2016年07月01日

ほたる「私が不幸だから」

私が近くにいるだけで、みんなを不幸にしてしまう。

傍にいたいと思う人ほど、傷つけることになる。

それなら、私は一人で――



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トレーナー「よし、今日はここまで。クールダウンのストレッチをしたら帰ってよし」



ありす「はぁ……終わりました」



巴「今日も疲れたの……」



ほたる「そう、ですね……」



巴「ほたる、わしのストレッチ手伝ってくれんか?」



ほたる「えっと……ごめんなさい、用事があるので、早めに行かないと……」



巴「そうか?じゃあわしが先にやってやるわ」



ほたる「いえ、一人でやるので……巴ちゃんは、ありすちゃんとして下さい」



巴「んーわかった。おい、ありす、いつまでへばっとるつもりじゃ、はよぉやるぞ」



ほたる「お疲れ様でした……お先に失礼します」







ありす「ほたるさん、いつも一人で帰ってしまいますね」



巴「そうじゃの……」

ほたる「私が手伝ったら、きっと怪我させちゃうし……帰ろう……」



裕子「むむ、ほたるちゃんじゃありませんか、おつかれさまです!」



ほたる「裕子さん……お疲れ様です」



裕子「レッスンの帰りですか?私も今日はこれで終わりなので、一緒に帰りましょう」



ほたる「その……私これから用事があるので」



裕子「声をかける前、私のサイキック地獄耳には『帰ろう』と聞こえましたよ?」



ほたる「サイキック関係あるんですか……?」



裕子「細かいことはいいんです!同じ寮なら帰り道も一緒じゃないですか、ほら行きましょう!」



ほたる「ゆ、裕子さん、手をつかんだりしたら……わ、わかりましたから」

裕子「こうしてほたるちゃんと一緒に帰るのは初めてですね」



ほたる「はい、そうですね……」



裕子「寮の食堂でも、いつも隅っこが定位置ですし。というかほたるちゃん、いまも妙に遠いですよ?」



ほたる「私と並んで歩くのは、やめた方がいいので……」



裕子「何言ってるんですか、一緒に帰るのに大股3歩分もあったら寂しいですよ!ほらほら!」



ほたる「だからそんなに来ちゃ――裕子さん!」



裕子「え、うわ!」



ガシャン!!

ほたる「裕子さん、大丈夫ですか?怪我は?」



裕子「ええ、何とも……植木鉢が落ちてきましたね、そこのベランダからでしょうか?」



ほたる「はい……きっと私のせいです、ごめ――」



裕子「すみません!私のせいでほたるちゃんを怪我させてしまうところでした!」



ほたる「……え?」



裕子「私がほたるちゃんの近くに行きたいと思うあまり、うっかりサイキックパワーが溢れてしまったようですね!植木鉢まで引き寄せてしまいました!」



ほたる「あの、裕子さん……?」



裕子「エスパーユッコも修業が足りませんね……これからは引き寄せないよう、ちゃんと隣に並んで行きましょう!」



ほたる「えぇ……い、いまのは私の……もう、聞いてくださいよ」

裕子「あ!ほたるちゃん、アイス売ってますよ!“今ならコーン限定5段チャレンジ”……これは挑戦しなければ!」



ほたる「私はいいです……結果が見えてます……」



裕子「結果が見えてる……未来予知?まさか、エスパーホタルだったんですか!?これは思わぬライバル出現!」



ほたる「いや、別にそういうんじゃなくて……」



裕子「いいからいいから!すみませーん、5段2つ下さい!種類は……」



ほたる「また勝手に決めて……」



裕子「あ、勝手に決めるのはよくないですよね。ほたるちゃんはどれにします?」



ほたる「そういう意味で言ったわけでは……えっと、あの、ストロベリーと、その……」

裕子「す、すごい……これが5段!」



ほたる「顔より大きいかも……」



裕子「美味しそうですね!では早速、いただきまーって、あぁっ!」



ベチャ



ほたる「大丈夫、裕子さん?洋服に付かなかったですか?」



裕子「んー、ちょっとなんで拭けば大丈夫です。それより、2段になっちゃいましたね」



ほたる「私は根元から……服にも少し付いちゃいました……」



裕子「わ、コーンしか残ってないじゃないですか!それより、タオルタオル!」



ほたる「いつもこうなんで……大丈夫です」



裕子「大丈夫じゃないですよ!きっと私のサイキックハンドパワーが熱エネルギーを生み出してしまったんです!すみません!」



ほたる「またそれですか……これは私が不幸だからで……」

店員「お洋服大丈夫でしたか?すぐ新しい物ご用意しますね」



ほたる「いえ……私のぶんはいいので、裕子さんのだけで」



裕子「ほたるちゃんはいらないんですか?」



ほたる「いらないわけじゃないですけど……また落とすと思うので、アイスが勿体ないですから」



裕子「そうですか……あ、私も新しいのは大丈夫なので、かわりにカップとスプーン下さい!」



ほたる「裕子さん?」



裕子「ふふ、見よ!エスパーユッコの……サイキック半分こ!はい、ほたるちゃん!」



ほたる「え、私に……?」



裕子「いやー2段目をイチゴ味にしていて良かったです!これぞサイキック未来予知!ほたるちゃんには負けませんよ!」



ほたる「でも、裕子さんのですから……その」



裕子「私のなら私の勝手にしてもいいですよね?ならこれはほたるちゃんにあげます!ほら、そこのベンチで座って食べましょう!」



ほたる「……はい、ありがとうございます」

ほたる「裕子さん、あの……ご馳走様でした」



裕子「はい、アイス美味しかったですねっ!」



ほたる「寮まではもう少し掛かりますけど……大丈夫ですか?」



裕子「何がですか?予定はないので時間は大丈夫ですよ」



ほたる「時間のことではなくて……」



裕子「あ、知ってましたか?ここの公園を通ると少し近道になります!」



ほたる「そうなんですか……知らなかったです」



裕子「ふふ、私のサイキックパワーによって先日発見したルートです!さぁ、行きましょう!」

ほたる「こ、こんな木々の間を通るんですか……」



裕子「急がばまっすぐ進んじゃおう、というやつですね。結構な短縮になりますよ」



ほたる「はぁ……あ、裕子さん、近くにハチが飛んでます……気を付けて」



裕子「う、ちょっと怖いですね……ここは動かずじっとしてみましょう」







ほたる「ハチ……増えてませんか……」



裕子「まさか、服に付いたアイスの匂いにつられて……」



ほたる「かもしれない……です」



裕子「ほ、ほたるちゃん!ここは一気に走り抜けましょう!」



ほたる「裕子ちゃん!また手を!ってやっぱり追いかけてきてますよ!」



裕子「公園から出てもまだ来てます!ど、どこか建物の中に……!」



ほたる「裕子さん、バス!発着してるバスが!」



裕子「と、飛び乗りましょう!……サイキックダーイブ!!」







裕子「はぁはぁ……何とか、なりましたね」



ほたる「あぅぅ……つ、疲れた……」



裕子「すぐ降りるのも危ない気がしますし、呼吸が落ち着くまで乗ってましょうか」



ほたる「は、はい……そうしましょう……」







裕子「……zzz」



ほたる「……すぅ……すぅ」







裕子「ここはどうでしょうか……」



ほたる「周り、田んぼと山しかないですね……」



裕子「いま何時ですか!次のバスは?」



ほたる「あれ……携帯が、ない?」



裕子「わ、私もです!?走ってる最中に落としたか、それとも寝てる間にバスの車内に!?」



ほたる「……いまの時間はわかりませんが、少なくともバスは3時間に1本しか来ないみたいです……」



裕子「たまたま乗ったバスがこんな少数の長距離バスだったとは……」



ほたる「このままじゃ完全に夜になってしまいますね……ごめんなさい」



裕子「ほたるちゃんが謝ることないですよ。待ってても仕方ないですし、来た道を歩いてみましょう」

ほたる「どれくらい歩いたんでしょう……?すっかり夕暮れですね……」



裕子「それにしてもすごい景色ですねー。携帯あったら絶対撮ってましたよ。ここは脳裏に焼き付けておいて、無事帰ったらサイキック念写を……」



ほたる「裕子さんはこんな状況でも……変わらないんですね」



裕子「ん?どういうことですか?」



ほたる「何度も危ない目にあって……いまも帰れるか不安なのに……」



裕子「まぁ何とかなりますって!サイキックテレパシーも送り続けてるので、そのうち誰かがやってくるかも知れませんし!」



ほたる「私は……そんな風に思えないです……巻き込んでしまってごめんなさい」



裕子「ですから謝らないでいいですよ。ほら、この夕日を見れば元気がわいて……ん?」



ほたる「なんだか……急に空気が湿気て……?」



裕子「わわ!晴れてるのに、雨が降ってきました!サイキック天気雨です!」



ほたる「あぅ……どんどん強くなってます……」



裕子「あ!ちょっと先に小屋みたいなものがありますよ!ひとまずあそこへ!」

裕子「お地蔵様と小さな祠ですね」



ほたる「夕立みたいですから……しばらくここにいましょう」



裕子「そうですね……お邪魔します、少しの間雨宿りさせてください!」



ほたる「となりのトトロで、見たことある気がします……」



裕子「あ、私も同じこと思ってました!」



ほたる「でも……ここに、傘を渡してくれる人は来ません……」



裕子「まぁ夕立ならすぐに止むでしょう。そんなに気に病むことないですよ!」



ほたる「裕子さんは……本当に強いですね。私の不幸も……まるで気にしないですし……」



裕子「私は別に不幸だなんて思ってないですよ?」



ほたる「だって……現にいまも不幸の最中じゃないですか……」



裕子「そうですかね?ここに来れなかったら、綺麗な夕日も見れなかったですし。私はほたるちゃんと一緒にいる時間が楽しいですよっ!」



ほたる「私と一緒なのに……楽しい……?」

考えたこともなかった。

不幸な出来事も、楽しいと笑い飛ばしてしまえるだなんて。







裕子「その通り!今日は私のサイキックパワーが暴走してしまいましたが、それも含めて面白かったじゃないですか!ほたるちゃんはつまらなったですか?」







私と一緒にいて、面白いと言ってくれる人がいるなんて。



だけど――

ほたる「でも……私といると、いつか本当に怪我とか……」



裕子「意外と強情ですね!ほたるちゃんといても不幸になんかなってません!今日のトラブルは、私のサイキックパワーが原因ですからね!むしろ謝るのは私のほうですよ」



ほたる「そんなこと……ないです……私のせいなので、謝るのは私です……」



裕子「もう……わかりました!では私のサイキックが本物だということを認めさせればいいんですね!」



ほたる「え……どうするんですか……?」







裕子「見ててください!……エスパーユッコ、全力最大、サイキックパワーッ!!」







それは単なる偶然かもしれない。









ほたる「あれ……?雨が……」









それでも、この時は、この瞬間は。













ほたる「晴れちゃった……え、あれって……わぁ、綺麗……!」









大きな虹と、夕日のコントラストを作り出した彼女は。















裕子「やっと笑ってくれましたね!私のサイキックは、みんなを笑顔にするためにあるんです!」









本当に、エスパーなのかもしれない。







裕子「どうですか?エスパーユッコの真の実力、思い知りましたか!これは認めざるおえないですね!」



ほたる「す、すごい……」



裕子「これでほたるちゃんが不幸にさせているわけじゃないって証明されましたね。まぁ、本当はそんなこと関係ないんですけど」



ほたる「関係ない、ですか……?」



裕子「私以外のみんなも、きっとほたるちゃんともっと仲良くなりたいと思ってますから」



ほたる「それはどういう……」



裕子「さて、また歩きましょう!無断外泊になったら寮監さんに怒られちゃいますからね」



ほたる「う……なんとか避けたいですけど……間に合いますかね……」



裕子「何とかなりますって……ん、あれ車じゃないですか!?こっちに向かってきてます!」



ほたる「待って……あの車はもしかして、事務所の……」







巴「おぉ、おったぞ!二人とも無事じゃ!」



ありす「ほたるさん!裕子さん!大丈夫ですかー!」



モバP(以下P)「お前ら落ち着け!窓から顔出すな!」

ありす「ほたるさん!心配しましたよ!」



巴「これで一安心じゃな」



ほたる「なんで……みんなが……?」



裕子「みなさんどうしてここに!?あ、私のサイキックテレパシーが届いたんですね!」



P「残念ながらお前のテレパシーは受信はできなかった」



ありす「ほたるさんに何度も電話してみても繋がらなくて、やっと繋がったらバスの運転手さんが出たんです」



巴「乗客の忘れもんだろう言うとって、この路線は人も滅多に乗らんから誰かすぐわかったけぇ、降りた場所聞いて急いで向かってきたんじゃ」



裕子「なんで私も一緒ってわかったんですか?」



P「確認のために運転手にその子の特徴聞いたら、『2人の女の子が乗車してきて、そのうち1人がサイキックダイブとか叫んでた』なんて言ってな。そりゃ裕子しかいないわな」



裕子「そういうことですか……」



P「裕子の携帯も仲良くバスの中に落ちてたそうだ。だからこそ、すぐにお前らの安否を確認できなくて焦ったが……何とか見つかってほっとしてるよ」



ほたる「でも、そもそもどうして私に電話を……?」

ありす「ほたるさんが先に帰った後、巴さんと2人で話したんです」



巴「わしらは、ほたるが必要以上に馴れ合わんようにしとると分かってたから、そうしてたんじゃ」



ありす「でも、やっぱりそれはよくないって思います」



ほたる「よくない……?」



巴「お前が前の事務所で何があったかは何となく聞いとるし、それでみんなから距離を取ろうとしようる気持ちも分かるんじゃ」



ありす「それでも、私たちは仲間ですから。もっとほたるさんのことを知りたいし、私のこともほたるさんに知ってもらいたいんです」



巴「不幸が何じゃ!そげなもの怖がってたら、ホンマの仲間じゃないからの!」



ありす「だから、まずはみんなで食事でもしようと電話を……ほたるさん!?どこか痛むんですか!」



ほたる「ち、違います……ぐすっ……私、これからみんなの傍にいても……い、いいんですか……?」







巴「なに言っとるんじゃ!」



ありす「そんなの当然です!」







ほたる「うぅ……はいっ、よろしくお願いします……!」

裕子「ほたるちゃん……うん、やっぱり心配いらなかったよ!よかったね……ぐすっ」



P「裕子もありがとな。ほらハンカチ」



裕子「ありがとうございます……ヂーン!」



P「あーもう台無しだよ……よし、そろそろ車乗れー。携帯回収したらみんなで飯行くぞ!」



裕子「やったー!麺類以外にしましょう!スプーン使えるもので!」



巴「時間も遅くなってきとるし、ファミレスでええじゃろ?」



ありす「プロデューサーのお財布の負担も少なくてすみますし」



P「俺が出すのは確定なのね……まぁそのつもりだったし、ファミレスにするぞ」



裕子「ほたるちゃんはどこか行きたいお店ありますか?」



ほたる「私は……」



私が近くにいるだけで、みんなを不幸にしてしまう。

傍にいたいと思う人ほど、傷つけることになる。

それでも……それでも、隣にいてくれる人がいるのなら。

それなら、私は、一人じゃなく――







ほたる「私は……みんなと一緒なら、どこだって嬉しいです!」



21:30│白菊ほたる 
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