2013年11月07日
亜美「兄ちゃんと体が入れ替わったあの日から…」
――イタズラ好きの乙姫様が浦島太郎殿の帰りを事務所で待ってますよ。
営業先からの帰り、律子から玉手箱のようなメールが届く。
どうやら俺は、竜宮城まで姫様を送り届ける役らしい。
営業先からの帰り、律子から玉手箱のようなメールが届く。
どうやら俺は、竜宮城まで姫様を送り届ける役らしい。
「浦島太郎と言うよりは亀だな。そして待っているのは亀をいじめる子供か…」
なんて事を考えながら一人車を飛ばす。
事務所についたのは8時を過ぎた頃で、女の子を独りで歩かせらせない時間。
これ以上姫様を待たせまいと、一段飛ばしで階段を駆け上がる。
P「…ただいま戻りました〜」
待ちきれず寝てるかも…という気遣いから、ドアを静かに開けたのが功を奏し、
ドア枠の上から3分の1くらいにラップがピーンと張ってあることに気づく。
避けようかとも一瞬考えたが、遊びに付き合ってやるつもりでわざとラップに顔を突っ込んだ。
P「ぶふっ」
どうせなら面白い写真が撮れるようにと、おもいっきり顔をラップに押し当てる。
そして予想通り、眩しいフラッシュに続いて携帯のシャッター音。
亜美「あはは!いや〜兄ちゃんおかえり〜!待ってたかいがあったよ〜」
わざと引っかかったとも知らずに、したり顔の亜美。
P「俺も急いで帰ってきたかいがあったよ」
なんて、中学生の子供に大人げもなく皮肉を言いながら、
急いで鞄から書類を取り出して片付ける。
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P「竜宮のみんなと帰ってくれてたら、亜美も早く家に帰れるし、俺も遠回りをしなくて済むんだけど」
ニヤニヤしながら携帯をいじる亜美に、半ば諦め気味で独り言のようにつぶやく。
どうやらさっきの写真をみんなに送っているようだ。
亜美「いやいや、亜美は兄ちゃんと一緒に帰りたいからねー」
どうせ、車の中でお腹が空いた〜なんて言い出して、
途中のファミレスで俺にパフェでも奢らせようっていう魂胆なんだろう。
そして、ママには仕事で遅くなるから食べて帰るってメールしちゃったとか言うんだろうなぁ…
なんて、いつものパターンを想像しながら帰る準備を終え、亜美に声をかけてから事務所の電気を消す。
亜美「じゃあ兄ちゃん、車まで競争して亜美が勝ったらファミレスでパフェ奢ってよ!」
不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、亜美は勢い良く走り始めた。
今日はパターンを変えてきたか…と、予想が外れたことをすこし残念がっていた…その瞬間。
亜美「あっ!!」
悲鳴と言うよりは大声を口から漏らしながら、目の前で亜美が後ろに仰け反った。
そう、自分でドアに仕掛けたラップの罠に勢い良く引っかかったのだ。
P「亜美っ!!」
俺はとっさに亜美のクッションになるよう、頭から飛び込んだが、
頭がぐわんと揺れたと思うと、いつの間にか気を失っていた。
「ねぇねぇ…起きてよ…」
身体が強い力で揺すられ、ゆっくりと意識が戻る。
目を開けると鏡の向こうの自分と目が逢った。
おいおい、俺が気を失っててもイタズラをするなんて…。
少しガッカリしながら身体を起こすと、涙目の俺が俺に抱きついてくる。
「あ、やっと起きたよ〜…心配したんだからさー」
――最近の鏡は自分を抱きしめることも出来るのか。すごい世の中になったものだ…
なんて、バカなことを考える余裕がある事に自分でも驚いた。
…どうやら、亜美と身体が入れ替わったらしい。
その事は先に目覚めていた亜美も理解しているようだ。
亜美「ごめんね兄ちゃん。電気が消えてたらラップが見えなかったんだよぉ〜」
泣かれたままでは話が進まないので、亜美を落ち着かせる。
どうやら自分のせいで、俺がこのまま目を覚まさないんじゃないかと思うと怖かったらしい。
30分近く俺にしがみついて謝りながら泣き続けていた。
その間、俺は自分の姿をした亜美をあやしながら、ただ冷静に、これからのことを考えていた。
戻るまでの間どうするか、何をすれば元に戻るか、戻れなかった場合はどうするか…
P「俺は、亜美の家に帰らないといけない」
ようやく落ち着いてきた亜美に、まず結論から伝える。
亜美が家に帰らなければ当然、親が心配するだろう。
かと言って、俺の姿をした今の亜美が双海家へ帰ると、警察か精神科のどちらかに緊急搬送されるだけだ。
そうなると選択肢は2つ。
『中身が入れ替わったことを説明するか、俺が亜美のフリをして家に帰るか』
亜美はまだ子供だし、一人で夜を明かすというのは心細いだろう。
出来れば亜美を家に帰らせてあげたかった。しかし…双海家には真美が居る。
自由な大人の男の体を手に入れた亜美が、いろいろと"よからぬ実験"をしようとするのは目に見えている。
一人でやる分には…まだ仕方ないかもしれないが、万が一のことはあってはならない。
そう考えると、俺が亜美のフリをして双海家に帰るというのが一番だろう。
P「もし亜美が、急に家に俺がやってきて、真美と中身が入れ替わったなんて言われて信じられるか?」
亜美「ううん、いつもみたいにドッキリを真美にやらされてるんだろうな〜って思う」
泣き止んだばかりの亜美は、いつもからは想像が付かないほど素直だった。
こんな事になったのは自分のせいだという思いがあるのだろう。
亜美「でも、亜美はどうしたらいいの?」
また泣き出しそうな声でそうつぶやくと、不安そうな目でこちらを見つめてくる。
亜美からすると、知らないところで一人で夜を過ごすのだ。当然だろう。
P「そうだな、悪いが元に戻るまでは俺の家…それがイヤならビジネスホテルに泊まってもらおうと思う」
年頃の女の子だし、男の部屋なんて嫌だろうなぁと、財布にいくら入っていたか考える。
亜美「じゃぁ兄ちゃんの家がいいかな」
帰ってきたのは意外な返答。
そうか、ホテルなんて仕事で泊まることも多いからある意味当然か…と思いつつ、
家の住所と鍵、大まかな注意点などをメモに記し、財布に入っていた3万円と一緒に亜美に手渡す。
さすがにクレジットカードは怖くて渡せないが、3万もあれば十分満足するだろう。
亜美「えっと…こんなにお金受け取っちゃってもいいの?」
人気アイドルの仲間入りを果たし、俺の数倍以上の給料をもらっていても、お小遣い制の亜美からすれば3万円は大金なのだろう。
P「半分は自由に使ってもいい。でも残りは考えて使ってくれ。いつ元に戻るかわからないから…」
そう言いかけて俺はハッとした。
入れ替わりなんてラブコメ漫画みたいな事、どうせ予定調和的に元に戻る…
そう勝手に思い込んでいたが、頭の中に重い現実がのしかかってくる。
この入れ替わった状態は、いつまで続くか全くわからない。
次の瞬間には戻ってるかもしれないし、一生このままかもしれない。
そうなった場合、亜美はどうなる…?
P「と、とりあえず今日はもう遅い。明日からちょうどニ連休だし、元に戻る方法を探そう」
亜美「そうだね…でも、もし休みの内に元に戻らなかったらどうしよう…」
…言葉に詰まる。亜美も同じ不安を抱えているのだろう。
P「た…多分、大丈夫だ。きっと漫画みたいにハッピーエンドで元に戻るさ」
そう取り繕い、その続きを考えないようにする。
P「携帯電話はお互いに自分の物を持っておこう。何かわからないことがあったらすぐに連絡してくれ」
ポケットに入っていた携帯電話を交換し、それぞれタクシーで初めて訪れる自宅に向かった。
タクシーの中、今後の事についていろいろ考える。
ニ連休の内に元に戻らなかった場合…俺がバラエティ番組にでたり、ステージで歌って踊るわけだ。
竜宮小町は律子の担当だから、歌はともかく、ダンスまでは覚えていない…
俺はなるべく、そういった目先のことをだけを考え、
一生このままかもしれないという恐怖から目を背け続けた。
双海家に到着すると、なるべく怪しまれないように千円札と小銭でタクシー代を支払い、
亜美から借りた鍵を使ってドアを開け、小いさな声でただいまと呟くように言う。
すると、廊下の向こうのドアが壊れるんじゃないかという勢いで開き、真美がドタドタと走ってきた。
真美「おかえりーっ!!亜美やるじゃん!写真みたよ?」
どうやら俺がトラップにかかった時の写真のことだろう。写真は見ていないが適当に話を合わせる。
P「マヌケ顔だったでしょ?あんなにキレイに引っかかるなんてバカだよねー」
一瞬、真美が驚いたような顔をする。
できるだけ口調を真似ているつもりだが、やはり双子には違いが分かるのだろうか?
…なんて考えてると腹の音が鳴ってしまった。そういえば何も食べていない。
真美「あれっ?今日は兄ちゃんに晩ゴハンおごってもらったんじゃ?」
P「いや、実は…に、兄ちゃんの仕事が長引いちゃって、結局タクシーで帰ってきたんだよ」
頭を打って気絶してたなどと言えずとっさにごまかし、
体に悪いと思いつつも、疲れていたのでカップラーメンで夕食を済ませた。
真美「もう食べ終わった?じゃあお風呂入ろっか」
亜美と真美は普段一緒に風呂入ってるのか。仲がいいものだなんて感心したが、
さすがに一緒に風呂に入るのは気の毒だ。
P「いや、今日はなんか一人で入りたい気分かな〜…なーんて」
真美が疑うような目付きでこちらを見てくる。
まさか…中身が入れ替わったなんて普通は考えすらしないよな?と、自分に言い聞かせた。
するといきなり真美がしゃがんで俺のスカートを捲り上げパンツを覗く。
真美「なーんだ、やっと亜美にも生理が来たのかと思ったけど違うかー」
真美は来てるのか…?最近大人しくなったのはそれが原因か…?
こっち方面の話は律子や小鳥さん任せだったから、いざその話をされると困惑するだけだった。
それよりも、姉妹同士だけだとこんな事をするのかと女子の生態に驚く。
真美「なんかお疲れっぽいから仕方ないかー。先にお風呂入りなよ」
P「あ、ありがとう真美…」
真美の気遣いに感謝しつつ、着替えを用意し、慣れない手つきで服を脱ぐ。
あまりに背徳的な行為に罪悪感すら感じるが、亜美の事だからある意味お互い様だろう。
今ごろ、自分の体は亜美のおもちゃになっているに違いない。
ゆっくりと湯船に浸かり、亜美に悪いと思いつつも、じっくりと身体を眺める。
もしかしたら一生付き合っていくことになるかもしれない身体だ。
P「…もしそうなったら、俺が亜美を養う事になるのだろうか…」
――もし休みの内に元に戻らなかったらどうしよう…
亜美の言葉が脳裏をよぎる。
自分は今まで培ったプロデュースのノウハウに加えて、若い一流アイドルの体を手に入れたのだ。
もし元に戻らなくても歌やダンスを練習すれば仕事には困ることは無いだろう。
むしろ、セルフプロデュースを試せる分、今のほうが好都合と言えるかもしれない。
だが、亜美は違う。
13歳の女の子が、大人の男として突然社会の波に放り出される…
そんな事になればどうなるかは火を見るより明らかだった。
P「元に戻る方法を探さないと…」
唇を噛み締めて呟く…
真美「何に?」
予想もしない返事が帰って来る。
慌てて振り向くと、風呂場のドアを開けて真美が入ってきているではないか。
集中しすぎて話しかけられるまで全く気づかなかったなんて、自分の集中力の高さを褒めてあげたくなる。
真美「いや〜!ごめんね亜美。考え事してたみたいだから入ってきちゃったよ」
P「先にお風呂入りなよっていったじゃないか…」
真美「アハハ、だから真美が後から入ったしょ〜?」
とんちじゃないんだぞ…と心のなかでツッコミを入れつつ真美を警戒する。
真美は間違いなく俺…いや、亜美の異変に気がついているだろう。
亜美と担当プロデューサーの中身が入れ替わってるなんて、考えもしないだろうが。
真美はかけ湯をして俺の横に入ってくると、
一瞬、13歳とは思えないドキッとするような儚げな表情を見せ、話を切り出す。
真美「今日、兄ちゃんと何かあったの?」
あまりに際どい質問に、考えていることが見透かされているのではないかという錯覚に陥る。
亜美と中身が入れ替わっても落ち着いていた自分が、言葉すらなかなか出ない。
P「ど、どど…どうしてそう思うの?」
自分でも笑いそうになるくらい動揺しているのが声で分かる。
しかし今、この状況で入れ替わってることがバレたら社会的に抹殺されかねない。
とにかく、カマをかけられたりしないように集中力を高めて身構える。
少しの沈黙の後、真美は口を開いた。
真美「だって今日の帰りは兄ちゃんとデートするって言ってたじゃん」
予想しとは全く別方向の返事が帰って来た。
デートというのは、俺にファミレスでご飯を奢らせて、車で家まで送ってもらうという、
週に1回あるかどうかのわがままのことを言っているのだろうか。
ホッと胸をなでおろす。こんな事にいちいちビクビクしていただなんて。
P「だから、兄ちゃんの仕事が長引いちゃって無理だったって言ったじゃん」
話が矛盾しないよう、さっきと同じ嘘で誤魔化す。
どうやら、デートに行けなかったこと以外にも何かあったんじゃないかと勘ぐっているようだ。
真美「でもさ、いつもだったらフラれた〜って泣いてるじゃん」
P「えっ?」
思わず声を上げる。盲点だった。
ただ事務的にやってるだけの送り迎え…それすら竜宮小町での活動で忙しい亜美にとって、
数少ないささやかな楽しみの一つだったというのだろうか…?
しかもあの天真爛漫な亜美が、俺に落ち込む姿を見せないように我慢しているなんて考えもしなかった。
真美「元に戻るとか言ってたし…兄ちゃんと喧嘩でもしちゃった?」
P「う、うん…実はそうなんだ。ラップのイタズラで兄ちゃんが頭を打っちゃってメッチャ怒られてさ」
それが自然だろうなと、それっぽい嘘で真美の話に乗らせてもらう。
実際には頭を打ったのは亜美なんだけど…
真美「あっちゃ〜…頭打っちゃったのはダメだよね。危ないもん。そりゃ怒られるよ〜」
言葉を返す間もなく真美は続ける。
真美「でも、亜美は焦り過ぎだよ。真美みたいに兄ちゃんが担当じゃないからって、気を引こうとしてさ…」
真美「そんなので兄ちゃんが怪我しちゃったり、亜美が嫌われちゃったら意味無いっしょ?」
真美「大丈夫だって、真美もちゃんと大人になるまで抜け駆けして兄ちゃんに告ったりしないから!」
そう言って笑顔で俺の背中をベチベチと軽く叩く真美。
普通なら笑顔で返すのだろうが、俺にはそんな余裕は無かった。
事務所の俺の担当アイドルは9人。それぞれみんなと信頼関係にはあるが、
その中で俺のことをプロデューサーとしてでなく、異性として慕ってくれているのは美希だけだと思っていた。
普段の『兄ちゃん』という呼び方から、兄のように慕ってくれているだけと思っていた亜美と真美。
俺も普段からその気持ちに応えようと、本当の兄妹のように接してきた。
だが、その二人が『だぁ〜い好き!!』とじゃれ付いてくる事の本当の意味を理解した時、自分の認識の甘さに愕然とした。
亜美と真美は、俺のことを異性として好きだったのだ。
普通なら多少なりとも照れたりするのかもしれないが、俺はただ心配だった。
亜美は俺と入れ替わる事によって、『自分の好きな男の体を手に入れた』ということになる。
もしニ連休の内に元に戻ったとしても、亜美の行動次第で今後に重大な影響が出る可能性があった。
今はまだ、俺が二人の気持ちに気づいているということを亜美も真美も知らないはずだが、
もしバレてしまえば、亜美は、俺を真美や美希に取られまいと、強硬手段を取る可能性だってある。
…思っていたよりも事態は深刻かもしれない。
真美「…亜美、どうしたの?やっぱ様子が変だよ?!」
P「あ、ごめんごめん。すっごい怒られたの思いだして凹んじゃってさ〜」
今日何度目か分からない嘘で、慌てて誤魔化した。
真美「そっか〜…じゃぁ真美が身体洗ってあげるよ!」
そう言うと、湯船から出るように促され、真美が丁寧に体を洗ってくれた。
女の子の体を洗うことなんて無かったから助かったとほっとしたのもつかの間。
真美「じゃぁ今度は亜美の番ね?」
P「えっ?!凹んでたから洗ってくれたんじゃないの?」
真美「えぇ〜?!そりゃないっしょー!!」
結局、洗え洗えとあまりにうるさいので、なし崩し的に身体を洗うことに。
やっぱり、中身はまだまだ子供だよな…と思いつつも、
真美の13歳とは思えぬほど色っぽい身体に、ひどく興奮してしまった。
スタイルだけで言うと真よりも上だから仕方ないはず…と自分に聞かせた。
風呂から上がり、パジャマに着替えると、そそくさと亜美のかばんから"プロデューサーの携帯"を取り出し、
真美に見られないように二段ベッドの上の布団に入る。亜美が今何をしているか気になるからだ。
案の定、亜美からメールが来ている。
亜美『ちんちんで遊んでていい?』
予想以上にストレートでお下劣なメールに力が抜ける。だが、まだ余裕がありそうという点では良かった。
P『お婿に行けなくなるから程々にしてくれ』
どうせダメだって言っても聞かないだろうから、少し恥じらいを感じさせるような内容で返信しておく。
…しかし、元に戻った時に亜美が『兄ちゃんのちんちんの形はこんなんだYO!』なんて言いふらしたりしないか心配だ。
今の亜美にはその証拠の写真も簡単に撮ることが出来るのだから…
他にも春香や千早といった担当アイドルからの当り障りのないメールが届いていたが、
一通だけ気になるメールが届いている。…美希からだ。
美希『明日からハニーは2日連続オフなんだよね?美希も明日はオフだし久しぶりに遊びに行っちゃうね☆』
嫌なタイミングで美希とオフが重なってしまったと自分のスケジューリングを後悔した。
社長と小鳥さん以外には教えていなかったにも関わらず、
美希は俺の担当アイドルの中で唯一、俺の自宅の住所を知っている。
俺の帰るところをこっそりついて来てしまいバレてしまったのだ。
それ以来オフが重なるたびに押しかけてくるので、最近はオフをずらしていたが…
普段なら適当な理由をつけて追い返せる。しかし今、俺の中身は亜美だ。
それに5日くらい発散させてなかったから、ムラムラっときて美希の誘惑に遊び半分で乗っかって…
そんな事になったら洒落にならないし、スキャンダルにでもなれば俺と美希は二人揃って終わりだ。
溜まってると女の子が中身でもムラムラしたりするんだろうか…?
もう亜美が抜いてるかもしれないが…なんてバカなことを考えながら返事を打つ。
P『悪いが明日は大事な用事があって、一日中家にいないんだ。だから今度にしてくれ』
送信が完了すると同時に携帯が振動し、亜美からの返事が届いたことを知らせる。
亜美『じゃあいじり倒してお婿にいけなくしてやる〜!!』
普通は亜美の方がお嫁に行けなくなると思うんだけどなぁ…
P『明日は元に戻る方法を探すから、朝8時に駅前で待ち合わせだ。あと美希が訪ねて来ても適当に追い返してくれ』
女の子に送るにしては事務的なメールを送信し、携帯電話を枕の下に隠すように置く。
時計を見ると12時を少し回った所だ。まだ入れ替わってから3時間しか経ってないことに驚きつつ、
あまり尿意は無かったが、寝る前なので階段を降りトイレに向かった。
風呂もかなり罪悪感があったが、トイレもかなりのものだ…そう思いつつも用を足し終えたのはいいが、
女は男と違って"振る"事ができないから、このまま下着を穿くのは良くなさそうだ。
パンツにシミを作るのも嫌なのでトイレットペーパーを畳んでおしっこを拭く。
だが、慣れていないからか上手く拭き取れずに余計な所を触ってしまう。
P「あっ…」
今まで感じたことのないような快感が身体を突き抜けた。
女性は男性と比べて数倍以上、性的な快感が強いと聞いたことがある…
でもまさか、すこし触っただけで自然に声が出てしまうほどとは。
ふと風呂での真美の大人びた身体が脳裏をよぎってしまい、スイッチが入る。
P「亜美…真美…すまん!!」
俺はしばらく一人トイレに篭り、声を殺していた。
コトを終えると、余韻に浸る間もなく罪悪感を通り越した嫌悪感に苛まれる。
妹のように可愛がっていた姉妹の姉の身体をオカズに、妹の体でしてしまったのだ。当然といえば当然だろう。
フラフラと階段を上がると、火照った身体を冷ますように布団に入る。
時計を見ると12時40分…だいたい、30分近くしていたのか。今更になって恥ずかしくなる。
寝る前にもう一度携帯を確認すると、メールが3件届いている。
亜美と美希からはそれぞれ確認の返事が帰ってきているだけだったが、3通目は真美からだった。
真美『そういえば明日も仕事だけど、オフ明けにも撮影あるよね?そっちはどこで何時からだったっけ?』
てっきり亜美と喧嘩したの?と聞かれると思ったのだが…干渉しないタイプなのだろうか?
P『やよいと一緒にバラエティ番組の撮影だな。二人とも車で送るから事務所に3時には居てくれ。次はちゃんとメモしておけよ』
予定は頭に入っていたのですぐに返事をしておく。ニ段ベッドの下の段から真美の携帯の振動音が聞こえる。
オフ明けの予定を忘れるなんて困ったやつだ…と思いつつ、亜美の目覚まし時計をセットし眠りについた。
朝、目覚まし通りの時間に起きると、朝食を済ませ駅に向かう支度をする。
メールを確認すると亜美と真美から1件ずつメールが来ていた。
真美『サンキュ→兄(c)♪次からは気をつけるYO。でも返事が遅かったし、もしかしてお楽しみでしたかな??なんてね☆』
真美の事を考えながら双海家のトイレでしてました、とは流石に言えないな…
亜美からは『朝起きたらちんちんが最終形態に…』などという内容だったので途中で読むのをやめ、駅に向かう。
身体が小さいからと早めに出発したにも関わらず、徒歩だと着いたのは時間ギリギリだった。
向こうはまだ到着していないようなのでメールを確認すると、亜美から少し遅れるという連絡。
気になって電話をかけるが繋がらない。
P「何かあったのだろうか…?」
心配なので、亜美が通りそうなルートを選んで自宅まで走って向かう。
さすがダンスで鍛えてるだけある。ずっと走ってられるなんてすごい体力だ…
なんて感心していると、あっという間に自宅のアパートの屋根が見え始めた。
途中で入れ違いになったのか?とも思ったが、一度自宅に寄ろうとアパートの階段を駆け上る。
…そこには最悪の光景が待っていた。
美希と俺…いや、俺の姿をした亜美が激しく口論していたのだ。
しかも、美希は顔をぐしゃぐしゃにしながら大粒の涙を流している。
一体何が起こっているのか、俺には瞬時に理解できてしまった。
俺は、自分の迂闊さを呪うほどに後悔した…。
二人に送ったメール、それが原因でこんな事態を引き起こすとは夢にも思わなかった。
俺は馬鹿正直に『明日は一日留守にする』とメールを送り、美希はそれを見て、俺が出かけてしまう前に会いに来たのだろう。
朝に弱い美希が、朝から俺に会うためだけに訪ねてくるはずがない…その思い込みが間違いだった。
仕事だの葬式だの、適当な嘘を付いてでも美希と今の亜美を会わせてはいけなかったのだ。
亜美もそうだ。俺は亜美に対して美希が訪ねてくる可能性を示唆した。
アイドルが男と親密にするのは厳禁だというのを、亜美も分かってくれているだろう…そんな軽い気持ちだった。
何もかも甘かった。
亜美が俺のことを異性として好きなのなら、美希は、亜美にとって非常に手強い恋のライバルになるだろう。
だが、そんなライバルを、今の亜美はたった一言で消し去ることが出来る。
…一晩もあれば、容易に考えつく事だっただろう。
美希「ミキよりも亜美が好きだなんてあり得ないの!嘘って言ってくれなきゃヤなの…!!」
どうやら亜美は、俺と亜美が付き合っているという嘘を美希についたようだ。
悲鳴と嗚咽が混じったような悲痛な訴えに心が痛む。
亜美「俺は亜美のことが好きだし、もう亜美と付き合ってるからミキミキにかまってあげる暇なんてないよ!!」
朝から自分の好きな男の家に押しかけるライバルによほど腹が立ったのか、
亜美もかなりヒートアップしている。俺の口調を真似る余裕すらないのだろう。
美希「…同じハニーの担当の真美ならまだ許せるの…でも、竜宮小町であんな子供の亜美とだなんて許せないっ!!」
亜美「…っ!!」
P「何やってるんだっ!」
亜美が怒りで美希に手を手をあげようとした瞬間、ハッとなり大声で割って入る。
亜美「にぃ…あ、亜美?!」
亜美の言葉に反応し、美希が視線をゆっくりとこちらに向ける。
目つきだけで人を殺せるのではないかという程の威圧感に、思わず目を背けてしまった。
美希「亜美っ!!よくものこのこと…っ!!」
美希がこっちに駆け寄ってきて、俺の胸ぐらをつかみ上げると、大きく手を挙げる。
俺はビンタされるのを覚悟したが、アイドルの命である顔を叩くのはマズイと思ったのか、
腹のあたりを力いっぱいコブシで殴り抜かれ、あまりの痛みに膝から崩れ落ちうずくまった。
美希は俺から手を離すと、泣き顔を見せないように下を向きながら、全力で走り去っていった。
亜美「大丈夫?兄ちゃん?!」
美希の姿が見えなくなった途端、うずくまる俺に亜美が心配そうに駆け寄ってくる。
P「寄るなっ!!」
とっさに出た一言だった。
亜美の手を払いのけ、痛みをこらえながら携帯電話を取り出すと、急いで今日オフの春香と千早、真と伊織の4人に、
『後で何でも言うことを聞く。今は理由は聞かず、美希を探しだして保護して欲しい。』という内容でメールを送った。
美希のあの性格だ。もしかしたらアイドルを辞めてしまうかもしれない。
一体どうしたものかと頭を抱え、深くため息をつく。
亜美「に、にいちゃぁん…」
大粒の涙を流しながら亜美が頭を下げている。
イタズラでは到底済まなされない、自分のした事の重みを理解したのだろう。
亜美は、美希を振ればこうなることは分かっていたはずだ。
それを分かっていて、嘘で美希を突き放した。
…美希の最も信頼する、俺の言葉として。
亜美「ごめん…なさいぃ〜っ!!」
俺の姿をした亜美が、泣きじゃくりながらしがみついて必死に謝ってくる。
だがその姿さえ、美希を振った事が俺にバレたから謝っているだけのように見えてしまい、
大切な妹のような存在であったはずの亜美を、全く信用できない自分に嫌悪感すらした。
亜美だって、俺と入れ替わることで精神的な負担は大きかっただろう。
もし元に戻らなければ、今までの環境が全部変わるどころか、生きていけるかすら分からないのだ。
今の境遇が全部悪いんだ…そう思い込もうとした。
だが、この場所に居ると亜美にどす黒くうずめく感情をぶつけてしまいそうだった。
P「…元に戻る方法は俺が考えておく」
そう言い残すと、力なく足に絡みついた亜美の手を振りほどき、家まで全力で逃げ帰った。
玄関のドアを勢い良く開け、靴を捨てるように脱ぎ散らす。
仕事に行く準備をしていた真美が驚いた顔をして駆け寄ってきた。
真美「ど、どうしたの亜美?!目、真っ赤じゃん!汗も凄いし…」
どうやら走るのに必死で、自分が泣いている事にも気づかなかったようだ。
俺は、美希や亜美、事務所のみんなと良い関係を築けてきた…
言葉にすると少し照れくさいが、絆のようなもので結ばれてる…そう信じていた。
ずっとこのまま…とは行かないが、この関係がいつまでも続けばいい。そう思った。
なのに、亜美と入れ替わったというだけで、俺の手の届かないところでその関係が崩れていく。
それがあまりに悔しくて、腹立たしくて…何より、悲しかった。
今まで押し殺していた感情が、決壊するように一気に溢れだす。
気付けば、真美の胸の中で子供のように泣いていた。
長い時間泣き続けていただろう。
真美はその間ずっと何も言わずに抱きとめてくれていた。
真美「そろそろ落ち着いた?シャワー浴びたほうがイイよ?」
そう言って真美が着替えの準備をしてくれる。
P「ごめん真美。ありがとう…」
真美「泣きたい時はお互い様だよ亜美くん!じゃぁ真美は仕事あるから」
真美はいつも通りニッと笑いながらそう言うと、俺の涙と鼻水で濡れた服を着替え、慌てて出ていった。
シャワーを浴びながら色々考える。
美希の事、亜美のこと、そしてこれからの皆のこと。
きっともう…元の関係には戻れない。
P「最初は、漫画のようにハッピーエンドで終わるなんて思ったのになぁ…」
そう漏らす言葉は、捨て切れない俺の切望そのものだったのかもしれない。
体を拭き、真美が用意してくれた服に着替える。
てっきり普段着だと思っていたのだがパジャマだった。気持ちを察してくれたのだろうか…?
俺は布団に入り目を閉じた。目の前の現実から逃げるように…
目を覚ますと、部屋は夕日に照らされオレンジ色に染まっていた。
時計を見ると午後5時を回っていて、仕事から戻った真美が椅子に座って、バラエティ番組の台本を読んでいる。
そういえば美希は…と、慌てて携帯電話でメールを確認する。
メールが81件、不在着信が32件という、初めて見るストーカーじみた件数に鳥肌が立った。
…やはりそのほとんどが亜美からのものだった。
まずその中から、春香たちのメールを確認する。
…どうやら美希は無事、春香たちが保護してくれたようだ。
春香『美希、すごく落ち込んでいます。プロデューサーさんにも会いたくないそうです』
千早『今は理由を聞きません。ですが、いずれ何があったか話してもらいますから』
伊織『何をしたかは知らないけど、多分あの調子じゃしばらく仕事は無理でしょうね』
真『今夜はみんなで千早の家に泊まります。美希を傷つけたのがプロデューサーなら、許しませんよ』
みんなそれぞれ、思い思いのメールが届いていた。
美希からすると、突然愛する人に突き放されるようにフラれ、
しかもその理由が、美希がライバル視していて、かつ俺の担当アイドルでもない竜宮小町の亜美と付き合ってるからだという。
恋愛を糧に厳しいアイドル活動をも乗り越えてきた美希にとっては、想像を絶するほどの辛さだったろう。
美希を"わざと傷つけるように振った理由"は、一言で言うと亜美の嘘が原因だ。
だが、亜美と中身が入れ替わったなどと…どう説明すればいいのだろうか。
そんな事を言っても、ふざけて亜美に責任転嫁しようとしてるようにしか聞こえないはずだ。
それに、俺は今まで美希に対して、なあなあな態度を取ってきた。答えをはぐらかして曖昧な関係を続けてきた。
そのツケが回ってきたのだろうか…元に戻ったら、ケジメをつけなければならない。
とにかく、4人にそれぞれお礼のメールを返す。
保護してくれなかったら今頃どうなっていたか、想像するだけでも恐ろしい。
亜美からのメールは、今は見る気にすらならなかったので放置しておく。
だが、件数から察するに、かなり精神的に参っているだろう。
亜美は、入れ替わった事を利用し、嘘を付いてまでライバルを陥れている所を俺に見られた。
その結果、俺に自分の気持ちがバレてしまった上、失望され、連絡すら取ってもらえず、
仲間であった美希とはもう二度と仲良くできない…そう思っているはずだ。
ある意味、美希より哀れだ。
亜美が卑劣な嘘をついたことはそうそう許されることではないが、俺は亜美に同情していた。
入れ替わった人間同士だから…というのもあるだろう。一概に亜美が悪いとはいえない。
そう思った。いや、そう思いたかったのだ…
気持ちの整理をしていると、不意にノドが渇いている事に気づく。
そういえばあれだけ泣いたのに、あの後何も飲んでいなかった。
俺はのっそりと起き上がると、二段ベッドのハシゴを下りながら真美にお礼を言う。
P「おはよう真美。さっきはありがとう…気持ちがだいぶ晴れたよ」
真美「良いってことよ〜!でも、もし気が向いたら何があったか話してくれると嬉しいかも」
真美は携帯を触りながらそう言うと、やさしく俺に微笑みかけてくる。
事務所では騒がしいだけなのに、ちゃんとお姉さんやってるんだなぁ〜なんて感心した。
心配はかけたくないので適当な理由を話す。
P「いや…兄ちゃんとすっごい大げんかしちゃってさ…」
何故か沈黙が流れる。
真美のことだから、また慰めてくれるのだろうと予想していたが…
思っていたものと反応が違ったので、なにかおかしい事を言ったのか心配になった。
真美「いやそれは違うっしょ」
そういうと真美は携帯を手に持ったまま俺に近づき、俺をベッドに押し倒した。
真美「喧嘩したのは亜美とっしょ?」
考える間もくれずに、真美は俺にキスをした。
あまりに唐突な出来事に動けずに居ると、真美は俺とのキスを携帯のカメラで撮影する。
冷静さを失った俺は、亜美と真美はまさか姉妹でレズのカップルだったのか?などと取り乱したが、
そのキスが意味するものは、たった一つ…
真美「ファーストキスが亜美とだなんてね。でも中身は違うんでしょ…?」
真美「…兄ちゃん」
続きは後ほど投稿します。
そういうと真美は俺の両腕を押さえつけ、もう一度唇を合わせてくる。
俺はパニックになり、真美の手を振り払おうという考えすら出て来なかった。
キスの仕方を知らないからか、息継ぎをするように唇を離す。
真美「…抵抗しないんだね」
しないというよりは、突然すぎて抵抗のしようがなかった。
とにかく、落ち着きを取り戻そうと必死に頭の中を整理する。
P「な、なんでキスなんてすんの?!っていうか兄ちゃんって何?」
カマをかけているだけの可能性を考え、まずはシラを切ってみる。だが、望みは薄い。
真美は俺の両腕をがっしりと掴んだまま、押し倒すような体勢で話を続けた。
真美「…亜美は兄ちゃんの前以外で、絶対に兄ちゃんのことをバカにしたりしない」
一瞬耳を疑ったが、考えずともなんとなく理解できた。
俺は普段の亜美を上手く演じられていたはずだった。
担当アイドルじゃない分、真美や美希ほどではないが、理解していたつもりでいた。
だが実際はそうではなかった。
亜美が俺にイタズラやドッキリをしてからかうのは、俺の気を引くため…。真美はそう言った。
俺の担当アイドルでないからこそ、真美と美希に負けじと必死にアピールしていたのだろう。
だが、俺の前でなければ、やんちゃないたずらっ子を演じる必要はない…
俺が演じていたのは、『俺から見た亜美』であって、『皆から見た亜美』ではなかった。
もしかすると、他の皆には『やんちゃないたずらっ子』というイメージですらなく、
同じ事務所の年上プロデューサーに恋する、ただの明るくおませな女の子…そんなイメージなのかもしれない。
当然、普段一緒に住んでいる真美がその事に気づかないはずもない。
真美と一言交わした時点で、既に怪しまれていたのだ。
亜美は自分を偽ってでも俺との恋愛を成就させようと必死だった。
俺はそれに全く気付きもせず、卑劣な嘘を付いたと亜美に幻滅していた。
だが、亜美からすると、美希に嘘をついたのは当然のことだったのかもしれない。
亜美は、自分にすら嘘を付いていたのだから…
真美「それから、昨日寝る前に、兄ちゃんって亜美の体で一人エッチしてたっしょ?」
声が漏れていたのだろうか?それとも双子の感覚でわかるのか。
バレたのが恥ずかしいと言う感覚よりも、その次の一言が怖くて仕方がない。
真美「悪いけど、兄ちゃんが楽しんでる間にケータイ見せてもらったんだ。ロックかかってたけど」
真美「でさ、なんで亜美が兄ちゃんの携帯持ってるの?」
やはり性欲は身を滅ぼすのか。俺が女体の神秘を目の当たりにしていた約30分間、
真美は俺がカバンに隠していた手荷物や、携帯電話を探り放題だったということか。
携帯は見られるかもと予想はしていたが、いくらなんでも迂闊すぎて笑えもしない
P「いや、それは兄ちゃんのがカバンに入り込んでいて…」
核心に迫る一言に焦ってしまい、自分でも無理があると思う言い逃れを展開する。
しかし真美はもう、亜美と俺の中身が入れ替わったと確信している。
ここで言い逃れられたとしてもほとんど意味は無いだろう。
真美「でも、兄ちゃんにメール送ったらちゃんと返事が帰ってきたんだけど」
P「それは…その、亜美が打ったメールだよ!亜美はロック番号知ってるから…」
真美「亜美が知らない仕事の、予定の話なのに?」
トドメの一言に俺は何も言い返せなかった。
真美は俺と亜美が入れ替わってることを確認するためだけに、あのメールを送ってきたのだろう。
天真爛漫な真美からは想像の付かないほどの頭の切れっぷりに驚くばかりだった。
長い沈黙の後、ゆっくりと深呼吸してから口を開いた。
P「…どうして入れ替わってるって気づいたんだ?」
俺にはなぜバレたのかが疑問だった。
送られてくるはずがないメールが届いたくらいで、
普通は人と人の中身が入れ替わっているなんて思いもしないはずだ。
真美「それは…真美が兄ちゃんのことが大好きだからかな」
P「こ…答えになっていないぞ?」
突然真剣な顔でストレートに告白されたら、さすがに照れてしまって目を見れなかった。
真美は顔を真っ赤にしながら、それでも目をそらさず話を続ける。
真美「昨日の夜から、なんとなく亜美に兄ちゃんの雰囲気を感じてた」
P「双子だもんな。生まれた瞬間から一緒に生きてきたのだから、当然か」
やはり、俺の演じた亜美は普段通りの亜美ではなく、俺の気を引こうと必死に演技する亜美だったのだろう。
他の担当アイドルならともかく、双子の姉はさすがに騙されてくれなかった。
真美「それもあるけど、ずっと兄ちゃんのこと見てたから…分かるよ」
そういうと、真美は覆いかぶさるように抱きついてくる。
同じ腕力だからか、腕をがっしり掴まれていて逃げられない。
真美「でも、こんな形で兄ちゃんに告っちゃうことになるなんて思わなかったよ〜」
P「おいおい、大人になるまで抜け駆けしないんじゃなかったのか?」
少し煽り気味に、真美に問いかける。
真美「亜美と入れ替わったって事は、兄ちゃんと亜美は『特別な関係』って事でしょ?」
入れ替わった関係なんて、その人にとってどころか世界的にも特別な関係だろう。
確かにこうなった以上、亜美とは切っても切れない縁になるはずだ。
真美「もう抜け駆けとか言ってられないよ。このままじゃ絶対亜美に兄ちゃんを取られちゃう」
真美「それに…もう亜美は、兄ちゃんは真美のモノって思ってるよ」
P「なっ…」
考える前に声が出ていた。まさか、俺が寝ている間にメールでそう嘘でも付いたのだろうか?
事態を飲み込めず、どんどん想像が悪い方へと向かっていく。
真美「さっきの兄ちゃんとチューしてる写メ、亜美に送っちゃったもん」
俺は唖然とした。記念撮影だろうか?程度に思っていたキスの写真。
あれは亜美を騙すために撮ったモノだったというのだ。
13歳だし、まだまだ『女の子』だと思っていたが、亜美も真美ももう立派な『女』だった。
真美「ねぇ兄ちゃん…もう一回…」
真美に3度目のキスをされながらも、俺は亜美が気がかりで仕方がなかった。
亜美は、大切な仲間に嘘を付いてまで、俺との恋愛を成就させようとした。
その結果、俺と美希の仲を引き裂くことには成功したが、
俺と美希、二人からの信頼を失った。
そこに、俺と真美がキスをしている写真が届く。…亜美はこう考えるだろう。
――自分を偽ってでも得ようとした俺からの愛は、実は既に真美のモノで、
そうとは知らず、大切な仲間を裏切ってまで真美の恋を手助けしてしまった。
その先は想像をするのですら恐ろしくなり、寒気がした。
亜美の負の感情が、真美でもなく自分自身でもなく、ただ俺に向いていて欲しい…そう願った。
亜美も美希も俺も、亜美がついた嘘で大切な絆を失った。
だが、真美だけは何も失わず、俺からの愛を独り占めしている…
亜美がそんな風に考えることが恐ろしくて仕方がなかった。
俺は力いっぱい真美を払いのけると、急いで亜美の枕の下から携帯電話を取り出す。
真美が何か言っているのを無視し、亜美からの新着メールを確認した。
『ゴメンね兄(c)。亜美、ピエロだったんだね』
そのたった一行のメールに凄まじい恐怖を感じ、冷や汗がドッと噴き出す。
だが、このまま放っておく訳にはいかなかった。
俺は亜美に電話をかけたが、一向に出る気配は無い。
今の亜美と話すのは怖かった。正直電話越しですら話したくなんてなかった。
…だが、電話には出て欲しかった。頼むから声を聞かせてくれ…そう神にすら祈った。
――亜美が自分の手で命を絶っているのではないか。
そんな最悪の事態だけは避けられたと信じられるから…
結局、何度電話をかけても亜美は電話に出ることはなかった。
最悪の可能性を拭い去る事ができないまま、俺は急いで服を着替える。
…もう直接会って話すしか無いだろう。
真美「…亜美の所になんて行かないで!!お願い!!」
真美は俺を引きとめようと、すがり付くように後ろからきつく抱きついてくる。
今、亜美がどうなっているのか知らないからだろう。
だが、いちいち説明してる余裕など無かった。
P「離してくれ。今は恋人ゴッコに付き合っている暇はないんだ」
焦りからか、わざと突き放すような言葉を選んだ。
真美「イヤだよっ!ゴッコなんかじゃないもん!真美は本気なんだよ?!」
涙声でそう訴えてくる。
P「今から亜美のところへ行くのは、亜美のためだけじゃない。俺や美希…そして真美のためでもあるんだ」
こんな事になってしまったが、それでも誰も大切な仲間を失うなんて事は望んでいないだろう。
特に真美は、ずっと一緒に暮らしてきた姉妹なんだから…
P「亜美と決着をつけてくる。真美はここに居てくれ…」
力の抜けた真美の手を振りほどき、亜美の元へと全力で走り抜けた。
P「亜美っ!!」
勢い良く自宅のドアを開ける。部屋の鍵が閉まっていなくて助かった。
靴を乱暴に脱ぎ捨てて部屋に駆け込む。
夕方の6時を回っているにもかかわらず電気は点いていなかった。
沈む夕日が徐々に部屋を暗く染めていく。
微かに差し込んだオレンジ色の光が、散らかった部屋の隅で体育座りをしている亜美の姿を照らした。
亜美「…兄…ちゃん?」
力なく答える亜美。どうやらずっと泣いていたようで目が真っ赤だ。
俺はただ、亜美が生きていてくれた事にホッとし、胸をなでおろした。
だが、亜美の様子を見て、すぐにその安堵は緊張へと変わった。
亜美「何でいまさら来たの…?」
亜美の目はまるで死んでいるかのように焦点も合わず、物を見ている目ではなかった。
美希への嘘が俺にバレた事、それに真美からのキス写真。
自分を押し殺してまで俺に恋焦がれていた亜美には、相当なショックだっただろう。
亜美「真美と付き合ってるんでしょ…?」
亜美の言葉ひとつひとつが、俺の背中にのしかかってきているような感覚に陥る。
なにか喋らないといけないのは分かっているが、なかなか言葉に出せない。
亜美「亜美とミキミキはピエロだったんだよね…?」
P「それは違うっ!あの写真は、真美が強引に俺にキスしただけだっ!」
とっさに否定するが、亜美はこちらに目を合わせようともしない。
明らかに精神的に追い詰められて、何も信じられないのだろう。
亜美「真美にそう言えって言われたの…?」
P「そうじゃない、そもそも俺は誰とも付き合ってないんだ。信じてくれ」
沈黙が続く。
今の亜美には、何を話しかけていいのか分からなかった。
負の感情が身体から漏れだし、空気を殺しているかのようだった。
亜美「じゃぁ…」
亜美「兄ちゃんは誰が好きなの…?」
もちろん、好きというのは恋での話だ。
今の亜美の心理状態で、それを答えて良いのか迷ったが、本音でぶつかろうと腹をくくる。
P「今は好きな人は居ない。それに事務所の所属アイドルを恋愛対象とは見ていない」
そうハッキリと言い切った。亜美は何も言わずに視線をゆっくりとこちらに向ける。
その陰気な視線に思わず目を背けたくなったがグッと堪えた。
亜美「じゃあ、亜美と真美とミキミキ…」
亜美「3人の中で一番好きなのは誰…?」
本音でぶつかるという決意が早くも揺らぐようなストレートな質問に、俺は足がフラついた。
答えはもう俺の心の中にある。だが今の亜美にとって、この答えはあまりに残酷すぎる。
しかし亜美はそれを分かっていて3人の名前を出したはずだ。
俺のことを慕ってくれている3人の名前を…
亜美も、俺と決着をつけることを望んでいる…
俺は、亜美の気持ちに答えなければならない。
P「俺は…真美が好きだ…」
亜美「そっか…」
長い沈黙の後、亜美は弱った笑顔でそう呟いた。
これで亜美との決着は付いただろう…
心臓を握りつぶすような緊張感から解放され、深く息を吐く。
あとは、亜美と入れ替わっているのをどうにか元に戻して、美希と話をしないと…
亜美「亜美ね…兄ちゃんのこと大好きなんだ」
苦しそうな笑顔で亜美が語り始める。
亜美「どうしたら兄ちゃんが亜美のものになるか…ずっと考えてたんだよ」
亜美「亜美は兄ちゃんが担当じゃないから…頑張ってアピールしてたんだけどさ…。やっぱり真美には敵わなかったんだね」
その悲痛な本音に、心が痛まないはずがなかった。
だが、こうなることを分かっていて、俺は3人の中で真美を選んだ。
それが亜美の望んだ結果だったから…
亜美「でも…亜美はまだ兄ちゃんのこと諦めきれないんだよ」
亜美「それでね…」
「兄ちゃんが亜美のモノになる方法、思いついちゃったんだ」
続きはまた後ほど投稿します。
気付けば俺は亜美に足を掴まれ、床に引き倒されていた。
無造作に積み上げていた本の束に頭をぶつけ、一瞬よろめいたところを、
ものすごい力で亜美に両腕を押さえつけられる。
腕を振り払おうとするが、大人の男と女子中学生…あまりの腕力の差に、
体が抵抗するのを忘れているんじゃないかというほど、ぴくりとも動かなかった。
P「やめっ…」
そう声を上げようとしたその時、亜美は俺に噛み付くようにキスをする。
そのキスで俺は亜美の意図を理解し、平静さを失った。この時の俺の顔は相当青ざめていたことだろう。
亜美は大人のキスがしたいのか、舌を入れてこようとする。
俺は口を固く閉じて拒絶することしかできなかった。
亜美「まぁいいや…これで真美とおあいこだよね」
亜美がこれからやろうとしていることは、俺達の関係を間違いなくズタズタに引き裂くものだ。
俺の体で、亜美の体を犯そうというのだ。
強引にでも身体を重ねてしまうことで、亜美達の言う「既成事実」にしてしまうつもりだろう。
そうなれば、俺はこれから先、形はどうあれ亜美のことを意識せざるを得ないだろうし、
亜美は好きな人とセックスでき、その上、他のライバルと差をつけることが出来る。
しかも傷つくのは自分の体だから大丈夫。それくらいの認識なのだろう。
しかしそれは、まともな考えではなかった。
自分を無理矢理犯した相手なんて、普通なら顔を合わせるだけで吐き気がする程だろう。
だが、その考えがそうであるように、
今の亜美も、精神的に極限まで追い詰められ、まともではなかった。
亜美「やっとひとつになれるね…兄ちゃん…」
そう言うと、片手で俺の穿いていたズボンを下着ごと強引に引き剥がすように脱がし、
今度は自分のモノを慣れない手つきで取り出した。
P「亜美…お願いだ。それだけはやめてくれ…」
俺は涙を流しながら亜美に懇願した。
もし俺が亜美に犯されれば、より大きく傷跡が残るのは俺じゃなく、亜美の方だ。
今はまともな精神状態じゃないが、我に返った時、自分のした事を一生悔み続けるだろう。
そう思うと、俺もまともではいられなかった。
亜美「亜美の初めてを、亜美がもらっちゃうね?」
亜美が勢い良く腰を突き上げると同時に、裂けるような感覚と猛烈な痛みが下腹部を襲う。
俺は突き刺すような痛みに、思わず声を上げそうになるが歯を食いしばって耐え続けた。
今、声を上げて警察に通報されたりすれば、俺は逮捕され、亜美はアイドル生命を絶たれる。
それだけでなく、13歳の所属アイドルをレイプしたプロデューサーが居た事務所となれば、
765プロのような小さな事務所は間違いなく潰れるだろう。
俺はただ声を殺し、亜美に犯され続けることしかできなかった。
その悲しみと悔しさで、もはや気が狂う寸前だった。
人の心を保つのに精一杯で、抵抗することすらできなかった…
亜美「兄ちゃん…大好きだよ…っ!」
息を荒げながらそう言うと、亜美のモノが俺の中で脈打ちながら精を放つ。
そのまま亜美は舐めるようにキスをしてくる。
意識が朦朧とする中、悪夢のような時間が過ぎ去った事にホッとしていた。
生理はまだ始まっていないと真美が言っていたから、妊娠はしないだろう…それだけが救いだった。
「兄ちゃん!!!」
その時、部屋のドアが壊れるんじゃないかという勢いで開き、真美が絶叫しながら飛び込んできた。
目は血走っていて息は荒く、手には金属のパイプのようなものが握り締められている。
真美「何してんの?!いくら亜美でも許せないよ!!」
怒号を上げながら亜美を睨みつけると、手に持った金属棒で部屋に転がっていたイスを殴り飛ばした。
きっと、怒りを亜美に直接ぶつけまいと必死なのだろう。
亜美は吹き飛ぶイスを目で追うこともなく、真美を睨み続ける。
亜美「もう遅いよ真美…もう兄ちゃんは亜美のモノだもん」
真美は、その異常さに気づいたのか一瞬、恐怖におののくような表情を見せて一歩後ろに下がる。
そして両手で金属棒を強く握り締め、亜美へとその切っ先を向けた。
真美「何でこんな事したのさぁ〜っ!!」
なりふり構ってられないのだろう。顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で泣きながら叫んだ。
おそらくこの涙は、亜美のために流したものだろう。
亜美「エヘヘ……兄ちゃんは亜美よりも真美のほうが好きなんだって。よかったね真美」
亜美「でも、兄ちゃんと先にエッチしたのは亜美だよ?…やっぱ悔しい?」
「亜美ぃっ!!」
亜美の挑発に乗った形で、真美が金属棒を振りかざす。
止めなければ…と思ったが、身体は少しも動いてくれさえしなかった。
真美が金属棒を亜美の頭に向かって力いっぱいスイングすると、
鈍い音と共に、亜美はつながったままの俺へとかぶさるように倒れこんだ。
後頭部から流れ出た血は、俺の肌をゆっくりと赤く染め上げる。
真美が大声で泣き叫ぶ中、俺の意識はゆっくりと薄れていった。
目が覚めると、俺は病院の天井を見上げていた。
後頭部がズキズキと痛み、もしやと思い手を目の前にかざしてみる。
点滴の針が刺さってはいたが、亜美の手ではなく、ちゃんと俺の手があった。
どうやら俺は、元の体に戻ったみたいだ。
ゆっくりと起き上がって周りを見渡すと、部屋には他にベッドが無い。
アイドルがお見舞いに来てくれることを考慮したのか、どうやら個室のようだ。
とにかく、目を覚ました事を伝えようと、ドアの外を通りかかった看護師を呼び止める。
看護師の話によると、俺は頭を怪我して気絶したまま運び込まれ、一週間も目を覚まさなかったらしい。
そして毎日、テレビでよく見るアイドルの子達がお見舞いに来てくれていたそうだ。
しばらくすると、ドアをノックして、40歳くらいの男性医師が頭を下げながら入ってくる。
俺はこの人のことを知っていた。
P「亜美……さんと、真美さんの…お父さんですか…?」
亜美と真美の父親は医者であり、真美が担当アイドルになって以降、
預かる側として何度か面談したことがあり面識があった。
先生「お久しぶりですプロデューサーさん」
P「まさか…双海先生が私の担当だったなんて。すごい偶然ですね」
先生「…残念ですが偶然ではありません」
先生は神妙な顔つきで、俺に二枚の白い紙を手渡す。
一枚は頭の怪我の診断書。そしてもう一枚は……被害届だった。
俺が驚いた顔をすると先生はいきなり両手を床につき、土下座する。
先生「この度は私の娘たちが、大変申し訳ありませんでした…!」
俺は先生に頭を下げないでくださいと頼んだが、先生はそのまま話を続けた。
あの日、真美から先生に直接『兄ちゃんを殴り倒してしまった』と電話があり、
その結果、この病院に運び込まれ、先生の処置を受けたらしい。
どうやら俺の頭の怪我は、あと少し深ければ死んでいたみたいだ。
傷を見れば、鈍器のようなもので殴った跡だと分かるらしく、
真美のやったことは明らかに殺人未遂だ、本来なら警察に通報するべきだったと、先生はむせび泣いた。
しかし、相手が俺だった事で希望を捨てきれず、我が子可愛さに通報出来なかったという。
…俺が真美のことを見逃してくれるんじゃないか、という希望を。
先生「その二枚は…あなたの一存にお任せします…」
先生はそう言ったが、俺には被害届を出すなんて選択肢は初めから無かった。
もし俺が被害届を出せば、真美は逮捕され765プロの信用はガタ落ち。潰れてもおかしくない。
先生も真美を庇った責任を追求されることになるだろう。
だが、そんな事些細なことは俺にとってどうでも良かった。
俺はその紙を破り捨ててこう言った。
P「俺には二人が居ない生活は想像できないんです。あの二人は大切な…妹のような存在ですから…」
俺は亜美と真美に会うこと…いや、亜美と真美そのものが怖かった。
だが、それでも俺にとって、二人は大切な存在だ。
それはきっと変わらない。変わって欲しくなかった…
先生は礼を言おうとしていたが、涙で声にすらなってなかった。
その時、ドアが開いて亜美と真美が泣きじゃくりながら現れた。
俺は視界に二人の姿が入った瞬間、あの日の記憶が鮮明に思い起こされた。
痛みの中、自分の血で俺の体が赤く染まっていく光景が…
猛烈な頭痛と目眩に見舞われ、気絶しそうになったがなんとかこらえる。
倒れそうになった俺に二人は慌てて駆け寄ろうとしたが、先生が慌てて引き止めた。
先生はなぜ入って来たのかと厳しく注意しながら二人を部屋から追いだそうとしたが、
俺はとっさに二人を部屋に残るよう引き止めた。
ここで二人から逃げれば、この先、もう二人と向きあって生きていけない…そんな気がしたから…
P「一つだけ、聞いて欲しい話があります」
俺は、亜美と体が入れ替わってからの一部始終を3人に話した。
あの日何があったのか3人にはきちんと知っていて欲しかったからだ。
もっとも、父親の前ということで、ぼかして話す部分もあったが…
その間、亜美と真美は一言も喋らず、涙を浮かべながら真剣に聞いていた。
先生は驚きながらも俺の話を信じてくれたのだが、あまりにショッキングな内容に頭を抱えていた。
その後、俺達は今後について話し合った。
亜美と真美、そして俺の心のケアの話や、治療費や慰謝料。
今後のアイドル活動などについて…
話が終わると、先生は仕事に戻っていき、俺と亜美、真美の3人だけが病室に残る。
その重苦しい雰囲気に、俺もなかなか口を開くことは出来なかった。
「兄ちゃん…」
長い沈黙の後、亜美が俺のことを心配そうに呼ぶ。
亜美は右の頬に大きな絆創膏を貼っている。恐らく真美に殴られたのだろう。
あの亜美が俺の近くに立っている…その恐怖で心臓が破裂しそうだったが、
俺はちゃんと、二人と向き合って話をしなければ…
亜美・真美「兄ちゃん、ごめんなさい!!」
二人同時に頭を下げる。今日何度目かわからない謝罪。
さすが双子、タイミングが全く一緒だ…なんて、変に感心した。
P「いいんだ。ただ、運が悪かっただけだよ」
人と人の中身が入れ替わるなんて特殊な状況で、亜美は一人、様々な恐怖と戦ってきたはずだ。
それは13歳の女の子にとって、強すぎる重圧だったのだろう。
に極限まで精神的に追い詰められ、普通で居られる方が普通でない。
だから、自分の心を保てなかったのも仕方がない…
――頭に鋭い痛みが走る。
つい、あの時の事を思い出してしまい、俺は怪我の痛みとは違う鈍痛に耐えかね
頭を抑えながら前のめりに倒れこんだ。
亜美「兄ちゃん?!」
亜美が心配そうにこっちに駆け寄ってきて、俺へ手を伸ばした瞬間、
「うわあああぁっ?!!」
俺は反射的に、大声を上げながら亜美の手を振り払っていた。
心では亜美は悪くない…そう思っていたが、体が勝手に拒絶してしまった。
いや、体が拒絶したんじゃなく、心のどこかで亜美を拒絶していたのかもしれない。
亜美「ご、ごめん…なさい…」
亜美は下を向いてゆっくりと後ろに下がりながら、泣きそうな顔でつぶやくように謝る。
きっと俺に会う事は亜美達にとっても怖かったはずなのに、
善意すら突きはねるように拒絶して、また亜美を傷つけてしまった。
自分の不甲斐なさに腹が立ち、亜美の手を振り払った右腕を、ベッドの手すりに叩きつけた。
P「すまない亜美!!俺はっ…」
とっさに謝ったのはいいが、その次の言葉が出てこない。
そのもどかしさに、涙すら出てきた。
少しの静寂の後、真美は言った。
真美「そっちは亜美じゃないよ?」
耳を疑った。
P「ど、どういう事だ…?」
真美「だから、そっちは亜美じゃないよ」
真美「真美だよ」
意味がわからなかった。
頭痛で頭がおかしくなったのかと疑った。
真美が、俺の眼の前に立っている亜美のことを、それは真美だというのだ。
じゃあ、そこに立っている真美は誰なんだ?
真美が、そこの亜美が真美だというのなら、逆にそこの真美は亜美なのか…?
…そのまさかだった。
真美「そして、真美が亜美だよ」
真美「兄ちゃんと亜美みたいに、入れ替わっちゃったんだ」
…信じられなかった。
あの日、『俺の体の亜美』は殴り倒されて気を失った。『亜美の体の俺』も痛みと絶望感から気を失った。
入れ替わっていた二人が気を失って、それで元に戻った…そう思っていた。
だが、そうではなかったというのだ。
真美…いや、亜美が言うには、二人が気絶した後に真美も気を失い、
そして目を覚ますと、二人の中身が入れ替わって居ることに気がついたそうだ。
俺はあまりの出来事に声を失った。
まだこの悪夢が続くのかと思うと目の前が真っ暗になり、そこで意識は途切れた。
続きはまたまた後ほど投稿します。
修正点
>>45
顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で泣きながら叫んだ。→ぐしゃぐしゃな顔で大声で泣きながら叫んだ。
>>49
二人と向き合って話をしなければ…→二人と向き合って話をしなければならなかった。
に極限まで精神的に追い詰められ、→限まで精神的に追い詰められ、
続きですが一気に最後まで投稿しようと思うので、
しばらく時間がかかってしまうと思います。気長にお待ち下さい。
真美は入れ替わりで竜宮小町の所属になり、律子が担当となったことで、
俺と仕事をする機会は入れ替わる前と比べて極端に減っていった。
今まで毎日顔をあわせてきたのに急に会えなくなったからか、
まるで恋人同士かのように、頻繁に電話やメールをやり取りするようになり、
美希や他のアイドル達のメールも相まって、返事をするのがやっとな程だ。
次第に竜宮小町での活動が忙しくなり、ほとんど顔を合わすこともなくなったが、
それでも真美とは、以前のように仲の良い兄妹みたいな関係が続いていた。
だが、問題は亜美だ。
亜美は俺がプロデュースしているユニットの所属になったことで、
仕事やレッスンで毎日のように顔を合わすようになったのだが、
以前と比べてかなり大人しく消極的…というより、元気が無いように見えた。
最初はあんな事があったのだから、ある程度は仕方ない程度に思っていたが、
俺以外に対しては、そんな素振りも見せず普段通りだったし、
メールの返事も素っ気なく、事務的なものが帰って来るだけになった。
次第に亜美は、俺との距離を置くようになっていく。
俺はてっきり、自分の思いが二人に伝わったものだと思っていたが、
亜美はまだ、割り切れないところがあるのかもしれない。
「俺に嫌われるのが怖かったって、言ってたくれたじゃないか…」
身勝手な理由で俺の心を深く傷つけた事をまだ気にしているのだろうか。
病院の時のように、俺に拒絶されるのが怖いのだろうか。
それとも、単に俺のことが嫌いになってしまったのだろうか?
理由をいくら聞いても、一向に何も話してくれず、
俺はその焦りから、しつこく食い下がるように亜美と話そうとし続けたが、
亜美はただ、つらそうな顔で俺に背を向けるだけだった。
そして半年が過ぎた。
二人の活動は順調に進み、仕事が増えるにつれて人気も上がっていった。
それぞれのユニットとしての人気だけでなく、双子アイドルとしても勢いに乗り、
芸能界の双子の星として、765プロを支える程になっていた。
だがその人気も、亜美は『双海真美』として、真美は『双海亜美』としてのものであり、
半年たった今でも二人の中身は入れ替わったまま、元に戻れないでいる。
その事を知っている俺は違和感を感じることも多かったが、
幸いな事に、他の誰にも入れ替わっていることは気付かれてはいなかった。
だが…俺は亜美と、まともにコミュニケーションを取れなくなっていた。
半年たった今も、俺はなんとか亜美と話そうと必死だったが、
もはや意地でも俺と関わらない…そんな様子だった。
亜美の心の内は、真美に協力してもらって聴きだしてもらい、
メールを介して届く情報を頼りにプロデュース活動をする…そんな日々が続いた。
半年以上に渡って、プロデューサーと担当アイドルが話もしない…
そんな異常な事態に、次第に事務所には不穏な空気が漂い始める。
亜美が俺の事を無視し続けるというのは、
傍から見れば亜美。いや、真美の態度が悪いだけに見えただろう。
個人的な関係でだけならまだマシだったのだが、亜美は仕事でも俺を避け続け、
特に律子や伊織は、亜美と顔を合わす度に口論になっていた程だ。
事務所内の空気は日を増すごとに暗く、重苦しいものになっていく。
理由もちゃんとわからないまま、ただひたすら拒絶され続ける…
俺の心は日に日に蝕まれ、日々のプロデュース活動が苦痛でしかなくなっていき、
みんなの前で普段通りに振る舞うことで精一杯だった。
だがそんな状況の中でも、俺はなんとなく、亜美との繋がりのようなものを感じていた。
心のどこかで、俺と亜美の絆はまだ生きている…そう思わせる何かがあった。
単にそう信じていたかっただけの幻想かもしれなかったが、
俺はその感覚だけを糧に、プロデューサー業を続けていた。
だが、これ以上は自分のためにも、亜美のためにもならない…そう思った。
営業先からの帰りに、真美からメールが届く。
亜美が事務所に戻ってきたら、二人で一緒に帰るんだ〜♪だなんて他愛の無いメール。
どうやら事務所で二人、待ち合わせをして帰るみたいだ。
今から急げば二人に会って話せるかもしれない…そう思い、車を飛ばす。
その胸に、大きな決意を抱いて―――
事務所前に到着すると、タイミングが一緒だったのか、
真美がニヤニヤしながら走ってきて車の窓をノックしてくる。
真美「よっ!兄ちゃん久しぶり!最後に会ったのって一週間くらい前だっけ?」
P「舞台挨拶が最後だったから8日前だったかな?」
なんて、適当な話をしながら事務所へ向かう。
楽しそうに話してはいたが、その顔はどことなく険しくみえた。
「…ただいま戻りました〜」
あの日と同じような夕焼けのオレンジが、事務所にブラインド越しで差し込んでいる。
薄暗い部屋の中電気も付けず、亜美が一人、ニコニコしながら携帯電話をいじっていた。
亜美「えっ…なんで兄ちゃんと一緒なの…?」
真美「ご、ごめん。事務所の前でタイミングぴったんこだったんだよ」
亜美は俺達に気づくと携帯電話を隠すように慌ててカバンにしまい、
真美の手を握ると、俺と目を合わせないようにそそくさと、逃げるように事務所から出ようとした。
P「待ってくれ!大切な話があるんだ」
亜美「ヤダ。早く帰りたいもん」
俺はすれ違いざまに亜美の肩を掴んで引き止めたが、
こちらを振り向きもせず、腕を回すようにして俺の手を振り払った。
無理矢理にでも引きとめようか迷っていたその時、
真美が、亜美と繋いだ手をグッと引き止める。
真美「ねぇ、兄ちゃんの話聞いてみよう?大事な話みたいだし」
亜美「でも…」
真美「お願いだから…ね?」
しぶしぶドアノブから手を離すと、真美に手を引かれてソファに座る亜美。
その横に真美が、手を固くつないだまま腰を下ろした。
P「悪いな真美。本来なら俺が…」
真美「別に良いよ。それで、大切な話ってなに?もしかして席外した方がいいっぽい?」
P「いや、真美にも関係ある話だから」
P「俺は…亜美のユニットの担当を外れることになった」
真美「えっ?」
二人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその事を受け入れたようだ。
そもそも今まで担当を外れていなかった事自体がおかしかったのだから。
真美「それはもう決まったのことなの?」
P「…以前から律子にそう提案されていたからな。むしろ遅すぎたくらいだ」
人気アイドルの仲間入りを果たし忙しくなった亜美にとって、
話もできない人間が担当プロデューサーであるというのはマイナスでしか無かった。
真美やユニットのメンバーが必死にフォローしてくれては居たものの、
指導もろくに出来なかったおかげで、失敗も目立っていた。
それでも未だに、俺のワガママで担当を続けさせてもらってはいたが、
本来ならもっと早く律子に担当を変わってもらうべきだった。
真美「た、確かにそうかもね…」
P「いつまでも事務所に迷惑をかけ続ける訳にはいかないからな」
P「だが今回二人に伝えたかったことは、その事じゃない」
できるだけ冷静に二人に伝えようと、
淡々とした口調を心がけながら話し続けた。
P「俺は、この事務所を離れようと思う」
亜美「えっ?!」
真美「そ、それって765プロを辞めるってこと?」
P「いや、765プロ自体を辞めるわけじゃない」
本当は辞めることも考えはしたが、俺はプロデューサー業を続けたかったし、
今辞めれば亜美が俺を追い出した形になり、事務所の雰囲気はより険悪になるだろう。
P「この事務所は立地も悪いし狭いからな。もっといい場所に新しく支部を作って、そこに転属することになると思う」
二人は安堵の表情を浮かべ、胸をなでおろした。
真美「なぁ〜んだ。それって事務所の場所を変えるってだけじゃん。脅かさないでよ〜」
P「いや、新しい支部に転属になるのは、俺の担当アイドルだけだ」
そう言った瞬間、二人の血の気が一気に引くのが目に見えて分かった。
二人と一緒に仕事はできないと言ってるようなものだ。やはり相当なショックを受けているらしい。
真美「えっ…なんで?なんでそんな…嫌がらせみたいなことするの…?」
P「嫌がらせなんかじゃない。社長と小鳥さん、律子と4人で話し合って、考え抜いた末に出た結論だ」
P「3人ともこの考えに賛成してくれた。社長の許可も取ってある。後はみんなの…」
真美はまるでドラマのように机を両手で叩き、
半泣きのまま大声で怒鳴るように尋ねた。
真美「なんでっ?!やっぱり亜美達のこと嫌いになったの?!」
P「いや、そんなわけじゃない。俺だって出来れば亜美と話をしたかった」
P「でも…今の俺は亜美にとって、ただの足枷でしか無い」
真美「それは…」
P「そもそも俺が同じ事務所に居ること自体、亜美やみんなにとって大きな負担になっている」
真美はなにか言いたそうな顔をしていたが、
今の事務所の雰囲気を考えると何も言うことが出来ないのだろう。
P「…どちらにしろ、今のままじゃ一緒に仕事は続けられない」
P「だから今後は、俺がプロデュースする6人だけで新しい支部に…」
真美が涙目で歯を食いしばりながら立ち上がろうとした時、亜美がぽつりと言った。
亜美「だめだよ…真美とミキミキが困るもん」
P「…それは亜美には関係ないだろ」
亜美「あるよっ!二人共本気だもん!!」
久しぶりに亜美の大声を聞いたような気がした。
固く握りしめられた両手が震えていた。
P「自分の世話を焼いてくれる大人の男ってだけで、勘違いしてるだけさ」
亜美「そんな事ないっ…!!」
亜美「亜美だって本気だったんだから…」
確かに亜美は、俺の事を本気で愛してくれた。
そうでなければ、全てを投げ売ってまで俺を自分のモノにしようとしなかっただろう。
P「だったら、尚更俺は事務所を離れないといけない。俺は二人の本気には答えてやれない」
P「美希はまだ割り切ってくれているようだからいいが、真美は…」
亜美「―――っ!!」
二人の恋心を蔑ろにするような言い方に火が付いたのか、
亜美は左手を高く振り上げると、俺の右の頬を全力で殴りつけた。
真美「ちょっと!やめなよっ!」
亜美「…兄ちゃんに何が分かるのさっ!!」
真美の静止も振り切って、亜美は息を荒げながら俺のネクタイを勢い良く掴み上げた。
口の中は徐々に血の味がし始めたが、それはどうでもよかった。
だが今の俺にとって、その一言だけはどうしても我慢ならなかった。
P「俺に…何が分かるかだって…?」
亜美の手を乱暴に振り払い、立ち上がりながら亜美を睨みつける。
P「分かるわけがないだろっ!!」
半年間、溜めに溜め込んだ不満や怒りが一気に爆発する。
怒りあまり、亜美を殴ってしまわないようにするので精一杯で、
とっさに目の前にあったテーブルを思いっきり拳で殴り下ろした。
二人は軽く悲鳴を上げながら、後ずさるように肩をすくめる。
P「今まで俺を散々無視しておいて、話す事すら拒絶してきたのに!!」
P「それで自分ことを分かってないだって?!そんなの当たり前じゃないか!!」
P「分かるわけ…ないじゃないかぁ……っ!!」
溢れだした感情を抑えることが出来ずに、
俺はまた、いつの間にか泣き出してしまっていた。
まるで子供のように泣きじゃくって、手で涙を拭いながら話しつづける。
P「俺だって辛かった…死にたくなる程に…」
P「意味も、理由も、何もかも分からずにどんどん距離が離れていって、このままじゃ二度と―――」
P「そう思うと、頭がおかしくなりそうだった…」
もう立っている気力もなくなって、崩れるようにソファに座り込む。
二人は目に涙を浮かべながら黙って聞いているだけだった。
P「もう許してくれないか…?俺は、疲れたよ…」
P「背を向けるだけのお前と、正面から向き合おうとすることに…」
P「お前から逃げる俺を…許してくれ……亜美」
もう、おしまいだろう。
俺は悩んだ末に、亜美から…いや、二人から逃げることを選んだ。
俺もプロデューサーである以前に人間だ。
いくら仕事でも、とてもじゃないが割り切れるものではなかった。
もうこれ以上は俺の心が耐えられない…
だから仕方がない、俺は悪くないんだと自分に言い聞かせた。
今まで、本当はどこかで心は亜美と繋がってる…なんて思ってきたが、
それも俺の願望が生み出した妄想だったのかもしれない。
でももう、その妄想に頼る必要も、自分を騙す必要もない…
やっとこの苦しみから開放される…
嬉しいはずなのに、涙はずっと止まらなかった。
P「ゴメンな亜美……もう俺は…」
そう呟きながら、俺はただ泣き崩れた。
二人の顔を見ることがつらくて、顔をあげることも出来なかった。
事務所には三人がすすり泣く声だけが、しばらくの間響いていた。
真美「真美、もうやめよう。兄ちゃんが―――」
しばらくして真美がそうつぶやくと、亜美が泣きながら俺に近づいてくる。
また俺を殴るのだろうか?だなんて考えたが、もう抵抗する気もなかっし、
それで亜美の気が晴れるなら、好きなだけ殴ればいい…そう思った。
亜美は、俺の腫れた右頬に優しく手を当てる。
亜美「兄ちゃん…」
そう言いながら、亜美は…俺を優しく抱きしめた。
一瞬、自分の感覚がおかしくなったのかと思った。
今まで半年もの間俺を頑なに拒絶してきた亜美が、俺のことを抱きしめている…
冷静さを失った俺は、状況がなかなか飲み込めなかった。
亜美「ごめんなさい…兄ちゃん」
P「なんで今さら謝るんだよ…」
軽く押しのけようとしても、俺の胸に顔をうずめたまま、
両腕で痛いほどに力を入れて離れようとしない。
P「離してくれ…俺はもう嫌になったんだ。こんな毎日に」
亜美「ヤダ…絶対にヤダ…」
俺はもう亜美のことをほとんど信用できなかった。
今まで執拗なまでに俺を無視しておいて、俺が耐え切れなくなると、
逆に今度は、涙を流してまで必死に引きとめようとしたりする…
俺の心を苦しめて、楽しんでるんじゃないのかとすら思えた。
俺がなにか悪いことをしたのか…?
中身が入れ替わって以降、いろんなことがあったが、
俺がここまで一方的に嫌われるような事を何かしたというのか?
むしろそんな事をしたのは亜美の方じゃないか――
P「何でだよ…そんなに俺を傷つけるのが楽しいのか?!」
真美「ち、違うんだよ兄ちゃん!」
P「…なんだ?もしかして真美も一緒になって楽しんでたのか?」
真美「違うよ!!それにはちゃんと理由が…」
その一言は火に油を注ぐようなものだった。
P「その理由を教えてくれないから、俺はこんなに苦しんでるんだろっ!!」
俺は亜美の肩を掴んで、強引に引き剥がそうとするが、
亜美は必死に俺にしがみついて、意地でも離れようとしない。
亜美「だって…兄ちゃんがそんなに苦しんでるなんて…知らなかった…っ!」
亜美「ずっと、一番つらいのは自分だって…そう思ってて―――」
神経を逆撫でする亜美の一言に、完全に理性を失った俺は、
気がつくと亜美を全力で突き飛ばし、右手を高く振り上げていた。
P「ふざけるなあぁぁぁぁっ!!!」
声が裏返るほどの怒号と共に、手のひらを勢い良く亜美に向かって振り下ろした。
まるでドラマのワンシーンのような乾いた音が事務所に響き渡る。
荒げた呼吸を整えながら前を見ると、真美が頭を抑えながらうずくまっていた。
興奮しすぎて分からなかったが、どうやら真美は亜美をかばったらしい。
P「あっ……」
真美を叩いてしまった事に俺は動揺を隠せなかった。
いや、冷静になってみれば誰であろうと人に手をあげるなんて…
P「――すまない真美、俺は……っ」
もう自分でもどうすればいいのか分からず、
ただ謝ることしか出来なかった。
真美「別にいいよ兄ちゃん…それよりも真美、理由をちゃんと言わなきゃ…」
亜美は真美の手を借りながら立ち上がると、
涙を手で拭い、俺に向かって深く深く頭を下げる。
亜美「ごめんなさい。兄ちゃんの気持ち、考えたことなかった」
亜美「…でも信じて!困らせたくて避けてたんじゃないって」
亜美「だって…兄ちゃんのこと…やっぱりまだ、好きだから…」
…俺のことがまだ好きだから?
俺を半年も避けつづけた事…その以外な理由に俺は驚いた。
いや、理由にすらなっていないだろう。
つらい思いをしてまで、何故好きな人を避け続ける必要があるのか?
P「だったらなんで…」
真美「…真美は悪くない。亜美が全部悪いんだよ!だって全部亜美のためにやったことだもん!!」
好きな人を避け続ける、その理由が全部、亜美のため…?
亜美が亜美のために俺を拒絶し続けた?
頭の中は混乱していたが、その中である考えが一瞬頭をよぎる。
半年間ずっと感じてきた違和感の正体が分かった気がした。
P「そんな…まさか―――」
頭の中を、この半年間の記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
二人が入れ替わったショックで気を失ったこと。
ユニットに慣れるため、三人で必死に特訓したこと。
真美と沢山のメールをやり取りしたこと。
逆に、亜美とは冷たい関係がずっと続いたこと。
それでも、亜美と心はつながってる…そんな気がしたこと。
…言葉を失った。
誰もがただ悲しみ、苦しみ続ける…
こんな悲劇のようなことがあって良いのか。
気持ちをどう表していいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。
たが体は勝手に、亜美の方へと吸い寄せられるように向かっていった。
俺は、亜美を壊れそうになるほどきつく抱きしめた。
P「そうか…お前は、左利きだったものな…」
「真美…」
―――二人は、最初から入れ替わってなんていなかった。
一旦休憩です
なんて事を考えながら一人車を飛ばす。
事務所についたのは8時を過ぎた頃で、女の子を独りで歩かせらせない時間。
これ以上姫様を待たせまいと、一段飛ばしで階段を駆け上がる。
P「…ただいま戻りました〜」
待ちきれず寝てるかも…という気遣いから、ドアを静かに開けたのが功を奏し、
ドア枠の上から3分の1くらいにラップがピーンと張ってあることに気づく。
避けようかとも一瞬考えたが、遊びに付き合ってやるつもりでわざとラップに顔を突っ込んだ。
P「ぶふっ」
どうせなら面白い写真が撮れるようにと、おもいっきり顔をラップに押し当てる。
そして予想通り、眩しいフラッシュに続いて携帯のシャッター音。
亜美「あはは!いや〜兄ちゃんおかえり〜!待ってたかいがあったよ〜」
わざと引っかかったとも知らずに、したり顔の亜美。
P「俺も急いで帰ってきたかいがあったよ」
なんて、中学生の子供に大人げもなく皮肉を言いながら、
急いで鞄から書類を取り出して片付ける。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1339996155(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
P「竜宮のみんなと帰ってくれてたら、亜美も早く家に帰れるし、俺も遠回りをしなくて済むんだけど」
ニヤニヤしながら携帯をいじる亜美に、半ば諦め気味で独り言のようにつぶやく。
どうやらさっきの写真をみんなに送っているようだ。
亜美「いやいや、亜美は兄ちゃんと一緒に帰りたいからねー」
どうせ、車の中でお腹が空いた〜なんて言い出して、
途中のファミレスで俺にパフェでも奢らせようっていう魂胆なんだろう。
そして、ママには仕事で遅くなるから食べて帰るってメールしちゃったとか言うんだろうなぁ…
なんて、いつものパターンを想像しながら帰る準備を終え、亜美に声をかけてから事務所の電気を消す。
亜美「じゃあ兄ちゃん、車まで競争して亜美が勝ったらファミレスでパフェ奢ってよ!」
不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、亜美は勢い良く走り始めた。
今日はパターンを変えてきたか…と、予想が外れたことをすこし残念がっていた…その瞬間。
亜美「あっ!!」
悲鳴と言うよりは大声を口から漏らしながら、目の前で亜美が後ろに仰け反った。
そう、自分でドアに仕掛けたラップの罠に勢い良く引っかかったのだ。
P「亜美っ!!」
俺はとっさに亜美のクッションになるよう、頭から飛び込んだが、
頭がぐわんと揺れたと思うと、いつの間にか気を失っていた。
「ねぇねぇ…起きてよ…」
身体が強い力で揺すられ、ゆっくりと意識が戻る。
目を開けると鏡の向こうの自分と目が逢った。
おいおい、俺が気を失っててもイタズラをするなんて…。
少しガッカリしながら身体を起こすと、涙目の俺が俺に抱きついてくる。
「あ、やっと起きたよ〜…心配したんだからさー」
――最近の鏡は自分を抱きしめることも出来るのか。すごい世の中になったものだ…
なんて、バカなことを考える余裕がある事に自分でも驚いた。
…どうやら、亜美と身体が入れ替わったらしい。
その事は先に目覚めていた亜美も理解しているようだ。
亜美「ごめんね兄ちゃん。電気が消えてたらラップが見えなかったんだよぉ〜」
泣かれたままでは話が進まないので、亜美を落ち着かせる。
どうやら自分のせいで、俺がこのまま目を覚まさないんじゃないかと思うと怖かったらしい。
30分近く俺にしがみついて謝りながら泣き続けていた。
その間、俺は自分の姿をした亜美をあやしながら、ただ冷静に、これからのことを考えていた。
戻るまでの間どうするか、何をすれば元に戻るか、戻れなかった場合はどうするか…
P「俺は、亜美の家に帰らないといけない」
ようやく落ち着いてきた亜美に、まず結論から伝える。
亜美が家に帰らなければ当然、親が心配するだろう。
かと言って、俺の姿をした今の亜美が双海家へ帰ると、警察か精神科のどちらかに緊急搬送されるだけだ。
そうなると選択肢は2つ。
『中身が入れ替わったことを説明するか、俺が亜美のフリをして家に帰るか』
亜美はまだ子供だし、一人で夜を明かすというのは心細いだろう。
出来れば亜美を家に帰らせてあげたかった。しかし…双海家には真美が居る。
自由な大人の男の体を手に入れた亜美が、いろいろと"よからぬ実験"をしようとするのは目に見えている。
一人でやる分には…まだ仕方ないかもしれないが、万が一のことはあってはならない。
そう考えると、俺が亜美のフリをして双海家に帰るというのが一番だろう。
P「もし亜美が、急に家に俺がやってきて、真美と中身が入れ替わったなんて言われて信じられるか?」
亜美「ううん、いつもみたいにドッキリを真美にやらされてるんだろうな〜って思う」
泣き止んだばかりの亜美は、いつもからは想像が付かないほど素直だった。
こんな事になったのは自分のせいだという思いがあるのだろう。
亜美「でも、亜美はどうしたらいいの?」
また泣き出しそうな声でそうつぶやくと、不安そうな目でこちらを見つめてくる。
亜美からすると、知らないところで一人で夜を過ごすのだ。当然だろう。
P「そうだな、悪いが元に戻るまでは俺の家…それがイヤならビジネスホテルに泊まってもらおうと思う」
年頃の女の子だし、男の部屋なんて嫌だろうなぁと、財布にいくら入っていたか考える。
亜美「じゃぁ兄ちゃんの家がいいかな」
帰ってきたのは意外な返答。
そうか、ホテルなんて仕事で泊まることも多いからある意味当然か…と思いつつ、
家の住所と鍵、大まかな注意点などをメモに記し、財布に入っていた3万円と一緒に亜美に手渡す。
さすがにクレジットカードは怖くて渡せないが、3万もあれば十分満足するだろう。
亜美「えっと…こんなにお金受け取っちゃってもいいの?」
人気アイドルの仲間入りを果たし、俺の数倍以上の給料をもらっていても、お小遣い制の亜美からすれば3万円は大金なのだろう。
P「半分は自由に使ってもいい。でも残りは考えて使ってくれ。いつ元に戻るかわからないから…」
そう言いかけて俺はハッとした。
入れ替わりなんてラブコメ漫画みたいな事、どうせ予定調和的に元に戻る…
そう勝手に思い込んでいたが、頭の中に重い現実がのしかかってくる。
この入れ替わった状態は、いつまで続くか全くわからない。
次の瞬間には戻ってるかもしれないし、一生このままかもしれない。
そうなった場合、亜美はどうなる…?
P「と、とりあえず今日はもう遅い。明日からちょうどニ連休だし、元に戻る方法を探そう」
亜美「そうだね…でも、もし休みの内に元に戻らなかったらどうしよう…」
…言葉に詰まる。亜美も同じ不安を抱えているのだろう。
P「た…多分、大丈夫だ。きっと漫画みたいにハッピーエンドで元に戻るさ」
そう取り繕い、その続きを考えないようにする。
P「携帯電話はお互いに自分の物を持っておこう。何かわからないことがあったらすぐに連絡してくれ」
ポケットに入っていた携帯電話を交換し、それぞれタクシーで初めて訪れる自宅に向かった。
タクシーの中、今後の事についていろいろ考える。
ニ連休の内に元に戻らなかった場合…俺がバラエティ番組にでたり、ステージで歌って踊るわけだ。
竜宮小町は律子の担当だから、歌はともかく、ダンスまでは覚えていない…
俺はなるべく、そういった目先のことをだけを考え、
一生このままかもしれないという恐怖から目を背け続けた。
双海家に到着すると、なるべく怪しまれないように千円札と小銭でタクシー代を支払い、
亜美から借りた鍵を使ってドアを開け、小いさな声でただいまと呟くように言う。
すると、廊下の向こうのドアが壊れるんじゃないかという勢いで開き、真美がドタドタと走ってきた。
真美「おかえりーっ!!亜美やるじゃん!写真みたよ?」
どうやら俺がトラップにかかった時の写真のことだろう。写真は見ていないが適当に話を合わせる。
P「マヌケ顔だったでしょ?あんなにキレイに引っかかるなんてバカだよねー」
一瞬、真美が驚いたような顔をする。
できるだけ口調を真似ているつもりだが、やはり双子には違いが分かるのだろうか?
…なんて考えてると腹の音が鳴ってしまった。そういえば何も食べていない。
真美「あれっ?今日は兄ちゃんに晩ゴハンおごってもらったんじゃ?」
P「いや、実は…に、兄ちゃんの仕事が長引いちゃって、結局タクシーで帰ってきたんだよ」
頭を打って気絶してたなどと言えずとっさにごまかし、
体に悪いと思いつつも、疲れていたのでカップラーメンで夕食を済ませた。
真美「もう食べ終わった?じゃあお風呂入ろっか」
亜美と真美は普段一緒に風呂入ってるのか。仲がいいものだなんて感心したが、
さすがに一緒に風呂に入るのは気の毒だ。
P「いや、今日はなんか一人で入りたい気分かな〜…なーんて」
真美が疑うような目付きでこちらを見てくる。
まさか…中身が入れ替わったなんて普通は考えすらしないよな?と、自分に言い聞かせた。
するといきなり真美がしゃがんで俺のスカートを捲り上げパンツを覗く。
真美「なーんだ、やっと亜美にも生理が来たのかと思ったけど違うかー」
真美は来てるのか…?最近大人しくなったのはそれが原因か…?
こっち方面の話は律子や小鳥さん任せだったから、いざその話をされると困惑するだけだった。
それよりも、姉妹同士だけだとこんな事をするのかと女子の生態に驚く。
真美「なんかお疲れっぽいから仕方ないかー。先にお風呂入りなよ」
P「あ、ありがとう真美…」
真美の気遣いに感謝しつつ、着替えを用意し、慣れない手つきで服を脱ぐ。
あまりに背徳的な行為に罪悪感すら感じるが、亜美の事だからある意味お互い様だろう。
今ごろ、自分の体は亜美のおもちゃになっているに違いない。
ゆっくりと湯船に浸かり、亜美に悪いと思いつつも、じっくりと身体を眺める。
もしかしたら一生付き合っていくことになるかもしれない身体だ。
P「…もしそうなったら、俺が亜美を養う事になるのだろうか…」
――もし休みの内に元に戻らなかったらどうしよう…
亜美の言葉が脳裏をよぎる。
自分は今まで培ったプロデュースのノウハウに加えて、若い一流アイドルの体を手に入れたのだ。
もし元に戻らなくても歌やダンスを練習すれば仕事には困ることは無いだろう。
むしろ、セルフプロデュースを試せる分、今のほうが好都合と言えるかもしれない。
だが、亜美は違う。
13歳の女の子が、大人の男として突然社会の波に放り出される…
そんな事になればどうなるかは火を見るより明らかだった。
P「元に戻る方法を探さないと…」
唇を噛み締めて呟く…
真美「何に?」
予想もしない返事が帰って来る。
慌てて振り向くと、風呂場のドアを開けて真美が入ってきているではないか。
集中しすぎて話しかけられるまで全く気づかなかったなんて、自分の集中力の高さを褒めてあげたくなる。
真美「いや〜!ごめんね亜美。考え事してたみたいだから入ってきちゃったよ」
P「先にお風呂入りなよっていったじゃないか…」
真美「アハハ、だから真美が後から入ったしょ〜?」
とんちじゃないんだぞ…と心のなかでツッコミを入れつつ真美を警戒する。
真美は間違いなく俺…いや、亜美の異変に気がついているだろう。
亜美と担当プロデューサーの中身が入れ替わってるなんて、考えもしないだろうが。
真美はかけ湯をして俺の横に入ってくると、
一瞬、13歳とは思えないドキッとするような儚げな表情を見せ、話を切り出す。
真美「今日、兄ちゃんと何かあったの?」
あまりに際どい質問に、考えていることが見透かされているのではないかという錯覚に陥る。
亜美と中身が入れ替わっても落ち着いていた自分が、言葉すらなかなか出ない。
P「ど、どど…どうしてそう思うの?」
自分でも笑いそうになるくらい動揺しているのが声で分かる。
しかし今、この状況で入れ替わってることがバレたら社会的に抹殺されかねない。
とにかく、カマをかけられたりしないように集中力を高めて身構える。
少しの沈黙の後、真美は口を開いた。
真美「だって今日の帰りは兄ちゃんとデートするって言ってたじゃん」
予想しとは全く別方向の返事が帰って来た。
デートというのは、俺にファミレスでご飯を奢らせて、車で家まで送ってもらうという、
週に1回あるかどうかのわがままのことを言っているのだろうか。
ホッと胸をなでおろす。こんな事にいちいちビクビクしていただなんて。
P「だから、兄ちゃんの仕事が長引いちゃって無理だったって言ったじゃん」
話が矛盾しないよう、さっきと同じ嘘で誤魔化す。
どうやら、デートに行けなかったこと以外にも何かあったんじゃないかと勘ぐっているようだ。
真美「でもさ、いつもだったらフラれた〜って泣いてるじゃん」
P「えっ?」
思わず声を上げる。盲点だった。
ただ事務的にやってるだけの送り迎え…それすら竜宮小町での活動で忙しい亜美にとって、
数少ないささやかな楽しみの一つだったというのだろうか…?
しかもあの天真爛漫な亜美が、俺に落ち込む姿を見せないように我慢しているなんて考えもしなかった。
真美「元に戻るとか言ってたし…兄ちゃんと喧嘩でもしちゃった?」
P「う、うん…実はそうなんだ。ラップのイタズラで兄ちゃんが頭を打っちゃってメッチャ怒られてさ」
それが自然だろうなと、それっぽい嘘で真美の話に乗らせてもらう。
実際には頭を打ったのは亜美なんだけど…
真美「あっちゃ〜…頭打っちゃったのはダメだよね。危ないもん。そりゃ怒られるよ〜」
言葉を返す間もなく真美は続ける。
真美「でも、亜美は焦り過ぎだよ。真美みたいに兄ちゃんが担当じゃないからって、気を引こうとしてさ…」
真美「そんなので兄ちゃんが怪我しちゃったり、亜美が嫌われちゃったら意味無いっしょ?」
真美「大丈夫だって、真美もちゃんと大人になるまで抜け駆けして兄ちゃんに告ったりしないから!」
そう言って笑顔で俺の背中をベチベチと軽く叩く真美。
普通なら笑顔で返すのだろうが、俺にはそんな余裕は無かった。
事務所の俺の担当アイドルは9人。それぞれみんなと信頼関係にはあるが、
その中で俺のことをプロデューサーとしてでなく、異性として慕ってくれているのは美希だけだと思っていた。
普段の『兄ちゃん』という呼び方から、兄のように慕ってくれているだけと思っていた亜美と真美。
俺も普段からその気持ちに応えようと、本当の兄妹のように接してきた。
だが、その二人が『だぁ〜い好き!!』とじゃれ付いてくる事の本当の意味を理解した時、自分の認識の甘さに愕然とした。
亜美と真美は、俺のことを異性として好きだったのだ。
普通なら多少なりとも照れたりするのかもしれないが、俺はただ心配だった。
亜美は俺と入れ替わる事によって、『自分の好きな男の体を手に入れた』ということになる。
もしニ連休の内に元に戻ったとしても、亜美の行動次第で今後に重大な影響が出る可能性があった。
今はまだ、俺が二人の気持ちに気づいているということを亜美も真美も知らないはずだが、
もしバレてしまえば、亜美は、俺を真美や美希に取られまいと、強硬手段を取る可能性だってある。
…思っていたよりも事態は深刻かもしれない。
真美「…亜美、どうしたの?やっぱ様子が変だよ?!」
P「あ、ごめんごめん。すっごい怒られたの思いだして凹んじゃってさ〜」
今日何度目か分からない嘘で、慌てて誤魔化した。
真美「そっか〜…じゃぁ真美が身体洗ってあげるよ!」
そう言うと、湯船から出るように促され、真美が丁寧に体を洗ってくれた。
女の子の体を洗うことなんて無かったから助かったとほっとしたのもつかの間。
真美「じゃぁ今度は亜美の番ね?」
P「えっ?!凹んでたから洗ってくれたんじゃないの?」
真美「えぇ〜?!そりゃないっしょー!!」
結局、洗え洗えとあまりにうるさいので、なし崩し的に身体を洗うことに。
やっぱり、中身はまだまだ子供だよな…と思いつつも、
真美の13歳とは思えぬほど色っぽい身体に、ひどく興奮してしまった。
スタイルだけで言うと真よりも上だから仕方ないはず…と自分に聞かせた。
風呂から上がり、パジャマに着替えると、そそくさと亜美のかばんから"プロデューサーの携帯"を取り出し、
真美に見られないように二段ベッドの上の布団に入る。亜美が今何をしているか気になるからだ。
案の定、亜美からメールが来ている。
亜美『ちんちんで遊んでていい?』
予想以上にストレートでお下劣なメールに力が抜ける。だが、まだ余裕がありそうという点では良かった。
P『お婿に行けなくなるから程々にしてくれ』
どうせダメだって言っても聞かないだろうから、少し恥じらいを感じさせるような内容で返信しておく。
…しかし、元に戻った時に亜美が『兄ちゃんのちんちんの形はこんなんだYO!』なんて言いふらしたりしないか心配だ。
今の亜美にはその証拠の写真も簡単に撮ることが出来るのだから…
他にも春香や千早といった担当アイドルからの当り障りのないメールが届いていたが、
一通だけ気になるメールが届いている。…美希からだ。
美希『明日からハニーは2日連続オフなんだよね?美希も明日はオフだし久しぶりに遊びに行っちゃうね☆』
嫌なタイミングで美希とオフが重なってしまったと自分のスケジューリングを後悔した。
社長と小鳥さん以外には教えていなかったにも関わらず、
美希は俺の担当アイドルの中で唯一、俺の自宅の住所を知っている。
俺の帰るところをこっそりついて来てしまいバレてしまったのだ。
それ以来オフが重なるたびに押しかけてくるので、最近はオフをずらしていたが…
普段なら適当な理由をつけて追い返せる。しかし今、俺の中身は亜美だ。
それに5日くらい発散させてなかったから、ムラムラっときて美希の誘惑に遊び半分で乗っかって…
そんな事になったら洒落にならないし、スキャンダルにでもなれば俺と美希は二人揃って終わりだ。
溜まってると女の子が中身でもムラムラしたりするんだろうか…?
もう亜美が抜いてるかもしれないが…なんてバカなことを考えながら返事を打つ。
P『悪いが明日は大事な用事があって、一日中家にいないんだ。だから今度にしてくれ』
送信が完了すると同時に携帯が振動し、亜美からの返事が届いたことを知らせる。
亜美『じゃあいじり倒してお婿にいけなくしてやる〜!!』
普通は亜美の方がお嫁に行けなくなると思うんだけどなぁ…
P『明日は元に戻る方法を探すから、朝8時に駅前で待ち合わせだ。あと美希が訪ねて来ても適当に追い返してくれ』
女の子に送るにしては事務的なメールを送信し、携帯電話を枕の下に隠すように置く。
時計を見ると12時を少し回った所だ。まだ入れ替わってから3時間しか経ってないことに驚きつつ、
あまり尿意は無かったが、寝る前なので階段を降りトイレに向かった。
風呂もかなり罪悪感があったが、トイレもかなりのものだ…そう思いつつも用を足し終えたのはいいが、
女は男と違って"振る"事ができないから、このまま下着を穿くのは良くなさそうだ。
パンツにシミを作るのも嫌なのでトイレットペーパーを畳んでおしっこを拭く。
だが、慣れていないからか上手く拭き取れずに余計な所を触ってしまう。
P「あっ…」
今まで感じたことのないような快感が身体を突き抜けた。
女性は男性と比べて数倍以上、性的な快感が強いと聞いたことがある…
でもまさか、すこし触っただけで自然に声が出てしまうほどとは。
ふと風呂での真美の大人びた身体が脳裏をよぎってしまい、スイッチが入る。
P「亜美…真美…すまん!!」
俺はしばらく一人トイレに篭り、声を殺していた。
コトを終えると、余韻に浸る間もなく罪悪感を通り越した嫌悪感に苛まれる。
妹のように可愛がっていた姉妹の姉の身体をオカズに、妹の体でしてしまったのだ。当然といえば当然だろう。
フラフラと階段を上がると、火照った身体を冷ますように布団に入る。
時計を見ると12時40分…だいたい、30分近くしていたのか。今更になって恥ずかしくなる。
寝る前にもう一度携帯を確認すると、メールが3件届いている。
亜美と美希からはそれぞれ確認の返事が帰ってきているだけだったが、3通目は真美からだった。
真美『そういえば明日も仕事だけど、オフ明けにも撮影あるよね?そっちはどこで何時からだったっけ?』
てっきり亜美と喧嘩したの?と聞かれると思ったのだが…干渉しないタイプなのだろうか?
P『やよいと一緒にバラエティ番組の撮影だな。二人とも車で送るから事務所に3時には居てくれ。次はちゃんとメモしておけよ』
予定は頭に入っていたのですぐに返事をしておく。ニ段ベッドの下の段から真美の携帯の振動音が聞こえる。
オフ明けの予定を忘れるなんて困ったやつだ…と思いつつ、亜美の目覚まし時計をセットし眠りについた。
朝、目覚まし通りの時間に起きると、朝食を済ませ駅に向かう支度をする。
メールを確認すると亜美と真美から1件ずつメールが来ていた。
真美『サンキュ→兄(c)♪次からは気をつけるYO。でも返事が遅かったし、もしかしてお楽しみでしたかな??なんてね☆』
真美の事を考えながら双海家のトイレでしてました、とは流石に言えないな…
亜美からは『朝起きたらちんちんが最終形態に…』などという内容だったので途中で読むのをやめ、駅に向かう。
身体が小さいからと早めに出発したにも関わらず、徒歩だと着いたのは時間ギリギリだった。
向こうはまだ到着していないようなのでメールを確認すると、亜美から少し遅れるという連絡。
気になって電話をかけるが繋がらない。
P「何かあったのだろうか…?」
心配なので、亜美が通りそうなルートを選んで自宅まで走って向かう。
さすがダンスで鍛えてるだけある。ずっと走ってられるなんてすごい体力だ…
なんて感心していると、あっという間に自宅のアパートの屋根が見え始めた。
途中で入れ違いになったのか?とも思ったが、一度自宅に寄ろうとアパートの階段を駆け上る。
…そこには最悪の光景が待っていた。
美希と俺…いや、俺の姿をした亜美が激しく口論していたのだ。
しかも、美希は顔をぐしゃぐしゃにしながら大粒の涙を流している。
一体何が起こっているのか、俺には瞬時に理解できてしまった。
俺は、自分の迂闊さを呪うほどに後悔した…。
二人に送ったメール、それが原因でこんな事態を引き起こすとは夢にも思わなかった。
俺は馬鹿正直に『明日は一日留守にする』とメールを送り、美希はそれを見て、俺が出かけてしまう前に会いに来たのだろう。
朝に弱い美希が、朝から俺に会うためだけに訪ねてくるはずがない…その思い込みが間違いだった。
仕事だの葬式だの、適当な嘘を付いてでも美希と今の亜美を会わせてはいけなかったのだ。
亜美もそうだ。俺は亜美に対して美希が訪ねてくる可能性を示唆した。
アイドルが男と親密にするのは厳禁だというのを、亜美も分かってくれているだろう…そんな軽い気持ちだった。
何もかも甘かった。
亜美が俺のことを異性として好きなのなら、美希は、亜美にとって非常に手強い恋のライバルになるだろう。
だが、そんなライバルを、今の亜美はたった一言で消し去ることが出来る。
…一晩もあれば、容易に考えつく事だっただろう。
美希「ミキよりも亜美が好きだなんてあり得ないの!嘘って言ってくれなきゃヤなの…!!」
どうやら亜美は、俺と亜美が付き合っているという嘘を美希についたようだ。
悲鳴と嗚咽が混じったような悲痛な訴えに心が痛む。
亜美「俺は亜美のことが好きだし、もう亜美と付き合ってるからミキミキにかまってあげる暇なんてないよ!!」
朝から自分の好きな男の家に押しかけるライバルによほど腹が立ったのか、
亜美もかなりヒートアップしている。俺の口調を真似る余裕すらないのだろう。
美希「…同じハニーの担当の真美ならまだ許せるの…でも、竜宮小町であんな子供の亜美とだなんて許せないっ!!」
亜美「…っ!!」
P「何やってるんだっ!」
亜美が怒りで美希に手を手をあげようとした瞬間、ハッとなり大声で割って入る。
亜美「にぃ…あ、亜美?!」
亜美の言葉に反応し、美希が視線をゆっくりとこちらに向ける。
目つきだけで人を殺せるのではないかという程の威圧感に、思わず目を背けてしまった。
美希「亜美っ!!よくものこのこと…っ!!」
美希がこっちに駆け寄ってきて、俺の胸ぐらをつかみ上げると、大きく手を挙げる。
俺はビンタされるのを覚悟したが、アイドルの命である顔を叩くのはマズイと思ったのか、
腹のあたりを力いっぱいコブシで殴り抜かれ、あまりの痛みに膝から崩れ落ちうずくまった。
美希は俺から手を離すと、泣き顔を見せないように下を向きながら、全力で走り去っていった。
亜美「大丈夫?兄ちゃん?!」
美希の姿が見えなくなった途端、うずくまる俺に亜美が心配そうに駆け寄ってくる。
P「寄るなっ!!」
とっさに出た一言だった。
亜美の手を払いのけ、痛みをこらえながら携帯電話を取り出すと、急いで今日オフの春香と千早、真と伊織の4人に、
『後で何でも言うことを聞く。今は理由は聞かず、美希を探しだして保護して欲しい。』という内容でメールを送った。
美希のあの性格だ。もしかしたらアイドルを辞めてしまうかもしれない。
一体どうしたものかと頭を抱え、深くため息をつく。
亜美「に、にいちゃぁん…」
大粒の涙を流しながら亜美が頭を下げている。
イタズラでは到底済まなされない、自分のした事の重みを理解したのだろう。
亜美は、美希を振ればこうなることは分かっていたはずだ。
それを分かっていて、嘘で美希を突き放した。
…美希の最も信頼する、俺の言葉として。
亜美「ごめん…なさいぃ〜っ!!」
俺の姿をした亜美が、泣きじゃくりながらしがみついて必死に謝ってくる。
だがその姿さえ、美希を振った事が俺にバレたから謝っているだけのように見えてしまい、
大切な妹のような存在であったはずの亜美を、全く信用できない自分に嫌悪感すらした。
亜美だって、俺と入れ替わることで精神的な負担は大きかっただろう。
もし元に戻らなければ、今までの環境が全部変わるどころか、生きていけるかすら分からないのだ。
今の境遇が全部悪いんだ…そう思い込もうとした。
だが、この場所に居ると亜美にどす黒くうずめく感情をぶつけてしまいそうだった。
P「…元に戻る方法は俺が考えておく」
そう言い残すと、力なく足に絡みついた亜美の手を振りほどき、家まで全力で逃げ帰った。
玄関のドアを勢い良く開け、靴を捨てるように脱ぎ散らす。
仕事に行く準備をしていた真美が驚いた顔をして駆け寄ってきた。
真美「ど、どうしたの亜美?!目、真っ赤じゃん!汗も凄いし…」
どうやら走るのに必死で、自分が泣いている事にも気づかなかったようだ。
俺は、美希や亜美、事務所のみんなと良い関係を築けてきた…
言葉にすると少し照れくさいが、絆のようなもので結ばれてる…そう信じていた。
ずっとこのまま…とは行かないが、この関係がいつまでも続けばいい。そう思った。
なのに、亜美と入れ替わったというだけで、俺の手の届かないところでその関係が崩れていく。
それがあまりに悔しくて、腹立たしくて…何より、悲しかった。
今まで押し殺していた感情が、決壊するように一気に溢れだす。
気付けば、真美の胸の中で子供のように泣いていた。
長い時間泣き続けていただろう。
真美はその間ずっと何も言わずに抱きとめてくれていた。
真美「そろそろ落ち着いた?シャワー浴びたほうがイイよ?」
そう言って真美が着替えの準備をしてくれる。
P「ごめん真美。ありがとう…」
真美「泣きたい時はお互い様だよ亜美くん!じゃぁ真美は仕事あるから」
真美はいつも通りニッと笑いながらそう言うと、俺の涙と鼻水で濡れた服を着替え、慌てて出ていった。
シャワーを浴びながら色々考える。
美希の事、亜美のこと、そしてこれからの皆のこと。
きっともう…元の関係には戻れない。
P「最初は、漫画のようにハッピーエンドで終わるなんて思ったのになぁ…」
そう漏らす言葉は、捨て切れない俺の切望そのものだったのかもしれない。
体を拭き、真美が用意してくれた服に着替える。
てっきり普段着だと思っていたのだがパジャマだった。気持ちを察してくれたのだろうか…?
俺は布団に入り目を閉じた。目の前の現実から逃げるように…
目を覚ますと、部屋は夕日に照らされオレンジ色に染まっていた。
時計を見ると午後5時を回っていて、仕事から戻った真美が椅子に座って、バラエティ番組の台本を読んでいる。
そういえば美希は…と、慌てて携帯電話でメールを確認する。
メールが81件、不在着信が32件という、初めて見るストーカーじみた件数に鳥肌が立った。
…やはりそのほとんどが亜美からのものだった。
まずその中から、春香たちのメールを確認する。
…どうやら美希は無事、春香たちが保護してくれたようだ。
春香『美希、すごく落ち込んでいます。プロデューサーさんにも会いたくないそうです』
千早『今は理由を聞きません。ですが、いずれ何があったか話してもらいますから』
伊織『何をしたかは知らないけど、多分あの調子じゃしばらく仕事は無理でしょうね』
真『今夜はみんなで千早の家に泊まります。美希を傷つけたのがプロデューサーなら、許しませんよ』
みんなそれぞれ、思い思いのメールが届いていた。
美希からすると、突然愛する人に突き放されるようにフラれ、
しかもその理由が、美希がライバル視していて、かつ俺の担当アイドルでもない竜宮小町の亜美と付き合ってるからだという。
恋愛を糧に厳しいアイドル活動をも乗り越えてきた美希にとっては、想像を絶するほどの辛さだったろう。
美希を"わざと傷つけるように振った理由"は、一言で言うと亜美の嘘が原因だ。
だが、亜美と中身が入れ替わったなどと…どう説明すればいいのだろうか。
そんな事を言っても、ふざけて亜美に責任転嫁しようとしてるようにしか聞こえないはずだ。
それに、俺は今まで美希に対して、なあなあな態度を取ってきた。答えをはぐらかして曖昧な関係を続けてきた。
そのツケが回ってきたのだろうか…元に戻ったら、ケジメをつけなければならない。
とにかく、4人にそれぞれお礼のメールを返す。
保護してくれなかったら今頃どうなっていたか、想像するだけでも恐ろしい。
亜美からのメールは、今は見る気にすらならなかったので放置しておく。
だが、件数から察するに、かなり精神的に参っているだろう。
亜美は、入れ替わった事を利用し、嘘を付いてまでライバルを陥れている所を俺に見られた。
その結果、俺に自分の気持ちがバレてしまった上、失望され、連絡すら取ってもらえず、
仲間であった美希とはもう二度と仲良くできない…そう思っているはずだ。
ある意味、美希より哀れだ。
亜美が卑劣な嘘をついたことはそうそう許されることではないが、俺は亜美に同情していた。
入れ替わった人間同士だから…というのもあるだろう。一概に亜美が悪いとはいえない。
そう思った。いや、そう思いたかったのだ…
気持ちの整理をしていると、不意にノドが渇いている事に気づく。
そういえばあれだけ泣いたのに、あの後何も飲んでいなかった。
俺はのっそりと起き上がると、二段ベッドのハシゴを下りながら真美にお礼を言う。
P「おはよう真美。さっきはありがとう…気持ちがだいぶ晴れたよ」
真美「良いってことよ〜!でも、もし気が向いたら何があったか話してくれると嬉しいかも」
真美は携帯を触りながらそう言うと、やさしく俺に微笑みかけてくる。
事務所では騒がしいだけなのに、ちゃんとお姉さんやってるんだなぁ〜なんて感心した。
心配はかけたくないので適当な理由を話す。
P「いや…兄ちゃんとすっごい大げんかしちゃってさ…」
何故か沈黙が流れる。
真美のことだから、また慰めてくれるのだろうと予想していたが…
思っていたものと反応が違ったので、なにかおかしい事を言ったのか心配になった。
真美「いやそれは違うっしょ」
そういうと真美は携帯を手に持ったまま俺に近づき、俺をベッドに押し倒した。
真美「喧嘩したのは亜美とっしょ?」
考える間もくれずに、真美は俺にキスをした。
あまりに唐突な出来事に動けずに居ると、真美は俺とのキスを携帯のカメラで撮影する。
冷静さを失った俺は、亜美と真美はまさか姉妹でレズのカップルだったのか?などと取り乱したが、
そのキスが意味するものは、たった一つ…
真美「ファーストキスが亜美とだなんてね。でも中身は違うんでしょ…?」
真美「…兄ちゃん」
続きは後ほど投稿します。
そういうと真美は俺の両腕を押さえつけ、もう一度唇を合わせてくる。
俺はパニックになり、真美の手を振り払おうという考えすら出て来なかった。
キスの仕方を知らないからか、息継ぎをするように唇を離す。
真美「…抵抗しないんだね」
しないというよりは、突然すぎて抵抗のしようがなかった。
とにかく、落ち着きを取り戻そうと必死に頭の中を整理する。
P「な、なんでキスなんてすんの?!っていうか兄ちゃんって何?」
カマをかけているだけの可能性を考え、まずはシラを切ってみる。だが、望みは薄い。
真美は俺の両腕をがっしりと掴んだまま、押し倒すような体勢で話を続けた。
真美「…亜美は兄ちゃんの前以外で、絶対に兄ちゃんのことをバカにしたりしない」
一瞬耳を疑ったが、考えずともなんとなく理解できた。
俺は普段の亜美を上手く演じられていたはずだった。
担当アイドルじゃない分、真美や美希ほどではないが、理解していたつもりでいた。
だが実際はそうではなかった。
亜美が俺にイタズラやドッキリをしてからかうのは、俺の気を引くため…。真美はそう言った。
俺の担当アイドルでないからこそ、真美と美希に負けじと必死にアピールしていたのだろう。
だが、俺の前でなければ、やんちゃないたずらっ子を演じる必要はない…
俺が演じていたのは、『俺から見た亜美』であって、『皆から見た亜美』ではなかった。
もしかすると、他の皆には『やんちゃないたずらっ子』というイメージですらなく、
同じ事務所の年上プロデューサーに恋する、ただの明るくおませな女の子…そんなイメージなのかもしれない。
当然、普段一緒に住んでいる真美がその事に気づかないはずもない。
真美と一言交わした時点で、既に怪しまれていたのだ。
亜美は自分を偽ってでも俺との恋愛を成就させようと必死だった。
俺はそれに全く気付きもせず、卑劣な嘘を付いたと亜美に幻滅していた。
だが、亜美からすると、美希に嘘をついたのは当然のことだったのかもしれない。
亜美は、自分にすら嘘を付いていたのだから…
真美「それから、昨日寝る前に、兄ちゃんって亜美の体で一人エッチしてたっしょ?」
声が漏れていたのだろうか?それとも双子の感覚でわかるのか。
バレたのが恥ずかしいと言う感覚よりも、その次の一言が怖くて仕方がない。
真美「悪いけど、兄ちゃんが楽しんでる間にケータイ見せてもらったんだ。ロックかかってたけど」
真美「でさ、なんで亜美が兄ちゃんの携帯持ってるの?」
やはり性欲は身を滅ぼすのか。俺が女体の神秘を目の当たりにしていた約30分間、
真美は俺がカバンに隠していた手荷物や、携帯電話を探り放題だったということか。
携帯は見られるかもと予想はしていたが、いくらなんでも迂闊すぎて笑えもしない
P「いや、それは兄ちゃんのがカバンに入り込んでいて…」
核心に迫る一言に焦ってしまい、自分でも無理があると思う言い逃れを展開する。
しかし真美はもう、亜美と俺の中身が入れ替わったと確信している。
ここで言い逃れられたとしてもほとんど意味は無いだろう。
真美「でも、兄ちゃんにメール送ったらちゃんと返事が帰ってきたんだけど」
P「それは…その、亜美が打ったメールだよ!亜美はロック番号知ってるから…」
真美「亜美が知らない仕事の、予定の話なのに?」
トドメの一言に俺は何も言い返せなかった。
真美は俺と亜美が入れ替わってることを確認するためだけに、あのメールを送ってきたのだろう。
天真爛漫な真美からは想像の付かないほどの頭の切れっぷりに驚くばかりだった。
長い沈黙の後、ゆっくりと深呼吸してから口を開いた。
P「…どうして入れ替わってるって気づいたんだ?」
俺にはなぜバレたのかが疑問だった。
送られてくるはずがないメールが届いたくらいで、
普通は人と人の中身が入れ替わっているなんて思いもしないはずだ。
真美「それは…真美が兄ちゃんのことが大好きだからかな」
P「こ…答えになっていないぞ?」
突然真剣な顔でストレートに告白されたら、さすがに照れてしまって目を見れなかった。
真美は顔を真っ赤にしながら、それでも目をそらさず話を続ける。
真美「昨日の夜から、なんとなく亜美に兄ちゃんの雰囲気を感じてた」
P「双子だもんな。生まれた瞬間から一緒に生きてきたのだから、当然か」
やはり、俺の演じた亜美は普段通りの亜美ではなく、俺の気を引こうと必死に演技する亜美だったのだろう。
他の担当アイドルならともかく、双子の姉はさすがに騙されてくれなかった。
真美「それもあるけど、ずっと兄ちゃんのこと見てたから…分かるよ」
そういうと、真美は覆いかぶさるように抱きついてくる。
同じ腕力だからか、腕をがっしり掴まれていて逃げられない。
真美「でも、こんな形で兄ちゃんに告っちゃうことになるなんて思わなかったよ〜」
P「おいおい、大人になるまで抜け駆けしないんじゃなかったのか?」
少し煽り気味に、真美に問いかける。
真美「亜美と入れ替わったって事は、兄ちゃんと亜美は『特別な関係』って事でしょ?」
入れ替わった関係なんて、その人にとってどころか世界的にも特別な関係だろう。
確かにこうなった以上、亜美とは切っても切れない縁になるはずだ。
真美「もう抜け駆けとか言ってられないよ。このままじゃ絶対亜美に兄ちゃんを取られちゃう」
真美「それに…もう亜美は、兄ちゃんは真美のモノって思ってるよ」
P「なっ…」
考える前に声が出ていた。まさか、俺が寝ている間にメールでそう嘘でも付いたのだろうか?
事態を飲み込めず、どんどん想像が悪い方へと向かっていく。
真美「さっきの兄ちゃんとチューしてる写メ、亜美に送っちゃったもん」
俺は唖然とした。記念撮影だろうか?程度に思っていたキスの写真。
あれは亜美を騙すために撮ったモノだったというのだ。
13歳だし、まだまだ『女の子』だと思っていたが、亜美も真美ももう立派な『女』だった。
真美「ねぇ兄ちゃん…もう一回…」
真美に3度目のキスをされながらも、俺は亜美が気がかりで仕方がなかった。
亜美は、大切な仲間に嘘を付いてまで、俺との恋愛を成就させようとした。
その結果、俺と美希の仲を引き裂くことには成功したが、
俺と美希、二人からの信頼を失った。
そこに、俺と真美がキスをしている写真が届く。…亜美はこう考えるだろう。
――自分を偽ってでも得ようとした俺からの愛は、実は既に真美のモノで、
そうとは知らず、大切な仲間を裏切ってまで真美の恋を手助けしてしまった。
その先は想像をするのですら恐ろしくなり、寒気がした。
亜美の負の感情が、真美でもなく自分自身でもなく、ただ俺に向いていて欲しい…そう願った。
亜美も美希も俺も、亜美がついた嘘で大切な絆を失った。
だが、真美だけは何も失わず、俺からの愛を独り占めしている…
亜美がそんな風に考えることが恐ろしくて仕方がなかった。
俺は力いっぱい真美を払いのけると、急いで亜美の枕の下から携帯電話を取り出す。
真美が何か言っているのを無視し、亜美からの新着メールを確認した。
『ゴメンね兄(c)。亜美、ピエロだったんだね』
そのたった一行のメールに凄まじい恐怖を感じ、冷や汗がドッと噴き出す。
だが、このまま放っておく訳にはいかなかった。
俺は亜美に電話をかけたが、一向に出る気配は無い。
今の亜美と話すのは怖かった。正直電話越しですら話したくなんてなかった。
…だが、電話には出て欲しかった。頼むから声を聞かせてくれ…そう神にすら祈った。
――亜美が自分の手で命を絶っているのではないか。
そんな最悪の事態だけは避けられたと信じられるから…
結局、何度電話をかけても亜美は電話に出ることはなかった。
最悪の可能性を拭い去る事ができないまま、俺は急いで服を着替える。
…もう直接会って話すしか無いだろう。
真美「…亜美の所になんて行かないで!!お願い!!」
真美は俺を引きとめようと、すがり付くように後ろからきつく抱きついてくる。
今、亜美がどうなっているのか知らないからだろう。
だが、いちいち説明してる余裕など無かった。
P「離してくれ。今は恋人ゴッコに付き合っている暇はないんだ」
焦りからか、わざと突き放すような言葉を選んだ。
真美「イヤだよっ!ゴッコなんかじゃないもん!真美は本気なんだよ?!」
涙声でそう訴えてくる。
P「今から亜美のところへ行くのは、亜美のためだけじゃない。俺や美希…そして真美のためでもあるんだ」
こんな事になってしまったが、それでも誰も大切な仲間を失うなんて事は望んでいないだろう。
特に真美は、ずっと一緒に暮らしてきた姉妹なんだから…
P「亜美と決着をつけてくる。真美はここに居てくれ…」
力の抜けた真美の手を振りほどき、亜美の元へと全力で走り抜けた。
P「亜美っ!!」
勢い良く自宅のドアを開ける。部屋の鍵が閉まっていなくて助かった。
靴を乱暴に脱ぎ捨てて部屋に駆け込む。
夕方の6時を回っているにもかかわらず電気は点いていなかった。
沈む夕日が徐々に部屋を暗く染めていく。
微かに差し込んだオレンジ色の光が、散らかった部屋の隅で体育座りをしている亜美の姿を照らした。
亜美「…兄…ちゃん?」
力なく答える亜美。どうやらずっと泣いていたようで目が真っ赤だ。
俺はただ、亜美が生きていてくれた事にホッとし、胸をなでおろした。
だが、亜美の様子を見て、すぐにその安堵は緊張へと変わった。
亜美「何でいまさら来たの…?」
亜美の目はまるで死んでいるかのように焦点も合わず、物を見ている目ではなかった。
美希への嘘が俺にバレた事、それに真美からのキス写真。
自分を押し殺してまで俺に恋焦がれていた亜美には、相当なショックだっただろう。
亜美「真美と付き合ってるんでしょ…?」
亜美の言葉ひとつひとつが、俺の背中にのしかかってきているような感覚に陥る。
なにか喋らないといけないのは分かっているが、なかなか言葉に出せない。
亜美「亜美とミキミキはピエロだったんだよね…?」
P「それは違うっ!あの写真は、真美が強引に俺にキスしただけだっ!」
とっさに否定するが、亜美はこちらに目を合わせようともしない。
明らかに精神的に追い詰められて、何も信じられないのだろう。
亜美「真美にそう言えって言われたの…?」
P「そうじゃない、そもそも俺は誰とも付き合ってないんだ。信じてくれ」
沈黙が続く。
今の亜美には、何を話しかけていいのか分からなかった。
負の感情が身体から漏れだし、空気を殺しているかのようだった。
亜美「じゃぁ…」
亜美「兄ちゃんは誰が好きなの…?」
もちろん、好きというのは恋での話だ。
今の亜美の心理状態で、それを答えて良いのか迷ったが、本音でぶつかろうと腹をくくる。
P「今は好きな人は居ない。それに事務所の所属アイドルを恋愛対象とは見ていない」
そうハッキリと言い切った。亜美は何も言わずに視線をゆっくりとこちらに向ける。
その陰気な視線に思わず目を背けたくなったがグッと堪えた。
亜美「じゃあ、亜美と真美とミキミキ…」
亜美「3人の中で一番好きなのは誰…?」
本音でぶつかるという決意が早くも揺らぐようなストレートな質問に、俺は足がフラついた。
答えはもう俺の心の中にある。だが今の亜美にとって、この答えはあまりに残酷すぎる。
しかし亜美はそれを分かっていて3人の名前を出したはずだ。
俺のことを慕ってくれている3人の名前を…
亜美も、俺と決着をつけることを望んでいる…
俺は、亜美の気持ちに答えなければならない。
P「俺は…真美が好きだ…」
亜美「そっか…」
長い沈黙の後、亜美は弱った笑顔でそう呟いた。
これで亜美との決着は付いただろう…
心臓を握りつぶすような緊張感から解放され、深く息を吐く。
あとは、亜美と入れ替わっているのをどうにか元に戻して、美希と話をしないと…
亜美「亜美ね…兄ちゃんのこと大好きなんだ」
苦しそうな笑顔で亜美が語り始める。
亜美「どうしたら兄ちゃんが亜美のものになるか…ずっと考えてたんだよ」
亜美「亜美は兄ちゃんが担当じゃないから…頑張ってアピールしてたんだけどさ…。やっぱり真美には敵わなかったんだね」
その悲痛な本音に、心が痛まないはずがなかった。
だが、こうなることを分かっていて、俺は3人の中で真美を選んだ。
それが亜美の望んだ結果だったから…
亜美「でも…亜美はまだ兄ちゃんのこと諦めきれないんだよ」
亜美「それでね…」
「兄ちゃんが亜美のモノになる方法、思いついちゃったんだ」
続きはまた後ほど投稿します。
気付けば俺は亜美に足を掴まれ、床に引き倒されていた。
無造作に積み上げていた本の束に頭をぶつけ、一瞬よろめいたところを、
ものすごい力で亜美に両腕を押さえつけられる。
腕を振り払おうとするが、大人の男と女子中学生…あまりの腕力の差に、
体が抵抗するのを忘れているんじゃないかというほど、ぴくりとも動かなかった。
P「やめっ…」
そう声を上げようとしたその時、亜美は俺に噛み付くようにキスをする。
そのキスで俺は亜美の意図を理解し、平静さを失った。この時の俺の顔は相当青ざめていたことだろう。
亜美は大人のキスがしたいのか、舌を入れてこようとする。
俺は口を固く閉じて拒絶することしかできなかった。
亜美「まぁいいや…これで真美とおあいこだよね」
亜美がこれからやろうとしていることは、俺達の関係を間違いなくズタズタに引き裂くものだ。
俺の体で、亜美の体を犯そうというのだ。
強引にでも身体を重ねてしまうことで、亜美達の言う「既成事実」にしてしまうつもりだろう。
そうなれば、俺はこれから先、形はどうあれ亜美のことを意識せざるを得ないだろうし、
亜美は好きな人とセックスでき、その上、他のライバルと差をつけることが出来る。
しかも傷つくのは自分の体だから大丈夫。それくらいの認識なのだろう。
しかしそれは、まともな考えではなかった。
自分を無理矢理犯した相手なんて、普通なら顔を合わせるだけで吐き気がする程だろう。
だが、その考えがそうであるように、
今の亜美も、精神的に極限まで追い詰められ、まともではなかった。
亜美「やっとひとつになれるね…兄ちゃん…」
そう言うと、片手で俺の穿いていたズボンを下着ごと強引に引き剥がすように脱がし、
今度は自分のモノを慣れない手つきで取り出した。
P「亜美…お願いだ。それだけはやめてくれ…」
俺は涙を流しながら亜美に懇願した。
もし俺が亜美に犯されれば、より大きく傷跡が残るのは俺じゃなく、亜美の方だ。
今はまともな精神状態じゃないが、我に返った時、自分のした事を一生悔み続けるだろう。
そう思うと、俺もまともではいられなかった。
亜美「亜美の初めてを、亜美がもらっちゃうね?」
亜美が勢い良く腰を突き上げると同時に、裂けるような感覚と猛烈な痛みが下腹部を襲う。
俺は突き刺すような痛みに、思わず声を上げそうになるが歯を食いしばって耐え続けた。
今、声を上げて警察に通報されたりすれば、俺は逮捕され、亜美はアイドル生命を絶たれる。
それだけでなく、13歳の所属アイドルをレイプしたプロデューサーが居た事務所となれば、
765プロのような小さな事務所は間違いなく潰れるだろう。
俺はただ声を殺し、亜美に犯され続けることしかできなかった。
その悲しみと悔しさで、もはや気が狂う寸前だった。
人の心を保つのに精一杯で、抵抗することすらできなかった…
亜美「兄ちゃん…大好きだよ…っ!」
息を荒げながらそう言うと、亜美のモノが俺の中で脈打ちながら精を放つ。
そのまま亜美は舐めるようにキスをしてくる。
意識が朦朧とする中、悪夢のような時間が過ぎ去った事にホッとしていた。
生理はまだ始まっていないと真美が言っていたから、妊娠はしないだろう…それだけが救いだった。
「兄ちゃん!!!」
その時、部屋のドアが壊れるんじゃないかという勢いで開き、真美が絶叫しながら飛び込んできた。
目は血走っていて息は荒く、手には金属のパイプのようなものが握り締められている。
真美「何してんの?!いくら亜美でも許せないよ!!」
怒号を上げながら亜美を睨みつけると、手に持った金属棒で部屋に転がっていたイスを殴り飛ばした。
きっと、怒りを亜美に直接ぶつけまいと必死なのだろう。
亜美は吹き飛ぶイスを目で追うこともなく、真美を睨み続ける。
亜美「もう遅いよ真美…もう兄ちゃんは亜美のモノだもん」
真美は、その異常さに気づいたのか一瞬、恐怖におののくような表情を見せて一歩後ろに下がる。
そして両手で金属棒を強く握り締め、亜美へとその切っ先を向けた。
真美「何でこんな事したのさぁ〜っ!!」
なりふり構ってられないのだろう。顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で泣きながら叫んだ。
おそらくこの涙は、亜美のために流したものだろう。
亜美「エヘヘ……兄ちゃんは亜美よりも真美のほうが好きなんだって。よかったね真美」
亜美「でも、兄ちゃんと先にエッチしたのは亜美だよ?…やっぱ悔しい?」
「亜美ぃっ!!」
亜美の挑発に乗った形で、真美が金属棒を振りかざす。
止めなければ…と思ったが、身体は少しも動いてくれさえしなかった。
真美が金属棒を亜美の頭に向かって力いっぱいスイングすると、
鈍い音と共に、亜美はつながったままの俺へとかぶさるように倒れこんだ。
後頭部から流れ出た血は、俺の肌をゆっくりと赤く染め上げる。
真美が大声で泣き叫ぶ中、俺の意識はゆっくりと薄れていった。
目が覚めると、俺は病院の天井を見上げていた。
後頭部がズキズキと痛み、もしやと思い手を目の前にかざしてみる。
点滴の針が刺さってはいたが、亜美の手ではなく、ちゃんと俺の手があった。
どうやら俺は、元の体に戻ったみたいだ。
ゆっくりと起き上がって周りを見渡すと、部屋には他にベッドが無い。
アイドルがお見舞いに来てくれることを考慮したのか、どうやら個室のようだ。
とにかく、目を覚ました事を伝えようと、ドアの外を通りかかった看護師を呼び止める。
看護師の話によると、俺は頭を怪我して気絶したまま運び込まれ、一週間も目を覚まさなかったらしい。
そして毎日、テレビでよく見るアイドルの子達がお見舞いに来てくれていたそうだ。
しばらくすると、ドアをノックして、40歳くらいの男性医師が頭を下げながら入ってくる。
俺はこの人のことを知っていた。
P「亜美……さんと、真美さんの…お父さんですか…?」
亜美と真美の父親は医者であり、真美が担当アイドルになって以降、
預かる側として何度か面談したことがあり面識があった。
先生「お久しぶりですプロデューサーさん」
P「まさか…双海先生が私の担当だったなんて。すごい偶然ですね」
先生「…残念ですが偶然ではありません」
先生は神妙な顔つきで、俺に二枚の白い紙を手渡す。
一枚は頭の怪我の診断書。そしてもう一枚は……被害届だった。
俺が驚いた顔をすると先生はいきなり両手を床につき、土下座する。
先生「この度は私の娘たちが、大変申し訳ありませんでした…!」
俺は先生に頭を下げないでくださいと頼んだが、先生はそのまま話を続けた。
あの日、真美から先生に直接『兄ちゃんを殴り倒してしまった』と電話があり、
その結果、この病院に運び込まれ、先生の処置を受けたらしい。
どうやら俺の頭の怪我は、あと少し深ければ死んでいたみたいだ。
傷を見れば、鈍器のようなもので殴った跡だと分かるらしく、
真美のやったことは明らかに殺人未遂だ、本来なら警察に通報するべきだったと、先生はむせび泣いた。
しかし、相手が俺だった事で希望を捨てきれず、我が子可愛さに通報出来なかったという。
…俺が真美のことを見逃してくれるんじゃないか、という希望を。
先生「その二枚は…あなたの一存にお任せします…」
先生はそう言ったが、俺には被害届を出すなんて選択肢は初めから無かった。
もし俺が被害届を出せば、真美は逮捕され765プロの信用はガタ落ち。潰れてもおかしくない。
先生も真美を庇った責任を追求されることになるだろう。
だが、そんな事些細なことは俺にとってどうでも良かった。
俺はその紙を破り捨ててこう言った。
P「俺には二人が居ない生活は想像できないんです。あの二人は大切な…妹のような存在ですから…」
俺は亜美と真美に会うこと…いや、亜美と真美そのものが怖かった。
だが、それでも俺にとって、二人は大切な存在だ。
それはきっと変わらない。変わって欲しくなかった…
先生は礼を言おうとしていたが、涙で声にすらなってなかった。
その時、ドアが開いて亜美と真美が泣きじゃくりながら現れた。
俺は視界に二人の姿が入った瞬間、あの日の記憶が鮮明に思い起こされた。
痛みの中、自分の血で俺の体が赤く染まっていく光景が…
猛烈な頭痛と目眩に見舞われ、気絶しそうになったがなんとかこらえる。
倒れそうになった俺に二人は慌てて駆け寄ろうとしたが、先生が慌てて引き止めた。
先生はなぜ入って来たのかと厳しく注意しながら二人を部屋から追いだそうとしたが、
俺はとっさに二人を部屋に残るよう引き止めた。
ここで二人から逃げれば、この先、もう二人と向きあって生きていけない…そんな気がしたから…
P「一つだけ、聞いて欲しい話があります」
俺は、亜美と体が入れ替わってからの一部始終を3人に話した。
あの日何があったのか3人にはきちんと知っていて欲しかったからだ。
もっとも、父親の前ということで、ぼかして話す部分もあったが…
その間、亜美と真美は一言も喋らず、涙を浮かべながら真剣に聞いていた。
先生は驚きながらも俺の話を信じてくれたのだが、あまりにショッキングな内容に頭を抱えていた。
その後、俺達は今後について話し合った。
亜美と真美、そして俺の心のケアの話や、治療費や慰謝料。
今後のアイドル活動などについて…
話が終わると、先生は仕事に戻っていき、俺と亜美、真美の3人だけが病室に残る。
その重苦しい雰囲気に、俺もなかなか口を開くことは出来なかった。
「兄ちゃん…」
長い沈黙の後、亜美が俺のことを心配そうに呼ぶ。
亜美は右の頬に大きな絆創膏を貼っている。恐らく真美に殴られたのだろう。
あの亜美が俺の近くに立っている…その恐怖で心臓が破裂しそうだったが、
俺はちゃんと、二人と向き合って話をしなければ…
亜美・真美「兄ちゃん、ごめんなさい!!」
二人同時に頭を下げる。今日何度目かわからない謝罪。
さすが双子、タイミングが全く一緒だ…なんて、変に感心した。
P「いいんだ。ただ、運が悪かっただけだよ」
人と人の中身が入れ替わるなんて特殊な状況で、亜美は一人、様々な恐怖と戦ってきたはずだ。
それは13歳の女の子にとって、強すぎる重圧だったのだろう。
に極限まで精神的に追い詰められ、普通で居られる方が普通でない。
だから、自分の心を保てなかったのも仕方がない…
――頭に鋭い痛みが走る。
つい、あの時の事を思い出してしまい、俺は怪我の痛みとは違う鈍痛に耐えかね
頭を抑えながら前のめりに倒れこんだ。
亜美「兄ちゃん?!」
亜美が心配そうにこっちに駆け寄ってきて、俺へ手を伸ばした瞬間、
「うわあああぁっ?!!」
俺は反射的に、大声を上げながら亜美の手を振り払っていた。
心では亜美は悪くない…そう思っていたが、体が勝手に拒絶してしまった。
いや、体が拒絶したんじゃなく、心のどこかで亜美を拒絶していたのかもしれない。
亜美「ご、ごめん…なさい…」
亜美は下を向いてゆっくりと後ろに下がりながら、泣きそうな顔でつぶやくように謝る。
きっと俺に会う事は亜美達にとっても怖かったはずなのに、
善意すら突きはねるように拒絶して、また亜美を傷つけてしまった。
自分の不甲斐なさに腹が立ち、亜美の手を振り払った右腕を、ベッドの手すりに叩きつけた。
P「すまない亜美!!俺はっ…」
とっさに謝ったのはいいが、その次の言葉が出てこない。
そのもどかしさに、涙すら出てきた。
少しの静寂の後、真美は言った。
真美「そっちは亜美じゃないよ?」
耳を疑った。
P「ど、どういう事だ…?」
真美「だから、そっちは亜美じゃないよ」
真美「真美だよ」
意味がわからなかった。
頭痛で頭がおかしくなったのかと疑った。
真美が、俺の眼の前に立っている亜美のことを、それは真美だというのだ。
じゃあ、そこに立っている真美は誰なんだ?
真美が、そこの亜美が真美だというのなら、逆にそこの真美は亜美なのか…?
…そのまさかだった。
真美「そして、真美が亜美だよ」
真美「兄ちゃんと亜美みたいに、入れ替わっちゃったんだ」
…信じられなかった。
あの日、『俺の体の亜美』は殴り倒されて気を失った。『亜美の体の俺』も痛みと絶望感から気を失った。
入れ替わっていた二人が気を失って、それで元に戻った…そう思っていた。
だが、そうではなかったというのだ。
真美…いや、亜美が言うには、二人が気絶した後に真美も気を失い、
そして目を覚ますと、二人の中身が入れ替わって居ることに気がついたそうだ。
俺はあまりの出来事に声を失った。
まだこの悪夢が続くのかと思うと目の前が真っ暗になり、そこで意識は途切れた。
続きはまたまた後ほど投稿します。
修正点
>>45
顔をぐしゃぐしゃにしながら大声で泣きながら叫んだ。→ぐしゃぐしゃな顔で大声で泣きながら叫んだ。
>>49
二人と向き合って話をしなければ…→二人と向き合って話をしなければならなかった。
に極限まで精神的に追い詰められ、→限まで精神的に追い詰められ、
続きですが一気に最後まで投稿しようと思うので、
しばらく時間がかかってしまうと思います。気長にお待ち下さい。
真美は入れ替わりで竜宮小町の所属になり、律子が担当となったことで、
俺と仕事をする機会は入れ替わる前と比べて極端に減っていった。
今まで毎日顔をあわせてきたのに急に会えなくなったからか、
まるで恋人同士かのように、頻繁に電話やメールをやり取りするようになり、
美希や他のアイドル達のメールも相まって、返事をするのがやっとな程だ。
次第に竜宮小町での活動が忙しくなり、ほとんど顔を合わすこともなくなったが、
それでも真美とは、以前のように仲の良い兄妹みたいな関係が続いていた。
だが、問題は亜美だ。
亜美は俺がプロデュースしているユニットの所属になったことで、
仕事やレッスンで毎日のように顔を合わすようになったのだが、
以前と比べてかなり大人しく消極的…というより、元気が無いように見えた。
最初はあんな事があったのだから、ある程度は仕方ない程度に思っていたが、
俺以外に対しては、そんな素振りも見せず普段通りだったし、
メールの返事も素っ気なく、事務的なものが帰って来るだけになった。
次第に亜美は、俺との距離を置くようになっていく。
俺はてっきり、自分の思いが二人に伝わったものだと思っていたが、
亜美はまだ、割り切れないところがあるのかもしれない。
「俺に嫌われるのが怖かったって、言ってたくれたじゃないか…」
身勝手な理由で俺の心を深く傷つけた事をまだ気にしているのだろうか。
病院の時のように、俺に拒絶されるのが怖いのだろうか。
それとも、単に俺のことが嫌いになってしまったのだろうか?
理由をいくら聞いても、一向に何も話してくれず、
俺はその焦りから、しつこく食い下がるように亜美と話そうとし続けたが、
亜美はただ、つらそうな顔で俺に背を向けるだけだった。
そして半年が過ぎた。
二人の活動は順調に進み、仕事が増えるにつれて人気も上がっていった。
それぞれのユニットとしての人気だけでなく、双子アイドルとしても勢いに乗り、
芸能界の双子の星として、765プロを支える程になっていた。
だがその人気も、亜美は『双海真美』として、真美は『双海亜美』としてのものであり、
半年たった今でも二人の中身は入れ替わったまま、元に戻れないでいる。
その事を知っている俺は違和感を感じることも多かったが、
幸いな事に、他の誰にも入れ替わっていることは気付かれてはいなかった。
だが…俺は亜美と、まともにコミュニケーションを取れなくなっていた。
半年たった今も、俺はなんとか亜美と話そうと必死だったが、
もはや意地でも俺と関わらない…そんな様子だった。
亜美の心の内は、真美に協力してもらって聴きだしてもらい、
メールを介して届く情報を頼りにプロデュース活動をする…そんな日々が続いた。
半年以上に渡って、プロデューサーと担当アイドルが話もしない…
そんな異常な事態に、次第に事務所には不穏な空気が漂い始める。
亜美が俺の事を無視し続けるというのは、
傍から見れば亜美。いや、真美の態度が悪いだけに見えただろう。
個人的な関係でだけならまだマシだったのだが、亜美は仕事でも俺を避け続け、
特に律子や伊織は、亜美と顔を合わす度に口論になっていた程だ。
事務所内の空気は日を増すごとに暗く、重苦しいものになっていく。
理由もちゃんとわからないまま、ただひたすら拒絶され続ける…
俺の心は日に日に蝕まれ、日々のプロデュース活動が苦痛でしかなくなっていき、
みんなの前で普段通りに振る舞うことで精一杯だった。
だがそんな状況の中でも、俺はなんとなく、亜美との繋がりのようなものを感じていた。
心のどこかで、俺と亜美の絆はまだ生きている…そう思わせる何かがあった。
単にそう信じていたかっただけの幻想かもしれなかったが、
俺はその感覚だけを糧に、プロデューサー業を続けていた。
だが、これ以上は自分のためにも、亜美のためにもならない…そう思った。
営業先からの帰りに、真美からメールが届く。
亜美が事務所に戻ってきたら、二人で一緒に帰るんだ〜♪だなんて他愛の無いメール。
どうやら事務所で二人、待ち合わせをして帰るみたいだ。
今から急げば二人に会って話せるかもしれない…そう思い、車を飛ばす。
その胸に、大きな決意を抱いて―――
事務所前に到着すると、タイミングが一緒だったのか、
真美がニヤニヤしながら走ってきて車の窓をノックしてくる。
真美「よっ!兄ちゃん久しぶり!最後に会ったのって一週間くらい前だっけ?」
P「舞台挨拶が最後だったから8日前だったかな?」
なんて、適当な話をしながら事務所へ向かう。
楽しそうに話してはいたが、その顔はどことなく険しくみえた。
「…ただいま戻りました〜」
あの日と同じような夕焼けのオレンジが、事務所にブラインド越しで差し込んでいる。
薄暗い部屋の中電気も付けず、亜美が一人、ニコニコしながら携帯電話をいじっていた。
亜美「えっ…なんで兄ちゃんと一緒なの…?」
真美「ご、ごめん。事務所の前でタイミングぴったんこだったんだよ」
亜美は俺達に気づくと携帯電話を隠すように慌ててカバンにしまい、
真美の手を握ると、俺と目を合わせないようにそそくさと、逃げるように事務所から出ようとした。
P「待ってくれ!大切な話があるんだ」
亜美「ヤダ。早く帰りたいもん」
俺はすれ違いざまに亜美の肩を掴んで引き止めたが、
こちらを振り向きもせず、腕を回すようにして俺の手を振り払った。
無理矢理にでも引きとめようか迷っていたその時、
真美が、亜美と繋いだ手をグッと引き止める。
真美「ねぇ、兄ちゃんの話聞いてみよう?大事な話みたいだし」
亜美「でも…」
真美「お願いだから…ね?」
しぶしぶドアノブから手を離すと、真美に手を引かれてソファに座る亜美。
その横に真美が、手を固くつないだまま腰を下ろした。
P「悪いな真美。本来なら俺が…」
真美「別に良いよ。それで、大切な話ってなに?もしかして席外した方がいいっぽい?」
P「いや、真美にも関係ある話だから」
P「俺は…亜美のユニットの担当を外れることになった」
真美「えっ?」
二人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその事を受け入れたようだ。
そもそも今まで担当を外れていなかった事自体がおかしかったのだから。
真美「それはもう決まったのことなの?」
P「…以前から律子にそう提案されていたからな。むしろ遅すぎたくらいだ」
人気アイドルの仲間入りを果たし忙しくなった亜美にとって、
話もできない人間が担当プロデューサーであるというのはマイナスでしか無かった。
真美やユニットのメンバーが必死にフォローしてくれては居たものの、
指導もろくに出来なかったおかげで、失敗も目立っていた。
それでも未だに、俺のワガママで担当を続けさせてもらってはいたが、
本来ならもっと早く律子に担当を変わってもらうべきだった。
真美「た、確かにそうかもね…」
P「いつまでも事務所に迷惑をかけ続ける訳にはいかないからな」
P「だが今回二人に伝えたかったことは、その事じゃない」
できるだけ冷静に二人に伝えようと、
淡々とした口調を心がけながら話し続けた。
P「俺は、この事務所を離れようと思う」
亜美「えっ?!」
真美「そ、それって765プロを辞めるってこと?」
P「いや、765プロ自体を辞めるわけじゃない」
本当は辞めることも考えはしたが、俺はプロデューサー業を続けたかったし、
今辞めれば亜美が俺を追い出した形になり、事務所の雰囲気はより険悪になるだろう。
P「この事務所は立地も悪いし狭いからな。もっといい場所に新しく支部を作って、そこに転属することになると思う」
二人は安堵の表情を浮かべ、胸をなでおろした。
真美「なぁ〜んだ。それって事務所の場所を変えるってだけじゃん。脅かさないでよ〜」
P「いや、新しい支部に転属になるのは、俺の担当アイドルだけだ」
そう言った瞬間、二人の血の気が一気に引くのが目に見えて分かった。
二人と一緒に仕事はできないと言ってるようなものだ。やはり相当なショックを受けているらしい。
真美「えっ…なんで?なんでそんな…嫌がらせみたいなことするの…?」
P「嫌がらせなんかじゃない。社長と小鳥さん、律子と4人で話し合って、考え抜いた末に出た結論だ」
P「3人ともこの考えに賛成してくれた。社長の許可も取ってある。後はみんなの…」
真美はまるでドラマのように机を両手で叩き、
半泣きのまま大声で怒鳴るように尋ねた。
真美「なんでっ?!やっぱり亜美達のこと嫌いになったの?!」
P「いや、そんなわけじゃない。俺だって出来れば亜美と話をしたかった」
P「でも…今の俺は亜美にとって、ただの足枷でしか無い」
真美「それは…」
P「そもそも俺が同じ事務所に居ること自体、亜美やみんなにとって大きな負担になっている」
真美はなにか言いたそうな顔をしていたが、
今の事務所の雰囲気を考えると何も言うことが出来ないのだろう。
P「…どちらにしろ、今のままじゃ一緒に仕事は続けられない」
P「だから今後は、俺がプロデュースする6人だけで新しい支部に…」
真美が涙目で歯を食いしばりながら立ち上がろうとした時、亜美がぽつりと言った。
亜美「だめだよ…真美とミキミキが困るもん」
P「…それは亜美には関係ないだろ」
亜美「あるよっ!二人共本気だもん!!」
久しぶりに亜美の大声を聞いたような気がした。
固く握りしめられた両手が震えていた。
P「自分の世話を焼いてくれる大人の男ってだけで、勘違いしてるだけさ」
亜美「そんな事ないっ…!!」
亜美「亜美だって本気だったんだから…」
確かに亜美は、俺の事を本気で愛してくれた。
そうでなければ、全てを投げ売ってまで俺を自分のモノにしようとしなかっただろう。
P「だったら、尚更俺は事務所を離れないといけない。俺は二人の本気には答えてやれない」
P「美希はまだ割り切ってくれているようだからいいが、真美は…」
亜美「―――っ!!」
二人の恋心を蔑ろにするような言い方に火が付いたのか、
亜美は左手を高く振り上げると、俺の右の頬を全力で殴りつけた。
真美「ちょっと!やめなよっ!」
亜美「…兄ちゃんに何が分かるのさっ!!」
真美の静止も振り切って、亜美は息を荒げながら俺のネクタイを勢い良く掴み上げた。
口の中は徐々に血の味がし始めたが、それはどうでもよかった。
だが今の俺にとって、その一言だけはどうしても我慢ならなかった。
P「俺に…何が分かるかだって…?」
亜美の手を乱暴に振り払い、立ち上がりながら亜美を睨みつける。
P「分かるわけがないだろっ!!」
半年間、溜めに溜め込んだ不満や怒りが一気に爆発する。
怒りあまり、亜美を殴ってしまわないようにするので精一杯で、
とっさに目の前にあったテーブルを思いっきり拳で殴り下ろした。
二人は軽く悲鳴を上げながら、後ずさるように肩をすくめる。
P「今まで俺を散々無視しておいて、話す事すら拒絶してきたのに!!」
P「それで自分ことを分かってないだって?!そんなの当たり前じゃないか!!」
P「分かるわけ…ないじゃないかぁ……っ!!」
溢れだした感情を抑えることが出来ずに、
俺はまた、いつの間にか泣き出してしまっていた。
まるで子供のように泣きじゃくって、手で涙を拭いながら話しつづける。
P「俺だって辛かった…死にたくなる程に…」
P「意味も、理由も、何もかも分からずにどんどん距離が離れていって、このままじゃ二度と―――」
P「そう思うと、頭がおかしくなりそうだった…」
もう立っている気力もなくなって、崩れるようにソファに座り込む。
二人は目に涙を浮かべながら黙って聞いているだけだった。
P「もう許してくれないか…?俺は、疲れたよ…」
P「背を向けるだけのお前と、正面から向き合おうとすることに…」
P「お前から逃げる俺を…許してくれ……亜美」
もう、おしまいだろう。
俺は悩んだ末に、亜美から…いや、二人から逃げることを選んだ。
俺もプロデューサーである以前に人間だ。
いくら仕事でも、とてもじゃないが割り切れるものではなかった。
もうこれ以上は俺の心が耐えられない…
だから仕方がない、俺は悪くないんだと自分に言い聞かせた。
今まで、本当はどこかで心は亜美と繋がってる…なんて思ってきたが、
それも俺の願望が生み出した妄想だったのかもしれない。
でももう、その妄想に頼る必要も、自分を騙す必要もない…
やっとこの苦しみから開放される…
嬉しいはずなのに、涙はずっと止まらなかった。
P「ゴメンな亜美……もう俺は…」
そう呟きながら、俺はただ泣き崩れた。
二人の顔を見ることがつらくて、顔をあげることも出来なかった。
事務所には三人がすすり泣く声だけが、しばらくの間響いていた。
真美「真美、もうやめよう。兄ちゃんが―――」
しばらくして真美がそうつぶやくと、亜美が泣きながら俺に近づいてくる。
また俺を殴るのだろうか?だなんて考えたが、もう抵抗する気もなかっし、
それで亜美の気が晴れるなら、好きなだけ殴ればいい…そう思った。
亜美は、俺の腫れた右頬に優しく手を当てる。
亜美「兄ちゃん…」
そう言いながら、亜美は…俺を優しく抱きしめた。
一瞬、自分の感覚がおかしくなったのかと思った。
今まで半年もの間俺を頑なに拒絶してきた亜美が、俺のことを抱きしめている…
冷静さを失った俺は、状況がなかなか飲み込めなかった。
亜美「ごめんなさい…兄ちゃん」
P「なんで今さら謝るんだよ…」
軽く押しのけようとしても、俺の胸に顔をうずめたまま、
両腕で痛いほどに力を入れて離れようとしない。
P「離してくれ…俺はもう嫌になったんだ。こんな毎日に」
亜美「ヤダ…絶対にヤダ…」
俺はもう亜美のことをほとんど信用できなかった。
今まで執拗なまでに俺を無視しておいて、俺が耐え切れなくなると、
逆に今度は、涙を流してまで必死に引きとめようとしたりする…
俺の心を苦しめて、楽しんでるんじゃないのかとすら思えた。
俺がなにか悪いことをしたのか…?
中身が入れ替わって以降、いろんなことがあったが、
俺がここまで一方的に嫌われるような事を何かしたというのか?
むしろそんな事をしたのは亜美の方じゃないか――
P「何でだよ…そんなに俺を傷つけるのが楽しいのか?!」
真美「ち、違うんだよ兄ちゃん!」
P「…なんだ?もしかして真美も一緒になって楽しんでたのか?」
真美「違うよ!!それにはちゃんと理由が…」
その一言は火に油を注ぐようなものだった。
P「その理由を教えてくれないから、俺はこんなに苦しんでるんだろっ!!」
俺は亜美の肩を掴んで、強引に引き剥がそうとするが、
亜美は必死に俺にしがみついて、意地でも離れようとしない。
亜美「だって…兄ちゃんがそんなに苦しんでるなんて…知らなかった…っ!」
亜美「ずっと、一番つらいのは自分だって…そう思ってて―――」
神経を逆撫でする亜美の一言に、完全に理性を失った俺は、
気がつくと亜美を全力で突き飛ばし、右手を高く振り上げていた。
P「ふざけるなあぁぁぁぁっ!!!」
声が裏返るほどの怒号と共に、手のひらを勢い良く亜美に向かって振り下ろした。
まるでドラマのワンシーンのような乾いた音が事務所に響き渡る。
荒げた呼吸を整えながら前を見ると、真美が頭を抑えながらうずくまっていた。
興奮しすぎて分からなかったが、どうやら真美は亜美をかばったらしい。
P「あっ……」
真美を叩いてしまった事に俺は動揺を隠せなかった。
いや、冷静になってみれば誰であろうと人に手をあげるなんて…
P「――すまない真美、俺は……っ」
もう自分でもどうすればいいのか分からず、
ただ謝ることしか出来なかった。
真美「別にいいよ兄ちゃん…それよりも真美、理由をちゃんと言わなきゃ…」
亜美は真美の手を借りながら立ち上がると、
涙を手で拭い、俺に向かって深く深く頭を下げる。
亜美「ごめんなさい。兄ちゃんの気持ち、考えたことなかった」
亜美「…でも信じて!困らせたくて避けてたんじゃないって」
亜美「だって…兄ちゃんのこと…やっぱりまだ、好きだから…」
…俺のことがまだ好きだから?
俺を半年も避けつづけた事…その以外な理由に俺は驚いた。
いや、理由にすらなっていないだろう。
つらい思いをしてまで、何故好きな人を避け続ける必要があるのか?
P「だったらなんで…」
真美「…真美は悪くない。亜美が全部悪いんだよ!だって全部亜美のためにやったことだもん!!」
好きな人を避け続ける、その理由が全部、亜美のため…?
亜美が亜美のために俺を拒絶し続けた?
頭の中は混乱していたが、その中である考えが一瞬頭をよぎる。
半年間ずっと感じてきた違和感の正体が分かった気がした。
P「そんな…まさか―――」
頭の中を、この半年間の記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
二人が入れ替わったショックで気を失ったこと。
ユニットに慣れるため、三人で必死に特訓したこと。
真美と沢山のメールをやり取りしたこと。
逆に、亜美とは冷たい関係がずっと続いたこと。
それでも、亜美と心はつながってる…そんな気がしたこと。
…言葉を失った。
誰もがただ悲しみ、苦しみ続ける…
こんな悲劇のようなことがあって良いのか。
気持ちをどう表していいのか分からず、ただ立ち尽くしていた。
たが体は勝手に、亜美の方へと吸い寄せられるように向かっていった。
俺は、亜美を壊れそうになるほどきつく抱きしめた。
P「そうか…お前は、左利きだったものな…」
「真美…」
―――二人は、最初から入れ替わってなんていなかった。
一旦休憩です
13:35│双海亜美