2016年12月29日

渋谷凛「自分で選んで、進みたい」

選びたい。



 ねぇ。



 私は進みたい。





 プロデューサー。



 選んで、進みたい。



 ねぇ、プロデューサー。



 私はそうしたい。自分で選んで、自分で進みたいんだ。



 だから決めた。



 私は選ぶ。自分の意思で。



 私は進む。私の望む道を。



 そう決めた。そう進むことをそう選んで、そうして決めたんだ。



 私はこれから、自分の意思で選んで進む。



 他の誰でも、他の何でも。……プロデューサーにでさえもない、私の、私自身の意思で。



 決めた。



 そう、決めたんだ。



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 ……それは、確かにそうすることは難しいよ。



 何本にも別れて幾重にも絡まる無数にある道の内から、自分の意思でただ一つ唯一の道を望み選んで進むこと。



 それはきっと大変なこと。大変で、大変なことなんだと思う。



 それにそうしないことはきっと凄く簡単で、楽で、そしてとっても優しいんだ。



 舗装された安全な道を教えてもらえる。背中を押してもらいながら助けられて導かれて。温かく祝福された煌めく道へ進ませてもらえる。



 単に幸せを……皆、誰もが思い描くような模範的な幸せを手に入れるなら、その中へと浸るなら、それはきっと選ばず進んだそのほうがいいんだ。



 茨に覆われてなんかない、まっすぐ綺麗な道を進んだほうが。



 ……でも。



 でも、だけどさ。



 嫌なんだよ。



 嫌。嫌で嫌で、嫌なんだ。



 選べないこと。望む道を、たとえそれが茨に覆われた険しい道だとしても、望む先へと進めないことが。



 嫌。私はさ、嫌なんだ。

 私は選びたい。他の誰かが望む、他の何かが願う、私でなく私とは違う私以外のものが求める幸せじゃない。



 私が、今こうしてここへいるこの渋谷凛が望んで願う、偽りなく心から求める幸せを。



 それをこそ、それへと進む道をこそ、私は選びたい。



 だから。だからね、プロデューサー。



 私は決めた。決めたんだ。



 私は選ぶ。私の望む未来の姿を。



 私は進む。私の願う未来への道を。



 選んで進む。私が心から、本気で本当に真実求める未来を。



 そう決めた。そう、決めたの。



 だから。



 だから、ね。



 プロデューサーには、それを受け入れてほしい。



 それを、私のその決意を。誓いを。想いを。



 受け入れてほしいんだ。



 認めて、理解して、そして受け入れてほしい。

 それはもちろん、こんな……端から見たらただのわがままみたいなこと、受け入れてもらえないのかもしれないことはわかってる。



 どこまでも優しくて、どうしようもなく柔らかで、どうにもならないほど温かなプロデューサーにさえも。



 ううん、プロデューサーだからこそ。



 受け入れてはもらえない。かもしれない、っていうことはわかってるんだ。



 でも、それでもさ。



 受け入れてほしい。



 受け入れてもらえなくても、それでも、さっき言った通り私はこの意思を貫くつもりだけど。



 それでも、叶うなら、どうか受け入れてほしい。



 他の誰にどんな目で見られても、どんな言葉を投げ掛けられて、どんな想いを注がれることになっても構わない。



 でも、プロデューサーには。



 他の誰でもないプロデューサーには、ただ一人の、貴方には。



 受け入れてほしい。



 受け入れて、もらいたい。



 私の意思。私の在り方。私の、想い。



 それをどうか、貴方には。



 ……ねぇ、どうかな。



 いいのかな。



 それとも、駄目なのかな。



 ねぇ。



 ねぇ、プロデューサー。



 プロデューサーは私のこと、受け入れて、くれる……?

「……」



「……」



「……ねぇ、凛」



「ん」



「凛のことは大切に思ってる。もちろんね。自分にとって初めてのアイドルで、一番付き合いの長い子で、誰よりも深く思い入れのある存在だから。……でも、それはそう、なんだけどさ」



「でも、何?」



「これは……その。この、これは、なんというかちょっと」



「……嫌?」



「や、嫌というか」



「プロデューサーは私のこと、受け入れてくれないの?」



「凛のことは基本的になんでも尊重したいし受け入れたいと思ってるけど、その、これは流石に恥ずかしいというか痛いというか」



「……やっぱり。プロデューサーは、今のこのこれを、やめたいんだ」



「いや、まあ、あの……うん、出来ればそうだね」



「そっか……」



「……なんだか、ごめん……なのかな」



「ん、いいよ。さっきも言った通り、受け入れてもらえないのかも、っていうのは思ってたことだし」



「ありがとう。ごめんね」



「いいってば。構わないから、そんな気にしないで」



「ん」



「……」



「……」



「…………」



「…………えっと、凛さん」

「ん?」



「その、分かってもらえたんだよね?」



「うん。ちゃんと分かったよ。プロデューサーが今のこのこれをやめたい、ってこと。恥ずかしくて、居たたまれなくて、重たい空気が息苦しくて、だからやめたいってことは」



「なら、その」



「何?」



「いや、こう、やめてもらえると助かるんだけれども……」



「そうだね」



「……」



「……」



「…………」



「…………えっと、凛さん」



「……」



「凛。凛さん。凛ちゃーん?」



「……何? そんなに人の名前連呼して」



「や、聞こえてないのかなーと」



「プロデューサーの声を……ましてや私の名前を呼ぶ声を、それを私が聞き逃すはずないでしょ。ちゃんと一回で聞こえてるよ」



「そっか。……なら、返事してほしかったかな」



「返事ならしてたじゃん。こっちのほうで、こうして」



「あー……腕の力を強めたり、もぞもぞ擦り付いてきたり、それ、返事だったんだ」

「プロデューサーなら分かってくれると思ってたんだけど」



「分からなかったなぁ。……そして、出来ればそれはされたくなかったかなぁ」



「されたくない、って……これを?」



「うん、これを」



「どうして?」



「どうして、って……。こう、さっきからやめてほしいって伝えてることの仲間だからというか、もはや上位版ですらあるからというか」



「これも、やめたいんだ」



「まあ、うん、そうだね」



「そっか」



「うん」



「……」



「……」



「………………」



「………………いやまぁそうかなーとは思ってたけど。ちょっと、凛」



「何、プロデューサー」



「やめてもらいたい、って思ってることは分かってるんだよね」



「何度も言ってるじゃん。ちゃんと分かってるよ」



「でも、なら、ね、やめてほしいなーって」



「うん。まぁ、やめないけどね」

「え?」



「え?」



「や、どうして?」



「どうして、って……だって、私がやめたくないんだもん」



「分かってくれたのに?」



「ん。分かりはしたけど、それを受け入れるかどうかは別だよ」



「えぇー」



「さっきも言ったじゃん。私は決めたんだって。自分で選んだ道を自分の意思で進む。たとえそれがどんなものであったとしても。険しくても、大変でも、他の誰でもないプロデューサーにさえ望まれないものなのだとしても。そう決めたんだ、って何度も」



「それはまあうん、聞いてたけどさ」



「なら分かるでしょ?」



「やーまぁ、分からなくもないけども」



「けども?」



「……どうしても駄目?」



「駄目」



「でも、ほら、そろそろ射ぬく段階を超えて爆発しちゃいそうというかなんというか」



「駄目。やだもん。このままじゃなきゃ嫌」



「えー……」



「べつにいいじゃん。そもそも、こうすることの何がそんなに不満なの?」



「や、不満というか……不安というか、不穏というか」



「してること自体は普段からしてることでしょ」



「……それをここで言うのかな」

「言ったって何もまずいことじゃないじゃん」



「まずいし問題だと思うなー。こう、火に油的な意味で」



「何が問題なの」



「何が、というかすべてが、というか」



「問題も何も……べつに、いつもと変わらない普段通りのことをしてるだけじゃん」



「それは、まぁ……そう、かもだけど」



「でしょ? ……いつもと変わらず寄り添って触れ合って、普段通り抱き合って見つめ合って、そうして愛を交わし合ってるだけ。ただ、それをしている場所がいつもと少し違うっていうそれだけのことだよ」



「その少しの違いが大きいというか。違うのは場所だけじゃなくて、もっと他にもあるんだよなーというか」



「……はぁ。どうしたの、今日のプロデューサーなんだかちょっと変だよ? やたらと離れたがるし、素直じゃないし」



「いやぁ、むしろ凛はどうしてそんなにいつも通り過ぎるくらいいつも通りなのかなぁ」



「私が変わるわけない。プロデューサーのこと、プロデューサーとのことで変わることなんて絶対ない。って、そんなの知ってるでしょ。プロデューサーのことを好きなのが、恋しくて、愛してるのが変わるわけないんだ、って」



「……凛はぶれないなぁ」



「私をこんなふうにしたのはプロデューサーでしょ」



「僕のせいなのか」



「そうだよ。……でも、本当。今日のプロデューサーは変だね。なんて言うんだろ、否定が多いっていうか……ちょっとうるさい」



「や、うるさいというか」



「事実でしょ。……何、塞いでほしいの?」



「はい?」



「いいよ。本当はもうちょっとこのまま、抱き合って見つめ合うままの時間を感じていたかったんだけど……プロデューサーがしたいなら、いいよ、しようか」



「一瞬で間違った自己解決をするのはやめて。それはちょっと、流石に駄目だから」



「どうして? プロデューサーは私とキス、したくないの?」



「したくない、とかそういうのじゃなくて」



「私はしたいよ、プロデューサーとのキス。何度でも何度でも何度だって。一日のぜんぶがそれで尽くされたって構わない。うぅん、一日のぜんぶをそれに尽くしたい。って、そう願えるくらいには、したいと思ってる」



「……凛」



「だからほら、いいよ。しよう? 大丈夫、べつにいつもしてること。ただちょっと場所が違う、プロデューサーの家の中じゃなくて事務所の中だってだけ。ただちょっといつもと違う、いつもみたいに二人きりじゃなくて……ちょっと、周りに事務所の皆がいるだけ、だから」



「そのちょっとは全然ちょっとじゃないんだよなー……ほら、ね、周り見よう?」



「やだ。プロデューサーと触れ合ってる時はプロデューサーだけがいい。プロデューサーだけを見て、プロデューサーだけを感じて、プロデューサーだけを愛したいの。だからやだ。余所見はしないよ」



「……またそうやって、そんなことを、そんなにまっすぐ」

「これが私だから。――こんな私は、プロデューサー嫌い?」



「そういう問題じゃなくて。……それは、凛のことは嫌いなわけないけどさ」



「だよね。――ふふ。こうしてちゃんと、パソコンと向かい合いながら座って仕事してるプロデューサーの上へ突然抱きつきながら乗ってきた私のこと受け止めて受け入れてくれてるくらいだし」



「なんというかこう、突然すぎて為す術がなかったっていう感もかなりあるんだけどね」



「結果的に今こうしてるんだからいいんだよ。プロデューサーのことが大好きな私のことを、私のことが大好きなプロデューサーがこうして抱き締め返してくれてるんだから」



「……」



「ふふ。――ほら、だからいいでしょ。私とプロデューサーはこんなに大好き同士で、こんなに愛し合ってるんだから。だから、ほら……周りのことなんて気にしないで。私と同じように私のことだけを見て。ただまっすぐ相手のことだけを想って――私と、キスしよ……?」



20:30│渋谷凛 
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