺が病院に風花をスカウトしに行ったとき初めて会ったって言ったが、実はあれは初対面じゃない」
「ええ!?そうなんですか!?でも私プロデューサーさんの事覚えてなくて・・・」
「すまん、今のは少し語弊がある、正確には『俺はお前に会う少し前からお前のこともお前がアイドルに憧れてることも知っていた』ってことだ」
「うう・・・余計にわかりません・・・」
「実は俺が765プロに来てしばらくしたとき・・・まだ765プロライブシアターのためにアイドルやスタッフを集めていた時のことだが・・・」
・・・・・・
・・・
ある日、俺は営業中に軽い事故にあって足の骨を折り1週間ほど入院することになった
その時たまたま入院した病院で担当になった看護師が風花の看護学校時代の知り合いだったんだ
ずいぶんおしゃべりで気さくなナースだった
「もしかしてあの娘!?この前久しぶりに会ったとき、今は看護師辞めてアイドルやってるって伝えたら妙にニヤニヤしてたけど・・・」
今は俺が話してるんだから黙って聞け
「は〜い・・・」
入院してる間そのナースと話していてある時ぽろっと自分はアイドル事務所のプロデューサーでアイドル候補生を探してるって話をしたんだ
そうしたらその子は
『なら、知り合いにおすすめの娘が居るよ!』
といい風花のことを教えてくれた、どこか流されやすいけど歌がうまくて優しくてアイドルにあこがれてる胸がおっきい友達が居るってな
「も、もう!胸が大きいは余計です!」
その時におもしろそうだと思って名前と務めてる病院を聞いたら教えてくれたんだ
今思えば患者とはいえ芸能プロダクションのプロデューサーだなんて名乗る男に友達を紹介するなんて中々破天荒なナースだった
・・・・・・
・・・
「その後はお前も知ってのとおり、足が完治した俺は社長にスカウト枠を空けてもらってお前をスカウトしに行ったってわけだ」
「な、なるほど・・・で、でも!もし直にあった私があの娘が言ったみたいな娘じゃなかったらどうしてたんですか!?」
「その時はその時だな、実際胸はデカかったし問題はなかったが」
「スカウト基準は胸なんですか!?」
実際は子供の患者と一緒に楽しそうに歌って居る姿やお年寄りの患者に優しく接する姿、楽しそうに周りの人間に笑顔をふりまく姿を見てスカウトを決めたんだが・・・照れくさいから黙っておこう
「そうなんですか・・・あの娘がプロデューサーさんに私を・・・」
・・・せっかくの機会だ、俺も一つ聞いてみるか
「なあ、風花」
「なんですか?」
「俺にも気になってたことがあるんだ、聞いてもいいか?」
「・・・?いいですよ?」
できれば聞きたくない質問だがいつか聞かなくちゃいけない質問だ、いい機会だし、腹を括ろう
「看護師辞めたこと、後悔してないか?」
・・・・・・
・・・
「看護師辞めたこと、後悔してないか?」
アイドルになった時から気になっていた疑問の答えをプロデューサーさんから聞いた私に、プロデューサーさんは痛みに耐えるような顔でそう質問し返しました
いつになく真剣な顔のプロデューサーさんに何かの冗談かと思って茶化した答えを返してしまいます
「実は少しだけ・・・」
そういうとプロデューサーさんの顔は強張りました
「冗談です」
慌てて悪びれたように笑いながらそういってもプロデューサーさんの顔は強張ったままでした
「・・・そんな顔しないでください、本当に後悔なんてしてません」
「でも俺はお前のやりたい仕事をやらせてやれてるとは言えないぞ」
「確かに私は華やかなステージで歌う清楚で可愛いアイドルに憧れて、そんな風になりたくて765プロに来ました、それに比べたら今の仕事はちょっと理想と違うかもしれません」
プロデューサーさんは一言一言苦しそうに歯を食いしばりながら私の言葉を聞いています
「でも劇場のみんなは優しいですしちゃんとステージの上でファンの皆さんにたくさんの歌も届けられてるのも確かです」
震えるプロデューサーさんの肩を優しく抱きしめて耳元でゆっくり言い聞かせるように言葉を繋いでいきます
「それにここには貴方が居てくれます、私のためにこんなにも苦しんでくれる人が、私のことで本気で悩んでくれる人がここに居ます、そのおかげで私はみんなに笑顔や歌を届けられてるんです」
だから・・・
「だから、私はアイドルになれて幸せです、プロデューサー」
・・・・・・
・・・
「・・・・・・そうか、ありがとう、答えてくれて」
「いいんですよ」
熱のせいかくらくらと宙に浮いたような気分の中、抱きしめてくれている風花のぬくもりだけがやけにはっきりと感じる
いつの間にか降り始めたのか外から雨音が聞こえてきた
どれくらいそうしていたかわからないが不意に風花が抱きしめていた手を離した
「そろそろ私は帰りますね、お昼ご飯は何か用意しておくので起きてから食べてください」
「ああ」
「明日からまた元気にプロデュースしてもらわなきゃ困るんですから、今日は一日おとなしくしていてくださいね?」
「わかってる」
「ふふっ・・・それじゃあ」
そう言い残し去ろうとする風花の手を思わず握り引き留める
「・・・?どうかしたんですか?」
掴んだままの手を強く握る俺をきょとんとした表情で風花が見ている
その顔を見ていると堰が切れたように様々な感情が湧いてくる
気が付いたときには握っていた手を引っ張り風花を抱き寄せていた
「わっ!ぷ、プロデューサーさん急に何を・・・って!?」
あふれ出る感情を抑えきれなくなった俺は抱き寄せた風花の唇にキスをしていた
永遠にも一瞬にも思えた沈黙の後静かに唇を離し互いに見つめあう
「・・・風邪、うつっちゃうじゃないですか」
「ごめん」
「素直に謝ったから許してあげます」
そう言った風花が俺に体重を抱き付いてきたため二人してベットに倒れ込む
二度目は風花からだった
・・・・・・
・・・
目を覚ますと俺はベットの上で横になっていた、台所から何かを料理するような音が聞こえる
「あ、起きたんですね、プロデューサーさんおはようございます」
「おはよう」
「結構長い事寝てましたね、もう夕方ですよ?」
確かに窓から外を見ると景色はオレンジ色に染まっていた、雨はすっかり止んでいる
「結局せっかくの休日を一日潰させて悪かったな」
「いいんですよ、どうせ予定もありませんでしたし」
そういうと調理が終わったのか風花はエプロンを外し冷蔵庫からスポーツドリンクの予備を取り出してこちらに持ってきた
「それじゃあ、私は帰りますけど、ご飯と水分をしっかりとってゆっくり休んでくださいよ?」
「ああ、わかった」
「特にいっぱい汗かいたんですから水分は小まめにとるようにお願いしますね?」
「わかってるよ」
「ふふっ・・・それじゃあまた明日!」
「ああ、また明日」
そうして風花が部屋を出て行ったあと扉が閉まる音の後にガチャリと鍵が閉まる音がした
さて、風花は何を用意していってくれたのやら風花が置いていった鍋の中身を見てみる
「またお粥か・・・」
鶏肉やネギなど具は若干豪華になってるが二食連続同じ献立はどうなんだ・・・?
・・・・・・
・・・
『なるほど、自分がプロデューサーに嫌われてるんじゃないかと思うと?』
『はい・・・清楚な仕事がしたいと言ってもあまりやらせてもらえないですし、いつも怒らせてしまいますし・・・』
『なるほどなるほど・・・』
『やっぱり私、プロデューサーさんに嫌われてるんでしょうか・・・』
『はっはっはっはっはっ!そのことなら安心したまえ!君のプロデューサーは君のことを嫌ってなどいないよ!』
『ほ、ほんとうですか!?』
『なにせ君をスカウトしたいと言い出したのも担当したいと言い出したのも彼自身だからね!』
『ええ?そうなんですか?でも初めて会った時に私には社長に言われてスカウトしに来たって・・・』
『ふーむ、たぶん君に直接いうのが照れくさかったんだろう、彼は天邪鬼というか素直ではないからね』
『そ、そうなんですか・・・』
『それに自分のアイドルの事を嫌っているプロデューサーなんていないさ、それでも君が担当プロデューサーを変えてほしいというなら検討するが、どうするかね?』
『い、いえ!プロデューサーさんを変えてほしいわけじゃないです!あの人も根は優しい人なのはわかってますから!』
『なら、結構!これからも彼と二人三脚で精進したまえよ!』
『はい、なんだか自身が付きました!ご相談に乗ってもらってありがとうございます社長』
『うむ、それではがんばりたまえ!』
『失礼します!』ガチャ、バタン
『・・・うむ、若いとはいいなぁ、そう思わんかね音無君?』
『・・・なんでそこで私に振るんですか社長』
・・・・・・
・・・
そんな話をしてると事務所に小鳥さんがやってきました
「ぴ、ピヨ!?風花ちゃんとプロデューサーさんが朝から一緒に出社してる・・・!?」
「おはようございます、小鳥さん」
「音無さんおはようございます」
「お、おはようございます」
しばらくすると劇場にだんだん人が集まってきます、今日は定期公演の日ですからみんな気合も十分です
プロデューサーさんは風邪をひいていたことが嘘のようにいつも通りきびきびと支持を出しています
目が合いました、早くステージに行けとどやされます
やっぱり昨日の弱気なプロデューサーさんもよかったけど、いつものプロデューサーさんが一番です♪
END
17:30│豊川風花