2014年07月08日

ありす「Pさんの家に!」 桃華「お泊りですわ!」

ディレクター「はい、終了です! お疲れ様でした!」



モバP「どうもお疲れ様です」



ディレクター「いや〜桃華ちゃん良かったよ〜、大御所さんいる中でサクサク喋れるんだもん。本当に良かった」





桃華「ふふ、ありがとうございますわ♪」



ディレクター「ちょっと前に出てもらったありすちゃん……あ、橘さんか。彼女もかなり良かったし」



モバP「あいつディレクターさんにまで……名前で呼んでもらって結構ですので」



ディレクター「いやいや、かわいいじゃないですか。親しい知り合いにしか名前で呼ばせないとか! そういうツンケンしたところがね、良いんですよ!」



モバP「あ、ありがとうございます」





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ディレクター「本当にモバPさんは良い人材発掘してくるよ。今度もオファー出すと思うので、よろしくおねがいしますね」



モバP「はい、こちらこそよろしくお願いします」



桃華「Pちゃま、わたくしは共演した方々の楽屋に挨拶に行って参りますわ」



モバP「わかった。粗相の無いようにな」



桃華「当然ですの♪」

ディレクター「しかし本当によくできたお嬢様ですよ。普通共演したら緊張の一つもするものなのに」



モバP「ガチの令嬢ですからね。大物と会ったり話すのは日常的な感覚なのでしょう」



ディレクター「まさに『芸能界に来るべくした来た者』って感じですな」



ディレクター「私としては、それを街中で見抜いてスカウトするPさんが一番すごいと思いますがね」



モバP「恐れ入ります」



ディレクター「はっはっは! お世辞とかじゃないですよ、本音ですからね? では私はこれで!」



モバP「はい、お疲れ様でした!」

モバP「今日はよくやったぞ。でも疲れただろうから、寮まで一直線送迎コースだ。夜更かししないでゆっくり休めよ」



桃華「まぁ、わたくしの体調を考えてくださるなんて、やはりPちゃまは紳士ですわ♪」



モバP「そりゃあプロデューサーだからな。大切なアイドルのことは任せておけ! って感じで」



桃華「なるほど。ではお言葉に甘えさせていただきますわね」



桃華(……)



――――――――――――――――――――――――――――



収録中





司会者「――なんか最近報道されていますよね。彼の家にお泊りしたとかなんとかって」



女優「いやいや! 彼は大切なお友達というだけの話で……」



芸人「なるほどなー。大切な人やからお家に行ったわけや」



女優「違いますよ!」



芸人「そう言うてはりますけど、結構裏で広まっとりますよ〜?」



芸人「桃華ちゃん、このおネーちゃんどう思う?」



桃華「大切な人はわたくしも何人かおりますけど、泊まったことは無いですわね。羨ましいですわ♪」



芸人「ほら〜取り付く島も無いで〜」



女優「桃華ちゃんをダシに使うのやめてください!」



司会者「ははははは。そういえばこんな話も――」



――――――――――――――――――――――――――――



桃華(お泊り……)



モバP「ありゃ、寝ちゃったか。収録終わりだもんなぁ」



桃華「はっ! い、いえ、寝ていませんわよ!? なんでもありませんわ!」



モバP「わかるわかる。疲れている時の後部座席の揺れはヘブンだよな」



桃華「ですから寝ていませんわ!」



モバP「んで、そのあと風呂に入ると、そこでまた眠っちゃうんだ。あ、風呂で寝るとやばいんだっけ? 気を付けたほうがいいぞー」



桃華「もう、やめてくださいまし!」

後日





ありす「こんにちは桃華さん」



ちひろ「こんにちは桃華ちゃん」



桃華「ありすさん、ちひろさん、ごきげんようですわ」



ありす「この間のバラエティー番組見ました。あんな大物さんたちに囲まれてもすらすら話せるなんて、すごいです」



桃華「いえいえ、わたくしなんてまだまだですの」



ありす「私も負けていられません」



桃華(そうだ、ありすさんなら……)

桃華「ありすさん、折り入ってご相談がありますの。よろしいかしら?」



ありす「相談ですか? 私で良ければ構いませんよ」



ありす「ただ、うーん……私に良い答えが出せるかどうか……」



桃華「そんなことありませんわ! むしろ、ありすさんにしか頼めないことなのです!」



ありす「そうなのですか。わかりました」



桃華「感謝いたしますわ♪」



桃華「実は、この後ちょっとPちゃまにですね……」

ありす「そ、それ本気ですか!?」



桃華「この櫻井桃華、常に物事には本気で挑みましてよ」



ありす「ダメ! ダメですよそんなこと!」



桃華「わたくしも断られそうな気はしますが、Pちゃまは押しに弱いのです! 畳み掛けましょう!」



ありす「私達はアイドルなんですよ? Pさんを喜ばせても迷惑をかけるなんて……」



桃華「……ありすさん。お耳、よろしいかしら?」



ありす「なんですか突然」



桃華「お話します。理由を」

ありす「……」



桃華「以上です。やはりダメでしょうか」



ありす「……」



桃華「ありすさん?」



ありす「そんなことを言われて、全否定できるわけ……論破できるわけ無いじゃないですか……」



ありす「私だって……」



桃華「ありすさんは、Pちゃまとの壁や垣根を全部無くした場合、今の話についてどう思われます?」



ありす「……耳、貸してください」

桃華「……そうでしたの」



ありす「ダメだってわかっています。でもダメじゃないなら、それは私だって」



桃華「当たって砕けろ、という言葉がありますわ。一度だけPちゃまに掛け合ってみましょう」



桃華「もしもダメなら、それはPちゃまにとって迷惑なことですから、その話はおしまい」



桃華「どういたしますか?」



ありす「……」



ありす「そうですね。一度だけなら、一度くらいなら試してみたい気もします。試すだけですけど」



桃華「うふふ、やっぱりわたくしとあなたは似ていますわね♪」

桃華「早速行動を開始しましょう!」



桃華「ちひろさん、Pちゃまの姿が見えませんが、もしかしてお仕事でしょうか?」



ちひろ「いいえ。Pさんなら向こうでまゆちゃんと衣装の打ち合わせ中よ」



桃華「それは好都合ですわ! では、ありすさん参りましょう!」



ありす「了解です」



ちひろ「それよりも、今Pさんのことで何かひそひそ言っていたでしょう? 結構よからぬことだったりする?」



ありす「そ、そんなことありません。なんでもないです。桃華さん行きましょう!」



ちひろ「そっか。あまり邪魔しないようにねー」

モバP「……うーん、さすがは元読者モデル。どの衣装も“着られている感”がまったく無い写りだ」



まゆ「ありがとうございます♪」



モバP「特にこの衣装。まゆと言えばピンクか黒がよく似合う印象だったけど、白のウェディングドレスが異様にしっくり来るとは」



まゆ「失礼ですね。女の子はドレスを着ると、みんな輝くんですよ?」



モバP「ぶっちゃけスタジオでは半分『おっし次はこの白いの行こうぜ!』みないた軽いノリだったんだがな!」



まゆ「もう、Pさんはひどい人ですね……」



モバP「ははは、すまんすまん。でも次の衣装は決まったな。題して、永遠の――」

桃華「失礼いたしますわ! Pちゃま、まゆさん、ごきげんようですわ!」



まゆ「うふふ、おはようございます桃華ちゃん♪」



モバP「おはよう桃華。今日はいつもより元気だな」



桃華「今日はとても良いことが起きそうな気がして、胸が高まっておりますの」



モバP「そうか。いいぞ、一人の笑顔はみんなの笑顔につながるからな」



ありす「すいません、打ち合わせ中に押しかけてしまって……」



モバP「気にするなって。ちょうど今一区切りついたところだったんだから」

モバP「いや、ダメだって」



桃華「何故ですの! 気軽に言ってとおっしゃいましたのに!」



モバP「小学生の女の子二人が、他人の男の家に行って泊まるなんてダメだろう」



ありす「それについては私も意見を」



モバP「ありす……」



ありす「Pさんはこの間言いました。私達は人生経験の足りない子供だと」



桃華「子供なら別に泊まっても大丈夫ですわよね? 温泉も子供なら異なるお風呂に入れるでしょう?」



モバP「どういう流れからそんな解釈になったんだよ」

まゆ「二人とも、ダメですよ……? Pさんを困らせることを言うのは……」



桃華「この事務所が設立して間もない頃」



まゆ「……!」



桃華「まだ所属しているのがまゆさんだけだった時期に、無理が祟ってPちゃまが倒れ……」



桃華「まゆさんがPちゃま宅で付きっ切りの介抱をしていた、と聞きました」



モバP「な、なにっ!?」



ありす(まゆさんがPさん宅に!? 知らなかった……)

モバP「こ、この事務所でもごく一部の人しか知らない話を、何故……!」



桃華「まゆさんがおっしゃっていましたの」



モバP「お前」



まゆ「ま、まゆも色々と自慢したい年頃なんですよ?」



モバP「『プライベートでアイドルがプロデューサーの家に行きました』なんて、おいそれと広めて良い話じゃないだろうが」



ありす「まゆさんが行って良いのなら、私達二人が行っても問題ありませんね」



モバP「待て待て待て、今とは事情が違うんだ。あの時はぶっ倒れていたから人が必要だった。今は二人を家に泊める理由なんて何も無いだろうに」



モバP「というか、何で二人はそんなに俺の家に来て泊まりたいの?」



桃華「それは……その……な、なんとなくですわ!」



ありす「……じゃあ、私もなんとなくで」



モバP「なんでやねん」

ちひろ「Pさん、ちょっと」



モバP「ちひろさん?」



社長「話は聞かせてもらったよP君」



モバP「うわっ、社長!?」



社長「随分困っているみたいだね。まぁ、女性達に泊めろ泊めろと言い寄られればそうなるか」



モバP「社長も彼女達にビシッと言ってやってください」



社長「ああ。とりあえず一泊くらいだったら問題無いんじゃない?」



モバP「そう……えええええええええっ!!!」

モバP「社長! 上の人がそういうこと言っちゃダメでしょう!」



社長「ほら、うちの従業員って我々三人だけで、所属アイドルだって両手の指の数にも満たない極小規模じゃん?」



社長「2chのスレッドやmixiのコミュもあるにはあるけど、動きがゆるやかでアンチの姿も見えない」



社長「千川君が更新しているツイッターの事務所公式アカウントで、アイドル名とかをエゴサーチしても変なのはいないみたいだし」



社長「そもそもプロデューサーである君の顔が世間的に割れていないからな! 住所的に君の借りているマンションは校外の静かな地域だ。夕方くらいに行けばほぼ人とも会わないだろうから大丈夫さ!」



モバP「んな適当な……」

モバP「万が一な事態もあるでしょう? 偶然、粘着質なファンがストーキングして、写真撮られて『あのアイドルがプロデューサーの家に!?』なんてすっぱ抜かれて大炎上、ってなったらどうするんですか」



社長「そこはあれだよ、櫻井君がいるじゃないか」



モバP「桃華ですか?」



社長「警護のために定期的にSPが神戸から東京に交代で来ているんだろう? 権力をもってねじ伏せてもらうとか」



モバP「他力本願過ぎやしませんか」

モバP「まゆも、ちひろさんも、ダメですよね? アイドルがプロデューサーも家に泊まるなんて」



ちひろ「私もそうは思いますけど……でも、うーん」



まゆ「まゆは……一度行っていますからね。泊まってはいないですが」



モバP「あれ? なんか否定の声が聞こえないんですけど」



まゆ「まゆの口からは『ダメだ!』とは言えませんね……」



ちひろ「私も社長の決定に面と向かってノーとは言いづらくて」



モバP「バカな……」

ちひろ「Pさん、社長の性格知っているでしょう?」



モバP「ええ、まぁ……」



モバP「昔からずっとこういう適当キャラなんですよね。本人から聞きました。一緒にいると高田純次にしか見えないですもの、このキャラ」



社長「本人の前でそういうこと言うかねぇ?」



社長「一日くらい頑張れ頑張れ! ということで、櫻井君。バックアップよろしくね」



桃華「もしもの時は我が櫻井家におまかせあれ」



モバP「良いのかなぁ……」

社長「なんだ、可憐なる二人の乙女が部屋にいることで理性がぶっ飛ぶのを危惧しているのか」



モバP「そこは別に大丈夫だと思いますが」



桃華「Pちゃまにとってわたくしはまだまだ魅力が足りないのですわね……」



ありす「否定されてしまいました。早く大人になれたら……」



まゆ「ダメですよPさん? 女の子にそんなこと言うのは」



ちひろ「Pさん……」



モバP「味方がいねぇ!」

モバP「なんでこの事務所のスタッフは率先して変なことに気を回すかね! わかりましたよ、泊めます。一泊なら良いです」



桃華「ふふ、ありがとうございますわ。さすがPちゃま♪」



ありす「わ、私はPさんの家に行けるくらいで浮かれたりしませんよ」



モバP「今日はありすが仕事だったな。終わり際に桃華連れてスタジオ行くから、その流れで俺の家に行く。これで良いか?」



桃華「了解ですわ」



ありす「今日は言われた以上の仕事をしてきます」



社長「いやー、いいねー。頑張る若者を見ると燃えてくるねー」



モバP(もうこれ以上色々言うのはやめておこう……)

社長「P君は行ったかい?」



まゆ「はい。ありすちゃんの送迎に。桃華ちゃんも嬉々として着いて行きました♪」



社長「そうかそうか」



社長「しかし、意外だったね。P君にべったりの佐久間君のことだ、あの場でダメだと強く否定しそうな気もしたんだが」



まゆ「ちょっと思うところがあるんですよ……まゆにも……♪」



ちひろ「それを言うなら社長はどうなんです? ラフな性格は知っていましたけど、あの提案に即断するなんて」



社長「ちょっと思うところがあるんですよぉ……社長にもぉ……♪ どう、似てた?」



まゆ「え、はっ、はい」

社長「ふむふむ、佐久間君の場合は後ろめたさ抜きで考えがあった。では女性同士だから君もなんとなく察したのではないかね、千川君?」



ちひろ「わ、私が?」



社長「従業員だから従いました、なんて言い訳が私に通用すると思うかい? このオッサン社長がたまにアホなことを言っても、幾度となくツッコミのように否定していたのは千川君だったよ」



社長「たった二人の部下の性格、社長がわからないはず無いじゃないか」



ちひろ「……社長は、本当にすごい人ですね」



社長「すごく無いさ。私はただのオッサンだ」



社長「まとめると、おそらく我々三人は似たようなことを考えています。で、P君に全部おまかせしました。彼が今日この後どうするのか、静かに見守りましょう。以上!」

仕事終了後





モバP「はい到着。この四階建てアパートの三階にある部屋が俺の家」



モバP(あーあ、連れてきちゃったよ。自分のところのアイドルを家に)



桃華「綺麗なアパートですわね。情緒を感じますわ」



モバP「これでも築四十年の超古株物件だからな。鉄筋コンクリートだから良いけど、これで木造だったらちょっと住むかどうか悩む」



ありす「そんなに古いんですか?」



モバP「古い住宅街だからな、数十年単位の背の低いアパートはこの辺りにたくさんある。さぁ、行こう。ここ階段しか無いから足元に気を付けるんだぞ」

モバP「ようこそマイハウスへ。狭いけどな」



桃華「ここがPちゃまのお部屋……!」



ありす「胸の高鳴りを感じます」



モバP「和室6帖、フローリング3帖の2Kだ。和室のふすまを取っ払ってぶち抜き9帖間にして荷物どかせば、客二人くらいは寝るのは可能だろう」



ありす「家賃高いんですか?」



モバP「郊外の築四十年アパートにもなるとな、俺のような安月給でも余裕なんだよ。駐車場も五千円くらいだし」

桃華「一人暮らし殿方のお部屋は、もっと散らかってすごいものだと思っていましたのに、Pちゃまのお部屋はとても整っておりますわね」



モバP「ベッドとテレビとテーブルと、服をしまうチェストくらいしか家具は無いから散らかすほどの物は無くてな。あと汚いの俺嫌いだし」



桃華「人から見えないところにまで気を使う……やはりPちゃまは立派な方ですわ♪」



ありす「綺麗好きな男性は素敵だと思います」



モバP「そうか。どうもありがとう」

モバP「さて、俺は夕食用の材料の買い出し行ってくるから、適当にくつろいでいてね」



ありす「Pさんって料理作れるんですか!?」



モバP「一人暮らしの野郎は二つのパターンに分かれている。惣菜とカップ麺の食生活か、自炊能力でバランス良く食っているか」



桃華「Pちゃまの手料理……なんということでしょう♪」



ありす「私もイタリア料理くらいなら完璧なんですけどね。イチゴの」



モバP「あの料理は……まぁ、うん。よく頑張ったよありすは。色んな意味でパーフェクトだった」



ありす「今度こそおいしいと言わせてみせます!」



桃華「わたくしもお料理を勉強して、Pちゃまに振る舞って差し上げたいですわ!」



モバP「期待しておくよ。じゃあ行ってきます」

桃華「殿方のお部屋なんて、家族以外では初めて来ましたわ」



ありす「私も、男の人の家に上がるのは初めてです」



桃華「はしたないとわかっているのに、何だかとても気分が高揚しますの」



ありす「ですね。友達の家に遊びに行った時は、こんな気持ちにならないのに、不思議です」



桃華「誰よりも先にここに来たなんて、まゆさんが羨ましいですわ」



ありす「まゆさんはCDデビューもしていますからね。私達もまゆさんみたいなアイドルを目指しましょう!」



桃華「ええ、もちろんですわ!」

桃華「これがPちゃまが普段寝ているベッドですのね」



ありす「そうですね」



桃華「……」



ありす「……」



桃華「……どうしました、ありすさん? そんなにじっくりベッドをご覧になって?」



ありす「桃華さんこそ。真剣な目でベッドを見つめていますけど?」



桃華「……」



ありす「……」



ありす「……これに近づくのはやめましょう。戻れない場所に行ってしまう気がします」



桃華「同感ですわ。今を大事にしましょう」

ありす「あっ、ベッドの下見てください」



桃華「ありすさん……下品ですわよ。人様の家を漁るような真似は……」



ありす「Pさんは今いないので、きっと問題はありません。ほら」



桃華「もう。……クリアケースが何個もありますわね」



ありす「CDとかゲームソフトがいっぱい見えます」



桃華「そういえば、そこのテレビの下にあるのも白と黒のもゲームですの?」



ありす「あれはPS3とWiiというテレビゲーム機です。ここまでたくさん揃っているとは、Pさんも中々のゲーマーですね。ためしに、このケースを開けてみましょうか」

ありす「……」



桃華「……」



ありす「……なんでしょう、これ」



桃華「……まったくわかりませんわ」



ありす「Pさんは体でも鍛えたいのでしょうか?」



桃華「殿方の考えることはわかりませんわ」

桃華「……あら?」



ありす「どうかしましたか?」



桃華「何かクリアケースの他にもダンボールがしまってありますわ」



ありす「本当だ。さりげなく端のほうにあったから気付きませんでした」



桃華「……」



ありす「あ、やっぱり桃華さんも、なんだかんだ言って気になるんですね?」



桃華「……! わたくしは何も考えていませんわ! これから起こることは、わたくしの意思に反して手が勝手に動いてしまった結果なのですから!!」

桃華「引っ張り出してみましたけど、何が入っているのでしょう」



ありす「……はっ! まさか!」



桃華「どうなさいました?」



ありす「大人の男性が、ベッドの下にしまっている物……もしかして……」



桃華「もしかして?」



ありす「その、あれです……一定年齢以下の子供は見たり触ったりしちゃダメな、なんかそういう……」



桃華「……!」

桃華「わたくし達はパンドラの箱を見つけてしまったのですわね……」



ありす「気になりますか?」



桃華「ええ……。でも、さすがにこれはダメですわ。ここはPちゃまのプライベート中のプライベート。レディーは触れてはいけない部分ですわ」



ありす「私は、すごい気になります」



桃華「ありすさん……」



ありす「分別を持ちましょう桃華さん。現実はおとぎ話では無いんです。幸せな結末なんて無いんです」

桃華「大人のレディーになるためには、現実も知らなければいけないとは思っています。しかし……」



ありす「Laa shay'a waqui'n moutlaq bale kouloun moumkine.」



桃華「?」



ありす「行動を決めるのはあくまでも自分であり、行動の先に待っていたのが栄光ではなく悲劇であっても、人はそれを受け入れて生きなければいけないのです」



桃華「……そうですわね。わたくしも勇気を出さなければいけませんわ」



モバP「なるほど、実に深いな」



ありす「!?」



桃華「!?」

桃華「Pちゃま! お、おおお買い物のほうは!?」



モバP「終わったよ? 量は多いけど、何買うかは歩きながら決めていたし。スーパーまで歩いて数分なのは便利だよなー」



ありす「これは、これはですね、その」



モバP「おぉ、超兄貴シリーズのサントラまで引っ張り出したのか。いいセンスしているな。聞きたいなら貸そうか? 耳が至福になるぞ?」



ありす「いえ、結構です……」

ありす「Pさん……あのですね」



モバP「どうした」



桃華「Pちゃまの気持ちもわかります。立派な大人ですもの、一人の男性ですもの」



桃華「わかっていますの。でもそれも含めて、やはりわたくし達のことも、もっともっと見て頂きたいなと。桃華はそう思っております。ありすさんもです」



桃華「このダンボールの中身も、もっともだと思いますが……」



モバP「そうだなぁ。俺としては、アイドルのこと様々な面から深くを知ろうとして読んではいたわけなんだが」

ありす「……! では、この中身は……!」



モバP「二人も読んでみるか? 普段生活しているだけじゃわからないものだぞ、これ」



桃華「み、見る!? そそ、そそそんな」



ありす「知りたいような、知りたくないような……でも知りたいような……!」



モバP「遠慮するなって。読んでも減る物は何も無いし」



桃華「減ります! 何か大切な物が減ってしまうのですわ!」



モバP「何かって何だ……。よいしょっと」



桃華「ああっ!!」

桃華「は?」



ありす「え?」



モバP「これな、雫が貸してくれた農業雑誌のバックナンバー」



桃華「……」



モバP「『牛さんはー、すっごくかわいいんですよー。Pさんもーこれを読めばもっと牛さんが好きになれますよー♪』って言ってきてな」



ありす「……」

<みんなの「困る」を解決します!>

松本大策

状態から推測する繁殖管理のヒント集





桃華「ええと……」





<失敗しない飼養管理>

田原口貞生

牛から学ぶ牛のそだて方(24)





ありす「なんというか……」





<食育について考えてみよう>

牛原琴愛

おいしさを生み出す食育





桃華「雫さんは、本当に牛さんが大好きなんですわね……」



ありす「好き、というのは知っていましたけど、ここまで徹底的だとは……」



モバP「二人とも俺が最初にそれを読んだ時とまったく同じで俺は嬉しいよ」



モバP「好きとかそういう次元じゃないんだよな、きっと」

モバP「でも、なんとなくさっきの二人の言葉で俺もちょっと目が覚めた」



桃華「え?」



モバP「雫のことを深く知ろうとこれを借りて読んでいたけど、やっぱりより深く知るには、もっともっと本人と直接話したり、面と向かって何かをしないと!」



ありす「そ、そうですね」



ありす(何だろう、この……)



桃華(丸く収まったはずなのに、罪悪感が……)

モバP「さぁ、できたぞ」



桃華「こんなにたくさん!」



ありす「すごい! 豪勢ですね!」



モバP「いつも一人だから、作るとしても味噌汁とおかず一品とかそんなだが、今日は客人がいるからな。大盤振る舞いだ」



モバP「ただ、三人だとさすがに狭いけどな。作りすぎたか?」



桃華「Pちゃまの手料理というだけでも幸せですのに」



ありす「感謝の気持ちで次の言葉が出てきません」



モバP「そこまで? いやぁ、実感湧かないけど料理を褒められると嬉しいな」

ありす「ごちそうさまでした」



桃華「ごちそうさまですの!」



モバP「はいはいお粗末さんで」



桃華「素晴らしいお料理でしたわ。実家の料理長ですら足元にも及びません」



モバP「それはありがとう。出店計画でも考えておこうかな」



ありす「世界で二番目においしいです。ちなみに一番目は母です」



モバP「俺も世界レベルになっちまったか。目指せ一位! だな」

モバP「正直な、口に合うかどうか心配だったんだよね」



モバP「自分が食うために作っていても、他人に振る舞ったことなんて今まで無かったし」



モバP「桃華の家は腕の良い料理人が、ありすの家には親の手料理っていう尊いものがあるからな」



桃華「いいえPちゃま。それは思い違いですわ」

桃華「わたくしの家の料理担当も愛情は込めて作ってくださっています。でも、それは身近な人が誠心誠意込めて作ってくださった料理には及びません」



桃華「もちろん、味は高級なお店で食べる料理に匹敵しますわ。でも料理って味だけでは無いでしょう?」



モバP「ふむ」



ありす「母の手料理は間違いなくおいしくて一番です」



ありす「ただ、仕事柄母はずっと忙しいので、Pさんに送ってもらった後にコンビニに買いに行く日常で」



モバP「ああ、この間の料理番組でそんなこと言っていたな……」



ありす「私にとっては、今のPさんの料理が一番です」



桃華「私も一番ですわ」



モバP「そうか、そうか……ありがとうな」

モバP「あとは片付けだけ、と。風呂はどっちが先に入る?」



ありす「でしたら、私が先でも良いですか? 収録で汗が……」



モバP「わかった」



ありす「……覗かないでくださいね」



モバP「お前には俺がどう映っているんだよ」



桃華「では後片付けはわたくしがお手伝いしますわ♪」



モバP「本当か、それは助かる」

モバP「こっちの白い皿は食器棚の上から二番目。右の箸は引き出しにお願い」



桃華「ここですわね」



モバP「そうそう。悪いね手伝ってもらっちゃって」



桃華「大人のレディーを目指す者としては当然ですわ」



モバP「ははは、そうだな。ではご期待申し上げます、シニョリーナ」



桃華「あらあら、まるで伊達男ですわね」



モバP「冗談めいた言い方だけど、桃華ならなれるさ。俺の見立てが間違っていなければな」



桃華「なら俄然やる気が出ますわ♪」

ありす「あ、あの、Pさん……」



モバP「ありす? 随分早い……ぶっ!!」



桃華「あ、ああ、ありすさん!? 殿方の前にタオル一枚で出て来るなんて!!」



ありす「あの……お、お湯が出ないんですけど……」



モバP「お湯が? なんでまた……あっ! そうか!」

モバP「桃華達の寮は大風呂だし、ありすも世代的にこれはわからないか。これ『バランス釜』ってタイプの風呂なんだよ」



ありす「バランス釜?」



モバP「うちみたいなクソ古いアパートの風呂は大体これ」



モバP「このコンロのダイヤルみたいなのを捻りながら、横の手回りハンドルをカチカチ回すんだ。で、小窓の中で火が点いたらオッケー。お湯が出る」



ありす「こんなお風呂があるなんて……」



モバP「半世紀前はハイテク風呂だったがな。今は温めなくても、お湯が出る蛇口なんてデフォルトで付いているからだけど」



モバP「とにかく、これでお湯は出るから。ゆっくり体を温めておいで」



ありす「ありがとうございます……」

モバP(ぶっちゃけ俺も不動産屋に聞くまでは点火の仕方知らなかったんだけどね)



桃華「Pちゃま」



モバP「ん?」



桃華「さりげなく裸の女性と一緒の空間を作るために、あえて教えなかったとかでは無いですわよね?」



モバP「本当にお前らには俺がどう見えているんだよ……」

しばらく後





モバP(来客用布団が1セットしか無い……)



モバP「さて、どうしようかなこれ」



モバP「まずはふすまを外してテーブルをどけて、これで一人分は敷けるとして」



モバP「残り一人分どうすりゃいいんだ……」



ありす「どうしたんですか?」



モバP「人が泊まることを考えて無かったから、保管してある布団がひとつしか無いんだよ」



桃華「ふふ、簡単ではありませんか。そのベッドの布団とかを床に敷いて、三人一緒に寝れば良いんですの♪」



モバP「えっ」



ありす「えっ」



桃華「何をそんなに驚かれていますの?」

モバP「それはアカンでしょ」



桃華「あら、どうして?」



モバP「だってお前……なんとなくわかるだろうそれくらい!」



桃華「ではPちゃまはわたくし達を大人として見てくださっているんですね♪ 婚前の大人同士が寝所を共にしてはいけないと、そう思って!」



モバP「そういうアレでも無いんだけど」



桃華「えっ? じゃあ子供として見ていますの? そうですわね……わたくし達はまだまだ“子供”ですものね……ねっ、ありすさん?」



ありす「……!」

ありす「そうですね、“子供”なら仕方ないですね。でも、子供なら一緒の布団に入っても、文句は何も言われませんね」



モバP「はあ?」



桃華「ありすさん、それは素晴らしい考えですわ! それならPちゃまも納得ですわね?」



モバP「いやダメだろ」



ありす「何故ですか!」



モバP「ダメなものはダメなの」



ありす「明確な反論が無い場合は、論破とみなしますが」



モバP「えー」

モバP「なら、このベッドに使っている布団一式を二人に貸すよ」



ありす「Pさんは?」



モバP「俺はそれを外した後のベッドに寝る」



桃華「そんなこと、わかりましたなんて賛成すると思いますの?」



ありす「泊まりに来たのに家主に不便させるのはルール違反です」



モバP「だって、あと布団買ってくるしか」



ありす「川の字になれば良いじゃないですか」



モバP「アイドルとプロデューサーが同じ布団で寝るってのは……」

桃華「Pちゃま」



ありす「Pさん」



モバP「二人共さぁ……」



桃華「……」



ありす「……」



モバP「……特別だぞ。今晩だけだ。もし次泊まりに来るってなってもこれはナシだからな」



桃華「ありがとうございますわPちゃま♪ 男らしいですわよ♪」



ありす(やった! Pさんと一緒だ!)



モバP「押しに弱いのどうにかしたいなぁ」

モバP「あのさ」



モバP「寝るのに、なんで二人は片方ずつ俺の腕に、そんなギューっと抱き着いているのかな?」



ありす「やっぱり一緒が……いいですね」



桃華「わたくしたち二人のゴールに、また一歩近づきましたわ♪」



モバP「ここぞとばかりにどこかで聞いたセリフが出て来るのは良いんだけど」



桃華「うふふ♪」



ありす(えへへ……)

ありす「他の人と一緒に横になるなんて、いつ以来でしょうか」



桃華「昔のわたくしは、寝付けない夜はお母様が隣にいてくださったりしましたけど、ありすさんはどうでした?」



ありす「あ、私もです。小さい頃は母が昔話を聴かせてくれたり。私もそんなお母さんになりたいなぁ」



桃華「わたくしも。きっとなれますわ。だって、わたくし達ですもの。ね?」



ありす「そうですね。ふふっ」



モバP(俺を挟んでガールズトーク始められた……)

ありす「本当に……」



ありす「学校や仕事から帰っても、お母さんは仕事でいつもいなくて、スーパーの惣菜やお弁当食べて……」



ありす「手作りのご飯や、誰かと一緒に眠たりするのが久しぶりで……」



ありす「……ひ、ひさし、ぶりで……うぅ、ぐすっ……本、当に……!」



モバP「ありす……」

桃華「ありすさんは、それでもお母様が身近におりますから」



桃華「わたくしは……寮ではまゆさんなどがいますから賑やかで」



桃華「でも、いざ部屋に入ってみると、実家と違ってお父様やメイドもいない真っ暗なお部屋」



桃華「まるで、世界にひとりぼっちになったような……」



桃華「ひとりぼっちに……」



モバP「桃華……」

モバP(ああ、そうか)



モバP(なんで二人が急に泊まるんだ寝るんだって言い出したのか、わかった)



モバP(寂しかったんだ)



モバP(片や親がいるのにいないに等しい環境。片や小学生で一人暮らし)



モバP(普通なら反対しそうな社長が後押ししたのも、まゆやちひろさんがあまり口出ししなかったのも、これがあったからなんだ)



モバP(気づかなかったの、俺だけか)



モバP「プロデューサー失格だな、マジで」



桃華「え?」



ありす「……?」

モバP「あの事務所で誰より長くお前達を見ているのは俺だ。なのに、誰よりも見えていなかった」



モバP「バカだよな」



モバP「だからな、決めた」



モバP「もっと二人をよく見る。今までよりも、子供の二人を大人の俺がよく見てやる」

モバP「ありす」



ありす「……うっく、は、はい」



モバP「待っていられるか、なんて唐突に聞いてきたことがあったな」



ありす「……はい」



モバP「待つよ。そして見ていてやるよ、少し先で。だから自分のペースで大人を目指せ」



ありす「わかり、ました……」

モバP「桃華」



桃華「はい」



モバP「一歩ずつ可憐なレディーに成長するって、最初の頃に言っていたな」



桃華「はい……」



モバP「なら一歩ずつ着実に近づいていけ。いつかそれは必ず叶う。ちゃんとしたレディーになれるまで見ておくから、安心しろ」



桃華「感謝いたしますわ、Pちゃま……♪」

モバP「あーーーーもう!! 電気消して暗いからか? 気分まで暗くなった気がするぅー!」



桃華「あら、でもわたくし達はちょっと明るくなったように感じましたわよ?」



ありす「ですね」



モバP「ま、何にせよもう世間もお外も夜です。明日のために」



モバP「寝るぞーーーーっ!!!」



桃華「えー、わたくし達はお話したいことがたくさんありますのに」



ありす「まだまだ語り足りないですよね」



モバP「いや、明日に響くんだから寝ろって」

次の日





社長「よう、P君。昨日はどうだった? お楽しみだった?」



モバP「何言ってんだオッサン」



社長「ひどいなぁ、何もやましいことは聞いていないじゃないか。それとも、むしろマズイ状態にでもなったりしたのかい?」



モバP「彼女達を見て頂ければ一発でわかると思いますよ」



社長「どれどれ……」

ありす「見てください桃華さん、これは私の自信作『イチゴパスタ』! ……の、写真です!」



桃華「ま、真っピンクですわね……味はどうですの?」



ありす「イマイチでした」



桃華「まぁ……。でも、わたくしなんて料理もろくにできませんから……」



ありす「お料理は練習すれば誰でもすぐにできます! 私はできました!」



桃華「むぅ、ありすさんが遠くに見えますわ……。わたくしもお料理の練習をしますわ!」



ありす「だったら二人でレベルアップして、Pさんに食べてもらいましょう」



桃華「名案ですこと! では力を出さねばなりませんわね!」

社長「ほう」



モバP「どう思います?」



社長「良い影響が出た、かな。昨日までの追い詰められた感じがしないように見える」



モバP「社長はわかっていたんでしょう?」



社長「ん〜? さあて、何のことかな〜」



モバP「そうッスか」



社長「これは独り言なんだが……」



社長「アイドルが悩めば解決し、一緒にいて良い影響を与え、共に高みに登る。素晴らしいじゃないか」



社長「君がプロデューサーで本当に良かった」

モバP「ありがとうございます」



社長「もうひとつ独り言なんだけど、賞与に色付けちゃおうかな〜」



モバP「えっ!?」



社長「あー、でもこういうこと勝手にやると千川君にめっちゃ怒られるからなー」



社長「そうだ! 千川君の賞与にも色を付けるか! これでP君とトントンだな、それがいい!」



社長「はい、独り言終了。お仕事頑張ってくれたまえP君」



モバP「……はい!」

桃華「Pちゃま! Pちゃま、ちょっと!」



モバP「あいあい。何スか、お嬢様方」



桃華「わたくし達、お料理の練習をすると決めましたの。Pちゃまにごちそうするために」



ありす「泊めてくれたお礼です。絶品料理を作ってみせますからね。期待していてください!」



モバP「そうか。そりゃあ楽しみだ。どんな素敵な料理になるのか見させてもらうよ」



桃華「聞きましたかありすさん! 時間が空き次第すぐにでも!」



ありす「わかりました。イチゴの失敗は繰り返しません!」



モバP「焦るなって。ゆっくりじっくり、ステップアップしていけ」



モバP(その間も、俺は二人のこと、見ているからな)









――fin――



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