2016年09月01日

フレデリカ「いつかの休日に」


これはモバマスssです

地の文が多いです









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ピピピピピッ、ピピピピピッ





スマホのアラームで意識を引き戻される。

自分で設定しておきながら、折角の睡眠を妨げられ少し不機嫌に。

スマホ側からしたら堪ったものじゃないだろう。

命じられたコマンドを実行したら、その命じられた本人から恨まれるのだから。





おっと、そんな事をしている場合じゃなかった。

ぱぱっと洗顔、髭剃りを終える。

朝食は…抜いていいだろう。

コーヒー片手に一服で事足りるから。





クローゼットを両手で広げれば、ピシッとしたスーツと冴えない私服がぶら下がっている。

何時もはスーツ以外に目を向けないから気付かなかったけれど、自分の私服センスはなかなか良いとは言えなさそうだ。

こんな事なら色々と教わっておけばよかったと後悔するが後の夏祭り。

どうせなら今日、一緒に選んでもらえばいいだろう。

彼女なら、そう言ったチョイスに間違いはないだろうから。





…案外、楽しみにしてたんだな。

面倒だの疲れるだの言いながらも、こうして内心ワクワクしている自分を認識。

確かに暇はしないだろう。

むしろ、目を離せないくらいに何を仕出かすか分からない。

不思議でファンタスティックな彼女は、未だに思考を読めないのだ。





一番マシな服に袖を通し、寝癖を隠す為に帽子をかぶる。

どうせバカにされるならとことん間抜けな格好にしてやろうかとも思ったが、実行する勇気はなかった。

服屋やカフェに入った時の店員の目が怖いから。





さて、と。

約束の時間まであと30分。

約束の場所までここから15分。





…よし。

あと20分は、のんびりしていても大丈夫だろう。



















電車から降りて改札を抜ける。

最初に来た時は迷いに迷った地下の迷宮をくぐり抜け、約束してある出口へ向かう。

未だに降りた改札によっては迷うけれど、今回はある程度下調べしてあった。

階段を駆け上がり、待ち合わせの交番前へ。





ちなみに交番前に設定したのは自分。

だってほら、アイドルだぞ。

何かあってからじゃ遅いんだから。

タダでさえ目立つのにオシャレなんてしてたら変な人に絡まれるだろうし。





心配も杞憂に、交番前で何かトラブルは起きていなかった。

約束の時間から約5分過ぎている。

丁度いいタイミングで到着出来たようだ。

約5分後に来るであろう彼女からの奇襲に備え、背は壁に付けておく。





…5分経った。

おかしい、予想では10分遅れて後ろから帽子で顔を隠され

「動くな、手を上げろー」

となるハズだったのに。

その為に完璧なツッコミまで用意しておいたのに。





その時、ブーンブーンとスマホが震えた。

見れば彼女から連絡が着ている。





「もしもし、俺だ」





「わぁお、無事だったよーだね。組織の奴らは追い払えたー?」





突然の振りに対応してくれた彼女とこのまま厨二病トークを繰り広げるのも魅力的だが、交番前でやる事ではないと諦める。

現に此方をチラチラ見ているのだから。

残念ながら自分は、人に見せ付ける様なマッスルもビジュアルも持ち合わせていない。











「…何処にいるんだ?フレデリカ。10分遅れるんじゃなかったのか?」





「そんな事言ってなーい。プロデューサーが来るの遅かったからキャラメルフラペチーノ飲んでるよー」





それは申し訳ない事をしてしまった。

けれどならば一報くれてもいいじゃないかと言おうとして、ラインに数件通知が来ている事に気付く。

よかった、あれでいて怒っているかもしれない。

日に脂を避け、近くのカフェを片っ端から探そうとする。





と、その寸前で。

視界が突然、闇に飲まれた。

眼前暗黒感(立ち眩み)ではない。





「動くなー、両手両足を上げろ!」





「水中じゃないと不可能だろ。せめて一本だけ下にさせてくれ」





それ以前に此処は交番前なのだ。

そんな事をやったらすぐさま俺の両手首に冷たいモノが添えられる事だろう。

あと動けないのにどうしろと言うのだ。

と言うか騒ぎになってフレデリカが周りの人に気付かれる方が不味い。





「…お前の為だ。此処は動かないでいてやろうわっ!」





突然目の前の帽子を外され、一気に太陽の光を浴びた両眼は逆に機能を失う。

もしかしたら太陽の元に出た吸血鬼もこんな気持ちだったのかもしれない。

けれど、天はその苦しみに耐えた褒美なのか幸せを与えてくれた。





「ふふーん、遅れたバツだよー。さ、早く遊ぼっ」





目の前に天使がいた。

全く機能していない変装用のメガネを掛け、既に片手に紙袋を抱えた金髪の天使。

あれだ、どうしようもない僕にどうしようもない天使が降りて来た。





満面の笑みを浮かべるフレデリカが伸ばした手を、一瞬逡巡するも握り。

久々の休日をさらに疲れで満たそうとした。















服と言うモノは、自分が思っているより何倍も高かった。

何故ただの白地のシャツ一枚に10連2〜3回分も払わなければならないのだ。

と、ぶつくさ垂れながらも会計を済ます。





フレデリカ様にコーディネートしてもらい、取り敢えず全身の装備を一新していく。

フレデリカも自分の服が見たいと言っていたが、申し訳ないけれど先にパパッと自分を飾らなければ。

隣を歩いていて恥ずかしくないくらいには。





そしてその当の本人は、案外俺をマネキンにするのが楽しかった様で次々と俺を試着室に閉じ込めてゆく。

別に試着する分には構わないけれど、これ全て買おうとするとしばらくもやし暮らしになるぞ。

まぁフレデリカも全部買うだなんて考えていないだろうけれど。

あと時折同事務所のキグルミアイドルがご愛用してそうなモノを持ってくるのは辞めて頂きたい。





「…だんだん、俺の事オモチャにしてないか?」





「人生楽しまなきゃソンだよー」





返事になっていない。

付き合いは短くないが、未だにこのフリーダム娘に振り回されっぱなしだ。

若い子の思考は分からないと言うが、おそらく同年代の人たちでも此奴の考えは読めないだろう。

と言うか、行動が読めない。





「よーし、コレで良いじゃろう!」





どうやらフレデリカさんのお眼鏡に適う格好に整えられた様だ。

姿見を見れば、何時もより若々しい俺が写っている。

格好一つでここまで変われるものなのか。

ファッションと言うのはなかなかに奥深い。

やはり今度一度、きちんと勉強を…





「むー、プロデューサー?次はアタシの買い物だよー」





「おう、選んでくれてありがとな」





エスカレーターを使って下のフロアへ。

ワンフロアしかないメンズの違い、レデイースは建物殆どのフロアに店がある。

随分と酷い格差ではないか。

まぁGパンにシャツ一枚で充分な普段の自分からしたらワンフロアすら必要ないけれど。











「ジャーン、どーかなどーかな?」





気が付けばいつの間にやら、フレデリカは試着を終えていた。

年頃の女の子の様にセルフファッションショーをしている。

…様に、ではなかった。

まだ二十歳にもなっていないのだった。





先程まで着ていたワンピースとは少し色が違う衣に包まれているフレデリカ。

色一つでここまで印象が変わるものなのか。

あのフレデリカが大人っぽく見える。

本人には失礼な話ではあるが、本人の性格を知っている俺ですら大人っぽい美少女に見えてしまった。

やはり一度ファッションについて勉強を…





「…どーお?」





「あぁごめんごめん。大人っぽくて凄く可愛いと思うよ」





危ない危ない、思考が若干トリップしてしまっていた。

プロデューサーは担当アイドルに思考が寄っていくと言う話は聞いていたが、もしかしたら俺はフレデリ化しているのかもしれない。

向こうからしたら突然黙り込んでいた訳だから。

そのせいで思った事をそのまま口にしてしまう。





これはあまりよろしくないな。

もし取引先のジジイ相手に五月蝿いだなどと言ってしまった日には大変な事になる。

俺がアイドルに迷惑をかける訳にはいかない。

振り回されるのは俺だけで充分だ。











「…そっかー。じゃ、これ買っちゃおー」





見れば、フレデリカは既に購入を決めた様だ。

そんなにサラッと決めてしまって良いのだろうか?

値段だって馬鹿にならないだろうし、まだ一件目だ。

女の子のショッピングは最低でも10店は巡って疲れ果ててから終わるものだと思っていたが。





「そんなに直ぐ決めちゃっていいのか?他の店のを試着してからでも遅くはないんだぞ」





「いーのいーの。このアタシがビビッときたんだからきっと運命なんだよー」





何とも安い運命だ。

まぁこの店はアウトレットショップだから、ここで手放したら二度と出会えないかもしれないけれど。

にしてもあの服は一着しかないのにサイズもピッタリだったのか。

それなら確かに運命なのかもしれない。





「さーて、次の店にいっくよー!」





「あれ、さっきの服は着ていかないのか?」





「あれはプロデューサーに持たせてあげるーはいっ。フレちゃんからの重要任務だよー?」





成る程、次の店でまた別の服も買うからか。

ついでに俺は荷物持ちらしい。

元よりそのつもりだったから構わないが、何卒両手で持てる量以下にして欲しいものだ。

そんな淡い期待を抱き、次々と店を巡る。





「わぁお、これはフレちゃんの為に作られたのかなー?」





「確かに似合ってるな。こっちはどうだ?」





「うーん、少しありすちゃんっぽいかなー?」





「子供っぽいを橘さんっぽいと言うのは止めなさい。まぁ確かに少しアレかもな」





そんなこんなで、色々と試着してゆく。

居心地のあまりよろしくないレデイースのブースだけれど、フレデリカと歩く事で少しは恥ずかしさが緩和される。

周りからは一体どう見られているだろう?

どう見ても不釣り合いな二人だから、最悪召使とか思われていそうなものだけれど。





















少しずつ、両手に袋が増えてゆく。

普段から色々な機材や書類を持ち運ぶから侮っていたけれど、案外服というものもなかなかの重量があった。

文香ちゃんと杏ちゃんへのお土産ーと言ってダンベルを選び始めた時は流石に止めた。

貰って嬉しくないだろうし、俺の両手が死ぬ。





殆どのフロアを回り終えた頃、俺の体力は限界まで磨り減っていた。

事務所へ戻ってエナジーなドリンクを傾けたい気分だ。

あれは一体どんな成分で構成されているのだろう?

一度ちひろさんに尋ねたところ、フレデリカさんよりファンタスティックな物ですと言われて考える事を辞めたけれど。





「よーし、ここら辺で勘弁するかー」





「ん?大麻?」





「プロデューサーもけっこーテキトーになってきたねー」





どうやらひと段落ついた様だ。

これ以上ショッピングを続ける様なら流石に一度コインロッカーに頼ろうと思っていたが。

どうやらお世話にならずに済みそうだ。





「じゃーカフェにでもいこーか?」





ようやく少し落ち着ける様だ。

ありがたい、一度アイスコーヒーでも飲みたい。

冷房が効いている建物とはいえ、この量の荷物を運んでいると少し汗をかいてしまう。

空調を28度に固定されている事務所よりは涼しいけれど。





「何処にする?建物内に2つくらいあったと思うけど」





「近くにお気に入りのカフェがあるからそっちかなー」





フレデリカ先生のお気に入りとな。

割と期待が高まる。

さて、と。

炎天下の中この荷物を抱えて進む事を覚悟し、一度大きく深呼吸した。





















「ふぅ…」





大きくため息を吐き、体内に新鮮な酸素を送り込む。

俺の体力は自分が思っている以上に少なくなっていた。

フカフカのソファに座り込み、泥の様に溶けてゆく。

今なら人をダメにするクッションに沈み込んでいる杏の気持ちになれそうだ。





それにしても…





「随分と洒落た店だな」





「でしょー、フレちゃんのフェイバリットカフェだよ」





センスはピカイチなフレデリカが気にいるだけあって、なかなかお洒落なカフェだった。

落ち着いた音楽を背景にコーヒーカップを傾けるフレデリカはかなり様になっている。

ほんと、こいつは喋らなければ美人なんだけどな。

以前一度そう言った時、だったら喋ればちょー美人だねーと返された。

瞬時にそう返せるのもフレデリカの魅力ではあるが。





「あ、キリンがいるよー」





「クレーン車でも通ったのか。この近くはずっと工事してるからなぁ」





のんびり、休日を満喫する。

そうそうこう言うのでいいんだよ、こういうので。

休日ってのはこう…自由でなきゃダメなんだ。





「なんだっけー、あの丸いの欲しーなー」





「ホットコーヒーをストローで飲んでも哀しみしか生まれないぞ」





こうやってフレデリカと普通の会話をしながら、のんびり。

なんだ、結構幸せな休日じゃないか。

さっきまでの疲れが吹っ飛んでいく。











ところで…





「最初に買った服は、今日は着ないのか?かなり似合ってると思ったけど」





「うーん、実はねー」





ん?

どうやら何があったらしい。

もしかしてそんなに気に入っていなかったとかか?

個人的にはかなり良かったと思うけれど。





「フレちゃんにはちょっと大っきかったんだよねー」





なんと言う事でしょう。

…最近あの番組も見れてないな…

まだ続いているのか知らないけれど、昔は結構見ていたきがする。





そうじゃない、サイズの話だ。

せっかく買ったのに着れないのでは意味がない。

勧めてしまい、少し申し訳なくなってくる。





「悪いな、俺のせいで戻し辛かったか」





「ううん、いつかは着るよーちゃんと」





成長を見込んでの購入か。

19ともなるとこれ以上背が伸びるとは思えないけれど。

いや、同事務所のアイドルに頼めば身長くらいどうとでもなりそうだ。

けれど、しばらくあの服が着れない事に変わりはない。











「だからねー」





目の前の天使は、笑って続ける。





「いつかピッタリ合う様になったら、また一緒にショッピングしたいなー」





…生まれつきの小悪魔は天使に見えるとは、よく言ったものだ。

俺でなければ、ただの天使と勘違いしてしまっていただろう。

コーヒーカップを片手に窓の外を眺め誤魔化す。

そうでなければ、きりっとはしていない顔を見られてしまうから。





けれど。

窓ガラスに映って見えたのは、俺と同じく外を見ようとするフレデリカだった。

その頬は、ホットコーヒーのせいかもしれないけれど少し染まっていて。





…なんだ。

案外、俺たちは似ているのかもしれない。





「次は、俺のお気に入りのカフェに案内するよ」





「わぁお、楽しみだねー」





無論、そんなものはない。

けれど、それはこれから探せば良いのだ。

フレデリカと一緒に居て居心地のいい場所を、なんなら一緒に。

次にもまた、増やしていけばいい。





楽しい時間はあっという間だ。

店に入ってからまだ全然経っていないと思っていたが、外を見れば陽が落ち始めている。

けれど。

ならば、回数を増やせばいい。





これからまた何度も。

こんな風に居心地の良い休日を。

一緒に、楽しめばいい。





アイスコーヒーの氷は、既に溶け始めていた









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