2013年11月07日

あずさ「蒼の黒さは」

こんばんは。
これは、ある時ふと浮かんだものを膨らませた作品です。
(相変わらずのアイマス好きですね)

楽しんでいただければ幸いなのですが。


それでは書き溜めを投下していきます。

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「それ」が本当は何なのかはそれにしか分からない。
しかし我々は皆、自分のいいように「それ」をおもう。
そうしてこの世界はできている。
そうしてこの世界に生きている。

 私の前には一人の女性が立っています。

黒みがかった青い髪、豊かに膨らんだ胸、真っ白なドレスの姿。

少し汗ばんでいるのはここまでの道中、迷ってしまい、差し迫る時間と競った結果というのは自業自得でしょうか。

この日は一人で行くという話をしたら友人たちはひどく驚いていました。

 昔よりいくらか凛とした雰囲気も纏えるようになりましたし、自分で言うのも何ですが、笑顔も素敵だと思います。
アイドルとして過ごすあの日々は精神的に幼い私を磨いてくれるものであったと、今になって感じました。

 765プロダクションという小さなアイドル事務所で出会った十二人の仲間、
今その場所では私より年下の子が大先輩として、まだ何も分からない新人アイドルの子たちに、
目の前に広がる世界についての指導をしてあげているということです。

 こんなことを聞くと、短大を卒業し、
少し人より遠回りをしたと思った当時もなんだか懐かしいものですね。

 この歳――といってもまだまだ若いと思いますし、
周りからもそう言われるので間違ってはいないでしょう――
になって、あの日々を思い返すことは、楽しさも、辛さも、色々な形で私の中にあって、
今の私をつくるものになっています。

歌をうたって、みんなでダンスの練習をして、たくさんの悩みを抱えて、笑って、泣いて……。
 さて、式の準備は時間のかかるものです。

今この場にいて私と話している彼は、どうせ今は暇だということで笑顔で横にいてくれます。

まだ余裕がありそうなのでせっかくですから思い出話を、
今はもう無い、過ぎ去りしあの頃の話をしましょう。
 
 「あずささん、運命の人に出会うために、普段どんな努力をしているんですか!?」

「そうね〜、アイドルとして活躍して、素敵な人に見つけてもらうのが私の計画なのだけれど〜」

「はいっ!例えば、その抜群のスタイルの維持のしかたとか、
できればその抜群のスタイルつくり方なんか教えてくださいよぉ!」

「真、少し落ち着きなさい。どれだけスタイルについての情報を得たいのよ……」

「千早、僕は女子力を上げることをこれからの目標にすることを決めたんだ」

「確かに、でも、女子力というものは何も外見を磨くことだけではないでしょう?」

「千早ちゃんの言う通り、女の子は自分の全てが光るように頑張らなくちゃいけないものね〜」

「でもでもっ、ここにきて得意のダンスも頂点といえるレベルまできたと思うし、
次に目をつけるのは見た目かなあと思ったんです!
千早だって�歌姫�が冠詞になってからずいぶん経つじゃないか、
そろそろなにか別のものもセールスポイントになるように考えるのもいいんじゃない?」

「ううっ」

一理ある真の言葉に、私は考える。

「うふふ、そうやって一生懸命になる真ちゃん、可愛らしいわよ〜」

「ホントですか!」

って僕が欲しい答えはそういうのじゃなくてえ!

「う〜ん……」

思案にふける私の前で真があずささんに泣きついている。

「千早ちゃんも、人の事を自分のことみたいに真剣に考えられて、素敵だとおもうわ〜」

「あ、ありがとうございます」

「ちょっと!あずささん、なんだか答えをはぐらかしてませんか??」

僕がこう言うのも分かるでしょう、だって男のファンの方にもさわがれてみたいじゃないですか。

「ごめんなさいね〜」

「あずささんにはなにかとっておきの方法があるみたいね」

「うん、でも千早、ここであきらめたらおしまいだよ。
なんてったってあの人は僕たちが持っていないものを最大級のかたちで所持しているんだからっ」

「くぅっ」

真とひそひそ話しながら、そして唇をかみながら、彼女のはっきりとした、
とても女性的な曲線が描く体のラインを見つめた。

少女だからと自分に言い聞かせ、未来の私に託したその希望を。

「逃がしませんからね、そのために僕たちのオフが重なる今日この日に、
この誰にも教えていない秘密の喫茶店に呼んだんですから!」

「誘ってくれてありがとう。とってもうれしいわ」

そう言う私の半分は皮肉……。

「う〜ん……」

「マスター、こちらのお姉さんに特大パフェのおかわり持ってきて!」

ええい、逃してなるものか、いよいよここが正念場!

「あらあら、なんだか悪いわね〜」

彼は本気だ。

「�本気�って書いて、�マジ�ってよむんだよっ!」

と春香が意気揚々と披露してくれたどうでもいい当て字の完璧な例が今目の前にある。

「ええ、わかったわあ、私が思うにね〜」

うんうん、その先、僕の、いや、僕たちの求めたその先の光がもう少しで、見えるっ!

「おまちどうさまです」

「そう言って前に置かれた特大のチョコとクリームの山が、
人生の厳しさというものを僕たちに全く遠慮なく示しているようだった。
いつもは気の置けないマスターに殺意のある視線という指向性を極度に持たせた切っ先を向けた。
もう二度とこんな店来るもんかとさえ思った」

「真、それって心情描写なのかしら、出力されているのだけれど」

「千早ちゃん、なんだか真ちゃんはショックだったみたいね〜」

とおもうでしょう。

彼だけじゃないんです、その先の光を欲したのは。

「あの、コーヒーもう一杯ください。少しミルクと砂糖多めで」

「うふふ」

何がおかしいんですか?

「千早ちゃんは、さっき飲んでいたコーヒー、少し苦かったのでしょう?」

「はい……。でもそれが何か?」

こういう時、もう少し柔らかな振る舞いで聞けないのかと自分でも感じる。

これでもみんなと出会った頃よりはずっと良くなったと思うのだけれど。

「そういう時に〜、言葉に出してみるといいのかもしれないわ〜。
真ちゃんとっておきのお店で、せっかくこうやってお話する機会を今持っているのだから〜。
いいのよ、苦いと思ったらそう言って……。
仲の良いお友達とおしゃべりしていると、楽しいと思わない?」


「……はい、そうですよね」

「千早、でもおいしかったでしょ」

「ええ、苦かったけれど、味わい深かったわ」

「そうなの。
でも、何でも口に出せーってわけじゃないの。
言葉に出さないと人には絶―対伝わらないことがあるってことを忘れないで欲しいの」

「あれ、今のもしかして美希の真似ですか?」

「似ていたかしら〜?」

そうだったんだ。

真は気づけたのに……。

私は、
空気が読めないのね。

「千早ちゃん、空気なんか読めるものじゃないの。
その場にいる人が感じるものなのよ〜。
深く考え過ぎちゃだーめ!」

ああっ、なんて可愛らしく助言をくれるんだ、この人は!

相変わらず核心には触れてくれないけど……。

「それからもう一つ。
言葉にしても伝わらないこともある、でも、例えそのどちらだとしても、相手のことを思うのをやめてはだめ。
自分は自分の世界で生きているのよ。
そしてその世界は私たちが見たり、感じたり、考えたことの結果としてできているの」

私に向けた真剣な言葉は、そこで拡散せず、私の世界の一部になった。

僕の目を見てそう言うあずささんの瞳は、少女とは違う、大人の女性の強い意志を湛えていた。

「そうですね、多少は柔らかくなったと思っていましたけど、まだまだ硬いみたいです」

「何でもノリと気合だけではないんだ……」

「コーヒーでございます」

「遅っ!」

えっ、今の千早のリアクション!?

「うふふふ」

「ち、違うの!
いままで真剣な話し合いをしてきて、結構前に頼んだコーヒーが今になってきたから、
タイミング的に、さっきのパフェはすぐ出てきたのにどうしてとか思って、
これはあれよ、いわゆる一つの……」

「あはは、あずささんの言ったことって、こういうことなんじゃないかな!
表情もキラキラってしてたよ!」

……こういうことなのかしら、
今まで私ができなかったこと。

今まで私に足りなかったもの。

「それで、最初の話に戻るんですけどー」

「のどが渇いたわね〜」

「すみません、マスター、あずささんにアイスティーをお願いします」

「千早、そのオーダー、自分持ちだからね」

「ええ、わかっているわ」

「ならいいんだけど。
そういえばこの前、プロデューサーとさ……」

……私の前で話しているふたりの女の子は、私の胸について聞きたいようでしたが、
今は別の話題になっているようです。

女の子ですから、きっと、何を教えるでもなく、
体は女の子らしく、心も女の子らしくなっていくことでしょう。

ここで私の言葉で縛られてしまうと自分の翼の綺麗な色に気が付けないと思ったので、
何も言いませんでした。

みんながうらやむここも、私は知らないうちにこうなっていましたから……。

なんて言うと怒られちゃいますね。

とにかく、私、三浦あずさが、年上のお姉さんとして考えてあげられることをしたつもりです。

この後、この子たちがどうなるかは自分で決めるものですから。


 今、私は、真っ白なドレスを着て鏡の前に立っています。

十年前と変わらぬ髪、十年前よりずっと大きくなった胸。

周りの景色を見ていたら撮影時間に遅れそうになった私。

道が難しいからとプロデューサーに言われていたのに。

あの日から様々な人と関わって、教え、教わって、考えるきっかけを持った私は、
歌への情熱はそのままに、アイドルを続けながら高校で学び、
短期大学で私と私の周りの様々なことについて感じました。

あずささんは、運命の人にやっと見つけてもらったと言い、
みんながとてもよく知っている人と結婚して、今は女優さんをやっています。

私は、気付いてもらった、のほうが適当だと思いましたけど。

隣にいる彼……いいえ、もう彼女、としか呼べないくらいの、魂に磨きのかかった、
素敵な女性は、にこりと笑って言いました。

「千早がこんなセクシーでグラマーになるなんてなー」

「真だって、もう花婿役で写真なんてとれないじゃない」

「えへへっ。
タキシード、胸が苦しいよ」

「ねえ、結婚について、どう考えてる?」

「そうだなあ、昔は自分の外見のことに必死になっていたけど……
僕の内面を感じてくれる男の人と一緒になりたいな。
まあ、いつできるか全然分からないけどね」

「と言いつつ、髪を少しずつ伸ばしているのはイメージの段階的移行措置なのかしら」

「う、うん。千早とかあずささんみたいにロングにはしないけどね。
せいぜいミディアムくらいかな、
相変わらず体育会系の仕事も多いし」

「わたしはウェルダンがいいわ、生の部分があるとだめなのよ」

「あれれー、おかしいなー、いつのまにか肉の焼き加減の話になってるぞー」

「あら、そうだったの。そもそも、誰がヘアスタイルの話を始めたのよ」

「千早だ」

「私だったのね」

「また話をかえる」

「全然気付かなかったわ〜」

「あずささん!」

急に登場しないでくださいよー、ねえ?

ええ、驚いたわ。音も無く現れるなんて。

ごめんなさいね〜、今、ドラマの撮影で女殺し屋の役をやっているから、足音消すのが癖になっちゃって〜。

「あなたと私は、真のノワール」

「千早、僕はソルダとは関係ないからね」

「演じているうちに、足跡まで消せるようになっちゃって〜うふふ」

そ、そんな、無風道人じゃないんだから!

「あの、質問なんですけど、結婚してから何か自分のなかで変わったこととかありますか?
今、真とその話をしていて……」

「きいていたわよ〜。
そうねえ、男の人と一緒になるのは色々たいへんだわ〜」

「たっ、例えば!?」

何を想像してるか知らないけど、声がうわずってるよ千早。

真だって興味津津じゃない。

「いやだな〜興味の度合いでいったら、天津甘栗くらいだよ」

「基準がよくわからないわね〜」

「とにかく、家事や身の回りのお世話で大変なのでしょうか」

「ん〜。
それもあるし、夜一緒に寝るときが一番大変かしら〜」

「うわあ、すごいんだあ」

僕の意志とは関係なく、本音が無意識に口に出た。

困るなあ、そういうのは脳を通してもらわないと。

「あの、具体的には……」

「ききたい〜?」

「はい!」

なによ、ノリノリじゃない。

「うふふ、秘密よ〜」

ええっ!

「まただよ」

「またね」

「そうやって、結局教えてくれないのがあずささんだもんなー」

ごめんなさいね。

まあそれが、
あずさ流ってことでこの子たちもわかってくれているみたいだし……。

「この胸の高鳴りはどこへやればいいんだ!」

「これからの人生で、感じるしかないようね」

「そうだなあ、でもそれってつまり……」

ああ、まだまだたくさんの僕たちの知らないことがあるんだ。

そう思えるようになった私たちは、ずいぶんと自分の世界を広げてくることができたのでしょう。


あの喫茶店の秘密会議から、
色々なことがあって
笑って
泣いて
思い
想い
考え
そうした結果が私、如月千早として、鏡の前で微笑んでいます。

今この結果も、未来への過程に過ぎないのだけれど。





これにて終了です。

いかがでしたでしょうか?

何か感想、意見などあれば、是非お願いします。

13:40│三浦あずさ 
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