2014年05月16日
城ヶ崎美嘉「シルエット」
【閲覧注意】
・モバマス
・美嘉メイン
・悲恋(死ネタあり)
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・悲恋(死ネタあり)
OKならどうぞ。
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テレビの上に飾られている、一台のフォトフレーム。
その中にいる、笑顔のアイドル。
それは、まだ駆け出しのころの城ヶ崎美嘉だった。
モバP「あれ…美嘉、この写真って」
美嘉「ああ、懐かしいねその写真」
モバP「これって二年前のライヴの写真だよな? まだ俺がいなかった頃の」
美嘉「そーだね…あの頃はとにかく必死だったね」
モバP「少し話してくれないか? 当時の事とか」
美嘉「いいよ★ ちょっと長くなるけどね」
それは、失くした物語。
アイドル・城ヶ崎美嘉の原点だった。
カタカタと無機質な音が響く孤独な空間。時刻は午後九時を回った。
アシスタントの千川ちひろは現在出張に出かけている。何の出張なのかは同僚のPも把握はしていない。
だが信頼できる仲だ。きっといい土産を持って帰ってくるだろうとPは考えていた。
P「ふぅ…一区切りついたか」
今日の分の仕事を終え、一つ大きな背伸びをする。
次の瞬間―
P「……ごふっ、げほっ、げほっ!」
ぴちゃっ、ぴちゃっと滴り落ちる液体。
それは紅い色を帯びていた。
その時、事務所のドアを誰かが開けた。
美嘉「忘れ物しちゃったよ…って、プロデューサー!? 大丈夫?」
美嘉が駆け寄ってきた。
傍から見ればPが血を吐いているようにしか見えない。
しかしアイドルを心配させるわけにはいかない。
P「いやー参った参った。気管支にトマトジュースが入っちゃってさー」
美嘉「………へっ?」
P「思わず吹き出しちゃったよ。美嘉、ビックリしたろ?」
美嘉「もー! 小梅ちゃんみたいなことしないでよプロデューサー!」
P「たまには俺もイタズラしたくなるんだよ」ヘラヘラ
美嘉「まったく…アタシは忘れ物取りに来ただけだから帰るね?」
P「送っていくか?」
美嘉「大丈夫★ プロデューサーも早く帰りなよ?」
そうやって言い残し、アタシは事務所を出た。
今でも思う。なぜ気づけなかったのか。プロデューサーの背中が小さく震えていたことに。いつもは大きく感じる背中が小さく見えていたことに。
なぜ、止めることができなかったのだろうか。
ここは診察室の一室。カチッ、カチッ、と時計の針の音が鮮明に聞える。
気分はさながら、死刑宣告を待つ犯罪者の気分だ。
やがて重苦しい空気を断ち切るように、医師が口を開いた。
医師「…状態は思わしくありませんな」
P「…何とかなりませんか?」
医師「ここまで病状が悪化してしまった以上、手術でも難しい。私どもでは手の施しようがありません」
P「…半年」
医師「ん?」
P「せめて半年あれば、アイツに残せるものがあるんです。何とか、生き延びられませんか?」
医師「…薬を投与しましょう。本来なら推奨されませんが、あなたは止めようとしても止まらない人だ」
今日は久々のオフ。
アタシは買い物をするため郊外まで来ていた。
莉嘉もついていきたいと言っていたが、あいにくレッスンが入っていたため無念のドロップアウト。アタシ一人で過ごすオフになる、はずだった。
美嘉「ふんふんふふーん★」
買い物を終えて午前の予定は終了。
特によりたい場所もなく、アタシは家に帰るつもりだった。
そう思っていたとき、目の前の病院からプロデューサーが出てきた。
美嘉「プロデューサー! どうしたの病院だなんて」
P「美嘉か。実は不整脈の検査で来ていたんだ」
美嘉「ふせい、みゃく?」
P「以前に社内検査で引っかかっちゃってな。念のために病院に行けって言われてたんだよ」
美嘉「で…どうだったの?」
P「異常なし。ただのはかり違いだったんだろうな」ハハハ
美嘉「そっか★ もう、心配させないでよプロデューサー」
今、俺は嘘をついた。
真実を伝えないことが優しさだとは思わない。だが、今伝えたら美嘉は立ち止まってしまう。
美嘉の足手まといにはなりたくない。美嘉の追憶の中に生きたくなんてない。
このプロデュースが終わったら、身をどこかへ隠そう。
そうすればきっといつか俺のことを忘れてくれるだろう。
あの診察から半年が過ぎた。あれから病状は快方に向かい、吐血などの症状も嘘のように消え去っていた。
美嘉はBランクアイドルに昇格。わずか半年でこの成果は手放しに喜んでいいだろう。
そんなある日、ちひろさんが一つ提案をしてきた。
P「花火大会、ですか?」
ちひろ「そうです。近々この近辺であるみたいですよ。美嘉ちゃんと一緒に行ってきたらどうですか?」
P「そうですね…美嘉も喜ぶかな?」
P「美嘉、一緒に花火大会に行かないか?」
美嘉「いいね★ 浴衣着てこうか?」
P「そうだな。とびっきりカワイイ美嘉を見せてくれよ?」
美嘉「いいの? プロデューサーがメロメロになっても知らないよ?」フフッ
P「もしそうなったら本望だな」
そうして迎えた花火大会、当日。
普段は人気の少ないこの河原沿いも、大勢の人で混雑している。
アタシはプロデューサーの手を握りながら、屋台を見て回る。
少し顔が赤くなっていたのはヒミツ。
P「む、もうすぐ打ち上げ花火の時間だな」
美嘉「ホント? じゃあよく見えるところへ行こうよ★」
P「そうだな。隠れた名所を知っているからそこへ行こう」
そう言ってプロデューサーはアタシの一歩前を歩いた。
次の瞬間、プロデューサーの身体が崩れ落ちた。
ドサッ、という音だけが残り、アタシは何が起こったのか理解することができなかった。
美嘉「ちょっ…プロデューサー! 大丈夫!?」
あわてて駆け寄る。様態を確認する。
ごふっ、という音とともに口から血が流れ出してきた。
ただ事じゃない。アタシは一瞬で悟った。
美嘉「救急車! 誰か救急車を呼んで!」
ぐるぐると最悪のシナリオが頭を駆け巡る。
そんな、嫌だ。プロデューサー。死んじゃいやだよ。
目の前が真っ暗になるような錯覚を覚える。
コツン、コツンと足音だけが聞こえる静かな空間。
ほんの少し薬品のにおいが漂ってくる。
あの後、プロデューサーは病院に搬送され、アタシも同行した。
そして着いたやいなや集中治療室へ運ばれた。
口からこぼれた、血。
きっとあの時のも、血だったんだ。
アタシを心配させまいと、ウソをついたんだ。
そんなウソいらないよ。本当のこと、教えてほしかったよ。
数時間後、治療室の重苦しい扉が開いた。
美嘉「先生! プロデューサーは!?」
医師「………」
お医者さんは、首を横に振った。
アタシは、足元から崩れ落ちた。
うそだ、うそだうそだうそだ。
あのプロデューサーが、そんなのうそだ!
アタシはそんなウソ信じない!
アタシは、その場から逃げるように走り去った。
美嘉「ぐすっ…ひっぐ…」
気が付いたら、事務所まで走ってきていた。
自然とアタシの足は、プロデューサーの机の方へ向かっていった。
たくさんの思い出が詰まった、この机。
いろんな思い出に思いを馳せる。
はじめてのライヴのお祝い、フェスの惨敗、そしてリベンジマッチ…
この机に残ったぬくもりが、アタシの記憶を呼び起こす。
ちひろ「……美嘉ちゃん」
その時、ちひろさんが事務所に入ってきた。
ちひろ「ねぇ、美嘉ちゃん…あなたに渡すものがあるの」
美嘉「えっ?」
ちひろさんが取り出した1つの鍵。
それはプロデューサーの机の1番下の引き出しの鍵。
カチャカチャ、と回し何かを取り出した。
美嘉「これは…」
1枚の、手紙だった。
美嘉へ。
これを読んでいるということは、俺は何らかの理由でもう事務所にいないだろう。
俺と美嘉が初めて出会った時のこと、覚えているか?
あの時の美嘉はすごく自信家だった。だから、慢心しているのかとてっきり思っていたよ。
だけど美嘉は努力家だった。とても頑張り屋で、健気で、純情な女の子だった。
そんな美嘉だからこそ、俺もプロデュースしたくなったんだ。
一つ謝罪させてほしい。俺は、美嘉に嘘をついた。
俺の病状は、手術しても治る可能性はあった。
しかし、手術をすれば現場を離れることになる。その上、手術は絶対信用できるものでもなかった。
もちろん美嘉を信用していなかったわけじゃない。だが、二人で協力しなければならなかったのは事実だ。
美嘉が今一番大事な時期だとわかっていたから、俺は手術する道は選べなかった。
俺は愚か者だった。幾程の時間をすり減らしたと自覚している。過ちも繰り返した。
だけど、美嘉をプロデュースしていた時間は、なによりも鮮やかな時間だった。俺の人生の中で一番輝いていた時間だった。
城ヶ崎美嘉という最高のアイドルをプロデュースできたことは、俺の人生の最大の誇りだ。
これからも、俺の誇りであってくれ。
Pより。
美嘉「………ずるいよ」
美嘉「こんなの………こんなのってないよ…」
美嘉「なんで………っ」
美嘉「うわああああああああああああああ!!!」
その日、アタシはむせび泣いた。
人生で一番泣いた。
痛みを、悲しみを、ぬくもりを、優しさを。すべて絞り出すように、泣いた。
翌日、プロデューサーはこの世を去った。
享年24歳。あまりにも早すぎる他界。
事務所のアイドルたちはみんな泣いていた。ちひろさんも、社長も…
悲しみにくれることなく、アタシはレッスンに励んだ。
トレーナーさんは心配してくれたけど、アタシに立ち止まる時間はない。
あの人の誇りであるために。
城ヶ崎美嘉はアイドルとして輝かなければならない。
あの悲劇のプロデューサーが生きていた証を残すために。
美嘉「…という昔話でした」
モバP「俺の先輩は、そんなすごい人だったんだな…」
美嘉「そだよ★ モバPさんももっと頑張らないとね」
モバP「…俺は少しでも、その人に追い付けているか?」
美嘉「ぜんぜん★ だってモバPさんイケてないもん」ケラケラ
モバP「全否定!?」
テレビの上に飾られている、一台のフォトフレーム。
その中にいる、笑顔のアイドル。
寄り添うように、一人の男が隣にいた。
もう重なることのない二つのシルエットが、そこにあった。
終。
08:30│城ヶ崎美嘉