2016年03月03日

時子「アァ? 法子のいるホテルで事件ですって?」

【モバマスSS】です


――――事務所

時子「はぁ……ちひろ、貴女からそんな冗談を聞くとは思わなかったわ。躾けるわよ」

ちひろ「いえ本当に冗談ではなくてですね、困ったことに……あぁ、今丁度テレビでも流れ始めました」

時子「チッ……まぁどうせ事件といってもそんな大したことでは」



TV『ここで速報です。現在、オランダのホテルで武装した集団による立て篭もり事件が発生したとの情報が入りました』

TV『現地警察がすでに動いており詳細は後ほどになると思われますが、独自に入手した情報によりますと、日本人宿泊客が巻き込まれたとの――』

時子「」

ちひろ「という感じなんです……」

時子「……感じなんですじゃないわ! なにをしているのよ、そもそもオランダってどういうことなの!?」

ちひろ「ほら、少し前に法子ちゃんが時子ちゃんを誘っていたお仕事があったじゃないですか。ドーナツの歴史を辿る特別番組があると」

時子「確かにそんなことに熱心に誘われ……まさか!?」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456829610



ちひろ「ええ、それで現在法子ちゃんはオランダに行っていまして……それで、泊まっているホテルが先程の事件があった場所ということに」

時子「っ……プロデューサーはなにをしているの、あの豚は! 一緒なんでしょう!?」

ちひろ「今回のお仕事は法子ちゃんと、時子ちゃんの代わりに有香ちゃんとゆかりちゃんが行っていまして、プロデューサーさんはその二人と一緒だそうです」

時子「な、なんでそこに法子もいないの!?」

ちひろ「電話で聞いたところ、どうやらホテルの喫茶店で仲良くなった店員の方からプレゼントを貰うことになっていたようでして」

時子「……なんとなく分かったわ、人に好かれることにおいては誰よりも天才なあの子のことよ。一人でそれを貰いに行ったのね」

ちひろ「はい、丁度別行動になった瞬間に襲撃があったらしく、プロデューサーさんは有香ちゃんとゆかりちゃんを連れて逃げるので精一杯だったと」

時子「なっ……そこは法子も救出に行くべきでしょう!? あの豚……!」

ちひろ「し、しかしですね、法子ちゃんがいたと思われるのは最初に武装集団が入ってきた一階で……プロデューサーさん達が泊まっていた5階から行くのは無理が」

時子「それでもちゃんとゆかり達は連れて逃げてるじゃない!? どうしてその逃げる時に法子も連れて行かなかったのよ!」

ちひろ「銃声を聞いた瞬間ゆかりちゃん達を抱きかかえて5階から飛び降りたので無理だったそうです」

時子「……無茶苦茶ね、でもそう。なら早く豚を突入させて法子を救出させなさい、今すぐ!」



ちひろ「で、ですが一緒にオランダに行った番組スタッフが人質になってしまったらしく、現地も混乱の極みで……その……」

時子「つまり今、豚がゆかり達の側を離れるわけにもいかなくなったと、そういうことね」

ちひろ「はい……まさか警備やスタッフの対応言語など、サービス体制が万全なホテルを選んだことが逆にこのようなことになるとは私も……」

時子「それで、今状況はどうなってるの。ニュースじゃさっきのこと以上は全然分からないじゃない」

ちひろ「あ、はい。襲撃があってすぐ現地警察や軍が動き始めたそうで、現在ホテルの周辺は厳戒態勢が」

時子「それより怪我人や死亡者は」

ちひろ「怪我人は出ているようですが、まだ今のところ奇跡的に死亡者は出ていないようだとプロデューサーさんが電話で」

時子「……そう」ホッ

ちひろ「でも油断は出来ない状況ですね、犯人側が捉えた人質の中には世界的に有名な実業家や資産家、またはその身内がいるようです」

ちひろ「犯人はそんな価値のある人質を盾に金銭と逃走手段を要求しています。今のところその要求が通ったという情報はありませんが……」

時子「このままだと要求を飲ませるために犯人側が価値のない人質を殺すこともありえると?」

ちひろ「というより、この状況が長くても半日続けば恐らく……」



時子「だったら尚更プロデューサーを突撃させなさい! あれはちょっと撃たれた程度で死ぬ豚じゃないでしょう!」

ちひろ「し、しかしこの状況でゆかりちゃん達の側からプロデューサーさんを引き離すのも危険でして!」

時子「アァ!? だったらこういう時のために貴女が用意している処理部隊でもなんでもいいから使って助けに行きなさい!」

ちひろ「処理部隊の仕事は主に隠蔽工作と事後処理ですから、武装集団が占拠しているホテルへの救出作戦なんてとても……!」

時子「だったら得意な子達に行かせたらどうなの!」

ちひろ「こ、こういったことを解決出来る亜季ちゃんやあやめちゃんやこずえちゃんみたいな子達が今間が悪く全員ロケの仕事に……!」

時子「もう! だったら貴女が行きなさいよちひろ!」

ちひろ「ここまで騒ぎが大きくなった事件に私が介入するとそれこそ後の情報操作が難しくてですねっ……!」

時子「じゃあ法子がどうなってもいいというの!?」

ちひろ「いいわけないじゃないですかっ!」ドンッ

ビシィイイイ!

時子「……分かったわ、そうよね、貴女は大事なアイドルが危険な目にあっていて落ち着いていられる人じゃなかったわね」チラッ

時子「でもだからこそ落ち着きなさい。怒りで床を踏み砕いてるわよ」



ちひろ「い、いけない……! あとで直さないと……」

時子「……あぁ、でも今ので少し冷静になれたわ。ええ、こんなところで喚いていても法子が助かるわけじゃない、むしろ事態は悪化するだけ」

時子「そして貴女が私にこのことを伝えてきたということは、つまり私の力を貸して欲しいということ。そうでしょう?」

ちひろ「その通りです。この事件に対して私が出来るのは、現地への即時の移動と情報収集と終わった後の隠蔽工作と情報操作くらいです。本来なら……」

時子「本来ならば、こういったことに直接介入する連中が全員今動けない。だから私がその連中に代わる人材を用意すればいいのね」

ちひろ「はい……不甲斐ないアシスタントで申し訳ありません。なんとお詫びすれば」

時子「謝るのは私ではなく法子達にしなさい、とびきり最高の謝罪をすることね。いいでしょう、今から私を含めて法子を救出する人員を用意するわ」

ちひろ「よろしくおねがいしま……え、時子ちゃんも行くつもりですか!?」

時子「……当然よ、心配はいらないわ。銃を持った相手は昔何度かお仕置きして私の豚にしてあげたことがあるのよ? クックック」

ちひろ「そ、それはすご……じゃなくてですね! 時子ちゃんもアイドルですからそんな危険な……!」

時子「さっき貴女が名前を上げた子達もアイドルのはずだけれど」

ちひろ「か、彼女達はその……銃の扱いが得意でしたり、ニンジャでしたり、宇宙人? だったり……」



時子「なら私は女王様よ、それで問題ないはず……というか、貴女が彼女達のことを言えた義理なの?」

ちひろ「し、しかしですね!」

時子「……今もこうしてあの子が」

ちひろ「?」

時子「法子が、危険な目にあって、不安な気持ちになっているのかもしれないのに……私が黙っていられるはずないでしょう!」ヒュパン

パシッ

ちひろ「なるほど、時子ちゃんの想いと実力は今の鞭捌きでよく分かりました。これなら問題なさそうですね」

時子「指で軽々と受け止めながらよく言う……ところで、今から救出する人員を集めるけれど、集合場所はこの事件現場のすぐ近くでいいわよね?」

ちひろ「もちろんです! 時子ちゃんの用意する人達は無理ですが、私達は今からすぐオランダに行けますので」

時子「そう、どうやるのかは……言わなくてもいいわ、分かってるから。そうね、タイムリミットが希望的に考えて半日後だとするなら……」ピッピッピッ

時子「……三時間以内に集まってもらうとしましょうか」プルルルル



――――1分後 アメリカ陸軍特殊部隊、作戦会議室

隊長「――以上が今度の合同訓練における我々の任務だ、質問がある者はいるか」

シーン

隊長「見事だ、一度で理解し覚えられるようになってきたようだな。現在の世界情勢は非常に不安定であり、その中で時間と情報は貴重だ」

隊長「我々が訓練を施す者達が善き正義の力となってくれるか否かは、我々の行動にかかっている! それを心に刻み――」

コンコン

通信係「失礼します、少佐! 会議中に申し訳ありません!」

隊長「どうした、緊急事態か!」

通信係「いえ、あの、少佐宛に電話が来ておりまして……」

隊長「誰からだ! こんな時に私に報告するからには、よほど重要な相手なのだろうな?」

通信係「そ、それが、相手は名乗らず……しかしこの緊急回線に繋いできたため無視する事もできず……」

ヒソヒソ

「なんだあいつ……」「空気読めよ……」「作戦会議中だぞ、それくらい確かめてから来るべきだろ」

ヒソヒソ

通信係「……申し訳ありません」

隊長「名乗らない相手だと……? 馬鹿者! 身元の分からぬ輩を相手にしていられるほど、私は今暇ではない! 悪いが、その相手には」



通信係「ま、待ってください! あ、相手は名乗りませんでしたが女性で、なぜか聞いていると逆らえない素晴らしい声ででこう仰っていました!」

通信係「『早く来い豚』そう伝えれば少佐は必ず電話に出られると! ブヒィ!」

ヒソヒソ

「なんだそれは、暗号か?」「馬鹿言うな……というか今アイツ豚の鳴きマネしなかったか?」「やばいな、イカれたか」

ヒソヒソ

副隊長「話になりませんね。隊長、ここは私が対応してきます。ですから貴方は隊員たちに」

隊長「……まだ……!」キラキラ

副隊長「……隊長?」

隊長「……ハッ!? あー、うむ、なんだったかな、そうだな、うむ。大尉、すまないが後を頼む、私は電話に出た後しばらく休暇を貰うぞ」

副隊長「了解し……は!? 隊長!? 今なんと言われましたかっ!?」

隊長「後は全て君に任せると言ったのだ! 二度も言わせるな!」

副隊長「そ、それは構いませんが……いや、待ってください、そんないきなり! どうして!?」

ザワザワ

「どういうことだ?」「隊長の様子が妙だな」「仕事の鬼みたいな人が休暇だと……!」

ザワザワ



隊長「分からないか、今、私に来ている電話はそれほど重大な、それこそ身内にも明かせられないほど重要な事態を連絡してきたということだ」

副隊長「……! それはまさか、だいと――」

隊長「それに、だ! 大尉、そろそろ君も隊長としての経験を積んで良い頃だ! そして諸君! 私が誇る最高の隊員たちよ!」

「「「ハッ!!」」」ビシッ

隊長「君達であれば、私がいなくとも大尉の元で任務を忠実に達成してくれると信じている! その力があると期待している!」

隊長「故に、次の任務は君達に全てを任せる! 問題はないな!」

「「「ありませんッ!」」」ビシッ

隊長「よろしい! では私はこれから別行動となる、大尉……後は任せたぞ」

副隊長「ハッ! ……隊長も、お気をつけて」

隊長「私を誰だと思っている。心配するな、任務が終わったら皆に一杯奢ると約束しよう! では通信係、電話の所に案内してくれ」

通信係「はい、こちらになります」

バタンッ

副隊長「……流石は我らが隊長だ。あの気迫、まだまだ私など足元にも及ばないな……皆、次の任務はあの人に恥ずかしくない結果を残すぞッ!」

「「「オオッー!」」」



――――数分後 ロシア連邦軍参謀本部情報総局、訓練室

教官「どうしたお前ら! 素手の俺一人に傷一つ負わせられないのか!? 床で寝るのが趣味なら帰っていいんだぞ!」

訓練生A「つ……ウオオオオ!!」ダッ

教官「後ろから攻撃するなら気合の叫びを出すな!」ヒュ! ドンッ

訓練生A「グガァッ……!」ドサッ

訓練生B「これなら……!」ブンッ

教官「拾った棒を武器にするなら正しい間合いを即座に判断しろ! それが出来なきゃ!」ダァン!

訓練生B「ギャッ!?」カラン ドサッ

教官「このように蹴りではんげ 訓練生C「ここだッ!」BANG! BANG!

教官「うむ、装填されているのがゴム弾とはいえ容赦なく銃撃してくるのは良い心がけだ……だが俺のアドバイスが終わってからにしろ!」ゴンッ!

訓練生C「ウゲェ……!」ドサッ

教官「まったくどいつもこいつも……! 残りはどうした! 来ないのか!」

ザワザワ

「おい、お前いけ……!」「や、やめろ! せめて同時に!」「誰が行ったって教官じゃ反応するだろ!」




教官「情けないぞお前ら! いいか、俺だって人間だ、どこかで隙を見せることはある! だがそれをそんな子供みたいに待ってるようじゃ」プルルル ピッ

教官「誰だ! この電話には緊急以外かけてくるなと――なっ、貴女様はまさか……っ!?」

訓練生A「教官の動きが……!」

訓練生B「止まった!?」

訓練生C「ゴホッ……今だ! 皆一斉にいくぞーッ!」

訓練生達「「「教官覚悟ーッ!!」」」ドドドッ

教官「やかましいっ!」ダダダンッ!

訓練生達「「「グワーッ!?」」」バタバタバタ

教官「……はい! い、いえ今の言葉は決して貴女様に言ったのでは……! はい……はい……分かりました、すぐに向かいます!」ピッ

教官「……すまないが、俺は新しい任務だ。よって本日からしばらくの間、訓練は中止! 各自俺の指示したトレーニングをしておけよ!」

訓練生A「う……うぐ……教官、呼び出しなんて、誰からですか……?」

教官「お前達ではまだ絶対に対面出来ない方とだけ言っておこう。さぁ、いつまでも寝っ転がってないで救護室に行けっ!」



訓練生B「あ、あと30秒経ったら……行きます……」

教官「本当にしっかりしろよお前達……まあいい、帰ってきたらちゃんとトレーニングしていたか確かめてやるから楽しみにしておけ、じゃあな!」ダダッ

訓練生C「ゲホッ……教官走って行きやがった……そんなに……ぐふっ……緊急の、用事だったのか……?」

訓練生D「俺……聞いたことあるぜ……イテテ、教官は、大統領とも結構親しい関係だって……」

訓練生E「おいおい、じゃああの感じ、今の電話相手って……!」

訓練生F「話し方からして間違いない……流石だ教官は、さっきも文字通り全員一蹴されたからな……」

訓練生A「悔しいな本当に……あの人、つえーよ」

訓練生B「だからこそ教わり甲斐がある、だろ?」

訓練生A「あぁ! だから、教官ががいない間に絶対一撃でも当てられるくらいには鍛えておかないとな!」

訓練生C「……その前に……救護室……行きたい……」バタリ



――――2分後 秘密情報部、長官室

諜報員「これが前回の任務の報告書です、長官」

長官「うむ、確かに。君のおかげで危険な商品を扱う闇組織をまた一つ潰すことが出来た、礼を言う」

諜報員「長官、そのような言葉は必要ありません。僕にとっては、当たり前のことをしているだけですから」

長官「他の者が聞いたら嫉妬と尊敬が渦巻く表情をするだろうな。ところで、いい加減休暇は取らないのか?」

諜報員「またその話ですか……何度も言っているじゃないですか、必要ないって。そして僕がこう言うと決まってあなたは」

長官・諜報員「「ならせめて昇格試験を受けろ」」

諜報員「ほら。もういい加減耳に穴が空きそうなくらい聞きましたよその言葉」

長官「むぅ……しかしだな、部署内からも君を心配する声や、そろそろ後進の育成に力を入れて欲しいという要望がだね」

諜報員「やめてくださいよ、半世紀近く生きていますが、個人的はまだまだ現役20代の感覚なんですから」

長官「見た目もな。だが私には君が無理していることくらい分かるぞ?」

諜報員「……まだまだいけますよ。それに、僕には約束がありますから、それを破って休むことは出来ません」



長官「君が昔、南フランスで出会った少女との約束か……だが、それを律儀に守る必要もないのではないかね?」

諜報員「それは僕に死ねと言っているのと同じですよ長官」

長官「大げさな……」

諜報員「大げさではありませんよ。あの子……いやあの方は、僕の生き方を変えてくれたんです。そんな人との約束は破れません」

長官「……まったく、君はそれさえなければ本当に素晴らしい諜報員なのだがなぁ。もっとこう、心配する人間の気持ちも」

ピピピッ

オペレーター『長官、そちらに諜報員はおられますか?』

長官「ああ、いるよ目の前に」

諜報員「やあオペレーター。君は今日も華やかだ、画面越しなのがとても残念だよ」

オペレーター『……ありがとうございます///』

長官「たらしめ」

諜報員「なにか?」



オペレーター『……コホン、諜報員に緊急連絡が入っています。貴方の端末に転送してもよろしいでしょうか?』

諜報員「僕宛に……? 長官」

長官「いや、私もそんな連絡が来るというのは聞いていない……誰からなんだ?」

オペレーター『それが相手は名乗られず諜報員に『可愛い豚』と伝えれば問題ないと、惹きつけられる女性の声でおっしゃられて……ああ///』ゾクソクッ

長官「なんだねそれは? 諜報員、君、なにか知って……」

諜報員「……まが呼んで下さっている! 長官!」

長官「な、なんだね?」

諜報員「先程の休暇の話ですが今から申請させて下さい! 期間は後で報告します! 僕ちょっと用事が出来ましたので!」ピピッ

長官「お、おい! そんな急に!」

諜報員「頼みましたよ! それでは! ……ああ、はい、僕です――」ダダッ

長官「まったくなんだいきなり……女性の声、あの様子……そうか、彼にもやっと春が……ハハッ! なら次はこの線で昇格試験を受けさせてみるか」



――――2時間30分後 オランダ、立て篭もり事件現場が見えるビル屋上

時子「……予定よりも早く集まるなんて、流石ね。出来る豚は好きよ」

隊長豚「もちろんです時子様!!」ビシッ

教官豚「我らは時子様の忠実なる豚!!」ビシッ

諜報員豚「呼ばれれば例えどこに居ようと貴女様の期待以上の早さで駆けつけますとも!!」ビシッ

時子「そう……でも、おかしいわね、私はまだ人間の言葉を喋っていいと許可した覚えはないわよ?」

豚一同「「「ブヒィイイイイ!!」」」

時子「謝らなくて結構。次に私が許可した時から人間の言葉で喋っていいわ、分かった?」

豚一同「「「ブヒッ!!」」」

時子「と、言うわけでちひろ。貴女の希望した人材……もとい豚材を用意してあげたわよ」

ちひろ「えぇ……」



時子「なに軽く引いてるの、貴女らしくない」

ちひろ「ですが、グリーンベレーの部隊長にスペツナズの教官、それにSISの諜報員を躾けてるとは、その、流石に予想外でして」

時子「私なら当然のことよ。これくらい出来なくて……私この豚達がどういう職業に就いてるか話をしたかしら……?」

ちひろ「そんなことより、これで法子ちゃん救出に必要な物は揃いました! あとは」

時子「ええ、命令するだけね。貴方達、良く聞きなさい。今、あそこで警察車両や人に囲まれたホテル、あそこを武装したゴミが占拠しているわ」

諜報員豚「ブヒブヒ! ブヒヒッ!」

時子「なに、諜報員豚。人間の言葉を使うことを許可するわ」ヒュパッ パァン

諜報員豚「ブヒィッ! ありがとございます! 敵の数と装備の内容、位置などは分かっているのでしょうか!」

時子「ちひろ、どうなの?」

ちひろ「武装集団の数は8。装備はH&K社のサブマシンガンを基本とし、爆発物や狙撃銃を持った者もいるようですね。当然防弾チョッキも着ています」ピッ

ちひろ「位置に関しては皆様が今お持ちの端末に転送したホテルの3D見取図に記載しています。確認してください」

教官豚「ブ、ブヒィ……」

ちひろ「なに、教官豚。話しなさい、許可するわ。あとついでになにか言いたげな隊長豚も一緒に」ヒュパッ パァン パァン



隊長豚「ブヒヒッ! ありがとうございます!」

教官豚「ブヒンッ! ありがとうございます! まず、そこの女はどうやって俺たちの端末情報を知った? それにこの情報は正しいのか?」

時子「私が信頼する事務所のアシスタントの情報に、なにか問題が?」

教官豚「いえ、ありません! 解決しました!」

隊長豚「見事な情報ですな! ところでこの見取図には人質の居場所まで書かれているがその中の【NORIKO】とは……?」

時子「……再優先救助対象よ、二階のレストランに捕らえられているその子を助けることが、今回の目的よ」

諜報員豚「ここに来るまでに調べてみましたが、あのホテルかなり世間に影響力のある方も何人か捕われているようですが、そちらは?」

時子「一応助けなさい。法子に死体を見せるわけにはいかないわ」

ちひろ「そうでなくても助けてもらえれば、後で色々とたの……コホン、融通が効くことになりそうなので、よろしくお願いします」

隊長豚「了解した! ……だが少しお待ち下さい、死体を見せるわけにはいかないというのはつまり……武装集団の物も、ですか?」

時子「その通り、理解のある豚にはちょっとだけご褒美よ」フゥー

隊長豚「あぁそんな耳に息などブヒヒヒヒッ!! ……なんて幸せ。しかし武装した相手を殺さずにですか……では弾丸を変更――」

時子「それと、今回のことに関して銃火器、刃物、そういった相手を出血させる物の使用は禁止」

教官豚「時子様!? 流石にそれは……!」



時子「あら、出来ないのかしら? 私としてはこれ以上法子に銃声を聞かせたくないし、血も見せたくないの、分かる?」

諜報員豚「……となると、使えるのは自ずとスタンガンのような物か、薬品か、もしくは」

教官豚「自分の肉体だけか。なるほど、こういうのも悪く無い」バシッ

ちひろ「あ、あと出来れば倒した相手をある程度一箇所に集めてくださると、後の情報操作が楽になるのでありがたいのですが」

隊長豚「なかなかに豪胆なお嬢さんだ、良いだろう。それも時子様のためになるのなら!」

諜報員豚「ホテルという密室空間で、敵を殺さず、血も流させず、銃声すらも起こさせずに人質を助ける……通常であれば不可能にも思える条件だが」

教官豚「時子様が我々を頼ってくれたのだ、やるぞ!」

時子「ええ、勿論そうして頂戴……もし、そうね、ちゃんと成功出来たなら、ご褒美に私の膝から下を気が済むまで舐めさせてあげるわ」

豚一同「「「我ら例え大悪魔が敵であろうと! 必ず人質を救い出します!」」」

ちひろ(本当に悪魔相手でもやりそうな気迫ですね……私も気をつけないと)

時子「頼もしいこと。その言葉、信じるわ。じゃあ行くわちひろ、後処理は任せるわよ。豚達! 私に続きなさい!」ダッ

豚一同「「「ブヒィッ!!」」」ダダッ



――――10分後 ホテル2階、レストラン

老人[う、うぅ……なんで、こんな……]

法子「お爺さん大丈夫? 元気だして! ドーナツあるから、ね? これ食べたら怖くなんてないよ!」スッ

老人[……なに、を?]キョトン

店員「ああ法子さん、その人には日本語通じてませんよ。私が代わりに伝えますから」

法子「お願い店員さん!」

店員[爺さん、あの子は『これを食べて元気を出して下さい』と言ってる。食べとけ、確かに気分が良くなるから。うちで作ったドーナツなのに不思議だよな]

老人[なんと……そういえばあの子、ここに連れてこられてからずっとあの調子で人と話していたな……]

店員[ああ、同じ日本人連中以外にはほとんど意味が伝わってないがな。それでもみんな、あの子の笑顔を見てドーナツを食べたら安心してるんだ]

法子「きゃっ! もー、だめだよ、もうドーナツはあげられないの! 我慢して、ね? その代わりあたしが遊んであげるから♪」

少女「???」ニコニコ サワサワ

法子「あ、違うの? 髪の毛気に入ったの? えへへ、時子さんにも褒められたくらいだからね! もっと触っていいよ!」

老人[気丈な子じゃの……銃を持った連中を見ているより遥かに気分が良くなるぞ]



店員[ああ、連中も最初はこっちを睨んでたが、あの子の振り撒く笑顔にやられたのかさっきから静かだしな]

老人[何者なんじゃ?]

店員[日本から来たアイドルだとさ。ドーナツが好きだとかで、うちの喫茶店のドーナツを食べてはころころ表情変えるものだから気になってな]

老人[なるほど……これに生き残れたら儂あの子のファンになってグッズとか買うぞ!]

店員[それ、ここにいるほとんどの奴が言ってたぜ。言ってなかった奴? もうファンになったってさ]

法子「ん? なんだか視線を感じる……あっ、さっきのお爺さんドーナツ食べてくれたんだ、良かった……」

法子(けどせっかくお土産に買ったドーナツほとんどなくなっちゃった……時子さんの分だけは絶対に残さないと!)グッ

法子「……うん、だから、まだドーナツが少しあるから大丈夫! こ、怖くなんてないんだから! アイドルは笑顔が大事だもん! ね♪」

少女「???」ニコニコ

テロリストA[――あー、くそ、あの子可愛いなさっきから。おかげで人質達の間に呑気な感じが広がってやがる]

テロリストB[だがおかげで要求が呑まれなかった時の見せしめで最初に殺す奴が決まって良かったじゃないか]

テロリストA[それなんだがよ……やめとかねえか? 可哀想っつうか、別に殺さなくても]



テロリストB[黙れ、大金が手に入ればあの手の子が買えるようになる。だったら必要な犠牲だ、そうだろう?]

テロリストA[そう、なんだがなぁ……せっかく今のところ誰も死んでないのに……なぁ]

テロリストB[……時間だ、交渉役の連中から、要求が呑まれたという連絡はまだ来てない……だからやるぞ]

少女「〜〜〜♪」サワサワ

法子「わー可愛い歌! なんていうお歌なの? 教えてほしいな!」

少女「……?」

法子「やっぱり伝わらないかー、ここはもう1回店員さんに」

テロリストB[立て]グイッ

法子「きゃ!? な、なに!? わわっ」

TVスタッフ「法子ちゃん!?」

法子「あ、あの……伝わってないかなって気はするけどなにし」

カチャ

法子「……え?」



店員[おいやめろその子になにをする気だ!!]

テロリストB[見ての通り今から殺す。恨むなら外の連中を恨めよ、たっぷり金を持ってるくせに俺たちに寄越しもしない連中に]

老人[そ、その子は関係ないじゃろ!」

[そうだやめろー!][お嬢ちゃん逃げてー!][このロリコンやろー!]

TVスタッフ「や、やめなさいその子に銃を向けると危ないですよ!」

テロリストB[なるほど、ならお前達から撃ち殺されるか?]スッ

[……][……][……]

TVスタッフ「ひぇ……」

法子(あ、あ、こ、これやっぱり、あたし、撃たれちゃうのかな……怖いよぉ……)ブルブル

法子(ま、待ってたらきっとプロデューサーが助けに来てくれるって思ったけど、やっぱり無理なのかな……駄目なのかな……)グスッ

テロリストB[今になって怖がり始めたか……いい顔だ、上の人質連中の身内が見たらきっと良い反応をする死体になりそうだ]

法子(せっかく、ドーナツことをいっぱい学べる番組に参加出来たのに……! 時子さん達へのお土産に美味しいドーナツも買ったのに……!)グスッ



テロリストA[っ……]

[やめろぉー!][撃つなー!][このロリコンがー!]

法子(やだ、やだよ……ゆかゆかやみちるちゃんやみんなと、またライブ……! プロデューサー! ……やだ、こんなの……! 助けて……!)グスッ

老人[あ、あぁ……]

テロリストB[じゃあなお嬢ちゃん]ググッ

法子「助けて……やだ……やだっ……!」グスッ

法子「助けて時子さんッ!!」



パァン!!


法子「……っ!! …………? あ、あれ、なんともない? どうし……て……え……?」

テロリストB[ガァアアアアア!?? な、なんだ、腕がいた――]

パァン! パァン!!

法子「この、音……よく聞いたら……! すごく安心するこの音……! で、でもだって……なんでっ!」グスッ

テロリストB[銃撃てな……ガッァ!? ギィ!?]

テロリストB「ブヒィイイイイ!!?」

「あら、豚より劣る畜生かと思っていたけれど、鳴き声だけは豚並ね? けれどその汚らわしい手で……いつまで法子に触っているのッ!!」ヒュパパッ

パパパッァアアン!!

豚未満テロリストB「ブヒイイイイヒヒンンンッ!!?」バターンッ



法子「時子さん!!」パァアアア

テロリストA[な、なんだ、誰だ貴様! どこから現れた! な、なんで鞭なんだ!?]

時子[この時子様に質問が多いわよオランダ語が話せるだけの豚より醜い劣等種。正面の入り口から入ってきた私を見ていないなんて哀れにも感じるわ]

テロリストA[なんだと……こ]

時子[そして鞭の理由はこうして遠くからでも躾けが出来るからよ!]ヒュパッ パァン

豚未満テロリストA「ブヒイイイイヒヒンンン!!」バタッ

法子「……あ、ああ時子さんだ……本物の……本物の! 時子さん!」ダダッ ギュッ 

時子「……ああ、法子、無事でよかった。来るのが遅くなって悪かったわ、貴女をこんなに怖がらせて……」ギュッ

法子「ドー、ナツが、あった、から平気、だもん! それに、時子さんがこうして来てくれたから! もう、怖くないもん! えへへっ……ぐすっ」ギュー!

時子「そう、流石ね法子。人質たちの様子を見ると貴女……くくっ、本当にすごいわ。でも、それで自分を危ない目に合わせるなんて駄目よ」ナデナデ

法子「……うん」ギュッ

時子「いつかも言ったと思うけど、貴女はもう少し危機感を持ちなさい。そうじゃないとまた」

法子「……時子さんがいるから、平気だもん……」ギュッ

時子「貴女ねぇ……まったく」ナデナデ



店員「あ、あの、あんた……いや、あの、法子ちゃんとはどういうご関係ですか?」

時子「アァン!?」キッ

店員「ブヒヒンッエ!? な、なんでもありません!」

時子「チッ……空気を読めない豚はこれだから……」ナデナデ

隊長豚「時子様! 他の階の制圧もかんりょ――これは……!」

教官豚「どうした、時子様になにか――おおっ……!」

諜報員豚「……なるほど、少女に抱きつかれ女神も霞む慈愛に満ちた美しい笑みを浮かべた時子様が見れる……ここが……天国!」

ヒュパパパァッン!

隊長豚「ブヒヒイン! ありがとうございます!」

教官豚「ブヒヒヒッ! ありがとうございます!」

諜報員豚「ブヒンヒイン! ありがとうございます!」

時子「今見ていることはすぐに忘れない今すぐに! ……法子、これ私も恥ずかしいからそろそろ離れなさい、一旦、お願いだから」

法子「ごめん、なさい……でも、本物の時子さん……だから……すごく安心して……なんだか、眠く…………」



時子「法子、法子……?」

法子「……スゥ……スゥ……」

時子「寝ちゃったわこの子……」

諜報員豚「相当緊張していた状態から一気に気が緩んだ影響でしょう、時子様に抱きしめられて眠れるなってうらやま……いえなんでも僕は豚です豚豚」

老人[あ、あんたらその子の知り合いか……? だ、だったら礼を言わせてくれ、その子のおかげで儂ら……!]

時子[お礼なら今この瞬間からこの椎名法子のファンになりなさい]

老人[もうなっとるとも!]

時子[よろしい]

法子「……んんっ……」モゾモゾ

時子「……チッ、このままじゃ法子が休めないわね。ちひろ!」

ちひろ「はい」スタッ

教官豚(この姉ちゃんどこから……!?)

ちひろ(上からですよ)ニコッ

教官豚(!?)



時子「後処理とかもう色々、あとは全部貴女の仕事だから任せるわよ。私はこのまま法子と日本に帰るわ……」

ちひろ「もちろん、プロデューサーさん達への説明なども含めてお任せ下さい。時子ちゃんの豚の皆様もありがとうございました」

豚一同「「「時子様の命令だからな!」」」

時子「あ、そうだ、貴方達へのご褒美だけれど」

隊長豚「いえ、もはやそれは不要です時子様」

教官豚「先ほど時子様がその法子という少女向けていた笑み」

諜報員豚「あれを見られただけで我ら豚にとってはこれまで得たどんな報酬も霞む伝説的な報酬でしたので!」

ヒュパパパァッン!!

豚一同「「「ありがとうございまブヒイイ!!」」」

時子「忘れ……いいわ、貴方達がいなければ法子も助けられなかったもの、だから今回だけはそれを覚えておくことを許可するわ」

豚一同「「「ありがたき幸せでブヒィ!!!」」」

時子「じゃあ三匹とも、解散。自由に休んだ後、自分のやるべきことをやりに行きなさい」

豚一同「「「ハッ! それでは時子様! また御用があればいつでもお呼びください! お元気で!!」」」ダダダダッ……



ちひろ「……時子ちゃんってすごいですね」

時子「あらちひろ、貴女もやっとそれに気付いたの? 様を付けて呼んでいいのよ?」

ちひろ「それは遠慮します。では、時子ちゃんと法子ちゃんには日本に戻ってもらいますが、正確な場所はどこにしますか?」

時子「そうね……法子が離れてくれそうにないし……」

法子「ん……とき……こ……さ……スゥ……スゥ……」ギューッ

時子「……仕方ないわね、私のマンションの……ベッドの上にして」

ちひろ「分かりました。では今から指を鳴らしますので、着地する感覚があるまでは目を閉じていて下さい」

時子「……毎回思うけど目を閉じる必要あるのかしら?」

ちひろ「二日酔いを数千倍にしたような酷い感覚が永遠に続く、といったのを味わいたいのでしたらご自由に」

時子「目をつむったほうがよさそうね」

ちひろ「ありがとうございます。では時子ちゃん、法子ちゃん、お疲れ様でした」パチンッ



――――翌日 時子のマンション、寝室

『昨日の立て篭もり事件についての続報です。現地警察の尽力により素早い幕引きとなった今回の事件では奇跡的に死亡者が出ず――』

『首謀者達は全員同じ映画同好会のメンバーで、集団で薬物を使用しそれにより映画のような出来事を引き起こそうと暴走したのがきっかけだと――』

『武装集団は薬物の、人質となっていた宿泊客達は事件の衝撃の影響からか証言が曖昧な点もあり、事態解明にはもう少し時間がかかるものと――』

法子(……おと、が)フニュ

法子(あと、なんだか、すっごく柔らかい……気持ちいいなぁ……なんだろ、えへへ)フニュフニュ

法子(なんだか、すごい夢見ちゃったな……怖い人達がやってきて、それを時子さんがかっこよくやっつけてくれて……それで……あれ?)フニュフニュ

法子(そういえば、なんだか時子さんの匂いがする……? それに、この柔らかなの、触り覚えがあるような……)フニュフニュ

時子「……私の身体が気持ちいいのは当たり前のことだけど、流石にこれ以上揉むのなら怒るわよ法子。起きてるのなら」

法子「……時子さんの声? あれ、でも、あれは夢で……ゆ――わーっ!?」ガバッ 

時子「おはよう法子。いえ、もう昼だからこんにちはかしら? どちらにしても間抜けな寝顔を堪能させてもらったわよ」

法子「と、時子さん!? な、なんで、あれ、だって夢じゃ……ない、んだね……それで、やっぱり時子さんが助けてくれて、ここは?」



時子「私の家よ。貴女があの後離してくれなったから、こうして着替えも出来ずにベッドで眠る羽目になったの忘れたのかしら?」

法子「そう、だった……時子さんが来てくれてすごく嬉しくて……覚えてるの、それだけで……そうだ! ゆかゆか達は大丈夫っ!?」

時子「ええ、今無事に帰国中よ。ちひろが上手くやったようで、貴女達がオランダに行った記録はなく、立て篭もり事件に遭った事実はなくなった」

時子「代わりに番組は中止になったそうよ。そのことは貴女には残念かもしれないけれど、ご両親を心配させることもないわ。安心しなさい」

法子「良かった……でも、そっか……番組、だめなのかぁ……まだ色々、ドーナツのこと知りたかったのに……」ションボリ

時子「貴女ならいくらでもまた機会があるはずよ。今回のことは、少し貴重な経験をした程度で納得しておくといいわ」

法子「はーい……そういえば、時子さんすごかったね! あんなにかっこ良くて、それで……そういえば、どうやって日本に戻ってきたんだろう?」

時子「私がそう決めたからよ、貴女と一緒に日本に戻ると。それで理由は十分」

法子「……えへへ、時子さんらしいや♪ そうだね、あたしじゃ全然分からないすごいことを時子さんがしたって分かってればいいんだよね!」

時子「その通りよ。法子は理解が早くて助かるわ」

法子「ありがとっ! あ! あとそれ! 時子さんの側にある箱! お土産! あたしちゃんと持って帰ったんだ!」ポフッ

時子「ええ、私に抱きつくのと同じくらいしっかり握りしめてね……ってちょっと、なんでまた私の膝を枕にしてるの、駄目よ、起きなさい」



法子「……もうちょっとだけ時子さんに。やっぱり、まだちょっとだけ、怖いから……お願いっ」

時子「……仕方ないわね。私が一緒についていかなかったのが悪かったのだから……でも、今回だけよ?」

法子「うん……♪ それでね時子さん、この箱の中には時子さんへのお土産があったんだけど……」ゴソゴソ

時子「ドーナツが一個しか入ってないわね。あとはどうしたの?」

法子「一緒に捕まった人たちを励ますために渡してたらもうこれだけしか残らなくて……ごめんな――」

時子「謝らなくていいわ。貴女は正しいことをした、そのための結果がこれならむしろ誇りなさい。貴女を慕うファンも増えたのだから」ナデナデ

法子「時子さん……やっぱり優しいね! だから、これ、はい! 時子さんへのお土産、食べてっ! すごく美味しいドーナツだから!」スッ

時子「……そうね、いただくわ。貴女に抱きつかれてから枕元においていた水以外何も口にしていないもの。丁度」

ググゥ〜

時子「……法子?」

法子「え、えへへ……あたしもお腹空いた……で、でもそれは時子さんのドーナツだから我慢するもんっ!」ジーッ



時子「まったく」モギッ

法子「あ、半分……くれるの時子さん?」

時子「そんな物欲しそうな顔の貴女に見つめられたままだと食べづらいわ。だからよ、それだけよ、分かったわね?」

法子「そ、そんな顔してたんだあたし……恥ずかしいや……でもありがと時子さん! はぐっ……もぐもぐ……美味しい♪」

時子「ええ、美味しいわねこれ。さすがは法子といったところかしら」モグモグ

法子「えへへー♪」モグモグ

時子「……小動物みたいね今の貴女。さ、これを食べ終わったらいい加減起きてシャワー浴びてきなさい。私も浴びたら出掛けるわよ」

法子「え、お仕事に……?」

時子「休みに決まってるでしょう? しばらく法子は休養しないと駄目……だからその、出掛けるというのは、買い物によ」

法子「時子さんと一緒に……!?」

時子「嫌かしら? 豚……つまりプロデューサー達が戻ってくるまでは、私が貴女に付き添うことになったの。つまり何をするにも私が決めて」

法子「やったーっ! 時子さんと一緒にお休みだーっ♪ 分かった、急いでシャワー浴びてくるね!」トンッ



時子「ああこら話をちゃんと……もう! シャワールームは扉を出て左よ、着替えやタオルは置いてるのを好きに使いなさい」

法子「はーい♪ ……ねぇ時子さん!」

時子「なによ」

法子「助けに来てくれて本当に嬉しかった! やっぱり時子さんってステキだねっ!」ニコッ

時子「っ……当然のことをしたまでよ、良い? 下僕の面倒を見るのも私の役目でそれはつまり」

法子「シャワー浴びてきまーす♪」タタッ

時子「だからもう! ……くくっ……ああでもやっぱり、あの調子の法子がいないと本当に退屈しないわね……助けられて良かったわ」ニコォ

法子「――あ、時子さん脱いだ服ってどこに」ヒョイ

時子「洗濯機に入れておきなさい!」

〈終〉

20:30│財前時子 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: