2016年08月18日
高垣楓「私の元担当さん」
アニメ2話の、武内pと楓さん遭遇シーンから
武内pものです
楓さん目線の地の文あり
キャラ崩壊注意です
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スタッフ「お疲れ様でしたー」
楓「お疲れ様でした」
スタッフさんに挨拶をかえしてこのお仕事はお終い。
外でのお仕事から事務所に帰ってきたところ、玄関エントランスには大きな影が一つ。
なにやら思案顔で、誰かを待っているのかしら?
楓「おはようございます」
武内p「おはようございます」
一礼をして挨拶。そのまま奥へと向かう。昔はアイドルとプロデューサーの関係だったというのに淡白なものだ。
「ーーーープロデューサー!! ねぇねぇ、プロデューサーって……」
後ろから元気な声が聞こえてくる。
その子たちを待っていたのね。そして、「プロデューサー」という呼び方…
あなたの新しい担当はその子達なのね。
少しだけもやもやした気分を無視して、次の仕事場へと向かう。ラジオの収録をして今日のお仕事は終了。
明日の予定が少し曖昧だからあとで確認しなければ。
ーーーーー
収録は少し長引いてしまった。外はもう真っ暗だ。
後は手帳とホワイトボードで明日の予定のすり合わせをして帰るだけだ。
しかしすぐに帰ってもつまらないと思い少しだけ回り道をしながら目的の場所へと向かう。
それにしてもあの人に会ってから、いいや、あの人が新しいアイドルを担当しているということを知ってから胸のもやもやが収まらない。
確かに彼の下を去ったアイドルはいる。それでもすべてのアイドルが去ったわけではない。
新規プロジェクトの立ち上げのため、彼は一度すべてのアイドルの担当を外れた。
そこには、スランプ気味の彼を労る意味もあったのだろう。
しかし、理解はできても納得はできない。子供のような嫉妬と不満が胸の内に燻っている。
そのまま担当してほしかったアイドルもいるというのに、なぜ新しい子を担当するのだろうか。
「……今日は強いお酒でも飲もうかしら。喉が焼けるくらいの。これが本当のやけ酒……ふふっ。」
誰の耳に届くこともない駄洒落を口にしながら歩みを進める。
しばらく余計なフロアにも足を伸ばしているとなにやら驚きが多分に混じった叫び声が聞こえてきた。
何だろうとその声の場所へと赴いてみる。
ーーーー
「むぅ」
これはいいことを聞いた。実際にはドア越しに盗み聞いただけだが。
他のアイドルの卵たちがドアに耳を押し付ける私の方を見て目を丸くしていたがまぁ気にすることではないでしょう。
「美嘉ちゃんの我儘は聞いてあげるんですね……」
いつも私がもう一度担当してほしいと言うと「私の一存ではどうにも……」といって濁すのに。
乙女の純情な気持ちを弄んだんだから少しくらいは迷惑をかけても…いいですよね? ふふっ…。
そして急いでその場を離れ、明日の予定を確認しに行く。
ーーーー
時刻は21時を回ろうとしている。いろいろ済ませて戻ってきたのですがもう他の子はいません。
千川さんも退社したようなのでこの部屋にいるのは彼ひとりでしょう。
さて、耳を澄ますとキーボードを打つ音が静かに聞こえてきます。いったいどうしてくれましょうか。
とりあえずドアを静かに、静かーに開けて彼をじーっと見つめます。
「………………」ジー
失敗です。よっぽど集中しているんでしょうね、見向きもしてくれません。
「………………」ガタガタ
作戦2です。ドアを揺らしてみました。でもやっぱり見向きもしてくれません。
こうなったら最終手段です。今日は……よし、ズボンですね。
「………………」ガチャ スッ サッ
「……何か御用でしょうか、高垣さん」
「はい。御用です」
気付いてもらえて思わずにっこり笑ってしまった。いけないいけない、これは彼へのお仕置きの一環なのだから。
「それで……いったい何をなさっているのでしょうか」
首に手を当てた彼が椅子から私を見下ろしてそう聞いてくる。
「私を袖にした報復です。だからほーふく(匍匐)前進です。ふふっ。」
「……はぁ。」
まぁ実際にはしゃがんだところで声をかけられてしまったんですけど。
「今夜はお酒を飲みたい気分なんです。」
「……ほどほどであれば、よろしいと思います。」
「でもお家のお酒を切らしてしまって……」
「はぁ。」
「………………」
「………………」
彼は困惑している。駄目ですね、プロデューサーたるもの女の子の気持ちは察してくれないと。
「………………」ムスー
「……えぇと、買ってくればよろしいのでしょうか?」
「……違います」ムッスー
「……申し訳ありません。では、どうすればよいか教えていただけないでしょうか?」
全くこの人はしょうがないですね、と思いながらも期待から少し動悸が早まる。
「………………」クイックイッ
「いえ、それは流石に……アイドルの方と一緒に飲み屋に入るなど……」
お猪口を傾ける仕草で伝わるなんてさすがはプロデューサーですね。
「美嘉ちゃんのお願いは聞いてあげたのに私のお願いは聞いてくれないんですか?」
「……?」
「…ライブのバックダンサー」ボソッ
「いや、それとは事情が……というかなぜ知ってるのでしょうか?」
「さぁ!もう観念してください!」
切り札は投入しました! 若い子ばっかりに目をやって。たまには私に付き合ってくれてもいいじゃないですか。
「申し訳ないのですが……現在作成している資料が完成するまであと1時間程かかってしまいます。
完成するまで帰るわけにはいきませんし、流石にそこまでお待たせしてしまうわけにもいきません。」
「ふふっ、あと1時間待てば連れてってくれるんですね。じゃあその間にしっかり変装しておきますね」
やりました!言質を取りました!
「いえっ!あのっ!そういうわけでは!高垣さ「ふふっ、それじゃあお待ちしてます。」」
逃げるが勝ち、です。うふふ、いっぱい悩んでほしいというのは私の我儘でしょうか?
でもいいんです。私だって担当になってほしいとお願いするときは勇気を振り絞っているんですからおあいこです。
さて、あと1時間どうやって過ごしましょうか。
ーーーー
「お仕事は終わりましたか?」
「はい。ちょうど今。」
1時間ぴったりです。流石は敏腕プロデューサーですね。
変装をしてお化粧も直して鼻眼鏡も装着して準備はばっちりです。
「高垣さん、それは外してください。」
「……分かりました。」
鼻眼鏡は怒られちゃいました。
「しかし高垣さん、本当に行くのですか?私は会話が得意な方ではないですし、次の機会に安部さんなどをお誘いになられた方が……」
「つーん」
「……分かりました。少々お待ちください。」
そういって彼は手帳をめくります。
「……ふふっ」
なんだか懐かしい気持ちになります。昔はこうやってお仕事に行くたびに予定を確認して手帳をめくっていました。
今夜はいったいどこに連れてってくれるんでしょうか。
「少し離れた場所になりますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。」
そういって事務所を出て、彼の運転する車に乗り込みました。
しばらくすると目的地に着いたみたいです。
「ここですか?」
「はい。ここは美味しい日本酒をそろえていると評判のお店です。それと個室でマスメディア対策もできているようです。」
居酒屋というよりは料亭と言われた方が納得できる店構え。
プロデューサーがこんなところを知っているとは思いませんでした。
正直私が普段行くところなど如何にもといった居酒屋なので少々気後れしてしまいます。
「先ほど予約はしておいたので入りましょう」
プロデューサーの後ろをついていくと素敵な座敷部屋につきました。
「とりあえず適当に注文しておきます。」
そういってプロデューサーが注文している間に私はお酒のメニュー表を手に取ります。
いっぱい種類があって悩んでしまいます。とりあえず片っ端から頼んでしまいましょう。
ーーーー
2時間後
何でしょう、頭の中がふわふわしてとてもいい気分です。
「………………」ゴクゴク
「あの、高垣さん、そろそろ止めた方が」
「プロデューサー、私、温泉が好きなんです」グデー
「はい、存じています。」
「疲れた時は足湯が一番なんです。足湯で疲れをフットバス…なんて、ふふっ♪」
「あの、高垣さん」
「高垣じゃいやです」プイッ
「高垣さん?」
「つーん」プイッ
「ではどうすれば……」
「楓」
「えっ?」
「昔は呼んでくれたじゃないですか、名前で」
「…………あの頃の自分はまだまだ未熟で、アイドルの皆さんとの距離の計り方をわかってはいませんでした。」
「じゃあもう一回担当してください」
「私の一存ではどうにも……」
「じゃあ上とかけあってください」
「それは……無理です。申し訳ありません。」
「…………」
「…………」
「すいません。我儘だってことは分かってるんです。」
「…………」
「でも、今の私があるのは、あなたと一緒に成長したあの時間があるからなんです。」
「…………」
「だから、あの時の絆を無かったことになんて……したくありません」
「申し訳ありません。……楓さん」
「…………」ニコッ
ーーーー
あの後のことはちょっと記憶が曖昧だけれど、それでよかったのかもしれません。
「おはようございます。」
「おはようございます……楓さん」
自分から言ったこととはいえ、ちょっとだけ照れくさいですね。
彼が私の担当になってくれることはおそらくないでしょう。
それでも今はすっきりした気持ちです。
彼と私が共に過ごした時間は消えないのだから。
…ふふっ♪
おわり
22:30│高垣楓