2016年02月19日

まゆ「傀儡子の偏愛」




「と、言っても、僕付き合ってる彼女居るしね??」







 

プロデューサーさんのその台詞を聞いて、一瞬にして場は凍り付きました。



ここ346プロでは事務所の片隅にあるソファーで、

休憩中の社員さんやお暇なアイドル達がよく談笑しています。



そんな最中に始まった、年少の子供達の無邪気なコイバナの矢先が、

プロデューサーさんに向けられた時に、その悲劇は起こりました。





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「Pクンは好みのタイプの女子とかいるー??」

「どんな子を彼女にしたい?? 教えて教えてー!!」





子供達が、ソファーに腰掛けているプロデューサーさんに無邪気に纏わりついて、

矢継ぎ早に質問を投げかけています。





ちょっとお姉さん達と、大分お姉さん達が興味無い振りを装いながらも、内心は興味津々で聞き耳を立てていると、



「どんな子と付き合いたいって…、と、言っても、僕付き合ってる彼女居るしね??」



プロデューサーさんが何気なく発したその一言は、

周りのプロデューサーさんに好意を持つアイドル達のテンションを、どん底にまで蹴り落としました。



更にプロデューサーさんが、実はその彼女と同棲しているとカミングアウトした今に至っては、

その惨状たるや惨憺たるものです。



え〜、そんな人居るのー、と、素直に残念そうな声を上げる子供達はともかく、



瞳からハイライトが消えるを通り越して漆黒な人、

膝から崩れ落ちる人、

持ってたタブレットを落とし虚空を見つめる子、

取り憑かれた様にお菓子を口に運ぶ人、

謎の言語をブツブツ呟き始める人、

詰将棋で角が真っ直ぐに進む子、

一心不乱にスプーンを曲げる子、

四葉のクローバーを探しにフラフラと事務所から出て行く人、

一見変わりがないようで、その台詞を聞いてから読んでる本のページが一向に進んでない人、



絶望の反応は様々です。



その点、私、佐久間まゆは落ち着いたものです。





例えどんな障害が現れても、プロデューサーさんの運命はまゆに決まっているんですからぁ…♪





とは言え、放置していい問題でもありませんよねぇ…困りましたぁ。





うふふ、それにしても、私とプロデューサーさんの運命の間に割り込んだのはどこの泥棒猫なんでしょうか。

コレは速やかに排除しなくてはなりませんよねぇ。





待っててくださいね、プロデューサーさぁん♪





私はお気に入りのバッグの二重底に仕舞ってある、

布に包んだ出刃包丁を確認して、ニッコリと微笑みました。





そんな訳で、二月十四日、バレンタインデーの夜。早速行動に移すことにしました。

鉄は早い内に打て、って言いますものねぇ…??





今、私、佐久間まゆはプロデューサーさんの家の前に立っています。





泥棒猫と全ての決着を付ける為に。





今日と言う日に計画を実行に移したのには、少し訳があります。



血反吐を吐く思いで(実際、歯を食いしばる余りに、ちょっと血が出ちゃいました…♪)

プロデューサーさんから、泥棒猫との惚気話を幾つか聞いた所、

バレンタインデーの夜はプロデューサーさんの家で彼女と二人っきりで、手作りディナー&チョコらしいです。





…羨ましい…。



つまり今日は、泥棒猫の居場所は確実にプロデューサーさんの家に絞り込めるって訳です…♪





後はプロデューサーさんを家から誘い出してしまえば、泥棒猫は部屋に一人。





そして、プロデューサーさんは既に事務所のちひろさんの端末で、





『仕事でトラブルが起きた、至急、事務所の方に来てください』



と言う内容で、メールして呼び出してあります。





そんな訳で今現在、このプロデューサーさんの家に居るのは同居している泥棒猫だけって事ですね…♪





…ジックリとお話出来る訳です…♪



今のうちに二人だけで話し合って、穏便に別れてもらいましょう。

Pさんの運命はまゆだけの物なんですから…♪





もし別れてくれなければ…。 うふふ…。





当然、まゆは此処に来るまでに、誰一人にも見られてはいません。 





勿論目的は話し合いですけど、中で一体ナニが有るかは誰にも分かりませんからぁ…♪ うふふ…♪





そんな私のココロの中の、抑えきれないイケナイ思いが顔に出ていたんでしょうか?

家の前を通りすがった野良猫が私の顔を見ると、短く叫び声を上げて路地裏に跳んで逃げて行ってしまいました。





それを見て私は心を落ち着ける為に、自分の頬を両手でぺちぺちと叩きました。





イケないイケない、冷静にならないとダメですよねぇ…♪





私は含み笑いを抑えて、前もって用意してた合鍵を使いプロデューサーさんの家に侵入しました。



ダメですよぉ、プロデューサーさん。家の鍵を無造作にコートのポケットなんかに入れてちゃあ…。



今は駅前で五分もあれば合鍵つくれるんですよ??



まゆが彼女になったらこう言う所から、しっかりさせないと…♪



そう思いながら廊下を歩いてリビングに入ると、バラエティ番組を流しているテレビの前で

ロッキングチェアーに腰掛けているふんわりしたボブカットの女性の姿が目に入りました。





この人がプロデューサーさんの…(ギリッ)



背中をこちらに向けてるので顔は良く見えませんが、佇まいからすると、後ろ姿でも分かる相当の美人の様です。





呑まれない様に息を整えてから、彼女に声を掛けました。





「失礼します。私、プロデューサーさんの担当アイドルで佐久間まゆと言います。

貴方がプロデューサーさんの彼女さんですかぁ??」





と、声を掛けましたが、反応は無し。





なるほど、無視ですかぁ…。





それならこっちにも考えがありますよぉ??



「プロデューサーさんはまゆの運命の人なんですよぉ、横から奪うなんて酷いじゃないですかぁ…?

 お願いですから、別れて頂けませんかぁ??」





私は単刀直入に切り出し、彼女と対峙する為に彼女の視界斜め前に歩み寄ります。





顔を見てみるとやはり、相当の美人でした。





長身で整った容姿に左目の泣き黒子が印象的です。

右目が緑、左目が青のオッドアイは見ていると惹き込まれそうな魅力です。





この両目がプロデューサーさんを誑かしたんでしょうかぁ…!?





嫉妬の余り、その両目を抉り出してやりたい衝動に駆られた私は、

思わずバッグに仕舞っていた出刃包丁を取り出しました。





それでもなお、オッドアイの美しい瞳は動ぜず、依然テレビのモニターを見据えたままです。



「ちょ、ちょっとぉ、聞いてるんですかぁ??」





そのあまりに動じない反応に気圧された私は、痺れを切らして強めにグイッと女性の肩を掴むと、

自分の方に振り向かせる為に強く引き寄せました。





すると、なんと彼女の肩はボロッと崩れ落ちたのです。





しかも、上に載ってた頭が床に落下し、私の足元まで転がって来ました。





転がり落ちた生首の視線は、依然前を見据えたままに、私を見上げています。





あまりの恐怖に私はひぃっ、と短く叫び声を挙げ、床に座り込んでしまいました。

持って来た出刃包丁を震えながら両手で前に構え、落下した生首と涙目で睨み合っていると、

何だか違和感を感じてきました。





生首は、作り物めいた美しさを保ったまま、目を見開き続けていましたが、



よく見ると、それは作り物めいた、と言うか…



これは…まさか…





「……人形??」





女性は、精巧に出来た人形でした。

違和感の正体が判明しました。 道理で生気を感じさせない筈です。



恐る恐る人形の頭部を拾い上げて見てみると、髪はリアルな質感ですが、

オッドアイの目玉は、どうやら美しいガラス玉で作られている様です。



皮膚の材質は不明ですが、見た目の質感は肌そのものですが、

触るとカサカサに乾いていて崩れ落ちそうです。



と言うか、落下の衝撃で一部が崩れており、

そこからは言い訳の仕様もないくらいに、はみ出たウレタンらしき素材がコレが人形である事を主張しています。





私はため息をつき、ほっと一安心しました。





不思議なもので、全てにケリを付けるつもりで乗り込んできて、包丁まで用意し、

何が起きても動じない心構えでいたのですが、コレは流石に無理でした。





出合い頭に唐突に、バラバラ殺人らしき出来事に遭遇したら、

どんな人間でも、パニックにもなると言うものですよぉ…。

それにしても、この人形は一体なんなんでしょう。





手に持った人形の頭部を持ち、まじまじと見つめていると、何だか既視感を感じました。





この、オッドアイの美しい顔はどこかでみた事が有るような…。 



そう…、あれは数年前の…テレビ番組で見たアイドル…、

確か、高垣…、

記憶を辿っている最中、唐突に背後に人の気配を感じて振り向くと、

頭を何者かに鈍器の様な物で殴りつけられました。



そのあまりの衝撃で、私は床に転倒、そのまま意識は闇に沈んで行きました。





「こんな所にまで入ってきて…、イケない子だな…」





私は薄れ行く意識の中で、そんなプロデューサーさんの声を聞いたような気がしました……。



























ああ、目が覚めたかい―?

お早う、まゆ。済まないね、手荒な真似して。





手錠は痛くないかな?? 一応手首に布を巻いてるから、大丈夫だとは思うけれども。





ベッドの方は問題ないと思う。僕が毎日使ってるけど、いつも快適な寝心地を与えてくれる自慢の一品だよ。





まあ、担当のアイドルをベッドに手錠で縛り付けて、猿轡を噛ませているのが一番の問題かもしれないけれどね(笑)



さて…、何から話せばいいのかな…。 君も驚いたろう?? この人形。





彼女は高垣楓。僕の愛しの恋人だよ。





不思議な顔をしているね?  大丈夫、一から説明するよ。





彼女は、僕が新人の頃一番最初にプロデュースしたアイドルでね。





色々と試行錯誤、苦労もあったけど二人三脚、二人で頑張ってトップアイドルにまで上り詰めたんだ。





そして、名実ともにアイドルの頂点を決める大会で優勝した夜、楓は僕に好きだと告白してくれた。





一緒に苦楽を共にしてきたからか、いつの間にか好意を抱いてくれたらしい…。

この部屋の壁一面を埋め尽くす人形を見てごらん。



僕は人形コレクターの両親の影響で、子供の頃から人形を集めるのが趣味でね??





子供の頃は、その趣味を周りに気味悪がられて、良く虐められたものさ…。





そんな僕が初めて人間から好意を向けられたんだ! 嬉しかったよ!!





でも、僕は長年の虐めの影響か、人間を愛する事が出来ない。





酷い虐めを受けたからね…。どうやら人間不信になってしまったようで、

いつの間にか、人形しか愛せない、人形にしか興奮できない性癖になっていたんだ…。





僕は苦悩したよ…。 それでも、僕はどうにかして楓の愛に答えたかったからね…。





初めてこんな僕を愛してくれた女性だし、一緒に苦楽を共にした女性だ。大事にしたい。



それに彼女の事を、前から美しいとは思っていたからね。







それで僕は苦悩の果てに思いついたんだよ…。







『楓に人形になって貰えばいいんだ』ってね。



意味が解らないって顔をしているね??





簡単な事さ、楓をこの部屋に誘い込んでね。今の君の様にベッドに寝かせて、『人形』に作り替えたんだよ。





どうしたんだい?そんな顔をして。



安心して、何も可笑しい事じゃない。





楓は僕の愛によって、僕が愛するに相応しい存在へと昇華したんだ。



そうする事によって、彼女は僕に愛されるし、僕も彼女を愛してあげることが出来る。





問題は全て解決するじゃないか!! そうだろ!?

















………まゆ、君の愛も前から感じていたよ…。





君も愛してあげられない事を、僕は前々から心苦しく思っていたんだ…。





だから君も、



僕の愛を受けられる体にしてあげるね…。









………困ったな。





君達は僕が愛そうとすると、決まってそんな歪んだ顔になるんだね??





ああ、暴れないで、部品が傷んでしまうじゃないか。 



ん?? そう、部品だよ。





見てごらん、楓も使える部品は全部材料に使ったんだよ。



髪はもちろん、骨だって一本も無駄にはしていない。



皮膚は何しろ初めての経験だったから、防腐処理が上手くいかずに、崩れ易くなってしまったけどね(笑)



大丈夫だよ、もうコツは掴んだから。





まゆの時はもっと綺麗にやるよ、安心したかい??





ほら、見て。楓は美しいだろう? 君も、ちゃんとこう言う美しい顔にしてあげるからね。





君に、そんな涙と恐怖でゆがんだ顔は似合わないから…。





―さあ、おしゃべりはそろそろ終わりにしようか。

心配ない、痛みは無いよ?



この注射を首に刺して眠っていれば、次に目が覚めた時は、もう違う君になっているさ。





―さあ、まゆ。僕の愛を受け取っておくれ―















―おやすみ























「ただいま戻りました。」







私、千川ちひろが、事務仕事を片付けていると、外回りからプロデューサーさんが帰ってきました。



給湯室でお茶を入れて持って行き、



「謝罪回りお疲れさまでした。それで…、先方は納得して頂けました??」



私が不安そうに尋ねると、プロデューサーさんは、



「はい、大分嫌味は言われましたが、変わりにもうちのアイドルを使って頂けるそうですよ」



と、お茶を口に運びながら、苦笑して返事を返してくれました。



「ああ、それは良かったですねぇ」



私はホッと胸を撫で下ろしました。 今現在、少し我が社は大変な事になっているものですから…。



「それにしても…まゆちゃん急でしたね、アイドル辞めちゃうなんて…」



当社所属のアイドル、佐久間まゆちゃんが電撃引退したのは先日の事です。





その穴を埋める為に、この一か月、プロデューサーさんは走り回っています。



仕事をドタキャンする事になった謝罪、代わりのアイドルの売り込み、

新規アイドルのプロデュース、etc,etc…、本当にお疲れ様です。





まゆちゃんは先月、バレンタインデーの夜、仕事を終えると現在住んでる我が社の寮に帰る事無く、

突然実家に帰り、引退を宣言したそうです。



実家の方に説得に行ったプロデューサーさんの話によると、決意は固いらしく、

残念ですが諦めざるを得なかったようです。



プロデューサーさんによると、親御さんと本人の希望で、

痛くも無い腹を探られたくない、との事なのでファンの皆さんやマスコミには病気療養、

と届ける事にしたようです。





成程、コレならあまり煩く騒がれそうにはないですね。



辞めた理由は、大方の見当は付いています。





私の目の前に居るプロデューサーさんが、少し前にアイドルとの歓談中に、

彼女がいるとカミングアウトしたのが原因でしょう。





ショックの余り、と言う訳でしょうか…。





しかし、まゆちゃんがプロデューサーさんに一方ならぬ愛を向けていたのは周知の事実でしたが、

まさかこんな事になるとは思いも寄りませんでした。





あの交際宣言には、周りのアイドル達もそれなりにショックを受けていた様ですが、

まゆちゃんは失踪する程思い詰めていたとは…。



それに気付けなかった私は、マネージャー失格だったのかも知れませんね……。





私がそんな事を考えていると、プロデューサーさんが、



「やっぱり、僕が原因ですよね…、僕の配慮が足りなかったばかりに…申し訳ありません…」



と、肩を落として謝罪してきました。



私は慌てて、



「そんな事ないですよ!プロデューサーさんにだってプライベートはあるんですから!」



と、手をぶんぶん振りながら、答えました。



「ただ…、まゆちゃんの愛が重すぎたのが原因だったかもしれませんね…」



そう、彼女の愛と思い込みが激しいのは、プロデューサーさんに一目惚れして前のモデル事務所を

突然やめて、電撃移籍。 単身上京して来た事からも分かる事実。





しかし、アイドルとプロデューサーの恋なんて許される訳ありませんから、

この結末は最初から決定付けられていたのかも知れませんね…。





「時間を置いて冷静になってくれれば、きっと戻ってきてくれますよ……、ねっ??」



私は、願望を込めてそう言うと、

プロデューサーさんの肩にそっと手を置き慰める様にポン、と叩きました。



「そうでしょうか…」





それでも、プロデューサーさんは肩を落としたままなので、

私は強引に話題を変える事にしました。



ついでなので、気になってた事を聞いてしまいましょう。





「と、ところで、その後、原因となった女性との交際は順調ですか?」



すると、プロデューサーさんは悲しそうな顔をして、



「実は、色々あって壊れてしまいまして…」



と、更に肩を落としました。 





や、ヤバい。重ねて地雷を踏んだのかも知れません。



自分のあまりの不手際に、あわあわしてると、プロデューサーさんは、



「でも、大丈夫です。新しく彼女になってくれる人を見つけたんですよ。もうすぐ出来ますから。」



と、嬉しそうに笑顔で、そう答えてくれました。



「まあ!!もう次の方が??随分お盛んですねぇ!?」



私は、お道化てそう言って笑うと、プロデューサーさんもあはは、と笑ってくれました。



…良かった。





新しい恋を見つけていたプロデューサーさんが、幸せになれます様に。





私は心の底からそう願いました。















「……………………」



















私、渋谷凛は今、プロデューサーの家の前に居る。





私がプロデューサーに同棲してる彼女が居ると知ったのは先日、事務所での歓談中の事だった。





ショックだったよ。





何故か何の根拠も無く、私のプロデューサーは私だけの物だって錯覚してたから。



でもそうじゃなかったんだよね。





可笑しいよね、自分でもお笑い種だと思うよ。



そんな話を聞いて、ライバルだと思ってたまゆは、

どうやらプロデューサーの事を諦めてしまったらしく、アイドルも辞めてしまったらしい。





だけど、私はどうしても諦めきれずにいた。





そんな折、偶然事務所でちひろさんとプロデューサーの話を立ち聞いてしまった。





件の彼女との関係が壊れたって。 





一瞬、喜びに心臓が跳ね上がったけど、

もうすぐ彼女が出来そうだって風に話は続いて、ぬか喜びで終わった。





心臓が潰れそうに切なかったよ……。





そんな事があって、私はもう自分に抑えが効かない事を確信した。





ダメだよ、もう我慢できない。





そんな訳で強硬手段に打って出る事にしたんだ。





今日はホワイトデー。 特別そうな贈り物を抱えて家に帰宅するプロデューサーを尾行する。



どうやら家に居るんだね…その新しい彼女候補…。





この恋を成就させる訳にはいかない。

そう思った私は、急いで事務所に戻ってちひろさんの端末で、



『まゆちゃんらしき人物を○○警察署の方で保護した、との情報が入りました、至急確認へ向かって下さい』



ってメールを送った。



デタラメもいいトコだけど、アイドル思いのプロデューサーなら、女の人を置いてでも飛んで行くだろうと思う。





しばらくの間、時間さえ稼げればそれでいい。





その間に部屋の中に居る人と話し合おう。





話し合いですむなら良し。 







もしそうじゃないなら……。





前もって用意してた合鍵を使い、プロデューサーの家に侵入する。



ダメだよ、プロデューサー。家の鍵を無造作にコートのポケットなんかに入れてたら。



今は駅前で五分もあれば合鍵つくれるんだよ??





私が彼女になったら鍵の管理は、しっかりさせないとね。





そう思いながら廊下を歩いてリビングに入ると、

恋愛ドラマを流しているテレビの前で、ロッキングチェアーに腰掛けている

リボンの付いたカチューシャを付けてる女の子の姿が目に入った。





ふーん…この子がプロデューサーの…(ギリッ)



背中をこっちに向けてるから顔は良く見えないけど、佇まいから後ろ姿からでも分かる。

相当カワイイ子みたい。



呑まれない様に息を整えてから、その子に声を掛けた。



「失礼するね。私、プロデューサーの担当アイドルで渋谷凛って言うの。

あんたがプロデューサーの彼女??」





―反応がない。





私は、訝しんで一歩近寄ってみる。顔は見えないけど、この子の姿にどこか既視感を感じた。 





この子どこかで見た事…??



そう思ってると、その瞬間、後ろの方で人の気配を感じた。





何か人影が動いたような―









そう思い、私が振り向くとそこには、

暗い笑顔を浮かべているプロデューサーが、人形の腕を振り上げて立って居た―







(了)





20:30│佐久間まゆ 
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