2016年10月27日
篠原礼「シンデレラ・ワルツ」
アイドルマスター シンデレラガールズ
なぞなぞ怖がりお姉さんこと篠原礼さんのSSです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417960879
礼「ワン、ツー、スリー、……ワン、ツー、スリー……」
チクタク、チクタク
暗くて広いレッスンルームに、時計の音がやけに大きく響く
この小さく、それでいて確かな音が、
今は近くに落ちた雷よりも怖いと思うのは、
私の気のせいではないと思う。
レッスンの後、こうして残って自主トレをするようになってからどれくらいになるだろう。
と言っても、お仕事のためのトレーニングじゃない。
礼「……ふぅ、やっぱりワルツのステップは一人じゃ限界があるわね」
ずっと続けている社交ダンス。
この仕事を始めてからは毎週のようにレッスンすることもできないので、
こうして空いた時間で練習している。
いえ、それはきっと後付けね。
最初の話に戻るけど、私はやっぱり怖いのだとおもう。
全てを押し流していくような時間の中で、何もせずに過ごすことが。
それでも私に出来ることと言えば、
こうして隠れるようにしてトレーニングすることぐらいなのだけど。
だけど、そんな漂うように流されることを良しとしない姿勢を『美しい』と言ってくれた人がいる。
見えないところで努力する気高い白鳥のようだと、言ってくれた人がいる。
だから私は今日もステップを踏み続ける。
あの扉が開くまで。
ガチャッ
モバP「やっぱりここでしたか、礼さん」
彼が扉を開けてくれるまで。
P「熱心なのはいいですけど、皆もう移動しちゃってますよ」
礼「これだけは毎日やっておかないと落ち着かないのよ。
それに……」
P「それに?」
礼「こうして最後まで残っていれば、P君が迎えに来てくれるでしょう?」クスクス
P「あのねえ礼さん……」
礼「ふふふ……それじゃあ着替えてくるわね」ガチャッ
皆待っている、か……
そう、分かってる。
皆、私より先を行っていること。
……私が、皆を待たせていること。
………
……………
…………………
ガチャッ
礼「お待たせ」
P「あ、準備できました……って礼さんそれ」
礼「ふふ、やっぱり悪くないわね、これ」
http://i.imgur.com/yqzUrJk.jpg
肩や背中が大胆に開いたデザインに、
全身にあしらわれた紫色のバラ。
それは、彼が私の為に用意してくれた衣装だった。
P「ええ……とても似合っています」
礼「ありがとう。貴方にそう言ってもらえるのが一番うれしいわ」
P「!」
あっ、少し赤くなった。
P「かっ、からかうのはやめてください!」
礼「からかうだなんてそんな。これは本音よ?」
P「またそんな冗談ばっかり……」
礼「……まぁ、そういうことにしておきましょうか」クスクス
冗談だなんてとんでもない。
これは私の心からの言葉だ。
P「そ、そろそろ行きましょうか!皆移動しちゃってますし……」
礼「待って、P君」
P「えっ?」
そう。私はいつも本心を隠さず見せることにしている。
それが彼を引き留める最良の方法だと知っているから。
礼「折角だから、ここで少し踊って行かない?」
私は、わがままな女なのだ。
………
……………
…………………
〜〜〜〜〜〜♪
礼「ワン、ツー、ターン…ワン、ツー、スロー……そう、上手いじゃない」
P「こうですか?……おっとと」
礼「リバースターンは……こうよ」スッ
P「は、はい」
礼「そうそう……ふふふっ、本当に筋がいいわ」
P「でも大丈夫かなあ……もうパーティ始まっちゃいますよ?」
礼「大丈夫よ、あとすこしだけだから……それに」
P「?」
礼「あなたに、このドレスをちゃんと見せたいの。あなたが着せてくれたこのドレスを」
P「礼さん……」
礼「ねえP君、私はちゃんと輝いているかしら?
貴方の隣にふさわしいアイドルでいられているかしら?」
私にはハチミツのような甘さも、仔猫のような愛らしさもない。
そんな私でも、
礼「もう一度、あのステージで輝くことができるかしら?」
P「もちろんです」
礼「!」
彼が私の問いに力強く答えた。
P「これっきりになんて絶対にさせません。
一度と言わず、何度だって行くんです。
そして世界に叫ぶんですよ。
これがアイドル『篠原礼』だ、ってね」
礼「……そうね」
私がそう答えるのと同時に、曲が止んだ。
もう、ダンスは終わりだ。
礼「……終わっちゃったわ」
P「ですね。………じゃあ、そろそろ」
礼「ええ、行きましょう………ねえ、P君」
P「何ですか?礼さん」
礼「ワガママなのは重々承知してるわ。だけど、一つだけ約束して?」
P「約束、ですか?」
礼「ええ。
……私のこと、ちゃんと見ていて。目を離さないで。そうしたら……」
―――そうしたら、私はいつまでも踊ることができるから。
P「……当たり前じゃないですか。もちろんですよ」
礼「ホントに?」
P「本当です」
礼「ホントにホント?」
P「本当に本当です」
礼「……今ちょっとコイツめんどくさい女だなって思わなかった?」
P「何言ってるんですか、めんどくさい女最高じゃないですk……あっ」
礼「……やっぱりね」
P「あああああああ!礼さん、今のはそういう意味ではなく、
本当に礼さんは魅力的だなってことで……」
礼「そう、私はP君にとってめんどくさい女なのね……」ツーン
そう言って、そっぽを向いて拗ねたふりをしてみる。
P「れ、礼さん!」
そうやって、彼の気を引いたところで、
礼「………スキあり」ガバッ
P「へ?うむっ……!?」
礼「ん……」
彼の首に腕を回し、
不意打ちをお見舞いしてやった。
P「ぷはっ!れ、礼さん一体なにを!」
礼「いきなりごめんなさい。まあ、契約書の代わりだと思ってうけとって?」
P「そう言うことじゃなくて!」
礼「……いやだったの?」
P「そ……そんなことはないですけど……
どこもかしこもやわらかくて……ってそういう問題でもなくて!!」
礼「まだ足りないの?欲しがりさんねえ、私みたい」クスクス
P「礼さん!!!」
暗い事務所のレッスンルーム。
私はそこで小さくて、けれどとても大切な約束を交わした。
貴方と踊った、ワルツと共に。
おしまい
21:30│篠原礼