2015年10月08日
北沢志保「出会い」
◆
志保「あ、お母さん……。私」
志保「そう。今、終わったところ」
志保「あ、お母さん……。私」
志保「そう。今、終わったところ」
志保「うん。寄る場所もないから帰ろうと思ってる」
志保「あ、お土産……。何か欲しいもの言ってた?」
志保「そっか。分かった。うん、じゃあね」
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志保は、この日とある複合商業施設にいた
以前より注目していた舞台の公演が、この施設内にある劇場で行われていたからだ
終演後で混雑するロビーをいち早く抜け出し、母親への連絡を終えた志保は、時間を確認するとゆっくりと歩き出した
(琴葉さんから、下調べ用のマップを借りておいて正解だったな……)
(『広大な敷地面積と200を超える店舗数を誇る』、か……。ちょっと甘く見てたかも)
元々、志保は賑やかな場所や人混みがそこまで得意ではない
一人で歩いていると、来た道を戻るだけのはずなのに、次第に足が重くなる
そこで、志保は視線をマップから上げると、気晴らしも兼ねてお店の様子を見ながら進むことにした
そして、ある場所の前までたどり着いた時、その足が止まった
◆
(あ、あのぬいぐるみ……。かわいい……)
(……どうしよう。ちょっと、気になる……かも)
(時間は……まだ大丈夫。お金も……うん)
(行ってみよう……かな)
志保は、アミューズメント施設へと入ることにした
(ここ、かなり広いんじゃ……。この前杏奈に連れてきてもらったところよりずっと大きい……)
(とりあえず、クレーンの場所まで行かないと……)
(あ、あった……)
クレーンには先客がいた
志保は、その人のプレイを観察してみることにした
(あ、あそこまで持ってきて、あのタイミングで降ろす……か)
「ねぇ」
(あ、引っかかった。ああすればいいのか…)
「おーい」
「え、あ、はい」
「もしかして、クレーンが空くの待ってる?」
「あ、いや、そういうわけでは」
「そうなんだ? それならいいんだけど」
志保に話しかけた少女はクレーンまで小走りで駆けていく
「穂乃香ちゃん、今日もだいぶ取ったねー」
「あ、忍ちゃん。なんだか……今日は運もいいみたいで、気づいたらこんなに……」
「あはは。もうクレーンの先生は穂乃香ちゃんに譲らなきゃだね。あ、そうそう。あっちに面白そうなゲーム入ってたんだ。行ってみない?」
「えぇ、行きましょう」
志保は、二人が移動をしたのを確認して、ゆっくりとクレーンの前へ進んだ
(えっと、杏奈と翼に教わったコツと、さっきの人のプレイを参考に……)
「あ……」
志保のイメージした一撃は、アームに引っかかりすらしない
「もうちょっと奥なのかしら」
「あ、今度はもう少し手前?」
「狙いどころが悪いのかな……?」
その後も志保なりに試行錯誤を続けるも、お目当てを取ることはできずにいた
「あー、遊んだね」
「ふふっ、そうですね。またレッスンに区切りが付いたら一緒に来ましょうね」
「もうレッスンのこと考えてるの? ほんと穂乃香ちゃん真面目だよね」
「忍ちゃんも十分すぎるくらい真面目じゃないですか。先週の夜だって……」
「え、何?」
「トレーナーさんが嬉しそうにお話してましたよ。『私が提示した以上のことをやる力がある』って」
「あ、あれは、だってさぁ? ……あ、あの子だ」
「あの子? あのクレーンの前にいる子ですか? お知り合い?」
「ううん。やっぱあの子空くの待ってたんじゃ……」
「なんだか、苦戦しているみたいですね……」
「何狙ってるんだろう」
「うーん……」
「行ってみる?」
「え? し、忍ちゃん?」
◆
(はぁ……。今ならゲームの前でうなだれてた琴葉さんの気持ちも分かるかも……)
「ねぇねぇ、何狙ってるの?」
「え、えっと、あの左にいるネコのぬいぐるみを……」
「あ、あの黒猫ちゃんか」
「そう、それです……。って、あなたは……?」
「もう、待ってるなら待ってるって言ってくれたら良かったのに」
「あ、いや、あの時は……」
「……ふぅ、忍ちゃんったら急に走るんだから……。あの、ごめんなさいね?」
「いえ、大丈夫です」
「穂乃香ちゃん、あの黒猫取りたいらしいんだけど、どうすればいいかな?」
「え、でも……」
「あ、あの、よかったら、お願いします……」
・
・
・
「いやー、取れて良かったね」
「はい。……あの、ありがとうございました」
「お手伝いできたのなら、良かったです」
「ん? その袋……」
「忍ちゃん? ……あっ」
「もしかして、今日劇場行ってた?」
「あ、はい。あ、お二人も観てたんですか?」
「ふふっ、そうなんです」
「私たち縁があるのかな。同じ劇を見た後にクレーンの前で再会なんて!」
◆
――都内・スーパー
「じゃぁ、お母さんはお魚とお野菜見てくるから、ここにいるのよ」
「はーい」
「お姉ちゃんと食べるお菓子、何がいいかなぁ」
(チョコ? ビスケット? マシュマロ?)
お菓子の棚を眺めながら、思案する弟の肩を誰かがトントンと叩く
「ん? お母さん?」
「やっほ!」
「あ、可奈さん! えっと、こんにちは」
「こんにちは! 今日はお買いもの?」
「そうだよ! お姉ちゃんの誕生会するから、その準備!」
「誕生会かあ。この前、事務所で一月の合同誕生会はあったけど本番だね!」
「うん……! あ、そうだ、可奈さん! お姉ちゃんが好きなお菓子知ってる?」
「志保ちゃんが好きなお菓子……! あっ、でも、ここにあるのかなー?」
「どんなの?」
「抹茶味の〜クリームサンド!」
「クリームサンド……」
「エミリーちゃんが持ってきてくれたんだけどね。志保ちゃんも美味しそうに食べてたんだー」
「そうなんだ!」
「よーし、お姉ちゃんと一緒に、探してみようか!」
「いいの?」
「もちろん! お菓子の森を〜探検だ〜♪」
◆
――商業施設内・カフェ
「「えー! 志保ちゃんって十四歳なのー?」」
「え、あ、はい」
「てっきり、同い年くらいかと……」
「私もです……」
「だって、身近にいる十四歳といえば……」
『闇に飲まれよ!』
『むーりぃー』
『しゃれとんしゃあ』
「あの、どうかしましたか?」
「ううん、ちょっとびっくりしてただけ」
「はぁ……」
「志保ちゃんは、今日はどの辺りで観ていたんですか?」
「えっと、二階の中央くらいのところでした。お二人は?」
「私たちは一階の右の方でしたね」
「それだけ違うと見え方も全然違ってきそうだね」
「あ、そういえば、住民が逃げ惑うシーンがあったじゃないですか」
「うんうん。あそこの火の表現、迫力すごかったよね」
「あれ、二階からだと仕掛けの一部が見えてしまっていたんです」
「そうだったんですか?」
「あちゃー、それちょっと残念だね」
「はい……。ただ、かなり大がかりなものだったのであの世界の一端を垣間見れた気もしました」
「あのセットを組み立てるだけでも大変な苦労があるのでしょうね」
「みんなで一つの舞台を作るんだもんね……」
・
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・
「あ、このシーンです。ここで俳優さんが跳ねた時、身体にバネが備わってるように綺麗で」
「同じです! 姿勢も美しくてまるで舞っているようでした」
(あれからパンフレットを開いて話し始めてしまった二人にすっかり置いていかれてしまった)
(志保ちゃんは演技にも熱心で、休みの日も練習を欠かさないらしい。穂乃香ちゃんと似てるとこあるのかな……)
「忍さん」
「忍ちゃん!」
「あ、アタシ?」
「ごめんね。楽しくなってしまって、つい……」
「すみません。その……」
「え、いいっていいって。それより、志保ちゃんは時間大丈夫?」
「はい。まだ、……あ、そろそろバスが」
「それなら、そろそろお開きにしようか」
「そうですね」
「あの、ありがとうございました」
「こちらこそ! あ、765プロとなら、そのうち何かで一緒になるかもね?」
「その時は、よろしくお願いしますね。そうだ……」
「?」
「765プロなら高坂海美さんって知ってますか?」
「あ、はい」
「海美さん。バレエ教室でちょっとだけ一緒だったことがあるんです。だから、よろしく、と伝えてもらってもいいですか?」
「……はい。伝えます」
(海美さん、バレエしてたことがあったんだ……)
・
・
・
「さて、アタシたちも帰ろうか。ぬいぐるみ袋持てる?」
「大丈夫ですよ。これくらいなら」
「あれ、一番上にあったヤツがいない……?」
「それなら、志保ちゃんに渡しました」
「え、布教したの?」
「そんなんじゃありません。カワイイって言ってくれましたから」
「ほんとに?」
「本当ですよ」
(ふーん。やっぱ似てるのかな?)
◆
――北沢家
「ただいま。遅くなって……」
「お姉ちゃん帰ってきたー! いくぞー! 成敗!」
「へ?」
「北沢流忍法! 猫の舞!」
「ふ、ふにゃ〜」
「お姉ちゃんが猫にならなくてもいいんだよ?」
「ほらほら、お姉ちゃん動けなくて困ってるでしょ?」
「はーい。セイバイバイ」
「ふふっ、あの子、作った付録で遊べるのずっと待ってたみたいだから」
「うん、分かってる」
「結構遅かったのね。ちゃんと遊んできた?」
「うん」
「それならよし! 荷物置いてきなさい。もうすぐご飯だから」
・
・
・
「お姉ちゃん! お誕生日おめでとう!あ、あれ……」
「ほら、ちゃんと引っ張って。顔向けちゃダメよ?」
「よ、よーし。エイッ!」
パーン
「ふふっ、ありがとう」
「ろうそく消して!」
フーッ
「わー、おめでとう!」
「もう、あの子ったら自分の誕生日よりはしゃいでるんじゃない?」
「うん……」
「僕からのプレゼントは、お菓子です。お姉ちゃん、一緒に食べようね!」
「はい、ありがとう。あら、これ……」
「ふふーん、お姉ちゃんが好きなものはお見通しなのだ。忍者だからね」
「志保、おめでとう」
「開けてもいい?」
「ええ、どうぞ」
「これ……」
「練習用のTシャツとタオルよ。あんまり無理しちゃダメだからね」
「うん……、ありがとう。ありがとう……」
「お姉ちゃんに何かあったら、僕がやっつけるからね!」
「ふふっ、頼もしいわね」
◆
――北沢家・自室
「ネコさん、お友だち連れてきたよ。仲良くしてあげてね」
「それから、ぴにゃこら太。これで、あなたにも仲間ができたわね」
(忍さん、穂乃香ゾーンがあるって言ってたっけ)
(私にもいつかそういう場所ができるのかな……なんてね)
(さあ、頑張ろう。月末公演なんてすぐにやってくるもの)
(お母さん、みんな、ありがとう)
おわり。ありがとうございました!
23:30│北沢志保