2016年03月24日

今井加奈「秘密のピアノ練習」

1月13日。加奈の所属する高校の学級会。

3月に行われる予餞会で、加奈のクラスは合唱を披露することが決まっていた。



学級委員(女子)「…で、この曲の伴奏どうする?」





男子「え、ピアノは今井ができるんじゃないの」



女子「そうだ、この前の舞台で弾いたよね!」

※昨夏の青春公演はクラス全員で押しかけています



加奈「えへ…ちょっとだけだったけどね」



学級委員「でも、他に出来る人いないんだよね…そこまで難しくないから、なんとかならない?」



加奈(どうしよう……ピアノ伴奏なんて小学校のとき1回やっただけだし。まあ準備に2ヶ月くらいかけられるから…)



加奈「…うん、いいよ。私やります!」



学級委員「ごめんね。2週間前で無理なのわかったら言ってね。対策考えるから」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457017735



1月20日、終業後

加奈(ピアノの話を受けて一週間経ったけど、全然家で練習できてないや……思ったより忙しい)



加奈(前より仕事も多くなったせいだから嬉しいんだけど困ったな。家での勉強時間が取れなくなるのもよくないし)



加奈(どうしよう……って考えてるうちに事務所着いちゃった)



(ぼーっとフロアガイドを眺める)

加奈(…あっそうだ、ピアノ室があったんだった!)



加奈(でもレッスンじゃなくて普通に使うのはどうすればいいんだっけ?…事務所の施設用のメモを……っと)

※レッスンは専用の時間帯が設けられていて、それ以外の時間帯は予約すれば誰でも使用可能。社内の福利厚生の意味合いもある



加奈(そうだ、オンラインで予約入れればいいんだ。早速見てみようっと)



加奈(わぁ……結構使われてるんだ。久美子さん、音葉さん、亜里沙さんの名前が多いのはわかる。見たことない人は社員さんかな?)



加奈(今日はダメみたいだから、明日の分を予約しとこう。事務所に着いてから予定までの時間は大体使えそう!)

翌1月21日、346プロピアノ室にて

加奈(プロデューサーとの打ち合わせ前の貴重な時間。大事に使わなきゃ)



加奈(まとまった時間が取れたから、本番の曲の前に練習曲から手をつけよっと)



♪ ♪ ♪ …



加奈(懐かしいなぁ。この曲は苦労して1ヶ月かかっちゃった。これは一番のお気に入り…あっダメダメ。時間が過ぎちゃう)



加奈(わぁ、意外と覚えてる!習ってたの小学校のときだったのに)



加奈(……よく間違えちゃうところで間違えちゃった。癖なんて変わらないよね)



加奈「…あっいけない、もうこんな時間!早く出ないと」

P「おはようございます。今井さん、何か嬉しいことあった?」



加奈「はい……まあ学校のことで(おっといけない、ピアノのことまではやめておこう)」

  

P「そう。それはよかった。じゃあ早速、小会議室6に行きましょう」



加奈「はい!」



加奈(プロデューサー、去年の今頃より少し痩せたような気がする。元々細いけど)



加奈(多分私に仕事取ってくるために頑張ってるからだと思う。プロデューサー、私のちょっとした行動も仕事に生かせないか、常に目を光らせてるし)



加奈(だからピアノ練習し始めたって言ったら、また何か考えちゃいそうなんだよね。全然上手じゃないのに)

2月4日、学校で

女子1「そういえばピアノの練習ってできてるの?」



加奈「うん、家だと難しいから事務所でやってるよ」



女子2「え、専属の先生とかつけてるの!?」



加奈「そんなことできないよ〜。事務所のピアノ、予約すれば誰でも使えるから自分でやってるだけだよ」



女子3「そうなんだー。上手くやってるんだなぁ」



加奈「えへへ。だから次に音楽室を借りられる日までには伴奏入れられるかも」



男子1「聞いたか…流石大手プロの設備だな」



男子2「気軽に使おうって気になるのもアイツらしいというか」



加奈(練習も少しずつだけど進んでる。ほんと、小学4年の頃を思い出すな。あのピアノ伴奏も6年生を送る会だったから、これと同じようなものか)



加奈(でも、他の子がどんどん上手になってっちゃったから、それからはお呼びがかからなかったんだよね)



加奈(私、覚えが悪いし……ピアノの先生は何度も困らせちゃった。そんなだったから、2年半でやめちゃったわけだし)



加奈(そんな私がまた歌の伴奏するなんて思わなかったな。代わりがいないからって理由は後ろ向きだけど、貴重な機会だし嬉しい。このまま頑張ろ!)



女子4「おーい、次移動教室だよー」



加奈「いけない、考え事して忘れてた!」

同日、346プロレッスン室の一角

久美子「ねえ美羽ちゃん」



美羽「はい?」



久美子「ここ2週間くらいね、加奈ちゃんが毎日のように事務所のピアノ弾いてるの。何か聞いているかしら?」



美羽「私は何も聞いてません。加奈ちゃんさん、ミュージカルでピアノにはまっちゃったんだ…!」



久美子「あの子と一番仲良さそうな美羽ちゃんが知らないのも不思議ね。私、趣味でよくあそこのピアノ室使ってるんだけど、予約のところに急に加奈ちゃんの名前が増えて驚いたわ」



美羽「それはビックリしますよね!」



久美子「音葉ちゃんも、亜里沙ちゃんもどうしたんだろって言ってた。レッスンだったら専用の時間帯に入れるはずだし……」



美羽「プロデューサーさんに聞いてみますね。あの人になら何でも話してそうですし」



久美子「あまり根掘り葉掘りするのはよくないけど、気軽に聞けそうだったら頼んだわ」

P「え、今井さんがここで毎日ピアノを練習?」



美羽「らしいんです。プロデューサーさんなら何があったか知ってると思ったので」



P「この反応の通り、初耳です。いつくらいからやっているって?」



美羽「2週間くらい前からだそうです」



P「その間一度は話題になってもおかしくなかったのに。こりゃ本人が秘密にする気があるんだと思う。矢口さんすら知らないわけだし」



美羽「そうなんですよ。私も気になるんですけど、聞きづらいんですよね。…わかりました、ありがとうございます」



P「役に立てなくて悪いね」



P(何でも話してくる彼女が秘密にする理由……)



P(趣味で弾き始めたなら確実に「プロデューサー、私ピアノの練習また始めたんです!」って具合で言ってくるはずなんだけどなぁ。ようわからん)

346プロ15階自販機前の廊下

こずえ「ぷれぜんと…こずえの、たからものー。こずえも…ぷれぜんとあげるよー。なにがいいー?」



こずえP「そうだな……ちょっと考えるから、後でお願いしよう」



こずえ「いいよー…」



P(誕生日プレゼントかー…あ、今井さんのまであと2週間くらいか。去年結局忘れたからな。今年は早いうちに動かないと)



?「あの、Crさん?」



P「相原さん!?…待ってたのか。いけない、さっさと買わないと」

(P、ジャスミンティーのPETを購入。雪乃は午後ティーを選択)

P「相原さんもこういうところで紅茶を買うんですか。意外」



雪乃「広く親しまれた味です。その良さを感じるのもまた一興ですわ。それはそうと、先ほど何か考え事をされていませんでしたか?」



P「あ、まあ……あの、今井さんの誕生日が近いでしょう。今年は何かプレゼントでも出来ればと思って」



雪乃「そうでしたか……そうですね。ピアノの楽譜などは如何でしょう?最近練習を頑張っているみたいですし」



P「…あれ、相原さんも知ってる?」



雪乃「ええ、私は朋さんから聞きましたの。でも私だけではなく、結構な数の人に広まっているみたいですわ」



P「その割には、誰も本人に言わないんだ」



雪乃「恐らく、Crさんにすら秘密にするほど重要なことだから、皆さん敬遠しているのでしょうね」



P「困りましたな。プレゼントについては、その案取り入れてみます。ありがとう」

2月24日、夜

加奈「事務所出る時間が私と一緒って、珍しいですね」



P「ちょっとこの後用事があるから、仕事を前後の日に寄せて今日は頑張って早く上げた。…ところで、最近大丈夫ですか」



加奈「えっ?大丈夫とは……確かに期末試験の勉強や、学校行事のこともあるからちょっと忙しいですけど、元気ですよ。私は」



P「そう。なんでもないような話題が減り気味だから、疲れてないかと思ったので」



加奈「そうですか?あまりそんなつもりなかったんですけど…えへへ」



P「なるほど。…おや、その紙袋は?」



加奈「これ、今日ゆかりちゃんから借りたミュージカルのCDです。最近は歌だけでなく、曲そのものにも興味が出てきたんです。それで、試験勉強のお供にしようと思って」



P「そんなに好きだったかー…まあ気を取られないようにね」



加奈「そうですね。それは気をつけなきゃ」



P「まあいいや。それでは今日はお疲れ様でした。また明日」



加奈「お疲れ様でした!」



P(なかなか直接事情を聞けないなぁ…遠回しに尋ねても得られるものなんて大してないのに)

事務所近くの書店で

P(楽器経験が長続きするには、一人でも楽しめるのが大事。中学の部活でホルンに手を出したけど、卒業でさよならしちゃったし。だから楽譜もソロが前提)



P(それと、知ってて弾きたくなる曲が条件。ピアノを習うような人がやるようなものじゃなくて)



P(今井さんの好きな音楽の分野はちゃんとは聞いてないが…)



P(去年の夏から続いてるミュージカルへの興味は本物だと信じよう)



P(問題は本人の技量。一応この前の公演で把握したつもりだけど…こういう本で中級って書いてあるのが限界だよな)



P(中身も見た感じ、ちょい背伸びすればいける気がする)



P(…まあいいや、コイツにしよ。どうしても弾けなくて無理って言われたら買い取ろう)

3月3日、346プロ

美羽「あっ、加奈ちゃんさんのプロデューサー!」



P「名前覚えてくれたほうが短くて楽じゃない?」



美羽「へへっ。あの、どちらへ……」



P「今井さんのいるピアノ室。誕生日プレゼントを渡せるチャンスなので」



美羽「おっ、いよいよ行くんですね!」



P「なんだか大げさになっちゃったね、この件も」



美羽(後で覗いてみようかな)

ピアノ室では

加奈(もう安定してきたし、これからは忘れない程度に弾ければいいかな)



(回想)

学級委員(今井さん、無理言っちゃったけど間に合わせてくれてありがとね)



女子(凄いよね。小学校でやめちゃったのが不思議なくらい)



男子(ひとまずカセット出動は回避だな)





加奈(ほんと、最初は間に合うか心配だったけど何とかなった!ここで練習できたのもあるけど、夏の短期レッスンも活きたんだよね。入れてくれたプロデューサーには感謝しないと)



加奈(でも……予餞会終わったらどうしよう。そこそこ練習したし、後何もやらずに忘れてくのは勿体無いし)



加奈(…いいや、後で考えよ)



(ドアをノックする音)

加奈「え、もう時間?ちょっと早過ぎないかなぁ……はーい」

(ドアを開けると)

加奈「えっ、プロデューサー!?」



P「お疲れ様です。渡したいものがあったけど時間がなかったんで。入っても問題ない?」

加奈「何で私がここにいたの、知ってたんですか?」



P「いやいや、今井さんが最近事務所でピアノ弾いてるの、有名だよ?だから予約状況を確認してみて、さ」



加奈「バレちゃってたんだ……。あの、渡したいものって何ですか?」



P「今日は3月3日、誕生日でしょう。去年申し訳程度のケーキしか用意できなかったから今年こそはと思って……はい、これ」



加奈「プレゼントですか!?ありがとうございます!袋から出してもいいですか?」



P「勿論」



加奈「…あっ、ミュージカルのピアノの楽譜?曲は…昨日かけたのも載ってる!凄い、練習したらこういうのも弾けるんだ」



P「楽器なんて自分で楽しめてなんぼでしょ」



加奈「私、今の用事が終わったらまた弾かなくなっちゃうなって思ってたんで…ありがとうございます、プロデューサー!」



P「喜んでくれて何よりです。…じゃあそろそろ、今迄ここで練習してた目的を教えてくれるかな」



加奈「あの……」

加奈「学校の3年生を送る会で、クラスで合唱することになってその伴奏を頼まれたんです」



P「なるほど、それでここで練習してたわけか。夏の舞台のおかげで、ピアノできるキャラになっちゃったもんね」



加奈「クラスに出来る子が他にいなかったんですよね。だから私なんかに…」



P「理由なんて何でもいいよ。でもいつもだったら、そういう話はすぐにしてくれそうなのに、何で隠してたのかな」



P「怖くて聞けなかったよ。皆もプロデューサーにすら話さないなら相当だっていって触れなかったんだ」



加奈「怖がらせちゃったんですか!?それに皆も……ごめんなさい」

加奈「怖がらせちゃったんですか!?それに皆も……ごめんなさい」



加奈「…私がピアノの練習をまた始めたって聞いたらプロデューサー、仕事につながるように色々考えて、無理をしないかなと思ったんです」



加奈「確かに、友達とのおしゃべりが好きなこと、音楽が好きな教科なことを活かしてくれたから今の私があるんですけど……それと引き換えに疲れているようにも見えたんです」



P「……やだなぁ、そんなふうに見えちゃってたのか。それは申し訳なかった」

P「大丈夫です。今井さんの一挙一投足全部仕事に結び付けようとは思いません。何でも手を出したらいいってものじゃない」



P「仕事になる種は私なりに選んでいるつもりです。今回のピアノの練習も少し前から知ってたけど、それは趣味にとどめておけばいい。だから、自由に楽しんでください」



P「あと体調のことも気をつけないとね。少し残業が増えただけ。担当アイドルに心配されてるようじゃ、プロデューサー業務まらない」



加奈「私こそ、プロデューサーのことをわかってなくて……私がいつもどおりでいれば、お互いよそよそしくならなかったですよね」



P「まあお互い様だね」



P「…それはそうと、練習してるのちょっと弾いてみせてよ」



加奈「ただの伴奏ですよ?…でも、やってみます」



♪ ♪ ♪ …



P「…あれ、このイントロ中学の卒業式で歌ったアレだ」

加奈「知ってるんですか?」



P「ああ。……歌っちゃうか」



加奈「ええっ!?」



P「今井さんの学校共学じゃん。男子パートくらいあるでしょ」



加奈「プロデューサー!…ってなんか聞こえてくる…!?」



(Pがドアを開けると、美羽を筆頭に年少組が次々入ってきた)



(聖、法子、葵、などなど…彼女たちは何のためらいもなく歌いだした。恐らく学校で扱っているのだろう)



(その後ろには朋、雪乃らが控えていた。最初に気づいていた久美子も、美羽に連れられてここに来ていた)



(曲が終わると、部屋中に拍手が響いた)

美羽「…そっか。仕事のきっかけにできると思われちゃうから、隠してたんだ」



加奈「うん。あと全然上手じゃないから、皆にも言うことじゃないとも思って」



雪乃「色んなことを話してくれる加奈さんを皆知っているから、秘密にしたことに驚いてしまったのですよ。技量のほうも、恥じることはないと思います」



聖「加奈さんのピアノ、もっと聴いてみたいです」



法子「バースデーライブだね!」



朋「そうだよ、もっと何か弾いてよ!ええーっと…あれ!(エリーゼの為にのメロディーを歌いだす)」



久美子「ちょっと厳しいんじゃないかしら…」



加奈「へへ…なんか嬉しいな。何にしようかな」



加奈「…ってもうすぐ予約時間終わっちゃう!どうしよどうしよ…」



P「こんなところもらしいっていうかなんていうか。1曲くらい何かない?」



加奈「ええっと……よしこれにしよっ!『お願い!シンデレラ』いきます!」



♪ ♪ ♪…



(完)



21:30│今井加奈 
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