2013年11月09日

モバP「代書屋さっちゃん」

「Pさん、今週の分書き終わりましたよ」

淡い髪色のショートヘアー
前髪を赤と緑のヘアピンで留めている


少女は男に数枚の封筒を手渡した

男は少女の小さな手から封筒を受け取る

「おお、ありがとう幸子」

男は自分の胸の高さにある少女の頭をなでる
さらさらと少女の髪が揺れた

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366514508

きっかけはとあるテレビ番組の企画だった

『代わりに手紙を書いて欲しい』

それだけがテーマの企画だった



ビジネスの場で最も重用されるのは電話、続いて面会、メール、手紙
ネットワークの発展した昨今は手紙よりメールが用いられる事の方が多い

それはプライベートでも同じ事だ

それでも、いまだに手紙は書かれている

例えば大切に思う誰かの人生の門出に
例えばかけがえのない誰かとの永遠の別れに
例えば胸に秘めた想いを伝えるために

筆跡の強弱や、一画一画の揺らぎ

そんなところに書き手は『想い』を込める
読み手は相手を思い浮かべる

だからこそ、利便性とは別にして『手紙』というものが果たす役割はいまだに大きいのかもしれない

企画書を読んだときに男は直感で、いけると感じた

特技はノートの清書
実際に一度見せてもらったことがあるが、見事なものだった
国語のノートではお話の一片を切り取っただけの文章なのに、登場人物の心情が心に訴えてくるようだった

もちろん、字は書写の教科書と比べても遜色のないほどに整っっていた

輿水幸子

いつも自信に満ちた表情と言動をしているのが彼女だ

しかし、その同年代をかなり下回っている身長と淡く柔らかな色合いのショートヘアーから穏やかな印象を受ける
そのギャップがほほえましく見えるようで幅広い層から人気があった


日ごろの伝えたい事は伝える言動
そして、感情表現に長けた綺麗な文字

男の予想通り、番組の企画は幸子に決まった
反響は上々だった

番組宛に届く手紙や音声をを幸子が手紙に代書する
そして、依頼人の希望するあて先へと届ける

そんな景色をカメラに収め、放送する

幸子が四苦八苦しながらも手紙を書き上げる姿
その手紙を受け取った人のあふれ出る感情

この企画から再開を果たした親子や、結ばれた男女もいたほどだった


反響は大きくなり、番組の企画が終了したあとも事務所に直接依頼が届くようになった
別に続ける必要もなかったのだが、幸子は

「さすがボクですね!こんなに求められるなら書いてあげてもいいですよ」

鼻高々にそういって今でも誰かの代わりに手紙を書き続けていた


「ん、これ俺宛か?」

男が幸子から受け取った封筒の中に『プロデューサーへ』と書かれた封筒が混じっていた

「そうみたいですね。まぁボクが心を込めて書き上げた手紙なので、読んで泣いたらいいと思いますよ」

えへん、と幸子が胸を張っている
ありがとな、といいながらプロデューサーは人差し指で幸子のおでこを押した

幸子は一瞬、軽くのけぞったあとむくれていた


誰からなんだろう

プロデューサーはその手紙を鞄の奥へとしまいこんだ

プロデューサーが封筒にペーパーナイフを滑らせる
さらさらと心地の良い感覚が指先から伝わる

役目を終えたペーパーナイフをテーブルに置くとプロデューサーはソファに腰掛けた
テーブルの隅にあった煙草を手にとり、火をつける

煙草を口にくわえ、ふうっと息を吐く
吐き出した紫煙が消えるとプロデューサーは封筒を傾けた


中から白いシンプルな便箋が現れる
罫線以外には薄いピンクの花模様がぽつりぽつりと見えた


便箋のチョイスも幸子に任せていたが、なかなかいいセンスをしているようだ
調子に乗るから本人には言えないが

そんなことを思いながらプロデューサーは手紙を開く
かさりと紙の擦れる音がした
『拝啓、P様』

手書きの手紙を貰ったのは何年ぶりになるだろう
形の整った美しい字であることに間違いはない
しかし、その中にも若干の癖や、強弱が感じられる

手紙の代書は幸子がしているが、まるで息遣いまで伝わってくるようだった
本来、文字と言うものはその人自身を表すものだ
その人がどんな人で、何を考え、どんな風に生きてきたのか
紙の上に並ぶ文字はそれらを教えてくれる


番組のときから、手紙には一つだけルールがある
それは差出人の名前を書かない、と言うものだ

番組がきっかけでいくつかの出会いがあったが、それらは手紙がきっかけになっただけで本人たちがあと一歩と言うところで踏みとどまっていただけのものだった


例に漏れずに、この手紙には差出人が書かれていない
ぱっと見ただけでは誰からの手紙かも当然わからない

内容から推測するしか手紙の差出人に辿り着く術はない

幸子のすごいところはこのあたりにある
手紙の内容によって巧みに筆跡を使い分ける
手紙の読み手は幸子が書いたことを知っていても、彼女が瞼の裏に浮かぶ事はない
彼女が感じたままに、彼女の感性から一文字一文字が紡がれる
普段の言動や態度からは想像できないほどに、彼女は純朴でまっすぐな内面をしているのだろう

だからこそ、依頼人は素直な気持ちを幸子に託すことができるのだ


プロデューサーはもう一度深く煙を吸い込み、手紙を読み進めた

支援ありがとうございます
遅筆で申し訳ないです
『お元気ですか?こんなことを尋ねるのもおかしなことかもしれませんね。
今の私がいるのはプロデューサーの御蔭です。プロデューサーと出会うまで、こんな私がアイドルだなんて夢の中でも考えたことがありませんでした。』


どうやら、差出人は事務所のアイドルらしい
便箋に並ぶ文章からは、どこか儚げな印象を受ける

事務所のアイドルたち胸を張ってどこにでも出せる
彼女たちをスカウトし、プロデュースしてきたプロデューさーには絶対の自信があった

もともと自分の短所に目が行ってしまったり、負い目に感じている子もいただろう
それでも、彼女たちの苦悩もまた彼女たちを輝かせるエッセンスなのだ

時に思い悩みながらも、強く輝こうとする
だからこそ、彼女たちは愛される

たとえ、笑顔の裏の顔がわからなくとも
前を向こうとする人間に人は惹かれるのだ
---

通りに面した小さな雑居ビルの3階

事務所へと続く段差はところどころ煤けている
年代物の照明器具が力を尽くしてはいるのだが階段は薄暗く、さわやかな朝を遠ざける

プロデューサーは階段を昇り終えると、事務所のドアに手をかけた
ドアのとってからは塗装越しに金属の冷たさが伝わった
やや重量のある扉は少しだけ勢いをつけて開けるのだ

「Pちゃん、おはよう!」

ドアが開くと、事務所の中には通りに面した窓からは光が差し込んでいるた
きらりが満面の笑みでこちらを振り向く
顔の動きに遅れて彼女のふわりと柔らかな髪がなびいた

事務所まで続いたくたびれた階段の風景は相対的に彼女の笑顔を輝かせる
この暖かな空気は麗らかな小春日和だけがもたらしたものではないのだろう



「うう……、いい加減にしろぉ……」

一人の小さな少女がきらりの腕の中で窮屈そうにつぶやいた

双葉杏

少女は淡い杏色の髪を左右で二つにまとめている
身体の大きさに見合うような小さな頭
やや丸みを帯びた輪郭が彼女の雰囲気を幼く見せる
その小さな顔にはオーダーメイドされた人形のような可愛らしい目鼻が並んでいた

「プロデューサー。早く、助けてよ」

彼女は眉間に不服そうに眉間に皺を寄せている
きらりはそんなことには構わずに、杏に頬ずりを始めた

プロデューサーの目前では少女の幼さを残す柔らかな頬が互いに押し合い形を変えていた

「杏ちゃん、今日もかわいいにぃ!」

しかめっ面の杏と、満面の笑みのきらり
対照的な表情でのコミュニケーション
これが事務所の日常の風景なのだ
そんなある日の事だった

「きらり、モデルの仕事に興味ないか?」
プロデューサーは右手に持ったとあるファッション誌をきらりに手渡した

きらり向けにリストアップした仕事
オーディションやミーティングの予定がスケジュールには並んでいた

このファッション誌でのモデルの仕事もそのひとつだった
きらりが開いたページには白いシンプルなブラウスをコーディネートの中心にした女性が写っていた
『少女』ではなく所謂『女性』と表現される年齢層を主なターゲットとするファッション誌だった

ティーンズ向けのファッションとは異なり、大人っぽい雰囲気のシックな服装も多かった

日ごろの言動なんかを見ていると、彼女には似つかわしくない仕事なのかもしれない
しかし、先入観を除いた場合の彼女は間違いなく美しいのだ

すらりと長い手足は大抵のコーディネートを手なずける
身長が高く抜群のプロポーションと少女のあどけなさが残る、ある種神秘的な雰囲気
喩えるならば、微風が撫で付けたかのような嫌味のないスタイルの良さ

それらは、プロデューサーにとっても期待せずにはいられないのだった

「うん……。頑張るにぃ!」

きらりはプロデューサーの方を向き、軽く胸の前でこぶしを握って見せた

しかし、プロデューサーは見逃すことがなかった
彼女が一瞬見せた憂い色を
そして、今見せている笑顔もいつもと違っている事を

彼女の笑顔は乾いていて、まるで役者が演じるかのような笑顔だった

訂正

>>28
「うう……、いい加減にしろぉ……」

一人の小さな少女がきらりの腕の中で窮屈そうにつぶやいた

双葉杏

少女は淡い杏色の髪を左右で二つにまとめている
身体の大きさに見合うような小さな頭
やや丸みを帯びた輪郭が彼女の雰囲気を幼く見せる
その小さな顔にはオーダーメイドされた人形のような可愛らしい目鼻が並んでいた

「プロデューサー。早く、助けてよ」

彼女は不服そうに眉間に皺を寄せている
きらりはそんなことには構わずに、杏に頬ずりを始めた

プロデューサーの目前では少女の幼さを残す柔らかな頬が互いに押し合い形を変えていた

「杏ちゃん、今日もかわいいにぃ!」

しかめっ面の杏と、満面の笑みのきらり
対照的な表情でのコミュニケーション
これが事務所の日常の風景なのだ
プロデューサーはその日を期にきらりに以前より注意を払うようになった

大きなプロダクションであれば、仕事の交渉を含めたマネージメントな仕事には専門の担当が付く
しかし、雑居ビルの1フロアに事務所を構える中小プロダクションにはそのような人員はいない

必然、常日頃からアイドルのコンディションを把握することもプロデューサーの職務の範疇に入っていた

プロデューサーはその職務を常に全うしていたと自負していた
その評価は自他共に変わらない

それでも、きらりの些細な変化も見逃さぬように心がけた
細心の注意で、それも彼女に悟られる事なく、さりげなく


「今日も杏ちゃんはかわいいにぃ」

きらりの猫のような口が開く
小さな声でぽつりと彼女がつぶやいた

きらりの目線の先には杏がソファにだらりと横になっている
仰向けに寝転び、片方の腕をソファから投げ出している
宙でぶらりとなっている腕にはくたびれたうさぎのぬいぐるみの耳が握られていた


きらりの声は杏には届かずに消える
プロデューサーも彼女に殊更注意を払っていなければ見落としていただろう

その日からきらりが、たまにではあるが、遠い目をしていることにプロデューサーは気がついたのだった


どうかしたのか?

その問いかけにも彼女は、なんでもない、大丈夫
そういった内容の言葉をきらりは並べた

プロデューサーに気付いた瞬間、僅かに気まずそうな笑顔が浮かぶ
目じりはやや下がるものの、眉間には若干の皺が残る
口角が上がり、柔らかな頬にふくらみができる

「大丈夫、なんともないにぃ☆」


いつものような口調で
いつものような声色で
いつものような表情で

努めて作った笑顔には若干の不自然さが感じられた

開いた窓から吹き込む風が彼女が揺れる
まるで夕日の色に彼女の毛先が溶け込むようだった
>>34
訂正
どうかしたのか?

その問いかけにも彼女は、なんでもない、大丈夫
そういった内容の言葉をきらりは並べた

プロデューサーに気付いた瞬間、僅かに気まずそうな笑顔が浮かぶ
目じりはやや下がるものの、眉間には若干の皺が残る
口角が上がり、柔らかな頬にふくらみができる

「大丈夫、なんともないにぃ☆」


いつものような口調で
いつものような声色で
いつものような表情で

努めて作った笑顔には若干の不自然さが感じられた

開いた窓から吹き込む風に彼女の髪が揺れる
まるで夕日の色に彼女の毛先が溶け込むようだった

---

他人の心中を、勝手に推察する事は褒められた行為ではないのかもしれない
1か0
はっきりとしたプログラムでできているのではないのだ

推察する側、される側ともに血の通った人間なのである

推察する側であれば、対象への『こうあって欲しい』という期待は少なからず反映される
推察される側からすれば、『こうありたい』という感情から行為しているかもしれない


そういった小さなずれの積み重なりで、実際の心情と周囲の認識は乖離していく

その距離が時には、人を傷つける

血の通った人間なのだ
傷がつけばどろりと赤い血が滲む


だからこそ、細心の注意で
それでいて自身の認識を押し付けることなく

考えをまとめていかなければならない

プロデューサーは深くソファにもたれこんだ
彼の背もたれが合皮に沈む
首筋が軋む音がした






>>36
訂正

---

他人の心中を、勝手に推察する事は褒められた行為ではないのかもしれない
1か0
はっきりとしたプログラムでできているのではないのだ

推察する側、される側ともに血の通った人間なのである

推察する側であれば、対象への『こうあって欲しい』という期待は少なからず反映される
推察される側からすれば、『こうありたい』という感情から行為しているかもしれない


そういった小さなずれの積み重なりで、実際の心情と周囲の認識は乖離していく

その距離が時には、人を傷つける

血の通った人間なのだ
傷がつけばどろりと赤い血が滲む


だからこそ、細心の注意で
それでいて自身の認識を押し付けることなく

考えをまとめていかなければならない

プロデューサーは深くソファにもたれこんだ
彼の背が合皮に沈む
首筋が軋む音がした

20:05│モバマス 
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