2016年09月05日

風花「昔の友達も、応援してくれている」


ミリオンライブのssです。









SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472742032





私、アイドルになる前は看護師をやっていました。





ずっと誰かに元気を、笑顔をあげられるアイドルになりたくて、でも勇気がなくて。





「困ってる人を助けるんだ!」って私の願い、叶えられる場所は別にあるんじゃないかって。





それで、看護師を選びました。









あ!妥協で看護師を選んだわけではないですよ!





確かに、アイドルの次の夢でしたけど、すごく頑張ったつもりです!





でも、やっぱりアイドル、諦めきれなくて。





プロデューサーさんのスカウトもあったので、看護師を辞めて、アイドルを目指しました。











そんな感じで、プロデューサーさんに見つけてもらって、





765プロに認めてもらって、私、豊川風花はアイドルになりました。





アイドルになれてすごく嬉しいです。





毎日がキラキラで、ワクワクで、楽しいです。









でも、少しだけ、いえあんまり少しじゃないくらい、後悔もあります。





私が看護師の頃、女の子の患者さんがいました。





その子はすごく重い病気で、身体中痛いはずなのに、苦しいはずなのに、





いつも笑顔で、前向きに笑っていました。









私はその子と沢山、約束をしました。





毎年、お誕生日には一緒にケーキ食べようね。





小学生になったら、勉強を教えてあげる。





病気が治ったら、一緒にピクニックに行こうね。









その子は治療のために一時海外に行ったのですが、帰ってくる前に私は辞めてしまって。





結局その子になにも言えないまま、約束を一方的に破るかたちになってしまいました。





いつかきちんと、謝れるといいのですが...。









さて、現在私はライブ直前のレッスンの最中です。





初めてもらった曲で、初めてのライブです。





絶対に、成功させたいです!









休憩に入り、お水を飲もうと荷物置き場に向かうと、お客さんがいました。





桃子「お疲れ様です」





風花「あっ、桃子ちゃん!お疲れ様です。どうしたの?」





桃子「どうしたもなにも、ギョーカイの先輩の桃子が、風花さんにアドバイスしに来てあげたんだよ」









この子は周防桃子ちゃん。





小さくて可愛いけど、シアター組では一番芸歴の長い先輩です。





私よりもひとまわりくらい幼いのに、私よりも全然しっかりしてて、凄いなぁって思います。









風花「ありがとう、桃子ちゃん。優しいのね」





桃子「別に、優しさとかじゃないよ。多分、むしろ逆のこと言うと思う」





風花「逆?」





桃子「風花さん、覚悟ってしてる?」





風花「覚悟?」





桃子「うん。絶対私はアイドルで生きていくんだーっていう思いみたいなやつ」







アイドルとして生きていく覚悟。





私はできているのでしょうか?





アイドルとして、頑張りたいって気持ちはもちろん強いです!





でも、看護師の仕事の後悔を時々振り返ってしまう。





そんな私は、桃子ちゃんの言う「覚悟」はできているのでしょうか。









風花「...わからない、かな」





桃子「そう。1番はいい感じだったけど、2番に入ると表情が硬くなって、ダンスも伸びがなくなった」





桃子「だから、気になって...」





凄い...桃子ちゃんは私のパフォーマンスを一度見ただけで、私の心の迷いまで見透かしてしまったみたいです。









私の初めての曲。





2番の歌詞。





後悔が邪魔をして、ここを歌って表現するのに、若干の戸惑いが出てきてしまいます。









私の沈黙を見かねて、桃子ちゃんが言葉を紡ぎます。





桃子「桃子ね。子役を辞めて、アイドルになったの」





桃子「結構、いろいろなもの捨てちゃった。多分、桃子自身もわからないものまで」





桃子「でもね、桃子決めたから、頑張るんだよ」









これは桃子ちゃんなりの、励ましの言葉。





素直な言葉ではないですが、やっぱり桃子ちゃんは優しい子だと思います。





風花「ありがとう。2番、きちんとできるよう頑張るね」





桃子「だからそういうのじゃないって。じゃあ、桃子帰るね」







そう言って桃子ちゃんがドアに向かうと、プロデューサーさんがレッスン室に入ってきました。





ミリP「おーっす!風花、やってるかー?っと、桃子?どした?」





桃子「どした?じゃないよお兄ちゃん!お兄ちゃんがちゃんと見てあげないから!本番前なのに風花さんまだまだだよ!」





ミリP「おー、こりゃまたご立腹で」





桃子「もう!お兄ちゃん呑気すぎ!ホントもうダメダメなんだから!!」





そう言って桃子ちゃんは、ドタドタと足音を立てて出て行きました。





ミリP「なーに怒ってんだあいつ?ま、いつものことか」









桃子ちゃんの名誉挽回のために、さっきの出来事をプロデューサーさんにお話ししました。





ミリP「なるほどね。桃子のやつ、風花のこと心配してるのかもな」





ミリP「訳あって前職を辞めてアイドルへ、なんて奴はうちじゃあ少ないからさ」





親近感、というものでしょうか。





桃子ちゃんにそんな気持ちを持ってもらえるほど、私は頑張れていないと思うのですが...。







ミリP「さて、2番の歌詞が、ひっかかるか...」





風花「ごめんなさい。プロデューサーさんには、話しておくべきことでした」





ミリP「構わんよ。簡単に話せないことなんて、1つや2つあって当然だ」









ミリP「歌詞と後悔の葛藤ね。風花らしい悩みだな」





風花「...ダメダメな私らしい、小さい悩み?」





ミリP「あー、違う違う。優しすぎるってことだ」





風花「優しすぎる?」





ミリP「うん。全てに正直に、誠実に向き合って、優しい結末をむかえたい。そんなところかな?」





風花「全てに...えぇと、よくわかりません」





ミリP「すまんな、俺もうまく言葉にできん」





風花「えーと、一応褒められている、でいいんですよね?皮肉じゃないですよね?」





ミリP「あぁ、褒められたよ」





ドヤ顔で笑うプロデューサーさん。





とりあえずは、その満面の笑みを信じておきますね。







ミリP「後悔って、希望じゃないのか?」





どういう気持ちで2番のパフォーマンスをすれば上手くできるか、2人で試行錯誤しているとプロデューサーさんが突然言いました。





風花「希望ですか?」





ミリP「あぁ、後悔って『あーすればよかった』っていう思いだろ。これがあるから『次は後悔しないようにこーしよ』ってなるわけ」





ミリP「あのときお菓子食べなければ、ビール飲まなければ、ダイエット成功したのにって後悔すると、次こそは頑張ろうって思うだろ?」





例えはわかりやすいのですが、プロデューサーさんの目線が意味ありげに動いているのは気のせいでしょうか?





ミリP「だから、『こういう未来があったらいいな。こうなりたいな』って思いをこめたら、後悔を希望に昇華できないかなって」









後悔を希望に。





確かに、歌詞の世界は今の私にとっては『そうなりたい世界』かもしれません。





風花「ありがとうございます!私、頑張ります!」





ミリP「おぅ!頑張れ!俺も頑張るから!!」







それから毎日、レッスンを頑張りました。





今は難しいけど、叶えたい未来。希望。夢。





気持ちを入れ替えただけで、キラキラが心いっぱいに膨らんで、フワフワ空も飛べそうです。





ライブ、上手くいきそうな気がします。









ただ、頑張ると言ってくれたプロデューサーさんは、ライブ当日まで姿を見せませんでした...。





そしてライブ当日です。





胸がドキドキします。





足がガクガクします。





生きた心地がしないまま、静かな楽屋で1人震えていると、ノックの音が聞こえました。





風花「はっ、はい!どうぞ!」





ドアが開いて飛び込んできたのは、プロデューサーさんの顔でした。





ミリP「よっ!久しぶり!緊張してるか?」





風花「緊張してるか?じゃないですよ!今までどこにいたんです!?」





びっくりした驚きと、ちょっぴりの安堵感からか、ついつい大きな声が出てしまいました。





ミリP「悪い悪い。ちょっと出張してたもんで。それで、本番行けそうか?」





風花「緊張してますけど、頑張ります」





ミリP「おう、風花なら大丈夫だ。お前の頑張りは俺が保証する。絶対上手くいく」





風花「保証するって。プロデューサーさん、大事なときにいなかったじゃないですか」





少し意地悪をぶつけてみました。





このくらいは許されるでしょうか。









ミリP「そばにいなくてもわかるよ。俺は風花を信じてるから」





そう言って、ドヤ顔の満天の笑み。





あぁ、こういうところ、ずるいなって思います。









そうしてステージは始まりました。





今は歌の前のトークです。





風花「って、どうしてそこでプロポーションの話になるんですか!?」





ファン \フゥー!!/





風花「そこで歓声はいりません!もぅ、こんなことばっかり言ってたらまともな大人になれないんですからね!ちゃんとしてください!」





ファン \はーい!/





風花「はい。いいお返事です」





ファンの人が助けてくれて、トークはなんとか上々だと思います。









そして次はいよいよ歌のパートです。





風花「はい。それでは、続いて私の歌を聴いてもらいたいって思います」





風花「私、元気のない人を元気にしてあげたいなって思って、アイドルになりました」





風花「そういうアイドルになれているかどうかわかりませんが、心を込めて歌います!」





風花「聞いてください。オレンジの空の下」







イントロが流れます。ダンスは上手く入れました。





続いて歌の方も、きちんと声が出ています。いい感じです。





1番は上手くいきました。





続いて2番です。少し心が構えてしまいます。









「新しい場所選んだ私の夢を むかしの仲間も応援してくれている」









この歌詞、最初はすごく好きでした。





これ、私のことだって。私のための歌なんだって。





でも、同時に後悔がニョキっと角を出して、私の心を痛めます。









昔の仲間というか、友達でしょうか。





あの子は、私の夢を応援してくれるでしょうか?





一方的に約束を破って、目の前から消えた私のことを。









そうであったらいいなと思います。





謝って、許してもらえて、





私があの子の夢を応援して、





あの子が私の夢を応援してくれて、





そんな未来があればいいなって願いを、思いを込めて、1つ1つ言葉を歌で紡ぎます。









歌い終わりました。





一瞬の静寂の後、それを埋める沢山の拍手。そして続いて歓声。





やりました!私の初ステージ、大成功です!









楽屋に戻ると、シアターのみんなが迎えてくれました。





静香「風花さん!お疲れ様でした!今日のステージすごく良かったです!暖かくて、優しい歌声で」





風花「ありがとう、すごく嬉しい!」





静香「あんな綺麗な歌声、私にはできません。風花さんはもっともっと歌のお仕事をするべきです!」





風花「そんな、大袈裟だよ」





静香「大袈裟じゃありません!風花さんは女神の歌声なんです!!なのにプロデューサーは、グラビアの仕事ばっかり風花さんにとってきて!私、文句を言ってきます!」









どうしよう、なんか今日の静香ちゃん怖いです...。





静香ちゃんはそのままドタドタと走り去って行きました。







その背中を見ていると、ちょんちょんと腰のあたりを突かれました。





振り向くと、栗色の癖っ毛が見えました。





桃子「今日のステージ。すごく良かったと思うよ」





風花「ありがとう!桃子ちゃん見てくれたんだ!」





桃子「一応、桃子の言ったとこがなおったかどうか見に来てあげたの」





風花「どうだった!?私上手く出来てた?」





桃子「もぅ、言ったじゃん。良かったって」









桃子ちゃんに褒められたのが嬉しくて、思わず手をとってブンブンしてしまいました。





桃子「ちょっと風花さん、テンション高すぎ」





桃子ちゃんに呆れ顔をされてしまっていると、プロデューサーさんの声がしました。





ミリP「風花、ちょっといいか?」





風花「はい?構いませんが...」







ちょいちょいと手招きするプロデューサーさんについていくと、シアター関係者用の駐車場に着きました。





風花「どうして駐車場に?」





ミリP「まぁ、行けって」





ドンと背中を押されて駐車場を歩くと、車椅子に乗った女の子とそれを押す大人の女性がいました。





...この女性は...。





...すると、この女の子は...。









女の子「ひさしぶりだね、ふーかおねーちゃん!」









目深にかぶった帽子からのぞく大きなキラキラした瞳は、まぎれもない病院のあの子でした。





風花「...えぇ、久しぶり...」







これは奇跡でしょうか?夢でしょうか?





信じられません。





女の子「ふーかおねーちゃんのライブみたよ!すごかった!ふーかおねーちゃんおうたじょうずだったんだね!」





風花「...ありがとう。風花お姉ちゃん、頑張ったよ」





女の子「うん!がんばりました!」





ニコニコと変わらない笑顔。





心が満たされます。









新人でドギマギしてた私に、元気も勇気もくれた笑顔。





それに後押しされるように、私は告げるべき言葉を告げました。





風花「あのね...ごめんなさい」





風花「急に病院からいなくなって、ごめんなさい」





風花「たくさん約束やぶって、ごめんなさい」





積もりに積もった後悔に押しつぶされるよう、自然に頭が下がります。









女の子「いいよ!ゆるす!」





頭の上から、元気な声がしました。





女の子「でも、ふーかおねーちゃんわるいことしてないのに、ごめんなさいってへんだね」





風花「でも、約束...」





女の子「いいんだよ!だって、ふーかおねーちゃん、かっこよかったもん!かわいかったもん!!」





女の子「かんごしさんのふーかおねーちゃんもだいすきだけど、アイドルのふーかおねーちゃんはもっとだいすきかも!」





風花「ありがとう...」





後悔が、苦しい想いが、霧散していきます。





神様、私は赦されたのでしょうか?









女の子「それに、やくそくはまたすればいいんだよ!」





そう言うと、女の子は私に小指を差し出してくれました。









女の子「わたし、あいどるになる!びょうきなんかやっつけて、ぜったいにあいどるになる!」





女の子「それでね、ふーかおねーちゃんといっしょにおうたうたうの!やくそく!」









目の前のキラキラの瞳を、力強い言葉を、私は絶対に忘れません。





繋いだ小指は熱をもって、私の心を揺さぶります。





風花「うん!待ってる!絶対、約束だよ!」





風花「私も頑張るから、頑張ってね!」





女の子「ふーかおねーちゃんも、がんばって!!」





さっき歌に紡いだ望む世界が、今ここにあります!









女の子とお母さんと別れ、私はプロデューサーさんのもとに戻ります。





ミリP「話はできたか?」





いつもの変なドヤ顔でも、悪戯なえっちな笑顔でもなく、





あたたかくて優しい笑顔で、プロデューサーさんは迎えてくれました。





その笑顔みてしまった私は、嬉しさで舞い上がっていることもあり、思わずプロデューサーさんの胸に飛び込んでいました。





ミリP「おわっ!おおおおおおおおおおい、どした?」





風花「ありがとう...ございます...」





思いが心から溢れて、涙が止まらなくなってしまいました。





プロデューサーさんはなにも言わずに、じっとそのまま私を受け入れてくれました。







風花「いない間...あの子を探しててくれたんですね?」





ミリP「まぁな。看護師さんに聞いても、個人情報ですって教えてくれなくて大変だったんだからな」





ミリP「病院中グルグル回って、たくさんの患者さんに協力してもらって、ようやく見つけたよ」





風花「言ってくれれば、私が行ったのに...」





ミリP「驚かせたかったんだよ。サプライズの方が、嬉しさも高まるだろう」





ミリP「風花は頑張ってるよ、自分で思っている以上に。だから、報われて欲しかった、喜んで欲しかった」





風花「それ、なんだか...ずるいです」









巡り会ったのが、この人で良かった。





一緒に夢を見る人が、この人で良かった。





無条件にそう思ってしまいます。





本当に、ずるいです。







ミリP「ところで、風花さん、あの、そろそろ離れてくださりませんか?」





あまりにもプロデューサさんがずるいので、聞こえないふりしちゃいます。





ミリP「なんかプロデューサーとしての勘が、そろそろ誰か来そうだからやばいっt」





???「プロデューサーさーん!どこですかー?静香ちゃんが呼んdキャアアアアアアア!」





突然、叫び声が聞こえました。





慌てたプロデューサーさんが、私から身体を離します。





ミリP「あっ、あのね、これはちがくてね、だからね、そんな恐い顔で睨まないで紗代子ちゃん」





紗代子「ふふふふふ風花さんに、なななななななな何してるんですか!?変態!?」





紗代子ちゃんが私の方に駆け寄ってきて、プロデューサーさんからかばう位置に立ちました。





紗代子「前々から思ってたんですよ!風花さんが優しくて心が広くて包容力があって女神のような素晴らしい人っていうところにつけ込んで、プロデューサーさんは好き勝手やってるって!」





紗代子「風花さん泣いてるじゃないですか!?とうとう、超えてはいけないラインを超えてしまったんですね!?そうであれば、もう見ていられません!」





大変です!誤解を解かないと!





風花「違うの紗代子ちゃん、これはね」





すると、紗代子ちゃんは私の手をとって言いました。





紗代子「大丈夫です風花さん。私が来たからには、変態プロデューサーさんには、指一本触れさせません!」





あぁ、ダメです。これはマズイことになってます。









静香「何かこっちで叫び声が、あっ!プロデューサー!それに風花さん!」





あぁ、さらに事態はややこしいことに...。





ミリP「待って、ねぇ、ここはお話し合いで解決しよう?ね?紗代子ちゃんも静香ちゃんも落ち着いて」





紗代子&静香「「だめです!」」





結局、私は見るだけしかできませんでした...。





プロデューサーさん、お詫びに今度一杯奢りますね...。









さて、それから数日たった日の帰り道。





空は綺麗な夕焼けに染まっています。





口ずさむのは、私の大事な大事な曲。









この、オレンジの空の下。





あの子も、私も、頑張っています。





再び紡いだ約束が、叶う日を夢見ながら。





その日に至るまでの1日、1日。





毎日、私は願っていたいと思います。





それは、小さな願い事。









「明日もいいこと、ありますように」











E N D







20:30│豊川風花 
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