2013年11月07日
P「響を忘れてた」
響(今日は給料日ぃ〜! みんなに美味しいご飯を振る舞える素敵な一日ぃ〜!)
響(完璧な自分は給料も完璧ぃ〜! 実家のみんなもきっと待ってるぅ〜!)
響(完璧な自分は給料も完璧ぃ〜! 実家のみんなもきっと待ってるぅ〜!)
変なリズムを取りながら事務所へ続く階段を駆け上がる少女の名は我那覇響。自称「完璧アイドル」。
遥々沖縄県から上京してきた彼女は現在、765プロのアイドルとして活動している。
――765プロ。
数か月前、Sランクアイドル「四条貴音」が自身のプロデューサーと電撃結婚を果たし、一躍芸能界に名を轟かせた事務所。
そんな事務所の一員として彼女も日々切磋琢磨しているのだ。
彼女の特徴と言えば太陽のような明るい笑顔。引き締まった肉体と巧みなダンスパフォーマンス。そして、無類の動物好き。
家には多数のペットが飼育されており、彼女曰く「大切な家族」との事。最近は常にハムスターのハム蔵を頭に乗っけ、一人と一匹で活動する事が多い。
しかし、そんな彼女に今日重大な問題が襲い掛かる……。
響「はいさーい!! 完璧アイドル我那覇響の登場だぞー!」
P「お、響。今日も元気だな」
響「はいさい、プロデューサー! 今日はみんなのお待ちかね、給料日だそぉ〜! にししっ」
P「口調がどっかの誰かさんの混じってるぞ。ほれ、響。今月の給料明細だ」
響「ありがとプロデューサー! うっしっし、これで今月もみんなを喜ばせられ……」
P「ん……? どうした、響? いきなり身震いなんてし始めて。まさか思った以上に給料貰えてたとかか?」
響「……」ワナワナ
P「響?」
響「プゥゥゥロデュゥゥウサァァァァ!!! これなんだよこれ!! 有り得ないでしょ!! 自分の給料横領でもしてるんじゃないのか!?」
最近幸せ太り(自分で作った料理にて)をし始めたプロデューサーことPは現在四条貴音の夫としてこの765プロで日々働いている。
元々は今の事務所の一階にある「たるき亭」という居酒屋にてアルバイトとして働いていた彼だが、765プロ社長「高木順二郎」の熱心(執拗とも言う)なスカウトにより入社。
そこで幼馴染の四条貴音と運命的な再開を果たし、現在に至る。その後、18歳ながらも仕事と恋愛を熟す敏腕プロデューサーとして知名度を上げ、度々バラエティ番組などで出演していたりと忙しさ極まりない時期を妻と共に過ごしていた。
そして彼はアイドルとは思えない形相の我那覇響から突き付けられた給料明細に目を通すために受け取る。
内心では経理などに関しては全く手を付けてない彼に「給料が少ない!」と文句を言われても「ファンをもっと増やして来い」としか言いようがない彼だが、困惑しながらもそこに記載されてある我那覇響とその家族達の今月の命を繋ぐ生命線を見ると、其処には驚きの数字が書き記してあった。
P「今月の給料……8300円、だと?」
P「何だよこれ、お年玉で散々使った後残ってる金額確認したら今後どう使うかスゲー悩む辺りの金額じゃないか……」
響「その例えは何か上手いのか下手なのか良く分からないよ……。ちなみに先月は給料は8万6000円だったぞ」
P「ちょっと待て。お前って仕送り貰ってんの?」
響「出稼ぎに来てるのに貰ってるわけないじゃん。馬鹿だなぁ〜プロデューサーは」
P「……」
P「…………いやちょっと待て。お前家賃幾らだ?」
響「4万くらいかな? 水道代光熱費ガス代込で」
P「生活費は?」
響「ペット達のエサ代込で3万」
P「あとの1万6000円は?」
響「家族に送ってるぞ」
P「えっ」
響「えっ?」
P「生活出来ねーじゃん!!!!!!!」
響「だから怒ってるんだよ!!!!!!! なんくるなくないよ!!!!!!!!」
このプロデューサー。家族を既に亡くしており、祖父祖母も親戚もいない為、中学を卒業を卒業してから一人自力で生計を立てていた。
その生活は苦しくも、生きる為には仕方ない為、彼は人並みの青春を送る事を犠牲にしたのだ。
この経験談を、前に出演したご長寿番組「新婚さん! こっち来い!」にて話した所、多大な応援メッセージが事務所に届き、アイドル達を驚させたのはごく最近の事。
生活とお金は切っては切り離せない物、そして彼は彼女が一人で頑張って暮らしている事も知っている。
我那覇響の給料がどうしてこうなってしまったのか、原因究明の為に765プロ事務所担当の音無小鳥を二人は待つことにした。
P「あの鳥とうとう人の給料に手を出したか……! いつかは仕出かすんじゃないかと思ってたけどまさかな」
響「ピヨコ……自分の事、嫌いなのかな? 自分、それなりに考えてみんなに接してると思うんだけど…………自信無くなってきたよ」
P「大丈夫だよ、響。お前は完璧なんだろ? そういう自身が今のアイドル界には必要なんだ。胸張って生きろ」
響「プロデューサー……」
感涙する我那覇響とその肩を掴むプロデューサー。
傍から見たらいい雰囲気に感じられるだろう。しかし、入室してきた人物が今の現状を混沌へと移し替える。
貴音「あなたぁー! ただいま帰りまし……た?」
P「あ、お帰り貴音」
響「あ、貴音だ。はいさーい」
貴音「……あなた、何故響は瞳から涙を流しているのです? そしてその肩に乗せた手、その真意を是非とも問いたいのですが」
P「ぢがうんでづ、これにはふがいじじょうががががが」
響「貴音のアイアンクローは下手したら顔に穴が開きそうで怖いぞ……」
響「って、そうじゃなかった! 貴音ー! これにはちゃんと理由があるんだ! これ以上プロデューサーをアイアンクローしたら三途の川渡り切っちゃうぞ!!」
数分後。
事情を説明する我那覇響、現実へと帰還するプロデューサー、夫の浮気と勘違いして頬を赤らめる四条貴音。
漸くさっきまでの状態まで身体機能を回復したプロデューサーは膝に自分の自慢の妻を座らせ、機嫌を取りながら再び給料明細に目を通す。
彼の膝の上は私の物とでも言うかのように上機嫌になる四条貴音は普段見せるクールな一面を脱ぎ去り、今は只の一人の妻となっている。
その二人の光景に「爆発しろ」と呟く某竜宮小町のプロデューサーは今は居ない為、二人の仲を邪魔する者が居らず、事務所はラブラブな雰囲気で充満し始めていた。
貴音「私達でもこんな金額は頂いたことは無いですね」
P「心当たりはないのか? 響」
響「あったら苦労しないさー……」ウルッ
貴音・P(何か愛くるしい)
響「そういえば二人は今いくら貰ってるんだ?」
P「俺は月30万くらいかな。貴音は180万くらいか。二人で生活するには十分すぎるくらい貰ってるよ。……あ、これ一応秘密だからな」
響(貴音が凄い貰ってるぞ……何時ぞやのラーメン奢った金額を請求しても文句言われないかなこれ)
小鳥「おはようございまーす。あっ、今日は三人しかいないんですか? それに相変わらず熱々です事っ」
貴音「小鳥嬢、おはようございます」
P「……」
響「……」
小鳥「え、二人共どうしたんですか? なな何かあったんですか?(昨日机の中に冬馬×Pのイベント用原稿忘れてきちゃったのよね……まさか!?)」アセアセ
P「音無さん、俺らの目を見て分からないですか?」
響「……」ジーッ
小鳥(え、何? 本当に原稿見られちゃったの!?)
小鳥「ちょ、ちょっと良く分からないですね……? 私、何かヘマしちゃいましたか?」
貴音「……ふむ、心当たりが無いようですね。一度殴った方が宜しいのでしょうか?」ポキポキ
P「おいばかやめろ。……えっと、これを見てください」ササッ
小鳥「―――――こ、これはっ!?」
小鳥「って何だぁ! ただの給料明細じゃないですかっ! 脅かさないでくださいよまったくぅ〜!」
響「ただのじゃないぞっ!! 目かっぽじってよく見てよピヨコ!!」
小鳥「えーっと、響ちゃんの給料明細よね? これがどうかしたの?」
響「ここ見てよここ!! 明らかに値段間違ってるじゃないか!!」
小鳥「え、間違ってないわよ?」
P・響・貴音「えっ?」
小鳥「だってうちは完全歩合制だもの。働きに応じて給料が変わるのは仕方ないわ?」
小鳥「私も最初は困惑したんだけどね……。響ちゃん先月の間でまさかのアイドルランクがBからDまで落ちちゃってるし。給料響かないわけないわよね……響だけに」
貴音「ププッ」
P「えっ!? マジですか!?」
響「この前言ったじゃないかー!! なのにプロデューサーは自分の事ほっといてプロデューサー自身が番組出ちゃってるしさ……」グスッ
貴音「確かに、あの時の響からはまこと守ってあげたくなるような……そんな慈愛を感じました」
響「そんな気持ちより状況を打破する方法を一緒に考えて欲しかったよ!!!」
小鳥「そうですよ。響ちゃんの減給の一端は管理責任不十分のプロデューサーさんが担ってるんですからね!」
P「なんていうか今更ながら否定できないのが……。ごめんな響、お前より目立っちゃって」ショボン
響「自分が空気みたいな扱い止めてよ!」
響「それに貴音と自分でどうしてこんなに差があるんさー!!」ムガー
P「そりゃあねぇ……」
小鳥「えぇ……」
P・小鳥「「仕事が来るからでしょ」」
響「うがああああああああああああああああああああああああああああー!!」
貴音「あっ、響……。行ってしまわれましたね」
小鳥「これが社会なのよ、響ちゃん……」
P「って、そんな呑気にカッコいい台詞言っても何にも解決になりませんって。貴音、俺ちょっと響を見てくるよ」
貴音「分かりました。くれぐれもご注意を。今の響はあなたを人質に取って私から身代金を要求しかねない位精神が不安定になっております」
P「何それ怖いんだけど……。取り敢えずいってきます」
小鳥・貴音「「いってらっしゃい(ませ)」」
プロデューサーは走った。しかし数秒でその走りは歩みへと変わった。
明らかな運動不足。そして追いかける対象は運動神経抜群の活発系アイドル。追いつくわけがない。
まだ18歳だというにも拘らず、自身の肉体がこんなにも老化してるのかと驚きを隠せない反面、暇見つけてジョギングしようと心に決めるプロデューサー。
取り敢えず我那覇響が行きそうなところを荒い息を整えながら考えてみる事にした。
P「響って何処に行きそうだろ……水族館? 動物園とか?」
P「いやこんなタイミングで行くか普通?」
P「漫画とかアニメとかなら行きそうな所に覚えがあってティン! って来るはずなのに俺は来ない」
P「このままじゃバッドコミュニケーションだぞ、俺……! とりあえず響の家にでも行ってみるか。送り迎えで数回行った程度だからなぁ……迷わないか不安だ」
〜数時間後〜
P「―――で、ようやくたどり着いた訳だが」
P「何、この他人を寄せ付けぬ独特の雰囲気……。前に来た時はアパート下で出迎えただけだから部屋まで行ったこと無かったけどこれ程までとは」
P「しかも響の住む部屋の両隣3部屋共空き部屋ってこれわざとなんかな……。4万でこの立地と外観なら人気あってもおかしくないんだけど」
だがしかし! 扉に他者を寄せ付けない理由が大々的にシールとして貼られていたのだ!!
――『猛犬注意!』『猛蛇注意!』『猛鳥注意!』『猛豚注意!』『猛ワニ注意!』『猛リス注意!』『猛兎注意!』『猛猫注意!』『猛モモンガ注意!』
P「何でほとんど『猛』って単語が付くんだよっ!? それにワニって何だワニって!! 犬と猫とオウムとシマリスを飼ってるってのは聞いてたけどワニって何だよ!?」
P「猛犬猛蛇猛鳥猛豚猛ワニ猛リス猛兎猛猫猛モモンガってどんな早口言葉だ! 舌噛むわ!」
P「っと……イカンイカン。この扉の奥に響が居るんだとしたら俺はあいつのプロでデューサーなんだ。このままにしておけるかっ!」
P「ん……? 鍵がかかってないぞ? おーい響、居るなら返事してくれよ!」ピンポーン
P「反応なし。え、この都会のジャングルの中に突っ込んで行けと? マジかよ……。死ぬでこれ」
P「取り敢えず悔いの残らない様に貴音に『愛してる』ってメールしておこう」ピロリロリ
P「まだ初夜も迎えてないのに死ぬとか……いや、まだ死ぬと決まったわけではない! 俺は響を信じるぞ!」
覚悟を決め、一歩踏み出すプロデューサー。
その目には希望か、絶望か。どちらが映し出されるかは扉を開いた先にある結末のみぞ知る……。
そしてドアノブを再び手にし、ゆっくりと徐々に扉を開く。額から流れる汗を拭いながら開いた先には意外にも普通の玄関が出迎えてくれたではないか。
P「もっとこう……犬の糞とかエサとかリードとかが散乱してて壁の至る所に傷とか付いてるイメージだったんだけど全然違うな……」
P「なんていうか、GANAHA JUNGLEって感じ化と思ったのに少しガッカリだぜ! ははっ!」
調子に乗っているプロデューサーの前に一匹のハムスターが現れた。
我那覇響の頭に乗っかり、我那覇響の本体とさえファンの間では噂されるハムスターのハム蔵だ。
ハムスターにしては人間の言葉を理解できるという恐ろしい理性を持っており、彼女の芸風を担う一端として日々付き添っている一匹。
しかし、そんなハム蔵がどうしていきなり彼の目の前に現れたのか。ハム蔵も実は家では猛ハムスターなのだろうか?
P「お、ハム蔵。今日は事務所に来てなかったみたいだけどどうしたんだ?」
ハム蔵「ぢゅぢゅっ!!」
P「いやぁお前の言葉は俺には理解できないんだけどな。響が居るなら話は別だけど」
P「居ないなら仕方ないか。一度事務所に……」
ハム蔵「待たれよ!!」
P「――!?」
ハム蔵「待たれよプロデューサー殿。響は居るぞ」
P「しゃべったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ハム蔵「普段は内密にしているのでな……しかし、事は一刻を争う! 頼むプロデューサー殿、響を救ってくださらんか!」
P「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ハム蔵「Shut up!!!!」
P「お前英語も出来るのかよこえーよ」
ハム蔵「話は後だプロデューサー殿。この扉を開けて下され」
P「お、おう!(突っ込みどころ満載すぎっぞ!)」
扉の先はまさにGANAHA JUNGLE。
飢えた猛獣たちの目の輝きが扉を開いたプロデューサーの下へ降り注ぐ。
唸るオウム、睨む蛇、踊るシマリス、飛び跳ねるうさぎ、鳴く猫、巨大な顎を開くワニ、吠える犬、飛ぶモモンガ。
まさしくここは――大ジャングル帝國。GANAHA JUNGLE!
P「いやいやいやいやいやいやいや」
P「俺幻覚でも見てんのかな。やっぱそろそろ長期休暇取ってハネムーンとか行かないと駄目だよな!」
ハム蔵「プロデューサー殿。彼らは貴方に危害は加えませぬ。ただ、部屋で倒れた響を助けたいが為にその意思を貴方に伝えようとしているだけなのだ」
P「響が倒れた!? 先にそれを言えって!」
P「響っ!!」
いぬ美「バウワゥ!!」
ハム蔵「いぬ美殿は『響ちゃんが叫びながら帰ってきて途端に足を滑らせて頭を思いっきり打った後動かなかくなった』と言っておられる」
P(通訳も出来んのかよ……。この事喋ったら研究機関に連れてかれそうだな、黙っとこう)
P「本当なんだな? ちょっと確認するからお前ら少し静かにしてくれ」
ハム蔵「皆にそう伝えよう」
P(ハム蔵スゲェ)
意外にも片付いている部屋だなとプロデューサーは思いつつも、気絶したままの響をベッドに運ぶ。
恐らく強く頭を打って気絶してるだけだろう。息もしてるし穏やかだ。だが部屋に入った時のペット達の姿は穏やかじゃなかったが。
部屋に置かれた小さな机の上に座るハム蔵とプロデューサーは話をしてみる事にした。
P「で、本当にハム蔵は喋れるんだよな?」
ハム蔵「この通りだプロデューサー殿」
P「お前が喋れるって他に誰が知ってるんだ?」
ハム蔵「ここにいる仲間と響だけだ」
P(想像してみて欲しい……。人の言葉を喋るハムスター。正にミステリー。況してや声が小山〇也をを思い出させるこの渋さ。外見と不釣り合いすぎるわ)
P「他の動物たちは喋れないのか」
ハム蔵「うむ。基本的には私が通訳して響に伝えているのだ。しかし、響も彼らとはもう長い付き合いだ。些細な事は理解できる」
P「成程な……。で、どうやっていつから喋れるようになったんだよ」
ハム蔵「業界に入って間もない頃……売り出し真っ最中の響はアイドルとしてはまだまだ未熟だった……」
ハム蔵「意思疎通が出来なくとも俺達の食費と故郷の家族の為に働く響の姿は私達には分かった。その上で何かできるのではないかと思ってな。連日テレビを見ては人の言葉を覚え、喋る訓練をし、今に至る」
ハム蔵「響には才能があるが、知識と経験に欠ける。そこを私が補う事で響はすくすくとアイドルとして成長していったのだ。勿論、プロデューサー殿の助力あってこその響だが」
P(何だろう、泣ける感動秘話なのにファンタジー要素強すぎ。ハムスターに知識で負けるとかちょっと響さん……)
P「な、成程な。大体話はつかめた」
ハム蔵「で、プロデューサー殿。響があんな形相で帰ってくるなんて初めて見たぞ。事務所で何かあったのか?」
P「あぁ……それを聞いちゃいますか。そうだよなぁ、言葉通じるなら言っておくべきなんだろうなぁ」
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ハム蔵「何と響が……降格と」
P「ハム蔵知らなかったのか……」
ハム蔵「常日頃共にいる訳ではないのでな。最近浮かない顔をしてると思えばこれが原因だったとは……」
P「俺の管理能力不足のせいだ。まさか給料があんなに減るなんて思ってもみなかったぞ」
ハム蔵「響も私達の料理は良いものを作るが自分で食す物は最近もやしなどの安いものばかりになってきていたな」
P(やよいと響の食生活の立場逆転してね?)
P「まぁお金が無いのは仕方ないさ。俺らが飯位は保障するよ」
ハム蔵「確かプロデューサー殿は四条殿と結婚成されて間もない身。私達に裂く暇なんて……」
P「何言ってんだ。困った時はお互い様だ。それに響には結婚式の時にも迷惑掛けちまったし。以前の生活に戻れるくらいまでは俺と貴音も協力するよ」
ハム蔵「かたじけない、プロデューサー殿……!」
P(今話した感じだと、ハム蔵って何気に教養あるよな。響がアイドル活動する上でサポートも陰ながらしてたって言うし)
P(実は響のサポートをしてやりたいのはやまやまなんだが、来週の特番とか「芸能人のプロデューサー スポーツマン決定戦」とかのオファーの練習とかの予定で埋まってるんだよな……)
P(あの海老ナップルめ……勝手に仕事押し付けやがって! 自分が出ればいいのにな。最近お腹周りがうんぬんかんぬん言ってるくせに)
P(俺の手が開かない限り、響に付いてやるのは難しい。かといってホットクわけにも行かない……響が営業行ければなぁ。他の子は時々行ってくれるんだが)
P(……待てよ?)
P(別に響が営業しなくてもいいじゃないか!)
ハム蔵「どうしたプロデューサー殿。そんな驚きに満ちたな顔をして」
P「ティンと来た……ハム蔵――お前が響をプロデュースしろ!」
ハム蔵「何と……私がか?」
P「正直に言うと俺は響の事に関してはお前に劣ると思う。常日頃見れてる訳じゃないしな」
P「お前がそんなにも人間と同等の知性を持ってるなら十分やれると思うんだよ」
P「でも一歩間違えれば響じゃなくてお前が人気者になってしまう。人の言葉を話せるハムスターなんてこの世にたった一匹だと思うし多分世間にバレたらお前は研究所行きだ。被検体的な意味で」
P「だからぶっちゃけて言えばこれは賭けだ。お前が響の才能を世にどれだけ広められるかっていうな」
P「……どうする?」
ハム蔵「どうするも何も答えは一択。私の知力が響の助けになるのなら全力でそれに当たるのみだ。やらせて貰おう」
P(なーんかやっぱ吹き替えでもされてるんじゃないかっていう感じなんだよなぁ。いっその事ハム蔵を腹話術させてる響で売り出せばいいんじゃないかなー……って、適当な事言ってたらはっ倒されそうだな。主に律子に)
響「んっ……ここは、って!? ぷぷぷぷプロデューサー!?」
P「あぁ、みんなが大好きなプロデューサーだぞ。一番は貴音だけど」
ハム蔵「そういう余計なひと言はいらないと思われるぞプロデューサー殿」
P「ごめんごめん。響、何処も痛いところないか?」
響「う、うん……別に何ともない。で、どうしてプロデューサーがここに……ってハム蔵!? 人前で喋るなってあれほど言ったじゃないかー!!」
ハム蔵「慌ただしいぞ響。そんなんではトップアイドルなんぞ夢のまた夢。常に余裕を持って振る舞えと言っているだろう?」
響「うぅ、そうだけどさぁ」
P「事務所でいきなり飛び出してったから心配して家まで来てみたらお前が気絶しててな。他のペット達も心配してたぞ?」
響「みんな……心配かけてごめんね?」
一同『\気にするな/』
ハム蔵「気にするな、と言っている」
P「今のは何となくわかるぞ、うん」
P「でだな、響。お前のアイドルランク低下の件について何だが……」
響「プロデューサー! 自分……自分頑張るから、み、見捨てないで欲しいぞ!」
P「響……お前をプロデュースしてやりたいのはやまやまなんだが、申し訳ないっ! 既にここ一か月の予定が俺も埋まっててな……今のお前に裂く時間が設けられないんだ」
響「そ、そんな自分どうすれば……!」
P「何も見捨てる訳じゃないぞ? ただ一緒にいられる時間は少ないだけって話だ。だからな、俺の代わりにお前を一番よく知ってる人に協力してもらおうかと思ってな」
響「一番良く知ってる人……?」
P「そうだ、そこのハム蔵……いや、ハム蔵Pだ!」
一旦離脱します。そのまま投下したかったんですがこれから飲み会なので……。
帰ってきて余裕があれば再会したいと思います。月曜日も休みって素晴らしいですよね。
再開します
響「えええええええええええええっ!? ぷ、プロデューサー、ついに頭がおかしくなったのか!?」
P「失礼な奴だな! ついにってなんだついにって! 真剣に考えた結果だよ! ……それに全部ハム蔵に任せる訳じゃないぞ? あくまで物の試だ」
P「取り敢えず一週間はそれでやってみようぜ。ハム蔵、出来そうか?」
ハム蔵「うむ、プロデューサー殿の業務は響の頭の上から良く見ていたからな。分からなかったらその都度聞くとしよう」
P「そうしてくれ。あと響、流石にその給料じゃ生活できないだろ? さっき来るときお金降ろして来たからこれ使え。今月位は乗り切れるだろが、足りなかったら言ってくれ」
響「そ、そんな悪いぞ!? 受け取れないぞ……」
P「俺からしたらお前とお前の家族が倒れられる方が心配なんだよ。申し訳ないと思うならランクを戻して今まで通りの響に戻ってくれればそれでいいから」
響「うぅ……一応、借りるって事で受け取るよ。プロデューサー」
P「あんま気にすんな。俺も貴音もいつも空回りする位元気な響が好きなんだからさ」
響「よ、よし! こうなったらハム蔵……プロデュースよろしくね?」
ハム蔵「うむ」
こうしてハム蔵と我那覇響による二人三脚活動が始まった。
プロデューサーの読みの通り、ハム蔵は響にとって足りない箇所を鋭く指摘し、日々のレッスンでそこを改善していった。
主にハム蔵にとって我那覇響というアイドルは、一般人が持つ「陽気」なイメージとは少し違った「頑張り屋」なイメージが強く、其処を売り出していくことに焦点を置いた。
そして予想以上にハム蔵が出来るハムスターだと悟ったプロデューサーは今まで売り出していた元気っ子なイメージを踏み倒し、今度はクール路線で攻めるよう指示を仰ぎ、ハム蔵に引き続き業務を任せた。
まず現状の彼女の問題点をリストアップした。元々ダンスが得意な彼女にとってはクールという印象を結びつけることは容易だったのだが、彼女の明るさの方が前面に出すぎていて中途半端と化していたのだ。
そして一番の決め手は彼女の持ち曲が無かったこと。今までグループとしての曲にしか触れていなかった為、これを機にハム蔵はプロデューサーに手配してもらい、初の持ち曲を作ってもらった。
――『TRIAL DANCE』。彼女の声色と華麗なダンスが上手く混ざり合った彼女の為の曲。我那覇響というアイドルの新たな一面を印象付ける切っ掛けの一つとなり、低迷していたアイドルランクも1か月にも関わらず一つ上がり、Cランクへと復帰した。
P「凄いじゃないか響! それとハム蔵! まさかこんな短期間でランクを上げるとは思っても無かったぞ……」
貴音「これも全て、響とハム蔵殿による努力の賜物ですよ」
P(あれからというものの、響は夕飯をよく俺達の家に来て食すようになった。時々連れてくるペット達も響が頑張っている事に喜びを感じてるようだ)
P(今日は響のCランク昇格とハム蔵Pのお祝いを兼ねて引っ越したばかりの俺と貴音の家で食事会だ。他のペット達が入っても余裕な広さが自慢だ。実はまだ荷解き終わってないんだけどな)
P(短期間でアイドルランクを上げた響のポテンシャルの高さも驚かされたが、貴音もハム蔵が喋れることを既に知っていた事もまた驚きだよ……)
貴音「ハム蔵殿、次の作戦は考えておられるのですか?」
ハム蔵「うむ……。ここから先どう響を上に上げていくかなのだが、プロデューサー殿。ここで一つ頼まれて欲しい事があるのだ」
P「何だ? 俺に出来る事なら協力するぞ」
貴音「はて……? 私にも出来る事があれば協力いたしますが」
響「みんなごめん。何か色々迷惑掛けちゃってるみたいで」
P「いや、迷惑なんかじゃないさ。響が結果を出してるなら俺らも頑張らなきゃな!」
貴音「ふふっ、こうしてみると響がプロデューサーの妹みたいに見えますね」
響「い、妹っ!?」
P「まぁ確かに」
ハム蔵「響には兄が居るからな」
P「マジで?」
響「う、うん……。プロデューサーと歳近い兄貴が居るぞ」
P「ふぅん……」
貴音「響」
響「な、何だ? 貴音」
貴音「ふふっ、『貴姉』って呼んでもいいんですよ?」
響「ブッッ!!!」
ハム蔵「はしたないぞ、響」カリカリ
P「俺は『P兄(にぃ)』とかでも良いんだぞ? あ、純粋に『にぃに』でもいいな」ニコヤカ
響「う、うがぁ……///」
貴音・P(戸惑ってる戸惑ってる)
響「ふ、二人共話が逸れてるぞっ!!」
P「ぐぬぬ……。で、ハム蔵。頼みごとって何だ?」
ハム蔵「――響を961プロへと修行させてやりたいのだ」
P「へっ?」
貴音「?」
響「ハム蔵、どういう事だ……? それ。聞いてないぞ、自分」
ハム蔵「今初めて言ったからな」
P「随分思い切った事を考えたな、ハム蔵……」
ハム蔵「961には765には無い何かがあると、な。それに響はソロで売り出していった方が飛躍出来ると判断したのだ」
P「成程な……。まぁ、良いんじゃないか? 黒井社長とうちの社長が許可してくれればだけどな」
ハム蔵「それを頼んでいるのだ」
貴音「確かに961プロの売り方は765プロと違った戦略が多く、ためになる事も多かったです。今の響にとって必要な経験が豊富に得られる事でしょう」
響「そ、そんなっ!? 自分まだ……!」
P「それにあくまで移籍と言うより武者修行みたいなものだろ? 辞める訳じゃないんだし大丈夫じゃないか?」
貴音「……響?」
響「っ!!」ドンッ
ハム蔵「響、どうしたのだ?」
響「どうしたもこうしたもないよっ! 最近一人で仕事ばっかだし、みんなと遊ぶ暇も無いし、事務所のみんなとも全然話してないんだよ!?」
響「いくらみんなの食費と出稼ぎの為だからってどうして自分だけ一人で黙々とアイドル目指さなきゃならないんさ!!」
P「響っ!? お、落ち着けって……」アワアワ
響「自分だってっ! 自分だってみんなで歌ったりダンスしたりしてトップアイドル目指したいんだよっ! 一人で熟せる貴音みたいに自分は強くないんだよッ!!」
P「響っ!! ――って、出て行っちまったぞハム蔵」
ハム蔵「……」
貴音「ハム蔵殿、確かに響の言う通り最近響は事務所にそんなに顔を出していませんでしたね。私も多忙の身であまり事務所には顔を出せてはいませんが、皆が仰ってましたよ」
ハム蔵「極力レッスンと営業に労力を当てた方が良かったからな。仕方ないのだ」
P「うーむ、その言い分も間違いではないんだが……。うちのアイドルって何処か普通のアイドルとずれてるからなぁ」
ハム蔵「ずれてる?」
P「あぁ。勿論良い意味でだぞ? 他の事務所って一度挨拶に行ったことあるけどなんて言うかもっと事務的な、本当に職場だなって感じがするんだけど」
貴音「765プロは実家って雰囲気がしますものね」
P「そうそう、そういうところだ。居心地が良いんだよなぁ。いろいろ不便なんだけど、あの雰囲気に代えられる物は無いよ。社長が移転させない気持ちも良く分かる」
P「響はその空気に慣れ過ぎてて変わってくことが怖いんじゃないかな。普段完璧完璧言ってるけど、弱い一面は誰だってあるしさ」
P「給料の減給、アイドルランクの変化、自分の仕事が入ってこないって状況が立て続けだったしな。おまけに家族を養えないと来たもんだ。そりゃあ精神的にも参るよ」
P「今後を考えると、もしかしたらアイドルを続けない方が響の為かも知れないって状況が出てくるかもな……」
貴音「確かに、今の響には少しばかり荷が重すぎるかもしれません……。一度、じっくり話してみるべきでは?」
ハム蔵「……」
P「追うぞ、ハム蔵」
ハム蔵「プロデューサー殿……私に響を追う資格があるのだろうか……」
P「馬鹿言ってんじゃねぇよ。家族なんだから当たり前だろ」
P「それに今回のは俺がお前に役割を押し付けて響のプロデュースに手を付けられなかった俺のせいでもある」
ハム蔵「それは私が望んで……」
P「この際難しい事は考えるな! お前はハムスターのままで居たほうが良かったのかもな」
P「取り敢えず、行くぞ。貴音、ちょっと行ってくるよ。他のみんなは今は家にいてくれ。必ず響は連れて帰るから!」
貴音「はい、あなた。お気を付けて」
一人と一匹は少女の後を追って夜の街を駆け抜けた。
彼女の事だ、そう遠くは行ってはいないだろうが……プロデューサーはデジャブを感じた。
「響が事務所から叫んで出て行った時と一緒だ」――と。
当ても無い一人と一匹はイヌ美を連れてくれば良かったと後悔しながらも取り敢えず我那覇響宅へと向かう事にした。
歩いて行くにはプロデューサーのちんけな体力じゃ数時間掛かってしまう為、やむを得ずタクシーに乗って向かう。昔の彼ならお金が勿体ないの一言で走って向かったのだろうが、今の彼はそれなりに余裕があるのが救いだった。
しかし余裕が増えたからこそ、今回の件を招いてしまったのではないだろうか。そう心の内で思いつつ、彼女が自宅にいる事を信じてただひたすら到着を待つのみだった。
P「響っ!!」
プロデューサーはタクシーの支払いを終え、急いで玄関へと向かい、受け取っていた合鍵を使って部屋に入る。
そしてそこには静寂に包まれた部屋の中で一人ベッドに蹲る弱弱しい我那覇響の姿があった。その顔は涙で濡れ、瞼は赤く腫れており、しなやかな髪はぐしゃぐしゃとなっている。
P「よかった……。家に居たんだな」
ハム蔵「響」
響「イヌ美を使うと思ったから急いで家まで戻ったのにやっぱり見つかるものは見つかるんだね……何か、自分疲れちゃったよ」
P「疲れたってのは……走ってきたとかそういう事じゃなくて、アイドル業がか?」
響「……うん。最初は凄く楽しくてね、美希が言うみたいなキラキラ出来る事が楽しく感じてさ。皆と一緒ならトップアイドルになれるんじゃないかって、そう思えたんだ」
響「それなのに自分だけアイドルランクDまで落ちちゃって、頑張って戻ろうと必死にレッスンや営業を熟してみたけど……今までとやってた事と違いすぎて何か、自分の理想とかけ離れていく感じがしてさ」
響「別にもうアイドルじゃなくて別の仕事でも就いた方がいっそ楽なんじゃないかなって……。最近学校も行ってなかったしこれを機に普通の高校生に戻るのも」
響「これって、甘えかな? プロデューサー。ハム蔵」
ハム蔵「響……お前に無理をさせたのは謝る。私達は今までしてきたことが一番だと思ってた。けどそれはお前の――」
P「――いや、ハム蔵。お前は間違っちゃいないよ」
ハム蔵「プロデューサー殿……?」
P「響。本っ当にごめん。先にお前をほっといて仕事に夢中になってた事は謝る」
響「それは前も謝られたよ」
P「それでもだ」
響「……」
P「今まで続けてきた事を辞めるって事はさ、これまで積み上げた努力と気持ちと別れる事なんだよな」
P「貴音はさ、アイドルは辞めたけど今だ女優業とかで今でも頑張ってるだろ? それは場所を変えても今までの努力と気持ちと別れたくないっていう意の現れだと思うんだよ」
P「だって、結婚した今。辞めちまっても何ら問題ないわけだしさ」
P「寧ろ辞めなかったのは驚いたよ、俺は。これを機に専業主婦にでもなるのかとずっと思ってたからな」
響「貴音は才能も、ファンもあるから……」
P「確かにな。でも響にも才能やファンはいるじゃないか」
響「自分には……続けて行ける覚悟が、無いよ」
P「――覚悟、か。貴音もアイドルから女優に転業した時は今の響みたいな不安に陥ってたのかねぇ」
P「でもさ響」
P「響も今までアイドル続けてた中で辛かったり、楽しかったり、悔しかったりっていろんな経験をしてきただろ?」
P「これって、続ける覚悟が無きゃ出来なかった事だよな」
P「確かにこのままアイドルを辞めて普通の女子高生に戻るのも手だ。その道を選んだのなら否定もしない。寧ろ応援する」
P「けど……俺は響の覚悟から成り立った経験がこうも簡単に消えてくのは、悲しいよ。仲間として、765プロの……家族として」
響「悲しいって……自分が悲しい時に、辛い時に相談に乗ってくれなかった奴に言われたくないよ!!」
ハム蔵「……」
P「それに対しては申し訳ないって思ってるよ。俺の不甲斐無さでお前を傷付けたのは俺が馬鹿だからだ」
ハム蔵「プロデューサー殿……」
P「俺の言ってる事は全部自分勝手な我儘だよ。響が辞めて欲しくない理由を今頭の中で必死に整理して、言葉にしてる」
P「それでもさ、辞めさせたいって言葉は出てこないんだよなぁ」
P「それに、ハム蔵も他のペットの皆も同じことを思ってると思うぞ。……な、ハム蔵?」
ハム蔵「私は……私達の為に頑張る響を支えてやれるのは一緒にいる事だけだと思ってた。けれど、こうしてプロデューサー殿に機会を与えられた事で一緒にいるだけじゃ重荷になるのではという不安が消え、響の力になれてると過信していた」
ハム蔵「……けれど、私達が居る事でお前が苦しんで、アイドルを辞めるというのなら、私達はお前の傍から離れよう。苦しんでいるお前に私達は只の重荷だ」
響「そんなの――ただの脅しじゃないか」
ハム蔵「うむ、遠回しにそう捉えて貰っても構わない」
P「本当にハムスターかよ、お前は……」
P「……そうだ響。春香の時を思い出せ」
P「春香もさ、これからの成長に不安を抱いてた一人だろ? その中でいつまでも皆と共にアイドルをやりたいって言ってた春香も今はソロでライブする程の実力がある」
P「何時までも皆で一緒には居られない、それを春香は成長する上で知ったんだよ。だからこそまた集う為に一人一人が輝けるよう今を頑張ってるんじゃないかな」
P「それが成長する覚悟なんだよ、響。今、それを響は掴みかけてる最中なんだ」
響「成長する、覚悟……」
P「あぁ」
響「成長すれば、何か見えるものもあるのかな……?」
P「あるさ、必ずな。それが素晴らしいものであるように、俺らプロデューサーはお前らアイドルを導く」
P「それに、お前が不安に思ってるような事は起きない。俺ら765プロは……何時までも仲間で、家族だ」
ハム蔵「……」
響「今は……少し、考えさせてほしい」
P「……わかった。今日は帰るよ。一人でじっくり考えな」
――――――――
――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
翌朝。いつも通り出社したプロデューサーは朝から久しぶりに所属アイドル達が大勢集まっている中、昨日の件について一通り話した。
最近起こった我那覇響のアイドルランク降格、仕事の減り具合を見て他のアイドル達も彼女を心配する声を挙げているのはプロデューサーも知っていた。だからこそ説明しておくべきだという判断に至る。
P「と、言う事だ。響が事務所に来たら明るく出迎えてやってくれ」
春香「そんな事があったんですね……確かにランク下がってからの響ちゃんは凄く暗かったし」
千早「最近、我那覇さんの姿見てませんでしたからね。1か月でランク上がったのは驚かされましたが」
亜美「もっとひびきんにメールしてあげればよかったかな?」
真美「亜美のメールはひびきんじゃ理解できないよ→」
雪歩(みんな二人のメールの内容分かってないのは言わない方が良いのかな……?)
真「まぁなんにせよ、響が来たら何かご飯でも一緒に食べに行きたいね」
美希「うん、そうだね。響は単純だからそれだけでも喜ぶと思うな」
伊織「あんた、それ響の前で絶対に言っちゃ駄目よ……? あいつ泣くから」
律子「ほら、あんた達! これから仕事の人もいるんだからいつまでも駄弁ってるんじゃないの!」
一同『はーい』
やよい「あれぇ? あずささんが居ませんよぉ?」
伊織「ま た あ ず さ か」
律子「あずささんなら自宅に居るから大丈夫よ?」
亜美「ん、どしてどして?」
律子「寝坊しちゃったみたいでね。それに現場直帰なんてしたらいつ着くか分からないから自宅に居て貰ってるのよ」
伊織「現場向かう途中で拾っていくって事ね。それなら安心ね」
律子「そゆこと。じゃ、あとはよろしくねプロデューサー」
P「おう、竜宮のみんなも頑張れよ」
P「ふぅ、メガネパイナポーも居なくなったし、漸く一息付けるよ……」
小鳥「ホントプロデューサーさんって律子さんと仲良いですよね」
P「そうですか? まぁ、何か気の合う同僚って感じですかね。あっちの方が歳上ですけど」
真「あまり度が過ぎると貴音に怒られますよ?」
P「泣かしたりすると怒るんだけど別にふざけた会話程度なら何にも言わないよ、アイツ」
春香「えっ、それってプロデューサーさんが誰か泣かした事があるって事ですか?」
P「ギクッ」
千早「まぁ話の流れから察するに我那覇さん辺りでしょうね」
P「ギクギクッ」
雪歩「はい、プロデューサー。お茶ですぅ」
P「お、おう……ありがと」
真美「で、兄ちゃん。ひびきんはどうするの?」
P「どうするもなぁ……。こればっかりは響が決め抜かなきゃならない事だし」
P「って、お前らそろそろ仕事だぞ。準備しろ〜」
春香「プロデューサーさんが送ってってくれるんじゃないんですか?」
P「生憎この書類の山とこれから戦わなきゃならんのだよ、天海君……。それに送っていける車は既に奴が乗っていってるからな」
真美「いい加減買おうよそこは……」
小鳥「そうねぇ、どうせなら事務所ごと移転したいわねぇ」
真「実際そんな話は無いんですか? Sランク二人もいる事務所がこんな寂れた所だなんてあまりにも不釣り合いな気もしますけど」
P「社長が気に入ってるからな……。降りればすぐたるき亭がある環境ってのも。事務所内リフォーム位はしてもいいんじゃないかなって言ってはいるんだが」
美希「ミキはここ気に入ってるから移転は嫌だなぁ」
P「お前が気に入ってるのはそのソファーだけだと思ってたわ」
千早「確かに」
美希「酷いよハニー、千早さん! ミキだってみんなといるこの事務所嫌いじゃないんだから! さてと……それじゃ、行ってくるねハニー」
真「あっ、僕らもそろそろ。雪歩、やよい。行こうか」
やよい「じゃあプロデューサーさん、行ってきまーす」
雪歩「待ってよ真ちゃん、やよいちゃん! あ、プロデューサー。響ちゃんの事お願いしますね……?」
P「おう、いってらっしゃい」
春香「私達も行こうか?」
千早「真美と一緒に仕事なんて珍しいわね」
真美「んふふ〜? 千早おねーちゃんも真美の多彩なラジオトークにメロメロになっちゃうと思うよぉ→?」
千早「ふふっ、楽しみにしてるわ」
春香「じゃっ、プロデューサーさん。小鳥さん。行ってきまーす」ガチャッ
小鳥「行ってらっしゃいー……。あの子たちも、どんどん前に向かって行ってるんですね」
P「元々その可能性を存分に持ってる子達ですから。勿論、響も――」
P「って、今の俺にはあいつを信じて待つこと位しか出来ないんですけどね。さてと、休憩もそろそろ終わりにしてこの書類の山を片づけますか」
小鳥「ふふっ、手伝いますよ。プロデューサーさん」
P「ありがとうございます、音無さん。助かります」
小鳥「そういえば今日は貴音ちゃんは?」
P「貴音なら家で――――――」
〜回想〜
貴音「は、ハム蔵殿……へへヘビ香殿に近づくのは止してと伝えてください!!」
ハム蔵「四条殿はヘビが怖いのか」
貴音「え、えぇ……幼少の頃から苦手なのです」
ハム蔵「ふむ、苦手は良くないな。ここは私が苦手克服をプロデュースして差し上げよう」
貴音「」
〜回想終了〜
P「ってな感じで今は気絶してベッドで寝てると思いますよ(ハム蔵の事は伏せつつ)」
小鳥「響ちゃんの家のペット達預かってたんですか……。大変そうですね、貴音ちゃんもペット達も」
P「いや、そんなことは無いですよ。みんな良い子達です。響を大切に思ってる、良い子達です……」
P(その分今の状況が辛く感じてしまうだろうがな)
その後、二人は黙々と事務作業を熟していく。
時間が経つに連れて雲行きが怪しくなっていき、道路に面する窓から雨が降り始めた事に気づく事無く集中するプロデューサー。
自分へのオファーも大分減り、今は皆のプロデュース大分余裕が持ててきた。その中で今回の問題。
客観的に考えてしまえば響の言ってる事は只の甘えだ。
例え一人でも仕事を熟せないアイドルなんてどこに行ってもやっていけるはずがない。ずっと誰かの指示に従っているようでは自分自身を曝け出す事は無理だ。
いつまでも仲間と言う籠に縛られていては駄目なのだ。この事も遅かれ早かれ起るべき事だったのだろう。
上手く籠から出させてやれなかった責任に痛感しつつも彼女が出す答えを、プロデューサーは待ち続けた。
――そして、雨上りの夕暮れ時に彼女は現れた。
響「……」
P「響っ!?」
小鳥「響ちゃんっ、どうしてこんなずぶ濡れで……。傘挿して来なかったの?」
響「うん、早く来たかったから走ってきたんだ」
P「ほれ、響。タオルだ。……俺はもっと時間を掛けて答えを見つけ出すと思ってたんだが」
響「……」
小鳥「はい、響ちゃん。ホットココアよ。これでも飲んで身体温めてね」
響「ありがと、ピヨコ」
暫く彼女の口は開かなかった。音無小鳥の持ってきたココアを口に運び、静かに飲む。
対面するようにソファーに座るプロデューサーと彼らを遠くから見守る音無小鳥。
彼からは何も問わなかった。今は彼女の口から答えが出る事を信じているから。彼女が来た今、待つことに何も不安を感じない。
――きっと、響は答えを導き出したはずだから。
響「プロデューサー」
P「うん」
響「自分さ、アイドル向いてないなって思った」
響「だって、みんなと離れる事にビビっちゃってさ……。せっかくハム蔵やプロデューサーが手伝ってくれてランクも上げれるくらい頑張ったのにあんまり嬉しくなかったんだ」
響「ランク落ちた時と気持ちが大差なくてさ、自分以外でいっぱい上がれなかった人がいたのにこんな気持ちになっちゃうのは、負けてった人達に失礼だよね……」
響「そんな自分は、この業界に居る資格なんて無いって思ったんだ」
響「でもさ、プロデューサーが言ってた覚悟って」
響「――プロデューサーも自分に対してしてくれてたんでしょ?」
P「……あぁ」
響「プロデューサーに出会って、みんなで仕事して、必死になって……。みんな変わり始めてたのに、自分だけ変われてなかったんだなぁ」
響「気付けなかったら自分、スッゴイ嫌な奴でみんなとさよならしてた……そんなの、そんなの嫌だって思ったんだ」
P「響……」
響「さっき、ハム蔵達にも話した時いっぱい泣いたのに……涙が止まらないや」グスッ
P「響、ゆっくりでいいぞ。最後までちゃんと聞くから」
響「グスッ、う、ん……ありがと、プロデューサー」
あ、書き溜め終わったんで少々お待ちを。申し訳ないです。
十分後。流れる涙が漸く塞き止められ、大分今までの顔つきに戻ってきた。それでもまだ、以前のような明るい表情からは程遠い。
けれど、プロデューサーには何かが変わった事だけは分かった。あとは、最後まで語られるのを待つだけ。答えはすぐそこだった。
響「――もう、大丈夫」
P「うん」
響「自分、完璧だと思ってた。料理も出来るし、ダンスも出来る。歌もそれなりに上手いし愛嬌もある……と思う」
P(自信家な響だが、それも弱い自分を奮い立たせる為に言い聞かせてたんだろう。)
響「でも、それだけじゃ完璧とは言えないって……わかったんさ」
マグカップを握りしめ、一言一言噛みしめながら言う。
途中、再び泣き出しそうになりながらも、ぐっと堪え続ける。
響「ここでへこたれて、沖縄に逃げたって居場所何て無いんだって。せっかく積み上げたみんなとの思い出も、絆も否定したくないっ」
響「自分はまだ……頑張りきれてないんさー。みんなに追いつく……いや、みんなを追い抜く為にはここで挫折する事は有り得ないんだって、ハム蔵や、みんなが気付かせてくれた!」
響「だから、プロデューサー……自分を、961プロに武者修行に行かせて欲しいぞ!! プロデューサーや、765プロの皆の覚悟に応える為にもっ!!」
P「響……」
P「それが、答えなんだな?」
響「うん。あ、でもあんまり長すぎるとちょびっと寂しいから……程々にね?」
P「……」
P「…………ぷっ、く、は、ははあははっ!!!」
響「な、何が面白いんだよー!? 自分、変な事言ったか!?」
P「いやっ、その……なんていうか、響は可愛いなぁって」
響「なぁっ!?」
P「そうだよ、そうやっていろんな一面を見せる響が一番いいよ。活き活きしてる響が一番良い。お前の一番の武器だよ」
P(もう、籠からは飛びたてたみたいだな)
美希「あーっ!! 響来てたんだっ」
春香「あ、ホントだ! 響ちゃん久しぶりっ!」
P「え、ちょっお前らいきなり帰ってきてどうしたんだよ」
律子(あんたと響が話し込んでたから入るに入りづらかったのよ!)
P(仕方ないだろ! 響にとって必要な事だったんだよ!)
律子(わーってるわよ。……うん、やっぱり響は笑ってた方が可愛いわ)
P(響が作ってきたサーターアンダギーを「太るから要らない」って言って跳ね除けて泣き顔を見て「……可愛い」とかほざいてた奴が言っていいセリフではないと思います……)
律子(あぁん!?)
P(ひぃぃぃっ!)
真「響も帰ってきたことだし、みんな今日は一緒にご飯行こうよ!」
伊織「どうせならこいつの家で良いんじゃない? 新居お披露目って事で」
真美「いおりん頭いい!」
亜美「いおりんデコ広い!」
伊織「……亜美は後で覚えときなさい」
あずさ「あらあら、事務所が急に賑やかになったわねぇ」
やよい「やっぱり、みんないるのが一番ですね!」
雪歩「いやいや、四条さん居ないしっ」
千早「プロデューサーの家……どんな感じなのかしらね」
美希「ハニーの家! ハニーの家!!」
響「折角だしじゃあ今日は自分が料理振る舞っちゃうぞー!!」
一同「おおーっ!!」
小鳥「プロデューサーさん、何かとっても賑やかになりましたね」
P「さっきの重苦しい雰囲気が一瞬で去りましたね」
P「でもまぁ……これが765プロなんじゃないですか? 団結、ってやつですよ」
小鳥「ふふっ、丁度仕事も終わりましたし今日はみんなで盛大に盛り上がっちゃいましょうか?」
P「貴音も喜びますよ。……多分まだ気絶してると思うけど」
―――――――――――――――――――――
P(あれから数か月の時が経った。
あの後、響は無事961プロに武者修行しに行った。黒井社長がどうしてこうも協力的なのか尋ねてみた所、何やら社長に弱みや借りを昔に作っていたようで逆らうに逆らえないようだ。ご愁傷様である。
度々送られてくる響のメールと冬馬のメールが面白いんだこれが。そりが合わないみたいだがお互いにお互いが認め合ってる部分があって、似た者同士なんだなって。
皆も日々仕事に追われながらも、事務所で集まって話してたり、俺の家に来て飯を食べたりと相変わらずの毎日を送ってる。
響も自分の中の何かに気付いたのか、とんとんとオーディションやライブなどを熟し、アイドルランクをBに上げ、更にはAにまで上がるという快挙を見せた。
今では動物たちと共に「完璧!千村どうぶつ園」のレギュラーメンバーとして一役買ってたりする。大人気番組なだけに響の知名度を更に上げるいいきっかけになった。これも961プロの助力あってのこそなのだろうか。俺も見習わないとなぁ)
P「で……響さん?」
響「ん?」
P「どうして俺の膝に座ってるの?」
P(そして今日響は765プロに戻ってきた。大分自分に自信を持てるようになったのか、以前以上に明るい表情を見せるようになった。
しかし、どうも可笑しい。何ていうか……妙に俺に甘えてくるというか、懐いてくるというか。事務所のソファーで一息入れてる最中、突然俺の膝に座ってきたのだ)
響「だって……妹は『にぃに』に甘えていい権利があるんだぞ?」ニカッ
P「ちょ!? ――響おま」
P(今のはやばい。今のはやばいって!?)
貴音「ただいま戻りまし………た?」
P「ちょっ、貴音!? これはちが」
響「あっ、『貴姉』っ! 会いたかったぞー!」ダキッ
貴音「」
P「立ったまま気絶してやがる……あの破壊力で気絶しなかっただけ運が良かったな、俺よ」
P(響はその後、散々俺の事を『にぃに』と呼び、貴音の事を『貴姉』と呼び続けた。本当に兄妹と思ってくれているのか、それともからかっているのかは分からないが……)
P(少なくとも今は、響が愛らしくて仕方ない! い、いや……一番は貴音だからな。うん、妹として考えれば何も問題ない)
響「にぃに、貴姉っ!」
P・貴音「な、何だ(ですか)?」
響「ずっと、かなさんどーっ!」
おわり
遥々沖縄県から上京してきた彼女は現在、765プロのアイドルとして活動している。
――765プロ。
数か月前、Sランクアイドル「四条貴音」が自身のプロデューサーと電撃結婚を果たし、一躍芸能界に名を轟かせた事務所。
そんな事務所の一員として彼女も日々切磋琢磨しているのだ。
彼女の特徴と言えば太陽のような明るい笑顔。引き締まった肉体と巧みなダンスパフォーマンス。そして、無類の動物好き。
家には多数のペットが飼育されており、彼女曰く「大切な家族」との事。最近は常にハムスターのハム蔵を頭に乗っけ、一人と一匹で活動する事が多い。
しかし、そんな彼女に今日重大な問題が襲い掛かる……。
響「はいさーい!! 完璧アイドル我那覇響の登場だぞー!」
P「お、響。今日も元気だな」
響「はいさい、プロデューサー! 今日はみんなのお待ちかね、給料日だそぉ〜! にししっ」
P「口調がどっかの誰かさんの混じってるぞ。ほれ、響。今月の給料明細だ」
響「ありがとプロデューサー! うっしっし、これで今月もみんなを喜ばせられ……」
P「ん……? どうした、響? いきなり身震いなんてし始めて。まさか思った以上に給料貰えてたとかか?」
響「……」ワナワナ
P「響?」
響「プゥゥゥロデュゥゥウサァァァァ!!! これなんだよこれ!! 有り得ないでしょ!! 自分の給料横領でもしてるんじゃないのか!?」
最近幸せ太り(自分で作った料理にて)をし始めたプロデューサーことPは現在四条貴音の夫としてこの765プロで日々働いている。
元々は今の事務所の一階にある「たるき亭」という居酒屋にてアルバイトとして働いていた彼だが、765プロ社長「高木順二郎」の熱心(執拗とも言う)なスカウトにより入社。
そこで幼馴染の四条貴音と運命的な再開を果たし、現在に至る。その後、18歳ながらも仕事と恋愛を熟す敏腕プロデューサーとして知名度を上げ、度々バラエティ番組などで出演していたりと忙しさ極まりない時期を妻と共に過ごしていた。
そして彼はアイドルとは思えない形相の我那覇響から突き付けられた給料明細に目を通すために受け取る。
内心では経理などに関しては全く手を付けてない彼に「給料が少ない!」と文句を言われても「ファンをもっと増やして来い」としか言いようがない彼だが、困惑しながらもそこに記載されてある我那覇響とその家族達の今月の命を繋ぐ生命線を見ると、其処には驚きの数字が書き記してあった。
P「今月の給料……8300円、だと?」
P「何だよこれ、お年玉で散々使った後残ってる金額確認したら今後どう使うかスゲー悩む辺りの金額じゃないか……」
響「その例えは何か上手いのか下手なのか良く分からないよ……。ちなみに先月は給料は8万6000円だったぞ」
P「ちょっと待て。お前って仕送り貰ってんの?」
響「出稼ぎに来てるのに貰ってるわけないじゃん。馬鹿だなぁ〜プロデューサーは」
P「……」
P「…………いやちょっと待て。お前家賃幾らだ?」
響「4万くらいかな? 水道代光熱費ガス代込で」
P「生活費は?」
響「ペット達のエサ代込で3万」
P「あとの1万6000円は?」
響「家族に送ってるぞ」
P「えっ」
響「えっ?」
P「生活出来ねーじゃん!!!!!!!」
響「だから怒ってるんだよ!!!!!!! なんくるなくないよ!!!!!!!!」
このプロデューサー。家族を既に亡くしており、祖父祖母も親戚もいない為、中学を卒業を卒業してから一人自力で生計を立てていた。
その生活は苦しくも、生きる為には仕方ない為、彼は人並みの青春を送る事を犠牲にしたのだ。
この経験談を、前に出演したご長寿番組「新婚さん! こっち来い!」にて話した所、多大な応援メッセージが事務所に届き、アイドル達を驚させたのはごく最近の事。
生活とお金は切っては切り離せない物、そして彼は彼女が一人で頑張って暮らしている事も知っている。
我那覇響の給料がどうしてこうなってしまったのか、原因究明の為に765プロ事務所担当の音無小鳥を二人は待つことにした。
P「あの鳥とうとう人の給料に手を出したか……! いつかは仕出かすんじゃないかと思ってたけどまさかな」
響「ピヨコ……自分の事、嫌いなのかな? 自分、それなりに考えてみんなに接してると思うんだけど…………自信無くなってきたよ」
P「大丈夫だよ、響。お前は完璧なんだろ? そういう自身が今のアイドル界には必要なんだ。胸張って生きろ」
響「プロデューサー……」
感涙する我那覇響とその肩を掴むプロデューサー。
傍から見たらいい雰囲気に感じられるだろう。しかし、入室してきた人物が今の現状を混沌へと移し替える。
貴音「あなたぁー! ただいま帰りまし……た?」
P「あ、お帰り貴音」
響「あ、貴音だ。はいさーい」
貴音「……あなた、何故響は瞳から涙を流しているのです? そしてその肩に乗せた手、その真意を是非とも問いたいのですが」
P「ぢがうんでづ、これにはふがいじじょうががががが」
響「貴音のアイアンクローは下手したら顔に穴が開きそうで怖いぞ……」
響「って、そうじゃなかった! 貴音ー! これにはちゃんと理由があるんだ! これ以上プロデューサーをアイアンクローしたら三途の川渡り切っちゃうぞ!!」
数分後。
事情を説明する我那覇響、現実へと帰還するプロデューサー、夫の浮気と勘違いして頬を赤らめる四条貴音。
漸くさっきまでの状態まで身体機能を回復したプロデューサーは膝に自分の自慢の妻を座らせ、機嫌を取りながら再び給料明細に目を通す。
彼の膝の上は私の物とでも言うかのように上機嫌になる四条貴音は普段見せるクールな一面を脱ぎ去り、今は只の一人の妻となっている。
その二人の光景に「爆発しろ」と呟く某竜宮小町のプロデューサーは今は居ない為、二人の仲を邪魔する者が居らず、事務所はラブラブな雰囲気で充満し始めていた。
貴音「私達でもこんな金額は頂いたことは無いですね」
P「心当たりはないのか? 響」
響「あったら苦労しないさー……」ウルッ
貴音・P(何か愛くるしい)
響「そういえば二人は今いくら貰ってるんだ?」
P「俺は月30万くらいかな。貴音は180万くらいか。二人で生活するには十分すぎるくらい貰ってるよ。……あ、これ一応秘密だからな」
響(貴音が凄い貰ってるぞ……何時ぞやのラーメン奢った金額を請求しても文句言われないかなこれ)
小鳥「おはようございまーす。あっ、今日は三人しかいないんですか? それに相変わらず熱々です事っ」
貴音「小鳥嬢、おはようございます」
P「……」
響「……」
小鳥「え、二人共どうしたんですか? なな何かあったんですか?(昨日机の中に冬馬×Pのイベント用原稿忘れてきちゃったのよね……まさか!?)」アセアセ
P「音無さん、俺らの目を見て分からないですか?」
響「……」ジーッ
小鳥(え、何? 本当に原稿見られちゃったの!?)
小鳥「ちょ、ちょっと良く分からないですね……? 私、何かヘマしちゃいましたか?」
貴音「……ふむ、心当たりが無いようですね。一度殴った方が宜しいのでしょうか?」ポキポキ
P「おいばかやめろ。……えっと、これを見てください」ササッ
小鳥「―――――こ、これはっ!?」
小鳥「って何だぁ! ただの給料明細じゃないですかっ! 脅かさないでくださいよまったくぅ〜!」
響「ただのじゃないぞっ!! 目かっぽじってよく見てよピヨコ!!」
小鳥「えーっと、響ちゃんの給料明細よね? これがどうかしたの?」
響「ここ見てよここ!! 明らかに値段間違ってるじゃないか!!」
小鳥「え、間違ってないわよ?」
P・響・貴音「えっ?」
小鳥「だってうちは完全歩合制だもの。働きに応じて給料が変わるのは仕方ないわ?」
小鳥「私も最初は困惑したんだけどね……。響ちゃん先月の間でまさかのアイドルランクがBからDまで落ちちゃってるし。給料響かないわけないわよね……響だけに」
貴音「ププッ」
P「えっ!? マジですか!?」
響「この前言ったじゃないかー!! なのにプロデューサーは自分の事ほっといてプロデューサー自身が番組出ちゃってるしさ……」グスッ
貴音「確かに、あの時の響からはまこと守ってあげたくなるような……そんな慈愛を感じました」
響「そんな気持ちより状況を打破する方法を一緒に考えて欲しかったよ!!!」
小鳥「そうですよ。響ちゃんの減給の一端は管理責任不十分のプロデューサーさんが担ってるんですからね!」
P「なんていうか今更ながら否定できないのが……。ごめんな響、お前より目立っちゃって」ショボン
響「自分が空気みたいな扱い止めてよ!」
響「それに貴音と自分でどうしてこんなに差があるんさー!!」ムガー
P「そりゃあねぇ……」
小鳥「えぇ……」
P・小鳥「「仕事が来るからでしょ」」
響「うがああああああああああああああああああああああああああああー!!」
貴音「あっ、響……。行ってしまわれましたね」
小鳥「これが社会なのよ、響ちゃん……」
P「って、そんな呑気にカッコいい台詞言っても何にも解決になりませんって。貴音、俺ちょっと響を見てくるよ」
貴音「分かりました。くれぐれもご注意を。今の響はあなたを人質に取って私から身代金を要求しかねない位精神が不安定になっております」
P「何それ怖いんだけど……。取り敢えずいってきます」
小鳥・貴音「「いってらっしゃい(ませ)」」
プロデューサーは走った。しかし数秒でその走りは歩みへと変わった。
明らかな運動不足。そして追いかける対象は運動神経抜群の活発系アイドル。追いつくわけがない。
まだ18歳だというにも拘らず、自身の肉体がこんなにも老化してるのかと驚きを隠せない反面、暇見つけてジョギングしようと心に決めるプロデューサー。
取り敢えず我那覇響が行きそうなところを荒い息を整えながら考えてみる事にした。
P「響って何処に行きそうだろ……水族館? 動物園とか?」
P「いやこんなタイミングで行くか普通?」
P「漫画とかアニメとかなら行きそうな所に覚えがあってティン! って来るはずなのに俺は来ない」
P「このままじゃバッドコミュニケーションだぞ、俺……! とりあえず響の家にでも行ってみるか。送り迎えで数回行った程度だからなぁ……迷わないか不安だ」
〜数時間後〜
P「―――で、ようやくたどり着いた訳だが」
P「何、この他人を寄せ付けぬ独特の雰囲気……。前に来た時はアパート下で出迎えただけだから部屋まで行ったこと無かったけどこれ程までとは」
P「しかも響の住む部屋の両隣3部屋共空き部屋ってこれわざとなんかな……。4万でこの立地と外観なら人気あってもおかしくないんだけど」
だがしかし! 扉に他者を寄せ付けない理由が大々的にシールとして貼られていたのだ!!
――『猛犬注意!』『猛蛇注意!』『猛鳥注意!』『猛豚注意!』『猛ワニ注意!』『猛リス注意!』『猛兎注意!』『猛猫注意!』『猛モモンガ注意!』
P「何でほとんど『猛』って単語が付くんだよっ!? それにワニって何だワニって!! 犬と猫とオウムとシマリスを飼ってるってのは聞いてたけどワニって何だよ!?」
P「猛犬猛蛇猛鳥猛豚猛ワニ猛リス猛兎猛猫猛モモンガってどんな早口言葉だ! 舌噛むわ!」
P「っと……イカンイカン。この扉の奥に響が居るんだとしたら俺はあいつのプロでデューサーなんだ。このままにしておけるかっ!」
P「ん……? 鍵がかかってないぞ? おーい響、居るなら返事してくれよ!」ピンポーン
P「反応なし。え、この都会のジャングルの中に突っ込んで行けと? マジかよ……。死ぬでこれ」
P「取り敢えず悔いの残らない様に貴音に『愛してる』ってメールしておこう」ピロリロリ
P「まだ初夜も迎えてないのに死ぬとか……いや、まだ死ぬと決まったわけではない! 俺は響を信じるぞ!」
覚悟を決め、一歩踏み出すプロデューサー。
その目には希望か、絶望か。どちらが映し出されるかは扉を開いた先にある結末のみぞ知る……。
そしてドアノブを再び手にし、ゆっくりと徐々に扉を開く。額から流れる汗を拭いながら開いた先には意外にも普通の玄関が出迎えてくれたではないか。
P「もっとこう……犬の糞とかエサとかリードとかが散乱してて壁の至る所に傷とか付いてるイメージだったんだけど全然違うな……」
P「なんていうか、GANAHA JUNGLEって感じ化と思ったのに少しガッカリだぜ! ははっ!」
調子に乗っているプロデューサーの前に一匹のハムスターが現れた。
我那覇響の頭に乗っかり、我那覇響の本体とさえファンの間では噂されるハムスターのハム蔵だ。
ハムスターにしては人間の言葉を理解できるという恐ろしい理性を持っており、彼女の芸風を担う一端として日々付き添っている一匹。
しかし、そんなハム蔵がどうしていきなり彼の目の前に現れたのか。ハム蔵も実は家では猛ハムスターなのだろうか?
P「お、ハム蔵。今日は事務所に来てなかったみたいだけどどうしたんだ?」
ハム蔵「ぢゅぢゅっ!!」
P「いやぁお前の言葉は俺には理解できないんだけどな。響が居るなら話は別だけど」
P「居ないなら仕方ないか。一度事務所に……」
ハム蔵「待たれよ!!」
P「――!?」
ハム蔵「待たれよプロデューサー殿。響は居るぞ」
P「しゃべったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ハム蔵「普段は内密にしているのでな……しかし、事は一刻を争う! 頼むプロデューサー殿、響を救ってくださらんか!」
P「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ハム蔵「Shut up!!!!」
P「お前英語も出来るのかよこえーよ」
ハム蔵「話は後だプロデューサー殿。この扉を開けて下され」
P「お、おう!(突っ込みどころ満載すぎっぞ!)」
扉の先はまさにGANAHA JUNGLE。
飢えた猛獣たちの目の輝きが扉を開いたプロデューサーの下へ降り注ぐ。
唸るオウム、睨む蛇、踊るシマリス、飛び跳ねるうさぎ、鳴く猫、巨大な顎を開くワニ、吠える犬、飛ぶモモンガ。
まさしくここは――大ジャングル帝國。GANAHA JUNGLE!
P「いやいやいやいやいやいやいや」
P「俺幻覚でも見てんのかな。やっぱそろそろ長期休暇取ってハネムーンとか行かないと駄目だよな!」
ハム蔵「プロデューサー殿。彼らは貴方に危害は加えませぬ。ただ、部屋で倒れた響を助けたいが為にその意思を貴方に伝えようとしているだけなのだ」
P「響が倒れた!? 先にそれを言えって!」
P「響っ!!」
いぬ美「バウワゥ!!」
ハム蔵「いぬ美殿は『響ちゃんが叫びながら帰ってきて途端に足を滑らせて頭を思いっきり打った後動かなかくなった』と言っておられる」
P(通訳も出来んのかよ……。この事喋ったら研究機関に連れてかれそうだな、黙っとこう)
P「本当なんだな? ちょっと確認するからお前ら少し静かにしてくれ」
ハム蔵「皆にそう伝えよう」
P(ハム蔵スゲェ)
意外にも片付いている部屋だなとプロデューサーは思いつつも、気絶したままの響をベッドに運ぶ。
恐らく強く頭を打って気絶してるだけだろう。息もしてるし穏やかだ。だが部屋に入った時のペット達の姿は穏やかじゃなかったが。
部屋に置かれた小さな机の上に座るハム蔵とプロデューサーは話をしてみる事にした。
P「で、本当にハム蔵は喋れるんだよな?」
ハム蔵「この通りだプロデューサー殿」
P「お前が喋れるって他に誰が知ってるんだ?」
ハム蔵「ここにいる仲間と響だけだ」
P(想像してみて欲しい……。人の言葉を喋るハムスター。正にミステリー。況してや声が小山〇也をを思い出させるこの渋さ。外見と不釣り合いすぎるわ)
P「他の動物たちは喋れないのか」
ハム蔵「うむ。基本的には私が通訳して響に伝えているのだ。しかし、響も彼らとはもう長い付き合いだ。些細な事は理解できる」
P「成程な……。で、どうやっていつから喋れるようになったんだよ」
ハム蔵「業界に入って間もない頃……売り出し真っ最中の響はアイドルとしてはまだまだ未熟だった……」
ハム蔵「意思疎通が出来なくとも俺達の食費と故郷の家族の為に働く響の姿は私達には分かった。その上で何かできるのではないかと思ってな。連日テレビを見ては人の言葉を覚え、喋る訓練をし、今に至る」
ハム蔵「響には才能があるが、知識と経験に欠ける。そこを私が補う事で響はすくすくとアイドルとして成長していったのだ。勿論、プロデューサー殿の助力あってこその響だが」
P(何だろう、泣ける感動秘話なのにファンタジー要素強すぎ。ハムスターに知識で負けるとかちょっと響さん……)
P「な、成程な。大体話はつかめた」
ハム蔵「で、プロデューサー殿。響があんな形相で帰ってくるなんて初めて見たぞ。事務所で何かあったのか?」
P「あぁ……それを聞いちゃいますか。そうだよなぁ、言葉通じるなら言っておくべきなんだろうなぁ」
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――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
ハム蔵「何と響が……降格と」
P「ハム蔵知らなかったのか……」
ハム蔵「常日頃共にいる訳ではないのでな。最近浮かない顔をしてると思えばこれが原因だったとは……」
P「俺の管理能力不足のせいだ。まさか給料があんなに減るなんて思ってもみなかったぞ」
ハム蔵「響も私達の料理は良いものを作るが自分で食す物は最近もやしなどの安いものばかりになってきていたな」
P(やよいと響の食生活の立場逆転してね?)
P「まぁお金が無いのは仕方ないさ。俺らが飯位は保障するよ」
ハム蔵「確かプロデューサー殿は四条殿と結婚成されて間もない身。私達に裂く暇なんて……」
P「何言ってんだ。困った時はお互い様だ。それに響には結婚式の時にも迷惑掛けちまったし。以前の生活に戻れるくらいまでは俺と貴音も協力するよ」
ハム蔵「かたじけない、プロデューサー殿……!」
P(今話した感じだと、ハム蔵って何気に教養あるよな。響がアイドル活動する上でサポートも陰ながらしてたって言うし)
P(実は響のサポートをしてやりたいのはやまやまなんだが、来週の特番とか「芸能人のプロデューサー スポーツマン決定戦」とかのオファーの練習とかの予定で埋まってるんだよな……)
P(あの海老ナップルめ……勝手に仕事押し付けやがって! 自分が出ればいいのにな。最近お腹周りがうんぬんかんぬん言ってるくせに)
P(俺の手が開かない限り、響に付いてやるのは難しい。かといってホットクわけにも行かない……響が営業行ければなぁ。他の子は時々行ってくれるんだが)
P(……待てよ?)
P(別に響が営業しなくてもいいじゃないか!)
ハム蔵「どうしたプロデューサー殿。そんな驚きに満ちたな顔をして」
P「ティンと来た……ハム蔵――お前が響をプロデュースしろ!」
ハム蔵「何と……私がか?」
P「正直に言うと俺は響の事に関してはお前に劣ると思う。常日頃見れてる訳じゃないしな」
P「お前がそんなにも人間と同等の知性を持ってるなら十分やれると思うんだよ」
P「でも一歩間違えれば響じゃなくてお前が人気者になってしまう。人の言葉を話せるハムスターなんてこの世にたった一匹だと思うし多分世間にバレたらお前は研究所行きだ。被検体的な意味で」
P「だからぶっちゃけて言えばこれは賭けだ。お前が響の才能を世にどれだけ広められるかっていうな」
P「……どうする?」
ハム蔵「どうするも何も答えは一択。私の知力が響の助けになるのなら全力でそれに当たるのみだ。やらせて貰おう」
P(なーんかやっぱ吹き替えでもされてるんじゃないかっていう感じなんだよなぁ。いっその事ハム蔵を腹話術させてる響で売り出せばいいんじゃないかなー……って、適当な事言ってたらはっ倒されそうだな。主に律子に)
響「んっ……ここは、って!? ぷぷぷぷプロデューサー!?」
P「あぁ、みんなが大好きなプロデューサーだぞ。一番は貴音だけど」
ハム蔵「そういう余計なひと言はいらないと思われるぞプロデューサー殿」
P「ごめんごめん。響、何処も痛いところないか?」
響「う、うん……別に何ともない。で、どうしてプロデューサーがここに……ってハム蔵!? 人前で喋るなってあれほど言ったじゃないかー!!」
ハム蔵「慌ただしいぞ響。そんなんではトップアイドルなんぞ夢のまた夢。常に余裕を持って振る舞えと言っているだろう?」
響「うぅ、そうだけどさぁ」
P「事務所でいきなり飛び出してったから心配して家まで来てみたらお前が気絶しててな。他のペット達も心配してたぞ?」
響「みんな……心配かけてごめんね?」
一同『\気にするな/』
ハム蔵「気にするな、と言っている」
P「今のは何となくわかるぞ、うん」
P「でだな、響。お前のアイドルランク低下の件について何だが……」
響「プロデューサー! 自分……自分頑張るから、み、見捨てないで欲しいぞ!」
P「響……お前をプロデュースしてやりたいのはやまやまなんだが、申し訳ないっ! 既にここ一か月の予定が俺も埋まっててな……今のお前に裂く時間が設けられないんだ」
響「そ、そんな自分どうすれば……!」
P「何も見捨てる訳じゃないぞ? ただ一緒にいられる時間は少ないだけって話だ。だからな、俺の代わりにお前を一番よく知ってる人に協力してもらおうかと思ってな」
響「一番良く知ってる人……?」
P「そうだ、そこのハム蔵……いや、ハム蔵Pだ!」
一旦離脱します。そのまま投下したかったんですがこれから飲み会なので……。
帰ってきて余裕があれば再会したいと思います。月曜日も休みって素晴らしいですよね。
再開します
響「えええええええええええええっ!? ぷ、プロデューサー、ついに頭がおかしくなったのか!?」
P「失礼な奴だな! ついにってなんだついにって! 真剣に考えた結果だよ! ……それに全部ハム蔵に任せる訳じゃないぞ? あくまで物の試だ」
P「取り敢えず一週間はそれでやってみようぜ。ハム蔵、出来そうか?」
ハム蔵「うむ、プロデューサー殿の業務は響の頭の上から良く見ていたからな。分からなかったらその都度聞くとしよう」
P「そうしてくれ。あと響、流石にその給料じゃ生活できないだろ? さっき来るときお金降ろして来たからこれ使え。今月位は乗り切れるだろが、足りなかったら言ってくれ」
響「そ、そんな悪いぞ!? 受け取れないぞ……」
P「俺からしたらお前とお前の家族が倒れられる方が心配なんだよ。申し訳ないと思うならランクを戻して今まで通りの響に戻ってくれればそれでいいから」
響「うぅ……一応、借りるって事で受け取るよ。プロデューサー」
P「あんま気にすんな。俺も貴音もいつも空回りする位元気な響が好きなんだからさ」
響「よ、よし! こうなったらハム蔵……プロデュースよろしくね?」
ハム蔵「うむ」
こうしてハム蔵と我那覇響による二人三脚活動が始まった。
プロデューサーの読みの通り、ハム蔵は響にとって足りない箇所を鋭く指摘し、日々のレッスンでそこを改善していった。
主にハム蔵にとって我那覇響というアイドルは、一般人が持つ「陽気」なイメージとは少し違った「頑張り屋」なイメージが強く、其処を売り出していくことに焦点を置いた。
そして予想以上にハム蔵が出来るハムスターだと悟ったプロデューサーは今まで売り出していた元気っ子なイメージを踏み倒し、今度はクール路線で攻めるよう指示を仰ぎ、ハム蔵に引き続き業務を任せた。
まず現状の彼女の問題点をリストアップした。元々ダンスが得意な彼女にとってはクールという印象を結びつけることは容易だったのだが、彼女の明るさの方が前面に出すぎていて中途半端と化していたのだ。
そして一番の決め手は彼女の持ち曲が無かったこと。今までグループとしての曲にしか触れていなかった為、これを機にハム蔵はプロデューサーに手配してもらい、初の持ち曲を作ってもらった。
――『TRIAL DANCE』。彼女の声色と華麗なダンスが上手く混ざり合った彼女の為の曲。我那覇響というアイドルの新たな一面を印象付ける切っ掛けの一つとなり、低迷していたアイドルランクも1か月にも関わらず一つ上がり、Cランクへと復帰した。
P「凄いじゃないか響! それとハム蔵! まさかこんな短期間でランクを上げるとは思っても無かったぞ……」
貴音「これも全て、響とハム蔵殿による努力の賜物ですよ」
P(あれからというものの、響は夕飯をよく俺達の家に来て食すようになった。時々連れてくるペット達も響が頑張っている事に喜びを感じてるようだ)
P(今日は響のCランク昇格とハム蔵Pのお祝いを兼ねて引っ越したばかりの俺と貴音の家で食事会だ。他のペット達が入っても余裕な広さが自慢だ。実はまだ荷解き終わってないんだけどな)
P(短期間でアイドルランクを上げた響のポテンシャルの高さも驚かされたが、貴音もハム蔵が喋れることを既に知っていた事もまた驚きだよ……)
貴音「ハム蔵殿、次の作戦は考えておられるのですか?」
ハム蔵「うむ……。ここから先どう響を上に上げていくかなのだが、プロデューサー殿。ここで一つ頼まれて欲しい事があるのだ」
P「何だ? 俺に出来る事なら協力するぞ」
貴音「はて……? 私にも出来る事があれば協力いたしますが」
響「みんなごめん。何か色々迷惑掛けちゃってるみたいで」
P「いや、迷惑なんかじゃないさ。響が結果を出してるなら俺らも頑張らなきゃな!」
貴音「ふふっ、こうしてみると響がプロデューサーの妹みたいに見えますね」
響「い、妹っ!?」
P「まぁ確かに」
ハム蔵「響には兄が居るからな」
P「マジで?」
響「う、うん……。プロデューサーと歳近い兄貴が居るぞ」
P「ふぅん……」
貴音「響」
響「な、何だ? 貴音」
貴音「ふふっ、『貴姉』って呼んでもいいんですよ?」
響「ブッッ!!!」
ハム蔵「はしたないぞ、響」カリカリ
P「俺は『P兄(にぃ)』とかでも良いんだぞ? あ、純粋に『にぃに』でもいいな」ニコヤカ
響「う、うがぁ……///」
貴音・P(戸惑ってる戸惑ってる)
響「ふ、二人共話が逸れてるぞっ!!」
P「ぐぬぬ……。で、ハム蔵。頼みごとって何だ?」
ハム蔵「――響を961プロへと修行させてやりたいのだ」
P「へっ?」
貴音「?」
響「ハム蔵、どういう事だ……? それ。聞いてないぞ、自分」
ハム蔵「今初めて言ったからな」
P「随分思い切った事を考えたな、ハム蔵……」
ハム蔵「961には765には無い何かがあると、な。それに響はソロで売り出していった方が飛躍出来ると判断したのだ」
P「成程な……。まぁ、良いんじゃないか? 黒井社長とうちの社長が許可してくれればだけどな」
ハム蔵「それを頼んでいるのだ」
貴音「確かに961プロの売り方は765プロと違った戦略が多く、ためになる事も多かったです。今の響にとって必要な経験が豊富に得られる事でしょう」
響「そ、そんなっ!? 自分まだ……!」
P「それにあくまで移籍と言うより武者修行みたいなものだろ? 辞める訳じゃないんだし大丈夫じゃないか?」
貴音「……響?」
響「っ!!」ドンッ
ハム蔵「響、どうしたのだ?」
響「どうしたもこうしたもないよっ! 最近一人で仕事ばっかだし、みんなと遊ぶ暇も無いし、事務所のみんなとも全然話してないんだよ!?」
響「いくらみんなの食費と出稼ぎの為だからってどうして自分だけ一人で黙々とアイドル目指さなきゃならないんさ!!」
P「響っ!? お、落ち着けって……」アワアワ
響「自分だってっ! 自分だってみんなで歌ったりダンスしたりしてトップアイドル目指したいんだよっ! 一人で熟せる貴音みたいに自分は強くないんだよッ!!」
P「響っ!! ――って、出て行っちまったぞハム蔵」
ハム蔵「……」
貴音「ハム蔵殿、確かに響の言う通り最近響は事務所にそんなに顔を出していませんでしたね。私も多忙の身であまり事務所には顔を出せてはいませんが、皆が仰ってましたよ」
ハム蔵「極力レッスンと営業に労力を当てた方が良かったからな。仕方ないのだ」
P「うーむ、その言い分も間違いではないんだが……。うちのアイドルって何処か普通のアイドルとずれてるからなぁ」
ハム蔵「ずれてる?」
P「あぁ。勿論良い意味でだぞ? 他の事務所って一度挨拶に行ったことあるけどなんて言うかもっと事務的な、本当に職場だなって感じがするんだけど」
貴音「765プロは実家って雰囲気がしますものね」
P「そうそう、そういうところだ。居心地が良いんだよなぁ。いろいろ不便なんだけど、あの雰囲気に代えられる物は無いよ。社長が移転させない気持ちも良く分かる」
P「響はその空気に慣れ過ぎてて変わってくことが怖いんじゃないかな。普段完璧完璧言ってるけど、弱い一面は誰だってあるしさ」
P「給料の減給、アイドルランクの変化、自分の仕事が入ってこないって状況が立て続けだったしな。おまけに家族を養えないと来たもんだ。そりゃあ精神的にも参るよ」
P「今後を考えると、もしかしたらアイドルを続けない方が響の為かも知れないって状況が出てくるかもな……」
貴音「確かに、今の響には少しばかり荷が重すぎるかもしれません……。一度、じっくり話してみるべきでは?」
ハム蔵「……」
P「追うぞ、ハム蔵」
ハム蔵「プロデューサー殿……私に響を追う資格があるのだろうか……」
P「馬鹿言ってんじゃねぇよ。家族なんだから当たり前だろ」
P「それに今回のは俺がお前に役割を押し付けて響のプロデュースに手を付けられなかった俺のせいでもある」
ハム蔵「それは私が望んで……」
P「この際難しい事は考えるな! お前はハムスターのままで居たほうが良かったのかもな」
P「取り敢えず、行くぞ。貴音、ちょっと行ってくるよ。他のみんなは今は家にいてくれ。必ず響は連れて帰るから!」
貴音「はい、あなた。お気を付けて」
一人と一匹は少女の後を追って夜の街を駆け抜けた。
彼女の事だ、そう遠くは行ってはいないだろうが……プロデューサーはデジャブを感じた。
「響が事務所から叫んで出て行った時と一緒だ」――と。
当ても無い一人と一匹はイヌ美を連れてくれば良かったと後悔しながらも取り敢えず我那覇響宅へと向かう事にした。
歩いて行くにはプロデューサーのちんけな体力じゃ数時間掛かってしまう為、やむを得ずタクシーに乗って向かう。昔の彼ならお金が勿体ないの一言で走って向かったのだろうが、今の彼はそれなりに余裕があるのが救いだった。
しかし余裕が増えたからこそ、今回の件を招いてしまったのではないだろうか。そう心の内で思いつつ、彼女が自宅にいる事を信じてただひたすら到着を待つのみだった。
P「響っ!!」
プロデューサーはタクシーの支払いを終え、急いで玄関へと向かい、受け取っていた合鍵を使って部屋に入る。
そしてそこには静寂に包まれた部屋の中で一人ベッドに蹲る弱弱しい我那覇響の姿があった。その顔は涙で濡れ、瞼は赤く腫れており、しなやかな髪はぐしゃぐしゃとなっている。
P「よかった……。家に居たんだな」
ハム蔵「響」
響「イヌ美を使うと思ったから急いで家まで戻ったのにやっぱり見つかるものは見つかるんだね……何か、自分疲れちゃったよ」
P「疲れたってのは……走ってきたとかそういう事じゃなくて、アイドル業がか?」
響「……うん。最初は凄く楽しくてね、美希が言うみたいなキラキラ出来る事が楽しく感じてさ。皆と一緒ならトップアイドルになれるんじゃないかって、そう思えたんだ」
響「それなのに自分だけアイドルランクDまで落ちちゃって、頑張って戻ろうと必死にレッスンや営業を熟してみたけど……今までとやってた事と違いすぎて何か、自分の理想とかけ離れていく感じがしてさ」
響「別にもうアイドルじゃなくて別の仕事でも就いた方がいっそ楽なんじゃないかなって……。最近学校も行ってなかったしこれを機に普通の高校生に戻るのも」
響「これって、甘えかな? プロデューサー。ハム蔵」
ハム蔵「響……お前に無理をさせたのは謝る。私達は今までしてきたことが一番だと思ってた。けどそれはお前の――」
P「――いや、ハム蔵。お前は間違っちゃいないよ」
ハム蔵「プロデューサー殿……?」
P「響。本っ当にごめん。先にお前をほっといて仕事に夢中になってた事は謝る」
響「それは前も謝られたよ」
P「それでもだ」
響「……」
P「今まで続けてきた事を辞めるって事はさ、これまで積み上げた努力と気持ちと別れる事なんだよな」
P「貴音はさ、アイドルは辞めたけど今だ女優業とかで今でも頑張ってるだろ? それは場所を変えても今までの努力と気持ちと別れたくないっていう意の現れだと思うんだよ」
P「だって、結婚した今。辞めちまっても何ら問題ないわけだしさ」
P「寧ろ辞めなかったのは驚いたよ、俺は。これを機に専業主婦にでもなるのかとずっと思ってたからな」
響「貴音は才能も、ファンもあるから……」
P「確かにな。でも響にも才能やファンはいるじゃないか」
響「自分には……続けて行ける覚悟が、無いよ」
P「――覚悟、か。貴音もアイドルから女優に転業した時は今の響みたいな不安に陥ってたのかねぇ」
P「でもさ響」
P「響も今までアイドル続けてた中で辛かったり、楽しかったり、悔しかったりっていろんな経験をしてきただろ?」
P「これって、続ける覚悟が無きゃ出来なかった事だよな」
P「確かにこのままアイドルを辞めて普通の女子高生に戻るのも手だ。その道を選んだのなら否定もしない。寧ろ応援する」
P「けど……俺は響の覚悟から成り立った経験がこうも簡単に消えてくのは、悲しいよ。仲間として、765プロの……家族として」
響「悲しいって……自分が悲しい時に、辛い時に相談に乗ってくれなかった奴に言われたくないよ!!」
ハム蔵「……」
P「それに対しては申し訳ないって思ってるよ。俺の不甲斐無さでお前を傷付けたのは俺が馬鹿だからだ」
ハム蔵「プロデューサー殿……」
P「俺の言ってる事は全部自分勝手な我儘だよ。響が辞めて欲しくない理由を今頭の中で必死に整理して、言葉にしてる」
P「それでもさ、辞めさせたいって言葉は出てこないんだよなぁ」
P「それに、ハム蔵も他のペットの皆も同じことを思ってると思うぞ。……な、ハム蔵?」
ハム蔵「私は……私達の為に頑張る響を支えてやれるのは一緒にいる事だけだと思ってた。けれど、こうしてプロデューサー殿に機会を与えられた事で一緒にいるだけじゃ重荷になるのではという不安が消え、響の力になれてると過信していた」
ハム蔵「……けれど、私達が居る事でお前が苦しんで、アイドルを辞めるというのなら、私達はお前の傍から離れよう。苦しんでいるお前に私達は只の重荷だ」
響「そんなの――ただの脅しじゃないか」
ハム蔵「うむ、遠回しにそう捉えて貰っても構わない」
P「本当にハムスターかよ、お前は……」
P「……そうだ響。春香の時を思い出せ」
P「春香もさ、これからの成長に不安を抱いてた一人だろ? その中でいつまでも皆と共にアイドルをやりたいって言ってた春香も今はソロでライブする程の実力がある」
P「何時までも皆で一緒には居られない、それを春香は成長する上で知ったんだよ。だからこそまた集う為に一人一人が輝けるよう今を頑張ってるんじゃないかな」
P「それが成長する覚悟なんだよ、響。今、それを響は掴みかけてる最中なんだ」
響「成長する、覚悟……」
P「あぁ」
響「成長すれば、何か見えるものもあるのかな……?」
P「あるさ、必ずな。それが素晴らしいものであるように、俺らプロデューサーはお前らアイドルを導く」
P「それに、お前が不安に思ってるような事は起きない。俺ら765プロは……何時までも仲間で、家族だ」
ハム蔵「……」
響「今は……少し、考えさせてほしい」
P「……わかった。今日は帰るよ。一人でじっくり考えな」
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――――――――――――――――――――――
翌朝。いつも通り出社したプロデューサーは朝から久しぶりに所属アイドル達が大勢集まっている中、昨日の件について一通り話した。
最近起こった我那覇響のアイドルランク降格、仕事の減り具合を見て他のアイドル達も彼女を心配する声を挙げているのはプロデューサーも知っていた。だからこそ説明しておくべきだという判断に至る。
P「と、言う事だ。響が事務所に来たら明るく出迎えてやってくれ」
春香「そんな事があったんですね……確かにランク下がってからの響ちゃんは凄く暗かったし」
千早「最近、我那覇さんの姿見てませんでしたからね。1か月でランク上がったのは驚かされましたが」
亜美「もっとひびきんにメールしてあげればよかったかな?」
真美「亜美のメールはひびきんじゃ理解できないよ→」
雪歩(みんな二人のメールの内容分かってないのは言わない方が良いのかな……?)
真「まぁなんにせよ、響が来たら何かご飯でも一緒に食べに行きたいね」
美希「うん、そうだね。響は単純だからそれだけでも喜ぶと思うな」
伊織「あんた、それ響の前で絶対に言っちゃ駄目よ……? あいつ泣くから」
律子「ほら、あんた達! これから仕事の人もいるんだからいつまでも駄弁ってるんじゃないの!」
一同『はーい』
やよい「あれぇ? あずささんが居ませんよぉ?」
伊織「ま た あ ず さ か」
律子「あずささんなら自宅に居るから大丈夫よ?」
亜美「ん、どしてどして?」
律子「寝坊しちゃったみたいでね。それに現場直帰なんてしたらいつ着くか分からないから自宅に居て貰ってるのよ」
伊織「現場向かう途中で拾っていくって事ね。それなら安心ね」
律子「そゆこと。じゃ、あとはよろしくねプロデューサー」
P「おう、竜宮のみんなも頑張れよ」
P「ふぅ、メガネパイナポーも居なくなったし、漸く一息付けるよ……」
小鳥「ホントプロデューサーさんって律子さんと仲良いですよね」
P「そうですか? まぁ、何か気の合う同僚って感じですかね。あっちの方が歳上ですけど」
真「あまり度が過ぎると貴音に怒られますよ?」
P「泣かしたりすると怒るんだけど別にふざけた会話程度なら何にも言わないよ、アイツ」
春香「えっ、それってプロデューサーさんが誰か泣かした事があるって事ですか?」
P「ギクッ」
千早「まぁ話の流れから察するに我那覇さん辺りでしょうね」
P「ギクギクッ」
雪歩「はい、プロデューサー。お茶ですぅ」
P「お、おう……ありがと」
真美「で、兄ちゃん。ひびきんはどうするの?」
P「どうするもなぁ……。こればっかりは響が決め抜かなきゃならない事だし」
P「って、お前らそろそろ仕事だぞ。準備しろ〜」
春香「プロデューサーさんが送ってってくれるんじゃないんですか?」
P「生憎この書類の山とこれから戦わなきゃならんのだよ、天海君……。それに送っていける車は既に奴が乗っていってるからな」
真美「いい加減買おうよそこは……」
小鳥「そうねぇ、どうせなら事務所ごと移転したいわねぇ」
真「実際そんな話は無いんですか? Sランク二人もいる事務所がこんな寂れた所だなんてあまりにも不釣り合いな気もしますけど」
P「社長が気に入ってるからな……。降りればすぐたるき亭がある環境ってのも。事務所内リフォーム位はしてもいいんじゃないかなって言ってはいるんだが」
美希「ミキはここ気に入ってるから移転は嫌だなぁ」
P「お前が気に入ってるのはそのソファーだけだと思ってたわ」
千早「確かに」
美希「酷いよハニー、千早さん! ミキだってみんなといるこの事務所嫌いじゃないんだから! さてと……それじゃ、行ってくるねハニー」
真「あっ、僕らもそろそろ。雪歩、やよい。行こうか」
やよい「じゃあプロデューサーさん、行ってきまーす」
雪歩「待ってよ真ちゃん、やよいちゃん! あ、プロデューサー。響ちゃんの事お願いしますね……?」
P「おう、いってらっしゃい」
春香「私達も行こうか?」
千早「真美と一緒に仕事なんて珍しいわね」
真美「んふふ〜? 千早おねーちゃんも真美の多彩なラジオトークにメロメロになっちゃうと思うよぉ→?」
千早「ふふっ、楽しみにしてるわ」
春香「じゃっ、プロデューサーさん。小鳥さん。行ってきまーす」ガチャッ
小鳥「行ってらっしゃいー……。あの子たちも、どんどん前に向かって行ってるんですね」
P「元々その可能性を存分に持ってる子達ですから。勿論、響も――」
P「って、今の俺にはあいつを信じて待つこと位しか出来ないんですけどね。さてと、休憩もそろそろ終わりにしてこの書類の山を片づけますか」
小鳥「ふふっ、手伝いますよ。プロデューサーさん」
P「ありがとうございます、音無さん。助かります」
小鳥「そういえば今日は貴音ちゃんは?」
P「貴音なら家で――――――」
〜回想〜
貴音「は、ハム蔵殿……へへヘビ香殿に近づくのは止してと伝えてください!!」
ハム蔵「四条殿はヘビが怖いのか」
貴音「え、えぇ……幼少の頃から苦手なのです」
ハム蔵「ふむ、苦手は良くないな。ここは私が苦手克服をプロデュースして差し上げよう」
貴音「」
〜回想終了〜
P「ってな感じで今は気絶してベッドで寝てると思いますよ(ハム蔵の事は伏せつつ)」
小鳥「響ちゃんの家のペット達預かってたんですか……。大変そうですね、貴音ちゃんもペット達も」
P「いや、そんなことは無いですよ。みんな良い子達です。響を大切に思ってる、良い子達です……」
P(その分今の状況が辛く感じてしまうだろうがな)
その後、二人は黙々と事務作業を熟していく。
時間が経つに連れて雲行きが怪しくなっていき、道路に面する窓から雨が降り始めた事に気づく事無く集中するプロデューサー。
自分へのオファーも大分減り、今は皆のプロデュース大分余裕が持ててきた。その中で今回の問題。
客観的に考えてしまえば響の言ってる事は只の甘えだ。
例え一人でも仕事を熟せないアイドルなんてどこに行ってもやっていけるはずがない。ずっと誰かの指示に従っているようでは自分自身を曝け出す事は無理だ。
いつまでも仲間と言う籠に縛られていては駄目なのだ。この事も遅かれ早かれ起るべき事だったのだろう。
上手く籠から出させてやれなかった責任に痛感しつつも彼女が出す答えを、プロデューサーは待ち続けた。
――そして、雨上りの夕暮れ時に彼女は現れた。
響「……」
P「響っ!?」
小鳥「響ちゃんっ、どうしてこんなずぶ濡れで……。傘挿して来なかったの?」
響「うん、早く来たかったから走ってきたんだ」
P「ほれ、響。タオルだ。……俺はもっと時間を掛けて答えを見つけ出すと思ってたんだが」
響「……」
小鳥「はい、響ちゃん。ホットココアよ。これでも飲んで身体温めてね」
響「ありがと、ピヨコ」
暫く彼女の口は開かなかった。音無小鳥の持ってきたココアを口に運び、静かに飲む。
対面するようにソファーに座るプロデューサーと彼らを遠くから見守る音無小鳥。
彼からは何も問わなかった。今は彼女の口から答えが出る事を信じているから。彼女が来た今、待つことに何も不安を感じない。
――きっと、響は答えを導き出したはずだから。
響「プロデューサー」
P「うん」
響「自分さ、アイドル向いてないなって思った」
響「だって、みんなと離れる事にビビっちゃってさ……。せっかくハム蔵やプロデューサーが手伝ってくれてランクも上げれるくらい頑張ったのにあんまり嬉しくなかったんだ」
響「ランク落ちた時と気持ちが大差なくてさ、自分以外でいっぱい上がれなかった人がいたのにこんな気持ちになっちゃうのは、負けてった人達に失礼だよね……」
響「そんな自分は、この業界に居る資格なんて無いって思ったんだ」
響「でもさ、プロデューサーが言ってた覚悟って」
響「――プロデューサーも自分に対してしてくれてたんでしょ?」
P「……あぁ」
響「プロデューサーに出会って、みんなで仕事して、必死になって……。みんな変わり始めてたのに、自分だけ変われてなかったんだなぁ」
響「気付けなかったら自分、スッゴイ嫌な奴でみんなとさよならしてた……そんなの、そんなの嫌だって思ったんだ」
P「響……」
響「さっき、ハム蔵達にも話した時いっぱい泣いたのに……涙が止まらないや」グスッ
P「響、ゆっくりでいいぞ。最後までちゃんと聞くから」
響「グスッ、う、ん……ありがと、プロデューサー」
あ、書き溜め終わったんで少々お待ちを。申し訳ないです。
十分後。流れる涙が漸く塞き止められ、大分今までの顔つきに戻ってきた。それでもまだ、以前のような明るい表情からは程遠い。
けれど、プロデューサーには何かが変わった事だけは分かった。あとは、最後まで語られるのを待つだけ。答えはすぐそこだった。
響「――もう、大丈夫」
P「うん」
響「自分、完璧だと思ってた。料理も出来るし、ダンスも出来る。歌もそれなりに上手いし愛嬌もある……と思う」
P(自信家な響だが、それも弱い自分を奮い立たせる為に言い聞かせてたんだろう。)
響「でも、それだけじゃ完璧とは言えないって……わかったんさ」
マグカップを握りしめ、一言一言噛みしめながら言う。
途中、再び泣き出しそうになりながらも、ぐっと堪え続ける。
響「ここでへこたれて、沖縄に逃げたって居場所何て無いんだって。せっかく積み上げたみんなとの思い出も、絆も否定したくないっ」
響「自分はまだ……頑張りきれてないんさー。みんなに追いつく……いや、みんなを追い抜く為にはここで挫折する事は有り得ないんだって、ハム蔵や、みんなが気付かせてくれた!」
響「だから、プロデューサー……自分を、961プロに武者修行に行かせて欲しいぞ!! プロデューサーや、765プロの皆の覚悟に応える為にもっ!!」
P「響……」
P「それが、答えなんだな?」
響「うん。あ、でもあんまり長すぎるとちょびっと寂しいから……程々にね?」
P「……」
P「…………ぷっ、く、は、ははあははっ!!!」
響「な、何が面白いんだよー!? 自分、変な事言ったか!?」
P「いやっ、その……なんていうか、響は可愛いなぁって」
響「なぁっ!?」
P「そうだよ、そうやっていろんな一面を見せる響が一番いいよ。活き活きしてる響が一番良い。お前の一番の武器だよ」
P(もう、籠からは飛びたてたみたいだな)
美希「あーっ!! 響来てたんだっ」
春香「あ、ホントだ! 響ちゃん久しぶりっ!」
P「え、ちょっお前らいきなり帰ってきてどうしたんだよ」
律子(あんたと響が話し込んでたから入るに入りづらかったのよ!)
P(仕方ないだろ! 響にとって必要な事だったんだよ!)
律子(わーってるわよ。……うん、やっぱり響は笑ってた方が可愛いわ)
P(響が作ってきたサーターアンダギーを「太るから要らない」って言って跳ね除けて泣き顔を見て「……可愛い」とかほざいてた奴が言っていいセリフではないと思います……)
律子(あぁん!?)
P(ひぃぃぃっ!)
真「響も帰ってきたことだし、みんな今日は一緒にご飯行こうよ!」
伊織「どうせならこいつの家で良いんじゃない? 新居お披露目って事で」
真美「いおりん頭いい!」
亜美「いおりんデコ広い!」
伊織「……亜美は後で覚えときなさい」
あずさ「あらあら、事務所が急に賑やかになったわねぇ」
やよい「やっぱり、みんないるのが一番ですね!」
雪歩「いやいや、四条さん居ないしっ」
千早「プロデューサーの家……どんな感じなのかしらね」
美希「ハニーの家! ハニーの家!!」
響「折角だしじゃあ今日は自分が料理振る舞っちゃうぞー!!」
一同「おおーっ!!」
小鳥「プロデューサーさん、何かとっても賑やかになりましたね」
P「さっきの重苦しい雰囲気が一瞬で去りましたね」
P「でもまぁ……これが765プロなんじゃないですか? 団結、ってやつですよ」
小鳥「ふふっ、丁度仕事も終わりましたし今日はみんなで盛大に盛り上がっちゃいましょうか?」
P「貴音も喜びますよ。……多分まだ気絶してると思うけど」
―――――――――――――――――――――
P(あれから数か月の時が経った。
あの後、響は無事961プロに武者修行しに行った。黒井社長がどうしてこうも協力的なのか尋ねてみた所、何やら社長に弱みや借りを昔に作っていたようで逆らうに逆らえないようだ。ご愁傷様である。
度々送られてくる響のメールと冬馬のメールが面白いんだこれが。そりが合わないみたいだがお互いにお互いが認め合ってる部分があって、似た者同士なんだなって。
皆も日々仕事に追われながらも、事務所で集まって話してたり、俺の家に来て飯を食べたりと相変わらずの毎日を送ってる。
響も自分の中の何かに気付いたのか、とんとんとオーディションやライブなどを熟し、アイドルランクをBに上げ、更にはAにまで上がるという快挙を見せた。
今では動物たちと共に「完璧!千村どうぶつ園」のレギュラーメンバーとして一役買ってたりする。大人気番組なだけに響の知名度を更に上げるいいきっかけになった。これも961プロの助力あってのこそなのだろうか。俺も見習わないとなぁ)
P「で……響さん?」
響「ん?」
P「どうして俺の膝に座ってるの?」
P(そして今日響は765プロに戻ってきた。大分自分に自信を持てるようになったのか、以前以上に明るい表情を見せるようになった。
しかし、どうも可笑しい。何ていうか……妙に俺に甘えてくるというか、懐いてくるというか。事務所のソファーで一息入れてる最中、突然俺の膝に座ってきたのだ)
響「だって……妹は『にぃに』に甘えていい権利があるんだぞ?」ニカッ
P「ちょ!? ――響おま」
P(今のはやばい。今のはやばいって!?)
貴音「ただいま戻りまし………た?」
P「ちょっ、貴音!? これはちが」
響「あっ、『貴姉』っ! 会いたかったぞー!」ダキッ
貴音「」
P「立ったまま気絶してやがる……あの破壊力で気絶しなかっただけ運が良かったな、俺よ」
P(響はその後、散々俺の事を『にぃに』と呼び、貴音の事を『貴姉』と呼び続けた。本当に兄妹と思ってくれているのか、それともからかっているのかは分からないが……)
P(少なくとも今は、響が愛らしくて仕方ない! い、いや……一番は貴音だからな。うん、妹として考えれば何も問題ない)
響「にぃに、貴姉っ!」
P・貴音「な、何だ(ですか)?」
響「ずっと、かなさんどーっ!」
おわり
13:51│我那覇響