2016年04月21日

塩見周子「日だまりの彼女と冷たい頬」


アイドルマスターシンデレラガールズ、塩見周子、一ノ瀬志希のssになります。



書き溜めあり。





字の文あり。



恐らく百合注意。







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460773466





「あなたの事を深く愛せるかしら」



暗くて不安とかを混ぜ込んだ、ため息と共に吐き出す。



あたしがする役の女の子が言うセリフのひとつ。



休憩時間に自転車で出かけていたら意外と撮影が始まる時間になっていて、慌てて戻って付け焼き刃で台本を読んで撮影に挑んだ。



焦っていたあたしがあまりにも役のイメージから離れていたせいで、監督さんが顔をしかめてたのは。まぁ、ご愛敬?



うん。えっと、ごめんなさい。頑張ります。



そのせいかどうかは分からないけど、もう一度休憩を挟むことになってしまった。



「まぁ、すぐに戻ろうって提案しなかった俺も悪かったな」



ペットボトルのお茶を飲んでいると、さっきまで監督さんと打ち合わせていたプロデューサーさんが隣にやってきて、少し苦笑いをしてた。



確かにバタバタしながら戻ってきたから余裕は無かったのは事実だけど、それだけじゃないのかもしれない。



「ねぇ、プロデューサーさん」



「ん? どうした、周子」



「愛ってなんだろうね?」



さっきの役のセリフについて聞きたかったのにプロデューサーさんがいきなり吹き出しはじめて、ゴホゴホとむせてる。むむっ。



「まさか周子からそんな言葉がでるとはな」



ニヤニヤしながらプロデューサーさんがあごに手をやって愛について考え出す。



あ〜あ。せっかくの真面目シューコちゃんだったのに台無し……



多分、プロデューサーさんからはろくな答えが出なさそうだからどっか遊びにでも行こうかな。



夕美ちゃんならどうだろう、そういえば公園でチューリップを見かけたとき、ピンクのチューリップの花言葉は愛着、愛情だって教えてくれたっけか。



夕美ちゃんのお花に対する想いは紛れも無く愛なのかもしれないなぁなんて。



でも、なんかそれとは違うんだよねー



「となると……志希ちゃんかぁ」



しょうがなくって感じで、そう口からは出ていたけれど、なんとなく最初から志希ちゃんに会いに行こうって思ってたのかも。



誰に対しての言い訳なのかな。もしかして自分に?



もやもやを抱えながら志希ちゃんを探してみてもそこら辺には見当たらない、どこにいるんだろう。



もう、本当に困ったちゃんだね。全く……



色んなスタッフさんに志希ちゃんの目撃情報を聞きながら差し入れを貰う。



歩いて行けば行くほど、お菓子は増えて、その代わりにどんどん人影が消えていく。



「おぉ、自然だ」



目の前には桜の木々が生い茂っていて、いかにも志希ちゃんがうろうろしてそうな所を見つけ出せてワクワクする。



趣味が失踪とあるように志希ちゃんは猫っぽいところがあるから、こうやって流れるように誰もいなさそうな所へ行くクセがあるというのは分かっている。



志希ちゃんは多分ここにいる。



森なのか林なのか分からないけど、その中へ入り込んでいく、踏青とは言うもののどこを見てもピンク一色で……志希ちゃんにぴったりの場所だなってぼんやりと思ってみる。

ーーーーー

ーーー





「やっぱりここに居たかぁ」



お目当ての志希ちゃんは木々に囲まれた木陰に寝っ転がってすやすやと寝息を立てていた。



桜の花びらが敷き詰めてあるからって、衣装のままで地面に直接寝ているもんだから汚れていないかが心配になってしまう。



プロデューサーさんもこれを見たらきっと困惑するかも。もう、本当に困ったちゃんだ。



起こさないようにそっと隣に座り込み、お顔を拝見、と。



うん。相変わらず幸せそうに寝てるね。



思わず唇でも奪ってやろっかなって思ったけどそんな勇気は、ないなぁ。



自由で気の向くまま、流れるまま、あたしがこんな性格だから気づいて貰えないかもしれないから、恋と呼ぶには少し不器用なこの気持ちは、幻でも良いかなぁ……なんて、いつしか思ってみたり。



手持ちのお菓子を消費しつつ、相変わらず起きる気配が無い志希ちゃんについて考える。



彼女がこの事務所に入ってきたときから遠くで眺めていても、その異常性がすぐに分かった。



レッスンを数回こなせば、ダンスをすっかり憶えていて、今回だって台本を少し読むだけで、きちんと立ち回れてしまう。



途中で猫を追いかけたりしてしまってたから、きちんと、と言うと少し語弊があるかもしれないけど。



……と思えば、興味が湧かなければそのことについては一切触れない。それが例えお仕事の事でも。



何もかも気分次第。



なぜか分からないけど、その姿に惹かれて近づこうと必死だったかもしれない。



このシューコちゃんがだよ? 必死にだってって笑うかもしれないけどさ。



そうだね。



今までののらりくらりなイメージのシューコちゃんを壊しながら追いかけてたんだよ。



誰にも気付かれないようにそっと。



それが全てであって、きっと何でもないことで、やっとここまで来たのかもね。



そんなことを考えていたら、のそっと音を立てながら志希ちゃんが目を覚ます。



「おはよう志希ちゃん」



「ふぁ〜あ。おはよう周子ちゃん。ここはどこ?」



自分でここに来たちゃうんかいってツッコミは多分この子には届かないだろうからそっと胸の中に閉まっておく。



2、3秒経ってからこっちを見て。周子ちゃんが居る! って志希ちゃんが驚く。



何で? 何で? って聞かれてお散歩してたらたまたまって答えておく。探してたと言うのは少しだけ、恥ずかしい。



「そういえば撮影は?」



「まだもう少し時間かかるってさ」



今度はちゃんと余裕をもって戻れるように時間は何度も確認する。



そういえば。と志希ちゃんに話題を持ち出す。



あくまで今思いついた事のように。

ーーーーー

ーーー





「ふむふむ、愛かぁ。恋なら親和欲求とかニューペプチドの分泌とかだと思うんだけだなぁ〜」



間延びした声で思いついた限りの脳のメカニズムやらなんやらを説明してくれる。



うんうん、これは為になるね。多分。



それでもやっぱり答えは返ってこないのかな。



確かに、他の人からこれが愛だって言われても納得は出来ないかもね。反省。



「愛といえばチューリップの花言葉もそれだってね」



「ん〜? チューリップ自体だとfame。名声になっちゃうから厳密にいえばピンクのattachmentだけどね」



補足をする前に答えられてしまった。やっぱり志希ちゃんには敵わないや。



「そうそう。お花と言えばさ〜? この前周子ちゃんが摘んで来てくれたシロツメクサがあったよね?」



志希ちゃんが欲しいと言ってたから智絵里ちゃんに生えてる場所を聞いて摘んできた事があった。



もっとも、使うのはお花の部分だったから四つ葉を探さなくて良いらしくて、そんなに大変ということでも無かったかなぁ。懐かしい。



「それがどうしたの? 綺麗に飾ってたり?」



「勿論、すり潰して中身を抽出してサンプルを作ったよ」



ふふんと鼻を鳴らしながら、さも当然。という風に志希ちゃんは答える。



ーーなるほど。



せっかくあたしが志希ちゃんを想いながら詰んだ綺麗なお花はこうやって無くなっていくんだ。



さようなら。あたしの可愛いシロツメクサ。



まぁ、確かに志希ちゃんがお花を飾っている姿なんて似合わないかもしれないけどさ。



「それで、作りたい匂いは出来たの?」



これで出来てなかったらちょっと怒るかも。



「そのものは出来なかったけど、似たようなものは出来たよ」



グリーンノート、ゼラニウム、クラリセージ……色々なカタカナをたくさん並べてくる。



うーん。途中から何を言っているのか分からない。



「見て! 志希ちゃんの超特製フレーバー!」



ばばんと取り出したアトマイザーに透明の液体が入ってる。



シュッシュと二回、手首にかけて擦り合わせ首筋からうなじへ。



その仕種はなんだかちょっとえっちぃな。



「これで良し……と。どう?」



嗅いで、嗅いでと、言わんばかりにズズイと志希ちゃんが近寄って来る。



しょうがないなぁとあたしもそっと顔を寄せてみる。



くんかくんか。



「もっと近寄っても良いんだよ?」



「もっと?」



「もっともっと。せっかく作った匂いなんだからさぁ」



それならばと、あたしは志希ちゃんにグイッと近づく。



うん。とっても良いかもしれない。



さっきよりも近い距離で志希ちゃんの匂いを感じる。



呼吸をひとつする度に脳いっぱいに、肺いっぱいに。



匂いは分子だって言ってたから、極小の志希ちゃんがあたしの中に入ってくるイメージなのかな?



……なんだか、おかしくなってきたな。はいはいこの話はやめやめ。



「周子ちゃんの匂いも混ざってますます良い匂いになってるね」



ハスハスと志希ちゃんもお鼻をピクピクさせながら匂いを嗅いでくる。



嗅ぎあって混ざり合って……全部全部混ざり合って。志希ちゃんとあたしと春の日差しと桜の匂いと……



「あたしと小鳥と鈴と?」



「みんな違ってみんな良い的な?」



笑いながらあたしと志希ちゃんは冗談を交わす。



そうだ、みんな違ってみんな良いんだ。



「だからって勝手に失踪なんてしないでよ〜?」



「うんうん。やさし〜周子ちゃんが寝かしつけてくれるならここから動かないよ〜」



それって寝とるからやんって心の中で一応ツッコミを入れる。



少し動こうとした時にガサッとあたしの手元にあった何かにぶつかる。



視線を落とせばそれは撮影用の映画の台本で、めくれているページの上に桜の花びらがはらはらと舞落ちていた。



それはちょうどあたしのお話の最後のシーンで、去っていった想い人を夜桜と共に思い出す場面。



ひたすら恋に夢中で、ハイカラで、だからこそだれよりも少し悲しくて物憂げで……



それはとっても淡くて綺麗な色だと思う。



だけど、あたしはこうならないように、させないように片手でパタリとそのページを閉じる。



ごめんね。だけど、もう少しだけここで眠っていてね。



「失踪なんてしないでよ?」



もう一度、念を込めて志希ちゃんに話す。



「周子ちゃんが居てくれるなら大丈夫かな〜? どうだろうかな〜?」



はぐらかすように答える。



プロデューサーは楽観的でいつも志希なら大丈夫大丈夫って言うけど……まぁ実際大丈夫なんだろうけど、なんとなく心配だから言葉で釘を刺してきたい。



「言葉だけで大丈夫?」



あたしの心を見透かした様に語りかける。



だってそれ以外にどうしようもないじゃん。



「本当に?」



さあぁ……と風が吹いて志希ちゃんの髪が揺れる。



真上にあった木の枝も揺れて桜吹雪が舞い、そこにぽっかりと日が照っていて、まるでスポットライトみたいだなんて思ってしまって。



志希ちゃんがあたしに向かって手を差し出す。



あたしも頷きながら。その手をとって日の当たる場所へと移動する。



あたしの手は冷たくて少し申し訳ない気持ちになる。



「熱平衡だね」



握られた手がどんどん暖まって志希ちゃんの手と同じくらいの温度になる。



熱平衡なら分かるよって志希ちゃんに向かって言うと、少し何かを言いかけて、止める。



「頬へは満足。だよ」



「志希ちゃんは満足?」



あたしからの問いに志希ちゃんは悪戯っ子の様に、どうだろって笑う。



お互いの口からは適当な言葉しか出ないんだから、言葉を交わす代わりに志希ちゃんの頬にふれてみた。



風に吹かれたせいか、少しひんやりした感触、あたしの熱がじんわりと志希ちゃんの頬に移っていく。



きっと二秒ぐらいしかふれてなかったかもしれないけど、時間が止まってしまったと思うくらいに長く感じて……



熱平衡なら同じくらいの温度になるはずなのに、あたしの熱が帯びていくばかりなのが、冷たくなったり暖かくなったり忙しいなぁなんて可笑しくてつい笑ってしまった



あたしのその様子が可笑しかったのか、志希ちゃんもにゃははと笑っていた。



二人きり。笑い合って。



彼女の笑顔は暖かいと、いつもそう思っていた。



だけど、熱が移ってしまったのか、なんだかあたし自身も暖かくなってしまったような気がする。



明るくて安心するような……日だまりの様な暖かい息をひとつ漏らす。



深くかどうかは分からないけど、この気持ちは紛れも無く……



おわり



相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: