2015年12月07日

相葉夕美「失せ物探し?」

「おつかれさまでしたっ!」



大きく一礼をして、私はスタジオを後にした。

今日はファッション雑誌の撮影。今日のお仕事はこれで終わりだから、プロデューサーさんとお茶でも・・・と思ってたんだけど。

別の子のお仕事に付いていっちゃったし、今は私一人。



これからの予定を考えながら歩いていたら、見た事のある人が立っていた。



「あれは・・・芳乃ちゃん?」



撮影でさっきまで一緒だった子、依田芳乃ちゃん。不思議で柔らかな雰囲気の子。



「芳乃ちゃんっ!お疲れ様っ!」



「あらー、そなたは先程の撮影でいっしょのー。」



声をかけると、芳乃ちゃんは振り返って、のんびりとした口調でしゃべった



「相葉だよ、芳乃ちゃんっ。それにしてもどうしたの?こんな所で立って?」



芳乃ちゃんが立っていたのは何も無い廊下、プロデューサーさんを待っているような感じでは無いみたいだけど・・・



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446985530



「スタッフ殿のー、失せ物をさがしていましてー。」



「スタッフさんの失せ物?」



「はいー、カメラマン殿の横にいた方のー、失せ物でしてー。」



確かに今日の撮影、カメラマンさんの横で色々お手伝いをしていた女性が居た、

休憩時間に聞いた話だと、このスタジオの新入社員さんだとか。



「困っておいででしたのでー。失せ物探しはわたくしにお任せでしてー。」



「そうなんだー。・・・よしっ!私も手伝うよっ!」



「いえー、これはわたくしがお受けしましたものでありましてー、そなたの手を煩わせる訳にはー。」



「いいのっ!今日のお仕事は終わって暇だしっ!手は多い方がいいでしょう?」



芳乃ちゃんはしばらく悩んだ後、



「そなたの優しい提案をー、むげに断ることはー、気に良くないことでありましてー。ならばそなたに甘えようと思いましてー。」



「じゃぁ決定だねっ!がんばって見つけようっ!」



こうして、私と芳乃ちゃんの、失せ物探しが始まるのでした。

「とは言っても、心当たりはあるの?」



十数階もあるテレビ局程大きい建物という訳ではないけど、この建物には色々な撮影施設がある、

その上スタッフだから、倉庫や事務所等の私達が行かないような場所も含めると、

手探りでやるには日が暮れちゃいそうな広さではある。



「ある程度近くに居るのならー、失せ物の気を見つけることが出来るのでしてー。しかしまだ遠いのでしてー。」



気って言うのは良く解らないけど、要はどの部屋で無くしたかさえ解れば後は大丈夫って事だよね?



「芳乃ちゃんは、そのスタッフさんから何か心当たりとか聞いたりしてる?どんな物で、どこを歩いたとか?」



「その方の言う事にはー・・・」



芳乃ちゃんの話をまとめると、失せ物は小さい花のペンダント

あった記憶があるのは打ち合わせの前まで、

それからの行動は、事務所で別の仕事の書類のチェック、倉庫で小道具を探し、

私達が撮影したスタジオでのセッティング、失くしたと気付いたのが撮影中で、

プロフィールで失せ物探しが得意と書いている事を知ったスタッフさんが、撮影終了後芳乃ちゃんにお願いをした。

「という事は可能性としては、事務所か倉庫かスタジオのどこかって事だよね。」



「はいー、ですのでー、それらを調べていこうかとー。」



「やっぱり一番怪しいのは倉庫かな?でも部外者の私達が入っても大丈夫なのかな?」



「日中は鍵をかけず開きっぱなしで入れるそうでー、スタッフ殿からー、許可はいただいてあるのでしてー」



「それじゃぁ目的地は倉庫だねっ!」



私たちは倉庫に向けて歩き出した









歩きながら私はふと思った事を口に出した



「芳乃ちゃんって優しいんだねっ。」



「わたくしが優しいですかー?」



「うんっ!だって、いくら得意だとしても、今日会ったばかりの人を助けるなんて、優しくないと出来ないじゃない?」



「困っている人には力を貸しなさいというのがー、ばばさまのお言葉でしてー。」



ばばさま?おばあちゃんの事かな?芳乃ちゃんっておばあちゃん子だったんだ。

こんなにのんびりとおしゃべりするのはおばあちゃんの影響なのかな。

「・・・あれ?」



ふと気付くと、隣に居るはずの芳乃ちゃんが居なくなっていた。

慌てて振り向くと、少し後ろでぽつんと立っていた。

視線は、廊下の窓、その窓の先は・・・



「もみじがー色付いているのでしてー、ついつい足をー。」



全部とはいかないけど、半分くらい紅くなっている紅葉の木がそこにあった。



「本当だ、綺麗だねっ!」



「こうして赤い葉をみますとー秋を感じるのでしてー」



さっきまで探し物を見つけるぞ!と意気込んでいたのに、今度は秋を見つけて立ち止まったり

マイペースな芳乃ちゃんに、ついつい私も和んじゃう



「芳乃ちゃんって、マツバギクみたいだねっ。」



「はるしゃぎくー?菊の花にわたくしが似ているのでしてー?」



「松葉菊。菊って名前だけど菊の仲間では無いんだ。夏頃咲いて秋まで咲き続ける花で、『のんびり気分』って花言葉があるの。」



「のんびり気分ー、いい花言葉と思うのでしてー。」



「うん、芳乃ちゃんにぴったりな花言葉だと思って。・・・ってあれ?」



話をしている間に、目的地である倉庫を通り過ぎてしまっていた。

なんだか、私までのんびり気分になっちゃってるみたい。

そんな事を考えながら、私達は来た道を戻りだした。

「ここが倉庫かぁ。芳乃ちゃん、何かわかる?」



「まだ解りませんゆえー、やはり中に入ってからでなければー。」



「だよねー。それじゃぁ入ろっか!」



私は勢い良く、倉庫の扉を開けた。

中は倉庫らしい埃っぽさがあったが、整理されている。

床に落としたのならばすぐに見つかりそうではある。

見つかりそうではあるが・・・もし何かの箱に入ってしまった場合だと、

このそこそこ広い倉庫の沢山ある箱を探さないといけない



「こんなに沢山あったら、流石の芳乃ちゃんもたいへ・・・」



「そなたー、気が強い場所を見つけたのでしてー。」



「・・・ん、じゃなかったみたいだね。」



恐るべし、芳乃ちゃんパワー。



「この箱の中にー、失せ物の気を感じたのでしてー、しかしー・・・」



「まぁ、全部のダンボール探すよりは楽だけど・・・」



芳乃ちゃんが気を感じたと言ったのは、一つのダンボール箱。

外側に書かれた『小物類』という文字が、この中に色んな物が入っていますと言っている様に思えた。



「よしっ!それじゃぁあと一息がんばろっ!」



「はいー、がんばるのでしてー!」



声を上げながら、私達は小物の山を崩しにかかり、

ベゴニアの花を模したペンダントを見つけた時には、空は紅葉の様に赤く染まっていた。

「失せ物、見つかってよかったねっ!」



「はいー、スタッフ殿も喜んでおられたのでしてー」



ベゴニアのペンダントをスタッフさんに届け、何度も感謝をされた後、私達はスタジオを後にして歩いていた。



「大事なプレゼントだったようでー。」



「好きな人から貰ったものだって。ロマンチックだよねっ!」



「ですがー、スタッフ殿は想いを伝えられていないようでしてー。」



「でも大丈夫っ!きっと叶う恋だよっ!」



「なぜー、そなたはそう言い切れるのでしょうー?」



「それはね、あのペンダントに付いてたベゴニアの花には『片思い』って花言葉があるのっ。」



片思いの言葉を送ってきた相手、だからきっと二人は・・・



「でも、本当に芳乃ちゃんはすごいねっ!あの沢山あった倉庫から、見つけ出せるんだもの。」



「私が思うにー、そなたもまたー、すごいのでありましてー」

「そう?私は何にも出来なかったよ?」



「私を例えたりー、ペンダントの言葉に気付いたりー、そなたは色々出来たのでありましてー。」



「あれは、花が好きで、だから解かっただけだよ?」



「私にー、失せ物の声が聞こえるようにー、そなたもまたー、花の声がきこえるのでしてー。」



「・・・そうかー、そういう考え方もあるんだねっ!」



失せ物の声が聞こえる芳乃ちゃん、花の声が聞こえる私。

二人だったからこそ、この出来事はハッピーエンドを迎えそうなのかもしれない。



「ねぇ!芳乃ちゃんお腹すいてない?一緒にご飯食べに行かない?」



「おなかはへりましてー、ご一緒しましょうー」



「何たべよっか?秋だし、今日にピッタリだし、茄子とか食べに行こうよっ!」



「かまいませんがー、茄子が今日にピッタリとはー?」



「えへへっ!それはね、茄子の花の花言葉が・・・」









その、『よい語らい』の日に・・・









秋なので相葉夕美ちゃんと依田芳乃ちゃんのSSを書きました〜おわり〜



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