2013年11月05日

P「出来損ないのプロデューサー」

「あずささん……」

事務所から、そう遠くない公園。
彼は自分を待ってくれている人、あずさの元へと来て驚いていた。
それは、あずさの姿が自分のつい最近まで知っていたものと違っていたからだ。

目の前で立つあずさは驚いた彼の顔をみて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
あずさの長い髪はすっぱり切られて、綺麗に短く整えられていた。

「私、願掛けをしたんです」
「願掛けですか?」
「はい……」

きっかけは、引退コンサート失敗のほとぼりが冷めた頃、同僚の秋月律子から言われた一言だった。

「もう一度、アイドルとして再スタートしてみませんか?」

その頃の律子は、アイドルからプロデューサーに転身していた。
律子は、アイドルをソロではなくユニットとしてプロデュースしようとしていた。
そのユニット「竜宮小町」の白羽の矢が立った三人が、

可愛い系として人気を得ているが、ファン数が伸び悩んでいる水瀬伊織。
その幼さと無邪気さで、徐々に注目されてきている双海亜美。
そして既に引退して、一度は世間の批判を受けた三浦あずさだった。

律子としては伊織のリーダーシップ、亜美のもつポテンシャル、あずさの持つ最年長故の他二人にはない女性らしさに期待していた。
話題性も既に一定の人気を得ている伊織、サイレントマジョリティーを期待できる亜美、そこにあずさの復活と抜群なものだ。
あずさにとって、律子の提案は魅力的なものだった。
竜宮小町として再デビューをはかれば間違いなく、一気にスターロードを駆け上がっていくことができるだろう。
だが、あずさは自分の力で新たなスタートを一からきりたかった。
あずさは律子の提案を断り、ソロで再デビューをしようと決めた。
その決意に律子、伊織、亜美は、それぞれ激励の言葉を送ってくれた。

「……敵いませんね、プロデューサー殿には。あずささん、頑張ってください」
「はあ、あんな奴のどこがいいんだか……頑張りなさいよ、あずさ」
「あずさ姉ちゃん、頑張ってね。亜美も真美と一緒にメッチャ頑張るから!」

自分が失敗を乗り越えて活動している。
そんな姿が彼に届けば、また自分の元へ戻ってきてくれると、あずさは信じていた。
再デビューの会見をする前日、あずさは過去の自分と決別するかのように髪を切り、彼が戻ってくるまで、髪を伸ばし続けようと心に決めた。

「もし、俺が戻ってこなかったら……どうするつもりだったんですか?」
「ずっと伸ばしていたと思います」
「平安時代の貴族の女性みたいな長さになってもですか?」
「そうですね……それだけ長い時間がたったとしても私はプロデューサーさんを待ち続けていると思います」
「バカな人ですよ、あなたは。自分の成功よりも、こんな男を選ぶなんて」
「自分のことよりも大切なもの……ありますよ、プロデューサーさん」
「そうですね……」

かつての彼も、自分のことを気にせず、あずさのプロデュースのことばかり考えていた。
それは、あずさのことが心のそこから愛おしかったからだろう。
あずさも同じだ。彼のことがどうしようもないほどに好きだから、彼を信じて待ち続けることができた。
互いに想い合っていたのに、自分が逃げ出したせいですれ違いが起きてしまった。
そう思うと彼は、自分が非常に恥ずかしく思えた。
彼は、恥ずかしさをごまかすようにコホンと咳払いをすると、あずさの今日の活動の予定を聞く。

「あずささん、本日の活動の予定は?」
「えっと、今日はドラマの収録がありますね」
「わかりました。それじゃあ、俺の車で行きましょうか」
「は〜い」

歩き出す彼の腕に、あずさは自分の腕を絡める。

「あ、あずささん?」
「プロデューサーさん、私が迷子にならないようにお願いしますね」

頬を赤らめて、彼にお願いするあずさ。
車の置いてある駐車場は、事務所から公園へ行く途中にある。
いかに方向音痴なあずさでも、そこまで行く途中で迷うことなどまずない。
それでも、あずさは彼が隣にいることを感じるために、彼の手を掴んでくる。
スーツ越しに、あずさの体温を感じる。
彼もまたあずさのことを強く感じたくて、あずさにこんなお願い事をする。

「あずささん……俺からもいいですか」
「はい、なんですか?」
「俺が……もう二度とあずささんの元から逃げ出さないように、しっかりと掴んでいてください」
「ふふっ、わかりました。離せと言われても絶対に離しませんよ」

彼の言葉に、あずさはより一層、体を近づける。
それに合わせて、彼の方も少し体をあずさの方に傾ける。
二人の距離がより一層に縮まった。

「さあ、行きましょう、あずささん」
「はい、プロデューサーさん」

二人は互いに支え合うように寄り添いあい、歩き出す。
これから二人で作っていく最高の未来へ、まっすぐに。


fin
―後日談―


「懐かしいですね」
「はい……」

彼とあずさは二人で縁側に並んで座って、アルバムを眺めていた。
二人の思い出が散りばめられた本のページを一枚めくるたびに、二人でその時のことを振り返る。
不意に彼は、顔を上げて遠い目をする。

「あの時のこと、思い出しているんですか?」
「ええ……大変でしたよね」

あの時のことを思い出して、自然と彼の口元が緩む。
そんな彼とは対照的に、あずさは頬を膨らませる。

「もう、笑い事じゃなかったんですよ。出来損ないのプロデューサーさん!」
「わかってますよ」

確かにあの時は、彼もあずさも大変だった。
それでも、あの一件がきっかけになって、お互いの気持ちを確かめ合ったことで、二人の仲はより親密なものになったと彼は思っている。
だからこそ、今こうして二人で笑い話の一つとして思い出を語ることができる。
過ぎ去った時間は、記憶の中で美化されたり、曖昧になっていくものだが、
彼があの時に感じたあずさの優しさ、手の温もり、ついでにあずさにひっぱたかれた頬の痛みも全て、色あせることなく甦ってくる。
それはきっとあずさも同じなのだろう。

「もし……あの時の、最初の引退コンサートが失敗しないでいたら、私たちはどうなんていたんでしょうか?」
「さあ、なんとも言えませんよ。それは、もしもの話でしかありませんし」
「ふふっ、それもそうですね」

小さく笑うあずさに、彼も笑みで返す。
彼はまたページを一つめくる。そこには、あずさの笑顔の写真が収められていた。
プロデューサーとして、あずさの色々な写真をみてきたが、この写真のあずさの写りはとても良かった。
プロのカメラマンでも、こんなベストショットは中々撮れないだろう。

「この写真、すごく良く撮れてますね。誰が撮ったんでしょう?」

彼がぽつりとつぶやくと、あずさは人差し指で彼の頬をツンとつつく。

「ん?」
「覚えていないんですか?」

あずさの顔は少し不満げだった。

「あの頃、私がこんな笑顔を見せたのは誰だったが、よぉく思い出してください」

あずさはそう言い残すと夕飯の準備に取り掛かった。
彼は知っている。この写真は、自分が撮ったものだ。
あずさがカメラのレンズ越しに見せた、とびきりの笑顔が何よりの証拠だ。
彼が一番好きな、優しくて暖かい笑顔。


彼はアルバムを閉じて、ひとつ心に決める。
このアルバムは大切にしまっておこう。そして、いつかあの子が大きくなった時に見せてあげよう、と。
お前のお父さんとお母さんは、こんな風に出会い、想いを重ねて、一緒に歩んできたんだよ、と教えてあげたい。
縁側はすっかり夕暮れに染まっていた。

「手伝いますよ」

彼は、キッチンにいるあずさに声をかける。

「いいんですか、……さん?」

あずさは彼の名前を呼んで、気遣う。
あずさとしては、プロデューサーとして忙しい彼のたまの休日くらいゆっくりと休んでいてほしいようだ。

「二人で協力してやりましょう。あの頃みたいに」
「アイドルとプロデューサーの頃みたいにですか?」
「そういうことです」
「ん〜、それじゃあ、お鍋の方をみてもらっていいですか?」
「ええ、わかりました」

彼は立ち上がって、あずさのいるキッチンへと向かった。


fin
後半になるにつれて会話文が多くなって、展開が駆け足になってしまった。
ところで聞きたいんだが、これ同じネタで別のアイドルでやりたい場合はこのままこのスレを使っていいのか?
レス読む限りじゃあ、このままここで続ければいいみたいだな。
後はどのアイドルにするかとシチュエーション。
>>38みたいなのもいいが、ゆっくり考えるか。

もしよかったら一緒に色々と考えてくれ。
まあ、雑談スレでやれって話なのかもしれないが。

15:45│三浦あずさ 
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