2016年01月20日

渋谷凛「ヤンデレがお好き」

ヤンデレ。

想い人のことが好きで好きでしょうがない状態。

好きで好きでしょうがないから、ついついなんでもやりすぎてしまう。

あの人と一緒にいるためなら、幸せになるためなら、誰かの命だって――



















P「結婚したのか、俺以外のヤツと」ハイライトオフ



凛「ひとりでなにしてるの?」



P「ヤンデレごっこ」



凛「ふーん」





凛「楽しい?」



P「全然」





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凛「じゃあなんでやってるの」



P「だって、頼んでも誰もヤンデレの真似してくれないし……仕方ないから自分でやってたんだ」



凛「そんなにヤンデレが好きなの?」



P「そうだなあ。男なら一度くらい、あれだけの愛情をひとりの女性から注がれたいもんだよ」



凛「邪魔者はみんな始末しておいたよ、みたいな?」



P「そこまで行くと現実でお付き合いするのは難しいな」



凛「じゃあ、邪魔者はみんな成敗しておいたよ、みたいなのは?」



P「さっきのと何が違うんだ」



凛「成敗って書くとかっこいいかなと思って」



P「上様系女子でも警察沙汰は困りますぞ」



凛「蒼の剣を受けよっ」ビシッ



P「ぐわあああやられたあああ」ガクッ



凛「プロデューサー、倒れる演技下手だね。おおげさすぎ」



P「仕事上必要ないスキルだから問題ない」



P「むしろこういうのは凛がドラマに出た時に求められるんじゃないだろうか」



凛「私?」



P「ああ。というわけでグサーッ!」ペシッ



凛「………!」



凛「……かはっ。ぁ……あ」



凛「そ、んな……わたし、は……絶対、いきのびて……」



凛「ゃだ……やだ……よ………」



バタッ





P「うまっ!」



凛「まあ、こんなものかな」ファサッ



P「………」





P「ところで俺達、なんの話してたんだっけ」



凛「え? えっと……やん……ヤンマガ?」



P「そうかヤンマガか。俺はヤンゴンかと思ってた」



凛「ヤンゴンって、ミャンマーの都市だよね」



P「そうだぞ。首都だ」



凛「あれ? 今の首都は違うところじゃなかったっけ。10年くらい前に変わったって習った気がする」



P「マジか。俺が習った時は普通にヤンゴンだったのに」



凛「うん。ところでプロデューサー、ミャンマーって10回言ってみてよ」



P「ミャンマーミャンマーミャンマーミャンミャーミャンマーミャンマーミャンマーマンマーマンミャーマンマミーヤ」



凛「最後ヤケになったよね」



P「間違えてやる気失くした」



凛「4回目くらいで早々にミスしてたけど」



P「まんま、まんま!」



凛「その歳で赤ちゃん言葉は気持ち悪い」



P「すいません」



智絵里「おはようございます」



凛「智絵里、おはよう」



P「おはよう。寒そうだな」



智絵里「はい……外、ほんとに寒いです」プルプル



凛「暖房、温度あげようか」



P「そうだな、頼む」



智絵里「ありがとうございます……ところで、何かお話ししていたんですか?」



P「うん。ヤンマガの話を」



智絵里「ヤンマガ……漫画ですよね。どんなお話を」



P「………そういえば、ヤンマガの何を話していたんだ?」



凛「うーん……もしかしたらヤンマガじゃなかったかもしれない」



P「じゃあなんだ。ヤンウェンリーか」



凛「それも違うと思う」



智絵里「……ひょっとして、ヤンデレ?」



P「ヤンデレ……ああ、それだ! 思い出した!」



凛「すごいね、智絵里。その場にいなかったのにわかるなんて」



智絵里「よくPさんがヤンデレの話をしてるから……えへへ」



P「えらいな智絵里は。なで」



凛「なでなで」



智絵里「り、凛ちゃん?」



凛「智絵里の頭は撫で心地がいいね」



智絵里「そ、そうかな……」



P「先を越された……今は俺が撫でる場面じゃなかったか?」



凛「そんなの関係ないよ。早い者勝ち」



P「く……智絵里、俺のほうが撫でるの上手だよな」



智絵里「えっ」



凛「私の手の方が気持ちいいんじゃない? どう、智絵里」



智絵里「え、えっ……?」



凛「どっち?」



P「どっちだ?」



智絵里「あ、あの……わたし」





智絵里「よくわかりませんっ」ポスッ



P「ヘルメットかぶって頭ガードしたぞ」



凛「なんでこんなところに安全第一のヘルメットが?」



P「コウジゲンバー」



智絵里「――つまり、Pさんは誰かにヤンデレの演技をしてほしい……ということですか?」



P「そうだ」



凛「まだ諦めてないんだ」



P「俺にデレデレの演技を見せるのが嫌なら、修羅場のシーンを演じてくれてもいいから」



智絵里「修羅場……?」







P「よーいスタート」







凛「あのさぁ……智絵里、はっきり言って邪魔なんだよね」



凛「『私の』プロデューサーに手を出さないでくれる?」



智絵里「……Pさんは、あなたのものじゃありません」



凛「ふーん……もしかして、わたしのモノ、なんて言うつもり?」



智絵里「いいえ……でも。凛ちゃんがそういう態度を取るのなら……奪い取らないと」



凛「奪う? あははっ……やれるものならやってみなよ」



智絵里「わたしは本気です……あの人のためなら、なんだって。なんだって、できてしまうんだから」



凛「……じっくり話し合う必要があるみたいだね」



智絵里「……そうだね」



凛「………」





凛「……駅前のマック」



智絵里「……うん」



凛「クーポンあるんだけど、いる?」



智絵里「ありがとう」



凛「こういう季節だとあったかいもの飲みたいよね」



智絵里「でもわたしはジュースがいいかな」



凛「へえ、そうなんだ」



智絵里「うん……子どもっぽいかな」



凛「そんなことないよ。かわいいと思う」



智絵里「そんな、かわいいだなんて……」テレテレ







P「カット」



凛「どうかした?」



P「どうかしたもあるか。なんで途中から完全に仲良し路線に切り替わってるんだ」



智絵里「……はっ」



凛「そういえば」



P「気づいてなかったのか……」





凛「やっぱり私達にヤンデレなんてできないよ」



智絵里「難しいですね……あはは」



P「そうか……ま、仕方ないよな」



P「じゃあ俺、ちょっと出かけてくるから。レッスン、忘れないように行くんだぞ」



凛「うん」



智絵里「わかりました」



P「いってきます」











凛「………」



智絵里「………」





P「……あ、しまった。肝心の資料を忘れていた」



P「急いで戻らないと」





P「……あれ。ドアが半開きだ。ちゃんと閉めてなかったのか――」







凛「プロデューサーに色目使うの、やめてくれない?」



智絵里「……それはこっちが言いたいことだよ」







P「……ん? 中から話し声が……」



凛「イライラするんだよね。プロデューサーの前ではいい子ぶって……まるで飼い主に媚びる犬みたい」



智絵里「……犬は凛ちゃんのほうだよね。いつもPさんの前で尻尾振って……」



凛「なに、邪魔とでも言いたいの」



智絵里「……さあ?」



凛「……ふーん」ジロ



智絵里「………」キッ









P「」



凛「智絵里がどんなこと考えているのかなんてどうでもいいけど……あの人は、渡さない」



凛「多少汚い手を使ったって、私のものにしてみせる」



智絵里「……多少?」



智絵里「ふふっ、あはは……多少、なんだ」



凛「……何がおかしいの」



智絵里「なーんだ、その程度の覚悟なんだ」



智絵里「わたしはなんでもするよ……本当に、なんでも」



智絵里「世の中のルールとか、そんなの知らない……わたしの想いを、邪魔する方が悪いんだから……くすっ」



凛「……プロデューサーが聞いたらどう思うだろうね」



智絵里「それはお互い様……だから、あの人がいる時は仲良しのふりしてるんだよ」



凛「プロデューサーには楽しい気持ちでいてほしいからね」



智絵里「ふふふ……」



凛「ふふっ……」









P「」



P「……な、なんだこれは」



P「俺はどうすれば……」



ガタッ







凛「! 誰かいるの!」







P「(しまった!?)」



P「ご、ごまかせないか……」







凛「プロデューサー……!」



P「や、やあ」



智絵里「……聞いていましたか」



P「え? き、聞いていたってなにを」



智絵里「質問に答えてください」キッ



P「うっ」



凛「私と智絵里の会話、聞こえてたの」



P「………」



P「……聞きました」



P「そ、その……わざとじゃないんだ。忘れ物を取りに来ただけで、盗み聞きするつもりは」



凛「ふーん。そうか、聞いちゃったんだ」



凛「どうするの、智絵里」



智絵里「ふふっ……どうもしないよ。いつかは、わたしの本当の気持ち、知ってもらわなくちゃダメかなって思ってたし……」



智絵里「それが、少し早まっただけだから……ね? Pさん」ニコッ



P「智絵里……凛……」



P「お、俺は……正直、まだどうしたらいいかわからない」



P「だが、二人には仲良くしてもらいたい! 俺自身もちゃんと向き合うから、だから」



凛「………」



智絵里「………」





凛「その必死の表情見たら、答えはなんとなくわかるけど」



P「……演技、だったのか」



智絵里「は、はい……さっきのやり取りは、うそです」



凛「智絵里は誰の前でもかわいいしね」



智絵里「も、もう、凛ちゃんってば……!」







P「……はぁ〜〜。マジでびびった」



凛「そんなんじゃ、本物のヤンデレ相手にしたら止められないよ?」



智絵里「わたし達のことを考えてくれているのは、伝わってくるけど……ね」



P「……え?」



凛「どう? 本物っぽい演技したけど、似てた?」



P「二人とも、演技が真に迫りすぎだろ……」





凛「と見せかけて本当は本当だよ」



P「まじ?」



凛「本当の本当は嘘だよ」



智絵里「本当を隠すための表で裏が本当で嘘は」



P「頭が痛くなってきた」



P「演技上手いんだから、びびらせるのはやめてくれよ……」



智絵里「えへへ。照れちゃいます……」



P「褒めてない褒めてない」





凛「それで、どうだった? ヤンデレごっこの感想は」



P「あ、ああ。ものすごく怖かった……背筋が震えっぱなしで」



P「いい体験だったけど、現実じゃ経験したくないと思ったな」



P「わざわざ俺のために演技してくれて、ありがとうな」



凛「そう」



智絵里「ど、どういたしまして……」





凛「じゃあ、これでプロデューサーへのクリスマスプレゼントは一足先に渡したね」



智絵里「がんばったね」



P「へ?」



凛「これでお金が浮いたから、そのぶん他のみんなへのプレゼントを奮発できるかな」



智絵里「そうだね……凛ちゃんへのプレゼントも、一生懸命考えるから」



P「あの」



凛「楽しみにしとく。あ、そろそろレッスン行こうか」



智絵里「うん」







P「ちょ、ちょっと待って! え、本当にプレゼント今ので終わりなのかー!?」



廊下





凛「ふふっ。プロデューサー、情けない声出してたね」



智絵里「い、いいのかな。嘘ついちゃって」



凛「嘘は言ってないよ。渡すプレゼントがひとつだけだなんて決まってないんだから」



智絵里「なるほど……」



凛「これで、私達からのプレゼントはサプライズになるかな」



智絵里「ちゃんと、考えないとね……日頃の感謝をこめて」



凛「智絵里は真面目だね」



智絵里「……でも、凛ちゃんも心をこめて選ぶんだよね?」



凛「……まあ、それはそうだけど。お世話になってるのは事実だし」



智絵里「ふふっ」



凛「……なに、その笑い」



智絵里「なんでもない、かな」







おしまい





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