2013年11月05日
貴音「貴女様!」 P「面妖な……」 美希「ト・リ・オ、なの!」
なんとなく幕間をのんびり即興投下してみる
ちょびっと幕間 『ソイツの名は……』
ちょびっと幕間 『ソイツの名は……』
はーじまーるよー
(パンパンッ)
律子「ちょっとー、居る人集まってー」
千早「あら、なにかしら」
伊織「どうしたのよ」
小鳥「あ、もしかして紹介ですか?」キィッ
律子「ええ、社長から頼まれて」
貴音「紹介……?」
伊織「誰か来たの?」
律子「んー、今いるのはこれだけか」
小鳥「もういらっしゃってるんですか?」
律子「ええ、隣の会議室で待ってもらってます」
亜美「とうっ!」ダダッ
律子「ふんっ!」ガシィッ
亜美「ああんりっちゃん! いいじゃんどうせ紹介するんだからさぁー」
律子「そうよ、どうせ紹介するんだから少しくらい待ちなさい」
亜美「へぇーい……」
千早「もしかして、新しいアイドル候補生かしら……?」
伊織「まさか社長、また連れてきたの? いい加減回らなくなるわよ」
小鳥「違う違う。そういう意味ではこれまでより楽になる……のかしら?」
貴音「はて……そうなると……運営・指導側の人間、でしょうか」
小鳥「ぴんぽーん! 貴音ちゃん、正解!」
律子「……ま、どうなるかは始まってみないと、って感じですけどね」
律子「それじゃ、自己紹介してもらいましょうか。どうぞー」ガチャッ
「は、はいっ」
(テクテク)
赤羽根「えっと、○○プロダクションでプロデューサーをやっております、赤羽根です」
律子「社長の知り合いがやってる事務所のプロデューサーさんでね。武者修行ということで、出向という形で765プロで働くことになったのよ」
赤羽根「その、まだ駆け出しで至らないところも多いと思うけど……」
赤羽根「勉強のためだけじゃなくて、この事務所のみんながもっと大きくなれる様に頑張るから、よろしくな!」
小鳥「うんうん、気合は十分ですね」
律子「さ、みんなも挨拶して」
千早「如月千早です。よろしく」
伊織「初めましてっ! 私、水瀬伊織って言います! えへへっ、よろしくお願いしますねっ」
亜美「いおりんこんなとこで猫かぶりしなくていいじゃん。テレビ放映されるわけでもないし」
伊織「それもそうね」ケロッ
亜美「それにもうとっくに本性はバレ――」
伊織「な・ん・で・す・っ・て・ぇ・?!」グリグリ
亜美「うあうあ〜!」
赤羽根「はは……やっぱりテレビで見るのとは印象が違いますね」
律子「そりゃそうですよ。ほら、貴音も挨拶して」
貴音「初めまして。四条貴音と申します。赤羽根殿は、醤油、豚骨、味噌、塩、あるいはまた別の、どの派でございましょう?」
赤羽根「……へ?」
貴音「ですから――」
律子「ストップ。落ち着きなさい、いきなり距離を縮めすぎよ」
貴音「むぅ、一時とはいえ同じ事務所の仲間。腹を割って打ち解けようと思ったのですが……」
律子「誰が胃袋の好みを言えと言った。ラーメン星人基準で考えるんじゃないわよ」
赤羽根「あはは。四条さんはテレビなんかとあまり印象が変わらないね」
貴音「貴音、で構いません」
亜美「あ、亜美も亜美でいいよー! 双子の片割れ、双海亜美! 今は真美いないけど、よろよろー☆」
赤羽根「ああ、よろしく。みんな名前でフランクに話した方が良いのかな」
千早「萩原さんだけ気を付けた方が良いかもしれないですね」
赤羽根「萩原さん?」
(ガチャッ)
雪歩「ただいま戻りましたぁ」
伊織「あら、噂をすれば」
雪歩「へ?」ジー
赤羽根「……」
雪歩「……」
赤羽根「その……初めまして」
雪歩「……」
(スチャッ)
赤羽根「? なんで拡声器を構えて――」
765プロ勢「「「!」」」バッ
赤羽根「え、何でみんな耳を塞いd」
雪歩『男の人ぉーーーーー?!?!』ビリビリッ!
赤羽根「」キィ-z_ン
シバラクシテ
雪歩「さ、さっきはごめんなさい。私、萩原雪歩って言いますぅ」
赤羽根「赤羽根です。よろしく」スッ
雪歩「……」
赤羽根「……う、うん。ごめん、男の人が苦手なんだね」
↑
5m
↓
雪歩「は、はい……」
律子「うん、頑張ったわね、雪歩。お茶淹れてもらってもいいかしら」
雪歩「分かりました。すみません、赤羽根さん」
赤羽根「いやいや」
(トテテッ)
律子「……まぁこんな感じでひと癖もふた癖もある子が多いけど、よろしくお願いします」
赤羽根「こ、こちらこそ、いきなりお邪魔してすみません。皆さんの力になれるように、頑張ります!」
小鳥「残念ながら今日は外に出てていませんけど、今度、うちのプロデューサーにも挨拶させますね」
赤羽根「あ、Pさんですよね!」
律子「知ってるんですか?」
赤羽根「いえ、直接の面識はありませんが……Pさんと言えば、この765プロ繁栄の立役者とも言われてますからね」
赤羽根「敏腕プロデューサーを目指す者として、憧れの一つですよ」
律子「……ふぅーん……私もそれなりに結果出してるんですけどねー……」
赤羽根「も、勿論、秋月さんのことも尊敬してます!」
律子「律子でいいですってば」
小鳥「今日は事務所に戻ってきませんけれど、明日以降はちゃんと会えると思いますから」
赤羽根「はいっ、楽しみです!」
〜翌日〜
赤羽根「今日はPさん来てるのかなぁ……」
赤羽根「早くお会いして、色々とお聞きしたいな」
赤羽根「よしっ! 心機一転、頑張ろう!」
(ガチャッ)
赤羽根「おはようございます!」
響「あれ?」
美希「お客さん?」
赤羽根「」
響「あ……あー、あの時の……」
美希「あれ? どっかで見たことある気がするの」
赤羽根「あ、あはは……その、お久しぶり……」
小鳥「あ、おはようございます。あれ? 二人は知り合い?」
響「知り合いというか、そのー」
美希「あ、思い出した! げーのーかいで沈んじゃいそうな人なの!」
赤羽根「」
響「前に思いっきり勧誘受けちゃって」ポリポリ
赤羽根「ごめん……本当にごめん……」
小鳥「ま、まぁまぁ! 面白い出会いだったと思えば、ね?!」
赤羽根「それで、Pさんは……?」
小鳥「まだ来てないのかしら。そろそろ来ると思うけど――」
(ガチャッ)
P「うぃーっすおはよう」ダンディーボイス
美希「あ、ハニーおはようなの」
響「はいさーい」
P「はいさーい、みんな」
小鳥「あ、プロデューサーさん。あのー」チラッ
P「どうしました?」チラッ
赤羽根「……!」
P「あ、そういえば社長が武者修行を受け入れたって……」
P(ン?)
P「君、どこかで……?」
赤羽根「お、お会いできて光栄です! Pさん!!」
P「え? あ、はい」
赤羽根「うちの事務所でも散々聞かされたんです、Pさんの伝説!」
P「で、伝説?」
赤羽根「まだ小さかった765プロダクションをまとめ上げ、小規模ながらも芸能界屈指のアイドル達を擁するまでに育て上げた名プロデューサー……」
P「て、照れるなぁ」
赤羽根「短い間ですが、ご教授のほど、よろしくお願いいたします!」フカブカ
P「はっはっは! おう、赤羽根君! 頑張っていこう!」
響(誉められていい気になってる……)
美希(ハニー、ちょろすぎるの……)
小鳥(でもたぶん赤羽根さんも本気よね……)
P・赤羽根「「あっはっはっはっは!」」
三人(((めんどくさそう……)))
貴音「…………」ジーッ
〜更に数日経って〜
赤羽根「Pさん、この場合……」
P「ああ、ここをこうした方がスケジュールが……」
赤羽根「成程……」カキカキ
P「その間にこっちにも回れるだろう? あそこの人は結構そういうの気にするからな」
赤羽根「でしたら、その間に……」カキカキ
真美「兄ちゃん達、超真剣だね」
真「二人とも、仕事に対する姿勢は真面目だから……」
小鳥「それだけならいいんだけど……」
P「いやぁ、赤羽根君やっぱり才能あるよ! 俺なんかより全然!」
赤羽根「そんなことありませんよ! Pさんはもう、俺の中でレジェンドですから!」
P・赤羽根「「あっはっはっは!」」
三人「「「めんどくさい……」」」
P「よし、真、営業行くぞ。今日は赤羽根君も同行するから」
真「あ、はい」
赤羽根「よろしく、真」
真「はいっ、バリバリ頑張りますっ!」
真美「その調子で二人に挟まれてもバリバリ頑張ってね」ボソッ
小鳥「ハイテンションな男の世界に置いていかれないようにね」ボソッ
真「は、はい……」ハァ...
P「いってきまーす」ガチャッ
(バタン)
真美「兄ちゃんって一人っ子なのかなぁ」
小鳥「どうして?」
真美「ほら、一人っ子が弟とか妹とかみたいな人できるとあんな感じじゃん?」
小鳥「あー」
春香「おはようございまーす」ガチャッ
あずさ「おはようございます〜」
やよい「うっうー! 今日も頑張りますよー!」
小鳥「あ、三人ともおはよう」
真美「兄ちゃん達と入れ違いだねー」
やよい「えーっ、そうなんですか? 残念ですー……」
あずさ「あらあら〜。今日も赤羽根さんと?」
小鳥「ええ、真ちゃんの付き添いで」
春香「うー、最近プロデューサーさん、赤羽根さんに構ってばかりだよぅ」
あずさ「私も、最近お出かけとかしてないですし……」
小鳥「まぁ、お仕事だから、ね?」
真美「でも、結構夜も一緒に呑みに行ったり、オフも勉強がてら出かけたりしてるっぽいよ?」
小鳥「……」ポワァン
小鳥(お、落ち着くのよ小鳥。二人とも男性なんだから、別に出し抜かれたりしたわけじゃ……男性?)
小鳥(……赤羽根さんって、結構イケメンの部類よね)
小鳥「プロデューサーさんと赤羽根さんが、二人で……」ボーッ
やよい「小鳥さん、どうしたんですかぁ?」
春香「やよい……」スッ
やよい「ふぇ?」
春香「そっとしておいてあげて……」
真美「いつもならりっちゃんのゲンコツが落ちてるとこだけど……」
あずさ「今はちょっぴり、気持ちが分かりますから……」
小鳥(休日、仲睦まじい二人……)
小鳥(いえ! へ、平日の呑みだって、もしかしたらそのまま夜の闇に……!)
小鳥「あ……あぁぁぁぁぁああああ!!!」ガクガク
やよい「こ、小鳥さん!?」
小鳥「な、なんてこと……まさか、同僚のリアルな日常の中にこんな光景が垣間見える日が来るなんて……!」ブルブル
春香「小鳥さん、そろそろ黙りましょうか」
小鳥「ピヨッ!?」
真美「ところどころ駄々漏れだよピヨちゃん」
あずさ「流石に口にするのは……」
小鳥「えっうそっ!?」
やよい「プロデューサーと赤羽根さんが、二人でなんなんですか?」キョトン
小鳥「……いえ、何でもないわ」
春香「あ、やよいの純真な顔を見て一瞬で賢者タイムに」
あずさ「……でも、やっぱりあそこまで仲良くしてると気になる気持ちも分かります」
小鳥「うんうん」
春香「……私は信じてます。プロデューサーさんは、普通の人だって」
やよい「普通じゃないとどうなんですか?」
三人「「「な、なんでもないです!」」」
〜現実〜
P「いやぁ、この前見てきたライブ、凄かったよなぁ!」
赤羽根「まさか、あんな回し方をするなんて……考えもしませんでした!」
P「そうそう、この間行った呑み屋の店長に聞いたんだけどさ、△△プロの人も常連らしいんだよ」
赤羽根「本当ですか?! 是非一度お会いしたいです!」
P「よっしゃ! それじゃあ今週も冒険だぞ!」
赤羽根「はいっ!」
真「助けて……同業の話をしてるはずなのに欠片も入る余地がない……」シクシク
〜そんなある日〜
赤羽根「んー、ここはこうして……」カタカタ
小鳥「大分慣れてきましたね」コトッ
赤羽根「ようやくまともにお手伝いできるようになってきましたよ。お茶、ありがとうございます」
小鳥「いえ、淹れたのは、ほら」ユビサシ
赤羽根「?」チラッ
雪歩「……」コソコソ
赤羽根「ありがとう」ニコッ
雪歩「は、はい……」サッ
赤羽根「まだ怖がられてますね」
小鳥「最初の頃に比べれば、全然」
赤羽根「今日はPさんは?」
小鳥「多分後から来ると思います。午前中に営業に出て行ったから……」
赤羽根「そうですか」カタカタ
小鳥「あ、そうだ」ティンッ
赤羽根「なんです?」
小鳥「私、ちょっと社長のお手伝いで外出なきゃいけないんです」
小鳥「雪歩ちゃんもそろそろお仕事に行っちゃうので、プロデューサーさんが来るまで、お留守番お願いできますか?」
赤羽根「分かりました。俺はもう、今日一日内勤なので」
小鳥「ありがとうございます! じゃあ雪歩ちゃん、行きましょうか」
雪歩「はい。……えっと、行ってきます」
赤羽根「うん、行ってらっしゃい」
(カタカタ)
赤羽根「765プロに来てまだ日は浅いけど、色んなことを学んだな」
赤羽根「最初は体のいい追い出しかとも思ったけど、この話を受けて良かった」
赤羽根「よしっ! 事務所のためにも765プロのためにも、俺のためにも、頑張ろう!」グッ
(カタ...)
赤羽根「そういや喉が渇いたなぁ」ギィッ
(ガチャリ)
赤羽根「あー……冷蔵庫の中何もないな……水を……いや……」
赤羽根「Pさんは鍵持ってるはずだし……ちょっとコンビニで買ってこよう」ガチャッ
(バタン)
――――――――
―――――
――
(テクテク)
赤羽根「何なんだ、真っ961人に冷たい飲み物は買い占められたって……嫌がらせか……」
赤羽根「熱いコーヒー飲む気分でもないし……水飲むかな……」
(バシャァッ!)
おばさん「あら、ごめんなさい!」
赤羽根「……」ビシャビシャ
おばさん「見てなくて……クリーニング代の弁償を」
赤羽根「いえ、お構いなく……」ビシャビシャテクテク
おばさん「あ……」
おばさん「……不幸そうな人だったわねぇ……」
赤羽根「水飲むとは言ったけど、誰も浴びたいなんて言ってないのに……」ビシャビシャテクテク
赤羽根「仕方ない、シャワー浴びないと」
(ガチャッ)
赤羽根「ふぅ」
赤羽根「さて、シャワー室に」
(ガチャッ)
赤羽根(……あれ?)
赤羽根(そういやなんで玄関の鍵、開いてたんだ?)
(バッタリ)
P「あ」ビューティーボイス
赤羽根「あ」
P(鍵かけ忘れてた)
P「ごめんごめん、今すぐ出――」
赤羽根「っっっ!?!??!」
(ドタタタタッ!)
(バタンッ!)
P「? 何慌ててんだ、アイツ」
P「あっ、そういえばこっちの時に会うのって美希の時以来か」
P「そんなに嫌かな、裸。気持ち悪がられてる?」
P「……自分で言うのもなんだけど、割と自信あるのに」ハァ
赤羽根「……」ドキドキ
赤羽根(だ、誰だ今の!?)ドキドキ
赤羽根(いや……)
赤羽根(俺はこの女の子を知っている!いや!このまなざしとこの髪型を知っている! )
赤羽根(P子さん……!)ガクガクブルブル
赤羽根(すっかり失念していた、この事務所にはもう一人のプロデューサーが居たことを!)
赤羽根(業界でも神出鬼没……掴みどころのないイレギュラー……!)
赤羽根(お……)
赤羽根(思いっきり……見てしまった……)
P「どうしたの、シャワー使おうと思った?」ビューティーボイス
赤羽根「うわぁっ!?」
P「もう着てるよ」
赤羽根「そ、そこで水をかけられてしまって……」
P「ああ、それでずぶ濡れなのね。ほらほら脱げって」グイッ
赤羽根「ひ、一人で出来ますから! シャワーお借りします!」ダダダッ
(バタンッ)
P「ろ、露骨に避けられた……」
P「……もしかして、嫌われた?!」ガーン
(ザァァァァァア)
赤羽根「なんて言い訳しよう……絶対怒ってるよな……」
(ガチャッ)
P「ずぶ濡れだろうから、着替え置いとくよー。事務所ので悪いけど」
赤羽根「い、いえ! ありがとうございます」
(バタン)
赤羽根「……」
赤羽根「ダメだ、やっぱりさっきの光景を思い出してしまう……」
赤羽根「……俺も男なんだな……」ハァ
(ガチャッ)
赤羽根「着替え、ありがとうございます……」
P「おー、お疲れ。サイズ大丈夫?」
赤羽根「ええ、大丈夫です……」
P「……」ジーッ
赤羽根(き、気まずい……!)
P「そういやこうして(この状態で)会うのは美希の時以来だよね」
赤羽根「そ、そうですね。美希と一緒にいた時以来ですね」
P「あっはっは! あの時も響の時も、赤羽根君面白かったねぇ」
赤羽根(あれ? 怒ってないのか……?)
赤羽根「あの……怒ってないんですか?」
P「え?」
赤羽根「その……見てしまったこと」
P「え、なんでよ、気持ち悪い」
赤羽根「えっ」
P「なんかいきなり改まって言われると変な気分だな……ま、俺と赤羽根君の仲じゃないの」
赤羽根「は、はぁ」
P「そんな気まずそうにしないで、ほらっ!」ズイッ
赤羽根(わぁっ!?)
赤羽根(ゆ、湯上りのP子さん……さ、さっきの光景を否応なしに連想してしまう!)
(ポンッ)
赤羽根「っ!?」ビクッ
P「ただ認めて、次の糧にすれば良い。それが大人の特権だよ、赤羽根クン♪」
赤羽根「……」
P「はっはっはっは! というわけで、おねーさんはちょっとこのまま別の営業行ってくるわ。小鳥さん帰ってきたら伝えといてー」ヒラヒラ
赤羽根「あ、はい……」
P「そんじゃ、いってきまーす」ガチャッ
(バタン)
赤羽根「……」ボーッ
〜数日後〜
(カタカタ)
赤羽根「ふぅ、一休み、と……」
赤羽根「……」ポーッ
律子「……最近、どうしたの?」
千早「時々、思い出したように物思いに耽って……」
小鳥「仕事はちゃんとこなしてくれてるので、支障はないんですけど」
赤羽根「……はぁ」
律子「悩み事かしら」
千早「それとなく聞いてみましょうか」
小鳥「千早ちゃん、無理しないで。あなたほど『それとなく』からほど遠い人もいないんだから」
千早「そんなことないです。見ててください」テクテク
小鳥「本当かしら……」
律子「いえ、無理でしょ」
千早「赤羽根さん」
赤羽根「……ん? ああ、千早か。何か用かい?」
千早「最近、時々ぽけーっとしてらっしゃいますけど、何か悩み事ですか?」
律子・小鳥((案の定ド直球だーー!!))
赤羽根「えっ?! い、いやっ、悩み事とかじゃ……」アセアセ
千早「短い期間ですが、私も、同じ事務所の仲間です。少しでも力になれれば」
赤羽根「ありがとう。でも、大丈夫。本当に悩み事とかじゃないんだ」
千早「……そうですか。変に勘繰ってしまい、すみません」ペコリ
赤羽根「いや、ありがとう。俺も気を引き締めないとな」
千早「悩み事ではないそうです」
律子・小鳥「「ダメだよあんた!!」」カッ!
貴音「……悩み事ではありません」フラリ
小鳥「貴音ちゃん……?」
貴音「あの表情の正体、私は知っています」
律子「なんですって!?」
貴音「その正体は……」
千早「……」ゴクリ
貴音「……恋、です」
三人「「「……!!!!」」」
小鳥「そ、そう言われてみれば……!」
千早「確かに、律子が時折、不意にプロデューサーに向ける視線に似ている気も――」
律子「わーーーっ!!! わーーーーーっ!!!!!」
小鳥(今更隠そうとしても……)
貴音「しかし、これはゆゆしき事態です」
小鳥「……はっ! ま、不味いわよこの事態は!」
律子「……なるほど、どうにかしないといけないですね」
千早「え? 別にいいじゃない、アイドルでもないんだから好きに恋愛すれば」
律子「いいえ。千早、考えてみて。この環境で、恋愛対象として最も可能性が高い相手を……」
千早「……!」ハッ
小鳥「そうなのよ、千早ちゃん……」
貴音「赤羽根殿の恋の相手は――」
小鳥「プロ 三人「「「アイドルである可能性が高い!」」」」
律子「……」
小鳥「……」
千早「……」
小鳥「あの」
貴音「……」ジトッ
小鳥「いえ……あの、ごめんなさい……」
小鳥「で、でもプロデューサーさん(♀)に憧れてるっていう可能性もあるじゃないですか!」
律子「確かに、可能性はありますけど……」
(ガチャッ)
P「おっす」ダンディーボイス
赤羽根「あ、Pさん。こんにちは」
P「捗ってる?」
赤羽根「ええ、まずまずです」
千早「……違うみたいね。平然としてるわ」
小鳥「うっ、うぅっ……」
律子「ま、今はいくら詮索しても分からないわね。暫く様子をみましょう」
貴音「……」
―――――――――
――――――
―――
小鳥「それじゃあ私も帰りますから、最後の戸締りお願いしますね」
赤羽根「はい、お疲れ様です」
小鳥「お疲れ様ですー」
(バタン)
赤羽根「さて、早い内に終わらせよう」カタカタ
(カタ...)
赤羽根「……はぁ」
赤羽根「P子さんの声と笑顔が……頭から離れない……」
赤羽根「俺は中学生か……!」ガクゥッ
「何を迷うことがあるのです?」
赤羽根「っ誰かいるのか?」バッ
(スゥッ)
貴音「私ですよ、赤羽根殿」
赤羽根「貴音か……」
貴音「どなたのことを思い浮かべていたのですか?」ニコッ
赤羽根「お、俺は、何も……」
貴音「隠さなくても良いのです。私には分かっているのですから」
貴音「最初はアイドルの誰かかとも思ったのですが、違うのでしょう?」
赤羽根「本当に、見透かされてるみたいだよ」
貴音「私も、同じような表情をする時があります故」
赤羽根「……この前、名前を呼ばれて」
_________
『赤羽根クン♪』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
赤羽根「理屈じゃないんだな……ドキッとしちゃってさ」
貴音「ふふ。恋とは往々にして、そのようなものだと聞き及びます」
赤羽根「裏表がない、というか。明るくてさ、人懐っこいんだ」
貴音「魅力的な人なのですね」
赤羽根「ああ」
貴音「私も、似た方を知っております」ニコッ
赤羽根「……もしかして」
貴音「ふふ。とっぷしぃくれっと、でございます」シーッ
貴音「人を想う気持ちに、制約や禁則などありません」
貴音「自分に素直になること。それから、次のことを考えましょう」
赤羽根「そう、だな。ありがとう、貴音」
貴音「いえ。『敵に塩を送る』のは、今回限りでございますから」
赤羽根「とっぷしぃくれっと、だったんじゃ?」
貴音「! 私としたことが……つい、口を滑らせてしまったようです」
赤羽根「そっか……『制約や禁則などない』。説得力があるよ」
貴音「お互い、頑張りましょう」ニコッ
赤羽根「ああ」ニコッ
赤羽根「……そうだ、礼じゃないけど、ラーメンでも奢ろうか」ギィッ
貴音「?! まことでございますか?!」
赤羽根「どこでもいいさ。仕事もひと段落ついたし、俺もお腹が空いてさ」
貴音「では、参りましょう……二十郎へ……!」
赤羽根「二十郎か。名前は知ってるけど、行ったことないな。頼み方が特殊なんだっけ?」
貴音「ご心配なく。私が注文しますから、同じように頼んでいただければ問題ありません」
赤羽根「それは心強い。頼むよ」
〜翌日〜
赤羽根「うっぷす……」ヨロヨロ
真美「うっぷす?」
春香「『oops』。英語で『おっと!』って意味だよ」ドヤッ
律子「いえ、あれは単なる食べ過ぎの呻き声でしょ」
春香「うぅ」
響「朝っぱらからそんなに食べたのか?」
赤羽根「いや……昨日貴音と食べた二十郎が……もたれて……」ガクッ
伊織「貴音の注文をそのまま真似たって……アンタ死ぬ気?」
貴音「初心者だと仰るので、いつもよりは少な目にしたのですが……」
(ガチャッ)
P「おはよー」ビューティーボイス
赤羽根「っ!?」ガバッ
真美「おーっ、今日は姉ちゃんだー!」ダキッ
亜美「真美は前方から行け、亜美は後方を押さえる!」
真美「りょーかいっ!」
P「はっはー、今日も威勢がいいな二匹ともー」
亜美真美「「匹ってなにさ!」」
あずさ「ほらほら、二人とも。プロデューサーさんが動けないわよー」グイィ
真「朝っぱらから邪魔しない。ほらほら」
亜美真美「「うあー!」」
赤羽根(P子さん……そうだ、覚悟を決めろ、俺……!)
赤羽根「……」チラッ
貴音「……」コクリ
赤羽根(ありがとう、貴音。後押ししてくれて)
赤羽根「……あの」
P「ん? 俺?」
赤羽根「ちょっとお話があるので、屋上にいいですか?」
P「ここで聞かれたら不味い話か?」
赤羽根「ええ、少し……」
P「はいはい、了解」
赤羽根「ちょっと失礼しますね」ガチャッ
(バタン)
律子「……まさか……」
小鳥「赤羽根さん……!」
千早「本当に……プロデューサーを……」
美希「え? 二人とも何しに行ったの?」
やよい「赤羽根さん、すごく真剣な顔をしてましたー」
雪歩「思いつめたというか、覚悟を決めたというか……」
小鳥(……はっ?!)
小鳥「た、貴音ちゃん! 多分、これはそういう意味ではなくて……!」
貴音「焦らずとも、私は理解しておりますよ、小鳥嬢」
小鳥「貴音ちゃん……」ホッ
貴音「昨日、赤羽根殿と直接、言葉を交わしました故」
小鳥「」
貴音「その上で、この機会はお譲りしたのです」
貴音「あくまで、公平に戦わねば、誰も幸せにはなれませんから」ニコッ
小鳥「た、貴音ちゃん……」
貴音(頑張るのですよ、赤羽根殿……)
(ヒュウウウウウ)
P「あー、風が気持ちいー」ビューティーボイス
赤羽根「……」
P「で、話って?」
赤羽根「……あのっ」
赤羽根「っ……」
P「?」
赤羽根(何を今更迷ってるんだ! 覚悟を、決めたじゃないか!)
赤羽根(彼女にも後押ししてもらって、なんだこの様は!)
赤羽根(確かに、俺はいざという時にヘマをする時もあるし、ヘタレてるところもある)
赤羽根(……でも)
赤羽根(ここで逃げたら……)
赤羽根(それは、彼女への冒涜にもなる!)
赤羽根「……あの、P子さん!」
P「へ?」
赤羽根「俺、前から言いたかったことが――」クワッ!
P「いや、ちょっと待て」
赤羽根「え?」ピタッ
P「今なんて言った?」
赤羽根「あの、俺、前から言いたかっ」
P「いや、その前」
赤羽根「……あの、P子さん」
P「あれっ、お前知らなかったっけ?」
赤羽根「えっ」
P「あー、その顔知らなかったのか。てっきりもう伝わってるもんだとばかり」ポリポリ
赤羽根「えっ?」
P「そっかそっか。考えてみりゃ、俺の口から言ってなかったもんな。無理ないか」
赤羽根「あの、仰ってる意味がよく……」
P「細かい事情は省くけど、俺、Pなんだわ」
赤羽根「」
(コソコソ)
小鳥「赤羽根さんの表情……図星だったみたいね……」ヒョコッ
千早「流石にあれは哀れね……」ヒョコッ
律子「心中、あまり察するモノがあるわ……」ヒョコッ
貴音(……てっきり、知った上での想いかと思っておりました)ヒョコッ
小鳥「……戻りましょうか……」
三人「「「……はい」」」
赤羽根「あ、あは……冗談が、すぎますよ……」
P「いやぁ、自分でもよく分かってないんだけどさ、時々こうなっちゃうんだよね」
赤羽根「いや、あの……」
P「ほらコレ」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| 免許証 |
|_____|
赤羽根「そ、それはただPさんの免許証を持ってるだけで……」
P「疑り深いやつだなぁ。ほら」ピラッ
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| 診療記録 |
|_____|
赤羽根「 」
P「そりゃシャワーの時もビックリするわな。で、話ってなんだったんだ?」
赤羽根「あ……その……ああいう時に、もう少し恥じらいを持ってほしいというか……」
P「あー、確かに事務所内じゃ言いづらいな。特に俺を別人だと思ってたなら」
赤羽根「」グサッ
P「まぁほら、俺も結構恥ずかしかったりはするんだぞ? ただ、お前だからあんまり気にならなくてさ」
赤羽根「あは、あはは……そう言っていただけると、嬉しいですね……」グサグサ
P「何にせよ、混乱させちゃって悪いな」
赤羽根「いえ、お気になさらないでください……俺、事務所に戻りますね……」フラフラ
P「おいおい、大丈夫か? 足元がフラついてるぞ」
赤羽根「ご心配なく……」フラフラ
P「アイツ、何がそんなにショックだったんだ?」
P「……まさか」
P「ははは! まさかなぁ!」
<ズルッ
<ウワァードダダダダダダッドッタァン!
\リツコサン! ウエカラ アカバネサンガ!/
P「……まさかな」
―――――――――
――――――
―――
〜夜〜
赤羽根「…………」
貴音「その、なんと申し上げたら良いのか……」
赤羽根「……いつまでも、凹んではいられないな」
貴音「え?」
赤羽根「よしっ! また心機一転、プロデュース業を頑張ろう!」パンッ
貴音「赤羽根殿……」
赤羽根「はは、俺だって大人だよ。正直、ダメージはかなりあるけど……」
赤羽根「だからって、泣き事ばかり言っていられないしな」
赤羽根「俺の心配よりも、貴音は自分が頑張らないとな」
貴音「も、勿論でございます。トップアイドルを目指し、これからも――」
赤羽根「それだけじゃなくて」
貴音「?」
赤羽根「……誰かに取られるんじゃないか、Pさん」
貴音「……!」
赤羽根「落ち着いて冷静に見回してると、他にもちらほら、ね。見えてくるよ」
貴音「……そうですね」
赤羽根「貴音だけを贔屓するってわけじゃないけど、貴音も俺のこと、応援してくれたしさ」
赤羽根「……結果はああだったけど」ドヨーン
貴音(赤羽根殿、完全に引き摺っているのですね)
赤羽根「出向の期間はまだまだあるし、ここで潰れてたらみんなに迷惑かけちゃうからね」ニコッ
貴音「赤羽根殿……」
赤羽根「俺はまだ書類が残ってるからさ。帰ってしっかり休んでくれ」
貴音「……はい。では、お先に失礼いたします」
赤羽根「ああ、またな」
(ガチャッ)
(バタン)
赤羽根「…………」
赤羽根「……死にたい……」ガクゥッ
――この事件から暫くの間、小鳥、律子、千早、貴音――
――それに、雰囲気から薄らと勘付いた一部の者は、彼への気遣いに余念がなかったという――
――彼はすぐに立ち直ったように見えたものの、時折、一人で涙を流していた――
――頑張れ、青年! 君の才能は折り紙つきだ! ちょっと運がないだけだ!――
――いつかきっと、多分……ええ、多分、良いことがあると思います。多分――
――ちなみに、当のプロデューサーさんは平常運転でした――
(語り:音無小鳥)
(テクテクテク)
貴音「赤羽根殿には気の毒なことをしてしまいましたね……」
貴音「……おや?」
P「あら、貴音じゃない」ビューティーボイス
貴音「お帰りでしょうか?」
P「事務所に戻ってきちゃったけど、考えてみたら今日直帰の日だったの思い出して」
貴音「成程。では、一緒に帰りましょう」
P「はいはい」
(テクテク)
貴音「こうして帰るのも、久方ぶりのような気が致します」
P「最近は赤羽根君の教育も多かったし、貴音には一人で行かせてたしね」
貴音「……」
(ギュッ)
P「? どうしたの、いきなり後ろから抱き着いて」
貴音「……最近、貴女様は赤羽根殿に構い過ぎです」
P「そう?」
貴音「はい。皆、寂しがっております」
P「えー、貴音だけじゃなくて?」
貴音「そそそ、そのようなことは!」
P「ほんとかなー?」ナデナデ
貴音「……うぅ……貴女様はいけずでございます……」
P「よし、帰ろっか」
貴音「貴女様の家に」
(ピタッ)
P「……来たいの?」
貴音「いけませんか……?」ウルッ
P「……変なコトはナシね」プイッ
貴音「……! 貴女様ぁっ!」ギュゥッ
P「あ、歩きづらいから!」
貴音「では、早く参りましょう!」ウキウキ
P「はいはい……現金な子ねぇ……」
貴音「貴女様、もうお食事はとられましたか?」
P「いや、まだだよ」
貴音「でしたら、にじゅ――」
P「お断りします」
貴音「……でしたら、貴女様の手料理を食べさせていただきたく」
P「んー……何がいいかなぁ」
貴音「ふふっ、貴女様が作るものでしたら、なんでも」
P「言ったね? 何を出しても文句言わないでよ」
貴音「はい。貴女様と、食卓を共にできるのでしたら」
P「はぁー……食費がかさむなぁ……まぁいっか」テクテク
貴音「貴女様の手料理……まこと、楽しみです」
「さぁ、帰りましょう」
おわり
単発投下したついでに筆が進んだから書いてみたら、ちょびっとどころじゃねぇ、初期の本編並の長さだった
そんな幕間、羽根Pルート、フラグぶち折り編
羽根Pの出向期間はもうちょっと続くんじゃよ、本編でも出向は続いてるよ
あと僕別に羽根P嫌いじゃないからね、むしろキャラとしては好きだからね、運がないだけで
最後の方イイ話っぽくまとめたけど、事務所では羽根Pが屍になっています
読んでくれた方ありがとうございました
OUT:アカバネ
IN:シカバネ
(パンパンッ)
律子「ちょっとー、居る人集まってー」
千早「あら、なにかしら」
伊織「どうしたのよ」
小鳥「あ、もしかして紹介ですか?」キィッ
律子「ええ、社長から頼まれて」
貴音「紹介……?」
伊織「誰か来たの?」
律子「んー、今いるのはこれだけか」
小鳥「もういらっしゃってるんですか?」
律子「ええ、隣の会議室で待ってもらってます」
亜美「とうっ!」ダダッ
律子「ふんっ!」ガシィッ
亜美「ああんりっちゃん! いいじゃんどうせ紹介するんだからさぁー」
律子「そうよ、どうせ紹介するんだから少しくらい待ちなさい」
亜美「へぇーい……」
千早「もしかして、新しいアイドル候補生かしら……?」
伊織「まさか社長、また連れてきたの? いい加減回らなくなるわよ」
小鳥「違う違う。そういう意味ではこれまでより楽になる……のかしら?」
貴音「はて……そうなると……運営・指導側の人間、でしょうか」
小鳥「ぴんぽーん! 貴音ちゃん、正解!」
律子「……ま、どうなるかは始まってみないと、って感じですけどね」
律子「それじゃ、自己紹介してもらいましょうか。どうぞー」ガチャッ
「は、はいっ」
(テクテク)
赤羽根「えっと、○○プロダクションでプロデューサーをやっております、赤羽根です」
律子「社長の知り合いがやってる事務所のプロデューサーさんでね。武者修行ということで、出向という形で765プロで働くことになったのよ」
赤羽根「その、まだ駆け出しで至らないところも多いと思うけど……」
赤羽根「勉強のためだけじゃなくて、この事務所のみんながもっと大きくなれる様に頑張るから、よろしくな!」
小鳥「うんうん、気合は十分ですね」
律子「さ、みんなも挨拶して」
千早「如月千早です。よろしく」
伊織「初めましてっ! 私、水瀬伊織って言います! えへへっ、よろしくお願いしますねっ」
亜美「いおりんこんなとこで猫かぶりしなくていいじゃん。テレビ放映されるわけでもないし」
伊織「それもそうね」ケロッ
亜美「それにもうとっくに本性はバレ――」
伊織「な・ん・で・す・っ・て・ぇ・?!」グリグリ
亜美「うあうあ〜!」
赤羽根「はは……やっぱりテレビで見るのとは印象が違いますね」
律子「そりゃそうですよ。ほら、貴音も挨拶して」
貴音「初めまして。四条貴音と申します。赤羽根殿は、醤油、豚骨、味噌、塩、あるいはまた別の、どの派でございましょう?」
赤羽根「……へ?」
貴音「ですから――」
律子「ストップ。落ち着きなさい、いきなり距離を縮めすぎよ」
貴音「むぅ、一時とはいえ同じ事務所の仲間。腹を割って打ち解けようと思ったのですが……」
律子「誰が胃袋の好みを言えと言った。ラーメン星人基準で考えるんじゃないわよ」
赤羽根「あはは。四条さんはテレビなんかとあまり印象が変わらないね」
貴音「貴音、で構いません」
亜美「あ、亜美も亜美でいいよー! 双子の片割れ、双海亜美! 今は真美いないけど、よろよろー☆」
赤羽根「ああ、よろしく。みんな名前でフランクに話した方が良いのかな」
千早「萩原さんだけ気を付けた方が良いかもしれないですね」
赤羽根「萩原さん?」
(ガチャッ)
雪歩「ただいま戻りましたぁ」
伊織「あら、噂をすれば」
雪歩「へ?」ジー
赤羽根「……」
雪歩「……」
赤羽根「その……初めまして」
雪歩「……」
(スチャッ)
赤羽根「? なんで拡声器を構えて――」
765プロ勢「「「!」」」バッ
赤羽根「え、何でみんな耳を塞いd」
雪歩『男の人ぉーーーーー?!?!』ビリビリッ!
赤羽根「」キィ-z_ン
シバラクシテ
雪歩「さ、さっきはごめんなさい。私、萩原雪歩って言いますぅ」
赤羽根「赤羽根です。よろしく」スッ
雪歩「……」
赤羽根「……う、うん。ごめん、男の人が苦手なんだね」
↑
5m
↓
雪歩「は、はい……」
律子「うん、頑張ったわね、雪歩。お茶淹れてもらってもいいかしら」
雪歩「分かりました。すみません、赤羽根さん」
赤羽根「いやいや」
(トテテッ)
律子「……まぁこんな感じでひと癖もふた癖もある子が多いけど、よろしくお願いします」
赤羽根「こ、こちらこそ、いきなりお邪魔してすみません。皆さんの力になれるように、頑張ります!」
小鳥「残念ながら今日は外に出てていませんけど、今度、うちのプロデューサーにも挨拶させますね」
赤羽根「あ、Pさんですよね!」
律子「知ってるんですか?」
赤羽根「いえ、直接の面識はありませんが……Pさんと言えば、この765プロ繁栄の立役者とも言われてますからね」
赤羽根「敏腕プロデューサーを目指す者として、憧れの一つですよ」
律子「……ふぅーん……私もそれなりに結果出してるんですけどねー……」
赤羽根「も、勿論、秋月さんのことも尊敬してます!」
律子「律子でいいですってば」
小鳥「今日は事務所に戻ってきませんけれど、明日以降はちゃんと会えると思いますから」
赤羽根「はいっ、楽しみです!」
〜翌日〜
赤羽根「今日はPさん来てるのかなぁ……」
赤羽根「早くお会いして、色々とお聞きしたいな」
赤羽根「よしっ! 心機一転、頑張ろう!」
(ガチャッ)
赤羽根「おはようございます!」
響「あれ?」
美希「お客さん?」
赤羽根「」
響「あ……あー、あの時の……」
美希「あれ? どっかで見たことある気がするの」
赤羽根「あ、あはは……その、お久しぶり……」
小鳥「あ、おはようございます。あれ? 二人は知り合い?」
響「知り合いというか、そのー」
美希「あ、思い出した! げーのーかいで沈んじゃいそうな人なの!」
赤羽根「」
響「前に思いっきり勧誘受けちゃって」ポリポリ
赤羽根「ごめん……本当にごめん……」
小鳥「ま、まぁまぁ! 面白い出会いだったと思えば、ね?!」
赤羽根「それで、Pさんは……?」
小鳥「まだ来てないのかしら。そろそろ来ると思うけど――」
(ガチャッ)
P「うぃーっすおはよう」ダンディーボイス
美希「あ、ハニーおはようなの」
響「はいさーい」
P「はいさーい、みんな」
小鳥「あ、プロデューサーさん。あのー」チラッ
P「どうしました?」チラッ
赤羽根「……!」
P「あ、そういえば社長が武者修行を受け入れたって……」
P(ン?)
P「君、どこかで……?」
赤羽根「お、お会いできて光栄です! Pさん!!」
P「え? あ、はい」
赤羽根「うちの事務所でも散々聞かされたんです、Pさんの伝説!」
P「で、伝説?」
赤羽根「まだ小さかった765プロダクションをまとめ上げ、小規模ながらも芸能界屈指のアイドル達を擁するまでに育て上げた名プロデューサー……」
P「て、照れるなぁ」
赤羽根「短い間ですが、ご教授のほど、よろしくお願いいたします!」フカブカ
P「はっはっは! おう、赤羽根君! 頑張っていこう!」
響(誉められていい気になってる……)
美希(ハニー、ちょろすぎるの……)
小鳥(でもたぶん赤羽根さんも本気よね……)
P・赤羽根「「あっはっはっはっは!」」
三人(((めんどくさそう……)))
貴音「…………」ジーッ
〜更に数日経って〜
赤羽根「Pさん、この場合……」
P「ああ、ここをこうした方がスケジュールが……」
赤羽根「成程……」カキカキ
P「その間にこっちにも回れるだろう? あそこの人は結構そういうの気にするからな」
赤羽根「でしたら、その間に……」カキカキ
真美「兄ちゃん達、超真剣だね」
真「二人とも、仕事に対する姿勢は真面目だから……」
小鳥「それだけならいいんだけど……」
P「いやぁ、赤羽根君やっぱり才能あるよ! 俺なんかより全然!」
赤羽根「そんなことありませんよ! Pさんはもう、俺の中でレジェンドですから!」
P・赤羽根「「あっはっはっは!」」
三人「「「めんどくさい……」」」
P「よし、真、営業行くぞ。今日は赤羽根君も同行するから」
真「あ、はい」
赤羽根「よろしく、真」
真「はいっ、バリバリ頑張りますっ!」
真美「その調子で二人に挟まれてもバリバリ頑張ってね」ボソッ
小鳥「ハイテンションな男の世界に置いていかれないようにね」ボソッ
真「は、はい……」ハァ...
P「いってきまーす」ガチャッ
(バタン)
真美「兄ちゃんって一人っ子なのかなぁ」
小鳥「どうして?」
真美「ほら、一人っ子が弟とか妹とかみたいな人できるとあんな感じじゃん?」
小鳥「あー」
春香「おはようございまーす」ガチャッ
あずさ「おはようございます〜」
やよい「うっうー! 今日も頑張りますよー!」
小鳥「あ、三人ともおはよう」
真美「兄ちゃん達と入れ違いだねー」
やよい「えーっ、そうなんですか? 残念ですー……」
あずさ「あらあら〜。今日も赤羽根さんと?」
小鳥「ええ、真ちゃんの付き添いで」
春香「うー、最近プロデューサーさん、赤羽根さんに構ってばかりだよぅ」
あずさ「私も、最近お出かけとかしてないですし……」
小鳥「まぁ、お仕事だから、ね?」
真美「でも、結構夜も一緒に呑みに行ったり、オフも勉強がてら出かけたりしてるっぽいよ?」
小鳥「……」ポワァン
小鳥(お、落ち着くのよ小鳥。二人とも男性なんだから、別に出し抜かれたりしたわけじゃ……男性?)
小鳥(……赤羽根さんって、結構イケメンの部類よね)
小鳥「プロデューサーさんと赤羽根さんが、二人で……」ボーッ
やよい「小鳥さん、どうしたんですかぁ?」
春香「やよい……」スッ
やよい「ふぇ?」
春香「そっとしておいてあげて……」
真美「いつもならりっちゃんのゲンコツが落ちてるとこだけど……」
あずさ「今はちょっぴり、気持ちが分かりますから……」
小鳥(休日、仲睦まじい二人……)
小鳥(いえ! へ、平日の呑みだって、もしかしたらそのまま夜の闇に……!)
小鳥「あ……あぁぁぁぁぁああああ!!!」ガクガク
やよい「こ、小鳥さん!?」
小鳥「な、なんてこと……まさか、同僚のリアルな日常の中にこんな光景が垣間見える日が来るなんて……!」ブルブル
春香「小鳥さん、そろそろ黙りましょうか」
小鳥「ピヨッ!?」
真美「ところどころ駄々漏れだよピヨちゃん」
あずさ「流石に口にするのは……」
小鳥「えっうそっ!?」
やよい「プロデューサーと赤羽根さんが、二人でなんなんですか?」キョトン
小鳥「……いえ、何でもないわ」
春香「あ、やよいの純真な顔を見て一瞬で賢者タイムに」
あずさ「……でも、やっぱりあそこまで仲良くしてると気になる気持ちも分かります」
小鳥「うんうん」
春香「……私は信じてます。プロデューサーさんは、普通の人だって」
やよい「普通じゃないとどうなんですか?」
三人「「「な、なんでもないです!」」」
〜現実〜
P「いやぁ、この前見てきたライブ、凄かったよなぁ!」
赤羽根「まさか、あんな回し方をするなんて……考えもしませんでした!」
P「そうそう、この間行った呑み屋の店長に聞いたんだけどさ、△△プロの人も常連らしいんだよ」
赤羽根「本当ですか?! 是非一度お会いしたいです!」
P「よっしゃ! それじゃあ今週も冒険だぞ!」
赤羽根「はいっ!」
真「助けて……同業の話をしてるはずなのに欠片も入る余地がない……」シクシク
〜そんなある日〜
赤羽根「んー、ここはこうして……」カタカタ
小鳥「大分慣れてきましたね」コトッ
赤羽根「ようやくまともにお手伝いできるようになってきましたよ。お茶、ありがとうございます」
小鳥「いえ、淹れたのは、ほら」ユビサシ
赤羽根「?」チラッ
雪歩「……」コソコソ
赤羽根「ありがとう」ニコッ
雪歩「は、はい……」サッ
赤羽根「まだ怖がられてますね」
小鳥「最初の頃に比べれば、全然」
赤羽根「今日はPさんは?」
小鳥「多分後から来ると思います。午前中に営業に出て行ったから……」
赤羽根「そうですか」カタカタ
小鳥「あ、そうだ」ティンッ
赤羽根「なんです?」
小鳥「私、ちょっと社長のお手伝いで外出なきゃいけないんです」
小鳥「雪歩ちゃんもそろそろお仕事に行っちゃうので、プロデューサーさんが来るまで、お留守番お願いできますか?」
赤羽根「分かりました。俺はもう、今日一日内勤なので」
小鳥「ありがとうございます! じゃあ雪歩ちゃん、行きましょうか」
雪歩「はい。……えっと、行ってきます」
赤羽根「うん、行ってらっしゃい」
(カタカタ)
赤羽根「765プロに来てまだ日は浅いけど、色んなことを学んだな」
赤羽根「最初は体のいい追い出しかとも思ったけど、この話を受けて良かった」
赤羽根「よしっ! 事務所のためにも765プロのためにも、俺のためにも、頑張ろう!」グッ
(カタ...)
赤羽根「そういや喉が渇いたなぁ」ギィッ
(ガチャリ)
赤羽根「あー……冷蔵庫の中何もないな……水を……いや……」
赤羽根「Pさんは鍵持ってるはずだし……ちょっとコンビニで買ってこよう」ガチャッ
(バタン)
――――――――
―――――
――
(テクテク)
赤羽根「何なんだ、真っ961人に冷たい飲み物は買い占められたって……嫌がらせか……」
赤羽根「熱いコーヒー飲む気分でもないし……水飲むかな……」
(バシャァッ!)
おばさん「あら、ごめんなさい!」
赤羽根「……」ビシャビシャ
おばさん「見てなくて……クリーニング代の弁償を」
赤羽根「いえ、お構いなく……」ビシャビシャテクテク
おばさん「あ……」
おばさん「……不幸そうな人だったわねぇ……」
赤羽根「水飲むとは言ったけど、誰も浴びたいなんて言ってないのに……」ビシャビシャテクテク
赤羽根「仕方ない、シャワー浴びないと」
(ガチャッ)
赤羽根「ふぅ」
赤羽根「さて、シャワー室に」
(ガチャッ)
赤羽根(……あれ?)
赤羽根(そういやなんで玄関の鍵、開いてたんだ?)
(バッタリ)
P「あ」ビューティーボイス
赤羽根「あ」
P(鍵かけ忘れてた)
P「ごめんごめん、今すぐ出――」
赤羽根「っっっ!?!??!」
(ドタタタタッ!)
(バタンッ!)
P「? 何慌ててんだ、アイツ」
P「あっ、そういえばこっちの時に会うのって美希の時以来か」
P「そんなに嫌かな、裸。気持ち悪がられてる?」
P「……自分で言うのもなんだけど、割と自信あるのに」ハァ
赤羽根「……」ドキドキ
赤羽根(だ、誰だ今の!?)ドキドキ
赤羽根(いや……)
赤羽根(俺はこの女の子を知っている!いや!このまなざしとこの髪型を知っている! )
赤羽根(P子さん……!)ガクガクブルブル
赤羽根(すっかり失念していた、この事務所にはもう一人のプロデューサーが居たことを!)
赤羽根(業界でも神出鬼没……掴みどころのないイレギュラー……!)
赤羽根(お……)
赤羽根(思いっきり……見てしまった……)
P「どうしたの、シャワー使おうと思った?」ビューティーボイス
赤羽根「うわぁっ!?」
P「もう着てるよ」
赤羽根「そ、そこで水をかけられてしまって……」
P「ああ、それでずぶ濡れなのね。ほらほら脱げって」グイッ
赤羽根「ひ、一人で出来ますから! シャワーお借りします!」ダダダッ
(バタンッ)
P「ろ、露骨に避けられた……」
P「……もしかして、嫌われた?!」ガーン
(ザァァァァァア)
赤羽根「なんて言い訳しよう……絶対怒ってるよな……」
(ガチャッ)
P「ずぶ濡れだろうから、着替え置いとくよー。事務所ので悪いけど」
赤羽根「い、いえ! ありがとうございます」
(バタン)
赤羽根「……」
赤羽根「ダメだ、やっぱりさっきの光景を思い出してしまう……」
赤羽根「……俺も男なんだな……」ハァ
(ガチャッ)
赤羽根「着替え、ありがとうございます……」
P「おー、お疲れ。サイズ大丈夫?」
赤羽根「ええ、大丈夫です……」
P「……」ジーッ
赤羽根(き、気まずい……!)
P「そういやこうして(この状態で)会うのは美希の時以来だよね」
赤羽根「そ、そうですね。美希と一緒にいた時以来ですね」
P「あっはっは! あの時も響の時も、赤羽根君面白かったねぇ」
赤羽根(あれ? 怒ってないのか……?)
赤羽根「あの……怒ってないんですか?」
P「え?」
赤羽根「その……見てしまったこと」
P「え、なんでよ、気持ち悪い」
赤羽根「えっ」
P「なんかいきなり改まって言われると変な気分だな……ま、俺と赤羽根君の仲じゃないの」
赤羽根「は、はぁ」
P「そんな気まずそうにしないで、ほらっ!」ズイッ
赤羽根(わぁっ!?)
赤羽根(ゆ、湯上りのP子さん……さ、さっきの光景を否応なしに連想してしまう!)
(ポンッ)
赤羽根「っ!?」ビクッ
P「ただ認めて、次の糧にすれば良い。それが大人の特権だよ、赤羽根クン♪」
赤羽根「……」
P「はっはっはっは! というわけで、おねーさんはちょっとこのまま別の営業行ってくるわ。小鳥さん帰ってきたら伝えといてー」ヒラヒラ
赤羽根「あ、はい……」
P「そんじゃ、いってきまーす」ガチャッ
(バタン)
赤羽根「……」ボーッ
〜数日後〜
(カタカタ)
赤羽根「ふぅ、一休み、と……」
赤羽根「……」ポーッ
律子「……最近、どうしたの?」
千早「時々、思い出したように物思いに耽って……」
小鳥「仕事はちゃんとこなしてくれてるので、支障はないんですけど」
赤羽根「……はぁ」
律子「悩み事かしら」
千早「それとなく聞いてみましょうか」
小鳥「千早ちゃん、無理しないで。あなたほど『それとなく』からほど遠い人もいないんだから」
千早「そんなことないです。見ててください」テクテク
小鳥「本当かしら……」
律子「いえ、無理でしょ」
千早「赤羽根さん」
赤羽根「……ん? ああ、千早か。何か用かい?」
千早「最近、時々ぽけーっとしてらっしゃいますけど、何か悩み事ですか?」
律子・小鳥((案の定ド直球だーー!!))
赤羽根「えっ?! い、いやっ、悩み事とかじゃ……」アセアセ
千早「短い期間ですが、私も、同じ事務所の仲間です。少しでも力になれれば」
赤羽根「ありがとう。でも、大丈夫。本当に悩み事とかじゃないんだ」
千早「……そうですか。変に勘繰ってしまい、すみません」ペコリ
赤羽根「いや、ありがとう。俺も気を引き締めないとな」
千早「悩み事ではないそうです」
律子・小鳥「「ダメだよあんた!!」」カッ!
貴音「……悩み事ではありません」フラリ
小鳥「貴音ちゃん……?」
貴音「あの表情の正体、私は知っています」
律子「なんですって!?」
貴音「その正体は……」
千早「……」ゴクリ
貴音「……恋、です」
三人「「「……!!!!」」」
小鳥「そ、そう言われてみれば……!」
千早「確かに、律子が時折、不意にプロデューサーに向ける視線に似ている気も――」
律子「わーーーっ!!! わーーーーーっ!!!!!」
小鳥(今更隠そうとしても……)
貴音「しかし、これはゆゆしき事態です」
小鳥「……はっ! ま、不味いわよこの事態は!」
律子「……なるほど、どうにかしないといけないですね」
千早「え? 別にいいじゃない、アイドルでもないんだから好きに恋愛すれば」
律子「いいえ。千早、考えてみて。この環境で、恋愛対象として最も可能性が高い相手を……」
千早「……!」ハッ
小鳥「そうなのよ、千早ちゃん……」
貴音「赤羽根殿の恋の相手は――」
小鳥「プロ 三人「「「アイドルである可能性が高い!」」」」
律子「……」
小鳥「……」
千早「……」
小鳥「あの」
貴音「……」ジトッ
小鳥「いえ……あの、ごめんなさい……」
小鳥「で、でもプロデューサーさん(♀)に憧れてるっていう可能性もあるじゃないですか!」
律子「確かに、可能性はありますけど……」
(ガチャッ)
P「おっす」ダンディーボイス
赤羽根「あ、Pさん。こんにちは」
P「捗ってる?」
赤羽根「ええ、まずまずです」
千早「……違うみたいね。平然としてるわ」
小鳥「うっ、うぅっ……」
律子「ま、今はいくら詮索しても分からないわね。暫く様子をみましょう」
貴音「……」
―――――――――
――――――
―――
小鳥「それじゃあ私も帰りますから、最後の戸締りお願いしますね」
赤羽根「はい、お疲れ様です」
小鳥「お疲れ様ですー」
(バタン)
赤羽根「さて、早い内に終わらせよう」カタカタ
(カタ...)
赤羽根「……はぁ」
赤羽根「P子さんの声と笑顔が……頭から離れない……」
赤羽根「俺は中学生か……!」ガクゥッ
「何を迷うことがあるのです?」
赤羽根「っ誰かいるのか?」バッ
(スゥッ)
貴音「私ですよ、赤羽根殿」
赤羽根「貴音か……」
貴音「どなたのことを思い浮かべていたのですか?」ニコッ
赤羽根「お、俺は、何も……」
貴音「隠さなくても良いのです。私には分かっているのですから」
貴音「最初はアイドルの誰かかとも思ったのですが、違うのでしょう?」
赤羽根「本当に、見透かされてるみたいだよ」
貴音「私も、同じような表情をする時があります故」
赤羽根「……この前、名前を呼ばれて」
_________
『赤羽根クン♪』
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
赤羽根「理屈じゃないんだな……ドキッとしちゃってさ」
貴音「ふふ。恋とは往々にして、そのようなものだと聞き及びます」
赤羽根「裏表がない、というか。明るくてさ、人懐っこいんだ」
貴音「魅力的な人なのですね」
赤羽根「ああ」
貴音「私も、似た方を知っております」ニコッ
赤羽根「……もしかして」
貴音「ふふ。とっぷしぃくれっと、でございます」シーッ
貴音「人を想う気持ちに、制約や禁則などありません」
貴音「自分に素直になること。それから、次のことを考えましょう」
赤羽根「そう、だな。ありがとう、貴音」
貴音「いえ。『敵に塩を送る』のは、今回限りでございますから」
赤羽根「とっぷしぃくれっと、だったんじゃ?」
貴音「! 私としたことが……つい、口を滑らせてしまったようです」
赤羽根「そっか……『制約や禁則などない』。説得力があるよ」
貴音「お互い、頑張りましょう」ニコッ
赤羽根「ああ」ニコッ
赤羽根「……そうだ、礼じゃないけど、ラーメンでも奢ろうか」ギィッ
貴音「?! まことでございますか?!」
赤羽根「どこでもいいさ。仕事もひと段落ついたし、俺もお腹が空いてさ」
貴音「では、参りましょう……二十郎へ……!」
赤羽根「二十郎か。名前は知ってるけど、行ったことないな。頼み方が特殊なんだっけ?」
貴音「ご心配なく。私が注文しますから、同じように頼んでいただければ問題ありません」
赤羽根「それは心強い。頼むよ」
〜翌日〜
赤羽根「うっぷす……」ヨロヨロ
真美「うっぷす?」
春香「『oops』。英語で『おっと!』って意味だよ」ドヤッ
律子「いえ、あれは単なる食べ過ぎの呻き声でしょ」
春香「うぅ」
響「朝っぱらからそんなに食べたのか?」
赤羽根「いや……昨日貴音と食べた二十郎が……もたれて……」ガクッ
伊織「貴音の注文をそのまま真似たって……アンタ死ぬ気?」
貴音「初心者だと仰るので、いつもよりは少な目にしたのですが……」
(ガチャッ)
P「おはよー」ビューティーボイス
赤羽根「っ!?」ガバッ
真美「おーっ、今日は姉ちゃんだー!」ダキッ
亜美「真美は前方から行け、亜美は後方を押さえる!」
真美「りょーかいっ!」
P「はっはー、今日も威勢がいいな二匹ともー」
亜美真美「「匹ってなにさ!」」
あずさ「ほらほら、二人とも。プロデューサーさんが動けないわよー」グイィ
真「朝っぱらから邪魔しない。ほらほら」
亜美真美「「うあー!」」
赤羽根(P子さん……そうだ、覚悟を決めろ、俺……!)
赤羽根「……」チラッ
貴音「……」コクリ
赤羽根(ありがとう、貴音。後押ししてくれて)
赤羽根「……あの」
P「ん? 俺?」
赤羽根「ちょっとお話があるので、屋上にいいですか?」
P「ここで聞かれたら不味い話か?」
赤羽根「ええ、少し……」
P「はいはい、了解」
赤羽根「ちょっと失礼しますね」ガチャッ
(バタン)
律子「……まさか……」
小鳥「赤羽根さん……!」
千早「本当に……プロデューサーを……」
美希「え? 二人とも何しに行ったの?」
やよい「赤羽根さん、すごく真剣な顔をしてましたー」
雪歩「思いつめたというか、覚悟を決めたというか……」
小鳥(……はっ?!)
小鳥「た、貴音ちゃん! 多分、これはそういう意味ではなくて……!」
貴音「焦らずとも、私は理解しておりますよ、小鳥嬢」
小鳥「貴音ちゃん……」ホッ
貴音「昨日、赤羽根殿と直接、言葉を交わしました故」
小鳥「」
貴音「その上で、この機会はお譲りしたのです」
貴音「あくまで、公平に戦わねば、誰も幸せにはなれませんから」ニコッ
小鳥「た、貴音ちゃん……」
貴音(頑張るのですよ、赤羽根殿……)
(ヒュウウウウウ)
P「あー、風が気持ちいー」ビューティーボイス
赤羽根「……」
P「で、話って?」
赤羽根「……あのっ」
赤羽根「っ……」
P「?」
赤羽根(何を今更迷ってるんだ! 覚悟を、決めたじゃないか!)
赤羽根(彼女にも後押ししてもらって、なんだこの様は!)
赤羽根(確かに、俺はいざという時にヘマをする時もあるし、ヘタレてるところもある)
赤羽根(……でも)
赤羽根(ここで逃げたら……)
赤羽根(それは、彼女への冒涜にもなる!)
赤羽根「……あの、P子さん!」
P「へ?」
赤羽根「俺、前から言いたかったことが――」クワッ!
P「いや、ちょっと待て」
赤羽根「え?」ピタッ
P「今なんて言った?」
赤羽根「あの、俺、前から言いたかっ」
P「いや、その前」
赤羽根「……あの、P子さん」
P「あれっ、お前知らなかったっけ?」
赤羽根「えっ」
P「あー、その顔知らなかったのか。てっきりもう伝わってるもんだとばかり」ポリポリ
赤羽根「えっ?」
P「そっかそっか。考えてみりゃ、俺の口から言ってなかったもんな。無理ないか」
赤羽根「あの、仰ってる意味がよく……」
P「細かい事情は省くけど、俺、Pなんだわ」
赤羽根「」
(コソコソ)
小鳥「赤羽根さんの表情……図星だったみたいね……」ヒョコッ
千早「流石にあれは哀れね……」ヒョコッ
律子「心中、あまり察するモノがあるわ……」ヒョコッ
貴音(……てっきり、知った上での想いかと思っておりました)ヒョコッ
小鳥「……戻りましょうか……」
三人「「「……はい」」」
赤羽根「あ、あは……冗談が、すぎますよ……」
P「いやぁ、自分でもよく分かってないんだけどさ、時々こうなっちゃうんだよね」
赤羽根「いや、あの……」
P「ほらコレ」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| 免許証 |
|_____|
赤羽根「そ、それはただPさんの免許証を持ってるだけで……」
P「疑り深いやつだなぁ。ほら」ピラッ
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| 診療記録 |
|_____|
赤羽根「 」
P「そりゃシャワーの時もビックリするわな。で、話ってなんだったんだ?」
赤羽根「あ……その……ああいう時に、もう少し恥じらいを持ってほしいというか……」
P「あー、確かに事務所内じゃ言いづらいな。特に俺を別人だと思ってたなら」
赤羽根「」グサッ
P「まぁほら、俺も結構恥ずかしかったりはするんだぞ? ただ、お前だからあんまり気にならなくてさ」
赤羽根「あは、あはは……そう言っていただけると、嬉しいですね……」グサグサ
P「何にせよ、混乱させちゃって悪いな」
赤羽根「いえ、お気になさらないでください……俺、事務所に戻りますね……」フラフラ
P「おいおい、大丈夫か? 足元がフラついてるぞ」
赤羽根「ご心配なく……」フラフラ
P「アイツ、何がそんなにショックだったんだ?」
P「……まさか」
P「ははは! まさかなぁ!」
<ズルッ
<ウワァードダダダダダダッドッタァン!
\リツコサン! ウエカラ アカバネサンガ!/
P「……まさかな」
―――――――――
――――――
―――
〜夜〜
赤羽根「…………」
貴音「その、なんと申し上げたら良いのか……」
赤羽根「……いつまでも、凹んではいられないな」
貴音「え?」
赤羽根「よしっ! また心機一転、プロデュース業を頑張ろう!」パンッ
貴音「赤羽根殿……」
赤羽根「はは、俺だって大人だよ。正直、ダメージはかなりあるけど……」
赤羽根「だからって、泣き事ばかり言っていられないしな」
赤羽根「俺の心配よりも、貴音は自分が頑張らないとな」
貴音「も、勿論でございます。トップアイドルを目指し、これからも――」
赤羽根「それだけじゃなくて」
貴音「?」
赤羽根「……誰かに取られるんじゃないか、Pさん」
貴音「……!」
赤羽根「落ち着いて冷静に見回してると、他にもちらほら、ね。見えてくるよ」
貴音「……そうですね」
赤羽根「貴音だけを贔屓するってわけじゃないけど、貴音も俺のこと、応援してくれたしさ」
赤羽根「……結果はああだったけど」ドヨーン
貴音(赤羽根殿、完全に引き摺っているのですね)
赤羽根「出向の期間はまだまだあるし、ここで潰れてたらみんなに迷惑かけちゃうからね」ニコッ
貴音「赤羽根殿……」
赤羽根「俺はまだ書類が残ってるからさ。帰ってしっかり休んでくれ」
貴音「……はい。では、お先に失礼いたします」
赤羽根「ああ、またな」
(ガチャッ)
(バタン)
赤羽根「…………」
赤羽根「……死にたい……」ガクゥッ
――この事件から暫くの間、小鳥、律子、千早、貴音――
――それに、雰囲気から薄らと勘付いた一部の者は、彼への気遣いに余念がなかったという――
――彼はすぐに立ち直ったように見えたものの、時折、一人で涙を流していた――
――頑張れ、青年! 君の才能は折り紙つきだ! ちょっと運がないだけだ!――
――いつかきっと、多分……ええ、多分、良いことがあると思います。多分――
――ちなみに、当のプロデューサーさんは平常運転でした――
(語り:音無小鳥)
(テクテクテク)
貴音「赤羽根殿には気の毒なことをしてしまいましたね……」
貴音「……おや?」
P「あら、貴音じゃない」ビューティーボイス
貴音「お帰りでしょうか?」
P「事務所に戻ってきちゃったけど、考えてみたら今日直帰の日だったの思い出して」
貴音「成程。では、一緒に帰りましょう」
P「はいはい」
(テクテク)
貴音「こうして帰るのも、久方ぶりのような気が致します」
P「最近は赤羽根君の教育も多かったし、貴音には一人で行かせてたしね」
貴音「……」
(ギュッ)
P「? どうしたの、いきなり後ろから抱き着いて」
貴音「……最近、貴女様は赤羽根殿に構い過ぎです」
P「そう?」
貴音「はい。皆、寂しがっております」
P「えー、貴音だけじゃなくて?」
貴音「そそそ、そのようなことは!」
P「ほんとかなー?」ナデナデ
貴音「……うぅ……貴女様はいけずでございます……」
P「よし、帰ろっか」
貴音「貴女様の家に」
(ピタッ)
P「……来たいの?」
貴音「いけませんか……?」ウルッ
P「……変なコトはナシね」プイッ
貴音「……! 貴女様ぁっ!」ギュゥッ
P「あ、歩きづらいから!」
貴音「では、早く参りましょう!」ウキウキ
P「はいはい……現金な子ねぇ……」
貴音「貴女様、もうお食事はとられましたか?」
P「いや、まだだよ」
貴音「でしたら、にじゅ――」
P「お断りします」
貴音「……でしたら、貴女様の手料理を食べさせていただきたく」
P「んー……何がいいかなぁ」
貴音「ふふっ、貴女様が作るものでしたら、なんでも」
P「言ったね? 何を出しても文句言わないでよ」
貴音「はい。貴女様と、食卓を共にできるのでしたら」
P「はぁー……食費がかさむなぁ……まぁいっか」テクテク
貴音「貴女様の手料理……まこと、楽しみです」
「さぁ、帰りましょう」
おわり
単発投下したついでに筆が進んだから書いてみたら、ちょびっとどころじゃねぇ、初期の本編並の長さだった
そんな幕間、羽根Pルート、フラグぶち折り編
羽根Pの出向期間はもうちょっと続くんじゃよ、本編でも出向は続いてるよ
あと僕別に羽根P嫌いじゃないからね、むしろキャラとしては好きだからね、運がないだけで
最後の方イイ話っぽくまとめたけど、事務所では羽根Pが屍になっています
読んでくれた方ありがとうございました
OUT:アカバネ
IN:シカバネ
15:51│アイマス