2016年12月06日
速水奏「小松菜伊吹」
伊吹「はいはい、急かさないでよ。まだ部屋入っただけなんだから」
奏「そうは言っても、部屋に招いて晩ご飯をご馳走してくれるって言ったのはあなたじゃない」
伊吹「部屋に来ない?って誘ったのはアタシだけど、そこからご飯うんぬんに持って行ったのは奏でしょ」
奏「そうだったかしら」
伊吹「そうだよ」
奏「記憶にないわね……確か、昼間のやり取りは」
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昼
奏「そういえば、伊吹ちゃんは料理できるのよね」
伊吹「まあまあ、だけどね」
奏「バレンタインのイベントで、一緒にお菓子作りしたことあったわよね。あの時、意外に器用だと思ったのよ」
伊吹「意外とは心外だなー。アタシは普通に器用だぞ。あれからちょこちょこ料理の練習してるし」
奏「でも、手先を細かく使う作業は好きじゃないでしょう」
伊吹「音ゲーは手じゃなくて足でやらせろ派!」
奏「ね?」
伊吹「まあ確かに、調味料の分量とか割とテキトーだけど」
奏「それ、味は大丈夫なの?」
伊吹「んー、たぶん?」
奏「気になるわね……」
伊吹「疑り深いなぁ」
奏「確かめればはっきりわかるんだけど」
伊吹「そこまで言うなら、今日確かめてみる?」
奏「あら。もしかして、今日部屋に遊びに行くついでに手作りのご飯をご馳走してくれるのかしら」
伊吹「やったろーじゃないの!」
奏「こんな感じだったわ」
伊吹「……なんか、どっちもどっち?」
奏「そうね。言うなら、二人で作り出した流れの結果が今」
奏「どちらがどうというものではないわ。私とあなたが、互いに言葉を重ね合わせて」
伊吹「あ! 食材足りない!」
奏「………」
伊吹「あ、ごめんごめん。ちゃんと聞いてたからむくれないで」
奏「べつにむくれていないわ」
奏「ちなみに、うっかり伊吹ちゃんは何の食材を買い忘れたのかしら」
伊吹「うっかり伊吹ちゃんって……小松菜だよ、小松菜。おひたし作ろうと思って」
奏「ヘルシーね」
伊吹「栄養バランス考えないと。あ、ちゃんとお肉もあるから安心してね」
奏「別にお肉がなくても私は構わないけど」
伊吹「と言いつつ頬緩んでるぞ〜」
奏「………」
伊吹「奏ってさ、案外食べ物に対しては素直だよね」
奏「……そうかもしれないわね。ふふっ」
伊吹「じゃあ、ちゃちゃっと買ってくるから部屋で待ってて」
奏「ええ」
伊吹「いってきまーす」
ガチャ、バタン
奏「………」
奏「小松菜伊吹……」
伊吹「今すっごいくだらないこと言ってなかった?」ガチャリ
奏「言ってないわ」シレー
その後
伊吹「ふんふんふーん♪」
奏「手慣れてるわね。鼻歌が出る余裕があるんだ」
伊吹「まあね! 何事も慣れだよ、慣れ!」
伊吹「ふーんふんふん♪」
伊吹「ふんふん、あ、砂糖ちょっと入れすぎたかも」
伊吹「ふんふんふーん♪」
奏「鼻歌の間奏に不穏なフレーズが聞こえたんだけど」
伊吹「大丈夫だって。いつも分量は感覚で調整してるし」
奏「……信じるわ」
伊吹「Pはいつもおいしいって言ってるし、大丈夫だよ」
奏「Pって、あなたのプロデューサーよね」
伊吹「うん」
奏「……ふうん。『いつも』と表現できるくらいには、彼に手料理を振舞っているのね」
伊吹「………」
伊吹「べ、べつに深い意味はないんだけどね。練習を手伝ってもらってるだけだから!」アセアセ
奏「『エプロン姿、似合ってるぞ』と言われてうれしい思いをしたりしなかった?」
伊吹「なんだよエスパーか!」
奏「やっぱり」
奏「そこに立ててあるの、スケボー?」
伊吹「そうだよ。使う?」
奏「使うといっても、屋内じゃ無理でしょう」
伊吹「そうなんだけどさ。この辺じゃ、外でも満足に滑るだけのスペースってないしねー」
伊吹「実家の近くだと、案外そういう場所があったりするんだけど」
奏「伊吹ちゃん、確か茨城出身だったかしら」
伊吹「うん。奏は生まれも育ちも東京の都会っ子でしょ? いいなー」
奏「羨ましがられるほどのものでもないわ。都会は都会で不便なところもあるんだから」
伊吹「それは贅沢を知ってるから言えるんだぞ〜。いったん田舎ってものを知れば、恵まれてるってわかるんだから」
奏「そういうものかしら」
伊吹「そうそう。なんなら、今度うちの実家にでも来る? そしたらわかるよ」
奏「あら、いいの? お呼ばれして」
伊吹「たまには親にも顔見せないといけないし、一回帰ろうかなって思ってたんだ。オフが合った日にでも、どう?」
奏「そうね……せっかく誘われたのなら、行ってみようかな」
伊吹「じゃ、決まり!」
奏「楽しそうね」
伊吹「友達を自分の家に連れて行くのって、なんだかわくわくするし!」
伊吹「まあ、アタシの実家、そこまで田舎ってわけじゃないんだけどね」
奏「ちょっと。それ、単に私を誘いたかっただけってこと?」
伊吹「へへっ。たまには、誰かさんみたいにからめ手使ってみようかなって」
奏「まったく……誰のことかしら」フフ
伊吹「さあね♪」
伊吹「あ、そうだ。アレ取ってくれない?」
奏「アレって?」
伊吹「だからアレ……あ、そうだ。今日は奏なんだった。おしょうゆとってくれない?」
奏「あなたのプロデューサー相手だと、『アレ』で通じるのね」
伊吹「まあね。何度も手伝ってもらってるし」
奏「ふうん」
奏(こまツーカー伊吹……)
伊吹「すっごいくだらないこと考えてない?」ジトー
奏「そんなことはないわ」シレー
その後
伊吹「というわけで、完成! さあさあ召し上がれ」
奏「いただきます」
奏「………」モグモグ
奏「おいしいわね、この肉じゃが。いい具合に汁が中まで通ってる」
伊吹「でしょ? 結構自信あったんだ」
奏「伊吹ちゃんは家庭的、というイメージが強まったわ」
伊吹「へへっ。それじゃあ、アタシもいただきまーす」
奏「私も最低限はできるつもりだけど……料理、たまには勉強してみようかな」
伊吹「いいんじゃない? 料理ができると、好きな人へのアピールにもなるし」
奏「……どうしていきなり、好きな人ってフレーズが出てきたのかしら」
伊吹「さあ? 奏のプロデューサーさんとかは、特に関係ないんじゃない?」
奏「今夜の伊吹ちゃん、少し意地悪ね」
奏「夜だから、はしゃいでる?」
伊吹「そういうわけじゃないけど……奏を部屋にあげたの、結構久しぶりだし。テンション上がってるのは確かかもね」
奏「そう。一応、喜んでおくわ。伊吹ちゃんのお気に入りってことだろうし」
伊吹「お気に入りっていうか、友達だしね」
伊吹「……ところでさ、前から言おうと思ってたんだけど」
奏「なに?」
伊吹「奏って、なんでアタシのこと『ちゃん』付けで呼ぶの? 年上でも、美波とか文香とかは呼び捨てなのに」
奏「どうしてって……改めて聞かれると、そうね」
奏「だって伊吹ちゃん、可愛らしいから」
伊吹「可愛らしいって……年上なんだから敬え〜?」
奏「そういう間柄でもないでしょ?」
伊吹「まーね♪」
奏「でも、そうね。たまには、あなたのことを年上としてリスペクトしてみようかしら」
伊吹「お? それはそれでくすぐったいかも――」
奏「伊吹先輩。高校の宿題、教えてくれないかしら? 数学と英語」
伊吹「高校の勉強は管轄外です」
奏「あなた高校卒業してるのに?」
伊吹「もう忘れた! 体育なら教えてあげられるよ!」
奏「じゃあ、保健体育で」
伊吹「やっぱりリスペクトゼロだこの後輩……」
奏「そうかしら」クスクス
奏「……そうね。なら、人生の先輩に質問してもいい?」
伊吹「ん?」
奏「将来のこととか、どうしようかなってたまに考えるんだけど」
伊吹「将来? あー、そうだよね。ぼちぼち卒業後のこととか考える時期だよね」
奏「一姫二太郎という言葉があるけれど、あれって事実なのかしら」
伊吹「子供の順番の話!? どんだけ先のことを考えてるの!?」
奏「備えあれば憂いなしと言うじゃない」
伊吹「限度があるでしょー、限度が」
奏「それで、どうなの? 伊吹ちゃん的には」
伊吹「え? アタシ?」
奏「そう」
伊吹「アタシは……そうだなあ」
伊吹「子供は、結婚したら早めに欲しいかな。世話するのとか、結構好きだし。性別は……んー、ここはどっちでもいいかな。人数は、3人くらい?」
伊吹「旦那に家事はさせたくないし、子供が生まれたら専業主婦かな。共働きもありだとは思うけど」
伊吹「あ、そうそう! ハネムーンは、できるだけいろんな国を巡ってみたいな。それで」
伊吹「……はっ!?」
奏「………」ニヤニヤ
伊吹「あ、いやその、これは」
奏「私、新婚旅行の行先までは聞いてないんだけど……面白そうだから、存分に語ってちょうだい」
伊吹「お、終わり! この話終わりだからっ!」カアァ
奏「子待つな伊吹」
伊吹「か〜な〜で〜!!」
奏「小松菜のおひたし、おいしいわ」フフッ
後日
奏「………」ペラッ
ガチャリ
奏「あら。おはよう、Pさん」
奏「ああ、これ? 料理の雑誌を読んでいたのよ」
奏「最近、ちょっと挑戦してみようかなと思っていて……」
奏「よかったら、今度練習に付き合ってもらえる?」
奏「……え? なんの料理を作るのかって? そうね」
奏「……とりあえず、小松菜を使ったなにか、かしら。ふふっ!」
おしまい