2017年01月12日

佐久間まゆ「アイドルの恋愛事情」

まゆと出会って何ヶ月になるだろう。



もともと読者モデルをしていたまゆは、俺のもとでアイドルになることを望んだ。



移籍手続きなど契約上の事情でかなり遅れてしまったが、もうすぐアイドルデビューできる。





レッスンに十分な時間をかけたおかげで、モデル時代の経験を考慮しても



デビュー前の新人とは思えないほどのレベルに仕上がっていた。



ただ一つ誤算があったのは……











P(すっかり恋仲になってしまったことだ)



佐久間まゆ「動くと危ないですよぉ」←膝枕でPの耳掃除中



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479024663



P(だって仕方ないよね?)



P(後からスカウトした子にどんどん先を越されちゃって、それでも俺を信じて)



P(いじけることなく、ひたすらレッスンを続けるまゆ……)



P(好きにならないほうがおかしい)



P「うーん……」



まゆ「考え事ですか?」



P「ああ、まゆのデビューのことで」



まゆ「何か問題でも?」



P「アイドルって基本的に恋愛NGだからさ。俺達の関係をどうしたものかと……」



まゆ「あ……やっぱりそうだったんですね」

まゆ「まゆの告白を受け入れてくれたから、この事務所は違うのかと思ってました」



P「俺だってまゆのこと好きだから、拒否なんて出来ない」



まゆ「うふふ……嬉しい」



まゆ「そもそもどうして恋愛禁止なんでしょう?」



P「異性の、特に濃いファンは、アイドルと疑似恋愛してる感覚があるから、さ」



P「良い表現じゃないけど、自分の貢いだ金が他の男とのデートで使われたら良い気しないだろ?」



P「グッズを買ったりライブに来てくれるのはそういう人が多いから」



P「機嫌を損ねることはまずいんだよ、商業的には」



まゆ「じゃあまゆは……わ、別れないと……いけないんですか?」



P「俺としても別れたくないんだけど……」

まゆ「隠れて付き合いますか? そうしてる子、結構いますし」



P「それもなぁ……新人のうちはまだ良いけど、人気が出てきたら週刊誌の張り込みとか出てくるだろうし」



P「インタビューで『今までお付き合いしたことないです』とか答えるんだぞ」



まゆ「プロデューサーさんとの関係を嘘つくなんて、出来ません……」



P「俺もそうさせたくないから悩んでるんだ」



まゆ「……」



P「…………」



まゆ「ふーっ。終わりました」



P「反対側もやって」ゴロン



まゆ「終わってますよ?」



P「いや、耳にふーって」



まゆ「ふーっ。これで良いですかぁ?」

P「最高だぁ……毎日膝枕で耳掃除してほしい」



まゆ「毎日はだめです。やり過ぎはかえって耳を痛めてしまいます」



P「そうか……じゃあ毎日太ももを堪能して昼寝したい」



まゆ「ふふ、いつでもどうぞ」



まゆ「……と言いたいところですけど、アイドルデビューしたら会えない日が増えるかもしれませんね」



まゆ「今はレッスン帰りに事務所に寄れますけど」



まゆ「もし……まゆがアイドルじゃなくてモデルとして移籍してたら」



まゆ「隠れてお付き合いする必要なかったでしょうか」



P「んー……そうだな、モデルだとファンの意識もちょっと違うから、ありえるかも」



P「でも俺の担当アイドルじゃなかったら、事務所で会うこともほとんどなくなるだろうな」

まゆ「それは……ダメですね。どうあがいても普通にお付き合いは出来ないんでしょうか……」シュン



P「そんなことない。きっと何か良い方法があるはずだ」ダキッ



まゆ「……はい」



P(ナデナデ)



P「……なんか良い匂いがする。シャンプーかな」



まゆ「香水ですね。いただいたものをつけてみたんです」



まゆ「苦手な人もいるみたいですけど……プロデューサーさんはどうですか?」



P「不快感はないな。ほんのり甘い香りでまゆに合ってる」



P「香水って耳につけるんだっけ?」



まゆ「耳の裏側や手首、肩、腰……いろいろですね。まゆはうなじにつけてみました」



P「ふーん、どれどれ」スンスン



まゆ「やん、くすぐったい」

まゆ「……もうっ。そんな風に鼻を近づけて嗅ぐものじゃないですよ」



まゆ「動いたときにちょっと香るくらいが良いんです」



まゆ「まゆじゃなかったら怒られますよ?」



P「はい。……まあ、まゆ以外にはしないけど」



まゆ「うふふ。最初はもっと距離おいた感じだったのに」



P「そりゃあ恋愛に発展しないようにと思ってさ」



P「どうせこうなるなら、最初からもっと仲良くしてればよかったかな」



まゆ「うーん……いえ、それで良かったんだと思います」



まゆ「障害があるほど燃え上がるっていうじゃないですか」



P「はは、そうか」

P「ん? どうせなら最初から……閃いた」



まゆ「なにがですか?」



P「さっきの話。彼氏はいませんって言ってて、実はいるのがまずいんだよ」



P「ずっと嘘ついてたことになるから」



P「デビュー時点で『彼氏がいる』って公言しておけば良いんじゃね?」



まゆ「たしかにそれなら、嘘つくことにはなりませんね。さすがプロデューサーさん!」



まゆ「でも、ファンになってくれる人いるでしょうか」



P「あっ……ローティーンの女性ファンは多くなると思う」



P「恋に恋する年頃だから、まゆの恋の行方に興味持ってくれるはずだ」



P「そのかわり男性ファンは、他のアイドルに比べたら少ないだろうな」



まゆ「そうですよね……」

P「悪くはないけど、もう一捻り欲しい感じだな……」



まゆ「一捻り……急には思いつかないですね」



P「お披露目デビューライブまでもう少し時間あるし、ギリギリまで考えてみよう」



まゆ「はい。あっ、そろそろ夕食の準備します」



P「ん、もうそんな時間か」



まゆ「この前は女子寮の門限過ぎて怒られましたからね」



まゆ「今日はちゃんと対策考えてきたんです」



P「対策?」



まゆ「紙皿持ってきました。食べたら捨てるだけなので後片付けは時間かからないですよ」



P「なるほど。でもまゆを送ってから俺が洗っても良いんだけど」



P「もしかして食器すら洗えないと思ってた?」

まゆ「…………気づきませんでした」



P「あはは、そうか。しっかりしてるようでも意外と抜けてる所あるんだよなぁ」



まゆ「うう〜……」



P「でも、こうしてときどき作りに来てくれて本当に感謝してるよ、ありがとう」



まゆ「誰かのためにお料理するの、好きなんです」



まゆ「それがプロデューサーさんならなおさら……うふふ」



P(天使だ……天使がここにいる)



P(けど、さっきはちょっと怖かったな……)











まゆ「プロデューサーさん? 一体どれくらい掃除してないんですかぁ?」



P「えーと……前回まゆが来て以来、かな」



まゆ(うわぁ)



P(今小さくうわぁって言った)

まゆ「こんなに埃や髪の毛が落ちてて気にならないんですか?」



P「そろそろ気になってきたから掃除しようかと思ってたんだよ」



P「でもせっかくならまゆにやって……もらおうかと…………」



まゆ「……」



P「すいません、自分でやります」



まゆ「掃除はまゆがやりますから、お布団干してきてください」



P「はい」











P(俺が悪いんだけどさ、うん)



P(結婚したら尻に敷かれそう……まあ、それはそれで)



P(待てよ、結婚……)



まゆ(そういえば掃除したとき……)

P「閃いた!」



まゆ「閃きました!」



P「まゆも? ひょっとしてさっきの話?」



まゆ「あ、はい。プロデューサーさんも?」



P「うん。とりあえずまゆから聞かせて」



まゆ「じゃあ……プロデューサーさん、若奥様とか新妻って単語、好きですか?」



P「好きか嫌いかで言えば……好きかな」



まゆ「ですよね。そういうえっちなの持ってますもんね」



P「うぐっ」



まゆ「『彼氏がいる』じゃなくて『結婚している』って公言するのはどうですか?」

まゆ「それならまゆは、新妻アイドルです♪」



まゆ「男性や、同じように結婚したばかりの女性」



まゆ「結婚に憧れる同年代の女の子もファンになってくれると思うんですけど」



まゆ「どう……ですか?」



P「俺も同じこと考えた」



まゆ「本当ですか? 同じタイミングで思いつくなんて、息ぴったりですね」



P「結婚はもう少し落ち着いてからと思ってたけど……」



P「まゆがトップアイドルになるためだから仕方ないな!」



まゆ「仕方ないです!」



P「まゆ、俺と結婚してくれ!」



まゆ「はいっ!」

P「……というわけで、先に入籍だけ済ませました。後ほど式も挙げます」



美城常務「おめでとう。……だが本当に売れると思っているのか?」



P「社内でアンケート取りましたが、概ね好評だったので問題ないかと」



P(同僚二人しか聞いてないけど)



常務(社内アンケート……少なくとも同業の百人程度は認めたということか)



P「必ず吉報をお届けします」



常務「まあ……いいだろう。やってみなさい」











秘書「佐久間まゆお披露目デビューライブについて報告が届きました」



秘書「新人としてはかなりの高評価を得ているようです」



秘書「また、既婚という点についても『今までいなかった新時代のアイドル』として受け入れられています」



常務「分かった」

常務(新時代、か……私も考えを改めねばいけないだろうか)



常務「そういえば、芸名は旧姓を使うのか?」



秘書「そのようですね。モデル時代のファンを考慮してのことでしょう」



秘書「それともう一つ吉報です」



常務「なんだ」



秘書「佐久間さんが妊娠したそうです」



常務「……ん?」



秘書「ギリギリまで仕事は続けるそうですが、その後しばらくは産休及び育休になるかと……」



常務「デビューしたばかりでか? 一番仕事を増やすべき時期に?」



秘書「本人が出産を希望していますので」

常務「出演予定の定例ライブは?」



秘書「当然キャンセルですね。激しい動きはさせられません」



秘書「希望者にはチケット代返金で対応します」



秘書「その他の出演予定も、キャンセル、代役、出番の短縮などが少し」



常務「……」



秘書「……常務?」



常務「そういう吉報はいらんっ!!」











かくして、常務からの評価がかなり下がったまゆとプロデューサーだったが、



その後発売された、出産前後の日記写真集がベストセラーになったことで評価を取り戻すのだった。

終わり







20:30│佐久間まゆ 
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