2013年11月10日

P「756プロオムニバス」美希「756プロ?」

おはようございます。こんにちは。こんばんは。

初めまして、私の名前は如月千早といいます。
この手紙を読んでくれている誰か知らない人に自己紹介をしても、とも思いましたが


私の名前くらいは知っておいて欲しいと思い紹介はすることにしました。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1362133567



きっとこの文章を誰かが読んでいる頃、私は生死の狭間でさまよっているか、もしくはあの世にいることでしょう。

こういう文章のことを世間一般では遺言書、というのかもしれませんが
自分の言葉を後世に伝えたい、遺していく人たちに伝えたいなどとそんな大層な文章ではありません。

私はきっと心の中の靄を文章にすることであの事件から解放されたかったのかもしれません、
誰かに伝えることで楽になりたかったのかもしれません。

なのでこの手紙を読んでくれているあなたに、言葉にならないほどの感謝を感じていることも伝えておきます、
どうもありがとう、名前も知らない人。





あの日、事件は突如としておきました


それまでに過ごしてきた緩やかな日々が風前の灯のように瞬く間に消えてしまう日になったあの日、
私はなんの危機感もなんの胸騒ぎも感じることなくいつもどおりの時間に起き
いつもどおりの朝支度を追えいつもどおりの電車に乗りいつもどおり事務所につきました。

アイドル活動をはじめて1年、つい1年前までアイドルの卵だった私たちも
少しずつ活動が軌道に乗り始め仕事が増えてきた頃です。

事件というのは往々にして前触れがあるものだといろいろなメディアを通し見聞きをし
そういうものなのだという観念がありました。

結果があるのだから過程にはそれに通ずるものが必ず存在する。
すべてそのように公教育でも教えられてきたはずです。

数学には正しい答えを導き出すための正しい解法や正しい公式が、
国語にも答えになるものが例文に必ず入っている、例を挙げていけばキリがなくなりますね。

問題とはそういうものだと社会が私たちに教えてくれていました。
しかしその“問題”というものが答えのある問題という狭いものにだけ当てはまることを
誰も教えてはくれなかったような気がします。





悩みがあればそれを乗り越えていく、その乗り越えた先にあるものがその悩み、問題の答えなのだ、
いや、むしろその答えに行き着くために行った努力や我慢などがその問題の答えのようなものなのかもしれない。

そんな当たり前のことはまだ幼かった私たちにもわかっていました、分かっていたはずです。

しかし努力の先に、我慢の先に、すべてのものの先に答えを見出そうとしていた私たちは
問題というものはそういったものだけではないということを気づかずにいました

ぬるま湯に浸かるだけの日々を暮らしてきた私たちには出題をされずに誰かの心に閉じ込められた問題に、
その前触れに気づくことができなかったのです。




話は元に戻りますがその日、いつもどおりの朝を通り抜けた私は事務所につきました。

あなたは知っているでしょうか?765プロという事務所を。
今にも崩れそうな古ビルに事務所を構える小さい事務所でした。
恥ずかしながら私はその事務所に所属する知る人ぞ知るしがないアイドルをしていました。

まぁ、知らないでしょうね。いや、覚えていないという表現の方が正しいのでしょうか?
自慢をするというわけではないのですがある一時期私たちはテレビや雑誌に出ていたこともあったのですよ。
「それなり」という言葉が妥当なのかもしれません。それなりの芸能活動を送っていたような記憶があります。





事務所には11人のアイドルが所属していました。

朝仕事前には仕事場に直接は行かず事務所に顔を出すのが慣例となっていて
ドアを開けるとそこには賑やかな空気が常に広がっている和気あいあいとした事務所でした。

いつものようにドアをあけ挨拶をするといつもの皆の声で挨拶が帰ってきて
やはりいつもの空間が目の前には広がっていました。

胸騒ぎを感じさせてくれないその賑やかな雰囲気を私は今となっては悔いているほどです。




だけどもその先程から耳にタコができるほど繰り返し使っている

”いつもの”

というフレーズが当てはまらない場所がありました。

毎日通い飽きるほど見て日常に組み込まれていたその空間で、異常を見つけるのはとても簡単でした。
間違い探しの問題であったなら例題に使われるほど簡単な問題だったでしょう。

そうです、そこには彼がいませんでした。

事務所に誰よりも早く着きドアの鍵を開け皆を待つ私たちのプロデューサーが。
ドアを開け挨拶を言えば頼りない笑顔と共に私たちを安心させてくれる声で
おはようを言ってくれるはずの彼が、欠けていました。

毎日のことなのだから当然ですね。その難易度Aの間違い探しは早々にクリアをしたのですが
そんなとても些細なことを気にかけるのはあまりにこう・・・彼に向けられた行為を
そこにいる皆に暴露しているような気持ちがして言えなかったのです。

いつも彼がいる場所に誰も座っていない。
これは私の推測なのですがきっとあの場にいた誰もが彼の存在があの空間に欠けていたことを気にかけていたに違いありません。

これも想像の範疇を超えない話なのですが私たちは恋心、恋心とまではいかないまでも憧れ、
気持ちの大小にかかわらずそういったものに似た感情は抱いていたのではないでしょうか?

まぁ、私の、推測なのですけれど。




詳しく内容は覚えていませんが一番言いたいことを言えないむずがゆい感覚を覚えながら
昨日の仕事、レッスン、今日のこれからについて、色々な世間話などを話し
出て行く時間まで仲間の絆を感じあっていたことだと思います。



しかし彼はいくらたっても来ない、5分経っても10分経っても、15分経っても来ない。

待ち人を待つときの時間は世界で最も長く濃密な時間であることは
きっとこれを呼んでいるあなたも感じたことがあるはずです。
そしてそれが意中のひとであるならなおさらのこと。

世間一般でいう就業時間の九時が訪れた時にも事務所に訪れない彼を
私たちは顔を見合わせながら「どうしたんだろう」「何かあったのかな」「寝坊じゃない?」
などという話をしながら自分たちももう出発をしなければいけないことを確認していました。

12:36│星井美希 
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