2015年10月31日

椎名法子「大人になったら」

モバマスSSです。書き溜めあります。短い…と思います。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444551100





――パクパク食べて遊んでばっかりだったけど、



   そろそろ誰かのために、

   ドーナツからもらったチカラを使わなきゃ。



P「はぁ……人間ってなんだろうな……生きるって、なんだろうな……」



法子「おはようございまーーす!あっ、プロデューサー、見て見て〜?今日発売されたばっかりの新作!おいしそうでしょ〜……ってなんか元気ないね?どしたの?」



P「おはよ、法子は今日も元気で良い事だな。まぁ俺のことは……放っといてくれていいからさ……」



法子「なんだよ〜……あ!もしかしてまたフラれたんだ〜。ドンマイ!」



P「ぐ……お前なぁ。もうちょっと傷心の人間には優しくだなぁ……」





法子「ショーシン?よくわかんないけど、そうやってヘコんでると幸せも逃げちゃうよ?プロデューサー、結構イケてるのにそんな顔してると女の人も逃げちゃうんじゃないかな?」



P「へ……イケてる?じゃ、じゃあ法子が大人になったら、お付き合いしてもいいな〜って思えるくらい俺、イケてる……?」



法子「えぇ〜〜何言ってんの〜?あたしにまでそんなこと言い出すなんて、相当弱ってるんだねぇ」



P「そう、弱ってるんだ。だから法子、俺にもっと優しくしてもいいんだぞ?」



法子「優しく、やさしく……うーん……あ!こんな時こそドーナツの出番だね!はいどうぞ!」



P「うん、法子ならそうくると思ったよね……」





法子「あ〜〜、こいつワンパターンだって思ったでしょ?!ドーナツはすごいんだよ!たっくさんの種類で何個食べても飽きが来ないんだよ!」



P「はいはいすごいすごい。ありがとよ。今日はレッスンだったな。そろそろ時間か?」



法子「あ、うん、行ってくるね!今日もレッスン頑張って、早くドーナツみたいにたっくさんの人を幸せにするアイドルになるんだ!じゃあね!」



P「……ふふ、賑やかなやつ……せっかくだしブレイクタイムとするか……」





 大人になったら、なんて言われても、いまのあたしには全然ピンとこない。



 だって、ドーナツ食べてるあたしは間違いなく幸せで。



 まだまだ少ないけどあたしを見て笑顔になってくれるファンと。



 ちょっと頼りないけどあたしのことをちゃんと見ててくれるプロデューサーがいる。



 これ以上幸せになったらきっとバチが当たっちゃうよ。



 だから、あたしに未来への希望が何かあるとすれば。



 今の甘い夢が、ずっと続くことなんだろうな。



P「〜♪〜〜♪」



法子「おはようございまーーす!あれ、プロデューサー、今日は上機嫌だね。うんうん、分かるよ。今日から100円セール始まったもんね♪あたしもたくさん買ってきちゃった!」



P「おはよ、ちげーよ。ンフフ……」



法子「だらしない顔〜〜。ますます女の人に逃げられちゃうよ?」



P「ふっふっふ……法子よ、その言葉はもはや俺には効かんぞ?」



法子「え〜どういうこと〜?…………あ、もしかして!……プロデューサー、男の人で妥協するのは、まだちょっと早いんじゃないかな……?」



P「ちげええええええええ!!!!!!!ほれ、見ろ!これ!プリクラなんか撮ったの何年ぶりかな〜!」





法子「あ、なるほど、彼女できたんだね!オメデト!」



P「うひひ、サンキュ!アタックし続けた甲斐があったってもんよ〜」



法子「幸せそうだね?じゃあこのドーナツはいらないかな?」



P「いや、せっかくだし貰っとく」



法子「そう?じゃあお祝いってことで……そうだなぁ、これにしよう。ハート色のストロベリー!」



P「オールドファッションのチョコをくれ」



法子「一個しかないからダメ〜」





 それからの毎日は、プロデューサーはとても幸せそうで。

 

 やっぱりドーナツが人を幸せにするチカラはホンモノだったんだね。すごい!



 あたしはまだまだ、ドーナツの足元にも及ばないなぁ。



 きっとプロデューサーは、あたしがわざわざ元気付けなくても、きっとずっと幸せだよね?



 だったらあたしは、アイドルとしてファンのみんなのためにがんばるよ!





P「よー法子、捗ってるか〜?これ、例のブツ」



法子「あ、プロデューサー。ごめんね、買ってきてもらっちゃって」



P「外回りのついでだし。コーヒー、飲む?」



法子「ウン、ありがとー……プロデューサー、最近張り切ってるよね」



P「ん?そう?自覚はないけど、そう見えるか?」



法子「うん、赤ちゃんが生まれた頃から、かな?家に帰るの遅くなってるみたいだけど、いいの?」



P「あぁ、それは……そうだな、可愛いかわいい愛しのベイビーが待ってるから、早く家に帰りたいって思う部分は確かにあるんだが……あ、昨日撮ったベストショット見てくれよ。ほら、ちょっと笑ってるように見えない?天使だわ〜」



法子「はいはい……うん、そうだね。とっても幸せそう……で?」





P「あ、うん。ほら、こういう安らかな寝顔とか見ちゃったらさ。あぁ、自分は父親なんだなーって、男なんだなーって実感?コイツを守るために生きてんだな〜もっと頑張んないとな〜って。分かる?」



法子「ふーん……あたしオトコじゃないからたぶん一生実感は湧かないだろうけど、まぁ言ってることはなんとなく分かる、かな?」



P「……法子も大人になって、いつかは母親になるだろうし、『守るべきものがある』って実感を得る日が来るんだろうな……まぁ、まだ先の話か」



法子「母親、かぁ……ううん、そーだよ!その前にアイドルでやりたいことまだまだいっぱいあるんだ!……あーでも目の前のコレもがんばらなきゃ……」



P「そうだぞ?空白の参考書そっちのけでドーナツ食ってる場合じゃないよな?」



法子「うう……あたしからドーナツを取り上げるのだけはご勘弁を……」



P「ははっ、本当、でかくなってもドーナツ好きなところは治んなかったなぁ」



法子「どこ見て言ってんの?セクハラだよ?プロデューサー」



P「濡れ衣だああああああああ!!!!!!!」





 無事志望の大学に受かっても、ドーナツみたいに甘い毎日はずっと続いてた。



 いつかのふと思った、未来への希望。そのとおりの未来。



 そのはずなのに、ボタンを掛け違えてるみたいな感覚。



 おかしいね。



 ちょっと思い出してみよう。えっと、何だっけな。



 確か、応援してくれるファンがいて、あたしのことを一番近くで見ててくれる人が――





 ――あぁ。



 そうだったんだ。



 プロデューサー。



 いつの間にかあたしの知らない幸せをつかんでたプロデューサー。



 本当は誰よりもあなたに、あたしのことを一番に見ていてほしかったんだね。





P「良かった、法子、良かった、本当に……」



法子「あーもうみっともないなぁ!ホラ鼻かんで!」



P「ず、ずまん……」



法子「サイッコーのステージありがとね、プロデューサー!お疲れさまっ!」



P「……法子は泣かないんだな。すげぇよ」



法子「湿っぽいのは好きじゃないんだよ。ドーナツの天敵だしね!ホラ、プロデューサーも、笑って?」



P「……あぁ、法子、お疲れ様!」



法子「いえーい!!えへへ……」





 ファンのみんなの満開の笑顔と涙に見送られながら、あたしの引退ライブは幕を閉じた。



 ドーナツからもらった幸せを、たっくさんの人に届けるあたしの使命が、終わったんだ。



 それと同時に、ピースの足りないふわふわとした甘い夢も、きっと終わりだ。



 これからは、自分だけの幸せを、きっと見つけるんだ!







P「……うう……」



法子「……」



P「……グスッ……」







 あれ?



 おかしいね?



 まだ、夢の中にいるのかな?



 引退ライブが終わってもう随分経つよ?



 プロデューサー、まだ泣いてるの?



 あたし、湿っぽいのはイヤだって言ったじゃん。





 ……ううん、分かってる、ごめんね。





 こんなに簡単に目の前からなくなっちゃう幸せがあるなんて知らなかったよ……





P「……っ……」



法子「……プロデューサー」ギュ



P「……の、りこ…………うぅ……すまん、また、泣く……」



法子「うん、いいよ……」





 まだ間に合うかな?



 あたし、この人を幸せにしたいんだ。



 大人になった今なら。



 ドーナツにも負けないくらい、たっくさんの幸せ、分けてあげられるかもしれないから。





 たった一人の、大切な人に。





12:30│椎名法子 
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