2013年11月07日
律子「きっかけはお見合いでした」 P「でした」
私の机の上に一枚の写真がある。
私と伊織、亜美、あずささんとで撮った写真だ。
みんな最高の笑顔で、宝物の写真。
4人が4人とも、お嫁に行ってもお母さんになってもお婆ちゃんになっても
私と伊織、亜美、あずささんとで撮った写真だ。
みんな最高の笑顔で、宝物の写真。
4人が4人とも、お嫁に行ってもお母さんになってもお婆ちゃんになっても
ずっと眺めてくれると思える写真。
私の最高の写真だけど、そこにいる私の眼鏡はとっても野暮ったい。
親と一緒に初めて買った中学生がするような、ゴツいフレームと分厚いレンズの眼鏡。
見た人はみんな、いい写真だねって言ってくれたあとで
私の眼鏡に気づいて大笑いする。
ちょっとその写真の話をしたいと思う。
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律子「プロデューサー。今度の日曜午後、あずささんの立ち会い代わってもらえませんよね?」
P「んー? 何時からどこ?」
律子「13時から麻布十番で料理教室のレポーターです。終わりが16時半。無理ですよね?」
P「なしてそんな後ろ向きなの。空いてるしいいよ。
3日くらい前に11連勤だーって呟いてただろ。休むのも仕事のうち」
律子「じゃあ、お言葉に甘えます……あーあ」
P「なに。乗り気じゃないの。どしたの」
律子「見合いするんですよー」
P「ふーん。そうなんだって、え? 見合い?」
律子「はい。見合い」
P「でも律子そんな年じゃないよね」
律子「女はハタチ超えたら家庭に入るのがうんちゃらっていう伯母さんがいて、見合いを勧めるのが生きがいで」
P「見合いを勧めてくるおばさんって実在したんだ。マンガのなかの生き物かと思ってた」
律子「あたしは恋愛結婚するんだって言ってるんですけど(ちらり)」
P「見合いを毛嫌いすんなよ。俺たちのじさまばさまの頃はみんな見合いだったよ?
いつの間にか恋愛結婚が普通になっちゃったけど、現代の結婚生活が幸せになったとは思わないな」
律子「あら、プロデューサーは見合い派ですか? アンチ恋愛結婚主義?」
P「んー。賢い2人なら2人の向き不向きを見極められるだろうけどね。
でも結婚してどうなるかの想像なんて、年齢と経験がものをいうでしょ」
律子「結婚も事業として考えてるんですか」
P「事業というか、ライフスタイルの変化だよね。
重要なことだから経験者の意見は必要だと思う。
でも律子はまだもったいないよ。見合いする男って女は家庭に入るべきとか思ってそうじゃない?」
律子「そうそう! プロデューサー殿はそんなこと言いませんよね?」
P「いや? 奥さんは家庭を守るのがいいと思うな、俺は」
律子「直前に自分が言ったことすら覚えられないのか、あんたは」
P「律子『は』もったいないって話。だって5年後には業界屈指の敏腕プロデューサーになるんだよ。
家庭に入るのは25才で敏腕プロデューサーになれない子に任せたらいい」
律子「う、あ、ありがとうございます」
P「あーでも、見合いで出会う男がうんちゃらがそもそも決めつけだからな。
今の時代で経済的には安定しているだろうから、開明的かも。
やっぱり会ってみるといいと思うけど……律子」
律子「な、なんですか」
P「ホワイトボードに、日曜AM10:00からあずささん〜16:30って書いてある」
律子「はい。お見合いが14時に恵比寿なんですよ。だから13:00に抜ければ」
P「バカりつこ!」
律子「きゃあっ!?」
P「せっかくのお見合いなんだから午前中に美容院にいかなきゃダメなの! この、げんなりつこ!
そんなんじゃ相手のハンサムもうんざりつこなの!」
律子「いまの美希のマネですよね。全然似てないですけど」
P「美希って語尾変えるだけでマネになるからいいよね。
そのかわり似せようという努力を放棄しちゃうけど」
律子「それは同感ですが、あの小娘私のことをバカ律子とか呼んでるんですか。
あとでシメとこう」
P「あ、可哀想。そのあとでいちごババロア買ってあげよう。『ハニー募金』から」
律子「それ結局美希のお金じゃないですか」
P「でも喜ぶんだよ美希。ありがとハニー! 嬉しいの! ってまた100円」
律子「美希ってほんとに可愛いですよね。男だったら結婚したいな」
P「てめえ。うちのアイドルに手を出した奴は乳幼児だろうがローマ法王だろうがすりつぶすからな」
律子「残念私にはすりつぶすものがない!」
P「あ、そっか、女だったのか律子」
律子「……いつの間にか下ネタにも慣れてしまいました」
P「俺と音無さんなんて2人になるとずっとこんなんだったよ。
律子もアイドルやってた頃は聞かせなかっただけで。
今でもあの子たちには聞かせるなよ。耳と心が腐る」
律子「耳と心が腐るような会話をしてるのか20才の私は」
P「とにかく午前も休んで美容院いけよ。おばさんと相手の人に失礼だろ」
律子「でもプロデューサーは午前中はダメでしょ?」
P「午前中のは社長に頼めばいいだろ」
律子「え!?」
P「たまには現場へのあいさつ回りしてくれっていえば、喜んで代わってくれるよ。現場大好きな人だもん」
律子「あんまりおおごとにしたくないんですけど」
〜日曜日〜
P「社長ー。あずささーん」
高木「おお、おつかれさま」
あずさ「おはようございます、プロデューサーさん」
P「バトンタッチですね。お疲れ様でした、社長」
高木「うん。私はちょっと近所の知り合いのオフィスに顔を出して帰るよ。
さようなら、三浦くん」
P「さてあずささん、行きましょうかね」
あずさ「あの、プロデューサーさん?」
P「なんですか?」
あずさ「律子さんが今日お休みの理由って」
P「骨休めですよ」
あずさ「あの、社長は、お見合いって」
P「空気とか読めないのかなあの世代は」
あずさ「本当なんですか?」
P「まったく……本当ですよ。ただ仕事を代わったのは
見合いだからじゃなくて律子が働き過ぎだからです」
あずさ「あの、いいんですか? プロデューサーさんは」
P「俺はみなし管理職だから、勤務超過はかなり大丈夫です。
でも、ハタチの女の子が16連勤はいけません。
労基署に刺されたらうちはイッパツで潰れます」
あずさ「そういうことじゃなくて。
律子さんがお見合いしてもプロデューサーさんは平気なんですか?」
P「いいじゃないですか。いろんな男を見る機会があったほうが」
あずさ「はあ……もういいです!」
P「?」
あずさ「律子さん、かわいそう」
P「あずささん」
あずさ「なんですか!」
P「なんでUターンしたのかよくわかんないですけど
改札入ったばっかりのスイカですぐ出ようとすると」
ピンポーン バタン
あずさ「きゃっ!」
P「えーと、これ迷子っていうより医者が必要なレベルじゃねえの」
〜恵比寿 シェラトン都ホテル〜
律子「あー疲れた」
伯母「りっちゃん、タクシー来たから行くわよ」
律子「はーい。疲れましたよ」
伯母「でも良い人だったわね〜」
律子「いやそれは掛け値なしに」
律子(ここはあえて、唯一の身近な男であるプロデューサー殿を基準にすると)
律子(スポーツで焼けた肌、引きしまった頬、高すぎず低すぎもしない身長。
上質なスーツと靴は5プロデューサーを超える)
律子(話もソツがないし聞くのが上手だし、いわゆる一般常識もきちんとあるし
人当たりも4プロデューサーくらいか)
律子(そして経済面では開業医の長男で本人もストレートの大学病院勤務医。
いずれは広尾に家と病床200を超える病院の跡継ぎ。もはや10プロデューサー以上)
律子(3分野を合計して、プロデューサーを3プロデューサー相当の男とすると、その差……6倍!)
律子(プロデューサーがあの世代の男の中で
下の中あたりだとしても、相当の優良物件よね……)
ドキン★
律子(何? この胸のときめきは?)
律子(……広尾に家と200床の病院なんていったら
銀行からいくら引っ張れるのかしら)
律子(やだ……私……ドキドキしてる……これは、恋?)
律子「ああ、生きるべきか、死すべきか。この胸のときめきに」
伯母「詩人ねりっちゃん」
律子「似合いますか」
伯母「まなざしは獣のようね」
律子「隠しきれませんか」
伯母「私も秋月の女よ。じゃあ進めてくれって言っていいのね?」
律子「う……今晩のうちに決めてお電話します」
伯母「あら。りっちゃんはまだまだネンネね。実は私が獲ろうかと思いかけてたわ」
律子「だから襟元乱れてたんですか。向こうのお父さんがガン見してましたよ。自重してください」
〜夜・律子の自宅〜
律母「律子〜? 姉さんから電話があって、先方に断られたって〜」
律子「まじか」
〜翌日午後 765プロ〜
律子(昨夜はちょっと恋に迷って定款を8割書き上げてたけど、どうかしてたわね)
律子(そもそも私は恋愛して好きな人と結婚するつもりじゃない)
律子(……それにしても逃げられた理由が気になるのよね)
律子(「結婚したら家に入ってくれる女性がいい」だなんて)
律子(お見合いでそんな話題出てないんだけどなあ)
律子(それに、あのひとと結婚したら、家とはすなわち秋月芸能事務所のことよね。
言われなくても家にいりびたりだわ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あずささんがこっちを気にしている)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あからさまにわかるのに、本人はさりげないつもりなのよねえ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あれで役者としては演技がうまいのはなんでなんだぜ。ああでも可愛いなあ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(可愛すぎて仕事が手につかないのでやめさせよう)
律子「あずささ〜ん。お茶淹れますからそっち行っていいですか」
あずさ「あ、あら。どうぞ〜」
律子「雪歩に教えてもらったんですけど、それなりのお茶っ葉でも淹れ方でおいしくなるんですよね」
あずさ「美味しいわ〜それで律子さん、お見合いの件なんですけど」
律子「うわあド直球だ」
あずさ「あらあら。もっと前ふりを考えていたのだけれど」
律子「あずささんて会話でも迷うんですね」
あずさ「で、どうでしたか? お見合い」
律子「その前に誰から聞いたんですか」
あずさ「それは……プロデューサーさんです!」
律子「あの野郎」
P「今戻りましたー」
律子「あ、3プロデューサーしかない人だ」
P「え? 俺3人もいるの? じゃあ3人別の場所で仕事できる?」
律子「いいえ。プロデューサーは3プロデューサーあってようやく一人前です」
P「あれえ? 俺のことを一人前と言ってくれてるハズなんだけどなんで傷つくんだろ」
律子「せめて3倍謝ってください」
P「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
律子「ごめんなさいは一回! 小学生ですか! 3プロデューサーしかないくせに!
それはそれで、みんなには見合いのこと内緒にしろって言ったのはプロデューサーでしょ!」
P「え? 俺がバラしたことになってんの? あ、あずささん?」
あずさ「ええ。プロデューサーさんが」
P「え? だってあれ社長が」
あずさ「いいえ、プロデューサーさんが」
P「マジすか」
あずさ「うふふ」
社長「うふふ」
P「社長はスルーで」
律子「了解」
あずさ「はあい」
社長「なら私は銀行に行ってくるよ」
P「あずささんが言うなら俺がばらしたんですよね。知らなかった。
でもあずささん? 他の子に言っちゃダメですよ」
あずさ「どうしてですか〜?」
P「幼い子たちと知能が残念な子たちは
見合いしたという事実だけで律子が辞めちゃうと勘違いするからです」
律子「ちなみに残念な子って誰ですか」
P「響と真と春香だ」
律子「あなたほんとにアイドルのこと大事とかかわいいとか思ってるの?」
亜美「おっはよー! りっちゃーん! 昨日見合いしたんだって〜!?」
あずさ「プロデューさん、口が軽いですよ」
P「俺? 昨日2人には会ってないよ?」
律子「3倍謝ってください」
P「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
律子「ごめんなさいは一回。ところで二人とも。どこからその話を聞いたの」
真美「んっふっふ〜。実は昨日のりっちゃんのお見合い相手のモブ原モブ彦にーちゃんのパパは、
うちのパパの同期なんだYO!」
亜美「りっちゃんはお仕事を辞めそうですか? って訊かれたから
亜美たちをトップアイドルにするまで絶対に辞めないよって答えておいたんだ!」
律子「広尾の土地が逃げたのはあんたたちのせいか。
たまには素手で人を絞め殺せるか試してみようかな」
真美「ギブギブ」
亜美「ああ〜あひゃまがぽうっとしてきた〜あれ〜おじいちゃん〜」
P「お前らの父親の同期ってことは医者か! 律子なんで断ったんだそんなうまい話」
律子「私は断ってない! アゲアゲの髪で法務局の売店に駆け込んで
登記書類一式買い込んだんですよ。胸のときめきのままに。それをこの子たちが」
真美「はあ、はあ、あー苦しかった」
亜美「でもりっちゃん、あの家に入ったら、いくらりっちゃんでも改造されていいお嫁さんになっちゃうよ」
真美「それにりっちゃんがモブ原なんて苗字になるのはいやなんだもん」
律子「大丈夫よ。死んだ魚は水をはねないわ。入籍前に全員抹殺して、姓は秋月にするから。
秋月はそうやって生きてきたのよ」
P「亜美、真美」
真美「なあに兄ちゃん」
P「お前たちは罪なき市民の幸せを守ったんだ。偉いぞ」
亜美「結果的にいーことしたみたいだよ!」
P「油断してたらお前たちの家もローソンになってたかもしれないな」
あずさ「ところで亜美ちゃんと真美ちゃんにもバレちゃいましたね〜」
P「そうですねえ。亜美、真美、律子の見合いのことは兄ちゃんとの秘密にできるか?」
真美「大丈夫! 事務所のみんな以外には言わないよ!」
P「ごめん律子。これが精一杯みたいだ」
律子「もういいですよどうせ断られたんだし」
〜別の日〜
美希「ハニー!」
P「おはよう美希。今日も朝から100円罰金だな」
美希「ひどいの」
小鳥「おはよう、今日も元気ね美希ちゃん」
P「ひどいってお前、呼び方変えればいいだけだろ」
美希「だってハニーはハニーなの!」
P「200円。飛ばすなあ。このぶんなら今日中に1万円突破するな」
美希「あれ? 昨日たしか1万円になったって」
P「ああ、昨日買ってやったいちごババロアは『ハニー募金』からの支払いだ」
美希「なら仕方ないの」
P「美希はかわいいなあ」
美希「それよりハ、プロデューサー、律子と別れたってホントなの?」
P「律子は目上なんだから呼び捨てにするな」
美希「そういえば律子、さん、よくわからないことで怒ってたの。
美希は律子さんのことバカ律子なんて言ったことないの」
P「それが日頃の行いってやつだ」
美希「むー。むつかしいの」
P「で、別れたってなんなんだ。そもそも付き合ってすらいないぞ」
美希「え?」
P「事務所のアイドルとそんなことするわけないだろう」
美希「そうなの?」
P「ああ、アイドルに手を出す奴はすりつぶす。自分だって例外じゃない」
美希「じゃあじゃあ、ミキをお嫁さんにしてくれる?」
P「中学校の教師って我慢強くないと勤まらないんだな。
今の流れでなにがどうやって俺と美希が結婚するんだ」
美希「頭が固いの、ハニー」
P「100円。美希みたいになるくらいなら固いほうがいいよ。
まあ暇だから、どうして俺と美希が結婚できないか説明してあげようか」
美希「はいなの」
P「つってもありきたりなもんだな。年の差だ」
美希「愛があればそんなの関係ないの!」
P「そうかもしれない。だが俺の方に美希への愛がないのでそもそもその理屈は無理だな」
美希「ひどいの」
P「現実は残酷なもんだ。もっと残酷な現実を説明してやろうか」
美希「怖いけどミキ、ハニーのためなら頑張るの!」
P「100円。この調子なら月末にはみんなでもんじゃを食いに行けるな」
美希「ミキ、なんでこの人のこと好きなのか自分でもよくわかんないの」
P「まず大前提として俺はアイドルとは付き合わないから
美希がアイドルのままなら結婚しない。これはオーケー?」
美希「知ってるの! 知ってるけど気にしないの!」
P「お、それは大人の態度だな。でももう1つ条件があって、
最終職歴――最後の仕事だな、それがアイドルの奴とも付き合わない」
美希「なにそれひどいの! 後付けなの!」
P「後付けなのはその通りだし、フェアじゃないのも認める。
だがこの場合ルールを決めるのは俺だし、ルールが嫌なら美希には参加しない選択肢があるぞ」
美希「むー。聞いてあげるから続けるの」
P「美希が俺と結婚できるのは、引退して他の仕事をしてその世界を経験してから。それはいくつくらいだ」
美希「えーと。25くらい?」
P「案外妥当だな。25才の美希はどうなってる?」
美希「すっごくキレイでキラキラしてるよ!」
P「俺もそう思う。美希は頭の切れる怠け者だから仕事はできるだろうし、
ちょっとデリカシーはないけど性格も素直ないい子だ。
いまこんなにかわいいんだからその頃にはものすごい美人になってるだろうな」
美希「えへへ……。やっぱりハニー、いじわる言っても美希のこと好」
P「100円。美希を知る男みんなが美希をお嫁さんにしたがるだろう。
じゃあ、その時35才の俺はどうなってる?」
美希「ハ、プロデューサーはかっこいいに決まってるの!」
P「それはありえない」
美希「ほえ?」
P「人間のキレイは18才をピークにしてあとは落ちるだけなんだ。
もちろん18から25なんて大した違いはない。
それどころか経験と落ち着きのお陰で魅力が増すくらいだ。でも25から35は違う」
美希「そうなの?」
P「35の俺は、口が臭くなって耳の後ろが臭くなって
腹が出て髪が薄くなって肌が脂ぎってる」
美希「なんでそんなひどいこと言うの!?
カッコイイおじさんはたくさんいるの! ハニーもそうなればいいの!」
P「100円。もちろんかっこいいおじさんはたくさんいるが、俺はそうならない。
俺はそういう努力をする気がまったくないからだ。
俺は28くらいに同じくらいの年齢の女の人と結婚して、35くらいには一緒にだらしなくなってる。
さて美希に質問だ。キラキラしてる25才の美希は
耳の後ろが臭くてハゲデブな35才の俺と結婚するべきだろうか?」
美希「(ぐすっ)」
P(マジ泣きだ!)
美希「うわああああん! ハニーのバカぁ! もう知らないから!」
ガチャ。バタン。
P「100円。をとめ殺すにゃ刃物はいらぬ。オヤジの一人がいればいいとね」
小鳥「ちなみにプロデューサーさんを殺す刃物ならここにアップしています。
25才過ぎるとなんでしたっけ?」
P「タスk」
〜別の日〜
真「聞いた? 律子の話」
春香「お見合いでしょ? もう私びっくりしちゃって」
千早「非常階段から落ちそうになる人間を押さえたのは初めてだわ」
春香「あはは。千早ちゃんありがとうね」
千早「いいのよ、びっくりさせたのは私なのだから」
真「でもあの律子がお見合いって想像できないよね」
春香「結婚するのかな?」
千早「断られたのよね?」
真「それが律子、今週末もお休み入れてるみたいなんだ」
春香「……本気で結婚したいのかなあ、律子さん」
真「……」
春香「……」
千早「……」
真「プロデューサーとケンカとかしたのかな」
千早「どうして?」
真「千早は多分わからないから考えなくていいよ」
千早「?」
春香「律子さん、結婚しちゃうつもりなのかなあ」
千早「そんなことないでしょ。あんなに仕事熱心なのに」
春香「やだなあ。なんかやだよ、私」
真&千早「?」
〜日曜日 高輪プリンスホテル〜
モブ2「ふがー、ふがー、りっちゃんと会えるなんて、ふがー」
律子(チェンジ)
伯母(チェンジ)
モブ2「りっちゃんと結婚できたらブヒィ」
律子「あ、腹痛が」
伯母「もう救急車は呼んであるわ。あと2分で着くそうよ」
……
律子「げんなりでした」
伯母「財産は悪くないのよ」
律子「獣姦が趣味とか言われるのは名誉という無形の財産への負債です」
伯母「ちょっと今回は失敗だったわね」
律子「伯母さん、仕事にもさしつかえてますし、もうお見合いは」
伯母「次は大丈夫だから! もういっかいだけおみくじ引いてみましょうよ」
律子「うーん。じゃあもう一回だけですよ」
〜翌日曜日〜
真美「おっはよー! ってあれ、兄ちゃん」
P「お、真美も来たな。今日は律子が風邪で倒れてな。俺が付き添いだよ」
亜美「えー。りっちゃん大丈夫かなあ」
P「病院には行くように言っておいたよ。来週にもちこすことがなければいいけど」
スタッフ「765プロさーん」
P「お。じゃあ亜美、頑張ってこい! 真美は俺と見学してるか」
亜美「らじゃー。真美、行ってくるねー」
真美「うん! 頑張って亜美! ねー兄ちゃんPSP持ってきた?」
P「ああ。真美が来るかと思って持ってきたぞ」
真美「ゲームは?」
P「モンハンP3」
真美「兄ちゃんそろそろ上位になった?」
P「やーまだだ。たまに時間を作ってやってるけど、終焉がクリアできない」
真美「下位装備なの!? しゅーえんって上位装備でやるもんでしょ?」
P「下位クエなんだから下位装備でやろうぜ。ハンマーと双剣、大剣とランスガンスはクリアした。
スラアクはジョーすら倒せん。ライトだと弾薬的にクリアできないんじゃないかと疑っている」
真美「コアな遊び方してるね……」
P「モンハンは修行だからな」
真美「真美の知ってるモンハンと違う」
P「というわけで下位クエをのんびりやろう。装備は当然ユアミ縛りな」
真美「まだユアミなの!?」
P「俺の装備ボックスにはユクモとユアミしかないぞ」
真美「ほんとだ……」
P「下位クエなら未強化ユアミで充分だ。始めるぞ。モン↓ハーン↑♪」
真美「ラッパに合わせて歌うなんて小学生でもしないよ」
真美「ぎゃー! やられた!」
P「そりゃ粉塵」
真美「ありがと! 兄ちゃんの粉塵ってば、ぜつみょーなタイミングだよね!」
P「いつだって真美の体力ゲージを見てるからな」
真美「さわやかなストーカーだね!」
P「アグナと戦ってる間にいつの間にか採掘に行ってることも知ってるぞ」
真美「いやん、エッチ」
P「だから戻ってきて戦え」
真美「……あのさあ兄ちゃん」
P「なんだ?」
真美「りっちゃんさ、今日ほんとにお休み?」
P「つらそうな声だったよ。仮病みたいに言うなよ」
真美「ゴメン……でも、亜美がさびしそうなんだ。
りっちゃんが辞めちゃうんじゃないかって」
P「辞めないよ。あいつこの仕事好きだもの」
真美「でもケッコンするってお仕事辞めるってことじゃないの」
P「結婚したくて見合いしてるって感じじゃないんだよな。
最初に上出来な男を逃したから未練があるんだと思う。
納得いくまで宝くじ引かせるしかないよ」
真美「モブ原の兄ちゃんかー」
P「家と病院を担保に入れたら100億引っ張れたって言ってた。
明らかにゲスなセリフだけど、ちゃんとプロデューサー業のためにやってるんだよ。
この業界、カネを集めるのがいちばん大変だし
カネさえあればアイドルたちを守れるんだ」
真美「うん」
P「律子は俺が最初に担当したアイドルで、ちょっと厳しくしすぎたからな。
私から10代の恋愛を取り上げたのはアンタだと言われて反省した」
真美「でもさー、アイドルってそういうもんっしょ」
P「真美は学校でどうだ? 好きな男子とかいるのか?」
真美「真美も亜美も女子中だよー。友だちは他の中学校と合コンとか行ってるけどね。
真美たちすっごく呼ばれるんだ」
P「真美、悪いがそういうのは」
真美「行くわけないじゃん」
P「そうか。よかったよ」
真美「兄ちゃん、ユアミでしゅーえんクリアとかわけわかんないこと言うけど
パパがすごく褒めてることも言ってくれたんだよ」
P「なにそれ」
真美「『アイドルは仕事じゃなくてせーかつたいどだって』」
P「ああ。俺のオリジナルじゃないけどな。俺はそう信じてる」
(誤字修正)
P「律子は俺が最初に担当したアイドルで、ちょっと厳しくしすぎたからな。
私から10代の恋愛を取り上げたのはアンタだと言われて反省した」
真美「でもさー、アイドルってそういうもんっしょ」
P「真美は学校でどうだ? 好きな男子とかいるのか?」
真美「真美も亜美も女子中だよー。友だちは他の中学校と合コンとか行ってるけどね。
真美たちすっごく呼ばれるんだ」
P「真美、悪いがそういうのは」
真美「行くわけないじゃん」
P「そうか。よかったよ」
真美「兄ちゃん、ユアミでしゅーえんクリアとかわけわかんないこと言うけど
パパがすごく褒めてることも言ってくれたんだよ」
P「なにそれ」
真美「『アイドルは仕事じゃなくてせーかつたいどだ』って」
P「ああ。俺のオリジナルじゃないけどな。俺はそう信じてる」
真美「パパもそーだって言ってたよ。
お医者さんもまず患者さんが信じてくれなきゃだめなんだって。
患者さんが信じてくれるには、いつもの暮らしをちょー真面目にしなきゃダメなんだって」
P「だから合コンを断ってくれてるのか?」
真美「うん! だってそういう噂たったら、一発でアウトだもんね。
それに男子といるより亜美と遊んでたほうがたのしーし」
P「いい子だな、真美。ご褒美だ」
真美「いま体力満タンだったよ兄ちゃん。その粉塵は無駄だよ」
P「気持ちだよ」
真美「えへへ。受け取っとくね」
スタッフ「真美ちゃーん。そろそろいい〜?」
真美「はーい!!」
P「今日はどういう変装だ?」
真美「ツインテですよ! ツインテ!」
P「それだけで実況が100レスいくな」
真美「で、あのケバブ屋さんの中にいるの」
P「それ、見つけてもらえないぞ!?」
真美「いーの、放送日の夜ブログでバラすから」
P「おう、じゃあ頑張ってこい」
P(事務所としては1人ぶんしかギャラは取れないけど)
P(亜美真美どっちかしか出てない番組でも
エキストラにもう一人いるってのは話題だよな)
P(あ、亜美が手を振ってる。ジュースでも買っといてやるか)
P(あんな子らを心配させてるのか……。そろそろぶっとばすか、あのメガネ)
??「えっ」
P「あーごめんなさ……い? 律子?」
律子「プロデューサー!」
P「お前、体調不良って」
律子「あの、具合よくなって」
P「ここ、律子の家の近所じゃないよな」
律子「ちょっと買い物に」
P「見合いだろ、そのカッコ、その髪型」
律子「……」
P「すぐここから離れろ。体調悪いことになってるんだ。
亜美や真美に見られたら言い訳できないぞ」
伯母「りっちゃ〜ん。タクシー来たわよってあら?」
P(これが例のおばさんか)ぎろり
伯母(人を殺したことのある男の目ね)ぎろり
P(……)
伯母(……)
P「ほら早くいけ、律子」
律子「は、はい」
P「週明け話がある」
律子「は、はい」
伯母「じゃあ行くわよ〜りっちゃん」
P「……」
P「律子、ああいう肉食系コンサバの格好も似合ったのか。
気が強いし、あっちのキャラでも仕事とれたかもなあ……」
〜〜タクシー車内〜〜
伯母「今日のもダメだったわね〜」
律子「はあ……」
伯母「あのパッとしない男性はどなた? 同僚?」
律子「はい……」
伯母「さて、りっちゃんも次が4回目よね。ようやく優良物件が解禁されるわ」
律子「おばさん、私もう……って解禁? ってなんですか?」
伯母「3回目まではね、ロクな相手と見合いできないのよ。
どうせ20才だし結婚するつもりがないんだろって」
律子「はあ」
伯母「でも4回目にもなると熱意が伝わって、逆に20才だけど結婚に熱心な
すてきな子ってことになるのよ。すると……」
律子「すると?」
伯母「資産の基準がモブ原になる」
律子「!」
伯母「ガチャと同じよ。5万円つぎ込んで初めて挑戦権を得るの。
どうする? やめておく? それとももう1回だけ引いてみる?」
律子「……う、じゃ、じゃあ、あと1回だけ。
あ、でも、再来月にしてください。さすがに仕事に迷惑かけちゃったから」
伯母「そうね。でも、いい資産が捕まえられたらすぐに連絡するわ。
融資の枠をいちどつかんじゃえば、同僚のやっかみなんかどうでもよくなるのよ」
律子「う……そ、それは、その時は」
〜別の日〜
やよい「おはようございまーっす! プロデューサー!」
P「やよいはめんこいなあ。一生のお願いがあるんだが、ハイタッチしてもいいか?」
やよい「当たり前でーす! せーの!」
P・やよい「ハイ、ターッチ!」
イエイ!
P「よし、元気も出たことだし仕事に行くか!」
やよい「はい!」
P「ところでやよい」
やよい「はい! なんですかぁ?」
P「律子のこと気になるか?」
やよい「うーん。私は別に。でも春香さんと雪歩さんが」
P「あの2人か」
やよい「ちょっと気にしすぎかなあって」
P「ふーん」
やよい「律子さんだからたくさんたくさん考えてるかなーって。
だから春香さんや雪歩さんが心配する必要ないかなーって」
P(それはどうだろう)
やよい「でも、悪いのは律子さんだから謝らなきゃだめです」
P「そうなるんだ」
やよい「はい! きょうだいって、下の子が我慢して上の子が謝るんです」
P「そうなのか。俺ひとりっこだったからなあ」
やよい「あ! 律子さんにはナイショですよ?」
P「もちろん」
やよい「春香さんと真さんにも!」
P「やよい」
やよい「はい?」
P「ありがとな」
やよい「ええっ! な、何がですか!?」
P「ほら、俺、いつも言ってるだろ? アイドルは仕事じゃなくて生活態度だって」
やよい「そうですねー。私、よくわかんないけど。えへへ」
P「やよいに助けられてるんだよ」
やよい「そ、そんな! 私何もできないし」
P「やよいの魅力はまさに生活態度から来るからな。
家族と仲がよくて、働き者で、ニコニコ笑って、素直で、悪いことが嫌いで、努力家だ」
やよい「え、えへへ……私なんか」
P「アイドルは生活態度だって言うだろ? すると美希や響なんか全然わからないんだよ。
あいつら頭で考える機能がないからさ」
やよい「ええー! そんなことないですよ!」
P「でも、あいつらでも『やよいみたいに』って言えばすんなりわかってくれる。
やよいの魅力が毎日のいい子な生活からくることだって知ってるんだ」
やよい「うっうー! ほめられちゃいましたあ!」
P「……やよい、一生のお願いがあるんだが、ハイタッチしてくれないか?」
やよい「う、運転中はだめです!」
P「じゃあ降りたら」
やよい「……元気ないんですか、プロデューサー?」
P「いろいろとね」
やよい「じゃあ、じゃあ、片手だけ」
P「このカーブ曲がったら直線だから、そこでいいか?」
やよい「はい。……せーの!」
イエイ!
〜〜別の日〜〜
??「美希がプロデューサーに告白して玉砕しました」
??「あらあら〜かわいそうに」
??「仕方のないことです。美希はわたくしたち三人衆のなかではいちばんの小物。主に胸が」
??「断られた理由はなんだったの〜?」
??「年齢の差だとか。であるならば」
??「貴音ちゃん、行く気なのね」
貴音「ええ。わたくしならば。美希よりは年上ですから」
??「でも美希ちゃんとたった3つ違いよね?」
貴音「よく25くらいに見られますから」
??「さすがにプロデューサーさんは年齢を知っていると思うわよ〜」
貴音「ま、まああずさは見ていなさい。わたくしの挑戦を」
あずさ「は〜い」
貴音「……応援してください」
あずさ「もちろんよ〜」
貴音「……ダメだったら、その」
あずさ「心配しないで。
貴音ちゃんが美希ちゃんにしてあげたみたいに
泣きやむまでずっと頭なでてあげるわよ〜」
貴音「それで勇気が出ました。参ります」
〜〜別の日〜〜
P「おつかれさま。はいジュース」
貴音「これはプロデューサー。いらしていたのですか」
P「はじめから現場に入れなくてごめん。途中からは見ていたよ。調子はどう?」
貴音「この脚本、わたくしは好きです」
P「脚本もそうか。でもスタッフみんないいと思うぞ。そのネッカチーフの緑はよく似合ってる」
貴音「そう思いますか!? わたくしもそう思います!」
P「そうやって、スタッフにいいものを揃えてもらえると嬉しいよな」
貴音「まことに」
P「でもそれは、貴音がそうやって素直に喜ぶからだ。
衣装さんから伝言。
『そのスカーフは気に入ったらあげます。
そのかわり、今度一緒に普段のお洋服選ばせて!』
だってさ」
貴音「選んでいただくのは嬉しいのですが、これをいただくわけには」
P「ああ、そこは遠慮しておいた。貴音もあなたとお揃いで持っている方が喜びますって言ったら
嬉しそうにしてたよ。あの人ちょろいな」
貴音「なるほど……これが、じごろ……」
P「うん。ちょっと違う。
まあ、聞いた店は帰り道だから寄って行こう。
で、脚本のどこが好きだって?」
貴音「せりふから見える自由な空気が。
大正でもくらしぃなるものがこのくにで起きていたのは存じておりましたが
なかなかよい空気だったようです」
P「そうだね。明治、大正、昭和と続く50年ではいちばん奔放な時代だったと思う」
貴音「はい……時にあなた様。外に参りませんか」
P「次のシーンは?」
貴音「30分ほどのちに」
P「じゃあ余裕あるな。というかさっきの呼び方はなんだ? あなた…さま?」
貴音「脚本の中でわたくしが旦那様をこう呼ぶのです」
P「俺が旦那様とは光栄だな。でも、いいね。古風で蠱惑的って言えばいいのかな
男ならゾクッとくると思うぞ。
たまーにキメ場で使ってみようか」
貴音「そう思いますか!? わたくしもそう思います!」
貴音「ところで美希の話を聞きました」
P「ああ、現実を教えてあげた話か。こないだ話したときは案外ケロっとしてたな」
貴音「いえ。その夜は長いこと泣いておりました」
P「貴音が面倒見てくれたのか。ありがとう」
貴音「あなた様はあいどるとはおつきあいしないのですか?」
P「俺、アイドルにかぎらず芸能人に手を出す業界の人間は殺してもいいと思ってるから」
貴音「ですが、あいどるやたれんとの結婚は高い確率でそういうお相手のようですが」
P「だから嫌なんだよ。アイドルってのは宝石なんだよ。俺にとって」
貴音「宝石ですか」
P「うん。本人も価値がわからずにどこかで眠っている。
それを俺たち宝石商が見つけて、カットして、研磨して、台座をつけて
お客様に届ける。この場合一般のファンだな。
確かに宝石商は宝石を手元に置くタイミングがある。
だとしたら、そういう人間が横取りしちゃいけないだろう」
貴音「そうでしょうか」
P「誰かアイドルがプロデューサーと結婚するたび、ファンは思うんだよ。
あの子もそうだった。この子も裏でプロデューサーにヤられてるのかな。
それが事実かどうかは関係ない。その時点で幻想が汚されるんだ。
最高の宝石はこいつが隠し持っているんじゃないかな、と思われるんだ。
俺は宝石商として、評判を落とすような行為をする同業者を許せない」
貴音「はあ……」
P「俺がこの世の支配者になったら、上野公園のハトを抹殺するより前に
芸能人に手を出す業界スタッフを全員宮刑に処するよ」
貴音「では、もし、うちのあいどるたちがあなた様に愛を告げたら……」
P「うちの子たちは大丈夫。自分たちの価値はわかってくれてるよ。
たまに美希みたいに刷り込みと恋心を混同する奴は出るかもしれないけどね」
貴音「告げたら」
P「何日かかってでも目を覚ましてもらう。無理なら移籍か俺が退職だな」
貴音「うう……それで、あいどるをやめて、他の仕事についたらよいと」
P「ああ。それなら例えば『元アイドルのOL』と業界人の恋だ。ワンクッション置けば
聞く方も受け入れやすいし、何より一つ仕事を挟むくらい時間が経っていれば
その子の交際は芸能界にダメージを与えない」
貴音「わかりました……わたくしは生きている限りずっとこの世界にいるのが使命。
そもそもかなわぬ想いでしたか」
P「? 貴音、まさか」
貴音「あなた様、ごらんください」
P「うん」
貴音「夕空に月が綺麗でございますね」
P「……」
P「きっと、遠くにあるからだな」
貴音「……」
貴音「そう思いますか。わたくしもそう思います。
……時にあなた様、ふたつお願いが」
P「何かな」
貴音「後で買うすかぁふ、経費ではなくプロデューサーのぽけっとまねーで買ってくださいますか」
P「うん」
貴音「もう一つ、どちらかがいのち尽きるまで、わたくしのプロデュースをしていただけますか」
P「うん」
貴音「ありがとうございます」
P「……貴音、ありがとう」
貴音「なんのことでございましょう?」
P「なんでもない」
貴音「休憩が終わります」
P「がんばって」
貴音「……はい!」
〜別の日 楽屋〜
律子「みんなー、いいわね、あと30分よ」
あずさ&亜美「はーい」
伊織「……」
律子「伊織ー。返事がないわよ」
伊織「聞こえてるわよ。ちゃんとやるわ」
律子「何怒ってるのよ……ってちょっと電話、ここにいてね、特にあずささん」
ガチャ
伊織「……」
亜美「いおりーん」
伊織「……」
亜美「ねえいおりーん」
伊織「何よ」
亜美「ふだんからニコニコしないとステージ上で笑えないよ」
伊織「不機嫌なんだから仕方ないじゃない。
出番が来れば気分も切り替えられるわよ」
ガチャ
律子「ふう。じゃあ、みんな準備いいわねー」
あずさ&亜美「はーい」
律子「あずささん、ちょっとこっちにいいですか?」
あずさ「はい〜?」
伊織「(ピクン)」
律子「(……で、ですね……今度のロケ……用事が……)」
伊織「(ピクンピクン)」
あずさ「(……それじゃ困ります〜……私、向こうのかたとは……)」
伊織「ちょっと律子!」
律子「ひゃっ!?」
伊織「そんなところでコソコソしてないで、あずさに用事だったらここで話しなさいよね!」
律子「竜宮の仕事の話じゃないわよ」
伊織「知らないわよ。でもね、あずさが困ってるなら、もうそれは伊織ちゃんに無関係の話じゃないの!
どうせあれでしょ。見合いだかなんだか知らないけど
あずさに1人で仕事に行けって話じゃないの!?」
律子「……」
伊織「呆れた……ホントなの?」
亜美「りっちゃん……」
伊織「あんたね! あんたがそんなんでよく私たちに生活態度がなんて」
あずさ「律子さ〜ん。こっち向いて〜」
律子「ふぇ? え? あず」
あずさ「えい(パチン)」
伊織「」
亜美「」
律子「」
あずさ「ごめんなさいね、律子さん。伊織ちゃんも。
この話はこれでおしまいにしましょう。あと20分しかないわよ〜」
律子「」
あずさ「律子さん、ごめんなさいは?」
律子「ご、ごめんなさい。あずささん、亜美……伊織」
伊織「いいわよ。目が醒めたなら。
……私も事情を知らないでひどいこと言ったかもしれないわ」
あずさ「じゃあ今日も頑張りましょう。ね?」
亜美「う、うん」
〜別の日 765プロ更衣室〜
真美「……ということがあったんじゃよ」
春香「あずささんが律子さんをぶつなんて」
雪歩「なんだか……最近、雰囲気が」
千早「萩原さんは気にしすぎじゃないかしら」
雪歩「うう……私、ちっちゃなことでも気にしちゃうから」
春香「でも、でもさ? 少し前まで雪歩は気にならなかったんだよね?
その雪歩が気になるんだったら、やっぱり雰囲気がおかしいんだと思うよ」
真美「真美もはるるんの意見に賛成かなあ」
千早「律子にはもとに戻ってほしいわね。
私、律子はプロデューサーに向いてると思うもの」
春香「? 千早ちゃんがそういうのってめずらしいよね?」
千早「少し前、水着のグラビアの仕事に律子が付き添いに来たことがあったの」
雪歩「それって、去年の春?」
千早「そう。私は初めてのグラビアの仕事で、嫌だって言っていたのよ。
でも、その頃はアイドルをしていた律子が言ったの」
千早「歌の仕事がほしいんでしょ?
だったら知名度少しでも稼がないとダメじゃない。
水着で評価されても嬉しくない?
いいじゃない。それで歌の評価が下がるわけじゃないわ。
『如月千早は顔も綺麗でモデルみたいなプロポーションだが
何よりあの子は歌がいい』
そう言われるのよ。歌の評価が結果的に上がるのよ。悪くないでしょ?』って」
春香「律子さん、言いそう」
真美「千早お姉ちゃんのモノマネもうまいよ」
千早「そ、そうかしら。
でも私はあの一言で納得できたのよ。
律子の言葉には力があると思うわ」
雪歩「私にとっては、『なるほど』の人かなあ」
春香「あー、『なるほど』の人ね」
真美「なにそれ?」
春香「765プロがまだ候補生だけだった頃ね。
私と雪歩、あずささん、四条さん、やよいだけで
そこに律子さんが入ってきてね」
雪歩「すごかったよね。少し教わって、一日二日できなくても
ある日『なるほど、わかった』って言ったらダンスもボーカルも
そこでは詰まらなくなっちゃうんだよね。
私、ぜんぜんダメダメだったから憧れちゃったなあ」
真美「憧れってわかる気がする」
千早「そうね。アイドルとしてじゃなくて、年上の女の人として憧れるのはわかるわ」
春香「軽々とレッスンで追い抜いて、デビューして、トントン拍子に有名になって
でもひょいっと辞めちゃって、今は敏腕プロデューサー。
プロデューサーさんは頼りになる感じがするけど
律子さんはああなりたい、って思うんだよね」
雪歩「だから……今の律子さん、見ていたくない……かな」
真美「真美もしょんぼりする亜美は見たくないよ」
春香「私たちで何かできないのかなあ」
千早「事情もわからないけど……プロデューサーはどう思っているのかしら」
〜別の日 夜 765プロ〜
あずさ「おかえりなさい、プロデューサーさん」
P「ただいま戻りました。あれ? あずささん1人ですか?」
あずさ「はい〜。小鳥さんには私が待ってるからいいって言って」
P「音無さんに連絡した時間より遅れましたね。待たせたならすみません」
あずさ「いえいえ」
P「5分待ってもらえたらマンションまで送っていきますよ。ナビできます?」
あずさ「(にこにこ)」
P「はい、カーナビに任せましょうね。じゃあ行きましょうか。
電気消して……ああそうだ。女子トイレと更衣室の電気見てきてください」
あずさ「普段、プロデューサーさんが最後の時は電気の確認はどうしてるんですか?」
P「どうするも何も、ノックして返答がなければドアを開けますよ」
あずさ「それもそうですね」
P「暖房オッケー。じゃあ行きましょう」
あずさ「プロデューサーさん。律子さんの件ですけど」
P「伊織と律子からそれぞれ話を聞きました。ありがとうございます」
あずさ「律子さん、お見合いやめてもらうわけにはいかないんでしょうか」
P「自重しろとは言ってるんです。でも俺が言うとなんか意地っ張りなんですよね。
ただ、悪影響がひどい。なるべく穏当に済ませたいんですけど」
あずさ「クビ……ですか?」
P「社長は様子を見ろって言ってますけど
俺ははっきり言って怒ってます」
あずさ「そう……ですか」
P「ここで律子の話をしていても仕方ない。
今日はラジオとCMでしたね? どうでしたか?」
あずさ「それが〜」
P「あはは、っと。途中カーナビが不思議な挙動をしたけど無事に着きましたね。
あの白いマンションでいいんですよね」
あずさ「はい、あの、その前に少しお話が、ありまして」
P「? ならこのあたりで停めておきますか」
あずさ「あの、貴音ちゃんと美希ちゃんのこと聞きました」
P「」
あずさ「あの?」
P「そ、そうですか。なんというか、みんな……オープンですね」
あずさ「一晩中あたま撫でてあげましたから」
P「俺は果報者だな。ありがとうございます」
あずさ「それで、ですね」
P「はい」
あずさ「私も……プロデューサーさんのことが好きです」
P「」
あずさ「」
P「」
あずさ「」
P「」
あずさ「あの、何かおっしゃってください……」
P「……真剣だと思うから、そのつもりで話します。
もしも壮大なドッキリだとしたら今のうちに止めてください」
あずさ「ドッキリじゃありません。今、かーっと頬が熱いの見えませんか?」
P「わかっています。
まず、ありがとうございます。あずささんのような女性に慕われるなんて夢のようです」
あずさ「じゃあ……?」
P「でも、ダメです。貴音から聞いていますよね。
俺はアイドルとは交際しない。自分がいちばん嫌いな人種にはなりたくない」
あずさ「今アイドルを辞めて、どこかにOLとして就職して」
P「冗談でもやめてください。ドラマの重要なサブが決まりそうなんです。CDも順調に売れてるんです」
あずさ「ドラマよりも、CDよりも、大事なものはあると思います。
私にとっては、それは、好きな人のそばにいることです」
P「そんな幸せは他の人に任せて下さい。
あずささんが掴もうとしているものを
願うことすら思いつくことすらできない人間がこの世のほとんどなんですよ」
あずさ「私は、私です。他の人は、他の人です」
P「……俺の話をしてもいいですか」
あずさ「……はい?」
P「俺はよく言うテレビっ子でした。
俺が中学生の頃は、トレンディドラマがまだ盛り上がっていた頃で
『明星』から『ROADSHOW』まで少ない小遣いで買ったり、
買えないものは図書館で暗くなるまで読んでました」
あずさ「はい」
P「高校になって演劇部に入って、大学で演劇サークルに入って。
二年の時にホンを書く奴と組んで劇団を旗揚げして。
三年、四年はそれこそ客演も含めると3ヶ月に1回はなにかしらの舞台に立ってました」
あずさ「そうだったんですか〜。きっとカッコよかったんでしょうね〜」
P「四年になって就職を考えた時、少しだけ考えたんです。
このまま役者の道を選べないのかって。
そこであきらめました。その道を選ぶには華か覚悟のどちらかが必要だったと思いますが
俺にはどちらも足りないと思ってしまったからです」
あずさ「……」
P「俺は持ってないから、持っている人がわかるんです。
あずささんはあの時の俺が喉から手が出るほどほしかった華をもってるんです。
そういうものを持って生まれてしまった人は、その道に進む義務があると思うんです。
義務というか、他の道を選んだらそれはあずささんの最高の道じゃないとわかるんです」
あずさ「……私も、私もそう思うようになってきました。
いつか運命の人に出会うとしても、それまでできるだけやりたいって」
P「そうでしたか。そうですよ! 今やめたら、もったいなさすぎますよ!」
あずさ「プロデューサーさんが、現役の芸能人とお付き合いしないのなら
きっと、私の運命の人ではないんですね」
P「残念ですが、そうですよ」
あずさ「うふふっ。本当は黙ってるつもりだったんです。
少なくとも、私と貴音ちゃんは。
でも、ちょっとチャンスだったから言っちゃいました。
すっきりしました……」
P「俺は、本当に、果報者です。
でも、すっきりしてくれたなら、よかったです。
貴音に宝石商の話をしたんですよ。聞きましたか?」
あずさ「はい。ロマンチックでした」
P「呪いの宝石というものがあるんですけど」
あずさ「呪い?」
P「代々の持ち主が、そろって不幸に見舞われる宝石です」
あずさ「あ、私も聞いたことがあります」
P「まあ迷信のたぐいですよ。でも、一つ興味深いことがありまして。
その宝石を扱った宝石商が死んだ話はほとんどないんです」
あずさ「……確かにそうかもしれませんね」
P「そうなんですよ。宝石にとって、宝石商は眼中に入らないんです。
呪う価値もない存在なんです。
俺は、俺たちの業界もそうであるべきだと思います」
<蛇足>
ホープ・ダイアモンドの被害者とされているリストには宝石商も含まれています。
しかし私はその宝石商の存在自体を疑っています。
Pはこの場では喩え話だから伏せています。
失礼しました。
〜〜あずさの自宅〜〜
あずさ「三人衆の最後の私もふられちゃいました」
貴音「あずさならばあるいはと思っていましたが」
あずさ「私も、貴音ちゃんならもしかしてと思っていたのよ」
美希「ミキは、ミキなら大丈夫だと思ってたの」
あずさ「ミキちゃんは可愛いわね〜」
美希「えへへ、なの」
貴音「あずさ、私にもなでさせてください」
美希「えへへ。なんだか眠くなってきちゃったの……」
あずさ「ところで美希ちゃんの頭は貴音ちゃんが撫でてあげたのよね」
美希「そうなのー。お膝、やわらかかったの」
あずさ「貴音ちゃんの頭は私が撫でてあげて」
貴音「手のひらにぬくもりを感じました」
あずさ「私は一体誰に慰めてもらえばいいのかしら」
美希「年齢が一巡して亜美でいいの!」
貴音「いえ、あずさ用の頭なで要員として律子を拉致しました。こちらに」
律子「パジャマパーティーだと思って参加したらお通夜だったでござる」
あずさ「律子さんにはあとでゆっくり慰めてもらうとして、伊織ちゃんと仲直りできました?」
律子「できてません……それどころか、ほとんどの子から微妙に避けられてるような気がして」
美希「だって律子さんひどいもん」
貴音「美希、そうやって切り捨てるものではありませんよ。
秋月律子、今日はあなたのためを思ったぱじゃまぱーてぃなのです」
律子「そうだったの? 私帰りがけについでに誘われただけだと思ってたんだけど」
貴音「先月からの律子の失態」
律子「失態……」
貴音「そして皆の不信感を一言で払拭する、魔法の言葉があります」
律子「うっ。それすごく知りたい」
貴音「それは」
美希「ハニーがかまってくれなかったから寂しかった、てへへって言えばいいと思うな」
貴音「美希……わたくしの……決めぜりふを……えいっ このっ」
美希「ひゃかね、やめふぇ」
律子「いやいやいやいや! それはナイ! 言えない! だって事実と違う!」
あずさ「本当ですか? 本当に事実と違うんですか?」
律子「うっ」
あずさ「このパジャマパーティーは、プロデューサーさんにふられちゃった
3人のパジャマパーティーです。
ここではプロデューサーさんを好きだって言うのは別に恥ずかしくないんですよ。
それを踏まえて、事実と違うんですか?」
律子「うう」
あずさ「プロデューサーさん、律子さんにだけは親しい口調ですよね。
律子さんもプロデューサーさんにだけは甘えてますよね。
それを踏まえて、事実と違うんですか?」
律子「……」
あずさ「声が小さい」
律子「チ、チガイマセン」
あずさ「認めましたね」
貴音「わたくしが証人です」
美希「律子さんまっかでかわいいの」
律子「うう……。でも、私のことなんかなんとも思ってませんよ。
見合いも仕事にさわらない間は喜んでるくらいだったし」
美希「あんなカタブツでめんどくさいハニーの態度なんか信じられるわけないの!」
あずさ「そこでプロデューサーさんを」
ピンポーン
あずさ「お呼びしました」
90 & 86 & 85「!!!!!!!!」
P『あずささん!? 俺です! どうですか、美希の具合は!』
あずさ「先ほどメールを送ったんです〜。美希ちゃんにお酒を飲ませたらぐったりしちゃったって」
貴音「ああああずさ、ささささすがにこの格好をととと殿方にみせるわわわけには」
律子「着替えさせて! 着替えをください!」
あずさ「はーい夜遅くすみませんでしたプロデューサーさん」
P「おじゃまします! 美希はどこですか。どのくらい酒を飲ませましたか。そのあとどう――」
美希「ハニー! ミキが心配で来てくれたんだねー!」
P「100円……あずささん、これはどういうことですか」
あずさ「プロデューサーさん、私が嘘をつくはずがないと思ってますよね?」
P「はい、ええと、はい。あ、律子。どうなってるんだこれ」
律子「あの、えと、見ないで」
あずさ「私が嘘をつくという仮定でちょっと考えてみてください〜」
P「あずささんが嘘をつくかもしれない世界……そういうものがこの世にあるとして、今ココがそれだとして」
P「あ、なるほど。俺は騙されて呼び出されたんですね」
あずさ「正解です!」
P「てことは、美希はお酒は?」
あずさ「飲ませてません」
P「貴音もまだ19だよな」
あずさ「飲ませません。お酒は用意してませんよ?」
P「……諸事問題なし。で、俺はなぜ呼び出されたんですか」
あずさ「私たち四人でお聞きしたいことがあるんです」
P「はあ、……ちょっと、まず、水を」
あずさ「あら、ごめんなさい〜」
P「人心地ついたな。それにしてもみんなのパジャマは見たことがなかった。
目に毒だから話は後日というわけには」
あずさ「だめですよ〜。今日は律子さんの反省会なんです」
P「それは……参加しないと。ただ、俺が心配しているのは
もっと下の子たちへの悪影響だけど」
あずさ「さっき律子さんが言ったんです」
律子「やめて! あずむぐぅ」
美希「ぎゅーっ! 律子さん顔がすっごくあったかいのー」
あずさ「律子さん、プロデューサーさんがかまってくれなかったから
寂しくてお見合いしちゃったんです」
P「は?」
あずさ「お見合いなんて、好きな男の人には止めてもらいたいのに。
プロデューサーさん、おとなぶって応援したりして。
律子さんが寂しくなるのもあたりまえです」
P「何。何この何」
あずさ「プロデューサーさんはアイドルとはお付き合いしなくて」
貴音「最終の経歴があいどるであっても交際はしない」
美希「めんどくさいの」
あずさ「このヘンなルールを作るのは、律子さんとはお付き合いできるようにするためですよね」
P「や、だって律子はアイドル――」
律子「じゃないですよ、もう」
P「律子……」
律子「アイドルじゃないです。私はもうプロデューサーです。
そりゃ、まだ頼りないから、そうは思えないんでしょうけど」
P「……頼りないやつに5年後敏腕になるなんて言わない」
あずさ「じゃあなんで、律子さんを放っておくんですか」
P「いや、その理屈はおかしい。
条件がいいかどうかじゃないでしょ。こういうのは気持ちのもん――」
美希「ハニー!」
P「はい! あ、100円」
美希「そういうのは律子さんの顔を見て言わないとヒキョウだって思うの!」
P「……」
貴音「呪いの宝石がどうして宝石商を殺さないか。
プロデューサーもわかっておいででしょう。
あずさに言ったように、眼中にないからではありませんよ」
P「……」
あずさ「私たち宝石は、宝石商に恋をしているから殺さないんです。
あたりまえです。見つけてくれて、磨いてくれて
自信を持て、きれいだよってずっと言ってくれて
お客さんが褒めてくれたら、自分のことみたいに喜んでくれる。
私たちは自分が宝石だってことをわかってます。
でも、本当はいつだって宝石商のもとにいたいんです」
P「……それは、客への裏切りです」
あずさ「だから厳しくルールで縛るんでしょう。
宝石も宝石商も自分に言い聞かせて
お客さんのためにいるんだっていう、嘘をつく。
でもですね、宝石の中には嘘をつけなかった子もいるんです。
キラキラするのをあきらめて、宝石をやめて
宝石商の足元に落ちてきた。
そのたった一つを自分のために納めてあげるポケットも
プロデューサーさんは持っていないんですか」
律子「ぐすっ…ひっく……」
P「律子……」
律子「ごめんなさい。私なんか……」
P「……」
P「俺は律子が好きだ」
律子「!」
P「笑い顔が好きだ。泣き顔が好きだ。
怒っている顔が好きだ。へこんでいる顔が好きだ。
色気のない眼鏡が好きだ。胸も、腰も、肩も、指の長さも好きだ」
律子「あ、あう」
P「テレビで動物映像が始まるとちらちら見てしまうところが好きだ。
セットリストを決めるためにハミングを続けるのはずっと聞いていたくなる」
貴音「(こ、これは……なかなかの精神攻撃ですね)」
美希「(ミキ、今の状況を知ってるの。ナチスとかユダヤとかいう映画でみたの)」
あずさ「(甘酸っぱい恋の空気が立ち込めてるわ〜。ただし致死量の)」
P「亜美や真美を怒る時の声が好きだ。
俺から借りたボールペンの尻も噛んでしまってはっとしてる顔が好きだ。
返すに返せなくてコンビニで同じものを探して悩む生真面目さも好きだ」
美希「(貴音ぇ、もうムリなの。もっかいお膝かして)」
貴音「(よしよし、いい子ですね)」
あずさ「(律子さぁん、もうム)」
貴音「(それはなりません、あずさ)」
あずさ「(ですよねー)」
P「十も年上の現場スタッフに負けずに噛み付く強気が好きだ。
衣装を1人で決められなくて音無さんを待つ頼りなさが好きだ。
アイドル時代のことを少し言われただけで真っ赤になる首筋が好きだ」
P「本当は、候補生に迎え入れたことをすぐに後悔した。
頭の回転が早く、頭が悪くて、頑固で、甘えん坊で、性悪で、お人好しで、世間知らず。
ずっと手の中に隠しておきたかった。
ただ、アイドルの経歴は律子の武器になるから今はよかったと思っている」
律子「わ、私も……やってよかったと……
でも、今は、手の中に隠しておいて、ほしいです」
P「今夜電話していいか?」
律子「え、はい? はい……」
P「こういうことを、ゆっくり言いたい」
律子「あ、え、うう」
P「ここでは、落ち着いて言いたいことも言えないから」
美希「(ミキ、呆れてものが言えないの)」
あずさ「(やぶをつついたら虎が出てきた気分ね〜)」
貴音「(わたくしたちの自業自得です。耐えましょう)」
あずさ「(少しでいいならお酒もあるわよ〜。このあとは失恋パーティーしましょう)」
P「10代の恋愛を、俺が台無しにしたって言われたよな。
せめて今からでも、そういうことをしてやりたいんだ。
いや、したいんだ。俺も律子と」
律子「ま、待ってます。
帰って、布団の上で、携帯かかえて待ってます……」
〜〜律子自宅〜〜
律子(なにこれドキドキしてる)
律子(ああもう、電話手放せないじゃない。
プロデューサーの家は遠いんだし
運転しながら電話してくる人じゃないんだから
あと1時間はかかってくるわけないのに)
電話『リッチャンニオデンワデスヨー! リッチャンニオデンワデスヨー!』
律子「えっ! って、伯母さんか。……コホン。もしもし」
伯母『りっちゃん、この間話した人、来月のセッティングできるって』
律子「伯母さん、その件なんですけど、もう結構です」
伯母『なに? 文京区に500坪の物件なのよ?』
律子「もういいんです」
伯母『……好きな人が見つかったのね?』
律子「え、えへへへ」
伯母『ねえねえ、どんな人? 財産は?』
律子「資産なんかない。外見もパッとしない。性格も悪い。
最初のモブ原さんを20点としたら、3点の人です」
伯母『……そう。ねえりっちゃん』
律子「はい」
伯母『男の価値って世の中で自分だけがわかっているのが一番いいのよ』
律子「……伯父さんも、そういうタイプですよね」
伯母『そう。自分だけがわかる男が、自分だけを愛してくれるのがいちばんなのよ。
私は秋月の長女で一族の財産を太らせる使命があるけど
りっちゃんがそういう人を見つけたのなら、一族会議でも絶対その人がいいって言うわ』
律子「ごめんなさい。お役に立てなくて」
伯母『いいわよ〜。りっちゃんのお陰で涼がマシになってきたから
涼を使ってどこかの資産家を乗っとるから〜。
近いうちに、好きな人を紹介してくれるわよね?』
律子「あ、はい。はい、失礼します」
律子「ふうっ」
律子(ドキドキがすっかり冷めちゃった)
律子(……)
律子(メール、打っちゃおう。電話くれるって言ったけど、たぶん、怒らないわよね)
件名『アイドルは生活態度!』
本文『だったら、私たちプロデューサーだって同じですよね!
明日は現場前に事務を片付けたいので早出なんです。
だから、今夜は早く寝ようと思います。
あずささんの家で言ってくれたことだけで
あと5年頑張れます。寂しくなったらあれを思い出します。
だから今日は電話はいりません。
声も聞かないほうがいいと思います。
自分が意思が弱いって、もうわかっちゃったから。
みんなの信頼を取り戻すためには
この先半年や一年じゃむりだと思うんです。
生活態度をぴしっとひきしめて
お仕事第一、みんなが第一
それで頑張って頑張って
ようやくまた信じてもらえるようになると思います。
明日からひとりひとりに謝ります。
あなたとお付き合いするって
言っちゃいますけどいいですよね?
声が聞きたいです。すごく聞きたいです。
私も言いたいことがあります。たくさんあるんです。
でも、我慢します。我慢させてください。
そうじゃないと、あの子たちに我慢しろなんて言えません。
お休みなさい。今日はありがとうございました。
これからも、よろしくお願いしますね?』
律子「ダーリン、は、さすがに……ムリ。えい、送信」
律子(あ、でも……)カチカチ
携帯『リッチャンニオテガミデスヨー! リッチャンニオテガミデスヨー!』
律子「きゃあ!」
登録名変更はなんとか間に合った。
メールの受信覧には『ダーリン』という文字が光っている。
これはちょっとアイドルの子たちには見せられない。
今はこれだけでいい。
メールを着信したり、電話を受けたり。
その時この表示を見てちょっとへにゃっとするだけでいい。
私がしなかった10代の恋愛って、こういうものじゃないのかな。
私、うぶですか?
いいんです。私にはこれが精一杯なんです。
数十秒発信欄を見て、メールを開く。
一回読んで、二回読んで、三回読んで
枕に顔を押しつけて足をバタバタさせた。
メガネかけてたまんまだったのに、ぎゅうっと。
……これが、わたくし秋月律子が
その最高の写真の中で
女子中学生みたいな野暮ったい眼鏡をかけていた理由でございます。
<オシマイデスヨ!>
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。お疲れ様でした。
HTML化するまでの暫くの間、ご意見ご感想等いただけたら幸いです。
>>85
隠すことでもないと思うので
律子「本日はみーんなーにー」
P「つまり、夢の中か」
愛「反抗期だよー!」 舞「ふーん?」 愛「げえっ! ママ!」
が、過去作です。
次は速報でダークソウルというゲームのSSを書く予定です。
ダークソウルでもある方は読んでいただけたら幸いです。
私の最高の写真だけど、そこにいる私の眼鏡はとっても野暮ったい。
親と一緒に初めて買った中学生がするような、ゴツいフレームと分厚いレンズの眼鏡。
見た人はみんな、いい写真だねって言ってくれたあとで
私の眼鏡に気づいて大笑いする。
ちょっとその写真の話をしたいと思う。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1341124412(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
律子「プロデューサー。今度の日曜午後、あずささんの立ち会い代わってもらえませんよね?」
P「んー? 何時からどこ?」
律子「13時から麻布十番で料理教室のレポーターです。終わりが16時半。無理ですよね?」
P「なしてそんな後ろ向きなの。空いてるしいいよ。
3日くらい前に11連勤だーって呟いてただろ。休むのも仕事のうち」
律子「じゃあ、お言葉に甘えます……あーあ」
P「なに。乗り気じゃないの。どしたの」
律子「見合いするんですよー」
P「ふーん。そうなんだって、え? 見合い?」
律子「はい。見合い」
P「でも律子そんな年じゃないよね」
律子「女はハタチ超えたら家庭に入るのがうんちゃらっていう伯母さんがいて、見合いを勧めるのが生きがいで」
P「見合いを勧めてくるおばさんって実在したんだ。マンガのなかの生き物かと思ってた」
律子「あたしは恋愛結婚するんだって言ってるんですけど(ちらり)」
P「見合いを毛嫌いすんなよ。俺たちのじさまばさまの頃はみんな見合いだったよ?
いつの間にか恋愛結婚が普通になっちゃったけど、現代の結婚生活が幸せになったとは思わないな」
律子「あら、プロデューサーは見合い派ですか? アンチ恋愛結婚主義?」
P「んー。賢い2人なら2人の向き不向きを見極められるだろうけどね。
でも結婚してどうなるかの想像なんて、年齢と経験がものをいうでしょ」
律子「結婚も事業として考えてるんですか」
P「事業というか、ライフスタイルの変化だよね。
重要なことだから経験者の意見は必要だと思う。
でも律子はまだもったいないよ。見合いする男って女は家庭に入るべきとか思ってそうじゃない?」
律子「そうそう! プロデューサー殿はそんなこと言いませんよね?」
P「いや? 奥さんは家庭を守るのがいいと思うな、俺は」
律子「直前に自分が言ったことすら覚えられないのか、あんたは」
P「律子『は』もったいないって話。だって5年後には業界屈指の敏腕プロデューサーになるんだよ。
家庭に入るのは25才で敏腕プロデューサーになれない子に任せたらいい」
律子「う、あ、ありがとうございます」
P「あーでも、見合いで出会う男がうんちゃらがそもそも決めつけだからな。
今の時代で経済的には安定しているだろうから、開明的かも。
やっぱり会ってみるといいと思うけど……律子」
律子「な、なんですか」
P「ホワイトボードに、日曜AM10:00からあずささん〜16:30って書いてある」
律子「はい。お見合いが14時に恵比寿なんですよ。だから13:00に抜ければ」
P「バカりつこ!」
律子「きゃあっ!?」
P「せっかくのお見合いなんだから午前中に美容院にいかなきゃダメなの! この、げんなりつこ!
そんなんじゃ相手のハンサムもうんざりつこなの!」
律子「いまの美希のマネですよね。全然似てないですけど」
P「美希って語尾変えるだけでマネになるからいいよね。
そのかわり似せようという努力を放棄しちゃうけど」
律子「それは同感ですが、あの小娘私のことをバカ律子とか呼んでるんですか。
あとでシメとこう」
P「あ、可哀想。そのあとでいちごババロア買ってあげよう。『ハニー募金』から」
律子「それ結局美希のお金じゃないですか」
P「でも喜ぶんだよ美希。ありがとハニー! 嬉しいの! ってまた100円」
律子「美希ってほんとに可愛いですよね。男だったら結婚したいな」
P「てめえ。うちのアイドルに手を出した奴は乳幼児だろうがローマ法王だろうがすりつぶすからな」
律子「残念私にはすりつぶすものがない!」
P「あ、そっか、女だったのか律子」
律子「……いつの間にか下ネタにも慣れてしまいました」
P「俺と音無さんなんて2人になるとずっとこんなんだったよ。
律子もアイドルやってた頃は聞かせなかっただけで。
今でもあの子たちには聞かせるなよ。耳と心が腐る」
律子「耳と心が腐るような会話をしてるのか20才の私は」
P「とにかく午前も休んで美容院いけよ。おばさんと相手の人に失礼だろ」
律子「でもプロデューサーは午前中はダメでしょ?」
P「午前中のは社長に頼めばいいだろ」
律子「え!?」
P「たまには現場へのあいさつ回りしてくれっていえば、喜んで代わってくれるよ。現場大好きな人だもん」
律子「あんまりおおごとにしたくないんですけど」
〜日曜日〜
P「社長ー。あずささーん」
高木「おお、おつかれさま」
あずさ「おはようございます、プロデューサーさん」
P「バトンタッチですね。お疲れ様でした、社長」
高木「うん。私はちょっと近所の知り合いのオフィスに顔を出して帰るよ。
さようなら、三浦くん」
P「さてあずささん、行きましょうかね」
あずさ「あの、プロデューサーさん?」
P「なんですか?」
あずさ「律子さんが今日お休みの理由って」
P「骨休めですよ」
あずさ「あの、社長は、お見合いって」
P「空気とか読めないのかなあの世代は」
あずさ「本当なんですか?」
P「まったく……本当ですよ。ただ仕事を代わったのは
見合いだからじゃなくて律子が働き過ぎだからです」
あずさ「あの、いいんですか? プロデューサーさんは」
P「俺はみなし管理職だから、勤務超過はかなり大丈夫です。
でも、ハタチの女の子が16連勤はいけません。
労基署に刺されたらうちはイッパツで潰れます」
あずさ「そういうことじゃなくて。
律子さんがお見合いしてもプロデューサーさんは平気なんですか?」
P「いいじゃないですか。いろんな男を見る機会があったほうが」
あずさ「はあ……もういいです!」
P「?」
あずさ「律子さん、かわいそう」
P「あずささん」
あずさ「なんですか!」
P「なんでUターンしたのかよくわかんないですけど
改札入ったばっかりのスイカですぐ出ようとすると」
ピンポーン バタン
あずさ「きゃっ!」
P「えーと、これ迷子っていうより医者が必要なレベルじゃねえの」
〜恵比寿 シェラトン都ホテル〜
律子「あー疲れた」
伯母「りっちゃん、タクシー来たから行くわよ」
律子「はーい。疲れましたよ」
伯母「でも良い人だったわね〜」
律子「いやそれは掛け値なしに」
律子(ここはあえて、唯一の身近な男であるプロデューサー殿を基準にすると)
律子(スポーツで焼けた肌、引きしまった頬、高すぎず低すぎもしない身長。
上質なスーツと靴は5プロデューサーを超える)
律子(話もソツがないし聞くのが上手だし、いわゆる一般常識もきちんとあるし
人当たりも4プロデューサーくらいか)
律子(そして経済面では開業医の長男で本人もストレートの大学病院勤務医。
いずれは広尾に家と病床200を超える病院の跡継ぎ。もはや10プロデューサー以上)
律子(3分野を合計して、プロデューサーを3プロデューサー相当の男とすると、その差……6倍!)
律子(プロデューサーがあの世代の男の中で
下の中あたりだとしても、相当の優良物件よね……)
ドキン★
律子(何? この胸のときめきは?)
律子(……広尾に家と200床の病院なんていったら
銀行からいくら引っ張れるのかしら)
律子(やだ……私……ドキドキしてる……これは、恋?)
律子「ああ、生きるべきか、死すべきか。この胸のときめきに」
伯母「詩人ねりっちゃん」
律子「似合いますか」
伯母「まなざしは獣のようね」
律子「隠しきれませんか」
伯母「私も秋月の女よ。じゃあ進めてくれって言っていいのね?」
律子「う……今晩のうちに決めてお電話します」
伯母「あら。りっちゃんはまだまだネンネね。実は私が獲ろうかと思いかけてたわ」
律子「だから襟元乱れてたんですか。向こうのお父さんがガン見してましたよ。自重してください」
〜夜・律子の自宅〜
律母「律子〜? 姉さんから電話があって、先方に断られたって〜」
律子「まじか」
〜翌日午後 765プロ〜
律子(昨夜はちょっと恋に迷って定款を8割書き上げてたけど、どうかしてたわね)
律子(そもそも私は恋愛して好きな人と結婚するつもりじゃない)
律子(……それにしても逃げられた理由が気になるのよね)
律子(「結婚したら家に入ってくれる女性がいい」だなんて)
律子(お見合いでそんな話題出てないんだけどなあ)
律子(それに、あのひとと結婚したら、家とはすなわち秋月芸能事務所のことよね。
言われなくても家にいりびたりだわ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あずささんがこっちを気にしている)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あからさまにわかるのに、本人はさりげないつもりなのよねえ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(あれで役者としては演技がうまいのはなんでなんだぜ。ああでも可愛いなあ)
あずさ「(ちらちら)」
律子(可愛すぎて仕事が手につかないのでやめさせよう)
律子「あずささ〜ん。お茶淹れますからそっち行っていいですか」
あずさ「あ、あら。どうぞ〜」
律子「雪歩に教えてもらったんですけど、それなりのお茶っ葉でも淹れ方でおいしくなるんですよね」
あずさ「美味しいわ〜それで律子さん、お見合いの件なんですけど」
律子「うわあド直球だ」
あずさ「あらあら。もっと前ふりを考えていたのだけれど」
律子「あずささんて会話でも迷うんですね」
あずさ「で、どうでしたか? お見合い」
律子「その前に誰から聞いたんですか」
あずさ「それは……プロデューサーさんです!」
律子「あの野郎」
P「今戻りましたー」
律子「あ、3プロデューサーしかない人だ」
P「え? 俺3人もいるの? じゃあ3人別の場所で仕事できる?」
律子「いいえ。プロデューサーは3プロデューサーあってようやく一人前です」
P「あれえ? 俺のことを一人前と言ってくれてるハズなんだけどなんで傷つくんだろ」
律子「せめて3倍謝ってください」
P「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
律子「ごめんなさいは一回! 小学生ですか! 3プロデューサーしかないくせに!
それはそれで、みんなには見合いのこと内緒にしろって言ったのはプロデューサーでしょ!」
P「え? 俺がバラしたことになってんの? あ、あずささん?」
あずさ「ええ。プロデューサーさんが」
P「え? だってあれ社長が」
あずさ「いいえ、プロデューサーさんが」
P「マジすか」
あずさ「うふふ」
社長「うふふ」
P「社長はスルーで」
律子「了解」
あずさ「はあい」
社長「なら私は銀行に行ってくるよ」
P「あずささんが言うなら俺がばらしたんですよね。知らなかった。
でもあずささん? 他の子に言っちゃダメですよ」
あずさ「どうしてですか〜?」
P「幼い子たちと知能が残念な子たちは
見合いしたという事実だけで律子が辞めちゃうと勘違いするからです」
律子「ちなみに残念な子って誰ですか」
P「響と真と春香だ」
律子「あなたほんとにアイドルのこと大事とかかわいいとか思ってるの?」
亜美「おっはよー! りっちゃーん! 昨日見合いしたんだって〜!?」
あずさ「プロデューさん、口が軽いですよ」
P「俺? 昨日2人には会ってないよ?」
律子「3倍謝ってください」
P「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
律子「ごめんなさいは一回。ところで二人とも。どこからその話を聞いたの」
真美「んっふっふ〜。実は昨日のりっちゃんのお見合い相手のモブ原モブ彦にーちゃんのパパは、
うちのパパの同期なんだYO!」
亜美「りっちゃんはお仕事を辞めそうですか? って訊かれたから
亜美たちをトップアイドルにするまで絶対に辞めないよって答えておいたんだ!」
律子「広尾の土地が逃げたのはあんたたちのせいか。
たまには素手で人を絞め殺せるか試してみようかな」
真美「ギブギブ」
亜美「ああ〜あひゃまがぽうっとしてきた〜あれ〜おじいちゃん〜」
P「お前らの父親の同期ってことは医者か! 律子なんで断ったんだそんなうまい話」
律子「私は断ってない! アゲアゲの髪で法務局の売店に駆け込んで
登記書類一式買い込んだんですよ。胸のときめきのままに。それをこの子たちが」
真美「はあ、はあ、あー苦しかった」
亜美「でもりっちゃん、あの家に入ったら、いくらりっちゃんでも改造されていいお嫁さんになっちゃうよ」
真美「それにりっちゃんがモブ原なんて苗字になるのはいやなんだもん」
律子「大丈夫よ。死んだ魚は水をはねないわ。入籍前に全員抹殺して、姓は秋月にするから。
秋月はそうやって生きてきたのよ」
P「亜美、真美」
真美「なあに兄ちゃん」
P「お前たちは罪なき市民の幸せを守ったんだ。偉いぞ」
亜美「結果的にいーことしたみたいだよ!」
P「油断してたらお前たちの家もローソンになってたかもしれないな」
あずさ「ところで亜美ちゃんと真美ちゃんにもバレちゃいましたね〜」
P「そうですねえ。亜美、真美、律子の見合いのことは兄ちゃんとの秘密にできるか?」
真美「大丈夫! 事務所のみんな以外には言わないよ!」
P「ごめん律子。これが精一杯みたいだ」
律子「もういいですよどうせ断られたんだし」
〜別の日〜
美希「ハニー!」
P「おはよう美希。今日も朝から100円罰金だな」
美希「ひどいの」
小鳥「おはよう、今日も元気ね美希ちゃん」
P「ひどいってお前、呼び方変えればいいだけだろ」
美希「だってハニーはハニーなの!」
P「200円。飛ばすなあ。このぶんなら今日中に1万円突破するな」
美希「あれ? 昨日たしか1万円になったって」
P「ああ、昨日買ってやったいちごババロアは『ハニー募金』からの支払いだ」
美希「なら仕方ないの」
P「美希はかわいいなあ」
美希「それよりハ、プロデューサー、律子と別れたってホントなの?」
P「律子は目上なんだから呼び捨てにするな」
美希「そういえば律子、さん、よくわからないことで怒ってたの。
美希は律子さんのことバカ律子なんて言ったことないの」
P「それが日頃の行いってやつだ」
美希「むー。むつかしいの」
P「で、別れたってなんなんだ。そもそも付き合ってすらいないぞ」
美希「え?」
P「事務所のアイドルとそんなことするわけないだろう」
美希「そうなの?」
P「ああ、アイドルに手を出す奴はすりつぶす。自分だって例外じゃない」
美希「じゃあじゃあ、ミキをお嫁さんにしてくれる?」
P「中学校の教師って我慢強くないと勤まらないんだな。
今の流れでなにがどうやって俺と美希が結婚するんだ」
美希「頭が固いの、ハニー」
P「100円。美希みたいになるくらいなら固いほうがいいよ。
まあ暇だから、どうして俺と美希が結婚できないか説明してあげようか」
美希「はいなの」
P「つってもありきたりなもんだな。年の差だ」
美希「愛があればそんなの関係ないの!」
P「そうかもしれない。だが俺の方に美希への愛がないのでそもそもその理屈は無理だな」
美希「ひどいの」
P「現実は残酷なもんだ。もっと残酷な現実を説明してやろうか」
美希「怖いけどミキ、ハニーのためなら頑張るの!」
P「100円。この調子なら月末にはみんなでもんじゃを食いに行けるな」
美希「ミキ、なんでこの人のこと好きなのか自分でもよくわかんないの」
P「まず大前提として俺はアイドルとは付き合わないから
美希がアイドルのままなら結婚しない。これはオーケー?」
美希「知ってるの! 知ってるけど気にしないの!」
P「お、それは大人の態度だな。でももう1つ条件があって、
最終職歴――最後の仕事だな、それがアイドルの奴とも付き合わない」
美希「なにそれひどいの! 後付けなの!」
P「後付けなのはその通りだし、フェアじゃないのも認める。
だがこの場合ルールを決めるのは俺だし、ルールが嫌なら美希には参加しない選択肢があるぞ」
美希「むー。聞いてあげるから続けるの」
P「美希が俺と結婚できるのは、引退して他の仕事をしてその世界を経験してから。それはいくつくらいだ」
美希「えーと。25くらい?」
P「案外妥当だな。25才の美希はどうなってる?」
美希「すっごくキレイでキラキラしてるよ!」
P「俺もそう思う。美希は頭の切れる怠け者だから仕事はできるだろうし、
ちょっとデリカシーはないけど性格も素直ないい子だ。
いまこんなにかわいいんだからその頃にはものすごい美人になってるだろうな」
美希「えへへ……。やっぱりハニー、いじわる言っても美希のこと好」
P「100円。美希を知る男みんなが美希をお嫁さんにしたがるだろう。
じゃあ、その時35才の俺はどうなってる?」
美希「ハ、プロデューサーはかっこいいに決まってるの!」
P「それはありえない」
美希「ほえ?」
P「人間のキレイは18才をピークにしてあとは落ちるだけなんだ。
もちろん18から25なんて大した違いはない。
それどころか経験と落ち着きのお陰で魅力が増すくらいだ。でも25から35は違う」
美希「そうなの?」
P「35の俺は、口が臭くなって耳の後ろが臭くなって
腹が出て髪が薄くなって肌が脂ぎってる」
美希「なんでそんなひどいこと言うの!?
カッコイイおじさんはたくさんいるの! ハニーもそうなればいいの!」
P「100円。もちろんかっこいいおじさんはたくさんいるが、俺はそうならない。
俺はそういう努力をする気がまったくないからだ。
俺は28くらいに同じくらいの年齢の女の人と結婚して、35くらいには一緒にだらしなくなってる。
さて美希に質問だ。キラキラしてる25才の美希は
耳の後ろが臭くてハゲデブな35才の俺と結婚するべきだろうか?」
美希「(ぐすっ)」
P(マジ泣きだ!)
美希「うわああああん! ハニーのバカぁ! もう知らないから!」
ガチャ。バタン。
P「100円。をとめ殺すにゃ刃物はいらぬ。オヤジの一人がいればいいとね」
小鳥「ちなみにプロデューサーさんを殺す刃物ならここにアップしています。
25才過ぎるとなんでしたっけ?」
P「タスk」
〜別の日〜
真「聞いた? 律子の話」
春香「お見合いでしょ? もう私びっくりしちゃって」
千早「非常階段から落ちそうになる人間を押さえたのは初めてだわ」
春香「あはは。千早ちゃんありがとうね」
千早「いいのよ、びっくりさせたのは私なのだから」
真「でもあの律子がお見合いって想像できないよね」
春香「結婚するのかな?」
千早「断られたのよね?」
真「それが律子、今週末もお休み入れてるみたいなんだ」
春香「……本気で結婚したいのかなあ、律子さん」
真「……」
春香「……」
千早「……」
真「プロデューサーとケンカとかしたのかな」
千早「どうして?」
真「千早は多分わからないから考えなくていいよ」
千早「?」
春香「律子さん、結婚しちゃうつもりなのかなあ」
千早「そんなことないでしょ。あんなに仕事熱心なのに」
春香「やだなあ。なんかやだよ、私」
真&千早「?」
〜日曜日 高輪プリンスホテル〜
モブ2「ふがー、ふがー、りっちゃんと会えるなんて、ふがー」
律子(チェンジ)
伯母(チェンジ)
モブ2「りっちゃんと結婚できたらブヒィ」
律子「あ、腹痛が」
伯母「もう救急車は呼んであるわ。あと2分で着くそうよ」
……
律子「げんなりでした」
伯母「財産は悪くないのよ」
律子「獣姦が趣味とか言われるのは名誉という無形の財産への負債です」
伯母「ちょっと今回は失敗だったわね」
律子「伯母さん、仕事にもさしつかえてますし、もうお見合いは」
伯母「次は大丈夫だから! もういっかいだけおみくじ引いてみましょうよ」
律子「うーん。じゃあもう一回だけですよ」
〜翌日曜日〜
真美「おっはよー! ってあれ、兄ちゃん」
P「お、真美も来たな。今日は律子が風邪で倒れてな。俺が付き添いだよ」
亜美「えー。りっちゃん大丈夫かなあ」
P「病院には行くように言っておいたよ。来週にもちこすことがなければいいけど」
スタッフ「765プロさーん」
P「お。じゃあ亜美、頑張ってこい! 真美は俺と見学してるか」
亜美「らじゃー。真美、行ってくるねー」
真美「うん! 頑張って亜美! ねー兄ちゃんPSP持ってきた?」
P「ああ。真美が来るかと思って持ってきたぞ」
真美「ゲームは?」
P「モンハンP3」
真美「兄ちゃんそろそろ上位になった?」
P「やーまだだ。たまに時間を作ってやってるけど、終焉がクリアできない」
真美「下位装備なの!? しゅーえんって上位装備でやるもんでしょ?」
P「下位クエなんだから下位装備でやろうぜ。ハンマーと双剣、大剣とランスガンスはクリアした。
スラアクはジョーすら倒せん。ライトだと弾薬的にクリアできないんじゃないかと疑っている」
真美「コアな遊び方してるね……」
P「モンハンは修行だからな」
真美「真美の知ってるモンハンと違う」
P「というわけで下位クエをのんびりやろう。装備は当然ユアミ縛りな」
真美「まだユアミなの!?」
P「俺の装備ボックスにはユクモとユアミしかないぞ」
真美「ほんとだ……」
P「下位クエなら未強化ユアミで充分だ。始めるぞ。モン↓ハーン↑♪」
真美「ラッパに合わせて歌うなんて小学生でもしないよ」
真美「ぎゃー! やられた!」
P「そりゃ粉塵」
真美「ありがと! 兄ちゃんの粉塵ってば、ぜつみょーなタイミングだよね!」
P「いつだって真美の体力ゲージを見てるからな」
真美「さわやかなストーカーだね!」
P「アグナと戦ってる間にいつの間にか採掘に行ってることも知ってるぞ」
真美「いやん、エッチ」
P「だから戻ってきて戦え」
真美「……あのさあ兄ちゃん」
P「なんだ?」
真美「りっちゃんさ、今日ほんとにお休み?」
P「つらそうな声だったよ。仮病みたいに言うなよ」
真美「ゴメン……でも、亜美がさびしそうなんだ。
りっちゃんが辞めちゃうんじゃないかって」
P「辞めないよ。あいつこの仕事好きだもの」
真美「でもケッコンするってお仕事辞めるってことじゃないの」
P「結婚したくて見合いしてるって感じじゃないんだよな。
最初に上出来な男を逃したから未練があるんだと思う。
納得いくまで宝くじ引かせるしかないよ」
真美「モブ原の兄ちゃんかー」
P「家と病院を担保に入れたら100億引っ張れたって言ってた。
明らかにゲスなセリフだけど、ちゃんとプロデューサー業のためにやってるんだよ。
この業界、カネを集めるのがいちばん大変だし
カネさえあればアイドルたちを守れるんだ」
真美「うん」
P「律子は俺が最初に担当したアイドルで、ちょっと厳しくしすぎたからな。
私から10代の恋愛を取り上げたのはアンタだと言われて反省した」
真美「でもさー、アイドルってそういうもんっしょ」
P「真美は学校でどうだ? 好きな男子とかいるのか?」
真美「真美も亜美も女子中だよー。友だちは他の中学校と合コンとか行ってるけどね。
真美たちすっごく呼ばれるんだ」
P「真美、悪いがそういうのは」
真美「行くわけないじゃん」
P「そうか。よかったよ」
真美「兄ちゃん、ユアミでしゅーえんクリアとかわけわかんないこと言うけど
パパがすごく褒めてることも言ってくれたんだよ」
P「なにそれ」
真美「『アイドルは仕事じゃなくてせーかつたいどだって』」
P「ああ。俺のオリジナルじゃないけどな。俺はそう信じてる」
(誤字修正)
P「律子は俺が最初に担当したアイドルで、ちょっと厳しくしすぎたからな。
私から10代の恋愛を取り上げたのはアンタだと言われて反省した」
真美「でもさー、アイドルってそういうもんっしょ」
P「真美は学校でどうだ? 好きな男子とかいるのか?」
真美「真美も亜美も女子中だよー。友だちは他の中学校と合コンとか行ってるけどね。
真美たちすっごく呼ばれるんだ」
P「真美、悪いがそういうのは」
真美「行くわけないじゃん」
P「そうか。よかったよ」
真美「兄ちゃん、ユアミでしゅーえんクリアとかわけわかんないこと言うけど
パパがすごく褒めてることも言ってくれたんだよ」
P「なにそれ」
真美「『アイドルは仕事じゃなくてせーかつたいどだ』って」
P「ああ。俺のオリジナルじゃないけどな。俺はそう信じてる」
真美「パパもそーだって言ってたよ。
お医者さんもまず患者さんが信じてくれなきゃだめなんだって。
患者さんが信じてくれるには、いつもの暮らしをちょー真面目にしなきゃダメなんだって」
P「だから合コンを断ってくれてるのか?」
真美「うん! だってそういう噂たったら、一発でアウトだもんね。
それに男子といるより亜美と遊んでたほうがたのしーし」
P「いい子だな、真美。ご褒美だ」
真美「いま体力満タンだったよ兄ちゃん。その粉塵は無駄だよ」
P「気持ちだよ」
真美「えへへ。受け取っとくね」
スタッフ「真美ちゃーん。そろそろいい〜?」
真美「はーい!!」
P「今日はどういう変装だ?」
真美「ツインテですよ! ツインテ!」
P「それだけで実況が100レスいくな」
真美「で、あのケバブ屋さんの中にいるの」
P「それ、見つけてもらえないぞ!?」
真美「いーの、放送日の夜ブログでバラすから」
P「おう、じゃあ頑張ってこい」
P(事務所としては1人ぶんしかギャラは取れないけど)
P(亜美真美どっちかしか出てない番組でも
エキストラにもう一人いるってのは話題だよな)
P(あ、亜美が手を振ってる。ジュースでも買っといてやるか)
P(あんな子らを心配させてるのか……。そろそろぶっとばすか、あのメガネ)
??「えっ」
P「あーごめんなさ……い? 律子?」
律子「プロデューサー!」
P「お前、体調不良って」
律子「あの、具合よくなって」
P「ここ、律子の家の近所じゃないよな」
律子「ちょっと買い物に」
P「見合いだろ、そのカッコ、その髪型」
律子「……」
P「すぐここから離れろ。体調悪いことになってるんだ。
亜美や真美に見られたら言い訳できないぞ」
伯母「りっちゃ〜ん。タクシー来たわよってあら?」
P(これが例のおばさんか)ぎろり
伯母(人を殺したことのある男の目ね)ぎろり
P(……)
伯母(……)
P「ほら早くいけ、律子」
律子「は、はい」
P「週明け話がある」
律子「は、はい」
伯母「じゃあ行くわよ〜りっちゃん」
P「……」
P「律子、ああいう肉食系コンサバの格好も似合ったのか。
気が強いし、あっちのキャラでも仕事とれたかもなあ……」
〜〜タクシー車内〜〜
伯母「今日のもダメだったわね〜」
律子「はあ……」
伯母「あのパッとしない男性はどなた? 同僚?」
律子「はい……」
伯母「さて、りっちゃんも次が4回目よね。ようやく優良物件が解禁されるわ」
律子「おばさん、私もう……って解禁? ってなんですか?」
伯母「3回目まではね、ロクな相手と見合いできないのよ。
どうせ20才だし結婚するつもりがないんだろって」
律子「はあ」
伯母「でも4回目にもなると熱意が伝わって、逆に20才だけど結婚に熱心な
すてきな子ってことになるのよ。すると……」
律子「すると?」
伯母「資産の基準がモブ原になる」
律子「!」
伯母「ガチャと同じよ。5万円つぎ込んで初めて挑戦権を得るの。
どうする? やめておく? それとももう1回だけ引いてみる?」
律子「……う、じゃ、じゃあ、あと1回だけ。
あ、でも、再来月にしてください。さすがに仕事に迷惑かけちゃったから」
伯母「そうね。でも、いい資産が捕まえられたらすぐに連絡するわ。
融資の枠をいちどつかんじゃえば、同僚のやっかみなんかどうでもよくなるのよ」
律子「う……そ、それは、その時は」
〜別の日〜
やよい「おはようございまーっす! プロデューサー!」
P「やよいはめんこいなあ。一生のお願いがあるんだが、ハイタッチしてもいいか?」
やよい「当たり前でーす! せーの!」
P・やよい「ハイ、ターッチ!」
イエイ!
P「よし、元気も出たことだし仕事に行くか!」
やよい「はい!」
P「ところでやよい」
やよい「はい! なんですかぁ?」
P「律子のこと気になるか?」
やよい「うーん。私は別に。でも春香さんと雪歩さんが」
P「あの2人か」
やよい「ちょっと気にしすぎかなあって」
P「ふーん」
やよい「律子さんだからたくさんたくさん考えてるかなーって。
だから春香さんや雪歩さんが心配する必要ないかなーって」
P(それはどうだろう)
やよい「でも、悪いのは律子さんだから謝らなきゃだめです」
P「そうなるんだ」
やよい「はい! きょうだいって、下の子が我慢して上の子が謝るんです」
P「そうなのか。俺ひとりっこだったからなあ」
やよい「あ! 律子さんにはナイショですよ?」
P「もちろん」
やよい「春香さんと真さんにも!」
P「やよい」
やよい「はい?」
P「ありがとな」
やよい「ええっ! な、何がですか!?」
P「ほら、俺、いつも言ってるだろ? アイドルは仕事じゃなくて生活態度だって」
やよい「そうですねー。私、よくわかんないけど。えへへ」
P「やよいに助けられてるんだよ」
やよい「そ、そんな! 私何もできないし」
P「やよいの魅力はまさに生活態度から来るからな。
家族と仲がよくて、働き者で、ニコニコ笑って、素直で、悪いことが嫌いで、努力家だ」
やよい「え、えへへ……私なんか」
P「アイドルは生活態度だって言うだろ? すると美希や響なんか全然わからないんだよ。
あいつら頭で考える機能がないからさ」
やよい「ええー! そんなことないですよ!」
P「でも、あいつらでも『やよいみたいに』って言えばすんなりわかってくれる。
やよいの魅力が毎日のいい子な生活からくることだって知ってるんだ」
やよい「うっうー! ほめられちゃいましたあ!」
P「……やよい、一生のお願いがあるんだが、ハイタッチしてくれないか?」
やよい「う、運転中はだめです!」
P「じゃあ降りたら」
やよい「……元気ないんですか、プロデューサー?」
P「いろいろとね」
やよい「じゃあ、じゃあ、片手だけ」
P「このカーブ曲がったら直線だから、そこでいいか?」
やよい「はい。……せーの!」
イエイ!
〜〜別の日〜〜
??「美希がプロデューサーに告白して玉砕しました」
??「あらあら〜かわいそうに」
??「仕方のないことです。美希はわたくしたち三人衆のなかではいちばんの小物。主に胸が」
??「断られた理由はなんだったの〜?」
??「年齢の差だとか。であるならば」
??「貴音ちゃん、行く気なのね」
貴音「ええ。わたくしならば。美希よりは年上ですから」
??「でも美希ちゃんとたった3つ違いよね?」
貴音「よく25くらいに見られますから」
??「さすがにプロデューサーさんは年齢を知っていると思うわよ〜」
貴音「ま、まああずさは見ていなさい。わたくしの挑戦を」
あずさ「は〜い」
貴音「……応援してください」
あずさ「もちろんよ〜」
貴音「……ダメだったら、その」
あずさ「心配しないで。
貴音ちゃんが美希ちゃんにしてあげたみたいに
泣きやむまでずっと頭なでてあげるわよ〜」
貴音「それで勇気が出ました。参ります」
〜〜別の日〜〜
P「おつかれさま。はいジュース」
貴音「これはプロデューサー。いらしていたのですか」
P「はじめから現場に入れなくてごめん。途中からは見ていたよ。調子はどう?」
貴音「この脚本、わたくしは好きです」
P「脚本もそうか。でもスタッフみんないいと思うぞ。そのネッカチーフの緑はよく似合ってる」
貴音「そう思いますか!? わたくしもそう思います!」
P「そうやって、スタッフにいいものを揃えてもらえると嬉しいよな」
貴音「まことに」
P「でもそれは、貴音がそうやって素直に喜ぶからだ。
衣装さんから伝言。
『そのスカーフは気に入ったらあげます。
そのかわり、今度一緒に普段のお洋服選ばせて!』
だってさ」
貴音「選んでいただくのは嬉しいのですが、これをいただくわけには」
P「ああ、そこは遠慮しておいた。貴音もあなたとお揃いで持っている方が喜びますって言ったら
嬉しそうにしてたよ。あの人ちょろいな」
貴音「なるほど……これが、じごろ……」
P「うん。ちょっと違う。
まあ、聞いた店は帰り道だから寄って行こう。
で、脚本のどこが好きだって?」
貴音「せりふから見える自由な空気が。
大正でもくらしぃなるものがこのくにで起きていたのは存じておりましたが
なかなかよい空気だったようです」
P「そうだね。明治、大正、昭和と続く50年ではいちばん奔放な時代だったと思う」
貴音「はい……時にあなた様。外に参りませんか」
P「次のシーンは?」
貴音「30分ほどのちに」
P「じゃあ余裕あるな。というかさっきの呼び方はなんだ? あなた…さま?」
貴音「脚本の中でわたくしが旦那様をこう呼ぶのです」
P「俺が旦那様とは光栄だな。でも、いいね。古風で蠱惑的って言えばいいのかな
男ならゾクッとくると思うぞ。
たまーにキメ場で使ってみようか」
貴音「そう思いますか!? わたくしもそう思います!」
貴音「ところで美希の話を聞きました」
P「ああ、現実を教えてあげた話か。こないだ話したときは案外ケロっとしてたな」
貴音「いえ。その夜は長いこと泣いておりました」
P「貴音が面倒見てくれたのか。ありがとう」
貴音「あなた様はあいどるとはおつきあいしないのですか?」
P「俺、アイドルにかぎらず芸能人に手を出す業界の人間は殺してもいいと思ってるから」
貴音「ですが、あいどるやたれんとの結婚は高い確率でそういうお相手のようですが」
P「だから嫌なんだよ。アイドルってのは宝石なんだよ。俺にとって」
貴音「宝石ですか」
P「うん。本人も価値がわからずにどこかで眠っている。
それを俺たち宝石商が見つけて、カットして、研磨して、台座をつけて
お客様に届ける。この場合一般のファンだな。
確かに宝石商は宝石を手元に置くタイミングがある。
だとしたら、そういう人間が横取りしちゃいけないだろう」
貴音「そうでしょうか」
P「誰かアイドルがプロデューサーと結婚するたび、ファンは思うんだよ。
あの子もそうだった。この子も裏でプロデューサーにヤられてるのかな。
それが事実かどうかは関係ない。その時点で幻想が汚されるんだ。
最高の宝石はこいつが隠し持っているんじゃないかな、と思われるんだ。
俺は宝石商として、評判を落とすような行為をする同業者を許せない」
貴音「はあ……」
P「俺がこの世の支配者になったら、上野公園のハトを抹殺するより前に
芸能人に手を出す業界スタッフを全員宮刑に処するよ」
貴音「では、もし、うちのあいどるたちがあなた様に愛を告げたら……」
P「うちの子たちは大丈夫。自分たちの価値はわかってくれてるよ。
たまに美希みたいに刷り込みと恋心を混同する奴は出るかもしれないけどね」
貴音「告げたら」
P「何日かかってでも目を覚ましてもらう。無理なら移籍か俺が退職だな」
貴音「うう……それで、あいどるをやめて、他の仕事についたらよいと」
P「ああ。それなら例えば『元アイドルのOL』と業界人の恋だ。ワンクッション置けば
聞く方も受け入れやすいし、何より一つ仕事を挟むくらい時間が経っていれば
その子の交際は芸能界にダメージを与えない」
貴音「わかりました……わたくしは生きている限りずっとこの世界にいるのが使命。
そもそもかなわぬ想いでしたか」
P「? 貴音、まさか」
貴音「あなた様、ごらんください」
P「うん」
貴音「夕空に月が綺麗でございますね」
P「……」
P「きっと、遠くにあるからだな」
貴音「……」
貴音「そう思いますか。わたくしもそう思います。
……時にあなた様、ふたつお願いが」
P「何かな」
貴音「後で買うすかぁふ、経費ではなくプロデューサーのぽけっとまねーで買ってくださいますか」
P「うん」
貴音「もう一つ、どちらかがいのち尽きるまで、わたくしのプロデュースをしていただけますか」
P「うん」
貴音「ありがとうございます」
P「……貴音、ありがとう」
貴音「なんのことでございましょう?」
P「なんでもない」
貴音「休憩が終わります」
P「がんばって」
貴音「……はい!」
〜別の日 楽屋〜
律子「みんなー、いいわね、あと30分よ」
あずさ&亜美「はーい」
伊織「……」
律子「伊織ー。返事がないわよ」
伊織「聞こえてるわよ。ちゃんとやるわ」
律子「何怒ってるのよ……ってちょっと電話、ここにいてね、特にあずささん」
ガチャ
伊織「……」
亜美「いおりーん」
伊織「……」
亜美「ねえいおりーん」
伊織「何よ」
亜美「ふだんからニコニコしないとステージ上で笑えないよ」
伊織「不機嫌なんだから仕方ないじゃない。
出番が来れば気分も切り替えられるわよ」
ガチャ
律子「ふう。じゃあ、みんな準備いいわねー」
あずさ&亜美「はーい」
律子「あずささん、ちょっとこっちにいいですか?」
あずさ「はい〜?」
伊織「(ピクン)」
律子「(……で、ですね……今度のロケ……用事が……)」
伊織「(ピクンピクン)」
あずさ「(……それじゃ困ります〜……私、向こうのかたとは……)」
伊織「ちょっと律子!」
律子「ひゃっ!?」
伊織「そんなところでコソコソしてないで、あずさに用事だったらここで話しなさいよね!」
律子「竜宮の仕事の話じゃないわよ」
伊織「知らないわよ。でもね、あずさが困ってるなら、もうそれは伊織ちゃんに無関係の話じゃないの!
どうせあれでしょ。見合いだかなんだか知らないけど
あずさに1人で仕事に行けって話じゃないの!?」
律子「……」
伊織「呆れた……ホントなの?」
亜美「りっちゃん……」
伊織「あんたね! あんたがそんなんでよく私たちに生活態度がなんて」
あずさ「律子さ〜ん。こっち向いて〜」
律子「ふぇ? え? あず」
あずさ「えい(パチン)」
伊織「」
亜美「」
律子「」
あずさ「ごめんなさいね、律子さん。伊織ちゃんも。
この話はこれでおしまいにしましょう。あと20分しかないわよ〜」
律子「」
あずさ「律子さん、ごめんなさいは?」
律子「ご、ごめんなさい。あずささん、亜美……伊織」
伊織「いいわよ。目が醒めたなら。
……私も事情を知らないでひどいこと言ったかもしれないわ」
あずさ「じゃあ今日も頑張りましょう。ね?」
亜美「う、うん」
〜別の日 765プロ更衣室〜
真美「……ということがあったんじゃよ」
春香「あずささんが律子さんをぶつなんて」
雪歩「なんだか……最近、雰囲気が」
千早「萩原さんは気にしすぎじゃないかしら」
雪歩「うう……私、ちっちゃなことでも気にしちゃうから」
春香「でも、でもさ? 少し前まで雪歩は気にならなかったんだよね?
その雪歩が気になるんだったら、やっぱり雰囲気がおかしいんだと思うよ」
真美「真美もはるるんの意見に賛成かなあ」
千早「律子にはもとに戻ってほしいわね。
私、律子はプロデューサーに向いてると思うもの」
春香「? 千早ちゃんがそういうのってめずらしいよね?」
千早「少し前、水着のグラビアの仕事に律子が付き添いに来たことがあったの」
雪歩「それって、去年の春?」
千早「そう。私は初めてのグラビアの仕事で、嫌だって言っていたのよ。
でも、その頃はアイドルをしていた律子が言ったの」
千早「歌の仕事がほしいんでしょ?
だったら知名度少しでも稼がないとダメじゃない。
水着で評価されても嬉しくない?
いいじゃない。それで歌の評価が下がるわけじゃないわ。
『如月千早は顔も綺麗でモデルみたいなプロポーションだが
何よりあの子は歌がいい』
そう言われるのよ。歌の評価が結果的に上がるのよ。悪くないでしょ?』って」
春香「律子さん、言いそう」
真美「千早お姉ちゃんのモノマネもうまいよ」
千早「そ、そうかしら。
でも私はあの一言で納得できたのよ。
律子の言葉には力があると思うわ」
雪歩「私にとっては、『なるほど』の人かなあ」
春香「あー、『なるほど』の人ね」
真美「なにそれ?」
春香「765プロがまだ候補生だけだった頃ね。
私と雪歩、あずささん、四条さん、やよいだけで
そこに律子さんが入ってきてね」
雪歩「すごかったよね。少し教わって、一日二日できなくても
ある日『なるほど、わかった』って言ったらダンスもボーカルも
そこでは詰まらなくなっちゃうんだよね。
私、ぜんぜんダメダメだったから憧れちゃったなあ」
真美「憧れってわかる気がする」
千早「そうね。アイドルとしてじゃなくて、年上の女の人として憧れるのはわかるわ」
春香「軽々とレッスンで追い抜いて、デビューして、トントン拍子に有名になって
でもひょいっと辞めちゃって、今は敏腕プロデューサー。
プロデューサーさんは頼りになる感じがするけど
律子さんはああなりたい、って思うんだよね」
雪歩「だから……今の律子さん、見ていたくない……かな」
真美「真美もしょんぼりする亜美は見たくないよ」
春香「私たちで何かできないのかなあ」
千早「事情もわからないけど……プロデューサーはどう思っているのかしら」
〜別の日 夜 765プロ〜
あずさ「おかえりなさい、プロデューサーさん」
P「ただいま戻りました。あれ? あずささん1人ですか?」
あずさ「はい〜。小鳥さんには私が待ってるからいいって言って」
P「音無さんに連絡した時間より遅れましたね。待たせたならすみません」
あずさ「いえいえ」
P「5分待ってもらえたらマンションまで送っていきますよ。ナビできます?」
あずさ「(にこにこ)」
P「はい、カーナビに任せましょうね。じゃあ行きましょうか。
電気消して……ああそうだ。女子トイレと更衣室の電気見てきてください」
あずさ「普段、プロデューサーさんが最後の時は電気の確認はどうしてるんですか?」
P「どうするも何も、ノックして返答がなければドアを開けますよ」
あずさ「それもそうですね」
P「暖房オッケー。じゃあ行きましょう」
あずさ「プロデューサーさん。律子さんの件ですけど」
P「伊織と律子からそれぞれ話を聞きました。ありがとうございます」
あずさ「律子さん、お見合いやめてもらうわけにはいかないんでしょうか」
P「自重しろとは言ってるんです。でも俺が言うとなんか意地っ張りなんですよね。
ただ、悪影響がひどい。なるべく穏当に済ませたいんですけど」
あずさ「クビ……ですか?」
P「社長は様子を見ろって言ってますけど
俺ははっきり言って怒ってます」
あずさ「そう……ですか」
P「ここで律子の話をしていても仕方ない。
今日はラジオとCMでしたね? どうでしたか?」
あずさ「それが〜」
P「あはは、っと。途中カーナビが不思議な挙動をしたけど無事に着きましたね。
あの白いマンションでいいんですよね」
あずさ「はい、あの、その前に少しお話が、ありまして」
P「? ならこのあたりで停めておきますか」
あずさ「あの、貴音ちゃんと美希ちゃんのこと聞きました」
P「」
あずさ「あの?」
P「そ、そうですか。なんというか、みんな……オープンですね」
あずさ「一晩中あたま撫でてあげましたから」
P「俺は果報者だな。ありがとうございます」
あずさ「それで、ですね」
P「はい」
あずさ「私も……プロデューサーさんのことが好きです」
P「」
あずさ「」
P「」
あずさ「」
P「」
あずさ「あの、何かおっしゃってください……」
P「……真剣だと思うから、そのつもりで話します。
もしも壮大なドッキリだとしたら今のうちに止めてください」
あずさ「ドッキリじゃありません。今、かーっと頬が熱いの見えませんか?」
P「わかっています。
まず、ありがとうございます。あずささんのような女性に慕われるなんて夢のようです」
あずさ「じゃあ……?」
P「でも、ダメです。貴音から聞いていますよね。
俺はアイドルとは交際しない。自分がいちばん嫌いな人種にはなりたくない」
あずさ「今アイドルを辞めて、どこかにOLとして就職して」
P「冗談でもやめてください。ドラマの重要なサブが決まりそうなんです。CDも順調に売れてるんです」
あずさ「ドラマよりも、CDよりも、大事なものはあると思います。
私にとっては、それは、好きな人のそばにいることです」
P「そんな幸せは他の人に任せて下さい。
あずささんが掴もうとしているものを
願うことすら思いつくことすらできない人間がこの世のほとんどなんですよ」
あずさ「私は、私です。他の人は、他の人です」
P「……俺の話をしてもいいですか」
あずさ「……はい?」
P「俺はよく言うテレビっ子でした。
俺が中学生の頃は、トレンディドラマがまだ盛り上がっていた頃で
『明星』から『ROADSHOW』まで少ない小遣いで買ったり、
買えないものは図書館で暗くなるまで読んでました」
あずさ「はい」
P「高校になって演劇部に入って、大学で演劇サークルに入って。
二年の時にホンを書く奴と組んで劇団を旗揚げして。
三年、四年はそれこそ客演も含めると3ヶ月に1回はなにかしらの舞台に立ってました」
あずさ「そうだったんですか〜。きっとカッコよかったんでしょうね〜」
P「四年になって就職を考えた時、少しだけ考えたんです。
このまま役者の道を選べないのかって。
そこであきらめました。その道を選ぶには華か覚悟のどちらかが必要だったと思いますが
俺にはどちらも足りないと思ってしまったからです」
あずさ「……」
P「俺は持ってないから、持っている人がわかるんです。
あずささんはあの時の俺が喉から手が出るほどほしかった華をもってるんです。
そういうものを持って生まれてしまった人は、その道に進む義務があると思うんです。
義務というか、他の道を選んだらそれはあずささんの最高の道じゃないとわかるんです」
あずさ「……私も、私もそう思うようになってきました。
いつか運命の人に出会うとしても、それまでできるだけやりたいって」
P「そうでしたか。そうですよ! 今やめたら、もったいなさすぎますよ!」
あずさ「プロデューサーさんが、現役の芸能人とお付き合いしないのなら
きっと、私の運命の人ではないんですね」
P「残念ですが、そうですよ」
あずさ「うふふっ。本当は黙ってるつもりだったんです。
少なくとも、私と貴音ちゃんは。
でも、ちょっとチャンスだったから言っちゃいました。
すっきりしました……」
P「俺は、本当に、果報者です。
でも、すっきりしてくれたなら、よかったです。
貴音に宝石商の話をしたんですよ。聞きましたか?」
あずさ「はい。ロマンチックでした」
P「呪いの宝石というものがあるんですけど」
あずさ「呪い?」
P「代々の持ち主が、そろって不幸に見舞われる宝石です」
あずさ「あ、私も聞いたことがあります」
P「まあ迷信のたぐいですよ。でも、一つ興味深いことがありまして。
その宝石を扱った宝石商が死んだ話はほとんどないんです」
あずさ「……確かにそうかもしれませんね」
P「そうなんですよ。宝石にとって、宝石商は眼中に入らないんです。
呪う価値もない存在なんです。
俺は、俺たちの業界もそうであるべきだと思います」
<蛇足>
ホープ・ダイアモンドの被害者とされているリストには宝石商も含まれています。
しかし私はその宝石商の存在自体を疑っています。
Pはこの場では喩え話だから伏せています。
失礼しました。
〜〜あずさの自宅〜〜
あずさ「三人衆の最後の私もふられちゃいました」
貴音「あずさならばあるいはと思っていましたが」
あずさ「私も、貴音ちゃんならもしかしてと思っていたのよ」
美希「ミキは、ミキなら大丈夫だと思ってたの」
あずさ「ミキちゃんは可愛いわね〜」
美希「えへへ、なの」
貴音「あずさ、私にもなでさせてください」
美希「えへへ。なんだか眠くなってきちゃったの……」
あずさ「ところで美希ちゃんの頭は貴音ちゃんが撫でてあげたのよね」
美希「そうなのー。お膝、やわらかかったの」
あずさ「貴音ちゃんの頭は私が撫でてあげて」
貴音「手のひらにぬくもりを感じました」
あずさ「私は一体誰に慰めてもらえばいいのかしら」
美希「年齢が一巡して亜美でいいの!」
貴音「いえ、あずさ用の頭なで要員として律子を拉致しました。こちらに」
律子「パジャマパーティーだと思って参加したらお通夜だったでござる」
あずさ「律子さんにはあとでゆっくり慰めてもらうとして、伊織ちゃんと仲直りできました?」
律子「できてません……それどころか、ほとんどの子から微妙に避けられてるような気がして」
美希「だって律子さんひどいもん」
貴音「美希、そうやって切り捨てるものではありませんよ。
秋月律子、今日はあなたのためを思ったぱじゃまぱーてぃなのです」
律子「そうだったの? 私帰りがけについでに誘われただけだと思ってたんだけど」
貴音「先月からの律子の失態」
律子「失態……」
貴音「そして皆の不信感を一言で払拭する、魔法の言葉があります」
律子「うっ。それすごく知りたい」
貴音「それは」
美希「ハニーがかまってくれなかったから寂しかった、てへへって言えばいいと思うな」
貴音「美希……わたくしの……決めぜりふを……えいっ このっ」
美希「ひゃかね、やめふぇ」
律子「いやいやいやいや! それはナイ! 言えない! だって事実と違う!」
あずさ「本当ですか? 本当に事実と違うんですか?」
律子「うっ」
あずさ「このパジャマパーティーは、プロデューサーさんにふられちゃった
3人のパジャマパーティーです。
ここではプロデューサーさんを好きだって言うのは別に恥ずかしくないんですよ。
それを踏まえて、事実と違うんですか?」
律子「うう」
あずさ「プロデューサーさん、律子さんにだけは親しい口調ですよね。
律子さんもプロデューサーさんにだけは甘えてますよね。
それを踏まえて、事実と違うんですか?」
律子「……」
あずさ「声が小さい」
律子「チ、チガイマセン」
あずさ「認めましたね」
貴音「わたくしが証人です」
美希「律子さんまっかでかわいいの」
律子「うう……。でも、私のことなんかなんとも思ってませんよ。
見合いも仕事にさわらない間は喜んでるくらいだったし」
美希「あんなカタブツでめんどくさいハニーの態度なんか信じられるわけないの!」
あずさ「そこでプロデューサーさんを」
ピンポーン
あずさ「お呼びしました」
90 & 86 & 85「!!!!!!!!」
P『あずささん!? 俺です! どうですか、美希の具合は!』
あずさ「先ほどメールを送ったんです〜。美希ちゃんにお酒を飲ませたらぐったりしちゃったって」
貴音「ああああずさ、ささささすがにこの格好をととと殿方にみせるわわわけには」
律子「着替えさせて! 着替えをください!」
あずさ「はーい夜遅くすみませんでしたプロデューサーさん」
P「おじゃまします! 美希はどこですか。どのくらい酒を飲ませましたか。そのあとどう――」
美希「ハニー! ミキが心配で来てくれたんだねー!」
P「100円……あずささん、これはどういうことですか」
あずさ「プロデューサーさん、私が嘘をつくはずがないと思ってますよね?」
P「はい、ええと、はい。あ、律子。どうなってるんだこれ」
律子「あの、えと、見ないで」
あずさ「私が嘘をつくという仮定でちょっと考えてみてください〜」
P「あずささんが嘘をつくかもしれない世界……そういうものがこの世にあるとして、今ココがそれだとして」
P「あ、なるほど。俺は騙されて呼び出されたんですね」
あずさ「正解です!」
P「てことは、美希はお酒は?」
あずさ「飲ませてません」
P「貴音もまだ19だよな」
あずさ「飲ませません。お酒は用意してませんよ?」
P「……諸事問題なし。で、俺はなぜ呼び出されたんですか」
あずさ「私たち四人でお聞きしたいことがあるんです」
P「はあ、……ちょっと、まず、水を」
あずさ「あら、ごめんなさい〜」
P「人心地ついたな。それにしてもみんなのパジャマは見たことがなかった。
目に毒だから話は後日というわけには」
あずさ「だめですよ〜。今日は律子さんの反省会なんです」
P「それは……参加しないと。ただ、俺が心配しているのは
もっと下の子たちへの悪影響だけど」
あずさ「さっき律子さんが言ったんです」
律子「やめて! あずむぐぅ」
美希「ぎゅーっ! 律子さん顔がすっごくあったかいのー」
あずさ「律子さん、プロデューサーさんがかまってくれなかったから
寂しくてお見合いしちゃったんです」
P「は?」
あずさ「お見合いなんて、好きな男の人には止めてもらいたいのに。
プロデューサーさん、おとなぶって応援したりして。
律子さんが寂しくなるのもあたりまえです」
P「何。何この何」
あずさ「プロデューサーさんはアイドルとはお付き合いしなくて」
貴音「最終の経歴があいどるであっても交際はしない」
美希「めんどくさいの」
あずさ「このヘンなルールを作るのは、律子さんとはお付き合いできるようにするためですよね」
P「や、だって律子はアイドル――」
律子「じゃないですよ、もう」
P「律子……」
律子「アイドルじゃないです。私はもうプロデューサーです。
そりゃ、まだ頼りないから、そうは思えないんでしょうけど」
P「……頼りないやつに5年後敏腕になるなんて言わない」
あずさ「じゃあなんで、律子さんを放っておくんですか」
P「いや、その理屈はおかしい。
条件がいいかどうかじゃないでしょ。こういうのは気持ちのもん――」
美希「ハニー!」
P「はい! あ、100円」
美希「そういうのは律子さんの顔を見て言わないとヒキョウだって思うの!」
P「……」
貴音「呪いの宝石がどうして宝石商を殺さないか。
プロデューサーもわかっておいででしょう。
あずさに言ったように、眼中にないからではありませんよ」
P「……」
あずさ「私たち宝石は、宝石商に恋をしているから殺さないんです。
あたりまえです。見つけてくれて、磨いてくれて
自信を持て、きれいだよってずっと言ってくれて
お客さんが褒めてくれたら、自分のことみたいに喜んでくれる。
私たちは自分が宝石だってことをわかってます。
でも、本当はいつだって宝石商のもとにいたいんです」
P「……それは、客への裏切りです」
あずさ「だから厳しくルールで縛るんでしょう。
宝石も宝石商も自分に言い聞かせて
お客さんのためにいるんだっていう、嘘をつく。
でもですね、宝石の中には嘘をつけなかった子もいるんです。
キラキラするのをあきらめて、宝石をやめて
宝石商の足元に落ちてきた。
そのたった一つを自分のために納めてあげるポケットも
プロデューサーさんは持っていないんですか」
律子「ぐすっ…ひっく……」
P「律子……」
律子「ごめんなさい。私なんか……」
P「……」
P「俺は律子が好きだ」
律子「!」
P「笑い顔が好きだ。泣き顔が好きだ。
怒っている顔が好きだ。へこんでいる顔が好きだ。
色気のない眼鏡が好きだ。胸も、腰も、肩も、指の長さも好きだ」
律子「あ、あう」
P「テレビで動物映像が始まるとちらちら見てしまうところが好きだ。
セットリストを決めるためにハミングを続けるのはずっと聞いていたくなる」
貴音「(こ、これは……なかなかの精神攻撃ですね)」
美希「(ミキ、今の状況を知ってるの。ナチスとかユダヤとかいう映画でみたの)」
あずさ「(甘酸っぱい恋の空気が立ち込めてるわ〜。ただし致死量の)」
P「亜美や真美を怒る時の声が好きだ。
俺から借りたボールペンの尻も噛んでしまってはっとしてる顔が好きだ。
返すに返せなくてコンビニで同じものを探して悩む生真面目さも好きだ」
美希「(貴音ぇ、もうムリなの。もっかいお膝かして)」
貴音「(よしよし、いい子ですね)」
あずさ「(律子さぁん、もうム)」
貴音「(それはなりません、あずさ)」
あずさ「(ですよねー)」
P「十も年上の現場スタッフに負けずに噛み付く強気が好きだ。
衣装を1人で決められなくて音無さんを待つ頼りなさが好きだ。
アイドル時代のことを少し言われただけで真っ赤になる首筋が好きだ」
P「本当は、候補生に迎え入れたことをすぐに後悔した。
頭の回転が早く、頭が悪くて、頑固で、甘えん坊で、性悪で、お人好しで、世間知らず。
ずっと手の中に隠しておきたかった。
ただ、アイドルの経歴は律子の武器になるから今はよかったと思っている」
律子「わ、私も……やってよかったと……
でも、今は、手の中に隠しておいて、ほしいです」
P「今夜電話していいか?」
律子「え、はい? はい……」
P「こういうことを、ゆっくり言いたい」
律子「あ、え、うう」
P「ここでは、落ち着いて言いたいことも言えないから」
美希「(ミキ、呆れてものが言えないの)」
あずさ「(やぶをつついたら虎が出てきた気分ね〜)」
貴音「(わたくしたちの自業自得です。耐えましょう)」
あずさ「(少しでいいならお酒もあるわよ〜。このあとは失恋パーティーしましょう)」
P「10代の恋愛を、俺が台無しにしたって言われたよな。
せめて今からでも、そういうことをしてやりたいんだ。
いや、したいんだ。俺も律子と」
律子「ま、待ってます。
帰って、布団の上で、携帯かかえて待ってます……」
〜〜律子自宅〜〜
律子(なにこれドキドキしてる)
律子(ああもう、電話手放せないじゃない。
プロデューサーの家は遠いんだし
運転しながら電話してくる人じゃないんだから
あと1時間はかかってくるわけないのに)
電話『リッチャンニオデンワデスヨー! リッチャンニオデンワデスヨー!』
律子「えっ! って、伯母さんか。……コホン。もしもし」
伯母『りっちゃん、この間話した人、来月のセッティングできるって』
律子「伯母さん、その件なんですけど、もう結構です」
伯母『なに? 文京区に500坪の物件なのよ?』
律子「もういいんです」
伯母『……好きな人が見つかったのね?』
律子「え、えへへへ」
伯母『ねえねえ、どんな人? 財産は?』
律子「資産なんかない。外見もパッとしない。性格も悪い。
最初のモブ原さんを20点としたら、3点の人です」
伯母『……そう。ねえりっちゃん』
律子「はい」
伯母『男の価値って世の中で自分だけがわかっているのが一番いいのよ』
律子「……伯父さんも、そういうタイプですよね」
伯母『そう。自分だけがわかる男が、自分だけを愛してくれるのがいちばんなのよ。
私は秋月の長女で一族の財産を太らせる使命があるけど
りっちゃんがそういう人を見つけたのなら、一族会議でも絶対その人がいいって言うわ』
律子「ごめんなさい。お役に立てなくて」
伯母『いいわよ〜。りっちゃんのお陰で涼がマシになってきたから
涼を使ってどこかの資産家を乗っとるから〜。
近いうちに、好きな人を紹介してくれるわよね?』
律子「あ、はい。はい、失礼します」
律子「ふうっ」
律子(ドキドキがすっかり冷めちゃった)
律子(……)
律子(メール、打っちゃおう。電話くれるって言ったけど、たぶん、怒らないわよね)
件名『アイドルは生活態度!』
本文『だったら、私たちプロデューサーだって同じですよね!
明日は現場前に事務を片付けたいので早出なんです。
だから、今夜は早く寝ようと思います。
あずささんの家で言ってくれたことだけで
あと5年頑張れます。寂しくなったらあれを思い出します。
だから今日は電話はいりません。
声も聞かないほうがいいと思います。
自分が意思が弱いって、もうわかっちゃったから。
みんなの信頼を取り戻すためには
この先半年や一年じゃむりだと思うんです。
生活態度をぴしっとひきしめて
お仕事第一、みんなが第一
それで頑張って頑張って
ようやくまた信じてもらえるようになると思います。
明日からひとりひとりに謝ります。
あなたとお付き合いするって
言っちゃいますけどいいですよね?
声が聞きたいです。すごく聞きたいです。
私も言いたいことがあります。たくさんあるんです。
でも、我慢します。我慢させてください。
そうじゃないと、あの子たちに我慢しろなんて言えません。
お休みなさい。今日はありがとうございました。
これからも、よろしくお願いしますね?』
律子「ダーリン、は、さすがに……ムリ。えい、送信」
律子(あ、でも……)カチカチ
携帯『リッチャンニオテガミデスヨー! リッチャンニオテガミデスヨー!』
律子「きゃあ!」
登録名変更はなんとか間に合った。
メールの受信覧には『ダーリン』という文字が光っている。
これはちょっとアイドルの子たちには見せられない。
今はこれだけでいい。
メールを着信したり、電話を受けたり。
その時この表示を見てちょっとへにゃっとするだけでいい。
私がしなかった10代の恋愛って、こういうものじゃないのかな。
私、うぶですか?
いいんです。私にはこれが精一杯なんです。
数十秒発信欄を見て、メールを開く。
一回読んで、二回読んで、三回読んで
枕に顔を押しつけて足をバタバタさせた。
メガネかけてたまんまだったのに、ぎゅうっと。
……これが、わたくし秋月律子が
その最高の写真の中で
女子中学生みたいな野暮ったい眼鏡をかけていた理由でございます。
<オシマイデスヨ!>
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。お疲れ様でした。
HTML化するまでの暫くの間、ご意見ご感想等いただけたら幸いです。
>>85
隠すことでもないと思うので
律子「本日はみーんなーにー」
P「つまり、夢の中か」
愛「反抗期だよー!」 舞「ふーん?」 愛「げえっ! ママ!」
が、過去作です。
次は速報でダークソウルというゲームのSSを書く予定です。
ダークソウルでもある方は読んでいただけたら幸いです。
13:38│秋月律子