2017年01月07日

喜多日菜子「輝子さんはキノコが大好きなんですねぇ♪」 星輝子「う、うん」

初冬、天高く晴れた鮮やかな青空が窓ガラスに映し出されている。



 時折寒風が窓を揺らすが、室内はとても暖かい。



 暖房が付いているのもあるが、そこには温度には表れない、熱気の源があった。





「ずっと、お待ちしておりました」



 ショートヘアの少女は虚空に手を伸ばしながら、戸惑いと喜びの入り混じった笑顔を浮かべる。



「貴方と出逢えることを。貴方が、私を迎えに来てくれることを」



 宙に浮いた手は、何かを掴んだような形になったかと思うと、そっと胸の前に引き寄せられる。



「さあ、行きましょう」



 少女は一瞬だけ瞳を閉じ、



「どこまでも付いていきます。たとえこの身が……夢幻(ゆめまぼろし)のごとく消えようとも……」



 揺らぎえぬ決意だけを残した笑顔を浮かべたのだった。

「ひ、日菜子さんは、やっぱりすごいな……フヒ」



 数瞬の後、控えめな拍手と共に、長い銀髪の少女が演者である少女を褒め称える。



「むふ、ありがとうございます、輝子さん〜♪」



 先ほどまでの真剣な表情はどこへ行ったのか、日菜子はゆるゆるの笑顔で輝子に応えた。



「うん、特に問題も無くバッチリ、っと……こういった演技に関しては、日菜子ちゃんが事務所一ね」



「褒められちゃいました〜。トレーナーさんも、ありがとうございますぅ♪」



 トレーナーにも褒められた日菜子は、笑みをより深める。



「それじゃ、次は輝子ちゃんの番ね。同じシーンから初めてください」



「輝子さん、頑張ってください〜」



「フ、フヒ……が、頑張る……」



 輝子は若干ひきつった笑みを浮かべながら、レッスン場の中央へと移動していった。

日菜子「大丈夫ですかぁ、輝子さん?」



輝子「ぼ、ボッチは打たれ強くないんだ……うううっ」



日菜子「輝子さん、トレーナーさんにたくさん注意されましたもんねぇ」



輝子「演技とか、ずっと人付き合いのなかった私には……は、ハードルが高いぞ……」



日菜子「むふ、大丈夫です。輝子さんもテンション高い演技は出来ているんですし、すぐ上手くなりますよぉ」



輝子「だ、だと良いのだけれどな……」

日菜子「さて、今日のレッスンの終わりですねぇ。日菜子は帰ろうと思うんですけど、輝子さんはどうするんですかぁ?」



輝子「私は、キノコの世話をして……帰るのはそれから、かな」



日菜子「キノコのお世話、ですかぁ?」



輝子「それじゃあ、日菜子さん。また……ね」



日菜子「えっとぉ、輝子さん。良かったら日菜子にも、そのキノコのお世話をさせていただけませんか?」



輝子「え?」



日菜子「日菜子、あまり輝子さんのこと知らないんですよねぇ。だから輝子さんのこと、もっと知りたいなって思ったんです〜」



輝子「で、でも……キノコだぞ? ジメジメ、しているし……ヌメッとしてたりも、するんだぞ?」



日菜子「むふっ、でも輝子さんは可愛がって育てているんですよねぇ?」



輝子「う、うん……まあ、トモダチだから……」

日菜子「なら、大丈夫ですよ〜」



輝子「そ、そうなのか……? そ、そうなのかも……」



日菜子「もちろん、輝子さんがダメだって言うなら諦めますけど」



輝子「ううん……ダメじゃない、ぞ。ちょっとビックリしただけ……だから」



日菜子「むふふ、良かったですぅ♪」



輝子「じゃあ、日菜子さん……こっち、フフ……」

――――



――





モバP「よう、日菜子と輝子。レッスンお疲れさん」



日菜子「Pさんもお疲れさまです〜、むふふふ♪」



輝子「し、親友もお疲れ……」



モバP「今日は表現力レッスンだったよな。出来はどんな感じだったんだ?」



日菜子「日菜子はバッチリだって、トレーナーさんに褒められちゃいましたぁ♪」



輝子「わ、私はいっぱい叱られた……フ、フフフ……」



モバP「そっか。まあ人には得手不得手があるんだ、おいおい上達していけばいいさ」



輝子「う、うん……頑張る、ぜ……」

モバP「それで二人してどうしたんだ。もう今日の予定は無かったよな?」



日菜子「輝子さんがキノコのお世話をするというので、日菜子もご一緒しようと思いまして〜」



輝子「と、いうことになった……フヒ」



モバP「ほほ〜。輝子のキノコ趣味に興味を示したのは、日菜子が初めてじゃないか?」



日菜子「そうなんですかぁ?」



輝子「……見たいって言ってくれたのは、日菜子さんが、初めてだな……フヒッ」



モバP「仲良きことは美しきかな。まあ、ちょっと狭いけど二人行けるだろ。ほい、中へどうぞ」



日菜子「中へ……? ところで輝子さん、キノコはどこにあるんですかぁ?」



輝子「こ、ここだよ……」



日菜子「ここ?」



輝子「Pの机の下に、置いてあるんだ」

――――



――



日菜子「Pさんの机、前々から大きいなとは思っていましたけど、中はこうなっていたんですかぁ」



輝子「よ、ようこそ日菜子さん……キノコワールドへ。フフフ……」



日菜子「いくつも小鉢が置いてあって、色んな種類のキノコが植えてあるんですね〜」



輝子「事務所には加湿器もあって机の下はジメジメしてるから、キノコたちも喜んでる……フヒッ」



モバP「じゃあ俺は仕事をしてるから、あまり騒がないように頼むぞ。(トゥルルルル〜 ガチャ)

 はい、こちらパッションプロダクションです! あ、どうもいつもお世話に――」



日菜子「むふふ……Pさんの足だけ見えて、声だけ上から聞こえてくるのは不思議な感覚です〜」



輝子「ここにいると、し、親友が私たちのために頑張ってくれているのが分かって、少しくすぐったいけど、嬉しい……フフフ」



日菜子「そうですねぇ、日菜子、ここだととても妄想が捗りそうです〜♪」

輝子「気に入ってもらえて、良かった、フフ……なんなら、これからもここ、来てもいい、ぞ?」



日菜子「えっ、いいんですかぁ?」



輝子「う、うん。私も間借りしているだけで……別に私の場所じゃないしな。もちろんPが、良いって言えば、だけど……」



日菜子「むふっ、とても魅力的な提案ですねぇ♪ あとでPさんに訊いてみますぅ」



輝子「シイタケくんたちも、賑やかなのは嫌いじゃないし……な」



日菜子「そういえばキノコのお世話があるんですよね。どうやるんですかぁ?」



輝子「あ、うん。世話って言っても、普段は乾かないよう水をやるだけでいいんだ。この霧吹きで……」(プシュプシュゥー)



日菜子「お花とかと同じなんですねぇ。あ、ここって暗いですけど、お日様とかは必要ないんですかぁ?」



輝子「キノコの種類に、よるけど、基本は無くても大丈夫……必要なのは、水分と栄養だけなんだ」



日菜子「なるほど〜」

輝子「こっちがシイタケで、こっちがエリンギ……他にはなめこ、ぶなしめじ、ヒラタケ……」



日菜子「色んな種類があるんですね〜。どのくらいあるんです?」



輝子「じ、事務所には23種類のキノコが、置いてあるかな、フフ……」



日菜子「わぁ、そんなに! 輝子さんはキノコが大好きなんですねぇ♪」



輝子「う、うん。キノコは、トモダチだから」



日菜子「そういえば先程も言ってましたが、キノコが『トモダチ』ってどういうことなんですかぁ?」



輝子「……わ、私は昔からボッチで、一人で遊んでいたりして……そんな時、公園で見かけたキノコが話しかけてくれたんだ……」



日菜子「……」



輝子「『ショウコチャン、コンニチハ! ボクハキノコダヨ! ヨカッタラ、ボクトオトダチニナッテヨ!』って。……あっ、ご、ゴメン……気持ち悪かった、かな……」

日菜子「……むふふ、キノコとお友達になれるなんて素敵ですねぇ♪」



輝子「えっ……へ、変だとは、思わない、のか……?」



日菜子「むふ、輝子さんが変なら、いつも妄想している日菜子も大概変ですよぉ? それに……ここにあるキノコを見れば分かりますよぉ」



輝子「キノコを……?」



日菜子「日菜子が見てもわかります。とても生き生きしていて、輝子さんに大切に育ててもらっているんだなぁって。友達だからこそ、ですよぉ♪」



輝子「そ、そうか……フヒッ、照れるな……フフフ……」



日菜子「むふふふ♪」

日菜子「むふ、それでは、日菜子は帰りますぅ。またね、輝子ちゃん〜」



輝子「あ、うん。私はもう少しここにいるから……ま、またね、日菜子さん……」



日菜子「あ、ん〜……」



輝子「ど、どうかしたのか?」



日菜子「せっかくお友達になれたんですし、“さん”付けじゃない方が日菜子は嬉しいですねぇ」



輝子「うえっ!? 日菜子さんと私が、と、友達……」



日菜子「あ、すみません〜。ご迷惑でしたか……」



輝子「う、ううん! そんなことはないぞ! ま、またね……ひ、日菜子、ちゃん」



日菜子「むふふ♪ はい、またね、輝子ちゃん♪」

〜後日、街のブティック〜



輝子「う、ううう……。ひ、日菜子ちゃん……やっぱり私にこういうお店は……」



日菜子「むふ♪ ダメですよぉ、輝子ちゃん。今日は日菜子に付き合ってくれるって約束したじゃないですかぁ」



輝子「でも、こんな可愛い服、私には……似合わない……」



日菜子「そんなことありませんよぉ。そういう恰好の輝子ちゃん、とっても可愛いんですから♪」



輝子「この格好……か、かわいい……!? う、嘘だぁーッ!! フヒ! フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」



日菜子「しょ、輝子ちゃん!?」



 この後、暴走した輝子を止められる者がおらず、店内でぷちゲリラライブが起こるのだが……それはまた、別の話。



12:30│喜多日菜子 
相互RSS
Twitter
更新情報をつぶやきます。
記事検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: