2016年07月05日

多田李衣菜「3年目の絆」




―――とあるマンションの一室







がちゃり





加蓮「ふああぁ……おはよ〜……」トテトテ…





泰葉「――あ、おはよう加蓮。昨日は遅くまでお疲れさま」



加蓮「んー……、てっぺん越えるのってまだ慣れないなぁ……。結局帰ってきたの1時過ぎだし」クシクシ



泰葉「ごめんね、起きてられなくて」



加蓮「あぁううん、気にしないで。そこはお互いさまでしょ?」



泰葉「ふふ……そうね。でもたまには、3つ指ついてお出迎えしたかったり」



加蓮「奥さんか。泰葉にそんなの求めてないですー」



泰葉「そんな、ひどいよ……ふふふっ♪」



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加蓮「あはは♪ それで、李衣菜はお仕事?」



泰葉「うん。朝の生放送だったから早くに出て行ったの」



加蓮「あーそっか、レギュ番か……見逃したぁ」



泰葉「観てたけど、サプライズでお祝いされててね。とっても嬉しそうだった」



加蓮「ふふっ、そりゃそうでしょ。だって今日は――」





加蓮「李衣菜の20歳の誕生日なんだから!」

泰葉「朝からずっとそわそわしてたの、李衣菜ったら」クスッ



加蓮「んふふ、李衣菜らしいっていうか……子どもっぽいところはほんと変わんないよね」



泰葉「加蓮も充分子どもっぽいと思うけど?」



加蓮「私はいいのー。だって末っ子だもん〜」



泰葉「そんなに変わらないでしょ……。もう、一緒に住み始めてから一層甘えんぼになっちゃって……」



加蓮「お腹空いた〜、お姉ちゃんご飯〜♪」



泰葉「ふふ、はいはい……♪」

加蓮「――んーでも、出かける前に一言おめでとうって言いたかったな」モグモグ



泰葉「起こそうとしたんだけどね。『疲れてるだろうからいいよ、寝かせといて』って」



加蓮「そっか……一番にお祝いしたかったのになぁ。優しいんだから、李衣菜ってば……」



泰葉「その代わり、起きて最初に私がお祝いしてあげました」フンス



加蓮「むー、ずるい」モグモグ…



泰葉「李衣菜が帰ってきたら、また一緒にお祝いしましょう。プレゼント、ちゃんと隠してある?」

加蓮「もちろん! 絶対見つからないように部屋の奥の奥にしまって、…………」ピタッ



泰葉「……加蓮?」







加蓮「……部屋散らかっててどこに置いたか思い出せない」ダラダラダラ





泰葉「…………今すぐ探してきなさい」



加蓮「は、はひ」

泰葉「ほら早く! 今日は李衣菜、お昼過ぎには戻ってくるんだからっ!」



加蓮「て、手伝ってよ泰葉ぁ!」



泰葉「なっ、料理だって作らなきゃいけないのよ!?」



加蓮「ごめんなさいごめんなさい! お願いだから〜!」



泰葉「あぁもう……! どこに隠したか見当は……!?」



加蓮「…………………………う、うーん」





泰葉「もうバカ、本当にバカ! こんなことなら私が持ってれば良かった――!」



加蓮「ごめん、ほんとごめん〜――!!」





どたばた



  どたばた……





―――収録スタジオ





李衣菜「――お疲れさまでした! ありがとうございました〜!」





李衣菜「……ふう。よし、今日のお仕事終わり。へへ、こんなにプレゼント貰っちゃった」



李衣菜「うーん、朝から貰いっぱなしだなぁ……嬉しいけど持ち帰れるかな」





「――どもども、多田ちゃん。お疲れさまっす〜」



李衣菜「あ……お疲れさまですっ。今日は本当にありがとうございました、こんなに頂いちゃって」



「いやいやいいのいいの。なんたって20歳の誕生日っしょ? スタッフ一同からのお祝いってことで!」

李衣菜「えへへ、あんまり自覚ないんですけどね。まだまだ未熟だと思いますし」



「そんなことないけどねぇ。いやー、アイドルになりたての頃から見てたけど、大人っぽくなったよね」



李衣菜「そうですか? 大人っぽいかどうか、自分じゃ分かりませんけど」



「色気も出てきたよー。どう、この後? 初めてのお酒でも飲みに行っちゃう? まだ昼だけどさ、あっはっは!」



李衣菜「……あー……、そうですね。とっても嬉しいお誘いなんですけど……」

「あれ、ダメ? 今日くらいハメはずしちゃってもいいんじゃない?」



李衣菜「はい、すみません……家で、家族が待ってるので」



「あー……家族ねー。だったら仕方ないかぁ」



李衣菜「また、お酒飲み慣れた頃に誘ってください。そのときはお相手しますよ」



「ははは、わっかりました。じゃあまた縁があったらね、多田ちゃん」スタスタ



李衣菜「はい、是非!」





―――楽屋





李衣菜「――あはは。まさかあんな露骨に誘って来るなんて……」





がちゃ





P「よ、お疲れさま。……なかなか良いあしらい方だったぞ」



李衣菜「あ、プロデューサーお疲れさまです――って、見てたなら助けてくださいよ……」



P「ふふ、どう対処するかなーって思って。家族を出したら相手も諦めるしかないな」



李衣菜「はぁ……内心焦ったんですからね? 上手くいって良かったぁ」

P「まぁ、これからも同じように誘われることがあるだろうけど……追々勉強してこう」



李衣菜「はい、お願いしますね。20歳になって最初に覚えることがこういうのって、なんかアレですけど」



P「李衣菜がそれだけ魅力的だってことだよ」



李衣菜「プロデューサーが口説いてどうするんですか、もう。ふふふっ」



P「あはは、たしかに」

P「さ、じゃあ帰るか。実家の方でいいんだよな?」



李衣菜「へ? いつも通りマンションでいいですよ」



P「え、だってさっき家族とって……」



李衣菜「ああ、そういうことですか。もう家族ですよ、泰葉も加蓮も……私の大切な」



P「……なるほどな」



李衣菜「実家は……また折を見て、ですかね。大学もありますし」

P「行ったり来たりは大変だしな……分かった、マンションな。実家にも連絡するんだぞ?」



李衣菜「昨日、向こうから電話かかってきましたよ……。迷惑かけてないかーとか、年上なんだからしっかりしろーとか、しつこいくらい」



P「心配なんだよ、ご両親も。一人娘が大人になるんだから」



李衣菜「それにしたって……。ま、嬉しかったですけどね」





李衣菜「これまで通り、3人で力合わせて頑張りなさい、って。ずっと応援してるから、って……言ってくれました」



P「……うん。じゃ、それに応えないとな」



李衣菜「はいっ、もちろんです!」





―――



――









―――





ブロロンブロロン…





P「――そういや、大学……そろそろ2人もキャンパス慣れたか?」



李衣菜「んー、多分……。あ、でも一緒に行くと確実にくっついてきますね」



P「先輩先輩ってからかわれてるもんな」



李衣菜「わざとらしいんですよね、ほんと……ふふっ」



P「はは、お姉ちゃんらしくなってきたじゃないか」

李衣菜「やめてくださいよ、Pさんまで……。加蓮の甘え方が尋常じゃなくなってきてるんですよ? ルームシェア始めてから」



P「だろうなぁ。今までの反動だ、反動」



李衣菜「部屋だってそれぞれあるのに、帰ってきたら私のベッドで寝てたり……」



P「はは、そりゃひどい」



李衣菜「理由聞いたら部屋片付いてないからって。で、夜中に掃除するハメになったり……」



P「……そ、そりゃひどい」

李衣菜「はぁ、しばらく経ってるしまた散らかってるんだろうなぁ……」



P「苦労してるな、李衣菜も……」



李衣菜「そうなんですよ……お姉ちゃんって大変です」ハァ



P「そ、それで。泰葉の方は?」



李衣菜「泰葉は……ギター弾いてると横に座ってきますね。で、ちょっと寄りかかってきて……そのまま寝ちゃうんです」



P「なんだそれかわいい」

李衣菜「加蓮と比べたらずっと控えめで……癒やされますよ、うん」



P「エレキの音色で眠れるんだろうか」



李衣菜「慣れたって言ってましたけど……でも、アコギも始めようかなって思ってます」



P「お、ついにか?」



李衣菜「へへ、色々弾けた方がいいでしょうし……ほら、泰葉の曲も加蓮の曲もバラードが多いじゃないですか」



李衣菜「だからもし伴奏するなら、ゆったりアコギで……なんて考えてて。むしろ伴奏してあげたいんです、2人のために」



P「……そっか。なら俺は応援するよ」



李衣菜「えへへ、頑張りますよ。なんたって私はロックで……お姉ちゃんですから」ニッ





ブロロンブロロン…





―――戻って、とあるマンションの一室





泰葉「片付け」



加蓮「よし!」



泰葉「お料理」



加蓮「よし!」



泰葉「プレゼント」



加蓮「よし! ……良かったぁ、割れてなくて……」



泰葉「ほんとにもう……間に合わないかと思ったじゃない、加蓮のバカ。バ加蓮」



加蓮「ついに省略された……すみませんでしたぁ」グスン

泰葉「ふう……。とにかく、これでいつ李衣菜が帰ってきても安心かな……」



加蓮「よーし、じゃあ3つ指ついてお出迎えしなきゃ♪」トテトテ



泰葉「ちょっと、それは私の……」トコトコ





がちゃん





玄関<ただいまー





加蓮「ほら、いいタイミング〜♪」タタッ



泰葉「ふふ、ほんとね……♪」タッ







「「おかえりなさい、りい――!」」





P「おじゃましまーす」



「「な゜っ!?」」



李衣菜「なにその鳴き声。ただいま2人とも」

加蓮「な、なっ、ななななんで!?」



泰葉「どうしてPさんが……!?」



P「いや、李衣菜が上がっていってくれって。すぐ帰ろうと思ったんだけど」



李衣菜「いいじゃないですか、誕生日くらいもう少し一緒にいてくれても」



P「あんまりよろしくないんだけどなぁ――」





加蓮「あわわわわわわ髪ボサだしスッピンだしあわわわわわわわわ!」ドタバタ



泰葉「すみませんすぐにスリッパ出しますあっダメ洗濯物干しっぱなしちょっと待っててくださあわわわ」ドタバタ





P「……ほんとに来て良かったのか?」



李衣菜「ま、まぁ気にしないでください」

P「――おおー。これが年頃の女の子3人が暮らしてる部屋か」



加蓮「あ、あんまりじろじろ見ないでよPさんっ!」





泰葉「もう、李衣菜! Pさん連れてくるなら言ってくれないと!」



李衣菜「ごめんごめん、今さらだと思ったから……」



泰葉「し、下着だって干してあったんだからね……!? 危なかった……!」



李衣菜「あは、さすがにそれはまずいか」

泰葉「まったく、李衣菜の誕生日になんでこんな焦らなきゃ……」



李衣菜「へへ、ごめんって。それよりいい匂いっ、料理作ってくれたの?」



泰葉「あ、うん。ふふ、李衣菜のために2人で頑張って――」





P「うまっ。これほんとに加蓮が作ったのか」モグモグ



加蓮「ふふ〜、これでも成長してるんだよ私も♪ 今度Pさんが好きなの作ってあげるね」テレテレ





泰葉「加蓮さん」



加蓮「あっ」

泰葉「それ」



加蓮「はいです」



泰葉「李衣菜のために」



加蓮「はいです」



泰葉「どうして」



加蓮「Pさん、お腹空いてると思ったです」



泰葉「……今日は?」



加蓮「李衣菜の誕生日、です……」





泰葉「どうして」



加蓮「ごめんなsいひゃいいひゃいいひゃい!」

李衣菜「おいひぃ〜! ありがと2人とも、最高の誕生日だよー♪」モグモグ



泰葉「そう、良かった♪ いっぱい食べてね」グニィィィ



加蓮「ちぎれるっ、ほっぺがちぎれる〜!?」ジタバタ





P「グダグダだな。……あ、これも美味い」モグモグ





―――



――









―――





李衣菜「――ふは〜、お腹いっぱい……♪ デザートまであるなんて、もう毎日誕生日がいいなぁ♪」



加蓮「なーに言ってんの。どう、美味しかった?」



李衣菜「うん、私が作るよりはるかに美味しかった!」



加蓮「それは言いすぎだって〜♪ 李衣菜の方がずっと上手でしょー?」





P「は〜……食べた食べた。悪いな、急に来てご馳走まで」



泰葉「ふふふ、いえ。気合入れて作りすぎちゃったので、ちょうど良かったです」

P「デザート、泰葉が作ったんだな。美味しかったよ」



泰葉「あ……えへ。他のプロダクションのアイドルに聞いたりして、勉強したんです」



P「あはは、甘いの好きだもんな。きっかけは……あのときプレゼントしたメロンパンか?」



泰葉「ふふっ、多分そうですね……懐かしいな」



P「また美味しいメロンパン、食べに行こうか」



泰葉「え、いいんですか……! やった♪」ニコニコ





加蓮「……………………」ズズズズ…



李衣菜「うわぁドス黒いオーラ」



加蓮「私には散々言ったくせに、ほっぺたつねったくせに……自分はイチャツイテ……!!」

加蓮「やーすーはぁ〜……!」



泰葉「あ、ふふっ♪ なぁに、かれ……ん?」



加蓮「――泰葉ぁぁぁああああああッ!!!」



泰葉「きゃぁぁぁあああああ!?!?」





加蓮「この、この、バカ泰葉ぁっ! こうしてこうしてっ、こうしてぇぇえええ!」グニグニグニー



泰葉「んにゅぁあぁあああぁぁぁっ!」





李衣菜「……今日って私の誕生日ですよね?」



P「なんで俺に聞いた」

泰葉「いたい……」メソメソ



加蓮「ふんっ!」





P「さて、そろそろお暇しようかな……。李衣菜、改めて20歳の誕生日おめでとう」



李衣菜「はい、ありがとうございますっ。今度からPさんのお供について行きますよっ、居酒屋でもバーでもどこでも!」



P「こら、お前から飲みに誘ってどうする」



李衣菜「えっへへ。……っと、いや、でも……」

P「ん、どうした?」



李衣菜「あの、あと1年待ってくれませんか? 正確には1年と……2ヶ月くらいかな」



P「んん? …………あぁ。そういうことか」



李衣菜「そういうことです。それまで1滴も飲みませんから、私」



P「分かった。じゃあ俺は……3人に相応しい、最高に美味い酒を探しておくよ」



李衣菜「はいっ! お願いしますね、Pさん!」

加蓮「んー? なんの話してるの?」



泰葉「いたい……」



李衣菜「ちょっとねー。気にしないでいいよ」



加蓮「……余計に気になるんですけど。なに、こっそりデートの約束? 大人になったからって許さないんだからっ」



泰葉「いたい……」



李衣菜「ふふ、違うよ。来年の話」



加蓮「?? なんでもう来年の話……?」





泰葉「いたい……」



李衣菜「泰葉大丈夫? すごい主張してくるけど」ナデナデ

泰葉「加蓮がいぢめるの……くすん」



加蓮「私悪くないもーん」ツーン



泰葉「…………」ジトッ



加蓮「なによその目〜!」



P「ふふ、喧嘩するなって」



李衣菜「あぁもう……。すみません、帰るときまでこんなで。下まで送ります」



P「いやいや、いいよ。誕生日の主役がそんなことしなくて」

李衣菜「あ、あはは……。聞いた、2人とも。私今日の主役なんだけど?」



加蓮「……むー。ゴメンネヤスハチャン」



泰葉「…………。コチラコソカレンサン」



李衣菜「……ダーメだこりゃ」



P「ぷっ、っははは! 分かった分かった、ルームシェア始めてもっと仲良くなったってことかな」



「「なってない!」です!」



李衣菜「息ピッタリだし……ふふっ、あははっ――♪」





―――





P「――じゃ、また事務所でな。おじゃましました」



李衣菜「はーい、また来てくださいねー!」





がちゃ



ばたん……





加蓮「――はぁ。疲れた」クテッ



泰葉「私も……」ヘタッ

李衣菜「やー、やっぱりさすがに恥ずかしいね……生活感まる出しだったし。ねぇ?」



加蓮「……全部李衣菜が悪い。この、このっ」ペシペシ



泰葉「同感。全部李衣菜のせいなんだから……えい、えい」ツンツン



李衣菜「え、ええ? な、なになに、喧嘩終わったの? あはっくすぐったいよ、なんだよぉ」



加蓮「一足先に大人になったからって調子に乗ってー」ペシペシ



泰葉「ほんとに、もう……大人ってずるい。李衣菜ってずるい。ふふふっ」ツンツン

李衣菜「わはっ、だ、だからなんなのこの攻撃っ。やめてってば、誕生日なんだぞ私〜!」



泰葉「ふふ、そうね。誕生日で……20歳なんだから。もっと大人っぽくしないと」



李衣菜「げ、現在進行形で子どもっぽいことしてくる人が言うかな……」



泰葉「私たちはいいの、まだ未成年だから」



李衣菜「いや、来年は2人も成人するんだけど……」



加蓮「そんな先のことはいいの。20歳はこっち来るっ」グイ



李衣菜「わわっ、もー……今度はなに〜?」

加蓮「――はい、これ。プレゼント。開けて」トン



李衣菜「た、淡白すぎる……。あ、ありがとう?」



泰葉「どういたしまして。……朝にも言ったけど、もう一度。誕生日おめでとう、李衣菜」



李衣菜「へへ、さんきゅー泰葉。……なんかすごい丁寧なラッピングだねこれ……んしょ」ガサガサ



加蓮「……もー、不器用。ここ引っ張るんだってば」シュル



李衣菜「お……おー。簡単に開いた……さすが加蓮」

泰葉「ふふ。加蓮は言わなくていいの?」



加蓮「な、なにが? 別に言いたいことなんてないけどっ?」



泰葉「『一番にお祝いしたかった』、って誰のセリフだったかな……」クスクス…



加蓮「あ、あれは……!」



李衣菜「お? 加蓮、なにか言いたいことあるの?」



加蓮「ないから! 早く中身出しなって!」

李衣菜「うん、聞いてから出す。で、なに?」ニヤニヤ



泰葉「ふふふ……♪」



加蓮「〜〜〜ッ! あーもうっ! 誕生日おめでとう李衣菜! 20歳おめでとう! これからもよろしく! 以上ッ!」バンバン



李衣菜「んー、さんくす♪ いやー身に沁みるなぁ加蓮のおめでとうは〜♪」



加蓮「はー、なんなのこれ! バカ! 泰葉のバカ!」ペシペシ



泰葉「よく言えました。ふふ、なんでこういうときは無駄に意地っ張りなの? どっちが不器用なんだか……♪」



ぱかっ





李衣菜「――お。おお……」





李衣菜「おおお……! なにこのグラス……綺麗……!」



泰葉「どう……? 気に入ってくれた?」



李衣菜「うん……青とオレンジのグラデーション、夕焼けみたいで……!」



泰葉「でしょう? 李衣菜っぽいなって思って。……ね、加蓮も一緒に探してくれたのよね?」



加蓮「あーあー聞こえない知らなーい。それでてきとーにお酒でも飲めばー?」

李衣菜「ありがとう……泰葉、加蓮。大切にする……宝物にするから」



泰葉「ふふ、うん。加蓮の言うように、そのグラスでお酒を楽しんで。まだ一緒に飲めないのは残念だけど……」



李衣菜「あー……それなんだけどさ」



泰葉「うん、なぁに?」



加蓮「……?」



李衣菜「このグラス……あと1年しまっといていいかな? 大事にしまっとくから」

加蓮「え、……な、なんで!? 使ってよ、そのために選んだんだから!」



李衣菜「わっ、ま、待ってよ加蓮。あと1年したら、2人も20歳でしょ? そのときまでとっておきたいんだ」



加蓮「!」



泰葉「あ……」



李衣菜「来年の加蓮の誕生日に、一緒に乾杯しよう? それが私たちの大人の第一歩!」



泰葉「……李衣菜はそれでいいの? そんなに待たせちゃうと……」



李衣菜「それがいいの。1年なんてあっという間だよ。出会ってから今までも、こんなに早かったんだから!」



泰葉「……うん、分かった。そうしましょうっ」

加蓮「…………」



李衣菜「加蓮も納得してくれた? プレゼントが嬉しいのはほんとだよ、ありがとね」



加蓮「……言い分は分かった。だけど条件ひとつ」ビシッ



李衣菜「おおっ。はいっ」



加蓮「毎日グラス磨いて、部屋に飾っとくこと。ホコリまみれなんかにしないこと。いいっ?」



李衣菜「了解! それくらい余裕♪」



加蓮「ん、ならよしっ」

泰葉「ふふふ。加蓮じゃないんだから、ホコリまみれなんてあり得ないと思うな……♪」



加蓮「……どーゆー意味?」ジトッ



李衣菜「部屋きったないもんねー、加蓮」ケラケラ



加蓮「う、うっさいっ」







泰葉「そうそう、聞いて李衣菜。加蓮ったら今日、実はプレゼントを――」





李衣菜「ああ、そうだったの? ちゃんとしなよー、来年20歳なんだよ加蓮も。あっはは――♪」





加蓮「あああああ! そんなどうでもいいこと言わなくていいからぁっ――!」







李衣菜(へへっ! 来年が待ち遠しいなぁ……うっひょー♪)







おわり



20:30│多田李衣菜 
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