2016年12月07日

喜多見柚「ナイショのお願いゴト」

「今日はありがとね、Pサン。アタシすっごく楽しかった!」



「そりゃ何よりだ」



本日12月2日はなんと柚の誕生日!





だからPサンが……ううん、みんなが柚のことを祝うためにバースディパーティを開いてくれたのだ!



ケーキもあったし、プレゼントもたくさんもらったし……へへっ、本当に幸せだった!



……で、今はその帰り道。



誕生日特権だ、なんて言われてPサンの車で送迎してもらっちゃってるんだー。



だから、今はアタシとPサンの二人きり。



助手席に柚が座って、運転席にはPサンが座って、後ろには誰もいない……二人っきりの空間。



……だから、あの話だって遠慮なくできちゃうよね。



ちょっと恥ずかしいケド、へへっ。



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「ね、Pサン。アタシの誕生日のお願いゴト聞いてくれる?」



Pサンが持ってきた誕生日プレゼントはひとつだけお願いを聞くってものだった。



もちろん俺にできる範囲でだけど……なんて言われちゃったけどね。



アタシそんな無茶なお願いする子に見えたのかな?



うーん……ま、いっか。



「……そういえば今は二人きりだな」



「うん! 二人きりのときに教えてあげるって言ったから、今教えてあげる!」



Pサンにお願いをひとつ聞くって言われた時から答えは決まってたんだけど……それを言うにはちょっと勇気が必要だったの。



恥ずかしがり屋サンの答えだから、でたくないーって心の底にずっと引っ付いてるんだー。



「すぅ……はぁ……」



だから一回深呼吸……こうして心を落ち着けたら、すっと言葉が出て――



「えっとね、Pサン」



――こない。



だって恥ずかしいんだもん……こんな気持ち笑われちゃうかも。



でもでも、せっかくの機会なんだから……伝えなきゃ……うん!



「柚のお願いゴトは――」



胸がドキドキしてる、いつもライブ前に感じるものとは別の。



ワクワクーってカンジじゃないの、ドキドキしてるの……うへー。



続く言葉を言っちゃったら心臓が胸から出てきちゃうじゃないかってくらい、ドッキドキ!



でも、続けるよっ。



どんなに恥ずかしくても……怖くても、続けるよっ。



「――Pサンにずっとプロデュースしてもらうコト!」

言った、言っちゃった。



口からその言葉が出た後、アタシの中の空気が全部出て行っちゃうような感覚がした。



柚がしぼんじゃうー!



「そうか……」



「……おかしかったカナ?」



きっと今のアタシの顔はまっかっか。



へへ、運転中でよかったかも……Pサンこっち見れないもんね。



もしも見られちゃったら……ひゃー!



「いやおかしくなんかないさ。ただ……それだけでいいのか?」



「うん!」



「……そうか」



プロデューサーさんが返事をしてから、車の中はちょっと静かになっちゃう。



うえー……何か変なカンジ。



伝えることは伝えたのに、まだ胸がドキドキってしてる。



アタシの胸の音がプロデューサーさんに聞こえちゃうんじゃないカナってくらい、どきどきって。



これはなんだろう……もっと続けろってアタシの心が言ってるのかな?



……うん、今の流れだともう少したくさん話せちゃうかも。



それじゃ、ちょっとがんばってみようかな……なんて。



柚の心にまで応援されちゃってるんだから、へへっ。



「アタシね、Pサンに出会えたこと運命だと思ってるし、奇跡だと思ってるんだ」



「退屈なアタシに神様がくれた、クリスマスプレゼントだーってずっと思ってる!」



たくさん言葉がこぼれてく……柚の本心が外にいっぱい出て行く。



ひゃー……こんな恥ずかしいこと今じゃなかったら話せないよー!



「そんな大げさな」



「大げさなんかじゃないよっ!」



そう、大げさなんかじゃないの!



目を閉じればいつでも思い出せる……あの日のコト。



面白いことを探してたら、本当に面白いことに出会っちゃった、不思議で面白い日の話!



その日はクリスマスで……何か面白いことないかなーって、街を出歩いてたあのときのこと。



……あの頃は、たぶん柚史上イチバン退屈だったなー。



バドミントン部も引退して、受験勉強も始まって……みんな忙しくなってあんまり遊ばなくなっちゃって。



ううん、柚もちゃんと勉強してたんだよ……こんなにも勉強苦手なのに。



やっぱり高校には行かなきゃだったから、それなりなトコに入れるように、それなりにがんばってたの。



……でもやっぱり、退屈で……ちょっとした気分転換で街を歩いてたら。



Pサンにスカウトされちゃったんだよね、へへっ。



「アタシ、Pサンにスカウトされてから世界が一気に変わっちゃったんだから!」



そう、それからのアタシは今までのアタシと違う……ニュー柚になったのだ!



受験もあったからすぐにアイドルになることはできなかったケド、そういうのが全部終わってからアタシはアイドルを始めて……そしていろんなコトがあった。



へへっ、高校デビューとアイドルデビューを一緒にしちゃうなんて、面白いよね!

「アイドルになってから毎日が面白かったんだ」



「楽しいことだけじゃなくって……つらいことや悲しいこともたくさんあったけど」



「それも含めて、全部面白かった!」



ずっと順風満帆ってわけじゃなかったケド。



レッスンがうまくいかなかったり……ライブで失敗しちゃったり……柚だってちょっと落ち込んじゃうことは何回もあったもん。



でもそういうことがあったから、成功したときの楽しさがすごかった!



それで、そのたびに思うんだー……アイドルって面白いって!



「すごいんだよ、アイドルって!」



「面白いこと無いカナ……なんて探す必要が無いくらい、面白さであふれてるんだよ!」



「ははっ、そういってくれると俺もスカウトしたかいがあるよ」



「最初はすっごいびっくりしちゃったけどねー……急にアイドルにならないか、なんてスカウトされるんだもん」



不審者サンかと思っちゃったし!



「……悪かったな」



「ううん、ぜんぜん!」





「アイドルになってたくさんの仲間にも会えて……いっぱいのファンもできて……アタシ、毎日が面白くて楽しいんだー♪」



「こんな毎日がずっと続けばいいのって思ってるくらい!」



あのままのんびり学生を続けても、こんな気持ちには絶対なれなかったはず……ううん、なれなかった!



みんなと出会うことなんてなかっただろうし……ステージで歌うことも絶対なかった!



いつものアタシならステージで歌うんじゃなくて、やるとしても照明係とかやってるもん。



ホントに不思議……柚がアイドルなんてみんなの前に出るお仕事してるなんて!



いつもみんなのサポートばっかりだった柚が!



「へへっ、今すっごくハッピーなんだよ、アタシ」



多くは望まないよ、ただアタシはほんとにこんな毎日がずっと続けばいいって思ってるの!



面白さいっぱいの、素敵な毎日がっ!



「だからPサン、これからも柚のプロデュースよろしくおねがいしまーすっ!」



ペッコリ……ってお辞儀するけど、車の中だからPサンに向かってできなかった。



ヘンなの、えへへっ。



「もちろん。改めてお願いされなくたって続けるつもりだよ」



「そっか……へへっ、うれしーっ!」



ほわぁーって幸せがアタシの中を駆け巡る!



えへへっ、よかった!……がんばって思いを口にしたかいがあった!

「ね、Pサン……実は柚、もう一つだけお願いがあるんだけど……いい?」



……うん、今ならきっと言えるはず。



こんなにも幸せになれるってわかったんだから……だから、きっと言えるはず。



実は、Pサンにずっとプロデュースして欲しいって言うのは柚のお願いゴトの半分なんだよね。



そう、なんとお願いゴトはもう半分あるのだ!



それを、今ならきっと伝えられるっ!



「ああ、なんだ?」



Pサンは正面を見ながらアタシに問いかける……運転中だもんね、そりゃそうだ、へへっ。



でも、きっと顔を見られてないからこそ、今なら言える。



言える……はず!



「あのね……柚」



どくんどくん



「柚ね、Pサンと……」



どくんどくんどくん



「Pサンと……」



どくんどくんどくんどくん



胸がまた大きく鳴りだす……アタシの声が消えちゃうくらい。

「……」



「……柚ね、Pサンに見つけてもらってホントによかった!」



「星の数だけ女の子がいるのに、アタシを見つけてくれてホントにありがとね、Pサン!」



……結局、言えなかった。



ううん、コレだってアタシの本心なんだけど……。



でも、違うのアタシの伝えたかったことは、ずっとプロデュースしてもらった先の話。



プロデュースしてもらうだけじゃなくてアタシと――ひゃー!



考えるだけで恥ずかしくなっちゃうのに、口になんて出せないよー!



「どういたしまして。だが、それはお願いじゃなくないか?」



「はっ、本当だ!」



……なんてちょっとおどけちゃったりして。



ごめんねPサン、柚はやっぱり恥ずかしがり屋サンみたい。



せっかく伝えられると思ったのにね、この思い。



柚がもっとグイグイ前に出るタイプだったら簡単に話せたかもしれないケド……残念なことに、アタシはもともと後ろからサポートするタイプ。



だから、思いを前にするのに時間がかかっちゃうみたい。



へへ、しばらくはまだナイショのお願いゴトのままだねー。



……アタシ、この思いを前にするよう頑張るから、Pサンも待っててね……なーんて、へへっ!









おしまい



22:30│喜多見柚 
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