2014年04月22日
モバP「雪とキノコ」
・モバマスSSです
・星輝子しかアイドルは出ません
・時系列的には二月の大雪の日の出来事だと思って下さい
・星輝子しかアイドルは出ません
・時系列的には二月の大雪の日の出来事だと思って下さい
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しんしんと雪が降る、夜10時の事務所
モバP「二週連続で雪かあ… はあ、週末にかかるってだけが救いだなあ」
モバP「もしもしちひろさんですか…?はい、アイドルは全員返しました。俺は残っていきますね」
この雪だ。どうせ電車はストップしているし、明日の朝の出勤が至ってダルい。アイドル達は土曜は休みだが、あいにくプロデューサー業が土曜日も仕事が入っている。
なので、このまま事務所に泊まってしまおうという訳だ。
モバP「ふう…」
一通り事務仕事を終え、コーヒーでブレイクする。
静かだ
普段はこの時間であっても外の通りには自動車が煌めく。その為雑音が途切れることはないのだが、今日は車組は早々に帰宅しているらしい。外は白銀に覆われ、動くものは降り落ちる雪とまばらな傘。
聞こえてくる音と言えば、コーヒーメーカーのポコポコという小気味よい音と、机の下からのフフフフ、という不気味な声だけである
…ん?
不気味な声?
モバP「輝子!!??いるのか!?」
机の下からにじりにじりと這いより出てきたのが我らがアイドル星輝子
輝子「いる…いますよー…ずっといましたよ…フヒ」
何てこった。全く気付かなった
モバP「おいおいもう10時だぞ?帰りはどうするんだ」
輝子「え…ま、まだ終電はあるはず…」
無言で窓の外を指さす
輝子「あ…」
瞬間、絶望的な表情になる輝子。
相変わらずのマイペース。だが、そこが可愛い。
しかし問題は、この雪でタクシーも来れないことだ。つまり陸の孤島なわけで、物理的に詰んでいる。
輝子「あ、歩いて帰るから…フヒ…グスン…」
涙ぐんでる。可愛い
モバP「却下だ。」
確か徒歩だと2時間がかかる。そんなことをしたら風邪をひくし、綺麗な銀髪がエノキダケ色になってしまうだろう
モバP「しょうがない。今晩は事務所に泊まっていけ。幸い俺も泊まるから食料やアメニティはバッチリだ」
正確には風呂はないのだが、輝子の性格からしてそれは大した問題ではないだろう。まあそれもそれでアイドルとしてどうなんだろう。
因みにちゃんと言いつけないと週末明けの輝子は大抵匂う。オガクズとキノコの匂いでちょっとした森林浴が出来る。頭を払うとフケならぬ胞子が落ちてくる。
気まずそうに胞子をパラパラと払う姿は妖精そのものであり、匂いにつられて抱きしめる感情が抑えきれなくなるので普段は風呂にはきちんと入ってもらっている。
輝子「わ、わかった…他の人は…?」
モバP「いや、俺とお前の二人きりだ。まあ俺がいて良かったよ。俺がいなけりゃ暖房も止まって凍えてしまう所だったな」
輝子「ふ、ふたりきり・・・・」
輝子「親友と・・・二人きりで・・・お泊り・・・」
耀子「フ…」
耀子「フフフ・・」
輝子(特訓後)「ヒャッハーーー!!!!ゴートゥーヘベン!!!」
モバP「何が可笑しいッ!!!」
チョップ。
輝子(特訓前)「あう…ご、ごめんなさい…」
輝子「友達と…お泊りって初めてだから…つい…フヒ」
モバP「ま、気持ちはわかるが、ここは事務所だから騒いじゃダメだぞ」
輝子「はーい」
? 口調が変だ。まだちょっと抜け切れてないようだ。
〜なんやかんや〜
モバP「電気消すぞーー」
輝子「オーケー…」
パチッ
暗闇の帳が降りる。
既にソファーの上で丸くなっていた輝子を後目に、自分も寝袋へと潜る。
隣ではまだゴソゴソと音がする。多分こっそり持ち込んだキノコに霧吹きをしているのだろう。
夕食の時、インスタントの鍋焼きうどんを食べたのだが、鍋に入れるキノコの講釈を存分にして得意気ご満悦の輝子を、ちょいと生意気だとからかってほっぺたをうにょーんとしたり、それへの反応で「ぬー」と不服そうな表情をしたのだがそれが余りにも可愛くて吐きそうになったり、その後の歯磨きが見ていたらどうにもへたくそなのでいいよいいよと拒む輝子を押さえつけては歯磨きを丹念にしてあげたりとか色々あったのだが、明日も早い。さっさと寝るに限るだろう。
事務所の音という音、光という光が消え、外の風景と同化し、動くものは窓の外の未だ止みそうにない雪だけとなった。
少し後、声が聞こえた
輝子「ね、プロデューサー。見て」
モバP「ん?」
振り返るとそこには緑色に淡く発光する物体があった
モバP「へえ、ヒカリダケか」
特に造形の深くない俺でも知っているキノコだった。
輝子「よ、良く知っている…流石は私のプロデューサー…フフフ…」
自慢げな輝子。淡い光に照らされたそのドヤ顔はホラー映画に出ても全く違和感がない。
輝子「これ、日頃のお世話と…今日の寝食のお礼に…上げる」
モバP「お、おお? ありがとうな」
日頃の世話…ね…
受け取ったキノコをぼんやりと眺めながら、ふと今まで思い出を想起していた。
モバP「なあ輝子。アイドルになって、良かったか?」
輝子「えっ…?」
うーん、と輝子は唸る。
輝子「そ、そりゃ楽しいよ…今まで好きな恰好(※特訓後のパンクファッション)したら周りに変な目で見られたけど…アイドルになってライブをしたらそれがとても褒められて…すごく嬉しかった…」
輝子「キノコ以外の友達も少しずつできた気がするし…親友なんて初めてできたし…」
輝子「で、でもこの前みたいなカワイイ?恰好をして踊るのは…まだ苦手かな…フヒヒ…」(※あやしい少女特訓後)
モバP「そっか」
相槌をしつつ、思考は宙を彷徨う。
この子のプロデュースについてだ。
一体俺はこの子をどうしたいんだろうな。
プロデュースしたその先に何があるんだろうか。
初めて会った時のことを思い出す。
あれは運命的な出会いだった。人生で最高峰の、衝撃だった。落雷に打たれるなんてものではない。天が丸ごと頭上にぶつかったようだった。
彼女は、独りだった。そして、高潔だった。
齢15にして、彼女の感性は超然としたものがあり、その他一切の俗世的な感情から切り離されているように感じた。
周りの奇異に映る目を自覚しながらも、自分の感性に偽ることを全くせず、あくまで自分の好きなことを貫く。これがどれ程難しいことか。
そして当然その代償として、彼女は独りだった。
その状況を客観的に知りながらも自虐として昇華する強さが彼女にはあった。
この儚い、大の男の俺が本気で押したら壊れてしまいそうな華奢な体には、信じられない程の情熱が秘められていた。
だから彼女をスカウトすることに迷いは一切無かった。
そして、彼女もやはり迷わずに申し出を受けた。必然だったのだ。
だが、俺には一抹の疑問がずっと根底にあった。
もしかしたら、キノコが好きだから一人なのではなく、一人だからキノコを好きになったのではないか?
もしかしたら、本当は15らしい少女としての幸せを望んでいて、それの代替物と逃避の結晶として彼女の人格を作りあげたのではないだろうか?
そう、俺は彼女にごく「フツウの」女の子としての喜びを彼女に知って欲しかった。
女に生まれて手に入れることの出来る快楽という快楽を味あわせ、その上で「本当に君はキノコとパンクが好きなのか?」と問うてやりたかった。
彼女に拒否されたかったのだ。
「アイドルもいいけど、やっぱりキノコは友達だ」と
そうして、初めて彼女を本物にしてあげることができる。
逆に、輝子が(幸子辺りの影響で)オシャレに目覚め、恋愛をサーキュレーションする音楽に傾倒するようになって、思春期の一過性の病としてキノコをカテゴライズして封印したとしてもそれはそれで構わなかった。
それが彼女の幸せなら俺は全力で応援するのみだし、ある意味でプロデュースした甲斐があるというものだ。
輝子は可愛い。本当に可愛い。
どんな境遇でも絶やさない笑顔(フヒ顔?)。ぼさぼさで伸び放題の髪。でもちょっとはオシャレした方がいいかなと、せめてもの女性らしさの現れとしての片三つ編み。大量生産品でしかないだぼだぼのシャツ。その袖からちょこんと覗く小さな手。無防備にすらりと伸びた不健康そうな白い足。シャツが薄いためによく浮き出る肩の小ささ、その鎖骨。
ほんのりと赤みを帯びた頬と、自信ない癖に何故か自信たっぷりに見上げてくるその瞳。
全てに気が狂いそうになる。
だから、大事なのは選択。それをさせることが、出会ってしまった俺の使命・意義なのだろう。
モバP「輝子」
輝子「…ハッ… な、なぁにぃ…」
起こしてしまったかな。
モバP「これからも、よろしくな」
輝子「…???」
輝子「ま、任せろ、親友。」
そうして、夜は更けていった
おわり
23:30│星輝子