2017年01月12日

市原仁奈「はじめてのおしょくじ」

ウチは親父が定食屋を営んでいて、息子の俺も時々手伝いをさせられる。



その時々というのは親父に見つかって逃げ切れなかった時という意味なので、つまり俺は親父の手伝う気はまったくない。



だからあの日、バイクで仲間とひとっ走りして帰った日の夜も、裏口から親父に見つからないようにこっそり部屋に戻る予定だった。





だったのだが。



店兼家の前まで帰ってきた時に、俺は見てしまった。



「……うさぎ?」



店の引き戸の前で、人間の子供ぐらいでかいうさぎが店の方を向いて二本足で佇んでいるところを。





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やれやれ、俺は疲れているみたいだ。



今日はもう早く寝た方がいいな。



悪い、親父。今日も店は手伝えそうにないわ。



さてと、部屋に戻るとしよう。



そのためには親父に気付かれないよう、音を立てずに裏口へと向かう必要があるな。



そしてそのためには。



あのでかうさぎに近付かなきゃいけないわけだ。



どうしたってあのうさぎの視界に入るルートしかない。



……腹を括るか。

俺は物音を立てないようにでかうさぎの背後に回った。



そして肩(うさぎに肩ってあるのか?)を掴む。



「おい」



「ひゃっ!?」



うさぎは叫び声(喋った!?)とともにびくんと跳ねて、こちらに振り向いた。



そして見えたのは、人間の女の子の顔。



そこで俺はようやくでかうさぎの正体がうさぎの着ぐるみを着た女の子だと理解したのだった。



夜中であたりが暗かったことと驚きで誤認していたが、よく見たら確かにモコモコした着ぐるみなのは間違えようがない。



なんだ、うさぎじゃなかったのか。



いやいや、わかってたさ。



人間の子供ぐらい大きい二足歩行するうさぎなんているわけないだろう。



常識的に考えて。



俺は初めから気付いてたぜ。



こいつはでかうさぎなんかじゃないことぐらい。



高校生が夜遊びして帰って来るぐらいの夜中に、うさぎの着ぐるみを着て一人定食屋の前に佇む小学生ぐらいの女の子だってこともな。



いやいや、それ常識的にどうよ。

うさぎ少女はこちらを見ながら、びくびくと震えている。



歳上の男子高校生にいきなり声をかけられたんだ、当然だろう。



というか、このまま泣き出されでもしたらまずい。



俺はとりあえず話題を絞り出す。



「えっと、親はどうした?」



まずはこれを聞かないことには始まらない。



もしかしたら親は店の中にいて、会計中だから先に外に出てきただけかもしれない。



そうなると本当に俺はいたいけな少女を怯えさせただけになるが。



しかし、少女は俺の質問に答えるどころか俯いている。



完全に警戒されてしまったようだ。

さて、どうしたものか。



こうしているうちに親が迎えにくればいいけれど、一向に誰も来ない。



仕方ない。親父に言って、店の中で待たせるか、と考えたところで。



ぐう〜。



と気の抜けた音が聞こえた。



音のした方を見ると、少女が恥ずかしそうにお腹を抑えている。



「腹、減ってるのか?」



少女はこくり、と頷いた。



一緒に垂れたうさぎ耳が、なんだか悲しげだった。

殴られた、親父に。



「こんな小さい子に手を出しやがって!」



「出してねえよ!」



子供を店内に招いただけでなにしやがる。



ただ残念ながら店内に親がいるということもなかったし、親父も事情は知らないようだ。



少女が一人でただ立っていたことを伝えると、親父は露骨に嫌な顔をした。



あ、この嫌な顔は「娘を夜中に外に放置する親」への嫌悪感が表れた顔、という意味だ。



決して見た目のことを言ったわけではないし、見た目のことをいうなら親父の顔はもとから嫌な顔と言って差し支えない。



殴られた、何も言ってないのに。



「考えてることが顔に出てやがんだよ、お前は」



「親父に言われたくねえよ。っていうか子供に暴力シーン見せんな。怯えるだろうが」



むう、とそれは親父もよくないと思ったのか、押し黙る。



そして当の少女はというと、怯えるどころか俺と親父のやりとりを物珍しそうに、じっと見ていた。



女の子からすれば珍しい親子喧嘩の風景なのかもしれない。



とはいえ、教育に悪いので今後は自粛。

「とりあえず、何か飯作って作ってやってくれ。腹減ってるみてえだ」



「おう」



「あ、あと俺の分も。夕飯食ってなかった」



「じゃあお前料金二人分払いやがれ」



「なんでだよ!?」



こんな小さな女の子から金を取ろうなんて、なんておっさんだ。



「その子から金を取る気はねえが、流れに乗って自分もタダ飯食おうとしたお前が気に食わねえ」



まじか、このハゲ親父。



「禿げてねえよ!」



喧嘩再開である。

ギャーギャーと、低レベルな争いを始めた俺達を止めたのは少女の一声だった。



「あ、あの、お金、あり、あります」



ぴたっと俺達は喧嘩を止め、親父が優しげな声(どう聞いても全然優しげじゃないけど、親父なりに頑張ったんだ。諦めてくれ)で少女に必要ないと言い聞かせる。



お金についてはウチの馬鹿息子が払うから、と(その件に関しては後で拳を交えて話し合おう)。



しかし少女は、大きな耳のついたうさぎの着ぐるみをゴソゴソとさぐりだした。



モコモコしすぎてどうなってるかわからないがおそらく収納スペース的な場所があるのだろう。



ゴソゴソモフモフした結果、これまた可愛いうさぎの財布を取り出した。



うさぎが好きみたいだ。

あと、初めてのおつかいを見てる気分って、こんななのかもしれない。



変な意味ではなく、見ていて和む。



横では親父の顔も微笑ましいものを見る綻んだものになっている。キモい。



とはいえ、こんな子供にお金を払わせるのも忍びない。



というかそもそも俺が店に入れさせたわけだから、金を取るのは流石によろしくない。



いいから、と半ば強引に止めさせて興味を引く話題へと変える。



「そんなことよりお嬢ちゃん。何か食べたいのはあるか?」



メニュー表を少女の目の前で広げてみる。



並んだ料理の写真を見て、少女はぱあっと顔を明るくして、あるメニューを指差した。



「ハンバーグが食べたい、です」



肉食うさぎだった。

「はい、お待ち」



親父が目の前にハンバーグ定食を置く。



ウチの客は基本的に仕事帰りのオッサンばかりで、子供はあまりこない。



なのでハンバーグにもちろん旗は立っていないし、星形の人参も添えられていない。



まあはっきり言えば、地味だ。



仕方ないとはいえ、こんなので今の子供が喜ぶのか?と疑問だったけれど、それは杞憂だったようで。



「うわあ……」



少女はキラキラした目でハンバーグをまるで宝石のように見つめている。



ガチ肉食系なうさぎ少女だった。



普段の客からは得られない反応に親父も満足そうだ。よかったな。でも笑うなキモい。

「おいしそう……」



しかし、食い入るようにハンバーグを見る少女は一向にハンバーグを食べようとしない。



「箸ならそこにあるぞ。それともフォークとナイフの方がいいか?」



どうやって食べればいいのか悩んでいるのかと思ったが、少女は「大丈夫、です」とハンバーグから目を離さずに答える。



「……?」



じゃあ何故食べないのだろう。親父もわからないという顔をしている。



「えっと、食べたらどうだ?ハンバーグ、食べたかったんだろう?」



実は採食主義者で一度でいいからハンバーグなるものを頼んでみたかっただけ、とかだったりして。そしたら残ったハンバーグは俺の夕食にしよう。



……ん?俺の夕食?



もしかして、と思って少女を見つめたら、少女の視線もハンバーグを離れて俺の方をじっと見ていた。



「おにーさんのぶん、まだきてない、です」



どうやらこの健気な少女は、俺の分の料理がくるのを待っててくれるつもりらしい。



とはいえ、仮にも今は営業中で客の前だ。



今俺が食べ始めるのは躊躇われるし、さっき親父に頼んだ夕食もこの子が帰ったあとのつもりだった。



だから先に食べていい、と少女には伝えたのだが。



「いっしょが、いいです……」



少女はそう言って、お行儀よく両手を膝の上に置いてしまった。



一人でご飯を食べることに慣れていないのだろう。



ますます初めてのおつかいみたいで、微笑ましい。



しかし困った。



本当に俺の料理がくるまで待つつもりらしい。



どうしたものか、と親父の方を窺うと、親父はすでに手を動かしていた。



「今すぐできるのはハンバーグ定食だ。少し待ちやがれ」



ちょうどよかった。目の前であんな顔見せられて、俺もハンバーグが食べたい気分だったところなんだ。



親父が大急ぎで作った夕食が並び、俺と少女が一緒に「いただきます」をしてから、ようやくうさぎ少女は待望のハンバーグにありつけたのだった。



食べ始めてからのうさぎ少女は速かった。



もぐもぐと、見ていて面白くなるくらいの食べっぷりでハンバーグを口に運んでいく。



ずいぶんとお腹が空いていたらしい。



無理もないか。子供が一般的にご飯を食べる時間はとうに過ぎている。



食べる姿を見ていたら、少女はにへらっと笑って俺にも食べるように言う。



「うさぎの服、汚さないように気をつけろよ。せっかく可愛いんだから」



と注意をしつつ、俺も自分のハンバーグを食べていく。



なんだかいつもより美味しく感じた。

今日の夕食が美味しかった理由について、やはり客に出す料理と普段俺に出す料理は違う肉使ってんのかな?などと思考を巡らせること数分。



いつの間にか少女の手が止まっていた。



嫌いな物でもあったのか?と思ったがそうではなく、少女は目を閉じてゆらゆらと頭を揺らしている。



おねむの時間みたいだ。



「無理もねえ。そろそろ子供は寝る時間だからな」



親父は音を立てないように、少女の皿を片付けていく。



「お前、起きたらこの子送ってやれよ」



「それはいいけど、この子道わかるのか?」



「そん時はわかるところまで送りやがれ」



「マジかよ」



などと話している間も、少女はゆらゆらと揺れ続けている。



そして一度がくんと大きな揺れをみせた時、ぽさっと何かが落ちる音がした。

それはさっき少女が取り出していたうさぎの財布だった。



どうやら財布をしまった際に、財布を開けた状態でしまっていたらしく、今落とした拍子に中身が少しこぼれてしまった。



さて、うさぎ財布にはいったい何が入っているのだろうか。



うさぎ少女のうさぎ財布は、お金よりもキャンディーやグミが入ってそうな見た目をしている。



だからお金があると少女が言った際に、正直な話俺も親父も全然本気にしていなかった。



しかし、少女の可愛い財布から出てきた中身はまったく可愛くなかった。



万札二枚。千円札三枚。小銭。そしてレシートの束。



俺と親父の中身を拾おうと伸ばしていた手が、一瞬止まる。

「俺の財布より入ってる!」とか「全然初めてのおつかいじゃない!」とか細かい点も気になるけど、それ以上に。



レシートがすべてコンビニのもので、しかもコンビニ弁当に関するものが多いことが、俺と親父の気をひいた。



定食屋を営む親父はどう思うか知らないが、コンビニ弁当も今は栄養についてけっこう考えられていて、一概に否定するものではないらしい。下手に料理下手な人が作るよりも安心、なんて話も聞く。



だから、俺が気にするのはそんなことじゃなくて。



「……全部、一人分だ」



少女のレシートに書かれた弁当は、すべて一人分だった。



それはつまり、少女はこのレシートの枚数分、一人の食事を過ごしていたということに他ならない。

『いっしょが、いいです……』



さっきの言葉は、一人で食事をするのが不安だったからだと俺は思った。



でも、違ったんだ。



うさぎ少女は本当に、ただ誰かと一緒に食事をしたかった。



これまで何回何日と一人だけの食事を繰り返し、寂しさに耐え続けてきた。



それが耐えきれなくなって、初めてうさぎ少女は定食屋でご飯を食べることにした。



家族でなくても、まったく知らない人でも構わないから、自分以外の誰かがいる空間で食事がしたい、その一心で。

店の前で佇むうさぎの背中を思い出す。



小学生の女の子が、夜に初めて一人で定食屋に入るには、はたしてどれだけの勇気が求められるのだろう。



耐えきれない寂しさと未知への恐怖に板挟みになったうさぎ少女は、はたしてどれだけの時間を店の前で過ごしたのだろう。



もし俺が帰るのがもっと遅かったら、それだけうさぎ少女は長い時間ただ立ち尽くしていたのだろうか。



じんわりと、何か熱いものがこみあがるのを感じた。

「おい」



親父は一枚の紙を手渡してきた。



それはここ周辺の地図。



財布に入っていたらしい。



とある住所に大きく赤丸と電話番号が家電と携帯電話の二種類、それから『いちはらにな』という名前が大人の文字で書かれている。



家はここからけっこう近いようだ。



「送ってってやれ」



うさぎ少女は俺達の気も知らないまま、幸せそうに寝息を立てている。



断る気はしなかった。

うさぎ少女を背負いながら、地図の家を目指して歩き続ける。



「ふわあ……ここは……?」



「起きたか。今、お嬢ちゃんの家に向かってるところだ」



「……」



返事はない。ただ、少し寂しそうな雰囲気がした。



「……家、嫌か?」



「仁奈のパパもママもいそがしいから、仁奈はよくひとりぼっち、です」



「そうか」



「きょうもひとり、です」



「そうか」



「ひとりぼっちはいや、です」



「……そうだよな」

うさぎ少女の、仁奈の家についた。



ついたが。



「……」



仁奈は俺の手を離そうとしない。



こうなることは薄々わかっていた。



だから俺はもう片方の手で仁奈の頭を撫でながら、これからの話をする。



「次は何を食べたい?」



次、という言葉に仁奈は目をぱちくりする。



俺はこの少女の寂しさに対してできることはほとんどない。



だからこそ、寂しさを和らげる何かをしてあげたかった。



もし今日の夕食がこの少女にとって良いものであったなら。



いつでも食べにきていいんだと、教えてあげたい。



それだけできっと寂しくないはずだから。



少女はおずおずと尋ねる。



「また、来てもいい、ですか?」



「ああ。親父もリピーターは喜ぶだろうよ」



「りぴ?……あ、あの」



「なんだ?」



「また、おにーさんと食べれますか?」



「……」



少し返答に詰まった。



この少女とまた夕食を一緒に食べるとなれば、あまり遅い時間に帰って少女を待たせるわけにもいかない。



つまり俺も早く帰らなきゃいけなくなるわけだ。



そうしたら必然的に親父の手伝いもしなきゃいけなくなって。



あれ?俺けっこう大変な役を買ってでることになるのでは?



「うーむ、それは」



「ごめんなさい……だめ、ですよね……」



「いや、大丈夫だ。また食べような」



無理。断れるわけがない。



ちびっこの涙には敵わない。



いいさ。ここまできて、めんどくさいなんて根性のないことは言えねえ。



覚悟を決めよう。



「あ、あの次はいついけば……?」



「そんなのいつでもいいさ。また両親が忙しくて、一人でご飯食べる時には店に来な」



「じゃあ明日、です」



「あしっ!?」



その日から、仁奈はウチの常連となるのだった。



そして。

「おにーさん!おにーさん!起きてくだせー!」



ゆさゆさと、体を誰かに揺さぶられている。



ああ、これは仁奈だな。



強すぎず、弱すぎず。リズミカルな揺れが、むしろ心地よい。



「起きやがれ馬鹿息子」



親父に殴られた。今日でええと、何回目だ?



「今日はまだ一回目だ。なんだ、夢でも見てたのか?とにかく仁奈が帰るから送ってきやがれ」



そうだ、夢を見ていた。



仁奈と初めて会った日の夢だ。



だいたい1年ぐらい前だろうか。



あの頃と比べて、仁奈はずいぶんと変わった。



とりあえず一つ挙げるなら。



「おにーさん!はやく準備しやがるですよ!」



親父のせいで、ずいぶんと変な口調になっちまったことかな。

何度一緒に歩いたかわからない仁奈の家への道を、今夜も歩く。



元気な歌を歌いながら隣を歩く仁奈からは、もう一年前のおどおどとした雰囲気はない。



出会った日から、仁奈は両親が仕事で忙しい時は基本的にウチで夕食を食べている。



何度か親御さんがお菓子を持って仁奈と訪ねてきたこともあって、深々とお礼をされた。



親も仁奈の生活をどうにかしたいとは思っていたようで、少し安心した。



ともかく、親公認でウチの常連となった仁奈は、初めは俺と親父としか話をしなかったが、次第に他の客とも仲良くなっていき、いつしかウチの看板娘のようになった。



もちろん働かせたりはしてないけども。



今やこの辺の店で、仁奈のことを知らない人はいないだろう。



仁奈は商店街のアイドル的存在だ。

いや、正確にはアイドル的存在だった、だろう。



なにせ仁奈の人気はその程度では収まらなかったのだから。



「おにーさん、明日は事務所のおねーさんたちとご飯食べる約束したから、夕ご飯はいらねーでごぜーます」



「そうか。じゃあ俺も遊んでから帰るか」



「あんまり夜遊びしちゃめっ、ですよ。やけどするでごぜーます」



「そういうのどこで覚えてくるの?」



数ヶ月前のこと。ウチのアイドル的存在だった仁奈は本物のアイドルになった。



そしてここ数ヶ月の仁奈は事務所であった楽しいことを、とても嬉しそうに話してくれる。

事務所には同年代の友達がいっぱいいること。



優しいお姉さんたちもいること。



プロデューサーはパパみたいだということ。



ファンのみんなが応援してくれたこと。



仁奈の話にはたくさんの人がでてきて、アイドルじゃない俺にはわからない話もあったりするけれど、ただわかるのは。



「もう寂しくないんだな」



「なにか言ったでごぜーますか?」



「いや、なんでもねえよ」



仲間や先輩そしてファン、今の仁奈はたくさんの人に囲まれて生きている。



きっと今の仁奈なら、どこへ行っても寂しい思いはしない。



アイドルの仕事や友達との約束もあって、仁奈がウチで夕食を食べる頻度も減ってきた。



隣で歩く仁奈を見る。



変な夢を見たせいだろうか。



背負って帰ったあの日が、まるで昨日のことのようだ。



アイドルとして、女の子として、仁奈はすぐに大きくなるだろう。



俺がこの子を家まで送ってあげる機会は、もう残り少ないのかもしれない。



寂しくない、と言ったら嘘になる。



けれど。



嬉しくない、と言ったら大嘘になる。



そんな大嘘つく気もないが。



仁奈の家の前で、別れ際に聞いてみた。



「仁奈、毎日楽しいか?」



これはただの確認だ。



「うん。とっても楽しいでごぜーますよ」



答えも予想通り。



仁奈はアイドルになってから、毎日楽しんでいる。



一番聞きたかった、わかりきった答え。



だから安心して、別れの挨拶とともに背を向けて歩き出す。



あと何回仁奈を送ることがあるのだろうか。



ぼんやりと次を思う背中に、届く声があった。



「おにーさんが声をかけてくれたあの日から、毎日楽しいでごぜーます!」



予想外の答えに振り向いた時には、すでにドアは閉まっていた。





08:30│市原仁奈 
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