2016年11月10日

藤原肇の幼馴染

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。



よろしくお願いします。



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『幼馴染』



世間じゃよく、男女の幼馴染は羨ましがられるものらしい。



家が隣同士で、毎朝起こしに来てくれたり、親の代わりに飯を作ってくれたり、なにかと世話を焼いてくれるもの、らしい。



そう、高校の同級生たちが話しているのをよく聞く。



まぁ、物語の中の幼馴染って言ったらそんなもんなんだろう。



実際いたら、確かにありがたいものかもしれない。

同級生に話したことはないが、俺にも幼馴染、女の幼馴染がいる。



いや、いた、と言うべきか。



ただ、そんないい思いは、1度も体験したことはなかった。



だから、それに憧れる気持ちは、よくわからなかった。



――――――――――



最初に会ったのはガキの頃、小学一年の時だった。



初めての夏休み、カブトムシを捕まえに行こうと、入学祝いに買ってもらった自転車で、近くにある山へ行った。



2時間くらい山の中を探し回って、持ってきた水筒も空になる頃、ようやく一匹、オスのカブトムシを見つけた。



あと少しで虫取り網が届かない所にとまっていたそいつに苦戦していると、突然上から伸びてきた手が、ひょいと掻っ攫っていってしまった。

突然のことに呆然としていると、頭上から



「ねぇキミ、カブトムシ探してるの?」



と、声が降ってきた。



ぽかんと口を開けたままその言葉に頷くと、声の主はカブトムシを持ったまま器用に木を降りてきて、



「じゃあ、もっといっぱいいるところ、連れてったげる!」



と、にかっと笑った。



それがあいつとの出会いだった。

――――――――――



俺より少し背の高かった「ハジメ」と名乗ったそいつは、山の中を駆け回った。



やれあっちには何がいて、向こうには何がいて。



俺も喉がカラカラなことも忘れて夢中でついて走った。



さすがにヘトヘトになって、すっかり日も暮れた頃には、虫かごの中はいっぱいになっていた。

「なぁ、お前、明日も暇か?」



「うん。」



「じゃあさ、明日も来るからさ!また案内してくれよ!」



「わかった!約束、だね!」



「おう、約束だ!」

そう言って、手を振って別れた。



帰って虫かごを家族に見せ、新しい友達が出来たんだと報告した。



興奮した様子で語る俺の話を、みんな嬉しそうに聞いてくれた。

――――――――――



翌日からは毎日、山へ通った。



ハジメは山の中を全部知り尽くしているんじゃないかってくらいに、色んなところへ案内してくれた。



見せてくれるもの全てが新鮮で綺麗で、楽しかった。



ただ、山道を駆け上がるのも、川での水切りも、木登りも、勝負しても一度も勝てたことはなかった。





ハジメの家にも行った。



あいつの家には、頭は真っ白だけどめちゃめちゃ怖そうなじーちゃんと、しわくちゃだけどとっても優しそうなばーちゃん。



とても明るくて、大きな声でよく笑うかーちゃんがいた。



とーちゃんは仕事で忙しいみたいでいつもいなかった。

初めてあいつの家に行った時、じーちゃんは土を弄っていた。



泥団子でも作ってるのかと思っら、ハジメが説明してくれた。



なんでも、ハジメのじーちゃんは「トーゲーカ」で、「ビゼンヤキ」の「カマモト」らしくて、とっても偉い人なんだそうだ。



ハジメもいつかじーちゃんみたいな「トーゲーカ」になって「ニンゲンコクホー」になるんだ、とか意気込んでた。



じーちゃんの事を話すハジメはとても得意げで、こいつがじーちゃんのことが大好きなんだっていうのが伝わってきた。

あいつの家に遊びに行ったときは、ゲームとかはなかったとけど、ばーちゃんが色んな遊びを教えてくれた。



おはじきとかお手玉とか、どれも特別面白いとは思わなかったんだけど、ばーちゃんが褒めてくれるとなんだか妙に嬉しくなって、不思議とのめり込んだ。



たまにじーちゃんのマネをして土いじりもやらせてもらった。



一度「コーボー」に勝手に入った時は目が飛び出そうなゲンコツをもらったけど、土を弄っている時の真剣な顔はかっこよくて、少し憧れた。



――――――――――



そうやって、過ごした初めての夏休みは、あっという間に過ぎていった。



夏休みの最後の日、ある約束をした。



「また、遊びに来るからな!」



「うん、待ってる。」



「約束だぞ!約束がある限り、俺たちは『シンユウ』だからな!」



本当は、もう会えなくなるかもって、少し寂しかったけど、「約束」があれば、また会える気がしたから。

だから次の日、始業式の体育館で、隣のクラスの列にハジメを見つけた時は嬉しかったし驚いた。



「お前、学校一緒だったんだな。」



「そうだよ。知らなかったの?」



「見たことなかったからな。」



「えーひどい。わたしは知ってたから声かけたのに。」



「あともう一つ。お前、女だったんだな。女子の列に並んでてびっくりした。」



「……それ、どういう意味?」



「ずっと、男だと思ってた。『ハジメ』なんて名前で、いっつもズボンだったし。駆けっこも木登りも、一度も勝てなかったし。」



「…………。」



「『わたし』っていうのも変だとは思ってたんだけど……あれ、どうした?」





黙っているから気になって見てみたら、すごいふくれっ面になっていた。



こいつはへそを曲げると頑固でなかなか治らないから大変だった。

――――――――――



学校でも一緒にいることが多くなった。



クラスが一緒になっても離れても、しょっちゅうあいつのところに遊びにいった。



だんだんと背も伸びて力もついてきた。



駆けっこでも木登りも、ハジメに少しずつ勝てるようになっていった。

でもハジメは負けず嫌いだったから、あいつが勝つまで勝負は続いた。



結局最後は俺が負けて、得意げな顔をするハジメに、次は負けないと思いながらも、ふたりで笑いあっていた。



毎日が楽しかった、そんな中学年のある日。



ハジメの、ばーちゃんが亡くなった。

――――――――――



俺は、ハジメのかーちゃんに葬式に呼んでもらえた。



怖かったじーちゃんが、うっすらと涙を浮かべていて、



泣いたところを見たことなんかなかったハジメがわんわん泣いていて、



あのしわくちゃのばーちゃんにもう褒めてもらえないんだと思うと、



俺も涙が止まらなかった。

葬式が終わっても、ハジメはまだ泣き止まなかった。



そんなあいつを慰めながら、いつの間にか背もすっかり追い越して、俺の方が大きくなってることに気づいた。



これからは、小さなこいつを俺が守ってやらなきゃ。



もうこんな悲しい思いはさせちゃだめだ。



そう、思った。

――――――――――



でも、6年生、もうすぐ卒業って時に、ある事件が起きた。



きっかけは、小さなことだった。



俺がクラスメイトと喧嘩をして取っ組み合いになった時、ハジメが止めに入った。

「なんだよお前!いっつも二人でくっついてやがって!『フーフ』かよ!」



急にからかわれたハジメは恥ずかしかったのだろう。



赤くなってうつむいてしまった。



でも、頭に血が上っていた俺はカチンと来て



「だ、だれがこんなやつなんかと『フーフ』なもんか!」



反射的に、そう言い返してしまった。

はっとした時には、遅かった。



ハジメは、ひどくショックを受けていた。



見る見るうちに目に涙が溜まっていった。



違う、俺はそんなことが言いたかったんじゃなくて。



俺とお前は『シンユウ』だから、そんなんじゃないんだって。



言おうとしたけど、上手く言えなくて。

またこいつにこんな顔ををさせてしまった。



させないようにと思っていた、俺が、させてしまった。



その事実に、押しつぶされそうになった。

結局何も言えず、逃げ出すように、教室を飛び出してしまった。



あの顔を、見ていることが出来なかった。



そのまま、気まずくなってしまって、卒業まで一言も話さなかった。

――――――――――



中学に上がっても、同じクラスになることはなかった。



制服の違いで、いやでもあいつが女だって意識させられて、あの事を思い出してしまう。



廊下ですれ違っても、目を合わせられなかった。



向こうからも、声をかけてくることはなかった。



それっきり疎遠になり、俺たちは別々の高校に進んだ。



――――――――――



高校に上がって最初の夏休みのある日。



自室でぼーっとしていると、ふいにケータイがなった。



見ると、知らないアドレスからのメール。



誰だろう、と思って開こうとしたとき、件名を見て指が止まった。





『Title:藤原肇です』





あいつから、メールがくるとは思ってなかった。



そもそも、3年ちかくまともに口をきいていないし、アドレスも教えてなかった。



それが、今更何の用だろう。



おずおずと、メールを開いた。

――――――――――



『Title:藤原肇です。



本文

お久しぶりです。



急なメールでびっくりしたと思います。



連絡先は、中学の時の友達に聞きました。



勝手なことをしてごめんなさい。



迷ったけど、やっぱりキミには、伝えておかなきゃと思ったので。

今日、東京に行きます。



東京へ行って、アイドルになります。



学校も、向こうの高校に転校することにしました。



忙しくなるだろうし、しばらくはこっちにも戻ってこられないと思います。



どうか、お元気で。』

――――――――――



メールを読み終わった途端、家を飛び出していた。



あいつが、東京に?



アイドルになる?



まるで理解が追いつかなかった。



まったく訳が分からない。



けど、このまま行かせたら、このまま別れたら、絶対に後悔すると思った。



急いで駅に向かった。



走りながら、ハジメに番号を教えたという女子に連絡し、あいつの番号を教えてもらう。



何度も躓きそうになりながら、電話をかける。



10回目のコールで、ハジメが出た。

「……もしもし?」



「ハジメか!?お前、何時に行くんだ!?」



「えっ?えっと、11時だけど…」



「11時だぁ!?ギリギリだな…今から行くから待ってろ!」



「えっ!?ちょ…」



手短に、用件だけ伝えると、電話を切った。



とにかく、急いで、夢中で走った。

駅に着いたのは、出発の10分前だった。



何とか間に合った。



ゆっくり息を整えながら探し回って、ようやく、見つけた。

見送りには、ハジメのじーちゃんとかーちゃんも来ていた。



ハジメの隣には、スーツ姿の男が立っていた。



20代半ば、くらいだろうか。

ハジメの家族に頭を下げ、それから、ハジメに向き直った。



ハジメは、家族と男に一言二言話すと、こっちに歩み寄ってきた。

しばらく、お互い無言だった。



長い間話もしていなかったから、いざ向き合うと言葉が出てこなかった。



どれくらいそうしていたか。



やがて、ハジメがゆっくりと口を開いた。

――――――――――



「……来てくれるとは思ってなかった。びっくりしちゃった。」



「びっくりしちゃったじゃねぇよ。驚いたのはこっちだ。いきなりメールなんかしてきやがって。」



「……そう、だよね。ごめんね、勝手なことして。」



「……行くのか、東京。」



「うん、アイドルに、なるの。」



「なんだよそれ。お前、『トーゲーカ』になって、『ニンゲンコクホー』になるんじゃなかったのかよ。」



「……そうだね、キミにはそう言ってたよね。でも、決めたんだ。」



「…………。」



「私ね、あれから、臆病になっちゃったんだ。」

「当たり障りのないように、波風立てないように。」

「誰とも揉めないように、大人しく過ごしてたの。」



「…………。」

「陶芸は、ずっと続けてたよ。おじいちゃんに教わって、少しは、あの頃よりも上手くなった。」

「でも、やっぱりだめだった。前におじいちゃんに言われたんだ。『お前が作る器は、無難すぎる。面白味がないって。』」

「陶芸っていうのは、作り手の心が器にも表れるから。臆病になったのが、そのまま器にも出るようになっちゃったんだ。」

「だから、このままじゃダメだって、変わらなきゃって思ったの。」



「……そっか。」

「ちょうどその時にね、プロデューサーさんが、あのスーツの人なんだけど、お仕事でこっちに来た時に、たまたま見かけた私に声をかけてくれて。」



「……よく、あのじーちゃんが許したな。」



「説得するのは大変だったよ。でも、最後にはわかってくれた。」



「……そっか。お前もじーちゃんに似て頑固だもんな。」



「……ひどいなぁ。」



「じーちゃんが許したんなら、俺から言えることは何もねーや。でも一つ、約束しろ。」



「……約束?」

「あぁ。絶対に負けんじゃねぇぞ。一番になれ。」



「……うん。」



「もし途中で逃げ帰ってきてみろ。そんときゃじーちゃんの前に俺がぶっとばしてやる。」



「……うん。」

「その代わり、向こうでお前が頑張ってる限り、俺はずっとお前を応援する。約束だ。」



「……うん。」



「約束がある限り、俺たちはずっと『シンユウ』だ。」



「!……うん!」

「…あんときゃ、悪かった。ずっと、謝りたかった。」



「……うん、もういいんだ。ありがとう。」



「……向こう行っても、元気でな。」



「……キミも、ね。」

――――――――――



お互い、少し涙目になってたけど、泣かないで、笑顔で見送った。



プロデューサーって人に頭を下げて



「ハジメのこと、よろしくお願いします。こいつ、泣き虫だから。」



って言ったら怒って叩こうとしてきたけど。



ハジメのじーちゃんとかーちゃんと、3人で小さくなっていく電車を見送っていると、不意にじーちゃんに頭をがしがしと撫でられた。



「たまにはお前も、顔を見せに来い。」



って言ってくれたのが、嬉しかった。

――――――――――



『もう、大丈夫か?』



『何がですか?』



『いや、お祖父さんを説得できたって言ってた時も、どこか浮かない顔をしてたから。』



『……そうですね。もう心残りはありません。』



『そうか。いい友達だな。』



『はい、私の、自慢の「シンユウ」ですから。』



『そうか。』



『プロデューサーさん。』



『ん?』



『――私、絶対、トップアイドルになりますね。』



『あぁ。そうなってくれなきゃ、俺も困る。……頑張ろうな。』



『……はい。』



――――――――――











――――――――――

あれから1年が経った。



教室で男友達数人とだべっていると、一人が突然、



「あー、幼馴染っていいよなー!」



って言いだした。



そいつの手にはアイドル誌が。

「なんだ急に。あー五十嵐響子ちゃんか。この子可愛いよなー。」

「だろ!?こんなかわいい幼馴染に、毎日お世話されたかったー!」



「幼馴染、ねぇ…」



こいつらのいう幼馴染は、俺が思っているものとは違った。



まぁ確かに、そんな世話してくれる子がいたら、ありがたいものかもしれない。



こいつらに話したことはなかったが、俺にも幼馴染、女の幼馴染がいる。



いや、いた、と言うべきか。



今は東京で頑張っているそいつ。



そいつとは、こいつらが言うようないい思いは、1度も体験したことはなかった。

「おっ、次のページの子も可愛いじゃん。」

「ホントだ、初めて見た。へー、岡山出身なんだこの子。」

「こっちにこんなかわいい子いたんだな。名前は?なんてーの?」



「藤原肇、だよ。その子の名前。」



「何だよ、お前詳しいな。」

「普段こういうの興味ない顔してるくせに、しっかり調べてんじゃねーかこのムッツリめ。

「知ってるも何も」



だけど。



「そいつ、俺の『幼馴染』だし。」



たまには、自慢させてくれてもいいだろ?



なぁ、シンユウ。





21:30│藤原肇 
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