2016年10月20日
佐久間まゆ「もしも時間が戻せたら」
アイドルマスターシンデレラガールズ、佐久間まゆのお話です。
色々あれですけど、大目に見てやってください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466767478
色々あれですけど、大目に見てやってください。
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「もしも時間が戻せたらどうしますかぁ?」
「そうだな……記憶とかはどうなるかにもよるかな」
「記憶はそのままで」
「……じゃあ、俺はプロデューサーにはなってないよ」
「どうしてですかぁ?」
「会いたくない人が居るから」
モバP(以下P)「まゆ……いい加減にしてくれ」
まゆ「まゆは諦めません。Pさんから理由を聞くまでは何度だって言い続けます」
まゆ「まゆはPさんが好きです。まゆの恋人になってください」
P「……無理だ」
まゆ「どうしてですかぁ?」
P「まゆはアイドルだろ? 恋愛はご法度だ」
まゆ「それはPさんの本心じゃないですよね? プロデューサーという職業だからですよね?」
まゆ「それに、まゆがアイドルだからダメだと言うならアイドル辞めます」
P「そんな事したら俺が許さん」
まゆ「……なら、Pさんの本心を聞かせてください」
P「だから……プロデューサーとアイドルはだな……」
まゆ「そうやって誤魔化す限り、まゆは何度だって言いますよぉ。明日も、明後日も、明々後日も、来週も、来月も、来年も、ずっとずっと……」
P「……」
まゆ「まゆのどこがダメなんですか?」
P「まゆにダメなとこなんてない」
まゆ「じゃあ、なんでですか?」
P「……俺は誰も好きにならない」
まゆ「え……?」
P「まゆがどれほど俺を好いてくれようが、俺は誰も好きにならない」
P「プロデューサーになる時にそう決めたから」
まゆ「理由を聞いてもいいですかぁ?」
P「プロデューサーという職業である限り、アイドルとは……すべての商品と公平に接しなければならない」
P「何か一つだけを贔屓するなんて事はプロとしてありえない」
まゆ「まゆは……まゆ達は商品、なんですね……?」
P「ああ、俺が売り出す商品だ」
まゆ「まゆは人間です」
P「人間という商品を売っているんだ」
P「商品が人間である以上、鮮度や旬が大事なんだ」
P「それなのに、プロデューサーが売り出す前の商品に傷をつけて、その価値を損なうなんてありえちゃいけないんだ」
まゆ「……」
P「だから、まゆが俺になんと言おうとムダだ」
P「俺は商品を好きにはならない」
まゆ「そう……ですか……」
まゆ「それが……Pさんの本心、なんですね……?」
P「そうだ」
まゆ「っ……、すみません……今日はこれで失礼します」
P「お疲れ。明日も良い商品であってくれよ」
まゆ「……お疲れ様です」
P「……」
ちひろ「酷いですね」
P「そっちこそ聞いてるなんて酷くないですか?」
ちひろ「私の机の前でされたら嫌でも聞こえちゃいますよ」
P「それもそうですね」
ちひろ「……良かったんですか?」
P「はい。あれくらい言っておけばまゆも諦めるでしょう」
P「それに、これは俺の唯一のプライドですから」
ちひろ「プライド、ですか」
P「そうです。プロデューサーになった時に決めたんです」
P「俺の手元に置いて、俺だけが眺めて楽しむんじゃなくて、すべての人が見て、羨むようなそんな宝石にするんです」
ちひろ「……お仕事熱心ですね」
P「褒め言葉として受け取っておきます」
P(確かにまゆには酷い事を言った)
P(もっとオブラートに包んだ言い方も出来ただろう)
P(だけど、きつい言い方でもしない限り、まゆは諦めてくれなかった)
P(まゆはトップアイドルになって、すべての人の前で輝けるんだ)
P(いや……輝かなければならないんだ)
P(だから……これで良かったんだ)
P「ただいま戻りました」
ちひろ「まゆちゃん知りませんか!?」
P「はい? まゆなら仕事でしょう?」
ちひろ「先方から連絡があったんです!」
ちひろ「調子が悪そうだから撮影を中止にしたそうなんですが、中止と聞いた途端、この世の終わりみたいな顔をしてどこかへ……」
P「っ……!」
ちひろ「ぷ、プロデューサーさん!? どこへ……!?」
P(くそっ……! 俺のせいだ!)
まゆ「一目ぼれから始まった……毎日が夢のようです……」
まゆ(……お仕事、失敗しちゃいました)
まゆ「もっともっと……一緒に居たいなぁ……」
まゆ(商品なら商品らしく、ちゃんとしないといけないのに……)
まゆ「運命の出会いなんて……別に信じてはなかったの……」
まゆ(このままのまゆじゃ……きっとPさんに捨てられちゃう……)
まゆ「……なんて、神様ごめんね……」
まゆ「……ううっ」
まゆ「ごめんなさい……ごめんなさい……」
まゆ(まゆを好きになってもらえないなら……せめて商品として好きになってもらおうと決めたのに……)
まゆ(Pさんが見てくれないって思うだけでこんなにもまゆはダメになっちゃうなんて……)
まゆ「……もう、まゆはいらないですよね」
P「こ、この度は弊社のアイドルがご迷惑をおかけしましたっ……!」
P「はぁ……はぁ……げほっ! ごほっ……!」
カメラマン「いやいや、大丈夫ですよ。それよりも少し落ち着いてください」
P「も、申し訳ありません……」
カメラマン「こっちだってお世話になってますし、人間誰だって調子が悪い時くらいありますよ」
P「そう言って頂けると、非常に助かります……」
カメラマン「今日の撮影が中止になったことよりも、まゆちゃんがどっか行っちゃった事の方が心配で……」
P「……どこに行ったか心当たりはありませんか?」
カメラマン「いや、まったく……。どっかで気分転換してるだけだと思ってスタジオの中は探したんですけどね……」
カメラマン「それに、こういう事ならプロデューサーさんの方が心当たりあるんじゃないですか?」
P「っ……」
P「申し訳、ありません……プロデューサーとしてお恥ずかしいのですが、皆目見当もつきません」
カメラマン「そうですか……まゆちゃんとプロデューサーさん仲良しですから何か知ってると思ったんだけどなぁ……」
P「今日のまゆに何か変わった点はありませんでしたか?」
カメラマン「朝からちょっと調子が悪そうだな、とは思いましたけどそれ以外は特には……」
P「そう……ですか……」
カメラマン「調子が悪そうでも撮影に入ったらちゃんと出来てましたし、なんで急にあそこまでダメになったのか……」
P「……最初は良かったんですか?」
カメラマン「えぇ。さすがはまゆちゃんって感じで、調子悪そうなのを一切見せずに完璧にこなしてましたよ」
P「それが急に、ですか」
カメラマン「そうです。たしか、まゆちゃんがちょっと前面に出てき過ぎだったんで、もっと商品を見せるようにってお願いした後くらいからですね」
P「商品……」
P(昨日の事を引きずっていたのだとしたら……)
P「ありがとうございます!」
カメラマン「何かわかったんですか?」
P「いえ……ですが、こうしていても仕方ないので、とりあえず、この辺を虱潰しに探してみます」
カメラマン「お手伝いしましょうか?」
P「大丈夫です。私の不手際ですから、私がなんとかします」
P「さて……」
P(まゆが行きそうなところ……か)
P(くそっ……! どうしてそんなことすら分からないんだ!)
P「とりあえず、突っ立ってても仕方ない……!」
P(あれこれ考えても仕方ない。今はとにかくまゆを見つけるんだ)
まゆ「……雨、ですねぇ」
まゆ(泣きたいのはまゆの方なのに。どうしておてんとうさまが泣いてるんですか)
まゆ「……あめあめ ふれふれ かあさんが」
まゆ「じゃのめで おむかえ うれしいな……」
まゆ「ピッチピチ チャップチャプ ランランラン……」
P「やっぱりダメか……!」
P(繋がるなんて思ってなかったが、携帯はダメか……!)
P(雨まで降ってきやがったし、早く見つけないと……!)
P「まゆー! どこだー!!!」
まゆ「ふふっ……そういえばPさんと一緒に居たくてふれふれ坊主を作ったこともありましたねぇ」
まゆ「これもそのご利益でしょうか」
まゆ「でも……もうPさんは、まゆの隣には……まゆと一緒には居てくれないんですよぉ」
まゆ(もし、今のまゆを見たらPさんはなんて言うでしょうね)
まゆ(こんなにずぶ濡れで、今にも泣きだしそうな顔のまゆを見たら)
まゆ「心配、してくれるでしょうか……」
まゆ「……大切な商品ですものね。きっとすごく心配してくれますね」
まゆ(まゆとしてじゃなくて、商品としてだとしても、Pさんに心配されるならそれは良いかもしれません)
まゆ「……」
まゆ(でも……)
まゆ「お仕事も満足に出来ない、商品としての価値のないまゆじゃ、ダメ、ですよね……」
まゆ「あらあら あのこは ずぶぬれだ……」
まゆ「やなぎの ねかたで ないている……」
まゆ「ピッチピチ チャップチャプ ランランラン……」
P(まゆ……まゆ……!)
P「一体どこに行ったんだ……!」
P「くそっ……! どうして俺はこんなにまゆの事を知らないんだ! どうしてまゆが行きそうなところすら分からないんだ!」
P「くそっくそっ……!」
P「……!」
P「この声……!」
まゆ(えっと……5番はどんな歌詞でしたっけ……)
まゆ「ぼくなら……いいんだ……」
まゆ(ああ、そうです。こんな感じでしたね)
まゆ「ぼくなら いいんだ かあさんの」
まゆ「おおきな じゃのめに はいってく」
まゆ「ピッチピチ チャップチャプ」
P「まゆっ!」
まゆ「ランランラ……え? P……さん?」
P「まゆっ……!」
まゆ「ど、どうしたんですかぁ……? そんなにずぶ濡れで……」
P「はぁはぁ……まゆこそ、ずぶ濡れだろ……」
まゆ「……すみません」
P「なんで謝るんだ……」
まゆ「まゆは商品なのに、こんな事したら価値が下がっちゃいますよねぇ……」
P「……すまない!」
まゆ「え……?」
P「まゆの事を商品なんて言って、本当にすまない……!」
まゆ「あ、頭上げてください……!」
P「まゆの事をなんにも知らなくて、ごめん!」
まゆ「……まゆの事、知らなかったんですか?」
P「……ごめん」
まゆ「まゆはPさんの事、たくさん、たくさん知っているのに。Pさんはまゆの事知らなかったんですか?」
P「……知りたくなかったんだ」
まゆ「……」
まゆ「……」
P「昨日は偉そうにあんな事言ったけど、まゆの事を知れば、好きにならないわけがないんだ」
P「だから、まゆの事を知るのが怖かった……」
まゆ「好きに、なってしまうから?」
P「あぁ……。俺はプロデューサーになる時に誰も好きにならないって決めたのに、まゆに会ってその決意が揺らいだんだ」
まゆ「……」
P「好きになっちゃいけないって思えば思うほど、まゆの事しか考えられなくなって。しかも、まゆは俺の事を好きと言ってくれる」
P「これ以上踏み込んだら戻れなくなるのが分かってたから、まゆの事を知るのをやめたんだ」
P「あくまでプロデューサーとしてまゆと接しよう、俺として接しちゃいけないって……」
まゆ「Pさんは……まゆの事を嫌いになったわけじゃないんですねぇ」
P「当たり前だろ! 俺はアイドル全員が好きだ!」
まゆ「誰も好きにならないんじゃなかったんですか?」
P「誰かを特別好きにならないんだ」
まゆ「はぁ……そうならそうと言ってください……」
P「……すまん」
まゆ「謝ったって許してあげません。嫌われたと思ったらとっても怖かったんですから……」
P「すまん……」
まゆ「……ちょっと屈んでくれますかぁ?」
P「こうか?」
まゆ「えいっ」
P「あたっ……」
まゆ「今日のところはこれで許してあげます」
P「……頬を叩くだけでいいのか? それも軽く」
まゆ「良いんです。まゆは好きな人に暴力なんてふるえませんから」
まゆ「くしゅんっ……!」
P「このままじゃ風邪ひくな……。タクシー呼ぶよ」
まゆ「はい」
P「……まゆ? どうして腕を組むんだ?」
まゆ「寒いので。タクシー来るまでくらい良いじゃないですか」
P「……タクシー来るまでだぞ」
P「俺だってずぶ濡れだから意味ないと思うんだけどなぁ……」
まゆ(いいんです。まゆはPさんの側に居たいだけですから……)
P「なぁ、まゆ」
まゆ「はい?」
P「俺さ、まゆの事、もっと知りたい」
まゆ「知りたい事、全部教えてあげますよぉ。今までの分も、ぜーんぶ」
P「……ありがとな」
「もしも時間が戻せたらどうしますかぁ?」
「なんか前にも聞かれた気がするな」
「ですね。聞いた覚えがあります」
「……そうだな。前にも言った通り、俺はプロデューサーにはなってないかな」
「そうしたら会えませんよ?」
「会いに行くさ」
「プロデューサーとしてでなく、俺個人として」
「うふっ……じゃあ、待ってなければいけませんね」
「あぁ、待っていてくれ。そうすればもっと早く、まゆを好きになれるからな」
End
17:30│佐久間まゆ