2013年11月07日
渋谷凛「トライアド・プリムス、だよ」
――――春、渋谷、東急口、日陰
渋谷凛(・・・ふぅ。)
凛(中学に比べるとだいぶ、高校は自由になった、かな)ケイタイポチポチ・・・
渋谷凛(・・・ふぅ。)
凛(中学に比べるとだいぶ、高校は自由になった、かな)ケイタイポチポチ・・・
凛(校則もそんなにうるさくないし、門限も遅くしてもらったし・・・)ポチポチ・・・
凛(ピアスして、制服着て、渋谷に遊びに来て・・・。なんていうか、普通にJKしてるな。)LINE ソウシン
凛(・・・うん。これこれ。これが私が求めてたものだよ。大人の目なんか気にしなくていい、そんな生活)キドク ポチポチ・・・
凛(・・・けど、ひとりで遊びに来ちゃったのはちょっとマズかったかな。)ケイタイポチポチ・・・
スカウト「すみません、CGプロのPというものなのですが、ちょっとお話よろしいでしょうか?」
凛(・・・こういうのがくるから。)ケイタイシマイ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375117126
凛「・・・何か用ですか。」
スカウト「単刀直入に・・・、アイドルに興味はお有りですか?」
凛「・・・はぁ?いいえ、とくには」
スカウト「シンデレラガールズプロジェクトという企画、ご存じですよね?
凛「・・・ええ、一応、小耳には」
スカウト「765さん、876さんの成功を見て、更なるアイドルを発掘して、盛り上げていこうという業界全体の企画なんです」
凛「(強引に話を進めるヤツだなぁ・・・)・・・それで、私をスカウトしよう、と?」
スカウト「そうです。我々CGプロは新規参入の事務所ですから・・・あなたを私たちのアイドル一号、ひいてはシンデレラガール、第一号にしようと。」
凛「そんな買いかぶられても、困ります。」
スカウト「いいえ、あなたには十分その素質があります。お気づきでないかもしれませんが、あなたはたぐいまれなる美貌をお持ちなのですよ?」
凛「そうですか。・・・私は友達との待ち合わせがあるので、すみません。それじゃ」
凛(はぁ、うざったかった・・・それに・・・)
凛(私がかわいいのとか、知ってるから。)
凛(・・・どうでもいい)
――――春、都立高校、入学式当日
凛(私は、勉強はしっかりするタイプ。見た目通りの不真面目に思われるなんて、なんか悔しい。)
凛(だから、第一志望のためにはしっかり勉強して・・・自分を高めて・・・見事合格して・・・)
凛(・・・結果、おな中の子、ゼロだよ。)
凛(みんな落ちちゃった。・・・大丈夫かな、ちゃんと友達、私、作れるかな。無愛想だし。)
凛(HRも、一限の休み時間にも誰とも話せてない・・・ヤバい。・・・もう二限終わるし。最悪、孤高を貫こうかな、なんて。って・・・ん?)
凛「ねぇ・・・そこの子。消しゴム、落ちたよ。あなたの、でしょ?」
生徒A「・・・うぇ、は、はい!そう、ですけど・・・」
凛(私、そんなに怖いのかな・・・)
凛「・・・ん。ふーん、なかなかカワイイじゃん。グーフィー?」
A「そ、そうです・・・。意外ですか・・・?」
凛「ふふ。そういう訳じゃないよ。というか、Aさんだっけ?私もAって呼ぶから、あなたも凛って呼んでよ。同級生なんだし、さ、ため口で、ね」
凛「というか、バッグのストラップも見たけど、ディズニーとか、集めてるんだ?」
A「そうです・・・なの。り、凛、ちゃんはこういうの見て、子どもっぽいって思わ、ない?JK・・・にもなってさ」
凛「ふふっ。だから全然。そうじゃないって。むしろAらしいな、って」
A「私、らしい・・・?」
凛「だって、さっきHRの自己紹介の時、Cって子が『私の趣味はスパイ活動です!』・・・なんて、ボケてたじゃん。滑ってたけど。」
凛「・・・でもクラスの中で、Aだけは、目も見開いて、びくついてたもんね。私、見てたんだよ?」
A「・・・えへっ、凛ちゃんって、すごいね・・・。私、ホントにあのときビビってたもん、殺されちゃうかも!?って・・・。でもそれと、ディズニーが・・・?」
凛「うん。Aって、単純だなぁ。って。」
A「ひどい!?」
凛「・・・でも、同じように、ってか、単純だから、純粋なんだな、って」
凛「世の中のこういうキャラってさ、目がおっきくて、鼻がなくって、すごく単純にデフォルメされてるでしょ?」
凛「そうやって、余計なモノがなくなって・・・」
凛「だから、私、かわいかったり、きれいだったりするものって、すごく単純に、純粋になっていく、んだと思うんだよね。」
凛「・・・で、もともと、単純で、純粋で、かわいいAが、かわいいものを集めるのって、すごく自然なコトだと思うよ」
凛(・・・って思わず語った!ひかれてないかな・・・?いや、でも、この子の場合・・・)
A「凛ちゃんってすごいね!よく考えてるし、頭もいいし、やさしくて、ひとの事をよく見てるし・・・」
凛(大丈夫だった、やっぱり、接客やってると、人を見るクセ、ついちゃう。・・・でも、まあ、きっと、このあとに続くのは・・・)
A「それにとっても、美人だし!」
凛「・・・はぁ。」
A「あれ?どうしたの?なんか変なこと言っちゃった?ごめんね?」
凛「ううん、なんでもないよ。・・・ちょっと、自分の顔のこと言われるの、あんまり慣れてないだけ。」
A「・・・でも」
凛「大丈夫。誉めてくれたのは純粋に嬉しかったし、Aのそれがへたなおべっかじゃないって、知ってるから。安心して?」
凛(小学校高学年、からかな、私はやたらとモテた。うぬぼれじゃ、ない。中学なんかじゃたまに他校の男もやって来たし、スカウトになんかもう慣れた。)
凛(告白、ラブレター、いっぱいされた。・・・いつのまに男子が私のアドレスを知ってて、勝手に告白してくる。・・・すごい熱意だよ、ね。)
凛(でも、私は自分の力で何かを成し遂げたい。自分の力で欲しいモノは手に入れたい。誰にも、何にも邪魔されたくない。)
凛(私のことは私が決める。恋愛・・・とかだってそうなんじゃ、ないかな。私の顔は関係ないし、私の顔を好きになってくれた人なんて、好きになれない。)
凛(恵まれてる、恵まれてるんだろうけど・・・。邪魔なんだよ。自分の力で道を行きたいのに、私をみんながこぞってどこかへと誘導しようとする。)
凛(私の顔は、まっすぐ前を向くため、だけにあるのに・・・なんてね。ふふ。)
A「・・・ねぇ、どうしたの?ほおづえなんかついちゃって・・・」
凛「・・・ん、いや、なんでもない、ちょっとだけ、考えごt」
生徒B「り、凛ちゃん、さん!!」
凛「!?」
B「私、入学式で一目見た時から、こんな人になりたいな、って思ってたんです!つまりファンです、弟子です、信者です!どうかお友達にして下さ〜いッ!」
凛「・・・はは。」
A「ごめんね、この子わたしのおな中なんだけど、凛ちゃんが考え事してるときに、話しかけてきて・・・」
A「凛ちゃんって見た目と違ってとってもとっつきやすくて、とってもいい子なんだよ、なんて教えてたら・・・」
B「もう完全に一目惚れでした!・・・ん、いや!ヤバい意味じゃなくて!人間として!人間の奥底に湧くソウルを見つめた結果の、人間愛として!」
A「・・・もう、Bったら、まーた自分の世界にイッっちゃって・・・」
凛「・・・ふふっ。」
凛(まぁ、ちょっと、得もあるかな)
――――再び、渋谷駅東急口、日陰にて
凛(ホント、AかBでも、ムリにでも呼んでおけばよかったかな・・・今日は二人で遊ぶとか言ってたけど、渋谷で合流したって別に・・・)
スカウト「・・・あの、お嬢さん。」タチハダカリッ!
凛「・・・ッ、なんですか、これ以上、通報しますよ。」
スカウト「あの・・・待ち合わせって、嘘でしょう?」
凛「・・・え?」
スカウト「・・・携帯電話。なんでスカウトに時間をとられて、急いで待ち合わせ場所に向かわなければならない人が、携帯で時刻を確認したり、連絡を確認したりしないんですか?」
スカウト「それに、向かったのは代官山方面。ハチ公口は正反対です。友達と待ち合わせするような場所なんか、ありませんよね?」
スカウト「あと、あなたは日陰の壁に背中を預けて、ずうっとスマホをいじっていましたが・・・それはどうみても、そこでの待ち合わせか、単なる暇つぶし。」
スカウト「その場で待ち合わせていて、それに関するやりとりをしているのだったら、私に話しかけられても、LINE、だと思いますが、ふつう携帯はしまいませんよね?待ち合わせのことがわからなくなってしまいますから。」
スカウト「聡明な受け答えをしていたあなたです。私に一言ことわっておけば、スマホをいじって連絡を取りながらでも応対は出来る、のもわかるはずです。」
スカウト「・・・よって、あなたは単に、暇だから渋谷をぶらぶらしていた女子高生、ということになります。」
凛「ふぅん。すごいね。今からそのスマホは、警視庁へと繋がれるんだけど、さ。」
スカウト「うん、ちょっと待って!待って下さーいッ!新興事務所って言いましたけど、うちの親会社はプロ野球チームも持っているような大会社ですから!本当に怪しいところはないですから!」
凛「へえ。なんでそんな一流の会社が、今更アイドルなんてやくざな商売に手を出すんですか?」
スカウト「・・・興味、もってくれてるんですか?」
凛「暇つぶしだから・・・ね。」
スカウト「・・・私どもの会社、というより親会社は、常に新しい挑戦、アイディアで世間を驚かしてきたんです。先ほどの、球団含め・・・」
スカウト「今ぞ、花咲くアイドルブームです。空前の。これはビジネスチャンスだ!新世代の、まったく新しいアイドルを作り上げるのだ!という社長の鶴の一声、で、この野心的なプロジェクトは始まったんです。」
スカウト「つまり・・・そうして我々が業界全体に声をかけて、さらにその旗手となっているんです。あ、この名刺のQRコードで、うちのサイトを見られますから、それをご覧になれば・・・」
凛「んんっと、焦点合わない・・・。・・・あ、本当だ・・・。横浜のあれじゃん・・・。」
凛(けど本当にまっさらで、ほんとうにまだ誰もタレントが所属してない・・・。ふふ。旗手、バンディエーラ、か。)
凛「ねえ?ここで立ち話するのもいいけれど、今度は私以外の人に、通報されちゃいますよ?」
――――ちょっとして、渋谷楽器街周辺、代官山とのあいだ、しずかな、白が基調のカフェ
スカウト「・・・ですから、バックアップ体制も万全であり、タレントはまだおらずとも、ノウハウを持った事務員なども配置しておりまして・・・」
凛「あ、こちら。アプリコットです。どうもありがとうございます。」
店員「では、ごゆっくり」ニッコリ
スカウト「・・・私の話、聞いてます?」
凛「ん、一応・・・ね。それより、さ。」
スカウト「なんですか?」
凛「もう、堅苦しい敬語なんてやめよう、よ。カフェに入って、渋谷駅前でのセケンテイ、は気にする必要、なくなったでしょう?」
凛「立場とかそんなんじゃなくてさ・・・私自身をスカウトしてよ、ね?」
スカウト「・・・わかった。」
凛「・・・で?」
スカウト「要するに。わた、僕達・・・俺達に全部任せて、思いっきりやれば、必ず成功する、ってこと。保証、だよ。」
凛「どうしてそんなことが言えるの?会ったばかりで」
スカウト「勘・・・じゃねえや、確信だ。最初見た時、ティン、ときて、話してみたら、ぴりぴりーん、と来た」
凛「ふふっ、何それ。変なの。で?どうして、最初見た時、その、ティン、と、きたの?やっぱり、顔?」
スカウト「・・・スマホに熱中してる女子高生の顔なんかまともに見れるわけないだろーが。」
凛「じゃ、手当たり次第に暇そうな女の子に話しかけてたってわけ?変態さん。」
スカウト「・・・そうじゃなくてさ。・・・目が見えたんだよ。本当はふらふらっと、明治通りを通って、そのまま表参道のほうにスカウトしに行こうと思ってたんだけどさ。」
スカウト「・・・そのとき、目が、目だけ、見えたんだよ。すごく確信に満ちた、すごく自信に溢れた、誇り高い目つき。こんなのはじめてだ!ってさ。」
凛「・・・はじめて?」
スカウト「いや、スカウトとして、とかじゃなくて、生きてきて、さ。はじめてこういう目をする人がいるんだな、って。」
スカウト「俺もこの業界に入って、もちろん、浅いからなんとも言えないんだけど、たぶん芸能界でもこんな目をした人はいない」
スカウト「これぞ、新時代を切り開くにふさわしい、俺達が迎える最初のアイドル、これぞこのお方だ!・・・って。そんな風に、思ったんだよ」
凛「なんだっけ、ぴ、ぴりぴりーん、は?」
スカウト「・・・まあ、まず、正直、ああ、ちゃんと目鼻立ちも通っているなって。正統派美人だ、これは、なんてね、そんなのはいいや。」
凛「ん?そんなのは、いいの?」
スカウト「それだよ、二月の南風、みたいな、冷たさのなかに、すべてのあったかいものを準備しているような、その声。」
スカウト「やっぱりこの子は、自信、というものの現れなんだな。って。プライドのせいでウザそう、とかじゃなくてね。むしろその自信が、受容、いつくしみを産んでるような・・・」
スカウト「その声で、も、人を見ているんだ、あなたは。」
スカウト「・・・だから、まあ、ちょっとわかりやすかったよ。」
凛「・・・ん?誉められてたんじゃなかったの、私、っていうか質問に・・・」
スカウト「誉められるの、苦手だろ。」
凛「・・・!?」
スカウト「つーか、自分が当然だと思ってることが誉められると、ムズかゆくなるってゆーか・・・」
スカウト「さっき、店員にほほえみかけられたとき、すこしとまどった表情をしたろ?スカウトに声かけられても、動揺の色なんてなかったのにな・・・」
スカウト「自分がして当然の事をした時、感謝されたら、とまどってしまう。」
スカウト「・・・そーゆーヤツは、自分の努力しか、認められたくない、んだよ。大抵。」
凛「そう、かもね・・・」
スカウト「で、さ、とうぜん君は、自分の顔の良さだって自覚してると思うんだよね」
スカウト「でもそれは、自分の努力で手に入れたものじゃない。勝手に生まれ持ったものだ、って思ってる。」
スカウト「むしろそんなのを誉められても、嬉しくない。本当の私を見てないじゃん!・・・そんなとこだろ」
凛「・・・一時間半も話してないのに、よくそこまで断言出来るね?」
凛「ちょっと、宗教の勧誘みたいだよ。なーんか」
スカウト「いーや、そうじゃないね。受け答えもはっきり、きっぱりとしてたし」
スカウト「生真面目なヤツだな、って思ってたんだよ。・・・スマホをしまった時から、ね」
凛「・・・え?」
スカウト「・・・口ぶりから見て、スカウトされ慣れてるのははっきりとわかった」
スカウト「けど、適当に応対するんじゃなくて。スマホもしまい、相手の目を見てはっきりと断るんだ。」
スカウト「私は顔だけの女じゃありません、顔だけで生きようとする女でもありません、とでも言うかのように。」
スカウト「それに・・・」
凛「それに・・・?」
スカウト「あの待ち合わせうんぬんのヤツ、かなりでまかせだぞ?相当めちゃくちゃな事を言ったつもりだから、きっと冷静に考えれば、かならずボロが出る」
スカウト「・・・でもあのとき、確かに君の表情からは自信が崩れ落ちる音がした。自分で作った嘘を、否定されてしまったからだ。根拠が薄弱だとしても。」
凛「はぁ・・・。アンタはすごいね。完敗だよ。」
凛「・・・それで、なに?目や声を聞いた時の、私が自信、なり、確信がある人だという予感」
凛「っていうのを、話してみて、そっちが確信しちゃった、って訳?」
凛「・・・すごいね。きっとアンタのスカウトは天職、だよ」
スカウト「はは、ありがとう。でも、なら君の天職はアイドルだ。」
凛「・・・」
凛「・・・でもさ、やっぱアイドルって、けっきょく顔は重要だよ。アンタは私がそれを否定しててもいいの?」
スカウト「今はいい、けど。これからは、よくない。」
スカウト「俺達、君も含めて、俺達は君の顔のケアをして、スポンサーを募って、プロのメイクを呼んで、より美しくしてもらう」
スカウト「つまりは俺達が作り出す、顔だ」
スカウト「そして、その顔にあわせて、衣装を着せる。その顔にあわせて、曲もつくる。その顔に合わせた仕事をする。」
スカウト「そうして、顔はひとびとの"イメージ"になってゆく。その戦略、未来を作り出すのは俺達、そして・・・」
スカウト「・・・今更だけど、君の名前を聞いてなかった、ね。お名前は?」
凛「渋谷、凛。このへんの、旧字体じゃない、渋谷で、凛は、凛々しいの、凛。示す、ほうね。ってたぶん書かないとわからないと思うけど。」
スカウト「・・・そうか。」
スカウト「渋谷凛、そいつが渋谷凛の顔、イメージを作り上げる。自らの、力、信じられないほどの努力でだ。そして、あたらしい水平をこの業界に与える。」
凛「そうだね・・・。やってみるようかな、・・・いや、やってみせるよ。私は、必ず。」
スカウト「やれるんだな。後戻りなんかさせないぞ、後戻りしたら渋谷凛、が粉々にぶっ壊れるぞ。」
凛「わかってる。」
スカウト「今日みたいに平然と渋谷をぶらぶらしたりするのも難しくなるぞ、平和な日常とはすこしの長いお別れだ。」
凛「わかってるよ。」
スカウト「俺達大人は君をどこまでだって支えるけど、万能じゃない。・・・もしかしたら君の力でなく、君は挫折するかもしれない。」
凛「・・・大丈夫。」
スカウト「俺(たち)と君とで一蓮托生だ。・・・ずっと一緒に、やっていく覚悟はあるか?」
凛「・・・ッ!もちろん。」
スカウト「わかった。・・・とりあえずは契約成立だ。親御さんの連絡先、教えてくれないか?」
凛「・・・そこでも、今みたいな説得する気?」
スカウト「・・・もちろんだ。カワイイ娘を、芸能界なんて修羅場にいれるのだなんて、俺は許さんからな。」
凛「ふふっ。うちは至って普通の花屋なんだから、そこまで気負わなくてもいいって・・・」
凛「・・・ふふふっ。」
――――春、渋谷、CGプロにて
凛「・・・失礼します。」
千川ちひろ「あ、いらっしゃい。渋谷、凛ちゃんね?待ってましたよ。」
凛「ずいぶんと真新しくて・・・なにもない、殺風景な事務所だね。」
ちひろ「今から作り上げるんですよ。風景を生き返らせるのがアイドルの仕事だからね。・・・初めてのアイドル、ということだけど、わたしをお姉さんがわりに、頼っていいからね?」
凛「・・・ありがとう。頼りに、するよ・・・」
凛「私、無愛想だけど、本当にそういう環境には、感謝してるから・・・」
ちひろ「・・・さ、応接間にてプロデューサーさんがお待ちよ♪・・・ま、うちで言うプロデューサーはマネージャー半分みたいなところがあるから、そこまで緊張する必要はないのだけど・・・」
ちひろ「もう何人か、すでにプロデューサー候補は雇っているのだけど、さてさて、いったい誰が我が社最初のプロデューサーになるのかしらねー♪」
凛「・・・ふふっ。」
ガチャリ
凛「・・・ふーん、アンタが私のプロデューサー?」
スカウト(以下P)「・・・ったく、そういうなよ。」
凛「・・・・・・まぁ、悪くないかな、ふふっ・・・。」
その1おわり
――――引き続き、事務所にて
P「スカウトした時は、15だとはとても思えなかったんだけどな」
凛「いくつに見えたの?」
P「なんか・・・高二、って感じ?」
凛「ふふ。あんま変わんないじゃん・・・で?私は何をすればいい?休んでる暇は、無いと思うよ。」
P「つーても、そうだな。まずは青木さんに頼んで、レッスン、レッスン、レッスン、だな」
凛「青木さん?」
P「ウチで雇った専属のトレーナーさん。アイドルも確保してなかったのに設備投資だけはばっちしだったからな、ウチは・・・」
凛「・・・ふーん、営業とか、オーディションとかには、まだ出たりしないの?そういうのって聞いたよ?」
P「あのなぁ・・・。はぁ、ウチには曲に営業に行ったりするコネがまだないんです。そういうのには千川さんとか、他のスカウトの方々も動いてるんだけど・・・」
P「まあ、それに。アイドルの基本は、歌、ダンス、演技とそれと自己表現。表情とか、カメラへの意識とか、な。」
凛「・・・大変そうだね。」
P「ああ、きみにぴったりだ、よ。」
P「・・・さて、宜しくお願いします、ね。この子もびしばし鍛えられて伸びるタイプなんで。」
トレーナー「・・・了解した。・・・渋谷、というのか?今日からキミのレッスンを担当することになる。青木だ、よろしく。」
トレ「・・・この事務所にとっても初めてのレッスン生だ、いろいろと手探りになると思うが・・・」
凛「・・・覚悟は、出来てます。」
トレ「・・・そうか。じゃあ渋谷、とりあえずなんだが・・・今から流す、この曲を覚えてくれないか?再生するぞ?」
〜♪〜
トレ「・・・どうだ?有名な曲だし、もう覚えてくれたと思うが・・・。」
凛「いいえ、ごめんなさい。元々、アイドルに興味があった、という訳ではなかったので・・・。」
トレ「そうか。この曲はな、765プロ総出で出した、CHANGE!!という曲なんだ。音程もとりやすいし、ダンスも平易だし、ちょうどいいと思って、チョイスしたんだが・・・もう一度かけるぞ。」
凛(765か・・・あそこなら、私でも知ってる。・・・曲は知らなかったけど。・・・私の最初の曲が、チェンジなんだ。そうか。ふふっ。)
P(よくやってる、よくやってるが・・・見てるだけなのも退屈だな。)
トレ「よし、こんどは主旋律無しの、インスト版で歌ってもらうぞ!」
凛「♪」
トレ「だめ!サビはもっと伸びやかに、女の子を振りまきながら、それでいて丹田を意識しつつ!」
トレ「音程にメリハリがありすぎる!声量があるのはいいが、もうすこし線というモノも意識しながらな・・・」
P「!」
P「いえ、ごめんなさい・・・。僕はこれでいいとおもいます。この部分。」
トレ「いや、しかし、この曲はもっとやわらかい・・・。」
P「この子を伸ばしてもらうのはあなたですが、この子の伸びる方向、その大局を決めるのは僕なんです。これは凛、の、いちばん凛、らしさが出ている部分だと、僕は感じました。」
P「・・・だから、ここの味は残したまま、細かいミスを刈り取っていく、そんな方向でお願いします。とにかく今は基礎を・・・です。出過ぎた真似してすみません。続けて下さい。」
トレ「・・・わかった。渋谷!Bメロ前からやり直しだ!」
――しばらく、
トレ「ボックスステップはダンスの基本!今日中にみっちり身体で覚えて帰るんだ!」
P(うっへえ、俺にゃアレはムリだな・・・裏方でよかったわ、ジュピターになる気もねえけどさ。)
P(とりあえず、備え付けの冷蔵庫からスタドリ持ってくるかな、一応・・・)
・・・
凛「ふぅ、ふぅ、はぁ、ふぅ、ひぃ・・・」
P「お、おい。大丈夫か・・・?」
凛「私、運動、部、とか、じゃな、かった、から・・・」
P「わーったわーった、とりあえずこれ飲め、ほい。泣く子も黙るスタドリだ。」
凛「アン、タ、あり、が」
P「しゃべんなバカ」ゴクゴク・・・
トレ「・・・美しい師弟愛はここまでにして、次は演技のレッスン、だ」
トレ「・・・P君にも参加してもらうぞ?」
凛・P「「ええっ!?」」
トレ「キミが渋谷の伸びる方向を決める、と言ったんじゃないか。協力してもらわなきゃ困る。」
トレ「エチュード、というのを知ってるかね?演技レッスンではかなりメジャーな部類なのだが・・・」
凛・P「「いいえ・・・」」
トレ「ふむ・・・。エチュードというのは、シチュエーションと、役柄を設定してだな。そこから即興芝居でストーリーを展開してもらう。そんなレッスンのことだ。」
凛・P「「はぁ・・・」」
トレ「今回用意したのは・・・」
トレ「P君、『女友達の親友と付き合う事になった、というのをその女友達に報告しに行く男』」
トレ「渋谷、『その女友達だが、その男のことが好きで、ずっとその親友とは牽制し合っていた女』だ。」
トレ「さぁ、始めてくれ!」
凛・P((なんか妙に設定細かい!))
凛・P((そしてなぜか身につまされる!))
凛・P((そんな経験一度もないのに!))
P「・・・凛、ごめんな、待たせたか?(・・・こんな始まりでいいだろ?コントみたいだけど・・・)」
凛「・・・どうしたの、Pさん。なんだか、浮かない顔しちゃって。似合わないよ、ふふ。」
P「いや、そんなこと・・・ある、かもな。」
凛「・・・なにか・・・あった?」
P「ああ・・・。もしかしたら・・・、今までの、俺とお前、・・・俺たちの関係を、ぶっ壊しちまう、かもしれない。」
P「そんな、ニュース、じゃねえ、報告、をするために、呼び出したんだ。」
凛「・・・まどろっこしいのは嫌い。はっきり言いなよ。」
P「わかった。・・・Kと、付き合うことになった。」
凛「・・・ッ!」
P(三角関係モノのイニシャルと言ったら、夏目漱石の昔から"K"と決まってるんだよ!この野郎!どの野郎だ!)
P「お前が親友を奪われる気持ちはわかる・・・でもKは俺に気持ちを伝えてくれて、」
P「・・・そんなKのことを、俺は好きになってしまったんだ。」
凛「・・・ねえ、立場は?Pさんには、アイドルのプロデューサーという立場があるでしょ?」
P「(そこは今と一緒なのかよ!)・・・いや、アイツはもう、アイドルを捨てる気でいるらしい。」
P「ずっと夢だったアイドルを捨てて、俺の隣を選ぶ、んだとさ。」
P「・・・だから、すまん。お前とKとのコンビも、解散と言うことになるな。ほんと、プロデューサーとして・・・」
凛「・・・プロデューサーとか、関係ない!」
凛「関係。ない・・・。関係とか、私たち、ずっと、一緒に、いてくれるって言ったでしょ!言ったじゃない!」
P(とっても迫真!)
P「あのとき、ちゃんとプロデューサーとして、って言っただろ。その約束は必ず果たす。そこは安心してくれ」
凛「・・・!そうじゃない、わたしがいいたいのは、そんな約束の事じゃない・・・」
P「・・・?」
凛「ねえ、どうして?私のこと、はじめてあった時から、美人だなんて言ってくれたでしょ?」
凛「ねえ、どうして?私は、ずっと一緒だったよ。悲しい時も、楽しい時も、どんなときも、プロデューサー・・・」
凛「ねえ、どうして?・・・Pさんと、一緒だったんだよ?なのにどうして、Kを選ぶの?信じられない!あんな胸がちょっとデカいだけの売女・・・」
P「おい!Kはお前の親友だろうが!いくらお前でもKの悪口は許さん!」
凛「・・・!・・・もうわかった。はじめからKなんて親友でもなんでもない。そしてアンタ、アンタも私のプロデューサーなんかじゃない!」
P「お、おい・・・俺とお前はただの、アイドルとプロデューサーで・・・」
凛「呪ってやる・・・死んでも奪い返してやる・・・私のすべてを失ってでも、Pさんを・・・」
P「ひっ・・・」
トレ「ストーーーーーッップ!!!!」
凛「・・・ふぅ。すっきりした。どう?」
P「・・・正直ビックリしたぞ。お前・・・きみが、あんなに憑依系の演技をするタイプだとは、正直思ってなかったから。」
凛「そうだね。こんな没入感、今まで感じたことなかったかも。演技ってこんなに楽しいんだ・・・」
トレ「ふふ。渋谷はもう天性といってもいいかもしれんな。」
P(天性であんな怖い演技されちゃったら、アイドルとしてはちょっとアレだと思うんですけど・・・)
P「ああ、歌もよかったし、演技と両方押していく方向、にするかな?」
トレ「異論はないな。」
凛「うん・・・私も、それがいい」
――事務所に戻って
P「千川さんも。一見モノですよ?アレは。」
ちひろ「そんなにすごかったんですか?凛ちゃんの演技。」
P「身の毛もよだつ、とはあのことですよ。よだつ、ってどういう意味か知りませんけど。」
凛「ふふっ。大げさだよ、アン・・・プロデューサーは。そんなに怖かったの?」
P「ああ、今から歩く稲川淳二のキャッチフレーズで売り出せるかと思ったぞ。」
凛「私の素、あんなんじゃないって知ってるでしょ?そんなに怖がんないでよ」
P「わかってるって・・・ところで、凛。」
P「千川さんも居るから、この際言っておくんだが・・・」
P「お前、じゃない、君には、たぶん・・・一ヶ月後か?を目処に、芸能科のある高校に転学してもらうことになる。」
凛「・・・え?聞いてないんだけど・・・」
P「親御さんから、俺が言うように頼まれたんだ。早めに仕事というモノを、理解してもらいたい、ってな。」
凛「ウチの両親が・・・?」
P「ああ、親御さんには契約の時点で話してあってな。もちろん、学費その他諸々に関しては、千川さんが請け負って、提携してる高校とで処理してもらうことになる。」
ちひろ「いぇ〜い♪」ピース
P「・・・。そういうことで、わかったか?」
凛「ちょっと・・・。そんなこと急に言われても、まだ友達とかも出来たばっかりなのに・・・。」
P「急に、なんて言葉は芸能界にはないんだよ!お前は、もうこのハイスピードのワームホールに飛び込んでしまったんだよ!・・・もう戻れない。」
P「お前は、はやめに不退転という覚悟を決めなきゃならない。だから、このタイミングで言った。」
P「・・・心情的にはすまない、と思ってる、だから、まあ、現実的に事務処理が終わる一ヶ月、を猶予にしてやる。」
P「お前の普通の青春、普通の日々は、そこで終わるんだ。」
P「・・・覚悟をしろ。言ったろ。俺とお前は一蓮托生だ。」
――――都立高校、春の一日
A「ねえねえ、凛ちゃ〜ん。聞いたよぉー・・・?」
A「・・・あ、ていうか、教えてくれたんだよね・・・」
凛「・・・なにが?」
B「凛ちゃん様ッ!」バーンッ
B「Aたんが言ってた、芸能事務所に入られるという噂はまことなのですかッ!」
A「うん、私もそう聞いてさー・・・」
A「・・・凛ちゃんスタイルいいし、背も高いし、モデルにでもなるのかな・・・ってー・・・」
B「凛ちゃん様がモデルですかッ!全世界全宇宙環太平洋アルプスヒマラヤ造山帯に同時中継で凛ちゃん様のおみ足が公開されてしまうのですね!
そしてディオールやフェンディやYSLが悪意を持って提供する、ほとんどガーゼみたいなお洋服に包まれて、凛ちゃん様のあられもない姿がランウェイに現れるというのですね!ああ、もうBめは、出血が止まらない大サービスでございます!」
凛「・・・アイドル。」
A「・・・B、落ち着いて、・・・ってアイドル?アイドルになるの・・・?」
凛「そ。・・・モデルじゃなくって、アイドル、になる。」
B「なんですとーッ!?」
生徒C「なんですって!?」
凛「!?」
C「私はモデル活動をすると伝え聞いていた。あなたの美貌ならそれも当然の理。だが、アイドル?論理性を欠いているわ・・・」
A「私も・・・Cちゃんからそう聞いてたんだけど・・・」
凛「いや、AにはLINEでちゃんと教えたでしょ?アイドルのスカウト受けて、それに乗った、って。」
B「なにっ、このニセスパイのCちゃんめ、裁きを受けろこのやろー!」
A「あ・・・そうだっけ・・・。っていうか・・・、Cちゃんのスパイは冗談だって、最初に言ってたでしょーが・・・」
C「・・・度し難い。」
凛「・・・それでさ。言わなきゃいけないことがあるんだけど、いい?」
A・B「「なに(ごとでありますか!)?」」
凛「私、そういうことでアイドルになるから。転校しなきゃいけないんだ、芸能科のある学校に。」
B「・・・いつ、なの?」
凛「一ヶ月後、くらいかな。事務所の手続きがいつおわるか、なんだけどさ。」
A「・・・そんな・・・」B「もう、りんちゃんと、おわかれ、しちゃうなんて、」C「・・・淋しくは、なるな」
A・B・C「ふぇ〜んっ!」
凛「よしよし。泣かないの・・・。環境は遠く離れても、心はいつも、一番近いところにいるからね。」
凛(・・・なんて、上っ面だな、私。)
凛(でも、それが覚悟、なんでしょう?プロデューサー。)
――――葉桜、渋谷、CGプロ
凛「・・・プロデューサー、お茶入れたけど、飲む?」
P「ああ、悪いな・・・。お前もだんだん、軽い営業とかも入ってきて・・・。レッスン含め、疲れてるだろうに、な」
凛「ううん。大丈夫。私たちは・・・負けないよ。」
P「はは・・・。てゆーかわたくしめはざんぎょーでございますが、お前はこんな遅くまで残ってていいのか?凛」
凛「ん。最後の思い出作りとかで、たっぷり友達と遊んできたから。だから家には連絡入れてて、時間できたからここにきちゃった。」
P「そか。ま、あんま面白いモノはないとは思うが・・・」
凛「いや、宿題とか課題やってくから、そこで仕事してて。プロデューサーは。」
P「ん?お前がまだいる間にテストがあるのか?」
凛「え、ないけど。」
P(・・・ん。)
P「どういう内容なんだ?その課題。」
凛「・・・いやに食いつくね。テスト範囲のプリント、世界史と数�A、かな。この中から出るんだってさ。」
P「お前は中間テストに、出ないのに、か?」
凛「・・・何いってんの、プロデューサー。」
凛「テスト関係ないかもしれないけど。宿題なんだからやるに決まってるじゃん」
P「あ、そう。じゃがんばれ。俺も、頑張る。」
P(懸念というか危惧というか・・・)カタカタ
P(俺が漠然と抱いていた何かが、いま現前した感じ、だな・・・)カタカタカタ・・・
P「ふぅあ。だいたい片づいた、けど。」
凛「・・・私も。」
P「そか。今日は、やっぱ、お別れパーティ、とかだったのか?」
凛「うん。楽しかったよ。」
P「そうか・・・。ごめん、な?」
凛「・・・謝る事じゃないし。謝られても、・・・困るよ。」
P「だからこそ、・・・だよ。まあ、そのな、今度行く芸能科なんだがな。」
凛「うん。」
P「最近、ウチの事務所も人数が増えてきたの、知ってるだろ?」
凛「うん。こないだプロデューサーも一人スカウトしたばかりなんでしょ?ちひろさんから聞いたよ。」
P「・・・げっ。まあいいか。その子たちもいっせいにそこに転学するから、会ったら仲良くしておけよ?」
凛「・・・わかった」
――――葉桜、私立高校、朝、ホームルーム、東京
本田未央「はぁーい!どうもッ!わたくしCGプロ所属の元気印、千葉県生まれで本田未央と申します!
はっはっはー!遠慮はいらないぞ諸君!気軽に、気軽にこのちゃんみお様に声をかけなさるのだぁ!」
凛(・・・濃い。濃ゆい。しかも、おなじ事務所なんだ。)
凛「はい。同じくCGプロ、みたいだね。渋谷凛、東京生まれ。
無愛想なのはわかってるけど、・・・これからよろしくね?」
未央「おおっ、しぶりんもこのクラスだったかぁー!」
凛(しぶりん!?)
未央「噂にはかねがねおききしてましたよーぅ!確かCGに最初に入ってきたんでしょ?」
未央「ウチのプロデューサーもそうだけど・・・しぶりんのプロデューサーも、アツイ、って噂だよね?」
凛「まぁ・・・そうだね。」
凛(昨日・・・なんだか様子、変だったしな)
未央「よっほーい!さっそく昼休みだぜい!」
未央「しぶりんさんや、噂の購買カレーパンダッシュ、なるモノをおこなってみませんとや?」
凛「なにそれ。私そんなにおなか空いてないから、ひとりでいってきなよ。私、ちょっと校内を探検してくる。」
未央「つれないなーっ!ここの名物だって言うのに。・・・ま、学校への慣れ方は人それぞれだもんね。わたしゃいってくるであるよーう」
凛「うん。いってらっしゃい。」
凛(さすが芸能科。転校生へのリアクションもそんなに濃くないし。途中、抜け出して撮影やロケに行ってくる子は何人かいたし。)
凛(逆に朝の撮影を終えて、遅刻してきた子もいる。)
凛(けど、それが出席扱い。芸能活動も授業の一環、ってことなのかな・・・)
凛(・・・そして、私と未央は一限から四限まできっちり授業を受けて・・・)
凛(・・・世知辛いな。ていうか、エグい。)
凛(・・・二階の渡り廊下、長いし、広いな・・・)
???「凛ちゃん、よっ♪」
凛「・・・だれ?」
???「あれ、アタシが一方的に知ってるだけだったのかー」
???「えと、自己紹介するね、今日からこの学校の二年、凛ちゃんと同じプロデューサーの元で、アイドルやるんだよ」
北条加蓮「アタシの名前は北条加蓮、めんどくさい字を書くから、あとで教えるね?」
加蓮「プロデューサー同じだし、いろいろとお世話になるだろうから、・・・仲良くやろうね?」
凛「うん。よろしく。」ギュッ
加蓮「ふふっ。思った通り、やっぱ同じニオイがするなー・・・。ちょっと、屋上行こうよ、セイシュンだよ?」
その2おわり
今日はここまで、その3でアニバくらいまでは行きたいです
こわかったです
>>47 >>50
会話の間を表現したかったんですが、ごめんなさい
文体の統一感を損なわない程度には減らします。読み返したら句点と読点を間違えていた部分もありましたし。
――――東京、東京、どこだろう、いつだろう
加蓮(むかしむかし・・・昔は、昔。)
加蓮(あるところに、カレンちゃんという変てこな名前をした、かわいい女の子がいました)
加蓮(その女の子は、ショウニセイの・・・なにか、ひどい病気にかかっていて、毎日ベッドでお眠りしていました。)
加蓮(ほとんど動けない毎日を送っていた女の子のたのしみといえば、テレビにうつるマボロシだけ)
加蓮(アタシとはかけ離れた・・・元気でかわいい女の子が、歌って、踊って、・・・みんなに元気を振りまいて。)
加蓮(『私もいつか、こんなげんきな女の子に、アイドルになって、みんなをシアワセにする!』・・・いつしか女の子はそんな夢を見て、またおくすりを飲んで、ふたたびベッドに眠るのです)
加蓮(そうして、眠って、夢を見て、お薬に生かされて、眠って、夢を見て、眠って・・・)
加蓮(・・・みんなが中学にあがる頃くらいかな、アタシは、ゲンジツが眠ってしまっている間に、みな夢の中のモノになったしまった、ことに気付いた。)
加蓮(人並みの青春なんか、現実なんかなんにも送れていない・・・今のアタシのほうが、よっぽどおとぎ話に生きているよ。)
加蓮「・・・めんどくさーい。」
加蓮(めんどくさい。)
加蓮(中三頃かな、病気がようやくカンカイして・・・アタシはようやく学校へ通えるようになった。)
加蓮(みんないい子たちだったな・・・小一から、九年間のつきあいがあるらしい子たちもいたのに、アタシにも同じように接してくれた。)
加蓮(・・・アタシが体育を休みたいと言えば、すぐに先生の元に駆けつけて、先生も事情を知ってるから、すぐに許可してくれた。見学しながら、いろいろとオンナノコらしい遊びを、教えてくれた。)
加蓮「・・・ホント・・・どこにしまったんだろ・・・」
加蓮(ペディキュア、塗りたくる、マーブルの・・・記憶。なんでアタシはこんなこと、思い返してるんだか・・・)
加蓮(『マニキュアは生徒指導ですぐバレっからさー、ペディキュア、足の爪のマニキュアね?なら、バレにくいし。・・・加蓮ちゃんも、ムリしなくて済むもんね。』)
加蓮(すぐにアタシの趣味になった。家に帰って薬飲んだらあんま動かないし、教えてくれた塗り方で、爪をひみつにイロドっていく。)
加蓮(みんな・・・忘れて・・・熱中、して。土日や長い休みなんかには、マニキュアもつけて、派手にデコって、・・・どこかに出かける、こともなくて。)
加蓮「・・・なくしたワケじゃ、ないと思うんだけどなー・・・」
加蓮(アタシはとても、悪い子だ。)
加蓮(みんなとの距離の取り方がわからなかった。あっちはホントにアタシの事を友達だと思ってくれてたら、まあ嬉しいけど。)
加蓮(・・・放課後やらに、みんなと遊べるワケでもなかったし。すぐ家に戻って安静にしてなきゃならなかった。休日もそう。また病院、あの病院だよ。)
加蓮(だから・・・みんなには悪いけど。休み時間はテキトーに笑顔して、ここにいないひとの心にもないワルクチを言って、ここにいるひとに心にもないほめ言葉をいう。)
加蓮(・・・でも、みんなはアタシに近づいてきて、決まって、同じほめ方をするんだよ、ね。)
加蓮「・・・アレがないと、カワイくできないのになー。むぅ・・・」
加蓮(・・・アタシがかわいいのとか、知ってるけど。)
加蓮(部活したり、恋したり、ケンカしたり、勉強したり、いい点とったり、悪い点とったり、・・・したことなかった。)
加蓮(青春の汗と希望と、現実の厳しさと絶望の、両方に見放されてたアタシの・・・唯一の、顔。)
加蓮(子どもの頃から、看護師やお医者さん、病室が一緒の子たち、違う病棟の大人たち。・・・みんな夢を知ってるひとたち。)
加蓮(机に眠るように座っていれば、男子なんかが・・・学校に行き始めは、よく聞こえたな、ふふ、丸ぎこえだよ、『アイツめっちゃカワイイな』ってさ。)
加蓮(すっごいギョーソーで、女の子がアタシに話しかけてきて、・・・アタシの写メが、そこらじゅうの中学の男子のあいだで出回っていたらしい。)
加蓮(『まじどーすんのこれ?ホント許せないんだけど!』・・・え?そうかな。どうだっていいじゃん。そんなの)
加蓮(・・・・・・どうせ、アンタも、他の子も、男子も、先生も。みんなみーんな、アタシがかわいいから、優しくしてくれてるだけなんでしょ、違う?)
加蓮(・・・はじめて会った時から、こんなにみんな優しいなんて普通じゃない。たぶん。病気に同情、なんてきっと長くは続かないよ。)
加蓮(ちょっと生意気言ったって、それなりに先生に反抗したって、苦笑いして、ほっといて、みんな許してくれるじゃん。・・・甘いんだよ。)
加蓮(アタシがみんなしてきたいい事なんて、食べれない給食をみんなに配って回ってたことくらいじゃん。違う?)
加蓮(いーのいーの。・・・どうせ私、アタシなんて、顔しか取り柄がない、悪い子だもん。・・・それを武器にしたっていいじゃん。それで得をしたって、みんな損しないじゃん。)
加蓮「・・・見つけた。ようやく、完成かな・・・」
――――はつ夏、ちかき、葉桜の、東京
加蓮(高校に上がるのも適当だったな・・・適当に制服がかわいくて、適当に近いとこで、適当に入れるとこ選んで。)
加蓮(体育の成績とか、普通に考えればヤバいんだけど、そこは先生がうまくごまかしたみたい。)
加蓮(・・・ぶっちゃけ、お医者さんからは、とっくに運動の許可出てたんだけど、・・・いいじゃん、べつに。)
加蓮(めんどくさいし。)
加蓮(めんどくさくたって・・・甘えたって・・・適当にしてたって、アタシいま、生きてるんですけど。)
加蓮(昔とか、今とか、・・・未来とか。そんなんどうだっていい。)
P「すみません、ちょっといいですか?こちら、CGプロのPというものなのですが・・・」
加蓮「スカウト?アタシに?なら、受けるよ?」
加蓮(次の一瞬がよければ、なんだっていい。・・・アタシはそんな女。)
加蓮(他人にちょっと笑顔を振りまけば・・・ね。)
P「えっ、・・・いいんですか?まだそんなに、話も聞いていないのに。」
加蓮「いーのいーの、よほどアレとか、AV半分とか、そんなんじゃなきゃ、いいよ。どんなとこなの?」
P「えっと、アイドル事務所、ということになりますかね・・・?」
加蓮「・・・そっか。アンタがアタシをアイドルにしてくれるの?・・・そか。詳しいこと話したいから、お茶しない?」
P「・・・わかりました、ちょっと、喫茶店を探しましょう・・・」テクテク...
加蓮(将来の事なんてなんにも考えてない、なんなら適当に短大とか出て、適当に主婦とかやればいいと思う。)
加蓮(アタシの顔ならそんなの余裕だし・・・たぶん。けど、まあ、芸能界で生きるのも、・・・悪くない選択かも。って思ってた。)
加蓮(アタシは顔が武器だし?てかとっとと手っ取り早く稼ぎたいし。適当に売れて、適当に顔と肌出して、適当にハクつけて、)
加蓮(あるてーど満足したら、そこで終わり。したらアタシの人生、きっと今よりもっと楽になる。)
加蓮(けど、モデルとかじゃなくて、アイドルか。そーか。そーなんだ。・・・ふふ。)
加蓮(最近はすっごいアイドルブームで、どのチャンネルつけてもアイドルが出てる、アタシが夢を見てた頃よりすごい。)
加蓮(最初憧れてた、ヒダカ・・・なんだっけ、もう本当に夢の中は、夢の中。)
加蓮(・・・まぁいいや。だから、何度か、周りの子も『アイドルになってみなよ〜』とか言うんだけど)
加蓮(『いーよ。そんなん』とか、アタシは適当にあしらってた。・・・あの子たちはアタシの夢、なんて知らないし。アタシは夢は、夢の中におさめてしまってたし。)
加蓮(・・・だから選択肢は、読モとか?背ぇ、そんな高くないし。それか、グラビア?アタシぶっちゃけ、胸デカいしね。)
加蓮(・・・でも、そーか。そーなんだ。アイドルって選択肢も、ちゃんとあったんだね。ふふ。最初から、ないことにしてた。)
加蓮(・・・夢か。・・・私の、アタシの顔を、武器にして。アタシ、の顔が、アタシとして、アタシを現実にする。・・・夢かあ。)
加蓮(中三のとき、周りの子には、マニキュアと一緒に、メイクも習った。高校に入って、周りの子と一緒に、もっさい髪も茶色に染めた。)
加蓮(・・・ゲンジツを、取り戻さなくちゃ。)テクテク...
P「ああ、ここ、静かそうだな・・・。・・・さ、入りましょうか。」
加蓮「さっきから、そのわざとらしい敬語、キモいんだけど・・・。やめてくれない?あ、二名、禁煙でーす♪」
P「へぇへぇ・・・」
P(はーあぁ、あぁ!きれいな子を見つけたと思ったら、絵に描いたような現代っ子だったよ!)
――――葉桜、青山、アメリカン・ラグ・シー、ちかくの喫茶
P(白昼の青山で、なにかぼーっとしてる、きれいな目をした子だな・・・と思ったら)
P(こんなにがっついて来るタイプ、だとは思わなかった。・・・けど)
P(芸能事務所が、アイドル事務所だ、ということを教えた瞬間・・・)
P(最初に即答した時と、目の輝きの、表情の「意味」が違ったような気がしたんだよな・・・)
P(最初の、『やっぱりアタシに来る?わかってんじゃん。アタシかわいいかんねー』みたいな自信、うぬぼれではなく自信の表情)
P(それが・・・なぜだか少しだけ、変わったんだよな。輝いてたのには変わらなかったが・・・。少し、見守ってみるか。)
P「ほいほい、そっちのソファの席について・・・何をお頼みになられますか?お嬢さん」
加蓮「ふふ。キんモーい。はいはい、メニュー見せてよ。・・・ありがと」
P(はーぁ、大人を舐めてるんだか・・・甘えてる?・・・とにかく、そんなに悪意があるようには見えない、な)
P(細かいお礼は・・・いいことだし、意外だけど、なんだか少しだけ、引っかかるけど)
加蓮「私はこの・・・アプリコット、ってヤツがいいな。あなたは?」
P「じゃあ俺はコーヒー、ミルクのみで。」
加蓮「そ。じゃ、店員さーん!お願いしますね♪」
ウェイター「かしこまりました。」
P「・・・そういや、こんなところでぼーっとして、いったい何を?」
加蓮「え?あー、なんかmiumiuのバッグ欲しくってさ。でも高いし。どうしよって。・・・アイドルすれば、すぐ手にはいるのかな?」
P「そんな簡単なもんじゃねーぞ。」
加蓮「へー。・・・そう、か。だよね。」
加蓮「てか、早速だけど自己紹介するね。アタシは北条加蓮。鎌倉幕府の北条に・・・加えるに蓮、で加蓮。変わってるでしょ?」
加蓮「歳は16で・・・高二。そのへんの高校に通ってる、って感じ。加蓮でいいよ。あなたは?」
P「俺はPね。字は今度教えるよ。大学出てそれなりで、・・・加蓮がこのスカウトを受けてくれるなら、俺がプロデューサー、ということになる、と思う。」
加蓮「へえ、まあアタシはもう受ける気満々だし。じゃあ今のウチから呼び慣れておこうかな。プロデューサー、ね?プロデューサー♪」
加蓮「・・・プロ、デューサー、か・・・」
P「ん、まあ、好きなように呼んでくれていいからな。この前スカウトした子なんか、俺の事名前で呼び捨てだし。」
加蓮「そ・・・。ねえ、プロデューサー?さっきも言ったけど、アンタがアタシをアイドルにしてくれるんでしょ?」
P「ああ、そうだ。そういう自信で、やってるんだけど。」
加蓮「・・・でも」水ゴクリ
加蓮「でもアタシ特訓とか練習とか下積みとか努力とか気合いとか根性とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね」
加蓮「・・・ッ、ゲホ・・・ゲホッ、ゲ・・・ゲホッ、ゲホッ・・・」
P「お、おい。大丈夫か・・・。拭くもの、あるから。ハンカチあるけど、使うか?机は拭いておくけど、服は濡れてないか?」
P(な、なんで一息で、一気にそんな長い文章、言おうとするんだよ・・・無茶だ。)
P(・・・にしたって、むせすぎだろ。・・・明らかに無理してる。無理してる?)
加蓮「あ、ありがとう。ちょっと借りるね。へへ・・・」
P(わかったぞ。違和感の正体が)
P(言葉を並べて、態度を並べて、自分がやる気のないことを、必死になってアピールしてる。・・・矛盾してるっつの)
P(アイドル、と聞いて顔の輝きを変えたり、プロデューサー、という言葉にこだわったり、とまどったり、軽く使ったり)
P(いまのありがとうは、さっきメニューを渡した時のありがとうとは、まるで違う。真心の、感謝をしてるありがとうだ。)
P(・・・だが、さっきのありがとう、は、それがつきあいとして当然だから、会話をスムーズにさせる「当たり前」だから、使った言葉・・・)
P(少なからず、礼儀なんてそんなものだが、彼女はありがとう、という言葉のなんたるかを、意義すら知らない。「えっと」なんかと同じ感覚で使っている)
P(無理、してるんだ・・・。みんな。世間の常識に必死について行って、自分の置き所を掴めないままに、周囲にとけこむことに腐心して・・・)
P(彼女には今・・・現実がない。)
加蓮「ゴメンね。見ての通り、どうせ、体力もないし・・・」
P(ま、今は深くは事情を聞かないでおくか・・・)
加蓮「それでもいい?ダメぇ?」
P「・・・あぁ。いいよ。人それぞれにアイドルがいるのなら、アイドルも人それぞれだ。・・・きみの事情を、派手に変えやしないよ。」
加蓮「ふふっ、やったやった♪プロデューサーったら、やっさしーい♪アタシがアイドルになるのなんて、そんなもんだよね。」
P「あくまで加蓮のペースにあわせて、まあ、俺がどうにかするつもりだから・・・」
P(・・・ま、自分の顔に自信があるのは事実っぽいな・・・。すこし危ういけれど・・・)
加蓮「アタシの日常、変わるんだね。プロデューサー?現実が・・・」
P「うん、せいぜい稼いで札束の風呂にでも入っとくといいと思うよ。」
加蓮「なにそれ、適当だなー。ま、あとでお母さんに連絡しておいてよ。きっと一瞬でOK出ると思うから安心してねー!」
P(そして・・・なにやら強烈な目的意識)
P(凛に、少し、似て、・・・ない)
――――葉桜、渋谷、CGプロ
加蓮「おはようございまーす。はじめましてー」
ちひろ「あ、はじめまして。新人アイドルの子ね?えっと、今からプロデューサーがつくと思うのだけどね・・・」
加蓮「いや、アタシのプロデューサーって、そこの人、でしょ?」
ちひろ「・・・え?」
P「・・・よっす。初対面で目上のかたを前にして、俺を「そこの人」扱いするのはやめてくれ。」
加蓮「あっそ。ごめんね?名前忘れちゃったからさ、プロデューサーの。で?ウチの親とは?うまく行ったでしょ」
P「・・・ああ。拍子抜けするほど。」
加蓮「ふふ、やっぱり」
P(・・・。)
P「・・・じゃ、適性とか見るから、ちょっとレッスン場まで来てくれ」
P(歌はまあまあうまい。声量はないが。自己表現、魅せかたはさすがの一言だな、よほど自分の容姿に自信があるのか・・・それだけを頼りにしてるのか。)
P(演技は、・・・まだなんとも言えないな。問題は・・・このダンスとも呼べないなにか・・・)
P「おい、もういいから、スタドリ飲んどけ、休憩しとけ。」
トレ「いや、まだ北条は、基礎の基礎すら達してない段階でな・・・」
P「プロデューサー判断です。」
加蓮「・・・ふ、ふふっ。プロ、デューサー。ホント、甘いよ・・・・・・」
P「・・・いまの内だけだ。」
加蓮「・・・どう、だ、か・・・」
・・・
加蓮「・・・ねえ、プロデューサー?」
P「ん?もう、大丈夫か、無理に上体おこすなよ・・・?」
加蓮「ふふ。もう大丈夫。でさ、他に、担当してる子・・・アイドルって。いるの?」
P「あ、そうだ。ホントはオフィスのほうで、資料を読んでもらおうと思って、タイミングなくて持ってきてたんだけど・・・」
P「ほれ、これがその子だ。名前は渋谷凛。あと目下、交渉中の子がひとりいる。ま、余裕があったら他の資料にも目を通しておいてくれ」
加蓮「ふぅん・・・。かわいい、ってか美人系だね。すっごく。この子。」
P「ああ、学年は下だけど、たぶん学校で一緒になるから、仲良くしておいてくれよ。」
加蓮「うん。なんか、きっと仲良くなれる気がするし。・・・なんか、私に似てるし。」
P「・・・顔が、か?」
加蓮「ううん、そんなんじゃないよ・・・。ねえ、プロデューサー。」
P「なんだ?」
加蓮「私、夢の、じゃなかった、現実の、この現実の、一歩目をちゃんと、踏み出せたのかな・・・?」
――――葉桜、私立高校、昼、昼休み、東京
加蓮(へえ・・・。渡り廊下から、校庭が見えるんだ・・・。)
加蓮(男の子たち、サッカー、してる。背中の、Overmarsって、チーム名かな?火星を越える、って、変なの。)
加蓮(・・・あれ、一階から、来る子がいる・・・。・・・間違いない。)
加蓮(反抗的で、挑発的な目つき。官僚の正論みたいに鋭い長髪に、したたかで長い脚。)
加蓮(自分以外は信じない。誰にも指図されずに、自由に生きる。・・・孤高の女)
加蓮(Don't Trust Over Thirtyを地で行くような足どりで、二年生の階まで上ってきた。)
加蓮(・・・ふふ。あなた、ずいぶん見た目怖いんだよ?アタシは怖くないように、努めてきたんだけどね・・・怖いクセに)
加蓮(・・・うん。やっぱり似てる。見た目だけで、もう確信しちゃえるよ、アタシは・・・)
加蓮「凛ちゃん、よっ♪」
野球が始まる前に、とりあえずここまで
ホントに予告通り、今日中にアニバまで終わるのでしょうかね
>>65修正
加蓮「あ、ありがとう。ちょっと借りるね。へへ・・・」
P(わかったぞ。違和感の正体が)
P(言葉を並べて、態度を並べて、自分がやる気のないことを、必死になってアピールしてる。・・・矛盾してるっつの)
P(アイドル、と聞いて顔の輝きを変えたり、プロデューサー、という言葉にこだわったり、とまどったり、軽く使ったり)
P(いまのありがとうは、さっきメニューを渡した時のありがとうとは、まるで違う。真心の、感謝をしてるありがとうだ。)
P(・・・だが、さっきのありがとう、は、それがつきあいとして当然だから、会話をスムーズにさせる「当たり前」だから、使った言葉・・・)
P(少なからず、礼儀なんてそんなものだが、彼女はありがとう、という言葉のなんたるかを、意義すら知らない。「えっと」なんかと同じ感覚で使っている)
P(無理、してるんだ・・・。みんな。世間の常識に必死について行って、自分の置き所を掴めないままに、周囲にとけこむことに腐心して・・・)
P(とんでもない・・・、天性の、嘘つき。それも、嘘を嘘だと自覚していない・・・)
P(彼女には今・・・現実がない。)
とんでもないミスでした・・・。すみません。
>>75
加蓮がそう思ったのだから、仕方ないと思います。
Pに関しては、折り目正しい日本語を使いたいと思いますが、他の子に関しては、あまりそういうのにはこだわらない方向で。
>>79
すみません、次回作では善処します。
凛「・・・屋上?加蓮さん、そんなものがあるんですか?この学校」
加蓮「うん。なんかクラスの子に聞いてね」
加蓮「てか、凛ちゃんさー。ゲーノーカイじゃ一応アタシの先輩なんだし、ため口にしようよ。・・・しなよ」
凛「・・・うん。わかった。ていうか、その『凛ちゃん』っていうのもやめてくれる?」
凛「・・・なんか、お母さんに呼ばれてるみたいで、子ども扱いされてるみたいで。ウザいから。」
加蓮「ふふ。・・・やっぱ思った通りの子で安心した。」
凛「・・・?ねえ、加、蓮。思った通りって、どういうこと?」
加蓮「ふふふ。思ったことは思ったことだって。じゃ、ついてきて♪アタシアクエリもってきたから、まわし飲みしよっか。」
凛(・・・なんだか、いやな予感がする。というか、勘違いされてる予感がする・・・)
凛(・・・私とは違って、かわいい子、なんだな。ネイルもメイクも決めてあるし。)
凛(勝ち気な瞳。ちょっと地黒の肌。髪は両サイドで縛ってて・・・おしゃれなシュシュ。)
凛(いかにも、いまどきのJKした。遊んでる子、って感じ、がするけど。)
凛(・・・そういえば、さっきも『セイシュンしよ?』なんて、言ってたし)
凛(・・・実際遊んでるんだろうな。人当たりよくて、モテそうだし。)
凛(・・・・・・でも、そんな子、プロデューサーがスカウトするかな?)
凛(私にはあれだけ、今までの青春を捨てろだの、言ってきたのに。)
凛(・・・なんか、裏がありそう)
加蓮「どしたの?もう屋上つくよ?考え事?」
凛「え、あ、うん。・・・ちょっとね。」
加蓮「そ。凛って、アタシだけじゃなく、プロデューサーにも似てるね。ふふ」
凛「・・・閉まってるじゃん。だろうと思ったけど」
加蓮「だいじょーぶ。この針金、クラスの子が貸してくれたんだよね」
凛「針金!?」
加蓮「そ。なんでもこの鍵穴にあうようにあわせて作られた、特製のものらしくて・・・」
加蓮「ちょっと待ってて・・・。今開けるからさ・・・。」
凛「ねえ、どうして、クラスの子は屋上のこと教えてくれたの?こんなお手製のものまで貸してくれて・・・」
加蓮「ん。そりゃあさ、クラスの男子に、『アタシ青春したーい』とか言ったら、一発だった。ふふ」
凛「勘違いされるよ!?」
加蓮「・・・アイドルなんだから、男の子に好かれてナンボでしょ?」
加蓮「・・・それにこの針金程度じゃ、アタシの点数なんて、稼げるわけないんだし。・・・それに」ガチャリ
加蓮「ほら、空いたよ?行こう?・・・・・・アタシだって、ふつーの女の子なんだよ」
――――五月、私立高校、屋上、無風
加蓮「うわーい。たっけーなぁ・・・。ホントに自由だね。誰もいない、誰も見てない、誰のソクバクもない・・・」
凛「そうだね。私はいるんだけど」
加蓮「そういう意味じゃないって。・・・ま、普通の高校よりは、ここ自由だと思うけど」
凛「そうだね・・・。制服も自由だし、ま、みんな適当な制服風なの着てるけどさ・・・。それに、加蓮のネイルもずいぶん派手だしね」
加蓮「そう!今日は転校初日だから気合い入れてさー、右手に"K""A""R""E""N"ってしてみた、らさ?みんなマジ食いついてきてね。いいきっかけになったよ。でさ、凛、お昼ご飯たべた?」
凛「ううん・・・。しばらく校内巡ったら、購買でパンでも買おうかな、って思ってたから」
加蓮「そ・・・。じゃ、アタシのカロリーメート食べる?半分こだよ、半分こ」
凛「いいけど・・・。加蓮のお昼、それだけ?」
加蓮「え?あー、一応、そう。」
凛「・・・大丈夫?学校終わったら、レッスンだよ。」
加蓮「あ、へーきへーき。今日のレッスン、てか、アタシの方針が、そんな踊ったりしない、アレらしいし。」
凛「そうなんだ。私はトレーナーにこってりと絞られるから、ちょっとそれじゃ辛いかな?」
加蓮「じゃ、帰りに買い食いでもしていけばいいよ。・・・屋上には、いて。」
凛「・・・?そう、別にいいけど」
加蓮「ありがと。・・・てか、なんなんだろうねー。同じプロデューサーなのに、活動方針の違い、ってヤツなのかねー。」
凛「・・・そうかも、ね。」
凛(昨日のプロデューサーは、おかしかったな)
凛(『これじゃあ足し算にもならないな・・・』なんてひとりごとして)
凛(私と加蓮の、ことなのかも。加蓮、どうも真面目そうな子には、まだ、見えないし。)
凛(・・・でも、私はこの子を引っ張り上げられる自信があるよ。私は自分の力を信じてる。・・・プロデューサーも、それをわかってくれてると、思うのに)
凛(そういえば、こないだの、宿題やってた時から、私へと対応が、ちょっと変だったな・・・)
加蓮「・・・すぐ考え込むんだね。凛って。やっぱ頭よさそ。・・・てか、仮衣装みた?アタシは水色系統の、なんか清楚系な感じだったけど・・・」
凛「・・・私も見た。なんか、黒のゴシック系で、なんていうか、かっこいい系、かな?」
加蓮「ふふ。・・・じゃ、ホントにプロデュース方針、違うんだね。」
凛「・・・ていうかさ、そういえば、さっき加蓮が言ってた、私とプロデューサーが似てるって、どういう意味?」
加蓮「ん?・・・どしたの?もしかして、凛もプロデューサーのグチ、てゆか、カゲグチ言いたくなった?」ガシッ
凛「・・・近いよ。・・・いや、だから、どうして?」
加蓮「いやーさー、プロデューサーって、ホント強引だよね。言ってること滅茶苦茶だし。」
凛「それは・・・。私も、思うかも。」
加蓮「だよね!?いきなり黙ったかと思ったらさ、・・・そこが凛に似てるんだけどね、で、突然トッピなこと言い出して・・・」
加蓮「マジ、ウザい。・・・と、思わない?」
凛(同意を・・・。求められてもな。)
凛「加蓮はさ、じゃあ、どんなことされたの?」
加蓮「だってさぁ、アタシが毎日毎回フラフラになって、事務所に来てるってのに、毎度なんか、変な事言ってレッスン場に連れ出すし・・・。ホントめんどくさーい」
凛(・・・ん?なんか、引っかかるような・・・?)
加蓮「アイドルなんて、適当に・・・じゃない、普通に歌って、踊って、そんで稼いで、普通に引退して、普通の日常に戻って・・・そんなもんじゃないの?」
加蓮「なのにずっと練習、練習、なんのためかもわからない練習。マジだるいって。」
加蓮「ホント、あの青木ってトレーナーさんと、プロデューサーって、グルになってアタシたちをいじめてんじゃないの?」
凛「ま、たしかにあの人はキビシいよね・・・。」
凛(さっきから、この子はやけに、「普通」にこだわってるような・・・。別に流れ的には、「適当」でもいいのに。というか、そっちのほうが自然、かも。)
凛(普通、青春・・・なんだろう。さっき、やけにここに留まろう、としたし。)
加蓮「はは・・・。はぁ。すっきりした。共通の話題、共通のプロデューサーを持ってるのなんて凛だけだしさ。・・・こんなことはなせるの、凛だけだよ。」
加蓮「こうやってさ・・・。これからもたまに、凛と、この誰にも見られない屋上で、自由なところで、羽根をのばしてさー・・・」
加蓮「こうやってよくある、知り合いのカゲグチなんかも言ったりしてさ、そういう青春っぽいことして・・・。そういう日常を送れたら、いいな。」
凛「・・・そ。」
凛(・・・なんとなく、わかったかも。)
凛(・・・そんなにフラフラで、めんどくさいなら、はじめから事務所なんか来なけりゃいい。)
凛(あのプロデューサーなら、きっとその辺、わかってくれるはず。)
凛(でも、この子・・・加蓮はそうしない。毎日、毎日事務所に来る。・・・きっと鉢合わせしなかったのは、私の前の高校が、渋谷に近かったからかな・・・?)
凛(・・・それで、きっと、なにか新しい日常、普通、青春、・・・居場所。そんな物を求めてるんだ。私にも。たぶん、プロデューサーにも。)
凛(・・・だって、さっきからこの子、「勝ち気な瞳」が、すぐに壊れてしまいそうで、見てられない・・・。なにか、自信が揺るがされることでもあったのかな・・・?)
凛(・・・とにかく、わかった、私は、渋谷凛は、この子を、加蓮を守る。年下とか、関係ない。アイドルの仲間、対等に、ね。こんな・・・もろい生き物は。)
凛「そいえばさ、たぶん加蓮って、勘違いしてると思うんだけど。・・・私の見た目的に。」
加蓮「・・・どゆこと?」
凛「私って、実は友達、結構多いんだよ?」
加蓮「・・・え?アタシそんな、アレなこと言ったっけ?」
凛「だってそうじゃん。加蓮はさっきから、自分に友だちがいかに多いか、すぐ作れるか、みたいなことを言っててさ。」
凛「一方私には、『こんなことを言えるのは凛だけ』、なんて、信頼と尊敬を強調する。唯一、を強調する。」
凛「慣れてるから・・・さ。近寄りがたくて、プライド高そうな女、とか言われんの。実際、無愛想だしね。」
加蓮「・・・ごめん。」
凛「謝んなくていいって。それが"普通"だから。私も前の高校でそうなりそうだったけど、ちゃんと、親友・・・A、とかBとか・・・が出来てさ。」
凛「すごいささいなきっかけから、とっても仲良くなってね。たった一ヶ月半くらいなのに。だけど、こないだの送別会の時にすっごく泣いてさ、こんなに楽しい日々を手放して・・・」
凛「飛び出した新しい日常に、ちゃんと慣れるかな、って不安だった・・・。けどもう大丈夫なの。・・・仲間が出来たから。」
凛「・・・北条加蓮は、私の、この学校での親友、第一号だよ?」
加蓮「・・・凛・・・、私・・・。」
凛「ふふ。泣かないの。キャラじゃないよ?ハンカチあるから、さ。・・・・・・ねえ、よかったら、私にも話して?加蓮の、今まであった」
凛「・・・楽しいこと、とか。」
――――五月雨、ながく、23区、渋谷生花店
凛「さ、早く入って、濡れちゃうよ?」
加蓮「うん、ありがと。・・・お邪魔します。」
凛「今日も髪型、変えてきたんだね。」
加蓮「そ。今日はワンサイドにして、シュシュはイエロー系にしてみた。似合ってるかな?」
凛「うん。似合ってる。というか、やっぱ加蓮はすごいね。自分のルックスにすごくちゃんと気をつかってて。アイドルの鑑だよ。」
加蓮「ふふ。ありがと。凛だって、すごいじゃん。そのストレートヘア。どうやってケアしてんの?アタシじゃそんなのめんどくさい・・・」
凛「えっとね、お母さんが、そういうのにこだわっててさ。ウチの職業柄、すっごくいい椿油とかもあって・・・」
加蓮「そういえば、聞いてたけど。凛の家、ホントにお花屋さんなんだね。きれい・・・」
凛「意外でしょ?」
加蓮「ううん。そうでもないよ。この季節は・・・やっぱりシクラメン。色も豊富なんだね。すごい・・・」
加蓮「・・・アタシ、花はちょっと詳しいけど、花屋には来たこと、なくってさ。ふわぁ・・・」
凛(・・・そんなに花屋って、普通の女の子には縁遠いものなのかな。・・・花屋の娘には、わからない、よ)
凛「ふふ。じゃあちょっと、見てていいよ。」
凛「おかあさーん!ちょっと店番かわってもらっていーいー!?」
<マッテヨー!オトウサンハ、カイツケイッテルシ、ワタシハイソガシイシ・・・
凛「忙しいって、どうせハナコのことでしょー!」
<ソーヨ。ハナコチャン、ドロデヨゴレチャッタカラ、イマオフロイレテアゲテルノ!
凛「なにそれ!?私、もう友だちと部屋にあがってるからねー!」
<エッ、ハナコチャンノセワ、ドウスルノヨー!?マダフロオワッテナイシ、ミセバンノトキモダレガセワスルノ!?
凛「おかーさんが、お風呂に入れてから、一緒に店番してればいーでしょー!ったく・・・部屋いこ?」
加蓮「・・・いいの?しばらく店を開けちゃうことになるけど・・・」
凛「・・・いいんだよ。」
凛「・・・こんな雨の中、誰も花なんか、見に来たりなんかしないよ。」
加蓮「・・・っ」
加蓮「こーこが凛の部屋かぁ・・・。案の定、ちょっと殺風景というか。」
凛「・・・悪かったね。あんまりモノを置かない主義なの。」
加蓮「いや、悪口じゃないよ。シンプル・イズ・ベストってゆーか。」
凛「はぁ・・・。まあ、さ、今日はお互い、オフでよかったね。・・・喜ぶべきモノじゃないかも、だけど。」
加蓮「はは、アイドルだからね・・・。でも、凛はさ、レッスンすごく頑張ってるじゃん。それを見越して、プロデューサーもオフを入れたんだと思うよ?」
凛「はは。ありがと・・・。けど、加蓮はもう、ショッピングモールなんかで、ちょっとした活動も始めてるんでしょ?」
加蓮「うん。・・・おかしいよね、凛のほうがよっぽど歌もダンスも、努力してんのにさ。」
凛「そんなことないよ。加蓮の歌声ってとってもキレイだし、あの水色衣装と合わせて、自分の見せ方を知ってる。って感じがするもん。」
凛「・・・だから、もうステージに出してもいい、って判断なんでしょ。・・・そういうの、プロデューサーの、判断することだからね・・・」
加蓮「・・・うん。うざいけど、ホントにうざいけど・・・。アイドルにしてくれたプロデューサーには、ホントに、感謝してるかな・・・?」
加蓮「・・・アタシのこの一瞬を、作ってくれている人だから」
凛(・・・よかった。加蓮もちょっと前に比べれば、私がいることで、すこし柔らかくなったの、かな?)
加蓮「・・・ところでさ、凛。灰皿って、ないの?」
凛「・・・はあ?」
加蓮「凛ってクールで、大人っぽいし、目上にもはっきり意見するし・・・。なんかオトナにタバコ、吸ってそうだな、って」
凛「・・・そんなことするわけないでしょ?だいいち、本当に吸ってたら、加蓮と一緒のプライベートな時にも、吸ってるはずでしょ?」
加蓮「・・・雨の中に、花を見に来る人なんていないんでしょ?」
加蓮「・・・アイドルがタバコなんて、絶対に見られるわけにはいかない。けど、わざわざアイドルの部屋の中を覗きに来る人は、なかなかいない。・・・秘密の花園、って感じ?」
凛「バカなこと言ってないで、私が見た目通りに思われるの、苦手なの知ってるでしょう?」
凛「ピアスつけてたって、・・・べつに不良ってわけじゃない。悪い子、ってわけじゃないから。」
加蓮「・・・」
加蓮「・・・そ。」
加蓮「それじゃ、アタシは携帯灰皿持ってきたから」
凛「・・・はぁ?」
凛(妙にババくさい・・・小物もおしゃれな加蓮らしくないデザインだけど・・・ね・・・)
加蓮「これ?このタバコはピアニッシモっていって、1mgで軽くて、ニオイも全然しなくて」
凛「そんなこと聞いてない!」
加蓮「・・・聞かせてないし。じゃ、吸うから」ジュボッ
凛「やめて!」バチーンッ!
凛「なんで?なんでタバコなんか吸うわけ?反抗心?大人、になりたいから?」
凛「なんでそんなもんで大人になれるとなんか思ってるの?そんなものが加蓮を大人に引っ張り上げるとでも思ってるの?・・・大人は、何にも頼らず、自分の力で立っている人の事を言うんだよ!」
凛「・・・って、加蓮?」
加蓮「ゲホッ、ゲフゲホゲホッ、ゲホッ、ウェッ、ゲホッ、ゲホッ――」
凛「大丈夫!?・・・まずは水飲んで落ち着いて、ね?」
加蓮「――」
凛「まずはお手洗い、いこ?深呼吸、できなくてもいいから、心がけて?・・・立てる?」
加蓮「――」
凛「無理、か。」
凛「(おんぶ、できちゃった。・・・かるい。信じられない。)大丈夫?ホント気付いてあげられなくて、ごめんね?すぐだから、お手洗い。」
加蓮「――」
凛(無理。加蓮。加蓮。なんでこんなに、無理してるの・・・?)
加蓮「はー、はー、ひっく、はー、はー・・・」
凛「・・・落ち着いた?」
加蓮「・・・うん。ゴメンね。二度と、タバコ、なんて。吸わないから・・・」
凛「なんで、こんなことしたの・・・?」
加蓮「私・・・アタシ、めんどくさいの嫌いで、しょ?だから、指図されるのも、嫌いで、大人って、嫌いで・・・」
加蓮「モラルとか、法律とか、・・・健康とか、そんなの、関係ない。この一瞬が楽しければ、それでいいじゃん・・・」
加蓮「憧れ、てたの。自由な生き方。流されない生き方。アタシらしい生き方。かっこよく・・・」
加蓮「で・・・凛もそんな子だと思ってた。憧れ・・・てた。アタシが知ってる中で、一番大人で、そんな子に、全部否定されちゃうんだもん」
加蓮「勘違い、してたの・・・、いや、勘違い、してないのかな・・・凛はかっこよくって、不良、とかじゃない、んだ」
凛「うん・・・勘違い、してないよ。けどね・・・?」
凛「私が流されない生き方、なんてしてるように見えるのなら。確かにそうは心がけてるけど・・・。」
凛「それは今、この一瞬が苦しくても、流されないからなんだよ・・・?」
凛(・・・今、加蓮が言ったことがすべてじゃ、ない。)
凛(・・・今言った『アタシらしい生き方』、前言った『普通の日常』、両方求めるのは、矛盾してる。みたいだけど・・・)
凛(そうじゃない・・・。矛盾してない。)
凛(みんなの普通、にどういうワケか慣れてない加蓮が、必死にその普通をつかまえようとする。つかまろうとする。)
凛(無理にみんなにあわせて、無理に普通の日常を演じて、そんな無理無理な土台で、「アタシだけ」を抱き上げようとしてた。)
凛(だからこんな、普通じゃない、非常識な、無理なことをしたんだ。)
凛(どんな過去があったんだろう、もう、無理に聞ける段階じゃない)
凛(親友・・・。だから、話してくれるまで、待つしかない、かな)
凛(・・・だから、プロデューサーも、日常を捨てろ、なんていってな、かったり?)
凛「このタバコ、ピアニッシモだっけ?・・・どうしたの?」
加蓮「お母さんの。アタシに隠れて外で吸ってるみたいなんだけど、普通に知ってたから。」
凛「そ。だから携帯灰皿も加蓮のっぽくなかったんだ・・・。」
凛「じゃ、ニオイとか、その他うんぬんの話しは?・・・まさか経験談?」
加蓮「そんなわけないじゃん・・・。ネットで調べたの。銘柄見て、評判を。・・・ねえ?」
凛「・・・なに?」
加蓮「プロデューサーには黙っておいてくれる・・・?あの人、すっごく甘い、けどさ・・・」
凛「うん・・・(甘い、というより、あのプロデューサーだったら、もっとうまく諭して、事前にやめさせたと思う・・・)」
凛「・・・ねえ?」
加蓮「・・・なに?」
凛「加蓮は、二度とタバコなんて吸わないと思うけど・・・それは大人になろうとするのがダメだからじゃない。」
凛「モラルだからダメ、だからじゃない。法律だからダメ、だからじゃない。もはや・・・健康に悪いからダメ、だからじゃない。ましてやアイドルだからダメ、だからじゃない。」
凛「加蓮が・・・加蓮だから。あなただから、あなただけだから、ダメ。いーい?」
加蓮「・・・わかった」
凛「加蓮は大切な仲間で・・・私はすごく頼りにしてるの」
凛「だから、・・・私は加蓮を、できる限り守るよ」
加蓮「・・・おねがい。」
加蓮「ふふ。やっぱ凛って、アタシより・・・全然大人なんだね。年下で・・・どの一瞬にも。」
――――バイウ、紫陽花、東京、渋谷、CGプロにて
P「はい、紹介します。今日からCGプロに参加して、俺ーサマのプロデュースに従うことになるぅ・・・」
P「神谷奈緒さんです。17歳で、ぶっとい眉毛の。」
神谷奈緒「おいP!なんだその紹介の仕方ッ!別にいいだろ!眉毛関係ないだろ!自己紹介に!」
P「・・・てな感じで、万事こんな調子だから、先輩としてよろしく頼むぞ?凛。」
ちひろ「ぱちぱちぱちぱちー♪」
P(・・・。)
凛「うん・・・。もう知ってくれてると嬉しいけど、私は渋谷凛。よろしくね・・・?奈緒、ちゃん。」
P「・・・ホントは、加蓮より前にスカウトしてた子なんだけどな。なかなか本人からのOKが出なくてな・・・。」
凛「な・・・!?奈緒ちゃん、まさかこのプロデューサーの口車に、乗せられなかったの?」
P(ひでえ言いぐさ。15歳に。泣いてもいいのでしょうか。社会人が。大卒の。職場で。オフィスで。)
奈緒「だっ、誰が乗せられるかっ!?あたしがアイドルになれるとか、かわいいカッコしてみないか、とか・・・」
P「・・・なぁ凛、何が一番苦労したってさ。この子むっちゃ素直じゃないんだよ。半端なく。」
凛「・・・どゆこと?」
P「そういえば奈緒、今日のお前はいっそうカワイイな!」
奈緒「ふっふざけんなっ!か、カワイイとか・・・あたしがかわいいわけないだろ!・・・う、嬉しくなんかないんだからな!」
凛「・・・なるほどね。」
P「・・・で、スカウトしてからの準備期間も長かったから、もう仮衣装もあがってる、ってわけ。」
P「・・・千川さん。お願いします。」
ちひろ「はいはーい。じゃじゃーん♪」
P「・・・。」
凛「黒の・・・ゴシック系衣装?」
P「そう。奈緒のボリューミーなロングヘアや、キッとした目つき。・・・よく合うと思わないか?」
奈緒「な、なんだよこれ!あたし初耳だぞ!初見だぞ!こんなフリフリ衣装着るなんて、一度も聞いてないぞ!」
凛「・・・これって、私と」
P「・・・そう、お揃いなの。これからお前らには、ユニットとして活動してもらうことになる。・・・あくまで暫定、だけど。」
凛「・・・事務所に入って、いきなり?どうして?」
P「あのな・・・奈緒のキーワード、『素直じゃない』のほかにもう一つ、『仕方ない』がある。・・・試しに凛、奈緒の衣装を誉めてみろ。」
凛「あのね、奈緒ちゃん。私としても、この衣装、プロデューサーの言うとおりで、とってもお似合いだと思うよ?」
奈緒「・・・!?・・・し、仕方ねえな。そこまで言うなら着てやるけど、・・・笑うなよっ!別にPが誉めたから着るんじゃないんだからな!Pのためじゃねえぞ!凛ちゃんのお陰で、仕方なくだからな!」
凛「ふふ。なるほどね、プロデューサーが私とこの子を組ませたがった理由、わかった気がする」
P「ああ、察しがよくて、お前にはいつも助けられてるよ。じゃ、青木さんのところに行ってきてくれ。」
凛「・・・プロデューサーは?」
P「俺はもーちょっと、千川さんとの共同作業で、事務処理がある。なにしろ初のユニットだし、新アイドルだしな。」
凛「・・・わかった。奈緒ちゃん?」
奈緒「・・・なんだよ。」
凛「そんなつんけんしないで・・・行きましょう?レッスン場。わからないところは教えてあげる。自信あるから。」
奈緒「ふ、ふんっ!仕方ねえな!ならとっとと行くぞ!」
凛「・・・ふふ。」
P(・・・さて、やかましいのが去って。懸案にひとつ、荒療治を施してみようと思うが・・・)
P(凛が俺の意志を「汲み取った」、って思ってるなら、まあ今のところは成功だな・・・)
P(「仕方ない」・・・との化学反応で、どう変わってくれるのやら。願わくば思惑通りに・・・)
P(奈緒も、・・・凛も。・・・・・・加蓮、もか。)
とりあえず今日はここまで
体力が余ったらりんなおかれんがどたばたするあたりまでは書きたいです
今後は読みやすいSSを目指します。
というか、加蓮があの登場セリフを一気呵成に言うシーンだとか、
ピアニッシモなシーンが終わったので読点の乱舞はもう減っていくと思います。
凛(プロデューサーも。ふふ。人が悪いな)
凛(「仕方ない」。そんな動機でしか動けない子を、私が自発的な、自分の力を見せるによって導いて・・・)
凛(ま、それに私が先輩として指導すれば、「仕方なく」奈緒ちゃんも動いてくれるってわけだし)
凛(そうすれば私に追いつけるよう、「仕方なく」、自分の努力、自分の力でうまくなろうとする)
凛(私もそれによって刺激されて、もっと自分を高めていって・・・)
凛(ふふ。理想、のユニットじゃん。)
凛(・・・なのに、なんでまだ、暫定、なのかな?)
凛「・・・あ、ここね。レッスン場は。中にいる青木さんってトレーナーはホント怖いから、覚悟しときなよ。」
奈緒「ったく、しょぉがねぇなーっ!」
P(「仕方なく」を、「自分から」、にする)カタカタ...
P(凛はそんなことを思ってるんだろう。アイツは自分の力しか信じない、からな)カタカタ...
P(それが俺があの子を買った理由。めちゃくちゃな本音をぶちまけてまでスカウトしてきた理由。)カタカタ...
P(だけど、それじゃあダメなんだ。今・・・)カタカタ...
P(・・・あ、曲のベース音が・・・ほんのりと聞こえる。始まったんだ、レッスンが)カタ。
P(青木さんと相談して、予告無しの新しい課題曲・・・防音だから全然聞こえねえけど。)
P(さあ、どうする。宿題だから、宿題をする女)
P(・・・って、だからこそ、こなしそうなもんなんだけど。)
P(・・・そう、こなす、ね。・・・加蓮か。)
P(凛と加蓮の関係性を煽ったのは俺だが、あんな方向に進むとはすこし計算外だわ。思春期はげに恐ろしいな・・・)
P「・・・ラベンダー、のアロマじゃないですか。いいじゃないですか、千川さん。」
――――五月雨が、梅雨になるまで、CGプロで、夕方の
凛「おはようございます。・・・お疲れさま、加蓮。今日もまた、トレーナーさん?」
加蓮「おはよ、凛。・・・ふふ。ありがとね。今日は他のトレーナーさんだった。・・・マジだっるいって。」
加蓮「・・・ってか、凛は今日、遅かったね?なんかあったの?」
凛「ううん。今日は両親がどうしてもはずせない用事があるらしくて、しばらく店番を代わってただけ。」
加蓮「・・・ふふ。なんかあった、んじゃん。」
凛「そうじゃなくてね、・・・そういうどうしようもないことは、仕方のないことは、「なにかあった」の内に入らないだけ。」
凛「そう思ってないと・・・もっとどうしようもないことが起きた時に、おかしく、なっちゃうよ?」
加蓮「ふふ。・・・ありがと?」
凛「まあいいや、私はこれからレッスンだけど、加蓮はどうする?」
加蓮「ん。・・・じゃ、まあ、見ていくかな。」
凛「わかった。いこ」
P(・・・わたくしめは無視でごぜーますかおぜうさま。)
P(波長が合うとは、最初から思っていたんだが・・・)
P(二人とも短いあいだにずいぶんと仲良くなったようだなあ)
P(・・・ちょっと危ういくらいまでには)
P(・・・いろーんな意味で。)
P(・・・すくなくとも凛のほうは、加蓮のことを守ってやらなくちゃいけない。そんな使命感に燃えているんだろ、う。あの説教まがいを見るに。)
P(・・・お前も含めて、それは俺の役割だっつーのにな。まあいいけど。)
P(で、あの使命感とやわらかな口ぶり、いちいち気を遣う言動・・・。親友、なのにな。・・・それはたぶん、凛も気付いたんだろう。)
P(加蓮が、無理をしていること。・・・あいつには、人を見る目がある。だから、あの態度や容貌でも、人が勝手に集まってくるんだろう。・・・カリスマだな、一種の)
P(・・・でも、どうやら。その「無理」の内容のこと、どうして無理するのか、ってこと、わかってない、みたいだな。)
P(俺に言わないのはある種当然として。・・・加蓮も初めての、心からの親友だろうに、凛にも言わないんだな・・・)
P(おおうそつきめ。)
P(加蓮には、早くから「アイドルらしい」仕事を、頑張ってねじ込んで、実感させたつもりなんだがな・・・)
P(加蓮。加蓮。お前はまだ、現実を。アイドルという、現実を。つかまえて、いや、捕まえようとしていないのか・・・?)
凛「・・・はぁ、つかr・・・いや、充実した、な。ってプロデューサー?まだいたの?」
加蓮「あ、プロデューサー、お疲れ様。まだ頑張ってるんだ?すごいね、見てるだけでこっちまで疲れてくるよ・・・こんな遅くまで?」
P「はぁ。凛は、知ってるだろ?たまにお前、レッスン遅くなるし。んで俺が、たまに結構遅くまでざんぎょーがあらせられる、ってこと。」
加蓮「・・・へぇ、もう終わってるみたい、だね。」
凛「・・・私が来た時、ずいぶん暇そうにしてたじゃん。・・・さ、もう仕事も終わりだ。そんな雰囲気だったよ?」
P(あ、このおじょーさま、あてくしのことを多少なりとも気にかけてくださったのですね。感謝感激雨ナマステですよ。)
P「・・・はぁ、途中から追加で仕事が入ったんだよ。そんだけ」
加蓮「・・・もう、こんなに遅くなったのはじめてだし。・・・ね、プロデューサー。もしかして送ってくれたりする?」
P「もちろんだろ、こんな遅くに、だいじなアイドル様だぞ。・・・凛なんか見てみろ。もう俺がなにか言う前に、帰りの支度済ませてるんだからな。」
凛「・・・ふふ、私がなにか言う前に、いつも黙ってさりげなく送っていこうとするからでしょ?・・・信頼してるんだよ、プロデューサー。」
P「・・・そりゃどーも。」
加蓮「・・・ふーん。」
――――五月下旬の、午後10:11分ごろの雨、東京都、渋谷生花店前で
凛「それじゃ。ありがとね?加蓮。それと、プロデューサーも、ありがと。」
加蓮「じゃねー。」
P「おう、明日もよろしくー。」
P(送ってやった俺への感謝がついで、・・・って訳じゃなくて。ただ単純にアイツの優先順位が、常に加蓮をトップにしているだけなんだろう、ね)
加蓮「ん?どしたのプロデューサー、まだ車出さないの?」
P「いや、この際、お前とは少し話しておこうと思って、ね」
加蓮「えー?そんなん車運転しながらでも出来んじゃん」
P「いや、それだと集中出来ないし・・・お前の顔も見られない、し」
加蓮「・・・え?なになに?もしかしてアタシのこと襲う気?社用車でなんて・・・。きゃーへんたいー。ふぇちー。なんかのー。」
P「ふざけんな!・・・あのなあ、業界も良心だけで成り立ってる訳じゃないからな。そういうことを他のヤツに言ったら勘違いされかねないんだぞ?」
加蓮「ふふ。いいじゃん。男性を魅了してこそ、アイドルってモンでしょ?」
P(・・・嘘つけ。)
加蓮「まったく。さっきはなんか凛といい雰囲気になってたくせに、密室でアタシに手をだそうだなんて。とんだうわきものめー。」
P「ちげーっつってんだろーぅ!・・・あのさ、担当になって、まあ、ちょっと経ったが・・・」
P「・・・少しは信頼、してくれたか?俺のこと・・・」
加蓮「ん。ま、それなりに・・・。ホントに、ホントにホントに!アイドルにしてくれたわけだし・・・」
P「miumiuのバッグにはほど遠いだろうけどな。」
加蓮「うっさい!・・・だから、当然。感謝してるよ?・・・大丈夫。」
P「・・・俺ならお前を襲わないって。お前があんなこと言うのは、俺だから。ってくらいに、は?」
加蓮「・・・そんなこと、言う必要、も、ないんだよ。・・・ないじゃん。」
加蓮「・・・もしもなんにも、言わなくて大丈夫なら、それがいい。だからわざわざ、そんなこと聞かないでよ。」
P「喋って存在を主張して、アイドルだろうが」
加蓮「・・・ここに、アイドルが、いるのに?」
P「そ、か。お前は確かに・・・現実のアイドルだよ。そこにいる。」
加蓮「でしょ?」
P「凛はどうだ・・・?信頼してるか?」
加蓮「・・・。・・・うん」
P「そ。・・・俺もそれは知ってる。けど、アイツはお前とお仲間の、生意気ガールじゃないんだぞ?」
加蓮「知ってる。」
P「ああ、それも俺は知ってる。凛の努力は尊敬出来るか?」
加蓮「当たり前じゃん。アタシには・・・ぜったい無理だし。」
P「無理、か。・・・知ってるか?お前と凛には、絶対に相容れないところがひとつある。絶対に食い違って、おかしくなる。」
加蓮「なにそれ。アタシが努力とか・・・出来ない、ってこと?」
P「・・・それにお前たちが気付いたら、きっともっと信頼しあえるはずだ、よ。・・・俺も・・・お前も凛も、何も。言わなくても」
加蓮「・・・意味わかんない。そんなんわかんないじゃん。」
P「教えてないからな。」
加蓮「そーゆー意味じゃない。」
P「わかってる。・・・そういえば加蓮。もう一つ。アイドルとしての、実感は出来たか?」
加蓮「・・・実感?」
P「お前のソロ仕事、小さいアレだけど・・・。なかなかの評判だぞ。俺から見ても、完璧に愛嬌を、アイドルを振りまいてる。」
加蓮「・・・うん。前もプロデューサーに言ったけど、現実の、第一歩を、しっかりと踏み出せた感じ。」
P「そうか。そりゃあよかった、な。俺を・・・信頼してくれてて、それで凛もいるなら。・・・もう心配いらないな。出るぞ。」ブロロロロ...
P・加蓮「「・・・うそつき」」ボソッ
P・加蓮「「え?なんて?」」
P「ま、なんでもいーか。」
加蓮「・・・そ。なんでも・・・」
――――ヒルガエリ、紫陽花、東京CGプロ、渋谷
P(あの嘘つきのソロ活動は、もう潮時ってトコかな。けれど、ユニット、ね。)
P(・・・ダメだ、あの二人は。このまま一緒にいても、結局は傷つき合う・・・)
P(アメリカとロシアが暖かく寄りあって抱きしめてあっても、小さな岬がトゲになって、かならず血を流す。)
P(いったん遠く離れて、相手の思想を見つめ直して・・・。)
P(かるいいたみを抱きながらも、一緒にいればいい。)
P(ひるがえって。あの二人。凛と奈緒。)
P(荒涼なる南アメリカとアフリカだ。自然に寄り添い合って、お互いのとがった部分を、お互いのくぼんだ部分で補い合える。)
P(・・・ま。お互いに距離を一気に縮めなければ、そうはならないんだけどね。地球はそんな、いそいで回転してはいないし。)
P(でも。二人には「徒党」を組んでもらわなきゃいけない。加蓮が入り込めないくらいの。)
P(・・・劇薬に劇薬を重ねる、ってのも、健康に悪い話だな・・・)
凛「ってことで、ボックスステップの基礎は完了。奈緒ちゃん、も一度やってみて?」
奈緒「仕方ねえなぁ・・・」ステップステップ
トレ「おお、神谷。なかなか筋がいいじゃないか、見直したぞ。」
奈緒「へへ、たまにアニソンの振りコピとかしてたから・・・。って言わせんじゃねえよ!恥ずかしい!」
トレ「言わせたつもりはないのだが・・・。というよりもだ。渋谷、お前の新しい課題曲のほうは済んだのか?」
凛「はい。だいたい・・・大丈夫だと思います。」
奈緒「なあ、あたし、疲れたし。その、さ、参考にしたいから・・・見ててもいいか?」
凛「ふふ。さすが目指せトップアイドルの奈緒ちゃん。どんどん吸収してかわいくなるんだよ?」
奈緒「うっせえっつの!」
凛(ふふっ。プロデューサーの真似して、たまに奈緒ちゃんをおちょくってみてみるけど・・・。なんというか、こうすると、さらに扱いやすくなるんだな。さすがプロデューサー。)
凛「では、曲のほう、お願いします」
〜♪〜
凛「・・・終わり。どう、ですか?」
トレ「・・・うむ。まあはじめてにしては、さすがというか、」
奈緒「・・・あの」
トレ「・・・なんだ?」
奈緒「・・・やっぱ、いい。」
凛「どうしたの?気になるから、いいなよ。」
奈緒「・・・はぁ、しゃあねえな。」
奈緒「ド素人のあたしが言うべき事じゃないし、トレーナーさんも何も言わねえから、黙ってようかなって思ってたんだけどさ・・・」
奈緒「凛のダンスの振り付け、たしかにおおむね正しいし、リズムもだいたい合ってるんだけど。」
奈緒「・・・なんだか、どっちも、先走ってる気がするんだよな」
凛「・・・え?」
トレ「・・・」
奈緒「先走ってるというかなんというかさ、リズムが、振りが、曲がこっちに来い!って感じ?」
奈緒「曲に無理に合わせろ、って言ってんじゃなくて、曲を自分のモノにする。どころか、曲のほうがあたしに合わせろ!・・・みたいな」
奈緒「・・・そんな感じがした。素人の意見だから、無視してかまわない・・・」
トレ「・・・いや、アイドルのダンスを見るのは、ほとんどが素人だ。その視点で、続けたまえ。」
凛「・・・待って下さい。プロデューサーは、私のプロデューサーは、『指導方針として、私の表現したいところは、好きなようにやらせろ』と言ったんですよ?だから・・・」
奈緒「・・・Pは、曲の中に凛の良さを、凛の表現を浸透させろ。って意味で言ったんじゃねえのか?あの野郎。凛の個性で、曲の本来をねじ曲げろ、とは言ってない、はずだ。」
トレ「たしかに合点が行くな。・・・そういう事なら、私も指導方針を改めなければなるまい。」
凛「そんな・・・」
奈緒「・・・いいじゃねえかよ。」
凛「・・・なに?」
奈緒「・・・おめーは正しくて、いいところはちゃんと出てた。ただ、それがはみ出してただけなんだ。」
奈緒「Pの指導方針とやらで、凛のいいところはきっと伸びてる。初見でそう思えるくらいに、なんていうか、カリスマがある」
奈緒「・・・言ったろ?曲の中に浸透させろ。曲を自分のモノにしろ。って。・・・まだデビュー出来てない焦りはわかる。でもちょっと、力みすぎだよ。凛は。」
奈緒「一応、あたしは年上だからな・・・だから、しゃーねーときは、頼れよ。あたしを頼りなよ。・・・それと、Pも、一応。立場的に、な。」
凛「奈、緒・・・」
――――(ドア)――――
P(ふっふっふ。思ったより早かったじゃーないか。・・・「仕方なく」っていうのには、世話好き、っていうのも往々にして含まれてるんだよ。)
P(でもまだ足りぬ!足りぬのだ!)
バーンッ!!!!
トレ・凛・奈緒「「「!?」」」
P「よう!サウザンリーヴズ・ゴッドヴァレー!」
奈緒「なんだそれ!千葉の神谷、ってことじゃねえか!わざわざRPGのワザ名っぽい英語で言うな!」
P「あっはっは!相変わらず察しがいいなあ、ビューティークイーンんぬ!相変わらず、その船橋あたりの糞ダサい古着屋で買ったようなニルヴァーナのバンTも素敵だぞ!」
奈緒「誉めるかけなすかどっちかにしろ!いや誉めて欲しい訳じゃなくて!つーか別にTシャツのことはいいだろ!」
P「そういえば、はじめてスカウトした時もそのTだったな!俺とのかけがえのない思い出を大切にするういやつめ!」
奈緒「うるせえ!もう二度と着ねえよこんなもん!」
P「・・・そういえば、練習着ということは運動後の奈緒の奈緒分をたっぷり吸収しているということじゃあないかあ!さあ、奈緒のフローラル、フレグランス、フローレンス!俺を奈緒の古都・フィレンツェへと誘えーッ!」
奈緒「ざっけんんんなああああああああああ!!!!!」バキィッ!
P「ぐはあっ!」
奈緒「・・・凛!あたしは絶対この変態Pからお前を守ってやるからな!かけがえのない仲間だから、こいつの魔の手には触れさせないからな!だから・・・」
凛「・・・助けてくれって?うん。言われなくても助けるよ。・・・奈緒。・・・奈緒も、私のかけがえのない仲間だからね。・・・セクハラプロデューサー(ボソッ)」
P「あいるびーばっくう・・・」_-)b グッ!
トレ(やれやれ・・・Pくんの猿芝居には困ったものだな。さっきのやり取りを・・・聞いていない法はないというに。)
――――夕がたに、つゆの、ただなか、むしあつく、クーラー、効けり、事務所にてをり
加蓮「おはようございまーす。」
加蓮「・・・あれ?」
凛「でもさあ、奈緒。アイドルとプロデューサーでも、そこに真の愛が芽生えているのなら、関係ないじゃない?」
奈緒「そんなことじゃねえ!アイツに好かれたって、ぜ、全然嬉しくないって話だろ!あんなセクハラ野郎・・・お前だってそうだろ?」
凛「・・・っ。あのときはともかく、プロデューサーは心から奈緒のことをキレイだと思ってるし、キレイにしてくれてるよ?」
奈緒「そうじゃなくてよー!ああっ!」
凛(・・・なんであんな大げさな芝居をしたんだろう。プロデューサー。明らかに限度を超えてるの、わかってるだろうに)
凛(・・・でも、奈緒ともなんか対等な立場になれた気もするし、それもそれでいいことかな?)
加蓮「・・・仲の良いこと。」
P「よっ、おはよう。どうした加蓮。嫉妬か?」
加蓮「そんなんじゃないって・・・」
凛「あ、おはよう、加蓮」
奈緒「・・・おはよう、加蓮、ちゃん。」
加蓮「・・・っ」
P「どうした?」
加蓮「なんでもない。」
P「・・・あの二人、ずいぶん仲良くなったな。」
加蓮「当然でしょ、あの二人、ユニットなんだから。それに、凛だし。・・・アタシは、関係ないし。」
P「そか。お前の最近のソロ活動はどうだ?やってて楽しいか?」
加蓮「・・・。うん。それなりに、充実してるよ。」
P「そ、か。でもなあ、残念ながらお前のソロのアイドル活動、終わりなんだわ。」
加蓮「・・・え?」
加蓮「・・・アイドル、終わりなの?」
P「・・・そんな顔は、アイドルの顔じゃないでーすよ。」
P「・・・・・・はーい!俺のたんとー!みんなちゅうもーく!奈緒も!凛もだぞー!」
P「みんなホワイトボード前に集合!千川さんもですよー!」
ちひろ「はいはーい♪いまいきますよー、ごーごーごーぅ♪」
P「・・・。」
P「こほん。さて、けさ、新たにかわいいかわいい衣装が事務所に届きました。例によって、仮衣装だがな。」
奈緒「はあ!?なんだそれ!?またあたしをたぶらかす気だなぁ!」
P「・・・静かにしてくれ。それに新衣装はお前のじゃない。カワイイ衣装だが、お前のじゃないんだ、こ・ん・か・いは。」
奈緒「カワイイ衣装にき、き、興味なんてねえぞっ!」
P「はいはい・・・。今回届いたのは、北条加蓮さんの衣装、第二弾でございます。千川さん、ご準備を。」
ちひろ「じゃじゃーん♪」
P「・・・。」
奈緒「黒の・・・」
凛「ゴシック・・・かな?」
加蓮「・・・」
P「どうした、北条さん。喜びのお言葉は?」
加蓮「・・・どういうこと。」
P「つまりね・・・、今の凛と奈緒の暫定ユニットに加わって、お前が加入。そしてこれが、正式ユニットだ。」
加蓮「・・・今更この二人に混じれ、って?」
P「そう、じゃないな・・・。お前を入れて、完成したってことだ。これからはこの三人で活動してもらう。」
奈緒「しゃあねえ・・・これからよろしくな、加蓮ちゃん」アクシュッ
加蓮「・・・っ。これからよろしくね、奈緒。」ギュ
凛「私、ずっと加蓮と一緒になって、活動するのが夢だったから・・・すごく嬉しい。仲間として、よろしくね、加蓮。」ハグッ
加蓮「うん・・・よろしくね・・・凛・・・」ギュウ...
P「ま、例によってオリジナル曲はまだないし・・・活動予定もまだたってはいないんだが」
P「しばらくは三人で稽古をしててくれ・・・三人がユニットとして、ぴったりがっしり、息を、域を合わせるように、な。」
凛(加蓮・・・様子がおかしいな。)
凛(加蓮ちゃん、なんて・・・言われてるの、聞いたことない。)
凛(フランクな関係を望んでいる子だったはず・・・私にもため口を要求したし。ま、私ははじめから「加蓮」呼びだったけどね。)
凛(でも前・・・プロデューサーは加蓮をスカウトした時のことをよく話すけど・・・)
凛(いきなり「加蓮」って呼べ、って言ってたらしい。)
凛(加蓮ちゃん、ってすっごく子どもっぽい響きがするけど・・・大人になるのは、やめたのかな?そんな訳じゃないと思うけど・・・)
凛「ねえ、プロデューサー」
P「・・・なんだ?」
凛「えっと・・・、いいや。このユニット、名前ってないの?」
P「まあ、仮のユニット名としては・・・りんなおかれん?」
凛「うわダサ」
P「ダサ、なに?」
凛「・・・太宰、治?」
――――そして稽古の日々
凛「加蓮、テンポ遅れてる」
加蓮「・・・り、凛も。サビ前の音程、取れてないよ」
奈緒「加蓮ちゃん、テンポ下げるか?」
――
凛「加蓮、そこの部分はアクセント加えて、表現しないとダメだよ。」
加蓮「めんどくさいなー」
奈緒「まぁまぁ、さ?」
――
奈緒「加蓮ちゃん・・・?例えば、サビに入ったあとの全員集合するところで笑顔になったら、もっと素敵になると思うんだよね」
――
奈緒「あのさ、加蓮ちゃん・・・。そのさ、クロスさせる手の方向、逆だと思うぞ?」
――
凛「加蓮、そこは観客を意識して、足下じゃなくてもっと周囲全体を見渡すように・・・」
――加蓮。加蓮ちゃん。加蓮。加蓮。加蓮。加蓮ちゃん。
――
凛「加蓮、いい加減に体力もつけないと、私たちのこれからに、ついていけなくなるよ?」
加蓮「・・・はぁ。はぁ。へ?」
凛「だから。もっと本気を出して。逃げないで。体力つけろ、って言ってるの。」
加蓮「・・・。なにそれ?アタシが本気出してない、っていいたいワケ?」
凛「いつもそうじゃん。めんどくさいめんどくさいなんていって。逃げてるだけじゃん、そんなの」
加蓮「・・・逃げてなんかないし!毎日稽古にも来てやってるでしょ!?」
凛「来てやってる、ってどういうこと?来て当たり前、でしょ?ふざけないで」
加蓮「ふざけてるのはそっちでしょ!体力ないアタシが、毎回必死こいて、無理して・・・」
凛「・・・無理なんてしてないでしょ。手を抜いてるのなんて私、知ってるから。ずっと加蓮を見てるんだから。当然でしょ?」
奈緒「・・・お、おい・・・。」
凛「体力ないなんて、そんなの努力でどうにかなるでしょ?私だって体力には自信なかったけど、レッスンで自信つけて、今があるんだよ?」
加蓮「・・・アンタのことなんか、知らないし。」
凛「・・・そもそも、むかしから自分で体力ない体力ない言ってるけど、それって努力する気がない、ってことでしょ?」
加蓮「・・・は?」
凛「体力っていうのは、努力のための蓄え。それが自分からないなんて言っちゃうのは、自分の力がなくて、それで満足してます、っていってるのと同じでしょ?」
加蓮「全然いってる意味わかんないんだけど、頭大丈夫?」
凛「要するに。ちょっと顔がいいからってアイドルになれるなんて勘違いしたお子さまなんでしょ?加蓮ちゃんは。やる気ない子となんかは、私やりたくない」
加蓮「やる気・・・?」
凛「そうだよ。この曲。この稽古。このユニット。このアイドル事務所。・・・人生。全てに対するやる気。全然感じられない」
凛「せめて私無理してます、ってポーズだけでもとってくれたら、不愉快にならないんだけど?」
加蓮「ふざけんな・・・」
加蓮「ふざけんな!誰がこんなユニットにやる気出すっていうの!?」
加蓮「アタシはソロで活動してた。それなりに好評だった。でもプロデューサーに勝手に組まされて、アンタたちと一緒にさせられて!」
加蓮「来る日も来る日も練習で!なんにも目的なんかない、なんの意味もない努力で!それに全力で?なんで?なんでそんなことしなきゃいけないの?」
加蓮「アタシは満足してたんだよ?ソロのアイドルで、適当に愛嬌振りまいて、適当に歌って、・・・適当に輝いて、さ。」
加蓮「それなのにどうしてそれをいきなり奪われて!アンタはアタシとユニットずっと組みたかったなんてほざいて、それも大嘘で!」
加蓮「こんな曲、どうせ歌う機会なんてないんでしょ?アンタたち売れ残りなんだからさ!・・・アタシもセットにされちゃったけど!」
加蓮「手を抜く?やる気ない?当たり前でしょ?普通どう考えてもそうでしょ!?その熱血努力で頭湧いちゃったんじゃないの?」
加蓮「いつになるかわからない目的のために、アタシは努力なんて出来ない!何が自分の力よ!そんなもの・・・見せられなきゃ意味がないじゃない!」
加蓮「何が子どもよ・・・アンタのほうがずっと子どもでしょ!一人遊びして。勝手な夢抱いて。実現も出来ないくせに。そんな力もないくせに!」
加蓮「何が自分の、力よ・・・そんなオナニー見せられる、観客の気持ちにもなりなさいよ。バカ・・・」
加蓮「・・・もう、やだ。私、このユニット。この事務所。アイドル。やめる。じゃね、凛、奈緒。」
奈緒「・・・おいやめろ!ふざけんな!ぜっっってえこっから出ていかせねえぞ!」
奈緒「あんたはあたしのかけがいのない、大切な仲間なんだよ!やる気がどうだ?そんなの関係ねえよ!あんたがいなきゃ、あたしたちは、あたしは、あたしじゃ、なくなっちまう」
奈緒「あんたと一緒にあたしはアイドルやりたいんだよ!Pのため、凛のため、・・・いつかファンのため、そしてあんたのために、あたしはあんたと一緒にアイドルやりたいんだよ!」
奈緒「泣くなよ!アイドルの顔じゃなくなっちまうだろ!ハンカチ・・・ちょっと凛!つったってんじゃねえよ!」
奈緒「つーかなんだおめーは!ちょっとこいつが反発したからって、いちいちあげつらうようなことしやがって!」
奈緒「なんなんだよ!いろいろコイツの昔の発言掘り返してたみたいだけどさ・・・確かにあたしゃコイツの昔のことは知らないよ?凛ほどコイツと深い仲じゃない」
奈緒「でも大切な仲間なんだよ!それがなんだお前は!昔の発言掘り返してたら、そりゃ間違ってるところがあるに決まってんだろ!人間みんな間違えるんだよ!」
奈緒「あたしはお前らより長く生きてるからな!それくらいわかる!昔のあたしはいっぱい間違ってた!でも、それを直せる人間だから、自分で直せるあたしたちだから、今があるんだろ!」
奈緒「そうだろ!?いつもお前、同じようなこといってんじゃねえか!どうして今になって、お前は自分の力をおとしめるようなこといっちまうんだよ!」
奈緒「だから泣くなよ・・・あたしをちょっとは信頼してくれ・・・」
加蓮「うん・・・。あり。がとう。奈緒・・・。」
奈緒「でもよ・・・。逆ギレしなくたって、ちょっとは凛のいうことに、耳を傾けてもいいんじゃねえか?」
加蓮「・・・え・・・?」
奈緒「目的はないかもしれねーけど、あたしたちひとつになってさ、全力で今の課題に立ち向かってさ」
奈緒「全てを完璧にとはいわねーから、Pのヤツが必ず持ってきてくれるだろう仕事まで耐えてさ、自分を鍛えてさ・・・」
奈緒「そのために、今よりすこし無理したって、いいんじゃねえのか?」
奈緒「なあ、加蓮ちゃんよ。」
加蓮「・・・」
加蓮「・・・アンタも、凛の側に立つんだ。凛のいうことが、結局正しいって思ってるんだ!」
奈緒「いや、おい、そんなこと・・・」
加蓮「やめて!あたしにさわらないで!かかわらないで!他人のくせに!子ども扱いしないでよ!こっから消えて!」
P「はい、そこまで。」
奈緒「P・・・」
凛「・・・プロ、デュー。サー・・・」
加蓮「Pさん・・・」
P「さっきからうるさいんだよ。仕事の邪魔。他のアイドルもいるのに、きーきー大声立てないでくれるかな?」
奈緒「P、あのな・・・」
P「事情を聞きにきたんじゃないよ。苦情を言いに来たんだ。騒音のな。」
P「・・・だから、黙ってくれるとなによりな訳です。だから、今は何もいわなくていい。」
凛「・・・そ・・・。」
P「・・・でも、ま、ちょっと。この北条さんって女の子には用があるから、ちょっと借りていくな。」
加蓮「・・・どこ、いくの・・・?」
P「応接間だよ。安心しろ。ここと違って防音設備は付いてないから。」
P「ほかの二人は、ここでおとなしくしとけ。じゃないや、おとなしく、練習とか、しとけ。」
――――CGプロ、応接間
P「・・・」
加蓮「・・・P、さん・・・」
P「・・・さっきからなんだ、Pさん、って」
加蓮「だって、もう、アタシ、アイドル、としてじゃなく」
P「そ・・・。」
加蓮「そう・・・。」
P「とりあえず、そんなに涙流しちゃってさ。大声も上げて。のど、痛めてないか?」
P「・・・別に涙は流してていい。泣いてていい。・・・のど飴、持ってるから、ちょっと待てな・・・。」
加蓮「・・・あのさ、Pさん・・・」
P「なんだ、ノド痛いなら無理すんなって」
加蓮「アタシのこと、怒らないの・・・?」
P「・・・?」
P「なんで俺がお前を怒るって、思ったんだ?」
加蓮「・・・え?」
P「さっきから俺には、加蓮が俺に怒られる準備をしてるようにしか見えないんだけど、さ。どうしてだ?」
P「泣きながら、思い詰めたような、・・・覚悟を決めたような。どうしてだ?」
加蓮「だって。聞いてたんでしょ?アタシたちの話」
P「へ?」
加蓮「とぼけないでよ。レッスン室は防音設備つきなんだよ?ふだんから爆音でアタシたちがレッスンしてても全然平気で仕事してるくせに」
加蓮「たかが女のアタシたちが大声だしたところで、仕事に支障が出るほど聞こえるわけないでしょ。」
加蓮「・・・どうせ、ドアの前にでも立って、アタシたちの話聞いてたんでしょ。ふふ。性格悪いね?」
P「ああ、いい性格はしてるかもな。」
加蓮「アタシたちを組ませればどうせいつかはケンカになるってわかってたんだ。」
P「ああ。凛とお前と、まあ奈緒。それぞれ少し、おかしかったからな。でさ、それをふまえて・・・どうして怒られるなんて、思ったんだ?」
加蓮「・・・」
>>142訂正
加蓮「・・・え?」
P「さっきから俺には、加蓮が俺に怒られる準備をしてるようにしか見えないんだけど、さ。どうしてだ?」
P「泣きながら、思い詰めたような、・・・覚悟を決めたような。どうしてだ?」
加蓮「だって。聞いてたんでしょ?アタシたちの話」
P「へ?」
加蓮「とぼけないでよ。レッスン室は防音設備つきなんだよ?ふだんから爆音でアタシたちがレッスンしてても全然平気で仕事してるくせに」
加蓮「たかが女のアタシたちが大声だしたところで、仕事に支障が出るほど聞こえるわけないでしょ。」
加蓮「・・・きっと、アタシたちを組ませればどうせいつかはケンカになるってわかってたんだ。」
加蓮「・・・どうせ、ドアの前にでも立って、アタシたちの話聞いてたんでしょ。ふふ。性格悪いね?」
P「ああ、いい性格はしてるかもな。でさ、それをふまえて・・・どうして怒られるなんて、思ったんだ?」
加蓮「・・・」
P「ああ、聞いてたよ。お前らのお話。」
P「凛がたっぷりと持論をのべたあとさ、加蓮も自分のいいたいこと、たっぷりとのたまってたじゃん。」
P「アレが正しいなら、俺はお前を怒る必要なんてないよな?」
加蓮「どういうこと?・・・皮肉?」
P「皮肉?っていうと・・・俺がお前の叫んでた事は、ガキの逆ギレだ、って暗にいってる、みたいな?」
加蓮「・・・どうせそうでしょ。なんでそんなまわりくどい・・・」
P「してねーよ。まわりくどいことなんか。」
P「俺がお前が正しいと、思ってるんだよ。」
加蓮「・・・は?」
P「『・・・は?』って、なんだよ?やっぱり、つーか、断定するけど・・・。ガキの逆ギレだと思ってるのは、お前だよ!」
P「あの場で俺を含めて、お前だけが、北条加蓮が間違ってることを前提で、いたんだ。」
加蓮「どゆこと・・・?」
P「凛も奈緒も、黙ってお前の話を聞いていただろ?お前になにか正しいことをいわれるかもしれない、だから黙って聞いて、それを判断しようとしてたんだ」
加蓮「でも、凛も奈緒も、アタシが間違ってると思ったから、反論したんでしょ・・・?」
P「ああ、そうだな・・・。でもな、お前は主張を持つ人間として、もっと忘れてることがある。」
P「なんで凛と奈緒が、間違ってるとは思わないんだ?」
P「お前が正しくて、凛と奈緒が間違ってるって、どうして思わないんだ?」
加蓮「だって、それは、ケンカになっちゃったし、その・・・」
P「俺が一番の大人だ。俺が責任者だ。俺がお前らの判断は下す。・・・つまり」
P「加蓮が正しくて、凛が間違ってて、奈緒も間違ってて、俺も正しくて!じゃあ、どうして加蓮は、自分が間違ってる、って思ったんだ?」
P「・・・嘘をつくのもいい加減にしろ。」
P「いい加減認めろ!お前は正しかったんだよ!お前のいってることが正論だったんだよ!」
加蓮「え・・・?」
P「目的のない努力なんて意味ない。凛の努力は単なる努力のための努力。正しいよ。ぐうの音もでねえよ。」
P「俺もずっと思ってきたからな・・・アイツは自分の努力が向けられてる方向に、目を向けようとしないんだ。」
P「努力には、いろんな種類がある・・・まあこれが一つ。あとでみんなにも話すさ。」
P「それに、北条加蓮はやる気を出せない、全力を出せない、出すつもりもない。・・・無理もしない。だっけか?」
P「・・・あってるよ。今はそれで、正解なんだよ。」
加蓮「・・・どうして?」
P「お前なあ、いつまで隠すつもりなんだよ・・・お前が14まで、ずっと病気だったって事を!」
加蓮「・・・っ」
P「つーか、俺に隠せてると思ってたのか?んなわけねえだろ。はじめのはじめ、親御さんにお話を伺った時から聞いてるっつうんだ!」
P「『うちの加蓮は14までほとんど寝たきりだったんです、・・・無理はさせないで下さい』ってな!」
P「たった二年前までベッドに臥せってた子が、いきなり元気にアイドルなんて、出来るわけないだろ!」
P「・・・それでも。」
P「お前はアイドルをしようとしたろ!子どもの頃からの夢!寝たきりだったころからの憧れ!」
P「それも聞いたさ・・・そんな長年の夢を、立派に成長して叶えた子が、無理なんて、しねーわけねーだろ!」
P「必死に努力なんて、してるにきまってるだろ!全力でぶつかってるに決まってるだろ!」
P「ずっとずっと、毎日俺にブーたれつつ、めんどくさーいなんてほざきつつ、レッスンに来てたじゃねえか・・・毎日な!」
P「一度、お前の体調をはばかって休みを入れた日にも、事務所来たことがあったよな!?『最悪ー』とかいいながら、レッスンしてたよな!?」
P「なんでそんなことしたのか教えてやるよ!」
P「・・・お前が大の、とんでもない、稀代の、前代未聞の、大嘘つきだからだよ!」
P「だから自分を騙して!自分の考えてることと正反対の事を凛と奈緒に言った!けどな!お前は大嘘つきだから!その正反対が実は大正解なんだよ!」
P「・・・でもな。長年の夢っていうのはたいてい現実の正反対だ。」
P「お前の嘘も、本当も、長年の夢も、今の現実も、お前の!お前だけの現実にしろ!」
P「周囲が思う自分、自分が思う周囲、そんなのに合わせなくていい!そんなモノをわざわざ現実にする義務は、お前にはない!」
P「アイドルだからどうした?他人の価値判断なんか気にするな!お前のほうがよっぽどアイドルに詳しいんだよ!人の目を気にせず、自分が思うアイドルになれ!」
P「そしてそれを現実にしろ!・・・そのために、お前は現実の体力を、つけろ。・・・つまり、努力をするために、努力すればいいんだ。」
P「俺はプロデューサーだ。凛と奈緒は仲間たちだ。お前の夢は絶対に叶えてやる。お前の夢は現実にしてやる。・・・お前のこれからを、現実にしてやる。」
P「・・・そうすれば、誰が間違ってるとかじゃなくて、みんな正しい。お前はそれを信じればいい。現実が正しい、っていう当たり前のことを、信じればいいんだ。」
P「さあ、行ってこい。」
バターンッ
凛「加蓮ッ!」
奈緒「加蓮ッ!」
加蓮「みんなッ!」ダキツキッ!
凛「ごめんね、私が、間違ってたかも・・・」ぐすぐす
奈緒「ごめんな、あたしが、変なこというから・・・」ぐすぐす
加蓮「ゴメンね、凛、奈緒・・・。アタシが、私がね・・・」ぐすぐす
――――加蓮「・・・正しかった!」
とりあえず今日はこれで終わり
明日には完結させたいです
野球もJリーグも始まる前に終わらせようとしたのにもうどっちも終わっちゃったよ
あの船橋あたりの糞ダサい古着屋で買ったようなニルヴァーナのバンT着た差し替え前の初期奈緒の大きめの画像って、残ってませんかね?
――車内、帰り
凛「二倍輝く、ね」
P「今の凛なら、ぴったりな言葉、じゃないか?」
凛「・・・奈緒からは、『色が二倍輝くってなんだよ、ダブリューダブリュー』って言われたけど。」
P「ダブリュー、っつーか・・・まあ、奈緒みたいにインターネットやってるヤツのアレは、笑いというより、句読点みたいなもんだ。気にすんな。」
凛「そう、かな・・・?」
P「・・・アイツはずっと、お前のそばで、俺なんかより、お前のことを見守って来た人間だ。・・・お前の輝きだってずっと目にしてきてるはず。」
P「そんな奈緒が、お前のそれを信じないわけがない。むしろ、それが明らかな冗談であることによって・・・お前の自信が強まることはあっても、揺らぐことはない。」
凛「ふふ。そんなこと、私にだってわかってるって。・・・今日はホント、プロデューサー、運転中によく話すね。」
P「・・・まあ、聞きたいことが、あったからな。」
凛「・・・なに?」
P「仕事が楽しかったか、って質問はもう、したよな。なあ・・・今日の凛、お前、輝けたか?」
凛「うん。スミレの石の衣装は、・・・プロデューサーが言ったとおりに、私って感じがして、嬉しかった、輝けた。」
P「・・・そう」
凛「それに・・・誕生石、ってことを意識したら。これが私の原点なんだ・・・私は改めて、もう一度、輝き始めるんだって。そう思った。」
P「そか。・・・この辺、景色、夜景、キレイだな。ちょっと車、止めるか。」
凛「えっ!?なに!?」
P「そんなにスミレが気に入ったなら・・・NGの衣装にも、スミレの花の髪飾り、つけてみるか?花屋の娘さん。」
凛「ちょっ、なんで止まったの?く、口説く気、なの・・・?」
P「なあ、凛・・・さっき俺は、誓ったよな?お前を先頭に、一緒の道を歩むと。お前の背中を見守る・・・、つか、守ると。」
凛「・・・で?・・・」
P「お前がいくら『見える』人間だと言っても、さすがに頭上を見ることは出来ない。だからそんなとき俺は・・・道行くお前を引き留めて、捕まえて、アドバイス・・・言葉をかけてやらなくちゃならない。」
凛「うん・・・。」
P「俺が見るに、今の衣装にさらにスミレの髪飾りを・・・お前の色である、蒼いスミレの髪飾りを加えたら、凛はもっと魅力的になると思う。・・・どうだ?」
凛「うん、私もつけたい。けど、それだけのために・・・?」
P「始まり。原点。とか言ったな。それはとても恐ろしい、とんでもない覚悟が必要なことなんだ。」
P「始まり・・・つまり、最初、っていうのはまず、最低、最悪、そういう状況をあえて作ってから・・・はじめて出来ることだ。」
凛「えっと・・・」
P「持てるモノは何もない。なんの力も持ってない。原点、すべてゼロ。・・・だから、覚悟をして、何かを始める、しかない。だから、何かを始めるんだ。」
凛「なる、ほど・・・」
P「だから俺は今、凛を運ぶ車を止めなくちゃいけない。」
凛「え?」
P「ここの景色、走っててもキレイだったよな。でも止まってみてよく見たら、汚いパチンコ屋のネオンなんかも目に付く。」
凛「勢いのままに、走ってたら、始めていたら、きづかないところで、つまづいてしまう・・・ってこと、か。」
P「そう。持てる力はゼロ。だが俺たちには・・・お前には、目がある。状況をよく判断し、分析出来るその目がある。」
凛「うん、それは意識してる・・・けど、ね」
P「・・・順風満帆に進む車・・・凛に、急ブレーキをかけるのはとても危険だ。加熱したエンジンが痛むかも知れないし、慣性による揺り戻しもきっとある。」
P「・・・だから今、お前が覚悟を決めた今。お前を見守るものとして、俺はここでおだやかなブレーキをかけることができる。そうして、もう一度周囲を見渡して、覚悟をつけて、確信をつけて・・・」
P「・・・お前の色は、二倍輝く。」
凛「そ・・・ところで、止まらざるを得なかったり、そもそも止まっていたり、・・・いろんなところで、止まってる人も、いるんでしょう?」
P「そうだな。・・・でもそれも、結局は自分の力を信じられるか、次第なんだ。・・・もちろんサポートも必要だが、結局自分が周囲を見渡して、その状況をはい出してゆく。」
凛「ふーん。そ、なんだ。そう、なんだ・・・。」
凛「・・・ねえ、プロデューサー。私の色は蒼なんでしょ?ほかの・・・奈緒と加蓮の、その、自分の色って、なんだか、わかる?」
P「そうだな・・・まず加蓮は、オレンジかな。」
凛「・・・その心は?」
P「太陽光線のようなまっすぐさ、素直さ、純粋さ、輝き。柑橘系の、甘酸っぱさ、さわやかさ。暖色の、やわらかいあたたかみ。夕焼けのような、はかなさ、・・・可憐さ。朝焼けのような希望。」
凛「なるほど、ね。・・・奈緒は?」
P「そりゃ・・・赤だよ。純真な心、はじらった頬、いつくしみに溢れたハート、真っ赤に燃える熱い血潮、鋭い口調、いざというときみんなを引き留める赤信号、そして隠し切れぬみんなへの・・・いや、俺への愛!」
凛「・・・はい?」
P「・・・そして俺は、なんどアイツのせいで血を見たことか・・・」
凛「まったく、今みたいなこと、直接当人にいったら、どっちも恥ずかしいだろうし、怒るよ?」
P「ふっ・・・、問題ない。今の文言そのままに・・・車を止めて凛が夜景を見ている間、お前の目を盗んで、とっくにLINEで二人に送信しているからなッ!」
凛「ええっ!?」
『ふんぎゃあああああああああああああああああああああああああッ!!!!』:神谷 奈緒
凛「・・・マンガみたいなさけびを携帯の文字で打つ、ってどうなんだろうね・・・」
P「・・・それがインターネット、なのかな・・・?」
――
P(こうして凛を鼓舞してやれば、アイツは確実にやってくれるはず。)
P(頭もいい、人もよく見る。だから彼女はここまでの成功を収めたんだ・・・)
P(もう、彼女は心配ない。・・・間違いない。)
P(問題は・・・加蓮と奈緒だが。)
P(ソロでしばらくやってきた二人が、久しぶりにユニットで動く。それもひさしぶりの歌で。我ながら突然なもんだから・・・突貫工事でNGのクオリティに合わせなければいけない。)
P(だから、この二ヶ月は、しばらく二人の仕事の量も減ることになるんだが・・・)
P(・・・全く問題はない。すでに、ライブのあと、その後のための布石はとうに打ってある。だてにプロデューサーやってるわけじゃないからな。)
P(NGの初のSSAライブ。話題性は抜群。そしてそこにゲストとして現れる、りんなおかれん(仮)に、さらに客の注目は集まる。)
P(そして・・・彼らは驚愕する。完璧に息のあった、それでいて自分の色を光らせる三人に・・・。)
P(なぜなら三人は親友。奇跡のようなバランスで成り立った、素晴らしい仲間たち。・・・理想的なユニットだ。観客たちの心は、確実に奪える。)
P(そしてそれは確実に世間に話題を振りまいて、加蓮も奈緒も、そして凛もさらに売れてゆく。)
P(まさに前途洋々。荒れ狂う風はまるでなし。平穏な航海だ。なんの問題もない。・・・アイツらも稽古中。俺は、ひたすら待てばいいだけ。なんの問題もない・・・)
――
――
凛(プロデューサーは、やっぱりすごいな。よくわからない不安が、すっかり消えた。・・・地に足のつかない不安が、すっかり消えたよ。)
凛(・・・でも、そうやって地上に降りたら・・・私は私の重力で、押しつぶされそうになっている。)
凛(止まって、私の周囲を見つめること・・・加蓮と奈緒。)
凛(ずっと一緒にやってきた。一緒の夢を見て、一緒の夢を追いかけてきた。・・・そして私の夢を応援してくれて、最近は、ろくに会えもしない。)
凛(私は、勝手に二人の元から飛び立った。Never Say Neverのときはまだ二人が一緒にやってくれていた。けど、NGは違う。加蓮と奈緒には、なんの関係もない。)
凛(そしてなんの関係もなく、私、私たちはどこまでも売れていった。・・・SSAで、クリスマスの単独公演ができるくらいに。)
凛(そうして・・・彼女たちもそれぞれの活動をはじめて、私たちの距離は、物理的にはとても離れていった・・・。)
凛(でも、心理的には・・・もうわからないんだよ。最近再び集まるようになって、でも見れば見るほど、わからなくなる・・・)
凛(女ってとっても嫉妬深いんだよ。周りの話を聞いていればわかる。誰々が誰々を嫉妬しているとか、そんな話ばっかり、私の耳に入ってくる。)
凛(誰々が私に嫉妬しているなんて噂が耳にはいることもあった。でもそんなの気にしなかった。どうせ顔でしょ?・・・そんなの、私の力でやってる私には、関係ないもの。)
凛(二人は・・・私とのユニット、その練習のために、それぞれの活動をだいぶ減らす。・・・つまり、プロデューサーのいう、止まる、ことになる。)
凛(私は、ユニット活動が久しぶりの彼女たちに、あれこれいうことになるだろう。その時、"止まっている"彼女たちに、私の姿は、どう映るのだろう?)
凛(嫉妬、されるのかな・・・。そんなことないと思いたいけど、私、近くで見られてればすぐにわかるほど、いわれるほどの、自信家だから・・・。・・・悪くいえば、「うぬぼれ屋」。)
凛(やだ。そんなの怖い。信じてる、ともだちに、ねたまれる、きらわれる。嫉妬される・・・そんなのやだ。ぜったい。やだ。)
――
――――水のない月、地球、東京、あせ、涙、かわいた、スタジオ
――
奈緒「へえ、なるほど、さすがだな。NGでの経験が、すげー生きてんのな。」
凛(くっ・・・)
――
加蓮「凛?だめだよ、反省会なんだから、黙ってて、突っ立ってるだけじゃ。ちゃんと・・・同じ立場で、話し合っていかないと。」
凛(うっ・・・)
――
奈緒「おお!その部分、そう考えれば簡単に、シンプルに出来るようになるのか!さっすが凛、売れっ子はちげーなぁ!」
凛(ひっ・・・)
――
加蓮「――そんなんじゃダメだよ凛!それじゃ、わたしたちNGに負けちゃうよ!」
凛(きゃっ・・・)
P(おし、加蓮もその意気なら、まるで問題はないな・・・)
――
――
加蓮「今回はすごいな、凛のNG衣装にぴったり合わせるように、奈緒の衣装と・・・私の衣装も、作ってもらって。」
――――12月25日、さいたまスーパーアリーナ、出演者控え室、朝八時
加蓮「ふわぁあー・・・、夜公演だけだってのに、朝の八時入りとか、低血圧の私には辛すぎるよ・・・」
卯月「大丈夫だって、加蓮ちゃん!ふだん学校へ行く時と、同じことだと思えば平気でしょ?・・・というか、なんで制服着てきてるの。」
加蓮「朝が早すぎて思わず間違えた・・・。いつも普通でいられる卯月と違って、私はちょっと不真面目に出来てるんだよ・・・」
未央「えー?加蓮てぃん、そんなふうにはみえんっちゃけどなー。・・・てゆかむしろ、こういう大きなライブの時は、このくらいの入りが"普通"なんだよ?」
加蓮「そんなに売れたっていうか・・・経験ないからわかんないんだって・・・ねむーい」
凛(っ・・・)
B「凛ちゃん様ッ!」
凛「わっ!」
B「このような大舞台で凛ちゃん様の雄姿をお見受け出来るとは、なんとありがたき幸せ。それに関係者用チケットまでいただけるとは・・・このBめ、今すぐ三跪九叩頭の礼を行いたいと」
A「やめなさーいー・・・」
未央「・・・しぶりんどの、このものどもはなにものでござるか?」
凛「・・・前の学校の友達。でもB、こんな早くからくることもないでしょ?あと10時間くらいあるよ?」
B「ハハッ、凛ちゃん様ッ!まことにおそれながら、このBめを早朝の家から引きずり出し、わたくしを連れつつここまで張り切ってダッシュで来たのは、実はBたんなのでございます!ですからお許しを!私だけに!肉体的な愛というご慈悲で!」
A「やーめてよー・・・てゆうかー・・・、加蓮さんのふだんって・・・私と同じモノを・・・感じるんだねー・・・」
卯月「いやいや、加蓮ちゃんは低血圧なだけだから。学校でも朝はいつもこうだよー?」
加蓮「私は・・・呼べる友だち、ってのが・・・元々、あんまりいなかったからねー」
未央「私も何人か千葉から義勇兵を呼び集めて来たよっ」
奈緒「いいなぁ。あたしも千葉なのに。・・・売れっ子の特権、ってやつかーぁ?」
凛(ぐっ・・・)
凛(だめだ・・・もうさっきから、加蓮と奈緒のなんでもない発言が、全部皮肉に聞こえてくる・・・)
凛(いつも周りをよく見るくせは、Aや加蓮との仲を深めるのに役だったのに、今日は・・・)
凛(もうやだ・・・。だめかもしれない・・・。)
凛(・・・やめやめ。今日は本番。そんな迷いは・・・今のところは、捨てる。)
凛(私はプロ。私はアイドル。みんなが、私が、私の力を信じてる。)
凛「よし!気合い入れていくよ!」
未央「しぶりん、まだ本番9時間前だよ・・・」
B「ほへー」
卯月「わあっ♪Bちゃんって、とってもかわいいねっ♪」
A「まあ・・・凛ちゃんが関わらないと・・・普通のー、かわいい女の子だからねー・・・」
加蓮「さっきからずっといろんなイジリ方をしてるけど、すべて違ってすべてカワイイ反応。なんだこの子、愛玩動物のプロなのかな?凛がゲロ甘なのもわかるかも・・・」
奈緒(てゆうか卯月のヤツ、さっきからまったく同じ反応を繰り返してるだけにしか見えないんだけど、いったい何者なんだコイツ・・・)
未央P「おーい!!!!!みんな集合!!!!!」
卯月P「ゲネプロ行くわよー。みんな遊んでるみたいだけど、流れはちゃんと頭の中に入ってるのよ、ね?」
P「加蓮も奈緒も遅れるなよーう!・・・ま、リラックスしてるみたいで何よりだけどな。」
凛「わかった。すぐ行く。」
未央「はーい。じゃ、しばらく留守番お願いね、Bるん♪」
B「はあーい。」
A「ねえ・・・げねぷろ?、ってなにー・・・?」
卯月「うーん、最終通し稽古みたいなものかな。ステージの流れを、直接その舞台に立って確認する、感じかな?リハとはちょっと違う感じ。」
加蓮「うん。私の夢が叶う時だ・・・」
奈緒「よっしゃ!やるっきゃねえ!」
――ゲネプロ終わり
未央「おやおやー?しぶりーん。MCの段取り間違えるとは、らしからぬミスですなぁー?」
凛「うん・・・。そんなに叱られなかったけど、ちょっと気が抜けてたみたい。・・・でも絶対に繰り返さないよ。・・・それに、未央のほうがミス多かったでしょ。」
未央「はっはっは。それとこれとは訳が違うのだ。終わりよければすべてよし。終わりといえば・・・このミスも、このあとのことで気が気でなかったのかなー?」
凛「・・・どういうこと?」
未央「ふふふふふふ。というわけで気の抜けたしぶりんには罰ゲームとして、Pさんにかわいーくクリスマスプレゼントを渡してもらいまーす!」
凛「え、えっ?なにそれっ?ど、どういうこと?」
未央「ははーん。しぶりんも落ちたものよのお・・・。このちゃんみおちゃんが、バッグに忍ばせているプラダのネクタイのラッピング、見逃すと思うてか!?」
凛「・・・えっ。」
未央「まったく、油断出来ないういやつめぇー。」
凛「・・・そういう未央は、罰ゲームないの?」
未央「ふっふっふ。そこはだーいぜうぶ。もうわたくし、プロデューサーとのイブデートを済ませてきたからね!元気百倍、ちゃんみおまん!」
凛「・・・あのさ、未央。」
未央「どおしたい?」
凛「前から思ってたんだけど・・・未央ってさ、未央のプロデューサーのこと、その、・・・好きなの?」
未央「え?うん。好きだよ。当たり前じゃん。大好き。」
凛「・・・え?」
凛「・・・それは、どういう意味で?」
未央「・・・もちろん、異性として。私をここまで連れてってくれた、ちょっとお熱い王子様として。好き。大好き。ものすごく。」
凛「・・・」
未央「私はまだ15歳だし、こんなおちゃらけた子だし、子ども扱いされてるのかも知れない。けどこの気持ちは絶対に本当のこと。誰にも否定なんかさせない!」
未央「・・・実際昨日も、ちょっと子ども扱いされてた部分もあった。でも私は諦めない。あの人が振り向くまで。絶対にまっすぐな気持ちを伝え続ける。それが私のやり方。」
未央「・・・アイドルとしても、ね。もちろん、ファンのみんなには申し訳ないと思うけど、これが私という人格を作ってるものだから・・・。」
未央「私というアイドル。私という商品を生み出してる、私の生きる、元気を生み出してる。・・・すべての源を生み出してる。そんな、プロデューサーだから・・・。」
凛「そう、なんだ・・・。未央は、・・・本気なんだね。」
未央「うん。私はもうなんだって投げ出す覚悟は出来てるよ。これが叶ったら・・・、いや、でも、アイドルの源もプロデューサーだけど・・・。うん。全てを捨てて、私が思う私だけのアイドルになる。・・・今決めた。」
凛「・・・そ、う。」
未央「凛は、どうなの・・・?」
凛「・・・え?」
未央「凛はどうするの、どうしたいの?・・・本気で。」
凛「・・・・・・わからない」
――また別の場所
卯月「加蓮ちゃん、ばっちしだったね♪・・・ちょっと、見直しちゃった。」
加蓮「ふふ。ありがと、卯月。卯月も普通に完璧だったよ。」
卯月「完璧なら普通をつけないでよ!もう。・・・でもびっくりしちゃったな。転校当初はあんなクラスでぼーっとしてた加蓮ちゃんが、今やこのステージであんなにきらめいてるだなんて・・・」
卯月「・・・もしかして、いとしのプロデューサーさんの力?」
加蓮「・・・そんなこと、卯月とか、だれかに言ったっけ?」
卯月「もう。普通にクラスでお話ししてたら誰だってわかるよ?・・・普通は。」
加蓮「ふふ。・・・そ。」
卯月「でも・・・ちょっとがっかりしちゃったな。」
加蓮「・・・え?」
卯月「いつもの低血圧状態だったから仕方ないかも知れないけど・・・」
加蓮「・・・なんの話?」
卯月「・・・ねえ?私は本当に、凛ちゃんが大好きなんだよ。当人は信じてくれないけどね。でも、凛ちゃんは私より、加蓮ちゃんのことが好き。」
卯月「凛ちゃんが私のことを、本当に、真心から親友だと思ってくれてるのはわかってるんだよ?でも、加蓮ちゃんに対しては、守ってあげなくちゃというか・・・」
卯月「凛ちゃん自身が、加蓮ちゃんに依存してる、ところがある。二人と話してて、私は、そう思うんだよね・・・」
加蓮「・・・凛は強く、ある、子だからね。でも、そこまで・・・というか、それでなんでがっかり?」
卯月「・・・朝の凛ちゃん。すごく様子が変だったよ?ときどき表情をゆがめて、すごく苦しそうで・・・。」
卯月「前の学校の友達だって言う、あの子たちが来なかったら、私でも話しかけられなかったくらい。なのに加蓮ちゃんは、どうして気が付いてあげないんだろう、って。」
卯月「・・・もしかしてまだ凛ちゃんに後ろめたさとか、感じてるの・・・?」
加蓮「・・・どうだろう」
加蓮(後ろめたさ、か・・・)
――――12月25日、午前6時ごろ、東京都、北条家前
加蓮「あらためて・・・おはよ・・・Pさん・・・ほんと・・・あさはやいんだね・・・」
P「おうよ、加蓮。ていうか、お前、ほんっっっとうに朝弱いのな・・・知らなかったわ。・・・ま、制服はそのままでいいや。時間無いし・・・」
加蓮「低血圧だから・・・私・・・事務所とか・・・仕事であうのも・・・九時以降とか・・・夕方とかだし・・・」
P「ま、でもその割に・・・出発の準備は完璧に整ってるのな。」
加蓮「ずっと・・・夢の舞台だったから・・・そりゃ・・・昨夜のうちに・・・完璧にね・・・」
P「そか。じゃ早速、SSAに向かうとするぞ。」
加蓮「ん・・・Pさんの車に乗るの・・・私だけだっけ・・・?」
P「おい・・・寝ぼけてもう忘れたのか。NGでのいつも通り、卯月Pさんが凛と卯月ちゃん。今回は奈緒がいるから、未央Pさんが千葉組の未央ちゃんと奈緒。そしてあまりの俺があまりのお前を引率、というわけ。」
加蓮「そっか・・・事務所集合のころが・・・懐かしいな・・・」
P「おいおい、お前らももうある程度名の知れたアイドルなんだからさ・・・通勤ラッシュにそんなん放り込めるわけないだろが。」
加蓮「そ・・・じゃ・・・行こう・・・夢の・・・国へ・・・」
P「ディズニーランドかよ・・・じゃなくて寝てろ、別の夢に行ってこい・・・」
加蓮(ディズニーランド。そう・・・さしずめSSAはシンデレラ城で、Pさんは魔法使い兼王子様。・・・ヒーローすぎるね。・・・で、私が、シンデレラ、なのかな。)
加蓮(いまからカボチャの馬車に乗って、私は夢の舞踏会へと向かうの。・・・いつもと同じ馬車だけど。・・・いつもと同じ、Pさんとの特別、なのだけど。)
加蓮(・・・でもいつもとは、特別の意味が違うの。Pさんの魔法がついに、私を長く苦しい灰かぶりの生活から救ってくれる、そんな日が来て、私はそこで素敵な踊りをする。)
加蓮(・・・・・・でも今の私に、凛と一緒の舞踏会に出る資格があるのだろうか。・・・あの、本物の主人公と、一緒に・・・)
加蓮(・・・ん・・・とまった・・・着いたのかな。でも・・・まだ、七時、だけど・・・)
加蓮「あれ・・・どしたの・・・?Pさん・・・」
P「あ、わりーな加蓮。起こしちゃったか?いや、予想以上に道が空いてて、もうほとんど着いちゃってんだけど、会場まだ閉まってるし、どうしよっかなって・・・」
加蓮「ん・・・ここ・・・コンビニと・・・公園あるね。ちょっと・・・時間、つぶしてく?」
P「おい、公園なんて大丈夫なのか?」
加蓮「ふふ。朝の休日の公園なんて・・・鳩と老人以外いないって。・・・メガネもしてくから。制服にメガネの女子高生がいても・・・べつに怪しくないでしょ?」
P「はいはい・・・。じゃ、このセーターだけ上に着とけよ。リブ生地だから、あったかいぞ。」
加蓮「ふふ。私の身体、気遣ってくれて・・・ありがと。私、制服デート、夢だったから、嬉しいな。」
P「・・・」
加蓮「・・・怒らないの?」
P「・・・これまでも・・・そしてこれからも。加蓮に普通の青春って言うのは・・・ちょっと難しい、からな。」
加蓮(・・・違う。いや、それも本音だろうけど。前そう好きでもなかった頃に、ふざけて誘惑したら、勘違いされるからやめろ、とか言ってたのに)
加蓮(それとも・・・これが、『言わなくてもわかる関係』、ってヤツ・・・?)
加蓮(・・・じゃあ、凛と私は?)
P「・・・ほい。ホットミルクティー、買ってきたぞ。寒くねえか?」
加蓮「ふふ。ありがと、Pさん。・・・そういえば、制服デートって言っても否定しなかったけど、勘違いさせるようなこと、じゃないの?」
P「・・・ん?あ、あれ。い、いや、勘違いさせるようなことするな、っていうのは継続中だからな、その、手を出していいよ?みたいなことを言うのは、やめろよな。」
加蓮「も、もう…昔の事は恥ずかしいから、思い出さなくていいのっ」
P「そか。あれ・・・もうそんなに昔のことだったか・・・。半年、以上前か?」
加蓮「・・・そだね。・・・これまでお疲れ様。なんか今日まで、あっという間だったね?」
P「なんか・・・とくになにもしてやれなかった、気がする。」
加蓮「…Pさんだからできたことって、あると思うんだ。少なくとも、私はそう思うよ?・・・や、みんなも、だと思うけどね。」
P「そうかな?」
加蓮「そうだよ。Pさんが見ててくれるって思えば、安心できるんだ。ホントだよ。・・・私、Pさんとの仕事のことは全部覚えてるよ。」
P「・・・そりゃまた、どうして?」
加蓮「どうしてって。ふふ。・・・アイドルとして充実してるんだもん。いい、思い出だよ」
P「・・・そうか。どういたしまして。・・・アイドルとして、ね。」
加蓮「うん。アイドルとして。・・・ねえ、Pさん。これからも・・・変装していれば…Pさんの隣を歩いても…いいよね?」
P「・・・俺とお前はいつだって同じ道を歩いてる。これからも、お前が望むなら、お前の隣で、お前を支えてでも、加蓮と歩いてやる。変装しなくたって、それは一緒だ。」
加蓮「そうじゃないよ。・・・わかってるだろうけど。・・・でも、嬉しい。・・・もっと売れっ子だったらスキャンダルのひとつにでもなったかな…ふふっ」
P「俺の今の発言、が?」
加蓮「ふふっ、プロデューサーとアイドルだったら一緒にいたって大丈夫でしょ?私…Pさんにはずっと私のプロデューサーでいてもらいたい。だって…ね?ふふっ」
P「・・・久しぶりに、俺のことをプロデューサーって呼ぶんだな。」
加蓮「・・・Pさん…手、出して?ふふっ♪・・・なんかいい雰囲気かな。・・・あったかい。・・・Pさんと一緒にいるだけで、元気が、もらえる。」
P「・・・ならいい。加蓮の手、震えてるもんな。」
加蓮「・・・さいたまスーパーアリーナ、見えるね。きれいな・・・ステージだね・・・。あはは、参ったなぁ…なんか感動でぼーっとしてた…。こんな大きなステージに立てるんだ………すごいなぁ…。」
加蓮「Pさん・・・もう少し・・・一緒にいて・・・。ふふっ…今だけはPさんを独り占めだね」
P「・・・つーか、お前、あそこで立派にライブ出来る自信、あんのか?」
加蓮「もちろん。ホント、全力でライブできるって幸せなことだよ。」
加蓮「ここまで育ててもらったお礼…ステージの上で返すから!素敵なステージに負けないくらい、私も輝いてやるんだから!」
加蓮「いつでも全力だよ。今までそうやって頑張ってきたんだから…!」
加蓮「私…まだまだ上を目指すよ。こんな所で止まらないんだから!」
P「・・・嘘つけ。・・・また・・・」
加蓮「・・・え?」
P「いや、言葉自体のほとんどは嘘じゃない。むしろ、心の奥底が嘘をついてる。から、前と一緒だ。いや、お前自身も気付いているかも知れないけどな・・・」
加蓮「・・・」
P「いくらなんでも、お前は今、アイドルであること。ひとりのアイドルであることを強調しすぎだ。なにがスキャンダルだよ。なにが独り占めだよ。」
P「お前のとっての俺はたったひとりのプロデューサーだし。俺のとってのお前は今、制服を着た夢見る女子高生にすぎねえよ。」
P「そんなこと、言うまでもないんだし・・・。しかも、ちゃんと言っただろ。ずっとお前と一緒に歩んでいく、ってな。それなのにずっと、俺がお前のプロデューサーであることを強調しやがって。」
加蓮「そう、だけど・・・それが?」
加蓮(どっちなんだろ・・・?アイドル以前にお前も女の子だ。お前と付き合うのもかまわない。みたいな流れにも見えるし、お前はアイドルで俺はプロデューサーだ。付き合えるわけがない、みたいな流れにも見えるし・・・)
加蓮(どっちにしても急すぎる・・・全然そんな心の準備してないし、そもそも好きだってまだ言えてもいないのに・・・)
P「でも、このときなあ、お前が気付いてない。いや、意図的に無視してる人物がいるんだよ。」
P「俺がプロデューサーで、お前がアイドルで。俺がお前を連れて行って。・・・お前はそれを強調して。・・・いい雰囲気で、いい話をして・・・。」
P「だが・・・お前の話のどこに・・・渋谷凛が、いたんだ?」
加蓮「・・・!?」
P「神谷奈緒はいたよ。私は少なくとも俺だから出来たことがあると思う、っていったとき、お前はあわててフォローしたよな。・・・知ってるっての、奈緒が俺にも感謝してくれていることくらい。」
P「・・・仲間としての奈緒は、常にお前の脳裏にあったんだろうよ。・・・あいつの素直じゃなさが病気なのは俺だって知ってるけど。まあフォローはするわな。」
P「でも凛は・・・口癖のように俺への信頼と感謝を口にする。なにかそれが、ドックと巨大なタンカーを繋留しているものであるように。」
P「お前がそれを知らないわけもないだろう。一緒の道を歩んでるはずなのに。一緒にスタートしたはずなのに。・・・長い時間、ずっと一緒にいたくせに。」
P「俺も・・・仕事がなかなか一緒にならない期間があったって、凛とは同じ道を歩んでるつもりでいたんだけどな。」
P「でもお前は、自分の"旅の仲間"から・・・渋谷凛を除外したんだ。俺とお前と奈緒。これで一緒なんだと。・・・無意識に、凛は、卯月Pと、NGと一緒に道を歩んでいるんだと。」
P「でもどこか・・・お前はこのSSAに・・・俺以外のだれかに・・・『連れてってもらった』、『感謝している』ようなニュアンスを出してはいたんだ。」
P「むろん・・・それは凛だ。俺が知る限り・・・お前と凛はほかに並ぶモノのないほどの親友だ。どうやったって、心から捨てられる訳がない。」
P「そんなヤツが、全力でライブなんて出来るのか?もっと上を目指すなんて、出来るのか?」
P「だからそれは・・・大切なモノを直視出来なくなった自分がイヤになって、さらにその大切なモノに蓋をする。・・・そういう嘘だ。」
P「何があったんだ・・・言えよ。おこぼれをあずかった形になって、かけがえのない親友に嫉妬した自分がイヤになったからか?」
P「それとも・・・凛をなにか、傷つけてしまったのか?」
加蓮「・・・たぶん、両方。」
加蓮「私、やっぱり少しうしろめたかった。自分の長かった夢だし、自分の力で大きなステージには上がりたかった。」
加蓮「でも凛は、大切で親友ですごくって、かけがえなくって、真心で接してくれて、Pさんと一緒に私をここまで引きあげてくれた・・・」
加蓮「だから私、わけわかんなくなって・・・もちろん親友という意識のほうが勝ってたし。奈緒は最初から凛を見守る子だったから、嫉妬なんて一つもしないで、対等な仲間として協力してたし・・・」
加蓮「けどね。凛。私たちが『さすが、すごいね』とか、『仲間として』とかのことばを、稽古中に使った時、すごく苦しそうな顔をするの。」
加蓮「私は、気付いてた。でも、奈緒にもPさんにも言わなかった・・・」
加蓮「なんで、って。そこは私たちの純粋な誉め言葉なのに、どういう意味で受け取ってるの?・・・同じ仲間だと思ってないの?って」
加蓮「どっちかというと・・・私の・・・NGのみんなに対する・・・卯月や未央ちゃんに対する・・・嫉妬だったんだと思う。」
加蓮「それで、おかしくなって・・・」
加蓮「Pさん、私たちの衣装を、凛のNGのヤツとお揃いにしてくれたんだよね?」
加蓮「だから、あてつけのようなことを言ったの。仲間じゃないって、暗に言ってるかのような・・・」
加蓮「凛のNG衣装にぴったり"合わせる"ように、奈緒の衣装と・・・私の衣装も、作ってもらって。なんて。」
加蓮「まるで外の人たち・・・NGという外のひとたち、仲間じゃない人たちの、私たちが真似をしているような言い方をね。」
加蓮「でも、そのあと、凛の顔は見てない、見れなかった、友だちとして、親友として、親友の心をこわした女として、すぐに・・・」
P「バカじゃねーの。」
加蓮「P、さん・・・?」
P「そんな言葉で、仲間はずれにされたなんて思うヤツはいねーよ。」
P「加蓮、やっぱお前優しすぎるよ。」
P「つまり、"合わせて""作ってもらった"んだろ?"合わせて"、だけじゃない。普通はそう受け取る。」
P「"合わせる"じゃ上から目線だ。"合わせてもらう"じゃ卑屈な目線だ。対等な仲間じゃねえ。」
P「でも、"合わせて作ってもらう"っていうのは、・・・普通の、対等な仲間同士の、協力作業、貸し借りにすぎないんじゃないのか?」
P「・・・凛は頭がいいから、きっとそうやって受け取ったに違いない。お前が余計な言葉を付け加えたせいで。」
加蓮「そう、かな。」
P「そうだよ。お前と凛は、どうあっても仲間だ。先天的に仲間だ。慢性的に仲間だ。きっと致死性の仲間だ。・・・その言葉も、お前が無意識に加えた凛との絆をつなぎとめる優しさだよ。」
加蓮「そか。よかった。Pさんに言って」
P「なんで?最初にバカじゃねーの?とかいったぞ?俺。」
加蓮「ふふ。その…Pさんなら…きっと大事な言葉をくれるかなって。・・・まるで魔法みたい。」
P「しがない企業戦士だよ、俺は。文学部こそ出たけどな。・・・ま、凛にとってお前は仲間、お前にとって凛は仲間。わかったか?」
加蓮「うん。ひとりじゃないよね…私にはPさんやみんながいるんだから…」
P「そうだ。そして立派な、もうわざわざ言葉にして確認する必要はないほどの、アイドルなんだよ、お前は。」
加蓮「うん。わかってる。今日ここで話せて、実感出来た。」
加蓮「凛にどうあやまろっかな・・・ほんとに」
P「謝る必要なんかねーだろ。お前のことは最初から仲間だと思ってるんだから・・・逆に困惑されて、罪悪感持たれるぞ。」
P「ま。きっとその苦しそうな表情って言うのも、自分が仲間になれてるのか不安だったからじゃないか・・・?」
P「だから、いつも通りに接してやれ。」
加蓮「うん。そうするね。」
P「そして、さっきの『嘘』で宣言した言葉。すごいライブにするとか、もっと上を目指すとか・・・今度は信じていいんだよな」
加蓮「大丈夫、あなたが育てたアイドルだよ」
P「・・・そか。お前はとんでもない、ヒロインだよ。・・・意外と、まだ時間あったのな。」
加蓮(ふふ。やっぱりすごいな。私の不安全部短時間でぬぐい去ってくれちゃった。)
加蓮(しかもデートだって認めてくれたし、女の子としてみてるって言ってくれたし、ずっと一緒にいるって言ってくれたし。)
加蓮(・・・全部ぜんぜん決定打じゃないんだけどね、ふふっ。・・・やっぱり、相変わらず、大好きだよ。Pさん。)
――SSAにもどって、午後三時頃
加蓮(ってことがあっても、結局今日も凛と話せてないんだよねー・・・)
加蓮(・・・だって私のあの発言からろくに話せてもいなかったんだし。私が避けてたから・・・)
加蓮(だから凛も話しかけにくいだろうし、私も私で話しかけにくい・・・)
加蓮(しかもAちゃんとかBちゃんが来て、凛もそれに構いっぱなしだし・・・久しぶりだから仕方ないけど)
加蓮(・・・そろそろリハ始まっちゃう。・・・どうしよ。)
凛「ねえ、加蓮。」
加蓮「!?なに、凛?」
凛「私たちって、仲間だよね。・・・対等な。」
加蓮「え?当たり前じゃん。そんなの・・・ずっと、そうだよ。」
凛「そう。それが確認出来れば、よかったかな。」
加蓮「そ。」
加蓮(アレ、なんかあっさり解決しちゃったけど・・・)
加蓮(なんかおかしくないかな・・・?まあいいや。)
――リハ中、午後五時頃
P「うんうん。」
P(NGのパフォーマンスはさすがの一言だな。)
P(経験も積んでるし、はっきりと個性が出ているなかにも、やさしい調和がある)
P(まあ、きっと卯月Pさんの鬼の指導と・・・)
P(あとまあ、青木さんのお姉さんだとか言うひとの、スペシャルトレーニングとやらを積んでるから、なのかな?よく知らないが・・・)
P(ま、問題はりんなおかれん(仮)のほうなのだが・・・)
P(素晴らしいじゃないか!全然負けてない!やっぱり、和解を凛と加蓮に任せたのは正解だったようだな・・・)
P(さっきのNGとは逆に、新鮮さの中に荘厳な調和があって、その僅かなうねりから間隙光のように鋭い個性の色が光っている。)
P(ただ、凛がすこし調和を意識しすぎていて、それがグループ全体に浸透していて、すこし光が鈍っているかな・・・?)
P(まあいい、俺の理想と多少違えども素晴らしいことには変わりない。・・・観客の度肝を抜くステージになるだろう、よ。)
――本番、午後七時過ぎ
カガーヤクセカーイノマホー、ワターシヲスキーニナーレ
奈緒「ああ、本番はじまっちまった!」
加蓮「・・・こういうのって普通、私たちが前座を務めない?なんで私たちがトリなわけ?」
奈緒「・・・Pさんが強引にねじ込んだからだろ。」
P「悪かったな・・・」
加蓮「いーのいーの。むしろ楽しめるって。凛と奈緒と、仲間と一緒ならね。・・・対等なね!」
奈緒「そーだな。・・・ああ、でも、凛を守ってやる気持ちで行けよ。」
加蓮「え、・・・その、凛の胸を借りるとかじゃなくて?」
奈緒「ああ、ここにいる、みんなで凛を守るんだよ。」
加蓮・P「「・・・?」」
奈緒「・・・まぁいい、凛の雄姿をこっから見よう、な。」
――NG終了、本番
未央「ふー!ちゃんみお上等兵、やりましたーっ!」
卯月「疲れたねー。」
未央「・・・うん、普通。」
卯月「そこは普通でいいでしょ!?」
未央「しかし、しぶりんはすごいよー。私たちであんだけ激しいパフォーマンスをしたのに、あっちのユニットでも全然パフォーマンスが落ちない・・・さすがプロ意識のかたまり。」
未央(そして夜のプロ意識、パフォーマンスにも期待してまっせ。げっへっへ。)
卯月「うん♪凛ちゃんはクールだからね♪」
未央「・・・しかしだしまむーさんよ。そうやってMCの時からなにかにつけて『クールな凛ちゃん』とか『クールだから凛ちゃん』とか連発するの、やめてあげることはできませんかね?」
卯月「えへへ、だってリアクションが楽しいんだもん♪」
未央「・・・なんでしぶりんに対してだけは性格変わるのかねー」
卯月「えへへ♪」ダブルピース
卯月(しかし、さすがだな、凛ちゃんたちのプロデューサーさん。)
卯月(私も奈緒ちゃんもサイリウムは赤、未央ちゃんと加蓮ちゃんもサイリウムはオレンジ、凛ちゃんは青、いや、蒼をそのまま使えばいいわけだし。みんなそのままリウムを振って応援出来る。)
卯月(しかも私たちに合わせて色をあてたって訳じゃなくって、奈緒ちゃんのイメージはやっぱり赤だし、加蓮ちゃんはどうやってもオレンジ。)
卯月(・・・きっとそうやって、あの子たちを個別にプロデュースする中でそうイメージを誘導したんだろうな、私たちが結成されたあとになって、こうなるように。)
卯月(・・・さすが、あの加蓮ちゃんと凛ちゃんを同時に惚れさせたプロデューサー。さすがにそこは、私でもおちょくれないや。えへへ♪)
P(みんなのパフォーマンスはリハの時と変わらない、それは素晴らしい。さすが仲間だ。プロだ。でも・・・どういうことなんだろう?)
加蓮(凛を守るって、どういうことなんだろう・・・様子はさっきと変わらないし、むしろいつもよりも強そうにすら見えるけど・・・?)
凛(出た。私のいちばんやりたくない曲、ほかのカバー曲ならともかく、これは私の曲・・・『Never Say Never』)
凛(もちろんプロだし、好きな歌だし、しっかりとやるのだけど・・・。この曲に限っては、ほかの子たちはバッグダンサーでしかない。)
凛(同じ仲間なのに、同等の仲間なのに、どうしてあなたひとりが歌っているの?・・・そんな目線を、背中に感じてしまう気がしてしまう。)
凛(同格の仲間、大切な仲間、親友、友だち、そういうひとからの嫉妬が・・・いちばんイヤだ。)
凛(・・・加蓮はちょっと話せない期間があったけど、さっき勇気を出して話してみたら、たまたまだったみたい。)
凛(・・・みたい、というだけで確証はない。むしろあの子は、アイドルがずっと夢だったんだから、そういう嫉妬があってしかるべき!)
凛(・・・だったら無視されてるほうがよかった。親友なのに。他人として、嫉妬されてるほうがよかった。そんなのやだ。加蓮は親友、一生のかけがえのない親友なのに、他人ならよかった・・・)
凛(もう、自分がイヤだ。)
奈緒「・・・」
――本番終了、楽屋
P「お疲れ様、凛。Never Say Never、いつになく気持ちが入ってて、すごくよかったぞ?」
凛「ありがと。・・・タオルも、スタドリも、ありがとね。」
加蓮「ふぇぇぇえぇん、うづきぃぃ、ゆめが、ゆめがほんとうになったよぉぉお」
卯月「よしよし♪加蓮ちゃんはよくがんばったよ♪」
未央「さすがしまむー、なぐさめ方まで普通だ。」
奈緒「・・・お前らは少し、普通に対して過敏になり過ぎなんじゃないか?」
B「うわーん、りんちゃーん、かっこよかったよーお!」バーン!
凛「・・・ちょっと、来るの早すぎない?」ナデナデ
A「あははー・・・」
C(アイドル・・・すこし興味深いな。しかし私がやるのは学業との両立的に不可能、非論理的だ。だから姉に勧めてみるか。姉は・・・本当に諜報活動が趣味な・・・本当のバカだし。)
――――SSA、関係者口、ノット、ホワイト、クリスマス
凛(『罰として、かわいくクリスマスプレゼントを渡せ』か・・・)
凛(舞台メイク落としてすっぴんメガネだし、髪痛めないようにアップにしてるし、汗かいたから上下スウェットだし・・・)
凛(・・・容姿的にかわいく渡すのは無理だね。・・・しょうがないじゃん、朝出る時はそんな予定じゃなかったし・・・。)
凛(帰り際には、『愛情注入も忘れずにね♪』・・・だってさ。)
凛(まあ、一応、ぎゅっ、としといたけど・・・)
凛(まあ、それでも、真心が伝われば、きっと大丈夫なはず。)
凛(未央みたいに、素直に、純粋に、心からの単純な言葉で・・・)
凛(『プロデューサー、好きです』って・・・)
凛(いつ、「残りの処理」は終わるんだろう・・・ホントにどきどきする。本番の時よりずっとすごい)
加蓮「お疲れ様でしたー♪・・・って、凛、どうしたの?」
加蓮「私はちょっと外の空気を吸おうと思ったんだけど・・・。てかすっごい格好だね・・・ファンには会わないように気をつけな?」
凛「・・・今日の最初っから言おうと思ってたけどさ、どうして今日制服なの?」
加蓮「・・・ご存じの通り、私朝弱いじゃん。Pさんにたたき起こされた時、なんか自動的に着ちゃったんだよね。」
凛「あはは・・・そういえば、加蓮だけ、プロデューサーと二人で来たんだよね。」
加蓮「うん。ふふ。でもよかったよ、夢の制服デートが出来て。一生の思い出。」
凛(・・・え?)
加蓮「途中公園で話し合ってさ。俺たちは仲間だ。ずっと横についてきてやる。なんて言われてさ、やっぱ私たちみんな・・・」
加蓮「・・・って、あれ?」
加蓮「凛が、消えた・・・?」
――――聖夜、ダークナイト、さいたま新都心、駅前、ごった返し、通称・けやきひろば
凛「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」
凛(・・・アレは絶対当てつけだ。)
凛(未央にバレてたプレゼントが、親友の加蓮にバレない訳がない!)
凛(しかもあのとき、たしかに私は包み紙を持ってた。見えてない、なんてことはないはず!)
凛(そして何より・・・親友の加蓮が、私の恋心を知らないはずがない!)
凛(別に相談したこととかはなかったけど、私たちはもう、以心伝心のはず・・・)
凛(なのに制服デートとか・・・確実にアレは、私がプロデューサーに出会った、スカウトされた時のことの当てつけ。)
凛(『ずっと横についてきてやる』なんて・・・絶対プロデューサーが『背中をずっと見守ってやる』のことじゃん・・・)
凛(もうやだ、なんで親友に、嫉妬されなきゃいけないの。私は純粋に、がんばってるだけなのに・・・)
凛(・・・スウェットにくしゃくしゃの千円札がはいってる、さて、どうするかな・・・)
――――SSA、暗転、控え室、残務、ごった返し、アイドルたち、プロデューサーたち
加蓮「Pさあああああああん」バーン!
卯月「どうしたの加蓮ちゃん、またそんな泣きはらして・・・」
加蓮「凛が、凛が、凛がああああああ」うぇーん
未央P「!渋谷さんになにかあったのか!?」
卯月P「たしかに私も先ほどから凛の姿を探しているんだが、見あたらなくてな・・・卯月ちゃんと一緒に送ってあげないといけないのに」
P「俺はさっき、『残務処理が終わったら、関係者口で待っててね』って言われてたんだが・・・」
未央(!?)
未央「加蓮てぃん、しぶりんってそのとき、なにかラッピングされたものをもってなかった?」
加蓮「ううん・・・わかんない・・・」ぐすっ
奈緒「なんだその質問・・・そんなことより重要なことを聞くぞ。つまり凛は関係者口にいたのか?」
加蓮「うん」ぐすっ
奈緒「・・・で、どんな格好をしてた?」
加蓮「上下スウェットで、すっぴんにメガネして、髪の毛アップにしてた・・・」ぐすっ
奈緒「・・・アイドルじゃねぇな。」
未央P「それは・・・まずいな!非常にマズいぞ!!!」
未央「どうしたの?」
未央P「さっき聞いた渋谷さんの格好・・・暴れたいアイドルの女性ファンが、非常によくする格好のパターンの一つだ!」
P(暴れたいって・・・まあモッシュとかは起きるものだけどさ)
未央P「そして神谷さんが言ったとおり、その格好はアイドルからかけ離れていて、とても渋谷さんだとまわりに知られるとは思えない!!」
未央P「そして・・・今はまさにお客様がお帰りになる時間。不幸なことにSSAは駅から非常に近いから・・・人波にあっさりとまぎれてしまう!!!!」
卯月P「つまり、今から追いかけたところで捕まえられる、もしくは周囲に保護してもらえる確率は、ほぼゼロに等しいというわけね・・・」
卯月「まず、おうちの方と警察に連絡しましょう!」
加蓮「うづき・・・ふつう・・・だからこそ・・・適切な・・・対応だね・・・」ぐすっ
卯月P「よしよし」
卯月「えへへ♪」
加蓮「なんだ・・・この・・・関係性・・・」ぐすっ
P「・・・。」
奈緒「おい、ヒーロー。」
奈緒「・・・。Pさん、そんなの知るか、手がかりなんかなくても、俺は凛を追っかけてやる。どこまでも。」
奈緒「どうせそんな風に思ってるんだろ?」
P「・・・手がかりが、あるのか?」
奈緒「ちょっとまってろ。おーい、ちょっと、未央、ちゃん。」
未央「どしたかみやーん?」
奈緒「かみやんって・・・まぁいい。さっきの包み紙って、もしかしてPRADAのネクタイ、のことか?」ヒソヒソ
未央「そうだよ?・・・Pさんに話すのは、そりゃまずいっしょ」ヒソヒソ
奈緒「そうだな・・・。すまん。ありがとな。」ヒソヒソ
未央「いえいえ」ヒソヒソ
奈緒「待たせたか?」
P「・・・別に。」
奈緒「そうか。じゃあ言うけどな、手がかりは、ない。さっきのヒソヒソ話も関係ない。手がかりは全くない。」
奈緒「あったらあたしも、アタシだってすぎに探しに行くからな。」
P「そうか。じゃあ俺は行くぞ。」
奈緒「最後まで聞けっつぅの!まぁ、手がかりはないんだが・・・大事な話は、ある。」
――――東京、東京、どこだろう
凛「ハァ、ハァ、ハァ」
凛(もうすぐ、夜が明ける)
凛(クリスマスケーキと一緒で、26日を歩む恋人たちも、売れ残り、とは言えないけど・・・)
凛(なんか、敗残兵のような、悲しそうな顔を、してるんだよね)
凛(どう、して、だろう。)
凛(私も、・・・一瞬の運命論が、うまく巡っていたら、きっと今、この瞬間。その理由を知っていたかも知れないし。知る必要もなかったかも知れない。)
凛(私は、ずるいな・・・)
凛(携帯の電源を切って、それどころか、そのあと、家も、卯月も、未央も、卯月Pさんも、未央Pさんも、ちひろさんも、)
凛(奈緒も、・・・加蓮も。・・・・・・プロデューサーも、着拒して。)
凛(それなのに、私は、プロデューサーに自分から電話をかけて。)
凛(そしたら、『電波の届かないところにいるか、電源が入っていません』・・・って。)
凛(・・・さむい)
凛(・・・ほんとに、さむいな。)
凛(・・・あ、ほんとにゆきが、ふってきた。)
凛(廃兵のように、アスファルトに力なくたおれこんでは、きえてゆく)
凛(歩行者信号たちはそれを、ひとつ、ひとつ、ひとつと数えてゆくのだけど)
凛(あまりにもはやく消えてしまうものだから、いつまでもふった雪の数は、ひとつのまま)
凛(だからそんなことをしているうちに、歩行者信号は、せわしない点滅をしてしまう)
凛(なんの例えをしているんだろうな、私は、私を、プロデューサーを・・・26日の雪に)
凛(そういえば、『汚れちまった悲しみに今日も小雪の降りかかる』なんて詩が、教科書にあったな)
凛(私はよごれてはいない・・・。ただ単に、まったくきれいになっていないだけ。・・・ずるいね。)
凛(ん?着信)
着信: 公衆電話
凛(もしかして、携帯の電源が切れたプロデューサーが、公衆電話からかけてきたのかも知れない!)
凛「もしもし!」
『よっ。あたしはアイドルのくせに公衆電話からの着信に出るなんて、アイドル失格じゃねぇかと思うぞ?』
凛「・・・奈緒?」
奈緒『ったく、公衆電話からの着信なら出るって読みは当たりだな。』
凛「・・・なんか用?」
奈緒『おっと!待ち人からじゃなかったからって切るんじゃねぇぞ!』
凛「・・・別に。そんなつもりなかったし」
奈緒『・・・つめてぇな、凛。けどいいこと教えるぞ、お前らのヒーローは、もうすぐそこにやってくるよ。』
凛「・・・場所、わかって、教えたの?」
奈緒『いんや、全然わかんねぇよ。Pさんもバカだから、電車も車も使わずに走り出していったしな。・・・けど、な。』
凛「ふふ。そんなの全然意味ないし、見つけられてもないし。ホントに、バカだね。」
奈緒『そんなんだからお前らはいつまでたっても、ヒーローと主人公とヒロインなんだよ・・・。話がずれたな。単刀直入に行くぞ。』
凛「・・・なに?」
奈緒『あたしたち、あたしも加蓮も、凛のことなんか嫉妬してねぇよ。』
凛「・・・は?」
奈緒『こえーな。怖すぎんだよ、凛はさ。だから・・・加蓮に嫉妬なんか、してんじゃねえ。』
凛「!?・・・どういうこと?」
奈緒『どうせこっちには気付いてねぇと思ってたよ・・・。加蓮めちゃくちゃ泣いてて、怖がってるんだぞ。親友が突然目の前からいなくなって、それが自分のせいかもしれないことに。』
凛「それは・・・というか、私は、そんな、嫉妬なんて」
奈緒『そう。正確には嫉妬じゃないのかも知れないけど・・・けれど加蓮をおびえさせた』
凛「そんな・・・」
奈緒『まぁそれはいい。あたしが言うことじゃない。だからそう思って、誰にも言ってなかったんだけどさ・・・』
凛「・・・うん」
奈緒『こういうのを解決するのはPさんの役目かな、って。いつもそうだったしな。でも、こじれこじれて、こうなっちまった。』
凛「そう、だね・・・」
奈緒『まぁ、よく考えてみれば今回、Pさんじゃ解決しようがなかったのかもしれねぇけど・・・』
凛「どうして?」
奈緒『・・・教えらんねぇな。』
凛「そう。・・・よかった」
奈緒『だな。とにかく、Pさんに嫉妬の件については教えてあるから、まぁ覚悟くらいはしとけ』
凛「うん。・・・というか、ごめん、携帯の充電切れそう」
奈緒『わかった。最後に言っとく。あたしと加蓮と凛は、別々に光ってお互いを照らす、そんなモンだと思ってるから。』
凛「そう。うん。じゃ、私も、最後に・・・奈緒の電話で、私はすごく、安心したから。ありがとう。」
ツーツー・・・
凛「切れ、ちゃった・・・。ちゃんと感謝、伝わったかな・・・」
「――凛か!?」
凛「・・・ちょっと、できすぎてる、かな」
「はぁ、はぁ、はぁ、」
凛「・・・なんで、走ってきたの?」
「忘れ、てた」
凛「・・・バカだね」
「ごめん、はぁ、ふぅ・・・」
凛「・・・なんで、すぐ、私だって、わかったの?」
「格好も特徴も、教えてもらってたから・・・」
凛「そう。全然ロマンチックじゃ、ないんだね。」
「そう、だな」
凛「・・・じゃ、どうしてここが、わかったの?」
「なんとなく、確信があった、から」
凛「どうして、そんな確信が?」
「だってここ、青山のmiumiuの前だろ」
凛「・・・そうだね、そこではじめて加蓮と会ったんだもんね、・・・プロデューサー。」
P「お前も・・・よくそんなこと覚えてたな、凛」
P「ようやく息が整ってきた・・・。なにしろ埼玉からだからな。8時間くらい。調べたら26kmくらいだってさ。直線距離で。」
凛「お疲れ様だね。」
P「他人事だな。」
凛「私は電車で来て。そのあとずっとマックにいただけだから。職質もされないし。」
P「お手軽な迷惑だよ。」
凛「・・・まあその場合、車だと見つけられなかったんじゃない?」
P「それでいいよ」
凛「・・・なんで来たの?」
P「約束したろ?お前が見えていない時は、お前の背中を捕まえて、引き留めて、話をしてやるってな。」
凛「そう。ありがとう。・・・加蓮の時と同じ?」
P「同じ、って?」
凛「俺はお前を怒りに来た訳じゃないのに、なんでお前は俺に怒られに来たんだ?ってヤツ。」
P「違うよ。」
凛「じゃ、なに?」
P「すっげー、怒りに来た。」
P「お前はな・・・NGのみんな、それぞれのプロデューサー、千川さん、その他会社の人、ライブスタッフ、
そしてご両親、・・・あげくの果てに警察の方にまで、迷惑をかけた。心配させた。」
凛「そ、それは・・・」
P「ったく、見つけた今でも『めんどくさーい』だよ。あとがどうなることやら。あ、ちなみに今のは昔の加蓮の真似な。」
P「そう、加蓮の真似・・・」
P「お前は加蓮を泣かせた。奈緒を怖がらせた。俺のアイドルをそんな風にするヤツは、許せねえ。」
凛「・・・っ」
P「そして、俺は俺自身が許せねえ!一番気にかけてきてやったはずなのに、凛の心にできたひずみに気がつかなかったんだからな・・・」
P「奈緒に言われて、教えてもらってはじめて知ったよ・・・。お前、奈緒や加蓮に嫉妬されているって思ってるんだってな、んなわけねーっつのに」
P「周囲の人間に対して、・・・奈緒や、特に加蓮なんかに対しては、人一倍めざといお前が、そんな勘違いするはずないと、俺は思いこんでしまってたらしいな・・・」
P「でも、それもしょうがないのかも知れねえな・・・」
P「なぜならお前、渋谷凛が、嫉妬のなんたるかを知らないからだ。」
凛「・・・え?」
P「嫉妬。つまり妬みやそねみ、それが何ものであるか、それは説明しえないことかも知れない・・・自然に湧いてくる、沸々とした感情だからな」
P「だが、その原因は知っている。・・・お前が思っているような、敗北感や劣等感、そんなものが原因な訳じゃねえ・・・」
P「嫉妬って言うのはな、・・・誰にも自分の努力を認めてもらえなかった時、そのときはじめて起こる感情なんだよ・・・!」
凛「え?そんな・・・」
P「なんでアイツがチームのレギュラーなんだよ?俺だって頑張ってたのに、どうして誰もそれを認めてくれねえんだよ・・・」
P「なんで顔がいいだけのあの子がちやほやされんだよ?私だってほかの魅力では、負けてないはずなのに、どうして誰もそれを認めてくれないの・・・」
P「・・・お前は周りによく気が付いて、誉める時は素直に誉めるし、悪いところははっきりと言う。裏表がない。・・・そして、努力に必ず報いてくれる。お前は優しい。」
P「凛がそんな子だってこと、近くにいれば誰だってわかる。ましてや奈緒と加蓮なら、もっと深くで実感しているはずだ。」
P「・・・だから奈緒や加蓮が、お前を尊敬こそすれ、張り合いこそすれ、嫉妬なんてするはずがない。・・・だけどお前は、自分が嫉妬されてると勘違いした・・・」
P「なぜなら、凛、お前は嫉妬というモノを知らないからだ。」
P「人一倍人を見るおまえが、人が自分に向ける感情や自分の抱く感情の正体がわからなくて、辞書的な「嫉妬」の定義をあてはめて、不安になってたからだ・・・」
凛「・・・そんなこと、どうやして断言できるの・・・」
P「なあ凛、お前はプライドが高いな。異常に高い。ビックリするぐらいに高いな。」
P「そこは第一印象のままだよ。お前は誇り高い、自分の能力、努力に絶対的な自信を置いて、そこに全てを根ざしている女だ」
P「・・・そんな"本当に"プライドの高い人間は、自分で自分がした努力のことを既に認めている。・・・ある意味、もっとも客観的に見られている・・・」
P「自分の成績を上回った人間がいる。じゃあ、俺はもっと努力をしなきゃ、張り合わなきゃ。」
P「自分より魅力的な女がいる。じゃあ、私はもっと努力をしなきゃ、張り合わなきゃ。」
P「・・・自分の努力を認めていない人間と違って、自分の努力が見えているから、どうすれば張り合えるのかもわかる。どのくらいの努力で、上回れるかもわかる。」
P「・・・だから鼻持ちならねえ、本当にプライドの高い人間は、嫉妬をしない。」
P「・・・そしてひとりの、どうしようもない天才がふと現れたとき、・・・本当にプライドの高い人間はすごいな、とそっと笑って、そこを立ち去る。」
P「自分とは努力の領域が違う、能力の分野が違う。・・・そういうことを正確に把握出来るからな。・・・まるで嫉妬なんか起こらない。」
P「だから、渋谷凛。お前は嫉妬のなんたるかを知らない。あんまりにもプライドが高くて、自らの能力をよく知っていたがゆえに、嫉妬というモノを把握することがこれまでできなかったんだ。」
P「・・・そして、これからも、凛、そんなもの知らなくていい!」
P「お前の辞書に、嫉妬なんて文字は必要ない!!」
P「お前は自分の力を信じて、周りの視線を自らの身の振りを直すための糧としながら、高みにのぼって、そこからそのおっかない目で、キッと世界をにらみ返してやればいい。」
P「・・・そうすれば、そこらへんのやっすいプライドしか持たない人間なんか、腰を抜かしながら逃げていき、お前のすごさを周りに喧伝してくれるよ。」
P「お前は嫉妬を知らない。純粋に知らない。ずっとずっとそれを知らず、疲れを知らない。それでいいんだ、渋谷凛は・・・」
凛「え、でも、私は、私が加蓮に嫉妬してるって・・・」
P「・・・え?」
凛「・・・え?」
P「俺は奈緒から、奈緒と加蓮がお前に嫉妬していると勘違いしていると聞いただけで、そんなことは聞いていないぞ・・・?」
凛「え、じゃあ、なんで・・・」
P「・・・まあいい。そんなことはなんとなく、俺も思っていた。だから俺は、途中からここを目指して走ってきた。」
P「なあ凛、他人が自分を上回っていると感じた時、ふと湧き上がる、嫉妬以外の感情を知っているか・・・?」
P「それは本当に誰しもが持っていて、凛。今回お前が嫉妬だと勘違いしたモノは、それだ」
凛「・・・なに、もったいぶらずに教えてよ」
P「・・・こええ。えっとな、それは『好奇心』だよ。凛」
P「相手と同じ努力はできないけど、能力も持てないけど、擬似的に相手と同じ場所に立って、相手の気持ちを知りたいと思う力、感情・・・」
P「凛はすごいな、どうしてこんなに高いところまで上り詰めたんだろう、私もその秘訣を聞いて、気持ちだけでもそれを味わってみようかな」
P「対等な仲間だからこそ、・・・気になってしまうその感情」
P「この好奇心・・・ある種不安にも似たそれが、お前が自分への・・・対等な仲間からの、嫉妬だと感じたモノの正体なんだよ。凛。」
P「そしてそれはきっと・・・凛が加蓮に対して抱いた感情でもあるはずなんだ。」
P「お前と加蓮の友情は・・・ちょっと類を見ないくらいの友情だ。お前は加蓮の、庇護者たらんとしている部分がある」
P「・・・その比類なき友情は、比類なき友は、少し顔を合わせない間に、どんどんその姿を変えていった・・・」
P「アイツは齢(よわい)16にして、はじめて現実というモノを得た。自分の心というモノを得た。加蓮はいつも髪型やネイルを変えてくるが、それと一緒にどんどん性格も変わって、成長していった・・・」
P「・・・そしてそんな変容した友人に、お前は致命的に傷つけられた。・・・加蓮は自覚がない、どうしてだかわからないというがな、加蓮を見てお前は逃げ出したのだから、きっとささいで、根本的な何かがあったんだろう・・・」
P「だからお前は加蓮の心を、知ろうとした。心が変容する、その立場に自分を置きたがった。・・・だから、この場所を選んだ。」
P「ここは・・・間違いなく、うぬぼれでもなく、加蓮の心を変え始めた場所だからな。・・・ここで俺と加蓮が出会わなかったら、お前とも、俺とも、奈緒とも、加蓮は出会うことなく・・・本当の自分とも出会うことができなかった」
P「だから、俺とお前は、今ここにいる。」
凛「・・・でも、それは私が加蓮に好奇心を抱いた理由になっても、加蓮に嫉妬を抱いたと勘違いした理由には、ならなくない?」
P「・・・だってあのとき、俺のこと、呼んでたろ?凛。」
凛「!?」
P「・・・『雑務が一段落したら、関係者口に来て』、だっけか。なんだか知らねえが、お前は俺を呼んでいた。・・・でも加蓮が、それを阻む要因になった」
P「・・・だから、お前は加蓮になって、俺を呼ぼうとして、俺に声をかけられに、ここにやってきた。」
P「・・・そして俺も、凛が、加蓮が呼んでるこの場所に、お前たちに呼ばれながら、やってきたんだ。」
凛「・・・ふふっ。そか。そうだよね。さすがPさん。ふふっ。本当にすごいよ、プロデューサーは。・・・ふふっ。」
P「・・・なあ、泣けよ、凛。」
凛「・・・?」
P「泣きやがれよこの傲慢な自尊心が固まってピノキオみたいなたっけー鼻になったクソみたいでうざったいタカビー女が!涙のあともかけらも見せねえで・・・」
P「悲しかったくせに!さびしかったくせに!傷ついたくせに!心細かったくせに!怖かったくせに!イヤだったくせに!ムカついたくせに!」
P「それをひた隠して、不敵に笑いやがって・・・人前だからって!外だからって!一人だからって!東京だからって!青山だからって!俺の前だからって!・・・そんな涙、隠してんじゃねえよ!」
P「お前は真心から俺を呼んでたんだろ!・・・なら泣けよ。・・・どんな気持ちだか知らねえが、俺はそれを受け取ってやるから!だから泣けよ!」
凛(これは・・・もしかしたら泣いて・・・プロデューサーの胸に飛び込むチャンス?・・・いや、もしかしたら、それ以上の気持ちも・・・)
「りぃぃぃぃぃんっっっ!」
「やっぱり、ここにいた・・・」ガバッ、ダキツキッ
凛「加蓮・・・」
加蓮「よかった・・・りん・・・いてくれて・・・ごめんね・・・ありがとね・・・」ぐすっ
凛「うん・・・ありがと・・・わたしこそ・・・ごめん・・・かれん・・・きてくれて・・・」ぐすっっ
P「・・・俺はお役御免ですか、そーですか。・・・せっかくの役得がありそうだったのに」ボソッ
ウェーーーーンッ!!!
――――
――――
凛「・・・どうして、加蓮はここに?」
加蓮「きのう、卯月Pさんに送ってもらって、その途中も、夜ずっとも、ずっとずっと、考えててね・・・そしたら、もしかしたら、ここかなって、予感、霊感・・・?」
加蓮「だから・・・始発でここまできて。そしたら聞いたことある大声がするから・・・案の定」
加蓮「ふふっ。Pさん、もうすぐひとが増えてくる時間帯になるから、すっごく危なかったんだよ?・・・住宅街も、ちょっと近いし」
P「そうだな。やべえ、周りが見えてなかった・・・反省するわ。」
凛・加蓮「・・・ふふっ」
凛「プロデューサー、ホントに昔は加蓮をスカウトした時の話よく私にしてたから、加蓮の印象にもそれがあったのかもね。」
凛「ねえ、そういえばさ・・・ふたりとも。私がここにいなかったら、どうするつもりだったの?」
P「え?俺は、そうだな・・・始発もそろそろ出る時間帯だったし、いったん埼玉戻って、車とってこようかなって」
加蓮「ふふっ、まずは家に帰って寝ないとあぶないでしょ?・・・私は、普通に家に帰って、事務所と警察に任せてたかな」
凛「ふーん・・・」
凛(なんだ・・・嘘つきは、私だけじゃない、んだ。)
加蓮「・・・そういえば、未央がいってた、ラッピングって、なんのことだったの・・・?」
凛「あっ・・・」
凛(このタイミングで、か。・・・まぁいいや。今はいろんな意味で・・・タイミングじゃなかったってことかな)
凛「はい、これ、クリスマスプレゼント。これまでのお礼、ってことで」
P「おう、なんだこれ・・・って、プラダのネクタイ?ありがと・・・でもいいのか?・・・っていうか早朝のマックで受け取るモノではないな・・・」
加蓮「ええー!プラダは私が先に考えてたのにー!・・・凛もそれを、知ってたはずでしょ?」
凛「ふふっ。私も加蓮の気持ちが知りたかったって、さっき言ったでしょう?・・・それにファッションにうるさいプロデューサーのことだからね。中途半端じゃ、ダメかなって・・・」
P「ああ、嬉しいけど・・・いい、みたいだな。ふたりがそういってるなら・・・」
加蓮「あ、でも、ネクタイは何本あっても困らないって言うし、私もプレゼントしようかな?」
凛「ふふっ。女性がひとりで選んだネクタイは、スーツに合わせづらいっていうよ?私も行こうか?・・・なんだったら、プロデューサーも?」
P「・・・なんのためのプレゼントだよ・・・」
加蓮「いーのいーの。一緒に来れば。ふふっ」
P「あ、そういえば。これはあとで奈緒にも言っておくけどな。」
かれりん「・・・なに?」
P「お前ら三人、セットリストもリーダーも、基本的には自分で考えてきてたよな・・・お前ら主導のグループだった」
凛「・・・そう、だけど・・・?」
P「だからな、りんなおかれんかっこ仮!これはな・・・俺の権限をもって、今日をもちまして解散だ!」
かれりん「!!」
P「このままじゃな、凛の不安は根本的に解消された訳じゃない・・・まだまだお前らの知名度に差があることは事実だ。」
P「だから、それをぬぐい去るために・・・いったんお前らは解散しなくちゃいけない」
P「だから、個別に活動して、知名度を上げていって・・・俺がそれはどうにかしてやる」
加蓮「・・・大丈夫、なの?」
P「大丈夫だ。すでに布石は打ってあったし・・・まあ別の理由で、なんだけど・・・」
P「まあ。だから凛の不安、・・・そして加蓮の不安、奈緒の不安。全部俺がぬぐい去ってやる!約束だ!」
――
P(その後はまあ、大変だった。凛はあんまり怒られなかったけど、監督責任を果たせなかった俺は上司にこってり絞られて・・・)
P(警察にも家族にも会場にもお詫び行脚で土下座の連続。まあ、そのお陰で、世間的には大ごとにはならずには済んだんだけどな。凛の天然変装もあって。)
P(世間に大ごとといえば、あのライブはやはり伝説になった。Twitterや2chなどで口コミが広がり、DVD・BDは飛ぶように売れ、YouTubeやニコニコ動画でも爆発的な再生数を誇った。)
P(・・・俺は事務所に怒られるのを覚悟で、それを黙認している。・・・この際、あんな約束をしてしまったからには、知名度アップのためにはなりふり構ってられないからな・・・)
P(なりふり構ってられないといえば、加蓮だ。ちょっと名前が売れたら、週刊誌やワイドショーなんかがこぞって加蓮の過去を取り上げ始めた。中途半端な同情は嫌いそうだし、すぐに忘れ去られて逆に傷つくのが常だが・・・)
P(・・・今の加蓮にはそんなこと関係なかった。だから俺はそれも黙認した。知名度のためになりふり構ってなどいられない。俺がライブ前に打っていた布石はドラマや新曲だけだったんだが・・・)
P(・・・それもいい方向に転がった。そういうメディアでアイツの純真可憐な笑顔と太陽のような瞳に触れれば、下手な同情などたちまちに晴れてしまう。・・・すぐに彼女は煌めいて、世間を虜にしてしまった。)
P(布石か。奈緒の布石については、バラエティのレギュラーにねじ込んでおいた。これはそのまま。なぜならアイツは俺たちに限らず、いじられて真っ赤になって、輝く女だ。)
奈緒『なんでいつまでたっても羊が一匹なんだよ!子どもを寝かせる気はゼロかよ!あたしは子どもの夢のアイドルだよ!・・・言わせんなよ!』
P(・・・そんな風に、アイツには天性の突っ込みと、フォローと、気付く力と・・・芸人が求めるモノを、全て持っている。しかもしっかりとアイドルをしつつ。・・・奈緒は、たちまち日本全国を笑顔にした、アトラクティブなアイドルになったよ。)
P(凛を見つけておいて、育てておいてよかったよ。アイツがいなけりゃ俺もこんなごり押しなんぞできる力はなかった。もちろんNGを代表とする、ほかの事務所の子の、変わらない頑張りにも感謝だ。)
P(変わらないのは凛だ。NGでも個人でも、アイツはさらに高みへのぼり続ける。そして、そのヒールを履けば男性の平均身長を優に超える、そのしたたかな鋭い脚で・・・)
P(女子高生の、若い男たちの、いや、世間の遥か上に立って、それをクールに睥睨(へいげい)している。・・・アイツこそ、現代のカリスマと呼ぶにふさわしいな。)
P(そうして、まあ、三ヶ月も経てば、状況は整ってくるわけだ・・・)
――
――――さくら、なんぶざき?、渋谷、渋谷、CGプロ
凛「おはようございまーす。・・・って、あれ?」
奈緒「お、凛じゃねぇか、久しぶりだな。・・・これ、京都ロケの土産の木刀。・・・凛に似合うかな、って。」
凛「なんでよ。私そんな暴力的なイメージあるかな?」
奈緒「いや、あたしはもうこの木刀で三回Pさんをブン殴ってるから、安心してくれ」
凛「何に安心するんだか・・・。というかあの人、相変わらずなにしてんのいったい・・・」
加蓮「おっはようございまーす。・・・って凛と奈緒、こんなところでなにしてんの?」
凛「おはよう加蓮。・・・そういえばすごく久しぶりだね、三人でこうやって会えるのは・・・」
加蓮「うん。みんなすっごい忙しかったからね・・・ていうか、なんでみんな事務所に?」
奈緒「あたしはPさんに呼び出されて、来たんだけどさ・・・」
加蓮「え、私もPさんからの呼び出しでドキドキだったんだけど?」
凛「・・・私も・・・プロデューサーから・・・」
三人「・・・え?」
P「ようお前ら!千川さんと応接間でふたりっきりで隠れているのはとっても気まずかったぞ!」
凛「なに、かくれんぼなんかしてんの・・・」
奈緒「凛が言えた話かよ?」
加蓮「ふふっ。やめなって、奈緒」
P「春だけにお話に花が咲くのもわかるが、早く応接間に来い!いろいろ発表がある!」
――
P「・・・。」
凛「・・・相変わらずもったいぶるの、やめた方が良いよ?」
加蓮「何度ビビらされたことか・・・」
P「よしわかった。またもや単刀直入がお望みだな。」
P「まず、・・・お前らのソロアイドル活動は、全員纏めていったん活動終了だ!」
三人「!?」
P「そしてお前らのユニットが、(仮)じゃなくて正式結成!」
三人「!!」
P「そんで初シングルが一ヶ月後、二ヶ月後にはアルバムと初ライブツアーだ!」
三人「!!??」
凛「相変わらずめちゃくちゃな・・・」
奈緒「あきれて言葉も出ねえよ・・・」
P「じゃあ言葉も出ない間、新ユニット名を考えてくれ。」
加蓮「・・・え?」
P「今回はお前らの個性を、さらにそれぞれ強調しつつ、さらに全体として『一つの意志』でありたいんだ。」
P「前回は俺が適当につけて大ブーイングだったからな・・・そして」
P「NGと違い、今度は大人たちが勝手に区切った『新世代』なんかじゃない。お前らの世代が、自分の世代が決める、そんな『新世代』なんだ。」
凛「・・・。」
奈緒「そうか。さすがPさんは、よく考えてんな。・・・尊敬してるんだぞ、これでも。」
P「そうか・・・そして同じ流れでもう一つあるから、ユニット名を考える間に聞いて、見てくれ」
三人「?」
P「それでは例の如く・・・千川さん、お願いします。」
ちひろ「きらきらりーん♪」
P「・・・。」
凛「これ・・・私の・・・アイオライトゴシック・・・」
奈緒「これは・・・しいていえば・・・ゴシックなのかな?・・・あたしの、原点・・・」
加蓮「全部あんまり共通点はないけど・・・しいていえば、青系統?」
P「そう・・・。この衣装には、一見した統一性はない。・・・しかし、ゴシックとか、青とか・・・」
P「そんなやわらかな規則において、同じ五線譜の上に、確かに存在している。そんな衣装だ。・・・今回のコンセプトにはぴったりだろう。」
凛「でも、なんで・・・ローソンの時のを・・・」
P「凛。今回もお前がリーダーだ。それは変わらない。前回お前ら自身がそれをきめたのだから。加蓮も奈緒もまた乗ってくれるはずだ。」
P「だから凛、お前に合わせることがこのグループのほがらかな調和になる、それがコンセプトだ。もちろん、前回衣装も好評だったから使っていきたいけど・・・」
P「・・・前回と違うのは『NGの渋谷凛』に合わせたことではなくって、『渋谷凛個人』に合わせたことだ。・・・これで三人の不安がぬぐい去れるなら、俺は嬉しい。」
加蓮「・・・衣装さんにも、感謝だね・・・」
奈緒「・・・ああ・・・」
P「そ。つーことで俺と千川さんの話は終わり。これからはお前らが主役だ。グループ名は考えましたか?」
加蓮「はい!私、オーヴァーマーズっていうグループ名がいい!」
P「・・・その心は?」
加蓮「火星を越える。なんかロマンチックでしょ?宇宙は人類みんなの夢。それをも越えて・・・私たちは・・・夢じゃなくて、ずっと一緒に・・・いられる気がする、んだよね」
加蓮「前に高校の校庭でサッカーやってた子の背中に書いてあってさ。チーム名なのかな?かっこいいな、って思って。」
P「・・・それはオーフェルマルスっていう、昔のオランダのサッカー選手の名前だ。すごく足が速くて、短命で・・・彗星のように消えていったな・・・」
凛「却下。縁起が悪い」
奈緒「同じく却下。加蓮がいうとなおさらだし」
加蓮「・・・どういう意味?」
奈緒「じゃああたしな。あたしは・・・」
凛「却下。」加蓮「却下。」P「却下。」
奈緒「まだ何も言ってないだろっ!?っていうかPさんに発言権はないはずだろ!?」
P「絶対アニメが由来だから。」加蓮「だから。」凛「だから。」
奈緒「くそっ・・・」
凛「じゃあ、私・・・」
凛「さっき、プロデューサーが五線譜がどうこう、って言ってたでしょ?」
凛「そういえば前、プロデューサーが『くっついてちゃ不協和音にしかならない、ある程度離れていないときれいな和音にならない』」
凛「・・・なんて言ってたのを思いだしてね。」
凛「・・・ドとミとソ。いわゆるCコード。もっとも基本的で、小学生にでも誰にでも弾けて、・・・もしかしたらピアノをやったことのないひとでも知ってる、和音。」
凛「ギターでも一番最初に習うコードだからね。・・・李衣菜が頑張ってたよ」
P「多田さんのことはあっちのプロデューサーに任せてあげな。大変そうだけど。」
凛「まあいいや。それでも、一番最低のコードだけど、一番使われやすいし、安心感があるし、どんな高度な曲でも使われる。ある意味最高の和音・・・」
凛「ドとミとソは、プロデューサーが言ったように、それぞれに違う色で輝きを放つ私たちのこと。似たような寄り合いじゃなくて、でもそれより調和が取れててね・・・」
凛「最高とか最低とか言えば、前にこれまたプロデューサーが、『最初って言うのは、最低を作ってやらないと、できない』って言ってたんだ。」
凛「私たちもソロ活動をやめて。最初・・・いったん最低の状態から、周囲を見ながら再スタートする。でもこれまでの経験はムダじゃない。培ってきた視野と嗅覚で、最高までの道のりを切り開くんだよ。」
凛「つまり、最初で、最低で、最高の三和音。そう、名付けて・・・」
――凛「トライアド・プリムス、だよ」
奈緒「絶対凛、それ、前から考えてあったヤツだろ・・・」
加蓮「あっためてたよね・・・ていうか、プリムス?って何?」
P「・・・ラテン語で、最初、とか、最高、って意味。だったかな。」
奈緒「ラテン語!?凛、お前相変わらず蒼いお年頃なのな!」
凛「いいじゃん・・・かっこいいんだから・・・」
P「お前も大して変わらんわ・・・ま、プライマルじゃちょっとニュアンス変わりそうだしな・・・」
加蓮「私は賛成、だな。凛の考えも・・・なんかPさんの考えまで、伝わってくるし」
奈緒「・・・まあ、あたしも賛成だけど。・・・てかPさん、いつの間にあたしの携帯いじってるんだ?」
P「ん?あ、だってお前ってば携帯でせっせとグループ名考えてたでしょ?せっかくだから未央ちゃんに送信してさしあげた。」
奈緒「ふざけんなああああああああああッ!アイツぜってー広めるだろおおがああああッ!」
加蓮「あはは・・・」
凛「ふふっ、やっぱ私たちの・・・トライアド・プリムスの始まりは、こうやってドタバタで始まるんだね。」
奈緒「くっっそおおおおおおおおおおおおおァ!」
凛「・・・奈緒、未央の部署まで走って行く気なのかな。・・・メールより早く。」
加蓮「奈緒ならできるんじゃない?・・・ところで、ツアーって、どこからはじまるの?Pさん」
P「ん?ああ、渋谷公会堂な。・・・キャパ前より狭いし、CCレモンホールだったころのほうが渋谷さんの心象もマシだったでしょうが・・・」
凛「ふふ。別にいいよ。そもそも渋谷が事務所なんだし、スカウトされたのも・・・。って、そうだ」
加蓮・P「?」
凛「どうしてあのとき私が、渋谷の東急口で待ってるって可能性は考えなかったの?」
P「え?なんで?それって加蓮関係ないじゃん。」
加蓮「そうだよ。私への好奇心で、私の気持ちになりたくて、青山に行ったんじゃなかったの?」
凛(しまった!それでことがおさまってたんだった!)
凛「・・・ふふ。じゃあ今度私が、プロデューサーに本当の気持ちを言う時は、渋谷の東急口で待ってるからね?」
加蓮「え?じゃあ私は、Pさんに伝える時、青山のmiumiuで待ってるよ?」
P「おいおい。お前らほどの売れっ子が、つーかアイドルが、もうおいそれと東急口とか表参道とかいけるわけないだろ・・・」
凛・加蓮「・・・それでいいの。」
――――渋谷公会堂、ツアー初日、葉桜の頃、舞台袖
加蓮「・・・私たちと、Pさんが出会って、ちょうど一年なんだね」
奈緒「ホント、いろいろあったなぁ・・・」
凛「私たちだけの、アニバーサリーってとこだね。」
P「おっと。思い出にするには早すぎるぞ。さあお前ら、今からの、未来への気合いを入れろ!」
凛「さぁ、走りだそう!」
加蓮「いくよ・・・きらめくステージへ!」
奈緒「そうだ・・・私達のステージ!」
ワー!カレーン!ナオー!リンチャンサマーッ!
P(まあ、順風満帆、今度こそ問題もなく、一旦はハッピーエンドということかな・・・)
P(・・・なんだか、俺だからこそ処理出来ない爆弾が、ひとつだけ残っている気もするのだけど・・・気のせいだと思いたい。)
P(さあ、消えない音を刻みつけろ!トライアド・プリムス!)
その4おわり
SSおしまい
SS二度目かきました
こわかったです
凛(ピアスして、制服着て、渋谷に遊びに来て・・・。なんていうか、普通にJKしてるな。)LINE ソウシン
凛(・・・うん。これこれ。これが私が求めてたものだよ。大人の目なんか気にしなくていい、そんな生活)キドク ポチポチ・・・
凛(・・・けど、ひとりで遊びに来ちゃったのはちょっとマズかったかな。)ケイタイポチポチ・・・
スカウト「すみません、CGプロのPというものなのですが、ちょっとお話よろしいでしょうか?」
凛(・・・こういうのがくるから。)ケイタイシマイ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375117126
凛「・・・何か用ですか。」
スカウト「単刀直入に・・・、アイドルに興味はお有りですか?」
凛「・・・はぁ?いいえ、とくには」
スカウト「シンデレラガールズプロジェクトという企画、ご存じですよね?
凛「・・・ええ、一応、小耳には」
スカウト「765さん、876さんの成功を見て、更なるアイドルを発掘して、盛り上げていこうという業界全体の企画なんです」
凛「(強引に話を進めるヤツだなぁ・・・)・・・それで、私をスカウトしよう、と?」
スカウト「そうです。我々CGプロは新規参入の事務所ですから・・・あなたを私たちのアイドル一号、ひいてはシンデレラガール、第一号にしようと。」
凛「そんな買いかぶられても、困ります。」
スカウト「いいえ、あなたには十分その素質があります。お気づきでないかもしれませんが、あなたはたぐいまれなる美貌をお持ちなのですよ?」
凛「そうですか。・・・私は友達との待ち合わせがあるので、すみません。それじゃ」
凛(はぁ、うざったかった・・・それに・・・)
凛(私がかわいいのとか、知ってるから。)
凛(・・・どうでもいい)
――――春、都立高校、入学式当日
凛(私は、勉強はしっかりするタイプ。見た目通りの不真面目に思われるなんて、なんか悔しい。)
凛(だから、第一志望のためにはしっかり勉強して・・・自分を高めて・・・見事合格して・・・)
凛(・・・結果、おな中の子、ゼロだよ。)
凛(みんな落ちちゃった。・・・大丈夫かな、ちゃんと友達、私、作れるかな。無愛想だし。)
凛(HRも、一限の休み時間にも誰とも話せてない・・・ヤバい。・・・もう二限終わるし。最悪、孤高を貫こうかな、なんて。って・・・ん?)
凛「ねぇ・・・そこの子。消しゴム、落ちたよ。あなたの、でしょ?」
生徒A「・・・うぇ、は、はい!そう、ですけど・・・」
凛(私、そんなに怖いのかな・・・)
凛「・・・ん。ふーん、なかなかカワイイじゃん。グーフィー?」
A「そ、そうです・・・。意外ですか・・・?」
凛「ふふ。そういう訳じゃないよ。というか、Aさんだっけ?私もAって呼ぶから、あなたも凛って呼んでよ。同級生なんだし、さ、ため口で、ね」
凛「というか、バッグのストラップも見たけど、ディズニーとか、集めてるんだ?」
A「そうです・・・なの。り、凛、ちゃんはこういうの見て、子どもっぽいって思わ、ない?JK・・・にもなってさ」
凛「ふふっ。だから全然。そうじゃないって。むしろAらしいな、って」
A「私、らしい・・・?」
凛「だって、さっきHRの自己紹介の時、Cって子が『私の趣味はスパイ活動です!』・・・なんて、ボケてたじゃん。滑ってたけど。」
凛「・・・でもクラスの中で、Aだけは、目も見開いて、びくついてたもんね。私、見てたんだよ?」
A「・・・えへっ、凛ちゃんって、すごいね・・・。私、ホントにあのときビビってたもん、殺されちゃうかも!?って・・・。でもそれと、ディズニーが・・・?」
凛「うん。Aって、単純だなぁ。って。」
A「ひどい!?」
凛「・・・でも、同じように、ってか、単純だから、純粋なんだな、って」
凛「世の中のこういうキャラってさ、目がおっきくて、鼻がなくって、すごく単純にデフォルメされてるでしょ?」
凛「そうやって、余計なモノがなくなって・・・」
凛「だから、私、かわいかったり、きれいだったりするものって、すごく単純に、純粋になっていく、んだと思うんだよね。」
凛「・・・で、もともと、単純で、純粋で、かわいいAが、かわいいものを集めるのって、すごく自然なコトだと思うよ」
凛(・・・って思わず語った!ひかれてないかな・・・?いや、でも、この子の場合・・・)
A「凛ちゃんってすごいね!よく考えてるし、頭もいいし、やさしくて、ひとの事をよく見てるし・・・」
凛(大丈夫だった、やっぱり、接客やってると、人を見るクセ、ついちゃう。・・・でも、まあ、きっと、このあとに続くのは・・・)
A「それにとっても、美人だし!」
凛「・・・はぁ。」
A「あれ?どうしたの?なんか変なこと言っちゃった?ごめんね?」
凛「ううん、なんでもないよ。・・・ちょっと、自分の顔のこと言われるの、あんまり慣れてないだけ。」
A「・・・でも」
凛「大丈夫。誉めてくれたのは純粋に嬉しかったし、Aのそれがへたなおべっかじゃないって、知ってるから。安心して?」
凛(小学校高学年、からかな、私はやたらとモテた。うぬぼれじゃ、ない。中学なんかじゃたまに他校の男もやって来たし、スカウトになんかもう慣れた。)
凛(告白、ラブレター、いっぱいされた。・・・いつのまに男子が私のアドレスを知ってて、勝手に告白してくる。・・・すごい熱意だよ、ね。)
凛(でも、私は自分の力で何かを成し遂げたい。自分の力で欲しいモノは手に入れたい。誰にも、何にも邪魔されたくない。)
凛(私のことは私が決める。恋愛・・・とかだってそうなんじゃ、ないかな。私の顔は関係ないし、私の顔を好きになってくれた人なんて、好きになれない。)
凛(恵まれてる、恵まれてるんだろうけど・・・。邪魔なんだよ。自分の力で道を行きたいのに、私をみんながこぞってどこかへと誘導しようとする。)
凛(私の顔は、まっすぐ前を向くため、だけにあるのに・・・なんてね。ふふ。)
A「・・・ねぇ、どうしたの?ほおづえなんかついちゃって・・・」
凛「・・・ん、いや、なんでもない、ちょっとだけ、考えごt」
生徒B「り、凛ちゃん、さん!!」
凛「!?」
B「私、入学式で一目見た時から、こんな人になりたいな、って思ってたんです!つまりファンです、弟子です、信者です!どうかお友達にして下さ〜いッ!」
凛「・・・はは。」
A「ごめんね、この子わたしのおな中なんだけど、凛ちゃんが考え事してるときに、話しかけてきて・・・」
A「凛ちゃんって見た目と違ってとってもとっつきやすくて、とってもいい子なんだよ、なんて教えてたら・・・」
B「もう完全に一目惚れでした!・・・ん、いや!ヤバい意味じゃなくて!人間として!人間の奥底に湧くソウルを見つめた結果の、人間愛として!」
A「・・・もう、Bったら、まーた自分の世界にイッっちゃって・・・」
凛「・・・ふふっ。」
凛(まぁ、ちょっと、得もあるかな)
――――再び、渋谷駅東急口、日陰にて
凛(ホント、AかBでも、ムリにでも呼んでおけばよかったかな・・・今日は二人で遊ぶとか言ってたけど、渋谷で合流したって別に・・・)
スカウト「・・・あの、お嬢さん。」タチハダカリッ!
凛「・・・ッ、なんですか、これ以上、通報しますよ。」
スカウト「あの・・・待ち合わせって、嘘でしょう?」
凛「・・・え?」
スカウト「・・・携帯電話。なんでスカウトに時間をとられて、急いで待ち合わせ場所に向かわなければならない人が、携帯で時刻を確認したり、連絡を確認したりしないんですか?」
スカウト「それに、向かったのは代官山方面。ハチ公口は正反対です。友達と待ち合わせするような場所なんか、ありませんよね?」
スカウト「あと、あなたは日陰の壁に背中を預けて、ずうっとスマホをいじっていましたが・・・それはどうみても、そこでの待ち合わせか、単なる暇つぶし。」
スカウト「その場で待ち合わせていて、それに関するやりとりをしているのだったら、私に話しかけられても、LINE、だと思いますが、ふつう携帯はしまいませんよね?待ち合わせのことがわからなくなってしまいますから。」
スカウト「聡明な受け答えをしていたあなたです。私に一言ことわっておけば、スマホをいじって連絡を取りながらでも応対は出来る、のもわかるはずです。」
スカウト「・・・よって、あなたは単に、暇だから渋谷をぶらぶらしていた女子高生、ということになります。」
凛「ふぅん。すごいね。今からそのスマホは、警視庁へと繋がれるんだけど、さ。」
スカウト「うん、ちょっと待って!待って下さーいッ!新興事務所って言いましたけど、うちの親会社はプロ野球チームも持っているような大会社ですから!本当に怪しいところはないですから!」
凛「へえ。なんでそんな一流の会社が、今更アイドルなんてやくざな商売に手を出すんですか?」
スカウト「・・・興味、もってくれてるんですか?」
凛「暇つぶしだから・・・ね。」
スカウト「・・・私どもの会社、というより親会社は、常に新しい挑戦、アイディアで世間を驚かしてきたんです。先ほどの、球団含め・・・」
スカウト「今ぞ、花咲くアイドルブームです。空前の。これはビジネスチャンスだ!新世代の、まったく新しいアイドルを作り上げるのだ!という社長の鶴の一声、で、この野心的なプロジェクトは始まったんです。」
スカウト「つまり・・・そうして我々が業界全体に声をかけて、さらにその旗手となっているんです。あ、この名刺のQRコードで、うちのサイトを見られますから、それをご覧になれば・・・」
凛「んんっと、焦点合わない・・・。・・・あ、本当だ・・・。横浜のあれじゃん・・・。」
凛(けど本当にまっさらで、ほんとうにまだ誰もタレントが所属してない・・・。ふふ。旗手、バンディエーラ、か。)
凛「ねえ?ここで立ち話するのもいいけれど、今度は私以外の人に、通報されちゃいますよ?」
――――ちょっとして、渋谷楽器街周辺、代官山とのあいだ、しずかな、白が基調のカフェ
スカウト「・・・ですから、バックアップ体制も万全であり、タレントはまだおらずとも、ノウハウを持った事務員なども配置しておりまして・・・」
凛「あ、こちら。アプリコットです。どうもありがとうございます。」
店員「では、ごゆっくり」ニッコリ
スカウト「・・・私の話、聞いてます?」
凛「ん、一応・・・ね。それより、さ。」
スカウト「なんですか?」
凛「もう、堅苦しい敬語なんてやめよう、よ。カフェに入って、渋谷駅前でのセケンテイ、は気にする必要、なくなったでしょう?」
凛「立場とかそんなんじゃなくてさ・・・私自身をスカウトしてよ、ね?」
スカウト「・・・わかった。」
凛「・・・で?」
スカウト「要するに。わた、僕達・・・俺達に全部任せて、思いっきりやれば、必ず成功する、ってこと。保証、だよ。」
凛「どうしてそんなことが言えるの?会ったばかりで」
スカウト「勘・・・じゃねえや、確信だ。最初見た時、ティン、ときて、話してみたら、ぴりぴりーん、と来た」
凛「ふふっ、何それ。変なの。で?どうして、最初見た時、その、ティン、と、きたの?やっぱり、顔?」
スカウト「・・・スマホに熱中してる女子高生の顔なんかまともに見れるわけないだろーが。」
凛「じゃ、手当たり次第に暇そうな女の子に話しかけてたってわけ?変態さん。」
スカウト「・・・そうじゃなくてさ。・・・目が見えたんだよ。本当はふらふらっと、明治通りを通って、そのまま表参道のほうにスカウトしに行こうと思ってたんだけどさ。」
スカウト「・・・そのとき、目が、目だけ、見えたんだよ。すごく確信に満ちた、すごく自信に溢れた、誇り高い目つき。こんなのはじめてだ!ってさ。」
凛「・・・はじめて?」
スカウト「いや、スカウトとして、とかじゃなくて、生きてきて、さ。はじめてこういう目をする人がいるんだな、って。」
スカウト「俺もこの業界に入って、もちろん、浅いからなんとも言えないんだけど、たぶん芸能界でもこんな目をした人はいない」
スカウト「これぞ、新時代を切り開くにふさわしい、俺達が迎える最初のアイドル、これぞこのお方だ!・・・って。そんな風に、思ったんだよ」
凛「なんだっけ、ぴ、ぴりぴりーん、は?」
スカウト「・・・まあ、まず、正直、ああ、ちゃんと目鼻立ちも通っているなって。正統派美人だ、これは、なんてね、そんなのはいいや。」
凛「ん?そんなのは、いいの?」
スカウト「それだよ、二月の南風、みたいな、冷たさのなかに、すべてのあったかいものを準備しているような、その声。」
スカウト「やっぱりこの子は、自信、というものの現れなんだな。って。プライドのせいでウザそう、とかじゃなくてね。むしろその自信が、受容、いつくしみを産んでるような・・・」
スカウト「その声で、も、人を見ているんだ、あなたは。」
スカウト「・・・だから、まあ、ちょっとわかりやすかったよ。」
凛「・・・ん?誉められてたんじゃなかったの、私、っていうか質問に・・・」
スカウト「誉められるの、苦手だろ。」
凛「・・・!?」
スカウト「つーか、自分が当然だと思ってることが誉められると、ムズかゆくなるってゆーか・・・」
スカウト「さっき、店員にほほえみかけられたとき、すこしとまどった表情をしたろ?スカウトに声かけられても、動揺の色なんてなかったのにな・・・」
スカウト「自分がして当然の事をした時、感謝されたら、とまどってしまう。」
スカウト「・・・そーゆーヤツは、自分の努力しか、認められたくない、んだよ。大抵。」
凛「そう、かもね・・・」
スカウト「で、さ、とうぜん君は、自分の顔の良さだって自覚してると思うんだよね」
スカウト「でもそれは、自分の努力で手に入れたものじゃない。勝手に生まれ持ったものだ、って思ってる。」
スカウト「むしろそんなのを誉められても、嬉しくない。本当の私を見てないじゃん!・・・そんなとこだろ」
凛「・・・一時間半も話してないのに、よくそこまで断言出来るね?」
凛「ちょっと、宗教の勧誘みたいだよ。なーんか」
スカウト「いーや、そうじゃないね。受け答えもはっきり、きっぱりとしてたし」
スカウト「生真面目なヤツだな、って思ってたんだよ。・・・スマホをしまった時から、ね」
凛「・・・え?」
スカウト「・・・口ぶりから見て、スカウトされ慣れてるのははっきりとわかった」
スカウト「けど、適当に応対するんじゃなくて。スマホもしまい、相手の目を見てはっきりと断るんだ。」
スカウト「私は顔だけの女じゃありません、顔だけで生きようとする女でもありません、とでも言うかのように。」
スカウト「それに・・・」
凛「それに・・・?」
スカウト「あの待ち合わせうんぬんのヤツ、かなりでまかせだぞ?相当めちゃくちゃな事を言ったつもりだから、きっと冷静に考えれば、かならずボロが出る」
スカウト「・・・でもあのとき、確かに君の表情からは自信が崩れ落ちる音がした。自分で作った嘘を、否定されてしまったからだ。根拠が薄弱だとしても。」
凛「はぁ・・・。アンタはすごいね。完敗だよ。」
凛「・・・それで、なに?目や声を聞いた時の、私が自信、なり、確信がある人だという予感」
凛「っていうのを、話してみて、そっちが確信しちゃった、って訳?」
凛「・・・すごいね。きっとアンタのスカウトは天職、だよ」
スカウト「はは、ありがとう。でも、なら君の天職はアイドルだ。」
凛「・・・」
凛「・・・でもさ、やっぱアイドルって、けっきょく顔は重要だよ。アンタは私がそれを否定しててもいいの?」
スカウト「今はいい、けど。これからは、よくない。」
スカウト「俺達、君も含めて、俺達は君の顔のケアをして、スポンサーを募って、プロのメイクを呼んで、より美しくしてもらう」
スカウト「つまりは俺達が作り出す、顔だ」
スカウト「そして、その顔にあわせて、衣装を着せる。その顔にあわせて、曲もつくる。その顔に合わせた仕事をする。」
スカウト「そうして、顔はひとびとの"イメージ"になってゆく。その戦略、未来を作り出すのは俺達、そして・・・」
スカウト「・・・今更だけど、君の名前を聞いてなかった、ね。お名前は?」
凛「渋谷、凛。このへんの、旧字体じゃない、渋谷で、凛は、凛々しいの、凛。示す、ほうね。ってたぶん書かないとわからないと思うけど。」
スカウト「・・・そうか。」
スカウト「渋谷凛、そいつが渋谷凛の顔、イメージを作り上げる。自らの、力、信じられないほどの努力でだ。そして、あたらしい水平をこの業界に与える。」
凛「そうだね・・・。やってみるようかな、・・・いや、やってみせるよ。私は、必ず。」
スカウト「やれるんだな。後戻りなんかさせないぞ、後戻りしたら渋谷凛、が粉々にぶっ壊れるぞ。」
凛「わかってる。」
スカウト「今日みたいに平然と渋谷をぶらぶらしたりするのも難しくなるぞ、平和な日常とはすこしの長いお別れだ。」
凛「わかってるよ。」
スカウト「俺達大人は君をどこまでだって支えるけど、万能じゃない。・・・もしかしたら君の力でなく、君は挫折するかもしれない。」
凛「・・・大丈夫。」
スカウト「俺(たち)と君とで一蓮托生だ。・・・ずっと一緒に、やっていく覚悟はあるか?」
凛「・・・ッ!もちろん。」
スカウト「わかった。・・・とりあえずは契約成立だ。親御さんの連絡先、教えてくれないか?」
凛「・・・そこでも、今みたいな説得する気?」
スカウト「・・・もちろんだ。カワイイ娘を、芸能界なんて修羅場にいれるのだなんて、俺は許さんからな。」
凛「ふふっ。うちは至って普通の花屋なんだから、そこまで気負わなくてもいいって・・・」
凛「・・・ふふふっ。」
――――春、渋谷、CGプロにて
凛「・・・失礼します。」
千川ちひろ「あ、いらっしゃい。渋谷、凛ちゃんね?待ってましたよ。」
凛「ずいぶんと真新しくて・・・なにもない、殺風景な事務所だね。」
ちひろ「今から作り上げるんですよ。風景を生き返らせるのがアイドルの仕事だからね。・・・初めてのアイドル、ということだけど、わたしをお姉さんがわりに、頼っていいからね?」
凛「・・・ありがとう。頼りに、するよ・・・」
凛「私、無愛想だけど、本当にそういう環境には、感謝してるから・・・」
ちひろ「・・・さ、応接間にてプロデューサーさんがお待ちよ♪・・・ま、うちで言うプロデューサーはマネージャー半分みたいなところがあるから、そこまで緊張する必要はないのだけど・・・」
ちひろ「もう何人か、すでにプロデューサー候補は雇っているのだけど、さてさて、いったい誰が我が社最初のプロデューサーになるのかしらねー♪」
凛「・・・ふふっ。」
ガチャリ
凛「・・・ふーん、アンタが私のプロデューサー?」
スカウト(以下P)「・・・ったく、そういうなよ。」
凛「・・・・・・まぁ、悪くないかな、ふふっ・・・。」
その1おわり
――――引き続き、事務所にて
P「スカウトした時は、15だとはとても思えなかったんだけどな」
凛「いくつに見えたの?」
P「なんか・・・高二、って感じ?」
凛「ふふ。あんま変わんないじゃん・・・で?私は何をすればいい?休んでる暇は、無いと思うよ。」
P「つーても、そうだな。まずは青木さんに頼んで、レッスン、レッスン、レッスン、だな」
凛「青木さん?」
P「ウチで雇った専属のトレーナーさん。アイドルも確保してなかったのに設備投資だけはばっちしだったからな、ウチは・・・」
凛「・・・ふーん、営業とか、オーディションとかには、まだ出たりしないの?そういうのって聞いたよ?」
P「あのなぁ・・・。はぁ、ウチには曲に営業に行ったりするコネがまだないんです。そういうのには千川さんとか、他のスカウトの方々も動いてるんだけど・・・」
P「まあ、それに。アイドルの基本は、歌、ダンス、演技とそれと自己表現。表情とか、カメラへの意識とか、な。」
凛「・・・大変そうだね。」
P「ああ、きみにぴったりだ、よ。」
P「・・・さて、宜しくお願いします、ね。この子もびしばし鍛えられて伸びるタイプなんで。」
トレーナー「・・・了解した。・・・渋谷、というのか?今日からキミのレッスンを担当することになる。青木だ、よろしく。」
トレ「・・・この事務所にとっても初めてのレッスン生だ、いろいろと手探りになると思うが・・・」
凛「・・・覚悟は、出来てます。」
トレ「・・・そうか。じゃあ渋谷、とりあえずなんだが・・・今から流す、この曲を覚えてくれないか?再生するぞ?」
〜♪〜
トレ「・・・どうだ?有名な曲だし、もう覚えてくれたと思うが・・・。」
凛「いいえ、ごめんなさい。元々、アイドルに興味があった、という訳ではなかったので・・・。」
トレ「そうか。この曲はな、765プロ総出で出した、CHANGE!!という曲なんだ。音程もとりやすいし、ダンスも平易だし、ちょうどいいと思って、チョイスしたんだが・・・もう一度かけるぞ。」
凛(765か・・・あそこなら、私でも知ってる。・・・曲は知らなかったけど。・・・私の最初の曲が、チェンジなんだ。そうか。ふふっ。)
P(よくやってる、よくやってるが・・・見てるだけなのも退屈だな。)
トレ「よし、こんどは主旋律無しの、インスト版で歌ってもらうぞ!」
凛「♪」
トレ「だめ!サビはもっと伸びやかに、女の子を振りまきながら、それでいて丹田を意識しつつ!」
トレ「音程にメリハリがありすぎる!声量があるのはいいが、もうすこし線というモノも意識しながらな・・・」
P「!」
P「いえ、ごめんなさい・・・。僕はこれでいいとおもいます。この部分。」
トレ「いや、しかし、この曲はもっとやわらかい・・・。」
P「この子を伸ばしてもらうのはあなたですが、この子の伸びる方向、その大局を決めるのは僕なんです。これは凛、の、いちばん凛、らしさが出ている部分だと、僕は感じました。」
P「・・・だから、ここの味は残したまま、細かいミスを刈り取っていく、そんな方向でお願いします。とにかく今は基礎を・・・です。出過ぎた真似してすみません。続けて下さい。」
トレ「・・・わかった。渋谷!Bメロ前からやり直しだ!」
――しばらく、
トレ「ボックスステップはダンスの基本!今日中にみっちり身体で覚えて帰るんだ!」
P(うっへえ、俺にゃアレはムリだな・・・裏方でよかったわ、ジュピターになる気もねえけどさ。)
P(とりあえず、備え付けの冷蔵庫からスタドリ持ってくるかな、一応・・・)
・・・
凛「ふぅ、ふぅ、はぁ、ふぅ、ひぃ・・・」
P「お、おい。大丈夫か・・・?」
凛「私、運動、部、とか、じゃな、かった、から・・・」
P「わーったわーった、とりあえずこれ飲め、ほい。泣く子も黙るスタドリだ。」
凛「アン、タ、あり、が」
P「しゃべんなバカ」ゴクゴク・・・
トレ「・・・美しい師弟愛はここまでにして、次は演技のレッスン、だ」
トレ「・・・P君にも参加してもらうぞ?」
凛・P「「ええっ!?」」
トレ「キミが渋谷の伸びる方向を決める、と言ったんじゃないか。協力してもらわなきゃ困る。」
トレ「エチュード、というのを知ってるかね?演技レッスンではかなりメジャーな部類なのだが・・・」
凛・P「「いいえ・・・」」
トレ「ふむ・・・。エチュードというのは、シチュエーションと、役柄を設定してだな。そこから即興芝居でストーリーを展開してもらう。そんなレッスンのことだ。」
凛・P「「はぁ・・・」」
トレ「今回用意したのは・・・」
トレ「P君、『女友達の親友と付き合う事になった、というのをその女友達に報告しに行く男』」
トレ「渋谷、『その女友達だが、その男のことが好きで、ずっとその親友とは牽制し合っていた女』だ。」
トレ「さぁ、始めてくれ!」
凛・P((なんか妙に設定細かい!))
凛・P((そしてなぜか身につまされる!))
凛・P((そんな経験一度もないのに!))
P「・・・凛、ごめんな、待たせたか?(・・・こんな始まりでいいだろ?コントみたいだけど・・・)」
凛「・・・どうしたの、Pさん。なんだか、浮かない顔しちゃって。似合わないよ、ふふ。」
P「いや、そんなこと・・・ある、かもな。」
凛「・・・なにか・・・あった?」
P「ああ・・・。もしかしたら・・・、今までの、俺とお前、・・・俺たちの関係を、ぶっ壊しちまう、かもしれない。」
P「そんな、ニュース、じゃねえ、報告、をするために、呼び出したんだ。」
凛「・・・まどろっこしいのは嫌い。はっきり言いなよ。」
P「わかった。・・・Kと、付き合うことになった。」
凛「・・・ッ!」
P(三角関係モノのイニシャルと言ったら、夏目漱石の昔から"K"と決まってるんだよ!この野郎!どの野郎だ!)
P「お前が親友を奪われる気持ちはわかる・・・でもKは俺に気持ちを伝えてくれて、」
P「・・・そんなKのことを、俺は好きになってしまったんだ。」
凛「・・・ねえ、立場は?Pさんには、アイドルのプロデューサーという立場があるでしょ?」
P「(そこは今と一緒なのかよ!)・・・いや、アイツはもう、アイドルを捨てる気でいるらしい。」
P「ずっと夢だったアイドルを捨てて、俺の隣を選ぶ、んだとさ。」
P「・・・だから、すまん。お前とKとのコンビも、解散と言うことになるな。ほんと、プロデューサーとして・・・」
凛「・・・プロデューサーとか、関係ない!」
凛「関係。ない・・・。関係とか、私たち、ずっと、一緒に、いてくれるって言ったでしょ!言ったじゃない!」
P(とっても迫真!)
P「あのとき、ちゃんとプロデューサーとして、って言っただろ。その約束は必ず果たす。そこは安心してくれ」
凛「・・・!そうじゃない、わたしがいいたいのは、そんな約束の事じゃない・・・」
P「・・・?」
凛「ねえ、どうして?私のこと、はじめてあった時から、美人だなんて言ってくれたでしょ?」
凛「ねえ、どうして?私は、ずっと一緒だったよ。悲しい時も、楽しい時も、どんなときも、プロデューサー・・・」
凛「ねえ、どうして?・・・Pさんと、一緒だったんだよ?なのにどうして、Kを選ぶの?信じられない!あんな胸がちょっとデカいだけの売女・・・」
P「おい!Kはお前の親友だろうが!いくらお前でもKの悪口は許さん!」
凛「・・・!・・・もうわかった。はじめからKなんて親友でもなんでもない。そしてアンタ、アンタも私のプロデューサーなんかじゃない!」
P「お、おい・・・俺とお前はただの、アイドルとプロデューサーで・・・」
凛「呪ってやる・・・死んでも奪い返してやる・・・私のすべてを失ってでも、Pさんを・・・」
P「ひっ・・・」
トレ「ストーーーーーッップ!!!!」
凛「・・・ふぅ。すっきりした。どう?」
P「・・・正直ビックリしたぞ。お前・・・きみが、あんなに憑依系の演技をするタイプだとは、正直思ってなかったから。」
凛「そうだね。こんな没入感、今まで感じたことなかったかも。演技ってこんなに楽しいんだ・・・」
トレ「ふふ。渋谷はもう天性といってもいいかもしれんな。」
P(天性であんな怖い演技されちゃったら、アイドルとしてはちょっとアレだと思うんですけど・・・)
P「ああ、歌もよかったし、演技と両方押していく方向、にするかな?」
トレ「異論はないな。」
凛「うん・・・私も、それがいい」
――事務所に戻って
P「千川さんも。一見モノですよ?アレは。」
ちひろ「そんなにすごかったんですか?凛ちゃんの演技。」
P「身の毛もよだつ、とはあのことですよ。よだつ、ってどういう意味か知りませんけど。」
凛「ふふっ。大げさだよ、アン・・・プロデューサーは。そんなに怖かったの?」
P「ああ、今から歩く稲川淳二のキャッチフレーズで売り出せるかと思ったぞ。」
凛「私の素、あんなんじゃないって知ってるでしょ?そんなに怖がんないでよ」
P「わかってるって・・・ところで、凛。」
P「千川さんも居るから、この際言っておくんだが・・・」
P「お前、じゃない、君には、たぶん・・・一ヶ月後か?を目処に、芸能科のある高校に転学してもらうことになる。」
凛「・・・え?聞いてないんだけど・・・」
P「親御さんから、俺が言うように頼まれたんだ。早めに仕事というモノを、理解してもらいたい、ってな。」
凛「ウチの両親が・・・?」
P「ああ、親御さんには契約の時点で話してあってな。もちろん、学費その他諸々に関しては、千川さんが請け負って、提携してる高校とで処理してもらうことになる。」
ちひろ「いぇ〜い♪」ピース
P「・・・。そういうことで、わかったか?」
凛「ちょっと・・・。そんなこと急に言われても、まだ友達とかも出来たばっかりなのに・・・。」
P「急に、なんて言葉は芸能界にはないんだよ!お前は、もうこのハイスピードのワームホールに飛び込んでしまったんだよ!・・・もう戻れない。」
P「お前は、はやめに不退転という覚悟を決めなきゃならない。だから、このタイミングで言った。」
P「・・・心情的にはすまない、と思ってる、だから、まあ、現実的に事務処理が終わる一ヶ月、を猶予にしてやる。」
P「お前の普通の青春、普通の日々は、そこで終わるんだ。」
P「・・・覚悟をしろ。言ったろ。俺とお前は一蓮托生だ。」
――――都立高校、春の一日
A「ねえねえ、凛ちゃ〜ん。聞いたよぉー・・・?」
A「・・・あ、ていうか、教えてくれたんだよね・・・」
凛「・・・なにが?」
B「凛ちゃん様ッ!」バーンッ
B「Aたんが言ってた、芸能事務所に入られるという噂はまことなのですかッ!」
A「うん、私もそう聞いてさー・・・」
A「・・・凛ちゃんスタイルいいし、背も高いし、モデルにでもなるのかな・・・ってー・・・」
B「凛ちゃん様がモデルですかッ!全世界全宇宙環太平洋アルプスヒマラヤ造山帯に同時中継で凛ちゃん様のおみ足が公開されてしまうのですね!
そしてディオールやフェンディやYSLが悪意を持って提供する、ほとんどガーゼみたいなお洋服に包まれて、凛ちゃん様のあられもない姿がランウェイに現れるというのですね!ああ、もうBめは、出血が止まらない大サービスでございます!」
凛「・・・アイドル。」
A「・・・B、落ち着いて、・・・ってアイドル?アイドルになるの・・・?」
凛「そ。・・・モデルじゃなくって、アイドル、になる。」
B「なんですとーッ!?」
生徒C「なんですって!?」
凛「!?」
C「私はモデル活動をすると伝え聞いていた。あなたの美貌ならそれも当然の理。だが、アイドル?論理性を欠いているわ・・・」
A「私も・・・Cちゃんからそう聞いてたんだけど・・・」
凛「いや、AにはLINEでちゃんと教えたでしょ?アイドルのスカウト受けて、それに乗った、って。」
B「なにっ、このニセスパイのCちゃんめ、裁きを受けろこのやろー!」
A「あ・・・そうだっけ・・・。っていうか・・・、Cちゃんのスパイは冗談だって、最初に言ってたでしょーが・・・」
C「・・・度し難い。」
凛「・・・それでさ。言わなきゃいけないことがあるんだけど、いい?」
A・B「「なに(ごとでありますか!)?」」
凛「私、そういうことでアイドルになるから。転校しなきゃいけないんだ、芸能科のある学校に。」
B「・・・いつ、なの?」
凛「一ヶ月後、くらいかな。事務所の手続きがいつおわるか、なんだけどさ。」
A「・・・そんな・・・」B「もう、りんちゃんと、おわかれ、しちゃうなんて、」C「・・・淋しくは、なるな」
A・B・C「ふぇ〜んっ!」
凛「よしよし。泣かないの・・・。環境は遠く離れても、心はいつも、一番近いところにいるからね。」
凛(・・・なんて、上っ面だな、私。)
凛(でも、それが覚悟、なんでしょう?プロデューサー。)
――――葉桜、渋谷、CGプロ
凛「・・・プロデューサー、お茶入れたけど、飲む?」
P「ああ、悪いな・・・。お前もだんだん、軽い営業とかも入ってきて・・・。レッスン含め、疲れてるだろうに、な」
凛「ううん。大丈夫。私たちは・・・負けないよ。」
P「はは・・・。てゆーかわたくしめはざんぎょーでございますが、お前はこんな遅くまで残ってていいのか?凛」
凛「ん。最後の思い出作りとかで、たっぷり友達と遊んできたから。だから家には連絡入れてて、時間できたからここにきちゃった。」
P「そか。ま、あんま面白いモノはないとは思うが・・・」
凛「いや、宿題とか課題やってくから、そこで仕事してて。プロデューサーは。」
P「ん?お前がまだいる間にテストがあるのか?」
凛「え、ないけど。」
P(・・・ん。)
P「どういう内容なんだ?その課題。」
凛「・・・いやに食いつくね。テスト範囲のプリント、世界史と数�A、かな。この中から出るんだってさ。」
P「お前は中間テストに、出ないのに、か?」
凛「・・・何いってんの、プロデューサー。」
凛「テスト関係ないかもしれないけど。宿題なんだからやるに決まってるじゃん」
P「あ、そう。じゃがんばれ。俺も、頑張る。」
P(懸念というか危惧というか・・・)カタカタ
P(俺が漠然と抱いていた何かが、いま現前した感じ、だな・・・)カタカタカタ・・・
P「ふぅあ。だいたい片づいた、けど。」
凛「・・・私も。」
P「そか。今日は、やっぱ、お別れパーティ、とかだったのか?」
凛「うん。楽しかったよ。」
P「そうか・・・。ごめん、な?」
凛「・・・謝る事じゃないし。謝られても、・・・困るよ。」
P「だからこそ、・・・だよ。まあ、そのな、今度行く芸能科なんだがな。」
凛「うん。」
P「最近、ウチの事務所も人数が増えてきたの、知ってるだろ?」
凛「うん。こないだプロデューサーも一人スカウトしたばかりなんでしょ?ちひろさんから聞いたよ。」
P「・・・げっ。まあいいか。その子たちもいっせいにそこに転学するから、会ったら仲良くしておけよ?」
凛「・・・わかった」
――――葉桜、私立高校、朝、ホームルーム、東京
本田未央「はぁーい!どうもッ!わたくしCGプロ所属の元気印、千葉県生まれで本田未央と申します!
はっはっはー!遠慮はいらないぞ諸君!気軽に、気軽にこのちゃんみお様に声をかけなさるのだぁ!」
凛(・・・濃い。濃ゆい。しかも、おなじ事務所なんだ。)
凛「はい。同じくCGプロ、みたいだね。渋谷凛、東京生まれ。
無愛想なのはわかってるけど、・・・これからよろしくね?」
未央「おおっ、しぶりんもこのクラスだったかぁー!」
凛(しぶりん!?)
未央「噂にはかねがねおききしてましたよーぅ!確かCGに最初に入ってきたんでしょ?」
未央「ウチのプロデューサーもそうだけど・・・しぶりんのプロデューサーも、アツイ、って噂だよね?」
凛「まぁ・・・そうだね。」
凛(昨日・・・なんだか様子、変だったしな)
未央「よっほーい!さっそく昼休みだぜい!」
未央「しぶりんさんや、噂の購買カレーパンダッシュ、なるモノをおこなってみませんとや?」
凛「なにそれ。私そんなにおなか空いてないから、ひとりでいってきなよ。私、ちょっと校内を探検してくる。」
未央「つれないなーっ!ここの名物だって言うのに。・・・ま、学校への慣れ方は人それぞれだもんね。わたしゃいってくるであるよーう」
凛「うん。いってらっしゃい。」
凛(さすが芸能科。転校生へのリアクションもそんなに濃くないし。途中、抜け出して撮影やロケに行ってくる子は何人かいたし。)
凛(逆に朝の撮影を終えて、遅刻してきた子もいる。)
凛(けど、それが出席扱い。芸能活動も授業の一環、ってことなのかな・・・)
凛(・・・そして、私と未央は一限から四限まできっちり授業を受けて・・・)
凛(・・・世知辛いな。ていうか、エグい。)
凛(・・・二階の渡り廊下、長いし、広いな・・・)
???「凛ちゃん、よっ♪」
凛「・・・だれ?」
???「あれ、アタシが一方的に知ってるだけだったのかー」
???「えと、自己紹介するね、今日からこの学校の二年、凛ちゃんと同じプロデューサーの元で、アイドルやるんだよ」
北条加蓮「アタシの名前は北条加蓮、めんどくさい字を書くから、あとで教えるね?」
加蓮「プロデューサー同じだし、いろいろとお世話になるだろうから、・・・仲良くやろうね?」
凛「うん。よろしく。」ギュッ
加蓮「ふふっ。思った通り、やっぱ同じニオイがするなー・・・。ちょっと、屋上行こうよ、セイシュンだよ?」
その2おわり
今日はここまで、その3でアニバくらいまでは行きたいです
こわかったです
>>47 >>50
会話の間を表現したかったんですが、ごめんなさい
文体の統一感を損なわない程度には減らします。読み返したら句点と読点を間違えていた部分もありましたし。
――――東京、東京、どこだろう、いつだろう
加蓮(むかしむかし・・・昔は、昔。)
加蓮(あるところに、カレンちゃんという変てこな名前をした、かわいい女の子がいました)
加蓮(その女の子は、ショウニセイの・・・なにか、ひどい病気にかかっていて、毎日ベッドでお眠りしていました。)
加蓮(ほとんど動けない毎日を送っていた女の子のたのしみといえば、テレビにうつるマボロシだけ)
加蓮(アタシとはかけ離れた・・・元気でかわいい女の子が、歌って、踊って、・・・みんなに元気を振りまいて。)
加蓮(『私もいつか、こんなげんきな女の子に、アイドルになって、みんなをシアワセにする!』・・・いつしか女の子はそんな夢を見て、またおくすりを飲んで、ふたたびベッドに眠るのです)
加蓮(そうして、眠って、夢を見て、お薬に生かされて、眠って、夢を見て、眠って・・・)
加蓮(・・・みんなが中学にあがる頃くらいかな、アタシは、ゲンジツが眠ってしまっている間に、みな夢の中のモノになったしまった、ことに気付いた。)
加蓮(人並みの青春なんか、現実なんかなんにも送れていない・・・今のアタシのほうが、よっぽどおとぎ話に生きているよ。)
加蓮「・・・めんどくさーい。」
加蓮(めんどくさい。)
加蓮(中三頃かな、病気がようやくカンカイして・・・アタシはようやく学校へ通えるようになった。)
加蓮(みんないい子たちだったな・・・小一から、九年間のつきあいがあるらしい子たちもいたのに、アタシにも同じように接してくれた。)
加蓮(・・・アタシが体育を休みたいと言えば、すぐに先生の元に駆けつけて、先生も事情を知ってるから、すぐに許可してくれた。見学しながら、いろいろとオンナノコらしい遊びを、教えてくれた。)
加蓮「・・・ホント・・・どこにしまったんだろ・・・」
加蓮(ペディキュア、塗りたくる、マーブルの・・・記憶。なんでアタシはこんなこと、思い返してるんだか・・・)
加蓮(『マニキュアは生徒指導ですぐバレっからさー、ペディキュア、足の爪のマニキュアね?なら、バレにくいし。・・・加蓮ちゃんも、ムリしなくて済むもんね。』)
加蓮(すぐにアタシの趣味になった。家に帰って薬飲んだらあんま動かないし、教えてくれた塗り方で、爪をひみつにイロドっていく。)
加蓮(みんな・・・忘れて・・・熱中、して。土日や長い休みなんかには、マニキュアもつけて、派手にデコって、・・・どこかに出かける、こともなくて。)
加蓮「・・・なくしたワケじゃ、ないと思うんだけどなー・・・」
加蓮(アタシはとても、悪い子だ。)
加蓮(みんなとの距離の取り方がわからなかった。あっちはホントにアタシの事を友達だと思ってくれてたら、まあ嬉しいけど。)
加蓮(・・・放課後やらに、みんなと遊べるワケでもなかったし。すぐ家に戻って安静にしてなきゃならなかった。休日もそう。また病院、あの病院だよ。)
加蓮(だから・・・みんなには悪いけど。休み時間はテキトーに笑顔して、ここにいないひとの心にもないワルクチを言って、ここにいるひとに心にもないほめ言葉をいう。)
加蓮(・・・でも、みんなはアタシに近づいてきて、決まって、同じほめ方をするんだよ、ね。)
加蓮「・・・アレがないと、カワイくできないのになー。むぅ・・・」
加蓮(・・・アタシがかわいいのとか、知ってるけど。)
加蓮(部活したり、恋したり、ケンカしたり、勉強したり、いい点とったり、悪い点とったり、・・・したことなかった。)
加蓮(青春の汗と希望と、現実の厳しさと絶望の、両方に見放されてたアタシの・・・唯一の、顔。)
加蓮(子どもの頃から、看護師やお医者さん、病室が一緒の子たち、違う病棟の大人たち。・・・みんな夢を知ってるひとたち。)
加蓮(机に眠るように座っていれば、男子なんかが・・・学校に行き始めは、よく聞こえたな、ふふ、丸ぎこえだよ、『アイツめっちゃカワイイな』ってさ。)
加蓮(すっごいギョーソーで、女の子がアタシに話しかけてきて、・・・アタシの写メが、そこらじゅうの中学の男子のあいだで出回っていたらしい。)
加蓮(『まじどーすんのこれ?ホント許せないんだけど!』・・・え?そうかな。どうだっていいじゃん。そんなの)
加蓮(・・・・・・どうせ、アンタも、他の子も、男子も、先生も。みんなみーんな、アタシがかわいいから、優しくしてくれてるだけなんでしょ、違う?)
加蓮(・・・はじめて会った時から、こんなにみんな優しいなんて普通じゃない。たぶん。病気に同情、なんてきっと長くは続かないよ。)
加蓮(ちょっと生意気言ったって、それなりに先生に反抗したって、苦笑いして、ほっといて、みんな許してくれるじゃん。・・・甘いんだよ。)
加蓮(アタシがみんなしてきたいい事なんて、食べれない給食をみんなに配って回ってたことくらいじゃん。違う?)
加蓮(いーのいーの。・・・どうせ私、アタシなんて、顔しか取り柄がない、悪い子だもん。・・・それを武器にしたっていいじゃん。それで得をしたって、みんな損しないじゃん。)
加蓮「・・・見つけた。ようやく、完成かな・・・」
――――はつ夏、ちかき、葉桜の、東京
加蓮(高校に上がるのも適当だったな・・・適当に制服がかわいくて、適当に近いとこで、適当に入れるとこ選んで。)
加蓮(体育の成績とか、普通に考えればヤバいんだけど、そこは先生がうまくごまかしたみたい。)
加蓮(・・・ぶっちゃけ、お医者さんからは、とっくに運動の許可出てたんだけど、・・・いいじゃん、べつに。)
加蓮(めんどくさいし。)
加蓮(めんどくさくたって・・・甘えたって・・・適当にしてたって、アタシいま、生きてるんですけど。)
加蓮(昔とか、今とか、・・・未来とか。そんなんどうだっていい。)
P「すみません、ちょっといいですか?こちら、CGプロのPというものなのですが・・・」
加蓮「スカウト?アタシに?なら、受けるよ?」
加蓮(次の一瞬がよければ、なんだっていい。・・・アタシはそんな女。)
加蓮(他人にちょっと笑顔を振りまけば・・・ね。)
P「えっ、・・・いいんですか?まだそんなに、話も聞いていないのに。」
加蓮「いーのいーの、よほどアレとか、AV半分とか、そんなんじゃなきゃ、いいよ。どんなとこなの?」
P「えっと、アイドル事務所、ということになりますかね・・・?」
加蓮「・・・そっか。アンタがアタシをアイドルにしてくれるの?・・・そか。詳しいこと話したいから、お茶しない?」
P「・・・わかりました、ちょっと、喫茶店を探しましょう・・・」テクテク...
加蓮(将来の事なんてなんにも考えてない、なんなら適当に短大とか出て、適当に主婦とかやればいいと思う。)
加蓮(アタシの顔ならそんなの余裕だし・・・たぶん。けど、まあ、芸能界で生きるのも、・・・悪くない選択かも。って思ってた。)
加蓮(アタシは顔が武器だし?てかとっとと手っ取り早く稼ぎたいし。適当に売れて、適当に顔と肌出して、適当にハクつけて、)
加蓮(あるてーど満足したら、そこで終わり。したらアタシの人生、きっと今よりもっと楽になる。)
加蓮(けど、モデルとかじゃなくて、アイドルか。そーか。そーなんだ。・・・ふふ。)
加蓮(最近はすっごいアイドルブームで、どのチャンネルつけてもアイドルが出てる、アタシが夢を見てた頃よりすごい。)
加蓮(最初憧れてた、ヒダカ・・・なんだっけ、もう本当に夢の中は、夢の中。)
加蓮(・・・まぁいいや。だから、何度か、周りの子も『アイドルになってみなよ〜』とか言うんだけど)
加蓮(『いーよ。そんなん』とか、アタシは適当にあしらってた。・・・あの子たちはアタシの夢、なんて知らないし。アタシは夢は、夢の中におさめてしまってたし。)
加蓮(・・・だから選択肢は、読モとか?背ぇ、そんな高くないし。それか、グラビア?アタシぶっちゃけ、胸デカいしね。)
加蓮(・・・でも、そーか。そーなんだ。アイドルって選択肢も、ちゃんとあったんだね。ふふ。最初から、ないことにしてた。)
加蓮(・・・夢か。・・・私の、アタシの顔を、武器にして。アタシ、の顔が、アタシとして、アタシを現実にする。・・・夢かあ。)
加蓮(中三のとき、周りの子には、マニキュアと一緒に、メイクも習った。高校に入って、周りの子と一緒に、もっさい髪も茶色に染めた。)
加蓮(・・・ゲンジツを、取り戻さなくちゃ。)テクテク...
P「ああ、ここ、静かそうだな・・・。・・・さ、入りましょうか。」
加蓮「さっきから、そのわざとらしい敬語、キモいんだけど・・・。やめてくれない?あ、二名、禁煙でーす♪」
P「へぇへぇ・・・」
P(はーあぁ、あぁ!きれいな子を見つけたと思ったら、絵に描いたような現代っ子だったよ!)
――――葉桜、青山、アメリカン・ラグ・シー、ちかくの喫茶
P(白昼の青山で、なにかぼーっとしてる、きれいな目をした子だな・・・と思ったら)
P(こんなにがっついて来るタイプ、だとは思わなかった。・・・けど)
P(芸能事務所が、アイドル事務所だ、ということを教えた瞬間・・・)
P(最初に即答した時と、目の輝きの、表情の「意味」が違ったような気がしたんだよな・・・)
P(最初の、『やっぱりアタシに来る?わかってんじゃん。アタシかわいいかんねー』みたいな自信、うぬぼれではなく自信の表情)
P(それが・・・なぜだか少しだけ、変わったんだよな。輝いてたのには変わらなかったが・・・。少し、見守ってみるか。)
P「ほいほい、そっちのソファの席について・・・何をお頼みになられますか?お嬢さん」
加蓮「ふふ。キんモーい。はいはい、メニュー見せてよ。・・・ありがと」
P(はーぁ、大人を舐めてるんだか・・・甘えてる?・・・とにかく、そんなに悪意があるようには見えない、な)
P(細かいお礼は・・・いいことだし、意外だけど、なんだか少しだけ、引っかかるけど)
加蓮「私はこの・・・アプリコット、ってヤツがいいな。あなたは?」
P「じゃあ俺はコーヒー、ミルクのみで。」
加蓮「そ。じゃ、店員さーん!お願いしますね♪」
ウェイター「かしこまりました。」
P「・・・そういや、こんなところでぼーっとして、いったい何を?」
加蓮「え?あー、なんかmiumiuのバッグ欲しくってさ。でも高いし。どうしよって。・・・アイドルすれば、すぐ手にはいるのかな?」
P「そんな簡単なもんじゃねーぞ。」
加蓮「へー。・・・そう、か。だよね。」
加蓮「てか、早速だけど自己紹介するね。アタシは北条加蓮。鎌倉幕府の北条に・・・加えるに蓮、で加蓮。変わってるでしょ?」
加蓮「歳は16で・・・高二。そのへんの高校に通ってる、って感じ。加蓮でいいよ。あなたは?」
P「俺はPね。字は今度教えるよ。大学出てそれなりで、・・・加蓮がこのスカウトを受けてくれるなら、俺がプロデューサー、ということになる、と思う。」
加蓮「へえ、まあアタシはもう受ける気満々だし。じゃあ今のウチから呼び慣れておこうかな。プロデューサー、ね?プロデューサー♪」
加蓮「・・・プロ、デューサー、か・・・」
P「ん、まあ、好きなように呼んでくれていいからな。この前スカウトした子なんか、俺の事名前で呼び捨てだし。」
加蓮「そ・・・。ねえ、プロデューサー?さっきも言ったけど、アンタがアタシをアイドルにしてくれるんでしょ?」
P「ああ、そうだ。そういう自信で、やってるんだけど。」
加蓮「・・・でも」水ゴクリ
加蓮「でもアタシ特訓とか練習とか下積みとか努力とか気合いとか根性とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね」
加蓮「・・・ッ、ゲホ・・・ゲホッ、ゲ・・・ゲホッ、ゲホッ・・・」
P「お、おい。大丈夫か・・・。拭くもの、あるから。ハンカチあるけど、使うか?机は拭いておくけど、服は濡れてないか?」
P(な、なんで一息で、一気にそんな長い文章、言おうとするんだよ・・・無茶だ。)
P(・・・にしたって、むせすぎだろ。・・・明らかに無理してる。無理してる?)
加蓮「あ、ありがとう。ちょっと借りるね。へへ・・・」
P(わかったぞ。違和感の正体が)
P(言葉を並べて、態度を並べて、自分がやる気のないことを、必死になってアピールしてる。・・・矛盾してるっつの)
P(アイドル、と聞いて顔の輝きを変えたり、プロデューサー、という言葉にこだわったり、とまどったり、軽く使ったり)
P(いまのありがとうは、さっきメニューを渡した時のありがとうとは、まるで違う。真心の、感謝をしてるありがとうだ。)
P(・・・だが、さっきのありがとう、は、それがつきあいとして当然だから、会話をスムーズにさせる「当たり前」だから、使った言葉・・・)
P(少なからず、礼儀なんてそんなものだが、彼女はありがとう、という言葉のなんたるかを、意義すら知らない。「えっと」なんかと同じ感覚で使っている)
P(無理、してるんだ・・・。みんな。世間の常識に必死について行って、自分の置き所を掴めないままに、周囲にとけこむことに腐心して・・・)
P(彼女には今・・・現実がない。)
加蓮「ゴメンね。見ての通り、どうせ、体力もないし・・・」
P(ま、今は深くは事情を聞かないでおくか・・・)
加蓮「それでもいい?ダメぇ?」
P「・・・あぁ。いいよ。人それぞれにアイドルがいるのなら、アイドルも人それぞれだ。・・・きみの事情を、派手に変えやしないよ。」
加蓮「ふふっ、やったやった♪プロデューサーったら、やっさしーい♪アタシがアイドルになるのなんて、そんなもんだよね。」
P「あくまで加蓮のペースにあわせて、まあ、俺がどうにかするつもりだから・・・」
P(・・・ま、自分の顔に自信があるのは事実っぽいな・・・。すこし危ういけれど・・・)
加蓮「アタシの日常、変わるんだね。プロデューサー?現実が・・・」
P「うん、せいぜい稼いで札束の風呂にでも入っとくといいと思うよ。」
加蓮「なにそれ、適当だなー。ま、あとでお母さんに連絡しておいてよ。きっと一瞬でOK出ると思うから安心してねー!」
P(そして・・・なにやら強烈な目的意識)
P(凛に、少し、似て、・・・ない)
――――葉桜、渋谷、CGプロ
加蓮「おはようございまーす。はじめましてー」
ちひろ「あ、はじめまして。新人アイドルの子ね?えっと、今からプロデューサーがつくと思うのだけどね・・・」
加蓮「いや、アタシのプロデューサーって、そこの人、でしょ?」
ちひろ「・・・え?」
P「・・・よっす。初対面で目上のかたを前にして、俺を「そこの人」扱いするのはやめてくれ。」
加蓮「あっそ。ごめんね?名前忘れちゃったからさ、プロデューサーの。で?ウチの親とは?うまく行ったでしょ」
P「・・・ああ。拍子抜けするほど。」
加蓮「ふふ、やっぱり」
P(・・・。)
P「・・・じゃ、適性とか見るから、ちょっとレッスン場まで来てくれ」
P(歌はまあまあうまい。声量はないが。自己表現、魅せかたはさすがの一言だな、よほど自分の容姿に自信があるのか・・・それだけを頼りにしてるのか。)
P(演技は、・・・まだなんとも言えないな。問題は・・・このダンスとも呼べないなにか・・・)
P「おい、もういいから、スタドリ飲んどけ、休憩しとけ。」
トレ「いや、まだ北条は、基礎の基礎すら達してない段階でな・・・」
P「プロデューサー判断です。」
加蓮「・・・ふ、ふふっ。プロ、デューサー。ホント、甘いよ・・・・・・」
P「・・・いまの内だけだ。」
加蓮「・・・どう、だ、か・・・」
・・・
加蓮「・・・ねえ、プロデューサー?」
P「ん?もう、大丈夫か、無理に上体おこすなよ・・・?」
加蓮「ふふ。もう大丈夫。でさ、他に、担当してる子・・・アイドルって。いるの?」
P「あ、そうだ。ホントはオフィスのほうで、資料を読んでもらおうと思って、タイミングなくて持ってきてたんだけど・・・」
P「ほれ、これがその子だ。名前は渋谷凛。あと目下、交渉中の子がひとりいる。ま、余裕があったら他の資料にも目を通しておいてくれ」
加蓮「ふぅん・・・。かわいい、ってか美人系だね。すっごく。この子。」
P「ああ、学年は下だけど、たぶん学校で一緒になるから、仲良くしておいてくれよ。」
加蓮「うん。なんか、きっと仲良くなれる気がするし。・・・なんか、私に似てるし。」
P「・・・顔が、か?」
加蓮「ううん、そんなんじゃないよ・・・。ねえ、プロデューサー。」
P「なんだ?」
加蓮「私、夢の、じゃなかった、現実の、この現実の、一歩目をちゃんと、踏み出せたのかな・・・?」
――――葉桜、私立高校、昼、昼休み、東京
加蓮(へえ・・・。渡り廊下から、校庭が見えるんだ・・・。)
加蓮(男の子たち、サッカー、してる。背中の、Overmarsって、チーム名かな?火星を越える、って、変なの。)
加蓮(・・・あれ、一階から、来る子がいる・・・。・・・間違いない。)
加蓮(反抗的で、挑発的な目つき。官僚の正論みたいに鋭い長髪に、したたかで長い脚。)
加蓮(自分以外は信じない。誰にも指図されずに、自由に生きる。・・・孤高の女)
加蓮(Don't Trust Over Thirtyを地で行くような足どりで、二年生の階まで上ってきた。)
加蓮(・・・ふふ。あなた、ずいぶん見た目怖いんだよ?アタシは怖くないように、努めてきたんだけどね・・・怖いクセに)
加蓮(・・・うん。やっぱり似てる。見た目だけで、もう確信しちゃえるよ、アタシは・・・)
加蓮「凛ちゃん、よっ♪」
野球が始まる前に、とりあえずここまで
ホントに予告通り、今日中にアニバまで終わるのでしょうかね
>>65修正
加蓮「あ、ありがとう。ちょっと借りるね。へへ・・・」
P(わかったぞ。違和感の正体が)
P(言葉を並べて、態度を並べて、自分がやる気のないことを、必死になってアピールしてる。・・・矛盾してるっつの)
P(アイドル、と聞いて顔の輝きを変えたり、プロデューサー、という言葉にこだわったり、とまどったり、軽く使ったり)
P(いまのありがとうは、さっきメニューを渡した時のありがとうとは、まるで違う。真心の、感謝をしてるありがとうだ。)
P(・・・だが、さっきのありがとう、は、それがつきあいとして当然だから、会話をスムーズにさせる「当たり前」だから、使った言葉・・・)
P(少なからず、礼儀なんてそんなものだが、彼女はありがとう、という言葉のなんたるかを、意義すら知らない。「えっと」なんかと同じ感覚で使っている)
P(無理、してるんだ・・・。みんな。世間の常識に必死について行って、自分の置き所を掴めないままに、周囲にとけこむことに腐心して・・・)
P(とんでもない・・・、天性の、嘘つき。それも、嘘を嘘だと自覚していない・・・)
P(彼女には今・・・現実がない。)
とんでもないミスでした・・・。すみません。
>>75
加蓮がそう思ったのだから、仕方ないと思います。
Pに関しては、折り目正しい日本語を使いたいと思いますが、他の子に関しては、あまりそういうのにはこだわらない方向で。
>>79
すみません、次回作では善処します。
凛「・・・屋上?加蓮さん、そんなものがあるんですか?この学校」
加蓮「うん。なんかクラスの子に聞いてね」
加蓮「てか、凛ちゃんさー。ゲーノーカイじゃ一応アタシの先輩なんだし、ため口にしようよ。・・・しなよ」
凛「・・・うん。わかった。ていうか、その『凛ちゃん』っていうのもやめてくれる?」
凛「・・・なんか、お母さんに呼ばれてるみたいで、子ども扱いされてるみたいで。ウザいから。」
加蓮「ふふ。・・・やっぱ思った通りの子で安心した。」
凛「・・・?ねえ、加、蓮。思った通りって、どういうこと?」
加蓮「ふふふ。思ったことは思ったことだって。じゃ、ついてきて♪アタシアクエリもってきたから、まわし飲みしよっか。」
凛(・・・なんだか、いやな予感がする。というか、勘違いされてる予感がする・・・)
凛(・・・私とは違って、かわいい子、なんだな。ネイルもメイクも決めてあるし。)
凛(勝ち気な瞳。ちょっと地黒の肌。髪は両サイドで縛ってて・・・おしゃれなシュシュ。)
凛(いかにも、いまどきのJKした。遊んでる子、って感じ、がするけど。)
凛(・・・そういえば、さっきも『セイシュンしよ?』なんて、言ってたし)
凛(・・・実際遊んでるんだろうな。人当たりよくて、モテそうだし。)
凛(・・・・・・でも、そんな子、プロデューサーがスカウトするかな?)
凛(私にはあれだけ、今までの青春を捨てろだの、言ってきたのに。)
凛(・・・なんか、裏がありそう)
加蓮「どしたの?もう屋上つくよ?考え事?」
凛「え、あ、うん。・・・ちょっとね。」
加蓮「そ。凛って、アタシだけじゃなく、プロデューサーにも似てるね。ふふ」
凛「・・・閉まってるじゃん。だろうと思ったけど」
加蓮「だいじょーぶ。この針金、クラスの子が貸してくれたんだよね」
凛「針金!?」
加蓮「そ。なんでもこの鍵穴にあうようにあわせて作られた、特製のものらしくて・・・」
加蓮「ちょっと待ってて・・・。今開けるからさ・・・。」
凛「ねえ、どうして、クラスの子は屋上のこと教えてくれたの?こんなお手製のものまで貸してくれて・・・」
加蓮「ん。そりゃあさ、クラスの男子に、『アタシ青春したーい』とか言ったら、一発だった。ふふ」
凛「勘違いされるよ!?」
加蓮「・・・アイドルなんだから、男の子に好かれてナンボでしょ?」
加蓮「・・・それにこの針金程度じゃ、アタシの点数なんて、稼げるわけないんだし。・・・それに」ガチャリ
加蓮「ほら、空いたよ?行こう?・・・・・・アタシだって、ふつーの女の子なんだよ」
――――五月、私立高校、屋上、無風
加蓮「うわーい。たっけーなぁ・・・。ホントに自由だね。誰もいない、誰も見てない、誰のソクバクもない・・・」
凛「そうだね。私はいるんだけど」
加蓮「そういう意味じゃないって。・・・ま、普通の高校よりは、ここ自由だと思うけど」
凛「そうだね・・・。制服も自由だし、ま、みんな適当な制服風なの着てるけどさ・・・。それに、加蓮のネイルもずいぶん派手だしね」
加蓮「そう!今日は転校初日だから気合い入れてさー、右手に"K""A""R""E""N"ってしてみた、らさ?みんなマジ食いついてきてね。いいきっかけになったよ。でさ、凛、お昼ご飯たべた?」
凛「ううん・・・。しばらく校内巡ったら、購買でパンでも買おうかな、って思ってたから」
加蓮「そ・・・。じゃ、アタシのカロリーメート食べる?半分こだよ、半分こ」
凛「いいけど・・・。加蓮のお昼、それだけ?」
加蓮「え?あー、一応、そう。」
凛「・・・大丈夫?学校終わったら、レッスンだよ。」
加蓮「あ、へーきへーき。今日のレッスン、てか、アタシの方針が、そんな踊ったりしない、アレらしいし。」
凛「そうなんだ。私はトレーナーにこってりと絞られるから、ちょっとそれじゃ辛いかな?」
加蓮「じゃ、帰りに買い食いでもしていけばいいよ。・・・屋上には、いて。」
凛「・・・?そう、別にいいけど」
加蓮「ありがと。・・・てか、なんなんだろうねー。同じプロデューサーなのに、活動方針の違い、ってヤツなのかねー。」
凛「・・・そうかも、ね。」
凛(昨日のプロデューサーは、おかしかったな)
凛(『これじゃあ足し算にもならないな・・・』なんてひとりごとして)
凛(私と加蓮の、ことなのかも。加蓮、どうも真面目そうな子には、まだ、見えないし。)
凛(・・・でも、私はこの子を引っ張り上げられる自信があるよ。私は自分の力を信じてる。・・・プロデューサーも、それをわかってくれてると、思うのに)
凛(そういえば、こないだの、宿題やってた時から、私へと対応が、ちょっと変だったな・・・)
加蓮「・・・すぐ考え込むんだね。凛って。やっぱ頭よさそ。・・・てか、仮衣装みた?アタシは水色系統の、なんか清楚系な感じだったけど・・・」
凛「・・・私も見た。なんか、黒のゴシック系で、なんていうか、かっこいい系、かな?」
加蓮「ふふ。・・・じゃ、ホントにプロデュース方針、違うんだね。」
凛「・・・ていうかさ、そういえば、さっき加蓮が言ってた、私とプロデューサーが似てるって、どういう意味?」
加蓮「ん?・・・どしたの?もしかして、凛もプロデューサーのグチ、てゆか、カゲグチ言いたくなった?」ガシッ
凛「・・・近いよ。・・・いや、だから、どうして?」
加蓮「いやーさー、プロデューサーって、ホント強引だよね。言ってること滅茶苦茶だし。」
凛「それは・・・。私も、思うかも。」
加蓮「だよね!?いきなり黙ったかと思ったらさ、・・・そこが凛に似てるんだけどね、で、突然トッピなこと言い出して・・・」
加蓮「マジ、ウザい。・・・と、思わない?」
凛(同意を・・・。求められてもな。)
凛「加蓮はさ、じゃあ、どんなことされたの?」
加蓮「だってさぁ、アタシが毎日毎回フラフラになって、事務所に来てるってのに、毎度なんか、変な事言ってレッスン場に連れ出すし・・・。ホントめんどくさーい」
凛(・・・ん?なんか、引っかかるような・・・?)
加蓮「アイドルなんて、適当に・・・じゃない、普通に歌って、踊って、そんで稼いで、普通に引退して、普通の日常に戻って・・・そんなもんじゃないの?」
加蓮「なのにずっと練習、練習、なんのためかもわからない練習。マジだるいって。」
加蓮「ホント、あの青木ってトレーナーさんと、プロデューサーって、グルになってアタシたちをいじめてんじゃないの?」
凛「ま、たしかにあの人はキビシいよね・・・。」
凛(さっきから、この子はやけに、「普通」にこだわってるような・・・。別に流れ的には、「適当」でもいいのに。というか、そっちのほうが自然、かも。)
凛(普通、青春・・・なんだろう。さっき、やけにここに留まろう、としたし。)
加蓮「はは・・・。はぁ。すっきりした。共通の話題、共通のプロデューサーを持ってるのなんて凛だけだしさ。・・・こんなことはなせるの、凛だけだよ。」
加蓮「こうやってさ・・・。これからもたまに、凛と、この誰にも見られない屋上で、自由なところで、羽根をのばしてさー・・・」
加蓮「こうやってよくある、知り合いのカゲグチなんかも言ったりしてさ、そういう青春っぽいことして・・・。そういう日常を送れたら、いいな。」
凛「・・・そ。」
凛(・・・なんとなく、わかったかも。)
凛(・・・そんなにフラフラで、めんどくさいなら、はじめから事務所なんか来なけりゃいい。)
凛(あのプロデューサーなら、きっとその辺、わかってくれるはず。)
凛(でも、この子・・・加蓮はそうしない。毎日、毎日事務所に来る。・・・きっと鉢合わせしなかったのは、私の前の高校が、渋谷に近かったからかな・・・?)
凛(・・・それで、きっと、なにか新しい日常、普通、青春、・・・居場所。そんな物を求めてるんだ。私にも。たぶん、プロデューサーにも。)
凛(・・・だって、さっきからこの子、「勝ち気な瞳」が、すぐに壊れてしまいそうで、見てられない・・・。なにか、自信が揺るがされることでもあったのかな・・・?)
凛(・・・とにかく、わかった、私は、渋谷凛は、この子を、加蓮を守る。年下とか、関係ない。アイドルの仲間、対等に、ね。こんな・・・もろい生き物は。)
凛「そいえばさ、たぶん加蓮って、勘違いしてると思うんだけど。・・・私の見た目的に。」
加蓮「・・・どゆこと?」
凛「私って、実は友達、結構多いんだよ?」
加蓮「・・・え?アタシそんな、アレなこと言ったっけ?」
凛「だってそうじゃん。加蓮はさっきから、自分に友だちがいかに多いか、すぐ作れるか、みたいなことを言っててさ。」
凛「一方私には、『こんなことを言えるのは凛だけ』、なんて、信頼と尊敬を強調する。唯一、を強調する。」
凛「慣れてるから・・・さ。近寄りがたくて、プライド高そうな女、とか言われんの。実際、無愛想だしね。」
加蓮「・・・ごめん。」
凛「謝んなくていいって。それが"普通"だから。私も前の高校でそうなりそうだったけど、ちゃんと、親友・・・A、とかBとか・・・が出来てさ。」
凛「すごいささいなきっかけから、とっても仲良くなってね。たった一ヶ月半くらいなのに。だけど、こないだの送別会の時にすっごく泣いてさ、こんなに楽しい日々を手放して・・・」
凛「飛び出した新しい日常に、ちゃんと慣れるかな、って不安だった・・・。けどもう大丈夫なの。・・・仲間が出来たから。」
凛「・・・北条加蓮は、私の、この学校での親友、第一号だよ?」
加蓮「・・・凛・・・、私・・・。」
凛「ふふ。泣かないの。キャラじゃないよ?ハンカチあるから、さ。・・・・・・ねえ、よかったら、私にも話して?加蓮の、今まであった」
凛「・・・楽しいこと、とか。」
――――五月雨、ながく、23区、渋谷生花店
凛「さ、早く入って、濡れちゃうよ?」
加蓮「うん、ありがと。・・・お邪魔します。」
凛「今日も髪型、変えてきたんだね。」
加蓮「そ。今日はワンサイドにして、シュシュはイエロー系にしてみた。似合ってるかな?」
凛「うん。似合ってる。というか、やっぱ加蓮はすごいね。自分のルックスにすごくちゃんと気をつかってて。アイドルの鑑だよ。」
加蓮「ふふ。ありがと。凛だって、すごいじゃん。そのストレートヘア。どうやってケアしてんの?アタシじゃそんなのめんどくさい・・・」
凛「えっとね、お母さんが、そういうのにこだわっててさ。ウチの職業柄、すっごくいい椿油とかもあって・・・」
加蓮「そういえば、聞いてたけど。凛の家、ホントにお花屋さんなんだね。きれい・・・」
凛「意外でしょ?」
加蓮「ううん。そうでもないよ。この季節は・・・やっぱりシクラメン。色も豊富なんだね。すごい・・・」
加蓮「・・・アタシ、花はちょっと詳しいけど、花屋には来たこと、なくってさ。ふわぁ・・・」
凛(・・・そんなに花屋って、普通の女の子には縁遠いものなのかな。・・・花屋の娘には、わからない、よ)
凛「ふふ。じゃあちょっと、見てていいよ。」
凛「おかあさーん!ちょっと店番かわってもらっていーいー!?」
<マッテヨー!オトウサンハ、カイツケイッテルシ、ワタシハイソガシイシ・・・
凛「忙しいって、どうせハナコのことでしょー!」
<ソーヨ。ハナコチャン、ドロデヨゴレチャッタカラ、イマオフロイレテアゲテルノ!
凛「なにそれ!?私、もう友だちと部屋にあがってるからねー!」
<エッ、ハナコチャンノセワ、ドウスルノヨー!?マダフロオワッテナイシ、ミセバンノトキモダレガセワスルノ!?
凛「おかーさんが、お風呂に入れてから、一緒に店番してればいーでしょー!ったく・・・部屋いこ?」
加蓮「・・・いいの?しばらく店を開けちゃうことになるけど・・・」
凛「・・・いいんだよ。」
凛「・・・こんな雨の中、誰も花なんか、見に来たりなんかしないよ。」
加蓮「・・・っ」
加蓮「こーこが凛の部屋かぁ・・・。案の定、ちょっと殺風景というか。」
凛「・・・悪かったね。あんまりモノを置かない主義なの。」
加蓮「いや、悪口じゃないよ。シンプル・イズ・ベストってゆーか。」
凛「はぁ・・・。まあ、さ、今日はお互い、オフでよかったね。・・・喜ぶべきモノじゃないかも、だけど。」
加蓮「はは、アイドルだからね・・・。でも、凛はさ、レッスンすごく頑張ってるじゃん。それを見越して、プロデューサーもオフを入れたんだと思うよ?」
凛「はは。ありがと・・・。けど、加蓮はもう、ショッピングモールなんかで、ちょっとした活動も始めてるんでしょ?」
加蓮「うん。・・・おかしいよね、凛のほうがよっぽど歌もダンスも、努力してんのにさ。」
凛「そんなことないよ。加蓮の歌声ってとってもキレイだし、あの水色衣装と合わせて、自分の見せ方を知ってる。って感じがするもん。」
凛「・・・だから、もうステージに出してもいい、って判断なんでしょ。・・・そういうの、プロデューサーの、判断することだからね・・・」
加蓮「・・・うん。うざいけど、ホントにうざいけど・・・。アイドルにしてくれたプロデューサーには、ホントに、感謝してるかな・・・?」
加蓮「・・・アタシのこの一瞬を、作ってくれている人だから」
凛(・・・よかった。加蓮もちょっと前に比べれば、私がいることで、すこし柔らかくなったの、かな?)
加蓮「・・・ところでさ、凛。灰皿って、ないの?」
凛「・・・はあ?」
加蓮「凛ってクールで、大人っぽいし、目上にもはっきり意見するし・・・。なんかオトナにタバコ、吸ってそうだな、って」
凛「・・・そんなことするわけないでしょ?だいいち、本当に吸ってたら、加蓮と一緒のプライベートな時にも、吸ってるはずでしょ?」
加蓮「・・・雨の中に、花を見に来る人なんていないんでしょ?」
加蓮「・・・アイドルがタバコなんて、絶対に見られるわけにはいかない。けど、わざわざアイドルの部屋の中を覗きに来る人は、なかなかいない。・・・秘密の花園、って感じ?」
凛「バカなこと言ってないで、私が見た目通りに思われるの、苦手なの知ってるでしょう?」
凛「ピアスつけてたって、・・・べつに不良ってわけじゃない。悪い子、ってわけじゃないから。」
加蓮「・・・」
加蓮「・・・そ。」
加蓮「それじゃ、アタシは携帯灰皿持ってきたから」
凛「・・・はぁ?」
凛(妙にババくさい・・・小物もおしゃれな加蓮らしくないデザインだけど・・・ね・・・)
加蓮「これ?このタバコはピアニッシモっていって、1mgで軽くて、ニオイも全然しなくて」
凛「そんなこと聞いてない!」
加蓮「・・・聞かせてないし。じゃ、吸うから」ジュボッ
凛「やめて!」バチーンッ!
凛「なんで?なんでタバコなんか吸うわけ?反抗心?大人、になりたいから?」
凛「なんでそんなもんで大人になれるとなんか思ってるの?そんなものが加蓮を大人に引っ張り上げるとでも思ってるの?・・・大人は、何にも頼らず、自分の力で立っている人の事を言うんだよ!」
凛「・・・って、加蓮?」
加蓮「ゲホッ、ゲフゲホゲホッ、ゲホッ、ウェッ、ゲホッ、ゲホッ――」
凛「大丈夫!?・・・まずは水飲んで落ち着いて、ね?」
加蓮「――」
凛「まずはお手洗い、いこ?深呼吸、できなくてもいいから、心がけて?・・・立てる?」
加蓮「――」
凛「無理、か。」
凛「(おんぶ、できちゃった。・・・かるい。信じられない。)大丈夫?ホント気付いてあげられなくて、ごめんね?すぐだから、お手洗い。」
加蓮「――」
凛(無理。加蓮。加蓮。なんでこんなに、無理してるの・・・?)
加蓮「はー、はー、ひっく、はー、はー・・・」
凛「・・・落ち着いた?」
加蓮「・・・うん。ゴメンね。二度と、タバコ、なんて。吸わないから・・・」
凛「なんで、こんなことしたの・・・?」
加蓮「私・・・アタシ、めんどくさいの嫌いで、しょ?だから、指図されるのも、嫌いで、大人って、嫌いで・・・」
加蓮「モラルとか、法律とか、・・・健康とか、そんなの、関係ない。この一瞬が楽しければ、それでいいじゃん・・・」
加蓮「憧れ、てたの。自由な生き方。流されない生き方。アタシらしい生き方。かっこよく・・・」
加蓮「で・・・凛もそんな子だと思ってた。憧れ・・・てた。アタシが知ってる中で、一番大人で、そんな子に、全部否定されちゃうんだもん」
加蓮「勘違い、してたの・・・、いや、勘違い、してないのかな・・・凛はかっこよくって、不良、とかじゃない、んだ」
凛「うん・・・勘違い、してないよ。けどね・・・?」
凛「私が流されない生き方、なんてしてるように見えるのなら。確かにそうは心がけてるけど・・・。」
凛「それは今、この一瞬が苦しくても、流されないからなんだよ・・・?」
凛(・・・今、加蓮が言ったことがすべてじゃ、ない。)
凛(・・・今言った『アタシらしい生き方』、前言った『普通の日常』、両方求めるのは、矛盾してる。みたいだけど・・・)
凛(そうじゃない・・・。矛盾してない。)
凛(みんなの普通、にどういうワケか慣れてない加蓮が、必死にその普通をつかまえようとする。つかまろうとする。)
凛(無理にみんなにあわせて、無理に普通の日常を演じて、そんな無理無理な土台で、「アタシだけ」を抱き上げようとしてた。)
凛(だからこんな、普通じゃない、非常識な、無理なことをしたんだ。)
凛(どんな過去があったんだろう、もう、無理に聞ける段階じゃない)
凛(親友・・・。だから、話してくれるまで、待つしかない、かな)
凛(・・・だから、プロデューサーも、日常を捨てろ、なんていってな、かったり?)
凛「このタバコ、ピアニッシモだっけ?・・・どうしたの?」
加蓮「お母さんの。アタシに隠れて外で吸ってるみたいなんだけど、普通に知ってたから。」
凛「そ。だから携帯灰皿も加蓮のっぽくなかったんだ・・・。」
凛「じゃ、ニオイとか、その他うんぬんの話しは?・・・まさか経験談?」
加蓮「そんなわけないじゃん・・・。ネットで調べたの。銘柄見て、評判を。・・・ねえ?」
凛「・・・なに?」
加蓮「プロデューサーには黙っておいてくれる・・・?あの人、すっごく甘い、けどさ・・・」
凛「うん・・・(甘い、というより、あのプロデューサーだったら、もっとうまく諭して、事前にやめさせたと思う・・・)」
凛「・・・ねえ?」
加蓮「・・・なに?」
凛「加蓮は、二度とタバコなんて吸わないと思うけど・・・それは大人になろうとするのがダメだからじゃない。」
凛「モラルだからダメ、だからじゃない。法律だからダメ、だからじゃない。もはや・・・健康に悪いからダメ、だからじゃない。ましてやアイドルだからダメ、だからじゃない。」
凛「加蓮が・・・加蓮だから。あなただから、あなただけだから、ダメ。いーい?」
加蓮「・・・わかった」
凛「加蓮は大切な仲間で・・・私はすごく頼りにしてるの」
凛「だから、・・・私は加蓮を、できる限り守るよ」
加蓮「・・・おねがい。」
加蓮「ふふ。やっぱ凛って、アタシより・・・全然大人なんだね。年下で・・・どの一瞬にも。」
――――バイウ、紫陽花、東京、渋谷、CGプロにて
P「はい、紹介します。今日からCGプロに参加して、俺ーサマのプロデュースに従うことになるぅ・・・」
P「神谷奈緒さんです。17歳で、ぶっとい眉毛の。」
神谷奈緒「おいP!なんだその紹介の仕方ッ!別にいいだろ!眉毛関係ないだろ!自己紹介に!」
P「・・・てな感じで、万事こんな調子だから、先輩としてよろしく頼むぞ?凛。」
ちひろ「ぱちぱちぱちぱちー♪」
P(・・・。)
凛「うん・・・。もう知ってくれてると嬉しいけど、私は渋谷凛。よろしくね・・・?奈緒、ちゃん。」
P「・・・ホントは、加蓮より前にスカウトしてた子なんだけどな。なかなか本人からのOKが出なくてな・・・。」
凛「な・・・!?奈緒ちゃん、まさかこのプロデューサーの口車に、乗せられなかったの?」
P(ひでえ言いぐさ。15歳に。泣いてもいいのでしょうか。社会人が。大卒の。職場で。オフィスで。)
奈緒「だっ、誰が乗せられるかっ!?あたしがアイドルになれるとか、かわいいカッコしてみないか、とか・・・」
P「・・・なぁ凛、何が一番苦労したってさ。この子むっちゃ素直じゃないんだよ。半端なく。」
凛「・・・どゆこと?」
P「そういえば奈緒、今日のお前はいっそうカワイイな!」
奈緒「ふっふざけんなっ!か、カワイイとか・・・あたしがかわいいわけないだろ!・・・う、嬉しくなんかないんだからな!」
凛「・・・なるほどね。」
P「・・・で、スカウトしてからの準備期間も長かったから、もう仮衣装もあがってる、ってわけ。」
P「・・・千川さん。お願いします。」
ちひろ「はいはーい。じゃじゃーん♪」
P「・・・。」
凛「黒の・・・ゴシック系衣装?」
P「そう。奈緒のボリューミーなロングヘアや、キッとした目つき。・・・よく合うと思わないか?」
奈緒「な、なんだよこれ!あたし初耳だぞ!初見だぞ!こんなフリフリ衣装着るなんて、一度も聞いてないぞ!」
凛「・・・これって、私と」
P「・・・そう、お揃いなの。これからお前らには、ユニットとして活動してもらうことになる。・・・あくまで暫定、だけど。」
凛「・・・事務所に入って、いきなり?どうして?」
P「あのな・・・奈緒のキーワード、『素直じゃない』のほかにもう一つ、『仕方ない』がある。・・・試しに凛、奈緒の衣装を誉めてみろ。」
凛「あのね、奈緒ちゃん。私としても、この衣装、プロデューサーの言うとおりで、とってもお似合いだと思うよ?」
奈緒「・・・!?・・・し、仕方ねえな。そこまで言うなら着てやるけど、・・・笑うなよっ!別にPが誉めたから着るんじゃないんだからな!Pのためじゃねえぞ!凛ちゃんのお陰で、仕方なくだからな!」
凛「ふふ。なるほどね、プロデューサーが私とこの子を組ませたがった理由、わかった気がする」
P「ああ、察しがよくて、お前にはいつも助けられてるよ。じゃ、青木さんのところに行ってきてくれ。」
凛「・・・プロデューサーは?」
P「俺はもーちょっと、千川さんとの共同作業で、事務処理がある。なにしろ初のユニットだし、新アイドルだしな。」
凛「・・・わかった。奈緒ちゃん?」
奈緒「・・・なんだよ。」
凛「そんなつんけんしないで・・・行きましょう?レッスン場。わからないところは教えてあげる。自信あるから。」
奈緒「ふ、ふんっ!仕方ねえな!ならとっとと行くぞ!」
凛「・・・ふふ。」
P(・・・さて、やかましいのが去って。懸案にひとつ、荒療治を施してみようと思うが・・・)
P(凛が俺の意志を「汲み取った」、って思ってるなら、まあ今のところは成功だな・・・)
P(「仕方ない」・・・との化学反応で、どう変わってくれるのやら。願わくば思惑通りに・・・)
P(奈緒も、・・・凛も。・・・・・・加蓮、もか。)
とりあえず今日はここまで
体力が余ったらりんなおかれんがどたばたするあたりまでは書きたいです
今後は読みやすいSSを目指します。
というか、加蓮があの登場セリフを一気呵成に言うシーンだとか、
ピアニッシモなシーンが終わったので読点の乱舞はもう減っていくと思います。
凛(プロデューサーも。ふふ。人が悪いな)
凛(「仕方ない」。そんな動機でしか動けない子を、私が自発的な、自分の力を見せるによって導いて・・・)
凛(ま、それに私が先輩として指導すれば、「仕方なく」奈緒ちゃんも動いてくれるってわけだし)
凛(そうすれば私に追いつけるよう、「仕方なく」、自分の努力、自分の力でうまくなろうとする)
凛(私もそれによって刺激されて、もっと自分を高めていって・・・)
凛(ふふ。理想、のユニットじゃん。)
凛(・・・なのに、なんでまだ、暫定、なのかな?)
凛「・・・あ、ここね。レッスン場は。中にいる青木さんってトレーナーはホント怖いから、覚悟しときなよ。」
奈緒「ったく、しょぉがねぇなーっ!」
P(「仕方なく」を、「自分から」、にする)カタカタ...
P(凛はそんなことを思ってるんだろう。アイツは自分の力しか信じない、からな)カタカタ...
P(それが俺があの子を買った理由。めちゃくちゃな本音をぶちまけてまでスカウトしてきた理由。)カタカタ...
P(だけど、それじゃあダメなんだ。今・・・)カタカタ...
P(・・・あ、曲のベース音が・・・ほんのりと聞こえる。始まったんだ、レッスンが)カタ。
P(青木さんと相談して、予告無しの新しい課題曲・・・防音だから全然聞こえねえけど。)
P(さあ、どうする。宿題だから、宿題をする女)
P(・・・って、だからこそ、こなしそうなもんなんだけど。)
P(・・・そう、こなす、ね。・・・加蓮か。)
P(凛と加蓮の関係性を煽ったのは俺だが、あんな方向に進むとはすこし計算外だわ。思春期はげに恐ろしいな・・・)
P「・・・ラベンダー、のアロマじゃないですか。いいじゃないですか、千川さん。」
――――五月雨が、梅雨になるまで、CGプロで、夕方の
凛「おはようございます。・・・お疲れさま、加蓮。今日もまた、トレーナーさん?」
加蓮「おはよ、凛。・・・ふふ。ありがとね。今日は他のトレーナーさんだった。・・・マジだっるいって。」
加蓮「・・・ってか、凛は今日、遅かったね?なんかあったの?」
凛「ううん。今日は両親がどうしてもはずせない用事があるらしくて、しばらく店番を代わってただけ。」
加蓮「・・・ふふ。なんかあった、んじゃん。」
凛「そうじゃなくてね、・・・そういうどうしようもないことは、仕方のないことは、「なにかあった」の内に入らないだけ。」
凛「そう思ってないと・・・もっとどうしようもないことが起きた時に、おかしく、なっちゃうよ?」
加蓮「ふふ。・・・ありがと?」
凛「まあいいや、私はこれからレッスンだけど、加蓮はどうする?」
加蓮「ん。・・・じゃ、まあ、見ていくかな。」
凛「わかった。いこ」
P(・・・わたくしめは無視でごぜーますかおぜうさま。)
P(波長が合うとは、最初から思っていたんだが・・・)
P(二人とも短いあいだにずいぶんと仲良くなったようだなあ)
P(・・・ちょっと危ういくらいまでには)
P(・・・いろーんな意味で。)
P(・・・すくなくとも凛のほうは、加蓮のことを守ってやらなくちゃいけない。そんな使命感に燃えているんだろ、う。あの説教まがいを見るに。)
P(・・・お前も含めて、それは俺の役割だっつーのにな。まあいいけど。)
P(で、あの使命感とやわらかな口ぶり、いちいち気を遣う言動・・・。親友、なのにな。・・・それはたぶん、凛も気付いたんだろう。)
P(加蓮が、無理をしていること。・・・あいつには、人を見る目がある。だから、あの態度や容貌でも、人が勝手に集まってくるんだろう。・・・カリスマだな、一種の)
P(・・・でも、どうやら。その「無理」の内容のこと、どうして無理するのか、ってこと、わかってない、みたいだな。)
P(俺に言わないのはある種当然として。・・・加蓮も初めての、心からの親友だろうに、凛にも言わないんだな・・・)
P(おおうそつきめ。)
P(加蓮には、早くから「アイドルらしい」仕事を、頑張ってねじ込んで、実感させたつもりなんだがな・・・)
P(加蓮。加蓮。お前はまだ、現実を。アイドルという、現実を。つかまえて、いや、捕まえようとしていないのか・・・?)
凛「・・・はぁ、つかr・・・いや、充実した、な。ってプロデューサー?まだいたの?」
加蓮「あ、プロデューサー、お疲れ様。まだ頑張ってるんだ?すごいね、見てるだけでこっちまで疲れてくるよ・・・こんな遅くまで?」
P「はぁ。凛は、知ってるだろ?たまにお前、レッスン遅くなるし。んで俺が、たまに結構遅くまでざんぎょーがあらせられる、ってこと。」
加蓮「・・・へぇ、もう終わってるみたい、だね。」
凛「・・・私が来た時、ずいぶん暇そうにしてたじゃん。・・・さ、もう仕事も終わりだ。そんな雰囲気だったよ?」
P(あ、このおじょーさま、あてくしのことを多少なりとも気にかけてくださったのですね。感謝感激雨ナマステですよ。)
P「・・・はぁ、途中から追加で仕事が入ったんだよ。そんだけ」
加蓮「・・・もう、こんなに遅くなったのはじめてだし。・・・ね、プロデューサー。もしかして送ってくれたりする?」
P「もちろんだろ、こんな遅くに、だいじなアイドル様だぞ。・・・凛なんか見てみろ。もう俺がなにか言う前に、帰りの支度済ませてるんだからな。」
凛「・・・ふふ、私がなにか言う前に、いつも黙ってさりげなく送っていこうとするからでしょ?・・・信頼してるんだよ、プロデューサー。」
P「・・・そりゃどーも。」
加蓮「・・・ふーん。」
――――五月下旬の、午後10:11分ごろの雨、東京都、渋谷生花店前で
凛「それじゃ。ありがとね?加蓮。それと、プロデューサーも、ありがと。」
加蓮「じゃねー。」
P「おう、明日もよろしくー。」
P(送ってやった俺への感謝がついで、・・・って訳じゃなくて。ただ単純にアイツの優先順位が、常に加蓮をトップにしているだけなんだろう、ね)
加蓮「ん?どしたのプロデューサー、まだ車出さないの?」
P「いや、この際、お前とは少し話しておこうと思って、ね」
加蓮「えー?そんなん車運転しながらでも出来んじゃん」
P「いや、それだと集中出来ないし・・・お前の顔も見られない、し」
加蓮「・・・え?なになに?もしかしてアタシのこと襲う気?社用車でなんて・・・。きゃーへんたいー。ふぇちー。なんかのー。」
P「ふざけんな!・・・あのなあ、業界も良心だけで成り立ってる訳じゃないからな。そういうことを他のヤツに言ったら勘違いされかねないんだぞ?」
加蓮「ふふ。いいじゃん。男性を魅了してこそ、アイドルってモンでしょ?」
P(・・・嘘つけ。)
加蓮「まったく。さっきはなんか凛といい雰囲気になってたくせに、密室でアタシに手をだそうだなんて。とんだうわきものめー。」
P「ちげーっつってんだろーぅ!・・・あのさ、担当になって、まあ、ちょっと経ったが・・・」
P「・・・少しは信頼、してくれたか?俺のこと・・・」
加蓮「ん。ま、それなりに・・・。ホントに、ホントにホントに!アイドルにしてくれたわけだし・・・」
P「miumiuのバッグにはほど遠いだろうけどな。」
加蓮「うっさい!・・・だから、当然。感謝してるよ?・・・大丈夫。」
P「・・・俺ならお前を襲わないって。お前があんなこと言うのは、俺だから。ってくらいに、は?」
加蓮「・・・そんなこと、言う必要、も、ないんだよ。・・・ないじゃん。」
加蓮「・・・もしもなんにも、言わなくて大丈夫なら、それがいい。だからわざわざ、そんなこと聞かないでよ。」
P「喋って存在を主張して、アイドルだろうが」
加蓮「・・・ここに、アイドルが、いるのに?」
P「そ、か。お前は確かに・・・現実のアイドルだよ。そこにいる。」
加蓮「でしょ?」
P「凛はどうだ・・・?信頼してるか?」
加蓮「・・・。・・・うん」
P「そ。・・・俺もそれは知ってる。けど、アイツはお前とお仲間の、生意気ガールじゃないんだぞ?」
加蓮「知ってる。」
P「ああ、それも俺は知ってる。凛の努力は尊敬出来るか?」
加蓮「当たり前じゃん。アタシには・・・ぜったい無理だし。」
P「無理、か。・・・知ってるか?お前と凛には、絶対に相容れないところがひとつある。絶対に食い違って、おかしくなる。」
加蓮「なにそれ。アタシが努力とか・・・出来ない、ってこと?」
P「・・・それにお前たちが気付いたら、きっともっと信頼しあえるはずだ、よ。・・・俺も・・・お前も凛も、何も。言わなくても」
加蓮「・・・意味わかんない。そんなんわかんないじゃん。」
P「教えてないからな。」
加蓮「そーゆー意味じゃない。」
P「わかってる。・・・そういえば加蓮。もう一つ。アイドルとしての、実感は出来たか?」
加蓮「・・・実感?」
P「お前のソロ仕事、小さいアレだけど・・・。なかなかの評判だぞ。俺から見ても、完璧に愛嬌を、アイドルを振りまいてる。」
加蓮「・・・うん。前もプロデューサーに言ったけど、現実の、第一歩を、しっかりと踏み出せた感じ。」
P「そうか。そりゃあよかった、な。俺を・・・信頼してくれてて、それで凛もいるなら。・・・もう心配いらないな。出るぞ。」ブロロロロ...
P・加蓮「「・・・うそつき」」ボソッ
P・加蓮「「え?なんて?」」
P「ま、なんでもいーか。」
加蓮「・・・そ。なんでも・・・」
――――ヒルガエリ、紫陽花、東京CGプロ、渋谷
P(あの嘘つきのソロ活動は、もう潮時ってトコかな。けれど、ユニット、ね。)
P(・・・ダメだ、あの二人は。このまま一緒にいても、結局は傷つき合う・・・)
P(アメリカとロシアが暖かく寄りあって抱きしめてあっても、小さな岬がトゲになって、かならず血を流す。)
P(いったん遠く離れて、相手の思想を見つめ直して・・・。)
P(かるいいたみを抱きながらも、一緒にいればいい。)
P(ひるがえって。あの二人。凛と奈緒。)
P(荒涼なる南アメリカとアフリカだ。自然に寄り添い合って、お互いのとがった部分を、お互いのくぼんだ部分で補い合える。)
P(・・・ま。お互いに距離を一気に縮めなければ、そうはならないんだけどね。地球はそんな、いそいで回転してはいないし。)
P(でも。二人には「徒党」を組んでもらわなきゃいけない。加蓮が入り込めないくらいの。)
P(・・・劇薬に劇薬を重ねる、ってのも、健康に悪い話だな・・・)
凛「ってことで、ボックスステップの基礎は完了。奈緒ちゃん、も一度やってみて?」
奈緒「仕方ねえなぁ・・・」ステップステップ
トレ「おお、神谷。なかなか筋がいいじゃないか、見直したぞ。」
奈緒「へへ、たまにアニソンの振りコピとかしてたから・・・。って言わせんじゃねえよ!恥ずかしい!」
トレ「言わせたつもりはないのだが・・・。というよりもだ。渋谷、お前の新しい課題曲のほうは済んだのか?」
凛「はい。だいたい・・・大丈夫だと思います。」
奈緒「なあ、あたし、疲れたし。その、さ、参考にしたいから・・・見ててもいいか?」
凛「ふふ。さすが目指せトップアイドルの奈緒ちゃん。どんどん吸収してかわいくなるんだよ?」
奈緒「うっせえっつの!」
凛(ふふっ。プロデューサーの真似して、たまに奈緒ちゃんをおちょくってみてみるけど・・・。なんというか、こうすると、さらに扱いやすくなるんだな。さすがプロデューサー。)
凛「では、曲のほう、お願いします」
〜♪〜
凛「・・・終わり。どう、ですか?」
トレ「・・・うむ。まあはじめてにしては、さすがというか、」
奈緒「・・・あの」
トレ「・・・なんだ?」
奈緒「・・・やっぱ、いい。」
凛「どうしたの?気になるから、いいなよ。」
奈緒「・・・はぁ、しゃあねえな。」
奈緒「ド素人のあたしが言うべき事じゃないし、トレーナーさんも何も言わねえから、黙ってようかなって思ってたんだけどさ・・・」
奈緒「凛のダンスの振り付け、たしかにおおむね正しいし、リズムもだいたい合ってるんだけど。」
奈緒「・・・なんだか、どっちも、先走ってる気がするんだよな」
凛「・・・え?」
トレ「・・・」
奈緒「先走ってるというかなんというかさ、リズムが、振りが、曲がこっちに来い!って感じ?」
奈緒「曲に無理に合わせろ、って言ってんじゃなくて、曲を自分のモノにする。どころか、曲のほうがあたしに合わせろ!・・・みたいな」
奈緒「・・・そんな感じがした。素人の意見だから、無視してかまわない・・・」
トレ「・・・いや、アイドルのダンスを見るのは、ほとんどが素人だ。その視点で、続けたまえ。」
凛「・・・待って下さい。プロデューサーは、私のプロデューサーは、『指導方針として、私の表現したいところは、好きなようにやらせろ』と言ったんですよ?だから・・・」
奈緒「・・・Pは、曲の中に凛の良さを、凛の表現を浸透させろ。って意味で言ったんじゃねえのか?あの野郎。凛の個性で、曲の本来をねじ曲げろ、とは言ってない、はずだ。」
トレ「たしかに合点が行くな。・・・そういう事なら、私も指導方針を改めなければなるまい。」
凛「そんな・・・」
奈緒「・・・いいじゃねえかよ。」
凛「・・・なに?」
奈緒「・・・おめーは正しくて、いいところはちゃんと出てた。ただ、それがはみ出してただけなんだ。」
奈緒「Pの指導方針とやらで、凛のいいところはきっと伸びてる。初見でそう思えるくらいに、なんていうか、カリスマがある」
奈緒「・・・言ったろ?曲の中に浸透させろ。曲を自分のモノにしろ。って。・・・まだデビュー出来てない焦りはわかる。でもちょっと、力みすぎだよ。凛は。」
奈緒「一応、あたしは年上だからな・・・だから、しゃーねーときは、頼れよ。あたしを頼りなよ。・・・それと、Pも、一応。立場的に、な。」
凛「奈、緒・・・」
――――(ドア)――――
P(ふっふっふ。思ったより早かったじゃーないか。・・・「仕方なく」っていうのには、世話好き、っていうのも往々にして含まれてるんだよ。)
P(でもまだ足りぬ!足りぬのだ!)
バーンッ!!!!
トレ・凛・奈緒「「「!?」」」
P「よう!サウザンリーヴズ・ゴッドヴァレー!」
奈緒「なんだそれ!千葉の神谷、ってことじゃねえか!わざわざRPGのワザ名っぽい英語で言うな!」
P「あっはっは!相変わらず察しがいいなあ、ビューティークイーンんぬ!相変わらず、その船橋あたりの糞ダサい古着屋で買ったようなニルヴァーナのバンTも素敵だぞ!」
奈緒「誉めるかけなすかどっちかにしろ!いや誉めて欲しい訳じゃなくて!つーか別にTシャツのことはいいだろ!」
P「そういえば、はじめてスカウトした時もそのTだったな!俺とのかけがえのない思い出を大切にするういやつめ!」
奈緒「うるせえ!もう二度と着ねえよこんなもん!」
P「・・・そういえば、練習着ということは運動後の奈緒の奈緒分をたっぷり吸収しているということじゃあないかあ!さあ、奈緒のフローラル、フレグランス、フローレンス!俺を奈緒の古都・フィレンツェへと誘えーッ!」
奈緒「ざっけんんんなああああああああああ!!!!!」バキィッ!
P「ぐはあっ!」
奈緒「・・・凛!あたしは絶対この変態Pからお前を守ってやるからな!かけがえのない仲間だから、こいつの魔の手には触れさせないからな!だから・・・」
凛「・・・助けてくれって?うん。言われなくても助けるよ。・・・奈緒。・・・奈緒も、私のかけがえのない仲間だからね。・・・セクハラプロデューサー(ボソッ)」
P「あいるびーばっくう・・・」_-)b グッ!
トレ(やれやれ・・・Pくんの猿芝居には困ったものだな。さっきのやり取りを・・・聞いていない法はないというに。)
――――夕がたに、つゆの、ただなか、むしあつく、クーラー、効けり、事務所にてをり
加蓮「おはようございまーす。」
加蓮「・・・あれ?」
凛「でもさあ、奈緒。アイドルとプロデューサーでも、そこに真の愛が芽生えているのなら、関係ないじゃない?」
奈緒「そんなことじゃねえ!アイツに好かれたって、ぜ、全然嬉しくないって話だろ!あんなセクハラ野郎・・・お前だってそうだろ?」
凛「・・・っ。あのときはともかく、プロデューサーは心から奈緒のことをキレイだと思ってるし、キレイにしてくれてるよ?」
奈緒「そうじゃなくてよー!ああっ!」
凛(・・・なんであんな大げさな芝居をしたんだろう。プロデューサー。明らかに限度を超えてるの、わかってるだろうに)
凛(・・・でも、奈緒ともなんか対等な立場になれた気もするし、それもそれでいいことかな?)
加蓮「・・・仲の良いこと。」
P「よっ、おはよう。どうした加蓮。嫉妬か?」
加蓮「そんなんじゃないって・・・」
凛「あ、おはよう、加蓮」
奈緒「・・・おはよう、加蓮、ちゃん。」
加蓮「・・・っ」
P「どうした?」
加蓮「なんでもない。」
P「・・・あの二人、ずいぶん仲良くなったな。」
加蓮「当然でしょ、あの二人、ユニットなんだから。それに、凛だし。・・・アタシは、関係ないし。」
P「そか。お前の最近のソロ活動はどうだ?やってて楽しいか?」
加蓮「・・・。うん。それなりに、充実してるよ。」
P「そ、か。でもなあ、残念ながらお前のソロのアイドル活動、終わりなんだわ。」
加蓮「・・・え?」
加蓮「・・・アイドル、終わりなの?」
P「・・・そんな顔は、アイドルの顔じゃないでーすよ。」
P「・・・・・・はーい!俺のたんとー!みんなちゅうもーく!奈緒も!凛もだぞー!」
P「みんなホワイトボード前に集合!千川さんもですよー!」
ちひろ「はいはーい♪いまいきますよー、ごーごーごーぅ♪」
P「・・・。」
P「こほん。さて、けさ、新たにかわいいかわいい衣装が事務所に届きました。例によって、仮衣装だがな。」
奈緒「はあ!?なんだそれ!?またあたしをたぶらかす気だなぁ!」
P「・・・静かにしてくれ。それに新衣装はお前のじゃない。カワイイ衣装だが、お前のじゃないんだ、こ・ん・か・いは。」
奈緒「カワイイ衣装にき、き、興味なんてねえぞっ!」
P「はいはい・・・。今回届いたのは、北条加蓮さんの衣装、第二弾でございます。千川さん、ご準備を。」
ちひろ「じゃじゃーん♪」
P「・・・。」
奈緒「黒の・・・」
凛「ゴシック・・・かな?」
加蓮「・・・」
P「どうした、北条さん。喜びのお言葉は?」
加蓮「・・・どういうこと。」
P「つまりね・・・、今の凛と奈緒の暫定ユニットに加わって、お前が加入。そしてこれが、正式ユニットだ。」
加蓮「・・・今更この二人に混じれ、って?」
P「そう、じゃないな・・・。お前を入れて、完成したってことだ。これからはこの三人で活動してもらう。」
奈緒「しゃあねえ・・・これからよろしくな、加蓮ちゃん」アクシュッ
加蓮「・・・っ。これからよろしくね、奈緒。」ギュ
凛「私、ずっと加蓮と一緒になって、活動するのが夢だったから・・・すごく嬉しい。仲間として、よろしくね、加蓮。」ハグッ
加蓮「うん・・・よろしくね・・・凛・・・」ギュウ...
P「ま、例によってオリジナル曲はまだないし・・・活動予定もまだたってはいないんだが」
P「しばらくは三人で稽古をしててくれ・・・三人がユニットとして、ぴったりがっしり、息を、域を合わせるように、な。」
凛(加蓮・・・様子がおかしいな。)
凛(加蓮ちゃん、なんて・・・言われてるの、聞いたことない。)
凛(フランクな関係を望んでいる子だったはず・・・私にもため口を要求したし。ま、私ははじめから「加蓮」呼びだったけどね。)
凛(でも前・・・プロデューサーは加蓮をスカウトした時のことをよく話すけど・・・)
凛(いきなり「加蓮」って呼べ、って言ってたらしい。)
凛(加蓮ちゃん、ってすっごく子どもっぽい響きがするけど・・・大人になるのは、やめたのかな?そんな訳じゃないと思うけど・・・)
凛「ねえ、プロデューサー」
P「・・・なんだ?」
凛「えっと・・・、いいや。このユニット、名前ってないの?」
P「まあ、仮のユニット名としては・・・りんなおかれん?」
凛「うわダサ」
P「ダサ、なに?」
凛「・・・太宰、治?」
――――そして稽古の日々
凛「加蓮、テンポ遅れてる」
加蓮「・・・り、凛も。サビ前の音程、取れてないよ」
奈緒「加蓮ちゃん、テンポ下げるか?」
――
凛「加蓮、そこの部分はアクセント加えて、表現しないとダメだよ。」
加蓮「めんどくさいなー」
奈緒「まぁまぁ、さ?」
――
奈緒「加蓮ちゃん・・・?例えば、サビに入ったあとの全員集合するところで笑顔になったら、もっと素敵になると思うんだよね」
――
奈緒「あのさ、加蓮ちゃん・・・。そのさ、クロスさせる手の方向、逆だと思うぞ?」
――
凛「加蓮、そこは観客を意識して、足下じゃなくてもっと周囲全体を見渡すように・・・」
――加蓮。加蓮ちゃん。加蓮。加蓮。加蓮。加蓮ちゃん。
――
凛「加蓮、いい加減に体力もつけないと、私たちのこれからに、ついていけなくなるよ?」
加蓮「・・・はぁ。はぁ。へ?」
凛「だから。もっと本気を出して。逃げないで。体力つけろ、って言ってるの。」
加蓮「・・・。なにそれ?アタシが本気出してない、っていいたいワケ?」
凛「いつもそうじゃん。めんどくさいめんどくさいなんていって。逃げてるだけじゃん、そんなの」
加蓮「・・・逃げてなんかないし!毎日稽古にも来てやってるでしょ!?」
凛「来てやってる、ってどういうこと?来て当たり前、でしょ?ふざけないで」
加蓮「ふざけてるのはそっちでしょ!体力ないアタシが、毎回必死こいて、無理して・・・」
凛「・・・無理なんてしてないでしょ。手を抜いてるのなんて私、知ってるから。ずっと加蓮を見てるんだから。当然でしょ?」
奈緒「・・・お、おい・・・。」
凛「体力ないなんて、そんなの努力でどうにかなるでしょ?私だって体力には自信なかったけど、レッスンで自信つけて、今があるんだよ?」
加蓮「・・・アンタのことなんか、知らないし。」
凛「・・・そもそも、むかしから自分で体力ない体力ない言ってるけど、それって努力する気がない、ってことでしょ?」
加蓮「・・・は?」
凛「体力っていうのは、努力のための蓄え。それが自分からないなんて言っちゃうのは、自分の力がなくて、それで満足してます、っていってるのと同じでしょ?」
加蓮「全然いってる意味わかんないんだけど、頭大丈夫?」
凛「要するに。ちょっと顔がいいからってアイドルになれるなんて勘違いしたお子さまなんでしょ?加蓮ちゃんは。やる気ない子となんかは、私やりたくない」
加蓮「やる気・・・?」
凛「そうだよ。この曲。この稽古。このユニット。このアイドル事務所。・・・人生。全てに対するやる気。全然感じられない」
凛「せめて私無理してます、ってポーズだけでもとってくれたら、不愉快にならないんだけど?」
加蓮「ふざけんな・・・」
加蓮「ふざけんな!誰がこんなユニットにやる気出すっていうの!?」
加蓮「アタシはソロで活動してた。それなりに好評だった。でもプロデューサーに勝手に組まされて、アンタたちと一緒にさせられて!」
加蓮「来る日も来る日も練習で!なんにも目的なんかない、なんの意味もない努力で!それに全力で?なんで?なんでそんなことしなきゃいけないの?」
加蓮「アタシは満足してたんだよ?ソロのアイドルで、適当に愛嬌振りまいて、適当に歌って、・・・適当に輝いて、さ。」
加蓮「それなのにどうしてそれをいきなり奪われて!アンタはアタシとユニットずっと組みたかったなんてほざいて、それも大嘘で!」
加蓮「こんな曲、どうせ歌う機会なんてないんでしょ?アンタたち売れ残りなんだからさ!・・・アタシもセットにされちゃったけど!」
加蓮「手を抜く?やる気ない?当たり前でしょ?普通どう考えてもそうでしょ!?その熱血努力で頭湧いちゃったんじゃないの?」
加蓮「いつになるかわからない目的のために、アタシは努力なんて出来ない!何が自分の力よ!そんなもの・・・見せられなきゃ意味がないじゃない!」
加蓮「何が子どもよ・・・アンタのほうがずっと子どもでしょ!一人遊びして。勝手な夢抱いて。実現も出来ないくせに。そんな力もないくせに!」
加蓮「何が自分の、力よ・・・そんなオナニー見せられる、観客の気持ちにもなりなさいよ。バカ・・・」
加蓮「・・・もう、やだ。私、このユニット。この事務所。アイドル。やめる。じゃね、凛、奈緒。」
奈緒「・・・おいやめろ!ふざけんな!ぜっっってえこっから出ていかせねえぞ!」
奈緒「あんたはあたしのかけがいのない、大切な仲間なんだよ!やる気がどうだ?そんなの関係ねえよ!あんたがいなきゃ、あたしたちは、あたしは、あたしじゃ、なくなっちまう」
奈緒「あんたと一緒にあたしはアイドルやりたいんだよ!Pのため、凛のため、・・・いつかファンのため、そしてあんたのために、あたしはあんたと一緒にアイドルやりたいんだよ!」
奈緒「泣くなよ!アイドルの顔じゃなくなっちまうだろ!ハンカチ・・・ちょっと凛!つったってんじゃねえよ!」
奈緒「つーかなんだおめーは!ちょっとこいつが反発したからって、いちいちあげつらうようなことしやがって!」
奈緒「なんなんだよ!いろいろコイツの昔の発言掘り返してたみたいだけどさ・・・確かにあたしゃコイツの昔のことは知らないよ?凛ほどコイツと深い仲じゃない」
奈緒「でも大切な仲間なんだよ!それがなんだお前は!昔の発言掘り返してたら、そりゃ間違ってるところがあるに決まってんだろ!人間みんな間違えるんだよ!」
奈緒「あたしはお前らより長く生きてるからな!それくらいわかる!昔のあたしはいっぱい間違ってた!でも、それを直せる人間だから、自分で直せるあたしたちだから、今があるんだろ!」
奈緒「そうだろ!?いつもお前、同じようなこといってんじゃねえか!どうして今になって、お前は自分の力をおとしめるようなこといっちまうんだよ!」
奈緒「だから泣くなよ・・・あたしをちょっとは信頼してくれ・・・」
加蓮「うん・・・。あり。がとう。奈緒・・・。」
奈緒「でもよ・・・。逆ギレしなくたって、ちょっとは凛のいうことに、耳を傾けてもいいんじゃねえか?」
加蓮「・・・え・・・?」
奈緒「目的はないかもしれねーけど、あたしたちひとつになってさ、全力で今の課題に立ち向かってさ」
奈緒「全てを完璧にとはいわねーから、Pのヤツが必ず持ってきてくれるだろう仕事まで耐えてさ、自分を鍛えてさ・・・」
奈緒「そのために、今よりすこし無理したって、いいんじゃねえのか?」
奈緒「なあ、加蓮ちゃんよ。」
加蓮「・・・」
加蓮「・・・アンタも、凛の側に立つんだ。凛のいうことが、結局正しいって思ってるんだ!」
奈緒「いや、おい、そんなこと・・・」
加蓮「やめて!あたしにさわらないで!かかわらないで!他人のくせに!子ども扱いしないでよ!こっから消えて!」
P「はい、そこまで。」
奈緒「P・・・」
凛「・・・プロ、デュー。サー・・・」
加蓮「Pさん・・・」
P「さっきからうるさいんだよ。仕事の邪魔。他のアイドルもいるのに、きーきー大声立てないでくれるかな?」
奈緒「P、あのな・・・」
P「事情を聞きにきたんじゃないよ。苦情を言いに来たんだ。騒音のな。」
P「・・・だから、黙ってくれるとなによりな訳です。だから、今は何もいわなくていい。」
凛「・・・そ・・・。」
P「・・・でも、ま、ちょっと。この北条さんって女の子には用があるから、ちょっと借りていくな。」
加蓮「・・・どこ、いくの・・・?」
P「応接間だよ。安心しろ。ここと違って防音設備は付いてないから。」
P「ほかの二人は、ここでおとなしくしとけ。じゃないや、おとなしく、練習とか、しとけ。」
――――CGプロ、応接間
P「・・・」
加蓮「・・・P、さん・・・」
P「・・・さっきからなんだ、Pさん、って」
加蓮「だって、もう、アタシ、アイドル、としてじゃなく」
P「そ・・・。」
加蓮「そう・・・。」
P「とりあえず、そんなに涙流しちゃってさ。大声も上げて。のど、痛めてないか?」
P「・・・別に涙は流してていい。泣いてていい。・・・のど飴、持ってるから、ちょっと待てな・・・。」
加蓮「・・・あのさ、Pさん・・・」
P「なんだ、ノド痛いなら無理すんなって」
加蓮「アタシのこと、怒らないの・・・?」
P「・・・?」
P「なんで俺がお前を怒るって、思ったんだ?」
加蓮「・・・え?」
P「さっきから俺には、加蓮が俺に怒られる準備をしてるようにしか見えないんだけど、さ。どうしてだ?」
P「泣きながら、思い詰めたような、・・・覚悟を決めたような。どうしてだ?」
加蓮「だって。聞いてたんでしょ?アタシたちの話」
P「へ?」
加蓮「とぼけないでよ。レッスン室は防音設備つきなんだよ?ふだんから爆音でアタシたちがレッスンしてても全然平気で仕事してるくせに」
加蓮「たかが女のアタシたちが大声だしたところで、仕事に支障が出るほど聞こえるわけないでしょ。」
加蓮「・・・どうせ、ドアの前にでも立って、アタシたちの話聞いてたんでしょ。ふふ。性格悪いね?」
P「ああ、いい性格はしてるかもな。」
加蓮「アタシたちを組ませればどうせいつかはケンカになるってわかってたんだ。」
P「ああ。凛とお前と、まあ奈緒。それぞれ少し、おかしかったからな。でさ、それをふまえて・・・どうして怒られるなんて、思ったんだ?」
加蓮「・・・」
>>142訂正
加蓮「・・・え?」
P「さっきから俺には、加蓮が俺に怒られる準備をしてるようにしか見えないんだけど、さ。どうしてだ?」
P「泣きながら、思い詰めたような、・・・覚悟を決めたような。どうしてだ?」
加蓮「だって。聞いてたんでしょ?アタシたちの話」
P「へ?」
加蓮「とぼけないでよ。レッスン室は防音設備つきなんだよ?ふだんから爆音でアタシたちがレッスンしてても全然平気で仕事してるくせに」
加蓮「たかが女のアタシたちが大声だしたところで、仕事に支障が出るほど聞こえるわけないでしょ。」
加蓮「・・・きっと、アタシたちを組ませればどうせいつかはケンカになるってわかってたんだ。」
加蓮「・・・どうせ、ドアの前にでも立って、アタシたちの話聞いてたんでしょ。ふふ。性格悪いね?」
P「ああ、いい性格はしてるかもな。でさ、それをふまえて・・・どうして怒られるなんて、思ったんだ?」
加蓮「・・・」
P「ああ、聞いてたよ。お前らのお話。」
P「凛がたっぷりと持論をのべたあとさ、加蓮も自分のいいたいこと、たっぷりとのたまってたじゃん。」
P「アレが正しいなら、俺はお前を怒る必要なんてないよな?」
加蓮「どういうこと?・・・皮肉?」
P「皮肉?っていうと・・・俺がお前の叫んでた事は、ガキの逆ギレだ、って暗にいってる、みたいな?」
加蓮「・・・どうせそうでしょ。なんでそんなまわりくどい・・・」
P「してねーよ。まわりくどいことなんか。」
P「俺がお前が正しいと、思ってるんだよ。」
加蓮「・・・は?」
P「『・・・は?』って、なんだよ?やっぱり、つーか、断定するけど・・・。ガキの逆ギレだと思ってるのは、お前だよ!」
P「あの場で俺を含めて、お前だけが、北条加蓮が間違ってることを前提で、いたんだ。」
加蓮「どゆこと・・・?」
P「凛も奈緒も、黙ってお前の話を聞いていただろ?お前になにか正しいことをいわれるかもしれない、だから黙って聞いて、それを判断しようとしてたんだ」
加蓮「でも、凛も奈緒も、アタシが間違ってると思ったから、反論したんでしょ・・・?」
P「ああ、そうだな・・・。でもな、お前は主張を持つ人間として、もっと忘れてることがある。」
P「なんで凛と奈緒が、間違ってるとは思わないんだ?」
P「お前が正しくて、凛と奈緒が間違ってるって、どうして思わないんだ?」
加蓮「だって、それは、ケンカになっちゃったし、その・・・」
P「俺が一番の大人だ。俺が責任者だ。俺がお前らの判断は下す。・・・つまり」
P「加蓮が正しくて、凛が間違ってて、奈緒も間違ってて、俺も正しくて!じゃあ、どうして加蓮は、自分が間違ってる、って思ったんだ?」
P「・・・嘘をつくのもいい加減にしろ。」
P「いい加減認めろ!お前は正しかったんだよ!お前のいってることが正論だったんだよ!」
加蓮「え・・・?」
P「目的のない努力なんて意味ない。凛の努力は単なる努力のための努力。正しいよ。ぐうの音もでねえよ。」
P「俺もずっと思ってきたからな・・・アイツは自分の努力が向けられてる方向に、目を向けようとしないんだ。」
P「努力には、いろんな種類がある・・・まあこれが一つ。あとでみんなにも話すさ。」
P「それに、北条加蓮はやる気を出せない、全力を出せない、出すつもりもない。・・・無理もしない。だっけか?」
P「・・・あってるよ。今はそれで、正解なんだよ。」
加蓮「・・・どうして?」
P「お前なあ、いつまで隠すつもりなんだよ・・・お前が14まで、ずっと病気だったって事を!」
加蓮「・・・っ」
P「つーか、俺に隠せてると思ってたのか?んなわけねえだろ。はじめのはじめ、親御さんにお話を伺った時から聞いてるっつうんだ!」
P「『うちの加蓮は14までほとんど寝たきりだったんです、・・・無理はさせないで下さい』ってな!」
P「たった二年前までベッドに臥せってた子が、いきなり元気にアイドルなんて、出来るわけないだろ!」
P「・・・それでも。」
P「お前はアイドルをしようとしたろ!子どもの頃からの夢!寝たきりだったころからの憧れ!」
P「それも聞いたさ・・・そんな長年の夢を、立派に成長して叶えた子が、無理なんて、しねーわけねーだろ!」
P「必死に努力なんて、してるにきまってるだろ!全力でぶつかってるに決まってるだろ!」
P「ずっとずっと、毎日俺にブーたれつつ、めんどくさーいなんてほざきつつ、レッスンに来てたじゃねえか・・・毎日な!」
P「一度、お前の体調をはばかって休みを入れた日にも、事務所来たことがあったよな!?『最悪ー』とかいいながら、レッスンしてたよな!?」
P「なんでそんなことしたのか教えてやるよ!」
P「・・・お前が大の、とんでもない、稀代の、前代未聞の、大嘘つきだからだよ!」
P「だから自分を騙して!自分の考えてることと正反対の事を凛と奈緒に言った!けどな!お前は大嘘つきだから!その正反対が実は大正解なんだよ!」
P「・・・でもな。長年の夢っていうのはたいてい現実の正反対だ。」
P「お前の嘘も、本当も、長年の夢も、今の現実も、お前の!お前だけの現実にしろ!」
P「周囲が思う自分、自分が思う周囲、そんなのに合わせなくていい!そんなモノをわざわざ現実にする義務は、お前にはない!」
P「アイドルだからどうした?他人の価値判断なんか気にするな!お前のほうがよっぽどアイドルに詳しいんだよ!人の目を気にせず、自分が思うアイドルになれ!」
P「そしてそれを現実にしろ!・・・そのために、お前は現実の体力を、つけろ。・・・つまり、努力をするために、努力すればいいんだ。」
P「俺はプロデューサーだ。凛と奈緒は仲間たちだ。お前の夢は絶対に叶えてやる。お前の夢は現実にしてやる。・・・お前のこれからを、現実にしてやる。」
P「・・・そうすれば、誰が間違ってるとかじゃなくて、みんな正しい。お前はそれを信じればいい。現実が正しい、っていう当たり前のことを、信じればいいんだ。」
P「さあ、行ってこい。」
バターンッ
凛「加蓮ッ!」
奈緒「加蓮ッ!」
加蓮「みんなッ!」ダキツキッ!
凛「ごめんね、私が、間違ってたかも・・・」ぐすぐす
奈緒「ごめんな、あたしが、変なこというから・・・」ぐすぐす
加蓮「ゴメンね、凛、奈緒・・・。アタシが、私がね・・・」ぐすぐす
――――加蓮「・・・正しかった!」
とりあえず今日はこれで終わり
明日には完結させたいです
野球もJリーグも始まる前に終わらせようとしたのにもうどっちも終わっちゃったよ
あの船橋あたりの糞ダサい古着屋で買ったようなニルヴァーナのバンT着た差し替え前の初期奈緒の大きめの画像って、残ってませんかね?
――車内、帰り
凛「二倍輝く、ね」
P「今の凛なら、ぴったりな言葉、じゃないか?」
凛「・・・奈緒からは、『色が二倍輝くってなんだよ、ダブリューダブリュー』って言われたけど。」
P「ダブリュー、っつーか・・・まあ、奈緒みたいにインターネットやってるヤツのアレは、笑いというより、句読点みたいなもんだ。気にすんな。」
凛「そう、かな・・・?」
P「・・・アイツはずっと、お前のそばで、俺なんかより、お前のことを見守って来た人間だ。・・・お前の輝きだってずっと目にしてきてるはず。」
P「そんな奈緒が、お前のそれを信じないわけがない。むしろ、それが明らかな冗談であることによって・・・お前の自信が強まることはあっても、揺らぐことはない。」
凛「ふふ。そんなこと、私にだってわかってるって。・・・今日はホント、プロデューサー、運転中によく話すね。」
P「・・・まあ、聞きたいことが、あったからな。」
凛「・・・なに?」
P「仕事が楽しかったか、って質問はもう、したよな。なあ・・・今日の凛、お前、輝けたか?」
凛「うん。スミレの石の衣装は、・・・プロデューサーが言ったとおりに、私って感じがして、嬉しかった、輝けた。」
P「・・・そう」
凛「それに・・・誕生石、ってことを意識したら。これが私の原点なんだ・・・私は改めて、もう一度、輝き始めるんだって。そう思った。」
P「そか。・・・この辺、景色、夜景、キレイだな。ちょっと車、止めるか。」
凛「えっ!?なに!?」
P「そんなにスミレが気に入ったなら・・・NGの衣装にも、スミレの花の髪飾り、つけてみるか?花屋の娘さん。」
凛「ちょっ、なんで止まったの?く、口説く気、なの・・・?」
P「なあ、凛・・・さっき俺は、誓ったよな?お前を先頭に、一緒の道を歩むと。お前の背中を見守る・・・、つか、守ると。」
凛「・・・で?・・・」
P「お前がいくら『見える』人間だと言っても、さすがに頭上を見ることは出来ない。だからそんなとき俺は・・・道行くお前を引き留めて、捕まえて、アドバイス・・・言葉をかけてやらなくちゃならない。」
凛「うん・・・。」
P「俺が見るに、今の衣装にさらにスミレの髪飾りを・・・お前の色である、蒼いスミレの髪飾りを加えたら、凛はもっと魅力的になると思う。・・・どうだ?」
凛「うん、私もつけたい。けど、それだけのために・・・?」
P「始まり。原点。とか言ったな。それはとても恐ろしい、とんでもない覚悟が必要なことなんだ。」
P「始まり・・・つまり、最初、っていうのはまず、最低、最悪、そういう状況をあえて作ってから・・・はじめて出来ることだ。」
凛「えっと・・・」
P「持てるモノは何もない。なんの力も持ってない。原点、すべてゼロ。・・・だから、覚悟をして、何かを始める、しかない。だから、何かを始めるんだ。」
凛「なる、ほど・・・」
P「だから俺は今、凛を運ぶ車を止めなくちゃいけない。」
凛「え?」
P「ここの景色、走っててもキレイだったよな。でも止まってみてよく見たら、汚いパチンコ屋のネオンなんかも目に付く。」
凛「勢いのままに、走ってたら、始めていたら、きづかないところで、つまづいてしまう・・・ってこと、か。」
P「そう。持てる力はゼロ。だが俺たちには・・・お前には、目がある。状況をよく判断し、分析出来るその目がある。」
凛「うん、それは意識してる・・・けど、ね」
P「・・・順風満帆に進む車・・・凛に、急ブレーキをかけるのはとても危険だ。加熱したエンジンが痛むかも知れないし、慣性による揺り戻しもきっとある。」
P「・・・だから今、お前が覚悟を決めた今。お前を見守るものとして、俺はここでおだやかなブレーキをかけることができる。そうして、もう一度周囲を見渡して、覚悟をつけて、確信をつけて・・・」
P「・・・お前の色は、二倍輝く。」
凛「そ・・・ところで、止まらざるを得なかったり、そもそも止まっていたり、・・・いろんなところで、止まってる人も、いるんでしょう?」
P「そうだな。・・・でもそれも、結局は自分の力を信じられるか、次第なんだ。・・・もちろんサポートも必要だが、結局自分が周囲を見渡して、その状況をはい出してゆく。」
凛「ふーん。そ、なんだ。そう、なんだ・・・。」
凛「・・・ねえ、プロデューサー。私の色は蒼なんでしょ?ほかの・・・奈緒と加蓮の、その、自分の色って、なんだか、わかる?」
P「そうだな・・・まず加蓮は、オレンジかな。」
凛「・・・その心は?」
P「太陽光線のようなまっすぐさ、素直さ、純粋さ、輝き。柑橘系の、甘酸っぱさ、さわやかさ。暖色の、やわらかいあたたかみ。夕焼けのような、はかなさ、・・・可憐さ。朝焼けのような希望。」
凛「なるほど、ね。・・・奈緒は?」
P「そりゃ・・・赤だよ。純真な心、はじらった頬、いつくしみに溢れたハート、真っ赤に燃える熱い血潮、鋭い口調、いざというときみんなを引き留める赤信号、そして隠し切れぬみんなへの・・・いや、俺への愛!」
凛「・・・はい?」
P「・・・そして俺は、なんどアイツのせいで血を見たことか・・・」
凛「まったく、今みたいなこと、直接当人にいったら、どっちも恥ずかしいだろうし、怒るよ?」
P「ふっ・・・、問題ない。今の文言そのままに・・・車を止めて凛が夜景を見ている間、お前の目を盗んで、とっくにLINEで二人に送信しているからなッ!」
凛「ええっ!?」
『ふんぎゃあああああああああああああああああああああああああッ!!!!』:神谷 奈緒
凛「・・・マンガみたいなさけびを携帯の文字で打つ、ってどうなんだろうね・・・」
P「・・・それがインターネット、なのかな・・・?」
――
P(こうして凛を鼓舞してやれば、アイツは確実にやってくれるはず。)
P(頭もいい、人もよく見る。だから彼女はここまでの成功を収めたんだ・・・)
P(もう、彼女は心配ない。・・・間違いない。)
P(問題は・・・加蓮と奈緒だが。)
P(ソロでしばらくやってきた二人が、久しぶりにユニットで動く。それもひさしぶりの歌で。我ながら突然なもんだから・・・突貫工事でNGのクオリティに合わせなければいけない。)
P(だから、この二ヶ月は、しばらく二人の仕事の量も減ることになるんだが・・・)
P(・・・全く問題はない。すでに、ライブのあと、その後のための布石はとうに打ってある。だてにプロデューサーやってるわけじゃないからな。)
P(NGの初のSSAライブ。話題性は抜群。そしてそこにゲストとして現れる、りんなおかれん(仮)に、さらに客の注目は集まる。)
P(そして・・・彼らは驚愕する。完璧に息のあった、それでいて自分の色を光らせる三人に・・・。)
P(なぜなら三人は親友。奇跡のようなバランスで成り立った、素晴らしい仲間たち。・・・理想的なユニットだ。観客たちの心は、確実に奪える。)
P(そしてそれは確実に世間に話題を振りまいて、加蓮も奈緒も、そして凛もさらに売れてゆく。)
P(まさに前途洋々。荒れ狂う風はまるでなし。平穏な航海だ。なんの問題もない。・・・アイツらも稽古中。俺は、ひたすら待てばいいだけ。なんの問題もない・・・)
――
――
凛(プロデューサーは、やっぱりすごいな。よくわからない不安が、すっかり消えた。・・・地に足のつかない不安が、すっかり消えたよ。)
凛(・・・でも、そうやって地上に降りたら・・・私は私の重力で、押しつぶされそうになっている。)
凛(止まって、私の周囲を見つめること・・・加蓮と奈緒。)
凛(ずっと一緒にやってきた。一緒の夢を見て、一緒の夢を追いかけてきた。・・・そして私の夢を応援してくれて、最近は、ろくに会えもしない。)
凛(私は、勝手に二人の元から飛び立った。Never Say Neverのときはまだ二人が一緒にやってくれていた。けど、NGは違う。加蓮と奈緒には、なんの関係もない。)
凛(そしてなんの関係もなく、私、私たちはどこまでも売れていった。・・・SSAで、クリスマスの単独公演ができるくらいに。)
凛(そうして・・・彼女たちもそれぞれの活動をはじめて、私たちの距離は、物理的にはとても離れていった・・・。)
凛(でも、心理的には・・・もうわからないんだよ。最近再び集まるようになって、でも見れば見るほど、わからなくなる・・・)
凛(女ってとっても嫉妬深いんだよ。周りの話を聞いていればわかる。誰々が誰々を嫉妬しているとか、そんな話ばっかり、私の耳に入ってくる。)
凛(誰々が私に嫉妬しているなんて噂が耳にはいることもあった。でもそんなの気にしなかった。どうせ顔でしょ?・・・そんなの、私の力でやってる私には、関係ないもの。)
凛(二人は・・・私とのユニット、その練習のために、それぞれの活動をだいぶ減らす。・・・つまり、プロデューサーのいう、止まる、ことになる。)
凛(私は、ユニット活動が久しぶりの彼女たちに、あれこれいうことになるだろう。その時、"止まっている"彼女たちに、私の姿は、どう映るのだろう?)
凛(嫉妬、されるのかな・・・。そんなことないと思いたいけど、私、近くで見られてればすぐにわかるほど、いわれるほどの、自信家だから・・・。・・・悪くいえば、「うぬぼれ屋」。)
凛(やだ。そんなの怖い。信じてる、ともだちに、ねたまれる、きらわれる。嫉妬される・・・そんなのやだ。ぜったい。やだ。)
――
――――水のない月、地球、東京、あせ、涙、かわいた、スタジオ
――
奈緒「へえ、なるほど、さすがだな。NGでの経験が、すげー生きてんのな。」
凛(くっ・・・)
――
加蓮「凛?だめだよ、反省会なんだから、黙ってて、突っ立ってるだけじゃ。ちゃんと・・・同じ立場で、話し合っていかないと。」
凛(うっ・・・)
――
奈緒「おお!その部分、そう考えれば簡単に、シンプルに出来るようになるのか!さっすが凛、売れっ子はちげーなぁ!」
凛(ひっ・・・)
――
加蓮「――そんなんじゃダメだよ凛!それじゃ、わたしたちNGに負けちゃうよ!」
凛(きゃっ・・・)
P(おし、加蓮もその意気なら、まるで問題はないな・・・)
――
――
加蓮「今回はすごいな、凛のNG衣装にぴったり合わせるように、奈緒の衣装と・・・私の衣装も、作ってもらって。」
――――12月25日、さいたまスーパーアリーナ、出演者控え室、朝八時
加蓮「ふわぁあー・・・、夜公演だけだってのに、朝の八時入りとか、低血圧の私には辛すぎるよ・・・」
卯月「大丈夫だって、加蓮ちゃん!ふだん学校へ行く時と、同じことだと思えば平気でしょ?・・・というか、なんで制服着てきてるの。」
加蓮「朝が早すぎて思わず間違えた・・・。いつも普通でいられる卯月と違って、私はちょっと不真面目に出来てるんだよ・・・」
未央「えー?加蓮てぃん、そんなふうにはみえんっちゃけどなー。・・・てゆかむしろ、こういう大きなライブの時は、このくらいの入りが"普通"なんだよ?」
加蓮「そんなに売れたっていうか・・・経験ないからわかんないんだって・・・ねむーい」
凛(っ・・・)
B「凛ちゃん様ッ!」
凛「わっ!」
B「このような大舞台で凛ちゃん様の雄姿をお見受け出来るとは、なんとありがたき幸せ。それに関係者用チケットまでいただけるとは・・・このBめ、今すぐ三跪九叩頭の礼を行いたいと」
A「やめなさーいー・・・」
未央「・・・しぶりんどの、このものどもはなにものでござるか?」
凛「・・・前の学校の友達。でもB、こんな早くからくることもないでしょ?あと10時間くらいあるよ?」
B「ハハッ、凛ちゃん様ッ!まことにおそれながら、このBめを早朝の家から引きずり出し、わたくしを連れつつここまで張り切ってダッシュで来たのは、実はBたんなのでございます!ですからお許しを!私だけに!肉体的な愛というご慈悲で!」
A「やーめてよー・・・てゆうかー・・・、加蓮さんのふだんって・・・私と同じモノを・・・感じるんだねー・・・」
卯月「いやいや、加蓮ちゃんは低血圧なだけだから。学校でも朝はいつもこうだよー?」
加蓮「私は・・・呼べる友だち、ってのが・・・元々、あんまりいなかったからねー」
未央「私も何人か千葉から義勇兵を呼び集めて来たよっ」
奈緒「いいなぁ。あたしも千葉なのに。・・・売れっ子の特権、ってやつかーぁ?」
凛(ぐっ・・・)
凛(だめだ・・・もうさっきから、加蓮と奈緒のなんでもない発言が、全部皮肉に聞こえてくる・・・)
凛(いつも周りをよく見るくせは、Aや加蓮との仲を深めるのに役だったのに、今日は・・・)
凛(もうやだ・・・。だめかもしれない・・・。)
凛(・・・やめやめ。今日は本番。そんな迷いは・・・今のところは、捨てる。)
凛(私はプロ。私はアイドル。みんなが、私が、私の力を信じてる。)
凛「よし!気合い入れていくよ!」
未央「しぶりん、まだ本番9時間前だよ・・・」
B「ほへー」
卯月「わあっ♪Bちゃんって、とってもかわいいねっ♪」
A「まあ・・・凛ちゃんが関わらないと・・・普通のー、かわいい女の子だからねー・・・」
加蓮「さっきからずっといろんなイジリ方をしてるけど、すべて違ってすべてカワイイ反応。なんだこの子、愛玩動物のプロなのかな?凛がゲロ甘なのもわかるかも・・・」
奈緒(てゆうか卯月のヤツ、さっきからまったく同じ反応を繰り返してるだけにしか見えないんだけど、いったい何者なんだコイツ・・・)
未央P「おーい!!!!!みんな集合!!!!!」
卯月P「ゲネプロ行くわよー。みんな遊んでるみたいだけど、流れはちゃんと頭の中に入ってるのよ、ね?」
P「加蓮も奈緒も遅れるなよーう!・・・ま、リラックスしてるみたいで何よりだけどな。」
凛「わかった。すぐ行く。」
未央「はーい。じゃ、しばらく留守番お願いね、Bるん♪」
B「はあーい。」
A「ねえ・・・げねぷろ?、ってなにー・・・?」
卯月「うーん、最終通し稽古みたいなものかな。ステージの流れを、直接その舞台に立って確認する、感じかな?リハとはちょっと違う感じ。」
加蓮「うん。私の夢が叶う時だ・・・」
奈緒「よっしゃ!やるっきゃねえ!」
――ゲネプロ終わり
未央「おやおやー?しぶりーん。MCの段取り間違えるとは、らしからぬミスですなぁー?」
凛「うん・・・。そんなに叱られなかったけど、ちょっと気が抜けてたみたい。・・・でも絶対に繰り返さないよ。・・・それに、未央のほうがミス多かったでしょ。」
未央「はっはっは。それとこれとは訳が違うのだ。終わりよければすべてよし。終わりといえば・・・このミスも、このあとのことで気が気でなかったのかなー?」
凛「・・・どういうこと?」
未央「ふふふふふふ。というわけで気の抜けたしぶりんには罰ゲームとして、Pさんにかわいーくクリスマスプレゼントを渡してもらいまーす!」
凛「え、えっ?なにそれっ?ど、どういうこと?」
未央「ははーん。しぶりんも落ちたものよのお・・・。このちゃんみおちゃんが、バッグに忍ばせているプラダのネクタイのラッピング、見逃すと思うてか!?」
凛「・・・えっ。」
未央「まったく、油断出来ないういやつめぇー。」
凛「・・・そういう未央は、罰ゲームないの?」
未央「ふっふっふ。そこはだーいぜうぶ。もうわたくし、プロデューサーとのイブデートを済ませてきたからね!元気百倍、ちゃんみおまん!」
凛「・・・あのさ、未央。」
未央「どおしたい?」
凛「前から思ってたんだけど・・・未央ってさ、未央のプロデューサーのこと、その、・・・好きなの?」
未央「え?うん。好きだよ。当たり前じゃん。大好き。」
凛「・・・え?」
凛「・・・それは、どういう意味で?」
未央「・・・もちろん、異性として。私をここまで連れてってくれた、ちょっとお熱い王子様として。好き。大好き。ものすごく。」
凛「・・・」
未央「私はまだ15歳だし、こんなおちゃらけた子だし、子ども扱いされてるのかも知れない。けどこの気持ちは絶対に本当のこと。誰にも否定なんかさせない!」
未央「・・・実際昨日も、ちょっと子ども扱いされてた部分もあった。でも私は諦めない。あの人が振り向くまで。絶対にまっすぐな気持ちを伝え続ける。それが私のやり方。」
未央「・・・アイドルとしても、ね。もちろん、ファンのみんなには申し訳ないと思うけど、これが私という人格を作ってるものだから・・・。」
未央「私というアイドル。私という商品を生み出してる、私の生きる、元気を生み出してる。・・・すべての源を生み出してる。そんな、プロデューサーだから・・・。」
凛「そう、なんだ・・・。未央は、・・・本気なんだね。」
未央「うん。私はもうなんだって投げ出す覚悟は出来てるよ。これが叶ったら・・・、いや、でも、アイドルの源もプロデューサーだけど・・・。うん。全てを捨てて、私が思う私だけのアイドルになる。・・・今決めた。」
凛「・・・そ、う。」
未央「凛は、どうなの・・・?」
凛「・・・え?」
未央「凛はどうするの、どうしたいの?・・・本気で。」
凛「・・・・・・わからない」
――また別の場所
卯月「加蓮ちゃん、ばっちしだったね♪・・・ちょっと、見直しちゃった。」
加蓮「ふふ。ありがと、卯月。卯月も普通に完璧だったよ。」
卯月「完璧なら普通をつけないでよ!もう。・・・でもびっくりしちゃったな。転校当初はあんなクラスでぼーっとしてた加蓮ちゃんが、今やこのステージであんなにきらめいてるだなんて・・・」
卯月「・・・もしかして、いとしのプロデューサーさんの力?」
加蓮「・・・そんなこと、卯月とか、だれかに言ったっけ?」
卯月「もう。普通にクラスでお話ししてたら誰だってわかるよ?・・・普通は。」
加蓮「ふふ。・・・そ。」
卯月「でも・・・ちょっとがっかりしちゃったな。」
加蓮「・・・え?」
卯月「いつもの低血圧状態だったから仕方ないかも知れないけど・・・」
加蓮「・・・なんの話?」
卯月「・・・ねえ?私は本当に、凛ちゃんが大好きなんだよ。当人は信じてくれないけどね。でも、凛ちゃんは私より、加蓮ちゃんのことが好き。」
卯月「凛ちゃんが私のことを、本当に、真心から親友だと思ってくれてるのはわかってるんだよ?でも、加蓮ちゃんに対しては、守ってあげなくちゃというか・・・」
卯月「凛ちゃん自身が、加蓮ちゃんに依存してる、ところがある。二人と話してて、私は、そう思うんだよね・・・」
加蓮「・・・凛は強く、ある、子だからね。でも、そこまで・・・というか、それでなんでがっかり?」
卯月「・・・朝の凛ちゃん。すごく様子が変だったよ?ときどき表情をゆがめて、すごく苦しそうで・・・。」
卯月「前の学校の友達だって言う、あの子たちが来なかったら、私でも話しかけられなかったくらい。なのに加蓮ちゃんは、どうして気が付いてあげないんだろう、って。」
卯月「・・・もしかしてまだ凛ちゃんに後ろめたさとか、感じてるの・・・?」
加蓮「・・・どうだろう」
加蓮(後ろめたさ、か・・・)
――――12月25日、午前6時ごろ、東京都、北条家前
加蓮「あらためて・・・おはよ・・・Pさん・・・ほんと・・・あさはやいんだね・・・」
P「おうよ、加蓮。ていうか、お前、ほんっっっとうに朝弱いのな・・・知らなかったわ。・・・ま、制服はそのままでいいや。時間無いし・・・」
加蓮「低血圧だから・・・私・・・事務所とか・・・仕事であうのも・・・九時以降とか・・・夕方とかだし・・・」
P「ま、でもその割に・・・出発の準備は完璧に整ってるのな。」
加蓮「ずっと・・・夢の舞台だったから・・・そりゃ・・・昨夜のうちに・・・完璧にね・・・」
P「そか。じゃ早速、SSAに向かうとするぞ。」
加蓮「ん・・・Pさんの車に乗るの・・・私だけだっけ・・・?」
P「おい・・・寝ぼけてもう忘れたのか。NGでのいつも通り、卯月Pさんが凛と卯月ちゃん。今回は奈緒がいるから、未央Pさんが千葉組の未央ちゃんと奈緒。そしてあまりの俺があまりのお前を引率、というわけ。」
加蓮「そっか・・・事務所集合のころが・・・懐かしいな・・・」
P「おいおい、お前らももうある程度名の知れたアイドルなんだからさ・・・通勤ラッシュにそんなん放り込めるわけないだろが。」
加蓮「そ・・・じゃ・・・行こう・・・夢の・・・国へ・・・」
P「ディズニーランドかよ・・・じゃなくて寝てろ、別の夢に行ってこい・・・」
加蓮(ディズニーランド。そう・・・さしずめSSAはシンデレラ城で、Pさんは魔法使い兼王子様。・・・ヒーローすぎるね。・・・で、私が、シンデレラ、なのかな。)
加蓮(いまからカボチャの馬車に乗って、私は夢の舞踏会へと向かうの。・・・いつもと同じ馬車だけど。・・・いつもと同じ、Pさんとの特別、なのだけど。)
加蓮(・・・でもいつもとは、特別の意味が違うの。Pさんの魔法がついに、私を長く苦しい灰かぶりの生活から救ってくれる、そんな日が来て、私はそこで素敵な踊りをする。)
加蓮(・・・・・・でも今の私に、凛と一緒の舞踏会に出る資格があるのだろうか。・・・あの、本物の主人公と、一緒に・・・)
加蓮(・・・ん・・・とまった・・・着いたのかな。でも・・・まだ、七時、だけど・・・)
加蓮「あれ・・・どしたの・・・?Pさん・・・」
P「あ、わりーな加蓮。起こしちゃったか?いや、予想以上に道が空いてて、もうほとんど着いちゃってんだけど、会場まだ閉まってるし、どうしよっかなって・・・」
加蓮「ん・・・ここ・・・コンビニと・・・公園あるね。ちょっと・・・時間、つぶしてく?」
P「おい、公園なんて大丈夫なのか?」
加蓮「ふふ。朝の休日の公園なんて・・・鳩と老人以外いないって。・・・メガネもしてくから。制服にメガネの女子高生がいても・・・べつに怪しくないでしょ?」
P「はいはい・・・。じゃ、このセーターだけ上に着とけよ。リブ生地だから、あったかいぞ。」
加蓮「ふふ。私の身体、気遣ってくれて・・・ありがと。私、制服デート、夢だったから、嬉しいな。」
P「・・・」
加蓮「・・・怒らないの?」
P「・・・これまでも・・・そしてこれからも。加蓮に普通の青春って言うのは・・・ちょっと難しい、からな。」
加蓮(・・・違う。いや、それも本音だろうけど。前そう好きでもなかった頃に、ふざけて誘惑したら、勘違いされるからやめろ、とか言ってたのに)
加蓮(それとも・・・これが、『言わなくてもわかる関係』、ってヤツ・・・?)
加蓮(・・・じゃあ、凛と私は?)
P「・・・ほい。ホットミルクティー、買ってきたぞ。寒くねえか?」
加蓮「ふふ。ありがと、Pさん。・・・そういえば、制服デートって言っても否定しなかったけど、勘違いさせるようなこと、じゃないの?」
P「・・・ん?あ、あれ。い、いや、勘違いさせるようなことするな、っていうのは継続中だからな、その、手を出していいよ?みたいなことを言うのは、やめろよな。」
加蓮「も、もう…昔の事は恥ずかしいから、思い出さなくていいのっ」
P「そか。あれ・・・もうそんなに昔のことだったか・・・。半年、以上前か?」
加蓮「・・・そだね。・・・これまでお疲れ様。なんか今日まで、あっという間だったね?」
P「なんか・・・とくになにもしてやれなかった、気がする。」
加蓮「…Pさんだからできたことって、あると思うんだ。少なくとも、私はそう思うよ?・・・や、みんなも、だと思うけどね。」
P「そうかな?」
加蓮「そうだよ。Pさんが見ててくれるって思えば、安心できるんだ。ホントだよ。・・・私、Pさんとの仕事のことは全部覚えてるよ。」
P「・・・そりゃまた、どうして?」
加蓮「どうしてって。ふふ。・・・アイドルとして充実してるんだもん。いい、思い出だよ」
P「・・・そうか。どういたしまして。・・・アイドルとして、ね。」
加蓮「うん。アイドルとして。・・・ねえ、Pさん。これからも・・・変装していれば…Pさんの隣を歩いても…いいよね?」
P「・・・俺とお前はいつだって同じ道を歩いてる。これからも、お前が望むなら、お前の隣で、お前を支えてでも、加蓮と歩いてやる。変装しなくたって、それは一緒だ。」
加蓮「そうじゃないよ。・・・わかってるだろうけど。・・・でも、嬉しい。・・・もっと売れっ子だったらスキャンダルのひとつにでもなったかな…ふふっ」
P「俺の今の発言、が?」
加蓮「ふふっ、プロデューサーとアイドルだったら一緒にいたって大丈夫でしょ?私…Pさんにはずっと私のプロデューサーでいてもらいたい。だって…ね?ふふっ」
P「・・・久しぶりに、俺のことをプロデューサーって呼ぶんだな。」
加蓮「・・・Pさん…手、出して?ふふっ♪・・・なんかいい雰囲気かな。・・・あったかい。・・・Pさんと一緒にいるだけで、元気が、もらえる。」
P「・・・ならいい。加蓮の手、震えてるもんな。」
加蓮「・・・さいたまスーパーアリーナ、見えるね。きれいな・・・ステージだね・・・。あはは、参ったなぁ…なんか感動でぼーっとしてた…。こんな大きなステージに立てるんだ………すごいなぁ…。」
加蓮「Pさん・・・もう少し・・・一緒にいて・・・。ふふっ…今だけはPさんを独り占めだね」
P「・・・つーか、お前、あそこで立派にライブ出来る自信、あんのか?」
加蓮「もちろん。ホント、全力でライブできるって幸せなことだよ。」
加蓮「ここまで育ててもらったお礼…ステージの上で返すから!素敵なステージに負けないくらい、私も輝いてやるんだから!」
加蓮「いつでも全力だよ。今までそうやって頑張ってきたんだから…!」
加蓮「私…まだまだ上を目指すよ。こんな所で止まらないんだから!」
P「・・・嘘つけ。・・・また・・・」
加蓮「・・・え?」
P「いや、言葉自体のほとんどは嘘じゃない。むしろ、心の奥底が嘘をついてる。から、前と一緒だ。いや、お前自身も気付いているかも知れないけどな・・・」
加蓮「・・・」
P「いくらなんでも、お前は今、アイドルであること。ひとりのアイドルであることを強調しすぎだ。なにがスキャンダルだよ。なにが独り占めだよ。」
P「お前のとっての俺はたったひとりのプロデューサーだし。俺のとってのお前は今、制服を着た夢見る女子高生にすぎねえよ。」
P「そんなこと、言うまでもないんだし・・・。しかも、ちゃんと言っただろ。ずっとお前と一緒に歩んでいく、ってな。それなのにずっと、俺がお前のプロデューサーであることを強調しやがって。」
加蓮「そう、だけど・・・それが?」
加蓮(どっちなんだろ・・・?アイドル以前にお前も女の子だ。お前と付き合うのもかまわない。みたいな流れにも見えるし、お前はアイドルで俺はプロデューサーだ。付き合えるわけがない、みたいな流れにも見えるし・・・)
加蓮(どっちにしても急すぎる・・・全然そんな心の準備してないし、そもそも好きだってまだ言えてもいないのに・・・)
P「でも、このときなあ、お前が気付いてない。いや、意図的に無視してる人物がいるんだよ。」
P「俺がプロデューサーで、お前がアイドルで。俺がお前を連れて行って。・・・お前はそれを強調して。・・・いい雰囲気で、いい話をして・・・。」
P「だが・・・お前の話のどこに・・・渋谷凛が、いたんだ?」
加蓮「・・・!?」
P「神谷奈緒はいたよ。私は少なくとも俺だから出来たことがあると思う、っていったとき、お前はあわててフォローしたよな。・・・知ってるっての、奈緒が俺にも感謝してくれていることくらい。」
P「・・・仲間としての奈緒は、常にお前の脳裏にあったんだろうよ。・・・あいつの素直じゃなさが病気なのは俺だって知ってるけど。まあフォローはするわな。」
P「でも凛は・・・口癖のように俺への信頼と感謝を口にする。なにかそれが、ドックと巨大なタンカーを繋留しているものであるように。」
P「お前がそれを知らないわけもないだろう。一緒の道を歩んでるはずなのに。一緒にスタートしたはずなのに。・・・長い時間、ずっと一緒にいたくせに。」
P「俺も・・・仕事がなかなか一緒にならない期間があったって、凛とは同じ道を歩んでるつもりでいたんだけどな。」
P「でもお前は、自分の"旅の仲間"から・・・渋谷凛を除外したんだ。俺とお前と奈緒。これで一緒なんだと。・・・無意識に、凛は、卯月Pと、NGと一緒に道を歩んでいるんだと。」
P「でもどこか・・・お前はこのSSAに・・・俺以外のだれかに・・・『連れてってもらった』、『感謝している』ようなニュアンスを出してはいたんだ。」
P「むろん・・・それは凛だ。俺が知る限り・・・お前と凛はほかに並ぶモノのないほどの親友だ。どうやったって、心から捨てられる訳がない。」
P「そんなヤツが、全力でライブなんて出来るのか?もっと上を目指すなんて、出来るのか?」
P「だからそれは・・・大切なモノを直視出来なくなった自分がイヤになって、さらにその大切なモノに蓋をする。・・・そういう嘘だ。」
P「何があったんだ・・・言えよ。おこぼれをあずかった形になって、かけがえのない親友に嫉妬した自分がイヤになったからか?」
P「それとも・・・凛をなにか、傷つけてしまったのか?」
加蓮「・・・たぶん、両方。」
加蓮「私、やっぱり少しうしろめたかった。自分の長かった夢だし、自分の力で大きなステージには上がりたかった。」
加蓮「でも凛は、大切で親友ですごくって、かけがえなくって、真心で接してくれて、Pさんと一緒に私をここまで引きあげてくれた・・・」
加蓮「だから私、わけわかんなくなって・・・もちろん親友という意識のほうが勝ってたし。奈緒は最初から凛を見守る子だったから、嫉妬なんて一つもしないで、対等な仲間として協力してたし・・・」
加蓮「けどね。凛。私たちが『さすが、すごいね』とか、『仲間として』とかのことばを、稽古中に使った時、すごく苦しそうな顔をするの。」
加蓮「私は、気付いてた。でも、奈緒にもPさんにも言わなかった・・・」
加蓮「なんで、って。そこは私たちの純粋な誉め言葉なのに、どういう意味で受け取ってるの?・・・同じ仲間だと思ってないの?って」
加蓮「どっちかというと・・・私の・・・NGのみんなに対する・・・卯月や未央ちゃんに対する・・・嫉妬だったんだと思う。」
加蓮「それで、おかしくなって・・・」
加蓮「Pさん、私たちの衣装を、凛のNGのヤツとお揃いにしてくれたんだよね?」
加蓮「だから、あてつけのようなことを言ったの。仲間じゃないって、暗に言ってるかのような・・・」
加蓮「凛のNG衣装にぴったり"合わせる"ように、奈緒の衣装と・・・私の衣装も、作ってもらって。なんて。」
加蓮「まるで外の人たち・・・NGという外のひとたち、仲間じゃない人たちの、私たちが真似をしているような言い方をね。」
加蓮「でも、そのあと、凛の顔は見てない、見れなかった、友だちとして、親友として、親友の心をこわした女として、すぐに・・・」
P「バカじゃねーの。」
加蓮「P、さん・・・?」
P「そんな言葉で、仲間はずれにされたなんて思うヤツはいねーよ。」
P「加蓮、やっぱお前優しすぎるよ。」
P「つまり、"合わせて""作ってもらった"んだろ?"合わせて"、だけじゃない。普通はそう受け取る。」
P「"合わせる"じゃ上から目線だ。"合わせてもらう"じゃ卑屈な目線だ。対等な仲間じゃねえ。」
P「でも、"合わせて作ってもらう"っていうのは、・・・普通の、対等な仲間同士の、協力作業、貸し借りにすぎないんじゃないのか?」
P「・・・凛は頭がいいから、きっとそうやって受け取ったに違いない。お前が余計な言葉を付け加えたせいで。」
加蓮「そう、かな。」
P「そうだよ。お前と凛は、どうあっても仲間だ。先天的に仲間だ。慢性的に仲間だ。きっと致死性の仲間だ。・・・その言葉も、お前が無意識に加えた凛との絆をつなぎとめる優しさだよ。」
加蓮「そか。よかった。Pさんに言って」
P「なんで?最初にバカじゃねーの?とかいったぞ?俺。」
加蓮「ふふ。その…Pさんなら…きっと大事な言葉をくれるかなって。・・・まるで魔法みたい。」
P「しがない企業戦士だよ、俺は。文学部こそ出たけどな。・・・ま、凛にとってお前は仲間、お前にとって凛は仲間。わかったか?」
加蓮「うん。ひとりじゃないよね…私にはPさんやみんながいるんだから…」
P「そうだ。そして立派な、もうわざわざ言葉にして確認する必要はないほどの、アイドルなんだよ、お前は。」
加蓮「うん。わかってる。今日ここで話せて、実感出来た。」
加蓮「凛にどうあやまろっかな・・・ほんとに」
P「謝る必要なんかねーだろ。お前のことは最初から仲間だと思ってるんだから・・・逆に困惑されて、罪悪感持たれるぞ。」
P「ま。きっとその苦しそうな表情って言うのも、自分が仲間になれてるのか不安だったからじゃないか・・・?」
P「だから、いつも通りに接してやれ。」
加蓮「うん。そうするね。」
P「そして、さっきの『嘘』で宣言した言葉。すごいライブにするとか、もっと上を目指すとか・・・今度は信じていいんだよな」
加蓮「大丈夫、あなたが育てたアイドルだよ」
P「・・・そか。お前はとんでもない、ヒロインだよ。・・・意外と、まだ時間あったのな。」
加蓮(ふふ。やっぱりすごいな。私の不安全部短時間でぬぐい去ってくれちゃった。)
加蓮(しかもデートだって認めてくれたし、女の子としてみてるって言ってくれたし、ずっと一緒にいるって言ってくれたし。)
加蓮(・・・全部ぜんぜん決定打じゃないんだけどね、ふふっ。・・・やっぱり、相変わらず、大好きだよ。Pさん。)
――SSAにもどって、午後三時頃
加蓮(ってことがあっても、結局今日も凛と話せてないんだよねー・・・)
加蓮(・・・だって私のあの発言からろくに話せてもいなかったんだし。私が避けてたから・・・)
加蓮(だから凛も話しかけにくいだろうし、私も私で話しかけにくい・・・)
加蓮(しかもAちゃんとかBちゃんが来て、凛もそれに構いっぱなしだし・・・久しぶりだから仕方ないけど)
加蓮(・・・そろそろリハ始まっちゃう。・・・どうしよ。)
凛「ねえ、加蓮。」
加蓮「!?なに、凛?」
凛「私たちって、仲間だよね。・・・対等な。」
加蓮「え?当たり前じゃん。そんなの・・・ずっと、そうだよ。」
凛「そう。それが確認出来れば、よかったかな。」
加蓮「そ。」
加蓮(アレ、なんかあっさり解決しちゃったけど・・・)
加蓮(なんかおかしくないかな・・・?まあいいや。)
――リハ中、午後五時頃
P「うんうん。」
P(NGのパフォーマンスはさすがの一言だな。)
P(経験も積んでるし、はっきりと個性が出ているなかにも、やさしい調和がある)
P(まあ、きっと卯月Pさんの鬼の指導と・・・)
P(あとまあ、青木さんのお姉さんだとか言うひとの、スペシャルトレーニングとやらを積んでるから、なのかな?よく知らないが・・・)
P(ま、問題はりんなおかれん(仮)のほうなのだが・・・)
P(素晴らしいじゃないか!全然負けてない!やっぱり、和解を凛と加蓮に任せたのは正解だったようだな・・・)
P(さっきのNGとは逆に、新鮮さの中に荘厳な調和があって、その僅かなうねりから間隙光のように鋭い個性の色が光っている。)
P(ただ、凛がすこし調和を意識しすぎていて、それがグループ全体に浸透していて、すこし光が鈍っているかな・・・?)
P(まあいい、俺の理想と多少違えども素晴らしいことには変わりない。・・・観客の度肝を抜くステージになるだろう、よ。)
――本番、午後七時過ぎ
カガーヤクセカーイノマホー、ワターシヲスキーニナーレ
奈緒「ああ、本番はじまっちまった!」
加蓮「・・・こういうのって普通、私たちが前座を務めない?なんで私たちがトリなわけ?」
奈緒「・・・Pさんが強引にねじ込んだからだろ。」
P「悪かったな・・・」
加蓮「いーのいーの。むしろ楽しめるって。凛と奈緒と、仲間と一緒ならね。・・・対等なね!」
奈緒「そーだな。・・・ああ、でも、凛を守ってやる気持ちで行けよ。」
加蓮「え、・・・その、凛の胸を借りるとかじゃなくて?」
奈緒「ああ、ここにいる、みんなで凛を守るんだよ。」
加蓮・P「「・・・?」」
奈緒「・・・まぁいい、凛の雄姿をこっから見よう、な。」
――NG終了、本番
未央「ふー!ちゃんみお上等兵、やりましたーっ!」
卯月「疲れたねー。」
未央「・・・うん、普通。」
卯月「そこは普通でいいでしょ!?」
未央「しかし、しぶりんはすごいよー。私たちであんだけ激しいパフォーマンスをしたのに、あっちのユニットでも全然パフォーマンスが落ちない・・・さすがプロ意識のかたまり。」
未央(そして夜のプロ意識、パフォーマンスにも期待してまっせ。げっへっへ。)
卯月「うん♪凛ちゃんはクールだからね♪」
未央「・・・しかしだしまむーさんよ。そうやってMCの時からなにかにつけて『クールな凛ちゃん』とか『クールだから凛ちゃん』とか連発するの、やめてあげることはできませんかね?」
卯月「えへへ、だってリアクションが楽しいんだもん♪」
未央「・・・なんでしぶりんに対してだけは性格変わるのかねー」
卯月「えへへ♪」ダブルピース
卯月(しかし、さすがだな、凛ちゃんたちのプロデューサーさん。)
卯月(私も奈緒ちゃんもサイリウムは赤、未央ちゃんと加蓮ちゃんもサイリウムはオレンジ、凛ちゃんは青、いや、蒼をそのまま使えばいいわけだし。みんなそのままリウムを振って応援出来る。)
卯月(しかも私たちに合わせて色をあてたって訳じゃなくって、奈緒ちゃんのイメージはやっぱり赤だし、加蓮ちゃんはどうやってもオレンジ。)
卯月(・・・きっとそうやって、あの子たちを個別にプロデュースする中でそうイメージを誘導したんだろうな、私たちが結成されたあとになって、こうなるように。)
卯月(・・・さすが、あの加蓮ちゃんと凛ちゃんを同時に惚れさせたプロデューサー。さすがにそこは、私でもおちょくれないや。えへへ♪)
P(みんなのパフォーマンスはリハの時と変わらない、それは素晴らしい。さすが仲間だ。プロだ。でも・・・どういうことなんだろう?)
加蓮(凛を守るって、どういうことなんだろう・・・様子はさっきと変わらないし、むしろいつもよりも強そうにすら見えるけど・・・?)
凛(出た。私のいちばんやりたくない曲、ほかのカバー曲ならともかく、これは私の曲・・・『Never Say Never』)
凛(もちろんプロだし、好きな歌だし、しっかりとやるのだけど・・・。この曲に限っては、ほかの子たちはバッグダンサーでしかない。)
凛(同じ仲間なのに、同等の仲間なのに、どうしてあなたひとりが歌っているの?・・・そんな目線を、背中に感じてしまう気がしてしまう。)
凛(同格の仲間、大切な仲間、親友、友だち、そういうひとからの嫉妬が・・・いちばんイヤだ。)
凛(・・・加蓮はちょっと話せない期間があったけど、さっき勇気を出して話してみたら、たまたまだったみたい。)
凛(・・・みたい、というだけで確証はない。むしろあの子は、アイドルがずっと夢だったんだから、そういう嫉妬があってしかるべき!)
凛(・・・だったら無視されてるほうがよかった。親友なのに。他人として、嫉妬されてるほうがよかった。そんなのやだ。加蓮は親友、一生のかけがえのない親友なのに、他人ならよかった・・・)
凛(もう、自分がイヤだ。)
奈緒「・・・」
――本番終了、楽屋
P「お疲れ様、凛。Never Say Never、いつになく気持ちが入ってて、すごくよかったぞ?」
凛「ありがと。・・・タオルも、スタドリも、ありがとね。」
加蓮「ふぇぇぇえぇん、うづきぃぃ、ゆめが、ゆめがほんとうになったよぉぉお」
卯月「よしよし♪加蓮ちゃんはよくがんばったよ♪」
未央「さすがしまむー、なぐさめ方まで普通だ。」
奈緒「・・・お前らは少し、普通に対して過敏になり過ぎなんじゃないか?」
B「うわーん、りんちゃーん、かっこよかったよーお!」バーン!
凛「・・・ちょっと、来るの早すぎない?」ナデナデ
A「あははー・・・」
C(アイドル・・・すこし興味深いな。しかし私がやるのは学業との両立的に不可能、非論理的だ。だから姉に勧めてみるか。姉は・・・本当に諜報活動が趣味な・・・本当のバカだし。)
――――SSA、関係者口、ノット、ホワイト、クリスマス
凛(『罰として、かわいくクリスマスプレゼントを渡せ』か・・・)
凛(舞台メイク落としてすっぴんメガネだし、髪痛めないようにアップにしてるし、汗かいたから上下スウェットだし・・・)
凛(・・・容姿的にかわいく渡すのは無理だね。・・・しょうがないじゃん、朝出る時はそんな予定じゃなかったし・・・。)
凛(帰り際には、『愛情注入も忘れずにね♪』・・・だってさ。)
凛(まあ、一応、ぎゅっ、としといたけど・・・)
凛(まあ、それでも、真心が伝われば、きっと大丈夫なはず。)
凛(未央みたいに、素直に、純粋に、心からの単純な言葉で・・・)
凛(『プロデューサー、好きです』って・・・)
凛(いつ、「残りの処理」は終わるんだろう・・・ホントにどきどきする。本番の時よりずっとすごい)
加蓮「お疲れ様でしたー♪・・・って、凛、どうしたの?」
加蓮「私はちょっと外の空気を吸おうと思ったんだけど・・・。てかすっごい格好だね・・・ファンには会わないように気をつけな?」
凛「・・・今日の最初っから言おうと思ってたけどさ、どうして今日制服なの?」
加蓮「・・・ご存じの通り、私朝弱いじゃん。Pさんにたたき起こされた時、なんか自動的に着ちゃったんだよね。」
凛「あはは・・・そういえば、加蓮だけ、プロデューサーと二人で来たんだよね。」
加蓮「うん。ふふ。でもよかったよ、夢の制服デートが出来て。一生の思い出。」
凛(・・・え?)
加蓮「途中公園で話し合ってさ。俺たちは仲間だ。ずっと横についてきてやる。なんて言われてさ、やっぱ私たちみんな・・・」
加蓮「・・・って、あれ?」
加蓮「凛が、消えた・・・?」
――――聖夜、ダークナイト、さいたま新都心、駅前、ごった返し、通称・けやきひろば
凛「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」
凛(・・・アレは絶対当てつけだ。)
凛(未央にバレてたプレゼントが、親友の加蓮にバレない訳がない!)
凛(しかもあのとき、たしかに私は包み紙を持ってた。見えてない、なんてことはないはず!)
凛(そして何より・・・親友の加蓮が、私の恋心を知らないはずがない!)
凛(別に相談したこととかはなかったけど、私たちはもう、以心伝心のはず・・・)
凛(なのに制服デートとか・・・確実にアレは、私がプロデューサーに出会った、スカウトされた時のことの当てつけ。)
凛(『ずっと横についてきてやる』なんて・・・絶対プロデューサーが『背中をずっと見守ってやる』のことじゃん・・・)
凛(もうやだ、なんで親友に、嫉妬されなきゃいけないの。私は純粋に、がんばってるだけなのに・・・)
凛(・・・スウェットにくしゃくしゃの千円札がはいってる、さて、どうするかな・・・)
――――SSA、暗転、控え室、残務、ごった返し、アイドルたち、プロデューサーたち
加蓮「Pさあああああああん」バーン!
卯月「どうしたの加蓮ちゃん、またそんな泣きはらして・・・」
加蓮「凛が、凛が、凛がああああああ」うぇーん
未央P「!渋谷さんになにかあったのか!?」
卯月P「たしかに私も先ほどから凛の姿を探しているんだが、見あたらなくてな・・・卯月ちゃんと一緒に送ってあげないといけないのに」
P「俺はさっき、『残務処理が終わったら、関係者口で待っててね』って言われてたんだが・・・」
未央(!?)
未央「加蓮てぃん、しぶりんってそのとき、なにかラッピングされたものをもってなかった?」
加蓮「ううん・・・わかんない・・・」ぐすっ
奈緒「なんだその質問・・・そんなことより重要なことを聞くぞ。つまり凛は関係者口にいたのか?」
加蓮「うん」ぐすっ
奈緒「・・・で、どんな格好をしてた?」
加蓮「上下スウェットで、すっぴんにメガネして、髪の毛アップにしてた・・・」ぐすっ
奈緒「・・・アイドルじゃねぇな。」
未央P「それは・・・まずいな!非常にマズいぞ!!!」
未央「どうしたの?」
未央P「さっき聞いた渋谷さんの格好・・・暴れたいアイドルの女性ファンが、非常によくする格好のパターンの一つだ!」
P(暴れたいって・・・まあモッシュとかは起きるものだけどさ)
未央P「そして神谷さんが言ったとおり、その格好はアイドルからかけ離れていて、とても渋谷さんだとまわりに知られるとは思えない!!」
未央P「そして・・・今はまさにお客様がお帰りになる時間。不幸なことにSSAは駅から非常に近いから・・・人波にあっさりとまぎれてしまう!!!!」
卯月P「つまり、今から追いかけたところで捕まえられる、もしくは周囲に保護してもらえる確率は、ほぼゼロに等しいというわけね・・・」
卯月「まず、おうちの方と警察に連絡しましょう!」
加蓮「うづき・・・ふつう・・・だからこそ・・・適切な・・・対応だね・・・」ぐすっ
卯月P「よしよし」
卯月「えへへ♪」
加蓮「なんだ・・・この・・・関係性・・・」ぐすっ
P「・・・。」
奈緒「おい、ヒーロー。」
奈緒「・・・。Pさん、そんなの知るか、手がかりなんかなくても、俺は凛を追っかけてやる。どこまでも。」
奈緒「どうせそんな風に思ってるんだろ?」
P「・・・手がかりが、あるのか?」
奈緒「ちょっとまってろ。おーい、ちょっと、未央、ちゃん。」
未央「どしたかみやーん?」
奈緒「かみやんって・・・まぁいい。さっきの包み紙って、もしかしてPRADAのネクタイ、のことか?」ヒソヒソ
未央「そうだよ?・・・Pさんに話すのは、そりゃまずいっしょ」ヒソヒソ
奈緒「そうだな・・・。すまん。ありがとな。」ヒソヒソ
未央「いえいえ」ヒソヒソ
奈緒「待たせたか?」
P「・・・別に。」
奈緒「そうか。じゃあ言うけどな、手がかりは、ない。さっきのヒソヒソ話も関係ない。手がかりは全くない。」
奈緒「あったらあたしも、アタシだってすぎに探しに行くからな。」
P「そうか。じゃあ俺は行くぞ。」
奈緒「最後まで聞けっつぅの!まぁ、手がかりはないんだが・・・大事な話は、ある。」
――――東京、東京、どこだろう
凛「ハァ、ハァ、ハァ」
凛(もうすぐ、夜が明ける)
凛(クリスマスケーキと一緒で、26日を歩む恋人たちも、売れ残り、とは言えないけど・・・)
凛(なんか、敗残兵のような、悲しそうな顔を、してるんだよね)
凛(どう、して、だろう。)
凛(私も、・・・一瞬の運命論が、うまく巡っていたら、きっと今、この瞬間。その理由を知っていたかも知れないし。知る必要もなかったかも知れない。)
凛(私は、ずるいな・・・)
凛(携帯の電源を切って、それどころか、そのあと、家も、卯月も、未央も、卯月Pさんも、未央Pさんも、ちひろさんも、)
凛(奈緒も、・・・加蓮も。・・・・・・プロデューサーも、着拒して。)
凛(それなのに、私は、プロデューサーに自分から電話をかけて。)
凛(そしたら、『電波の届かないところにいるか、電源が入っていません』・・・って。)
凛(・・・さむい)
凛(・・・ほんとに、さむいな。)
凛(・・・あ、ほんとにゆきが、ふってきた。)
凛(廃兵のように、アスファルトに力なくたおれこんでは、きえてゆく)
凛(歩行者信号たちはそれを、ひとつ、ひとつ、ひとつと数えてゆくのだけど)
凛(あまりにもはやく消えてしまうものだから、いつまでもふった雪の数は、ひとつのまま)
凛(だからそんなことをしているうちに、歩行者信号は、せわしない点滅をしてしまう)
凛(なんの例えをしているんだろうな、私は、私を、プロデューサーを・・・26日の雪に)
凛(そういえば、『汚れちまった悲しみに今日も小雪の降りかかる』なんて詩が、教科書にあったな)
凛(私はよごれてはいない・・・。ただ単に、まったくきれいになっていないだけ。・・・ずるいね。)
凛(ん?着信)
着信: 公衆電話
凛(もしかして、携帯の電源が切れたプロデューサーが、公衆電話からかけてきたのかも知れない!)
凛「もしもし!」
『よっ。あたしはアイドルのくせに公衆電話からの着信に出るなんて、アイドル失格じゃねぇかと思うぞ?』
凛「・・・奈緒?」
奈緒『ったく、公衆電話からの着信なら出るって読みは当たりだな。』
凛「・・・なんか用?」
奈緒『おっと!待ち人からじゃなかったからって切るんじゃねぇぞ!』
凛「・・・別に。そんなつもりなかったし」
奈緒『・・・つめてぇな、凛。けどいいこと教えるぞ、お前らのヒーローは、もうすぐそこにやってくるよ。』
凛「・・・場所、わかって、教えたの?」
奈緒『いんや、全然わかんねぇよ。Pさんもバカだから、電車も車も使わずに走り出していったしな。・・・けど、な。』
凛「ふふ。そんなの全然意味ないし、見つけられてもないし。ホントに、バカだね。」
奈緒『そんなんだからお前らはいつまでたっても、ヒーローと主人公とヒロインなんだよ・・・。話がずれたな。単刀直入に行くぞ。』
凛「・・・なに?」
奈緒『あたしたち、あたしも加蓮も、凛のことなんか嫉妬してねぇよ。』
凛「・・・は?」
奈緒『こえーな。怖すぎんだよ、凛はさ。だから・・・加蓮に嫉妬なんか、してんじゃねえ。』
凛「!?・・・どういうこと?」
奈緒『どうせこっちには気付いてねぇと思ってたよ・・・。加蓮めちゃくちゃ泣いてて、怖がってるんだぞ。親友が突然目の前からいなくなって、それが自分のせいかもしれないことに。』
凛「それは・・・というか、私は、そんな、嫉妬なんて」
奈緒『そう。正確には嫉妬じゃないのかも知れないけど・・・けれど加蓮をおびえさせた』
凛「そんな・・・」
奈緒『まぁそれはいい。あたしが言うことじゃない。だからそう思って、誰にも言ってなかったんだけどさ・・・』
凛「・・・うん」
奈緒『こういうのを解決するのはPさんの役目かな、って。いつもそうだったしな。でも、こじれこじれて、こうなっちまった。』
凛「そう、だね・・・」
奈緒『まぁ、よく考えてみれば今回、Pさんじゃ解決しようがなかったのかもしれねぇけど・・・』
凛「どうして?」
奈緒『・・・教えらんねぇな。』
凛「そう。・・・よかった」
奈緒『だな。とにかく、Pさんに嫉妬の件については教えてあるから、まぁ覚悟くらいはしとけ』
凛「うん。・・・というか、ごめん、携帯の充電切れそう」
奈緒『わかった。最後に言っとく。あたしと加蓮と凛は、別々に光ってお互いを照らす、そんなモンだと思ってるから。』
凛「そう。うん。じゃ、私も、最後に・・・奈緒の電話で、私はすごく、安心したから。ありがとう。」
ツーツー・・・
凛「切れ、ちゃった・・・。ちゃんと感謝、伝わったかな・・・」
「――凛か!?」
凛「・・・ちょっと、できすぎてる、かな」
「はぁ、はぁ、はぁ、」
凛「・・・なんで、走ってきたの?」
「忘れ、てた」
凛「・・・バカだね」
「ごめん、はぁ、ふぅ・・・」
凛「・・・なんで、すぐ、私だって、わかったの?」
「格好も特徴も、教えてもらってたから・・・」
凛「そう。全然ロマンチックじゃ、ないんだね。」
「そう、だな」
凛「・・・じゃ、どうしてここが、わかったの?」
「なんとなく、確信があった、から」
凛「どうして、そんな確信が?」
「だってここ、青山のmiumiuの前だろ」
凛「・・・そうだね、そこではじめて加蓮と会ったんだもんね、・・・プロデューサー。」
P「お前も・・・よくそんなこと覚えてたな、凛」
P「ようやく息が整ってきた・・・。なにしろ埼玉からだからな。8時間くらい。調べたら26kmくらいだってさ。直線距離で。」
凛「お疲れ様だね。」
P「他人事だな。」
凛「私は電車で来て。そのあとずっとマックにいただけだから。職質もされないし。」
P「お手軽な迷惑だよ。」
凛「・・・まあその場合、車だと見つけられなかったんじゃない?」
P「それでいいよ」
凛「・・・なんで来たの?」
P「約束したろ?お前が見えていない時は、お前の背中を捕まえて、引き留めて、話をしてやるってな。」
凛「そう。ありがとう。・・・加蓮の時と同じ?」
P「同じ、って?」
凛「俺はお前を怒りに来た訳じゃないのに、なんでお前は俺に怒られに来たんだ?ってヤツ。」
P「違うよ。」
凛「じゃ、なに?」
P「すっげー、怒りに来た。」
P「お前はな・・・NGのみんな、それぞれのプロデューサー、千川さん、その他会社の人、ライブスタッフ、
そしてご両親、・・・あげくの果てに警察の方にまで、迷惑をかけた。心配させた。」
凛「そ、それは・・・」
P「ったく、見つけた今でも『めんどくさーい』だよ。あとがどうなることやら。あ、ちなみに今のは昔の加蓮の真似な。」
P「そう、加蓮の真似・・・」
P「お前は加蓮を泣かせた。奈緒を怖がらせた。俺のアイドルをそんな風にするヤツは、許せねえ。」
凛「・・・っ」
P「そして、俺は俺自身が許せねえ!一番気にかけてきてやったはずなのに、凛の心にできたひずみに気がつかなかったんだからな・・・」
P「奈緒に言われて、教えてもらってはじめて知ったよ・・・。お前、奈緒や加蓮に嫉妬されているって思ってるんだってな、んなわけねーっつのに」
P「周囲の人間に対して、・・・奈緒や、特に加蓮なんかに対しては、人一倍めざといお前が、そんな勘違いするはずないと、俺は思いこんでしまってたらしいな・・・」
P「でも、それもしょうがないのかも知れねえな・・・」
P「なぜならお前、渋谷凛が、嫉妬のなんたるかを知らないからだ。」
凛「・・・え?」
P「嫉妬。つまり妬みやそねみ、それが何ものであるか、それは説明しえないことかも知れない・・・自然に湧いてくる、沸々とした感情だからな」
P「だが、その原因は知っている。・・・お前が思っているような、敗北感や劣等感、そんなものが原因な訳じゃねえ・・・」
P「嫉妬って言うのはな、・・・誰にも自分の努力を認めてもらえなかった時、そのときはじめて起こる感情なんだよ・・・!」
凛「え?そんな・・・」
P「なんでアイツがチームのレギュラーなんだよ?俺だって頑張ってたのに、どうして誰もそれを認めてくれねえんだよ・・・」
P「なんで顔がいいだけのあの子がちやほやされんだよ?私だってほかの魅力では、負けてないはずなのに、どうして誰もそれを認めてくれないの・・・」
P「・・・お前は周りによく気が付いて、誉める時は素直に誉めるし、悪いところははっきりと言う。裏表がない。・・・そして、努力に必ず報いてくれる。お前は優しい。」
P「凛がそんな子だってこと、近くにいれば誰だってわかる。ましてや奈緒と加蓮なら、もっと深くで実感しているはずだ。」
P「・・・だから奈緒や加蓮が、お前を尊敬こそすれ、張り合いこそすれ、嫉妬なんてするはずがない。・・・だけどお前は、自分が嫉妬されてると勘違いした・・・」
P「なぜなら、凛、お前は嫉妬というモノを知らないからだ。」
P「人一倍人を見るおまえが、人が自分に向ける感情や自分の抱く感情の正体がわからなくて、辞書的な「嫉妬」の定義をあてはめて、不安になってたからだ・・・」
凛「・・・そんなこと、どうやして断言できるの・・・」
P「なあ凛、お前はプライドが高いな。異常に高い。ビックリするぐらいに高いな。」
P「そこは第一印象のままだよ。お前は誇り高い、自分の能力、努力に絶対的な自信を置いて、そこに全てを根ざしている女だ」
P「・・・そんな"本当に"プライドの高い人間は、自分で自分がした努力のことを既に認めている。・・・ある意味、もっとも客観的に見られている・・・」
P「自分の成績を上回った人間がいる。じゃあ、俺はもっと努力をしなきゃ、張り合わなきゃ。」
P「自分より魅力的な女がいる。じゃあ、私はもっと努力をしなきゃ、張り合わなきゃ。」
P「・・・自分の努力を認めていない人間と違って、自分の努力が見えているから、どうすれば張り合えるのかもわかる。どのくらいの努力で、上回れるかもわかる。」
P「・・・だから鼻持ちならねえ、本当にプライドの高い人間は、嫉妬をしない。」
P「・・・そしてひとりの、どうしようもない天才がふと現れたとき、・・・本当にプライドの高い人間はすごいな、とそっと笑って、そこを立ち去る。」
P「自分とは努力の領域が違う、能力の分野が違う。・・・そういうことを正確に把握出来るからな。・・・まるで嫉妬なんか起こらない。」
P「だから、渋谷凛。お前は嫉妬のなんたるかを知らない。あんまりにもプライドが高くて、自らの能力をよく知っていたがゆえに、嫉妬というモノを把握することがこれまでできなかったんだ。」
P「・・・そして、これからも、凛、そんなもの知らなくていい!」
P「お前の辞書に、嫉妬なんて文字は必要ない!!」
P「お前は自分の力を信じて、周りの視線を自らの身の振りを直すための糧としながら、高みにのぼって、そこからそのおっかない目で、キッと世界をにらみ返してやればいい。」
P「・・・そうすれば、そこらへんのやっすいプライドしか持たない人間なんか、腰を抜かしながら逃げていき、お前のすごさを周りに喧伝してくれるよ。」
P「お前は嫉妬を知らない。純粋に知らない。ずっとずっとそれを知らず、疲れを知らない。それでいいんだ、渋谷凛は・・・」
凛「え、でも、私は、私が加蓮に嫉妬してるって・・・」
P「・・・え?」
凛「・・・え?」
P「俺は奈緒から、奈緒と加蓮がお前に嫉妬していると勘違いしていると聞いただけで、そんなことは聞いていないぞ・・・?」
凛「え、じゃあ、なんで・・・」
P「・・・まあいい。そんなことはなんとなく、俺も思っていた。だから俺は、途中からここを目指して走ってきた。」
P「なあ凛、他人が自分を上回っていると感じた時、ふと湧き上がる、嫉妬以外の感情を知っているか・・・?」
P「それは本当に誰しもが持っていて、凛。今回お前が嫉妬だと勘違いしたモノは、それだ」
凛「・・・なに、もったいぶらずに教えてよ」
P「・・・こええ。えっとな、それは『好奇心』だよ。凛」
P「相手と同じ努力はできないけど、能力も持てないけど、擬似的に相手と同じ場所に立って、相手の気持ちを知りたいと思う力、感情・・・」
P「凛はすごいな、どうしてこんなに高いところまで上り詰めたんだろう、私もその秘訣を聞いて、気持ちだけでもそれを味わってみようかな」
P「対等な仲間だからこそ、・・・気になってしまうその感情」
P「この好奇心・・・ある種不安にも似たそれが、お前が自分への・・・対等な仲間からの、嫉妬だと感じたモノの正体なんだよ。凛。」
P「そしてそれはきっと・・・凛が加蓮に対して抱いた感情でもあるはずなんだ。」
P「お前と加蓮の友情は・・・ちょっと類を見ないくらいの友情だ。お前は加蓮の、庇護者たらんとしている部分がある」
P「・・・その比類なき友情は、比類なき友は、少し顔を合わせない間に、どんどんその姿を変えていった・・・」
P「アイツは齢(よわい)16にして、はじめて現実というモノを得た。自分の心というモノを得た。加蓮はいつも髪型やネイルを変えてくるが、それと一緒にどんどん性格も変わって、成長していった・・・」
P「・・・そしてそんな変容した友人に、お前は致命的に傷つけられた。・・・加蓮は自覚がない、どうしてだかわからないというがな、加蓮を見てお前は逃げ出したのだから、きっとささいで、根本的な何かがあったんだろう・・・」
P「だからお前は加蓮の心を、知ろうとした。心が変容する、その立場に自分を置きたがった。・・・だから、この場所を選んだ。」
P「ここは・・・間違いなく、うぬぼれでもなく、加蓮の心を変え始めた場所だからな。・・・ここで俺と加蓮が出会わなかったら、お前とも、俺とも、奈緒とも、加蓮は出会うことなく・・・本当の自分とも出会うことができなかった」
P「だから、俺とお前は、今ここにいる。」
凛「・・・でも、それは私が加蓮に好奇心を抱いた理由になっても、加蓮に嫉妬を抱いたと勘違いした理由には、ならなくない?」
P「・・・だってあのとき、俺のこと、呼んでたろ?凛。」
凛「!?」
P「・・・『雑務が一段落したら、関係者口に来て』、だっけか。なんだか知らねえが、お前は俺を呼んでいた。・・・でも加蓮が、それを阻む要因になった」
P「・・・だから、お前は加蓮になって、俺を呼ぼうとして、俺に声をかけられに、ここにやってきた。」
P「・・・そして俺も、凛が、加蓮が呼んでるこの場所に、お前たちに呼ばれながら、やってきたんだ。」
凛「・・・ふふっ。そか。そうだよね。さすがPさん。ふふっ。本当にすごいよ、プロデューサーは。・・・ふふっ。」
P「・・・なあ、泣けよ、凛。」
凛「・・・?」
P「泣きやがれよこの傲慢な自尊心が固まってピノキオみたいなたっけー鼻になったクソみたいでうざったいタカビー女が!涙のあともかけらも見せねえで・・・」
P「悲しかったくせに!さびしかったくせに!傷ついたくせに!心細かったくせに!怖かったくせに!イヤだったくせに!ムカついたくせに!」
P「それをひた隠して、不敵に笑いやがって・・・人前だからって!外だからって!一人だからって!東京だからって!青山だからって!俺の前だからって!・・・そんな涙、隠してんじゃねえよ!」
P「お前は真心から俺を呼んでたんだろ!・・・なら泣けよ。・・・どんな気持ちだか知らねえが、俺はそれを受け取ってやるから!だから泣けよ!」
凛(これは・・・もしかしたら泣いて・・・プロデューサーの胸に飛び込むチャンス?・・・いや、もしかしたら、それ以上の気持ちも・・・)
「りぃぃぃぃぃんっっっ!」
「やっぱり、ここにいた・・・」ガバッ、ダキツキッ
凛「加蓮・・・」
加蓮「よかった・・・りん・・・いてくれて・・・ごめんね・・・ありがとね・・・」ぐすっ
凛「うん・・・ありがと・・・わたしこそ・・・ごめん・・・かれん・・・きてくれて・・・」ぐすっっ
P「・・・俺はお役御免ですか、そーですか。・・・せっかくの役得がありそうだったのに」ボソッ
ウェーーーーンッ!!!
――――
――――
凛「・・・どうして、加蓮はここに?」
加蓮「きのう、卯月Pさんに送ってもらって、その途中も、夜ずっとも、ずっとずっと、考えててね・・・そしたら、もしかしたら、ここかなって、予感、霊感・・・?」
加蓮「だから・・・始発でここまできて。そしたら聞いたことある大声がするから・・・案の定」
加蓮「ふふっ。Pさん、もうすぐひとが増えてくる時間帯になるから、すっごく危なかったんだよ?・・・住宅街も、ちょっと近いし」
P「そうだな。やべえ、周りが見えてなかった・・・反省するわ。」
凛・加蓮「・・・ふふっ」
凛「プロデューサー、ホントに昔は加蓮をスカウトした時の話よく私にしてたから、加蓮の印象にもそれがあったのかもね。」
凛「ねえ、そういえばさ・・・ふたりとも。私がここにいなかったら、どうするつもりだったの?」
P「え?俺は、そうだな・・・始発もそろそろ出る時間帯だったし、いったん埼玉戻って、車とってこようかなって」
加蓮「ふふっ、まずは家に帰って寝ないとあぶないでしょ?・・・私は、普通に家に帰って、事務所と警察に任せてたかな」
凛「ふーん・・・」
凛(なんだ・・・嘘つきは、私だけじゃない、んだ。)
加蓮「・・・そういえば、未央がいってた、ラッピングって、なんのことだったの・・・?」
凛「あっ・・・」
凛(このタイミングで、か。・・・まぁいいや。今はいろんな意味で・・・タイミングじゃなかったってことかな)
凛「はい、これ、クリスマスプレゼント。これまでのお礼、ってことで」
P「おう、なんだこれ・・・って、プラダのネクタイ?ありがと・・・でもいいのか?・・・っていうか早朝のマックで受け取るモノではないな・・・」
加蓮「ええー!プラダは私が先に考えてたのにー!・・・凛もそれを、知ってたはずでしょ?」
凛「ふふっ。私も加蓮の気持ちが知りたかったって、さっき言ったでしょう?・・・それにファッションにうるさいプロデューサーのことだからね。中途半端じゃ、ダメかなって・・・」
P「ああ、嬉しいけど・・・いい、みたいだな。ふたりがそういってるなら・・・」
加蓮「あ、でも、ネクタイは何本あっても困らないって言うし、私もプレゼントしようかな?」
凛「ふふっ。女性がひとりで選んだネクタイは、スーツに合わせづらいっていうよ?私も行こうか?・・・なんだったら、プロデューサーも?」
P「・・・なんのためのプレゼントだよ・・・」
加蓮「いーのいーの。一緒に来れば。ふふっ」
P「あ、そういえば。これはあとで奈緒にも言っておくけどな。」
かれりん「・・・なに?」
P「お前ら三人、セットリストもリーダーも、基本的には自分で考えてきてたよな・・・お前ら主導のグループだった」
凛「・・・そう、だけど・・・?」
P「だからな、りんなおかれんかっこ仮!これはな・・・俺の権限をもって、今日をもちまして解散だ!」
かれりん「!!」
P「このままじゃな、凛の不安は根本的に解消された訳じゃない・・・まだまだお前らの知名度に差があることは事実だ。」
P「だから、それをぬぐい去るために・・・いったんお前らは解散しなくちゃいけない」
P「だから、個別に活動して、知名度を上げていって・・・俺がそれはどうにかしてやる」
加蓮「・・・大丈夫、なの?」
P「大丈夫だ。すでに布石は打ってあったし・・・まあ別の理由で、なんだけど・・・」
P「まあ。だから凛の不安、・・・そして加蓮の不安、奈緒の不安。全部俺がぬぐい去ってやる!約束だ!」
――
P(その後はまあ、大変だった。凛はあんまり怒られなかったけど、監督責任を果たせなかった俺は上司にこってり絞られて・・・)
P(警察にも家族にも会場にもお詫び行脚で土下座の連続。まあ、そのお陰で、世間的には大ごとにはならずには済んだんだけどな。凛の天然変装もあって。)
P(世間に大ごとといえば、あのライブはやはり伝説になった。Twitterや2chなどで口コミが広がり、DVD・BDは飛ぶように売れ、YouTubeやニコニコ動画でも爆発的な再生数を誇った。)
P(・・・俺は事務所に怒られるのを覚悟で、それを黙認している。・・・この際、あんな約束をしてしまったからには、知名度アップのためにはなりふり構ってられないからな・・・)
P(なりふり構ってられないといえば、加蓮だ。ちょっと名前が売れたら、週刊誌やワイドショーなんかがこぞって加蓮の過去を取り上げ始めた。中途半端な同情は嫌いそうだし、すぐに忘れ去られて逆に傷つくのが常だが・・・)
P(・・・今の加蓮にはそんなこと関係なかった。だから俺はそれも黙認した。知名度のためになりふり構ってなどいられない。俺がライブ前に打っていた布石はドラマや新曲だけだったんだが・・・)
P(・・・それもいい方向に転がった。そういうメディアでアイツの純真可憐な笑顔と太陽のような瞳に触れれば、下手な同情などたちまちに晴れてしまう。・・・すぐに彼女は煌めいて、世間を虜にしてしまった。)
P(布石か。奈緒の布石については、バラエティのレギュラーにねじ込んでおいた。これはそのまま。なぜならアイツは俺たちに限らず、いじられて真っ赤になって、輝く女だ。)
奈緒『なんでいつまでたっても羊が一匹なんだよ!子どもを寝かせる気はゼロかよ!あたしは子どもの夢のアイドルだよ!・・・言わせんなよ!』
P(・・・そんな風に、アイツには天性の突っ込みと、フォローと、気付く力と・・・芸人が求めるモノを、全て持っている。しかもしっかりとアイドルをしつつ。・・・奈緒は、たちまち日本全国を笑顔にした、アトラクティブなアイドルになったよ。)
P(凛を見つけておいて、育てておいてよかったよ。アイツがいなけりゃ俺もこんなごり押しなんぞできる力はなかった。もちろんNGを代表とする、ほかの事務所の子の、変わらない頑張りにも感謝だ。)
P(変わらないのは凛だ。NGでも個人でも、アイツはさらに高みへのぼり続ける。そして、そのヒールを履けば男性の平均身長を優に超える、そのしたたかな鋭い脚で・・・)
P(女子高生の、若い男たちの、いや、世間の遥か上に立って、それをクールに睥睨(へいげい)している。・・・アイツこそ、現代のカリスマと呼ぶにふさわしいな。)
P(そうして、まあ、三ヶ月も経てば、状況は整ってくるわけだ・・・)
――
――――さくら、なんぶざき?、渋谷、渋谷、CGプロ
凛「おはようございまーす。・・・って、あれ?」
奈緒「お、凛じゃねぇか、久しぶりだな。・・・これ、京都ロケの土産の木刀。・・・凛に似合うかな、って。」
凛「なんでよ。私そんな暴力的なイメージあるかな?」
奈緒「いや、あたしはもうこの木刀で三回Pさんをブン殴ってるから、安心してくれ」
凛「何に安心するんだか・・・。というかあの人、相変わらずなにしてんのいったい・・・」
加蓮「おっはようございまーす。・・・って凛と奈緒、こんなところでなにしてんの?」
凛「おはよう加蓮。・・・そういえばすごく久しぶりだね、三人でこうやって会えるのは・・・」
加蓮「うん。みんなすっごい忙しかったからね・・・ていうか、なんでみんな事務所に?」
奈緒「あたしはPさんに呼び出されて、来たんだけどさ・・・」
加蓮「え、私もPさんからの呼び出しでドキドキだったんだけど?」
凛「・・・私も・・・プロデューサーから・・・」
三人「・・・え?」
P「ようお前ら!千川さんと応接間でふたりっきりで隠れているのはとっても気まずかったぞ!」
凛「なに、かくれんぼなんかしてんの・・・」
奈緒「凛が言えた話かよ?」
加蓮「ふふっ。やめなって、奈緒」
P「春だけにお話に花が咲くのもわかるが、早く応接間に来い!いろいろ発表がある!」
――
P「・・・。」
凛「・・・相変わらずもったいぶるの、やめた方が良いよ?」
加蓮「何度ビビらされたことか・・・」
P「よしわかった。またもや単刀直入がお望みだな。」
P「まず、・・・お前らのソロアイドル活動は、全員纏めていったん活動終了だ!」
三人「!?」
P「そしてお前らのユニットが、(仮)じゃなくて正式結成!」
三人「!!」
P「そんで初シングルが一ヶ月後、二ヶ月後にはアルバムと初ライブツアーだ!」
三人「!!??」
凛「相変わらずめちゃくちゃな・・・」
奈緒「あきれて言葉も出ねえよ・・・」
P「じゃあ言葉も出ない間、新ユニット名を考えてくれ。」
加蓮「・・・え?」
P「今回はお前らの個性を、さらにそれぞれ強調しつつ、さらに全体として『一つの意志』でありたいんだ。」
P「前回は俺が適当につけて大ブーイングだったからな・・・そして」
P「NGと違い、今度は大人たちが勝手に区切った『新世代』なんかじゃない。お前らの世代が、自分の世代が決める、そんな『新世代』なんだ。」
凛「・・・。」
奈緒「そうか。さすがPさんは、よく考えてんな。・・・尊敬してるんだぞ、これでも。」
P「そうか・・・そして同じ流れでもう一つあるから、ユニット名を考える間に聞いて、見てくれ」
三人「?」
P「それでは例の如く・・・千川さん、お願いします。」
ちひろ「きらきらりーん♪」
P「・・・。」
凛「これ・・・私の・・・アイオライトゴシック・・・」
奈緒「これは・・・しいていえば・・・ゴシックなのかな?・・・あたしの、原点・・・」
加蓮「全部あんまり共通点はないけど・・・しいていえば、青系統?」
P「そう・・・。この衣装には、一見した統一性はない。・・・しかし、ゴシックとか、青とか・・・」
P「そんなやわらかな規則において、同じ五線譜の上に、確かに存在している。そんな衣装だ。・・・今回のコンセプトにはぴったりだろう。」
凛「でも、なんで・・・ローソンの時のを・・・」
P「凛。今回もお前がリーダーだ。それは変わらない。前回お前ら自身がそれをきめたのだから。加蓮も奈緒もまた乗ってくれるはずだ。」
P「だから凛、お前に合わせることがこのグループのほがらかな調和になる、それがコンセプトだ。もちろん、前回衣装も好評だったから使っていきたいけど・・・」
P「・・・前回と違うのは『NGの渋谷凛』に合わせたことではなくって、『渋谷凛個人』に合わせたことだ。・・・これで三人の不安がぬぐい去れるなら、俺は嬉しい。」
加蓮「・・・衣装さんにも、感謝だね・・・」
奈緒「・・・ああ・・・」
P「そ。つーことで俺と千川さんの話は終わり。これからはお前らが主役だ。グループ名は考えましたか?」
加蓮「はい!私、オーヴァーマーズっていうグループ名がいい!」
P「・・・その心は?」
加蓮「火星を越える。なんかロマンチックでしょ?宇宙は人類みんなの夢。それをも越えて・・・私たちは・・・夢じゃなくて、ずっと一緒に・・・いられる気がする、んだよね」
加蓮「前に高校の校庭でサッカーやってた子の背中に書いてあってさ。チーム名なのかな?かっこいいな、って思って。」
P「・・・それはオーフェルマルスっていう、昔のオランダのサッカー選手の名前だ。すごく足が速くて、短命で・・・彗星のように消えていったな・・・」
凛「却下。縁起が悪い」
奈緒「同じく却下。加蓮がいうとなおさらだし」
加蓮「・・・どういう意味?」
奈緒「じゃああたしな。あたしは・・・」
凛「却下。」加蓮「却下。」P「却下。」
奈緒「まだ何も言ってないだろっ!?っていうかPさんに発言権はないはずだろ!?」
P「絶対アニメが由来だから。」加蓮「だから。」凛「だから。」
奈緒「くそっ・・・」
凛「じゃあ、私・・・」
凛「さっき、プロデューサーが五線譜がどうこう、って言ってたでしょ?」
凛「そういえば前、プロデューサーが『くっついてちゃ不協和音にしかならない、ある程度離れていないときれいな和音にならない』」
凛「・・・なんて言ってたのを思いだしてね。」
凛「・・・ドとミとソ。いわゆるCコード。もっとも基本的で、小学生にでも誰にでも弾けて、・・・もしかしたらピアノをやったことのないひとでも知ってる、和音。」
凛「ギターでも一番最初に習うコードだからね。・・・李衣菜が頑張ってたよ」
P「多田さんのことはあっちのプロデューサーに任せてあげな。大変そうだけど。」
凛「まあいいや。それでも、一番最低のコードだけど、一番使われやすいし、安心感があるし、どんな高度な曲でも使われる。ある意味最高の和音・・・」
凛「ドとミとソは、プロデューサーが言ったように、それぞれに違う色で輝きを放つ私たちのこと。似たような寄り合いじゃなくて、でもそれより調和が取れててね・・・」
凛「最高とか最低とか言えば、前にこれまたプロデューサーが、『最初って言うのは、最低を作ってやらないと、できない』って言ってたんだ。」
凛「私たちもソロ活動をやめて。最初・・・いったん最低の状態から、周囲を見ながら再スタートする。でもこれまでの経験はムダじゃない。培ってきた視野と嗅覚で、最高までの道のりを切り開くんだよ。」
凛「つまり、最初で、最低で、最高の三和音。そう、名付けて・・・」
――凛「トライアド・プリムス、だよ」
奈緒「絶対凛、それ、前から考えてあったヤツだろ・・・」
加蓮「あっためてたよね・・・ていうか、プリムス?って何?」
P「・・・ラテン語で、最初、とか、最高、って意味。だったかな。」
奈緒「ラテン語!?凛、お前相変わらず蒼いお年頃なのな!」
凛「いいじゃん・・・かっこいいんだから・・・」
P「お前も大して変わらんわ・・・ま、プライマルじゃちょっとニュアンス変わりそうだしな・・・」
加蓮「私は賛成、だな。凛の考えも・・・なんかPさんの考えまで、伝わってくるし」
奈緒「・・・まあ、あたしも賛成だけど。・・・てかPさん、いつの間にあたしの携帯いじってるんだ?」
P「ん?あ、だってお前ってば携帯でせっせとグループ名考えてたでしょ?せっかくだから未央ちゃんに送信してさしあげた。」
奈緒「ふざけんなああああああああああッ!アイツぜってー広めるだろおおがああああッ!」
加蓮「あはは・・・」
凛「ふふっ、やっぱ私たちの・・・トライアド・プリムスの始まりは、こうやってドタバタで始まるんだね。」
奈緒「くっっそおおおおおおおおおおおおおァ!」
凛「・・・奈緒、未央の部署まで走って行く気なのかな。・・・メールより早く。」
加蓮「奈緒ならできるんじゃない?・・・ところで、ツアーって、どこからはじまるの?Pさん」
P「ん?ああ、渋谷公会堂な。・・・キャパ前より狭いし、CCレモンホールだったころのほうが渋谷さんの心象もマシだったでしょうが・・・」
凛「ふふ。別にいいよ。そもそも渋谷が事務所なんだし、スカウトされたのも・・・。って、そうだ」
加蓮・P「?」
凛「どうしてあのとき私が、渋谷の東急口で待ってるって可能性は考えなかったの?」
P「え?なんで?それって加蓮関係ないじゃん。」
加蓮「そうだよ。私への好奇心で、私の気持ちになりたくて、青山に行ったんじゃなかったの?」
凛(しまった!それでことがおさまってたんだった!)
凛「・・・ふふ。じゃあ今度私が、プロデューサーに本当の気持ちを言う時は、渋谷の東急口で待ってるからね?」
加蓮「え?じゃあ私は、Pさんに伝える時、青山のmiumiuで待ってるよ?」
P「おいおい。お前らほどの売れっ子が、つーかアイドルが、もうおいそれと東急口とか表参道とかいけるわけないだろ・・・」
凛・加蓮「・・・それでいいの。」
――――渋谷公会堂、ツアー初日、葉桜の頃、舞台袖
加蓮「・・・私たちと、Pさんが出会って、ちょうど一年なんだね」
奈緒「ホント、いろいろあったなぁ・・・」
凛「私たちだけの、アニバーサリーってとこだね。」
P「おっと。思い出にするには早すぎるぞ。さあお前ら、今からの、未来への気合いを入れろ!」
凛「さぁ、走りだそう!」
加蓮「いくよ・・・きらめくステージへ!」
奈緒「そうだ・・・私達のステージ!」
ワー!カレーン!ナオー!リンチャンサマーッ!
P(まあ、順風満帆、今度こそ問題もなく、一旦はハッピーエンドということかな・・・)
P(・・・なんだか、俺だからこそ処理出来ない爆弾が、ひとつだけ残っている気もするのだけど・・・気のせいだと思いたい。)
P(さあ、消えない音を刻みつけろ!トライアド・プリムス!)
その4おわり
SSおしまい
SS二度目かきました
こわかったです
09:25│渋谷凛