2016年12月27日
佐藤心「静かな聖夜」
12月24日 夜
P「………」カタカタカタ
P「………」カタカタカタ
P「………」カタカタカタ
P「………ふう」
P「これで終わり、と」ターンッ
P「今日開催されたクリスマスライブは盛況のうちに幕を閉じ、後処理もたった今終了。めでたしめでたし」
P「………」
P「もう、夜の10時半か」
P(ギリギリまで仕事を残してしまっていた自分の責任とはいえ、一年に一度の聖夜の大半を仕事で使ってしまった)
P「せめてもう少し早く切り上げられれば、融通きかせることもできたのにな」
P(ライブ成功の達成感と同時に、一抹の寂しさ)
P「明日は事務所でクリスマスパーティーだし、別に今日が寂しくてもいいんだけどな」
P(ただ、それはそれとして。やっぱりクリスマスイヴは、誰かと一緒に――)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482670611
「えいっ♪」チョップ
P「いてっ」
「なーにシケた顔してんの? 幸せが逃げるぞ、プロデューサー☆」
P「え、あれ……」
P「なんでここにいるんですか。心さん」
心「来ちゃった☆」
P「来ちゃった、って。今日はライブを観に来てくれていたご家族と一緒に食事だったんじゃ」
心「まあ、そうだったんだけどさ……途中で追い出された」
P「追い出された? どうして」
心「家族と過ごすのは12月25日でいいから、24日のうちにアクション起こしてこいって」
P「?」
心「プロデューサーは気にしなくていいぞ♪」
P「はあ」
心「お仕事、終わった?」
P「ああ、はい。たった今」
心「そっか♪ じゃあこれは、お疲れ様のご褒美♪」
心「じゃーん、あったかい缶コーヒー☆」
P「お、ありがとうございます。……おお、あったかい」
心「プロデューサー、確かこの缶が好きだったよね?」
P「ええ。よく覚えてましたね」
心「ふふん♪ 味わって飲めよ☆」
P「そうします」ハハ
心「そして、実はもうひとつご褒美があります」
P「え、まだあるんですか?」
心「じゃーん! とびきりスウィーティーでデリシャスないちごケーキ☆」
P「おおっ!」
心「さすがにふたりで食べるぶんだから、ホールじゃなくてショートケーキだけどね♪」
P「これ、結構有名な店のやつじゃないですか。いつ買ったんですか」
心「よっちゃんが朝のうちに買っておいたんだってさ♪」
P「よっちゃんって、心さんの妹さんですよね」
心「そ♪ なんていうか、ホントによくできた妹ではぁとはうれしい♪」
心「きっと姉に似たんだね」
P「え?」
心「黙ってうなずくとこだぞ☆」
P「それじゃあ早速いただいて……っと、メールだ」
心「浮気相手から?」
P「なにが浮気ですか。ええと、梨沙のお父さんからですね」
心「ほーもー?」
P「心さんは俺をどうしたいんですか……ああ、これ、メール打ったのは梨沙だな」
心「梨沙ちゃんから? あそっか、あの子ケータイ持ってないから」
P「代わりにお父さんの携帯を使ったみたいですね」
『パパとママと一緒にいったディナー、とってもおいしかったわ! アタシはもう寝るけど、パパがどうしてもって言うから写真送ってあげる!』
『メリークリスマス、プロデューサー! おやすみ!』
心「おー、おいしそうな料理♪」
P「ディナー中に撮った写真を、今送ってきたみたいですね」
心「梨沙ちゃん自撮りうまいなあ……微妙にしかめっ面だけど」
P「俺に送る写真だったからですかね」
心「どうせなら、満面の笑顔のほうがいいのにね♪」
P「いや、そうとも言えませんよ」
心「え?」
P「笑顔の写真なら、仕事でいくらでも見られますからね。こんな口をへの字に曲げた一枚、なかなか貴重です」
心「素の表情ってやつ?」
P「そういうものです」
心「なるほどね〜」
心「……ねえ、プロデューサー」
P「はい?」
心「はぁとがそういうのしたら、プロデューサーもころっと落ちたりする?」
P「……はい?」
心「ごめんやっぱ今のなし」
P「ごちそうさまでした。ケーキ、おいしかったです」
心「よかったよかった♪ よっちゃんも喜ぶぞ、きっと♪」
P「お礼を言わないといけませんね。妹さんにも、心さんにも」
P「……でも、本当によかったんですか? もうすぐイヴも終わっちゃいますけど、こんな誰もいない寂しい事務所で過ごすなんて」
心「いいのいいの♪ きらびやかな光景なんて、上京してからいくらでも見てきたし!」
心「逆に、こういう静かな時間が、たまには欲しくなったりするんだよね……うん」
P「……そうですか」
心「ま、それはそれとしてプレゼントは豪華なもの期待しちゃう☆ 明日のパーティー楽しみ〜♪」
P「あはは……お眼鏡にかなうかはわりませんけど、ちゃんと用意してますよ」
帰り道
心「う〜〜っ、さすがにこの時間は冷えるね」
P「ですね」
心「コート+マフラー+手袋の重装備でも寒い……のに、この時間でも人多いなぁ」
P「クリスマスイヴですからね」
心「リア充カップルどもめ☆」
心「ねえねえ、周りから見たら、はぁと達もカップルに見えたりしないかな?」
P「どうでしょうね」
心「やあん、照れる☆」
P「盛り上がってますね……っと」グイッ
心「へっ?」
P「あ、すみません。人とぶつかりそうだったので、とっさにこっちに引っ張ってしまいました」
心「あ、うん。ありがと」
心「………」
P「心さん?」
心「えと……プロデューサーのコート、あったかいね」
P「あっ……す、すみません。くっつきすぎてました」
心「う、ううん! もとはと言えばはぁとがぼーっとしてたのが悪いわけだし!」
心「あー、あー。なんか、今夜は暑いね♪ 聖夜だからかな☆」
P(マフラーに顔を埋めてそっぽを向く心さんは、しばらく暑い暑いしか言わなかった)
心「今年ももうすぐ終わりだね♪」
P「ですね。あっという間でしたけど」
心「すっごい濃いイベントが連続してた気がするのに、振り返ってみるとあっという間に感じちゃうんだよね。これって本当に不思議」
P「俺も同じです。心さんたちと一緒に頑張って、充実した時間を過ごせました」
心「うん♪」
心「恋人はいないけど、これも立派なリア充だね☆」
P「ですね……っと」
P「話しているうちに駅に着いちゃいましたね」
心「あっ……ほんとだ」
P「じゃあ、そろそろお別れですね。改めて、ライブお疲れさまでした」
P「そして、ケーキありがとうございます」
心「こっちこそ、素敵なステージ用意してくれてありがとう♪」
P「では、また明日――」
心「あ、ちょっと待って!」
P「はい?」
心「もうすぐだから……」
P「もうすぐ?」
心「………はい、日付変わった♪ イヴが終わって、今からクリスマス♪」
P「ああ……確かに、0時ちょうどですね」
心「さっき、言ったでしょ? クリスマスは、家族と過ごす日だって」
P「心さんがご両親に言われたことですか」
心「そ♪ だから……そんな日の一番初めには、プロデューサーと一緒にいたいかなって」
P「………」
P「は、はあ」
心「………」
心「ごめんね。さっきから、反応に困ることばっかり言っちゃって」
心「はぐらかすのも大変でしょ?」
心「プロデューサー、別ににぶちんじゃないもんね♪」
P「………ええと、その。もちろん、そういうことを言ってもらえるのはうれしいんですけど」
心「いいよ、何も言わなくて」
心「まだ、ダメだもんね。トップアイドルになるためには、それはダメだから」
P「……心さん」
心「はぁとはさ、どっちも諦めたくないの。女の子としての夢も、女としての夢も」
心「どっちも捨てられないから、両どり狙って……ほんと、子供みたいだよね」
P「………子供じゃないですよ」
P「心さんは、大人です。世間の厳しさとか難しさとか、十分わかってる人だから」
P「わかっていて、捨てようとしない。それはすごいことだと思うし、俺はあなたのそういうところが……好きです」
心「P………」
心「ふふ、ありがとな♪」
心「それじゃあ、また明日。メリークリスマス☆」
P「はい。また明日、メリークリスマス」
P「………」スタスタ
P「はーーっ」
P「うわ、めっちゃ息白いな……」
P(その割に身体が暖かく感じるのは……やっぱり、別れ際の笑顔のせいなんだろうな)
おしまい
23:30│佐藤心