2015年09月25日

佐藤心「駄目な女と」モバP「駄目な男と」

前作 モバP「駄目な男と」佐藤心「駄目な女と」

アイドルマスターシンデレラガールズ、佐藤心さんのお話です。



キャラがおかしいのと、独自設定で進んでいるため、その点はご了承ください。



また、以前に書いた



モバP「駄目な男と」佐藤心「駄目な女と」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440769228/



の心さん側の視点のお話です。



読んでいなくても大丈夫なようにはしてあるはずですが、もし良ければお読みの上、こちらを読んでいただけると幸いです。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443117419



居酒屋



早苗「じゃあ、はぁとちゃんが事務所に加わった事を祝して……」



早苗、瑞樹、ちひろ、心「「「「かんぱーい」」」」



早苗「んぐっごきゅっ、ぷはぁー」



早苗「うまい! この一杯のために生きてるようなもんだわぁー」



瑞樹「わかるわー。やっぱお仕事終わりのビールは格別よね」



ちひろ「家で飲むのも良いんですけどね」



心「やっぱ仕事終わりに飲む方が美味しいんだよね☆」



早苗「おー! はぁとちゃんはわかる娘だねぇ。じゃあ、景気づけにもう一杯いきますかー!」スミマセーン



心「はぁとはまだお仕事してないけどね☆」



瑞樹「細かい事は良いの。それに、これははぁとちゃんの歓迎会なんだしね」



瑞樹「でも、せっかくの歓迎会なのにP君が来ないなんて酷いわよね」プンプン



ちひろ「えーっとそれは……」



早苗「確かにそうねぇー。まったくP君にも困ったものだわ」



心「……」



瑞樹「どうかした、はぁとちゃん?」



心「なんでもないよ☆ ないぞ☆」



早苗「言葉明るいのに顔は暗いじゃない。お姉さんをなめない方が良いわよ?」



ちひろ「あ、あのですね!」



瑞樹「ちひろちゃんも何か知ってるのね?」



ちひろ「い、いえ? 何にも知りませんよ?」アセアセ



早苗「あのね。今、あたしは酔ってるの。瑞樹もよね?」グビー



瑞樹「ええ、酔ってるわ」グビー



早苗「ということは今日聞いた事はぜーんぶ明日になればきれいさっぱり忘れてるのよ」



瑞樹「はぁとちゃんがどうしても嫌なら無理には聞かないけど、案外、話すと楽になるものよ」



ちひろ(これは……何かやばい予感がする……! 話題を、話題をそらさなきゃ……!)



ちひろ「わ、わー! このからあげ美味し……!」



早苗、瑞樹「「ちひろちゃん、うるさい」」



心「じゃあちょっとだけ」



 これは私の友達の話で、決してはぁとの事じゃないよ。ないぞ☆



 ある日、その友達は運命の出会いをしました。退屈な日々を送っていたその子にとっては運命の出会い。もしかしたら、ただ運が良かっただけなのかもしれないけど。



 元々その子は少し個性的な子でした。どうしても自分を偽って集団の中に居るのが辛くて人と関わる事を避けるように生きていたのです。



 しかし、親や周囲の大人達はそんなその子の事を良く思ってはくれませんでした。大人達からすれば、その子はただの問題児。出来るだけ関わりたくないというのが本音です。しかし、大人達は子供の面倒を見るのが義務だとでも言わんばかりにその子に干渉してきます。



 その子はそれがとても煩わしくて仕方ありませんでした。



 そんな環境で育ったその子は次第に自分の身を守るために逃げる事を覚えました。辛い空間には居たくない。そんな思いでその子は段々と学校からも、家からも逃げるようになりました。





 いつものように逃げ出していたある梅雨時の事です。その子は不覚にも傘を忘れてしまいました。



 雨に濡れる程度ならその子は気にしません。ですが、雨に濡れたまま家に帰ると何を言われるか知れたものじゃありません。なので、その子はもう店を閉めてどれほど経つか知れないタバコ屋で雨宿りをする事にしたのです。



 使わないとは言え、教科書が入っている鞄を濡らすわけにはいかないので、その子は鞄を抱きかかえて、いつまでも止みそうにない空を眺めていました。



 すると視界の端に一人の男の子が居るのが見えました。どこかアホ面の、でもなぜか憎めない顔をした男の子でした。



 見られている事に気づいたその子は急に恥ずかしくなってしまって、思わず男の子に声をかけてしまったのです。『何見てんだよ』って。



 普段ならその子も男の子に見られてた程度で声なんかかけないんですけど、退屈な時間をつぶすにはちょうど良いと思ったのです。男の子も平日の真昼間なのに制服を着てたので不良少年だと思ったのです。さすがに他人に迷惑をかけるのには負い目があったのですが、不良少年なら少しくらいは、とも思ったのです。





 『何でもない』と言って立ち去ろうとした男の子をその子は逃がしません。ちょうど男の子は傘を持っていたのもありますが、お昼時でお腹が空いていたのもあります。ファミレスまで傘に入れていってもらったのです。



 ファミレスに辿り着いたら、男の子はそそくさと立ち去ろうとしたのですが、せっかく見つけた暇つぶしの対象を逃がすわけにはいきません。無理やり手をつかんで店内に引っ張り込みました。



 その後は昼食を食べつつ、愚痴を男の子にずっと言っていました。男の子は終始『はぁ』と『そうですね』しか言わなかったのですが、その子にしてみれば愚痴を聞いてくれるだけで嬉しかったんだと思います。



 あらかた愚痴を言い終え、料理も食べ終えた時です。男の子は機を見計らったかのようにお金だけ置いて立ち去ろうとしました。でも、その子は愚痴を聞いてもらったお礼と、無理やり付き合わせたお詫びも兼ねてご飯を奢ったんです。なんか気恥ずかしかったんで多少強がって子供が気を使うななんて言っちゃって。自分も子供だってのに関わらず。



 その子はそれで男の子との付き合いは終わったと思っていました。ほんの少しの間だけの楽しい時間。それで終わりのはずでした。





 でも、その後も何故か雨の日にタバコ屋で雨宿りしていると男の子が来たんです。その子にも多少は来ないかなってという思いはあったんですが。その子は前の時と同じように『何見てんだよ』と言いました。緩む口元を引き締めて、ちょっと睨みを効かせて。



 そうやってその子と男の子は雨の日だけ会うという不思議な関係が生まれました。雨の昼時にタバコ屋で雨宿りをする。するとまるで迎えに来てくれるかのように男の子が傘を持って現れる。一緒にお昼ご飯を食べてだらだらと話をする。



 しかし、ある晴れの日の事です。その子が最近運動不足で体重を気にしてジョギングをしてた時の事でした。なんとなく、特に深い理由はないですが、駅前を通り、なんとなく男の子が帰る方面に向かって走っていたのです。すると目の前にとぼとぼと歩く見覚えがある背中を見つけました。



 そう、あの男の子が居たのです。何故か嬉しくなり思わず声をかけてしまったのですが、その子は声をかけた後に自分の姿に気付きます。メイクをしてるわけでもなく、尚且つどう見てもおしゃれとは言えないジャージ姿の自分に。



 しかし、男の子はその子に声をかけられたのが嬉しかったのか、どこか複雑そうな表情のままですが、笑顔を作り『少しだけ話がしたいんです』と言いました。





 その子も男の子と話が出来るならしたかったのですが、自分の姿があまりにも酷いです。何故かはわかりませんが、そんな姿の自分を男の子に見せたくなかったのです。ですが、男の子の目がいつもと違い、その子には助けを求めているように見えたのです。



 ちょっとした葛藤はありましたが、そんな目をしている男の子を放っては居られないその子は近くの公園で話をする事にしました。内容は男の子の学校へ対する愚痴がメインでした。しかも偶然な事にその子が普段抱いている愚痴とほとんど同じものでした。



 その子はこう思ったのです。ああ、こいつも私と同じで学校がつまらないんだな、と。



 だらだらと惰性で学校に行くのはとても辛い事です。それはその子にもよく分かっていることでした。その子は男の子へのアドバイスとして『無理して学校なんか行かなくてもいい』、そう言うつもりでした。しかし、実際に口から出た言葉はまったく違ったものでした。

その子は男の子を自分が通っている高校へ誘ったのです。自分は辞める気でいた高校へ。



 たった1年かも知れませんが、その子は男の子と一緒に学校へ通ってみたくなったのです。男の子と会う数分前までは退学するにはどうすれば、と考えながら走っていた自分の口から出た言葉とは思えませんでした。その日、その子は男の子に『待ってる』とだけ伝え、その場を後にしました。後日思い出して顔から火が出そうになったとか。





 それからのその子は変わりました。いままで月2回か3回かしか行かなかった学校に毎日行き、補習やレポートで足りない出席日数を補い、男の子が来る事を待ったのです。

 合格発表の日は、男の子から連絡が来る事になっていたのですが、居ても立っても居られずにこっそりと合格発表を見に行ったくらいです。それほどまでにその子は男の子の事を待っていたのです。



 合格発表の掲示板の前で、男の子がガッツポーズをしているところをこっそりと見たその子は嬉しさのあまり涙が出そうになっていました。直後にかかってきた合格報告の電話にそっけなく『あっそ』って答えるのが精いっぱいだったのです。



 男の子が入学した春からの、その子が卒業するまでの一年は、その子にとって言い表せないほど楽しく、充実した、退屈なんて感じないほどに素晴らしい一年でした。



 その一年の間に、その子には夢が出来ていました。服を自分でデザインしたい、自分で作りたい、そんな夢です。



 今まで夢や目標を持たずにいたその子に夢を与えてくれたのはもちろん、男の子でした。ある日、男の子がその子の事を『服のセンスが良いですよね。いつも綺麗ですし、可愛いですよ』なんて褒めたのです。褒められる事に慣れていなかったその子は真っ赤になってしまいました。男の子に悟られないように、『当然だ』と返したのですが、内心はもうてんやわんや。嬉しいのと恥ずかしいのとでよくわからなくなってました。





 そんな風に夢が出来たその子は服飾関係の短大への進学を決めました。しかし、それには問題が一つ。短大へはその子の実家から通うことも出来たのですが、地元でもそこそこ有名な進学校に通っていたその子の両親が短大への進学に猛反対したのです。このままではせっかくできたその子の夢が潰れてしまいます。



悩んだ末にその子は一人暮らしを決めたのです。両親の元を離れることで自分の夢を守ろうとしたのです。この事に激怒した両親からは100万円が入った封筒を渡され、二度と帰ってくるなと言われてしまうのですが。



そうして迎えた卒業式の日です。その子と男の子はいつものファミレスでささやかながら卒業祝いとして一緒にご飯を食べていました。その時に男の子から『もう、毎日は会えないんですね。少し寂しいです』と言われたのです。



 その言葉を聞いて、その子は覚悟を決めました。一世一代、自分には似合わないとは思いつつも、精いっぱい心を込めて、とても不器用な、言葉には出来ませんでしたが、告白をしたのです。



 一つの小さな鉄の塊を、その子にとって新しい居場所であるアパートの鍵を渡して、これからもよろしくと伝えたのです。ですが、その子の想いは男の子には届きませんでした。





短大へ入学した後、男の子は毎日その子の元へ来てくれました。学校が終わってから一緒に買い物へ行き、一緒に夕食を食べ、その日あった出来事を話して、男の子を駅まで見送る。そんな生活でした。



友達に男の子と一緒に居るところを見られた事もあります。しかし、彼氏かと聞かれてもその子には答える事は出来ませんでした。確かにその子は男の子の事が好きでした。ですが、男の子は自分の事を女としては見てはくれていません。多分気の合う友達程度なのでしょう。



どうして自分はこんな鈍感な男を好きになってしまったのだろうか。美味しいと言って自分の作ったご飯を食べる男の子の顔を見ます。もし、また告白してこの関係が壊れてしまったら? やっと手に入れた幸せな一時を手放すことは出来ません。



でも、もし男の子に彼女が出来てしまったら、結局はこの関係は壊れてしまうのではないか。そう思い何度も何度も告白しかけましたが、やはり今の関係を壊す勇気は出てきません。



結局、その子はぬるま湯のような居心地の良い空間を手放す事は出来ませんでした。その空間は毒のようにじわじわとその子を蝕みます。もし、男の子に彼女が出来たなら、その時は全身に毒が回り、自分は死んでしまうんだと思い込む事にしたのです。



そうしなければ男の子を諦められない駄目な女だったのです。





男の子が高校を卒業して、大学へ進学した年です。その子も小さい会社でしたがアパレル系に就職を決め、住む場所も女々しくも男の子の大学の近くへ引っ越したのです。



ある日、男の子がサークルの新歓コンパへ行くと教えてくれたのですが、その子は不安で一杯になりました。もし、新歓コンパで男の子に彼女が出来てしまったらどうしよう、という不安です。諦めると決めていたにも関わらずに。



その子は男の子に新歓コンパが終わったら連絡をするように約束させました。表向きは男の子の心配をしながら、でも本当は自分の不安を取り除くために。



新歓コンパの日は一日中気が気ではありませんでした。働いている間もミスを多くやらかし、職場の先輩に怒られてしまう始末。そんな上の空のまま仕事を終え、帰宅して電話が鳴るのを待っていたのですが、一向に連絡が来ません。自分が恐れていた事が現実になったのかと不安に押しつぶされそうになりました。



日付が変わった頃、不安に耐えかねたその子は男の子に電話しました。しばらく呼び出し音が鳴り、やっと電話が繋がった時、その子は絶望しました。電話口に女の子が出たのです。





あまりの事態にどうして良いか分からなくなってしまったその子は泣き出しそうになるのを堪え、男の子はどうしたのか尋ねました。



すると、電話口から可愛らしい声で『申し訳ありません、私が目を離した時に悪乗りでお酒を飲ませてしまいました。今は立って歩く事も、まともに受け答えする事も出来ないので、これから救急車を呼ぼうと思います』と言われました。



その子は血の気が引いていく音を聞いた気がしました。電話口の女の子が誰なのか、そんなことよりも男の子が無事なのかどうか。それだけが気がかりで、どうしようもなくなったその子は、自分が迎えに行くから待っていて欲しいと伝え、新歓コンパの場所を聞き、慌てて男の子の元へ向かいました。



偶然なのか、新歓コンパはその子の家の近所の居酒屋で行われていたので、その子が男の子の元へ行くまでには10分とかかりませんでした。店先に辿り着き、男の子の名前を呼ぶと、男の子はその子の名前を力なく呼びました。幸い、その子が思っていたほど顔色も悪くなかったので、救急車を呼ぶまでもないと判断し、その子はサークルの先輩と思しき人に男の子が迷惑かけた事を謝り、自分が連れ帰るから心配しなくて良いと伝え、ぐったりとした男の子を半ば引きずりながら自分の家に連れ帰りました。





家に連れ帰ってから男の子の服を緩めたり、水を飲ませたり、背中をさすったりと介抱をしました。男の子は落ち着いたのか、その子のベッドで静かに寝息を立て始めました。可愛い寝顔を眺めながら、ふとその子にいたずら心が芽生えます。今ならキスしてもばれないんじゃないかと。しかし、いざ顔を近づけるとあまりの恥ずかしさに結局実行は出来ませんでした。



それ以降も男の子とその子の関係は変わる事はありません。男の子はその子の家に晩ご飯を食べに来て、夜になると家に帰る。高校時代と変わったところは、男の子が22時前には帰っていたのが、日によっては終電まで居るというくらいです。



仕事で嫌な事があっても男の子が居るから頑張れる、そう思って働き始めて四年目の事です。段々と男の子が家に来る頻度が減っていたのです。毎日来ていたのが、平日だけになり、だんだんと週に1回、月に1回と。その子は気になって男の子に尋ねました。どうして来なくなったのかと。すると男の子は顔をそむけながら『就活が忙しくて』とだけ言いました。その子は嘘だと見抜いてはいたのですが、やはり臆病なままなのでただ一言『そっか』としか言えませんでした。



男の子と会えなくなっていた10月の事です。男の子から電話が来ました。とっても嬉しそうな声で『東京の芸能プロダクションに内定が出ました! やっと、やっと内定が出ました!』と。あんなに嬉しそうな声は長年一緒だったその子も聞いた事がありませんでした。まだ自分の知らない男の子の面に複雑な思いのまま、でもこれでまた会いに来てくれると思ったその子は男の子の内定を祝福しました。



ですが、男の子はそれ以降もその子に会いに来てくれる事はありませんでした。





男の子が上京する日をなんとか突き止めたその子は、駅に出向きました。男の子が自分の事を連れて行ってくれる事を信じて。



駅についたその子はいつかの梅雨の日のように鞄を抱えて空を眺めながら男の子を待っていました。二時間ほど待っていると、会いたくて仕方なかった顔が遠くの方に見えました。



男の子と目が合った時、男の子の『なんでここに?』という言葉にその子は挨拶もせずに行こうとする事を非難しました。男の子があれやこれや言い訳をしている中、その子は『私も連れて行って』と言い出すタイミングを見計らっていました。もちろん、男の子の方から『一緒に行こう』と言ってくれるのを待っていたのもありますが。



しかし、そうそううまくはいきません。待っても待っても男の子は言ってくれませんし、その子はその子で言い出す勇気が出ません。このままでは駄目だ、と覚悟を決め、口を開こうとした時に男の子は『ごめんなさい。もう時間なんで行きますね。今までありがとうございました』と言いました。開きかけた口を閉じ、その子は男の子を睨み付けることしか出来ませんでした。



 その子は男の子が去った後もしばらく改札口を睨み付けてました。しかし、どれだけ睨んでも男の子は帰ってきません。その事実をようやく受け入れたその子は、数日分の着替えと最低限の生活必需品を入れていた鞄を持って家に向かいました。みっともなくボロボロ泣きながら。





 男の子が去った日、その子は家に帰ってベッドに倒れこんで泣きながら一晩を過ごしました。どれだけ泣いたか分かりませんが、やっと落ち着いたころにはもう朝日が射していました。泣き腫らした顔のまま折り畳み式の携帯電話を握ると男の子に電話をかけました。せめて、声だけでもと思ったのです。



 ですが、そこから聞こえてきたのは『この番号は現在、使われておりません』という機械の案内音声でした。そんなはずはないと何度も何度も電話をかけたのですが、流れてくるメッセージは同じもの。メールもしてみましたが、宛先不明で帰ってくるばかり。思わず携帯を壊してしまいそうになりましたが、男の子と初めて連絡先を交換した思い出の詰まった携帯を壊すことは出来ませんでした。



 何日かあと、その子は男の子の実家に向かいました。ご両親なら何か知っているはずだと思い少しでも男の子の行方を掴むためでした。ですが、驚いた事にご両親ですら男の子に連絡が取れないとの事。それでも諦めきれないその子は男の子の部屋をご両親と一緒にひっくり返しました。ですが、見つかるものは男の子の過去のものばかり。卒アルや文集、何かのメモ、漫画、ぶりっこ特集とかいうエロ本、アルバム。何一つとして現在の男の子に繋がるものはありませんでした。





 最後の望みを絶たれてしまったその子は何日も何日も泣きながら過ごしました。起きていても眠っていても考えるのは男の子事ばかり。夢にまで見る始末です。



 散々泣き喚いたある日、その子は決心しました。男の子の現在はわかりません。ですが、居場所はわかります。東京。少なくとも男の子は東京に居ます。なら、あとは自分で見つければいい。そう、決心したのです。



 しかし、そう簡単に見つかるとも思えません。まず、ある程度あたりをつけるために東京の芸能プロダクションに片っ端から電話をかけました。その職場に男の子は居るかと問い続けました。しかし、会社もそう簡単には教えてくれません。それも当然です。部外者に教えてくれるほど甘くはありません。



 地元に居て出来そうな事をすべてし尽くした時には男の子がその子の元を去ってから2年ほどが経っていました。





心「そして2年でその子は5年くらいならなんとかなる貯蓄を持って東京へと旅立ったのでした」



心「おしまい。ちゃんちゃん」



早苗、瑞樹、ちひろ「「「えっ?」」」



早苗「え、ちょっ、続きは!?」



瑞樹「そうよ! その後はぁとちゃんはどうしたの!?」



心「だから、これは友達の話だって言ってるだろ☆」



心「友達の事なんか知るか☆」



ちひろ(もう良い。私は何も知らない。そう、私は貯金箱になるのだ)



早苗(えっ……でもこれはどう考えてもP君とはぁとちゃんの事……)



瑞樹(ということは、はぁとちゃんはそこまでしてP君を追ってきたって事!?)





瑞樹「で、でもー、その友達って確かに駄目な女よね!」



早苗「そ、そうそう! そんな駄目男に引っかかって尚且つずるずると引きずってるとかね! 駄目女の典型よね!」



早苗、瑞樹((これくらい煽れば何か反応を示すはず……!))



心「……」グビッ



心「確かにただの駄目女だね☆ 救えない☆」



心「でも、信じれば夢は叶うってのを、アイドルになったはぁとが否定は出来ないぞ☆」



早苗、瑞樹「「……勝てないわね」」ボソッ



心「どした? どうした?」





早苗「いえいえ、なんでもないわよ。さってお姉さん今日はたくさん飲んじゃうぞー!」



瑞樹「いいわね! 私も付き合うわよ、早苗! さぁ、店をすっからかんにしてやりましょう!」



心「はぁとは遠慮しとくぞ☆ 明日レッスン初日だし。無理したらレッスンできない。歳が歳なんで☆」



早苗「歳が……?」ゴゴゴ



瑞樹「歳なんで……?」ゴゴゴ



心「あっ、やべっ。地雷踏んだっぽい」



早苗、瑞樹「「朝まで付き合ってもらおうじゃねーか! 逃げるな! 逃がすか!」」









数年後 神社



早苗「はぁとちゃん綺麗ねー……」



瑞樹「そうね……」



ちひろ「お仕事で着た時も綺麗だと思いましたが、あの時以上ですね」



早苗、瑞樹「「妬ましい……」」



ちひろ「お二人ともアイドルがしちゃいけない顔になってますよ!?」



早苗「だって……」グスッ



瑞樹「P君とられちゃったんだもの……」グスッ



ちひろ(最初から勝ち目がなかった気がするんですが……!)



早苗「まぁ、いいわ。それよりちゃんとお祝いしたげましょ」ケロッ



瑞樹「そうね。お祝いされるのも、お祝い出来るのも嬉しい事だものね。わかるわ」







モバP(以下P)「えーと……」



心「なんだよ☆」



P「とっても似合ってます。すごく綺麗です」



心「いやん♪ はぁとったら大和撫子でしょ☆」



P「あ、ないです」



心「ぶっ飛ばすよ? ぶっ飛ばすぞ?」



P「勘弁してください」



心「まったく、口が減らないんだから……」



P「でも、白無垢で良かったんですか? 仕事で一度着てるから今度はウェディングドレスが良いって言うと思ってました」





心「前も行ったけどぉ、白無垢は相手の家風に染まるって意味があるの♪」



心「だから、はぁとをP色に染めたっていいんだぞ☆ ……いいんだぞ☆」



P「なんか照れますね」



P「だけど、もうずっと前に俺が心さん色に染められてるから、染めても変化ないですよ」



心「急に恥ずかしいこと言うな☆ 照れる☆」



P「お互いさまですよ。あと、改めてこれから先、いろいろあると思いますが、よろしくお願いします」



心「おう☆ 任せろ☆」



心「それに、はぁとの隣にいるのは、いつだって……って言わせんなもぉ〜☆」



end





08:30│佐藤心 
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